男「俺は壁ドンのプロフェッショナル」ドンッ 道ゆく女ども「キャーッ! ステキーッ! 抱いて!」
- 2020年01月16日 02:40
- SS、神話・民話・不思議な話
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―駅前―
助手女「所長、待ち合わせ時刻を10分過ぎました」
男「依頼人、遅いな……なにやってんだ」
男「仕方ない、ここらへんにある壁でウォーミングアップしとくか」
ドンッ
すると――
「キャーキャーッ!」 「ステキーッ!」 「抱いてーっ!」
助手女「壁を手でドンと叩くだけでこれほど騒がれるとは、さすがですね」
男「俺は壁ドンのプロフェッショナルだからな」
男「…………」パッ
「あれ?」 「よく見たら全然いい男じゃないじゃん」 「行こ行こ」
ザッザッ…
助手女「効果があるのは、壁に手をつけてる間だけですけど」
男「うるさい」
タタタッ
青年「お待たせしましたー! あなたがプロ壁ドン師さんですか?」
男「ああ、そうだ」
男「時間はきっちり守った方がいいよ。取り返しのつかないことになることもある」
青年「すいません。さっそく、僕のアパートにご案内します!」
ゴチャッ…
青年「ちょっと散らかってますけど……」
男「これがちょっと? 足の踏み場がないんだけど……」
助手女「よろしければ、片付けましょうか?」
青年「へ、いいんですか? お願いします」
助手女「では」シュババババッ
キラキラ…
青年「あっという間に……!」
男「俺の助手は優秀だからな」
青年「そうなんです」
青年「大音量で音楽を聴くわ、テレビの音も大きいわで、毎日毎日ホントうるさいんですよ」
男「隣人に文句をいったことは?」
青年「いや、ないです。実は会ったこともありません」
男「どうして?」
青年「だってほら、隣人トラブルとか怖いじゃないですか」
青年「文句いったら、逆ギレされたり、下手したら殺されたり……」
助手女「たまにニュースでありますね」
青年「だから、ここはプロの壁ドン師さんに穏便に解決してもらおうと……」
男「うんうん、いい判断だ。この俺に任せなさい」
男「『静かにさせる壁ドン』『反省させる壁ドン』『謝りに来させる壁ドン』とあるけど、どれがいい?」
青年「じゃあ……全部で!」
男「なかなか欲張るね、君も」
青年「へへへ……」
男「じゃあ隣人がうるさくなったら始めよう」
<ワハハハハハ… アハハハハ…
<ツギノモンダイデス!
<セイカーイ!
青年「あ、ほら! テレビをこんな大音量で! 全くやんなっちゃいますよ」
男「なるほど、これを毎日やられたら辛いものがあるな」
助手女「…………」
男「じゃ、壁ドン始めるか」
ドンドンドンッ!
ドドドドンッ! ドンドンッ! ドンッ!
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
青年(これが……プロの壁ドン!)
青年(やってることはただの壁叩きなのに、まるで一流の太鼓叩きを見てるような……ッ!)
青年「どのくらいで効果が出るでしょうか?」
男「すぐ出るよ」
シーン…
男「ほら静かになった。きっと今頃反省してるだろう」
青年「おおっ!」
男「さて、そろそろ――」
ピンポーン
男「謝りに来た」
青年「もう!?」
男「せっかくの機会だ。今まで迷惑かけられた分、ビシッといってやれよ」
青年「は、はいっ!」
隣人女「あのー、今までうるさかったですよね? 本当にすいませんでした!」
青年(え、女の人だったの? しかも結構可愛い……)
隣人女「これからは気をつけますので……」
青年「いえいえ! ぜーんぜん気にしてませんから! 僕の心はプールよりも広いんで!」
男「おいおい」
男(相手が女だと分かったとたん……まったく。だけど気持ちは分かる)
助手女「あの、よろしいでしょうか」
隣人女「え?」
隣人女「! そうなんです……よく分かりましたね」
隣人女「だけど、病院に行ってもイマイチよくならなくて……」
助手女「でしたら、うちの所長が解決できるかもしれません」
男「おっ、そういうことか! さすが助手ちゃん! よく気づいたな!」
青年「どういうことです?」
男「鼓膜も、耳の中に張り付いてるうす~い“壁”といえる」
男「だから俺が耳たぶを叩いて、振動で鼓膜を“壁ドン”してやれば――」
隣人女「あっ、よく聞こえるようになりました! まるで雲が晴れたような……」
男「ま……俺にかかればこんなとこだ。念のため、もう一度耳鼻科に行くことをオススメするけどな」
隣人女「そうします! ありがとうございます!」
隣人女「今まで本当にすいませんでした……!」
青年「いやいや、そういう事情があったなら仕方ないよ」
隣人女「いえ、散々ご迷惑をかけたんですから、今度ご飯でも……」
青年「え、いいの!?」
男「…………」
男「いいムードになってやがる。料金は後で貰うとして、俺らはひとまずここらで退散するか」
助手女「そうですね」
助手女「ええ」
男「なのに……」ドンッ
助手女「…………」
男「なぜかお前には、俺の壁ドンが効かないんだよな……なんで?」
助手女「壁ドンを万能だと思わないことですね」
男「うぐぐ……だけど、そのちょいと寂しい壁みたいな胸にドンしたら効くかも……なーんて」
助手女「腕ポキされたいですか?」
男「す、すみませんでしたぁっ!」
―おわり―
―事務所―
助手女「所長、お手紙です」
男「これは……」ガサッ
助手女「どなたからですか?」
男「ある小さな楽団の団長さんだ」
男「昔、この人がプライベートの音響室を作る時、壁ドンで音の反響をチェックしたことがあってさ」
男「今度この人の楽団がコンサートやるらしい。チケットくれたし……一緒に行かないか?」
助手女「音楽鑑賞は好きですし、かまいませんよ」
男「お久しぶりです」
団長「おおっ、来て下さいましたか」
助手女「助手です、はじめまして」
団長「はじめまして。お越し下さってありがとうございます」
男「今日の演奏、楽しみにしていますよ」
団長「ええ、最高の曲をお届けしますよ。ごゆっくりお楽しみ下さい」
ザワザワ…
男「楽団の様子がおかしいな」
助手女「何かあったようですね」
男「すみません、どうかしたんですか?」
団長「それが……ティンパニーの担当者が急病で倒れてしまって……」
団長「参った……今日やる曲はティンパニーがないと締まらないものばかりだ……」
男「それはまずいですね……」
助手女「あの、よろしいでしょうか」
団長「なんでしょう?」
団長「ええ、そうですが」
助手女「でしたら、所長が代わりをやったらどうです?」
男「へ!?」
男「いやいやいや、無理だろ! できっこない! 俺、楽器なんかやったこと――」
助手女「楽器じゃなくて、壁でやればいいんですよ」
男「えええええ!?」
助手女「ちゃんと折り畳み式の壁を持ってきています。いい音が出るやつを」
男「準備よすぎ……」
団長「あなたの壁ドンの実力は知っています! ぜひお願いできませんか!?」
男「ちょっ、正気ですか!?」
団長「もちろんお礼はしますし、失敗しても責任は問いませんので……」
助手女「所長ならできますよ。壁ドンのプロフェッショナルなんですから」
男「むむむ……」
男「よーし、やったるかぁ!」
助手女(すぐ乗りますね、この人は)
団長「ただいまより、我が楽団のコンサートを開始いたします!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ…
~♪ ~♪ ~♪ ~♪
ジャジャジャーン! ジャジャジャーン!
男(そろそろ俺の出番だな)
ドンドンドドドン! ドドドンドンドコドン! ドンドンドンドンドンドン!
ドンドンドンドン! ドドドドドドドドン! ドンドンドコドコドン!
助手女(ふふっ……やるじゃないですか)
…………
……
助手女「よかったですよ。私、所長を見直しました」
男「いやー、俺もまさかあそこまでやれるとは思わなかった。火事場の馬鹿力だな」
助手女(ただし……)
団長「あなたには才能がある! ぜひうちの楽団に! ――ぜひ!」
男「いや、俺はあくまで壁ドン師なんで……今日はホントたまたまのマグレで……」
助手女「しばらく、団長さんがうちの事務所のドアを叩く日々が続くかもしれませんね」
―おわり―
街中にて――
青年「あっ、偶然ですね!」
男「君はいつぞやの……彼女とはどうだ?」
青年「上手くいってますよ~、毎日イチャイチャしてます」
男(ちっ、聞くんじゃなかった)
青年「壁ドン師さんは……今日はお仕事ですか?」
男「いや、今日は休日でね。街をぶらぶらしてたんだ」
青年「よかったら、“壁ドン師の休日”がどんなものか、見学させてもらってもいいですか?」
男「いいとも」
青年「あ、路上でパントマイムやってますよ。すごいなぁ、ホントに透明な壁があるみたいだ」
男「じゃあ俺も参加させてもらおうかな」
青年「え、パントマイムできるんですか?」
男「壁を作るパントマイムはできないが……」
男「壁ドンはできる」ドンドン
青年「!?」
パントマイマー「…………」スッスッスッ
男「…………」ドンドンドン
青年(パントマイムの壁に壁ドンしてる……! どこから音出てるんだ……!?)
スッスッスッ… ドンドンドン…
男「今日も楽しかったよ。またやろうな」
パントマイマー「…………」バイバイ
男「じゃ、行くか」
青年「今日もってことは、普段からやってるんですか?」
男「彼とはもう五年ぐらいの付き合いかな」
青年「壁を作る人と叩く人。類は友を呼ぶってやつですか……」
青年「え!? ハ、ハロー……」
外国人「ペラペラペーラ、ペラペーラ」
外国人「ペペラペラペラ、ペラペーラ、ペララペラララララ、ペラララペララ、ペラリーノ」
青年(全然分からない……どうしよう……)
青年「ア、アイキャントスピーク……」
男「俺に任せろ」
男「…………」ドンドンドン
外国人「Oh!」
男「…………」ドンドンドンドン
外国人「Yes! Yes!」
男「…………」ドンッ!
外国人「センキュー!」
男「ユアウェルカム」
ガシッ!
青年(壁ドンで“言葉の壁”を越えた……!)
男「武道家は日常が鍛錬っていうだろ? 壁ドン師は日常が壁ドンなのさ」
青年「なるほど……すごいなぁ……」
男「ん」
青年「あれは助手さん……」
助手女「…………」スタスタ
男「そういや彼女が普段何してるかは、俺もよく知らないんだよな」
青年「だったらどこに行くか、ちょっとつけてみませんか?」
男「面白そうだな……やってみるか」
インストラクター「では胸を大きくする体操を始めまーす。ワンツー、ワンツー」グッグッ
助手女「ワンツー、ワンツー」グッグッ
男「…………ッ!」
男「いいか、このことは胸の中にしまっておくんだぞ! バレたら腕ポキじゃすまねえ!」
青年「は、はいっ! もちろんです!」
―おわり―
―事務所―
助手女「所長、お茶です」ドンッ
男「あ、ありがとう」
男(壁ドンならぬ、お茶ドンか……今日は朝から機嫌悪いな)
男(まさか、こないだのことがバレたんじゃないだろうな……)
助手女「所長、お客様です」
男「おう、分かった」
男「ふむふむ」
男「では、胃の壁に壁ドンしましょう」
男「せぇの!」ドンッ!
中年男「うっ!」
中年男「おおっ、胃がスッキリしました! ありがとうございます!」
男「お大事にどうぞー」
男(この通り、壁ドンは健康増進にも役立つ)
スタスタ…
男「なあ、今日はどうしたんだよ?」
助手女「何がです?」
男「さっきからずっと機嫌悪いじゃないか」
助手女「そんなことありませんよ」
男「もしかしたら、あの日?」
助手女「腕ポキされたいですか?」
男「ごめん、悪かった」
会社員「う、ううう……」
男(人がうずくまってる……!)
助手女「汗がすごいですね。救急車を呼びますか?」
男「ちょっと俺に触らせてみろ」
男「ふむ……」モゾ…
会社員「い、痛い……!」
男「あんた、足は速いか?」
会社員「それなりには……」
男「そうか。だったら、俺があんたのお腹を叩いたら、すぐ向こうのコンビニに走れ」
会社員「…………?」
会社員「!」ビクビクッ
会社員「あ……」
男「走れ!」
会社員「で……出るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
タタタタタッ…
男「腸壁にえらくこびりついてたからな……あれじゃ腹が痛くなるわけだ」
男「間に合えばいいが……」
男「ん?」
助手女「今の……私にもやってもらえないでしょうか」
男「え」
男(今日ずっと不機嫌だったのって、もしかして……)
―おわり―
―事務所―
トレーナー「……というわけなのです」
男「ふむふむ、若手有望株の格闘家が、壁にぶつかっていると……」
トレーナー「はい、なんとか壁を壊してやりたいのです」
男「やってみましょう」
格闘家「シッ、シシッ!」ボスッ! ボスボスッ!
男(こいつか……)
トレーナー「おい! 今日は壁ドン師の方を連れてきた!」
格闘家「マジで連れてきたんすか? いっときますけど、俺は壁になんかぶつかっちゃいませんよ!」
格闘家「試合だってちゃんと勝ってるじゃないですか!」
トレーナー「だが、こないだの試合は格下相手に判定でやっとだったじゃないか!」
トレーナー「このままじゃ……」
格闘家「うるっせえなぁ! 俺は俺のやりたいようにやるんだ!」
男「まあまあ、話だけでも聞いてくれ」
格闘家「ちっ……」
助手女「はい」
格闘家「なんだこりゃ……? 壁?」
男「ここに二つの壁がある。両方とも同じ材質の全く同じ壁だ」
男「今から俺たち二人で、どっちが少ない打撃数で壁を壊せるか、勝負しないか?」
格闘家「おもしれえ……!」
助手女「どちらの壁にします?」
格闘家「俺はこっちだ!」
格闘家「オラッ! オラオラッ! オラッ!」
ドカッ! バキッ! ドゴッ!
格闘家「オラァッ!」
ドゴォンッ!!!
パラパラ…
格闘家「どうだァ!? 粉砕してやったぜ!」
男「じゃあ次は俺だな」
男「…………」スゥ…
男「ふんっ!」
ドンッ!
ピシピシピシ…
ボゴォン!
格闘家「――――ッ!?」
格闘家「イカサマだ、こんなのイカサマだ! そっちが用意したんだしよ!」
助手女「イカサマではありませんよ。両方とも同じ壁です」
格闘家「う……!」
男「あんたはただ力任せに壁をブッ叩いただけ」
男「俺はよーく壁を観察して脆いところを的確に突いた。その差が出たんだ」
格闘家「目が覚めたよ……トレーナー……」
格闘家「近頃、俺のファイトが雑になってたのは分かってた……。もう一度やり直すよ……」
トレーナー「おおっ……!」
助手女「あの、よろしいでしょうか」
格闘家「え?」
助手女「サイン……ください」サッ
格闘家「は、はい」
男(ファンだったのか……)
男「なんです?」
格闘家「ちょっとだけでいい、俺とスパーリングしてくれないか?」
男「え!?」
格闘家「もちろん、そっちは防具つけていいから! あんたの打撃を体感したいんだ!」
男「いや、あの……ちょっと……」
助手女「頑張って下さい」ニコッ
男「滅多に見せないすごいいい笑顔!」
……
格闘家「まさか軽いジャブ一発で……!」
トレーナー「大丈夫ですか!?」
男「う、うーん……あの壁を越えると天国かなぁ……」ピヨピヨ
助手女「人間相手じゃ、なかなか壁ドンのようにはいきませんね」
―おわり―
ある建設中の建物にて――
建築家「どうだね? 市から委託されて私が設計・建築した“憩いホール”は」
男「素晴らしい建物だと思います」
建築家「そうだろう。これほど美しいホールを、これほど安く早く建てられるのは私ぐらいのものだよ」
建築家「特にここの壁が私の力作でねえ」ポンポン
建築家「プロ壁ドン師である君に、壁ドンしてもらって宣伝に使いたいのだよ」
建築家「『プロ壁ドン師も太鼓判!』という具合にね」
男「分かりました、壁ドンしてみます」
ドンッ
男「……これは」
建築家「なんだと?」
男「もし、ここが崩れたら、建物が一気に崩れる危険性もあります」
男「今の段階で、設計を見直して、補強した方がよいのでは……」
建築家「なにをいう! 貴様、専門家でもないのに私の作品にケチをつける気か!」
男「いや、そんなつもりじゃ……ただ、プロ壁ドン師としては……」
建築家「なぁ~にがプロ壁ドン師だ! このイカサマ師が!」
建築家「もういい! とっとと消え失せろッ!」
男「ハァ~……久しぶりにやらかしたな」
助手女「あの方は今をときめく建築士ですから、プライドも高いでしょうね」
男「だよなぁ。もう少し言い方を考えるべきだった」
男「相手に心の壁を作ってしまった。俺もまだまだ未熟だ……」
助手女「“心の壁”……ですか。なんだか昔を思い出すフレーズですね」
男「たしかに……お前との出会いを思い出すな」
男(あの頃、俺はまだ修行中の、アマ壁ドン師だった……)
…………
……
男「俺ってかっこいいだろ?」ドンッ
通行女「ステキ……!」ポッ
男「ありがとう」パッ
通行女「よく見たらステキじゃなかったわ」スタスタ
男「…………」
男(複雑な気分だが、今日も壁ドンは絶好調だ。親父が俺を認める日も近いな)ニヤッ
男「どのようなご用件でしょう?」
婦人「一人娘が……どうも心を閉ざしてしまって」
男「心を閉ざす? 引きこもってるんですか?」
婦人「いえ、学校にはちゃんと通っています」
婦人「親バカかもしれませんが、勉強もスポーツも、なんだってできる子でして……」
男「だとしたら、いじめられてるとか?」
婦人「そういうこともないらしいのですが、どうも世の中を斜めに見ているというか……」
婦人「もっといえば、生きる気力を感じないというか……」
男「なるほど。その“心の壁”を俺に開いて欲しいということですね?」
婦人「そうなんです」
男「分かりました、やりましょう! 壁ドンは心にも通用するんです!」
男(この依頼を解決すれば、俺はまた一歩成長できる!)
男「はじめまして」
JK「…………」
男「君、心を閉ざしてるんだって? どうして?」
JK「生きるなんて下らない」
男「は?」
JK「勉強していい学校入って、働いて結婚して、やがて老いて死ぬ。ただこれだけ」
JK「自分がどういう一生を送るか、だいたい想像がついちゃった」
JK「だから、生きるのがバカバカしくなっちゃったの」
男(だいぶこじらせてんなぁ……。なまじ優秀だから、世の中が下らなくなったって感じか)
男(よし、こういう女はまず壁ドンで惚れさせるか)
JK「…………」
男「さあ、心の壁を開放しよう!」ドンッ
JK「…………」
男「あ、あれ? おかしいな」ドンッ ドンッ
JK「…………」
男「なんで!?」ドンッ ドンッ ドンッ
JK「ドンドンうるさいんですけど」
男(――通じない!? バカなッ!)
JK「…………」
男「なぜだ……なぜ通じない!? あんなに修行したのに!」
男「くっ、今日のところはこれで引き下がるが、必ず君を壁ドンでノックアウトしてみせる!」
JK「…………」
JK(なんなのこの人……)
男「やぁ、今日も来ちゃった」ドンッ
JK「…………」
男「楽しくおしゃべりしようぜい」ドンッ
JK「…………」
男「心なしか、昨日より悪化してない?」ドンッ
JK「でしょうね」
JK「…………」
男「くそうっ!」ドンドンッ
JK「…………」
男「俺の壁ドンを聴けええええええっ!」ドドドドドンッ
JK「うるさいです」ガシッ
男「いでええええっ! 折れる! 折れちゃう! 腕ポキしちゃうっ!」メキメキ…
…………
……
婦人「(この子から話しかけてくるなんて珍しい……)どうしたの?」
JK「今日、あの人は?」
婦人「今日は……来ないみたいね。なんの連絡もないわ」
JK(やっぱりね)
JK(あんなこといっておいて、一週間も経たないうちに音を上げちゃって)
JK(ま、元々大して期待してなかったけど)
JK(なんだか本当にバカらしくなってきちゃった……生きるの)
男「すいません、遅れました! えぇっと、彼女は!?」
婦人「あ、あのっ!」
男「どうしました?」
婦人「あの子が……あの子が……遺書を残して失踪を……!」
男「なんですってえええええ!?」
JK「ここで炭を焼けば……」
モクモクモク…
JK(このまま放っておけば、一酸化炭素中毒で私は死ぬ……)
JK(私が死んでも、みんな悲しむことなくすぐ忘れる……)
JK(ま、しょうがないよね。そういう生き方してきたんだから。自業自得だわ)
JK「…………」
JK(だけど、お父さんお母さんは悲しむだろうなぁ……きっと)
JK(ドアを開けて……)グイッ
JK「開かない!?」
ガチャガチャッ! ガチャガチャッ!
JK「なんで!? どうして!? 鍵が壊れちゃったの!?」
JK「どうしよう……! このままじゃ……私……!」
モクモクモク…
「おーいっ!」
JK「!」
「中に誰かいるか!?」
JK(この人は……壁ドンの……!)
「いるなら返事してくれっ!」
JK「た、助けてっ!」
「よし、分かった! 壁ドンで壁をぶっ壊す! うおおおおおおっ!」
ドンッ!
JK「うっ、うっ……ありがとう……」
JK「だけど、どうしてここが……」
男「手当たり次第に壁を叩いて、振動や反響を利用して、君の居場所を探り当てたんだ」
JK「そんなことまでできるなんて……」
男「可能性は限りなく低い、一か八かの賭けみたいな方法だったけどな」
男「見つかってよかった……!」
男「いや、バカなのは俺の方だ」
男「君の苦悩をちゃんと理解しようとせず、壁ドン一辺倒で解決しようとした俺のミスだ……」
男「俺はまだまだ未熟だ……アマチュアだ……」
JK「壁ドン師さん……」
男「もし俺がいつか一人前になったら……また会いにきてもいいかな?」
JK「ええ……もちろんです」
…………
……
助手女「私もこうなるとは思ってなかったですよ」
助手女「今日みたいな嫌なことがあった日は、二人でパーッと飲みませんか?」
男「そうするか! 心の壁を取り払って、思い出話に花を咲かせよう!」
―おわり―
―事務所―
青年「こんにちは!」
隣人女「二人で遊びに来ちゃいました!」
男「お、いらっしゃい」
助手女「どうぞごゆっくり」
青年「もし、誰かお客さんが来たらすぐ帰りますんで!」
助手女「大丈夫ですよ。あまり来ませんから」
男「俺の懐はあまり大丈夫じゃないけどな」
男「いいや、違う。俺の家系は代々“壁ドン師”なんだ」
男「俺の親父も、おじいちゃんも、そのまた上も、みんな壁ドン師だった」
青年「……ちょ、ちょっと待って下さい! “壁ドン”って最近できたネットスラングですよね?」
青年「なのになんで代々……?」
男「壁ドンって言葉は、元々俺たちが使ってたんだ。ネットスラングはその後追いに過ぎない」
青年「えええええ!?」
隣人女「そうなんですか!?」
男「壁ドン師自体がまだまだマイナーな職業だから、この事実を知る人は少ないけどな」
青年「僕はネットの口コミであなたのことを知りましたけど、知りませんでした……」
男「たとえば、これ」サッ
青年「あっ、ベルリンの壁ですね」
隣人女「崩壊の時の写真だわ」
男「ここで壁を壊してる奴がいるだろ?」
青年「ええ、最前列で壊してますね」
隣人女「どことなくあなたに似てるような……」
男「これ、俺の親父だ」
二人「すごおおおおおおおい!!!」
青年「大昔の城攻めの絵ですかね?」
男「ああ。で、ここで城壁を壊してる足軽がいるだろ?」
青年「いますね」
男「これは……俺のご先祖様だ」
青年「えええええええ!?」
隣人女「本当に……!?」
青年「これがなにか?」
男「この壁画は、俺のご先祖様製といわれている」
二人「え~~~~~~~~~~!!?」
青年「いやいやいやいやいや! ないないないないない!」
隣人女「絶対ウソ!」
隣人女「うん、源義経がチンギスハンなんて伝説くらいの信憑性だわ」
男「いや、マジなんだって! ホントだから!」
二人「…………」ジロー…
男「ううっ……お前はもちろん信じるよな?」
助手女「信じますよ」
男「おおっ!」
助手女「タレが入った袋の『どこからでも切れます』くらいには」
男「それ信じてねえじゃん!」
男「――え!?」
青年「なんだ、今の声……!?」
隣人女「テレビじゃないですよね?」
助手女「ええ、音が出るようなものはなにもついてませんから」
男「ってことは……」
助手女「“壁に耳あり”といいますしね」
助手女「子孫がウソつき呼ばわりされているのを、我慢ならなかったのかもしれません」
青年「ひええ……」
隣人女「そんな……」
青年「疑ってすみませんでした!」
隣人女「ごめんなさい!」
男「いやいや……分かってくれればいいんだよ、うん」
―事務所―
助手女「ではお先に失礼します」
男「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
助手女「どうしました?」
男「幽霊がいるかと思うと怖くなっちゃって……今夜は一人にしないでくれーっ!」
『うーむ……今の代の子孫はだいぶ情けないようだ……』
―おわり―
―事務所―
TV『来週、新しく完成した“憩いホール”の落成式が行われます……』
男「これは……」
助手女「たしか以前、所長が壁ドンした建物ですね」
男「専門家じゃないのに口出すな、なんて怒られたっけなぁ」
男「…………」
男「ちょっと気になるな。呼ばれてないけど、俺も行ってみるか」
助手女「私もお供します」
建築家「皆さま、この“憩いホール”の落成式にお集まりいただき、誠にありがとうございます」
建築家「より安く、より早く、より美しく! これが私のモットーであります!」
建築家「私が隅から隅までデザインした憩いホールを、ぜひ中までご覧下さい!」
ワイワイ… ガヤガヤ…
助手女「どうやらホールは無事、完成したようですね」
男「立派な建物のようだし、心配のしすぎだったか……」
男「その節はどうも……憩いホールのご完成、おめでとうございます」
建築家「ああ、君に冷や水をぶっかけられた時のことは今でも覚えているよ」
建築家「だが、私は心が広いのでね。水に流してあげようじゃないか」
男「ありがとうございま……」
グラグラグラ…
男「!」
ザワザワ…
男「地震だ!」
助手女「かなり大きいですね……。結構な震度がありそうです」
建築家「ちっ、なんでこんな時に……!」
助手女「憩いホールにも異常はないようですね」
建築家「当然だろう! この程度の地震では、私の建物はビクともせんわ!」
男「…………」
男(他はいいとしても、俺が気になったあの壁は……!)ダッ
助手女「所長?」
建築家「おい、どこへ行くんだ!」
男「やっぱり……!」
助手女「この壁だけ、ものすごいヒビが……」
建築家「な、なんだとォ!?」
男(心配が……的中しちまった!)
メキメキメキメキメキ…
男「!」
男「壁が悲鳴を上げてる!」
男「まずいっ! このままこの壁が崩れたら、連動してこの区画がまとめて崩れるぞ!」
助手女「なんですって!」
警備員「まだ中には大勢の人が入ってるんですよ! そんなことになれば……!」
建築家「こんなバカな! 私の設計は完璧のハズだ!」
男(放っておけば、この壁はもう数十秒も持たない!)
建築家「私の設計が……こんな……」
男「落ち着けぇっ!!!」
建築家&警備員「!」ビクッ
男「今すぐホールに入った人達を、全員外に出すんだ!」
警備員「は、はいっ!」
建築家「君はどうするのだ!?」
男「俺は……壁ドンでこの壁を持たせてみせる!」
男(集中しろ……。どう壁ドンすれば、壁を補強できるか見抜け……)
男「はっ!」ドンッ
ドンドンッ! ドンドンッ! ドドドンッ! ドンッ!
男(よし……壁の崩壊が止まった!)
男「頼む……持ってくれよ……!」
男「…………」
助手女「…………」
男「うわっ! なんでいるんだよ!? ここは危ないから早く逃げろ!」
助手女「人々の避難はあの方たちだけで大丈夫でしょう」
助手女「それに私は助手ですから……お供させて下さい」
男「……しょうがないな」
男「よーし、はりきっちゃうぞ!」
ドンッ! ドドンッ! ドンッ! ドドンッ! ドンッ!
男「ありがとう!」
男「俺たちも離れるぞ!」ダッ
助手女「はいっ!」ダッ
男が壁ドンをやめると――
メキメキメキメキメキ… メキメキメキメキメキ…
ズズゥゥゥゥン……!
男「ふぅ~、危なかった」
助手女「所長のいうとおり、あの一画だけ崩れてしまいましたね」
男(工期やデザインを優先するあまり、あそこだけ耐震基準を満たしてなかったんだろうな……)
建築家「う、うう……」
建築家「こんなことになるなんて……。終わりだ……私はもう……」
男「…………」
建築家「…………!」
男「この件をきっちり反省して、ぜひ再起して――」
男「今度は壁ドンしがいのある壁がある建築物を造って下さい」
建築家「……ああ」
助手女「イカサマ師呼ばわりした人をフォローするなんて、お優しいですね」
男「おごりさえなければ、いい壁を作れる人だと思ったからだよ」
男「さ、帰るか」
助手女「はい」
…………
……
TV『地震に見舞われた憩いホール落成式では、プロ壁ドン師の活躍もあり、怪我人は出ず……』
男「ふっふっふ……」
男(あちこちのニュースで、俺のことが話題になってる。いい気分だ)
助手女「お茶です」コトッ
男「ありがとう」
男(そういやこの子……)
男(あの時、一歩間違えれば、死ぬとこだったのに俺に付き合ってくれたんだよな)
男(まったくいい助手だよ)
助手女「はい」
男「それってもしかして、単に効きにくいだけじゃなく、とっくに俺に惚れてるからだったりして」
助手女「…………」ギロッ
男「ひっ! すみま……」
助手女「その通りですが?」
男「えっ……!」
助手女「やっと気づいたんですか。鈍いですね」
男「…………!」
男「今のは、俺の胸にドンと響いたよ……」
助手女「かまいませんよ」
男「マジで!?」
助手女「ただし……テレビ効果で取材や依頼が殺到してるので、それを片付けてからにしましょうね」
男「うげええ……」
男「しばらくは壁ドンしまくる日々が続きそうだなぁ……」
―おわり―
ありがとうございました
元スレ
男「俺は壁ドンのプロフェッショナル」ドンッ 道ゆく女ども「キャーッ! ステキーッ! 抱いて!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1579089911/
男「俺は壁ドンのプロフェッショナル」ドンッ 道ゆく女ども「キャーッ! ステキーッ! 抱いて!」
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コメント一覧 (8)
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- 2020年01月16日 03:12
- ロックマンEXEの印象が強いせいでティンパニーが笛だと思ってた
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- 2020年01月16日 06:39
- 蛇足冗長
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- 2020年01月16日 16:47
- 1話で終わらせとけば面白かった
-
- 2020年01月16日 16:59
- >>4
これ
-
- 2020年01月17日 14:51
- >>4
>>5
ここまで全部やったからこそ面白いんだよなあ。
-
- 2020年01月16日 23:51
- 時代は壁ダァンよ
-
- 2020年01月18日 11:03
- Official壁ドンdism
あれかっこよかった