就活生「暗くて靴が分からねえ!」成金「どうだ、明るくなったろう」
- 2016年10月06日 00:40
- SS、神話・民話・不思議な話
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<公園>
就活生「はぁ~……また落ちた。祈られた」
就活生(友達はみんな内定取ってるってのに、どうして俺だけ……)
就活生(俺って、社会から必要とされてないのかな……)
就活生「あ~……くそっ!!!」ブンッ
スポーンッ!
就活生(やべっ、靴がすっぽ抜けて、どっか飛んでっちゃった!)
就活生「暗くて靴がどこに飛んでったのか分からねえ!」キョロキョロ
就活生「革靴あれ一足しか持ってないのに……!」
シュボッ…
就活生「な、なんだ!? この炎は!?」
成金「どうだ、明るくなったろう」メラメラ…
就活生(このおっさん……俺のためにお金を燃やして……!)
就活生(しかも100円札っ……! いつの時代の紙幣だよ……!?)
成金「なんのなんの」
成金「ところで、ずいぶん暗い顔をしているね。どうしたんだい?」
就活生「……実は、俺は大学4年生なんですけど、まだ就職先が決まってなくて……」
成金「ふうむ……」
成金「ま、決まらないのも、当然だろうねえ」
就活生「……な!」カチン
成金「君は自分の顔を鏡で見たことがあるのかい?」
就活生「当たり前だろうが!」
成金「ということは、君は人を見る目どころか、自分を見る目すらないんだね」
成金「そんな暗い顔をしてちゃ、受かるもんも受からんよ」
成金「もし君みたいな青年が入社したら、会社全体が暗くなるだろう」
就活生「なんだとぉ~!?」
成金「ほいっ」シュッ
ビタンッ!
就活生「あうっ!」
就活生(ううう……100円札でビンタされた……)
成金「どうだ、痛かっただろう」
就活生「はい……」
就活生「俺はダメな奴ですね、ホント……」
成金「ようやく少し冷静になったようだね」
就活生「すみませんでした……。いっそ俺なんか警察に突き出して下さい……」
成金「そんなことするつもりはないよ」
成金「そうだ、こうして出会ったのもなにかの縁」
成金「どうだ、君の就職活動を手伝ってやろう」
就活生「ええっ!?」
成金「このリクルートスーツ、ずいぶん古いねえ」
成金「それに靴がすっぽ抜けたということは、サイズも合ってないだろう?」
就活生「ええ、兄貴のお下がりなもので」
成金「しかも、ヨレヨレだ。ちゃんとクリーニングに出しているのかい?」
就活生「いえ……ほぼ毎日のように色んな会社を受けてるので、出す余裕がなくて……」
就活生「かなり遠くの企業まで行く時もあるので、交通費もバカにならないですし……」
成金「まさに悪循環というやつだね」
成金「よろしい、まずは君のスーツを新調してやろう」
成金「どうだ、かっこよくなったろう」
就活生「おお……本当にこれは俺なのか、ってぐらいよくなりました!」ビシッ
就活生「でも……俺、こんないいスーツ買えませんよ」
成金「もちろん、私のおごりだろう」
就活生「え!?」
就活生「見ず知らずの人に、こんないいスーツ買ってもらうなんて……!」
成金「大丈夫さ。私はいっぱいお金を持ってるからね」
成金「ほら、釣りはいらないだろう」サッ
店長「こ、これは……100円札! 珍しい! やったぜ!」
就活生(古いお金のマニアなのかな、この人)
成金「気にしないでいいよ。それより……」
成金「いくら見た目がよくなったって、書類選考で落ちればなんの意味もないだろう」
就活生「それは……たしかにそうですね。その通りです」
就活生「俺、履歴書はいっぱい送ってるんですけど、なかなか通らないんですよね」
成金「ふうむ……今、履歴書は持ってるかい?」
就活生「ありますけど……」
成金「どうだ、添削してやろう」
就活生「いかがです? 俺の履歴書は」
成金「…………」シュボッ メラメラ…
就活生「ひ、ひどい! ろくに読みもせず燃やすなんて!」
成金「どうだ、明るくなったろう」
就活生「うっ……!」
就活生「最初の頃は丁寧に書いてたんですけど、就活が長期化していくうちに」
就活生「どうしてもサササッと書くようになってしまって……」
就活生「そうしてるうちに、指はどんどん痛くなるので、ますます字が汚く……」
成金「殴り書きされた履歴書じゃ、やはり採用する側はいい気分はせんよ」
成金「字だけで粗雑な人なんだな、という印象を与えてしまう。自分で自分の首を絞めてしまっている」
就活生「まったくもってその通りです……」
就活生「これは……!? 高そうですね」
成金「この万年筆はどんな人の手にもフィットする作りで、いくら書いても疲れない。インクもすぐ乾く」
成金「これなら履歴書を丁寧な字で書けるはずだ。試してみたまえ」
就活生「分かりました……やってみます!」
成金「あっちにちょうどいい喫茶店があるだろう」
就活生「…………」スラスラ
就活生「おおっ、すごい! 全然手が疲れない!」スラスラ
成金「どうだ、スラスラ書けるだろう」
成金「あとは新しいスーツを着た君の写真を貼り付ければ……」
就活生「す、すごい! “履歴書の見本”に採用されそうなほど立派な履歴書に仕上がった!」
成金「これなら、少なくとも書類で落ちることはないだろう」
就活生「おっしゃる通りです」
就活生「これまで100社以上は受けてますが、面接を一回でも通ったことのある企業は」
就活生「両手の指で数えられるほどしかないんです……」
成金「よろしい。ならば模擬面接してやろう」
就活生「お願いします!」
就活生「は、はいっ!」
就活生「私は潤滑油のような人間で、アルバイト先のコンビニでも……」
成金「…………」シュボッ…
就活生「あちちちちっ!? なにするんです!?」
成金「おかしいな。潤滑油なのになぜか燃えない」
就活生「そりゃそうですよ! たとえ話なんですから!」
就活生「!」ギクッ
成金「やはり……本かなにかの受け売りのようだね」
成金「自分のことをPRするのに、自分の言葉を使わないでどうするんだい?」
就活生「でも……」
成金「でも?」
就活生「俺ってはっきりいって、アピールできることなんてなにもないんですよ」
就活生「人の上に立つとか、何かを成し遂げるとか、誇れるような経験がまるでないんです」
就活生「だから……本とか就活サイトとか、そういうのにすがるしかないんです……」
成金「アピールできることはなにもないのかい?」
就活生「……なにも思いつきませんね」
成金「ほう、コンビニのアルバイトというのはよほど楽なんだね」
成金「ずっとボケーっとしていれば、給料をもらえるような仕事なのか」
就活生「そんなことありませんよ! 仕事は多いですし、多少のドラマはあります!」
就活生「店長とケンカしたり、変な客にいじめられたり、レジ打ちミスったり……」
就活生「あと、常連の人に君の接客は丁寧だね、っていわれた時は嬉しかったり……」
成金「そう、それだよ!」
成金「それを分析していけば、アピールできる点なんていくらでも出てくるはずなんだ」
成金「せっかくの自分の経験を、潤滑油などというよく分からない言葉で濁してしまったらもったいない」
成金「自分の人生を自分でよく噛み砕いて、それを自分の言葉で表現する……」
成金「それが自己分析というものなのだよ」
就活生「は……はいっ!」
就活生「ええ、近くの山や川なんかに遊びに行くサークルです」
就活生「本格的に冒険するようなサークルなら、アピールもできたんでしょうけど」
就活生「俺らがやってたのは、しょせん遊びみたいなもんですから……」
成金「そんなことはないだろう」
就活生「まあ……そりゃそうですね。ノープランで行くと、大抵ろくなことになりません」
成金「それに、山や川の景色を見て、なにか感じることはなかったのかい?」
就活生「そりゃもちろん、キレイな景色だな、ぐらいのことは感じますけど」
成金「それでいいんだよ。少なくとも君は自然を見て、感動できる人間だということだ」
就活生「ハハ、大げさな……」
就活生「!」ビクッ
成金「さっきから聞いていると、どうも君は卑屈になっているね」
成金「100の能力の人間が200の自信を持つことはたしかに健全ではない」
成金「だが、100の能力の人間が50の自信しか持っていないのはこれまた健全ではない」
成金「君はまさに後者だ」
成金「君が自分の能力に匹敵する自信を持てば、君を欲しがる企業は必ず現れる!」
成金「もっと自信を持ちたまえ!」
就活生「うっ……」ウルッ…
就活生(他人からここまで励まされたのは、生まれて初めてだ……)
就活生「あなたと話してると、どんどん心が明るくなるっていうか……」
成金「どうだ、明るくなったろう」
成金「それに……いきなり紙幣を燃やして現れた怪しい親父とこれだけ長時間話してるだけでも」
成金「君は大したもんだよ。普通の人だったら、とっくに逃げているだろう」
就活生「……たしかに!」
成金「…………」シュボッ
就活生「火を近づけないで下さいっ!」
就活生「今日は本当にありがとうございました」
成金「こちらこそ、なかなか楽しかったよ」
就活生「あなたのおかげで、これからは明るい表情で就職活動を続けられそうです!」
就活生「もしダメだったとしても、絶対明るく生きてみせます!」
成金「うむうむ」
就活生「あのビル……あの名前は……見たことがある!」
就活生「今、業績を順調に伸ばしてる新進気鋭の会社じゃないですか!」
就活生「給料はいいし、福利厚生もしっかりしていて、受ける学生は多いとか」
就活生「いくら明るくなったとはいえ、俺なんかが受かるとは思えませんけど……」
成金「俺なんか、は禁句だよ」
就活生「あっ……」
成金「ま、物は試しというやつだよ。“あんな会社なんか”って気持ちで受けてみるといい」
就活生「それもそうですね、応募してみます!」
<会社>
面接官A「採用面接を始めます」
就活生「よろしくお願いします」
面接官A「まずは自己PRをお願いします」
就活生「はい、私はコンビニエンスストアでアルバイトをしており……」
就活生「常連の方に褒めていただいた時は……」
面接官A(ふむ……いってることは平凡だが、自信に満ちていて聞いていて心地いいな)
面接官B「この時期まで内定もらえてないって、はっきりいって君の能力を疑わざるをえないんだけど」
面接官B「それについてはどう思ってる?」
就活生「はい、私は何社も会社を落ちたことで、自信を失っておりました」
就活生「ですが、そんな時、不思議な中年男性が私の前に現れまして……」
面接官B(こいつ……傷をえぐったつもりが、むしろ表情が明るくなりやがった!)
面接官B(普通、あんな質問されたら、少しぐらい動揺するはずなのに!)
就活生「どうです、明るくなったでしょう」ニヤ…
面接官B「はうあっ!」
面接官B(この私が……圧迫されているだとォ!?)
<就活生の自宅>
就活生「お、メールが来てる。どれどれ……?」
就活生「うおおおおおおお! マジかよ!」
就活生「まさか、この会社の最終面接まで残れるとは思わなかった!」
就活生「これもあの人のおかげかもなぁ……」
就活生「よぉーし、ここまできたら全力出し切るだけだ! 明るく、自信を持って!」
<会社>
就活生(社長室で一対一の面接か……緊張するな……)ゴクッ…
就活生「…………」コンコン
「どうぞ」
就活生「失礼いたします」ガチャ…
就活生「!」
就活生「あ、あなたは……!」
就活生「どうして……!? まさか、あなたがここの社長だったなんて……!」
就活生「ってことは、俺が最終面接まで残れたのも……」
成金「いや、それは違うよ」
成金「私が君にここを受けるようにいったのは、君が欲しかったからではないし」
成金「私は人事部の人間に君を贔屓しろとは一切頼んでいない」
成金「ここまでたどり着けたのは、紛れもなく君の実力だよ」
就活生「は、はい……! ありがとうございます!」
成金「だが、油断はしないように。君の採用が決まったわけじゃないからね」
成金「私は個人的には君を気に入っているが、それとこれとは全く別問題だ」
就活生「もちろんです……!」
成金「いい答えを期待しているよ」
就活生「…………」ゴクッ
就活生「それはもちろん……」
就活生「この会社を、もっと明るくしてみせます!」
成金「……採用だろう!」
― おわり ―
元スレ
就活生「暗くて靴が分からねえ!」成金「どうだ、明るくなったろう」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1475670264/
就活生「暗くて靴が分からねえ!」成金「どうだ、明るくなったろう」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1475670264/
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- 男「好きだ!!」 女「そうか!」
- モバP「俺がJK大好きの変態野郎だと? ふざけるな―――ッ!!」
コメント一覧 (27)
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- 2016年10月06日 00:50
- こんな成金になりたい....
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- 2016年10月06日 01:03
- 意外と良かった(小並感
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- 2016年10月06日 01:06
- これは成金に見せかけた紳士
-
- 2016年10月06日 01:10
- どうだ、いい話になったろう
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- 2016年10月06日 01:16
- どうだ、コメ欄も明るくなったろう(願望)
-
- 2016年10月06日 01:38
- どうだ、俺に金をあげたくなっただろう(威圧)
-
- 2016年10月06日 02:00
- どうだ、就職先は決まったか?
俺は決まってない
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- 2016年10月06日 02:48
- ※6
⊃五円
-
- 2016年10月06日 03:11
- どうだ、悲しくなっただろう(現実)
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- 2016年10月06日 03:19
- どうだ、日本の未来が明るくなったろう
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- 2016年10月06日 04:30
- どうだ、自分の人生も明るくしたくなっただろう?
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- 2016年10月06日 06:55
- どうだ、おじさんに話しかけたくなっただろう?
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- 2016年10月06日 07:00
- どうだ、面白かったぞ(意味不明)
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- 2016年10月06日 07:07
- どうだ、素敵な気持ちになれただろう
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- 2016年10月06日 07:30
- 教科書で見るあの絵からここまで話を明るく広げられる作者は、天才だろう
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- 2016年10月06日 14:03
-
最終で成金じいさんに落とされるなんて展開じゃなくてほんとよかった…
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- 2016年10月06日 15:40
- 優しい世界
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- 2016年10月06日 15:44
- 今日最終面接行ってきた。
この主人公みたいに受かってたら良いな
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- 2016年10月06日 15:46
- 万年筆のペン先は柔らかく使い手の癖に合わせて形が変わるようになってて使えば使う程手になじむようになる。逆に言えば他人が使うと普段とは違う癖が付いて使いにくくなるから万年筆の貸し借りは御法度
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- 2016年10月06日 15:47
- なお、この絵のモデルになった山本唯三郎さんは…
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- 2016年10月06日 17:26
- とにかく明るい安村オチかと
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- 2016年10月06日 17:54
- 100円札でスーツを買った訳だけど100円札って今はどれ位の価値なんだ?
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- 2016年10月06日 18:35
- 昭和40年の5億は現在の資産価値に換算して50億である
つまり1000円以上か…?
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- 2016年10月06日 19:54
- ※22
お金として使うんなら100円の価値しかないよ。
マニアに売りつけるって意味なら貨幣は製造年やロットで価値が変わるからわからん
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- 2016年10月06日 23:54
- 少なくとも履歴書の書き方と面接の受け方は参考になったんじゃないかな?
後は身なりに気を付けろって事だね
-
- 2016年10月07日 18:51
- loは燃えない
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- 2017年01月31日 04:21
- すげー話広げてきたな。才能あるね