英雄「悪魔退治?」
英雄「陛下。お呼びと聞きはせ参じました」
王「おお! 来てくれたか。実は、頼みたいことがあっての」
英雄「何なりとお申し付けください」
大臣「実は、王都から目と鼻の先にある王家の避暑地に悪魔が住み着きまして」
英雄「『悪魔』ですか」
王「うむ。そいつを退治してもらいたいのだ」
英雄「う~ん」
王「どうした? 隣国との合戦では常に先陣を切り、英雄とまで称されるお前がまさか臆したわけではあるまい」
英雄「いえ、そうではなくてですね」
大臣「心配事があれば仰ってください。サポートは可能な限り行います」
英雄「実は、私は悪魔と戦った経験がなく……」
王「そりゃあ、悪魔と戦ったことがある奴のほうが珍しいであろう」
英雄「悪魔って、普通に剣が通じるんですかね? その、剣がすり抜けたりとかしませんか?」
英雄「悪魔にも通じる適切な装備さえあれば、すぐにでも戦いに赴くのですが」
王「大臣」
大臣「ええっと、実体のないゴーストと違い悪魔は剣で切れると文献にあります」
大臣「かつて王家の開祖が、悪魔と戦った際に使用した剣が現在も伝わっておりますね」
王「ああ、王家に伝わる聖剣がそうであったな」
王「よし、英雄よ。王家に伝わる聖剣。そしてあらゆる伝説級の装備をお主に託そう」
英雄「ありがとうございます! それでは、装備を身に着け次第すぐに旅立ちます」
王「うむ。悪魔討伐のあかつきには、莫大な報酬を用意しよう」
英雄「では、いってまいります」
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王「英雄……帰ってこないな」
大臣「逃げた……わけはないですよね。悪魔に倒されたと見るべきでしょう」
王「まじかぁ」
大臣「報告によると、悪魔は力を増し仲間を集めているとか」
王「事態は悪化しておるのぅ」
大臣「き、気を取り直しましょう。このような事態も想定して、悪魔退治できる者を広く募りましたので」
大臣「早速、一名連れてまいりました」
死神「……」
王「なんか陰気臭い男じゃのう」
大臣「彼は裏社会では最も名の知れた暗殺者です。標的を逃したことは一度もなく『死神』と呼ばれています」
死神「英雄が死んだとか?」
大臣「恐らくですが」
死神「なら、前金で5000万G、成功後にその倍をもらおう」
王「なんと! 法外な!」
死神「英雄が失敗した相手だ、それぐらいが妥当だろう」
大臣「しかし、一個軍を動かせるほどの金額ですよ」
死神「だが、隣国との戦時下に軍は動かせまい。だからこそ、俺に頼んできたのだろう?」
大臣「ぐぬぬ……確かにその通りです」
死神「まあ、任せておけ。英雄は悪魔と正面から対峙し負けたのであろうが、俺は暗殺者」
死神「陰に潜み、隙を突き、一息で対象を殺す。たとえ悪魔と言えど、死神には適わん」
王「むぅ、なんと心強い男だ」
大臣「では?」
王「うむ。報酬の件は了解した」
死神「前金は暗殺ギルドに届けておけ。では、いい知らせを楽しみにしていろ……」スッ
大臣「き、消えた!?」
王「う~む、死神か……その名に違わぬ働きを期待するか」
大臣「……陛下。王都の中央広場に、死神の首が掲げられておりました」
王「うげ」
大臣「悪魔退治の呼びかけに集まった者達も、死神の惨状に臆し帰ってしまいました」
王「参ったのぅ」
大臣「それと、悪魔の奴が王家の別荘を要塞化し始めました」
大臣「王家の避暑地は、王都の東の内海に浮かぶ孤島にあります。そこを軍事拠点化されたら……」
王「喉元にナイフを突きつけられた形というわけか。ただでさえ隣国との戦が続いておるというのに」
大司教「陛下! 噂は聞きましたぞ」
王「む、大司教か」
大司教「悪魔祓い、エクソシズムこそ我ら教会の十八番。英雄や、暗殺者に頼るなど嘆かわしいですぞ」
大司教「我らを真っ先に頼るべきではありませんか」
大臣「た、たしかに。仰る通りです」
王「しかし、嫌な流れが続いておるからのう。ここで教会まで悪魔に敗北したとなれば」
大司教「あのですね陛下。我らは有史以来、長きにわたり悪魔と戦ってきたのです」
大司教「悪魔に対しては、剣で立ち向かうなど言語道断。理外の存在に、どうして剣が通じましょうか」
大司教「聖なる祝詞を用いることこそ、悪魔祓いの常道です。それに、教会は組織です」
大司教「我々は強大な相手に対し、単独で向かう愚はおかしませぬ」
大司教「組織の力、そして聖なる祝詞の力、御覧に入れて見せましょう」
王「聖なる祝詞とは、魔法のようなものか?」
大司教「……」ギロリ
大臣(そうです。いわゆる、『光魔法』のことです。ただ教会は、『魔』という言葉を嫌いますので)
王(なるほど……確かに魔法なら悪魔も倒せるやもしれんな)
大臣(人数が出せるというのも肝ですね。隣国との絡みで、軍からは人数を割けませんから)
王「うむ。あいわかった。この悪魔祓い、教会に一任しよう」
大司教「つきましては陛下。教会への少しばかりの寄進を……」
王(結局、目的はそれやないかい!)
大臣(落ち着いてください陛下。今は、教会に頼るしか術はありません)
王「うむ……教会あっての王国だ。今年度は、教会への寄付を増額しよう」
大司教「へへへ、ありがたき幸せ。では早速、教会の悪魔祓い達を呼び寄せましょう」
大司教「そうですな。英雄を倒したほどの悪魔というなら、200名ほど送り込みましょうか」
王「なんと! 光魔法の使い手が200名! それは心強い!」
大司教「……ところで、悪魔の住処は東の孤島と聞きました。船をご用意いただけますか?」
王「大臣よ」
大臣「はい、すぐに用意いたします」
王「近海とは言え、戦時下だ護衛もつけてやれ。海上で私掠船にでも捕まればことだ」
大臣「たしかに。海軍には余裕がありますので、可能な限り手配し護衛船団を作りましょう」
大司教「ははは、有難うございます。それでは吉報をお待ちくだされ」
大臣「港に、船団の残骸が流れ着きました……」
王「大司教は?」
大臣「責任を取り辞任いたしました。後任は、悪魔祓いに乗り気ではありません」
王「教会の助けは、もう借りられんというわけか」
大臣「はい」
王「国の英雄を失い、国一番の暗殺者を失い、教会の助けも得られず」
王「王国は、たった一匹の悪魔がために。その力を大きく削がれたというわけか」
大臣「……隣国との休戦が結べたのが救いですね」
王「その休戦とて、風の噂によれば悪魔の手下どもが隣国にて悪さを働いているからだというではないか」
大臣「悪魔相手に、隣国も手いっぱいのようです」
王「隣国だけではない。わが国にも、魔物どもが蹂躙跋扈しておる。滅ぼされた村すらあるのだぞ」
大臣「……先刻、悪魔が『王』を名乗ったと報告がありました」
王「大海の孤島に居を構え、魔物どもを従える姿は―――正に『魔王』であるな」
王「魔王討伐を広く募ろうとも、教会すら匙を投げた相手に挑もうという者は一人もおらん」
王「国中が、いや世界中が魔王を恐れ慄いておる」
大臣「手をあげる者は、よほどの馬鹿でしょう」
王「……あるいは」
王「大臣よ。魔王討伐を申し出る者が現れたら、その実力に応じ精いっぱいの支援をせよ」
大臣「承けたわまりました」
王「よくぞ来た」
王「世界は、魔王の手により闇に閉ざされた。だが、我らはまだ負けたわけでは無い」
王「既に、多くの若者が旅立った。だが、誰一人として帰ってきてはいない」
王「我らは多くの物を失った。王国に伝わる聖剣も、伝説級の装備も、金も、人も、もはや無い」
王「お主に与えられるのは、最低の装備と僅かな金のみだ」
王「それでも、なお。主は魔王に立ち向かうというのか?」
王「―――それでこそだ。ならば、必ずや魔王を倒し世界に平和を取り戻すのだ」
王「行け、恐れを知らぬ勇敢なる若者―――お主こそが勇者だ!」
ひのきのぼうと、僅かな50Gの金を携えて。
いま、勇者の冒険がはじまる。
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はじまりはじまり
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コメント一覧 (5)
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- 2020年11月15日 17:58
- ロトの血を引くもの
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- 2020年11月15日 18:30
- はじまりはじまり
でもおわり
なんか心に響いた
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- 2020年11月15日 20:09
- ファッ!!?
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- 2020年11月17日 01:28
- やっぱりいきなり悪魔と戦わず、手下で経験を積んで地道にレベルを上げるのが大切なんだなってわかる
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- 2020年11月20日 12:21
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着眼点に脱帽