美希「デスノート」【その1】
美希「意味も無くミキの身体あちこち触ってきて……本当嫌いなの。死んじゃえばいいのに」
美希「そういえば最近、アイドル事務所のお偉いさん達がばたばた死んじゃってニュースになってたし……」
美希「プロデューサーもどさくさに紛れて死んでくれたらいいのに」
美希「……ん?」
美希「何だろ、この黒いノート」スッ
美希「『DEATH NOTE』……『デスノート』?」パラッ
美希「わっ。なんか英語で色々書いてある」
美希「『The human whose name ……』うーん。面倒なの。今辞書持ってないし」
美希「……でもなんか気になるの。妙に作りとか凝ってるし」
美希「とりあえず持って帰ろう」
美希「よし。英文を全部翻訳サイトで翻訳したの。あー疲れた」
美希「で、どういう意味なのかっていうと……」
美希「『このノートに名前を書かれた人間は死ぬ。』」
美希「『書く人物の顔が頭に入っていないと効果はない。ゆえに同姓同名の人物に一遍に効果は得られない。』」
美希「『名前の後に人間界単位で40秒以内に死因を書くと、その通りになる。』」
美希「『死因を書かなければ全てが心臓麻痺となる。』」
美希「『死因を書くと更に6分40秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる。』」
美希「ふーん。要するにこのノートに名前を書かれた人は死ぬ……と」
美希「……ばっかみたい」
美希「こんなの今時小学生でも騙されないの」
美希「まあでも、せっかく頑張って翻訳したんだし……」
美希「…………」カキカキ
美希「……よし! これであのセクハラプロデューサーは40秒後に心臓麻痺で死ぬの! あはは」
美希「あはは……」
美希「…………」
美希「……あほらし」
美希「もういいや。寝ちゃおーっと」ゴロン
美希「あーあ、本当に死んでくれたらいいのに。あのプロデューサー……」
美希「あの人さえいなければ、本当に良い事務所なのにな……あふぅ」
美希(今日もまたあのプロデューサーに会わなきゃいけないの)
美希(本当嫌だなあ。もう事務所辞めちゃおうかな)
美希(でもあんな奴のためにミキが辞めなきゃいけないのもシャクだし……)
美希(まあ考えてても仕方無いか)
ガチャッ
美希「おはよーございますなの……ん?」
小鳥「……おはよう、美希ちゃん……」
美希「? どうしたの、小鳥? なんか様子が……」
小鳥「…………」
美希「あれ? そういえばプロデューサーは? まだ来てないなんて珍しいの」
小鳥「…………」
美希「それに律子は? 律子もまだ来てないの?」
社長「星井君」
美希「あっ。社長。おはようございますなの」
社長「……おはよう。君は今日、朝一で収録の予定だったんだね」
美希「そーだよ。だからミキ眠いけど頑張って早起きして来たの。あふぅ」
社長「それで君だけは家を出た後だったんだね。他の皆にはさっき電話で連絡したんだが……」
美希「? 何の話?」
社長「……落ち着いて聞いてほしいんだがね」
美希「え?」
社長「……昨日、プロデューサーが亡くなった」
美希「…………え?」
社長「ここで律子君と残業しているときにね。いきなり苦しみ出したそうだ」
美希「…………」
社長「律子君がすぐに救急車を呼んだんだが、心不全か心臓麻痺かだったらしく……」
美希「…………」
社長「そのまま、帰らぬ人となってしまったんだ」
美希「……ウソ……なの……」
社長「その後、律子君もショックで寝込んでしまってね。今は自宅で安静にしている。まあ無理も無い。目の前で同僚が死ぬところを見てしまったわけだからね」
美希「…………」
社長「それから今朝まで、私と音無君とで手分けして彼の家族に連絡をしたりしていて……君達への連絡が遅くなってしまったんだ。申し訳無い」
美希「……それは別にいい、けど……」
社長「そういう状態なので、今日から数日間、君達アイドル諸君は自宅待機とする。君達もショックを受けているだろうし、私と音無君は彼がしていた仕事の引き継ぎ処理をしなければいけないからね。なので、すまないが君も今日のところはこのまま帰宅してくれたまえ」
美希「えっ。で、でも……」
社長「なに、仕事先にはもう話をつけてあるから心配しなくていい。こちらの処理が落ち着いたらまた連絡するよ。彼の通夜や葬儀についても日取りが決まり次第伝える」
小鳥「ごめんね。美希ちゃん」
美希「……わかったの……」
美希(まさか、ね……)
美希(昨日、ミキがこのノートにプロデューサーの名前を書いたのは確か夜の7時頃)
美希(社長が律子から聞いた話によると、プロデューサーが倒れたのも夜の7時頃)
美希(そしてプロデューサーの死因は心不全か心臓麻痺……)
美希「……って、だからそんなのあるわけないの!」
美希「ばっかみたい。こんなのただのグーゼンに決まってるの。グーゼン」
美希「あーあ、それにしてもよかったの。プロデューサーが死んでくれて。ミキ的には超スッキリしたってカンジなの」
美希「これでもうセクハラされることもない、し…………」
美希「…………」
美希(……何なの? この胸のモヤモヤは……)
美希(だからこんなノート、デタラメに決まって……)
美希「……そうか」
美希「だったらもう一度試してみればいいの」ペラッ
美希「それで名前を書いた人が死ななければ、ただのグーゼンだったってことが証明されるの」
美希「……でも、誰の名前を書こう?」
美希「どうせこんなの嘘に決まってるんだから、誰でもいいけど……」
美希「でも万が一ってことも……」
美希「あ」
美希「そういえばさっき、リビングのテレビで……」ピッ
TV『……昨日新宿の繁華街で無差別に6人もの人を殺傷した通り魔は、今もなお幼児と保母8人を人質にこの保育園にたてこもっており……』
TV『……警視庁は犯人を音原田九郎・無職42歳と断定……』
美希「よし。覚えたの。顔と名前」カキカキ
『音原田 九郎』
美希「これで40秒経っても何もなければ……」
美希「…………」
TV『あっ! 人質が出てきました!』
美希「!?」
TV『皆、無事のようです。そして入れ替わるように警官隊が突入! 犯人逮捕か?』
美希「ま……まさか……」
TV『えー、どうやら犯人らしき人物は出て来ていないようです。一体どうなっているのでしょうか……』
美希「…………」
TV『今情報が入りました! 犯人は保育園内で死亡! 犯人は死亡した模様です!』
美希「!」
TV『人質の証言によると、犯人は警察官が射殺したのではなく、突然苦しみ出して倒れたとのことで……』
美希「…………!」
美希「や、やっぱり、これ……」
美希「い……いや……」
美希「いやぁああああああああああああ!!!」
美希(昨日は結局一睡もできなかったの)
美希(だってミキは……ミキは……)
美希(この手で……二人も……)
美希(いや、でもまだ……そうと決まったわけじゃ……)
女子生徒「ねぇ美希、聞いてる?」
美希「え? あっ、ごめん……聞いてなかったの」
女子生徒「もー。……っていうか美希、なんか顔色悪くない? 大丈夫?」
美希「あー、うん。へーき、へーきなの。ちょっと寝不足なだけで……」
女子生徒「寝不足? あんなに寝るの大好きだった美希が?」
美希「まあ、ちょっと色々あって……」
女子生徒「そっか……やっぱり大変なんだね。アイドルのお仕事って」
美希「あはは……まあそんなカンジなの」
男子生徒A「なんだ星井、寝不足だって?」
美希「あー……うん。(こいつ……いつもいつもミキの気を引こうとしてちょっかいばっかりかけてくるの。よりによってこんな時にまで……)」
男子生徒A「そりゃあ良くないなあ。ちゃんと睡眠取らないと、自慢のバストにも栄養がいかないだろ?」
美希「! …………」
女子生徒「ちょっと! 何てこと言うのよ!」
男子生徒A「いやいや、俺は星井の為を思ってだな……ところで星井、次の写真集はいつ出す予定なんだ? また水着着たりするのか?」
美希「…………」
女子生徒「もう。そっとしといてやんなさいよ。美希疲れてるんだから」
男子生徒A「なんだよ。俺はアイドル星井美希の一ファンとして質問をしてるだけだぜ? なあ星井。どうなんだよ」
美希「……次の写真集の予定は特に無いの」
男子生徒A「なーんだ。もしまた出るんならオカズに使わせてもらおうと思ってたのになー」
美希「!」
女子生徒「ちょっと! いい加減に……」
男子生徒A「はいはい。わーったよ。るせーやつ」スタスタ
美希「…………」
女子生徒「み、美希? 大丈夫? 後で私から先生に……」
美希「ううん。いいの」
女子生徒「でも」
美希「ミキなら大丈夫だから。こういうの、慣れてるし」
女子生徒「美希……」
美希「それよりほら。もう始業のチャイム鳴るよ?」
女子生徒「う、うん……」スタスタ
美希「…………」
美希(……念の為、持って来ておいてよかったの)スッ
美希(まあ、本当は怖くて家には置いておけなかっただけだけど……)
美希(……あんな奴、どうせ死んでも誰も困らない)
美希(もし死ななければ、このノートは偽物で、プロデューサーの件も通り魔の件もただの偶然だったってことが証明される)
美希(死んだら死んだで別に構わない。もう今更二人殺すのも三人殺すのも一緒なの)
美希(…………)カキカキ
美希(今から40秒……もう次の授業が始まる頃だから、教室に居るはず)
美希(どうせならこの目で確かめてやるの)ダッ
男子生徒B「だよなー」
男子生徒A「ハハハ。そうそう」
美希(……いた。時間は……)チラッ
美希(……あと5……4……3……)
男子生徒A「そんでさ、あいつが……っ!?」
男子生徒B「? A?」
男子生徒A「あっ……ぐっ……」ドサッ
男子生徒B「ちょ、おい!?」
男子生徒A「ぐあっ……あ……」
男子生徒B「ちょ……」
男子生徒A「――――」
男子生徒B「う……うわぁあああああああああ!!!」
女子生徒「きゃああああああ!!」
男子生徒C「お、おい……なんだよ、なにやってんだよ!?」
男子生徒B「し、しらねーよ! い、いきなり苦しみ出して……!」
ガラッ
教師「おいお前ら静かにしろ! もう授業……ん? A? おいA!? おい!」
ザワザワ…… ザワザワ……
美希「…………」
美希(やっぱり……)
美希(デスノート……本物なの)
美希(三人、殺した)
美希(ミキが)
美希(この手で……)
美希(…………)
美希(でも)
美希(今日、学校でAが死んでから一斉下校になったけど)
美希(悲しんでいる様子の生徒は一人もいなかった)
美希(女子は皆、あいつのセクハラ発言の被害にしょっちゅう遭ってたから嫌っていたし)
美希(一部の男子連中もきっと、なんとなくつるんでただけで本当はどうでもよかったんだろう)
美希(そうだよ。あんな奴、いてもいなくてもどうでもいいような奴だったんだ)
美希(プロデューサーにしたってそう)
美希(さっきのお通夜でも、皆口にこそ出さなかったけど内心ではホッとしてたに違いないの)
美希(ミキ以外にも、春香や雪歩とかもたまに身体触られるって言ってたし)
美希(言葉でのセクハラなら、ほぼ全員のアイドルが被害に遭ってたし)
美希(人をバカにするような発言も多かった。あずさに『短大卒だから教養無いんだろ』とかよく言ってた)
美希(元々は、うちの事務所に出資してる大きな会社の社長の息子で、就職先が決まらなかったからって、父親のゴリ押しでうちのプロデューサーになったって小鳥から聞いた)
美希(だから、誰も何も言えなかった。プロデューサーとしての能力も経験も無くて仕事では全く使い物にならなかったけど、裏で社長や律子や小鳥が必死にフォローして何とかしていた)
美希(そんな皆の努力を知っていたから、ミキ達も何も言えなかった。セクハラのことも、せいぜいアイドル同士で愚痴を言い合うのが精いっぱい。社長達は何も知らない)
美希(そんな風に、誰もが『どうしようもないこと』と思っていた)
美希(ほんの数日前までは)
美希(でも、その『どうしようもない』現実が今、変わった)
美希(いや、違う)
美希(ミキが変えたんだ)
美希(それだけじゃない。昨日の通り魔なんて完全に犯罪者だったし、あの時ミキがデスノートを使っていなかったらどうなっていたか)
美希(きっと人質にされていた八人は皆殺しにされていたに違いない)
美希(ミキが救ったんだ。このデスノートで)
美希「ふ、ふふふ……」
???「気に入っているようだな」
美希「!?」
???「何故そんなに驚く。そのノートの落とし主、死神のリュークだ」
美希「し……しにがみ……?」
リューク「ああ。それにお前、さっきの様子だともうそれがただのノートじゃないってわかってるんだろ?」
美希「…………」
リューク「どうした。俺が怖いのか?」
美希「……こ……」
リューク「?」
美希「怖く、ないの……」
リューク「ほう」
美希「覚悟なら……もうできてるの」
リューク「覚悟?」
美希「ミキは……ミキは、このデスノートでもう三人もの人間を殺したの。皆、死んでも誰も悲しまないっていうか、死んでもどうでもいいような奴だったけど……」
リューク「…………」
美希「でも、人を殺したことには変わりないの。それでミキはどうなるの? あなたに魂を取られるの?」
リューク「ん? 何だそれ? 人間が作った勝手なイメージか?」
美希「えっ」
リューク「俺はお前に何もしない」
美希「…………」
リューク「人間界の地に着いた時点でノートは人間界の物になる。もうお前の物だ」
美希「……ミキの物……」
リューク「いらなきゃ他の人間に回せ。その時はお前のデスノートに関する記憶だけ消させてもらう」
美希「…………」
リューク「ちなみに、元俺のノートを使ったお前にしか俺の姿は見えない。もちろん声もお前にしか聞こえない」
リューク「デスノートが人間・星井美希と死神・リュークをつなぐ絆だ」
美希「……絆……」
リューク「ああ」
美希「じゃあ本当にデスノートを使った代償って何もないんだね」
リューク「……強いて言えば……」
美希「…………?」
リューク「そのノートを使った人間にしか訪れない苦悩や恐怖……」
美希「…………」
リューク「そしてお前が死んだ時……俺がお前の名前を俺のノートに書くことになるが……」
美希「…………」
リューク「デスノートを使った人間が天国や地獄に行けると思うな」
美希「! …………」
リューク「それだけだ」
美希「…………」
リューク「ククッ。……ま、死んでからのお楽しみだ」
美希「……なるほどなの」
リューク「ん? なんだ?」
美希「なんでこのノートを落としたの? ご丁寧に使い方の説明まで書いて……しかも何故か英語で」
リューク「英語で説明を付けたのは人間界で一番ポピュラーな言語だったからだ。そしてノートは落とした理由は……」
美希「…………」
リューク「退屈だったから」
美希「退屈……?」
リューク「ああ。死神がこんなこと言うのもおかしいが、生きてるって気がしなくてな」
美希「…………」
リューク「実際、今の死神ってのは暇でね。昼寝してるか博打打ってるかだ。下手にデスノートに名前なんて書いてると、『何、ガンバっちゃってるの?』って笑われる」
美希「…………」
リューク「自分は死神界にいるのに人間界の奴を殺しても面白くもなんともない。だからといって死神界の奴をノートに書いても死なないんだからな」
美希「…………」
リューク「こっちに居た方が面白いと俺は踏んだ」
美希「面白い……」
リューク「まあそういうとこだ」
美希「…………」
リューク「もちろん、さっきも言ったがそのノートをこれからも使うかどうかはお前の自由だ」
美希「…………」
リューク「もういらないってんなら、ここで返してもらってもいいが……?」
美希「…………」
リューク「…………」
美希「ううん」
リューク「お」
美希「ミキ……使うよ。デスノート」
リューク「ほう」
美希「乗りかかった船だから……っていうのもあるけど、実際にこのノートを使ってみて分かったことがあるの」
リューク「…………」
美希「この世の中には、死んだ方が良い人間がいる」
リューク「…………」
美希「そういう人間を消すことは、悪いことなんかじゃない……むしろ世の中全体にとってみれば、良いことに違いないの」
リューク「なるほどな」
美希「そうすれば、今のこの世界が、皆がもっと楽しく生きていける過ごしやすい世界になる……いや、そういう世界に変えてみせる」
リューク「ククッ……世界を変えるなんて、神にでもなるつもりか?」
美希「……ミキは神様になんかならないよ。ただ、皆がもっと笑って生きていけるようになったらいいなって思うだけ」
リューク「まあ、俺には人間の価値観なんて分からないからどうでもいい。面白いものが観れればそれでいい」
美希「じゃあ、まずは――……」パラッ
リューク「おっ、早速殺る気か?」
美希「……世界のお掃除なの」
【一週間後・ICPO国際刑事警察機構会議】
『ここ一週間で分かっているだけで52人です』
『その全てが心臓麻痺です』
『全て追い続けてきた、もしくは刑務所に留置されていた犯罪者』
『普通に考えて、居場所の分からない指名手配犯の多くも死んでいますな』
『そう考えると軽く100人以上……』
『こうなるとまたLに解決してもらうしかありませんな』
係長「……夜神局長。『L』って何ですか?」
総一郎「ああ。君はこの会議初めてだったな」
総一郎「Lというのは名前も居場所も顔すら誰も知らない……しかしどんな事件でも必ず解決してしまう、まあ探偵とでも言えばいいのか」
総一郎「世界の迷宮入りの事件を解いてきたこの世界の影のトップ、最後の切り札……そんなところだ」
係長「へぇ……そんなすごい人がいたんですね」
???『Lはもう動いています』
係長「? な、なんだあのコートの男は……?」
総一郎「彼はLとコンタクトを取れるただ一人の男……ワタリだ。もっともワタリの正体も誰も知らない」
ワタリ『Lはとっくにこの事件の捜査を始めています。今からLの声をお聞かせいたしますのでお静かに願います』
一同『…………』
(ノート型PCを設置するワタリ。PC画面に『L』の文字が映し出される)
L『ICPOの皆様。Lです』
L『この事件はかつてない大規模で難しい。そして絶対に許してはならない凶悪な大量殺人事件です』
L『この事件を解決する為に是非全世界、ICPOの皆さんが私に全面協力してくださることをこの会議で可決して頂きたい』
総一郎「……L……」
係長「…………」
春香「最近すごいよねー、もうニュースから目が離せないって感じ」
千早「でも本当に不思議よね。何故犯罪者がことごとく心臓麻痺で死んでいくのか……」
響「偶然にしちゃあ出来過ぎって感じだよなー」
伊織「じゃあ何? あれを全部誰かが故意にやってるっていうの? そっちの方がありえないじゃない。大体どうやって他人を心臓麻痺にさせるっていうのよ?」
響「そ、それはわかんないけどさ……」
美希「…………」
亜美「ねーねー、ミキミキはどー思う?」
美希「……んー。ミキはそういうのあんまりキョーミないの。あふぅ」
真美「ありゃありゃ。ミキミキにはまだ早かったかー」
亜美「まだまだお子ちゃまだからねー、ミキミキは」
美希「むー。亜美真美にお子ちゃま呼ばわりされたくないの」
雪歩「でもこれ見て、真ちゃん」スッ
真「ん? うわっ、何だこのサイト……『救世主キラ伝説』?」
雪歩「うん。『killer(キラー)』からきてるみたいだけど、もうネット上では『誰かが悪人に裁きを下している』っていう考えが浸透してるみたい」
真「なるほど、それで『キラ』ね……。まああれだけたくさんの犯罪者が死んでるんだから分からなくもないけど」
伊織「ふん、ばっかみたい。非科学的だわ。だったらまずその他人を心臓麻痺にさせる手段とやらを証明してみなさいってのよ」
美希「…………」
春香「あっ」
千早「? どうしたの? 春香」
春香「えっと、そういえば……プロデューサーさんの死因も『心臓麻痺』だった……よね」
千早「えっ」
美希「! …………」
春香「もしかして、プロデューサーさんも、キラに……」
千早「春香。いくらなんでもそれは不謹慎よ。第一彼は犯罪者でも何でもなかったでしょう」
春香「それはそうだけど……。でも実際、私達、色々ひどいことされたり言われたりしてたじゃん」
千早「それは……まあ……」
春香「私もよく身体触られたりしてたし……雪歩や美希だって」
雪歩「わ、私はそんな……。確かに嫌だったけど、でも流石に死んじゃったのはショックだった、かな……」
美希「…………」
春香「ねえ、美希はどう思う?」
美希「えっ。み、ミキ的には……まあ、どうでもいいっていうか……確かにあの人のことキライだったけど、でも千早さんの言うように犯罪者とかじゃないし……」
春香「…………」
美希「……もし他の犯罪者がキラに殺されたんだとしても、プロデューサーは違うって思うな」
春香「ま、それもそうか。それにもし仮にそうだとしたら、私達の中にキラがいるってことになっちゃうもんね」
美希「!」
響「確かに。アイツ外面だけは良かったから、アイツの悪いところ知ってるのって多分自分達だけだもんな」
亜美「仕事の出来なさについてはしょっちゅう律ちゃんやピヨちゃんも嘆いてたけどねー」
真美「うんうん」
美希「…………」
春香「それもそうだね。ごめんね、千早ちゃん」
亜美「あっ。そーいえば、いよいよ来週から新しいプロデューサーが来るっぽいよー!」
真美「えっ、マジ!?」
亜美「マジマジ! さっきピヨちゃんがそれっぽい電話してるの聞いちゃったもん!」
真美「そっかー、今度は良い人だったらいいなー」
亜美「ねー。前のプロデューサーは本当サイアク……」
響「こーら、亜美真美。今千早に言われたばっかだろ? もう亡くなった人の悪口はやめるさ」
亜美真美「はーい」
美希「…………」
美希「ふー……」
リューク「ククッ。さっきは結構冷や汗かいたんじゃないか?」
美希「え?」
リューク「ほら、言われてただろ。お前らのプロデューサーもキラにやられたんじゃないかって」
美希「ああ……あんなの誰も本気にしてないの。春香だって、たまたま死因が同じだったから思いつきで言っただけだと思うし」
リューク「意外と落ち着いてるんだな」
美希「そう?」
リューク「ああ。まあ一週間であれだけの数の犯罪者を殺したんだ。そりゃ肝も据わってくるか」
美希「まーね。さて、今日もテレビのニュースで犯罪者の情報収集っと……」ピッ
リューク「随分熱心だな」
美希「当然なの。……ん?」
TV『番組の途中ですがICPOからの全世界同時特別生中継を行います。日本語同時通訳はヨシオ・アンダーソン』
美希「?」
リューク「何だ? これ」
TV『私は全世界の警察を動かせる唯一の人間、リンド・L・テイラー。通称“L”です』
美希「……“L”……?」
TV『相次ぐ犯罪者を狙った連続殺人。これは絶対に許してはならない、史上最大の凶悪犯罪です』
美希「…………」
TV『よって私はこの犯罪の首謀者、俗に言われている“キラ”を必ず捕まえます』
リューク「必ず捕まえるってよ。ククッ」
美希「…………」
リューク「悪、ねぇ。随分な言われようだな」
美希「…………」
リューク「なあ、ミキ」
美希「ん?」
リューク「殺さないのか? こいつ」
美希「…………」
TV『すでに全世界の警察が捜査を始めている。お前がどこの誰なのかもすぐに……』
美希「……殺さないよ」
リューク「あれっ」
美希「言ったでしょ? ミキが殺すのは死んだ方が良いような悪人だけだって」
リューク「…………」
美希「確かに、ミキが世界を良くするためにやってることを悪だって言われるのは心外だけど……」
美希「でも、この人はこの人で自分が正義だと思ってキラを捕まえようとしてるだけだから、ミキ的にはほっとけばいいって思うな」
リューク「でもこいつ、キラであるお前を捕まえようとしてるってことは、いずれお前の敵になる奴かもしれないじゃないか」
美希「もう、リュークってば意外とお馬鹿さんなの」
リューク「…………」
美希「だって『デスノート』なんだよ? このノートを押さえない限り証拠も何も残らないんだから、ミキが捕まるわけがないの」
リューク「まあ、そりゃそうだが」
美希「それに、こんな生中継やってるときにこの人が死んだら、今テレビを観てる人の中にキラがいるってばれちゃうの」
リューク「……お前、結構ちゃんと考えてるんだな」
美希「そりゃあね。このノートを使って世界を良くしようって決めたんだもん。これくらい考えるのは当然って思うな」
リューク「ちぇっ。せっかく面白い展開になりそうだったのにな」
美希「残念でしたなの。それにこのLって人、結構イケメンだしね」
リューク「おいおい、そんな理由かよ」
美希「なんてね、冗談なの。っていうわけで、この話はここでおしまい。バイバイ、イケメン君。せいぜいキラ探し頑張ってなの」プツッ
総一郎「……というわけで、今日はこれにて解散とする」
一同「お疲れ様でした!」
係長「局長。今日はこのままお帰りですか?」
総一郎「ああ。もうここ何日も家に帰っていなかったからな」
係長「お疲れ様です。しかし、Lには正直拍子抜けでしたね……」
総一郎「…………」
係長「関東、関西、中部ときて、結局最終的には日本全地域に生中継を流したのに、何の成果も挙げられず……」
総一郎「…………」
係長「こうなると、Lのそもそもの推理の『キラは日本にいる』って線も怪しくなってきましたね。まあLに言われるがままにこっちに捜査本部置いちゃってから言うのもなんですけど」
総一郎「まあまだ判断するのは早計だろう。それにLの推理にも根拠はあるしな」
係長「最初の犠牲者が新宿の通り魔だったってことですよね? 他の凶悪犯罪者に比べて目立って罪が軽い事件だったから、殺しの実験台に使ったんじゃないかっていう」
総一郎「ああ。それに何より、この事件が報道されていた国は日本だけだった。やはりこの点は大きい」
係長「うーん……でも正直、私はLのやり方自体もどうかと思いますよ。あの『リンド・L・テイラー』って人物、結局替え玉だったんですよね? 今日死刑が執行される予定の犯罪者だったって……」
総一郎「うむ。どうやらそうらしいな」
係長「犯罪者なら死んでもいいって考えなら、キラと同じのような……」
総一郎「私もLのやり方を全て肯定しているわけではない。だがこの事件は普通に捜査していても核心に迫るのは難しいだろうとも思う。如何せん、まだキラについて分かっていることは少な過ぎるからな」
係長「そうですね。先はまだまだ長そうだなあ……」
総一郎「君も今日はもう上がりか?」
係長「あ、はい。そろそろ家に帰らないと娘に顔忘れられそうですし」
総一郎「ああ、あのアイドルやってるっていう娘さんか。うちの娘もよくテレビ観てるよ。最近随分売れて来てるそうだな」
係長「あはは……光栄です」
総一郎「じゃあまた明日な。星井君」
美希「ふぅ。これで今日の裁きは終了なの」
リューク「しかし本当にブレないな、ミキは」
美希「えっ?」
リューク「いや、あんなやつが出てきたってのに、全然意に介さずいつも通りに裁きをこなすあたりが」
美希「あんなやつ……? ああ、あのイケメン君のこと? ミキ、もうすっかり忘れてたの」
リューク「とことんマイペースだな」
美希「前向きって言ってほしいの」
リューク「でも流石にもうちょっと警戒した方がいいんじゃないのか? 全世界の警察が捜査を始めてるとか言ってたぞ」
美希「ふふん。ミキは警察なんかちっとも怖くないの」
リューク「? なんだ、えらく自信ありげだな」
美希「うん。だって……」
コンコン
「美希ー? 入っていい?」
美希「! お、お姉ちゃん!? ちょ、ちょっと待つの!」ガタガタ
(慌ててデスノートを机の引き出しにしまう美希)
美希「い、いーよ!」
ガチャッ
「わー。相変わらず散らかってるね」
リューク(星井菜緒……美希の姉か)
菜緒「うん。この前貸した漫画返してくんない? 友達が読みたいって言ってて」
美希「あー、あれなら……あっ」
菜緒「?」
美希「(しまった……今デスノートを隠した引き出しなの)あ、後で探して持って行くの!」
菜緒「あんた……まさかなくしたんじゃないでしょうね」
美希「な、なくしてないの! ホントだってば!」
菜緒「まあ、それならいいけど……」
リューク「気を付けろよ、ミキ」
美希「?」
リューク「今机の中にあるデスノート、触られたら触った人間には俺の姿が見える」
美希「! ……(そういう大切な事を今頃……この死神は……)」
菜緒「どしたの? 美希」
美希「ん? んーん、なんでもないの」
菜緒「そう? あ、それとさっきパパ帰ってきたから。まだ起きてたら下りてきて顔見せなさいって、ママが」
美希「ん。わかったの。すぐに行くの」
菜緒「じゃ、漫画の件よろしくねー」
美希「はいなの」
バタン
美希「……もー、そういうことは先に言っておいてほしいの」
リューク「すまん」
美希「もしお姉ちゃんがリュークの顔見たら、それだけで心臓麻痺で死んじゃうって思うな」
リューク「それは流石にひどいって思うな」
美希「ミキのマネしちゃ、ヤ」
リューク「すまん。で、さっき言いかけてたのは何だったんだ? 警察なんかちっとも怖くない、って」
美希「ああ、それはね……」
リューク「?」
美希「下にいこ。説明する手間が省けたの」
美希「パパ、お帰りなさいなの」
星井父「おう、ただいま美希。いい子にしてたか?」
美希「うん。ミキはいつでもいい子なの」
星井父「そーかそーか。えらいぞー美希」ナデナデ
美希「えへへ」
菜緒「相変わらずパパは美希にデレデレねぇ」
星井父「む。そんなことはないぞ。パパは菜緒の事も大好きだからな」
菜緒「はいはい」
星井父「あー、またそうやって父をぞんざいに扱う! 美希ー、菜緒が冷たいよー」
美希「もう。困ったパパなの」ナデナデ
星井父「ありがとう。美希は本当に優しいなぁ……パパ感動して涙が出ちゃう」
星井母「もう、帰ってくるなり何やってるのよ」
星井父「何って……娘達とのスキンシップだよ。大切な事だろ?」
星井母「まあそれはそれで大いに結構だけど。でも帰るなら帰るって言っておいてほしかったわ。おかずもう残ってないわよ?」
星井父「ああ、いいよ。ありあわせのもんで適当に食うから」
菜緒「パパ、最近また忙しいの?」
星井父「まあな。ほら、今テレビでもやってるだろ? キラ事件っての。パパ、あれの捜査本部に入っててな」
美希「!」
菜緒「えっ、そうなんだ! あっ、じゃあ今日やってたあれもパパが絡んでたの?」
星井父「今日……? ああ、あの生中継か。あれはLって探偵が独断でやったんだ。警察はほとんど関与してない」
菜緒「そうなんだ。って、Lってあのイケメンの人? パパ、あの人と一緒に捜査してるの? いいなー」
星井父「いや、あれは替え玉だよ。本物のLは俺達警察の人間もまだ会ったことがない。一応、協力して捜査している形にはなってるけどな」
美希「! (……替え玉……)」
星井母「ちょっとあなた。そんなこと喋っちゃっていいの?」
星井父「これくらい別にいいだろう。家族なんだし。あっ、でも学校の友達とかには言っちゃだめだぞ」
菜緒「分かってるよ、そのくらい。ねー美希?」
美希「…………」
菜緒「美希?」
美希「えっ、う、うん! もちろんなの!」
リューク(……警察官の父親……! これがミキが警察を恐れていない理由……!)
星井父「ああ。それに多分また数日は帰って来れないと思う。なんせ雲をつかむような事件だからな」
菜緒「そうなんだー。じゃあまだキラってのがどんな奴かってのも分かってないんだね」
美希「!」
星井父「そうだな。もしかしたら今日の生中継である程度目星が付くかとも思われてたんだが……」
菜緒「てんで手がかりなしって感じ?」
星井父「まあそんなとこだ」
菜緒「そっかー。まあそもそも本当にキラなんているの? って感じだしね。心臓麻痺で人を殺すなんてさ」
星井父「まあな。今日めぼしい結果が出なかったこともあって、警察の中でも結構意見は割れてるよ」
美希「…………」
星井母「美希? どうしたの? なんかさっきからえらくおとなしいけど」
美希「えっ? そ、そんなことないの! ただえっと、ちょっとお話が難しいかなって……」
星井父「はは。まあ美希にはまだちょっと早かったかな」
菜緒「新聞も読まないしね、美希は」
美希「むー。お姉ちゃんだってテレビ欄と四コマ漫画しか読まないくせに」
菜緒「うっ、うるさいな! 大学生は忙しいの!」
美希「ふーんだ。ミキだってアイドルやってて忙しいもん」
星井母「はいはい、もうくだらないことでケンカしないの。今日は遅いからもう寝なさい。パパは明日も朝早いんだし」
菜緒・美希「はーい」
リューク「警察官の父親か……なるほどな。父親からある程度警察の情報を得られる自信があったから、警察なんて怖くないって言ってたのか」
美希「まあね。でもまさかキラ事件を直接捜査するチームに入っていたとまでは思わなかったの。ミキ、ちょっとびっくりしちゃった」
リューク「ククッ。どうだ? 父親に追われる気分ってのは」
美希「追われる? 何言ってるの? リューク」
リューク「えっ」
美希「パパ、さっき言ってたじゃん。警察はまだ全然キラの目星も付いてないって」
リューク「いや、でも捜査情報の全部を話しているとは限らないだろ」
美希「大丈夫だよ。パパはミキ達家族には絶対ウソつかないもん」
リューク「……ああ、そう……。(どこからくるんだ? こいつのこの根拠の無い自信は……)」
美希「でもまさかあのイケメン君が替え玉だったとはねー。Lって人もなかなかやるの」
リューク「どんな奴なんだろうな? 本物のLって奴は」
美希「さあね。ま、どっちにしろミキにはカンケ―無いの。今日はもう眠いから寝ようっと。あふぅ」
リューク「…………」
社長「えー、今日は諸君らに大事な話がある」
アイドル一同「…………」
社長「プロデューサーだった彼が突然この世を去るという痛ましい出来事から二週間余り……おそらくまだ諸君らの心の傷は癒えてはいまい」
社長「だが、いつまでもこうして立ち止まってはいられん。彼の為にも、我々765プロはより強固に団結し、より高みを目指さなければならない」
社長「そこで今日は、君達をその高みへと導く新たなる仲間を紹介しようと思う。君、こちらへ」
P「こんにちは。今日から765プロのプロデューサーになった○○といいます。よろしくお願いします」
アイドル一同「よろしくお願いします!」
P「はは……なんか照れくさいな」
千早「? あの人……」
あずさ「どうかしたの? 千早ちゃん」
千早「いえ……確かどこかで……」
亜美「ねぇねぇ、新しいプロデューサーの兄ちゃん!」
P「ん? 何だ?」
亜美「ここに来る前は何やってたの?」
真美「もしかしてニートとか?」
P「違うわ! えっと……」チラッ
社長「ん? ああ、構わんよ。別に隠すことでもあるまい」
P「ありがとうございます。……実は俺はこの前まで、961プロっていうアイドル事務所でプロデューサーをやっていたんだ」
アイドル一同「えーっ!」
真美「あのジュピターとかの?」
P「ああ。というか、ジュピターの担当プロデューサーは俺だった」
アイドル一同「えーっ!」
ガヤガヤ…… ガヤガヤ……
小鳥「思ったとおりの反応ですね」
社長「まあ無理もなかろう」
律子「私も最初に聞いたときはかなり驚きましたし」
千早「そうか……だから見覚えがあったんだわ」
あずさ「千早ちゃん?」
千早「実は私、少し前にあった歌番組の収録の時に彼に挨拶したことがあったんです。その番組にジュピターも出ていて、それで」
あずさ「ああ、なるほどね」
千早「あの時は春香も一緒に出ていて……ねぇ、春香。春香も覚え」
春香「お久しぶりです! 私の事覚えてらっしゃいますか?」
P「ああ、もちろんだ」
春香「ありがとうございます! 光栄です!」
千早「て……」
あずさ「流石春香ちゃんね」
千早「……ですね」
P「天海春香、如月千早。あの節は世話になったな」
千早「どうも」
春香「まさかこんな形でお会いできるなんて、夢にも思っていませんでした!」
P「俺もだよ。ま、改めてよろしくな」
春香「はい!」
千早「よろしくお願いします」
響「……なんか、感じ良さそうな人だね」
貴音「ええ。少なくとも、邪な気は感じません」
響「いや、邪って」
伊織「どうしたの? ぼーっとしちゃって」
美希「え? ああ、別に……」
伊織「大丈夫? あんたちょっと疲れてるんじゃない?」
やよい「美希さん、大丈夫ですか?」
美希「全然へーきなの。新しいプロデューサーも来てくれたし、今日からまたいっしょうけんめーがんばるの」
伊織「あらあら。あんたが一生懸命なんて、明日は雪かしらね」
美希「むー。でこちゃんってばひどいの」
伊織「でこちゃん言うな!」
真「あの、プロデューサー。一つ質問してもいいですか?」
P「ん? 何だ?」
真「プロデューサーは、どうして961プロを辞めてうちに来たんですか?」
雪歩「あっ。それ私も聞きたいかも……」
P「……それは……」
社長「私の口から説明しよう」
P「社長」
社長「今、世間を騒がせているキラ事件。その陰にすっかり隠れてしまったが……前任のプロデューサーが亡くなる少し前の頃、アイドル業界の関係者が相次いで死亡した……というニュースがあっただろう」
真「あー、そういえばありましたね」
雪歩「確かほとんどが事故や自殺……だったよね」
千早「ええ。それも、大きな事務所の社長や会長ばかり」
社長「うむ。まあキラ事件とは違い、こちらはあくまで偶然の連続だろうが……それでもこの頃、アイドル業界全体が陰鬱な空気に覆われていたのは事実だ」
伊織「まあ無理も無いわよね。なんか不吉な感じがしたもの」
貴音「真、面妖な出来事でした」
社長「そんな最中、我が事務所の前任のプロデューサーが急死した。それまで亡くなった人物に比べて地位が低かったということもあり、世間的には特にニュースにもならなかったが……」
美希「…………」
春香「じゃあ、961プロの方から申し出があったってことですか?」
社長「うむ」
春香「それはまた、なんで……」
社長「実は、私と黒井社長は昔馴染みでね。かつては一緒に仕事をしていた仲だった」
社長「しかし、やがて私と黒井はアイドルの育成に対する考え方の違いから対立してしまってね。結局そのまま袂を分かつことになったんだ」
社長「それから早二十数年……もうほとんど碌に連絡も取っていなかったが、今になってこんな申し出をしてくるとは……やはり私達は、深いところではつながっていたのかもしれんな」
春香「それでプロデューサーさんはうちに移籍してきたんですか」
P「ああ。まだ育成途上だったジュピターにも未練はあったが、黒井社長直々に『アイドル業界全体を活性化させるために力を貸してくれ』って頭を下げられてね。そこまでされて応じないのは男じゃない、って思ったんだ」
亜美「へー。クロちゃんはなかなか熱い漢なんだねぇ」
真「亜美、流石にそれは気安く呼び過ぎなんじゃないかな……」
社長「とまあ、そういう経緯で彼はうちのプロデューサーになってくれたというわけだ。彼の辣腕ぶりは今のジュピターの活躍を見れば語るまでも無いだろう」
社長「突然の事態でありながら潔く決断をしてくれた彼、そして極めて優秀な逸材である彼を我が事務所に移籍させてくれた黒井社長の為にも、我々はより高みを目指して走り続けなければならん」
社長「さあ、今日は新たなる765プロの門出の日だ。では君、最後にプロデューサーとしての所信表明を頼む」
P「えっと……まだ移籍してきたばかりですが、とにかく一生懸命頑張ります。夢は皆まとめてトップアイドル! どうかよろしくお願いします!」
パチパチパチパチ……
冬馬「なあ、おっさん」
黒井「何だ」
冬馬「アイツの件……本当におっさんが決めたのか?」
黒井「何度同じ事を言わせる気だ」
冬馬「だって今まであれだけ765プロを目の敵にしてたってのに、何で今更急に……」
黒井「フン。別に高木の事を認めたわけではない。ただ今奴らに潰れられても面白くないだろうと思っただけだ」
冬馬「そりゃまあ、敵に塩を送るってこともあるかもしれねぇけどよ。でも何もアイツを渡さなくても……」
北斗「冬馬。もういいだろ。この件はプロデューサー自身も納得済みなんだから」
翔太「そーそー。僕達がとやかく言うことじゃないって」
冬馬「……チッ、分かったよ。その代わり、新しいプロデューサーはアイツくらいやれる奴じゃないとこっちから願い下げだからな」
黒井「フン。お前に言われるまでもない」
北斗「冬馬、もう行くぞ。次の仕事が始まる」
冬馬「ああ、分かってる」
翔太「じゃあまたね、クロちゃん」
バタン
黒井「……フン」
黒井「これで満足か……?」
黒井「……キラめ……」
L「…………」
L(リンド・L・テイラーを出演させた生中継から今日で一週間)
L(何故あの時、キラはテイラーを殺さなかったのか)
L(……あるいは、殺せなかったのか?)
L(いや、テイラーは他の犯罪者達と同じ状態……実名も素顔も晒した状態でテレビに映っていた)
L(キラがあの中継を観ていたとしたら、他の犯罪者達同様、殺すことに何ら支障は無かったはず)
L(では……たまたまあの日、中継を観ていなかったとしたら?)
L(いや、仮にそうだとしても、あの後『L』の存在は大きくニュースで取り上げられていたし、あの日の生中継の映像は今も無数の動画サイトにアップロードされている)
L(キラが『L』の存在を認知していないはずはない……その気になれば今でも『L』であるテイラーを殺せるはず)
L(しかし現実には、テイラーは今もICPOの完全監視の下、確かに生存している)
L(つまりキラは意図的に『L』を殺していないということ……)
L(もしキラがテイラーの犯罪者としての素性を知っていれば、殺すことに躊躇は無かったはず)
L(しかし実際にはそうしていない……つまりキラはあくまでもテイラーを『L』として認識しており……かつ)
L(犯罪者でない以上、たとえ自分を追う者であっても手には掛けない……そういうことか?)
L「…………」
L(あるいは、もう既にテイラーが偽物であるという可能性に気が付いている……?)
L(しかし日本国内でその事実を知っているのは捜査本部の者のみ)
L(では仮に捜査本部の情報が漏れていた、としたら……?)
L(可能性は高くはない。だが今は少しでも手がかりが欲しい。……試してみるか)
L(昨日警察から送られてきた情報……これを基にすれば……多少無理筋でも……)
L「…………」
星井父「Lからの緊急招集って……何ですかね」
総一郎「さあな……未だにLの考えは読めんからな」
松田「もしかして、もうキラの正体が分かっちゃったりとか?」
星井父「あのなあ。日本全国民が容疑者なのに、どうやってもう分かるんだよ」
松田「そこはまあ、天才ならではの名推理で……」
星井父「天才ねぇ。今のところあんまりそういう風には見えないけどな」
松田「この前の生中継も空振りに終わりましたしね。……あっ。そういえば係長の娘さんの美希ちゃんも『天才アイドル』って呼ばれてますよね」
星井父「いきなり何の話をしてるんだお前は」
松田「いやあ、最近すごくよく見るから僕も段々ファンになってきちゃって。あ、今度サインお願いできますか?」
星井父「……俺の代筆で良ければやるよ。結構似てるって評判なんだぜ」
松田「えっ、係長が代筆してんすか? マジで?」
星井父「なわけないだろ。冗談だよ。つかお前こそ冗談だよな? 俺の娘のファンとか」
松田「え? マジですけど」
星井父「……マジか」
松田「はい。ダメですか?」
星井父「いやダメっていうか……普通にキモい」
松田「そんな! キモいとかひどいですよ……お義父さん」
星井父「誰がお義父さんだ! 誰が! 本当に気持ち悪いわ!」
総一郎「……二人とも、お喋りはそこまでにしておけ。ワタリが来たぞ」
星井父・松田「! …………」
捜査本部一同「…………」
(ワタリの設置したノート型PCの画面に『L』の文字が映し出される)
L『Lです。皆さんお集まりいただきありがとうございます』
L『今日は早速ですが、皆さんに現時点での私の推理をお伝えしようと思います』
星井父「推理……?」
L『推理の内容は、キラの人物像についてです』
松田「ほら! やっぱりLにはもう分かってるんですよ、キラの正体が」
星井父「本当か……?」
総一郎「…………」
L『私が思うに……キラは、まだ子どもである可能性が高い』
星井父「こ……子ども?」
L『はい。私はこの事件が起こった当初からその考えを持っていましたが――それを裏付けるデータがまだ無かったので、これまでその旨の発言は控えていました』
L『ですが昨日、皆さんからご提供いただいたデータを観て、自分の考えを強くしました。こちらをご覧ください』
(ノート型PCの画面が複数の棒グラフを表わしたものに変わる)
総一郎「これは……」
L『キラ事件の被害者の死亡推定時刻を表わしたものです』
L『ご覧の通り、被害者の死亡推定時刻……つまりキラが殺人を行っていると思われる時間帯は、平日ではもっぱら19時頃から22時頃の間、土日はばらつきはありますが昼頃からやはり22時頃までとなっています』
星井父「つまり……深夜まで起きていないと考えられるから子ども、ってことか?」
L『そうです』
星井父「そうです、って」
松田「な、なんかえらく安易ですね……」
総一郎「…………」
L『その最たる理由は、このキラとしての活動そのものです』
星井父「? どういうことだ?」
L『もし仮に、ある日突然、直接手を下さずに人を殺せるような能力が手に入ったら……普通の大人であれば金や地位、名誉といったものを得るために使うでしょう』
L『おそらくキラは、神か何かを気取って悪人を裁いていき、世の中を良くしようとでも考えているのだと思われますが……そんなことを真面目に考えて実行に移すのは……せいぜい小学校高学年から高校生くらいまでです』
松田「……まあ、そう言われたらそうかもしれませんね」
星井父「確かにそんな能力の持ち主なら、その気になればいくらでも金も地位も手に入れられるだろうしな」
L『また、これも皆さんからご提供いただいた情報ですが……これまで殺された犯罪者は、いずれも日本で情報を得ることができる者でした』
L『このことを先ほどの推理と合わせると、キラはテレビやインターネットなどに比較的自由に接することのできる……ある程度裕福な家の子どもではないかと推測されます』
星井父「ふむ……」
総一郎「…………」
L『――……以上が、現時点でのキラの人物像についての私の考えです。また何か分かりましたらお伝えします』
L『では、私からは以上です』プツッ
星井父「緊急招集かけられた割には、なんか拍子抜けって感じの内容でしたね」
総一郎「うむ……」
松田「まあ子どもって言っても対象範囲広すぎですもんね。それなら局長や係長のお子さんだって入ってくるし」
星井父「松田。お前な……」
松田「あっ。今のは言葉のあやですよ。僕だってミキミキがキラだなんて思ってないですし」
星井父「ミキミキって呼ぶな! 人の娘を!」
松田「えー。ミキミキはミキミキでしょ」
総一郎「……Lは……」
星井父「え?」
松田「どうしました? 局長?」
総一郎「いや……なんでもない」
星井父・松田「?」
総一郎「…………。(『キラは子どもである可能性が高い』……星井君の言うように、このことを伝えるためだけに、わざわざ我々を集めたのか……?)」
L「…………」
L(多少の飛躍はあったが、これならそこまで無理の無い推理だろう)
L(またキラが子どもであるという可能性は、私が実際に考えていたことでもある)
L(これでもしキラが、捜査本部の情報を得る術を持っているとすれば……)
L(今後のキラの裁きの傾向に、何らかの変化がみられるかもしれない)
L「…………」
菜緒「久しぶりだね。パパがこんな時間に帰って来れたの」
星井父「ああ。今は事件の方もそれほど目立った動きは無いからな」
美希「…………」
菜緒「ふーん。じゃあまだ全然目途立ってないの? キラの正体」
美希「!」
星井母「ちょっと菜緒。食事中にそういう話は……」
菜緒「えーでも気になるじゃん。ねぇねぇ、どうなのパパ?」
星井父「まあ確かに、まだほとんど絞られてはいない。だが……」
菜緒「だが?」
美希「…………」
星井父「今日になって、Lが『キラは子どもである可能性が高い』と言い出した」
菜緒「子ども?」
美希「! …………」
菜緒「10時以降には殺していない……その時間にはもう寝てる、だから子どもってこと?」
星井父「ああ」
菜緒「……それはちょっと強引じゃない?」
星井父「まあな」
星井母「大人でも早寝の人はいるしねぇ」
菜緒「あっ。ママものってきた」
星井母「え? べ、別にのってないわよ」
菜緒「ねぇ、美希はどう思う?」
美希「えっ。み、ミキ? ミキは……」
菜緒「うん」
美希「……よくわかんないの」
菜緒「あんたねぇ。ちょっとは考えなさいよ」
美希「だってわかんないんだもん」
星井父「まあ、いずれにせよまだ核心には迫れていないってことだ」
菜緒「だよねー。大体日本中の子どもが容疑者なら、美希だって容疑者ってことになっちゃうし」
美希「!」
星井母「もう、何バカなこと言ってるの。菜緒」
菜緒「あはは、ごめんごめん」
美希「…………」
美希「…………」
リューク「ククッ。Lの推理も大したもんだな。まさか死亡推定時刻から割り出してくるとは」
美希「…………」
リューク「で、どうするんだ?」
美希「え? 何が?」
リューク「何がって……裁きの時間帯。変えないのか?」
美希「? 変えないよ?」
リューク「そうか……っておい。変えないのかよ」
美希「だって、日本中の子どもなんて何百万人もいるんだよ? その中からミキ一人が特定されるなんてありえないって思うな」
リューク「まあそりゃそうだけど」
美希「それに、夜遅くに裁きをするのは眠くて辛いの。ミキの目は夜の10時を過ぎると上のまぶたと下のまぶたがくっついちゃうの」
リューク「いや、それなら時間指定して殺せばいいだろ」
美希「え? そんなことできるの?」
リューク「……ルールの中に書いてただろ。死因を書けば、更に詳しい死の状況を書けるって」
美希「あー。なるほど。そこで何時何分何秒に死ぬって書いたらその通りになるんだね」
リューク「そういうことだ」
美希「なるほどなの。でもまあめんどくさいからいいや」
リューク「あ、そう……」
美希「あふぅ。そういうわけで、ミキはもう既に眠いの。ぱぱっと今日の分書いて寝ちゃおうっと。明日も朝からレッスンだしね」
リューク「…………」
美希「あふぅ。レッスン疲れたの」
春香「朝からハードだったね」
美希「おかげでもうクタクタなの」
P「レッスンお疲れ様。春香。美希」
春香「あっ。プロデューサーさん!」ダッ
P「ん? どうした春香?」
春香「ふふっ、えっとですね……」ゴソゴソ
P「?」
春香「はい、これ! 私が焼いてきたクッキーです! どうぞ!」
P「おっ。これは美味そうだな。ありがとう。後で頂くよ」
春香「えー、今食べてくれないんですか?」
P「すまん、あいにく今から外出なんだ。……美希」
美希「? はいなの」
美希「えー! 聞いてなかったの!」
P「すまん、さっき急に決まったんだ」
美希「もー、ミキ疲れてるのにー」
P「そう言うなって。これも仕事のうちだ」
美希「はーいなの」
春香「何なら私が代わりに行きましょうか? プロデューサーさん」
P「いや、悪いがこの仕事はもう美希に決まってるんだ。春香はまた今度な」
春香「ちぇっ、ざーんねん。……あっ、そうだ。美希」
美希「? 何? 春香」
春香「はい、これ。美希の分。春香さん印の特製クッキー。これ食べてお仕事頑張って!」
美希「! ありがとうなの! 春香!」
P「美希。早く」
美希「わ、分かってるの! ちょっと待っててなの!」ダッ
P「なんとか間に合ったな……」ハァハァ
美希「た、ただでさえ疲れてるミキに全力ダッシュさせるなんて、プロデューサーは結構ひどいって思うな……」ハァハァ
P「仕方ないだろ。タクシー渋滞につかまっちゃったんだから」
美希「それで? ミキ、まだ何のお仕事かも聞いてないんだけど……」
P「ああ、それはだな……」
ガチャッ
「失礼します」
P「! ご無沙汰しています」
「ご無沙汰しています。本当に移籍されたんですね」
P「ええ、まあ……色々あって」
美希「……プロデューサー?」
P「ああ、えっと……こちらが星井美希。当事務所の所属アイドルです。ほら美希、挨拶」
美希「あっ、うん。えっと。星井美希です、なの。よろしくお願いしますなの」ペコリ
「ふふっ。はい、よろしくお願いします。よく存じていますよ、星井美希さん。私はヨシダプロダクションでマネージャーを務めている吉井という者です。そしてこちらが――」
P「よろしくお願いします。弥さん」
美希「よろしくお願いしますなの」ペコリ
海砂「…………」ジーッ
美希「?」
海砂「ほ……」
美希「ほ?」
海砂「本物だ! 本物のミキミキだ!」
美希「えっ」
吉井「ちょっとミサ。落ち着いて」
海砂「だってミキミキだよ、ヨッシー! 本物の! 765プロの!」
美希「え? え?」
海砂「すごいすごい! やだ、ちょーかわいー! キャー!」
美希「…………」
P「は、ははは……」
P「ああ。○×ピザのCMだ。元々は弥さんにきていた話だったんだが、吉井さんに頼んで、美希も一緒に出してもらえないかと企業側に推してもらってな。それでなんとかオーケーしてもらえたってわけだ」
吉井「あなたには以前からよくお世話になっていましたからね」
P「いえいえ、それはお互い様ですよ」
美希「? そうなの?」
P「まあ狭い業界だからな。俺が961プロに居た頃から、よくお互いに仕事先を紹介しあったりしていたんだ」
美希「へー」
吉井「それに、今を時めく765プロのアイドルさんとのコラボCMとなれば話題性も上がるし、まだ駆け出しのミサにとってはより名前が売れるチャンスになりますからね。まさにWin-Winというわけです」
海砂「うんうん。ミサも、ミキミキと一緒のCMに出れて嬉しいしね」
美希「ありがとうなの。そう言われるとミキも嬉しいの」
海砂「ふふっ。それにしても、やっぱり本物はテレビで観るよりずっと可愛いね」
美希「え? あ、ありがとうなの」
吉井「ミサ。一応星井さんの方が先輩なんだから」
海砂「あっ、そっか。ごめんなさい。気悪くしないでね?」
美希「えっ、ぜ、全然そんなことないの!」
海砂「そう? 良かった。ふふっ」
美希「あはっ」
美希「? どうしたの? プロデューサー」
P「いや……なんかこう、事務所の垣根を越えてのアイドル同士の交流、ってのも良いもんだと思ってな」
美希「何それ。なんかジジくさいの」
P「じ、ジジくさいってお前……」
吉井「ああ、でも分かりますよ。最近色々ありましたからね、この業界」
海砂「あー、あの一連のやつね。うちも社長が亡くなったし」
P「そうでしたね」
吉井「あなたのところも、確か……」
P「ええ。うち、といっても前の職場ですが。役員が一人、事故死で」
吉井「大変でしたね、お互い」
P「まあ不幸中の幸いといいますか、うちはほぼ社長のワンマンだったので、大きな影響は無かったですけどね」
海砂「765プロは大丈夫だったんだっけ?」
美希「え? え、えっと……」
P「他の事務所とはちょっと違いますが、俺の前任のプロデューサーが……」
吉井「ああ、そうか。それであなたが移ったんでしたね」
P「ええ、まあ」
海砂「なーんか、こんな感じでここんとこずっと、アイドル業界全体が暗い感じだよね。早く明るくなってほしいな」
P「業界というか、今は世の中全体が暗い雰囲気に包まれているような気がしますよ。キラ事件もありますし……」
美希「…………」
P「ええ。この二人の頑張りが、世の中を再び明るく照らし出すきっかけとなる。俺はそう信じています」
美希「なんかすごいことになってるの」
吉井「それだけ期待してるってことよ。あなた達二人に」
海砂「よーし、美希ちゃん。一緒に力を合わせて頑張ろう」
美希「うん。ミキもガンバるの。海砂ちゃんと一緒に」
海砂「あ!」
美希「? どうしたの?」
海砂「ねぇヨッシー。前から考えるように言われてたミサの公式ニックネームの件だけど……『ミサミサ』って、どうかな?」
吉井「え」
海砂「美希ちゃんの人気にあやかってさ。良いと思わない?」
吉井「……いや、あやかるのは別にいいけど、でも何もネーミングまで真似なくても……」
P「良いんじゃないですか?」
吉井「え?」
P「『ミキミキ』と『ミサミサ』。なんだか覚えやすいし、コラボCMにもうってつけだと思います」
美希「うん。ミキもそれが良いって思うな」
吉井「……まあ、お二人にそう言っていただけるのなら……」
海砂「よーし! じゃあ改めて、『ミキミキ』と『ミサミサ』で頑張ろう! 美希ちゃん!」
美希「はいなの! 海砂ちゃん!」
美希「へー。海砂ちゃんってまだデビューして日も浅いって言ってたけど、もう結構ティーン誌やファッション誌とかに出てるんだ」
リューク「…………」
美希「あっ。深夜番組のアシスタントもやってる。ふーん。今度観てみようかな」
リューク「…………」
美希「あっ! 分かったの!」
リューク「え? 何がだ?」
美希「あのヨッシーっていう海砂ちゃんの女マネージャー、ずっと誰かに似てるなーって思ってたんだけど、律子に似てるの! あのメガネとか!」
リューク「……ああ、そう……」
美希「そういえば性格も結構律子っぽかったの。なんか真面目そうなとことか」
リューク「…………」
美希「……え?」
リューク「? 今度は何だ?」
リューク「ん? 何々……『今から一年前、弥海砂の両親は強盗に殺された』……? うお、マジかよ」
美希「しかもこの犯人の名前……確か……」パラパラ
美希「何日か前、まだ裁いていなかった過去の凶悪事件の犯人をまとめて裁いたときに……」
美希「! ……やっぱり……」
リューク「おー、ばっちり書いてあるな」
美希「…………」
リューク「ククッ。つまりお前は彼女の両親の仇を討った恩人ってわけか。もちろん、向こうはそんなこと知るわけもないが」
美希「…………」
リューク「こういうことならいっそ、あの子に自分がキラだって教えてやったらどうだ? 今よりもっと仲良くなれるかもしれないぞ」
美希「…………」
リューク「そうしたら、お前が今一人でやってる裁きだって、喜んで手伝ってくれるかもしれない」
美希「……何バカなこと言ってるの、リューク」
リューク「あれ」
美希「海砂ちゃんはミキのアイドル仲間で普通の友達。それ以上でもそれ以下でもないの」
リューク「……ああ、そう……」
美希「…………」
美希(そうだよ。ミキは誰の力も助けも借りない)
美希(このデスノートだけで、皆が楽しく生きていける世界を作ってみせるの)
L「…………」
L(先日、私は捜査本部に対してキラの人物像についての自分の見解を述べたが……結局、その後もキラの裁きの傾向に変化はみられなかった)
L(この現状では、キラが捜査本部から情報を得ている可能性は低いと判断せざるを得ない)
L(あわよくば、ここからキラの手掛かりをつかめるかとも思ったが……)
L(これでまた振り出しか)
ワタリ『L。日本の警察に頼んでいた情報が上がってきました』
L「分かった。回してくれ」
ワタリ『こちらです』
L「…………」
L(私が警察に調べるよう依頼していたのは、これまでキラに殺された犯罪者が日本でどのような報道のされ方をしていたか、という点)
L(キラが殺人を行う上で必要となる条件を知るために依頼していたものだ)
L(それによると……)
L(これまで殺された犯罪者は、すべて日本で顔と名前が報道されていた者……か)
L(とすると、キラが殺人を行うためには、少なくとも対象者の顔と名前の両方を知ることが必要……?)
L(つまりキラは、殺したい人物がいても、その者の顔を見ただけでは殺せない……?)
L(いやだが、氏名不詳の者などでない限り、そもそも犯罪者の顔だけが報道されるということは無い。そして少なくともキラが活動を始めてからそのような報道がされたケースは無い)
L(ならばもう少し……捜査本部の情報が漏れていないという前提であれば……)
L「…………」
L『捜査本部の皆さん。この度は私の依頼に応じて情報を提供して下さりありがとうございました』
L『これにより、私はキラの殺人に必要な条件をほぼ特定することができました』
星井父「! 本当か」
総一郎「…………」
L『ただ、これは今後のキラ捜査の基本となる情報ですので、可能な限りより明確にしておきたい』
L『そこで、皆さんに報道機関を使ってやって頂きたいことがあります』
星井父「また報道操作か……? 今度は何をする気だ」
松田「まさかまた自分の身代わりを晒させる気ですかね?」
総一郎「…………」
L『今回お願いしたいことは、犯罪者の報道内容の操作です』
星井父「? 報道内容?」
総一郎「…………」
L『そしてできれば、今から述べる内容を明日の報道で実施して頂きたい』
L『まず、これまでのキラの裁きの傾向から、裁きの対象となりそうな重大犯罪を犯した者のうち、任意の一名を偽名で報道させて下さい。この際、顔写真は本人の物をそのまま使用して報道させて下さい』
星井父「? 偽名ということは……わざと誤った報道をしろということか?」
L『はい。私の考えではキラの殺人には顔と名前が必要……しかしもし仮に顔だけでも殺せるとすれば、偽名での報道でもこの容疑者は殺される筈。逆にこの容疑者が殺されなければ、名前まで必要という私の考えが裏付けられることになります』
星井父「なるほど……」
総一郎「…………」
L『そして次に、それとは別に、同じくキラの裁きの対象となりそうな犯罪を犯した者のうち、比較的年齢の近い容疑者二名の顔写真を入れ替えて報道させて下さい。この際、名前については二名とも本名での報道をお願いします』
松田「さっきの逆のパターンですね」
星井父「これでもしその二名が殺されれば名前だけでも殺せる……逆に殺されなければ名前だけでは殺せない、ということになるということか」
L『その通りです。もっとも殺害対象を特定するという観点からは、いくら名前が分かっていても顔が分からない相手を殺せるとはまず考えにくいですが……念の為です』
L『この三名以外の者は、これまでの犯罪者と同様、本名と本人の顔写真で報道させて下さい』
L『そしてこれらの報道操作にもかかわらず、誤った情報で報道した三名の容疑者全員が殺された場合は速やかに……もしその中で殺されなかった者がいた場合は、数日間様子を見、それでも何も起こらなければ訂正の報道をさせて下さい』
総一郎「…………」
総一郎「……L。これでは犯罪者をキラの殺人の条件を知るための実験台に使っているのと同じ……やっていることはキラと大差無い。申し訳無いが、警察としては承服しかねる」
星井父「局長」
松田「確かにそうっすよね……。この捜査本部の中でも、キラが報道から犯罪者の情報を得ている以上、犯罪者個人が特定されるような報道はやめるべきだって意見も出ていますし」
L『……その考えは一意見としては理解できますが、今警察がそのような措置を取ってしまうと、キラが抗議と脅しの意を込めて無作為に一般人を殺し始めたりする可能性もゼロではありません』
L『犯罪者だから死んでもいい、などと言うつもりは毛頭ありません。それではまさにキラと同じ考えです』
L『しかし現状のまま手をこまねいていても状況が変わらないことも確かです。これまで通り、キラの基準に沿う、一定以上の重大犯罪を犯した者が殺され続けるだけです』
L『それならば、少なくとも今この状況でできることはやっておきたい』
総一郎「………」
L『必ずしも人道に沿ったやり方とはいえないことは否定しません。しかしキラ事件そのものを終結させるためには必要なことです』
L『どうかご理解下さい』
総一郎「……分かった。Lがそこまで言うのなら……」
星井父「局長」
松田「良いんですか?」
総一郎「良いとは思っていない。だが現時点で我々警察がキラの殺人の条件を特定できていないのも事実だ……」
星井父「それは……そうですが……」
L『ご協力、感謝いたします。では、よろしくお願いいたします』
総一郎「…………」
美希「さて。今日も裁きの時間なの。テレビテレビっと」ピッ
リューク「もうすっかりキラとしての活動が日常の一コマになってるな」
美希「まーねー。なんだかんだでもうこの裁きを始めてから一か月近くになるし」
リューク「アイドルとしての活動の方も忙しくなってきてるっていうのに大したもんだな」
美希「その分ガッコの勉強はやばいけどね……ミキ、これでも一応受験生なのに」
リューク「受験なんてどうにでもなるだろ。たとえばデスノートを使って入学したい高校の校長を脅してみるとか」
美希「むー。ミキはそういう目的でノートを使ったりはしないの。見くびらないでほしいな」
リューク「ククッ。それは悪かったな」
TV『……本日未明、東京都渋谷区で強盗殺人事件が発生し……』
美希「おっと。早速きたの」
TV『……警察は中岡寺松四郎容疑者の行方を追っており……』
美希「中岡寺松四郎……ね。よし、顔も覚えたの」
リューク「……ん?」
美希「? どうしたの?」
リューク「いや……なんでもない」
美希「? 変なリューク。まあいいや」カキカキ
リューク「…………」
美希「よし。これでまず一人なの」
美希「はいはい、恐田奇一郎……っと。こんな大人しそうな顔して銀行強盗なんて、結構大胆な奴なの」カキカキ
リューク「……?」
TV『……先月15日に起きた女児誘拐殺人事件で、警察は鳩梅﨑元次郎容疑者を逮捕……』
美希「鳩梅﨑元次郎……ね。こっちはなんかいかにも悪そうな顔なの」カキカキ
リューク「……ククッ。なるほど、そういうことか」
美希「え? 何か言った? リューク」
リューク「いや、何も?」
美希「もー。人が頑張って裁きしてる時にジャマしないでほしいの。……あっ。海砂ちゃんから電話なの!」
リューク「俺はダメでミサはいいのかよ」
美希「うん。だって海砂ちゃんはミキの友達だもん」ピッ
リューク「…………」
美希「……もしもし? 海砂ちゃん? うん、まだ起きてたの」
美希「……うん。ああ、そこミキも行ってみたいって思ってたの! あはっ」
美希「うん、大丈夫なの。じゃあまた明日ね。おやすみなさいなの」ピッ
リューク「……ミサと会うのか? 明日」
美希「うん。明日オフだから駅前にできたケーキ屋さんでも行ってみない? って。ミキもちょうど明日お休みだし、前から一度行ってみたかったところだから良かったの」
リューク「へぇ。それは良かったな」
美希「さて、じゃあ残りの裁きもちゃっちゃと終わらせて寝ようっと。あふぅ」
リューク「…………」
美希「なんか友達と遊ぶの久しぶりなの」
リューク「そうなのか?」
美希「うん。事務所の友達とは、前のプロデューサーが亡くなってから、ちょっとしばらくそういうのはやめとこうみたいな空気になっちゃってたし」
美希「ガッコの友達の方も、ちょっと前にクラスメイトの男子が死んじゃったから、なんとなく羽目を外しにくい感じになってるの」
リューク「……どっちも自分で殺しといて……」
美希「なんか言った?」
リューク「いや、別に……」
美希「あっ、そうだ。これ、うっかり海砂ちゃんに触られないように気を付けないと。もうちょっと鞄の底の方に押しやっといた方がいいかな」グイグイ
リューク「……遊びに行く時でも持って行くんだな。デスノート」
美希「うん、そうだよ。当然なの」
リューク「前から思ってたんだが、そうやって常にノートを持ち歩くのって危なくないか? 今自分で言ってたように、何かの拍子に他のやつに触られたりする可能性もあるわけだし」
美希「それを言うなら、家に置きっぱなしの方がよっぽどアブナイの。ミキの部屋、ママがちょくちょく掃除しに入ってくるし、お姉ちゃんも勝手に入ってきてはミキの服とか借りてっちゃうしね」
リューク「……なるほどな。常に肌身離さず持ち歩いてる方が安全ってことか」
美希「そういうことなの。あっ! 海砂ちゃんなの! おーい、海砂ちゃーん!」
海砂「やっほー美希ちゃん。あっ、ちゃんと変装してるんだね」
美希「そーなの。ミキ的にはどっちでもイイって感じなんだけど、律子がしろしろってウルサくて」
海砂「それだけ売れてるって証拠じゃん。いいなあ、早くミサも売れるようになりたい」
美希「ミキ的には、海砂ちゃんならすぐ売れるようになるって思うな」
海砂「本当? 嬉しい、ありがとう! じゃ、早速行こっか」
美希「はいなの!」
L「…………」
L(昨日報道された犯罪者で、キラの裁きの対象となりそうな重大犯罪を犯した者のうち、実際に殺されたのは顔と名前が正しく報道された者のみ)
L(顔と名前のいずれかが誤った情報で報道された三名については、まだ誰も殺されていない)
L(これはやはり……)
L「……ワタリ。例の三名の犯罪者だが、数日間様子を見て何も無ければ……」
ワタリ『はい。その際は予定通りの対応を取る旨、警察と再度確認済みです』
L「分かった。引き続きよろしく頼む」
L(……さあ、どう出る? キラ……)
美希「あふぅ。今日もちゃっちゃと裁きいってみよーなの」ピッ
リューク「…………」
TV『……先日お伝えした、東京都渋谷区で起きた強盗殺人事件についてですが、容疑者の名前を誤ってお伝えしていました』
美希「……え?」
TV『正しくは『中岡字松四郎』容疑者でした。訂正してお詫びいたします』
美希「……ってことは……」パラパラ
美希「あっ。やっぱりミキ、間違った方で書いちゃってる。……ねえリューク、名前を間違えて書いちゃってたらやっぱり無効?」
リューク「ああ。無効だな」
美希「もー。二度手間になっちゃったの。ちゃんと報道してよね」カキカキ
リューク「…………」
TV『……えー、これも先日お伝えした銀行強盗事件と女児誘拐殺人事件についてですが、この二つの事件の容疑者の顔写真を取り違えてお伝えしていたことが判明しました」
美希「えっ! 取り違え!?」
リューク「…………」
TV『正しくは、銀行強盗事件の容疑者、恐田奇一郎の顔写真がこちら、そして女児誘拐殺人事件の容疑者、鳩梅﨑元次郎の顔写真がこちらとなります。訂正してお詫びいたします』
美希「……ねぇ、リューク」
リューク「ん? 何だ?」
美希「一応聞くけど、違う人の顔を思い浮かべながら名前を書いちゃった場合もやっぱり無効?」
リューク「ああ。無効だな」
美希「もー! 何なの!? こんなにいっぱい間違えないでほしいの!」カキカキ
リューク「……ククッ。不便だな、人間ってやつは。殺したい奴の顔を見ても名前が分からないとは」
美希「? どういうこと?」
美希「?」
リューク「いいか、ミキ。死神とデスノートを持った人間とでは二つの大きな違いがある」
美希「二つの違い?」
リューク「ああ。そもそも何故、死神がデスノートに人間の名前を書くか知ってるか?」
美希「そんなの、ミキが知るわけないの」
リューク「……ククッ。それはな、死神は人間の寿命をもらっているからだ」
美希「? 寿命をもらう?」
リューク「ああ。たとえば、人間界で普通に60歳まで生きる人間を40歳で死ぬようにノートに書く。そうすると、60-40=20、その人間界での20年という時間が死神の寿命にプラスされるんだ」
リューク「だからよほど怠けてない限り、頭を拳銃でぶち抜かれようと心臓をナイフで刺されようと死神は死なない」
美希「ふぅん。そうなんだ」
リューク「もっとも、ダラダラと何百年も人間の名前を書く事を忘れていて死んだ死神も俺は見たし……」
リューク「俺も知らないが、死神を殺す方法ってのも存在してるらしい」
美希「へぇ」
リューク「しかし、ミキがデスノートに人間の名前を書いてもミキの寿命は延びない。これが死神とデスノートを持った人間との違いのひとつめだ」
美希「なるほどね。まあミキも流石に何百年も生きたくはないからそれはそれで良かったの」
リューク「ククッ。確かにもう散々殺しまくってるからな、お前の場合」
美希「むー。死神に言われたくないの」
リューク「ああ、すまん」
リューク「そこに多少の好き嫌いはあるかもしれないが、ほとんどがたまたま目に留まった人間だ」
リューク「じゃあ何故死神界から覗いているだけでその人間の名前が分かるかだが……」
美希「…………」
リューク「死神の目には……人間の顔を見ると、そいつの名前と寿命が顔の上に見えるんだ」
美希「! ……名前と寿命……」
リューク「そうだ。だから死神は殺す奴の名前が分からなくて困ることはないし、その人間を殺せば自分の寿命がどれだけ延びるかがはっきり分かる」
リューク「目が違う。それが俺とミキとの決定的な違いだ」
美希「…………」
リューク「そしてもちろん今、俺の目にはミキの名前と寿命が見えている」
美希「! …………」
リューク「人間界単位に直すと何年かはっきり分かる。もちろんそんな事はここまで口の裂けている俺でも口が裂けても言えない」
美希「……なるほどね。じゃあ……」
リューク「……?」
美希「もし名前が分からない犯罪者がいた場合、リュークに聞いたらそいつの名前を教えてくれるの?」
リューク「いや、あいにくだがそれもできない。死神界の掟があるからな。だが……」
美希「?」
美希「! 目を……死神の目に?」
リューク「ああ。ある古くから伝承されてきた取引をすることでな」
美希「と……取引って?」
リューク「死神の眼球の値段は……その人間の残りの寿命の半分だ」
美希「! …………」
リューク「つまり、あと50年生きるとすれば25年。あと一年の命なら半年だ」
美希「…………」
リューク「どうする? ミキ。この取引をすれば顔を見るだけで全ての人間の名前が分かる。そうすればもう今日みたいなことは無くなる」
美希「……リューク」
リューク「おう」
美希「確かにさっき、ミキは何百年も生きたくはないって言ったけど……だからって、寿命をみすみす減らすようなことはしたくないの」
リューク「…………」
美希「悪人達を消していき、皆が笑って生きていける世界を作るには、きっとそれなりに時間がかかると思うしね」
美希「だからそのためには、元々持ってる寿命まで減らすようなことはしたくないの。それに今日みたいなこともそう滅多には起こらないと思うし」
リューク「そうか。分かった。まあこの取引はミキがノートを持っている限りいつでも出来る。また気が向いたら言ってくれ」
美希「…………」
L「…………」
L(顔と名前のいずれかを誤った情報で報道していた三人の容疑者全員が、昨日、その訂正の報道を行った直後に心臓麻痺で死亡した……)
L(状況的に、訂正報道を見たキラによって改めて裁きがなされたものとみてまず間違いないだろう)
L(しかしこうも簡単に……これでは『私は顔と名前のいずれか一方の情報だけでは殺せません』と宣言しているようなもの)
L(いや、だが当初の誤った情報による報道の時点で殺せていなかった以上、それはどのみち分かることともいえるか)
L(いずれにせよ、キラの殺人には顔と名前の両方が必要……つまり、どちらか一方のみの情報では殺せない。今回そのことがはっきりと分かった)
L(今後はこのことを念頭に置いて捜査を行うべき)
L(そしてもちろん、この事実が意味するリスクも踏まえた上で……)
L「…………」
L(待っていろ……キラ)
L(私は必ずお前を……死刑台に送ってみせる!)
総一郎「な……何だこれは?」
捜査員A「見ての通り辞表です」
総一郎「…………!」
捜査員A「他の事件の担当に回して頂くか、それができなければ警察を辞めます」
総一郎「……キラに殺されるかもしれないからか?」
捜査員A「はい」
総一郎「…………」
捜査員B「Lがキラの殺人の条件を特定してくれましたからね」
総一郎「キラは顔と名前が分からなければ殺せない……」
捜査員B「ええ。しかし逆に言えば、顔と名前さえ分かれば殺せる」
捜査員C「もちろん、顔と名前以外の条件がある可能性も否定はできませんが、これまでの裁きを見る限りおそらくそれは無いでしょう」
総一郎「…………」
捜査員B「私達はLとは違い、警察手帳という顔写真と名前の入った身分証明書を持って捜査をしています。堂々と顔を隠さずです」
捜査員A「キラはこれまでまだ犯罪者以外は殺していませんが、それはまだ我々捜査本部がキラに迫れていないからと考えます」
捜査員B「今後捜査が進展し、もし自分が捕まりそうになったら……私がキラなら、たとえ犯罪者でなくとも自分を捕まえようとする者は殺します」
捜査員C「捕まれば自分が死刑ですからね」
捜査員A「つまり我々はいつキラに殺されてもおかしくない……局長の仰ったとおり、これが部署異動を希望する理由です」
捜査員B「では局長、よろしくお願いします」
総一郎「…………」
L「…………」
L(キラの殺しの条件は分かった。これで今後ある程度キラに近づき、仮に顔を見られたとしても名前さえ知られなければ殺されることは無い)
L(つまりこれからは、より直接的にキラの身辺に探りを入れる捜査も可能となるということ)
L(ただそれは、私のようにどこにも顔や名前といった自分の情報を残していない者に限った話)
L(常に身分証明書を携帯している警察の人間にとってはまた勝手が違うだろう)
L(それに今後の捜査はキラの足取りに直結する可能性もある……現状、捜査本部の情報が外に漏れているとは考えていないが、それでもリスクは可能な限り減らしておきたい)
L(そのために必要なのは……今後のキラ捜査は、外部に情報を漏らすことが無いと確信できる人間のみで行っていくこと)
L(この点、今の捜査本部は捜査効率は高いが大所帯過ぎる……)
L(しかしこちらから『捜査員を厳選してくれ』と切り出すのも『私はあなた方を信用していません』と言うようなもの)
L(キラ捜査に警察の協力は不可欠……ここで警察との信頼関係を壊してしまうのはまずい)
L(さて……どうするか……)
ワタリ『L。捜査本部の夜神局長からです。携帯電話からの発信のようです』
L「携帯から? 分かった。つないでくれ」
L「お疲れ様です。携帯からとは珍しいですね。何かありましたか?」
総一郎『ああ。今は周囲に他の者がいない状況で通話している。実は今日、捜査本部から三名、異動を希望する者が現れた』
L「! ……理由は?」
総一郎『このまま捜査が進めば、いつキラに殺されるか分からないから、ということだ』
L「……そうですか。実は私も同じことを考えていました」
総一郎『そうなのか?』
L「はい。キラが顔と名前だけで人を殺せると分かった以上、身分証明書を持って捜査している警察の皆さんが殺されてしまう可能性は十分にありますから」
総一郎『なるほどな』
L「で、どう対応されたんですか?」
総一郎『……私の方から、捜査本部の捜査員全員に向けて一つの提案をした』
L「? 提案?」
総一郎『ああ。……確かに今後、我々はキラに殺されるかもしれない。このような状況である以上、今ここで捜査から外れても降格などにはしない。自分の人生、家族、友の事をよく考え、そういったものを犠牲にしてでもキラと戦おうという信念のある者だけ、今から三時間後にこの捜査本部に居てくれ、と』
L「! 夜神さん」
総一郎『L。あなたは勝手をされて怒っているかもしれないが、これは我々警察内部の組織体制の問題……どうか許してほしい』
L「いえ……逆です。夜神さん」
総一郎『? 逆?』
L「はい。私もこれからの捜査は人数を絞って行うべきと考えていました。それをどうそちらへ切り出そうかと思案していたところです」
総一郎『! そうだったのか?』
L「はい。その理由はまた後ほどお話しいたします。とにかくその夜神さんの提案は私にとっては願っても無いものです。感謝します。ではメンバーが確定した段階でまた連絡して下さい」
総一郎『ああ、分かった』
L『今、そこに残っておられる方が今後もキラと戦って行く覚悟をお持ちの方、ということでよろしいですね』
総一郎「ああ。私を含めて七名が残っている」
星井父「…………」
松田「…………」
相沢「…………」
模木「…………」
伊出「…………」
宇生田「…………」
L『分かりました。私は強い正義感を持ったあなた方こそを信じます』
L『それでは、これから今後の捜査の進め方についてご説明します』
総一郎「……いや、待ってくれ。L」
L『?』
総一郎「ここに居る者は全員、命を懸けてキラを追う覚悟を持った者だが……全員が全く同じ考えというわけではない。伊出。宇生田」
伊出「L。我々は命懸けでキラを捕まえると決心した。キラに対して命を懸ける意味は分かっているはずだ」
宇生田「しかし、あなたはいつも顔を見せず我々に指図するだけ……このままでは我々はあなたを信用して協力することができない」
L『…………』
伊出「そして今後、互いに信用し協力してキラを追っていくためには……そもそもの前提として、互いに互いをキラでないと確信しあっていることが必要不可欠」
宇生田「現に世間では『L=キラ』、つまりLの二重人格という説を立てている者もいる」
宇生田「もちろん、我々がそう思っているというわけではない。だが、L。我々とともに捜査をする気があるならここに来て顔を見せ、名前も教えてほしい」
L『! …………』
伊出「あなたは当然、我々全員の顔と名前を知っているだろう。なのに我々はあなたの顔も名前も知らない……これではあまりにアンフェアだ」
伊出「もしあなたが今言った条件を受け容れてくれるのなら……我々もあなたと共にキラを追うことに異存はない」
総一郎「…………」
L『……すみません』
伊出・宇生田「!」
L『私は、いずれにせよあなた方全員の前に顔を見せることは考えていました』
L『これはあなた方も仰ったように、互いに対する信用の証とするためです』
L『しかし、名前を教えることだけはできません』
L『これは私が世界のどこにも自分の名前を情報として残していないからということもありますが……』
L『それ以上に、いかなる状況においても、キラの殺人に必要となる情報を開示するべきではないと考えているからです』
総一郎「L……」
宇生田「私も同じです」
総一郎「伊出。宇生田……」
伊出「局長。後の事はお任せします」
宇生田「こちらでもし有益な情報が見つかれば、必ずお伝えしますので」
総一郎「すまん……よろしく頼む」
(伊出と宇生田が捜査本部から去る)
総一郎「では、改めて……L。今この場に居る五名が、あなたを信用し、あなたと共にキラを追う覚悟を持った者達だ」
星井父「…………」
松田「…………」
相沢「…………」
模木「…………」
L『分かりました。……ワタリ』
ワタリ「はい」
(『L』の文字が映し出されたノート型PCを総一郎達の方へ向けるワタリ)
総一郎「?」
星井父「なんだ?」
『今、これから起きることは
我々七人だけの秘密にして
頂きたい。
先ほども言ったように、
私が信用した、あなた方五人と
今すぐにでも会う事を考えています。
会う事、会った事、これからの我々の行動、
全てを一切会話にしない。
今ここに居ない者、もちろん警察内部、
自分の身内や友人等にも漏らさない。
上記の事を約束して頂けるのであれば、
警察庁の建物からすぐの帝東ホテルまで来て下さい。
私は今、このホテルの一室にいます。
私はこれから数日おきに
都内のホテルを移動します。
今後、警察庁の捜査本部は
飾りの捜査本部とし、
私の居るホテルの部屋を
事実上の捜査本部として頂きたい
もちろんこれは、キラに私の顔を知られたくない
という防衛策であり、
あなた方とまったく同じ土俵に立つ事にはなりません。
しかし、これが私を信用してもらい共に捜査をする為に
今、私が歩み寄れるボーダーラインです。
この条件で協力して頂けるなら
二組に分かれ、30分以上の間を空けて
ワタリに私の居る部屋の番号のメモをもらい、
午前0時までに、ここに来て頂きたい。
では、お待ちしております。』
(ホテルの一室のドアの前に立つ総一郎と星井父)
総一郎「この部屋にLが……」
星井父「一体どんな人なんでしょうね」
総一郎「うむ……」
星井父「おっ、来たな。後発組」
相沢「お待たせしました」
松田「いよいよっすね」
模木「…………」
総一郎「よし。では行こう」
コンコン
「お待ちしておりました。お入り下さい」
総一郎「…………」
ガチャッ
「Lです」
総一郎「…………」
星井父「…………」
相沢「…………」
松田「…………」
模木「…………」
総一郎「あ、いえ……申し遅れました。警察庁の夜神です」
星井父「星井です」
相沢「相沢です」
松田「松田です」
模木「模木です」
L「よろしくお願いします。もっとも今後、その名前はこの捜査本部以外では名乗らないようにして下さい」
総一郎「え?」
L「用心のためです。そして私のこともこれからは『L』ではなく『竜崎』と呼んで下さい」
総一郎「わ、分かった」
L「では早速ですが……捜査の話をする前に、『この中にキラはいない』ということを明らかにする為に一人ずつお話をさせて頂きたい」
星井父「? し、しかしエ……いや、竜崎。あなたはさっき我々を信用すると……」
L「もちろん信用しています。そうでなければこのように顔を出すことはしません」
星井父「じゃあ……」
L「それとこれとは別の話です。キラが巧みに私を誘導し、自分の顔を出しても良いと思わせる程度にまで私を信用させたという可能性もありますから」
松田「それって結局信用してないってことなんじゃ……」
総一郎「いや、ここは竜崎の言うとおりにしよう」
星井父「局長」
総一郎「もし仮に、始めから捜査本部にキラがいて情報を得ていたのなら、今ここに残っている可能性は高い。ならば納得のいくまで調べてもらった方が我々としても安心できる」
松田「確かに。ここに残れば竜崎の顔見れたわけですしね」
星井父「分かりました。局長がそう言うのなら」
相沢「私も構いません」
模木「私もです」
L「ありがとうございます。では夜神さんからこちらの部屋へ」
L「一人一人に尋問する様な事をして申し訳ありませんでした」
L「この中にキラはいません」
総一郎「竜崎……何故いないと言い切れるんです?」
L「一言でいえば、キラであるかどうか確かめるあるトリックを用意していたんですが……皆さんにはそのトリックを仕掛ける気すら起こりませんでした」
一同「…………」
ピピピピ
L「失礼」ピッ
L「……わかった。こっちも終わった所だ。自分のキーで入ってきてくれ」ピッ
L「ワタリが来ます」
一同「!」
ガチャッ
「皆様、お疲れ様です。ワタリと申します。と言っても、先ほどまで一緒に居たばかりですが」
一同「…………」
ワタリ「いつもの格好だとワタリですと言わんばかりで、このホテルに竜崎がいるとばれますので」
総一郎「な、なるほど……」
ワタリ「こうして私の顔をお見せできるのも、竜崎が皆さんを信用した証拠です」
星井父「は、はい……」
松田「ハハハ……」
L「皆さんにお渡しして」
(持っていたボックスを開いて総一郎達に見せるワタリ)
ワタリ「皆さんの新しい警察手帳です」
総一郎「!?」
星井父「新しい?」
松田「名前も役職もでたらめ……」
相沢「偽名の警察手帳、ってわけか」
L「キラは殺人に顔と名前が必要……その前提で命懸けでキラを追うんです。このくらい当然です」
総一郎「さっき『この本部以外で名前を名乗らないように』と言っていたのはこういうことか」
L「はい。今後、外でどうしても名前を出す時はその偽名の警察手帳でお願いします」
星井父「しかし警察が偽造証というのは……」
総一郎「いや、キラが殺人に名前も必要ならば、これは我々の命を守る為に大いに効果がある……これは持っていた方がいい」
松田「私もそう思います」
相沢「うむ」
L「では……いよいよ本題に入らせて頂きます。今後の捜査の進め方について」
総一郎「! …………」
L「それは言うまでもなく、キラがテレビやネットといった誰でも簡単にアクセスできる情報から裁きの対象となる犯罪者を選んでいるからです」
星井父「まあ、そうだな。このままじゃ日本全国民……いや、下手すりゃ世界中の人間がキラ候補だ」
L「ですので現状、キラを絞り込める要素があるとしたらただ一つ。『キラの手による犯罪者以外の被害者』だけです」
相沢「『犯罪者以外の被害者』……そんなのいるのか?」
松田「キラはこれまで、少なくとも表立っては……犯罪者以外は殺してないですよね。あのエ……竜崎の身代わりとして生中継に出演していた者も殺さなかった」
L「はい。でも本当にいないかどうかは調べてみない限り分かりません」
星井父「だが竜崎。仮にいたところで死因は心臓麻痺だぞ? それをキラの手によるものとそうでないもの、どうやって判別する?」
L「もちろん一人や二人の心臓麻痺死者だけでは無理でしょう。しかし百人や二百人、あるいは千人や二千人……」
L「それだけの数の心臓麻痺死者を網羅的に調べれば、その中から、何らかの共通項を持った者達が浮かび上がるかもしれません。同じ地域、同じ会社、同じ学校……」
星井父「…………」
L「そしてその共通項はキラに……神を気取り、犯罪者殺しをしているキラではなく、あくまで普通の社会生活を営んでいる一人の人間としてのキラに、結びつく可能性があります」
相沢「怨恨か?」
L「そうですね。その可能性が一番高いと思います。キラが普通に社会生活を送っている人間なら、日常の中で殺してやりたいと思う人間の一人や二人いてもおかしくはありません。そして言うまでもなく、それはキラを特定する上での大きな手がかりとなります」
松田「竜崎。別の可能性として、金や地位を得る目的、というのも考えられるのでは?」
L「一応の可能性としてはそれもあると思います。ただ私はキラはまだ子どもではないかと推理しているので、可能性としては低いと思っています」
松田「あっ。そういえば言ってましたね……」
総一郎「だが仮にキラが子どもだとしても、特に個人的な怨恨等は無く、単純に自分の殺人の能力を試しただけ……という可能性はあるんじゃないか?」
L「はい。もちろんその可能性はあります。その場合はキラ個人を絞り込むのは難しいでしょうね。たまたま目に留まっただけの赤の他人を殺した可能性もあるわけですから」
相沢「しかしそんなことを言って捜査の範囲を広げようとしなければ、いつまで経ってもキラを捕まえることはできない……というわけか」
L「そういうことです。だから私達は、たとえ99%無駄になると分かっていても、残り1%がキラにつながる可能性があるのなら、その可能性を信じて徹底的に捜査するしかありません」
総一郎「ああ、そうだな。現状での目ぼしい手掛かりが無い以上、しらみつぶしにやるしかない。で、竜崎。具体的にはどうする?」
L「そうですね。とりあえず……キラの最初の犯行と思われる新宿の通り魔の殺人……その日から過去一年間分の日本全国の心臓麻痺死者を洗い出しましょう」
星井父「!」
松田「い、一年間分!?」
L「はい。また死因は『心臓麻痺』に限らず、心不全、心筋梗塞、心臓発作……その他、現在行われているキラによる殺人と実質的に同視しうる死因により亡くなった者全てです」
相沢「それはまた膨大な数になるな」
松田「しかも日本全国ですか」
L「はい。現状、キラが日本の……いえ、この地球上のどこに居るのか、まだ特定できていませんので」
星井父「…………」
総一郎「過去の分から、というのは何か理由があるのか?」
L「はい。普通の人間が、ある日突然顔と名前だけで人を殺せるような能力を持ち、またその能力を実際に使うとしたら、まず最初に思いつくのは自分の身近にいる人間で、殺したいと思っている人間を殺すことだと考えられるからです」
L「逆に、神を気取った犯罪者殺しを始めた後で、思い出したように身近な人間を殺すとは少し考えにくいですから」
松田「なるほど」
L「また先ほど夜神さんが仰ったように、犯罪者殺しを始める前に適当な人間で能力を試していた可能性もありますしね。この場合には、先ほども言ったようにキラ個人を特定しうるほどの確証は得にくいと思われますが、キラの居る地域をある程度絞り込むくらいならできるかもしれません」
相沢「竜崎。あなたの考えはよく分かった。しかしそこまで具体的に捜査方法を考えていたのなら、捜査員がもっと大勢いたときにこの捜査を始めていても良かったのでは? この人数でも可能ではあるが、掛かる時間が段違い……」
L「いえ……逆です。私はむしろこうなるまで、今言った捜査方法を取るつもりはありませんでした」
相沢「? それはどういうことだ?」
総一郎「そういえば竜崎……あなたは今日、『これからの捜査は人数を絞って行うべきと考えていた』と言っていたな。そのことか?」
L「はい。この捜査方法はいわば小細工無しの正面突破。その代わりもし的中した場合には、一気にキラに肉迫しうる可能性があります」
松田「確かに」
星井父「…………」
L「しかしそれは同時にリスクでもある。もし身内……つまり捜査本部にキラに通じる者がいた場合、その情報がそのままキラに伝わる可能性がある」
L「そうなればキラを捕まえるどころか、追う者は逆に殺されてしまう可能性が高い。そしてキラは逃げ、また生き残った捜査員の多くも殺されることを恐れ、委縮してそれまでのようにキラを追えなくなると考えられます」
総一郎「……だから、あなたは捜査本部が今の状態になるまで待っていたということか。捜査本部の人間が死を恐れず悪に立ち向かい、そしてあなたを信用し、またあなたも信用できる人間だけの集まりになるまで……」
L「はい」
L「ここに残り、命懸けでキラを追うと言っていただけた皆さんとだからこそ……私はこの方法でキラを追うことができます」
松田「まあこの人数で過去一年分、日本全国の心臓麻痺死者ですからね」
総一郎「しかしやるしかあるまい。今は竜崎の言うように正面突破しかないんだ」
L「はい。私も探偵としてのネットワークを活用して可能な限り調べます。皆さんもどうかよろしくお願いします」
星井父「…………」
模木「係長?」
星井父「ん? な、何だ。模木」
模木「いえ……何か思い詰めてらっしゃるように見えたので……」
星井父「あ、ああ……これでまた当分家に帰れないと思うとな……ハハハ」
模木「そうですか」
星井父「…………」
星井父(新宿の通り魔の事件の直前……美希の事務所のプロデューサーが……)
星井父(それに確か、同じ頃に美希のクラスメイトの男子も……)
星井父(…………)
星井父(いや、どうせどちらもキラ事件には無関係だろうし、調べればすぐに分かること……あえて今言う必要も無いだろう)
星井父「…………」
リューク「ククッ。珍しいな。こんな時間になってもまだ起きてるなんて」
美希「だって明日テストなのにまだ範囲の半分も終わってないんだもん……あふぅ」
リューク「大変だな。中学生ってのも」
美希「ねぇリューク。問題を見ただけで答えが分かる目って無いの? ミキ、そういう目なら取引考えるんだけど……」
リューク「残念ながら無いな」
美希「あーんもー! 誰か助けてなのー!」
美希「くぁあ……あふぅ」
春香「随分大きなあくびだね。美希」
美希「んー……今日テストだったから、昨日ほとんど寝てないの」
春香「えっ! 美希が? 試験中すらも余裕で爆睡してそうな美希が!?」
美希「……流石にそれは失礼って思うな」
春香「あはは、ごめんごめん」
伊織「でも確かに、あんたが睡眠時間削ってまで勉強してたなんて驚きね」
美希「むー。そりゃするよ。ミキだって一応受験生だもん」
美希(裁き始めてからいきなり成績下がったらパパやママに変に思われそうだし……)
伊織「? なんか言った?」
美希「なんでもないの」
伊織「そう? ならいいけど。でも確かにもう受験シーズンなのよね。私も気合入れて頑張らないと」
伊織「ありがとう、やよい。でも来年はあんたも受験なんだから、今のうちから少しずつでも準備しといた方が良いわよ」
やよい「……えへへ~」
伊織「? 何? その笑い」
やよい「実は私、とっておきの秘策があるんだ」
伊織「秘策?」
春香「もしかして、もう通う塾を決めてあるとか?」
やよい「いえ、私の学校の友達に、ものすごく頭の良いお兄さんがいる子がいるんです。そのお兄さん、今高3らしいんですけど、全国模試は毎回一位、東大合格間違い無し、って」
美希「全国模試一位!?」
伊織「それはまたすごいわね」
春香「じゃあやよいの秘策っていうのは……」
やよい「はい! 友達に頼んで、来年そのお兄さんに家庭教師お願いしようかなーって。あ、もちろんお金はちゃんと払いますよ!」
伊織「なるほど、確かにそれは名案かもね」
春香「でもそこまで頭良い人だったら、授業を受ける側の理解が追いつかなさそうな気もするなあ」
やよい「あう……確かにそれはあるかもです。私、学校の成績かなり下の方だし……」
美希「大丈夫なの、やよい。ミキだって特別学校の成績良くないし!」
伊織「何のフォローなのよそれは……」
やよい「あれ? でも春香さんも来年高3じゃ」
春香「やめてやよい! 私はまだ夢見る少女でいたいの! 数Ⅱとか数Bとか見たくないの!」
やよい「ご、ごめんなさい」
伊織「にひひっ。じゃあこっちの受験が終わったら散々プレッシャーかけてあげるわよ、春香」
春香「あうぅ、やめてぇ……」
やよい「春香さん、来年は受験生同士、一緒に頑張りましょう!」
春香「うん、そうだね。やよい。一緒に頑張ろう! ていうか、私もそのお兄さんに勉強見てもらいたいな……」
やよい「じゃあ明日、学校で友達に聞いてみましょうか?」
春香「え、いいの?」
やよい「はい。とりあえず聞いてみるだけなら」
春香「ありがとう、やよい! じゃあ早速よろしく!」
やよい「はーい、わっかりましたー!」
春香「よーしよし。これでもう春香さんの未来は開けたも同然ですよ! 同然!」
伊織「ったく、もう。調子良いんだから」
春香「えへへ」
美希「…………」
伊織「? どうしたの? 美希」
美希「ん? んーん、別に? ただやっぱり眠いなあって。あふぅ」
伊織「もう。勉強も大事だけど、夜はちゃんと寝なきゃだめよ? 無理して体調崩したら元も子も無いんだからね」
美希「はーいなの」
美希(こういう時間が、いつまでも続けばいいのにな)
L「皆さん、過去一年分、日本全国の心臓麻痺死者の調査お疲れ様でした」
L「現時点で、我々が検知した該当の心臓麻痺死者――これには心不全、心筋梗塞、心臓発作などキラによる殺人と実質的に同視しうる死因により亡くなった者全てを含みますが――その数は15万2435人です」
L「毎年厚生労働省が発表している心臓麻痺等の死亡者の総数から推計するに、おそらく全量の7~8割方に相当するデータは収集できたものと思われます」
L「今後も残りのデータを収集する作業は継続しますが、もう既にこれだけの数のデータが集まっていますので、並行してこれらのデータの分析も行っていきたいと思います」
L「ここまで来れたのも、ひとえに皆さんの不断の努力の賜物です。本当にありがとうございます」
総一郎「いや、竜崎……この短期間でここまでの量のデータが集められたのは、あなたの探偵としてのネットワークによるところが大きい。こちらこそ感謝する」
相沢「L、コイル、ドヌーヴ……まさか世界の三大探偵といわれるこの三名が全員竜崎だったとはな」
L「私は元々持っていたものを利用したに過ぎません。ですが一応、私が他の名前も持っていることは秘密にしておいてください」
松田「しかし、年代別、性別、地域別、職業別、死亡時期……可能な限りあらゆる項目でこれらの死亡者を類型化してみましたが、まだこれといって目立った共通項はありませんね」
星井父「強いて言えば、そのほとんどが高齢者ってことか……まあある意味当然だが」
総一郎「そうだな。だがまあこの数だ。後は竜崎の言うように、残りの2~3割の死亡者のデータを収集しつつ、既にあるデータについては地道に分析を重ねていくしかあるまい」
L「そうですね……キラ事件開始に近い時期に死亡した者達が何らかの共通した傾向を持っているなどということも、今のところは特に……ん?」
相沢「? 竜崎?」
L(収集したデータのうち、最も新しい日付のものは新宿の通り魔がキラに殺された日の前日のもの)
L(この日、日本全国で計412名が心臓麻痺等により死亡。そのうち398名が元々心臓に病を患っていたと思われる高齢者)
L(残り14名のうち、それまで全く心臓に関する病気を患っておらず、既往歴も無かった者は4名。そしてその中で死因が文字通り『心臓麻痺』と分類された者は1名)
L(その1名は『765プロダクション』というアイドル事務所のプロデューサーだった者……)
L(…………)
相沢「どうしたんだ?」
L「いえ……ただ少し……」
相沢「?」
L「『765プロダクション』……この名前、どこかで……」
星井父「!」
L(そうか。確か、この捜査本部を日本の警察内に設置してもらった当初、捜査員及びその家族のプロフィールを警察からもらった時に――……)
総一郎「竜崎。それは――」
星井父「局長。私から」
総一郎「! 星井君」
星井父「竜崎」
L「はい」
星井父「どうせ知られていることだろうし、隠すことでもないから言う。その事務所は俺の娘・星井美希が所属している事務所だ」
L「ええ、そうでしたね。今思い出しました。では星井さん。あなたはこのプロデューサーの件は……」
星井父「ああ。もちろん知っていた」
L「…………」
L「……そうですか」
松田「そ、そうですよ。ミキミキの事務所がキラ事件に関係してるわけないじゃないですか」
L「ミキミキ?」
星井父「……娘のアイドルとしてのニックネームだ。しかし松田、今その呼び方をするのはやめろ」
松田「す、すみません」
L「……松田さんは765プロダクションのアイドルに詳しいんですか?」
松田「えっ。ああ、まあ……それなりに。765プロ以外のアイドルも好きですけどね。特に最近のイチオシはヨシダプロの……」
L「ではこの頃、765プロダクション関係で他に何か心当たりのある出来事はありませんでしたか?」
松田「えっ」
星井父「おい竜崎。お前……」
L「別に娘さんの事務所を疑っているわけではありません。ただ新宿の通り魔が殺された日の前日に、文字通り『心臓麻痺』で死亡していたのは765プロダクションのプロデューサーだけだったから聞いているだけです」
星井父「…………」
松田「そうっすね……まあでも、765プロに限っての話は多分無いと思いますけど……あっ」
L「?」
松田「そういえばこの頃、アイドル事務所の関係者が相次いで死亡した、っていうニュースがありましたよ」
L「! …………」
星井父「…………」
松田「そうなんすよ。それも大手事務所の社長や会長ばかり。もっともその後にキラ事件が起こったんですっかり陰に隠れちゃいましたけどね。それに最近はアイドル事務所関係者で新たに誰かが亡くなったっていう話も聞かないですし」
L「……ワタリ。その事件、というか出来事についての情報を」
ワタリ『はい』
(LのPC画面に複数のネット記事の情報が表示される。それを素早く目で追うL)
L「アイドル事務所関係者……それも大御所ばかりが事故や自殺により相次いで死亡……」
L「その数、実に三か月間で八人……」
星井父「竜崎。それは確かに奇妙な出来事だったが、死因が事故や自殺である以上、キラ事件と結びつけるのは無理があると思うが……」
L「キラが心臓麻痺以外でも人を殺せるとしたら?」
星井父「! …………」
総一郎「心臓麻痺以外で……?」
相沢「竜崎。それは流石に飛躍では……」
L「そうでしょうか? 今我々に分かっているのはキラの殺しの条件だけです。具体的な殺人の方法はまだ解明できていません。単にこれまでキラによって殺されたと思われる者の死因が心臓麻痺だっただけで、それはキラが心臓麻痺以外では殺せないとする論拠にはならないはずです」
松田「それはまあ、確かに……」
星井父「…………」
L「それならば、少しでも可能性がある以上は徹底的に調べるべきです。以前から言っているように、そうしなければいつまで経ってもキラの糸口はつかめません」
星井父「……しかし……」
L「それとほぼ同時期に、765プロダクションのプロデューサーが心臓麻痺により死亡」
L「そしてその直後にキラ事件が始まり、被害者は全て心臓麻痺により死亡」
L「……現状では、これらの事件ないし出来事の間に相互に関連性があるのかどうか分かりません。なので、それをはっきりさせるためには調べてみるしかありません。たとえ99%が無駄になるとしても、最後の1%がキラにつながる可能性があるのなら、です」
総一郎「うむ……そうだな……」
星井父「…………」
L「では相沢さんと松田さんは765プロダクションのプロデューサーが亡くなった日の一年前から現在に至るまで、既に報道されている分も含め、日本全国全てのアイドル事務所の関係者で死亡した者について調べて下さい。死んだ者の地位、死因は問いません」
L「そして夜神さんと模木さんは……同じく765プロダクションのプロデューサーが亡くなった日の一年前から現在に至るまで、765プロダクションの役員、従業員、所属アイドルに限定して、その周囲で死亡した者について重点的に調べて下さい。本人、家族、友人、知人全て含めてです。死因は問いません」
星井父「! …………」
総一郎「竜崎。そこまで捜査範囲を広げるのか」
L「765プロダクションは所属アイドル12人の小さな事務所です。この規模なら従業員も多くはないでしょうから、そこまで時間は掛からないはずです」
総一郎「いや、そういう意味ではなく……」
星井父「竜崎。何故そこまでうちの娘の事務所を?」
L「……仮に、件のアイドル事務所関係者連続死亡事案に含めて考えるとしても、765プロダクションのプロデューサーだけは少し性質が異なります」
L「まずこの事務所だけ、社長や会長などではなく一従業員が死亡しています。しかもその死因も他の事務所の者とは異なり、キラ事件の被害者と同じ心臓麻痺です」
L「そしてこのプロデューサーの死亡直後にキラ事件が発生しています」
L「さらにこのプロデューサーの死を最後に、現在報道されている限りにおいては、アイドル事務所関係者で新たに死亡した者はいないとのことです。……もっとも、この点の正確な情報については相沢さん達の捜査結果待ちですが」
L「以上が、765プロダクションの関係者を他の事務所の関係者より詳しく調べる理由です。別に星井さんの娘さんが在籍しているからではありません」
星井父「…………」
星井父(この流れでは、美希のクラスメイトの男子の件もすぐに……どうせ調べられるなら今言っておくべきか?)
星井父(いやだが美希の名前が何度か挙がった後でそれは……そもそも美希がキラ事件に関係しているはずがないし……)
星井父(…………)
L「なお、これらの捜査については星井さんは外れて下さい。娘さんは元より、星井さん自身も捜査対象者に入ることになりますので。星井さんは引き続き、残りの心臓麻痺死者のデータを収集するとともに、アイドル事務所関係者以外の心臓麻痺死者間において、何らかの共通項がみられないかの分析をお願いします」
星井父「……分かった……」
春香「おはよう、美希」
美希「あっ、春香。おはようなの」
春香「今日も寒いね」
美希「うん。冬真っ盛りってカンジなの」
春香「そして近づく受験の足音……」
美希「うぅ……それは言わないでほしいの」
春香「あはは。ごめんごめん。あ、そういえばこの前のテストはどうだったの?」
美希「まあぼちぼちってカンジかな。一夜漬けで詰め込んだ割には」
春香「そっか。志望校には手が届きそう?」
美希「そうだね。元々ミキは家から近くてそんなに難しくないトコ受ける予定だったから、多分大丈夫なの」
春香「そっかー。真や雪歩ももうすぐセンター試験だし、本当受験シーズン真っ只中って感じだね」
美希「春になったら、入れ代わりで春香も受験生デビューだしね」
春香「そうなんだよね……はあ、気が重いなあ」
美希「そういえば、この前やよいに頼んでた家庭教師の話はどうなったの?」
春香「ああ、多分やってもらえるって」
美希「よかったの。これで春香も東大合格間違い無しなの」
春香「東大て。どんだけハードル上げるのよ」
美希「あはは。あ、着いたの」
春香「おはようございます」
美希「おはよーございますなの」
P「ああ、おはよう。春香。美希」
春香「ん?」
(事務所内に見知らぬスーツ姿の男性が2名立っており、社長、律子、小鳥と何か話している)
春香「プロデューサーさん。そちらは……」
P「ああ、えっと……」
(春香と美希に気付いた2名の男性が、スーツの内ポケットから黒い手帳のようなものを取り出す)
総一郎「警察庁の朝日です」
模木「模地です」
春香「えっ」
美希「け、警察?」
社長「ああ、おはよう君達。ちょっと急なんだが、この刑事さん達が我々に聞きたいことがあるということでね。今日事務所に来た者から順に、一人ずつ話を聞いてもらうことになった」
美希「!?」
春香「そ、それって……何かの事件の捜査ってことですか?」
社長「ああ、例のキラ事件の関係だそうだ」
美希「! …………」
春香「キラ事件って……それで何でうちに?」
総一郎「詳しくは後ほどご説明いたしますが……キラ事件開始に近い時期に、こちらでプロデューサーをされていた方が心臓麻痺でお亡くなりになったとの情報を得たものでして。おそらくキラ事件とは無関係だろうとは思うのですが、念の為、お話をお聞かせ願いたいということです」
春香「前のプロデューサーさんの……」
美希「…………」
P「まあ、あくまで参考人としての事情聴取って位置付けだ。ちなみに俺と社長、律子、音無さんはもう話をした」
美希「!」
P「もっとも俺は入れ代わりで入った身だから、前のプロデューサーについて話せることはほとんど無かったけどな」
総一郎「そういう次第ですので、ご協力をお願いします。なおお話し頂いた内容の秘密は厳守しますので、その点はご安心下さい」
春香「あ、はい。そういうことなら……」
美希「…………」
美希(まさかもうミキに辿り着いて……? いや違う、そんなことありえない)
美希(証拠はノートしか無いんだから、ミキがキラだって分かるはずないの)
美希(だからこれはさっき、朝日って人が言ってたように、前のプロデューサーがキラ事件開始の直前に心臓麻痺で死んだから……それで、念の為に話を聞きに来ただけ)
美希(そう。ただそれだけのこと……別にミキを疑っているわけじゃない)
美希(でもこの人達、キラ事件の捜査で来たってことは、パパと一緒に仕事してる人達ってことだよね)
美希(ってことは当然、ミキがパパの子どもだってことも知っているはず)
美希(パパはこのことを知っているの?)
美希(最近ほとんど帰って来ないし、帰って来ても夜遅くてミキとはすれ違いばっかだからまともに話せてないけど……)
美希(もしパパが知っているとしたら……)
美希「…………」
社長「えー、天海君はこの後レッスンの予定だったな。刑事さん達もできる限り君達の都合を優先して下さるとのことなので、まずは星井君から頼む。天海君はレッスンの準備を」
美希「!」
春香「は、はい。じゃあ頑張ってね。美希」
美希「う……うん」
総一郎「では星井さん。こちらへお願いします」
美希「…………」
(社長室の中央部分にパイプ椅子が三つ置かれており、そのうちの一つに美希が、向かい合う残りの二つに総一郎達が腰掛ける)
総一郎「星井美希さん、ですね」
美希「は、はい……なの」
総一郎「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。先ほどもお話ししたように、ちょっとお話をお聞きするだけなので」
模木「知っていることだけをお話し頂ければ大丈夫ですので。また、言いたくないことは言わなくても結構です」
美希「わかりました、なの」
美希(パパのことは何も言ってこない……まさかミキがパパの子どもだってことを知らない? いや、そんなはずは……)
美希(……まあ、いいの。今はこっちに集中しないと……)
総一郎「では早速ですが、以前この事務所に務められていたプロデューサー……□□さんの事についてお聞きします」
美希「! …………」
総一郎「□□さんが亡くなられた時――○月×日の19時頃ですが――この時、あなたはどこで何をしていましたか?」
美希「えっ。そ、それって」
総一郎「ああ、別にあなたを何か疑っているとか、そういうわけではありません。この事務所の方全員にお聞きしていることですので」
模木「ご容赦下さい」
美希「……えっと、確か……普通に家……自分の部屋に居ました、なの」
総一郎「部屋で何をしていたか、覚えていますか?」
美希「うーん……あんまりよく覚えてないけど、多分漫画読んだり、スマホいじったり……そんな感じでゴロゴロしてたと思います、なの」
総一郎「なるほど。ではそのことを証明できる方はいますか?」
美希「多分マ……お母さんが家に居ました、なの。だからミキが家に居たことは聞いてもらえれば分かると思います、なの」
総一郎「分かりました。では□□さんが亡くなったことを知ったのはいつですか?」
美希「えっと……その次の日、朝事務所に来たときに社長から聞きました、なの」
総一郎「ではそこで初めて知ったと」
美希「はい、なの」
総一郎「分かりました」
美希「…………」
美希「どういう、って?」
総一郎「星井さんから見て、良い人だったか、それとも悪い人だったのか。何でも結構です。あなたの印象をお聞かせ下さい」
美希「え、えっと……」
模木「これは□□さんが亡くなったことがキラ事件と関係があるのかどうかを調べるために聞いているものです。あなたもキラ事件の事はご存知ですね?」
美希「は、はい、なの。テレビでよくやってるし……」
模木「テレビ等で報道されている通り、キラは現在、犯罪者を心臓麻痺で殺していると考えられます。そしてこの□□さんは犯罪者ではありませんが、キラ事件が始まる直前に心臓麻痺で亡くなっている」
美希「…………」
模木「なのでもし□□さんも犯罪者達と同じようにキラに殺されたのだとすれば、殺されるだけの何らかの理由があったと思われます。犯罪者ではないとしても、キラの標的になってしまうような理由が。それを知るための質問だとご理解下さい」
美希「えっと、じゃあ前のプロデューサーが裏で悪いことをしてなかったかとか、そういうこと……?」
総一郎「簡単に言えばそういうことです。たとえば、キラが犯罪者以外に不道徳な人間や人に迷惑を掛けるような人間も殺しているとすれば、そういった人達はこれまで『キラ事件の被害者』としては検知されていませんので」
模木「つまり、これはキラの殺害対象がこれまでの我々警察の認識よりもっと広かったとすれば、という仮定の下での捜査です」
美希「なんかちょっと難しいけど……要は前のプロデューサーがキラに殺されてもおかしくないような悪い人だったか、っていうことだよね」
総一郎「そうです。何か心当たりはありませんか? どんな些細な事でも結構です」
美希「…………」
美希(社長や律子、小鳥は前のプロデューサーがミキ達にセクハラしていたことは知らない……多分、正直に話したとしても『仕事の出来はあまり良くなかった』とかそんな程度のはず)
美希(でも仮にここでミキがウソをついても、この後春香が同じ質問をされるんだろうし、さらにその後には他の皆も……)
美希(そうなったら、もし皆が全部正直に話した場合、ミキだけが違うことを言っていたらかえって怪しまれる……)
美希(そもそも他の皆が警察に対してウソをついたりするとは思えないし……『話した内容の秘密は守る』って言われてる以上、ウソをついてまで前のプロデューサーをかばう理由も無いの)
美希(そうするとやっぱり……正直に言うしか……)
美希(いや、大丈夫……前のプロデューサーにひどいことされたり言われたりしてたのはこの事務所のアイドル全員だし、ミキだけが特別疑われたりすることは無いはず)
美希(直接身体を触られたりしてたのは、ミキ以外だと春香と雪歩くらいだったけど……それでも、ミキだけが前のプロデューサーを恨んでいたように思われることは無いはず……多分……)
美希(…………)
総一郎「星井さん?」
美希「は、はいなの」
総一郎「どうですか? 先ほどもご説明したように、ここで話して頂いたことの秘密は厳守します。他の方に言いにくいようなことでも、安心して話して頂いて構いませんよ」
美希「は、はい……なの」
総一郎「…………」
模木「…………」
総一郎「!」
模木「セクハラ……ですか」
美希「はい、なの」
総一郎「どういうことをされていたのか、具体的にお聞かせ願えますか」
美希「う、うん……。えっと、たとえば、事務所で二人きりのときとか、仕事先に向かう車の中とかで、いきなり肩や腰に触ってきたりとか……」
総一郎「肩や腰……他には?」
美希「……太ももやおしりも、時々……」
総一郎「頻度……回数でいうと、どのくらいですか?」
美希「えっと……毎日とかではなかったけど、週に3~4回はあったかな……」
総一郎「なるほど」
美希「…………」
総一郎「あなた以外にも、セクハラ被害を受けていた人はいますか?」
美希「うん。春香や雪歩も、ミキと同じように身体触られたってよく言ってたの」
総一郎「天海さんと萩原さん……ですね」
美希「うん。触られてるところを直接見たことはないけど」
総一郎「他の方は、そういう被害には?」
美希「身体触られたっていう話は聞いてないけど、言葉でセクハラっぽいこと言われたりとかは、多分うちのアイドルの子は全員……」
総一郎「言葉でのセクハラ……それはどういう内容ですか?」
美希「えっと……人によって違うと思うけど、たとえば『なんでそんなに胸がデカいんだ』とか、逆に『何でそんなに胸が無いんだ』とか……言われた相手が傷つくようなこと、いっぱい」
総一郎「では、あなたが言われて嫌だったことにはどんなことがありますか?」
美希「今言った『なんでそんなに胸がデカいんだ』とか、『胸に栄養がいってるから頭に栄養がいってない』とか……『いっそ俺が揉んでもっと大きくしてやろうか』とか……そういう感じ」
総一郎「なるほど。でも先ほどのお話からすると、実際に胸を触られたことはなかったということですか?」
美希「うん。それは流石にやばいって思ったんじゃないかな」
総一郎「そうですか」
美希「…………」
美希「いえいえ、なの」
総一郎「ではすみませんが、もう少しだけ……」
美希「…………」
美希(まだあるの? もう嫌なの……)
総一郎「□□さんが亡くなった日の一年前くらいから現在に至るまで、あなたの周囲で亡くなった方はいますか? 家族、友人、知人全て含めてです」
美希「!」
模木「これは心臓麻痺に限らず、死因は問いません」
美希「えっと、それって……ミキを疑ってるってコト……?」
総一郎「いえ、そうではありません。ただ□□さんがキラに殺されたのだとすれば、その他にも765プロさんの関係者の方が被害に遭っている可能性がありますので、念の為の確認です」
美希「でもそれなら心臓麻痺で亡くなった人だけでいいんじゃ……?」
総一郎「仰る通りです。ただキラの殺人の方法はまだ完全には特定できていませんので、これも念の為です」
美希「…………」
美希(まさか警察は『キラは心臓麻痺以外でも人を殺せる』ということまでもう掴んでいるの?)
美希(いや、これは警察というよりLって人の考え?)
美希(でもそれこそ、デスノートのルールを知らない限り絶対に分からないはず……ミキは心臓麻痺以外で誰かを殺したことはないし……)
美希(いや今はそれより、この状況をどう切り抜けるかを考えないと……)
美希(クラスメイトのAの件……でもここで言わないと流石に怪しまれる……)
美希(当然だけど、少なくともパパはとっくに知ってるし……もしパパがもう既にこの人達に話しているとしたら、ミキが知らないって言った場合すぐにそれがウソと分かる)
美希(もしパパがまだ言っていなくても、警察が調べればどうせすぐに分かるだろうし……)
美希「…………」
美希(前のプロデューサーとA……どっちとも関わりがあるのは、ミキしかいないし……)
美希(どうしよう? 最悪、今ここでこの刑事さん達を……ってバカ、そんなことしたら一層ミキが疑われるだけ)
美希(それにノートは今持ってるこの鞄の中に入ってるけど、どのみちこの状況で二人分の名前を書けるわけもないし……)
美希(じゃあやっぱりここは……もう……)
リューク「……ミキ」
美希「? (リューク?)」
リューク「いつでも目の取引はできるからな。コンタクトを入れるのと変わらない。数秒で済む」
美希「…………。(取引? 何でこのタイミングで?)」
総一郎「星井さん?」
美希「あっ、ご、ごめんなさいなの。(もう……今色々考えてるんだからちょっと黙っててほしいの!)」
リューク「……ククッ」
総一郎「どうですか? 特にいないようであれば……」
美希「あ、えっと……い、います、なの」
総一郎「! それはどなたですか?」
美希「えっと……ミキと同じクラスだった、A君……」
総一郎「亡くなったんですか?」
美希「はい、なの」
総一郎「死因は?」
美希「……確か、心臓麻痺……」
総一郎「! それはいつ頃ですか?」
美希「えっと確か、前のプロデューサーが亡くなった日の……次の、次の日……かな」
総一郎「! ………」
模木「それは……」
美希(……驚いてる? ってことは知らなかったの?)
美希(じゃあパパは……Aの事、この人達には言ってなかった……?)
模木「ちょうど、ぎりぎり前回の調査範囲外ですね」
総一郎「うむ……」
美希「? (調査範囲外……?)」
総一郎「ああ、失礼しました。ではそのA君の事についていくつか質問させて下さい」
美希「は、はい……なの」
総一郎「まず、そのA君というのはどういう子でしたか?」
美希「えっと……特にどうってことは……別に不良とかでもなくて、普通の子だったの」
総一郎「では性格でいうと、大人しい方ですか?」
美希「ううん、どっちかというと結構騒がしいタイプ……かな」
総一郎「なるほど。ではA君が他のクラスメイトに迷惑を掛けたりしていたことなどはありましたか?」
美希「え、えっと……」
美希(どうしよう……本当の事を言うと、ますます……でももしこの刑事さん達がミキのクラスの他のコ達にも聞き取りしたら……)
美希(ダメなの。ここでウソをついても結局どこかでボロが出る)
美希(もうここは賭けに出るしか……)
美希「迷惑っていうか……ちょくちょく、女子にセクハラっぽい事を言って困らせたりしてたことはあったかな……」
総一郎「セクハラ……具体的には?」
美希「えっと、たとえば、『昨日休んでたのは生理か?』とか『スカートもっと短くしたらどうだ』とか……そんな感じの、色々」
総一郎「なるほど。ではあなたもそういうことを言われたことはあったんですか?」
美希「まあ……ミキはアイドルもやってたから、その関係で時々……」
総一郎「どんなことを言われたんですか?」
美希「えっと、『もっと際どい水着着て写真集出せよ』とか『雑誌で見る方が胸デカく見えるけど、何か入れてるのか』とか……」
総一郎「そうですか。ではそれ以外には? 言葉以外に、身体を触られたりとかはありましたか? あなた自身でも、あなた以外の生徒でも」
美希「そういうのは無かったの。他の子にも、多分してなかったと思う」
総一郎「分かりました。では次に、A君が亡くなった当日の事について教えて下さい」
美希「はい……なの」
美希「うん」
総一郎「時間で言うと、何時頃ですか? それと、亡くなった場所は?」
美希「えっと……二限の始まる前だったから……朝の10時前くらいかな。場所は教室」
総一郎「A君が亡くなった時、あなたも教室にいましたか?」
美希「う、うん……いました、なの」
総一郎「ではその時の状況について教えて下さい」
美希「えっと……確か、急に何人かの男子が騒ぎ出して、何事かと思って近付いてみたら、A君が床に倒れてて……」
総一郎「そのまま亡くなった、と」
美希「多分……その後先生が来て、すぐに救急隊員の人を呼んで、そのまま運ばれて行ったから……それからどうなったのかまでは分からないけど」
総一郎「なるほど。ちなみにこの日、あなたはA君と何か話したりはしましたか?」
美希「確か……朝、始業前にミキのところに来て何か言ってきたような気はするけど……いつものことかと思って、適当にあしらったから……内容までは覚えてないの」
総一郎「そうですか」
美希「はい、なの。(一応、これくらいは言っとかないと後で矛盾出てきそうだし……)」
総一郎「分かりました。模地、他に何かあるか?」
模木「いえ。私の方からは特に」
総一郎「それでは、今日はこのへんで。長時間にわたり、ご協力ありがとうございました」
美希「今日は、ってことは……またあるの?」
総一郎「ええ。今後の捜査の状況次第では、またお話をお伺いさせて頂くかもしれません。そのときはまたよろしくお願いします」
模木「よろしくお願いします」
美希「……わかりました、なの」
春香「あっ。美希」
美希「春香」
春香「どうだった?」
美希「んー。別にフツーだったの。ただ知ってることを話しただけ」
春香「そっか。お疲れ様」
美希「ありがとうなの」
総一郎「えー、では次、天海さん。お願いします」
春香「はーい。じゃあ行ってくるね」
美希「うん。行ってらっしゃいなの」
(総一郎に促され、社長室へと入っていく春香)
美希「…………」
リューク「ククッ。大ピンチってやつじゃないのか? コレ」
美希(確かに……このままだと……)
P「美希? 大丈夫か? 少し顔色がすぐれないようだが……」
美希「ん? ううん、大丈夫なの。ただちょっと慣れないことだったから、疲れちゃっただけ」
P「はは。まあそうだよな。俺も初めてだよ、こんなの」
美希「あはっ。……さてと、じゃあミキ、レッスン行くね」
P「ああ。でも疲れてるようなら、少し休憩してからでもいいぞ。一応、先生には事情を言ってあるから」
美希「ありがとう、プロデューサー。でも大丈夫なの」
P「そうか。じゃあ頑張って来い」
美希「はーいなの」
ガチャッ バタン
美希「…………」
真「いやー、でもびっくりしたなあ。まさかいきなり警察の人が来るなんて」
雪歩「私、あんな近い距離で男の人二人から色々質問されたから、すごく気疲れしちゃった……」
真「はは、確かに雪歩には別の意味で辛かったかもね」
雪歩「でも警察の人も大変だよね。こんな風に、心臓麻痺で亡くなった人を一人ずつ、順々に調べてるのかな……」
真「うーん、どうなんだろ? 少なくとも前のプロデューサーの場合は、たまたま亡くなった日がキラ事件の時期に近かったからだと思うけど。確か、あの朝日って刑事さんが最初にそう言ってたし」
美希「…………」
真「ねえ。美希は何か知らないの?」
美希「えっ」
真「いや、美希のお父さんって警察官だったよね? だから何か聞いてないかなって」
美希「えっと……ちょっとわかんないの。最近、パパあんまり帰って来てないし……」
真「そっか。残念」
美希「…………」
雪歩「でもこれって、私達の中にキラがいるかも、って思われてるってことなのかな……」
美希「!」
真「いやー、流石にそれはないと思うけど」
雪歩「でも前にも同じような話したと思うけど、前のプロデューサー、外面だけは良かったから、あの人の悪いところを知ってるのは多分私達だけだって……」
春香「……ねぇ、もうやめない? そういう話するの」
真「! 春香」
雪歩「春香ちゃん」
真「でも春香、前に『前のプロデューサーはキラに殺されたのかも』って言ってなかった?」
春香「あ、あの時はだって、まさかこんな風に本当に刑事さんが来たりするなんて思ってもみなかったし……なんていうか、実際にこういうことになると、考え過ぎるとかえって良くないかなって」
真「まあ、それもそうだね。ボク達が考えてどうにかなることでもないし」
雪歩「そうだね。それに私達の場合、キラ事件よりもっと大事な事が目の前に迫ってるし……ね。真ちゃん」
真「もちろん分かってるよ、雪歩。もう10日切ったもんね」
春香「ああ、センター試験だね」
雪歩「うん。これから二人で一緒にファミレスで追い込みする予定なんだ」
春香「そっか。頑張ってね」
真「ありがとう。じゃあそういうわけで、ボク達こっちだから。また明日ね、春香。美希」
雪歩「バイバイ、春香ちゃん。美希ちゃん」
春香「うん。またね」
美希「…………」
真「美希?」
美希「えっ。ああ、うん……またね、なの。真くん、雪歩」
真「大丈夫? なんか疲れてない? 美希」
美希「ううん。へーきなの」
真「そう? ならいいけど。じゃ、またね」
美希「うん。また明日」
(ファミレスの方に向かって歩いて行く真と雪歩)
春香「どうする? 美希。私達もどっかで晩ごはん食べてく?」
美希「あー、今日はやめとくの。ミキも一応受験生だし、帰って勉強しないと」
春香「そっか、了解。美希も頑張ってね」
美希「うん。ありがとうなの、春香」
美希(…………)
美希「…………」
美希(まさかこのドアを開けたらパパがミキを待ってて、『美希、お前を逮捕する』とか……)
美希(な……ないない! そんなことあるはずないの!)
美希(大体こんな風に家の前で立ち止まってるところを誰かに見られた方が怪しまれるの)
ガチャッ
美希「……ただいま、なの」
星井父「おー、お帰り。美希」
美希「!」
星井父「ん? どうした? 面食らった顔して」
美希「あ、え、ええと……パパがこんな時間に家に帰って来てるのって久しぶりだから、ちょっとびっくりしたの」
星井父「はは、それもそうだな。すまんすまん。たまたま仕事を早く切り上げられてな」
美希「そ、そうなの」
星井母「美希、もうこの後すぐにごはんでいい? 今ちょうどできたところなんだけど」
美希「うん」
星井母「じゃあちょっと待っててね」
美希「お姉ちゃんは?」
星井母「今日は大学のサークルの飲み会だって」
美希「そう」
星井父「…………」
美希「…………」
美希(どうして? まさか知らないの? 今日あの刑事さん達がうちの事務所に来たこと……)
美希(もしかして、パパ、キラ事件の担当から外れたのかな……?)
美希(でももしパパが知っているとしたら……ミキがそれを言わずに黙っているのは……)
美希(…………)
美希「ね、ねえ……パパ」
星井父「ん?」
美希「えっと、今日ね。ミキの事務所に刑事さん達が来たの」
星井父「!」
美希「確か、朝日さんって人と、模地さんって人。前のプロデューサーの事とか、色々聞かれて。パパ、何か知ってる?」
星井父「……いや、パパ、今ちょっと別の仕事をやっててな」
美希「え? そうなの? じゃあもうキラ事件の担当じゃないの?」
星井父「んー、まあそんな感じかな。ハハ……」
美希「……ふぅん……」
美希(パパ……なんか隠してる……? でもここでミキが深く突っ込むのもおかしいし……)
星井父「…………」
星井父(今の捜査状況……765プロに比重を置いた捜査がされている事は美希には話せない……局長達がどこまで美希に話したのかも分からないし……)
星井父(本当は『お前が疑われているわけじゃないから安心しろ』と言ってやりたいが……しかし俺がそれを言うと、俺が捜査状況を知っていることが美希にばれてしまう……)
星井父(どのみち話せないのなら、知らないふりをしておいた方が良い……中途半端に情報を与えると、かえって不安を煽ることになりかねない……)
星井父(……すまん、美希……)
星井母「はい、お待たせ。どうしたの? 二人とも押し黙っちゃって」
美希「え? んーん、なんでもないの。いただきまーす!」
星井父「はは。落ち着いて食べろよ。美希」
星井母「なんか久しぶりね。こうして親子で食卓を囲むの」
美希「お姉ちゃんがいないけどね」
星井父「じゃあ今度は菜緒もいるときに帰って来るようにするよ」
美希「本当? パパ」
星井父「ああ、約束する」
星井母「大丈夫なの? 気軽にそんなこと言っちゃって」
星井父「ああ。前よりは仕事も落ち着いてきたからな」
星井母「そうなの? それならいいけど」
美希「…………」
美希「…………」
リューク「あれ? ミキ。今日の裁きはお休みか?」
美希「…………」
リューク「まあ、今の状況だと下手に動かない方が良いか」
美希「……ううん。裁きはするよ」パラッ
リューク「お、するのか」
美希「だって『765プロの関係者に聞き取りした直後に裁きが止まった』なんてことになったら、ますます疑われるの」
リューク「ククッ。確かにな。じゃあ同じ理由であの刑事達も殺さないってことか」
美希「そうだよ。そんなことしたら、うちの事務所の中にキラがいるって言ってるようなものなの」
リューク「なるほどな。まあでもどのみち……」
美希「?」
リューク「おっと、なんでもない。危うく口が滑るところだったぜ。ククッ」
美希「? なんなの? リューク」
リューク「いや、本当に何でもない。忘れてくれ。あ、それよりお前もリンゴ食うか? 美味いぞ」シャクシャク
美希「いらないの。死神の食べかけなんて」
リューク「……ああ、そう……」
美希「…………」
(ネットのニュース記事を読む美希)
美希「実子を窒息死させた疑いで逮捕……皮梨響子……」
美希「……皮……梨……」プルプル
リューク「おいおいミキ。手が震えてるぞ?」
美希「う、うるさいの!」
リューク「ククッ。今日の一件で相当動揺しているようだな。まあ無理も無いか」
美希「…………」
美希(今、警察はどこまでミキを疑っているの……?)
美希(前のプロデューサーの件、Aの件……おそらくもうどちらもLに伝わった)
美希(でもこれだけではまだミキ=キラっていう証拠にはならないはず)
美希(このデスノートが押さえられない限りは……)
美希「……隣人をナイフでめった刺しにして殺害……柾原省吾……」
L「……皆さん、ご報告ありがとうございました」
総一郎「…………」
相沢「…………」
模木「…………」
松田「…………」
星井父「…………」
L「…………」
L(アイドル事務所関係者については……既に報道されている者以外で、ニュースになっていたアイドル事務所関係者連続死亡事案に関連しそうな死亡者はいなかった。また765プロダクションの前任のプロデューサーの死亡以降、新たに亡くなった者もいない)
L(そして、765プロダクションの方は……)
L(心臓麻痺で亡くなった前任のプロデューサー……社長、事務員、同僚の女性プロデューサーからは一様にその仕事能力を疑問視する声が……しかしコネで入社したがゆえに誰も彼に注意が出来なかったという実態)
L(そして所属アイドルからは……その全員から、彼による何らかのセクハラ被害を受けていたとの証言が得られた。無配慮な言動によるものがほとんどのようだが、その中で身体への接触までされていたのが……星井美希、天海春香、萩原雪歩の三名)
L(以上のことから、強弱はあれど、一応、当時在籍していた765プロダクションの関係者全員に前任のプロデューサーを殺害する動機はあったといえる)
L(もう一点、765プロダクション関係者の周辺での死亡事案については……)
L(近親の高齢者の死亡など、特段キラと無関係と思われるものが大半だったが……ただ、一人だけ)
L(何の予兆も前触れも無く、ある日突然、心臓麻痺で死亡した者がいる。しかもキラ事件の開始とほぼ同じタイミング……新宿の通り魔が殺された日の翌日に)
L(その人物は区立△△中学校三年の男子生徒……765プロ所属アイドル・星井美希のクラスメイト)
L(またその男子生徒は、普段から性的な言動で女子生徒をからかうことが多く、星井美希もその対象となることが間々あった)
L(この事実は星井美希自身の供述に加え、他のクラスメイト数名への後日の聞き取り調査からも裏付けられたとのこと)
L(これらの事実が意味するのは……)
L「…………」
星井父「…………」
星井父「…………」
L「美希さんのクラスメイトの件、あなたは知っていましたね」
星井父「ああ。妻から聞いていた」
L「だがあえて今まで言わなかった……」
星井父「前任のプロデューサーの件もあったし、娘に変にバイアスを掛けられたくなかったからな。それにいずれ分かることだろうとも思っていた」
L「そうですね。捜査官としての立場を別にすれば、一般的な父親の心理としてはそれが自然だと思います」
星井父「…………」
L「しかし実際どう思われますか?」
星井父「どう、とは?」
L「765プロダクションの前任のプロデューサー、新宿の通り魔、そして区立△△中学の男子生徒。この三名の死亡日は全て連続しています。そしてその死因は全て心臓麻痺です」
星井父「…………」
L「新宿の通り魔は別にしても、765プロダクションの前任のプロデューサーと区立△△中学の男子生徒。この両名と接点があったのは星井美希さんただ一人」
L「さらにいずれの人物に対しても、美希さんが少なくとも好意的な感情は持っていなかったであろうことが推測されます」
星井父「…………」
L「これらの事実を踏まえて、どう思われますか」
星井父「だからどう、というのは」
L「娘さんがキラであるという可能性についてどう思われますか、という意味です」
星井父「! …………」
星井父「確かに、美希が現時点でそのような疑惑を掛けられるのは仕方がないことだとは思う」
総一郎「星井君……」
松田「係長……」
星井父「俺は前任のプロデューサーの件も、美希のクラスメイトの件もいずれも知っていた。しかしたまたま時期と死因が重なっただけで、キラ事件には到底結びつくはずが無いと思っていたし、仮に結びついたとしても、美希とは全く無関係だろうと思っていた」
L「だから知っていたけどあえて言わなかった。そういうことですね?」
星井父「そうだ。いずれの人物に対しても、美希には殺す動機なんて無いと思っていたからな。……今日の、局長達の報告を聞くまでは」
総一郎「星井君……」
L「では、今は考えが変わった……と?」
星井父「いや……それでも美希が人殺しなんてするはずがない。そう思っていることに変わりは無い。だが……」
L「? だが?」
星井父「俺は美希が前任のプロデューサーにセクハラされていたことも……クラスの男子からそんなからかいをされていたことも全く知らなかった。今までずっと、誰よりも美希の事を理解していたつもりだったのに……だ」
L「…………」
星井父「だから、もし俺もまだ知らないような美希の別の一面があるとすれば、あるいは……。さっきからずっと、そんな考えが頭の中をよぎっているのは事実だ」
松田「そ、そんなことないっすよ! 係長!」
星井父「松田」
松田「ミキミ……美希ちゃんがキラなんて、そんなことあるわけないじゃないっすか!」
星井父「……しかし……」
松田「しっかりして下さいよ! 父親が娘を信じないでどうするんですか!」
星井父「松田。気持ちは嬉しいが、俺は美希の父親である前に一人の警察官であり、このキラ対策捜査本部の捜査員だ」
松田「係長……」
星井父「だから……竜崎。どうかあなたの気の済むまで、娘を捜査してほしい」
松田「! 係長」
総一郎「星井君」
L「…………」
総一郎「うむ……」
L「そうですね……ただ現状ではまだ状況証拠しかありませんし、単に相対的にみて、美希さんが一番疑わしいだけというレベルに過ぎません」
星井父「竜崎」
L「前任のプロデューサーだけなら、少なくとも身体を触られていた天海春香や萩原雪歩と同程度の動機ということになるでしょうし……男子生徒の方も、美希さんだけが被害に遭っていたというわけでもなく、またそのからかいの程度も殺意まで生じさせるレベルであったかというと正直疑問です」
L「ただ現状で美希さんが一番疑わしいのは今言った通りですので……とりあえず、もう少し彼女の身辺を洗うことにします」
L「そういうわけですので、模木さんは引き続き、美希さんのクラスメイトの残り全員に対する聞き取りをお願いします」
模木「はい」
L「相沢さんと松田さんは、美希さんの周囲で死亡した者が他にいないか、可能な限り過去に遡って調べて下さい」
相沢「分かった」
松田「やりましょう。係長の為にも」
星井父「松田……」
L「夜神さんは、美希さんと天海春香、萩原雪歩の三名に少し比重を置きつつ、当時在籍していた765プロダクションの関係者全員と前任のプロデューサーとの間の人間関係についてもう少し詳しく調べて下さい」
総一郎「……ああ、分かった」
L「そして星井さんは……」
星井「分かってる。引き続き、残りの心臓麻痺死者のデータ収集と、アイドル事務所関係者以外の心臓麻痺死者間における共通項の有無の分析……だろう。俺が自分の娘の捜査をするわけにはいかないからな」
L「はい。申し訳ありませんがよろしくお願いいたします」
L「私も、美希さんだけにこだわらず、キラへの手がかりが他に無いかを横断的に調べてみます。では今日はこれで解散とします。お疲れ様でした」
総一郎「…………」
ピピピピ……
総一郎「? 非通知の着信?」
総一郎「はい」ピッ
L『もしもし。竜崎です。朝日さんですか』
総一郎「ああ、朝日だ。どうした?」
L『今、お一人ですか?』
総一郎「ああ、一人だが?」
L『では大変申し訳ありませんが、今すぐ誰にも言わずに一人で捜査本部に戻って来て下さい。朝日さんにだけお話ししたいことがあります』
総一郎「……分かった。実は私もあなたに話したいことがあったんだ」
L『そうですか。ではすみませんがよろしくお願いいたします』
総一郎「ああ。すぐに行く」ピッ
総一郎「竜崎」
L「お手間を取らせてしまいすみません。夜神さん」
総一郎「いや、いい。それより話とは」
L「夜神さんの方から先にどうぞ」
総一郎「……分かった。端的に言って、今はやはり星井君の娘さん……星井美希を徹底的に調べるべきだと思う」
L「…………」
総一郎「竜崎も言っていたが、彼女と接点のある人物が二人も、しかもそのいずれもがキラ事件開始とほぼ同じタイミングで心臓麻痺死なんて怪し過ぎる」
総一郎「先ほど、あなたは私に当時在籍していた765プロの関係者全員と前任のプロデューサーとの間の人間関係の精査を指示したが、今はそれより星井美希に絞って捜査した方が……私も彼女の身辺に限定した捜査を行った方が良いと思う」
L「……夜神さん」
総一郎「? 何だ? 竜崎」
L「素晴らしいです」
総一郎「え?」
L「私が夜神さんにお話ししようとしていたことは、今夜神さんが私に仰ったこととほぼ同じです」
総一郎「! では竜崎。あなたも……」
L「はい。私も今は可能な限り星井美希に焦点を絞って捜査すべきと考えています。彼女は現時点において限りなく黒に近いグレーです」
総一郎「そうだったのか。では、先ほどの私への指示は……」
L「はい。あれは他の捜査員の方の目を逸らすために出したダミーの指示です。本当の指示は今からお伝えします」
総一郎「……分かった。では頼む」
総一郎「! か……監視カメラと盗聴器!?」
L「はい」
総一郎「い……いくらなんでもそれは無理だ。竜崎。もしばれたら人権侵害どころか完全に犯罪……」
L「絶対にばれないように取り付けます」
総一郎「し、しかし……」
L「先ほども言いましたが、今一番キラとして疑わしい者が星井美希であることは間違いありません」
L「そして仮に星井美希がキラであるとした場合、彼女は以前リンド・L・テイラーの挑発をかわしている」
L「つまりこちらがいくら罠を張っても、それには乗ってこない可能性が高い。そうすると、現状と同様の捜査を続けて状況証拠だけを積み重ねていっても、おそらく決定的な証拠は掴めないままでしょう」
L「ならばもう殺人の現場……今彼女がキラとして裁きを行っている場面を直接押さえる他ありません」
総一郎「理屈は理解できるが……しかしそれならせめて、星井君の了承を……」
L「いえ。それは無理です」
総一郎「無理?」
L「伝えれば娘に確実に嫌疑が掛かる。いずれ知られることだとしても、それを少しでも先延ばしにしたい……あわよくば、我々が見落とすことを期待していたものと考えられます」
総一郎「…………」
L「しかしそれは娘を想う一人の父親の感情としては極自然なものだと思います。ですので私はこのことで特に彼を咎めようとは思っていません」
L「ただ捜査については話が別です。我々の目的はキラを捕まえること。その為には常に最善の一手を打っておく必要がある」
L「星井さんは先ほど『気の済むまで娘を捜査してくれ』と言っていましたが……だからといって、年頃の娘の私生活を、赤の他人である私達に24時間監視されることを呑むとは到底思えません。また仮に一度は呑んだとしても、監視が続く中で『もうやめてくれ』などと言い出さないとも限らないですし、耐え切れなくなって星井美希本人に事実を打ち明けてしまう可能性すらあります」
総一郎「…………」
L「そんな形で、キラの殺人の証拠を押さえるチャンスをみすみす棒に振ることだけは絶対に避けたい」
L「また他の捜査員の方も、星井さんに同情してこの捜査には反対する可能性が高い。だから夜神さん。あなただけにお伝えしました」
L「あなただけは、私情を排して真の正義のために最善の行動を選択して頂けるものと確信しているからです」
総一郎「…………」
L「はい」
総一郎「本当にばれないように設置できるんだな?」
L「はい。絶対にばれません」
総一郎「設置の期間は?」
L「そうですね……とりあえず七日間としますが、状況により早く撤去することも延長することもありえます」
L「そしてカメラを撤去する場合はあわせて必ず盗聴器も撤去することとし、盗聴器だけをこっそり残すようなことは絶対にしません。これでどうですか?」
総一郎「……分かった。あなたを信じよう。竜崎」
L「ありがとうございます。夜神さん。……ワタリ」
ワタリ「はい」
L「盗聴器、カメラ、モニターの準備にどれくらいかかる?」
ワタリ「明日以降であれば……家人全員の不在時間が分かればいつでも取り付けられます」
L「分かった。星井さんは言うまでもなくこの捜査本部に常駐……母親は地方公務員、姉は大学生、そして星井美希本人は中学生でありアイドル事務所にも通っている……この状況ならほとんど苦労なく付けられるでしょう」
L「ただ流石にこの部屋にモニターを置くわけにはいきませんので……資料室という名目で別の部屋を借りてそこにモニターを置き、我々はそこで監視をするようにしましょう」
L「また監視カメラの映像データと盗聴器が拾う音声は自動でこの捜査本部外にあるワタリのPCにも転送されるようにしておき、我々が監視できないときはワタリに監視してもらうようにします」
総一郎「……分かった」
L「ご理解頂き、ありがとうございます」
総一郎「…………」
美希「…………」
リューク「大丈夫か? ミキ。ここ最近、目に見えてやつれてきてるぞ」
美希「…………」
リューク「あらら。無視かよ。こりゃ重症だな」
美希「…………」
美希(一週間前のあの日から、不安が日に日に膨らんでいく)
美希(あの後はこれといってミキの周りで大きな動きは無い。裁きも今までと同じペースで続けてる……)
美希(パパにはあれから何も聞けてない。家に居る時間は前より増えたけど、もうキラ事件には関わっていないようなことを言っていたから、ミキからそれ以上には聞けない)
美希(いや、でももうどのみち、パパから情報を得るとかどうとかいうレベルの話でもないか)
美希(前のプロデューサーとクラスメイトのA……この両方と接点があるのがミキしかいない以上、遅かれ早かれ……)
美希(いや、でもデスノート……デスノートを押さえられない限り、証拠は……)
美希(ああ……だめなの。最近もうずっと同じ思考が頭の中をぐるぐる回ってて、吐きそう)
春香「みーきっ!」ドンッ
美希「うひゃあ!」
春香「わっ! びっくりした」
美希「は……春香? もう、驚かせないでなの……」
春香「あはは。ごめんごめん。ちょっとびっくりさせようと思ったら、勢いつき過ぎちゃった」
美希「もー……」
春香「……怒った?」
美希「ううん。怒ってないの」
春香「そう、良かった。じゃあ一緒に帰ろ」
美希「うん」
美希「あはは。実に響らしいの」
春香「……なんか、ちょっと久しぶりだね」
美希「え?」
春香「こういう風に、他愛も無い話で盛り上がるの」
美希「あー……まあ最近、色々あったしね」
春香「うん。そうだね」
美希「…………」
春香「ねえ、美希」
美希「? 何? 春香」
春香「実は私……美希にずっと聞きたいことがあったんだ」
美希「……え?」
春香「今、聞いてもいい……かな?」
美希「な、何?」
春香「うん……えっとね」
美希「…………」
美希(ま、まさか……『実は美希がキラなんじゃないの?』とか……?)
美希(い、いや、そんなことはありえないの。だって春香はAのことは知らないんだし)
美希(今の状況でミキだけを疑うはずが……)
春香「美希って、さ」
春香「いつデスノートを拾ったの?」
美希「…………え?」
(星井美希に対する監視・一日目)
ワタリ「竜崎。取り付けた監視カメラと盗聴器は全て正常に作動しています」
L「よし。よくやってくれた。ワタリ」
総一郎「…………」
L「夜神さん」
総一郎「何だ? 竜崎」
L「まだ完全には納得されていませんか?」
総一郎「……まあな。だがやると言った以上は徹底的にやる覚悟でいるつもりだ」
L「ありがとうございます。心から感謝します」
総一郎「…………」
ワタリ「竜崎。星井美希が帰宅したようです」
L・総一郎「!」
美希『ただいまなのー』
星井母『お帰り、美希』
菜緒『お帰りー』
美希『今日、パパは?』
星井母『遅くなるって』
美希『そっか』
菜緒『でもパパ、もうキラ事件の担当じゃなくなったんでしょ? なのに何でまだ帰って来るの遅いんだろ?』
星井母『さあ』
美希『ミキ的には、前に比べたら家に居る時間が大分増えたから、とりあえずは良いんじゃないかなって思うな』
菜緒『まあねぇ』
L「……星井さん、ご家族にはある程度捜査の事について話しているようですね」
総一郎「そのようだな。だが竜崎……」
L「分かっています。ここで明らかになったことをもって星井さんを問い詰めるようなことはしませんし、そもそもできません」
総一郎「ああ。それをすれば、我々がこうやって極秘に家の中を監視していることまで分かってしまうからな」
L「はい」
L「…………」
L(星井美希がキラだとしたら……父親から捜査本部の情報を得ることができていた……?)
星井母『あら、ホント』
美希『なんか未だにTVの中の自分を観るのは慣れないの』
菜緒『ねぇ、この一緒に出てる子誰?』
美希『海砂ちゃんなの』
菜緒『ふーん。かわいいね』
星井母『ミキミキとミサミサって、なんかダジャレみたいね』
美希『それはちょっと失礼って思うな』
L「…………」
総一郎「…………」
L「一家団欒、といった感じですね」
総一郎「……うむ」
L「ところで、今日報道された犯罪者の中でキラの裁きの対象になりそうな者はいましたか?」
総一郎「ああ。老夫婦を殺害し、金品を奪った強盗殺人犯が一名。これまで同様なら、おそらく本日中に裁かれるだろう」
L「キラの殺しの時間帯は平日は一貫して19時頃から22時頃……そろそろですかね。そちらの準備は大丈夫ですか?」
総一郎「ああ。警察庁にいる部下に、キラによる裁きが行われたらすぐに私に一報を入れてもらうように頼んである。『キラの動きをリアルタイムで捕捉しておきたいから』と言うと二つ返事で快諾してくれた」
L「! 警察庁……もしかして、あの時の……?」
総一郎「ああ。伊出と宇生田だ」
L「そうでしたか」
総一郎「キラを追っている者はこの捜査本部の者だけではないからな。彼らも彼らで懸命にやってくれている」
L「……はい」
L「…………」
L(夕食後、星井美希はすぐ風呂に入り、その後はずっと自分の部屋でくつろいでいる……)
L(今のところ、特に目立った行動はみられないが……)
ピピピピッ
総一郎「! 伊出だ」ピッ
L「!」
総一郎「私だ。……そうか。分かった。わざわざすまんな」ピッ
L「夜神さん」
総一郎「ああ。今日報道された強盗殺人犯が留置場内で死亡したそうだ」
L「!」
総一郎「死因はおそらく心臓麻痺。死亡推定時刻は今から約30分前」
L「30分前……!」
(監視カメラの録画映像を巻き戻すL)
L「…………」
総一郎「……星井美希は今と同様、自分の部屋でくつろいでいた時間帯だな……」
L「はい。ベッドに寝そべり、手にはスマートフォン……念の為、天井に仕掛けたカメラの映像を拡大し、スマートフォンの画面を確認してみます」
総一郎「うむ」
L「……ずっと同じアプリゲームをやっていますね」
総一郎「…………」
L(星井美希がキラだとすれば……今、この状態で人を殺したというのか?)
L(キラの殺人には顔と名前が必要……そして、先ほど殺された強盗殺人犯の顔と名前は今日の昼には報道されていた)
L(星井美希は今日、家に帰ってからはニュース等を一切観ていなかったが……日中、家の外でこの犯罪者の情報を得ることは十分可能だっただろう)
L(とすると日中、家の外でこの者の顔と名前の情報を得ておき、今殺した……ということか?)
L(しかし、仮に念じるだけで人が殺せるとしても……生身の人間であれば殺しを行う際、挙動や表情に何らかの変化はあっていいはず……)
L(だがこの監視カメラの映像を観ている限り、星井美希にはとてもそのような変化は……)
L「…………」
総一郎「! 部屋の電気を消した」
L「遠赤外線カメラに切り替えます」
美希『…………』
総一郎「……普通に寝ているようだな……」
L「そうですね」
L(午後10時過ぎに就寝……以前私が推理したキラの人物像に当てはまってはいる、が……)
L(…………)
(星井美希に対する監視・二日目)
L「…………」
総一郎「…………」
L(今日報道された犯罪者のうち、三日前に下校中の小学生を包丁で刺殺した疑いで逮捕された者がつい先ほど……21時頃に心臓麻痺で死亡した)
L(同時刻、星井美希はバスルームでシャワーを浴びていた)
L(……本当に可能なのか? こんな日常の動作を当たり前にこなしながら人を殺すなどということが……)
L(それに昨日も今日も、犯罪者が死んだとされる時刻に星井美希に挙動や表情の変化は一切みられなかった)
L(…………)
L(犯罪者が死んだとされる……時刻……?)
L「……夜神さん」
総一郎「? 何だ? 竜崎」
L「私は今まで思い違いをしていたのかもしれません」
総一郎「思い違い?」
L「はい。これまで私は、キラによって殺された犯罪者の死亡推定時刻=キラが裁きを行った時刻、と思い込んでいました」
L「それは、殺された犯罪者の死亡推定時刻が平日では19時頃から22時頃の間、土日は昼頃から22時頃までと固定していたからです」
L「しかしキラは、顔と名前が分かる者ならいつでも自由に殺すことができる……。つまり、人の死そのものを自由に操ることができる」
L「ならば、その死の時間をも操ることができるとしても不思議ではない」
総一郎「つまり……殺しの行為自体は先にしておいて、実際に犯罪者が死ぬ時間は後の時刻にずらしておくことも可能……ということか?」
L「はい。そしてそれが可能であるとすれば、犯罪者が死んだ瞬間の挙動を観ていても意味は無い」
L「ええ。ですから、明日以降はその可能性……日中、外で殺しの行為をされてしまう可能性を排斥して監視をする必要があります」
総一郎「うむ。しかし具体的にはどうする気だ?」
L「夜神さん。明日以降、星井美希の監視を終えるまでの間……キラの裁きの対象となりうる凶悪犯の報道は21時以降に限定して行うよう、報道機関に要請してもらえますか?」
総一郎「! …………」
L「キラの殺人には顔と名前が必要……仮に死の時間を操ることができるとしても、少なくとも殺しの行為をする際にはその二つの条件が備わっていることが必要だと考えられます」
L「そうであるとすれば、夜まで報道がされなかった犯罪者に対して、昼の間に殺しの行為をしておくことはできないはずです」
総一郎「なるほどな。では、我々が監視している間に新たな犯罪者が報道された場合……」
L「はい。殺しの行為は、その後……つまり、我々が監視している状況下においてしかできないはず」
総一郎「いやだが、星井美希が必ずしもその報道された情報を得るとは限らないのでは? 少なくとも昨日と今日、21時以降にニュース等は観ていなかったぞ」
L「それはそれで構いません。星井美希が報道された情報を得ず、そして報道された犯罪者が死ななければ、結果的に星井美希がキラであるという疑いが強まりますし……」
L「逆に、星井美希が報道された情報を得ていないにもかかわらず、報道された犯罪者が死ねば、星井美希以外の者がキラであるという可能性が高くなります」
総一郎「なるほど……星井美希が報道された情報を得なければ、彼女がキラである可能性とそうでない可能性、そのいずれであってもある程度の確度をもって判断することができる。また彼女が報道された情報を得て、報道された犯罪者が死んだ場合、彼女がキラならその殺しの方法を観察できるかもしれない……ということか」
L「はい。お願いできますか? 夜神さん」
総一郎「分かった。今回は前のような偽名での報道などに比べれば人道上の問題も少ない。早速、要請しよう」
L「ありがとうございます。助かります」
L「…………」
L(さあ、どう出る? キラ……)
(星井美希に対する監視・三日目)
美希『…………』
L「今日は夕食後、風呂に入ってからはずっと勉強していますね」
総一郎「アイドルといえど中学三年生だからな。受験勉強ってことだろう」
L「一応、天井と机に仕掛けたカメラからの映像を拡大したものをサブモニターに映していますが、ごく普通に問題集を解いているようです」
総一郎「勉強している様子に特に不審な点は無し……と。やはりこの後の報道待ちか」
L「はい。お願いしていた通りにできそうですか?」
総一郎「ああ。今日捕まった連続放火魔の報道が21時ちょうどに、同じく今朝起きた通り魔殺人の犯人の報道が21時30分に、それぞれ予定されている」
L「ありがとうございます。これで上手くいけば、星井美希が報道を観た場合と観なかった場合の両方のパターンを観察することができます」
総一郎「うむ。まあ昨日と一昨日の様子からするとニュース自体観ないかもしれないが……」
L「そうですね。ただでさえ今は勉強中ですし」
総一郎「だがそれならそれで、明日は報道の時間を夕食の時間帯にでもずらせばいいか。夕食時は家族でテレビを観ているようだしな」
L「ええ。そうしましょう」
総一郎「……と。そろそろ時間だ」
L「では、サブモニターの一つをテレビ画面に切り替えます」ピッ
TV『ニュースの時間です』
L「………」
総一郎「…………」
TV『本日、都内北部の民家五軒に相次いで放火し十三人を殺害した疑いで、白身正亜希容疑者が逮捕されました』
L「星井美希は……ずっと机に向かって勉強していますね」
総一郎「ああ。携帯電話にも触れていない」
L「…………」
L(もしこのまま、今報道された者が死ねば……)
総一郎「! もしもし」ピッ
L「! …………」
総一郎「ああ、そうか。分かった。ありがとう」ピッ
L「夜神さん」
総一郎「先ほど、21時のニュースで初めて報道された連続放火魔が心臓麻痺で死亡した」
L「! ということは……」
総一郎「星井美希が報道された情報を得ていない間に、犯罪者が死んだということになるな……」
L「…………」
総一郎「竜崎。これは……」
L「もうすぐ21時30分のニュースです。今はとりあえず監視を続けましょう」
総一郎「うむ……」
L「! 星井が動いた」
美希『…………』
総一郎「ベッドの方へ……もう寝る気か?」
美希『…………』
総一郎「寝ている……」
L「…………」
総一郎「竜崎。もう21時30分になるぞ」
L「……はい」
美希『…………』
L「完全に寝ていますね」
総一郎「うむ……」
L「…………」
L(顔は布団から出している……本当に睡眠しているかどうかまでは分からないが、少なくとも目を閉じていることは確か)
L(布団の中に何かを持ち込んだ形跡も無い)
L(先ほどの勉強中もそうだったが、この状態で報道された情報を得ているとは到底思えない)
L(しかし21時に報道された犯罪者は確かに死んだ)
L(これはつまり……)
ピピピピッ
総一郎「! もしもし」ピッ
L「…………」
総一郎「ああ、分かった。何度もすまんな」ピッ
L「…………」
総一郎「竜崎。21時30分のニュースで報道された通り魔も心臓麻痺で死亡したそうだ」
L「…………」
総一郎「そしてニュースが報道される前から今までずっと、星井美希はベッドで寝ていた……」
L「…………」
総一郎「竜崎。これはもう完全に白と言っていいのでは……」
L「……まだ三日です」
総一郎「しかし」
L「明日は先ほど夜神さんが言っていたように、夕食の時間帯に合わせて報道を流します」
総一郎「…………」
(星井美希に対する監視・四日目)
L「…………」
総一郎「竜崎……」
L「…………」
L(今日は星井家の夕食の時間帯に合わせて報道を流したが、結局、星井家はその時間はバラエティ番組を観ていたため、星井美希が報道された情報を得ることは無かった)
L(しかしそれにもかかわらず、夕食後……星井美希がシャワーを浴びている時に、彼女が情報を得ていない、報道されたばかりの犯罪者が心臓麻痺で死んだ)
L(もうこれで三人連続……いくらキラでも、顔も名前も知らない、それどころかその存在すら認知していない犯罪者を殺せるはずがない……)
L(星井美希はキラではない……もうそう考えるしか……)
総一郎「どうする? 竜崎……」
L「…………」
総一郎「私はもう、これ以上監視を続けても結果は同じ……それどころかむしろ、星井美希がキラでない可能性が裏付けられていくだけのように思えるが……」
L「そうですね……」
総一郎「…………」
L「ですがあと三日……あと三日だけ観させてください。それでも同じなら、速やかにカメラと盗聴器を外します」
総一郎「……分かった……」
L「…………」
(星井美希に対する監視・七日目)
L「…………」
総一郎「竜崎……」
L「…………」
L(この三日間、報道を流す時間帯を色々変えてみたが……)
L(結局、星井美希が報道された情報を得たのは監視を始めて六日目の夜……姉が大学の飲み会でおらず、母親と二人きりとなった夕食の時のみ)
L(それは地方公務員でもある母親が『たまにはニュースでも観なさい』と言ってテレビのチャンネルを変えてくれたおかげだが……)
L(しかし結果的には、その時報道された犯罪者も、他の日にそうであったのと同様、星井美希が夕食後にシャワーを浴びている時に心臓麻痺で死亡した)
L(その際も、星井美希の挙動や表情に何ら変化は見られず……他の日と全く同じようにシャワーを浴び、身体を洗っているようにしか見えなかった)
L(そして五日目と七日目は、いずれも星井美希が報道された情報を得ていない間に、報道された犯罪者が心臓麻痺で死亡した)
L(これでは『星井美希が報道された情報を得ていようが得ていまいが、彼女とは全く無関係にキラが犯罪者を裁いている』と判断するほかない……)
総一郎「竜崎。これでもう星井美希に対する監視は……」
L「……分かっています。明日にでも、カメラと盗聴器は全て外します」
総一郎「ああ、よろしく頼む。しかしこれでまた振り出しか……」
L「…………」
リューク「おいミキ。やっぱりカメラ取れてるぞ。全部だ全部」
美希「! …………」
リューク「おいミキ。聞いてるのか?」
美希「…………」トントン
(自分の耳を軽く指差す美希)
リューク「ああ、そうか。まだ盗聴器は付いてるかもしれないのか」
美希「…………」コクッ
リューク「じゃあ早速、明日にでも探知機買ってきて調べようぜ」
美希「…………」コクッ
リューク「そして盗聴器も無いことが分かったら……その時は頼むぜ、例のヤツ」
美希「…………」コクッ
リューク「しかし盗聴器も無いことが分かってスッキリしたな」
美希「まあね」
リューク「これも全部あの子のおかげだな」
美希「……まあね」
ガチャッ
美希「おはよーございますなの」
P「おう。おはよう、美希」
小鳥「おはよう、美希ちゃん」
春香「……おはよ、美希」
美希「! …………」
P「? どうした? 美希」
小鳥「まだ寝ぼけ眼なのかしら?」
美希「えっ、ううん。違うの」
春香「…………」
春香「ん?」
美希「あのね、ミキ……」
春香「…………」
美希「今日、久しぶりにぐっすり眠れたの! あはっ」
春香「! ……そう。良かったね。美希」
美希「はいなの!」
P「?」
小鳥「睡眠報告……?」
春香「さて、じゃあ私はレッスンに行ってきまーす!」
P「おう、行ってらっしゃい」
小鳥「頑張ってね」
春香「はーい」
美希「春香」
春香「ん?」
美希「……また、後でね」
春香「……うん。また後で」
ガチャッ バタン
P「おーい美希。お前もすぐCM撮影に向かうから、準備しとけよー」
美希「はいなの! すぐ支度するの!」
美希「…………」
美希「……ありがとうなの。春香」
P「? 何か言ったか?」
美希「んーん。何でもないの!」
P「?」
(隣り合う二つのブランコに並んで腰を下ろしている春香と美希)
春香「じゃあ本当にカメラは全部取れてたんだね? それと盗聴器も」
美希「うん」
春香「そっか……良かった。本当に」
美希「これも春香のおかげなの」
春香「私は別に何も……あ、じゃあこれ返しとくね」スッ
(美希にデスノートを渡す春香)
美希「……うん。ありがとうなの。春香」
春香「どういたしまして。美希」
美希「でも、やっぱり不思議な感じなの」
春香「不思議って?」
美希「だってまだあれから……十二日しか経ってないのに、ミキ達、十二日前までとはまるで違う関係になってるの」
春香「そうだね」
美希「十二日前までは、同じ事務所のアイドル仲間で、仲の良い普通の友達だったのに。今は……」
春香「……うん。本当にね」
美希「十二日前は夢にも思わなかったの。まさか春香と、こんなことを話すようになるなんて――……」
――――遡ること、十二日前。
【十二日前・765プロ事務所からの帰路】
春香「美希って、さ」
春香「いつデスノートを拾ったの?」
美希「…………え?」
春香「…………」
美希「は、春香? 今、なんて……?」
春香「……ああ、そっか。やっぱり美希は目を持ってないんだね」
美希「え?」
春香「そっか、そっか。そういうことね。いや、もしかしたらって思ってさ」
美希「…………」
春香「もし美希もそうなら、私のことも当然気付いてて、その上で黙ってるんだろうなーって。まあでも持ってないなら分かりっこないもんね。うんうん」
美希「は、春香? さっきから、一体何を言ってるの?」
春香「まあそういうことなら、見せた方が早いよね」
美希「え?」
春香「えっと……」キョロキョロ
(周囲を見渡し、他に人がいないことを確認する春香)
春香「よし。今なら大丈夫そう。美希。これ」スッ
美希「えっ……」
春香「触って。あ、でも絶対大きな声とか出さないでね。まあ初めてじゃないから大丈夫だろうとは思うけど」
美希「これって……」
美希(デス……ノート? でもこの表紙の文字は……何語?)
春香「ほら美希。早く早く。人来ちゃうよ」
美希「えっ、ええっと……」
春香「美希」
美希「わ、分かったの」サッ
美希「!」
(美希が春香の持つノートに触れた瞬間、春香の背後に白い化け物が姿を現した)
美希「きゃ……」
春香「ダメッ!」バッ
(素早く両手で美希の口を塞ぐ春香)
美希「…………!」ムグムグ
春香「もう。だから言ったのに」
春香「もう大丈夫かな?」
美希「…………」コクコク
春香「よし」パッ
美希「…………」
春香「えっと……じゃあとりあえず、レム。自己紹介」
「……名乗らせるなら先に名前言うなよ」
春香「あっ。ごめんごめん。ついうっかり」
「まったく……」
美希「…………」
美希(黒いノート……触ったら化け物が見えた……これはもう間違い無く……)
「私は死神のレム。この子が持っているノートの落とし主だ」
美希「…………!」
美希(やっぱり、死神……! ということは……)
美希「じゃあ、そのノートは……」
春香「うん。デスノートだよ」
美希「…………!」
美希(春香が、デスノートの所有者……! でも、な、何で……?)
美希(しかも……これまでの会話からして、ミキが所有者だってことも知っている……?)
美希(何で? どうして?)
美希(何が何だか分からないの……)
美希「…………」
春香「ありゃりゃ。流石の美希も固まっちゃったか」
レム「まあ仕方無いだろう。この様子だと、今まで全く気付いてなかったみたいだしな。お前のこと」
春香「そうみたいだね。でもそうすると一から説明しないといけないからちょっと時間かかるな……ここだと人目につきそうだし……」
美希「…………」
春香「よし、美希。とりあえず公園行こう」グイッ
美希「え? あっ、あの……」
春香「大丈夫大丈夫」
美希「な、何が大丈夫なの……」
春香「全部話してあげるから」
美希「……全部……?」
春香「そ。ぜーんぶ、ね」
美希「…………」
(隣り合う二つのブランコに並んで腰を下ろしている春香と美希)
春香「とは言ったものの、一体どこから話そうか……」
美希「………」
レム「やっぱり最初から順を追って話してやった方がいいんじゃないか?」
春香「まあそうか。そうだよね。うん。じゃあ美希……」
美希「は、春香!」
春香「ん? 何?」
美希「えっと……春香がデスノートを持ってて、その死神……」
レム「レムだ」
美希「……レムが、そのノートの落とし主……」
レム「そうだ」
美希「ってことは……今は春香がそのデスノートの所有者で……それでレムが憑いてるってことだよね?」
春香「そうだよ。流石美希。飲み込みが早いね」
美希「じゃあ……何で春香がデスノートを持ってるのかってことも気になるんだけど、それより先に……」
春香「?」
美希「何で、ミキもデスノートを持ってるって分かったの?」
春香「ああ、その事。そっかそっか、それも知らなかったんだね」
美希「え?」
春香「えっとね。死神の目を持つと他の人の寿命と名前を見る事ができるようになるんだけど、ノートを持ってる人だけは寿命の方が見えないの」
美希「そ……そうなの?」
春香「そうなんだよ。その理由は……何だっけ? レム」
レム「……デスノートを持った人間は命を取られる側から取る側になる為、殺す人間の寿命だけが見えていればいいからだ。ゆえに死神の目を持った人間は、自分を含め、他のデスノートを持った人間の寿命は見る事ができない」
春香「そうそう、そういうこと」
美希「なるほど……って!」
春香「? どうしたの? 美希」
美希「じゃあ春香……目の取引したってことなの!?」
春香「うん。したよ」
美希「! ……じゃあ、それと引き換えに残りの寿命の半分を……」
春香「うん。まあそういうことになるかな」
美希「! ……何で、そんなこと……」
春香「それは……後で、詳しく話すよ」
美希「…………」
美希「え?」
春香「いやほら、前のプロデューサーさんが心臓麻痺で亡くなったって聞いた時にさ、私はすぐに『これはきっとデスノートだ』って思ったんだよね」
美希「! …………」
春香「で、もしそうだとしたら、絶対765プロの皆の中に他のデスノートの所有者がいるって思ったの。前に他の皆との話でも出てたけど、あの人の悪い一面を知ってるのは私達だけだったからね」
春香「それで、レムに他のノートの所有者を見分ける方法は無いかって聞いたら、さっきの方法を教えてもらえて」
美希「じゃあ、それで目の取引を……?」
春香「ううん。目自体はもっと前から持ってたの。ただその見分け方は知らなかったってだけで」
美希「……そうなんだ……」
春香「それでその翌日、前のプロデューサーさんのお通夜で美希に会ってすぐに分かったよ。寿命が見えなかったからね」
美希「じゃあ、あの時から気付いてたんだ……」
春香「うん。でも実際のところ、美希がいつからノートを持っていたのかまでは分からなくて。ほら、毎日何十人何百人って人の名前と寿命が見えてたし、寿命が見えない人もいるなんて知らなかったから、そこまでちゃんと意識して見てなかったんだよね」
春香「だから私が気付いてなかっただけで、本当はもっと前から美希はノートを持ってたのかなって思って。それでさっき、最初にその質問をしたってわけ」
美希「ミキがノートを拾ったのは……ミキが前のプロデューサーの名前を書いたその日だよ」
春香「そうなんだ。ちなみにそのときって、死の日時指定とかってした?」
美希「ううん。ただ名前を書いただけ」
春香「そっか。じゃあ結局、私は美希がノートを持ってからほとんどすぐ後に気付いてたってことだね」
美希「うん。でもその時から気付いてたなら、何で今までずっと黙ってたの? そして何で今になって言う気になったの? 春香」
春香「それは……」
美希「…………」
春香「うん。じゃあ……そのことも含めて、改めて今から全部話すよ」
美希「! …………」
春香「私がデスノートを拾った経緯、目を持った理由、これまでデスノートを使ってしてきたこと……そして、今になって美希に全てを打ち明けようと思った理由。その、全部を」
美希「…………」
美希「?」
春香「美希に憑いてる死神さんも私に見せて」
美希「……わかったの」スッ
春香「へー。英語でタイトル書いてあるんだ。なんかかっこいいね。でも美希、いつもこれ持ち歩いてるの?」
美希「うん」
春香「なんか危なくない? それ……」
美希「ミキの場合、家の中に置いてる方がアブナイの。お姉ちゃんとかに触られちゃいそうで」
春香「なるほどね。では早速……」サッ
(春香が美希のノートに触れた瞬間、美希の背後にいるリュークが春香にも視認可能となった)
春香「へえー。死神っていってもレムとは全然違うタイプなんだね。あっ、名前だけは聞いてるよ。リューク。これからよろしくね」
リューク「ああ、よろしく」
美希(春香とリュークが普通に会話してる……なんかすごい光景なの)
春香「じゃあ改めて……えっと、最初は……」
レム「最初のくだりは私から話そう」
春香「レム」
レム「いいね? ハルカ」
春香「うん。じゃあお願い」
レム「あれは今から一年と少し前……死神界にジェラスという死神がいた」
美希「…………」
リューク「…………」
レム「ジェラスは死神界からずっと一人の少女を眺めていた」
レム「最初、私はジェラスがその子に恋をしているのだと思った。今の死神界じゃ大笑いされることだがありえない話ではないからな」
レム「しかしジェラスを見ているうち、私は、ジェラスがその少女に抱いている感情はいわゆる『恋愛感情』と呼ばれる類のものとは少し性質が異なるのではないか、と思うようになってきた」
レム「まあ広い意味では『恋』といえるのかもしれないが……分かりやすく言うと、ジェラスはその子のファンになっていた」
美希「ファン?」
レム「そう。その子は当時、デビューして間もない、いわゆる新人アイドルってやつだった。まだ名も売れておらず、自分のCDを手売りで販売したりしていた」
レム「ジェラスに詳しく話を聞いてみると、元々は、殺す人間を適当に探している時に、偶然その子を見つけたらしい。最初はなんとなく見ていた程度だったらしいが、その子が健気に、前向きにアイドル活動を頑張る姿を見ているうち、段々と情が湧いてきて……気が付けば、寝ても覚めても彼女の事を考えてしまうようになっていたそうだ」
美希「へー。でもそれはやっぱり恋っていえそうな気もするの」
レム「まあそうだったのかもな。だがジェラスとしても人間にそのような感情を抱くこと自体初めてだっただろうから、自分の感情が何に分類されるものなのか、おそらくはっきりとは自覚できていなかったのだろうと思う」
美希「なるほどなの」
春香「……………」
レム「だが確かにその少女は、メスの私から見ても魅力的だった」
美希(レムってメスだったんだ。っていうか、死神に性別ってあったんだ……)
レム「何より明るく、元気が良くてね。少しドジなところもあったが、そこもまた魅力だった」
春香「ちょ、ちょっとレム。そのへんの話は今別にいいんじゃない?」
レム「そうか? だがジェラスの話をする上では結構重要な部分だと思うが……」
春香「うー……でもやっぱりちょっと恥ずかしいよ……」
美希「? 何で春香が……って、あ! もしかして……」
レム「そう。ジェラスがファンになっていた、当時まだデビューして間もない新人アイドルだったのがこの子……天海春香というわけだ」
美希「! 春香の、ファン……」
春香「……………」
美希「えっ! そんなことしていいの? 死神が」
レム「まあ本当はダメなんだがね。ただ死神界の掟で、『ノートを渡す人間を物色する目的なら、一定時間人間界に居てもいい』というものがあってね。ジェラスはこれを理由に死神大王を騙し、しばしば人間界に降りてはハルカの出演するイベントに参加していた」
美希「すごい根性なの」
リューク「ククッ。まさか人間のためにそこまでする死神がいたとはな」
美希「少なくともリュークは絶対しなさそうなの」
リューク「まあな」
レム「そうしてジェラスは、ハルカが出演するミニライブはもちろん、村祭りイベントや芸能事務所対抗大運動会など、765プロ全体が参加するイベントにも可能な限り足を運んでいた」
美希「えっ! 来てたの? あの村祭りや運動会に」
レム「ああ。ちなみに私も、ジェラスに付き合ってそれらのイベントに同行していた」
美希「! そ、そうだったんだ……」
レム「私もジェラスほどの入れ込みではなかったが、死神界から長い間眺めているうち、ハルカに対して陰ながら応援してやりたいという気持ちは芽生えていたからね」
美希「へー。死神を二人もファンにしちゃうなんて、やっぱり春香はすごいの」
春香「うぅ、恥ずかしい……ていうか本当にこのくだり必要なの?」
美希「ファンの鑑ってカンジなの」
レム「しかしそこまでジェラスが入れ込んでいた理由は、ハルカのアイドルとしての魅力以外にもう一つあった」
美希「? 何なの?」
レム「ジェラスがハルカを見つけたとき、ハルカの寿命はもうあとわずか……およそ一年ほどしか残っていなかったんだ」
美希「!」
春香「…………」
レム「デビューからわずか一年余りでの死……その予定された運命の儚さが、そんなことは知る由も無いままひたむきに頑張るハルカの魅力をより一層引き立たせ、またジェラスの心を惹きつけてやまなかった」
美希「…………」
レム「またハルカを観察しているうち、ジェラスの胸の内には様々な感情が生まれていた。たとえば、ハルカが前任のプロデューサーから受けていた度重なるセクハラ被害……お前もハルカ自身から聞いて知っていると思うが、ハルカはその男から日常的に身体を触られるなどしており、精神的にも相当参っているようだった」
美希「…………」
レム「その男に身体を触られ、辛そうな表情を浮かべるハルカを見るたび、ジェラスは何度も自分のノートにその男の名前を書こうとした。しかし結局、ジェラスはその男を殺さなかった」
春香「…………」
レム「自分はあくまで一ファンであり傍観者……ハルカの人生に直接介入すべきではないと考えていたからだ」
美希「そうだったんだ……」
レム「いずれにせよハルカの寿命はもうあとわずか。ならば自分がファンとして出来ることは、彼女がその人生を全うするまで見守ることのみ……ジェラスはそう決意し、胸の内に押し寄せる様々な感情を押し留めてハルカの応援をし続けた」
レム「そしてついにハルカの寿命の日が来た。奇しくもその日は、今から五か月ほど前……765プロファーストライブの日だった」
美希「!」
レム「まさかファーストライブの日が寿命の日とはね」
ジェラス「……なんで、よりによって今日なんだろう……」
レム「人の元々の寿命は我々が決めるものではないからな……こればかりはどうしようもない」
ジェラス「…………」
レム「まあいずれにせよ、今日がハルカの最後のステージだ。精一杯、悔いの無いよう応援してやりなよ」
ジェラス「……うん……あっ」
レム「? どうした?」
ジェラス「あそこに居るの……あの子がまだ駆け出しだった頃からずっと応援してるファンだ。今まであったほとんどのイベントで見かけたから覚えてる」
レム「そうか……。そいつはまだハルカの運命なんて知らないだろうが、知ったらさぞ悲しむだろうな」
ジェラス「……うん……」
レム「お、もうそろそろ始まる頃だな」
ジェラス「…………」
レム「良いライブだったな」
ジェラス「うん」
レム「竜宮小町が遅れると聞いたときはどうなることかと思ったが……ハルカはじめ、他のアイドル達が上手くカバーしていた」
ジェラス「うん」
レム「今日のライブを皮切りに、竜宮小町以外のアイドル達のファンも増えるかもしれないな」
ジェラス「でも、もう、あの子は……」
レム「……ああ。そうだな。しかし今日はもう後残り何時間も無いが……これからどう死ぬんだろうな……」
ジェラス「…………」
レム「今日のライブの様子を見る限り病気とかではなさそうだったし……普通に考えれば事故か何かか。かわいそうではあるが……」
ジェラス「……レム」
レム「ん?」
ジェラス「……本当はこのまま死神界に帰ってあの子の最期を見届けるつもりだったけど……やっぱり最後は、この目で直接見届けてやりたい。……だめかな?」
レム「ああ、お前ならそう言うだろうと思っていたよ。幸い、あと数時間ならまだこのまま人間界に居ても大丈夫だ。私も一緒に見届けよう」
ジェラス「……ありがとう。レム」
春香「…………」ピッ
(駅の改札を通り、家路へと向かう春香)
レム「事務所での打ち上げでも、特に変わった様子は無かったね」
ジェラス「……うん……」
レム「しかし今日はもう後残り二十分も無いが……本当に今日死ぬんだろうか?」
ジェラス「……あっ」
レム「?」
ジェラス「あれ……今日、ライブ会場に居た……」
ファンの男「…………」
レム「……ああ。ハルカがまだ駆け出しだった頃からずっと応援しているっていうファンか……でも何でこんな所に? いや、というかあいつ……明らかにハルカの後を……」
ジェラス「…………」
春香「…………」
ファンの男「…………」
レム「ハルカの方は気付いていない……」
ジェラス「…………」
ファンの男「――――」ダッ
レム「! 走り出した!」
ジェラス「! …………」
ファンの男「ねぇ!」ガシッ
春香「!?」
(ファンの男が突然背後から春香の腕を掴む)
春香「や、ちょっ……」バッ
(反射的に、思わずその手を振りほどく春香)
ファンの男「あっ」
春香「! あなたは……」
ファンの男「…………」
春香「……私がデビューした頃からずっと、ライブやイベントに来てくれてる……」
ファンの男「! 覚えててくれたんだ……嬉しいよ」
春香「…………」
春香「!」ビクッ
ファンの男「君も覚えてくれていたとおり、僕は君がデビューしてすぐの頃から、ずぅっと君の事を応援していた」
春香「…………」
ファンの男「嫌な事があった日も辛い事があった日も……君の笑顔が、声が、歌が……君という存在の全てが、僕を元気づけてくれた」
春香「…………」
ファンの男「……でも」
春香「……?」
ファンの男「君は今、人気アイドルとしての階段を着実に上り始めている」
春香「…………」
ファンの男「今はまだ、世間一般での知名度はそこまで高くはないけど……今日のライブを観て、僕は確信した」
春香「…………」
ファンの男「そう遠くない未来、君は今よりもっと多くの人に愛されるアイドルになる。そしていつか、本物のトップアイドルになるって」
春香「…………」
ファンの男「天海春香を応援するファンの一人として、それは大いに喜ぶべきことなんだろう。いや、心の底から待ち望んでいた瞬間の到来といっても過言ではない」
春香「…………」
ファンの男「でもそのことは同時に……君が今より、ずっとずっと遠くの世界に行ってしまうということを意味する。今僕の居るこの世界から、ずっとずっと遠くの世界に」
春香「! …………」
ファンの男「それは僕には耐えられない。これ以上、遠い世界に行ってほしくない。今のまま、僕と同じ世界に居る君のままでいてほしいんだ」
春香「えっ、と……」
ファンの男「だから……春香ちゃん」
春香「! な……何?」
ファンの男「僕と結婚して、アイドルは今日限りで引退してほしい」
春香「!」
ファンの男「そして、僕だけのアイドルになってほしい。そうすれば、僕と君はずっと同じ世界に居られる」
春香「…………」
ファンの男「……ね? 春香ちゃん……」
ファンの男「! …………」
春香「私はまだ、アイドル続けていたいんです」
ファンの男「…………」
春香「これからも、765プロの皆と一緒に、沢山ライブやったり、色んなお仕事したりして……私達の事、もっと多くの人に知ってもらいたいんです」
ファンの男「…………」
春香「そしてより多くの人を笑顔に、幸せにしてあげられるような……そんなアイドルになりたいんです。だから……」
ファンの男「…………」
春香「……私は、あなたのお気持ちにお応えすることはできません。どうかこれからもファンの一人として、私……いえ、私達765プロ皆の事を、温かく見守っていて下さい」ペコリ
ファンの男「…………」
春香「…………」
ファンの男「……分かった。じゃあ仕方ない」
春香「はい。本当にごめんなさ……」
ファンの男「今ここで君を殺して、僕も死ぬ」
春香「……え?」
(持っていた手提げ鞄から包丁を取り出すファンの男)
春香「! ちょ……」
ファンの男「そうすれば、君はこれから先もずっと、永遠に僕と一緒の世界に居られる。そうだろ?」
春香「や……やめて……」
レム「まさか……こんな結末だったとはな……」
ジェラス「…………」
レム「今日はもう後残り十分も無い。この男に殺されるのがハルカの寿命だったということか……」
ジェラス「…………!」バッ
レム「ジェラス!? おい、何を……」
ジェラス「…………」
春香「い……いやっ!」ダッ
ファンの男「! 待て!」ダッ
春香「誰か……誰か!」
ファンの男「フフッ、春香ちゃん。そんなに急いで走ると転んじゃうよ? そう、いつもみたいに――……ッ!?」
春香「……え?」クルッ
ファンの男「……あっ……ぐっ……!」
春香「な……何?」
ファンの男「……あ……が……」ドサッ
春香「!」
ファンの男「――――」
春香「…………え?」
レム「ジェラス。お前……」
ジェラス「……レ、ム……」ボロボロ
レム「! ジェラス! お前、身体が……」
ジェラス「……あの子の、事……たの、む……」
レム「ジェラス!」
(次の瞬間、ジェラスは砂とも錆ともわからぬ物に変わった)
レム「……ジェラス……」
春香「…………」
(恐る恐る、倒れたファンの男に近付く春香。男は目を見開いたまま仰向けに倒れており、ピクリとも動かない)
春香「……し、死んでる……?」
春香「何が起きたのか分からないけど、助かった……のかな……」
春香「えっと、こういう場合、どうしたら……。とりあえず、警察……?」
ドサッ
春香「?」
春香「何? この黒いノート……」スッ
「そのノートはお前の物だ」
春香「……え?」
(春香の目の前に舞い降りるレム)
春香「!? な……!」
レム「おっと。大きな声を出すんじゃない」
春香「…………!」
レム「私は死神のレム。今から、お前の身に起こったことを教えてやる」
春香「…………?」
レム「……そして私は、今までお前達に話してきたのと同じことを全てハルカに教えてやり……ジェラスの使っていたノートをそのままハルカに与えた」
美希「じゃあそれが、今春香が持ってる……」
春香「そう。これね」スッ
美希「そうなんだ……って、あれ? じゃあ結局、春香の寿命はどうなったの? それに何でジェラスは死んじゃったの?」
レム「……死神は本来、人間の寿命を短くする……頂く為だけに存在している。人間の寿命を延ばすなんてもっての他」
レム「ゆえに死神は人間の寿命を延ばす目的でデスノートを使ってはならない。それをすると死神失格……死神は死ぬ」
レム「死神が死ぬと、その死神の命が助けられた人間に見合った寿命として与えられる。だから本来、あのファーストライブの日に終わるはずだったハルカの寿命は、ジェラスの命が与えられたことによって延長された」
美希「そうだったんだ……」
レム「もっとも、死神が死ぬのは特定の人間に好意を持ち、その人間の寿命を延ばす為にデスノートを使った時だけだ。ジェラスの場合、それが恋愛感情と呼べる類のものだったかどうかまでは分からないが……少なくとも、ジェラスはハルカに対して明確に好意を持っており、そのハルカの寿命を延ばすためにファンの男を殺したから、死んだ」
リューク「ククッ。なるほどな。それが噂に聞く『死神の殺し方』ってやつか」
レム「そういうことだ」
美希「でも、その後ジェラスのデスノートが春香に与えられたってことは……死神が死んじゃっても、死神が使ってたデスノートはそのまま残るってこと?」
レム「そうだ。死神が死んだ場合、死神は消えるがデスノートは残る。このような場合、常識的には死神大王に返上するものとされているが、私は常識よりジェラスの遺志を尊重し、ジェラスの遺したノートをハルカに渡した」
レム「このノートをハルカの幸せのために使わせてやってほしい……ジェラスはきっとそう思って死んでいっただろうからね」
美希「なるほど。すごい愛なの」
春香「…………」
春香「…………」
レム「私はハルカが要らないと言うのなら、すぐにでもノートを返してもらうつもりでいた。しかしハルカは……悩みに悩んだ末、最後にはデスノートを使うことを決めた」
美希「……春香……」
春香「さっき、レムも説明してくれてたけど……私は本来、あのファーストライブの日に死ぬはずだった」
美希「…………」
春香「でもそれが、一人のファンの……それも、私がデビューして間も無い頃からのファンのおかげで、死なずに済んだ」
春香「そしてその一人のファンの命が、私の寿命として与えられ……そのおかげで、私は今日もこうして生きている」
春香「つまり、今の私が在るのは、そのたった一人のファンの……ジェラスっていう死神のおかげなの」
春香「もちろん私は見たことも会ったこともないけど……でも私にとって彼は命の恩人であり、かけがえのないファンの一人」
春香「そんな彼が、自分の命を犠牲にしてまで私の寿命を延ばしてくれたのに、そのことに気付かないふりをして、忘れたつもりになって与えられた寿命を生きていくなんて……そんなこと、私にはできない」
春香「だから考えた。今私ができることは何なのか。ジェラスがファンになってくれたアイドルとして……私は何をすべきなのか」
春香「そうやって考えたら、答えは自ずと見つかった。ジェラスはアイドルとしての私を応援してくれていた。ならばジェラスのくれた命を使って、私がすべきことはただ一つ」
春香「アイドルとしての夢を実現すること。つまり、765プロの皆と一緒に、より多くの人を笑顔に、幸せにしてあげられるようなアイドル……トップアイドルになることなんだって」
美希「! 春香」
春香「その時から、私にとって“夢”だった『トップアイドルになること』は私にとっての“使命”になった。これが私に命を与えてくれたジェラスに対して私ができる、たった一つの恩返し」
春香「だから私は、その為に……いや、その為だけにデスノートを使おう。そう決めたんだ」
美希「……春香……」
春香「美希はさ」
美希「? 何?」
春香「今の私達のままで……いや、正確には少し前の私達のままで……トップアイドルになれたと思う?」
美希「? どういう意味?」
春香「確かに、この世界は実力がまず第一。実力が無ければ上にはいけない」
美希「それはそうなの」
春香「でも実力さえあれば必ず上にいけるかというと、必ずしもそうではない」
美希「っていうと……運とか?」
春香「それもあるけど……一番大きい要因は、外圧の有無」
美希「外……圧?」
春香「そう。もう半年以上も前になるけど……さっきレムの話にも出た、去年私達765プロが出場した芸能事務所対抗大運動会。覚えてるよね?」
美希「もちろんなの。だってその運動会、ミキ達が女性アイドル部門で優勝したんだから」
春香「そう。私達が優勝した。……『空気を読まずに』ね」
美希「あー……そういえばあの頃、ちょくちょくそういうこと言われてたね。弱小事務所のくせに、みたいな」
春香「そしてあの頃から、徐々に私達、765プロの仕事先で変な事が増えてきた」
美希「変な事?」
春香「美希は気付かなかった? あったはずの仕事の予定が何故かキャンセルになっていたり、逆にダブルブッキングしてたり」
美希「それは確かにあったけど……。でも前のプロデューサーって元々全然仕事できない人だったし……」
美希「あー……言われてみればそうだったかもなの。正直その頃ずっと、前のプロデューサーからのセクハラがひどくて、そこまで気が回ってなかったけど」
春香「そうだね。でもそれだけじゃない。明らかにこちらの落ち度じゃない場合……たとえば律子さんが担当していた竜宮小町のラジオ収録なんかでも、いざ現場に行ったら知らないうちに収録時間が変更されていた、なんてこともあったみたい」
美希「ああ、それは覚えてるの。でこちゃんすっごく怒ってたよね」
春香「それと似たようなことが、私達のほぼ全員の仕事先で起こっていた。これだけでも十分変なのに、より違和感があったのが、前のプロデューサーさんの態度」
美希「? っていうと?」
春香「私が彼と一緒に現場に行ったときにも、さっき言った竜宮小町の件と同じようなことがあったの」
春香「本当は16時からの収録のはずだったのに、30分前に現場に着いたら『15時からの収録なのに、30分も連絡無く遅刻するなんてどういうことだ』ってすごく怒られて」
美希「言ってたね。事務所では小鳥も事前にスケジュール確認してくれてたから間違えてるはずないのに、っていう」
春香「そう。でも私が気になったのは、現場でそれを告げられた際、前のプロデューサーさんが、微塵も表情を変えなかったこと」
美希「え? そうだったの?」
春香「うん。眉一つ動かしてなかった」
美希「んー。でもそれは、単純に興味が無かったんじゃない? 事務所のお仕事そのものに」
春香「仮にそうだとしても、普通、全く予想していない事態に不意に直面したら、少なからず動揺が表に出ると思わない?」
美希「まあ……それはそうかもなの」
春香「でも彼にはまったくそんな素振りが無かった。現場でそう告げられて『ああ、どうもすみません』って、まるで台詞を棒読みするように一言謝っただけだった。まるで、そうなることが最初から分かっていたかのように」
美希「うーん。でもやっぱり、単純に事務所のお仕事に興味が無かっただけなんじゃないかなって気もするけど……」
春香「まあね。ただ私はその違和感がずっと心に残ってて、彼が裏で何かしてるんじゃないかという疑念がどうしても消せなかった」
美希「裏で?」
春香「うん。私達を陥れようとする何者かと、裏で手を引いてるんじゃないかって」
春香「もしそれらがカモフラージュだったとしたら?」
美希「え?」
春香「アイドルにはセクハラ、仕事はいい加減にこなす……表立ってそんなことをする人間が、裏で私達を『さらに』陥れようとしているなんて普通思わない。今美希が言ったみたいにね」
春香「現に美希は当時、さっき言っていたみたいに、彼によるセクハラの方に意識が向いていて、仕事の方の不自然な出来事にまでは気が回ってなかったんでしょ?」
美希「うん、まあ……。でも今までの話からすると、春香はそうじゃなかったってことだよね?」
春香「まあね。私もセクハラ被害は受けてたし嫌だったけど、こっちの方も同じくらい気にはなってた」
春香「誰かが故意に私達を陥れようとしているのでなければ、説明のつかないくらい、不自然な出来事が多く起こり過ぎてたからね」
美希「まあ確かに、そう言われてみれば……なの」
春香「またそうだとすれば、これらの出来事は、どれも私達の内部情報……誰が、いつ、どこで、どういう仕事をするのかといった情報が入手できなければ起こせないことばかりだった。仕事予定の変更にしろ、ダブルブッキングにしろ」
美希「そっか。うちの事務所に全然関係無い人にはそもそも出来ないってことだね」
春香「そう。だから私の中ですぐに答えが出た。『ああ、この人が私達の情報を流してるんだ』って。言うまでもないけど、彼以外にそんなことをするような人はうちの事務所にはいないからね」
美希「そこは確かに納得なの」
春香「そう考えると、普段の様子も実は全部演技だったんじゃないかって思えてきて」
美希「じゃあ……わざと仕事できないふりしてたってこと? セクハラも?」
春香「多分ね。まあ流石に100%そうだったとまでは断定できないけど。でももし私の考えの通りなら、前のプロデューサーさんはどこかのスパイだったわけで、本当に無能な人だったらスパイなんて任せられないでしょ」
美希「確かに。すぐ失敗してばれちゃいそうだしね。でもそうだとすると、一体どこのスパイだったんだろう?」
春香「美希も聞いたことあったよね。前のプロデューサーさんがどういう経緯でうちに来たのか」
美希「あー、うん。確か、うちの事務所に出資してる大きな会社の社長の息子で、就職先が決まらなかったから、父親のゴリ押しでうちのプロデューサーになったって……小鳥からそう聞いたの」
春香「そう。ちなみにその大きな会社って、どういう会社か知ってる?」
美希「んーん。知らないの」
春香「その会社はね。実はとあるアイドル事務所と密接なつながりがある会社だったんだよ」
美希「? とあるアイドル事務所?」
春香「うん。その事務所の名前は―――961プロダクション」
春香「そう」
美希「なんでそんなこと分かったの? 春香」
春香「うん。私一人で考えていても本当のところは分からないままだろうから、思い切って社長さんに聞いてみたの」
美希「? 何て?」
春香「『プロデューサーさんは私達を陥れるためにどこからか送り込まれてきたスパイなんじゃないですか?』って」
美希「春香は時々すごいの」
春香「そしたら社長さん、目に見えてうろたえちゃって。『そ、そんなことはないぞ』とかなんとか言ってたけど、もうみえみえでさ」
美希「実に社長らしいの」
春香「でも結局その時は、否定されたままで『すまないが私は用事があるのでこれで』って逃げられちゃったの」
美希「よっぽど言いたくなかったんだね」
春香「うん。でもおかげで私は自分の推測に確信を持てた」
美希「社長がウソをつけないタイプの人で良かったね」
春香「そうだね。ただ同時に、これ以上直接聞いても真相は教えてもらえないだろうなとも思ったから、少し作戦を変えることにしたの」
春香「多分だけど、小鳥さんもある程度事情を知ってるんじゃないかなって思ったんだよね。そもそも前のプロデューサーさんがうちに来るようになったいきさつを私達に教えてくれたのも小鳥さんだったし」
美希「確かに。じゃあ次は小鳥に聞いたんだ?」
春香「ううん。それはしなかった。小鳥さんに聞いても上手くはぐらかされるだろうと思ったし、そのことが社長さんに伝わったらかえって警戒されるだろうなって思ったから」
美希「なるほどなの」
春香「でももし社長さんと小鳥さんが事務所で二人きりになるタイミングがあれば、もしかしたらその関係の話をすることがあるかもしれない。だから私はその可能性に賭けることにした」
美希「ってことは……」
春香「毎朝事務所に行く時と、夕方以降また事務所に戻る時、いつも必ずドアを少しだけ開けて、中の会話の内容を確認してから入るようにした」
美希「流石春香なの」
春香「まあね」
美希「でもそれで上手くいったの?」
春香「もちろんそう簡単にはいかなかった。でも社長さんと小鳥さんが事務所で二人きりになるタイミングって比較的多いから、いつかはボロを出すんじゃないかと思って繰り返し試みてみたら……案の定だった」
美希(春香が悪い顔になってるの)
(仕事を終え、事務所に戻ってくる春香。事務所のドアの前で立ち止まり、ドアを少しだけ開く)
春香(今日この時間は、事務所にいるのは社長さんと小鳥さんの二人だけのはず……)
春香(そろそろうっかり喋ってくれてもいいと思うんだけどな……)
社長「……まったく、あの男にも困ったものだ」
春香「!」
小鳥「もう何回目か分かりませんね。仕事がいつのまにかキャンセルされてるの」
社長「うむ。今まではまだ我々の事務所内だけでの問題だったが、最近は明らかに外部の者と裏で連携しての工作がなされている」
小鳥「どうします? もう流石に本人に言っても……」
社長「いや……確たる証拠があるわけではないし、言ったところでどうにもならん。この事務所はまだ資金的には苦しい……今もし出資を打ち切られでもしたら……」
小鳥「でも社長。このままだと会社自体が……」
社長「確かに、今のこの状況が続くようでは何らかの手を考えねばなるまい」
小鳥「ファーストライブも二週間後に迫っていますし……。もし妨害とかがあったら、あの子達が……」
社長「そうだな。ライブ当日、彼の動きは極力監視するようにして……後は黒井か。まああいつが直接動くとは考えにくいが――……ん?」
春香「…………」
社長「!? あ、天海君!?」
小鳥「春香ちゃん!?」
春香「…………」
小鳥「春香ちゃん。今の話……聞いてた?」
春香「……はい」
社長「…………」
春香「社長さん。小鳥さん。……教えて下さい」
社長「…………」
小鳥「…………」
春香「あの人は……プロデューサーさんは、やっぱりスパイなんですね? 私達を陥れようとしている……」
社長「…………」
春香「そして彼をこの事務所に送り込んだのは……黒井……というと、もしかして、あの961プロの黒井社長ですか?」
社長「! …………」
春香「お願いです。教えて下さい。もうここまで聞いているんです」
社長「しかし……」
春香「さっき小鳥さんも言いかけていましたけど……実際にお仕事をできなくされたりして辛い思いをするのは私達、アイドルなんです」
社長「! …………」
小鳥「春香ちゃん」
春香「だから私には……私達には、聞く権利があるはずです。あの人は……プロデューサーさんは何者なのか。そして何故うちに送り込まれてきたのか」
社長「…………」
春香「そしてそれをしたのが黒井社長なのだとしたら……何故そんなことをしたのか」
社長「…………」
春香「お願いします。教えて下さい」
社長「…………」
春香「! 社長さん」
小鳥「社長」
社長「君が言うように、今この状況で一番憂き目に遭っているのは他ならぬ君達アイドルだからな」
春香「社長さん。……ありがとうございます」
社長「ただそうは言っても、これから私が話すことには推測や憶測も多分に含まれる。ゆえに今はまだ君の心の中だけに留めておいてほしい。時が来れば、他の皆には私の方から改めて話す」
春香「……分かりました」
社長「ではまず……そうだな。私と黒井……961プロの黒井社長のことから話そうか」
春香「じゃあやっぱり、さっきの『黒井』というのは……」
社長「ああ。君の言うとおり、961プロの黒井社長のことだ」
春香「…………」
社長「私と黒井は、かつて一緒に仕事をしていた仲でね。同じ頃この業界に入り、良きライバル、そして友人として一緒に頑張ってきた」
社長「しかし、やがていつしか私と黒井はアイドルの育て方で意見がぶつかるようになってしまってね。彼のやり方が目に余るようになり、私は彼と話し合ったんだが、思いは受け入れてもらえなかった」
社長「そして結局、私達はそのまま袂を分かつことになったんだ」
春香「そうだったんですか……」
社長「それ以来、私と黒井は絶縁状態となった。またそれと共に業界における私達の立場も大きく異なっていった」
社長「アイドルを売るためならどんな手でも使う黒井は、まさに圧倒的なスピードでこの業界の頂点にまで上りつめた」
社長「一方私は私で、自分の信念にもとづいてアイドルの育成に力を注いできた。確かに今も、資金的には潤っているとはいえない状況だが……それでも私は、自分の選んだ道に間違いは無かったと思っている」
小鳥「社長……」
春香「…………」
春香「…………」
社長「そんな中、とある大手の投資会社から、うちの事務所に出資をさせてもらえないか、との申し出があった」
社長「なんでも、うちの事務所のアイドルに将来性を見出したとかなんとか……。最初は訝しんだが、その会社の社長に会って話を聞くうち、信頼に足る人物だと判断できたので、私は彼の申し出を受け入れることにした」
春香「…………」
社長「それから三年ほどの月日が流れた。事務所の利益はあまり上がらなかったが……それでもその社長はうちの事務所を見放さず、『いつか必ず芽が出ますよ』と言っては私を励ましてくれた」
社長「私は単純に嬉しかった。自分の会社を応援してくれる人がいるというのは、経営者としてこの上ない喜びだと……心の底からそう思った」
社長「ところがその頃、その社長がばつが悪そうな顔をして、ある話を切り出してきた。『実は息子が今年大学を出るのだが、まだ就職先が決まっていない。もしよかったらそちらの事務所に入れさせてもらえないか』と……」
春香「! …………」
社長「正直、私は当惑した。まずそもそも、うちの事務所には新たに人を雇うほどの資金的な余裕は無かったし……。何より、いくら世話になっている人の息子さんとはいえ、全く知らない人物をいきなり迎え入れろと言われても……」
社長「しかし先方の意思は強かった。何度も何度も頭を下げられ……結局、最後には根負けした。もちろん背後には、ここまでされて断った場合、もし出資をやめられては……という危惧があったのだが」
社長「そうしてその社長の息子がうちの事務所に入った。何の経験も無い新人だったが、経緯を踏まえると、当然ぞんざいに扱うことはできない……たとえ名ばかりとなってもやむを得ない。そういう思いで、私は彼に『プロデューサー』という役職を与えた」
春香「そうだったんですか……」
社長「その後の彼の働きぶりは……まあ、君達も知っての通りだ」
小鳥「正直言って、仕事と呼べるレベルじゃないですよね……」
春香「…………」
社長「とはいえ、その後は君達アイドル諸君の頑張りもあって、事務所としては大きく成長を遂げることができた」
社長「律子君も途中でプロデューサーに転向してくれたため、彼の分の穴を一層強固にカバーすることができるようになった」
社長「そして今年の夏には念願のファーストライブ開催も決まり、更には先日の芸能事務所対抗大運動会での女性アイドル部門優勝と……いよいよ、我が765プロダクションが勢いに乗ってきたところで……だ」
春香「……ここ最近の、仕事先での相次ぐトラブルですね」
社長「そうだ」
社長「どう考えても、彼一人のミスだけで発生したものとは思えない……明らかに、外部にこのトラブルを惹起している者がいる」
社長「そしてそれはおそらく、事務所内の情報が外部に伝えられることによって起こされている……この可能性に気付いた時、私は天海君と同じ推測をした」
春香「プロデューサーさんが、スパイ……」
社長「そうだ。確証は無いが、しかし仮にそうであるとすれば、情報を外に漏らしているのは彼としか考えられない。だから私は彼の身辺を調べることにした」
社長「彼の父親が経営している投資会社……この会社も、これまでの社長の態度からある程度は信頼していたが、この状況では調べないわけにはいかない」
春香「でも調べるって……一体どうやって?」
社長「善澤君のことは知っているね?」
春香「えっ。はい。よく社長さんと一緒にお茶を飲んでる……」
社長「そうだ。彼はああ見えても名うての記者でね。あらゆる業界の事情に通じている」
春香「そうだったんですか」
社長「そして私の昔馴染みでもある。だからその縁で、件の投資会社についても調べてもらった」
社長「その結果……驚くべき事実が明らかになった。件の投資会社は、裏で961プロから多額の資金提供を受けており、さらにその事業活動のほぼ全てを961プロに牛耳られていたんだ」
春香「えっ!」
社長「しかし961プロとその投資会社との間に資本関係は無く、表面的にはまるで無関係に見えるようにされていた」
春香「! …………」
社長「961プロは、今やこの業界の絶対的王者といっても過言ではないほどの地位にいる。同業者の多くはそんな961プロに目を付けられることを恐れているが、同時に、あわよくばその利権にあずかれないかと目を光らせている者も少なくない」
春香「それは……どういうことですか?」
社長「ここ最近、うちの事務所で頻発している数々のトラブル……そのいずれについても、我々の内部情報と、それを利用できる立場にいる者の存在が必要だ」
春香「利用できる立場にいる者……ですか?」
社長「たとえば、本来君達がするはずだった仕事を、たまたま他の事務所のアイドルが代役を務めることになった……とかね」
春香「あっ」
社長「つまり我々を外しても、その穴埋めができなければ結局仕事に穴が出る。でも逆にそれを埋めることができるならば問題は無い、ということだ」
春香「じゃあ……私達を陥れようとしていたのは……」
社長「そう。961プロのみならず、その利権にあずかろうとしている他のアイドル事務所――つまり、961プロに協力することで何らかの見返りが得られることを期待している連中――も関与している可能性が極めて高い。またそれらの事務所は件の運動会で我々765プロに出し抜かれたという恨みもあろう」
春香「そんな……」
社長「だがこれはまだ確定的な情報ではない。黒井もしたたかな男だ。そう簡単にボロは出すまい。善澤君も『765プロ周辺でここ最近起こっていることを総合すると、961プロとそれに追随する複数のアイドル事務所による“765プロ潰し”が行われているとみるのが最も自然だ』と述べるに留めている」
春香「でももしそうだとすると、それを可能にしているのは……」
社長「ああ。彼が持ち出していると思われる我々765プロの内部情報だ」
春香「…………」
春香「…………」
社長「しかし私には、確証は無いが確信はある。私は黒井の性格をよく知っているからね」
春香「というと?」
社長「これはあくまでも私個人の考えだが……あの日袂を分かってから、奴はずっと、自分の考えに同意しなかった私を恨んでいたのだろうと思う」
社長「そしてずっと、私の考えを根本から否定し、圧倒的な権力で私を叩き伏せることを目論んでいたのだろう」
春香「…………」
社長「やがて奴は力をつけ、業界トップの地位に君臨した。そしてその潤沢な資金にものをいわせて、件の投資会社を支配するに至った」
社長「さらにいつかスパイを送り込むことまでを企図して、その会社にうちの事務所に対する出資までさせた」
社長「そして彼をうちの事務所に送り込み……事務所の仕事をいい加減にこなさせ、内部からうちの事務所を瓦解させようとした。同時に、彼に『いい加減な人間』を演じさせることで『スパイ』などという狡猾な側面を我々に察知されないようにしていた」
春香(あっ。私と同じ考え……。じゃあセクハラも黒井社長の指示だったのかな? まあ社長さんはセクハラの事は知らないから聞きようがないけど……)
社長「それで我々を内部から崩壊させられればよし。させられなければ……」
春香「次は外部から……ですか」
社長「そうだ。我々がそれにも動ぜず力を伸ばし始めると、黒井は、今度は彼をして自分の考えに同調するであろう他の事務所に我々の内部情報を流させ、組織ぐるみで我々を潰しにかかった」
社長「それが今の状況……私はこう考えている」
春香「…………」
小鳥「もし本当にそうだとしたら……。なんでそこまで……」
社長「さあな。ただ奴にも曲げられない信念があるのだろうとは思うよ」
社長「いや、おそらくそうではない。実は私と黒井が同じ事務所で仕事をしていたとき、黒井が自ら他の事務所から引き抜いてきた部下の男が同じ事務所にいてね。その男は文字通り黒井の右腕ともいうべき人物で、黒井が私の元から去ったとき、迷わず黒井について事務所を出て行ったんだ」
社長「そしてその男は今もそのまま961プロの取締役として在籍している……いわば黒井の側近、参謀だ」
社長「この男が今も黒井の右腕として、黒井と共に“765プロ潰し”を画策しているとみてまず間違い無いだろう」
春香「なるほど」
小鳥「でも社長。これからどうするんですか? さっきも言いましたが、彼に情報を持ち出されているとほぼ分かっていながら放置というのは……」
社長「これも同じく先ほど述べたとおりだ。仮に今、下手に動いて件の投資会社に出資を打ち切られでもしたら、事務所の経営がたちゆかなくなるおそれがある」
春香「でも……その出資自体、黒井社長の計画の一部なんだとしたら、どのみちいずれなくなるんじゃ……?」
社長「おそらくはな。だが今はまだこのままでいい。我々は黒井の策には気付かぬふりをして、黒井側の出資がなくなっても持ちこたえられるよう、力をつけられるようにすればいい」
春香「社長さん」
小鳥「社長」
社長「そのために最も必要なのは、君達アイドル諸君の更なる躍進だ。幸いにも二週間後にはファーストライブがある。これで風向きが変われば、黒井の妨害工作など関係無くなるはずだ。そうすればもう何も怖くはない。彼を追い出すことも含めて、前向きに考えられるようになるだろう」
社長「だから今はとにかく、二週間後のファーストライブに全力を注いでくれたまえ」
春香「……分かりました」
春香「そして二週間後のファーストライブ……結局、この日は特に妨害は無かった。多分だけど、これで更に私達の人気を一時的にせよ上げさせて、私達の反対勢力となるアイドル事務所の数を増やしたかったんじゃないかな?」
美希「なるほどなの。でも春香。この日って……」
春香「そう。このファーストライブがあった日……さっきレムが話してくれた経緯で、私はデスノートを手に入れた」
美希「…………」
春香「そしてその後、五日間ほど悩みに悩んで……結局最後には、私はデスノートを使うと決めた。私に命をくれたジェラスのためにも、私は絶対に765プロの皆と一緒にトップアイドルになるんだって」
美希「じゃあ、その為にノートを使うっていうのは……」
春香「うん。今のままじゃ、どんなに実力があっても私達はトップアイドルにはなれない。実力とは無関係の力を使って、私達に害をなそうとする人達がいる限り」
美希「…………」
春香「だから私は決意した。私達765プロに害なす全ての者を、このデスノートを使って排除しようと」
美希「! …………」
春香「そしてそのうえで……765プロの皆と一緒にトップアイドルになる。それが私の使命であり、私に命を与えて死んでいったジェラスの夢」
美希「……春香……」
春香「まずは私達765プロを潰そうとしている人達の情報を得る事……でもこの時点で私に分かっていたのは、“765プロ潰し”計画の首謀者が黒井社長であるらしいということと、彼には側近がいること。その計画には961プロに追従している他の複数のアイドル事務所も関与していると思われること」
春香「そして前のプロデューサーさんは黒井社長によってうちに送り込まれたスパイであり、うちの内部情報を外部に持ち出していると考えられること……これだけだった」
春香「デスノートで殺すには顔と名前が必要……このとき私にその両方が分かっていたのは黒井社長と前のプロデューサーさんの二人だけだった」
美希「あれ? 春香って黒井社長と会ったことあったの?」
春香「いや、無いけど。でも961プロのホームページに普通に写真載ってたから」
美希「あー。まがりなりにも社長だもんね」
春香「そういうこと。あと、黒井社長の側近の人の名前も、社長さんに『もし何かの機会に出会った時に警戒できるようにしておきたいから』って言ったらすんなり教えてもらえた」
美希「流石春香。あざといの」
春香「何か言った?」
美希「なんでもないの」
春香「でも他の人については何の手がかりも無かった。情報を探ろうにも、そもそもどのアイドル事務所が計画に関与しているのかすら分からなかったしね」
美希「確かにね。じゃあどうしたの?」
春香「……ねぇ、美希」
美希「? 何? 春香」
春香「デスノートのルールで、『死因を書くと更に6分40秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる。』っていうルールがあるのは知ってるよね?」
美希「うん。リュークが書いてくれてたルールの中にあったの。ミキは一回も使ったことないけどね」
リューク「めんどくさいって言ってたもんな」
美希「まあね」
春香「あはは。美希らしいね」
美希「死の時間指定ができるってやつでしょ? ミキでもそれくらいは知ってるの」
リューク「俺が教えたからな」
春香「もちろんそれもできるけど……でも実はもっとすごいことができるんだよ」
美希「?」
春香「まあこれは実際に見せた方が分かりやすいかな」パラッ
(自分のデスノートを開き、その1ページ目を美希に見せる春香)
美希「! これは……」
--------------------------------------------------
轡儀 柳次 事故死
誰にも気付かれない場所、
怪しまれない行動範囲の中で、
現在765プロダクションを陥れようとしている計画に関する情報
およびその計画に関与している者達に関する情報のうち
自分が閲覧することのできる全ての情報のデータと、
これらの情報に関連する情報および961プロダクションがこれまで行ってきた悪事に関する情報のうち
自分が知っている全ての情報を書き込んだテキストのデータを
私物のUSBメモリにコピーし、
そのUSBメモリと『はるるんにうちの可愛いペット達の写真を見てもらいたいので送ります。
はるるんだけに見てほしいので家で一人の時に見て下さい』と書いた手紙を封筒に入れ、
差出人名を「はるるんの大ファンより」とだけ書き、
東京都大田区矢口2丁目1番765号 株式会社765プロダクション
はるるん 宛てに出す。
20××年○月○日より23日間以内にこれらをすべて実行した後、
この事は誰にも言う事なく不慮の事故に遭い死亡。
--------------------------------------------------
春香「どう? ここまで人間の死の前の行動を操ることができるんだよ。デスノートは」
美希「じゃあ、全部ここに書かれた通りになったってこと?」
春香「うん。これを書いてから五日後くらいに、私はここに書いてある情報を全部手に入れることができたからね」
美希「すごいの。デスノートってなんでもありなんだね」
春香「いや、なんでもかんでも操れるってわけじゃないよ。物理的に不可能な事をさせたり、その人が知りもしない情報を書かせたりすることはできない」
美希「そうなんだ。じゃあ万能ってわけじゃないんだね」
春香「まあでも逆に言えば、その人がやってもおかしくない行動ならほぼ完全に操れるから、実際上の不都合はほとんど無いけどね。たとえば『自殺』だって、ほぼ全ての人間にとって可能性がある事とされているから、死因として書けば有効だしね」
美希「へー。で、この轡儀って人は誰なの?」
春香「さっき言ってた黒井社長の側近の人だよ」
美希「ああ、春香が社長から名前だけは聞いてたっていう」
春香「そう。この人なら、黒井社長が持ってるのとほぼ同じ情報……つまりこの“765プロ潰し”計画に関するほぼ全ての情報を持ってると思ったからね。最初に操り、情報を送らせてから殺すにはうってつけだった」
美希「なるほどなの」
美希「あー。それでこういう書き方なんだ」
春香「もちろん、防犯上の理由から封は一回開けられるけど……この内容が書かれた手紙が同封されていれば、小鳥さんもあえて私より先にUSBメモリの中身を見るようなことはしない」
美希「すごいの春香。それでまんまと“765プロ潰し”計画の情報を手に入れたってわけだね」
春香「まあね」
美希「でもこれ、何で『23日間以内』なの?」
春香「ああ、デスノートで死の前の行動を操れるのはノートに名前を書いた日から23日間以内だけなんだよ」
美希「へー。そうなんだ。よく知ってるね」
春香「レムが知る限りのルールをほぼ全部教えてもらったからね。ノートを実際に使い始める前に」
美希「ふーん。レムは随分優しいんだね」
レム「私もある意味ハルカのファンだからね。ジェラスの件もあるし、できる限りの協力はしてやりたいと思っている」
美希「同じ死神なのに、基本的にミキのことほったらかしなリュークとはえらい違いなの」
リューク「ククッ。俺は別にミキの敵でも味方でもないからな」
春香「ん?」
美希「春香は、この黒井社長の側近の人の顔って知ってたの?」
春香「ううん、知らなかったよ。ホームページに写真が載ってたのは黒井社長だけだったしね」
美希「ってことは……」
春香「うん。だからこの人の顔は直接確認するしかなかった」
美希「直接って……961プロに行って、ってこと?」
春香「まあそういうことだね。要は張り込みですよ。張り込み」
美希「張り込みって、刑事ドラマとかでよく見る、あれ?」
春香「そう、あれ。オフの日や仕事の合間の空き時間とかを使って、961プロ本社の正面玄関が見える位置でひたすら張り込みしてたんだ。目当ての人物が現れるまでね」
美希「えっと……でも側近の人って、名前しか分からなかったんだよね? 春香は」
春香「うん」
美希「じゃあ実際にその人が現れても、その人がそうだって分からなかったんじゃない?」
春香「そこでこれですよ。これ」
(自分の目を指差す春香)
美希「目……あっ」
春香「そう。私は961プロへ張り込みをする前に、レムと目の取引をした」
美希「! ………」
美希「…………」
春香「そうして張り込みを始めてから……五日目くらいだったかな? ようやく、お目当ての名前を持つ人――つまり、黒井社長の側近――を見つけ、その人の顔を知ることができたってわけ」
美希「……なるほどね。でも春香、その為に残りの寿命の半分を……」
春香「まあね。でもこの人の為だけってわけじゃないよ。“765プロ潰し”計画に関与している人達の情報を得ても、その全員の顔まで分かるようになるとは限らなかったし」
春香「それにこの業界、皆が皆、本名で活動しているとも限らないしね。明らかな芸名を名乗ってる大手事務所の社長とかもいるし」
美希「それはまあ、そうかもしれないけど。でも……」
春香「あのね。美希」
美希「…………」
春香「確かに、名前が分かっている人の顔くらいなら、地道に調べていけばいつかは分かるかもしれない。あるいは芸名を使っている人の本名も」
春香「でも私には、その時間がもったいないの」
美希「……時間……」
美希「今しかできないこと?」
春香「うん。たとえば少しでも多くの時間、皆と一緒にレッスンしたい。もっと多くのお仕事をこなしたい。そうやって可能な限り、アイドルとしての実力を磨きたい」
美希「春香」
春香「私がデスノートを使ってしようと思ったのは、あくまでも私達に害をなす人達を排除することだけ」
春香「そしてそれもすべては、正真正銘、本当の実力のみで――……トップアイドルになって、皆と一緒のステージに立ちたいから」
美希「…………」
春香「でもその為には圧倒的に時間が足りない。私がアイドルでいられる時間なんて、きっともう後何年も無い」
春香「だから、今の私には無駄にしていい時間なんて無い。今アイドルとして活動できる一週間を得る為なら、私は将来の十年を捨ててもいい」
美希「! …………」
春香「トップアイドルになれないまま50年を生きるより、トップアイドルになって25年で死ぬ方が、私は良い」
春香「ジェラスもきっと、それを望んでいると思うから」
美希「…………」
春香「私はそういう気持ちと覚悟で……レムと目の取引をしたの」
美希「……春香……」
美希「…………」
春香「……そうやって私は、まず黒井社長の側近の人を操って殺し、“765プロ潰し”計画の情報を得ることに成功した」
春香「得た情報の内容としては、社長さん伝いに聞いていた善澤さんの予想と同じだった。首謀者は黒井社長で、その利権にあずかろうとしている他の複数のアイドル事務所がそれに協力して、私達765プロを組織ぐるみで潰そうとしていた」
春香「運動会以降、急増した私達の仕事先での不自然なトラブル……不意打ち的な予定のキャンセルやダブルブッキング等、全部彼らの差し金だった」
美希「…………」
春香「そして961プロが件の投資会社を通じてうちに出資していたのも……前のプロデューサーさんがスパイとしてうちに送り込まれていたのも、すべて黒井社長の指示によるものだった」
春香「さらに黒井社長は、前のプロデューサーさんにうちでの仕事をいい加減にこなすように命じ、うちを内部からも崩壊させようとしていた。スパイと察知されないためのカモフラージュも兼ねてね」
美希「じゃあ、やっぱりわざとだったんだ。前のプロデューサーのあのテキトーな仕事ぶりは……」
春香「うん。そういうことになるね。もっとも私達に対するセクハラに関しては私が入手した情報にも記載が無かったから、おそらく前のプロデューサーさんの独断によるものだったんだろうと思うけど……」
美希「なるほどね。でも黒井社長は一体何のためにそこまで……」
春香「その動機は、復讐。かつて自分と袂を分かった高木社長に、自分の考え、やり方の正当性を見せつけ、敗北感を味わわせるため。……まあ、これもほぼ社長さんが予想していた通りだったってことだね」
美希「そんなことのために……」
春香「そして前のプロデューサーさんがうちの情報を持ち出し、黒井社長ら、“765プロ潰し”計画のメンバーに渡していたことも事実だった。それが計画を実行していく上での基礎情報として用いられていたことも」
美希「じゃあ本当に……善澤さんが予想していた通りだったんだね」
春香「そういうことだね」
春香「……黒井社長は私達を一番苦しめてきた首謀者……いわば黒幕だからね。ただ殺すだけじゃ割に合わない。少なくとも私達765プロに十分な“償い”をしてもらってからじゃないと」
美希「“償い”……?」
春香「だからこそ、側近の人には“765プロ潰し”計画とは直接関係の無い『961プロダクションがこれまで行ってきた悪事』についての情報も送らせたわけだしね」
美希「? どういうことなの? 春香」
春香「まあ……そのへんについては後でまた詳しく話すよ」
美希「…………」
春香「ともあれそういう経緯で、私は“765プロ潰し”計画に関するほとんど全ての情報を得ることができ、どこの事務所の誰が計画に関与しているのかもほぼ完全に把握することができた」
春香「その中には顔のデータがある人もいれば無い人もいたけど……少なくとも計画の主要人物は皆、大手アイドル事務所の社長や会長ばかりで、何らかのメディアに顔が出てる人ばかりだった。だから、最初の時のように張り込みをする必要は無かった」
美希「そうなんだ」
春香「ただ、顔は分かっても芸名を使ってる人は何人かいたからね。やっぱり死神の目は持ってて正解だったよ」
美希「…………」
春香「そうして顔と名前が分かった計画の主要人物を……私は次々と事故死や自殺で消していった。その数は、最初の側近の人も含めると実に三か月で八人にも上った」
美希「……主要人物だけ? 関与した人全員じゃないんだ?」
春香「まあ別にそうしてもよかったんだけど、明らかに雑魚っぽい人を殺しても意味無いしね。それにあんまり多く殺して足がついても面倒だったし」
美希(春香が氷のような目をしているの)
春香「何か言った? 美希」
美希「ううん。なんでもないの。って……ん?」
春香「? 何?」
春香「…………」
美希「あっ! じゃああれ、もしかして春香がやってたってことなの? アイドル事務所のお偉いさん達がばたばた死んじゃったっていう……」
春香「そうだよ! っていうか美希、気付くの遅いよ!」
美希「ご、ごめんなさいなの。そっか、そうだったんだ……」
春香「いやいや、もうとっくに気付いてるもんだと思ってたよ……ここまでの話の流れからして」
美希「あはは……。あっ、ってことはヨシダプロの社長さんも?」
春香「? ヨシダプロ?」
美希「ほら、ヨシダプロダクション。ミキが最近、そこの所属アイドルの弥海砂ちゃんって子と○×ピザのCMでコラボ出演した……」
春香「ああ、あそこね。うん、確かにあそこの社長も私が消したよ」
美希「……そうだったんだ」
春香「元々、ヨシダプロと961プロは密接な提携関係にあったみたいだね。よく同じ芸能企画のスポンサーになったりしてたみたい」
美希「そうなんだ。あっ、そうか。それで……」
春香「? 何?」
美希「えっと、うちの今のプロデューサー、海砂ちゃんのマネージャーと昔から知り合いだったみたいなの」
春香「そうなの?」
美希「うん。961プロに居た頃から、よくお互いに仕事先を紹介しあったりしてたって言ってた」
春香「ああ、なるほどね。まあ提携関係にある会社同士だから、社員間でも交流はあったんだろうね。もっとも、トップ同士の裏のつながりについては末端の社員は知らなかっただろうけど」
美希「? 裏のつながりって?」
春香「簡単に言うと、裏でグルになって弱小事務所をいじめたりとか、色々やってたみたい。たとえばさっき言った芸能企画のスポンサーの件でも、弱小事務所はスポンサーにさせないようにしたりとかね」
美希「……それって、黒井社長の側近の人に送らせたっていう『これまで961プロがしてきた悪事』の情報の一部?」
春香「そういうこと。まあでも、その海砂さんのマネージャーさんの事はよく知らないけど……少なくとも、うちの今のプロデューサーさんは信頼できると思うよ。側近の人に送らせた情報の中にも名前出てこなかったしね」
美希「そうなんだ。確かに今のところかなり良い人っぽい感じなの」
春香「だって同じ業界の人が急に何人も心臓麻痺で死んだりしたら怪しまれるでしょ。流石に」
美希「あー。まあ確かにそれはそうかもなの」
春香「ただ三か月で八人ってのはちょっと急ぎ過ぎだったかもね。結局『アイドル事務所関係者が短期間に相次いで死亡』って感じでニュースになっちゃったし」
美希「でも流石に誰も、あれが実は殺人事件だったなんて思ってなかったの」
春香「まあね。当時はまだキラもいなかったしね」
美希「! …………」
春香「……それから、前のプロデューサーさんの事だけど」
美希「…………」
春香「私は正直、前のプロデューサーさんを殺すかどうかは最後まで迷ってた。黒井社長が送り込んだスパイだし、セクハラの事もあったから……本心では一刻も早く殺してやりたかったけど」
春香「でも現実問題として、彼の父親の会社を通じて黒井社長がうちの事務所に出資をしている、という事実があったから」
美希「あー……確かに」
春香「もし彼が死ねば、黒井社長がうちに対する出資を続ける意味は無くなる。その出資は、私達に彼の振る舞いに口出しさせないようにするための、いわば口止め料としての意味しかなかったからね」
春香「そして少なくとも私がノートを手に入れた頃……つまり、ファーストライブが終わった直後の頃のうちの事務所は、まだその資金に頼らざるを得ない状況だった」
春香「でもそれから三か月……私が“765プロ潰し”計画の主要人物のほとんどを殺害したこともあってか、私達に対する妨害工作はほぼ無くなった」
春香「そう。要するに外圧は収まり、また以前のような事務所内部の問題だけが残った」
春香「そしてライブで勢いをつけた私達は、妨害が無くなったこともあり一気に人気が上昇した」
美希「うん。ファーストライブの後は本当に世界が変わったみたいだったの。次から次へと新しいお仕事が舞い込んできて……」
春香「そうだね。だから私も思った。『もうそろそろ、プロデューサーさんを殺してもいいんじゃないか?』って」
美希「! …………」
春香「仮にこの人が死んで、うちの事務所に対する例の出資が無くなっても……もう、うちの事務所は十分やっていけるんじゃないか。ファーストライブの前に社長さんが言ってた、『黒井側の出資がなくなっても持ちこたえられるよう、力をつけられるようにすればいい』という言葉は、もう現実のものになっているんじゃないか、って」
美希「…………」
春香「ただそうは言っても、ファーストライブが終わってからまだ三か月ほどしか経過していない。もう少し様子を見てからでも―――そんな事を考えていた矢先だった。突然、前のプロデューサーさんが心臓麻痺で死んだ」
美希「…………」
春香「美希が、殺した」
美希「! …………」
春香「念の為、もう一度だけ確認するけど……それで間違い無いんだよね? 美希」
美希「……うん」
春香「そしてそのすぐ後に現れた“キラ”」
美希「…………」
春香「やっぱりこれも……美希なんだよね?」
美希「…………」
春香「…………」
美希「……うん」
春香「…………」
美希「…………」
春香「でも、美希の口から直接聞けてスッキリしたよ。正直、まだ100%の確信までは無かったからね」
美希「? そうなの?」
春香「うん。動機から考えても、前のプロデューサーさんを殺したのは美希で間違い無いと思ってた。でも実はキラの方はそこまでの確信は無かったんだ」
美希「…………」
春香「なんというか、犯罪者を次々と裁く“キラ”のイメージと、いつものゆるゆるっとした“美希”のイメージが、どうしても上手く結びつかなくて」
美希「あー……それはまあそうかもなの」
春香「美希はキラなのか? それとも違うのか? この二か月間、私はずっとそれを考えてた」
美希「…………」
春香「あと、美希が目を持っているのかどうかも気になってた。もし持ってるなら当然私の事も気付いているはず。でも美希は何も言ってこない……」
美希「ミキは目の取引もしてないし、デスノートの所有者の見分け方も、さっき春香に教えてもらうまで知らなかったの。だからまさか、春香もデスノートを持ってたなんて夢にも思わなかった」
春香「そうなんだよね。おかげで私は独り相撲だったよ。美希がキラかどうか確かめようと思って、色々カマ掛けたりもしてたのに」
美希「えっ。そうだったの?」
春香「ほら。美希が犯罪者裁きを始めてからすぐの頃、皆で事務所から帰ってる時にさ」
美希「……あっ」
――えっと、そういえば……プロデューサーさんの死因も『心臓麻痺』だった……よね。
――もしかして、プロデューサーさんも、キラに……。
――ま、それもそうか。それにもし仮にそうだとしたら、私達の中にキラがいるってことになっちゃうもんね。
美希「……本当なの。ミキ、全然気づかなかったの」
春香「あはは……まあ、それだけ信頼されてたってことかな」
美希「えっと、ミキ達に害をなす人でまだ殺してないのって……黒井社長? あ、でもさっき“償い”がどうこうって……」
春香「そう。いずれにせよ、黒井社長には私達への“償い”をしてもらうつもりでいたから、このタイミングで美希が前のプロデューサーさんを殺してくれたのは私にとってはむしろ好都合だった」
美希「? 好都合?」
春香「うん。まあもっともその後、美希が犯罪者裁きまで始めたのは完全に予想外だったけどね」
美希「…………」
春香「でもそれも大した問題じゃなかった。それにそのときはまだ美希が犯罪者裁きをしているっていう確証も無かったしね」
春香「とにかく、美希にせよ他の誰かにせよ、犯罪者裁きが始まったのなら、それも当初の計画に組み込んでしまえばいいだけ……私はそう考えて、美希による犯罪者裁きが始まってから数日後、黒井社長宛てに一通の手紙を送った」
美希「手紙?」
春香「そう。今度は難しい工作は必要無い。指紋とかが付かないようにだけ注意して、後は普通に961プロダクション代表取締役社長・黒井崇男宛てに匿名で送るだけ」
春香「ただその手紙の内容は、黒井社長にとっては絶対に無視できないものだけどね」
美希「? どういうことなの?」
春香「黒井社長の側近の人をデスノートで操って得た『961プロがこれまで行ってきた悪事』に関する情報……私はそのうちのいくつかを手紙に書いて、黒井社長を脅迫した」
美希「あー。それでその情報を送らせてたの」
美希「それで『これらの事をばらされたくなければ言うことを聞け』って言ったんだね」
春香「うん。そしてこうも言った。『これまで複数のアイドル事務所関係者を事故死や自殺などに見せかけて殺してきたのは私です。今は犯罪者達を裁いています』ってね」
美希「ああ、組み込むってそういう……」
春香「そ。美希には悪いけど、勝手に使わせてもらっちゃった。もっとも、そのときはまだ裁きが始まってすぐの頃だったから、“キラ”っていう名前は浸透してなかったけどね」
春香「それから手紙には続けてこう書いた。『私は離れている人の心を読むことができるしその人を自由な手段で殺すこともできます。ゆえにあなたの考えていること、これまで行ってきた悪事については全て分かっています。死にたくなければ、また過去の悪事をばらされたくなければ私の言うことに従って下さい』ってね」
美希「あはっ。春香ったら嘘八百なの」
春香「まあね。でもこれくらい書いてもばれっこないし、本当に殺されるかは別にしても、どのみちばらされたくない秘密がある以上黒井社長は従うしかない」
美希「確かにね」
春香「まあでも結果的には美希がやってくれてた犯罪者裁きにかなり助けられたかもね。私がやってたアイドル事務所関係者殺しの方だけだと、偶然性を完全には否定しきれず、脅迫材料としては少し弱いかな、って思ってたから。実際、世間的には偶然に見せかけるために死因を事故死や自殺にしてたわけだしね」
春香「そういう意味で、『今現在、犯罪者だけが次々と心臓麻痺で死んでいっている』という事実は、黒井社長をして私が手紙に書いた指示内容に従わせるのに十分だった」
美希(春香がまた悪い顔になってるの)
春香「えっと、まず『あなたの弱者をいたぶる姿勢は正義として見過ごせません。今後はあなたの命を賭して、これまであなたが踏み付けてきた弱者に贖罪をしなさい』と」
美希「へえ」
春香「それから『まず手始めに、あなたが長年痛めつけてきた765プロダクションに対し、今あなたの下で働いている○○というプロデューサーを移籍させなさい』って」
美希「えっ! それって……」
春香「うん。そういうこと」
美希「春香が……移籍させたんだ。今のプロデューサーを、961プロから。……でも、何で?」
春香「今のプロデューサーさんとは、前に一度、歌番組の収録でジュピターと共演した時に会ったことがあってね。現場での対応力を見る限り有能そうだったし、当時彼が担当していたジュピターの人気ぶりをみるに、その実力も申し分無いだろうと思って」
美希「そうだったんだ」
春香「それにさっきも少し言ったけど、今のプロデューサーさんは961プロが行ってきた過去の悪事にも絡んでいないようだったしね」
美希「でも、春香。流石にそれってちょっとあからさま過ぎない? 黒井社長に『765プロの中にキラがいます』って言ってるようなものなの」
春香「別にそう思われてもいいんだよ。いずれにせよ黒井社長は手紙の内容は絶対に口外できないし、もし少しでも不審な動きを見せたらデスノートで殺せばいいだけ」
美希「…………」
春香「いい? 美希。私達が捕まる証拠があるとしたらこの『デスノート』しか無いんだよ。これを直接押さえられでもしない限り、絶対に捕まりっこないんだから」
美希「それはまあ、そうだけど……」
リューク「ククッ。どっかで聞いたことのあるセリフだな。ミキ」
美希「…………」
美希「それだけ? もっと具体的に指示しなかったの?」
春香「うん。そこはもう黒井社長の判断に任せた方がいいかなって」
美希「でもプロデューサーの方はともかく、うちの社長は絶対警戒すると思うんだけど……前のプロデューサー自体、黒井社長が送り込んだスパイだったわけだし」
春香「まあね。でも元々、黒井社長は高木社長とは旧知の仲だったから、どういう言い方をすれば自然に受け取られるかも熟知しているだろうし、何より黒井社長は自分の命と会社の社会的信用がかかっているからね。まず下手を打つようなことはしないだろうと思ってた」
美希「なるほど。じゃあ結果的には上手くいったってこと?」
春香「うん。今のプロデューサーさんがうちに来てから、あくまでも元々一連の事情を知っていた立場として、社長さんに話を聞いたんだけど……黒井社長は、“765プロ潰し”計画に関与していたアイドル事務所の関係者達と、うちの前のプロデューサーさんが相次いで死んでいったのを見て、『765プロを潰そうとしていたから天罰が下った』と思ったんだってさ」
美希「へぇ。一応それっぽい理由なの」
春香「でしょ? それで、黒井社長はこれまでの経緯も全て認め、謝罪し、そのお詫びとしてプロデューサーさんをうちに移籍させることを申し出たってさ。さらにこれまで例の投資会社を通じて行っていた出資も継続するし、これまでの妨害工作でうちに発生した損害も全部補填するとまで言ったらしいよ」
美希「へー。そこまで言ったんだ」
美希「ああ、確かにそんなこと言ってたね。今のプロデューサーがうちに来た日に。でも実際のところ、この件はそれでもうおさまったの?」
春香「うん。黒井社長がそこまで言えば、後は我らが高木社長だからね。全てを信じて、水に流すことにしたってさ」
美希「そっか。実に社長らしいの」
春香「まあ実際、アイドル事務所関係者がもう九人も死んでる上、犯罪者裁きまで始まってたからね。黒井社長の立場上、『次は自分の番だ』と思ってもおかしくないし、その黒井社長の言葉を社長さんが信じても不自然じゃないよ」
美希「確かにね。で、他には何か指示したの? 黒井社長に」
春香「他には……そうだ。『自分の息のかかった事務所にも、これまでのように弱者をいたぶるような真似はさせず、自由で公平な競争をさせるように』みたいなことも書いたね。要は961プロと裏でつながってる事務所にも、弱小事務所いじめをさせるなってことだけど」
美希「あー……それは、ミキが海砂ちゃんと例のCMにコラボ出演できたことに関係ありそうな気がするの」
春香「? どういうこと?」
美希「えっと、今のプロデューサーがね。そのCMのコラボ出演の件、うちの方からヨシダプロにお願いしたって言ってたの。でも元々、ヨシダプロの社長さんが黒井社長と裏でつながってたのなら……」
春香「ああ、そうだね。確かに、以前ならそういう話も黒井社長の指示で確実に断られていたと思う」
美希「ってことは……ミキが海砂ちゃんと共演できたのは春香のおかげだったんだね。どうもありがとうなの」ペコリ
春香「あはは……どういたしまして」
美希「なるほど。それでずっと殺さずにおいてるんだね」
春香「うん。“償い”はまだ終わってないからね。まあ、終わりがあるのかどうかも分からないけど」
美希「…………」
春香「でも、いくら脅迫したりするにしても、黒井社長がやってたみたいに、他のアイドル事務所を実力以外の力で蹴落とすような真似だけは絶対にしないよ。それをしたら黒井社長と同じになっちゃうし」
美希「うん。そうだね」
春香「ただ961プロ時代にプロデューサーさんが担当していたジュピターに対してだけは、ちょっと悪いことしちゃったかなって思わないでもないけど……まあでも961プロの資金力なら、すぐに有能な人を雇えると思うし。実際、人気も落ちてないしね」
美希「むしろ前より人気出てるような気もするの」
春香「ともあれ、そんな感じでようやく、私も美希のことは気になりつつも、“765プロ潰し”の危機が事実上去ったことから、とりあえずはまたアイドルの本業に集中しようと思い始めた。そんな矢先だった」
春香「今から一週間前……突然、二人組の刑事さんがキラ事件の捜査でうちの事務所に来た」
美希「! …………」
春香「警察手帳を出されたとき、目を持つ私にはすぐにそれが偽名だと分かった」
美希「えっ! あれ偽名だったんだ。二人とも?」
春香「うん。流石にちょっと考えたよ。こんな物まで用意してるってことは、警察は既にキラの殺しの条件がある程度分かってるんじゃないかって」
美希「…………」
春香「それに何より、警察がうちの事務所に来た……この事実は大きい。確かに前のプロデューサーさんの死因と死亡時期を考えたら、たとえ一応でも確認しようとするのは分かるけど」
美希「…………」
美希「! …………」
春香「そして実際、先に聞き取りを終えた美希の顔を見てほぼ確信したよ。『ああ、やっぱり美希がキラだったんだ』って。美希は一見、平静を装っているように見えたけど、明らかに普通の様子じゃなかったからね」
美希「…………」
春香「まあ、それでも美希自身の口から聞いていない以上、99%ってとこだったけどね。そして残りの1%が今日やっと埋まったって感じ」
美希「じゃあ、それがさっきの……」
春香「うん。そういうこと。で、その後に自分の聞き取りがあったんだけど、正直もう美希のことが気になって気になって仕方なかったよ。とにかく怪しまれないようにすることだけを考えて、無難に答えて終わったけど」
美希「…………」
春香「それで、その日の帰りになっても美希の様子がおかしいままだったから、もういっそ何もかも全部話そうか、って思ってご飯に誘ってみたんだけど、あっさり断られちゃって」
美希「あー……うん。ごめんなさいなの。あの日はもうそれどころじゃなくて……」
春香「ううん、いいの。気にしないで。でもそれからというもの、美希は日に日に憔悴していっているように見えた。私はもう、いつ言おうか、いつ言おうかということばかり考えていたんだけど、いざ言おうとするとなかなかタイミングが無くて」
春香「でも、昨日。いよいよ思い詰めたような表情を浮かべていた美希を見て、『もう四の五の言っていられない。美希がキラであろうとそうでなかろうと、自分の秘密を全部話して、美希の話も全部聞こう。そのうえで、私にできることがあれば何が何でも協力しよう』……そう思った」
美希「……春香……」
春香「それで今日、自分のノートを持参して美希に話しかけ、今に至る……ってわけ」
美希「そうだったんだ。……でも、春香」
春香「ん?」
春香「なんで、って?」
美希「さっき春香も言っていたように、デスノートによる殺人は、ノートそれ自体を押さえられない限り証拠は出ない」
春香「うん」
美希「でももし、デスノートを持っていることを他の人に知られてしまったら、当然、知られた方は不利になる」
春香「…………」
美希「つまり、今日ミキにデスノートの所有者であることを話してしまったことで、春香は……」
春香「……バカだなあ、美希は」
美希「えっ?」
春香「そんなこと、いちいち考えてるわけないじゃん。それに私は、美希も既に目を持ってて、とっくに私がノートを持ってる事に気付いてるっていう可能性も考えていたわけだし」
美希「…………」
春香「まあでも、そんな理屈じゃなくて……私が美希の力になろうと思った理由は、ただ一つ」
美希「…………」
春香「仲間だから、だよ」
美希「……仲間……」
春香「ずっと前から言ってるでしょ? 私達765プロはずっと仲間だって。それはノートを持っていようが持っていまいが一緒だよ」
美希「春香」
春香「それに私の目指す先は、あくまでも『765プロの皆と一緒に』トップアイドルになることなんだから。もし誰か一人でも欠けてしまったら……そこには絶対たどり着けない。それは美希も同じなんだよ」
美希「! …………」
春香「だから……美希」
美希「…………」
春香「私は、もし美希が困っていたら必ず助ける。そしてもし美希が誰かに捕まえられそうになっていたら全力で阻止する。たとえこのデスノートを使ってでも……ね」
美希「……春香……」
美希「デスノート」【その2】
元スレ
美希「デスノート」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1436630369/
美希「デスノート」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1436630369/
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- P「アイドル枕投げ大会への出演が決まったぞ!」
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