美希「デスノート」【その6】
- 2017年01月22日 08:05
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美希「デスノート」【その6】
(アリーナライブに向けたレッスンを終え、帰宅した美希)
ガチャッ
美希「ただいまなのー。あー。クーラーすずし……」
パーン! パンパンパーン!
美希「!? な、何!? ……く、クラッカー?」
菜緒「美希」
星井母「お誕生日」
星井父「おめでとう!」
パチパチパチパチ……
美希「…………え?」
菜緒「何呆けた顔してるの? 美希」
美希「えっ。あ、いや」
星井母「ほら、早く着替えてきなさい。今日はママ、張り切って美希の好きな物ばかり作ったんだから」
星井父「まあ要するにおにぎりばっかってことなんだけどな」
星井母「あら。冷蔵庫にはいちごババロアも入ってるわよ?」
美希「ちょ……ちょっと待つの!」
菜緒「? どうしたの美希。ママが作ってくれたおにぎりといちごババロアに何か不満でもあるの?」
美希「それについては1ミリたりともないけど! でもどうしたのはこっちのセリフなの! ドッキリにしてもちょっと雑過ぎるって思うな!」
星井母「ドッキリ?」
星井父「別にドッキリじゃないぞ」
美希「えっ。いや、でも……」
菜緒「でも?」
美希「……ミキの誕生日、まだ全然先なんだけど……」
星井母「そんなこと分かってるわよ」
美希「へっ?」
星井父「おいおい、俺達が美希の誕生日を間違えるわけないだろ」
美希「……パパ?」
星井父「美希の誕生日は11月23日。美希が生まれてきてくれたことに感謝するために定められた国民の祝日だ」
美希「国民の祝日なのはその通りだけど定められた理由と感謝する対象が間違ってるの……って! 分かってるなら何でこんな……」
菜緒「美希。今日は何月何日?」
美希「? 7月23日……だけど」
星井母「つまり」
星井父「そういうことだ」
美希「いや全然分からないの!」
菜緒「そ。パパの提案でね」
美希「……パパの?」
星井母「ほら、美希。今年の誕生日の頃って……もうハリウッドに行っちゃってるでしょ?」
美希「あー……うん」
菜緒「だったら、去年までみたいに家族皆でお祝いとかはできないだろうから、美希がまだこっちにいるうちに、毎月23日ごとに分割して先にお祝いしちゃおう、って……今日、パパが突然言い出してさ」
美希「…………」
星井母「本当、何事かと思ったわよ。仕事中に急に電話してくるんだもの」
星井父「はは……すまんすまん」
美希「パパ……」
星井父「ま、そういうことだ。驚かせてごめんな。美希」
美希「……ううん。ありがとう。パパ。……ミキ、とっても嬉しいの」
星井父「……そうか。美希に喜んでもらえたなら……良かった」
美希「でも」
星井父「ん?」
美希「毎月23日って……なんか月命日みたいだね」
星井父・星井母・菜緒「…………」
美希「……空気読めなくてごめんなさいなの」
星井父「いや……それより早く食べよう。ママお手製のおにぎり」
星井母「そうそう。冷めないうちに召し上がれ」
菜緒「えへへ、じゃあ早速いただきまーす。さーて、どれにしようかな~っと」
美希「…………」
星井父「美希?」
美希「あ、いや……分割でお祝いをしてくれるのは嬉しいんだけど、ミキ、9月の半ばにはもう向こうに行っちゃうから……実質今日と来月しかないんだな、って思って……」
菜緒「あー……じゃあもうちょっと細分化する? 本当の誕生日は11月23日だから……これから1か2か3のつく日は全部やるとか」
美希「その気持ちは嬉しいけど、それだと今度はほぼ毎日になっちゃうって思うな」
星井父「…………」
星井母「流石に今日みたいな日にまでキラ事件はちょっとね……菜緒、チャンネル変えてくれる?」
菜緒「ん」ピッ
美希「…………」
菜緒「あ、でもキラ事件といえば……パパって、この事件はもう担当してないんだよね?」
美希「!」
星井母「ちょっと菜緒。言ったそばから……」
星井父「……ああ。俺はもうずっと担当してない」
菜緒「そっか。良かったー」
星井父「? 良かった?」
菜緒「だって危ないじゃん。こんなわけわかんない事件の捜査なんてさ。もしパパに万が一の事があったら、私……」
星井父「……菜緒」
美希「ミキも、お姉ちゃんと同じ気持ちなの」
星井父「! 美希」
美希「パパが死んじゃったら、ミキ……もう生きていけないの」
星井父「…………」
星井母「長生きしなきゃね。あなた」
星井父「……ああ」
リューク「ククッ。流石の名演技だな。ミキ」
美希「…………」
美希(……別に演技なんかじゃないの。黙ってろなの死神)
美希(ミキはパパを殺さない。殺さなくてもLには十分勝てる)
美希(だってもうミキはLを……竜崎を殺せるんだから)
美希(後はただ時間が過ぎるのを待つだけ。今から一か月後、竜崎の名前をデスノートに書くまで)
星井母「? どうしたの? 美希」
美希「え?」
菜緒「なんか、おにぎり手に持ったまま神妙な顔してるけど……」
星井母「もしかして、もうお腹いっぱいになったの?」
美希「……ううん。ママの作ってくれたおにぎり、すっごく美味しいから味わって食べてたの」
星井母「美希」
美希「だから……もっとたくさん食べてもいーい?」
星井母「もちろんよ。今日は美希のお祝いなんだから」
美希「えへへ。うれしいの」
菜緒「食べ過ぎてライブの衣装が着られなくなったー、とかは困るけどね」
星井母「ああ、そういえばもうすぐね。美希のアリーナライブ」
菜緒「私はもちろん行くけど……パパとママは大丈夫なの?」
星井母「私は行くわよ。もう有休取ってるし」
菜緒「おー。流石ママ」
美希「ママ、ありがとうなの。それにお姉ちゃんも」
星井母「美希の晴れ舞台だもの。当然よ」
菜緒「ねー。パパはどう?」
星井父「俺は……仕事の状況次第だが、ちょっと難しいかな」
美希「えー。ミキ、パパにも来てほしかったのにー」
星井父「……ごめんな。美希」
星井母「こればかりは仕方無いわよ。パパの仕事は不規則だから」
美希「ぶー……じゃあせめて、パパにはミキがステージの上でキラキラできるように祈っててほしいの」
星井父「……ああ。祈っておくよ。約束する」
美希「えへへ。ありがとうなの。パパ」
美希「…………」
美希(いつかミキが覚えた『不安』)
美希(ミキの中で、それまでの『日常』が少しずつ『非日常』に変わっていって……それまで当たり前のようにあった『日常』が、影も形も無くなってしまうんじゃないかっていう……『不安』)
美希(でも)
美希(もう、そんな『不安』は今のミキの中には無い)
美希(パパがいて。ママがいて。お姉ちゃんがいて)
美希(そしてもちろん……765プロの皆がいて)
美希(そしてその中に、ミキもいる)
美希(今ミキが生きているこの『日常』は、この先何があっても変わりはしない)
美希(今は……胸を張ってそう言える)
美希「…………」
星井父(なあ、美希)
星井父(俺は一体、どこまでお前のことを分かってやれていたのかな)
星井父(俺は全く知らなかった。お前が前のプロデューサーにセクハラされていたことも。クラスの男子から性的な言動でからかわれたりしていたことも)
星井父(今までずっと、誰よりも……お前の事を理解していたつもりだったのに)
星井父(父親失格、だな)
星井父(…………)
星井父(なあ、美希)
星井父(もし本当にお前がキラなら)
星井父(前のプロデューサーの件、クラスメイトの男子の件……俺がちゃんと気付いてやれていたら)
星井父(お前の話を、ちゃんと聞いてやることができていたなら)
星井父(あるいは……)
星井父「…………」
(他の捜査員の帰宅後、Lとワタリの二人だけが捜査本部に残っている)
(二人は、星井父の身に着けたマイクが拾う星井家の会話の音声を聴いている)
L「…………」
ワタリ「…………」
美希『えー。ミキ、パパにも来てほしかったのにー』
星井父『……ごめんな。美希』
星井母『こればかりは仕方無いわよ。パパの仕事は不規則だから』
美希『ぶー……じゃあせめて、パパにはミキがステージの上でキラキラできるように祈っててほしいの』
星井父『……ああ。祈っておくよ。約束する』
美希『えへへ。ありがとうなの。パパ』
ワタリ「最後の家族団欒……ですかね」
L「…………」
L(合宿以降、星井係長には、『今まで以上に愛情を持って星井美希に接するように』と指示していた)
L(それは、星井美希に対する星井係長の態度を訝しまれないようにするためであり……)
L(また同時に、星井美希に父親である星井係長を殺すことを躊躇させ、それによって他の捜査員をも殺させないようにするためでもあったが……)
L(今日の星井係長の行動原理は……おそらくもっとシンプルなものだ)
L(それはつまり……『娘の誕生日を祝う機会を、もう持てないかもしれないから』)
L(おそらくは、ただそれだけの……)
L「……ワタリ」
ワタリ「? どうしました? 竜崎」
L「……いや……」
ワタリ「…………」
L「…………」
ワタリ「……正義でも、悪でも」
L「! …………」
ワタリ「私はお前の味方だよ」
L「……ありがとう。……ワタリ」
【アリーナライブまで、あと8日】
(ライブ本番と同じ会場での全体練習を終えたアイドル・ダンサー一同)
P「――というわけで、次にこの会場に来るのは今日から一週間後、本番前日のリハーサルの時になる。それまで各自、今日実際にこのステージで歌い、踊って味わった感覚を忘れないようにしていてほしい」
アイドル・ダンサー一同「はい!」
P「俺の方からはそれくらいかな。じゃあ律子、最後の締めを頼む」
律子「分かりました。皆、泣いても笑ってもあと8日よ。これまで何度も言ってきた事だけど、後は本当に体調だけ注意して、万全の状態で本番を迎えられるようにする事」
律子「それから、技術的な不安要素はもうほとんど解消されてると思うけど……本番で少しでも高いパフォーマンスを発揮できるよう、各自、向上心は最後まで持ち続けるようにね」
アイドル・ダンサー一同「はい!」
律子「よし。じゃあ今日はここまで。皆、クールダウンはしっかりね」
アイドル・ダンサー一同「ありがとうございました!」
(クールダウンをしながら、リラックスした時間を過ごしているアイドル・ダンサー一同)
奈緒「は~。もうあと8日で本番なんかー……。うー、意識したらアカンのやろけどやっぱ緊張するわ~。私、ちゃんと踊れるやろか……」
美奈子「大丈夫だよ。これまでずっと頑張ってきたじゃない」
奈緒「美奈子」
星梨花「そうですよ、奈緒さん! わたし達なら絶対大丈夫です!」
百合子「確かに私も怖いですけど……もうここまできたら、今まで自分達がやってきたこと、信じるしかないのかな、って……」
奈緒「星梨花。百合子」
杏奈「杏奈も……今まで皆で積み重ねてきた努力、信じたい……です」
奈緒「杏奈。……せやな」
美奈子「奈緒ちゃん」
奈緒「――私としたことが、ガラにもなく、ちょっと弱気になってもうてたわ。皆、堪忍な」
志保「…………」
奈緒「志保?」
志保「えっ。あ、はい。何ですか? 奈緒さん」
奈緒「いや、なんかさっきから妙に大人しいなあ思て。もしかして、どっか具合でも悪いんか?」
志保「……いえ。そういうんじゃないんですが……ただ……」
奈緒「ただ?」
志保「今日、初めてこのステージに立って……分かったんです」
志保「このステージは、今立っているこの場所は……私が思っていたよりも、ずっと重たかったんだって……」
奈緒「志保」
星梨花「志保さん」
志保「…………」
志保「きゃっ!」
(志保の背中を後ろから押して驚かせた可奈)
志保「……か、可奈!?」
可奈「えへへ~、びっくりした? 志保ちゃん」
志保「そ……そりゃびっくりするに決まってるじゃない! 何考えてるの? 大体あなたはいつもいつもそうやって――」
可奈「…………」ニヤニヤ
志保「? な、何よ……その笑い」
可奈「いや、いつも通りの志保ちゃんに戻ったな~って思って」
志保「!? な……」
可奈「いいじゃん、それで。アリーナだろうがぶどーかんだろうが、いつも通りの志保ちゃんでさ」
志保「! ……可奈……」
可奈「確かに、ステージの持つ意味は人それぞれかもしれないけど……でも、私達がやることは別に変わらないって思うよ」
可奈「いつも通り、今まで通りに……全力で歌って、踊って、笑う」
可奈「それが“アイドル”でしょ?」
志保「! …………」
奈緒「ははっ。こりゃ一本取られたな。志保」
可奈「って、まあ私達は今回は歌わないんだけど――」
志保「…………」ムニィ
可奈「ひゃうっ!?」
(無言で可奈の両頬を引っ張る志保)
志保「…………」グイグイ
可奈「ひょ、はれてはれてひほひゃん! ほっへほひひゃう!」
志保「……うるさい」グイグイ
可奈「ひ、ひほひゃ~ん」
アハハハハ……
春香「……ダンサー組の皆も、良い感じにリラックスできてるみたいだね」
美希「一部、ちょっとリラックスし過ぎてるような気もするけどね。可奈と志保とか。……って、噂をすれば」
可奈「星井先輩!」タタッ
美希「さっきの間奏のトコ、手を上げるタイミングちょっと遅れてたね」
春香「開口一番でダメ出し!?」
可奈「ありがとうございます! 星井先輩!」
春香「可奈ちゃんも可奈ちゃんで当たり前のように受け入れてるし……まあいいけど……」
美希「で、何なの? 可奈」
可奈「はい。実はその……これ」スッ
(小さなパンダのぬいぐるみを差し出す可奈)
美希「ん?」
春香「あ、それ……」
可奈「こ……これにサインしてください!」
美希「サイン?」
可奈「はい! 天海先輩には、合宿の時にこれと色違いのにサインして頂いたんですけど……星井先輩にはまだして頂いていなかったので」
美希「…………」
可奈「ダメ……でしょうか?」
美希「……別にいいけど。サインくらい」
可奈「! ありがとうございます! 星井先輩!」
春香「良かったね。可奈ちゃん」
可奈「はい! 私、お二人から頂いたサイン、一生の宝物にします!」
春香「一生って……そんな大げさな」
可奈「大げさなんかじゃないですよ! お二人には本当にお世話になりましたし……それに……」
美希「? それに?」
可奈「お二人とも、もうトップアイドルですから!」
美希・春香「!」
可奈「そんなお二人から頂いたサイン……一生大事にしないと罰が当たっちゃいます!」
美希「……ミキ達は、まだトップアイドルにはなってないの」
可奈「え? でも……」
春香「うん、そうだね。まあでも、アリーナライブの結果次第……ってとこではあるかな?」
可奈「天海先輩」
美希「……そーゆーコト。だから、可奈」
可奈「! は、はい」
美希「ちゃ~んと、その目で見ててね。ミキと春香が―――トップアイドルになるトコロ」
可奈「――はい! 任せて下さい! 矢吹可奈、必ずこの目で見届けてみせます!」
可奈「お二人がトップアイドルになる、その瞬間を!」
美希「あはっ。期待してるの」
春香「責任重大、だね。可奈ちゃん」
可奈「はいっ! 頑張ります!」
社長「――ああ、そうだ。音無君。今ちょっといいかね?」
小鳥「あ、はい。何ですか? 社長」
社長「いや何、ちょっとね。……おーい。天海君」
春香「! はい」
(美希と可奈の所から、小走りで社長の方に駆け寄ってくる春香)
春香「……何ですか? 社長さん」
社長「少し話がある。ついてきてくれ。音無君もだ」
春香「は、はい」
小鳥「?」
(三人はそのままステージの裏手へと消えていった)
P「……何だ? 社長と音無さんと春香って……あまり見ない組み合わせだけど」
律子「そうですね。まあでも春香はライブのリーダーですし、小鳥さんもライブ当日、裏方の事務仕事がありますから……その打ち合わせとかじゃないですか?」
P「……ああ。なるほど。そうかもな」
P(それならむしろ、俺や律子もいる場で話した方がいいように思えるが……まあ一応、Lには後で報告しておくか)
P(それにどのみち、今日はLと連絡を取らないといけないしな)
P(『明日』の件について)
P「…………」
社長「……よし。ここなら他の皆には聞かれまい」
小鳥「あの、社長。一体何のお話で……?」
春香「……あっ」
社長「気付いたかね。天海君」
春香「もしかして、黒井社長の件……ですか?」
小鳥「! ああ」
社長「そういうことだ。今からちょうど一年くらい前……ファーストライブの直前の頃だったな。私と音無君の会話を偶然天海君に聞かれてしまい、天海君にだけは全てを打ち明けることとしたのは……」
春香(……偶然じゃなかったんだけどね)
小鳥「そっか。そういえば、今でも春香ちゃん以外の子達は知らないのよね」
社長「うむ。時が来れば他の皆にも改めて話すつもりだったが……そうする前に、黒井の方から一連の件についての謝罪の申し出があったからな」
春香「…………」
小鳥「確か……“765プロ潰し”計画に関与していたアイドル事務所の関係者達と、うちの前のプロデューサーさんが相次いで亡くなったのを見て……『765プロを潰そうとしていたから天罰が下った』と思った……っていうのが理由でしたよね」
社長「そうだ。まああれは実際、不可思議な出来事だったからな……黒井がそのように思っても無理は無い。……いや、というよりも……私もそうだったのではないかと思っているくらいだ」
小鳥「! ……じゃあ本当に『天罰』が下ったと……?」
社長「うむ。そうでも考えなければ説明がつかないと思わんかね? 狙いすましたかのように、我々を陥れようとしていた者達ばかりが相次いで死んでいった、というのは……」
春香「…………」
小鳥「それはまあ……そうかもしれませんね。あ、でも実は私、そういう意味では……前のプロデューサーさんはキラに殺されたんじゃないか、って思ってるんですよ」
春香「!」
社長「キラに……だと?」
小鳥「はい。だって他のアイドル事務所の人達は皆、事故死や自殺で亡くなったのに、うちの前のプロデューサーさんだけは心臓麻痺だったじゃないですか。しかも、元々心臓に病気があったとかでもないのに」
小鳥「そして彼が亡くなってすぐ後に、犯罪者を悉く『心臓麻痺』で殺すキラが出現した……これって、偶然の一致にしては出来過ぎじゃないですか?」
社長「いや、だが前のプロデューサーは犯罪者というわけではなかっただろう。もっとも、我々にとっては犯罪者以上に厄介な存在だったが……」
社長「むしろそういう意味では、彼を殺す動機は我々765プロの人間にしか無かったともいえ……君の推理を前提にすると、我々の中にキラがいる、という事になってしまわんかね?」
小鳥「そ、そこはほら……あれですよ。キラがなんかすごい能力で、私達が彼に困らされているのに気付いてくれてですね……」
社長「肝心な所の説明が雑だな……」
小鳥「でも実際に、二人組の刑事さんがキラ事件の捜査でうちの事務所に来て、前のプロデューサーさんの事を色々聞いてきたことがあったじゃないですか」
社長「ああ。それは確かにあったが……では君は、その時に今のような推理を刑事達に伝えたのかね?」
小鳥「もちろん伝えましたよ。でも結局、キラは今でも捕まっていないので……そう考えると、やっぱりハズレだったってことなんですかね……」
社長「まあ……やはり犯罪者だけを狙って裁いているキラが、わざわざ我々の手助けだけをしてくれた、というのも変な話だからな」
小鳥「う~ん。個人的には良い線いってると思うんですけどねえ」
春香「…………」
春香(……ここまで材料が揃ってるのに、社長さんも小鳥さんも『765プロの中にキラがいるかもしれない』とは微塵も思わないんだよね)
春香(それは言うまでもなく……私達、765プロの仲間に対する絶対的な『信頼』があるから)
春香(だからこそ……私はこんな765プロが大好きなんだ)
春香(765プロの皆を守るためなら……私は神にでも悪魔にでもなる。何百万人殺したって構うもんか)
春香(何人たりとも、765プロに害をなすような者達は……絶対に許さない)
春香「…………」
社長「ああ、すまんすまん。少し話が逸れてしまったな。……先ほど音無君が述べてくれたが、“765プロ潰し”計画に関与していたアイドル事務所の関係者達と、うちの前のプロデューサーが相次いで亡くなったのを見て、黒井は私に一連の件の謝罪を申し出てきた」
春香「…………」
社長「それに留まらず、当時961プロにいた今のプロデューサー……○○君をうちに移籍させると申し出た上、さらに例の投資会社を通じて行っていた出資も継続し、それまでの妨害工作によってうちに発生した損害も全部補填するとまで言ってきた。……全て、君達も知っての通りだ」
社長「そして現在、961プロはおろか、それに追従していた他の事務所からも……我々765プロに対する妨害行為等は一切行われていない」
社長「また天海君をはじめ、うちのアイドル諸君も一気に実力を伸ばし……今では、もはやトップアイドルといっても過言ではない地位にまできている」
春香「…………」
社長「だからこそ、今ここで……私は君にお礼を言っておきたかったのだよ。天海君」
春香「え? お……お礼……ですか?」
社長「そうだ。君は一年前、図らずも黒井が画策していた“765プロ潰し”計画の存在を知った」
社長「しかしそれでも君は、『今は下手に動かず、ファーストライブに全力を注いでほしい』という私の考えを尊重してくれ……その辛い気持ちを胸に秘めたまま、ファーストライブを成功させ……さらには他のアイドル諸君をここまで導いてくれた」
社長「……本当に感謝している。どうもありがとう」
春香「そ、そんな。私は別に、何も……」
社長「……なぜ、プロデューサー……○○君は、君を今回のライブのリーダーに選んだんだと思う?」
春香「え? ……それ、善澤さんからも合宿の時の取材で同じこと聞かれましたけど……」
春香「……私が、765プロの皆のことが大好きだから……でしょうか」
春香「善澤さんにも、同じ答えを言いましたけど……」
社長「ふむ。確かにそれもあるだろうな。だが……もっと大きな理由があると私は考える」
春香「え?」
社長「それは……765プロの皆が天海君のことを大好きだから、だよ」
春香「! …………」
社長「何よりも、誰よりも……765プロを、765プロの仲間の皆のことを大好きでいてくれる天海君だからこそ……他の皆もまた、君のことが大好きなのだよ」
社長「そしてそれこそが、○○君が君をライブのリーダーに選んだ最大の理由であると私は考える。……まあ、彼に直接確かめたわけではないがね」
社長「だが、765プロの皆が君のことを大好きだというのは紛れもない事実だ。もちろん、私や音無君も含めてね」
小鳥「ええ。私も、毎日頑張っている春香ちゃんのことが大好きよ」
春香「社長さん。小鳥さん」
社長「だから……天海君」
春香「は、はい!」
社長「ここからは、『お礼』ではなく『お願い』になるのだが――……」
社長「君が大好きな皆のために。そしてまた、君のことを大好きな皆のために。アリーナライブのリーダーとして、最後まで……皆を引っ張っていってほしい」
社長「どうかよろしく頼むよ」
春香「……はい! 天海春香、最後まで全力で皆を引っ張ります!」
小鳥「頑張ってね。春香ちゃん。私も、最後まで皆を裏から支えるから」
春香「ありがとうございます。小鳥さん」
社長「よし。では戻ろうか。皆の待つステージへ」
春香「はいっ!」
可奈「……あっ。天海先輩達、裏手の方から戻って来ました。何の話してたのかな……」
美希「…………」
可奈「? どうしたんですか? 星井先輩」
美希「ああ……うん。社長達、やっぱり可奈をダンサーから外そうって話をしてたのかなって思って」
可奈「えぇっ!?」
美希「勿論冗談なの」
可奈「や、やめて下さいよ! 星井先輩! しかも『やっぱり』って!」
美希「あはっ。ごめんね可奈。でも大丈夫なの」
可奈「え?」
美希「ミキ的には、今の可奈がメンバーから外されるようなことは絶対無いって思うから」
可奈「星井先輩……」
美希「可奈」
可奈「は、はい」
美希「……ミキも、自分がやれることをやるの。ライブ、頑張ろうね」
可奈「はい!」
春香「お待たせ~って、別に待ってなかったかもだけど……何の話してたの?」
美希「春香。まあ、ちょっとね」
春香「? まあいいや。……それより美希。可奈ちゃん」
美希・可奈「?」
春香「……私も、自分がやれることをやるからさ。ライブ、頑張ろうね」
美希・可奈「!」
春香「?」
美希「……あはっ」
可奈「……ふふっ」
春香「? な、何? 何で笑うの? 私なんか変な事言った?」
美希「ううん。何でもないの。ねー、可奈」
可奈「……はい! 星井先輩!」
春香「?」
可奈「…………」
可奈(早く私もなりたいな)
可奈(星井先輩や天海先輩みたいな……誰もが憧れる、素敵なアイドルに!)
美希「…………」
(夕焼けの中を並んで歩くアイドル一同、プロデューサー、律子)
(社長と小鳥は一足先に事務所に戻っており、ダンサー組もスクールに戻っている)
律子「あっ」
(夕焼けに見惚れ、思わず足を止める律子)
(他のメンバーもそれに合わせて足を止め、土手の上から皆で並んで夕焼けを眺める)
P「陽が、沈むな……」
春香「キラキラですね」
律子「そうねえ」
雪歩「ずーっと見てると、光に包まれているみたいで素敵だね」
春香「あっ。これ……なんだかライブのときのサイリウムみたいだね」
真「あっ、確かに!」
美希「あれもすっごくキラキラなの」
春香「ぶふっ」
美希「ちょっと」
春香「き、キラキラ……くくっ」
美希「……その身内ネタみたいなノリやめるの。っていうかさっき自分でも言ってたくせに……」ボソボソ
千早「? どうしたの? 春香。美希」
春香「なんでもないよ。長い髪が夕焼けに映えて美しいね。千早ちゃん」
千早「唐突に何を言っているのよ……」
響「自分、時々あれ海みたいだなーって思うぞ」
亜美「やよいっち! ウェーブ!」
やよい「う、ウェーブ!」
真美「ウェーブ! あははっ!」
貴音「ならば……すぽっとらいとは、星空、といったところでしょうか」
あずさ「じゃあ私達、光の海を渡っていくのね」
伊織「にひひっ。あずさに舵は任せられないわね」
あずさ「あ、あら~」
アハハハハ……
春香「光の海、か……」
千早「光の先には、何が見えるのかしら」
春香「光の先……素敵な所だといいなあ」
P「大丈夫さ。皆なら、きっと……」
美希「…………」
(その最後方でプロデューサー、美希、春香の三人が並んで歩いている)
P「……しかし、もう8日後とはな。なんか実感湧かないな」
春香「えー? そうですか? 私は今日、本番と同じステージに立ったことで一気にテンション高まりましたよ!」
P「……何か、特に感じ入ることでもあったか?」
春香「そうですねぇ。月並みですけど……『全員で走り抜きたい。今の全部で、このライブを成功させたい』って思いました!」
美希「げふっ!」
(飲んでいたドリンクを盛大に噴き出す美希)
春香「きゃあ! ど、どうしたの美希!?」
美希「……ちょ、ちょっと気管に入って、ムセちゃって……だ、大丈夫なの。けほっ」
P「おいおい、気を付けろよ。ほら」スッ
(美希にポケットティッシュを差し出すプロデューサー)
美希「……ありがとうなの。プロデューサー」
(ティッシュを一枚だけ取り、口元を軽く拭う美希)
P「そういえば、美希は一昨日にも一人で下見に行ってたよな。その時と比べてどうだった?」
春香「えっ。そうだったの? 美希」
美希「あ、ああ……うん。アリーナってどんな感じなのか、ちょっと全体練習の前に見ておきたくて」
春香「えー、だったら私も誘ってくれたら良かったのにー」
美希「それも考えたんだけど、春香、一昨日はライトくんの家庭教師の日だったから」
春香「あー、そっか。ちぇっ。受験生は辛いなあ」
美希「あはは。……で、一昨日の時と比べて、だけど……ミキ的には、やっぱり皆で曲を合わせた今日の方がライブ感あったかな」
美希「一人で観た時のステージは、しぃんとしてて……なんだか物寂しかったの」
P「まあそういうもんかもな。アイドルがいて、お客さんがいてこそのステージだからな」
春香「じゃあ本番は、また今日とは全然違う景色に見えるんでしょうね。あの観客席がお客さんでいっぱいになるわけだから……」
P「ああ。まさにさっき皆で話していたように、さながら光の海に見えるだろうな」
春香「えへへっ。あー、楽しみだなぁ。ねっ。美希!」
美希「うん! もう本番が待ちきれないってカンジなの」
春香「だよねー! あははっ」
P「…………」
P「ん? ああ、いや……まあそうは言ってもまだあと8日あるんだ。律子も言ってたけど、本当、体調管理だけはしっかりな」
春香「はい! それはもちろん!」
美希「任せてなの。プロデューサー」
P「……そういえば、美希は明日は例のファッション誌の撮影だったな。弥さんと一緒の」
美希「うん」
P「スケジュールには余裕を持たせてあるが、レッスンに打ち込み過ぎて遅刻したりしないようにな」
美希「もー、そんなの言われなくても分かってるの。プロデューサーは心配し過ぎって思うな」
P「……はは、すまんすまん。じゃあ俺は前の現場から直接向かうから、撮影スタジオの正面玄関前で待ち合わせな」
美希「りょーかいなの」
春香「美希、頑張ってね。私を蹴落としてまで掴んだ海砂さんとの共演のお仕事なんだから、しっかりね」
美希「なんかすごく恨みがましい励ましの仕方なの! しかもミキ別に蹴落としてないし!」
春香「ああ、そうだよね。このお仕事は最初から美希って決まってて、私なんか完全に選外だったもんね……」
美希「……プロデューサー。春香がとってもめんどくさい女になっちゃってるの」
P「そう拗ねるな、春香。……また今度、お前に相応しい仕事を取って来てやるから」
春香「! 本当ですか!? プロデューサーさん!」
P「……ああ。約束するよ」
春香「えへへっ。約束ですよ! 約束!」
P「…………」
美希「春香は、明日は午前中にレッスンした後はオフなんだっけ?」
春香「うん。清美さんとクッキングスクールの体験入門に行く予定なんだ」
美希「へぇ、そうなんだ。そういえば、前にも二人でお菓子作りしたって言ってたね」
春香「そうなの。清美さん、色んなことに興味を持って取り組みたいって言ってて。すごく向上心がある人なんだ」
美希「じゃあ、また機会があったらミキも誘ってね。……あ、みそっかすにして拗ねちゃうとアレだから、海砂ちゃんも」
春香「あはは。そうだね」
P「…………」
(アリーナから戻った後、765プロのメンバーは事務所内でミーティングを行ってから解散となった)
(美希と春香は、他のアイドル達と別れた後、二人で一緒に帰っている)
美希「……そういえばさ、春香」
春香「ん?」
美希「今日、アリーナでの全体練習の後……社長と小鳥と、三人で何話してたの? なんかステージの裏手の方に行ってたよね」
春香「ああ……あれだよ。黒井社長の件」
美希「黒井社長の……? ああ、そっか」
春香「そういうこと。一応、アイドルの中では私しか知らないってことになってるからね。一連の“765プロ潰し”計画の件は」
美希「でも……何で今頃になって? 最近は765プロに対しては別に何もしてないよね? 黒井社長って……」
春香「うん。私が脅迫してるからね」ニコッ
美希「そんな笑顔で言われても」
春香「で、何の話だったかというと……社長さんからお礼を言われたんだ」
美希「お礼?」
春香「うん。“765プロ潰し”計画の存在を知っても、下手な行動には移さずにファーストライブを成功させたから、って……まあこれは、別に私一人の功績でもなんでもないんだけど……」
春香「それと後、『アリーナライブのリーダーとして、最後まで皆を引っ張っていってほしい』っていうお願いもされたよ」
美希「ふぅん。そういう話だったんだ。ミキ、てっきり春香がライブのリーダークビにされたのかなって思っちゃった」
春香「だったら流石にもっと落ち込むよ! そこまで強メンタルじゃないからね私!?」
美希「あはっ。冗談なの」
春香「もー……あ、あと、小鳥さんが面白いこと言ってたよ」
美希「? 何?」
春香「『前のプロデューサーさんはキラに殺されたんじゃないか』って」
美希「……マジで?」
春香「マジで。ほら、私が事故死や自殺で殺した他のアイドル事務所の関係者と違って、前のプロデューサーさんだけは美希が心臓麻痺で殺してるからさ。しかもキラ事件が始まる直前に」
美希「あー……しかもその事で、夜神総一郎と……模木完造? だっけ。その二人の刑事もうちの事務所に来てたもんね。だとすれば……確かに、それくらいは考えついてもおかしくないの」
春香「まあでも、結局は小鳥さんの推理もそこ止まりで……『765プロの中にキラがいるかもしれない』とは全く考えなかったみたいだけどね」
美希「…………」
美希「それは……そうだね」
春香「まあそれでも、社長さんや小鳥さんから私に対する疑いが全く掛けられなかったのは……やっぱり、私達765プロを支えている“絆”ゆえだよね。何があっても絶対に揺るがない『信頼』っていうか」
美希「……うん」
春香「だからこそ、私は……765プロに害をなそうとする者、なそうとした者は絶対に許さない。まずは“償い”の完了……アリーナライブの成功後、黒井社長を必ず殺す」
美希「…………」
春香「その後は……トップアイドルとなった私達を実力以外の手段を使って陥れようとする者が現れたら、その都度、確実に殺していく」
春香「害虫の駆除は、早ければ早い方が良いに決まってるんだから」
美希「…………」
春香「? 美希? どうしたの?」
美希「ううん。なんでもないの。じゃあそっちの方は春香に任せるね。ミキはミキで、これまで通り、犯罪者裁きを続けていくから」
春香「うん。そうだね。これからも二人で一緒に頑張っていこう」
春香「お互いの“使命”と“理想”の実現に向かって!」
美希「はいなの! じゃあね、春香。また明日、レッスンで」
春香「うん。またね、美希」
(春香と別れた美希)
美希「…………」
美希(黒井社長を殺す時期は……春香を上手く誘導して、もうちょっと先延ばしにさせないといけないな……)
美希(ノートに竜崎の名前を書くまでは、下手な行動を起こすのは危険なの)
美希(……まあでも、それは別に大した問題じゃないか)
美希(『やっぱりアリーナライブ直後のタイミングだとLに怪しまれるかもしれないから、もう少し後にした方が良い』とでも言えば済む話)
美希(春香は基本的に、ミキの意見は聞いてくれるからそれで多分大丈夫なの)
美希(……まずは8日後のアリーナライブ。その成功によって、ミキ達は名実ともにトップアイドルとなる)
美希(そしてその数週間後、ミキが竜崎の名前をデスノートに書く)
美希(それから23日後に竜崎は死ぬ。……ミキが、遠い空の下にいる頃に)
美希(竜崎が死ねば、きっと春香は悲しみに暮れる。そしてリュークも言っていたことだけど……おそらく一度は、春香はミキを疑う。『ミキが竜崎を殺したんじゃないか』って)
美希(でもミキが自分の口ではっきりと否定すれば、春香がそれ以上ミキを疑う事は基本的には無いはず)
美希(ただそうは言っても、黒井社長を殺すタイミング次第では……もし竜崎が死んだ直後に『そろそろ黒井社長を殺したら?』なんて春香に言おうものなら、それはミキが竜崎を殺したと言うようなもの……)
美希(だからミキは、竜崎の名前をデスノートに書いた直後のタイミングで、春香に黒井社長を殺させるように誘導する)
美希(ノートに名前を書かれても、そこから23日間は死なずに生きている……それなら、竜崎がまだ生きている間に春香に黒井社長を殺させておけば……竜崎の死後、この事でミキが春香に怪しまれることは絶対に無い)
美希(それはつまり、春香のミキに対する疑念を完全にゼロにできるというコト……)
美希「…………」
美希(……大丈夫なの。アリーナライブ……竜崎……春香……黒井社長……必ずそうなる自信があるの)
美希(そして、始まる――キラの世界)
(集合しているL、月、海砂、清美の四人)
月「――以上が作戦当日、つまり明日の段取りだ。ここまでは前に話していた内容とほぼ同じなので特に問題は無いと思う」
月「そしてここからが新しい伝達事項になる。よく聞いておいてくれ」
海砂・清美「……………」
月「まず、明日の撮影全体を通じてだが……ミサと星井美希には二人で同じ更衣室を使ってもらうようにした」
海砂「! そうなの?」
月「ああ。同じ事務所の者同士ならともかく、別の事務所のアイドル同士の場合、普通は別々の部屋を使うらしいが……竜崎が上手く調整してくれた」
海砂「へーっ。流石、『芸能界にも顔が利く』って言ってただけのことはあるわね。やるじゃん」
L「……どうも」
月(もっとも実際は、765プロのプロデューサーが、出版会社の担当者に『今回の二人のアイドルは元々友人同士だから、同じ部屋にした方が適度にリラックスできて撮影も上手くいくと思う』などと伝えて、調整してくれたわけだが……それもL……竜崎がその旨の指示を出す前に)
月(こちらの指示を先読みしての判断と行動……やはりあの男は使える。あれなら明日、随時変動する現場の状況に応じて臨機応変な対応を取ることも十分可能だろう)
海砂「でもさ、ライト」
月「ん?」
海砂「何で、あえて同じ部屋にしたの? ミサが美希ちゃんのノートを押さえる間は、765プロのプロデューサーさんが美希ちゃんを見張ってくれるって話だったけど……もし何か手違いがあって、ミサがノートを探してる間とかに美希ちゃんが部屋に戻って来ちゃったらまずくない?」
月「いや、いずれにしても、ミサにノートを押さえてもらう場所は星井美希が使う更衣室になるから、その危険は別室でも同室でも変わらないよ。それなら万が一鉢合わせたとしても、まだ同室の方がとっさに誤魔化せる可能性が高いだろ?」
海砂「あー、そっか。お互い違う部屋だったら、うっかり鉢合わせちゃった時に『何でこの部屋に居るの?』ってなっちゃうもんね」
月「そういうことだ。それに別室の場合だと、『ミサが星井美希の使う更衣室に出入りする』という工程が必然的に発生する。星井美希本人はもちろん、その他のスタッフであっても……その瞬間を見られたらアウトだ」
月「撮影現場にいる人間で、今回の作戦の事を知っているのはミサと765プロのプロデューサーだけだからね」
海砂「確かに……」
清美「その点、自分も使っている更衣室なら何ら人目を気にすることなく、当たり前のように部屋を出入りすることができる……」
月「そう。そして部屋に入った後は普通に中から施錠しておけばいい。そうすれば仮にノートを探している間に星井美希が戻って来ても、彼女の所持品を元の状態に戻すくらいの間は作れるだろう」
月「また監視カメラは更衣室のみならず建物全体にわたって取り付けている。だからもし星井美希が突然部屋に戻って来るような事態になっても、ミサにはこちらからすぐに連絡できる」
海砂「なるほどね。……って、『監視カメラ』で思い出したんだけど……ミサと美希ちゃんの着替えを監視カメラで観るのはライトだけで、竜崎さんは観ないのよね?」
L「はい。私がミサさんの着替えを観たりしたら、月くんにキラの力で殺されてしまいますから」
月「……いくらなんでもそんなことに能力は使わないよ」
海砂「そんなことって……ひどっ」
L「ただ更衣室には監視カメラとあわせて盗聴器も設置する関係上、更衣室内の音声は私も聴かせていただきますので……その点だけはご了承下さい」
海砂「それはいいけど……でも、ライトは美希ちゃんの着替えも観るってことよね……うーん、いくらライトにその気は無いって分かってても、正直ちょっとフクザツかも……美希ちゃん、まだ高1なのに私より全然スタイル良いし……」
月「ミサ。今回の監視対象は星井美希だ。ノートを押さえるのが最優先事項なのは言うまでもないが、それ以外でも何か不審な動きが無いかは常にチェックしておく必要がある。全てはキラ復活のため……僕達の理想の世界の実現のためだ」
月「君にとっては辛い事かもしれないが……どうか分かってほしい」
海砂「……うん。分かってる。ライトがキラとして復活するためだもんね。それに美希ちゃんも裸になるわけじゃないし……」
月「ミサ」
海砂「分かった。ミサ、もうワガママ言わないよ。変な事言って困らせてごめんね。ライト」
月「いや、いいよ。こちらこそ分かってくれてありがとう。ミサ」
海砂「ライト……」
L「…………」
清美(健気ね、海砂さん……)
海砂「最後……でいいの?」
月「ああ。ノートの内容が確認できたら、ミサには出来るだけすぐにスタジオから出てもらいたいからね。いくらノートを元の位置に戻したとしても、些細な事から怪しまれないとも限らない……ましてや向こうは勘の鋭い天才アイドルだ」
海砂「ライト……ミサの事、そんなに心配してくれているのね」
月「当然の事だよ。ミサ」
海砂「ライト……」
月「だがそうは言っても、まだ星井美希の撮影が続いている中で突然ミサが帰ってしまうと、それはそれで不審に思われる可能性がある。いくら適当な理由をでっち上げたとしてもね。だから星井美希の分も含め、予定されていた全ての撮影が済んだ後に、自然なタイミングでミサにはスタジオから出てもらう。……それでいいね? ミサ」
海砂「うん。大丈夫だよ。ライト」
月(星井美希の洞察力、観察眼は侮れない……ノートの確認後、ミサの態度、挙動に僅かでも変化が生じた場合……それに勘付かれないとも限らない)
月(ゆえに、ノートの確認後にミサを長く星井美希の傍に留まらせておくのは危険……その時間は可能な限り短くなるようにしておきたい)
月(もちろん、ノートの内容次第ではあるが……)
清美「……海砂さんはそれでいいとしても、星井さんはどうするの? 撮影が終わった後、そのまますぐに帰られてしまうと困るのでしょう?」
月「それも大丈夫だ。僕達がノートの内容の検証を終えるまでの間、彼女にはプロデューサーから打ち合わせ等、適当な理由を伝えてもらい……その場に留まらせるようにする」
清美「なるほど」
月(……本当は『星井美希を逮捕するまでの間』だが……)
月「そして万が一、明日、星井美希がノートを所持していなかった場合は……プロデューサーに連絡し、撮影を予備日として確保してある明後日にも行ってもらうようにする」
月「『アイドルにとって雑誌への写真の掲載は強力な宣伝になるので、どうせなら二日分撮影して良い方を採用してもらいたい』とか、適当にそれらしい理由を付けてもらってね」
海砂「ふむふむ。なるほどね」
清美「そして海砂さんと星井さんの撮影が行われている間……私は手筈通りに天海さんを見張っておけばいいのね」
月「ああ。一応確認しておくけど……天海春香との待ち合わせ時刻はミサ達の撮影の開始時刻と同じにしてあるね? 高田さん」
清美「ええ。ただクッキングスクールの開始時刻までは少し時間があるので、先に街をぶらついてから向かいましょう、と伝えてあるわ」
月「よし。それでいい。後は……そうだな。おそらく高田さん達の行くクッキングスクールの方が、ミサ達の撮影より早く終わるだろうから……終わり次第、どこか近くのカフェでお茶でもしておいてくれ。ミサ達の撮影……いや、ノートの検証まで終わった段階で連絡するよ」
清美「分かったわ」
月(……もっとも実際には、高田には連絡しないまま、天海春香を逮捕することになるだろうが……)
L「それでは、いよいよ……ですね」
月「ああ。ようやくここまで来ることができた。皆、最後まで力を合わせて頑張ろう」
海砂・清美「はい!」
L「まずはキラの復活。……そして」
月「理想の世界を創世し、僕は―――新世界の神となる」
(海砂・清美との打ち合わせを終え、捜査本部に戻ってきたLと月)
総一郎「竜崎。ライト。弥・高田との打ち合わせはもう終わったのか?」
L「はい。段取りの確認も含め、月くんがつつがなく説明してくれました」
総一郎「ではそちらは問題無し、ということだな」
L「はい。あの二人はキラを心の底から崇拝していますし、また完全に月くんの虜でもあります。全く問題はありません」
月「倫理的には大いに問題あるけどな……もしこれが恋愛ゲームだったら確実にバッドエンドだろ」
L「おや、意外ですね。月くんの口から『恋愛ゲーム』なんて言葉が出るなんて。もしかして結構よくやるんですか?」
月「いや、やったことはないが……というか話を逸らすなよ。竜崎」
L「海外留学の件でしたら心配は無用です。後は月くんが行きたい国と大学を選ぶだけですから。その気になれば今から12時間以内に出国できますよ」
月「……分かった。ありがとう。まあそれも含めて、全ては明日次第だけどな」
L「はい」
総一郎「ところで、竜崎。765プロのプロデューサーとの打ち合わせは? まだ連絡しなくていいのか?」
L「今日は本番と同じアリーナ会場での全体練習の後、事務所に戻ってミーティングをしてから解散……その後、こちらに連絡するとのことでしたので、一旦はそれを待ちたいと思います」
総一郎「そうか。……ん? ……相沢からだ」ピッ
総一郎「もしもし。朝日だ。ああ……ああ……そうか。分かった。ちょっとそのまま待っててくれ」
L「どうしました?」
総一郎「星井美希と天海春香だが……先ほど、他の数人のアイドル達と一緒に事務所から出て来て、しばらくは皆で一緒に歩いていたようだが、やがて別れて、今は星井美希と天海春香の二人だけで歩いているらしい」
総一郎「なのでおそらく、今竜崎が言っていた、事務所でのミーティングが終わって解散し、帰路についている段階なのだと思われるが……」
L「なるほど。星井美希と天海春香が一緒ということは……相沢さんと松田さんも一緒にいるということですね?」
総一郎「ああ。そうらしい」
L「分かりました。では相沢さん達には、二人が別れるところまでは見届けて頂き……二人が別れた段階で、尾行を打ち切って本部に戻って来るように伝えて下さい。今日は明日の作戦実行に備えて捜査本部全員で確認する時間を長めに取りたいですので」
総一郎「分かった。……もしもし」
(相沢に用件を伝え、通話を終了した総一郎)
総一郎「星井美希と天海春香が一緒に帰ることはよくあるが、いつも互いの帰路の分かれ道で自然に別れている……おそらく今日もそうなるだろうな」
L「そうですね。とすると、おそらく三十分程度で相沢さん達は戻って来ると思いますので……それまでは各自、休憩としましょう」
総一郎「じゃあ少し外に出てくるかな……今日はずっと座りっぱなしで腰が疲れた。模木は大丈夫か?」
模木「ええ。私はもう少しデータの整理をしておきます」
総一郎「そうか。竜崎とライトも休まなくていいのか?」
L「はい。事務所のミーティングが終わったということは、そろそろプロデューサーから連絡が来ると思いますので……私はここでそれを待ちます」
月「僕も竜崎と一緒に待っておくよ」
総一郎「そうか。では……」チラッ
星井父「…………」
総一郎「星井君」
星井父「? はい」
総一郎「よかったら、少し外に出ないか?」
星井父「……そうですね。行きましょうか」
総一郎「うむ」
星井父「あ、ちょっと待って下さい。本部の外に出る時は小型マイク着けないと……」カチャカチャ
総一郎「…………」
(缶コーヒーを手に、夜の街並みを眺めながら佇んでいる総一郎と星井父)
総一郎「……そういえば、君は煙草はやめたのか? 確か昔はよく吸っていたような気がするが……」
星井父「あ、はい。……美希が生まれた時に」
総一郎「! ……そうか」
星井父「実は一度、上の子……菜緒が生まれた時にもやめたんですけどね。でも結局その後、また吸うようになっちゃって……それで美希が生まれて、『今度こそは』って禁煙したら……これが意外と長く続いて」
星井父「かれこれ……もう十五年と八か月です」
総一郎「…………そうか」
星井父「…………」
総一郎「……君とこうして二人で話していると、色々と思い出すな」
星井父「なんだかんだで、随分長く一緒にやらせてもらっていますもんね。局長とは」
総一郎「ああ。……このキラ事件の捜査でも、君には最初から私の直下に入ってもらっていたしな」
星井父「……ええ。そうでしたね。キラ事件の発生当初、ICPOの会議に局長と一緒に出席させてもらったりとか……もうちょっと懐かしいですね」
総一郎「ああ。そういえば、君はまだあの時は『L』の事を知らなかったんだったな」
星井父「はい。それで局長が『L』の事を『世界の迷宮入りの事件を解いてきたこの世界の影のトップ、最後の切り札』……なんて仰るもんだから、一介の警察官に過ぎない自分が『L』と顔を合わせることなんて一生無いだろうと思っていました」
総一郎「それは私も同感だったな」
星井父「だからその後、『L』と顔を突き合わせて一緒に捜査をすることになるなんて……あの時は思いもしませんでした」
星井父「……それも、自分の娘の捜査を」
総一郎「! ……星井君」
星井父「…………」
総一郎「君は……本当によく耐えていると思う」
星井父「…………」
総一郎「もしも、ライトや粧裕にキラとしての嫌疑が掛かっていたとしたら……正直言って、私は耐えられる自信が無い」
総一郎「君は……よく耐えていられるな」
星井父「……覚悟は、もう出来ていますから」
総一郎「それは……刑事としての、か?」
星井父「いえ。……父親としての、です」
総一郎「! ……星井君。君は……」
星井父「…………」
相沢「――あれ。二人とも、こんな所で何してるんですか?」
総一郎・星井父「!」
松田「休憩ですか?」
総一郎「相沢。松田。……まあ、そんなところだ」
相沢・松田「?」
総一郎「では、全員揃ったことだし本部に戻ろう」
星井父「…………」
相沢「――というわけで、星井美希・天海春香ともに、今日の尾行捜査でも特に不審な点はみられませんでした」
松田「もっとも、ご指示があった通り、今日は二人が別れるところまでしか尾行していませんが……これまでの傾向からして、特に何事も無くそれぞれの家に帰宅したものと思われます」
L「はい。ご報告ありがとうございました。相沢さん。松田さん」
L「では、続いて明日の作戦の最終確認ですが――……」
ワタリ『竜崎』
L「どうした、ワタリ」
ワタリ『765プロのプロデューサーから着信です』
L「分かった。つないでくれ」
ワタリ『では転送しますのでそのまま応答して下さい』ピッ
L「Lです」
P『……ああ。俺だ。さっきミーティングが終わって、美希と春香を含めたアイドル全員が事務所を出た』
L「はい。こちらも尾行をつけていましたので把握しています」
P『ああ、そうだったな。で、明日の件だが……その前に、一つだけ報告事項があるんだが……先に伝えてもいいか?』
L「ええ。どうぞ」
P『若干細かい内容だが……今日、アリーナ会場で全体練習をした後、高木社長が、事務員の音無さんと春香を連れて、ステージの裏手の方に消えて行き……十分ほどの間、三人だけで何かを話していたようだった』
L「高木社長と事務員さんと天海春香……ですか?」
P『ああ。あまり見ない組み合わせだったから少し不思議に思ってな。律子は、ライブ当日の事務仕事の打ち合わせか何かじゃないか、って言ってあまり気にしていなかったが……』
L「そうですね。天海春香はライブのリーダーで、事務員さんもライブ当日、裏方の事務仕事をされるということでしたから……そんなところかもしれませんね」
P『そうだな。まあこれはあまり気にしなくてもいいのかもしれない。美希も絡んでいないようだったし』
L「……そういえば、高木社長もライブ当日は会場に来られるんですか?」
P『ああ、必ず行くと言っていたよ。あえて一般の観客席からアイドル達を応援するそうだ』
L「……そうですか」
L(つまりライブ当日、765プロの関係者は全員アリーナに集まる……か)
L「…………」
L「分かりました。では明日の段取りですが……予定通りで問題無いでしょうか?」
P『ああ。大丈夫だ。今日も吉井氏・出版社の担当者と最後の確認をした。全て予定通りに進行可能だ』
L「ありがとうございます。では後は当日、状況に応じて連絡を入れます」
P『分かった。何かあれば俺の方からも連絡する』
L「よろしくお願いします。それではまた明日に」
P『ああ、よろしく』
(プロデューサーとの通話を終えたL)
L「…………」
総一郎「竜崎。その……星井君の前で言いにくいことではあるのだが……明日の作戦を実行した結果、本当に『星井美希がキラだった』となった場合……」
星井父「! …………」
総一郎「彼……765プロのプロデューサーをそのまま信用し続けて大丈夫なのだろうか?」
総一郎「彼が今、我々……もとい“L”に協力しているのは、あくまでも『星井美希と天海春香がキラではないこと』を証明するのが目的のはず……つまりその逆の事実が証明された場合においても、なお『キラである星井美希を逮捕すること』についての協力まで求めていいものかどうか……」
松田「あー……そこは確かに微妙かもしれないっすね」
相沢「でも最初に竜崎がプロデューサーとコンタクトを取った時、『もし本当に二人がキラなら、罪は罪として、それに見合う罰を受けさせなければならない』……みたいなことを言ってたぞ。確か」
松田「いやー、でももうずっと、自分の娘のように愛情を注いで育ててきたアイドルですからね……彼が765プロに移籍してすぐの頃ならまだしも、もうかれこれ七か月以上も苦楽を共にしてきたわけですから、そう簡単に割り切れるかは……」
相沢「何でそんなに我が事のように感情こもってるんだ、お前は」
L「まあ……そのあたりはどうとでもなると思います」
総一郎「竜崎」
L「『黒いノート』が殺人の証拠であると断定でき、星井美希がキラであると確定できれば、後は彼女を逮捕するまでの間、スタジオ内に留めさせておけばいいだけですから……プロデューサーには『ノートの検証にもう少し時間が掛かりそうなので、星井美希をスタジオ内に留めておいてほしい』とでも言っておけば済むでしょう」
月「そうだな。プロデューサーの状況判断能力・対応力は十分信用できる。星井美希に怪しまれることなく、自然な理由を作って対応してくれるだろう」
総一郎「確かに……現に今も、星井美希・天海春香は彼の事を全く疑っていないようだしな」
L「そうですね。彼の洞察力なら、たとえ僅かでも二人のうちのいずれか、または両方が彼に対して何らかの疑念を抱いていればすぐにそれに気付くでしょうし、また私に報告しているはずです。それが無いということは、星井美希・天海春香はこれまでのプロデューサーの一連の動きにはまず気付いていないとみていいでしょう」
総一郎「うむ」
星井父「…………」
L「まず、相沢さんと松田さんにはこれまでと同じように二人の尾行をしてもらいます。相沢さんは星井美希を、松田さんは天海春香を」
相沢「はい」
松田「分かりました」
L「合宿以降も尾行を続けてもらっていたのは、もし合宿以前に尾行に気付かれていた場合、『合宿が終わった途端に尾行が無くなった』と思われてしまうとまずい、という理由もありましたが……最も大きな理由は、明日の尾行だけが特別不審に思われたりすることがないようにするため……いわばカモフラージュのためです」
L「『明日の尾行には特別な意味がある』ということだけは絶対に悟られないように……そこだけは細心の注意を払って下さい」
L「先ほどからも述べているように、明日は、状況次第ではキラ容疑者の逮捕に踏み切る可能性があります。勿論、実際の逮捕の際には複数人で現場に向かいますし……また星井美希をプロデューサーに、天海春香を高田清美に、それぞれ直接監視させておくことで、二人が我々の監視下から突然いなくなってしまうような事態は可及的に防止するつもりです」
L「しかしながら、星井美希、または天海春香がそれらの監視の目をかいくぐって予測不能な行動に出てしまう……という可能性もゼロではありません。ですので、もし万が一そんな事態が生じたとしても、お二人には、最後まで集中を切らすことなく、それぞれの尾行対象者の動向を注視して頂きたい。……それが明日、相沢さんと松田さんにお願いする最も重要な任務です」
相沢「ええ。分かっています。絶対に最後まで目を離しませんよ」
松田「任せて下さい。竜崎」
L「ありがとうございます。そして……月くん」
月「ああ」
L「月くんは弥への指示出しをお願いします。これは月くん以外にはできないことであり、かつこの作戦の成否に直結する……絶対に失敗の許されない最重要任務です」
月「分かった。……ただ、別に僕以外にはできないというほどのものではなく、竜崎がやってもいいだろうとは思うが……」
L「いえ。万が一、弥が作戦の実行を躊躇するような事態になった場合、彼女の背中を押せるのは月くんしかいませんから」
月「……まあ、分かったよ。任されたからには責任をもってやり遂げよう」
L「ありがとうございます。またあわせて、高田清美への連絡も必要に応じてお願いします」
月「ああ。高田を通じての天海春香の状況の確認……だな」
L「はい。よろしくお願いします。そして夜神さん、星井さん、模木さんは全体にわたってのフォローをお願いします」
総一郎「ああ」
星井父「……分かった」
模木「分かりました」
L「特に夜神さんは、場合によっては容疑者逮捕の際に警察側からそれなりの数の人員を出して頂く必要があるかもしれませんので……もしそうなった場合にもスムーズに対応できるよう、事前の準備と調整をお願いいたします」
総一郎「それは大丈夫だ。もう既に警察庁内の部下に頼んで、数十名規模の警察官を速やかに動かせる態勢を整えてもらっている」
L「! そうでしたか。どうもありがとうございます。大変助かります」
L「では、いよいよ明日――全てを決するときです」
L「最後まで一丸となって頑張りましょう」
一同「はい!」
星井父「…………」
模木(……係長……)
L「……月くん」
月「? 何だ? 竜崎」
L「一昨日、皆さんの前で『もし私が死んだら……』という話をしたのを覚えていますか?」
月「ああ。それは勿論覚えているが」
L「あの場では、『私が死んだらその後の事は夜神さんに』と言いましたが、私の本心では……」
月「……分かってるよ。僕にLの名を継いでほしい、って言うんだろ?」
L「よく分かりましたね」
月「もうこれまでに何度となく言われていたからな……ただ、まだ他の皆の前でこの話はしていなかったから、一昨日の時点では言うに言えなかった……だろ?」
L「はい。その通りです」
月「……分かったよ。もしそうなったら、僕がLの名を継ぐ。そして必ずキラを捕まえる」
L「! ……本当ですか?」
月「ああ。約束するよ。竜崎。……いや、L」
L「……ありがとうございます。月くん」
月「ただそうは言っても、それは僕が極めて危険な地位に就くということを意味する……とすれば、少なくとも父にはほぼ確実に反対されるだろう。だからもし本当に僕に譲る気があるのなら、竜崎の直筆で遺言でも書いておいてくれないか?」
L「それは大丈夫です。もう既に書いてワタリに託しています」
月「……流石だな。もちろん言うまでもなく、そんなもの開けなくて済むのが一番ではあるが」
L「そうですね。その為にもあと少し……最後までよろしくお願いします。月くん」
月「ああ。こちらこそよろしく頼む。竜崎」
【アリーナライブまで、あと7日】
(アリーナライブに向けたレッスンを終え、二人で一緒にスタジオから出て来た美希と春香)
美希「じゃあね、春香。また明日なの」
春香「うん。海砂さんによろしくね。美希」
美希「わかったの。春香も高田さんによろしくね」
春香「はーい、言っとくよ。じゃあまたね」
美希「うん。バイバイなの」
【三十分後・渋谷区内撮影スタジオ/正面玄関前】
美希「あ、プロデューサー! お待たせなの」
P「おう。美希」
P「―――じゃあ、行こうか」
(スタジオでは既に海砂、吉井、出版社の担当者、その他スタッフ数名が二人を待っていた)
P「おはようございます」
美希「おはようございますなのー」
吉井「おはようございます。○○さん。星井さん」
海砂「おはようございまーす」
P「すみません。お待たせしていたようで」
吉井「いえ。私達もついさっき来たばかりですし、まだ開始時刻前ですから」
出版社社員「おはようございます。えー、では少し早いですが、皆様お揃いのようですので始めさせて頂こうと思います」
出版社社員「念の為、改めて確認させて頂きますが、今回の撮影のコンセプトは――……」
海砂「…………」
P「…………」
【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
(美希達がいるスタジオ内に取り付けた監視カメラの映像を観ている捜査本部一同)
総一郎「……始まったな」
L「はい」
月「いよいよ、か」
L「模木さん。各監視カメラの映像は全て問題無く映っていますね?」
模木「はい。建物内に取り付けたカメラはいずれも正常に動作しています」
L「ワタリ。映像はそっちでも問題なく観れているか?」
ワタリ『はい。問題ありません。竜崎』
総一郎「今日もワタリは別の場所にいるんだな」
L「はい。もしこの本部の再生機器に接続不良等が発生した場合を考えての措置です」
総一郎「なるほど」
L「月くん。予定通りならそろそろ高田も天海春香と会う頃だと思いますが、何か連絡はありましたか?」
月「一応、会ったら気付かれないようにメールを送ってもらう手筈になっているが……お、きたか」ピッ
月「……無事に会えたそうだ。これから軽く街を歩いてからクッキングスクールに向かうと」
L「分かりました。ありがとうございます」
L「後は尾行中の相沢さんと松田さんですが……今のところ、二人とも特に問題無さそうですね」
総一郎「うむ。携帯電話のGPSの位置情報を見る限り……相沢はスタジオの近くを張ったまま。松田は天海春香……と高田清美の後をつけているのだろう。ちょうど今、少しずつ動き始めたところだ」
L「ありがとうございます。では我々は引き続き星井美希の監視を続けましょう」
総一郎「うむ」
月「一体どうなるか……だな」
星井父「…………」
吉井「ここが更衣室よ。衣装に着替えたらそのままスタジオに来てね」
P「さっき出版社の方も言っていたが、今日はほとんどの衣装を自分達で着てもらうことになる。二人ともアイドルらしい、センスのある着こなし方で頼むぞ」
海砂「はーい」
美希「任せてなの」
吉井「じゃあまた後でね」
P「ばっちり可愛く決めてきてくれよ。それじゃ」
バタン
海砂「……それにしても珍しいよね。ほとんどの衣装を自分達で着るなんて」
美希「ホントだね。予算けちったのかな?」
海砂「うーん。でもあの出版社って結構大手だし、あんまりそういうことする必要無さそうだけど……」
美希「でも二人で一つの更衣室、っていうのもなんかケチなカンジがするの。ミキ的には海砂ちゃんと一緒の方が楽しいから良いけど」
海砂「あはは。それは私も同感。なんか学校の体育の着替えの時みたいで楽しいよね」
美希「なの」
海砂(この更衣室のロッカーは……暗証番号方式か。美希ちゃんの様子は……)チラッ
美希「…………」ドサッ
(持っていた鞄をロッカーに入れる美希)
海砂(……普通に入れてる。というか、もうほとんど無意識に近い感じね……)
海砂(まあそりゃそうか。いくらなんでも鍵付きのロッカーまでいちいち疑ってはいられないよね。そもそも事務所や学校でも鍵付きのロッカーには普通に入れてるって話だし……)
海砂(とにかく、これで作戦を実行する上での前提条件はクリアね。もし美希ちゃんが『鞄は撮影中もずっと目の届く所に置いておきたい』なんて言い出したら厄介だったけど……)
海砂(後はライトからの指示を待つのみ……それまでは絶対に気取られないように、集中して自然な振る舞いを……)
海砂「……そういえば、美希ちゃんがハリウッドに行っちゃうのってもうすぐだよね」
美希「うん。9月の半ば過ぎには日本を発つから……もう二か月も無いくらいなの」
海砂「そっかぁ。寂しくなるなあ」
美希「ミキも海砂ちゃんと暫く会えなくなるのは寂しいの。向こうに着いたらすぐに手紙送るね」
海砂「ありがとう。でもメールじゃないんだ? このIT全盛の時代に」
美希「んー。なんとなく、外国から最初に送るとしたら手紙かなって」
海砂「あはは。なんか分かるかも。あー、でも美希ちゃんが向こうに行っちゃったら『竜ユカ』も暫くお休みだね」
美希「別にミキ一人いないだけなら続けられそうな気もするけど」
海砂「いやー、やっぱり六人全員揃っての『竜ユカ』だからね。……あっ、じゃあ美希ちゃんがハリウッドにいる間に私達もそっちに行って、『竜ユカ』アメリカ編とかどう?」
美希「あはっ。それは名案なの。ミキも皆が遊びに来てくれたら嬉しいな」
海砂「じゃあまた皆に提案してみるね」
美希「はいなの」
美希「あはっ。大丈夫なの。海砂ちゃんすっごくカワイイし、きっとすぐ行けるようになるって思うな」
海砂「……なんか美希ちゃんのその激励が段々テンプレ化してきてるような気がするんだけど……気のせい?」
美希「あ、ばれた?」
海砂「やっぱり! 美希ちゃん最近ミサの扱いぞんざいじゃない!?」
美希「ミキなりの愛情なの」
海砂「否定はしないんだ……」
美希「でも冗談はさておき、海砂ちゃんって外国の人にも受けが良さそうなルックスだし、ふつーにゼンゼンいけるって思うな」
海砂「! 美希ちゃん……ありがとう。美希ちゃんからそう言ってもらえると何よりの励みになるよ」
海砂「ミサも頑張るよ。美希ちゃんを目指して!」
美希「うん! 一緒に頑張ろうなの! 海砂ちゃん!」
海砂「よし。じゃあちゃっちゃと着替えちゃおうか。あんまりモタモタしてるとヨッシーに怒られちゃう」
美希「あはっ。そうだね」
海砂「…………」
海砂(ていうか、今……ライトはこの更衣室の映像を観てるのよね)
海砂(ミサ、昨日ライトに『ライトが美希ちゃんの着替えを観るのはフクザツ』って言ったけど……)
海砂(いざ冷静になって考えてみると……ミサ、ライトに自分の着替えを見られる方が恥ずかしいかも)
海砂(いや、そりゃまあミサはライトと付き合ってるわけだから、ライトに着替えを見られても何ら問題は無いんだろうけど……)
海砂(でもよく考えたらライトに下着姿見られるのって初めてだし……)
海砂(そもそも付き合ってはいるけど、ちゃんと二人でデートしたのも、別れ際にミサが告白したあの時の一回だけだから、厳密には付き合う前だし……)
海砂(それによく考えたらまだ手も繋いだことない……キスはその時に一回だけしたけど……)
海砂「…………」
海砂(い……いやいや! それもこれも、全ては今日のこの作戦のため……ライトにとってはキラの能力を取り戻すことが何よりも最優先なんだから)
海砂(だから今ミサにできることは、ライトの指示通りに自分のすべきことをきっちりするだけ……)
海砂(それができれば、ライトはキラの能力を取り戻すことができる。犯罪者裁きも再びライト自身の手で行えるようになる)
海砂(そして美希ちゃんと春香ちゃんもキラの仲間に加われば……竜崎や清美ちゃんも含めて、ミサ達五人でキラの……ライトの理想の世界の創世の手助けができる)
海砂(そうなれば……ミサも、ライトと公然と恋人同士として振る舞えるようになるはず)
海砂(だからあと少し……あと少しなんだ)
海砂(ミサ、頑張るからちゃんと見ててね。ライト……)
美希「…………」
美希(午前中、みっちりレッスンしたからちょっと眠いの……あふぅ)
(美希と海砂がいる更衣室内に取り付けた監視カメラの映像を観ている捜査本部一同)
(一同は、更衣室内に取り付けた盗聴器が拾う会話の音声も同時に聴いている)
海砂『! 美希ちゃん……ありがとう。美希ちゃんからそう言ってもらえると何よりの励みになるよ』
海砂『ミサも頑張るよ。美希ちゃんを目指して!』
美希『うん! 一緒に頑張ろうなの! 海砂ちゃん!』
海砂『よし。じゃあちゃっちゃと着替えちゃおうか。あんまりモタモタしてるとヨッシーに怒られちゃう』
美希『あはっ。そうだね』
L「……更衣室内の監視カメラと盗聴器も特に問題無いようですね」
模木「はい。いずれも正常に作動しています」
星井父「…………」
総一郎「星井君。その……何だ。いくら裸にまではならないと言っても、今日は君の娘さんの更衣場面を皆で観察する形になる……辛いようなら、君まで無理に観なくとも……」
星井父「……いえ。そういうわけにはいきません。私には美希の父親として……この事件の結末を見届ける義務がありますから」
総一郎「……そうか」
模木(……係長……)
L「そして、肝心のノートですが……先ほど、星井美希は持っていた私物の鞄をごく普通にロッカーの中に入れていました。その大きさからして、中にノートが入っている可能性は十分にあると考えます」
総一郎「うむ……しかし、全く躊躇することなく普通に入れていたな」
月「鍵付きのロッカーなら学校でも事務所でも使っているし……そもそもこれまでも同じような仕事は山ほどあったはずだ。それならば、あえて今日だけ特別に注意を払うということも無いだろう」
L「そうですね。唯一、これまでの仕事と異なる点があるとすれば、765プロダクション以外の共演者と同じ更衣室を使っているという点ですが……これも、元々親しい友人だった弥海砂です。この一事のみをもって殊更に警戒心を強めるということも無いでしょう」
総一郎「うむ。ならば後は、予定通りに弥にノートを押さえさせるだけ……だな」
L「はい。あと一応注意しておくべきは、今日の弥およびプロデューサーの態度・言動から星井美希が何か勘付いたりはしないか、という点ですが……今のところ、この二人の態度・言動は至極自然なもの……その心配も無いでしょう」
L「これなら……いけます」
星井父「…………」
(クッキングスクールの体験入門を受講している春香と清美)
春香「こういうのも楽しいですね。清美さん」
清美「そうね。でも大丈夫なの? 春香ちゃん。今日も午前中はレッスンだったんでしょう? 疲れが残ってたりとか……」
春香「全然平気ですよ! まあそのまま続きでお仕事だったらちょっとしんどかったかもしれないですけど……お料理は楽しいですし、それに清美さんと一緒ですから! 疲れなんて吹き飛んじゃいます!」
清美「あら、そう言ってもらえると嬉しいわ」
春香「ただまあそういう意味では、レッスンの後、そのままお仕事に行った美希にはちょっと申し訳無い気もしますけどね……」
清美「ああ、確か……海砂さんと一緒にファッション誌の撮影、だったかしら?」
春香「そうなんですよ。まあそれはそれで楽しそうですけどね。なんといっても海砂さんと一緒なので」
清美「ふふっ。そうね。親しい人と一緒に何かをするというのは、とても楽しいことだと思うわ。……現に今、こうしているようにね」
春香「! 清美さん……私も今、とっても楽しいです!」
清美「それは何よりだわ。……あ、ところで春香ちゃん。この工程はどうすればいいのかしら?」
春香「ああ、それはですね。この道具を使って……」
清美「…………」
清美(今のところ、夜神くんから特に連絡は無い)
清美(ただ、何か不測の事態が生じたら、その都度……そして特に何も起こらず、予定通りに作戦が実行できた場合は、ノートの検証が終わった段階で……いずれにせよ、必ず連絡をもらえることになっている)
清美(だから今はこのまま、連絡があった場合にすぐ対応できるよう、心積もりだけはしておきつつ……普通に体験入門を受けておけばいい)
清美(そしてこれが終わったら、近くのカフェでお茶でもしながら、夜神くんから連絡があるまで引き続き待機……)
清美(大丈夫。何の問題も無いわ)
清美(もう少し……もう少しで)
清美(夜神くんが、新世界の神に。そして私が――女神になれる)
春香「…………」
春香(清美さんの手前、『全然平気』とは言ったものの……やっぱりちょっと疲れてるかな。昨日もみっちり全体練習やったとこだし……)
春香(美希、お仕事大丈夫かな。寝ちゃってないかな)
春香(まあでも、ああ見えてお仕事の時はばっちり決めるのが美希だから、大丈夫だろうとは思うけど)
春香(それに海砂さんもいる分、むしろテンション上がってるかもだしね)
春香(……よし。そう考えたら、美希に負けてはいられないね。私は私で、今はお料理頑張ろうっと! これはお仕事じゃないけど……何事も全力でいくのが私のポリシーだからね! ……なーんて。ふふっ)
(現在、スタジオでは美希の最後の撮影の準備が行われている(海砂は既に自身の撮影を全て終え、更衣室で待機している状態))
P「…………」
P(もう後は美希の最後の衣装の撮影をするだけ……今から撮影前に美希が更衣室に戻るということも無さそうだな)
P(では……指定されたアドレスに……)ピッピッ
P「…………」
P(いよいよ、か)
P(……大丈夫だ。美希も春香もキラではない)
P(キラであるはずがない)
P(美希の鞄から『黒いノート』が出てこようが出てこまいが……そんな物がキラの証拠になるわけがない)
P(美希がキラであるはずがないんだから)
P(だが、今はLの気の済むまで美希と春香の捜査をさせること……そうしなければ、永遠に二人の潔白は証明できない)
P(実際問題、『キラでないこと』の証明なんてできるはずがない。そんなものは悪魔の証明に他ならない)
P(だからLに認めさせるしかないんだ。『星井美希と天海春香はキラではない』と)
P(もうそうすることでしか、美希と春香に対するLの疑いを払拭することはできない)
P(だが逆に、それさえできれば……)
P「…………」
P(大丈夫だ。俺はあいつらを信じる)
P(俺はあいつらのプロデューサーなんだから)
P(……そうだろ? 美希)
カメラマン「よーし、美希ちゃんもこれが最後の撮影だね。頑張っていこう!」
美希「はいなの!」
カメラマン「じゃあとりあえず、正面向きのポーズから撮ってみようか。右手を軽く腰に当てて、リラックスした感じでよろしく!」
美希「こんな感じ?」スッ
カメラマン「そうそう! そんな感じそんな感じ! いいねいいね~」パシャパシャ
P「…………」
L「! ……プロデューサーからメールです。今から星井美希の最後の撮影だそうです」
総一郎「そうか。では……」
月「いよいよだな。竜崎」
L「はい」
星井父「…………」
L「ではまず、夜神さん。相沢さんと松田さんの状況の確認をお願いします」
総一郎「分かった。では相沢から」ピッ
総一郎「……もしもし。相原か? 私だ。朝日だ。そちらの状況はどうだ?」
相沢『お疲れ様です。相原です。こちらは変わりありません。スタジオから少し離れた位置に張っています』
総一郎「了解。こちらは今から作戦を実行する。状況に動きがあればまた伝える」
相沢『! いよいよですね……分かりました。引き続きよろしくお願いします』
総一郎「では、次は松田に」ピッ
総一郎「……もしもし。松井か? 朝日だ。そちらの状況はどうだ?」
松田『お疲れ様です。松井です。少し前にクッキングスクールは終わったようで、高田清美とはるる……天海春香は、そのまま二人で近くのカフェでお茶をしています』
総一郎「そうか」
松田『なお、私も怪しまれない程度の距離を取ってから入店し、今は店内から二人の様子を監視しています』
総一郎「分かった。ご苦労。くれぐれも気付かれないようにな」
松田『はい。任せて下さい』
総一郎「では、こちらは今から作戦を実行する。状況に動きがあればまた伝える」
松田『! そうですか。遂に……ですね。分かりました。引き続きよろしくお願いします』
総一郎「――竜崎。相沢、松田ともに問題無く尾行できている。なお高田と天海春香のクッキングスクールは既に終わっていて、今は二人で近くのカフェにいるそうだ」
L「分かりました。ありがとうございます」
L「それでは――月くん」
月「ああ」
L「残すは弥への指示……そして作戦の実行のみです。よろしくお願いします」
月「……分かった」ピッ
海砂(もう今頃、美希ちゃんの最後の衣装の撮影が始まってるはず……)
海砂(ってことは、こっちももうそろそろってことよね……うぅ……なんか緊張してきたぁ……)
ピピピッ
海砂「! ……非通知発信……ってことは……」ピッ
海砂「も、もしもし?」
月『ミサか? 僕だ』
海砂「! ライト。じゃあ……」
月『ああ。今から実行する。僕の指示をよく聞いて行動してくれ』
海砂「! わ、分かった……ミサ、頑張る」
月『よし。ではまず、昨日渡したワイヤレスのイヤホンを耳に付けて、ハンズフリーで通話ができるようにしてくれ』
海砂「う、うん。ちょっと待ってね。えーっと……あ、これだ。よいしょっと」カチャッ
海砂「これで、スマホのBluetoothの接続をオンにして……と」
海砂「ライト? 聞こえる?」
月『ああ。聞こえるよ。僕の声も聞こえているか?』
海砂「うん。ばっちり!」
月『よし。じゃあいよいよ星井美希のロッカーを開けてもらう。まず暗証番号の解錠の仕方を教えるから、よく聞いて』
海砂「うん」
月『昨日渡した複数の鍵の束の中に、細長いピンのような物があるはずだ。それを出してくれ』
海砂「えーっと……これかな?」
月『そう。それだ』
海砂「あ、そうか。こっちの部屋の様子はライトからも見えてるのね」
月『ああ』
海砂「あれ? じゃあもしかして、美希ちゃんが設定した暗証番号もライトの方からは見えてたりするの?」
月『いや、それは見えなかった。確かに直接見えていたら早かったんだが……ちょうど星井美希自身の身体で隠れていたからね』
海砂「そうなんだ。でも分かる方法があるって事なのよね?」
月『ああ。今出してもらったピンを、星井美希が使っているロッカー……その鍵となる、四桁のダイヤル部分……その真下に小さな穴があるはずだから、そこに挿し込んでくれ』
海砂「? そんな穴が……? あ、あった。こう?」カチッ
月『そうだ。そして、そのピンを挿したままの状態でダイヤルを一桁ずつ回してくれ』
月『そうすれば、四桁のダイヤルはいずれも特定の番号の所で引っ掛かるはずだ。それがそのまま星井美希の設定した暗証番号となる』
海砂「へーっ。どれどれ……あ、引っ掛かった。まず『2』ね。……で、次は『3』で……『1』……『1』。……つまり『2311』ってこと?」
月『おそらくね。その状態のまま、ダイヤルの隣にあるツマミを開ける方に倒してみてくれるか?』
海砂「うん」
ガチャッ
海砂「あ……開いた!」
月『よし』
海砂『あ……開いた!』
月「よし」
星井父「! …………」
L「やりましたね」
総一郎「うむ」
模木「…………」
総一郎「しかし『2311』って……どこかで見たような数字の並びだな」
L「単純に、自分の誕生日を並び替えただけでしょう」
総一郎「ああ、そういうことか。結構安易だな」
L「特に警戒していない状況であればそんなものでしょう。つまりここからも今の星井美希がほぼ無警戒であるということが分かります」
総一郎「確かに」
星井父「…………」
月「ミサ。じゃあそのまま星井美希の鞄を探ってくれ」
海砂『わ……分かった』
月「鞄の中にノート、またはそれに類する形状の物があれば……」
海砂『あっ』
月「ん?」
海砂『ライト。多分、これ……じゃないかな?』
(美希の鞄の中からビニール袋を取り出し、高く掲げる海砂)
月「! その袋の中に……ノートが?」
海砂『うん。多分……形と大きさからして、間違い無いと思う』
月「……よし。じゃあ早速、袋から出してくれ」
海砂『分かった。……! やっぱりノートみたい。カバー掛かってるけど』
月「じゃあ……そのカバーも外してくれ」
海砂『う、うん』
総一郎「ビニール袋……カバー……」
L「空港の時と同じ……ですね」
総一郎「うむ……」
星井父「…………」
(ノート様の物に掛かっていたカバーを外した海砂)
海砂『! ら、ライト……これ……』
月「ミサ。さっきみたいに、カメラに映るように掲げてくれ」
海砂『う……うん』
(カバーを取ったノートを掲げる海砂)
一同「!」
月「……『DEATH NOTE』……『デスノート』?』
L「……直訳で、死のノート……」
星井父「…………」
月「……ミサ。とりあえず、すぐにその表紙をスマートフォンで写真に撮ってくれ。裏表紙もだ」
海砂『え? あ、ああ……そうね』
月「昨日設定したとおり、ミサが撮った写真は自動的に特定のクラウドサーバーにアップされるようになっている。だから撮影した写真の内容はこちらからもリアルタイムで確認できる……」
海砂『わ、わかった……じゃあ、まず表紙からね』カシャッ
海砂『次に裏表紙……っと。こっちは何も書いてないみたい』カシャッ
月「…………」
L「ノートの色は『黒』……つまりこれは、南空ナオミが目撃した『黒いノート』と同じ……いえ、あれは天海春香が所持している方のノートだったとすれば……それと同種のもの……と見て、まず間違いなさそうですね」
総一郎「うむ……」
総一郎(そういえば、相沢の疑問を誤魔化すためにそんな説明をしていたな……)
星井父「…………」
月「じゃあ、ミサ。表紙をめくってくれ」
海砂『はい。……わ、表紙の裏になんかいっぱい書いてある。英語で』
月・L「!」
海砂『で、右のページの方には……人の名前……が書いてあるわね。それも、かなりたくさん……』
月「……ミサ。では表紙の裏から撮影を頼む」
海砂『うん』カシャッ
月「よし。そのまま、1ページずつ順番に……途中で何も書いていないページがあっても飛ばさずに、全てのページを撮影してくれ」
海砂『分かった』カシャッ
月「…………」カチッ
(海砂との通話に使用していたマイクをミュートにした月)
(同時に、海砂が撮影した、ノートの表紙の裏部分の写真が捜査本部内のモニターに表示される)
月「……『HOW TO USE IT』……」
総一郎「英語で……ノートの使い方の説明……?」
L「…………」
月「『このノートに名前を書かれた人間は死ぬ。』」
月「『書く人物の顔が頭に入っていないと効果はない。ゆえに同姓同名の人物に一遍に効果は得られない。』」
月「『名前の後に人間界単位で40秒以内に死因を書くと、その通りになる。』」
月「『死因を書かなければ全てが心臓麻痺となる。』」
月「『死因を書くと更に6分40秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる。』」
月「…………」
総一郎「な、なんと……これがもし本当なら、竜崎とライトの推理通り……」
L「……色々と考えるべきことはありますが、とりあえず今は次の写真も見ましょう。さっき弥が『人の名前が書いてある』と言っていたページです」
総一郎「そ、そうだな」
月「……見たところ、ページの仕様は普通の大学ノートのように罫線が引かれた白色のページで……そこに等間隔に名前が書かれているようだな」
L「日本人名が多いようですが……外国人名も少なからず混じっていますね」
月「それより、ここに書かれている名前……気付いたか? 竜崎」
L「はい。これはおそらく……いずれも、ここ一、二週間程度の間にキラに裁かれた犯罪者の名前ですね。厳密には照合してみなければ分かりませんが……つい最近、報道で目にしたばかりの名前が多く書かれています。まず間違い無いでしょう」
総一郎「! と、いうことは……これはまさに、キラの……」
L「……そうですね。物的証拠……と言っていいでしょうね」
模木「! 係長……」
星井父「…………」
星井父(……美希……)
L「どうしました? 月くん」
月「竜崎。この名前が書かれているページだが……よく見たら、それ以前のページを切り取ったような形跡が無いか?」
L「……! 確かに。よく気付きましたね。月くん」
月「だとすると、今ある『最初の1ページ目』は実は『最初の1ページ目』ではなかった……ということになるな」
総一郎「! そうか。だから……」
L「はい。書かれている犯罪者の名前がここ最近のものだけ、というのもこれで説明がつきます。つまり……」
月「……それ以前の犯罪者の名前が書かれたページは、既に切り取られている……」
L「はい」
総一郎「なるほどな」
星井父「…………」
L「――どうやら、弥が最後のページまで撮り終えたようですね」
総一郎「結局、最初のページ以外は白紙だったな」
月「…………」カチッ
(海砂との通話に使用していたマイクのスイッチをオンにした月)
月「ミサ。お疲れ様。写真はそれで全部だね?」
海砂『ライト。うん。全部撮れたよ。結局、最初のページに人の名前がたくさん書いてあっただけで、後のページは白紙だったけど……』
月「そうみたいだね。ちなみにノート自体の質感はどんな感じだったかな? 手に取った時の感触とか」
海砂『うーん……感触は普通のノートと変わらないかな。本当に普通のノートって感じ』
月「分かった。ありがとう。じゃあ早速、ノートを元の状態に戻してくれ。星井美希が戻って来る前に」
海砂『あ、ライト。でもその前に……これ、結局何のノートなの? 英語で何て書いてあったの?』
月「ああ……それはまた後で話すよ。今はとりあえずノートを元の状態に」
海砂『はーい』
(ノートにカバーを掛け、ビニール袋に入れ、取り出す前と同じ状態にして美希の鞄の中に入れた海砂)
月「よし。じゃあ星井美希が設定した暗証番号……『2311』でロックして」
海砂『うん』
ガチャッ
海砂『はい。これで完璧に元通りだよ。ライト』
月「ありがとう。ミサ。後は自然な流れでスタジオから出てくれ。もっとも、星井美希はノートの検証が終わるまでは撮影現場に居てもらうが……その点は僕からプロデューサーに指示を出すので問題無い」
海砂『うん。分かった』
月「今はとにかく、スタジオから自然に、かつ安全に出ることだけを考えて行動してくれ。ノートについての話はその後だ」
月「ミサの身の安全が第一だからね」
海砂『! ライト……。ミサの事、心配してくれてありがとう。ミサ、言われたとおりにするね』
月「ああ。じゃあこの電話は一旦切るよ。イヤホンも忘れずに外しておくようにね」
海砂『うん。それじゃあライト、また後でね』
月「ああ。愛してるよ。ミサ」
(海砂との通話を終えた月)
月「では……竜崎。プロデューサーへの連絡を頼む」
L「はい」
(美希の最後の衣装の撮影中)
P「……ん? メール……?」ピッ
P「! …………」
P(差出人不明……Lだな)
P(! ……『ノートの撮影、終了』……)
P(……『今から検証を行うので、それが終わるまで星井美希はスタジオから出さないように』……『検証が終わったらまた連絡する』……)
P(……『弥については帰宅させて問題無し』……『むしろ星井美希に勘付かれないためにも、不自然にならない程度に早めに帰してほしい』……)
P「…………」
P(ノートは、あったのか……)
P(いや、だがまだ……)
P「…………」
カメラマン「――よし。こんなところかな。お疲れ様。美希ちゃん」
美希「ありがとうございましたなの」ペコリ
カメラマン「プロデューサーさん。美希ちゃんの撮影、これで終了です」
P「ああ、ありがとうございます。じゃあ撮って頂いた写真はこの後じっくり見せて頂くとして……まずは美希、お疲れ様。着替えておいで」
美希「はーいなの」
P「…………」
P(そうだ。まだ決まったわけでは……ない)
L「……まだ100%確定ではありませんが……ここまでの物的証拠がある以上、これまでの状況証拠もあわせて考えると……現時点での星井美希の逮捕は十分可能でしょう」
総一郎「うむ」
月「ノートに書かれていた名前も、全てここ一、二週間でキラに裁かれた犯罪者の名前だったことも確認できたしね」
L「はい。逮捕後はこれらの証拠を突き付けて尋問……そこで自白が得られればノートの検証までは必要無いでしょう」
L「とにかく今は、一刻も早く星井美希を逮捕することです。また同時に、星井美希との共謀容疑で天海春香も逮捕します」
L(本当はノートの検証は不可欠だが……今はこう言っておかないと先へ進まないだろう)
総一郎「分かった。では早速、警察庁の部下に連絡しよう。逮捕に向かう人数は……まあ六、七人もいれば足りるか」
L「そうですね……要はノートに名前を書かれない限りは殺されないわけですから……顔をフルフェイスのヘルメットで隠して行くならその程度で十分でしょう。極端な話、拳銃を突き付けるなりすれば一人でもいいとも言えますし」
総一郎「警察としての建前上、流石にそれはちょっとな……。あと相沢はどうする? 一緒に逮捕に向かわせるか?」
L「……いえ、相沢さんにはこのまま建物の外を張っておいてもらいましょう。万が一の事が無いとも限らない……建物の外を誰も見張っていない状態にするのは避けたい」
総一郎「分かった。では天海春香も同様の対応で良いな。数名の警察官を彼女の逮捕に向かわせる一方、松田にも現在の状況は伝えておき、今のままの位置で監視を継続させる……」
L「はい。それでお願いします」
星井父「…………」
L「それから、月くん」
月「分かってるよ。高田には『今はノートの検証を進めている。検証が終わり次第また連絡を入れるので、それまで引き続き天海春香を見張っておいてくれ』……とでも伝えておけばいいんだろう?」
L「はい。その通りです。よろしくお願いします」
総一郎「よし。ではまず、私は警察庁の部下に連絡を……」
月「僕は高田にメールを……あ、星井美希が更衣室に戻って来たな」
総一郎「そういえば、このままだと星井美希と弥が対面するが……大丈夫だろうか?」
L「弥が『黒いノート』の内容を把握していれば少し事情が変わってきますが……あの短時間であの英文を読めていたとも思えませんし、まず大丈夫でしょう」
月「ああ。現にさっき、僕に『英語で何て書いてあったのか』と聞いていたくらいだしな。また人名の方も、それがキラに裁かれた犯罪者の名前だとは気付いていないだろう」
L「ええ。いくらキラの崇拝者とはいえ、キラが裁いた者の名前までいちいち覚えているとも思えませんしね」
月「そういう意味では、この役を高田にしていなくて正解だったな。高田ならあの程度の英文は瞬時に読めてしまうし、日頃からキラ事件関連のニュースの研究をしているから、キラが裁いた犯罪者の名前もおそらく覚えて―――」
海砂『きゃああああああああああああ!!』
一同「!?」
月「――――ミサ?」
L「…………?」
海砂「きゃああああああああああああ!!」
美希「!?」
海砂「あ……ああ……あ……」ペタン
(目を見開いて美希のいる方向を見たまま、言葉にならない声を発しながら床にへたり込む海砂)
(海砂はその姿勢のまま、美希のいる方向を凝視している)
美希「…………み、海砂ちゃん? どうし」
海砂「ッ!?」ガタッ ドッ
(美希が近付こうとすると、海砂は床に座り込んだ姿勢のまま後ずさり、壁に背中をぶつけた)
海砂「…………!」
美希「…………?」
美希(何かを、見ている……?)
美希(ミキじゃない。海砂ちゃんの、目線の先……)チラッ
(自分の背後にいるリュークの方を振り返る美希)
リューク「……ん?」
海砂「!?」ビクッ
美希「!」
美希(今、反応……)
リューク「あれ? もしかして……」
海砂「ひっ!」ビクッ
美希「! …………」
美希(ま……間違い無い)
リューク「……ククッ。どうすんだ? ミキ。これ……」
海砂「! あ……ああ……」ガタガタ
美希「…………」
リューク「どう見ても、こいつ……俺が見えてるぞ」
海砂「しゃ、しゃべっ……」
美希「…………!」
美希(とりあえず、今誰かに見つかったらまずいの)
バタン ガチャッ
(後ろ手に更衣室のドアを閉め、鍵を掛ける美希)
海砂「!」
海砂(鍵を……)
美希(さて……この展開は流石に予想してなかったの)
美希(海砂ちゃんには明らかにリュークが見えている……最初の悲鳴、その後の目線、そしてリュークの挙動に対する反応からまず間違い無い)
美希(現に今も、リュークの発言に反応するように『しゃ、しゃべっ……』と言っていた)
美希(このことから導き出される結論はただ一つ)
美希(海砂ちゃんは、すぐそこのロッカーの中にある……)チラッ
美希(―――ミキのデスノートに触った、ということ)
美希(しかし……どうやって? 見たところ、ロッカーが壊されたような形跡は無い……)
美希(暗証番号を設定するときに見られていた? ……いや、それもない。ミキは普段から、こういう暗証番号方式のロッカーを使う時は、必ず周囲の人間に番号を見られないように細心の注意を払いながら設定している。事実、今日もそうした)
美希(そもそも、ミキが番号を設定している時に海砂ちゃんがミキの方を見ていた素振りなんか全く無かった)
美希(だとすれば……単純に当てられたってことになるけど……)
美希(まあでも暗証番号はミキの誕生日を入れ替えただけだし、的中させるだけならそこまで難しくは……)
美希(……いや、違う。そうじゃない)
美希(海砂ちゃんがミキの番号を当てたこと自体が問題なんじゃない。何故海砂ちゃんがそんなことをしたかが問題なんだ)
美希(海砂ちゃんがミキのロッカーを開けた理由……)
美希(海砂ちゃんはロッカーを開け、ミキの鞄を探り、そして……その中にあるミキのデスノートを見つけた)
美希「…………」
美希(ノートにはカバーを掛けてビニール袋に入れてある。でもそれは他の人に偶然鞄の中を見られても怪しまれないための措置でしかない)
美希(だから本気で鞄をひっくり返されたらノートはすぐに見つけられる)
美希(じゃあ、何故海砂ちゃんはそんなことをしたのか……)
美希(そんなの、もう一つしかないの)
美希(これはどう考えても、ミキをキラと疑い……かつその証拠を押さえようとしての行動)
美希(それ以外に、海砂ちゃんがこの状況でこんな行動を取る理由が無い)
美希(でもそうだとして……これは海砂ちゃんの独断? いや……海砂ちゃんはキラに恩義を感じている。もし何らかのきっかけでミキをキラだと思ったのなら、むしろ直接そうではないかと尋ねてくるはず……あえてこんな回りくどいことをするとは思えない)
美希(それにそもそも、現時点で海砂ちゃんがミキをキラだと思えるような理由も無いはず)
美希(……とすれば)
美希(他に協力者……いや、海砂ちゃんに指示を出し、彼女を動かしている者がいるとみるべき)
美希(それが誰かなんて……もう考えるまでもない)
美希(L――竜崎しかいない)
美希(竜崎なら海砂ちゃんとの接点もある。彼がどうやって海砂ちゃんを焚き付けたのかまでは分からないけど……)
美希(おそらくは……“L”という自分の正体を伏せた上で、自分はキラの崇拝者だとか嘯いて……『ミキがキラではないかと思っている』『もしそうなら協力したいが、現時点では確証が無い』『だからその確証を得るために協力してほしい』とか……そんな事を言って丸め込んだに違いないの)
美希(海砂ちゃんにとって、キラは自分の両親の仇を討った恩人……キラの力になることだと言われたら信じてしまうに違いない)
美希(―――とまあ、現状の把握と原因の推測はこのへんにしておいて……)
美希「…………」チラッ
海砂「!」ビクッ
美希(これから、どうするか……)
海砂「…………!」ガタガタガタガタ
美希(ノートは今、どうなってるんだろう……海砂ちゃんに取られちゃったのかな?)
美希(だったら取り返さないといけないの)
美希(でも、ノートの内容を確かめただけでまたそのままミキの鞄に戻したという可能性もある……ならまずはそっちから確認した方が良いか)
美希(海砂ちゃんはリュークの姿を見て怯え切っている。見た感じ腰も抜けているようだし……これなら今、ミキに対する物理的な対抗はまずできないとみていい)
美希(なら今、ミキがノートの有無を確認しようとしても――……)
美希(……いや、違う)
美希(相手はLなの)
美希(あのLが……ただ海砂ちゃんにノートを調べさせるだけなんて……ありえない)
美希(Lなら。そう、Lなら……)
美希「! …………」
美希(……こういう時に活きるんだね。過去の経験って)
美希(仕掛けられている。この部屋に―――監視カメラと盗聴器!)
美希(つまり今のこの状況も全て観られている。そしてこれからのミキの行動も全て……)
美希(じゃあ……どうする?)
美希(もう諦める?)
美希(……そんなの、ありえないの)
美希(ミキの“理想”も、春香の“使命”も……まだ何も実現していないのに!)
美希(! ……春香)
美希(そうか。あの時、春香が……!)
美希(……ありがとうなの。春香)
美希(ミキ、また春香に助けられちゃったの)
美希(もっとも、“これ”が上手くいくかどうかは―――)チラッ
(自分の背後にいるリュークの方を振り返る美希)
リューク「……ん?」
美希「…………」パチッ パチッ パチッ パチッ
(リュークを見つめたまま、四回続けて右目をウィンクする美希)
リューク「…………?」
美希(この……気まぐれな死神次第だけどね)
リューク(何だ? 今の……)
リューク(ウィンクを……四回……?)
リューク「あっ」
美希「…………」
リューク(そうか。そういえば、前に――……)
(以前の美希と春香の会話を思い返すリューク)
【80日前(東応大学の学祭があった日)・東応大学近くの喫茶店からの帰路】
(L、月、海砂、清美と喫茶店で歓談した後、四人と別れ、並んで家路を歩いている美希と春香)
春香「―――だから尚の事……Lが私だけを特定して疑っているとは考えられない。現に、美希の部屋には付けられていた監視カメラも、私の部屋には付けられてないしね」
美希「? 確かめたの? どうやって?」
春香「簡単だよ。定期的に、自分の部屋に入った時に、何も言わずにレムに目配せして合図を送るの」
美希「合図?」
春香「そう。何でもいいんだけど、私の場合は、右目を二回ウィンクした時は『カメラを探して』、四回ウィンクした時は『カメラを探して、もしあった場合はそのまま壊して』、っていう風に決めてるよ」
美希「へー。そんなことしてたんだ」
春香「うん。美希の部屋にカメラが付けられたって聞いてから……大体、週に一回くらいはやってもらってるかな。このやり方なら、もし本当にカメラがあったとしても問題無く対処できるからね」
美希「死神はカメラに映らないもんね」
春香「そう。それに死神は自分の意思で自由に人間界の物体に干渉できるから、壊そうと思えばすぐに壊せる」
美希「あー。確かにリュークも普通にリンゴ食べてるもんね」
【現在・撮影スタジオ内/更衣室】
リューク「…………」
リューク(弥海砂には明らかに俺の姿が見えている……それはつまり、弥海砂がミキのデスノートに触ったという事)
リューク(詳しい経緯は分からんが、まあ普通に考えて、L――ミキの確信を信じるなら、竜崎――の差し金だろう。奴なら弥海砂との面識もあるしな)
リューク(デスノートはキラの証拠に他ならない。これをLに押さえられた時点でもう詰んだかと思ったが……)
リューク(この状況でなお、ミキの目は死んでいない)
リューク(こいつはまだ……勝ちの目を捨てていない)
リューク(それだけじゃない。こいつは……ミキは、ほんの一、二分ほどの思考で今の状況をほぼ正確に把握した)
リューク(確かに、Lならこの部屋にカメラや盗聴器を仕掛けていても不自然じゃない……いや、仕掛けていないワケがない)
リューク(それでもミキは諦めること無く、冷静にその対処法を考え……前にハルカから聞いていた『監視カメラの探し方』の話を思い出し、即実行に移した)
リューク(もっとも、それで俺が思い出すかどうかは賭けだっただろうが……ククッ。運が良かったな。ミキ)
リューク(もし仮に、この場で俺に『弥海砂を殺してくれ』とか『竜崎を殺してくれ』とか頼むようなことがあれば……もうその時点でキラとしてのミキは終わり)
リューク(そのときは弥海砂でも竜崎でもなく、ミキ自身の名前を俺のノートに書き、全て終わらせてやるつもりでいたが……)
リューク(ククッ。こいつは……ミキは、俺に縋る気なんて微塵も無いらしい)
リューク(ただそうは言っても、確かにこの状況でのカメラの探索と破壊は俺にしかできない。だから俺がここで突き放せば、それでもやはりミキは終わりだろうが……)
リューク(ミキは……俺の思考を、行動原理を……完全に理解している!)
リューク(なぜなら今この瞬間……俺は確かに興奮した。この窮地において、瞬時にここまでの行動を取ったミキを見て)
リューク(それがいつ果てるのかは分からんが……少なくとも今、俺はこいつの、この先を……もっと見てみたいと思っている)
リューク(いや……そう思わされてしまった)
リューク(なあ、ミキ)
美希「…………」
リューク(お前は……俺がこう考えることまで一瞬で読み切ったんだな)
リューク(いいだろう。これでもっと面白い物が観れる様になると言うのならやってやる)
リューク(さあ、ミキ。俺をもっと楽しませてくれ!)
リューク「…………」ユラッ
(おもむろに動き出し、壁の方へと向かうリューク)
海砂「!?」ビクッ
海砂(う……動いた……)
海砂(そ、それにさっき、はっきり喋ってたし……美希ちゃんの名前も呼んでいた……)
海砂(一体どういうこと? この黒いお化けみたいなのは……何? 何で美希ちゃんと一緒にいるの? これがキラの能力の正体?)
海砂(だとしたら……このお化けが人を殺すってこと? じゃああのノートは何?)
海砂(ああ……駄目。頭がこんがらがって、もう何が何だか……)
リューク「よっ、と」
海砂「…………え?」
(壁に頭を突っ込むリューク)
海砂「!?」
海砂(あ、頭が壁にめり込んで……あれ、やっぱり人間じゃ……)
海砂(でも一体、何を……?)
リューク「――お、早速一個見っけ」
海砂「!」
海砂(『一個見っけ』って……な、何を?)
美希「…………」
リューク「やっぱり前に一回やってるだけあって、コツが掴めてるみたいだな。……よ、っと」
(カメラに向かって手を伸ばすリューク)
(海砂の悲鳴が聞こえた直後)
総一郎「い、今の悲鳴は……弥か?」
L「……だと思います、が……」
月「何があったんだ……? 映像を観ていた限り、ただ星井美希が更衣室に戻って来ただけにしか見えなかったが……」
総一郎「星井美希を見て悲鳴を上げたのは間違い無いと思うが……現に今も、弥は星井美希の方を見たまま固まって……」
美希『…………み、海砂ちゃん? どうし』
海砂『ッ!?』ガタッ ドッ
(美希が近付こうとすると、海砂は床に座り込んだ姿勢のまま後ずさり、壁に背中をぶつけた)
L「!」
総一郎「やはり星井美希に怯えている……のか?」
月「…………」
月(星井美希が更衣室に戻って来たタイミングでミサが悲鳴を上げたのは間違い無い)
月(そして父さんの言うように、今もミサは星井美希に怯えているように見える……だが肝心の星井美希の様子は、今日これまでのものと比べても何ら変化は見られない)
月(つい先ほどの最後の衣装の撮影も普通にこなしていたし……おかしな要素など何も……)
海砂『――――』
L「? 今、弥が何か言いましたね」
月「ああ……だが何と言ったかまでは聞き取れなかったな。今にも消え入りそうな声だったが……」
『バタン ガチャッ』
(後ろ手に更衣室のドアを閉め、鍵を掛ける美希)
L「! 部屋の鍵を」
総一郎「……さっき一瞬だけ、星井美希は弥に話し掛けようとしていたようだが……すぐに無言になって、鍵を……」
月「つまりミサが何に対して驚き、怯えているかに気付いた……?」
総一郎「!」
L「そう……ですね。でなければ問い詰めるのをやめないはず……」
月「すぐにドアの鍵を掛けたのも……危機を察知し、誰かに部屋に入られるのを防ぐためか……」
L「しかし肝心の……弥が何に驚き、怯えているのか……そして星井美希が何に思い当たったのかがさっぱり分かりませんね」
総一郎「うむ……」
星井父「…………」
月(まさか……)
L「? どうしました? 月くん」
月「ああ、いや……」
L「?」
月「…………」
月(ミサの様子……確かに何かを見て怯えているように見えるが……よく見ると……)
月(その視線の先は、星井美希というよりも、むしろ……その後ろ)
月(星井美希の……背後の空間)
月(だが、映像には何も映っていない……誰がどう見たって、更衣室の中にはミサと星井美希の二人しかいない)
月(……とすれば、やはり……)
月「…………」
(映像の中の美希が自分の背後を振り返る)
月「!」
L「……今、何かしましたね」
月「ああ」
総一郎「え? 星井美希がか?」
L「はい。少しだけ今の映像を巻き戻します。……ここです。自分の背後を振り返った後……」
総一郎「ん? ちょっとよく分からんが……」
L「拡大してスロー再生してみましょう」
(スロー再生された映像には、自分の背後を振り返った状態で、右目を四回連続でウィンクしている美希の姿が映っていた)
総一郎「……瞬き? いや、これは……ウィンクか?」
L「はい。一、二回ならともかく、四回続けてですから……瞬きではないでしょう。明らかに意図的にウィンクをしています。……自分の背後に向かって」
総一郎「だ、だが星井美希の背後には何も……」
ブツッ
(その瞬間、更衣室内の映像を映していたモニターの一つが真っ暗になった)
総一郎「…………え?」
月「映像が……切れた?」
ワタリ『はい』
L「ワタリ。更衣室の3番のカメラの映像が観れなくなった。そっちでは観れているか?」
ワタリ『いえ。たった今、こちらでも3番の映像が観れなくなりました。私も今ちょうどその連絡を竜崎にしようと……』
L「……そうか。分かった。では残りのモニターで引き続き監視を頼む」
ワタリ『はい』
L「…………」ピッ
総一郎「ワタリの方でも映像が切れたということは……」
L「再生機器の不具合ではなく、部屋に取り付けたカメラ自体の故障……ですね」
総一郎「更衣室内に動きは無い……星井美希はドアのすぐ近くに立ったまま、弥は壁に背をつけて床に座り込んだまま……」
月「…………」
ブツッ
(さらに、更衣室内の映像を映していた別のモニターも真っ暗になった)
総一郎「! ま、また……」
L「…………」
ブツッ
ブツッ
ブツッ
(次々と、更衣室内の映像を映していたモニターが真っ暗になっていく)
総一郎「い、一体どうなってるんだ? これは……」
L「偶然の連続……ではないでしょうね。このタイミングで、この更衣室内のカメラだけが、一個ずつ順番に壊れていくなんて現象は……」
総一郎「だが故意に壊されているとも思えない……部屋の中にいる二人は相変わらず微動だにしていない」
月「……死神……」
L「え?」
総一郎「ライト?」
月「…………」
月「――竜崎。前に例のメンバーで遊園地に行ったとき、観覧車の近くのベンチで、僕が『下らない空想をしていた』と話したのを覚えているか?」
L「? 確か……『あえて話すほどのものでもない』と言っていた件ですか。それは覚えていますが……」
月「あのとき、僕がしていた空想とは――『名前を書くと書かれた人間が死ぬノート』および『顔を見れば名前が分かる能力』……これらをキラ――即ち、星井美希と天海春香――にもたらしたのは異界の者……たとえば死神や悪魔などではないか、という内容だ」
L「! …………」
総一郎「死神や悪魔……だと……」
月「ああ。『名前を書くと書かれた人間が死ぬノート』だの『顔を見れば名前が分かる能力』だの……あまりにも僕達の常識を超越した概念だからね。むしろそれくらいぶっ飛んだ考えの方が馴染むのではないかと思ったんだ」
月「そして『人を殺せるノート』であれば死神の方がしっくりくると考え……その異界の存在を仮に『死神』と定義した」
L「…………」
総一郎「ふむ……」
月「その死神が『人を殺せるノート』を人間に渡した理由は……そうだな。前の時はそこまで深く考察していなかったが……あえて考えるならば、『人を殺せるノート』を人間に使わせ、人間同士で殺し合うさまを観察して楽しもうとした……とかじゃないかな」
月「そのように考えれば、『星井美希と天海春香はそれぞれ無関係にノートを入手した』とする僕達の推理とも矛盾しない」
L「……なるほど。人間同士で殺し合わせようとしたからこそ、あえて距離の近い二人の人間に、かつ別々にノートを渡した……」
総一郎「では結果的に二人が協力して犯罪者裁きをするようになったのは……ノートを渡した死神からすれば予想外の行動だったというわけか」
月「あるいはそうなのかもしれないし……またはそういった予想外の展開になることをも期待してノートを渡したのかもしれない」
総一郎「うむ……」
月「あと、『顔を見れば名前が分かる能力』だが……これは『人を殺せるノート』のオプションのようなもので、事後的に死神と契約か何かを結ぶことで入手できるものと考えられる。つまり天海春香はその契約をしたが星井美希はしなかった……こう考えればこれまでの推理とも整合する」
L「……そうですね。一見突拍子も無い推理ですが、しかし現に今、更衣室内の監視カメラだけが次々と壊れていっているという状況を考えると……」
月「ああ。さっき竜崎も言っていたが、この現象は偶然の連続などとは到底思えない。誰がどう見たって、カメラは何者かの意思によって物理的に破壊されている」
総一郎「確かに……いや、だが待てよ」
総一郎「あの『黒いノート』が元々は死神の物だったとすれば、英語で……人間の言語でルールが書かれていたのはおかしいのでは?」
L「……そこは別にどうとでも解釈できると思います。今、月くんが仰ったように、元々死神が『人を殺せるノート』を人間に使わせる目的でいたのなら、死神が人間に理解できる言語でルールを書いていても別に不自然ではないですし……実際には死神の用いる言語で書かれているが、我々の目にはそれが英語で書かれているように見えているだけなのかもしれません」
総一郎「な……なるほど」
L「いずれにせよ、それは本質的な問題ではない……むしろ今ここで考えなければならないのは……」
月「ああ。あの場には死神がいるのかもしれない。そしてもしそうなら―――それは僕達には視認できない存在だという事だ。……少なくとも監視カメラ越しには、ね」
総一郎「! …………」
(その瞬間、更衣室内の映像を映していたモニターのうち、最後の一つも真っ暗になり、捜査本部内から更衣室内の映像は一切観ることができなくなった)
総一郎「! さ、最後のカメラが……」
L「…………」ピッ
ワタリ『はい』
L「ワタリ。今、更衣室内の映像が全て観れなくなった。そっちも同じか?」
ワタリ『はい。たった今、最後のモニターの映像も観れなくなりました』
L「分かった。だがまだ盗聴器は生きている。少しでも情報が得られないか、注意して更衣室内の音声を聴いておいてくれ」
ワタリ『分かりました』
L「…………」ピッ
L「! 盗聴器といえば……」
総一郎「? 竜崎?」
L「……さっき、弥が何か言っていましたよね。星井美希が部屋のドアの鍵を掛ける直前です」
月「ああ。声が小さくてよく聞き取れなかったやつだな」
L「念の為、音量を上げて聴き直してみましょう。死神の正体を探るヒントになるかもしれません」ピッ
(更衣室内の盗聴器の録音を巻き戻すL)
L「多分このあたりです」ピッ
月「…………」
海砂『……しゃ、しゃべっ……』
総一郎「!」
月「……『喋った』……か」
L「はい。死神が喋った……でしょうね。このとき星井美希は何も発言していないですし、そもそも星井美希が喋っただけで驚く理由が無い」
総一郎「うむ……」
月「竜崎。念の為、ミサの今の発言の直前の部分も再生してみてくれないか? 無いとは思うが、死神の声が録音されているかもしれない」
L「そうですね。ではどうせなら星井美希が更衣室に戻って来たあたり……弥が悲鳴を上げたあたりから再生してみましょうか」ピッ
(再び録音を巻き戻すL)
L「……このあたりからですね」ピッ
『…………』
海砂『きゃああああああああああああ!!』
『…………』
海砂『あ……ああ……あ……』
美希『…………み、海砂ちゃん? どうし』
海砂『ッ!?』ガタッ ドッ
『…………』
『…………』
『…………』
『…………』
『…………』
『…………』
海砂『ひっ!』
『…………』
『…………』
海砂『あ……ああ……』
『…………』
『…………』
海砂『しゃ、しゃべっ……』
『…………』
L「…………」ピッ
総一郎「こ、これは……」
月「…………」
月「ああ。ミサが悲鳴を上げた理由、その後ずっと何かに怯えていた理由も……これで説明がつく」
月「本当に死神かどうかは分からないが……さぞ恐ろしい姿をしているのだろう。その『何者か』は」
L「そうですね。そしてその『何者か』が更衣室内の監視カメラを全て破壊したのだとすれば……あの場でそれを命じることができたのは星井美希しかいません」
総一郎「うむ。とすれば……当然の事ながら、星井美希にもその者の姿は見えているし、声も聞こえている……ということになるな」
L「はい。いくらなんでも、自分が知覚・認識できない者に対して命令できるとは思えませんので」
総一郎「しかし肝心の星井美希自身は、弥に話し掛けようとした時以外は一言も発していなかったし、映像で観る限りジェスチャーなどもしていなかった……一体いつ、死神に命令を……あっ。そうか。それがさっきの……!」
L「はい。『自分の背後に向けての四回続けてのウィンク』……これで間違い無いでしょう。星井美希がウィンクをした方向……つまり彼女の背後に死神がいたのだとすれば、それは弥が見ていた方向とも一致します」
月「星井美希が声を出さずに命令したのは……監視カメラのみならず、盗聴器の存在も疑っていたからだろうな」
L「はい。ですがその盗聴器は今もまだ生きています。このことから、死神ができる行動にも限界がある……つまり、監視カメラは壊せても盗聴器は壊せない。……いや、というよりも、より正確に言うと……」
月「『監視カメラは見つけられても盗聴器は見つけられない』……だろうな。カメラの場合は、どんなに小さいものでも必ずレンズが映されている側からも見える位置にある。だからまだ探しやすいが……盗聴器の場合はそうはいかない」
L「はい。ただカメラさえ全て破壊してしまえば、後は声さえ出さなければ事実上自由に行動できる……ゆえに、まずはカメラの発見・破壊を優先して命じたということでしょう」
総一郎「なるほどな。……しかし……」
L「? どうしました? 夜神さん」
総一郎「いや……『黒いノート』の持ち主である星井美希は最初から死神を認識できていたのだとしても……弥は何故、今になって急に死神を認識できるようになったんだ? もし星井美希以外の人間にも認識できるようになったのなら、弥のみならず、今の私達にも見えていておかしくないはず。……勿論、肉眼か監視カメラ越しか、という差異はあるが……」
月「簡単な事だよ。父さん」
総一郎「ライト?」
月「おそらくはミサは『死神を視認することができるようになる条件』を充たしたんだ。ついさっき、初めて死神を視認して悲鳴を上げたと思われる……その直前にね」
総一郎「条件……? 弥が悲鳴を上げる直前……あっ」
総一郎「……『黒いノート』に……触った事か」
L「はい。逆にノートに触る前の弥にはそんな様子は全く無かったので……それで全ての辻褄が合います」
総一郎「なるほど……」
月「ただ勿論、死神がずっとどこかに身を潜めていて、今になって急にその姿を現したという可能性もある。そして、今父さんも少し触れていた事だが……その姿は肉眼では視認できるがカメラ越しには映らない……とすれば、今僕達にその姿が見えていないことの理屈も一応は成り立つ」
L「そうですね。ただその場合は建物内の他の人間も死神の姿を目にしており、現場はパニックに近い状態になっているはず……であればその様子が建物内の他のカメラにも映っているはずですが、今のところそれもありません」
L「ですので、一旦は『基本的に死神は視認できないしカメラにも映らない。また声も聞こえない』『しかし『黒いノート』に触れた者にだけはその姿が見えるようになり、また声も聞こえるようになる』……このように考えていいと思います」
総一郎「うむ……」
L(しかしなるほど、『死神』か……)
L(以前、星井美希の自室に監視カメラを仕掛けた際も、今日同様に『カメラに映らない死神』がカメラを探していたのだとすれば……)
L(星井美希がカメラの設置および撤去に気付いていたと思われることも……容易に説明ができる)
L(だが、一つよく分からないのは……)
L(『黒いノート』に書かれていたルールが本当だとすると……死神が人間を殺すわけではなく、あくまでも人を殺すのはノート固有の能力ということになる)
L(だとすると、死神は何のためにノートを渡した人間の傍にいる……?)
L(先ほども話題に上がったが……ノートのルールが英語で書かれていた……または私達の目にはそう見えている事から、死神が元々人間に使わせることを目的としてノートを渡したことは明らか)
L(その目的をより具体的に推察するなら……やはり夜神月の言うように『人間同士で殺し合うさまを観察して楽しむため』……あたりが妥当か)
L(だから死神自身も、そのための……自分が楽しむための協力をする。ゆえにカメラを探したり、壊したりもする……)
L(確かに、『ノートを持った人間同士が殺し合う』という、死神が当初想定していたであろう構図ではないとしても……『キラを捕まえようとするL』と『そのLを殺そうとするキラ』という関係は……死神目線で見ても、楽しみに値するものなのかもしれない)
L(しかし……そうだとすれば、その『楽しみ』に自ら直接介入するような手伝い……つまり、『ノートの持ち主の障害となる人間を殺すような手伝い』はしない可能性が高い)
L(ならば今、強硬に星井美希を取り押さえても……)チラッ
総一郎「? どうした? 竜崎」
L「……いえ」
総一郎「?」
L(駄目だ。今のこの状況で強硬に逮捕に踏み切ろうとしても……夜神月はともかく、夜神局長は絶対に首を縦には振らない)
L(彼なら間違い無く、『死神などという得体の知れない者がすぐ傍にいるかもしれないのに、安易に部下を接近させることはできない』と考えるだろう)
L(しかしそれも自然な感情……また私も、この推理に100%の確証まで持っているわけではない)
L(それにこの推理が正しかったとしても……そもそも死神が『楽しみ』のためだけに星井美希にノートを使わせていたのだとすると、むしろ我々が星井美希を捕まえようとした時点で……いや、捕まえてしまった時点で……)
L(『もうこれ以上は楽しめない』と判断し、星井美希も、我々も……目につく全ての人間を皆殺しにしてしまうという可能性も……)
L(いや……流石にこんな可能性まで想定していては何もできない。キラ……星井美希を捕まえることなど永久にできなくなってしまう)
L(考えろ……考えるんだ。現在の状況とここまでの推理を前提に、夜神局長はじめ捜査本部の人間を説得したうえでとりうる、星井美希を逮捕する方法を……)
L「…………」
総一郎「! またモニターが……今度はどこのだ?」
L「……12番……更衣室の前の廊下に取り付けていたカメラですね」
総一郎「ということは、もう部屋の外に……?」
月「いや、少なくとも『星井美希は』まだ中だろう。彼女が外に出たなら、たとえ一瞬でもカメラに映るはずだ」
L「そうですね。廊下のカメラは残り3台ありますが……まだそのいずれにも星井美希の姿は映っていません」
総一郎「……ということは、先に『カメラに映らない』死神を部屋から出し、部屋の外のカメラを破壊させた上で……」
L「逃げる気……でしょうね」
総一郎「! そ、それはまずい……止めねば……いや、だが相手は死神……そもそもノートを触らない限り視認できないし、できたとしても……」
L「……そうですね。それに止めるとしても、今、建物の中にいる者で我々が動かせるのは弥を除けばプロデューサーだけ……」
総一郎「……駄目だな。今、彼を動かしたところで無用な危険に晒すだけ……。星井美希の意に応じてカメラを壊すような死神が、星井美希の障害となりそうな人間を殺さないという保証は無い」
L「……そうですね」
月「…………」
月(おそらくは竜崎も、今の僕と同じ考え……『死神は人間にノートを使わせて楽しむことを目的としている。ゆえにカメラを探し、壊す程度の手伝いはしても、自ら直接、ノートの持ち主の障害となるような人間を殺すなどの手伝いはしない可能性が高い』……という考えに行き着いているだろう)
月(しかし100%の確証までは無い。だから今の父さんの指摘に対しても反論する事ができない)
月(もっとも、それは僕も同じ……また星井美希が捕まりそうになった際、『もうこれ以上は楽しめない』と判断した死神が、星井美希を含め、その場に居る人間を皆殺しにしないとも限らない)
月(……という考えにも、竜崎なら行き着いているだろうが……)
月(しかしそんな可能性まで考慮していたら、いつまで経っても星井美希を捕まえることができない。何か方法を考えなければ……)
月「…………」
総一郎「……カメラを壊してくれたおかげで、逃走経路は明確になったが……」
L「映像が何も観れない以上、星井美希がいつ、どう動くのか全く読めなくなりましたね」
月「盗聴器からは相変わらず何も聞こえてこないから、音声から動向を探るということもできないしな」
L「そうですね。あるいはもう、非常口から建物の外に出ているという可能性も……」
総一郎「! まずい。建物の外には相沢が張っている。星井美希が出て来ても下手に近付かないよう、状況だけは伝えておかねば……」
L「……そうですね」ピッ
L「…………?」
総一郎「どうした? 竜崎」
L「相沢さんの携帯は電源が入っていないようです」ピッ
総一郎「な、何?」
L「……となると……」ピッ
総一郎「竜崎?」
L「……駄目です。松田さんの携帯も電源が入っていません」ピッ
総一郎「! 何だと」
月「…………?」
L「! そういえば」
総一郎「? どうした? 竜崎」
L「星井さんは……どこに?」
総一郎「え?」
月「言われてみれば……姿が」
模木「…………」
L「模木さん」
模木「! …………」
L「星井さんは?」
模木「……トイレに行く、と……」
総一郎「!」
月「! …………」
L「…………いつ?」
模木「…………」
ガチャッ
L・月・総一郎「!」バッ
星井父「…………」
L「……星井さん……?」
星井父「…………」
(更衣室内に取り付けられた監視カメラを全て破壊し終えたリューク)
リューク「……ふぅ。ミキ、これで多分全部壊したぞ」
美希「…………」
海砂「…………」
海砂(間違い無い……最初、このお化けが何をしているのかさっぱり分からなかったけど……)
海砂(このお化けが調べていた場所……天井の照明の中、壁とロッカーの隙間、ロッカーの内側……)
海砂(全部、ライトから聞いていた……監視カメラの場所と一致する!)
海砂(それを『全部壊した』と言った……つまり今……いや、これから先、この部屋の状況は外部からは……ライトからは分からなくなった)
海砂(でも……お化けが調べていた場所からして、盗聴器はまだ壊されていないはず)
海砂(だからミサが声を出せば、ライトにも聞こえるとは思うけど……)
海砂(でも、今の状況で下手な動きを見せたら……)チラッ
リューク「…………」
海砂(……殺されるかもしれない。たった今、この部屋のカメラを全て壊したという……このお化けに)
海砂(だとしたら、今はこのまま様子を見るしか……。今のところ、このお化けがミサに何かしようとする気配は無いし……)
美希「…………」
海砂(それにしても、美希ちゃん……さっきからずっと黙ったままだけど……)
海砂(お化けの言動から考えても……美希ちゃんがこのお化けに命じてカメラを壊させたことは間違いない……よね?)
海砂(でも美希ちゃん、何でこの部屋にカメラが仕掛けられてるって分かったんだろう……? それにいつ、このお化けにそんな命令を……?)
美希「…………」スタスタ
(無言のまま、自分の使っていたロッカーの方へ歩いて行く美希)
リューク「おい。無視かよ……って、ああ。そうか。盗聴器か」
海砂「!」
海砂(盗聴器にも気付いて……)
海砂(そうか。だから美希ちゃん、ずっと黙って……)
美希「…………」
(ロッカーを解錠した美希)
美希(……暗証番号はミキが設定した『2311』のまま……とするとやはり単純に当てられたのか、または設定した番号を知る何らかの方法があったのか……)
美希(まあ今更そんな事はどうでもいいの。ミキが今、真っ先に確認しないといけないのは――……)スッ
(ロッカーから鞄を取り出す美希)
海砂「!」
海砂(『黒いノート』を……)
美希「…………」スッ
(鞄の中からビニール袋を取り出す美希)
美希(袋の中……うん。ちゃんと入ってる)
美希(いや、でもまだ……中身がどうなっているかも確認しないと)スッ
(美希はビニール袋の中からカバーが掛けられたノートを取り出すと、続けてそのカバーも外した)
美希「…………」
(裸の状態のデスノートを手に取り、まじまじと観察する美希)
美希(見た感じ……ノートの外見に異常は無い)
美希(では、中身の方は……?)ペラッ
美希(……うん。こっちの方も、何か細工されたりとかはしていない。1ページ目にはミキが書いた犯罪者の名前がそのまま残っている)
美希(そして2ページ目以降は白紙のまま……何かが書き込まれたりもしていない。またページ全体やその一部が切り取られたりした形跡も無い……)
美希(つまり、まずはノートを監視カメラを通じて観察するだけに留め……いや、流石に写真くらいは海砂ちゃんに撮らせているか)
美希(とにかく一旦は、ノートを映した映像や写真を確認・検証……)
美希(その結果、『ノートがキラの証拠となり得る』と判断できた段階で、改めてノートの現物を証拠として押さえ……その後すぐに、いや、あるいはそれと同時に――……)
美希(――ミキを逮捕する。それがL……竜崎が取ろうとしている策)
(ノートを鞄の中に戻す美希)
美希(……で、その策が成功するかどうか……いや、したかどうか、だけど……)
美希(ミキはデスノートに犯罪者の名前を書いた後、裏まで書き切ったページは必ずすぐに切り取って捨てるようにしている。だから当然、前のプロデューサーや去年のクラスメイトのAの名前を書いたページはもう無い)
美希(もしこの二人の名前が残っていたら、もう言い訳のしようも無かったから……そういう意味ではまだ助かったの)
美希(ただ、最初の1ページ目にはここ一、二週間くらいで裁いた犯罪者の名前が残っている……これはどう説明する?)
美希(キラが裁いた犯罪者の名前は一般に報道されている……それにミキのパパは刑事だし、初期の頃のキラ事件の捜査を担当していたとも言っていた)
美希(なら、その娘のミキがキラ事件に興味を持ち、キラが裁いた犯罪者の名前を記録として書き留めていた、としても……)
美希(かなり苦しいけど、これならまだ誤魔化せるギリギリのライン……だと思う)
美希(……でも、それは……)
美希(やっぱり、それが普通のノートやメモ帳とかに書かれていた場合……だよね)
美希(いくらなんでも、この表紙の『DEATH NOTE』の文字……それに表紙の裏の『HOW TO USE IT』……これらについては……)
美希(でも……たとえどんなに疑わしくとも、ノートの効力を直接検証しない限りはLも確証までは得られないはず)
美希(だからミキが捕まって、ノートの事について追及されたとしても……)
美希(『キラ事件への関心から、キラの心理・行動原理を理解しようと考え、『直接手を下さずに心臓麻痺で人を殺す』というキラの殺人の方法を自分なりに推理し、キラになりきってみた』と釈明する……)
美希(……ありえない発想じゃない。もしミキに他の何の嫌疑も無く、かつノートの検証もされなければ……あるいはそれで通るかもしれない)
美希(でも、前のプロデューサーに去年のクラスメイトのA……ミキと接点のあったこの二人が、キラ事件の開始と同時期に『心臓麻痺で』死んでいるという事実……)
美希(Lがこれら全てを『時期的な偶然の一致』で済ますとは到底思えない)
美希(しかもそれに加えて……春香)
美希(去年のファーストライブの日に春香のファンの人が『心臓麻痺で』死に……さらにそのほとんどすぐ後に、アイドル事務所の関係者の人達……もとい、“765プロ潰し”計画に関与していた主要人物達が事故や自殺で……計八人も死んでいる)
美希(“765プロ潰し”計画との絡みでいえば、黒井社長からうちにスパイとして送り込まれていた前のプロデューサーもこれに関与していたことになるし……)
美希(そして言うまでもなく、ミキと春香の間には『765プロのアイドル仲間同士』という強固なつながりがある……)
美希(……駄目だ)
美希(ここまでの材料が揃っている状況で、『このノートに名前を書かれた人間は死ぬ』などと書かれたノートをミキが所持していて……)
美希(しかもそのノートには『ミキの筆跡』で『キラが裁いた犯罪者の名前』が書かれている)
美希(この状況で……Lがノートの検証をしないなんてありえない)
美希(Lなら必ず、このノートに誰か――たとえば死刑囚など――の名前を書く)
美希(自分の身代わりをテレビの生中継に晒し、キラに殺させようとしたLが……それをしない理由は無いの)
美希「…………」
美希(……いや、それでもノートを映像に――そしておそらくは写真にも――撮られている以上、ミキが捕まる事は避けられない。黙秘を続けることはできても、それでミキが自由になることは無い)
美希(下手をすればそのまま、一生……)
美希(だからと言って……やすやすとノートを差し出せば検証されて終わり。ミキは死刑か、よくても終身刑……どのみち同じ事)
美希(じゃあ仮に今からLを殺したら? ……それでも、他の捜査員がLの遺志を継いでノートの検証をする?)
美希(……しないとは言い切れない。それに検証をせずとも、ここまでの嫌疑があるミキを自由にするはずが無い)
美希(だとしたら……やっぱりこの場合でも、ミキは一生檻の中)
美希(では今現在、ミキの知り得る捜査本部内の全ての者を、キラの証拠となる映像や写真を全て消してから死ぬように操って殺したら?)
美希(そしてもし仮に、ミキが顔も名前も知らない人が捜査本部内にいたとしても、その人の情報を公開するように他の捜査員を先に操ってしまえば……)
美希(いや、それでも捜査本部内で顔も名前も知られていない人が一人でもいたら駄目か)
美希(それに……もしそういう人がいなくて、捜査本部内の人間を全て消す事ができたとしても……)
美希(Lなら)
美希(Lなら必ず……万に一つも、絶対に顔や名前といった情報が外部に漏れる、あるいは漏らされることが無いような者を……自分の直下に配置しているはず)
美希(“全世界の警察を動かせる”ほどのLがその程度の準備を怠るとは思えない)
美希(そしてLなら、必ずそういった者に今日撮った映像や写真を既にリアルタイムで共有している)
美希(だとしたら、もうノートの情報そのものを完全に抹消することは不可能……そう考えるべき)
美希(それなら今、ミキが取るべき行動……いや、選択肢は――……)
美希「…………」
(スマホのメール画面に素早く文字を打ち込んでいく美希)
美希「…………」スッ
(メール画面をリュークに見せる美希)
リューク「ん?」
『この部屋の前の廊下、突き当たりの階段、その先の非常口までにあるカメラを全部壊して』
『その後、建物の外に出て、尾行の人の位置を確認して』
『それが全部終わったら、またこの部屋に戻って来て』
リューク「……って、お前な……」
美希「…………」
(無言でリュークを見つめる美希)
リューク「……分かったよ。ったく、死神使いの荒い奴……」スッ
(リュークは溜息をつきながら、壁を抜けて更衣室の外へと出て行った)
海砂「!」
海砂(壁をすり抜けて、外に……いや、それより今……)
海砂(はっきり聞こえた。……『死神』って)
海砂(つまり、あのお化けは死神……?)
海砂(! ……そういえば、あの『黒いノート』の表紙には『DEATH NOTE』って文字が書いてあった)
海砂(『DEATH』……『死』……『死神』……?)
美希「…………」チラッ
海砂「!」ビクッ
(再び、スマホのメール画面に素早く文字を打ち込んでいく美希)
美希「…………」スッ
(メール画面を海砂に見せる美希)
海砂「!」
『これから海砂ちゃんに色々質問するけど』
『絶対に声を出さないでね』
『ミキの質問に対する答えは、全部こうやってメールの画面に打って見せて』
海砂「…………」コクリ
美希「…………」ピピピッ
『それから』
『今日の事は絶対に誰にも言わないでね』
『ミキとの約束なの』
海砂「…………」コクリ
美希「…………」ピピピッ
『もし海砂ちゃんがこの約束を破るようなことがあれば』
『ミキは海砂ちゃんを殺すことになる』
海砂「! …………」
美希「…………」ピピピッ
『それから』
『場合によっては、海砂ちゃんの大切な人も』
海砂「!」
美希「…………」
美希(こういう手段は使いたくなかったけど……こうなった以上は仕方が無い)
美希(それに両親を強盗に殺されている海砂ちゃんなら……この手の脅しは必ず効く)
美希(もちろん、本心ではミキだって殺したくはない。海砂ちゃん自身は勿論……海砂ちゃんの大切な人も)
海砂「…………」ピピピッ
(スマホのメール画面に素早く文字を打ち込んでいく海砂)
海砂「…………」スッ
(メール画面を美希に見せる海砂)
『お願い』
『ライトだけは殺さないで』
美希「! …………」
美希(なんで、ここで夜神月の名前が……?)
美希(しかも呼び方も変わっている……海砂ちゃんは、少なくとも遊園地の時点までは『ライトくん』呼びだったはず……)
美希(……まあ、どうでもいいか)
美希(片想いなのか両想いなのか、あるいはいつの間にか恋人同士になっていたのか……今この場において、そんなことは大した問題じゃない)
美希(ただ重要なのは……『夜神月』が『海砂ちゃんにとって大切な存在』だという事)
美希(今はその事実だけでいい。そこに至る理由や事情はどうでもいい)
美希(とにかく、今は海砂ちゃんに対する口止めが不可欠。そのための材料として……この事実は十分使える)
美希「…………」ピピピッ
『ミキの質問に正直に答えてくれたら殺さないの。海砂ちゃんもライトくんもね』
『だから全部正直に答えてね』
海砂「…………」コクリ
美希「…………」ピピピッ
『じゃあまず最初の質問』
『誰に言われてノートを触ったの?』
海砂「! …………」
海砂(ここで本当の事を言えば、ライトが……)
海砂(いや、でも嘘をついてもそれがばれたら同じ事……)
海砂(なら……)
海砂「…………」ピピピッ
『ライト』
美希「!」
美希(これも『ライト』……? てっきり『竜崎』だと思ったのに……)
美希(……まあいいか。竜崎がLである以上、その竜崎と話を合わせていた夜神月も捜査本部に居る人間なのはほぼ間違い無いわけだし……)
美希(だとしたら、結局はどっちが主体的に海砂ちゃんの協力を取り付けたかというだけの話……ただの役割分担の問題に過ぎない。ここで拘泥すべき箇所じゃない)
美希(ただ、夜神月が具体的に何と言って海砂ちゃんの協力を取り付けたのか……それだけは、海砂ちゃんの口止めをする上で先に知っておく必要がある)
美希「…………」ピピピッ
『ライトくんに何て言われたの?』
海砂「!」
美希「…………」
海砂(もう、全部正直に言うしか……)
海砂「…………」ピピピッ
『ライトから言われたのは、自分がキラとして犯罪者を裁いていたって事』
『ミサの両親を殺した強盗を裁いてくれたのも、ライトだったみたい』
美希「!」
『でもその能力が美希ちゃんと春香ちゃんに奪われて、今は二人がキラとしての裁きをしているって』
『だからその能力を取り返すために協力をしてほしいって』
『ミサが美希ちゃんのノートに触ったのはそれが理由。そのノートは連絡用の道具で、キラとしての証拠になるからって』
『それでキラの能力を二人から取り返せたら、その後は美希ちゃんと春香ちゃんもキラの仲間として迎えるつもりだって』
『ライトはそう言ってた』
美希「! …………」
美希(どこかで観られていたのかな……。迂闊だった)
美希(でも海砂ちゃんに対して『連絡用の道具』としてノートの説明をしていたということは……Lもノートの存在には気が付きつつも、その能力までは推理できていなかった……?)
美希(いや、でもLなら……これまでのキラの裁きの傾向から考えて、『名前を書くと書かれた人間が死ぬノート』くらいは推理していてもおかしくない)
美希(だとすれば海砂ちゃんには、『殺人の道具そのもの』という説明ではいざノートに触れる際に躊躇する可能性が高いと考え、あえて嘘の説明をした……とか?)
美希(……まあいずれにせよ、もうノートのルールは知られてしまっている。今更そんなことを考えても意味は無い)
美希(それよりも今考えるべきは……これからの対策)
美希(まず竜崎・夜神月は、『キラ』になりすます事で、キラに恩義を感じている海砂ちゃんを味方に引き入れた)
美希(その上で『今はミキと春香がキラ』という方向に話を展開させた)
美希(そして『キラの能力を奪ったミキと春香を捕まえるため』という目的ではなく、あくまでも『夜神月にキラの力を取り戻させるため』という目的の下、海砂ちゃんに協力を求めた)
美希(『夜神月がキラ』なら……彼は、海砂ちゃんにとっては自分の両親の仇を討ってくれた恩人、という事になる)
美希(そしてそれが理由なのか、あるいはそれを抜きにしてもそうなのかは分からないけど……とにかく、海砂ちゃんにとって夜神月は『大切な存在』でもあるらしい)
美希(だとすれば、海砂ちゃんが夜神月に積極的に協力し、彼にキラの力を取り戻させたいと思うのは必然)
美希(そして元々友達だったミキと春香も『キラの仲間として迎える』という事なら……海砂ちゃんが協力を拒否する理由は何も無い)
美希「…………」
美希(でも、まさか海砂ちゃんに裏でそんな働き掛けをしていたなんて……全然気が付かなかったの)
美希(それにミキだけじゃなく、やっぱり春香も……疑われてたんだ)
美希「…………」ピピピッ
『ライトくんに協力してるのは海砂ちゃんだけ? もし他にも協力してる人がいたら、誰なのか教えて』
海砂「! …………」
海砂(ごめん……皆)
海砂(でも、今はこうするしか……)ピピピッ
『竜崎と清美ちゃん』
美希「!」
美希(竜崎は予想通りだけど……高田さんまで?)
美希(! そういえば、春香は今日、高田さんと……)
美希「…………」ピピピッ
『今日の事、高田さんも知っていたの?』
海砂「…………」コクリ
美希「!」
美希(……仕組まれていたんだ。今日の事、全て……)
美希(海砂ちゃんがノートを押さえている間、または押さえた後……ミキが春香に連絡を取ってもすぐに気付けるよう、予め高田さんを春香の傍に……)
美希(でも、何で高田さんまで協力を……?)
美希(いや……今のご時世、キラの支持者なんてごまんといる。もし彼女もそうなのだとしたら……純粋なキラへの崇拝心から協力したとしても別におかしくはないか)
美希(なら今、ミキがすべきことは……)ピピピッ
『海砂ちゃんのスマホを貸して』
海砂「! …………」スッ
(自分のスマホを美希に渡す海砂)
美希「…………」ピピピッ
(海砂のスマホを素早く操作する美希)
海砂(美希ちゃん……一体何を……?)
美希「…………」
(店内で歓談している春香と清美)
春香「――ですよね。それで……」
清美「ええ。本当に……ん?」
清美(……メール? 夜神くんかしら)
清美「ちょっとごめんね」
春香「あ、はい」
清美「…………!」
清美(……これは……)
--------------------------------------------------
From:弥海砂
To:高田清美
件名:(無題)
緊急事態
美希ちゃんに気付かれた
春香ちゃんに連絡される前にそこから逃げて
確認のため、このメールを読んだらすぐに空メールで返信して
その後すぐに携帯の電源を切って
無いとは思うけど、携帯のGPSから位置情報を特定されたらヤバい
美希ちゃんのお父さん警察だし
とにかく今日は誰にも連絡せずにそのまますぐに家に帰って
--------------------------------------------------
清美(どういうこと……?)
清美(夜神くんではなく、海砂さんから……?)
清美(状況が全然掴めないけど……少なくとも今、海砂さんの身に危険が迫っているのは確かなようね)
清美(ならば今は、とりあえず言われたとおりに……)ピッ
清美「…………」
清美「ああ……ごめんなさい。春香ちゃん。ちょっと急用が入ってしまって。悪いけど、今日はここで失礼するわ」ガタッ
春香「えっ。あ、はい。分かりました」
清美「本当にごめんなさいね。じゃあ、また明日の体験入門で」スッ
(テーブルに千円札を置き、足早にその場を去る清美)
春香「…………」
春香(何だろ? 急用って)
春香(まあ、いいか。『また明日』って言ってたくらいだから、そこまで深刻な内容でもなさそうだし)
春香(じゃあ私も帰ろうかな。明日もまた午前中からレッスンだし……)
春香(……と、その前に……)
春香「レム」
(正面を向いたまま、小声で話す春香)
レム「ん?」
春香「……このお店に入ってすぐ、『尾行の人も私達の後を追うように店の中に入って来た』って教えてくれたよね」
レム「ああ」
春香「今もまだその人っている? 尾行はもうずっと前からだけど、店の中にまでついて来られたのって初めてだから、ちょっと気になっててさ」
レム「……ああ。それがな……」
レム「私も気になっていたから注意して見ていたんだが……五分ほど前だったか……」
春香「?」
レム「携帯で少し電話した後に、足早に店から出て行ったんだ」
春香「えっ。じゃあもう今はいないの? 今の私の位置からは見えないけど……」
レム「ああ。いない」
春香「ふーん……じゃあもう別に気にしなくてもいいか。私も帰ろうっと」ガタッ
春香「あ、そういえば……美希のお仕事もそろそろ終わった頃かな?」
(海砂のスマホの画面を見つめている美希)
美希「!」
美希(高田さんから空メールの返信……よし。これで後は……)ピッ
(海砂のスマホから清美の携帯に電話を掛ける美希)
美希「…………」ピッ
美希(うん。ちゃんと電源も切れてる。つまりこれでもう、竜崎・夜神月から高田さんに連絡を取る事はできない)
美希(で、後は今のメールの送受信記録と発信履歴を削除して……と)
美希(まあ、こんなことをしても電話会社の方の通信記録を調べられたらすぐにばれるだろうけど……それはもう仕方がない)
美希(とにかく今は少しでも時間を稼ぎ、そして……)
美希(少しでも、早く)
美希「…………」スッ
(海砂にスマホを返す美希)
海砂(美希ちゃん……ミサの携帯で何を……?)
海砂(なんて、聞けるわけもないけど……)
リューク「あー。疲れた……」ズッ
(壁を抜けて更衣室内に戻って来たリューク)
海砂「!」
海砂(また、戻って……)
美希「…………」ピピピッ
(スマホのメール画面に素早く文字を打ち込み、その画面をリュークに見せる美希)
『どうだった?』
リューク「ああ。全部壊してきたぜ。それから『外の方』も確認したが……いなかった。いや、『いなくなっていた』が正しいか。少なくとも、今日ここに来るまではいたはずだからな」
美希「!」
海砂「?」
美希(……尾行が……いなくなった?)
美希(何故? 今日はL……竜崎にとってはキラの証拠を押さえる、最も重要な日だったはず……こんな日に限って尾行を途中で止めさせるはずは……)
美希(まさかリュークが嘘を? ……いや、それはないか)
美希(わざわざこの状況で嘘をついてまでミキを嵌めるつもりなら……そもそもカメラ破壊の時点で協力していないはず)
美希(なら本当に今は尾行がいない……いや、竜崎が判断して引き上げさせた……?)
美希「…………」
美希(この部屋と外の廊下……そして階段、非常口を映していたカメラが全て破壊されたのは当然竜崎も認識しているはず)
美希(その状況から『ミキの傍には目に見えない何かがいる』ということに気付き……尾行していた捜査員の身の安全を第一に考え、現場から離れさせた……?)
美希(もしそれが『警察』の判断なら何の違和感も無い……けど……)
美希(自分の身代わりを生中継で殺させようとまでした“L”が……そんな人道的な判断を……?)
美希(……まあいい。今は余計な考察をしている時間が惜しいの)
美希(尾行がいないならいないで、やりやすくなっただけ。後は……)
美希「…………」
(スマホのメール画面に素早く文字を打ち込み、その画面を海砂に見せる美希)
『さっき海砂ちゃんが触った、今ミキの鞄に入ってるノートの事だけど』
海砂「!」
『英語でも説明書いてあったと思うけど、一応言っておくね』
『このノートに名前を書かれた人間は死ぬ』
『それがキラの能力』
『ミキはそれをライトくんから奪い、キラの裁きをしてきた』
海砂「! …………」
美希(今はとりあえず話を合わせておかないと……ここでミキが夜神月の嘘を看破したところで、海砂ちゃんの夜神月に対する疑心を招くだけ……)
美希(『海砂ちゃんが“約束”さえ守ってくれれば、夜神月は殺さない』……これが海砂ちゃんの口を封じる最大の理由になる……いや、そうなるようにしなければならない)
美希(そのためにも、今……海砂ちゃんの『夜神月に対する信頼』を失わせるわけにはいかない)
海砂「…………」
海砂(そうか。『キラの能力を奪う』なんて一体どうやって、って思ってたけど……)
海砂(『ノート』を奪っていたんだ。それなら確かに……いや、でも……)
海砂(ライトはあの時、確かに四人の犯罪者を殺して、ミサと清美ちゃんに自分がキラである事の証明を……)
海砂(でもあの時、ノートはもう既に奪われていたはず……)
海砂(あ、でもそういえば……あのノートには、最初の方の何ページかを切り取ったような形跡があった)
海砂(つまり、もし切り取ったページにもノート本体と同じ効果があるとしたら……)
海砂(そしてライトが、ノートを奪われる前に予め何ページかを切り取っていたとしたら……)
海砂(ライトはあの日、切り取っていたページを使って、四人の犯罪者を……!)
海砂(それにその考えなら、ライトの『力の“大部分”を奪われた』という説明とも合致する)
海砂(ただノートの能力の事はミサにも話せなかったから、ライトは『ノートは連絡用の道具』なんて嘘の説明を……)
海砂(……なるほど、そういうことだったのね)
美希(で、次は……)
美希「…………」ピピピッ
『でも、キラの能力はそれだけじゃない』
海砂「?」
美希「…………」ピピピッ
(スマホの位置を動かし、メール画面が海砂とリュークに同時に見えるようにする美希)
リューク「ん?」
『今ここにいるのは死神のリューク』
『この死神はミキの言う事なら何でも聞く』
『さっき、この部屋に仕掛けられていた監視カメラを全て破壊したようにね』
海砂「!」
リューク「! …………」
海砂(やっぱり……このお化けは『死神』……!)
リューク(ククッ。こいつ……)
美希「…………」ピピピッ
『つまりミキが『殺せ』と言えば今すぐにでも人を殺すという事』
『海砂ちゃんは勿論、ライトくんでもね』
海砂「!」
リューク(『ライト』って……夜神月の事……だよな?)
リューク(俺がこの部屋から出ていた間に、こいつらがどんなやり取りをしていたのかは分からんが……どうやら、夜神月と弥海砂の間には何か特別な関係があるみたいだな)
リューク(そして今の状況から推察するに、ミキは弥海砂を殺さずに脅迫して口止めすることにしたらしい)
リューク(まあここで殺せばキラ確定だしな。賢明な判断だ)
リューク(そしてその脅迫材料として、いざとなれば俺に『弥海砂と特別な関係にある』夜神月を殺させると……なるほど、俺の姿を見られたことを逆に利用することにしたというわけだ)
リューク(しかも弥海砂は俺がこの部屋のカメラを壊すところも直に見ていた。それなら確かに、今ミキが言った脅迫の内容にも説得力が出る)
リューク(勿論実際には、俺がミキの意を受けて他の人間を殺すなんて事は絶対にしないが……)
リューク(しかし俺がここで話を合わせてやれば……まだまだ面白くなりそうだ)
リューク(……いいぜ。ミキ。このいつ捕まってもおかしくないような極限の状況……事ここに至って、それでもなお思考を最大限に回転させ、冷静に状況に対処しようとしているお前に敬意を表し……まんまと演技をしてやろう)
リューク「……ああ。その通りだ」
海砂「!」
リューク「俺は死神のリューク。詳しい経緯は省くが……今はこいつ……星井美希の傍にいて、色々と手助けをしてやっている」
リューク「だから今こいつが言った事は全て本当だ。俺はミキの命令一つで誰でも殺す」
海砂「! …………」ピピピッ
『お願い』
『ライトだけは殺さないで』
リューク「……ククッ。だってよ。どうする? ミキ」
美希「…………」ピピピッ
『なら、今日ここで観た事、聞いた事は絶対に誰にも言わないで』
『さっきも言ったけど、これがミキとの約束』
『この約束さえ守ってくれたら、ライトくんの命は保証するの』
海砂「…………」ピピピッ
『分かった』
『絶対に誰にも言わない』
『だからお願い。ライトだけは……』
『もう、愛する人を失うのは嫌。絶対に嫌なの』
『お願い。美希ちゃん』
『分かったの』
『約束さえ守ってくれたら、ミキはそれでいいの』
『それに海砂ちゃんは、今でも大切な友達だから』
海砂「! …………」ピピピッ
『ミサもだよ』
『美希ちゃんは私が最初に憧れたアイドルで、本当に大切な友達』
『今でもそう思ってるよ』
美希「…………」ピピピッ
『ありがとう。海砂ちゃん』
『でも、ミキ……もう行くね』
海砂「!」
美希「…………」ピピピッ
『海砂ちゃん』
『今までミキに憧れてくれてありがとう』
『今までミキと友達でいてくれてありがとう』
『さようなら』
海砂「! ……み……」
美希「…………」スッ
(右手の人差し指を立て、海砂の口元に軽く当てる美希)
海砂「! …………」
『それと』
『プロデューサーには『ミキはトイレに行ってる』って言っておいて』
『しばらくしたらミキは体調不良で帰ったことにするから、それまで適当に話を合わせておいてほしいの』
海砂「…………」コクリ
美希「…………」クルッ
(海砂に背を向け、ドアノブに手を掛ける美希)
美希「…………」
海砂「…………」
美希「…………」クルッ
(再び、海砂の方を振り返る美希)
海砂「?」
美希「…………」
(美希は声を出さず、唇だけを動かす)
『ありがとう』
海砂「! …………」
美希「…………」スッ
(美希は再び海砂に背を向けると、極力音を立てないようにしながら、ドアの鍵を開ける)
……カチャッ……キィ……
海砂「!」
リューク「……ククッ。じゃあな」
美希「…………」
(美希はリュークと共に、そのまま振り返ることなく更衣室を出て行った)
……パタン……
海砂「…………」ペタン
(気が抜けたように、その場に腰を下ろす海砂)
海砂(まだ、何か……夢の中にいるみたい)
海砂(でも、でももうきっとこれで、美希ちゃんとは――……)
海砂「…………!」ゴシゴシ
海砂(駄目。ここで泣いちゃ……ライトに声、聞かれちゃう)
海砂(それに今は考えていても仕方ない)
海砂(今、ミサができること……いや、しなければならないことは……)
海砂「…………」
(美希と海砂が更衣室から戻って来るのを待っているプロデューサーと吉井)
P「…………」
P(……遅い……)
P(美希が最後の撮影を終えて更衣室に向かってから、もう十五分……いくらなんでもこれは……)
P(やはり何かあったのか? しかしLが常に監視を続けている以上、不測の事態が生じた場合は必ず俺にも連絡があるはず……)
吉井「あの」
P「えっ。あ、はい」
吉井「二人、流石にちょっと遅いので……更衣室の様子を見てきますね」
P「あ……ええ。そうですね。お願いします」
吉井「……あっ、ミサ!」
P「!」
海砂「ごめんごめん、ヨッシー」
吉井「もう。星井さんはともかく、あなたは先に撮影終わってたんだからもっと早く……って、あれ? 星井さんは?」
海砂「ああ、美希ちゃんならトイレだよ」
吉井「あら、そう」
P「…………」
吉井「ならもう少し待ちますか」
P「……そうですね」
P(弥の様子にも不自然な点は何も……ならやはり何も無いのか……?)
海砂「…………」
P「? どうしました? 弥さん」
海砂「えっ、あ、何でもないです。はは……」
P「?」
海砂(しまった……この人……765プロのプロデューサーさんもライトの協力者だって事……美希ちゃんに言ってなかった)
海砂(ミサも結構ギリギリの精神状態だったから……完全に頭から抜けてた)
海砂(まあでも、そもそもミサとこの人は今回の件では一言も会話してないわけだし……『そうとは知らなかった』でも一応は通る……よね?)
海砂(それに今からメールや電話で伝えたとしても……そういう通信記録って、後で警察とかが調べたらすぐに分かっちゃいそうだし……)
海砂(それが元で美希ちゃんに足がついたりしたら、むしろ藪蛇に……)
海砂(……うん。ミサはこの人の事は知らなかった……そういうことにしておこう)
海砂「…………」
P(いや……よく見ると少し変だな……弥の様子)
P(一見、普通に見えるが……“何か知っているが隠している”……そんな風にも見える)
P(だが今、俺が独断で動くわけにも……とにかく一度、Lと会話してからだな)
P「…………」
P「メール……? 美希から?」
海砂「!」
吉井「えっ」
P「…………」
吉井「星井さん、何て?」
P「……『体調が悪いから帰る』って……」
海砂「! …………」
吉井「体調が? そうは見えませんでしたけど……」
P「…………」
吉井「でも、○○さんに顔も見せずに帰るなんてよっぽど……ねえ、ミサ。そんなにしんどそうだったの? 星井さん」
海砂「……うん。そういえばちょっとしんどそうだった……かも」
吉井「! そうならそうと、もっと早く……」
海砂「ごめんなさい。でも美希ちゃん、さっきトイレ行くときも『先にスタジオ戻ってて』としか言ってなかったから……」
P「……まあ、とりあえず連絡してみます」ピッ
P(プロデューサーの立場でなら連絡するのは自然……むしろしないとこの場では不自然だろう)
P「…………?」
P(電源が入っていない……?)
P「…………」ピッ
吉井「どうでした?」
P「つながりませんでした。少し電波が悪いのかも……ちょっとあっちの方で掛け直してみます」
吉井「分かりました」
(スタジオから廊下に出たプロデューサー)
P「…………」
P「…………」
L『Lです』
P「ああ。俺だ」
L『どうされましたか?』
P「実はさっきまで、美希がトイレに行っていたんだが……体調不良ということでそのまま帰ってしまったらしい。俺宛てにメールで連絡があった」
L『! ……そうですか』
P「? そうですかって……あんたはその経緯を知ってるだろ? ずっと監視カメラで観ていたはずだ」
L『……いえ。それが……』
P「?」
L『実は、こちらの再生機器に不具合が生じまして……途中から、そちらの映像が一切観れなくなってしまったんです』
P「! 何だって?」
L『すみません。その復旧作業をしていたため、あなたに連絡するのが遅れてしまいました』
P「それは別にいいが……それで、映像は直ったのか?」
L『いえ。今も復旧中ですがまだ回復していません。なので星井美希の動向も途中から分かっていません』
L『彼女が最後の撮影を終え、更衣室に戻って来たあたりまでは観れていたのですが……』
P「…………」
L『ですので、彼女が帰ったという事も今あなたから聞いて初めて知りました』
P「……そうか」
L『はい。すみません』
P「だが『黒いノート』は確認できたんだろう? さっきのあんたのメールによると」
L『ええ。それを映した映像および写真は押さえてあります。今はその検証をしているところです』
P「どういうノートだったんだ?」
L『すみません。それはまだよく分かりません』
P「…………?」
L『ただ、今は肝心の星井美希の動向が分からなくなっていますので……まずはそちらの方から追いたいと思います』
P「尾行は? 建物の外に張らせていたんじゃ?」
L『はい。ですが少し連絡の行き違いがあったようでして……どうも、途中で現場を離れてしまったようなんです』
P「……そうか」
L『色々とすみません。いずれにせよ、今はまだ色々と状況が不透明ですので、ある程度状況が見えてきたらまたご連絡いたします』
P「……ああ。分かった。じゃあまた後でな」ピッ
P「…………」
P(……妙だな……)
P(少なくともLなら、そのような万一の場合に備え、別の場所・別の機器でも映像を再生できるようにしておくはず……ましてやこんな重要な局面……)
P(それに『尾行していた者との連絡の行き違い』というのも……)
P(『行き違い』という言い方も曖昧だし……何かを隠しているというよりは、むしろその場で咄嗟に作った言い訳のような……)
P(いずれにせよ……Lらしくない)
P(いや、というより……)
P(Lが『Lとしての対応』を取り繕う事もできないほどに、想定外の事態が起きている……?)
P(そしてその事態の発生を俺には伏せている……?)
P(そもそも『ノートの内容が分からない』というのも変な話だ。少なくとも映像には収めてあるのだから、そこに何か書かれていたのか、いないのか……書かれていたなら、それはどのような内容だったのか……その程度の客観的な情報なら現時点でも十分伝えられるはず)
P(Lはやはり何かを隠している。……俺に対して)
P(だが少なくとも、これまでの状況とLの言動から推測すると……)
P(『黒いノート』は存在した。これは事実と考えていいだろう)
P(そもそも『ノートが無かった』のであれば証拠が無く逮捕自体できないし……また最初からノートが無くとも状況証拠だけで捕まえる気でいたのなら、こんな回りくどいことをせずにもっと前に美希を逮捕していたはず)
P(だがLはそれをしなかった。それは何よりもLが『キラとしての証拠』を美希から挙げることに拘っていたからに他ならない)
P(つまりノートが無かったのなら『無かった』と言うはず……だからLが『ノートはあった』と言った以上、それは事実と考えるしかない)
P(しかしLは、肝心のノートの内容を俺には伝えず隠している……)
P「…………」
P(一つありえるのは、そのノートがまさにキラとしての決定的な証拠……Lが推理していたように『名前を書くと書かれた人間が死ぬノート』だったような場合)
P(だがそれを直截に俺に伝えると、俺が『やはり美希を捕まえることなんてできない』などと言い出し、Lに対する協力を放棄する……という可能性が考えられる)
P(俺はずっと『美希と春香がキラではないことを証明したい』とLに言い続けていた。ならばこの程度の可能性は想定されて当然だろう)
P(なのでLとしては、俺には『今から星井美希を逮捕するから、それまで彼女をその場に留めておいてほしい』という言い方ではなく、『ノートの検証に時間が掛かっているから、もう少し星井美希をその場に留めておいてほしい』とでも言っておき……)
P(……俺の不意を衝いて、美希を逮捕する。これが最も失敗確率の低い方法だろう)
P(しかしそれなら、ノートの内容を把握した時点で俺にその旨の連絡をしてくるはず。それが無かったということは……)
P(本当にノートの検証に時間を要していたという可能性……確かにそれも考えられる。が、しかし……)
P(先ほどのLの不自然な態度から考えると、むしろ……)
P(やはりノートの内容以前に、Lですら想定できていなかった『何か』が起こったという可能性……)
P(今の状況からすれば、この可能性の方が……)
P(…………)
P(そして……美希)
P「…………」
P(俺はまだ、お前を信じていて……いいんだよな?)
P(俺はまだ、お前のプロデューサーでいて……いいんだよな?)
P(……美希……)
(どこからか部屋に戻って来た星井父を見つめるL、月、総一郎)
(模木は星井父を見ようとはせず、俯いたまま視線を床に落としている)
星井父「…………」
L「……星井さん……?」
星井父「…………」
L「あなた、今までどこへ……?」
星井父「…………」
L「! …………」ピッ
L「ワタリ」
ワタリ『はい』
L「今すぐ電話会社に問い合わせて、星井係長、相沢さん、松田さんの携帯電話の通信記録を調べてくれ。ここ一時間程度でいい」
ワタリ『! ……分かりました』
総一郎「竜崎!?」
月「…………」
星井父「……いや、その必要は無い」
L「! …………」
星井父「相沢と松田に連絡を入れたのは俺だ。『今すぐ携帯の電源を切り、尾行を中止して現場を離れろ』と伝えた」
総一郎「! 星井君」
L「…………」
星井父「竜崎。あなたが俺に『この捜査本部に居るとき以外は』ずっと着けておくように、と指示していた例の超小型マイク……」
星井父「『捜査本部に居る間も』着けさせておくべきだったな」
L「……まさか、捜査本部内でこんな行動を取るとは思いもしませんでしたからね」
総一郎「なぜ、そんなことを……いや……」
星井父「…………」
総一郎「聞くまでもない、か……」
星井父「…………」
総一郎「だが、いつの間に……? 星井美希が更衣室に戻って来たあたりまでは、君はまだこの部屋にいたはず……」
星井父「……私がこの部屋を出たのは、更衣室のカメラが壊れ始めたあたりです」
月「確かにその頃は、僕も竜崎も父さんも、更衣室のカメラが次々と壊れていく様子ばかりに気を取られていた……星井さんがいなくなっていたなんて全く気が付かなかった」
L「はい。ですが……模木さん」
模木「! …………」
L「先ほどの私の問い掛けに対する応答……あなたは知っていましたね? 星井さんがこの部屋を出て行ったことを」
模木「…………」
L「それを知った上で、あなたは」
星井父「やめろ。竜崎。模木は関係無い」
星井父「確かに……模木は俺が部屋を出ようとした事に気付いた。だから俺は咄嗟に『トイレに行ってくる』と模木に嘘をついて部屋を出たんだ。……それだけだ。模木は俺の取った行動には何の関係も無い」
模木「…………」
L「…………」
星井父「…………」
L「正確には何と言ったんですか? 相沢さんと松田さんに対して」
星井父「……『美希が監視と尾行に気付いた可能性が高い。天海春香との連携も含め、どんな行動に出るか読めないから一旦尾行は中止して現場を離れろ』」
星井父「『無いとは思うが、何らかの方法によって、GPSから位置情報を調べられる可能性もある。だから携帯の電源はこの通話の後にすぐに切れ』」
星井父「『また逆につけられて、捜査本部の位置を特定されたらまずい。二、三時間ほど適当に時間を潰してから戻って来てくれ』」
星井父「……俺が伝えたのはこれくらいだ」
L「…………」
月「携帯の電源を切らせれば、僕達から連絡を取ることはできなくなる。しかもその状態がこの後二、三時間は続く……」
総一郎「つまり、尾行を完全に無効化したということか……。だが、相沢にせよ松田にせよ、星井君の言ったことを何も疑わずに信じたというのか……?」
月「さっき竜崎も言っていたことだよ。父さん」
総一郎「ライト」
月「まさかこの捜査本部内で、星井さんがそんな行動に出るなんて誰も予想していなかった」
月「そして、これはさっき星井さん自身も言っていたことだが……竜崎は、ずっと以前から……正確には今年の4月、僕がこの捜査本部に合流した日からだが……星井さんの動きを監視するために、この捜査本部に居るとき以外は常に超小型マイクを身に着けさせていた」
月「そこまで用心深く星井さんの事を監視していた竜崎の虚を衝いて、こんな行動に出るなんて……普通は思わない」
月「だから、相沢さんも松田さんも疑えなかったんだ」
総一郎「…………」
月「だがそれも全ては『突然、更衣室内のカメラが次々と壊れ始める』という予想しえない事態が発生したせい……これで僕達は皆、星井さんの存在が完全に頭から消えてしまった」
L「……そうですね。これは私の失敗です」
星井父「…………」
総一郎「星井君」
星井父「…………」
総一郎「君の行動が、娘である星井美希を想ってのものだということは理解できる。……私にも、同じくらいの歳の娘がいるからな」
総一郎「自分の娘がいつ逮捕されるか分からない、という極限の状況に陥った時……その可能性を少しでも遠ざけたい、先延ばしにしたい……その気持ちは父親として当然のものだろう」
星井父「…………」
総一郎「だがそれでも、君のした事は……」
星井父「分かっています」
星井父「私はどんな処分も甘んじて受けます」
総一郎「星井君」
星井父「……覚悟は、もう出来ていますので」
総一郎「! ……星井君……」
総一郎「君が昨日、『父親としての』覚悟はもう出来ている、と言っていたのは……」
星井父「はい」
星井父「たとえこの身を賭しても、美希を守る」
星井父「……その覚悟です」
総一郎「!」
L「! …………」
星井父「そして、あの『黒いノート』が美希の鞄の中から出てきた時……その疑惑が確信に変わりました」
総一郎「…………」
星井父「勿論、まだ100%そうだと決まったわけじゃない。あのノートに書かれていたことが本当であるという確証は無いし、仮にそうだとしても、別の誰かが美希に罪を着せるために美希の鞄にノートを仕込んだ可能性だってある」
L「…………」
星井父「しかしたとえそうだとしても、もう美希が逮捕されること自体は既定路線……いつか美希の潔白が証明される日が来るのだとしても、それは果たしていつになるのか。何年後……何十年後……それまで美希はどうなるのか……」
星井父「そしてもし本当に美希がキラなら」
星井父「美希は、もう二度と」
総一郎「星井君……」
星井父「そう思った時……私は一人、この部屋のドアの方へと向かい」
星井父「途中で気付かれた模木には、さっき言ったことを告げて」
星井父「部屋を出ました」
L「…………」
総一郎「星井君。こうなった以上、今更ながら聞くが……これまでにも、我々の与り知らぬところで今回のような行動は……」
星井父「誓って、していません。……と言っても、それを証明する術などは無いですが」
総一郎「うむ……」
L「……それは本当でしょう。今日も星井美希が普通にノートを撮影現場に持参し、鞄ごとロッカーに入れていたのがその証左です」
L「もし事前に星井さんから情報が伝わっていたのなら、このような状況には絶対になりえなかったはずです」
総一郎「確かに……」
L「そして、模木さん」
模木「…………」
L「正直にお答え下さい。あなたは気付いていましたね?」
L「星井さんが部屋を出て行った、その本当の目的に」
模木「! …………」
星井父「おい。竜崎」
模木「……はい」
星井父「! 模木」
L「…………」
模木「だから係長の考えている事は、目を見れば大体分かります」
星井父「模木……」
模木「先ほども、部屋を出て行こうとする係長の目を見た瞬間、すぐに係長の思惑に気付きました。しかし……」
模木「私は、それに気付かないふりをしました」
L「…………」
模木「ですから、係長が処分を受けるというのなら……私も同罪です」
星井父「! 模木」
総一郎「…………」
L「……お二人の最終的な処分は警察に任せますが……とりあえず、当面の間……いえ、キラ事件が解決するまでの間は……外部からの連絡を完全に遮断する形で監禁させて頂きます」
総一郎「! 竜崎」
L「お二人がした行為はキラ容疑者逃走の幇助行為……立派な犯罪行為です。これくらいは当然の措置です」
総一郎「しかし……」
L「もっとも、どのみちもう直にキラとの決着はつくでしょうから……あくまでもその時までの暫定措置です。その後の事は警察内で処理して下さい」
総一郎「……分かった」
星井父「すみません。……局長」
模木「……すみません」
総一郎「いや……」
月「だが竜崎、監禁すると言っても、どこに……? もしかして、新しい捜査本部のビルを使うのか? 後一週間で完成する予定だが……」
L「いえ。そこを使うまでもありません。このホテルの中にも、緊急事態の発生……たとえば、急遽キラ容疑者の身柄を確保した場合などに備えて、いくつか予備の部屋を借りています。その中の二部屋を使って、星井さんと模木さんを別々に監禁します」
月「なるほど。しかもキラ容疑者の身柄を確保した場合などに備えて……ということは、監視カメラや盗聴器も?」
L「はい。当然完備しています。なので監禁中のお二人の様子はここから常に監視し続けられます」
月「そういうことか」
星井父「…………」
模木「…………」
L「では、お二人を夜神さ……いえ、月くん。それぞれの部屋に連れて行ってください。キーは今から渡しますので」
総一郎「!」
月「……ああ。分かった」
L「…………」
総一郎「……いや、すまない。意地の悪い質問だったな。今の状況で、星井君や模木の直属の上司にあたる私に二人の連行を任すことなどできまい……」
L「……すみません。夜神さん」
総一郎「いや、いいんだ。……当然の事だ」
L「……では、月くん。これが部屋のキーです」スッ
月「ああ」
L「星井さん。模木さん。所持品は全てここに置いて行ってください。私の方で全て内容を確認し、問題が無さそうなものだけ後で届けます」
L「そして先ほども申し上げましたが、今後、キラ事件が終結するまでの間、お二人は外部からの連絡を完全に遮断させて頂きます」
L「ただしご家族に限ってのみ、私の監視の下、連絡を取ることを許可します」
L「しかし、星井さんと星井み……美希さんとの連絡だけはいかなる理由があっても絶対に許可できません。それだけはご了承下さい」
星井父「……ああ。分かった」
模木「…………」
(携帯電話や拳銃等、所持品を全て出し終えた星井父と模木)
月「――では、行きましょうか。星井さん。模木さん」
星井父「……ああ。悪いな。月くん」
月「いえ」
模木「…………」
月「…………」
ガチャッ
(Lから受け取ったカードキーを手に、星井父と模木を連れて部屋を出る月)
L「…………」
L(星井係長が娘である星井美希を想う気持ち)
L(他の捜査員に比して、一際強く星井係長を案じていた模木)
L(いずれも分かっていたはずなのに……)
L「…………」
L(捜査の初期、星井係長は765プロダクションの前のプロデューサーと星井美希の当時のクラスメイトの男子が心臓麻痺で死亡していたことを自発的に申告していなかった)
L(それを理由にすれば、もっと早い段階で星井係長を捜査本部から外すこともできたかもしれない。……だが、それは彼に信用していないと宣言するのに等しい)
L(そのような形で星井係長を本部から放出した場合、彼が次にどんな行動に出るのか読めなかった。娘である星井美希に全てを打ち明けてしまう可能性も)
L(しかしだからと言って、星井美希の逮捕直前という状況でもないのに、星井係長を監禁……いや、軟禁レベルであっても……するわけにもいかなかった)
L(だとすれば、むしろそのまま捜査本部に居てもらった方が、こちらも常にその動きを監視できて都合が良いと考え、そうしていた)
L(だが……)
L(今回の作戦の実行結果如何によっては、すぐにでも星井美希をキラ容疑者として逮捕する可能性があった)
L(その状況でリスクを最大限に排除するなら、少なくとも今日の作戦の実行前に、星井係長を捜査メンバーから外し……監禁とは言わずとも、簡易な監視状態に置く事くらいはできたはず。その程度の理由付けならどうとでも……)
L(だが私はそれをしなかった。いや、しようという発想に至らなかったのは……)
L(やはり、三日前のアリーナでの星井美希との接触。その際に彼女が見せた、演技とは思えない涙)
L(思えばあの時から、私は名状しがたい不安を感じていた。それが故に正常な判断能力を欠き、星井係長の背反の可能性を見過ごしてしまったのかもしれない)
L(もっとも本来なら、彼が作戦途中で翻意したところで、この本部内においては何もできないはずだった。私はもとより、夜神局長や夜神月もいる状況……)
L(いくら娘が逮捕されうる状況が逼迫したとしても、星井係長が我々全員の目を盗んで事を起こすなんてまず不可能……誰だってそう考える)
L(しかし実際にはそれができた。……できてしまった)
L(それは言うまでもなく、監視カメラの連続損壊という不可解な事象の発生。そこから全ての歯車が狂ってしまった)
L「…………」
L(……それにしても)
L(娘を想う、親の気持ち……か)
L(親というものを知らない私に、それがそこまで強いものだったとは……いや、今更そんなことは理由にならないが……)
L(そういえば、先ほども少し話に出ていたが……昨日、マイクを通じて私にも聞こえていた、休憩中の夜神局長と星井係長の会話の中にも……)
――……覚悟は、もう出来ていますから。
――それは……刑事としての、か?
――いえ。……父親としての、です。
L(……ヒントはあった。しかし気付くことができなかった)
L(やはりあの星井美希の涙を見てから、自分で自分を冷静に分析できなくなっていた……ということなのだろう)
L「…………」
(Lと総一郎は、モニター越しにその様子を観ている)
L「……監禁自体にはすんなり応じましたね」
総一郎「相沢を星井美希から、松田を天海春香から、それぞれ引き離し……さらに我々から二人に連絡できなくさせた時点で、既に目的は遂げていたということなのだろう。一連の行動についても隠すことなく話していたしな」
L「……そうですね」
L(その気になれば、相沢と松田の顔と名前を娘に送ることもできただろうが……)
L(そこはおそらく、刑事としての最後の良心が咎めた……ということなのだろう)
総一郎「…………」
総一郎(昨日、星井君は『父親としての覚悟は出来ている』と言っていた)
総一郎(もしあのとき、私がもっと彼に向き合うことができていれば、あるいは……)
総一郎(……いや、もう今更そんな事を言っても仕方がない)
総一郎(今は私に、私達にできることを考えなければ……)
ガチャッ
月「……モニターで観ていたとは思うが、星井さんと模木さんにはそれぞれ指定された部屋に入ってもらった」
L「はい。観ていました。お疲れ様でした」
総一郎「……しかしこれで、本部の捜査員は実質二人の減員か……痛いな」
L「まあ仕方がありません。どのみちもう事件終結……キラの逮捕までそう長い時間は掛からないでしょうから、今はこのメンバーで進めましょう」
総一郎「うむ」
月「しかし……どうやって星井美希を逮捕するかは問題だな。ノートの対策だけなら、さっき竜崎が話していたように、顔をフルフェイスのヘルメットで隠して行く程度で十分だろうが……」
L「そうですね。星井美希の傍に死神……か、あるいはそれに類する何らかの超常的な存在がいるのだとすれば……少し考える必要がありますね」
総一郎「だがまずは星井美希の現状の把握が先決だな。もうかれこれ十分ほど、彼女の姿を映像で確認できていない状態が続いている。さっき竜崎も言っていたように、既に建物の外に出ている可能性も……」
L「はい。もっともプロデューサーに一言言えば、その点はすぐにでも確認できるでしょうが……」
総一郎「いや、さっきも言ったがそれは危険だ。もし星井美希がまだ現場に留まっている場合、プロデューサーの行動を不審に思われかねない。あくまでもプロデューサーが自然に気付くのを待つべきだ。それに彼なら、星井美希がいなくなったと分かった時点ですぐに竜崎に連絡してくるだろう」
L「……そうですね」
月「! ミサが撮影スタジオの方に戻って来た」
L「!」
総一郎「無事だったのか。弥」
L「そうですね。ただ……」
月「……星井美希の姿は見えないな」
総一郎「!」
L「とすれば……やはりもう外でしょうね」
L「はい。まあ仮に更衣室で星井美希から何かされていたとしたら、流石に何らかの声は出しているでしょう」
総一郎「ああ、そうか。更衣室の盗聴器は生きていたんだったな」
L「はい。ただ、何の声も聞こえてこなかったということは……脅迫されたのか、またはキラへの崇拝心から寝返ったのかは分かりませんが……いずれにせよ、筆談か何かによって、星井美希と弥の間で何らかの意思疎通がされたのだと考えられます」
L「そうとでも考えなければ、あの悲鳴から十五分ほども無言だった状態を経て、弥が今こうして普通に姿を現したことの説明がつきません」
総一郎「うむ……」
(モニターに映し出されている撮影スタジオの中では、海砂、プロデューサー、吉井の三人が会話をしている)
月「……一体何を話しているんだろうな」
L「更衣室以外にも盗聴器を付けておけば良かったですね」
(そんな中、プロデューサーがどこかに電話を掛け始めた)
総一郎「プロデューサーが電話……星井美希か?」
L「そうですね……弥から『星井美希がいなくなった』と伝えられたのか……いや、それはないか。二人が既に意思疎通した後だとすれば、少しでも星井美希が逃げるための時間を稼ごうとするはず……」
(間も無く電話を切り、足早に撮影スタジオを離れたプロデューサー)
総一郎「! スタジオから出たぞ」
月「彼がこのタイミングで他の者達から離れるとすれば……」
L「人目を忍んで、私に連絡を取ろうとする……ですかね?」
(スタジオから廊下に出た後、周囲を見回してから携帯電話を耳に当てるプロデューサー)
ワタリ『竜崎』
L「ワタリ。プロデューサーか?」
ワタリ『はい』
L「ではそのままつないでくれ」
ワタリ『分かりました』
P『ああ。俺だ』
L「どうされましたか?」
P『実はさっきまで、美希がトイレに行っていたんだが……体調不良ということでそのまま帰ってしまったらしい。俺宛てにメールで連絡があった』
L「! ……そうですか」
P『? そうですかって……あんたはその経緯を知ってるだろ? ずっと監視カメラで観ていたはずだ』
L「……いえ。それが……」
P『?』
L「実は、こちらの再生機器に不具合が生じまして……途中から、そちらの映像が一切観れなくなってしまったんです」
P『! 何だって?』
L「すみません。その復旧作業をしていたため、あなたに連絡するのが遅れてしまいました」
P『それは別にいいが……それで、映像は直ったのか?』
L「いえ。今も復旧中ですがまだ回復していません。なので星井美希の動向も途中から分かっていません」
L「彼女が最後の撮影を終え、更衣室に戻って来たあたりまでは観れていたのですが……」
P『…………』
L「ですので、彼女が帰ったという事も今あなたから聞いて初めて知りました」
P『……そうか』
L「はい。すみません」
P『だが『黒いノート』は確認できたんだろう? さっきのあんたのメールによると』
L「ええ。それを映した映像および写真は押さえてあります。今はその検証をしているところです」
P『どういうノートだったんだ?』
L「すみません。それはまだよく分かりません」
P『…………?』
L「ただ、今は肝心の星井美希の動向が分からなくなっていますので……まずはそちらの方から追いたいと思います」
P『尾行は? 建物の外に張らせていたんじゃ?』
L「はい。ですが少し連絡の行き違いがあったようでして……どうも、途中で現場を離れてしまったようなんです」
P『……そうか』
L「色々とすみません。いずれにせよ、今はまだ色々と状況が不透明ですので、ある程度状況が見えてきたらまたご連絡いたします」
P『……ああ。分かった。じゃあまた後でな』ブツッ
L「…………」
L「まあ……予想通りでしたね。更衣室から直接非常口に抜けるルートなら、撮影スタジオの前も通らない……プロデューサーが気付けなくとも無理はない。ただそれでも本来なら、こういう場合でも相沢さんが彼女の行方を追うことができたはずでしたが……」
月「既に星井さんの連絡によって相沢さんが現場を離れてしまった今となっては、それも叶わない……か」
L「そういうことです。……ワタリ」ピッ
ワタリ『はい』
L「星井美希の携帯電話の位置情報から、彼女の現在地は特定できるか?」
ワタリ『……いえ。今から三分ほど前……16時35分頃までは確かにスタジオにいたようですが、その後は分からなくなっています。おそらく携帯の電源を切ったのかと』
L「……そうか」
総一郎「当然、その程度の対策は思いつくか……。しかし三分前ならまだスタジオ付近にいるのでは?」
L「そうですね。ただ相沢さんはもう現場に居ませんし、居たとしてもこちらからは連絡を取れません」
総一郎「うむ……」
月「……かといって、プロデューサーに全てを話して星井美希を追わせるというのも二重のリスクがあるしな」
L「はい」
総一郎「二重? 単に彼が死神に殺される危険がある、というだけではなくか?」
月「昨日、父さんが自分で言ってたじゃないか。プロデューサーに『キラである星井美希を逮捕すること』についての協力まで求めていいものかどうか……という点だよ」
総一郎「あ、ああ……そういうことか。すまん、死神の方にばかり気を取られていた。確かにそうだな。彼に全てを話したとしても、それで我々の思惑通りに行動してくれるという保証は……」
L「はい。だからこそ私も、今の通話では彼には必要最低限の事実しか伝えませんでした」
L「星井さんの事があった矢先ですので……今は完全に信用できる者以外には極力情報を伝達すべきではないと考えます」
総一郎「そうだな……石橋を叩いて渡るくらいの方が良いだろう」
L「しかし、そうなると我々としては、星井美希の行方は自力で突き止めるしかないわけですが……」
総一郎「だがもう既にスタジオを出てしまった以上はカメラも…… ! そうか、カメラは街中にも……」
L「はい。防犯カメラです。もちろんこれは今回のために付けたものではなく、元々常設されていたものですが……しかし場所が渋谷ですので、比較的多数設置されています。後はひたすらこれで潰し込みをかけるしかありません。……ワタリ」
ワタリ『はい』
L「スタジオの周囲5キロメートル圏内・および近隣の駅構内に設置されている防犯カメラの映像をこちらで観れるようにしてくれ」
ワタリ『分かりました。ただそちらのモニターの数が足りませんので、一つのモニターで複数のカメラの映像を数秒ごとに切り替えて映していく形になりますが……』
L「それで構わない。ただ星井係長と模木さんの監視は継続する必要があるから、二人がいる部屋の監視カメラの映像以外を切り替える形で頼む」
ワタリ『分かりました。であれば、すぐに』
総一郎「しかし、星井美希は一体どこへ向かうつもりなんだ……?」
L「……普通に考えて、最も可能性が高いのは……」
月「共犯者である天海春香との合流……だろうな」
L「……でしょうね。ただ天海春香であれば、まだこちらの監視が効いているはずです」
総一郎「? しかし松田も相沢同様、星井君の連絡により…… ! そうか。松田がもう尾行をやめてしまっているとしても、天海春香には……」
L「はい。彼女のすぐ傍で高田が張っているはずです。……月くん」
月「ああ。早速、連絡してみるよ」ピッ
月「…………!」
総一郎「? ライト?」
月「……高田の携帯にも電源が入っていない」
L「!」
月「いや、それは無いよ。父さん。星井さんに高田の連絡先なんて情報は渡していないし……そもそも全く面識の無い星井さんが突然連絡したところで、高田が応じるはずがない」
総一郎「それはそうか……しかし、では何故……?」
L「……考えられる中で最も可能性が高いのは……星井美希が死神にカメラを全て破壊させた後、弥を脅迫して、またはキラへの崇拝心から寝返らせてから、こちら側の事情を話させ……天海春香の監視を解くために弥をして高田に連絡させた……あたりでしょうか」
総一郎「なるほど……」
ワタリ『竜崎。防犯カメラの接続設定が終わりました。今からそちらのモニターを切り替えますが、よろしいですか?』
L「ああ。頼む」
(次の瞬間、捜査本部内のモニターのうち、星井父と模木がいる部屋を映しているもの以外は全て防犯カメラの映像に切り替わった)
(どの防犯カメラの映像も、街中の押し返すような人波を映し出している)
総一郎「こ、これは……この中から星井美希一人を探し出すというのは……」
L「まあ渋谷ですから……平日とはいえ、これくらいの人出はあるでしょうね。学生も夏休みに入っていることですし。……ワタリ」
ワタリ『はい』
L「天海春香の携帯電話の位置情報は特定できるか?」
ワタリ『それについても既に調べていましたが……星井美希とほぼ同じ時刻、16時35分頃を最後に分からなくなっています』
総一郎「! ということは……」
月「……星井美希は自分の携帯の電源を切る直前に天海春香に連絡。天海春香も星井美希からの連絡を受けて携帯の電源を切った……ってところだろうな」
L「そうでしょうね。……では、ワタリ。次は星井美希および天海春香の携帯電話の通信記録を調べてくれ。直近三十分ほどの範囲でいい」
ワタリ『分かりました』
L「そして天海春香の最後の位置情報から周囲5キロメートル圏内・および近隣の駅構内に設置されている防犯カメラの映像についても、渋谷の防犯カメラ同様、こちらで観れるようにしてくれ」
ワタリ『分かりました。少々お待ちください』
L「ああ。頼む」
総一郎「……しかし、出てくるだろうか? 二人がどこに向かったか、いや、どこで落ち合うかを示したような記録など……」
L「まあ駄目元でやってみるしかありません。電話で会話されていたらどうしようもないですが……メールのやり取りが残っていればまだ辿れる可能性はあります」
月「ただそれはどちらかというとサブだろう。今、僕達がメインで追うべきは……」
L「はい。星井美希及び天海春香の直接的な足取り……ですね。多少不確かでも、二人の向かう方向が凡そ特定できれば……その交点で落ち合う可能性は高いですから」
総一郎「そうだな。後はしらみつぶしにやるしかあるまい」
月「ああ。やろう。父さん。竜崎」
L「はい。キラの逮捕、キラ事件の解決……もうすぐそこまで来ています」
L「頑張りましょう。正義が勝つ、その瞬間まで」
ガチャッ
(周囲を見回しながら、非常口から建物の外に出る美希)
美希「……ホントに尾行の人はいないんだね? リューク」
リューク「ああ。いない。俺はこの建物の半径100メートル以内を何度も飛び回って確認したんだ。間違い無い」
美希「そこまでしてくれてたんだ。どうもありがとうなの。リューク」
リューク「何……まだまだ楽しめそうだからな。ククッ」
美希「…………」ピピピッ
リューク「ん? メールか?」
美希「うん」
リューク「…………?」
(美希のスマホの画面を覗き込むリューク)
リューク「! ああ……なるほど。『それ』か。そういえば大分前に決めてたな」
美希「そうなの」
リューク「ククッ。まさか本当に『それ』を使う日が来るとはな」
美希「……よし。これで送信、っと」ピッ
美希「で、次は……」
リューク「ん? まだ送るのか?」
美希「うん。今度はプロデューサーね」ピピピッ
リューク「プロデューサー? わざわざ連絡してから行くのか?」
美希「うん。黙っていなくなって、行方を捜されでもしたらかえって面倒だからね」
リューク「なるほど」
美希「……これでよし、っと。で、後は携帯の電源を切って……」ピッ
リューク「これで準備万端ってわけか」
美希「まあ、とりあえず携帯からは位置がばれなくなるってだけだけどね。後は――……」
【同時刻・都内某カフェ近くの路上】
(カフェを出た後、一人で路上を歩いている春香)
春香「……ん? メール?」ピッ
春香「! …………」
レム「ハルカ。それは……あの時の」
春香「…………」
春香(とりあえず、携帯の電源を切って……)ピッ
春香「…………」
リューク「で、ミキ。ここから先はどうするんだ?」
美希「…………」
リューク「建物から出たのはいいが、街中には至る所に防犯カメラが付いている。そしていくら俺でもその全てを発見して破壊するのは不可能……いや、できたとしても時間が掛かり過ぎる。建物内の監視カメラとは付けられている数も範囲も比べ物にならないからな」
リューク「かといって何の対策もしないままに突き進めば、行く先々でカメラに映っちまう。そして今ミキが着ている服は最後の撮影時の衣装のまま……つまり、Lに観察されていたであろう衣装のままだ。一瞬でもカメラに映ったが最後、『あの場所』に辿り着く前に追い付かれるか、先回りされるかでアウトだ」
美希「…………」
リューク「さあ、どうする気だ? ミキ」
美希「……ここが渋谷で良かったの」
リューク「え?」
美希「ねぇ、リューク。渋谷ってどういう街だと思う?」
リューク「? どういうって……若者が多く集まる街、か?」
美希「そう。つまり……こういうことができちゃうってことなの!」ダッ
(途端、スタジオ前の路上に飛び出す美希)
美希「やっほー! 皆ー! 星井美希なのー!」
リューク「!?」
「えっ!」
「ミキミキ!?」
「うわっ、マジだ! ミキミキだ!」
「えええ!? 何で何で何で!?」
ザワザワ…… ザワザワ……
(一斉に、近くに居た若者達が美希の周りを取り囲み始める)
リューク「…………!?」
「すげー! ミキミキだ! 本物だよ本物!」
「わー、ホントに美希ちゃんだ~! かわい~」
「服、めっちゃおしゃれ~」
ワイワイ…… ガヤガヤ……
(瞬く間に、美希の周りには若者達による人垣が出来た)
美希「えへへ……わーい! 皆、ミキのために集まってくれてありがとーなの!」
リューク「…………」
リューク(どうする気だ? こんなに人を集めて……これじゃまともに身動きすら……)
リューク(! そうか……この状態なら……)
「ミキミキ、これテレビの撮影かなんか?」
「いや、オフじゃないの? スタッフとかいないし」
「ねぇ美希ちゃん、その服どこで買ったの?」
「ライブ近いけど練習とかどんな感じ?」
「俺、ライブ行くから! アリーナ席の最前!」
美希「きゃー。ミキ、そんなに一気に話し掛けられても困っちゃうのー」
アハハ…… カワイー ミキミキー
リューク「…………」
リューク(これだけ一か所に人が集まれば……しかも皆、少しでもミキに近づこうと、押し合いへし合いの状態になっている)
リューク(これならもしミキが一瞬カメラに映ったとしても、すぐにそれと特定するのは困難……少なくとも『一目見て判断できる』ようなレベルじゃない)
リューク(勿論、精緻に検証されればいずれは分かるだろう。しかしそれには時間が掛かる)
リューク(ミキの目的はあくまでも『あの場所』に辿り着くまでの時間を稼ぐこと……つまりそのためにあえて人を集め、自らの盾としたってわけだ)
リューク(……ククッ。なかなかやるじゃないか。ミキ)
リューク(だがカメラは一応これで凌げるとしても、いつまでもこの群衆に囲まれた状態を続けるわけにはいかない……当然、どこかでこいつらを振り切る必要がある)
リューク(そのあたりはどうする気だ? ミキ……)
美希「…………」
「お?」
「何だ何だ?」
「どしたの、ミキミキ?」
美希「――かけっこしよっ! よーいドン!」ダッ
(突然、群衆の隙間を縫うように走り出した美希)
リューク「ウホッ!?」
「ミキミキ!?」
「ミキミキが走り出したぞーっ!」
「追いかけろーっ!」
「キャー! 美希ちゃんこっち来てー!」
「み、美希ちゃーん! み、みーっ!!」
美希「あはっ。こっちなのー♪」
リューク「! …………」
リューク(完全に周囲の人間の不意を衝いた動き……! 戸惑う皆の間を、持ち前の運動神経で掻い潜って……!)
リューク(そして人波の中心にいるミキが動けば、必然、それに伴って人波も大きく動き、うねりが生まれる)
リューク(そのうねりは別のうねりをもたらし、またそれを見た周囲の人間をもさらに呼び込む)
リューク(こうして可能な限りの多くの群衆を自身の周囲に引き付け、自らを隠す“壁”をより広範囲にわたって形成……)
リューク(普通なら少しでも目立たないように慎重に動くであろうこの状況下で、あえてこんな大胆な行動を取るとは……)
リューク(だが人が増えれば増えるほど、それに比例して振り切るのも困難になるはず……一体どうするつもりだ? ミキ……)
ワアアア…… ミキミキー! マッテー!
(混乱の渦の中、ひたすら走り続ける美希)
美希「やーん♪ ミキ待たないのー♪」
「ちょ……み、ミキミキ速過ぎ……!」
「も、もう無理ぃ……!」
「どうして諦めるんだそこで!」
「後は俺に任せとけ! うおおおっ! ミキミキー!」
美希「あはっ。皆、まだまだ元気いっぱいみたいだねー♪」
美希(さて、と……もうちょっとかな?)
美希「…………」
月「どの映像も人、人、人……やはり、この中から星井美希一人を探し出すのは容易ではないな。もっとも彼女が着替えていなければ、最後の撮影時の衣装のままのはずだが……しかしもはやこの状況では、着ている服がどうとかというレベルではない」
L「そうですね。ただ星井美希からプロデューサーに連絡があったのはつい先ほどの事のようですので、まだスタジオからそう遠くには行っていないと思われますが」
総一郎「しかし、今更ながらだが……何故、星井美希はわざわざプロデューサーに連絡したんだ? 黙って建物を出て行った方がより逃げる時間を稼げたのでは?」
L「確かにその考えも一理ありますが……現場からいなくなればどのみちすぐに気付かれてしまうでしょうし、またその時点で本人からの連絡が無ければ、当然、どこへ行ったのか行方を捜されてしまうでしょう」
L「一方、メールだけとはいえ、まがりなりにも本人から連絡があったのなら、念の為に確認の電話くらいは掛けるかもしれませんが、それがつながらなかったからといって、普通はあえて周囲を捜索するまでの事はしないでしょう」
L「つまり結果的に、星井美希としてはその方が逃げやすくなる……そう考えての行動だったと思われます」
総一郎「なるほど……」
L「またこの事から分かることとして……弥がどこまで私達の事情を星井美希に伝えてしまったのかは分かりませんが……少なくとも、私達がプロデューサーとつながっていることについては伝えていないものと思われます」
L「それがわざとそのようにしたのか、結果的にたまたまそうなったのかまでは分かりませんが……流石にその事が伝わっていれば、星井美希も安易にプロデューサーに連絡したりはしないでしょうから」
総一郎「確かにな」
L(つまり、彼はまだ使える……か)
月「…………?」
L「? どうしました? 月くん」
月「いや……気のせいか? どうも渋谷の映像を観ている限り、ますます人の数が増えていっているような……?」
L「……そうですね。というよりもむしろ、これは……」
総一郎「人のうねり? とでも言うべきか。何かこう……全体的に混沌としているような状態に見えるな」
月「ああ。まるでちょっとしたパニック状態にも見える。人が多過ぎてどこがその中心部なのかもよく分からないが……もしかしたら何かイベントでもやっているのかもしれないな」
L「……いずれにせよ、やはりこの状況で星井美希を見つけ出すのは極めて難しそうですね」
総一郎「うむ……」
ワタリ『竜崎。天海春香の方の防犯カメラの接続設定も終わりました。今からそちらのモニターのうち、三分の一程度をそちらの方に切り替えますが、よろしいですか?』
L「ああ。頼む」
ワタリ『では映します』
総一郎「こちらはまあ……普通の人通りだな。これなら運良く天海春香が映っていたら分かるかもしれない」
L「そうですね。ただ向こうも、少なくとも普通の変装はしているはず……それでも今日の天海春香の服装が具体的に分かっていればまだ良かったのですが……」
月「現時点でそれを知っているのは……今日彼女を尾行していた松田さんか、行動を共にしていた高田しかいない」
L「はい」
総一郎「そういえば……そうだな。そして今は二人とも連絡がつかない状態……もっとも、松田はそのうちここに戻って来るだろうが……」
L「はい。ただそれも二、三時間後でしょうね。星井さんがそのように指示したのですから」
総一郎「では現状では天海春香の方の割り出しも難しい……か」
L「まあ……とはいえ、渋谷の人の渦の中から星井美希を見つけるよりはまだ目がありそうな気がします。それに天海春香の変装パターンについては相沢さんと松田さんにこれまでの尾行の都度、記録してもらっていたデータもありますし。ですので……月くん」
月「! ああ」
L「天海春香の判別・特定は月くんに任せたいと思います。三か月以上にわたり天海春香の家庭教師をしていた月くんなら……たとえ彼女が変装していても、あるいは見つけられるかもしれませんので」
月「分かった。やってみよう」
総一郎「竜崎。天海春香の方をライトに任せるということは……渋谷の星井美希の方もまだ諦めてはいないということだな?」
L「勿論です。ただ先ほども申し上げたように、この街中の映像からの特定は極めて困難ですので……この際、観察対象を星井美希が使うであろう交通機関に絞りましょう。いくらなんでも、この先ずっと徒歩で移動し続けるということは無いでしょうし、プロデューサーにメールを送ってからすぐに移動を開始したとしても、その時点からはまだ十分そこそこしか経っていないはずですから……駅やバス停にはまだ辿り着けていないとみていいでしょう」
総一郎「なるほど」
L「というわけで、私は渋谷駅構内の映像を重点的に確認しますので……夜神さんはバス停およびタクシー乗り場付近をお願いします」
総一郎「分かった」
L「ただ、そうは言っても街中を完全に捨てるのも怖いので……ワタリ」
ワタリ『はい』
L「暫くの間は交通機関を使わずに徒歩で移動する可能性や、ほとぼりが冷めるまでどこか人目につきにくい場所で身を潜めているという可能性……また既に路上でタクシーを捕まえて移動している、またはこれからそれをするという可能性もある。なので念の為、現在の街中の映像と並行して、16時35分以降の映像を可能な限り繰り返し再生し、それらしき動きが無いかを確認してほしい」
ワタリ『分かりました』
L「…………」
L(星井美希……天海春香……)
(大勢のファンや集まって来た群衆を引き連れながら走り続けている美希)
美希「…………」
美希(よし。そろそろこのへんでいいかな)
美希「皆、ちょっとごめんねなのー!」ダッ
(突然、人の波を掻い潜るように擦り抜け、近くの店の中に入る美希)
「えっ! ミキミキ?」
「店の中入っちゃった?」
「追いかける? どうする?」
ザワ…… ザワ……
(店の外で混乱しているファン達を尻目に、店内のトイレに入る美希)
美希「ふーっ……結構走ったから汗だくなの」
美希「さて、ちょっと一息入れつつ……」ゴソゴソ
(鞄の中から私服を取り出す美希)
リューク「! ……なるほどな。あれだけの数のファンを引き連れたままじゃ、どこまで行ってもついて来られちまうんじゃないかと思ったが……ここで私服に着替え、素知らぬ顔で外に出て行き……そのまま撒いちまうってわけだ」
美希「そ。今、外の皆は完全に『アイドル・星井美希』を認識している……撮影で使った、派手目の衣装を着たミキをね。だからここでミキが私服に着替えて出て行けば、絶対にそれがミキだとは分からないの。いつも使ってる変装用の帽子や伊達眼鏡もあるしね」
リューク「そしてLの方も……奴なら、今日ミキが最初に着ていた服くらいは当然覚えているだろうが……それも外の“壁”が機能している限りは関係無いってわけか」
美希「そういうことなの。それを抜きにしても、駅の方に近付けば近付くほど、自然と人の数は増えていくしね」
リューク「ククッ。なるほどな」
(数分後、私服に着替え、変装した状態で店の外に出る美希)
(店の前では、まだ美希が出て来るのを待っているらしき多数のファン達がたむろしている)
美希「…………」スタスタ
「ミキミキ、遅くない?」
「いや、でもまださっき入ったとこだし……」
「ていうか、ここで待っててもいいの?」
「さあ……」
リューク「……ククッ。ばれないもんだな」
美希「でしょ? さあ、ここまで来ればもう一息なの」
美希「…………」
リューク「ようやく駅か。なかなかの逃走劇だったな。ミキ」
美希「まだなの」
リューク「えっ」
美希「……このへんでいいかな」
(駅ビル内のアパレルショップに入る美希)
リューク「? また店に入るのか? でももう着替える服無いだろ」
美希「無ければ買うだけなの。えーっと。これとこれとこれと……」
リューク「! …………」
美希「……ま、これくらいかな。すみません。これ全部下さいなの」
店員「かしこまりました。ではレジの方へどうぞ」
(レジで会計する美希)
美希「あ、できたらタグ全部取ってほしいの。あとこれ全部今すぐ着たいの」
店員「かしこまりました。それではそちらのフィッティングルームをご使用下さい」
美希「ありがとうございますなの」
リューク「…………」
(数分後、買ったばかりの服に着替えた状態で店を出る美希)
美希「どう? リューク。これでまたさっきまでとは全然イメージ違って見えるでしょ?」
リューク「……ああ。確かにこれなら分からないだろう。しかし、随分慎重だな」
美希「まあね。リュークも言ってたけど、今日元々着てたさっきの服はLには観られてるからね。今までみたいに人混みの中に紛れてたらともかく……改札や駅のホームにあるカメラにはほぼ間違い無く映っちゃうし、そうなったらほぼ確実に気付かれちゃうと思うから」
リューク「なるほどな」
美希「それに……『決めて』たしね。こうするって」
リューク「ああ。そういえばそうだったな」
美希「それと」
リューク「? それと?」
美希「何よりも、ミキは信じてるからね」
美希「春香のコト」
【同時刻・某電車内】
春香「…………」
春香(……美希……)
L「どうですか? 月くん。天海春香の方は」
月「いや……まだそれらしき人物は見当たらないな。やはり設置されているカメラの台数自体が少ないのと、複数台のカメラの映像を数秒毎に切り替えて観ているため、どうしても確認できる範囲に限界がある」
L「そうですか」
月「星井美希の方はどうだ? 駅構内には現れたか?」
L「いえ。こちらもまだ見つかっていません。やはり流石は渋谷駅……これだけの人の数となると、観察対象を改札や駅のホームに絞ってもなかなか難しいですね」
総一郎「バス停およびタクシー乗り場付近も同様だ。ただ最後の撮影時の衣装のままなら割と派手目の衣服だったし、カメラに映っていれば分かりそうなものだが……」
L「私は一応、途中で元々着ていた私服に着替えた、という可能性も考え……それに似た服装の女性も意識的に探すようにしていますが……こちらもまだ見当たっていませんね」
月「そうか……」
L「まあ、ここで焦っていても仕方ありません。できることを確実にやっていきましょう」
総一郎「ああ。そうだな」
月「ところで、竜崎。星井美希が建物を出たと思われる時点からもう十五分ほどになるが……『あっちの方』は……」
L「……そうですね。そろそろ連絡しておくべきですね」ピッ
【同時刻・撮影スタジオ】
出版社社員「大丈夫そうですか? 星井さん」
P「……ええ。電話はちょっとつながらないですが……こうしてメールも送ってきているので大丈夫だと思います」
出版社社員「そうですか。では今日はもうこの辺で解散とさせて頂いてよろしいでしょうか? 撮影自体は全て終了していますので」
P「ああ……そうですね。私の方は大丈夫です」
吉井「こちらも大丈夫です」
海砂「…………」
出版社社員「分かりました。では明日の予備日はどうしますか? 特に撮り直したい写真などがなければ、そのままキャンセルとさせて頂きますが……」
P「あー、そうですね……」
P(……『ノートは映像と写真に収めた』ってことだから、もうキャンセルでいいんだろうが……一応、Lに聞いてからの方が良いか?)
出版社社員「? どうされました?」
P「ああ、いえ……ん? 」ピッ
P(……メール? …… !)
P「あ、ちょっとすみません」
出版社社員「はい」
P(……『今日はもう解散で良い』『明日の予備日もキャンセルで良い』『今後の事はおってまた連絡する』……)
出版社社員「大丈夫ですか?」
P「……ええ。すみません。では明日もキャンセルで大丈夫です。ヨシダプロさんもそれでいいですか?」
吉井「はい。問題ありません」
出版社社員「分かりました。では撮影は本日分のみで終了とさせて頂きます。誌面は校正段階でお送りしますので、また別途ご確認をお願いいたします」
P「承知しました」
吉井「よろしくお願いします」
海砂「…………」
P・吉井「ありがとうございました」
海砂「…………」
吉井「ちょっと、ミサ」
海砂「あっ、すみません。……ありがとうございました」ペコリ
吉井「もう。何ボーっとしてるの」
海砂「あ、あはは……ごめんごめん。ヨッシー」
海砂(いけない、いけない。普段通り、普段通り……)
海砂(正直言って、まだ事態を完全に受け容れることはできていない)
海砂(美希ちゃんが本当にキラだったこと……そして、その能力はライトから奪ったものだったこと)
海砂(彼女の傍には死神がいて、その気になればいつでも誰でも殺せるということ……)
海砂(そう、つまり……ライトでも)
海砂「…………」
海砂(なら今、ミサがすべきことは……たった一つだけ)
海砂(他の何に代えても、美希ちゃんとの“約束”を守る。そしてライトを絶対に死なせない)
海砂(キラのことは崇拝していた。キラが悪人を裁き、理想の世の中になることを心の底から願っていた)
海砂(でも)
海砂(今のミサは……世の中より……ライトが好き)
海砂(だからミサはライトを守る)
海砂(いや……守ってみせる)
海砂(絶対に!)
P「…………」
P(やはり気になるな……弥の様子)
P(先ほど更衣室から戻って来てからというもの……どうも心ここにあらず、という風に見える)
P(それにLの方も気に掛かる。あれだけ注意深く監視していたはずの美希が建物から出て行ってしまったというのに、特に対策を取ろうともせず……)
P(いや、むしろ……もう既に取っているのか? 俺に告げていないだけで……)
P(……その可能性はあるな。そもそも、これはLが俺をどこまで信用しているかという問題でもある)
P(『今後の事はおってまた連絡する』とのことだが……もしかするともうLは、俺に何も言わないまま、美希を捕まえる気でいるのかもしれない)
P(そんなの冗談じゃない)
P(俺は美希のプロデューサーだ)
P(今、美希がどんな状況にあるかも分からないのに……こんな形で梯子を外されてたまるか)
P(だからもし今、Lが俺に何の説明も無く美希の逮捕を強行しようとするなら、その時は――……)
P「…………」
L「……とりあえずプロデューサーには連絡しましたので、撮影現場の方はもう大丈夫でしょう」
総一郎「弥は? 何かフォローしておかなくていいのか?」
L「弥は……もうこちらからは接触しない方が良いと思います。というよりは……」
月「ああ。今、ミサに下手に接触すると……ミサか高田か、あるいは僕か、竜崎か……とにかく誰かが死ぬ可能性が極めて高い」
総一郎「! …………」
L「はい。先ほども同じ事を言いましたが……弥はほぼ間違い無く、星井美希との間で何らかの意思疎通を行っています。それが脅迫されたためなのか、キラへの崇拝心から寝返ったためなのかまでは分かりませんが……いずれにせよ、もうある程度こちら側の事情は星井美希に伝わってしまっていると考えた方が良い」
L「特に高田については確実に伝わっています。そうでなければあのタイミングで高田に連絡できるわけがないし、高田が携帯の電源を切る理由が無い」
総一郎「うむ……」
月「そして高田の事が知られたのであれば、その背後にいる者の存在と正体……つまり僕と竜崎が捜査本部にいる、ということも既に知られている可能性が高い。勿論、ミサの認識では僕がキラで竜崎はその崇拝者、ということになっているが……それが全くのデタラメだということは他ならぬ星井美希が一番よく分かるはずだ」
L「他の何者でもない、キラその者ですからね」
月「ああ。ゆえに今、ミサに接触してその事が星井美希に勘付かれたら一巻の終わりだ」
L「それに寝返っている方のパターンなら、それこそ弥本人から星井美希に即刻伝えられてしまうでしょうしね」
総一郎「……いや、待てよ。それならむしろ、ライトも竜崎ももうとっくに殺されていてもおかしくないのでは……? つまりまだ二人が生きているということは、弥もまだそこまでは話していないという可能性も……」
L「いえ。流石に、今私達が生きているからそうだと判断するのは早計だと思います。『今日の今日』で殺してしまえば、自分に対する嫌疑をより強めるだけですから」
L「『分かっているが、まだ殺せない』……今はそのように判断していると考えた方が自然です」
総一郎「なるほど……」
ワタリ『竜崎。星井美希および天海春香の携帯電話の通信記録が判明しました』
L「! どうだった?」
ワタリ『まず、星井美希ですが……16時35分頃に、天海春香とプロデューサー宛てに一通ずつメールを送っています。それ以外には電話の発着信も含めて何の記録もありません』
L・月・総一郎「!」
総一郎「メール……送っていたのか」
月「…………」
L「ワタリ。プロデューサー宛てのメールは『体調不良なので帰る』という内容のものだな?」
ワタリ『はい。そうです』
L「では、天海春香の方の通信記録は?」
ワタリ『はい。天海春香の方は、件の星井美希のメールを受信した以外は何の記録もありません。なお、その星井美希のメールにも返信はしていないようです』
L「……分かった。では星井美希が天海春香に送ったメールのみ、こちらのメインのモニターに出してくれ」
ワタリ『分かりました』
L・月・総一郎「!」
L「……これは……」
--------------------------------------------------
From:星井美希
To:天海春香
件名:ミキなの。
春香、おつかれさまなの!
ミキね、今お仕事終わったところなんだけど、
ちょっと小腹が空いたから神田にあるおむすび屋さんに行ってみるの!
前に春香とも話してた、十穀米が美味しそうなとこね。
そういうわけで、もしよかったら春香も一緒にどう?
来れそうなら連絡ちょーだい、なの!
あはっ☆
みき
--------------------------------------------------
L「…………」
総一郎「神田の、おむすび屋……」
月「一応、調べてみたが……確かに一軒、該当するな。『十穀米を使用』という部分も合っている」
L「……では、少なくともこの文章で意図されているのはその店で間違い無いでしょうね」
総一郎「とすると、この一見普通に見えるメールが……」
L「まあ……可能性はありますね。メールの場合、今まさに私達がしているように、警察がその気になればいくらでも内容を調べられる……だからメールの文中にはあえて核心となる内容は書かず、単に天海春香を誘い出すだけの文面とした……」
月「だが文面をカムフラージュしたところで、こうやって会う場所を直接的に書いてしまったら意味が無いような気もするが……」
L「……そうですね。ただ、まだ二人の直接的な足取りが掴めていない以上……たとえ無駄であっても、この店の近辺も監視対象に加えざるを得ませんね」
総一郎「うむ……そうだな」
ワタリ『店から少し離れた場所には……しかし、これだけでは十分な監視は難しいかと……』
L「……そうか」
総一郎「竜崎」
L「? はい」
総一郎「私が現場に行こう」
L「!」
月「駄目だ父さん。危険過ぎる」
総一郎「ライト」
月「星井美希達だけならまだしも、姿の見えない死神までいるかもしれないという状況……何が起こるか分からない」
総一郎「確かに、死神に動かれたらどうしようもないかもしれんが……しかしそれを恐れていては、二人を逮捕することなど永久にできんだろう」
月「! それは……」
L「…………」
総一郎「何、無茶はせん。もし二人を発見しても、その場での直接的な接触はしない。あくまでも監視を行うだけだ」
総一郎「それに張り込みは刑事の基本でもある。これまでの長い刑事人生……このような局面は何度もあった」
月「それなら……僕も一緒に行かせてくれ。父さん」
総一郎「! ライト」
月「僕はずっと父さんに憧れていた。父さんのような刑事になりたいとずっと思っていた。……勿論、今も」
総一郎「…………」
月「だから頼む。父さん。僕も一緒に……」
総一郎「……ライト。お前が初めてこの捜査本部に来た日に、私が言ったことを覚えているか?」
月「! それは……」
総一郎「私はお前にこう言った。……『お前が少しでも危険な目に遭いそうになったら私は止める。そしてその際には必ず私の指示に従え』……と」
月「…………」
総一郎「もっとも、事実としては、お前にはもう既に多くの危険な捜査を担当させてしまっている。元々家庭教師として接点を持っていた天海春香のみならず、キラ信者である弥に対する接触……」
月「…………」
総一郎「さらにお前に『キラ』の役を演じさせての、弥と高田に対する協力の依頼も……」
月「いや、でもそれらは僕や竜崎が……」
総一郎「ああ。確かにいずれの場合も、私はお前や竜崎の熱意と説得に負け……お前がこういった危険な捜査にあたることを追認してきた。そういう意味では今更なのかもしれない。だが今、この瞬間においては……最初の約束通り、私の指示に従ってもらう」
総一郎「ライト。お前はここに残れ。いいな」
月「…………」
総一郎「忘れるな。ライト。どんなに推理力や考察力が長けていても、お前はまだ一介の学生に過ぎん」
月「…………」
総一郎「心配せずとも、お前はこれから勉強して警察庁に入るんだ。そうすれば、私と共に現場に張り込む機会などいくらでもあるだろう」
総一郎「だから……今日のこの場は私に任せろ」
月「……分かったよ。父さん。僕が現場に行くのは諦める」
総一郎「! ライト」
月「だが……」
総一郎「? 何だ?」
月「さっき、父さん自身も言っていた事だが……星井美希達はともかく、死神は父さんにとっても未知の相手……銃が効くとも思えない。結局、父さんが危険な事に変わりは無いだろう?」
総一郎「……それは否定せん。私とて、姿を見ることができない相手をどうこうできるなどとは思っていない」
月「だったら……」
総一郎「それでも、だ。ライト」
月「…………」
総一郎「それでも私は行かなければならない。一人の警察官として。そして……星井君の上司としてだ」
月「!」
L「……夜神さん。責任を感じておられるのですか。星井さんの件……」
総一郎「……竜崎。彼は私の部下であり、今回の件は私の管理下で起こった出来事だ」
総一郎「もし私が彼の行動に気付き、止めることが出来ていれば……相沢と松田が現場を離れてしまうことも無く、あるいは星井美希と天海春香の行方を見失うという事態にはならなかったかもしれない」
L「…………」
総一郎「だとすれば、上司である私がその責任を取るのは当然の事だ」
L「夜神さん」
月「父さん……」
総一郎「それにいずれにせよ、既存の防犯カメラだけでは十分な監視は難しいという事だ。ならばどのみち、誰かが現場に赴いて直接監視を行う必要がある」
L「……そうですね。そしてそれなら確かに……刑事として長年の経験を積んでこられた夜神さんがこの中では最も適任でしょうね」
月「! 竜崎」
総一郎「そういうことだ。ライト」
月「…………」
総一郎「お前はここに残って、竜崎と共にカメラと星井君達の監視を続けてくれ」
月「……分かったよ。でも、父さん」
総一郎「? 何だ?」
月「たとえ何が起ころうとも、絶対に生きてまたここに帰って来ると……それだけは約束してくれ」
総一郎「! ……ああ。勿論だ。ライト」
L「…………」
L(これもまた親子愛……か)
L「そうですね……微妙な所ですが……私も月くんも、そして夜神さんも……もう既に『捜査本部にいる人間』として顔も名前も知られている可能性が高いわけですから……万が一、監視に気付かれた場合にはどのみち皆殺しにされるものと思われます」
L「それならばまだ、変に小細工せずに周囲の人通りの中に紛れてしまった方がばれにくくなるとも思います」
総一郎「確かに……どのみちばれたら終わりなら、まだそちらの方がましか」
L「それにノートではなく、死神が何か特別な力を使って人を殺すのだとすると……そもそもマスクやサングラスなど何の意味も無いかもしれませんしね」
総一郎「確かにそうだな。分かった。ではこのままの状態で行こう」
L「では夜神さん。よろしくお願いします。もし二人を発見した場合は、十分な距離を確保してから連絡して下さい」
総一郎「ああ。分かった」
L「またこちらからも、状況に変化があった場合はすぐに連絡します」
総一郎「ああ。頼む。……では、行って来る」
月「……父さん」
総一郎「? どうした? ライト」
月「くれぐれも忘れないでくれ。……さっきの約束」
総一郎「ああ。分かっている」
L「…………」
【三十分後・都内某所】
(一歩一歩、踏みしめるように歩いている春香)
春香「…………」
(その視界の前方に、一つの影が映る)
春香「!」
(春香はその影に向かって、さらに歩を進めていく)
(やがて影の正面に立つと、静かに声を掛けた)
春香「美希」
美希「……春香」
(相沢と松田は、一時間ほど前に捜査本部に戻って来ている)
(Lと月からこの日の一連の経緯を聞いた二人は、神妙な表情を浮かべたまま押し黙っている)
相沢「…………」
松田「…………」
L「お二人とも、そんなに落ち込まないで下さい」
相沢「あ、ああ……すまん」
松田「…………」
月「松田さんも」
松田「……ごめん。月くん。まだ、ちょっと頭が整理できてなくて……」
L「まあ……無理も無いですね。今暫くはゆっくり休んでいてください。いずれにせよ、今日はお二人とも尾行捜査でお疲れでしょうし」
相沢「その尾行捜査の結果が、このざまだけどな」
月「相沢さん」
相沢「……『星井美希達が監視の目をかいくぐって予測不能な行動に出てしまうという可能性もゼロではない』『だから、もし万が一そんな事態が生じたとしても、最後まで集中を切らすことなく尾行対象者の動向を注視してほしい』……昨日、竜崎にここまではっきりと釘を刺されていたってのに、俺は……」
松田「それは僕も同じですよ。相沢さん。係長から電話があった時、正直……少し頭をよぎったんです。『何で係長が?』って。『念の為、竜崎か局長に確認した方がいいんじゃないか?』って」
松田「でも、僕はそれをしませんでした。……勿論、竜崎も局長も月くんもいるこの捜査本部で、係長がそんな行動を取るなんて思いもしなかった、っていうのもありますけど……何よりも」
松田「……疑いたくなかったから。係長の事」
月「松田さん」
L「…………」
松田「なんて……刑事失格ですよね。こんな大事な局面で、碌に確認もしないままに自分の感情優先で判断してしまって……」
相沢「松田。それを言うなら俺だって同じだ。いやむしろ、お前より場数を踏んでいる分、責任度合いは俺の方が……」
L「あの」
相沢・松田「!」
L「もうそういうのはキラ事件が解決してからにしませんか」
相沢「竜崎……」
松田「…………」
L「繰り返しになりますが、今日の星井さんの行動は誰にも読めなかった」
L「そして同じ部屋に居ながら、私も月くんも夜神さんも、星井さんが部屋を出て行った事には全く気が付かなかった。それは更衣室のカメラが次々と破壊されていくという、想定外の事態が生じたが故ですが……それでも、我々が彼の行動を見過ごしてしまったということに変わりはありません」
L「その結果として、今のこの状況に至っているわけですから……責任や過失という意味では我々全員にそれがあるでしょうし、今ここでその大小を言い合っても無意味です」
L「今、我々がすべきことは、ただ一つ―――星井美希と天海春香を捕まえること。ただそれだけです」
相沢「……ああ。そうだな」
松田「まだ、キラ事件は終わってないですもんね」
月「そうですよ。相沢さん。松田さん。今はとにかく、キラを捕まえましょう」
相沢「月くん」
松田「……ありがとう。月くん」
L「竜崎です」
総一郎『朝日だ。もう神田に来て二時間ほどになるが……相変わらず二人の姿は見当たらない』
L「はい。こちらでも件の店の周辺に設置されている防犯カメラの映像をリアルタイムで確認していますが、二人の姿は映っていません」
総一郎『そうか……他の場所も同様か?』
L「はい。星井美希がいた渋谷も、天海春香の位置情報が最後に確認できた場所の周辺も、監視を継続していますが……依然としてそれらしき人物は発見できていません」
総一郎『そうか……しかし、星井美希が天海春香にメールを送ったのが16時35分頃だったから……そこからもう三時間近くも経っているということは……』
L「……はい。二人がどこかで落ち合えたのかどうかまでは分かりませんが……おそらくもう、我々が監視している範囲には現れないとみた方がいいでしょうね」
総一郎『うむ……』
ワタリ『竜崎』
L「どうした? ワタリ」
ワタリ『たった今、星井美希の携帯の位置情報が復活しました』
L「!」
月「電源を入れたのか」
L「ワタリ。星井美希の現在地は?」
ワタリ『どうやら自宅のようです』
L「! ……天海春香の方はどうなってる?」
ワタリ『天海春香の位置情報はまだ復活していません』
L「…………」
相沢「つまり……星井美希はもう自宅に戻っているが、天海春香はまだ戻っていない……ということか?」
月「そうですね。ただ、天海春香の家の遠さを考えても……『三時間』は掛かり過ぎだな。竜崎」
L「はい。『都内で星井美希のメールを受信した後、真っ直ぐ家に帰ったとすれば』……の話ですが」
松田「? どういうことっすか?」
L「つまり――『天海春香が家に帰る前に、どこかで星井美希と落ち合っていた』……とすれば」
松田「あっ」
月「二人が落ち合い、別れた後……都内在住の星井美希が帰宅している一方で、天海春香がまだ自宅に帰り着いていないとしても……何ら不自然ではない」
相沢「……なるほど。そういうことか」
総一郎『竜崎? どうした? 何か動きがあったのか?』
L「朝日さん。もう件の店の監視は止めて、捜査本部に戻って来て頂けますか」
総一郎『何?』
L「詳しくは後でお話しします。なお、相原さんと松井さんも一時間ほど前にこちらに戻られています」
総一郎『! ……分かった。ではすぐに戻る。また後で』
L「はい。よろしくお願いします」ピッ
L「…………」
総一郎「そうか……どこか別の場所で、二人が……」
L「はい。勿論、直接確認できたわけではないので、あくまで推測でしかありませんが……現実問題として、星井美希は『神田の店に行く』というメールを天海春香に送っていたにもかかわらず、その場所には姿を現さなかった」
L「また一方、天海春香も星井美希のメールには返信をしておらず、互いにすぐに携帯の電源を切っていることから電話での連絡もしていない」
L「よって、あのメールの文章には二人の間でしか通じない暗号のようなものが仕込まれており―――天海春香はそれを見るや、すぐに予め二人で決めていた特定の場所へと向かい、そこで星井美希と落ち合った……」
L「私はこの可能性が最も高いと考えています」
相沢「……だが、あの文章のどこにそんな暗号めいた要素があったんだ? 二人の関係からして、普段からメールでの連絡くらいは頻繁に行っていたはず……あんな当たり障りのない文章を他の無関係なメールとどう区別したんだ?」
L「それは分かりませんが……まあ要は二人の間でそれと分かればいいわけですから、予め、あの文章全体を一つの暗号文として決めていたのかもしれません。あの文章と一言一句違わぬメールを送信する……それを条件としておけば、他のメールとの区別も容易です」
相沢「ああ、なるほどな」
総一郎「確かに……前もってそこまで決めておけば確実だな」
L「はい。そして一方が他方にそのメールを送った時は、互いにすぐに携帯の電源を切り、予め決めていた特定の場所へと移動する……今日のような不測の事態が生じた場合に備え、前もってそういう取り決めをしていたものと考えられます」
月「だとすると、僕達はまんまと一杯食わされたってわけか」
L「……そうですね。誠に残念ながら、ですが」
松田「いや、でも待って下さいよ。じゃあもう……竜崎も月くんも、ほぼ間違い無く殺されるって事なんじゃ……?」
L・月「…………」
相沢「おい。松田」
松田「いや、だってさっき聞いた話からすると……ミサミサからミキミキに伝わっちゃってる可能性高いんですよね? 二人の事……」
松田「その状態でミキミキとはるるんがどこかで落ち合ったってなると、もう……」
L「……そうですね。なので今現在、まだ私達が生きているのは……二人が落ち合い、相談した結果……①すぐに殺すと足がつくと判断したため、まだ殺していない②殺しの行為自体はすでに終えているが、死の時間を操っているためにまだ死んでいない……のいずれかではないかと思われます」
相沢「? ①は分かるが……②はどういう意味だ? 『死の時間』とは?」
L「……実は、私はキラ事件の初期の頃から、『キラは殺す相手の死の時間を操れるのではないか』と考えていたんです」
相沢「殺す相手の死の時間を……だと?」
L「はい。キラは、顔と名前が分かる者ならいつでも自由に殺すことができる……つまり、人の死そのものを自由に操ることができる。ならば、その死の時間をも操ることができるとしても、そこまで不思議ではないのではないか……と」
相沢「なるほど……まあありえない発想ではないな」
総一郎「…………。(確かに、私と竜崎で星井美希の自宅での様子を監視カメラで観察していたときにそんな事を言っていたな……)」
L「そして今日、星井美希が所持していた『黒いノート』の現物……もっとも、映像越しではありますが……それを観たことで、その考えはより強固なものとなりました」
相沢「? どういうことだ?」
月「……あの『HOW TO USE IT』の記載か」
L「はい」
松田「? どういうこと? 月くん」
月「あの『HOW TO USE IT』の中にはこんな記載がありました。……『死因を書くと更に6分40秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる。』……つまりこの『詳しい死の状況』の中に『死の時間』も含まれるとするなら……竜崎の推理が裏付けられる」
総一郎「なるほど。つまりノートに『何時何分何秒に死ぬ』などと書けばその通りになる……ということか」
L「はい。ただ仮にそうだとしても、操れる時間の幅がどれくらいなのかは分かりません。せいぜい数時間の範囲なのか、または一年後でも二年後でもいいのか。あるいはそもそもそういった時間的範囲の制約すら無いのか……」
L「しかしいずれにせよ、『死の時間の操作』が可能であるのなら、先にノートに名前を書いておき、死ぬ時間は可能な限り後に設定しておく……そうすることで、可及的に自分達に疑いが掛からないようにする。……これくらいの事は思いついてもおかしくはないでしょうね」
松田「じゃ、じゃあ……もう竜崎や月くんの名前がノートに書かれているという可能性も……」
月「それは十分あるでしょうね」
総一郎「とすればおそらく、顔を知られている私と……模木もか。星井君はどうか分からんが……」
相沢「で、俺と松田は尾行の時のマスクとサングラスが有効なら……セーフかもしれないってことか」
L「そうですね。おそらくですが……お二人は大丈夫だと思います」
松田「…………」
相沢「…………」
総一郎「松田」
松田「あっ。すみません。相沢さんの事を言うつもりじゃ……ただ僕は、自分が……」
相沢「いや、いいさ。……分かってる」
松田「……すみません」
L「あえて、身も蓋もない言い方をしますが」
松田「え?」
相沢「竜崎?」
L「今の状況で、私達が負けることは無いです」
一同「!」
月「…………」
L「何をもって『勝ち』とするかによって、多少は意味合いが変わってくるかもしれませんが……たとえば、『私達のうちの誰かが生き残り、キラを捕まえて事件を終結させる』ことを『勝ち』と定義するなら」
L「私達は100%勝てます」
総一郎「……な、なぜそこまで言い切れるんだ? 竜崎。いくら相沢と松田が尾行時に顔を隠していたといっても、それが絶対の保証とまでは……」
L「ワタリの存在を忘れていませんか? 夜神さん」
総一郎「! ワタリ……そうか」
L「はい。確かに夜神さんの仰るように、相沢さんと松田さんの防御も絶対とまでは言い切れません」
L「つまりそれは、監禁中の星井さんと模木さんも含め、今ここに居る我々全員が殺される可能性があるという事ですが……」
L「ワタリだけは別です」
L「ワタリだけはこれまで一度も、キラ容疑者……もっとも、もう『容疑者』は取ってもいいように思いますが……である星井美希と天海春香のいずれとも、直接的な接触はおろか、同一地点に存在したことすらありません」
L「このような状況で、星井美希または天海春香が、その存在すら認識していないワタリの顔や名前を把握できているとはとても思えません」
L「よって最悪、今ここに居る我々が全滅したしても、ワタリだけは必ず生き残りますから……私達が勝つのはもう確定というわけです」
総一郎「確かに……」
松田「そう言われれば……そうっすね」
相沢「まあワタリ一人に全部背負わせるのは酷な気もするが……現実にそういう状況になったら仕方ないだろうな」
L「その点も大丈夫です。相沢さん」
相沢「え?」
L「詳しくは話せませんが……実は、私の後継者となりうる者達も育ってきていますので」
総一郎「! 竜崎の後継者……そんな者達がいたのか」
L「はい。まだ幼さの残る者達ですが、その才能は紛れもなく本物……必ずやワタリの力になってくれるでしょう」
月「…………」
L「はい。簡単に言えばそういうことです」
松田「確かにそこまで整っているなら……勝つ分には勝てそうですね」
相沢「まあ俺達が全滅した場合も『勝ち』と言えるかは若干微妙だけどな……」
松田「そこは……でも今、竜崎も言ってたじゃないっすか。僕達の中の誰かが生き残り、キラを捕まえれば勝ちだって」
相沢「まあな。それにこれまで、俺達も命を懸ける覚悟でキラを追ってきたわけだしな」
L「そうです。前にも同じ事を言いましたが、これはキラが私達を殺すのが先か、私達がキラを死刑台に送るのが先かの戦い……」
L「ゆえに、たとえ一人でも生き残り、キラを死刑台に送ることができれば……それで我々の勝ちです」
総一郎「…………」
L「ですが勿論、それは『最悪そうなったとしても勝てる』というだけの話であって、やすやすと命を捨てるような行動を取るべきではありません」
L「だから考える必要があります。あくまでも犠牲ありきではなく……誰も命を落とすことなく、キラを捕まえられる方法を」
相沢「ああ」
松田「そうっすね」
総一郎「……だが、竜崎。死神はどう考える? もし仮に、死神が二人の障害となるような者を特殊な能力を使って殺すのだとすれば……ワタリにせよその竜崎の後継者にせよ、絶対に殺されないとは言い切れないのでは?」
総一郎「誰がそれをするにしても、二人を逮捕するためには物理的な接触が必要不可欠……だがもし、その瞬間に死神が動くのだとすれば……」
L「確かに、その『仮に』が成り立てばそうですが……私はその『仮に』は成り立たないと考えています」
総一郎「何故そう言えるんだ?」
L「……考えてみて下さい。もし死神が星井美希・天海春香の意のままに、二人にとって都合の悪い人間を殺してくれるのであれば、今日の件にしても、監視カメラだけを破壊するなんて中途半端な事はせずに、弥も高田も我々も軒並み殺してしまえばよかったはずです」
L「姿が見えない死神が人を殺したところで何の証拠も残らず足もつかない……であれば、そうするのが最も直截かつ簡便な手段だからです」
総一郎「確かに……」
L「しかし、実際には二人はそれをしなかった。……いや、できなかった。それは単純に、死神はそういう手伝いはしないからだと考えられます。その理由は――……」
月「……『死神は自分の楽しみのためにノートを人間に使わせていると考えられるから』……だろうな」
L「はい」
松田「? ど、どういうことですか?」
月「簡単な事だよ。松田さん。ノートのルールが英語で書かれていたことから、死神が人間にノートを使わせる目的……より具体的に言えば、『人間が人間を殺すさまを観て楽しむため』という、いかにも死神的……いや、この場合においては『悪魔的』と言ったほうが適切かもしれないが……そんな下卑た目的を持っていたであろうことが推察される」
月「それに加えて、『死神の姿を目撃したはずのミサは手にかけずに、監視カメラだけをピンポイントで破壊する』という行動からも……『死神はカメラを壊すなどの間接的な手伝いはするが、直接的にノートの持ち主の障害となるような人間を殺すなどの手伝いはしない』『それは他でもない、『人間が人間を殺すさまを観て楽しむため』という目的に自ら直接介入する事を避けるためである』……ということが容易に推測できる」
松田「いや容易にできないって……少なくとも僕には……」
L「はい。もっとも、完全に無視できるレベルとまでは断言できませんが……一応はそのように考えていいのではないかと思います」
松田「あ、でも……死神としては、あくまでも自分が楽しむためにノートを人間に使わせているわけですから……僕達がミキミキとはるるんを捕まえちゃったら、『もうこれ以上は楽しめない』って判断して、ミキミキもはるるんも僕達も、皆まとめて殺されちゃったりしませんかね?」
相沢「……あー……」
総一郎「それは……確かにそうかもしれんな」
月(……その可能性の話をしてしまうと、父さんがキラ逮捕の際に犠牲者が出ることを懸念し、二人を逮捕する行為そのものに消極姿勢になってしまうと考え……あえて僕も竜崎も言わなかったのに……なんで、松田さんはこういう時に限って妙に勘が働くんだ)
L(松田の馬鹿……)
総一郎「……しかし」
L・月「!」
総一郎「そこで思考を停止してしまっては、永久にキラを逮捕することなどできまい。……現に今日、私が神田に向かい、張り込みを行ったのもまさにその思いからだった」
総一郎「もっとも、結果的にそれは空振りに終わってしまったが……」
L「夜神さん」
月「…………」
総一郎「確かに危険はゼロではない。しかし誰かがやらねばならない……皆、そう思って今日まで戦ってきたはずだ」
総一郎「だから皆で考えよう。たとえ危険を完全にゼロにはできなくとも、可能な限りゼロに近付けることのできる方法を」
総一郎「そしてそれこそが……今竜崎が言っていた、『犠牲ありきではなく、誰も命を落とすことなくキラを捕まえられる方法』に他ならないはずだ」
総一郎「そうだろう? 竜崎」
L「……はい。その通りです。夜神さん」
相沢「そうですね。局長」
松田「僕達ならやれますよ。なんだかんだで、ここまで誰一人死なずにやってこれたんですから」
L「…………」
L(どうやら夜神局長は私が思っていたよりも、ずっと……)
L(本当の意味で、正義の人だったようだ)
月(立派だよ。父さん。それでこそ――……)
月(僕の目指すべき警察官であり、誇れる父……夜神総一郎だ)
総一郎「まあな。だが何か手はあるはずだ」
L「…………」
松田「竜崎も、まだそのあたりの対策は思いついていない感じですか?」
L「そうですね。正直、死神の方はまだ何も対策を思いついていません」
松田「死神の方は……ってことは、ミキミキとはるるんの方はもう考えついてるんですか?」
L「それはまあ、はい。まだ大まかな構想程度ですが」
松田「おお! 流石は竜崎」
相沢「そうなのか。では一旦はその竜崎の構想を聞かせてもらってから、死神の対策はそれをベースに皆で考えていけばいいんじゃないか?」
総一郎「そうだな。現状の構想で良いので、聞かせてもらえるか? 竜崎」
L「分かりました」
月「…………」
月(もし僕が竜崎なら……攻めの手は一つしかない)
L「結論から申し上げますと、私の構想は……『アリーナライブの終了直後に星井美希と天海春香を逮捕する』です」
一同「!」
月(やはり……竜崎は僕と同じ発想、同じ思考をしている)
L「……その顔」
月「!」
L「やはり月くんも私と同じ考えでしたか」
月「……まあね」
L「では、この先の説明はお譲りしましょうか?」
月「いや、いいよ。この本部の指揮を執っているのは竜崎なんだ。そのまま続けてくれ」
L「分かりました。では……」
一同「…………」
相沢「いや、しかし……今の状況で星井美希・天海春香を一週間も野放しにするのは危険ではないか? せめてもう少し早い段階で彼女らの逮捕に動いた方が……」
L「……危険という意味ならもう既に危険ですし、安全という意味ならこのまま何もしない方が安全です」
相沢「? どういうことだ?」
L「先程も言いましたが、私と月くん、夜神さん、模木さん……そして星井さんは、もう既にノートに名前を書かれている可能性があります」
L「また今はまだ書かれていなくとも……今日、星井美希と天海春香がどこかで出会い、連携を取ったと考えられる以上……これから先、我々が少しでも不審な動きをしていると勘付かれたら最後、即座に名前を書かれてしまう……もうそれくらいに考えた方が良いでしょう」
L「よって、もう既に名前を書かれてしまっている場合なら、今焦って逮捕を急いだところで意味はありませんし……まだ書かれていない場合でも、こちらが無理に動くことでかえって書かれる危険が増すだけと考えられます」
相沢「しかし、このまま二人でどこかへ逃げてしまうという可能性もある……いくら大きなライブが直近に控えているといっても、キラとして捕まれば死刑……普通に考えて命の方が大事だろう」
L「……確かに、普通はそうでしょうね。しかしそういう意味で、彼女達は普通ではありません。たとえ捕まるリスクがあってもライブは必ず行う」
相沢「? 何故、そこまで言い切れるんだ?」
L「簡単な事です。あの二人……とりわけ天海春香にとっては、アリーナライブがそれだけ大事な事だからです」
一同「! …………」
L「これまでの天海春香の行動原理から考えるに、おそらく彼女にとって、765プロダクションは自分の命よりも大切な存在……」
L「そんな彼女にしてみれば、逮捕されるリスクを恐れて、アリーナライブの出場を放棄して逃走する選択肢など……最初から無いと言っていいでしょう」
総一郎「だが、天海春香はそうだとしても……星井美希の方はどうだ? 彼女には天海春香ほどの765プロに対する執着心は無いのでは?」
L「はい。それは私もそう思います。ですが、765プロダクション所属のアイドル同士の間には極めて強固な絆が存在している……それも事実」
L「その765プロダクション所属のアイドル同士である星井美希と天海春香が今、この状況でコンタクトを取り、今日起こった出来事を共有したとすれば……」
L「私は今、二人がこう考えている可能性が最も高いと考えます」
L「『それでも今は、一週間後のアリーナライブを優先しよう』……と」
一同「…………」
L「言うまでもなく、天海春香はそう考えるでしょうし……星井美希もまた、765プロダクションの仲間である天海春香との絆を重んじ、それに同調する可能性が高い……そう思います」
松田「で、でも……竜崎の言う通りに、ミキミキとはるるんがアリーナライブを優先させるのだとしても……別に僕達がそれに合わせる必要は無くないですか? 何故わざわざ、ライブが終わるまで待つ必要が……?」
L「今日の出来事が共有されているとすれば……二人はまず間違い無く、自分達がいつ逮捕されるか分からない状況にある、ということを認識しています」
L「とすれば当然、『アリーナライブの前に捕まることだけは絶対に避けたい』と考え、警戒しているはず……」
総一郎「……なるほど。つまり今は、二人の警戒心が最も強まっている時……ゆえにこのタイミングで仕掛けるのは危険、ということか」
L「はい。ですが逆に言えば、『ライブの前に捕まることなく、ライブを無事に終えられれば』……二人は必ず安堵する。すなわち、隙ができる」
L「そこを叩きます」
一同「! …………」
月「…………」
L「はい。それが最も成功確率が高い方法だと思います」
松田「じゃあ当日は僕ら皆、ライブ会場……つまりアリーナに潜入しておくってことですか?」
L「そうですね。皆さんにはそうしてもらうことになると思います」
相沢「? 皆さんには、とは? 竜崎は行かないのか?」
L「いえ、勿論私も行きます。ただ元々、私と月くんはライブに観客として招待されている立場ですので……他の皆さんとは異なり、正面から堂々と足を運ぶ形になるということです」
一同「!」
月「…………」
総一郎「ば……馬鹿な。この状況でそんな真似……殺してくれと言っているようなものじゃないか」
L「…………」
月「それは逆だよ。父さん」
総一郎「ライト?」
月「そもそも、星井美希が僕と竜崎をライブに呼んだのはライブの妨害をさせないためだ。彼女は天海春香とは違って、かなり早い段階から僕と竜崎の事を疑っていたはずだからね」
松田「ええと、確か……最前に近い席に来させて、竜崎と月くんがライブ中に変な行動に出ないかを監視しようとしたのだろう……ってことでしたよね?」
月「そうです。なのに当日、僕と竜崎がその席に居なかったら……まさに僕達が『変な行動』に出ていないか――即ち、『見えないところで何か企てているのではないか』――と疑われ、直ちに殺される可能性がある。……つまり結果的に、かえって危険度が高くなってしまうということです」
相沢「なるほど。だがそうせず、ちゃんと指定されたとおりの席に竜崎と月くんが姿を見せていれば……」
L「はい。勿論、今日の件でもう私達の正体にはほぼ気付かれているでしょうから、それをもって警戒を完全に解く、ということは無いでしょうが……少なくとも、『こうして普通に会場に来ている以上、今日のうちにどうこうするつもりはないのだろう』という程度には考えても……いえ、油断してもおかしくはありません」
総一郎「そのように油断を誘っておいて、その裏をかく、か……」
L「はい。攻撃こそ最大の防御です」
月「……ということだ。父さん。了承してくれないか?」
総一郎「……確かに、言われてみればその通りかもしれんな」
月「! 父さん」
総一郎「分かった。もうここまで来た以上は何も言うまい。実際、こうしてキラを逮捕直前まで追い詰めることができているのも、竜崎とライトの力があったからこそ……」
総一郎「ならば信じて賭けてみよう。二人の考えに」
月「ありがとう。父さん」
L「夜神さん。ありがとうございます」
相沢「向こうが監視するつもりで呼んだのを逆手に取り、逆にこっちが監視するってことか」
月「はい。まあそうは言っても流石にライブ中に何かするとは思えないですけどね」
相沢「まあな」
L「あとそれと……他の765プロダクション関係者に騒がれると色々と面倒ですので……二人を逮捕するにしても、一旦は全員まとめて監視下に置いてからとすべきでしょうね」
L「プロデューサーからの情報によると、幸いにもライブ当日には765プロダクションの関係者全員が会場に集合するとの事ですので……おそらくライブの終了後には全員で集まる場があるものと思われますし、無ければプロデューサーに指示してそういう場を作らせればいい」
L「後は我々が765プロダクションの関係者全員が集まっている場に急行し、星井美希と天海春香の身柄を確保……同時に、残りの関係者一同についても一定の時間――少なくとも、星井美希と天海春香の二人を外部からの連絡を完全に遮断できる状況下に置くまでは――引き続き監視下に置く」
L「以上が、二人を逮捕するための大まかな構想ですが……最初に断ったように、死神の対策についてはまだ何も思いついていません」
L「アリーナライブ当日まではまだ後一週間ありますので、それまでになんとか良い方法を考えましょう」
総一郎「うむ……そうだな」
L「それから、明日以降は星井美希・天海春香に対する尾行も止めにします。『黒いノート』の存在と内容を確認できた今、もはやカモフラージュとしての意味も無いですし……もうここまできたら怪しまれるかどうかではなく殺されるかどうかの問題ですので……あえてリスクを冒す必要も無いでしょう」
相沢「ということは……これでようやく、マスクとサングラスのセットからもお別れってことか」
L「はい。実に二か月半にも及ぶ尾行捜査……本当にお疲れ様でした。相沢さん。松田さん」
松田「長かったっすね……って、まだライブ当日の潜入が残ってますよね?」
相沢「ああ、そうか。じゃあその時はまたマスクとサングラスを……」
L「いえ。確かにお二人にも会場に潜入して頂きますが……流石にライブ会場でマスクとサングラスでは周囲から浮き過ぎてしまいますし、もし星井美希達に気付かれたら最後、それだけで『“L”が何かしようとしている』とばれてしまい、作戦が台無しになってしまいます」
松田「あー……それもそうっすね」
相沢「じゃあ俺達は素顔のままで潜入か」
L「はい。お二人の顔は知られていないはずですので、一旦はそれで大丈夫だと思います」
総一郎「では、竜崎。私はどうすればいいだろうか? 私の顔は既に二人に知られているが……」
L「そうですね。夜神さんの存在に気付かれると、イコール警察が張っていると即気付かれてしまいますので……申し訳無いですが、当日、夜神さんはここに残って留守番をお願いします」
総一郎「うむ……仕方ないな。分かった」
L「それにどのみち、この本部には誰か一人は残っておいてもらわないといけませんしね」
総一郎「……監禁している星井君と模木の監視……か」
L「はい」
総一郎「……分かった。ライブ当日は私が責任をもって二人を監視しよう」
L「よろしくお願いします。夜神さん。ただ、ワタリにも別の場所から同時に監視させるようにしますので、その点はご了承下さい」
総一郎「ああ。二人の上司である私が一人で見張るわけにはいかんからな」
L「はい。すみません」
一同「…………」
相沢「……ところで、竜崎。俺と松田は普通に観客として会場に潜入するってことでいいのか?」
L「はい。それでお願いします」
松田「でも僕達、ライブのチケット持ってないっすけど……」
L「チケットはプロデューサーに頼めばなんとかなるでしょう」
月「では、とりあえずはプロデューサーに連絡だな」
L「はい。彼には他の連絡事項もありますので、今から連絡してみます」
L「どうした? ワタリ」
ワタリ『プロデューサーから連絡です』
L「! ちょうどよかった。つないでくれ」
ワタリ『はい』
L「Lです」
P『ああ。俺だ』
L「どうされました?」
P『実は、ついさっき……19時45分頃か。美希から電話で連絡があった』
L「! それは……何と?」
P『『今日は急に現場から帰ってしまってごめんなさい』という謝罪と、『でももうほとんど回復したので明日のレッスンは普通に行けると思う』という連絡だった』
L「……明日のレッスンも午前中からあるんですか?」
P『ああ。といっても、午前中だけだけどな。今の時期に根を詰め過ぎても良くないから』
L「そうですか」
P『ところで……L』
L「? はい。何でしょう」
P『まだはっきり聞けていなかったんだが……結局何だったんだ? 例の『黒いノート』とやらは』
L「…………」
P『夕方に電話した時には『まだよく分からない』と言っていたが……今でもそうなのか?』
P『少なくとも、何か書いてあるのか、いないのか……書いてあるとしたらそれはどういう内容なのか、くらいの事はすぐに分かると思うんだが……』
L「……ええ。それは勿論、最初にノートを映像で確認した時に分かっています。結論から言うと、『何か』は書かれていました」
P『? どういう意味だ?』
L「書かれてはいたんですが、それが何の言語なのかが分からず、検証に時間を要していました」
P『マイナーな言語だったってことか?』
L「マイナーどころか、どうやら現在、地球上に存在している言語ではないようです」
P『地球上の言語ではない……? じゃあ何か、宇宙人か何かの言語だとでも?』
L「あるいはそうであるのかもしれません。とにかく現在、私にはその言語が解読できていない。ゆえに書かれてある内容が分からないのです」
P『……ちなみに、書いてあるのはノートの中のページか? または表紙や裏表紙?』
L「書かれているのは表紙とその裏ですね。表紙には何かのタイトルのような文字……そしてその裏には何行かの文章が書かれています。その他、裏表紙および中のページには何も書かれていません」
P『……そうか』
L「ですので現状、このノートが何なのかは正直言って分かっていません。私が推理した通り、『名前を書くと書かれた人間が死ぬノート』なのか……それとも何の効力も宿っていない、ただのノートなのか」
P『…………』
P『……ではまだ、美希がキラであるという確証には至っていないんだな?』
L「そうですね。ただこれまでの状況証拠はありますし、実際にこんな怪しげなノートを所持していたという事実もあったわけですから、まだキラ容疑者の最有力候補であることに変わりはありません」
L「そして言うまでもなく、これは天海春香についても同様です。彼女の方のノートはまだ確認できていませんが、状況証拠があるのは星井美希と同じですので」
P『……分かった。では、この後はどうするつもりなんだ?』
L「はい。とりあえずは『黒いノート』の映像と写真を証拠として収めましたので……次はこのノートの所持者である星井美希、およびその共犯の嫌疑が掛かっている天海春香への尋問が必要だと考えています」
P『!』
L「そして、それを実施するタイミングは――……今日から一週間後、アリーナライブの終了直後とさせて頂きたい」
P『アリーナライブの終了直後……だと?』
L「はい。ライブ前は彼女達も気が張っているでしょうから、もし本当に彼女達がキラだった場合、そのタイミングで尋問をしたりすると必要以上にプレッシャーを与えてしまうことになりかねない……その結果、彼女達がどのような行動に出てしまうのか予測がつかない、という理由からです」
P『それでライブが終わった後、ということか』
L「はい」
P『しかしそれなら、何もライブ直後じゃなくてもいいんじゃないか? 流石に当日だと本人達の疲れもあるだろうし、翌日とかでも』
L「いえ。二人を尋問している間、事務所の他の方に騒がれても困りますので……」
P『……なるほど。その点、ライブの当日であれば、他のメンバーも全員会場に集まっており、まとめて監視下に置けるから都合が良い……か』
L「流石ですね。その通りです。……よろしいですか?」
P『……良いだろう。見方を変えれば、それだけ二人の潔白が早く証明されることにつながるとも言えるしな』
L「ありがとうございます。ではそういう方向で進めたいと思いますので、ライブの準備は予定通りに進めて下さい」
P『ああ。分かった』
L「それとライブの終了後ですが、765プロのメンバー全員で集まるような場はありますか?」
P『ああ。ライブ後には必ず全員でミーティングをするようにしているよ』
L「分かりました。ではそのミーティングの時間と場所が確定した時点で私に連絡して下さい。申し訳ありませんが、その場において星井美希と天海春香の二人を任意同行という形で連行させて頂きます」
L「また二人の尋問が終わるまではあなたも含め、765プロの方は全員その場で待機して頂くようにします」
P『……分かった』
L「それから、重ねてのお願いで恐縮なのですが……ライブ中も星井美希と天海春香の様子を監視・観察させて頂きたいので、可能であれば、ライブのチケットを六、七枚程頂けませんか? 座席の位置は問いませんので」
P『! それはいいが……あんたもライブ会場に来るってことか?』
L「いえ。流石に私は行きませんが……信頼できる者を何人か選び、観客として会場に潜入してもらうつもりです」
P『そうか。折角“世界の三大探偵”のうちの一人の顔を拝めるチャンスかと思ったんだが……流石に、世界の誰にも顔を知られていない“L”がアイドルのライブ会場なんかに素顔を晒すはずもないか』
L「……はい。申し訳ありませんが、そこはご容赦頂きたく思います」
P『分かった。で、肝心のチケットの方だが……機材開放席ならまだ融通が利くはずだ。それで手配しよう』
L「ありがとうございます。では差出人名は書かなくて結構ですので、今から指定する宛先に封書で送って下さい。郵便番号は――……」
L『――……まで送って下さい。それと振込口座を教えて頂けますか。代金を振り込ませて頂きますので』
P「いいよ、金なんて……って言いたいとこだが、タダでチケット流したって音無さんにばれると面倒だな……分かった。じゃあチケットと一緒に事務所の口座を書いたメモを入れておくよ。適当な名前で振り込んでおいてくれ」
L『分かりました。では今日はこの辺で。何か事態が動いた場合はその都度……また何も無くともライブの前日には必ず連絡するようにしますので』
P「分かった。俺の方も何かあれば必ず連絡する」
L『はい。それではよろしくお願いします』
P「ああ。ではまたな」ピッ
P「…………」
P(……Lから、『美希と春香の二人をキラとして特定している』という話を最初に聞いた時……俺は『もし本当に二人がキラなら、罪は罪として、それに見合う罰を受けさせなければならない』と……そう思った)
P(いや……それは今でもそう思っている)
P(いくら犯罪者相手とはいえ、殺人は殺人……決して許されるものではないからだ)
P(だが、それはあくまでも『もし本当に二人がキラなら』の話……)
P「…………」
P(勿論、これまでの状況から……美希と春香が疑われること自体はやむを得ない事だと思う。また実際に美希の鞄から怪しげなノートも見つかっている)
P(……だが、それでも)
P(まだ美希が、春香が……あいつらがキラだとする、決定的な証拠は出ていない。もし既にそんな物があるのであれば、Lはライブなんて関係無く、とっくに二人を逮捕しているはずだからだ)
P(つまり『証拠があるのに逮捕しない』はありえない。しかし……)
P(『証拠は無いが逮捕する』は無いとは言い切れない)
P(だから今、俺が最も警戒しないといけないのは……)
P(Lの先ほどの説明は全て俺を油断させるための嘘であり……実際は、今すぐにでも美希と春香を逮捕しようとしている、という可能性……)
P(ならば今のうちに、二人を海外にでも逃がしておくべきか……?)
P(美希はハリウッド行きを早めればいいだけだし、春香もアイドルアワード受賞の実績がある。海外に売り込みに行かせるくらい別に不自然では……)
P(って、馬鹿か俺は。相手は“世界の三大探偵”だぞ。そんな小細工を弄したところで、逮捕されるのが数日延びるだけだろう)
P(だとすれば結局、今の俺にできることは……プロデューサーとして、美希と春香を最後まで支えてやることくらい……か)
P(……無力、だな……)
P「…………」
L「……はい。それではよろしくお願いします」
P『ああ。ではまたな』
(プロデューサーとの通話を終えたL)
L「……とりあえず、プロデューサーへの説明はこのあたりが限界でしょう。ノートの事を全てありのままに話してしまうと、これが二人を逮捕するための証拠になり得ること……すなわち、我々がもう二人を逮捕しようとしていることに気付かれてしまいますので」
総一郎「うむ。そうだな」
月「ところで、竜崎。さっきの電話で、プロデューサーには融通してもらうチケットの枚数を『六、七枚程』と伝えていたが……僕と竜崎の分のチケットは既にあるから、相沢さんと松田さんの分を割り当ててもまだ四、五枚余る。これは今ここに居るメンバー以外からも当日の監視役を配備するということか?」
L「はい。そうです」
L「アリーナはそれなりに広い会場ですので……ある程度の人出は必要と考えています」
総一郎「今ここに居るメンバー以外となると……我々とは別に、警察庁内で独自にキラを追っている者達なら何名かいるが……その中から有志を募るか?」
L「そうですね。それができれば非常に助かります。可能であれば、夜神さんから打診して頂いてもよろしいでしょうか?」
総一郎「ああ。分かった。では後で連絡しておこう」
L「ありがとうございます。あと私個人からも頼めそうなツテはありますので、並行してそちらにも当たっておきます」
総一郎「……ところで、竜崎」
L「? はい。何でしょう」
総一郎「まさにそのライブ当日の事だが……弥と高田はどうするんだ? 元々、竜崎やライトと一緒に行くはずだったと思うが」
L「とりあえず、弥は無しです。今の状況ではこちらからは連絡を取るべきではないと思いますし……また弥からも連絡は来ていないはず……ですね? 月くん」
月「ああ。電話もメールも一切来ていない」
L「では折角なので、ここで弥の現在の状況を確認しておきましょうか。ワタリ」ピッ
ワタリ『はい』
L「現在の弥の携帯電話の位置情報を教えてくれ」
ワタリ『今はもう自宅に戻っているようですね』
L「いつ頃から戻っているか分かるか?」
ワタリ『今から一時間ほど前……19時頃ですね。位置情報の履歴を辿ると、スタジオでの撮影が終わり、解散となった後……一度事務所に戻り、その後一時間ほど経ってから帰路に就いたようです』
L「分かった」
L「確かに、会場に来る可能性自体はあると思いますが……『弥が自らの判断で』は無いでしょう。今の弥の状況は星井美希から脅迫を受けているか、または自らの意思で寝返っているかのいずれかです。ならばそのいずれであっても、星井美希からの指示の範囲内でしか動かない……いえ、動けないものと考えられます」
総一郎「なるほど……」
L「もっとも、今の状況で私達に弥を接触させたところで何か意味があるとも思えませんし……星井美希としても、そんな無意味な指示はしないものと思われますが」
月「それにもしミサが会場に来たとしても、こちらの動きを悟られないように自然に対応すれば特に問題は無いしな」
L「はい」
【同時刻・海砂の自室】
海砂「…………」
海砂(ライトからは、未だに何の連絡も無いまま……少なくとも、あの死神が部屋のカメラを壊すまでの間……ミサが悲鳴を上げたあたりまでは、更衣室の様子を観れていたと思うけど……)
海砂(まあミサには美希ちゃんとの“約束”があるから、今はその方が都合が良いけどね)
海砂(それにきっと……ライトにはライトの考えがあって、今はミサに連絡を取らないようにしているはず)
海砂(そうじゃなきゃ、ライトがこの状況でミサに連絡をしてこない理由が無いからね)
海砂(だから今は……ライトの事を信じよう)
海砂(大丈夫。このままミサが何もしなければ、ライトが殺される事は無い)
海砂(それに美希ちゃんは、ミサの事を『今でも大切な友達だから』 って言ってくれた)
海砂(あの言葉は嘘じゃないと思う。……いや、嘘であるはずがない)
海砂(だから、ミサは美希ちゃんの事も信じる)
海砂(ライトと連絡が取れない今の状況は辛いけど……でもこれも、全てはライトを守るため)
海砂(―――ライト。ミサ、頑張るからね!)
L「次に、高田ですが――……」
ワタリ『竜崎』
L「どうした? ワタリ」
ワタリ『たった今、高田清美の携帯電話の位置情報が復活しました。場所は自宅のようです』
L「! ……そうか。では電源が切れる少し前くらいから、現在までの高田の通信記録を調べてくれ。おそらく弥の携帯からの連絡が記録されているはずだ」
ワタリ『それなら既に星井美希と天海春香の通信記録とあわせて照会を掛けていましたので、すぐに出ます』
L「そうか。では頼む」
ワタリ『……出ました。電源が切れる直前、確かに弥海砂のアドレスから送信されたメールを受信しています。そしてその直後、本文空欄のメールを同じアドレスに返信しています。その他の記録はありません』
L「分かった。では弥のアドレスから高田の携帯に送信されたメールをこちらのメインモニターに映してくれ」
ワタリ『はい』
(次の瞬間、捜査本部内の一番大きなモニター画面に、メールの文章らしき文字列が映し出された)
一同「! …………」
L「この内容……明らかに、弥が自分で考えたものではないですね」
月「そうだな。『GPSでの位置情報の特定』なんて……普通に考えて、ミサが思いつくはずがない」
L「とすると……星井美希の指示に従って弥が書いたか、または星井美希自身が弥の携帯を操作して書いたかのいずれかでしょうね」
月「ああ」
総一郎「しかしこのメールの受信後、その指示に従って空メールを返信……その後今までずっと携帯の電源を切っていたという事は……高田はまだ現状の把握はほとんどできていないということになるな」
L「そうですね。またこの時点においてもこの程度の情報しか伝達していないということは……星井美希としても、高田まで脅迫してどうこうしようとはおそらく考えていない」
月「極端な話、ミサの口さえ封じてしまえば高田からは確認の取りようがないからな。メールを送ったのはミサのアドレスからだし、それを星井美希が指示したとする証拠も無い」
相沢「結構考えているな……」
松田「でもそうなると……ライブ当日、高田も来る予定になってましたけど……そっちはどうするんですか?」
L「そうですね。今夜神さんも仰っていた事ですが……現状、高田はまだほとんど何も知らないし、また知らされてもいない。であれば……下手に彼女を動かす事で、かえって『“L”は高田を使って何かしようとしている』などと疑われかねない……ライブは予定通りに来させましょう」
月「ああ。その方が良いだろうな。どうせもう僕達とのつながりはばれているんだ。だったらむしろ向こうにもステージ上から堂々と監視してもらった方が都合が良い」
L「はい。ただ、明日のクッキングスクールは行くのを止めさせましょう。この状況であえて高田を単独で天海春香と接触させるのはリスクでしかありません」
月「そうだな」
相沢「いや、でもそれは……大丈夫なのか? 見ようによっては、それも『“L”が何かしようとしている』などと疑われたりは……」
L「勿論、嘘の理由で欠席していることはバレバレでしょう。ですが、その一事をもって事に及ぶほど向こうも馬鹿ではありません。星井美希・天海春香はあくまでもアリーナライブを最優先に考えて行動するはず……確証も無いままに下手を打つような真似はしないでしょう」
相沢「そうか。確かにここで事を起こせば、自らライブを台無しにしてしまうリスクがある……」
L「はい。だからこそ、『このままではライブが妨害されてしまう』という危険性を感じたときには……それこそ誰であれ、自分達の妨げになる者は殺すでしょうが……逆にそういった危険性を感じない限りは、ライブを無事に終えるまでは大きく動くことは無いはずです」
月「そうだな。それに向こうとしても、現状、ミサを封じている限り高田はほぼ無視できる存在のはず。仮病でクッキングスクールを休んだくらいでは動かないだろう」
総一郎「うむ。であればそのようにした方が良いな。今の状況で無用にリスクを負う事は避けるべきだろう」
L「はい。ではその方向でいきましょう。……月くん」
月「ああ。高田への連絡だな?」
L「はい。よろしくお願いします」
月「分かった。ちなみに話の持って行き方だが……向こうの認識を確認しつつ、それと矛盾が出ないよう適当に話を作り、自然な流れで今後の事も伝えるようにしようと思うが……そんな感じで良いか?」
L「はい。それでお願いします。先ほど確認したメール以外に連絡を受けていないという事は、特段口止めもされていないはずですので……おそらく高田はありのままの認識に従って話すでしょう」
月「ああ。そうだな」ピッ
清美「…………」
清美(もう家に着いてから暫く経つし、とりあえず携帯の電源だけは入れたけど……大丈夫よね?)
清美(おそらくそのうち、今日の事について夜神くんから連絡があると思うし……その連絡を受けるためにも電源を切ったままでは……)
清美(でも私が電源を切っていた間も、特にメールなどの連絡は無かったみたい……一体今、どういう状況になっているの? そして海砂さんはどうなったの?)
清美(それに、夜神くんも……)
清美(今、無事……なのよね? 夜神くん……)
清美「…………」
清美(このまま待っていても連絡が無いようなら、もういっそ私から夜神くんに……)
ピリリリッ
清美「! 夜神くん!」ピッ
清美「はい」
月『清美か? 僕だ』
清美「夜神くん……良かった。無事だったのね」
月『ああ。僕は無事だよ。心配させてしまったようだね』
清美「いいの。夜神くんが無事ならそれで……」
月『ありがとう。清美』
清美「夜神くん……」
月『……だが、清美の方こそ大丈夫だったのか? 今日、途中から携帯の電源が切れていたようだったが……』
清美「ええ。その事なんだけど……海砂さんからは何も聞いていないの?」
月『ああ。弥からはずっと連絡が無いままなんだ。清美の方にはあったのか?』
清美「ええ。それが……16時半頃に、海砂さんから私宛てにメールが来たの」
月『弥から? ……そのメール、僕にも転送してくれないか?』
清美「ええ。ちょっと待ってね」
(月にメールを転送する清美)
月『……なるほど。そういうことだったのか』
清美「それで、私は言われるがままに空メールだけ海砂さんに返信して……すぐに春香ちゃ……天海さんから離れて、携帯の電源を切ったわ」
月『…………』
清美「でも、海砂さんから夜神くんに連絡がされていないというのは……どういうことなのかしら? ……あ、でもそもそも、夜神くんは監視カメラで海砂さんの様子を観ていたはずじゃ……?」
月『ああ。実は再生機器に不具合が生じてしまい……映像が途中から観れなくなってしまったんだ』
清美「えっ。そうだったの?」
月『ああ。だから弥が君にメールを送っていたことも今まで知らなかった。だが、そうか。そういうことだったのか……』
清美「夜神くん?」
清美「! それは……映像が途中から観れなくなってしまったから?」
月『いや、確かに映像は途中で観れなくなったが……星井美希の最後の撮影のタイミングは、予め765プロのプロデューサーから教えてもらっていた。だから僕はその時を狙って弥に電話を掛けたんが……彼女が応答しなかったんだ。作戦失敗の直接的な理由はそれだ』
清美「応答しなかった……? 海砂さんが?」
月『ああ。その結果、映像は観れず、弥とは連絡が取れずという状況になってしまい、僕も現場で何が起きていたのか全く分からなかったが……今の清美の話で大体分かった』
清美「? どういうこと?」
月『清美。今転送してもらったメールだが……これはほぼ間違い無く、星井美希が弥の携帯を使って書いたか、または弥をして書かせたものだ』
清美「!」
月『おそらく星井美希は、今日、どこかの段階で弥が自分を訝しんでいることに気付き……何らかの形で脅迫したんだろう』
清美「脅迫……?」
月『ああ。具体的な方法は分からないが……少なくともこちらが映像を観れなくなってからだろう。映像に残っている範囲ではそんな事をしている様子は映っていなかったからね』
清美「じゃあ星井さんは海砂さんを脅迫し……私も協力者であり、天海さんの傍にいるということを吐かせたうえで、あのメールを……?」
月『おそらくね。そして清美さえ天海春香から離れさせてしまえば、後は自由に彼女と会うことができる。今後の方針を話し合うため、少しでも早く落ち合う事にしたのだろう』
清美「なるほど……だから海砂さんは夜神くんに連絡をしていなかったのね。星井さんに脅迫されている状況下にあるから……」
月『そういうことになる。ただそれを裏付ける証拠は無いから、あくまでも推測の域を出ないが……』
清美「……あっ」
月『? どうした? 清美』
清美「えっと、今更だけど……結局、海砂さん自身は無事……でいいのよね? 映像は途中から観れていないという事だし、今も連絡は取れない状況……もしかして、もう……などということは……」
月『ああ、それは大丈夫だ。プロデューサーから撮影自体は普通に終わって解散したと聞いている。弥もちゃんとマネージャーと一緒に帰ったそうだ』
清美「そう。それなら良かった。とりあえずは一安心ね」
月『ああ』
清美「それで夜神くん。私はこれからどうしたらいいの? 取り急ぎ、明日もクッキングスクールの体験入門があるのと、765プロのアリーナライブも一週間後に……」
月『そうだな。とりあえず明日のクッキングスクールは適当な理由を作って休んでくれ』
清美「ということは……明日の海砂さんと星井さんの予備の撮影は無しになったのね?」
月『ああ。プロデューサーに頼んでキャンセルにしてもらった。弥が今の状況になってしまった以上、明日の作戦遂行はもはや不可能だからね』
清美「それなら私が天海さんを見張る必要も無いものね」
月『そういうことだ』
清美「分かったわ。夜神くん」
清美「分かったわ。でも海砂さんはどうするの?」
月『弥については本人の判断に任せるつもりだ。既に脅迫されている可能性が高い以上、こちらからは迂闊に接触できないからね。だから清美も彼女に対する接触は控えてくれ。そして弥がライブ会場に来た場合は極力平静を装って応対してほしい』
清美「分かったわ。でも……夜神くん」
月『ん?』
清美「星井さんが海砂さんを脅迫し、私にあんなメールを送ってきた可能性が高いということは……やっぱり星井さんが『今のキラ』だったと考えていいのね? そしておそらくは、天海さんも……」
月『ああ。勿論、まだ証拠が押さえられていない以上、確証は無いけどね。だがその可能性は極めて高いと僕は考える』
清美「……そう」
月『とにかく、作戦は一旦練り直しだ。星井美希が弥を脅迫したのだとすれば、星井美希……いや、星井美希と天海春香はキラの力を手放す気は無く、やはりあくまでも自分達が『キラ』として裁きを続けていくつもりなのかもしれない』
清美「でも、海砂さんが『最初のキラ』である夜神くんの協力者であることまでは、まだ……いえ、それも分からないわね」
月『ああ。弥がどこまで話したのか分からない以上、現時点では判断ができない。最悪の状況を想定するなら、僕の正体も全てばらされている事になるだろう』
清美「夜神くん……」
月『だから、清美。明日の体験入門を欠席する件も、天海春香には特に連絡しなくていい。星井美希にばれたとすれば、必然的に天海春香にも伝わっているはず……ならば今は下手に接触しないことだ』
清美「分かったわ」
月『さらにいえば、偽名を名乗っている竜崎はともかく、本名を知られている僕や清美はもういつ殺されてもおかしくない。今はそういう状況にある』
清美「! …………」
月『それでも、僕を信じて……ついてきてくれるか? 清美』
清美「……勿論よ。夜神くん。死ぬときは一緒だわ」
月『清美』
清美「それに、まだ諦めるような段階じゃないはずよ。もう一度考え直しましょう。キラの力を夜神くんに戻し……私達の理想の世界を創世する、その方法を」
月『……そうだね。ありがとう。清美。どんな方法が良いか、よく考えてみるよ』
清美「ええ。一緒に頑張りましょう。夜神くん」
月『ああ。そして共に創ろう。心の優しい人間だけの世界を』
(月との通話を終えた清美)
清美「…………」
清美(やっぱり、夜神くんからキラの力を奪ったのはあの二人だったのね)
清美(正直、まだ完全には受け容れられていないけど……でも、夜神くんが私に嘘をつくはずがないし……)
清美(……大丈夫。不安が全く無いと言えば嘘になるけど……私には夜神くんがついているんだもの。きっと大丈夫だわ)
清美(そう。きっと……)
(清美との通話を終えた月)
月「……まあ、こんなところかな」
L「どうもありがとうございました。月くん。これで高田の方も大丈夫でしょう」
松田「さ……流石は月くんっすね。よくアドリブであそこまで淀み無く話を……」
月「まあ高田はある意味一番御しやすい相手ですから。それにああやってミサとの連絡も絶たせておけば裏も取りようが無いですしね」
L「高田が月くんの言う事を疑う事も絶対に無いでしょうしね」
松田「はは……ま、やっぱりイケメン大正義ってことかな……」
総一郎「…………」
相沢「? 局長? どうかしましたか?」
松田「なんか、妙に思い詰めた顔されてますけど……」
総一郎「ああ、いや……その、ライブの事で、ちょっとな……」
相沢・松田「?」
月「……粧裕の事か? 父さん」
総一郎「! ……やはりお前にはお見通しか。ライト」
月「…………」
松田「? 粧裕ちゃんって……? あ、そうか。今度のアリーナライブには粧裕ちゃんも……」
月「はい。僕や竜崎と一緒に行くことになっています。高槻やよいからチケットを貰っていますので」
総一郎「……高田の場合と同様に考えるなら、こちらの意図に気付かれないようにするためには、やはり粧裕も予定通りにライブ会場に行かせるべきなのだろうが……正直、私としては……」
相沢「局長」
L「…………」
総一郎「いや、すまん。勝手な事を言っているな……これでは星井君の事をとやかく言えん」
松田「いやいや、そんなことないっすよ!」
総一郎「松田」
松田「これくらい、普通の親なら自然な感情……そもそも係長の場合とは違って、粧裕ちゃんはキラ事件には全く関係無いんですから、無理に同行させる必要は……」
月「いや、今父さんも言っていたが……ライブ当日はこちらの意図に気付かれないように細心の注意を払う必要がある……であれば、たとえ僅かでも不審に思われるような余地を残すべきではない」
松田「! 月くん。でも……」
総一郎「…………」
月「大丈夫だよ。父さん」
総一郎「……ライト」
月「そもそも僕が一緒に行くんだし……竜崎だっている。僕達が動くときは高田に粧裕を見ておいてもらえばいい」
総一郎「…………」
月「大体、粧裕に『ライブに行くな』という理由付けもできないだろう? 『期末で学年50番以内』の約束も果たしたんだし」
総一郎「……そうか。そうだな」
総一郎「分かった。粧裕を頼むぞ。ライト」
月「ああ。任せてくれ」
総一郎「何だ? 竜崎」
L「星井さん達の監禁ですが……少なくとも、後一週間以上は継続することになりますので……星井さんの奥さんに『緊急の事件捜査が入ったから暫く帰れなくなる』とでも伝えておいて頂けますか?」
総一郎「ああ……そうだな。分かった。模木の方はどうする?」
L「模木さんは一人暮らしですので……とりあえずは大丈夫です。ただし預かっている携帯にご家族からの連絡が入った場合は同様の対応をお願いします」
総一郎「分かった」
松田「……実際のところ、キラ事件が解決したとしても……係長と模木さんはどうなるんでしょうね……」
相沢「まあ、流石に何らかの処分は免れないだろうな……いくらなんでも免職にまではならないと思うが」
総一郎「…………」
総一郎(星井君……模木……)
【同時刻・キラ対策捜査本部のあるホテルの一室】
(一人、部屋のベッドに腰掛けている星井父)
星井父「…………」
星井父(携帯は取り上げられ、部屋のテレビも映らない。ドアは内側からは開けられないようにロックされている。まさに外界からは完全に隔絶された状態……)
星井父(そして言うまでもなく、部屋の至る所に監視カメラと盗聴器が付けられている)
星井父(だが、部屋の中ではこうして自由に動き回ることができるし……食事も運んできてもらえる。監禁というよりは軟禁に近い)
星井父(俺がした事を思えば……随分と良い待遇を受けているといえるな)
星井父「…………」
星井父(なあ。美希)
星井父(俺は今日、刑事として絶対にしてはいけないことをしてしまった)
星井父(市民を、国民を第一に守る警察官として、絶対にしてはならないことだ)
星井父(俺は全国民の命より、たった一人の……自分の娘の命を優先して行動してしまった)
星井父(この先、俺がどうなるのかは分からない。キラ事件の解決を待たずして、懲戒免職になるのかもしれないし……)
星井父(また、そうならなくとも……俺はもう警察に残るべきではないと思う)
星井父(家族の皆には多大なる迷惑を掛けてしまうことになるが……それが俺の付けるべきけじめだ)
星井父(今は、率直にそう思う)
星井父(なあ。美希)
星井父(やっぱりあのノートは……お前が悪ふざけで作っただけなんじゃないのか?)
星井父(あるいは、同じ事務所の……双海亜美ちゃんと、真美ちゃんだったか。よくいたずらされるって言ってたよな)
星井父(今回のも、彼女達の得意のいたずらだったんじゃないのか?)
星井父(お前は、それを知らないうちに鞄の中に仕込まれていただけだったんじゃないのか?)
星井父(なあ。美希)
星井父(もしもう一度会えたなら……俺にあのノートを真っ先に渡してくれないか)
星井父(そしたらいの一番に、最初のページに俺の名前を書いて、皆の前で言ってやるからさ)
星井父(“ほら、これはただのノートですよ”って)
星井父(“これで美希の無実は証明されましたね”って)
星井父(なあ。だから、美希……)
星井父(もう一度。もう一度だけでいいから……)
星井父「……会いたい、な……」
星井父「…………」
【同時刻・キラ対策捜査本部のあるホテルの一室】
(一人、部屋の椅子に腰掛け、窓の外を眺めている模木)
模木「…………」
模木(これでもう、自分がこの事件に関わることは無いだろう)
模木(あるいはこれが、自分が警察官として関わった最後の事件となるのかもしれないが……)
模木(それはもういい。ただ、今は……係長の事だけが気がかりだ)
模木(係長……)
模木「…………」
L「では、アリーナライブ当日の作戦の詳細は今後詰めていくとして……今日のところはこの辺で解散としましょう。皆さんも色々あってお疲れでしょうし」
総一郎「……いや、竜崎。私も残ろう」
L「夜神さん?」
総一郎「この後も引き続き、星井君と模木の監視を行うつもりなのだろう?」
L「それは……まあ。はい」
総一郎「ならば、二人の上司である私も一緒に残るのが筋というものだ」
L「……いえ、別にそこまで責任を感じて頂かなくても大丈夫ですよ? ワタリもいますし……」
総一郎「そうは言っておれん。そもそも、これは私の意地のようなものでもあるからな」
L「しかし……」
相沢「そういうことなら私にも残らせて下さい。局長」
総一郎「相沢。まさか、お前も責任を感じて……?」
相沢「まあ……それが全く無いと言えば嘘になりますけど。でもそれだけじゃなくて……残りたいんです。私自身の意思で」
総一郎「相沢……」
松田「僕も相沢さんと同じ気持ちです。残らせて下さい。局長」
総一郎「松田」
松田「それにこれって……局長が一人で背負い込むような話でもないと思いますし」
総一郎「…………」
月「僕も残るよ。父さん。どのみち後一週間程度の事だしね」
総一郎「ライト。お前は流石に……いや……」
月「…………」
総一郎「……分かった。ありがとう。皆」
総一郎「竜崎。そういうことだ。今後、星井君達の監禁が終わるまでの間……つまりキラ事件が解決するまでの間、我々もここに残らせてもらう」
L「……分かりました。そこまで仰るのなら……ただ、流石に全員連日居残りでは各自の負担が大き過ぎると思いますので……一日二、三人程度を目途とした交代制、ということでよろしいでしょうか?」
総一郎「ああ。それで構わない」
L「分かりました。ではよろしくお願いします」
総一郎「? どうした? ライト」
月「いや、ちょうどニュースの時間だと思ってね」ピッ
(部屋にあるTVをつける月)
総一郎「? ニュース…… ! そうか」
L「キラの裁きの報道ですね」
月「ああ」
TV『……20時45分になりました。ニュースをお伝えいたします』
一同「…………」
TV『まず、キラの裁きのニュースです』
一同「!」
TV『……本日20時頃、四名の犯罪者が心臓麻痺により死亡したことが確認されました。警察はキラによる殺人とみて捜査を進めており……』
一同「…………」
L「まあ……ここで裁きを止めたらそれこそ自分がキラだというようなもの……当然でしょうね」
月「ああ。それにこんな所で引いてしまう程度の度量なら、最初からこんな裁きなどには手を染めていないだろうしな」
L「ですね」
総一郎「…………」
L「『キラが誰なのかがほぼ特定できている状況下で、犯罪者とはいえ、キラの裁きによる犠牲者が新たに生まれていくさまをみすみす見過ごすべきではない』」
総一郎「!」
L「『だから『アリーナライブの終了後』というタイミングにこだわらず、少しでも早く二人を逮捕できる方法を考えた方が良いのではないか』……ですか? 夜神さん」
総一郎「……流石だな。そこまでお見通しとは……」
L「まあ、もう結構長い付き合いになりますしね」
総一郎「……分かっている。分かっているんだ。これは、私のエゴでしかないという事は……」
L「夜神さん」
総一郎「そして今、逮捕を急いて、逆にこちら側に犠牲を出すような事態だけは絶対に避けなければならないという事も」
総一郎「……分かっているんだ」
L「そうですね。犯罪者だから犠牲にして良いとは勿論言いません。ですがやはり、アリーナライブの終了後までは動くべきではない、という私の考えは変わりません」
総一郎「……ああ。それでいい。今日までこの本部の指揮を執ってきたのはあなただ。竜崎。ならば私はその判断に従うまでだ」
L「ありがとうございます。夜神さん。……でも」
総一郎「?」
L「夜神さんのそれは『エゴ』ではないと思いますよ」
総一郎「竜崎」
L「それは『エゴ』ではなく……『正義』なのだと思います」
総一郎「! ……竜崎……」
L「私は前にも言いました。『正義は必ず勝つ』と」
一同「…………」
L「我々が二人を捕まえるのが先か。二人が我々を殺すのが先か。……正直、現段階でそれは分かりません」
L「ですが、最後には必ず……正義の意思を持った者が勝ちます」
L「それだけは確かな事です」
総一郎「……ああ。そうだな」
総一郎「勝とう。皆。勝って……この事件を終わらせよう」
相沢「ええ。勝ちましょう。皆で」
松田「…………」
相沢「どうした? 松田。浮かない顔して」
松田「あ、いえ……ふと、やっぱりミキミキとはるるんがキラだったんだなって思うと、やっぱりちょっとショックで……」
相沢「お前な……俺達皆、死ぬかもしれないって時に……」
松田「そ、それは分かってますよ! っていうか、僕だって死にたくないのは同じっすから! ね、だから勝ちましょう! 皆さん!」
月「……竜崎」
L「はい」
月「勝とう。今、ここにいる僕達で」
L「……ええ。勿論です。月くん」
レム「……ハルカ」
春香「? どうしたの? レム」
レム「いや……」
春香「? 変なレム」
レム「…………」
春香「さて、じゃあもうそろそろ寝ようかな。明日も朝からレッスンだしね」
春香「いよいよライブ本番まで後一週間だし、体調管理だけは万全にしとかないと」
春香「それから明日の午後は……」
春香「…………」
レム「ハルカ」
春香「…………」
レム「お前はこれで……本当に」
春香「いいんだ」
レム「ハルカ」
春香「いいんだよ。レム」
レム「…………」
春香「これで……いいんだよ」
春香「…………」
【同時刻・美希の自室】
(デスノートの一番後ろのページを開いたまま、じっと見つめている美希)
美希「…………」
リューク「本当にこれで良かったのか? ミキ」
美希「……もちろんなの」
美希「…………」
美希「デスノート」【その7】
元スレ
美希「デスノート」 3冊目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1470455417/
美希「デスノート」 3冊目
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