マチ「ハイティーンガール・エモーション」【ハナヤマタ】
私、常盤真智はこの春に高校生となった
……とは言え、私が通うのは由比浜学園高校 中高一貫校の所謂持ち上がり式の進学である
校舎の場所もたいして変わらずクラスの面々も見慣れた顔ばかり
そして私の後ろにはこれまた変わらない顔
タミ「また一緒のクラスになれたね、マチちゃん」
彼女の姿があった
タミ「えー? でも『と』と『に』って結構近いよ?」
マチ「そうでも無いわよ、『中田』さんとか『西澤』さんとか居たら私たちの間に入るわ」
タミ「そっか! それならこの席順になったのもわたし達の運命だね!」
マチ「そうかもね」
タミ「うぅ~ マチちゃん冷たい~」
いつも通りのタミとの軽口、私がこんなにリラックスして話せるのも多分タミだけ
こんな居心地の良い関係、ずっと続けばいいな
私はそんなことを思いながらタミのとりとめの無い話を聞く
マチ「高校生になってもって…… 前に会った時からたいして時間経って無いじゃない」
タミ「そうだけど~…… 『華のJK』だよ? 人生で一度きりだよ?」
マチ「『華のJK』って具体的に何するのよ、あとその言葉古い」
タミ「具体的には…… 高校デビューとかちょっと憧れたりしない?」
マチ「高校デビューって…… 顔見知りばっかりのこの状況でそんなことしたら間違いなく笑われるわよ」
タミ「う~ん…… マチちゃんと同じ茶髪とか憧れるんだけどなー」
マチ「止めて、タミには今の黒髪が一番似合うわ 間違いなく」
タミ「え~?」
タミ「そ、そうだね……」
タミ「それじゃあさ、マチちゃんが高校デビューするのはどう?」
マチ「私が?」
タミ「そう、マチちゃんせっかく茶髪なんだし今までの怒りっぽいキャラをやめて、これからはギャルっぽくキャピキャピした話しやすい女の子になるってどうかな?」
マチ「却下」
タミ「え~ 何で~?」
タミ「でもマチちゃんのこと怖いって最初はハナちゃんもなるちゃんも言ってたよ」
マチ「それは…… あの子たちが問題行動起こすからで…… 私だって理由なく怒ったりしないわよ」
タミ「うーん、でもマチちゃんが今まで怒ってたのって生徒会長だったから、って理由が大きいでしょ?」
マチ「まぁ…… 確かに…… あの仕事してるとつい気が張っちゃうところはあったかも」
タミ「それならさ、今日からは明るい…… マチちゃんの好きなアイドルみたいなキャラでもいいんじゃないかな」
マチ「アイドルみたいな私、か……」
いつも笑顔でステージの上に立って、誰かに幸せを分けてあげられるような、そんなアイドル
でも私は……
マチ「いいわ、きっと私に『キャラを演じる』なんて器用なこと出来ないもの 3日やそこらで化けの皮が剥がれるわ」
タミ「そっか……」
マチ「変わらないことだって悪く無いことだと思うし、私は私としてしっかり芯を持っていたい」
マチ「それに私はタミにだって変わって欲しく無いわ、こんな風に何でも話せるのは…… タミだけだから」
タミ「マチちゃん…… うん、そうだね」
勉強も人間関係も中学生の頃とたいして変わらず、タミの言う『華のJK』からはほど遠いのが私の現状だ
まぁ敢えて変わったことをあげるなら
タミ「ふふ~ マチちゃ~ん」
マチ「…… なんでそんなに笑ってるの」
タミ「別に~、また今日もマチちゃんと一緒に帰れるのが嬉しいなぁって」
マチ「……」
タミとの時間が増えたことだろうか
しかし、最近では学校の行き帰り授業中お昼休み休日の遊び相手に至るまで全てタミと一緒だ
いくらなんでもこれはおかしいんじゃないのかと思うのだが、当のタミは
タミ「え? マチちゃんはわたしと一緒じゃイヤ?」
こんな様子だ
マチ「嫌じゃないけど…… 私以外に友達とか居ないの?」
タミ「マチちゃんが言えることじゃないでしょ?」
マチ「まぁそうだけど……」
それでいいのだろうか
タミ「わたしはマチちゃんと一緒だったらそれでいいの」
マチ「はいはい」
タミ「……」
マチ「……」
今日のタミはいつものように無邪気な笑顔を見せることもなく嬉しげに私の名を呼ぶこともなく、ただ俯き私の横を歩いていた
何かあったことは間違い無いだろうけど、それを素直に話してくれるかどうか……
マチ(まぁそこをなんとか聞き出すのが親友の私の務め、か)
タミ「ねぇマチちゃん…… 聞いて欲しいことがあるんだけど」
マチ「あ、うん…… いいけど」
これは意外、タミから切り出すとは
マチ「これは…… 手紙?」
タミ「うん…… 多分『ラブレター』…… だと思う」
タミ「相手は他の学校の人みたいなんだけど……」
マチ「そっか……」
タミ「…… びっくりした?」
マチ「まぁ…… 少しは」
寧ろ私は『親友がラブレターをもらう』という事態に対してここまで平然としている自分自身に驚いていた
親友の恋愛事情というのは私にとってここまでどうでもいいことなのだろうか
タミ「そう……」
マチ「それで、どうするつもりなの?」
タミ「うん、わざわざお手紙書いてくれたけど…… 断るつもり」
マチ「そうなんだ」
タミ「うん、わたし好きな人が居るから」
マチ「えっ…… !?」
さっきの何倍も、何十倍もの衝撃が私を襲った
タミに好きな人が居るなんて聞いたことも無かったし、そんな素振りも見えなかった
マチ「そ、その人は私も知ってる人…… ?」
タミ「うん…… そうだね」
少し目を反らしたタミは私へ一歩踏み出し
タミ「んっ」
マチ「はっ……」
私の頬へ…… キスをした……
タミ「こういうことだよ…… マチちゃん」
マチ「えっ……」
タミ「答えは電話とかメールとかじゃなくて、直接聞きたいな」
タミ「また明日ね」
戸惑う私を置き去りにタミは去ってしまった
今起きたそれを上手く処理出来ない私は、彼女の背中に声をかけることも無く間抜けに道端に佇んでいた
マチ「もしもし」
今日のことをどうにも整理出来ず、眠れない私は少し…… いやかなり不本意ではあるが、ある人に電話をかけることにした
沙里『もしもし? どうしたのマチちゃんこんな時間に』
電話の相手は由比浜学園中学の英語教師でもある私の実の姉、常盤沙里
マチ「えっと…… ちょっと相談したいことがあって……」
沙里『えー! 何々? マチちゃんが私に相談なんて~ お姉さん何でも聞いちゃうわ~』
これが相談を躊躇った理由、姉は少し(いやかなりか)ずぼらなところはあるが基本的にはとても優秀で生徒からの信頼も厚い『良い先生』ではある
だがそんな姉は妹好き、所謂『シスターコンプレックス』の気があり、最近では私と同じ学校で無くなってしまったことをなるちゃん達に愚痴っているらしい
そんなシスコン姉に電話を掛けたらめんどくさいことになるのは目に見えていた
沙里『えっ!? ちょっと何そのため息! そんなに悩んでるの!?』
まぁ『シスコン』という意味では私も他人のことを言えないかもしれないか
マチ「えっと…… 今日、帰り道で友達に告白されて…… 上手い断り方を聞きたくて……」
沙里『断り方…… なんて穏やかじゃないわね』
マチ「出来るなら断った後も今まで通り友達で居たいんだけど……」
沙里『友達ってもしかして…… タミちゃん?』
マチ「…… そう」
マチ「うん…… 今日タミと一緒に帰る時にタミに『好きな人が居る』って言われて…… その直後にほっぺにキスされたの……」
沙里『えー! ちょっと何それすっごい青春じゃな~い!』
マチ「…… そんな単純な話じゃないでしょ!」
あまりにも能天気な姉さんの受け答えについ声を荒げてしまった…… 私そんなにイライラしてるのかしら
沙里『ごめんごめん、マチちゃんは真剣に悩んでるのよね』
沙里『で、何が問題なの? そのまま付き合っちゃえばいいじゃない、マチちゃんだってタミちゃんのこと好きでしょ?』
マチ「っ…… まぁ確かにタミのことは好き…… だけど」
沙里『だけど?』
沙里『そうかしら、日本でだって同性婚は認められ始めているし、マチちゃんが大人になるころはもっと普遍的なものになってるかも』
マチ「その『認められる』って表現自体、同性愛がマイノリティだって証左なんじゃない?」
沙里『…… そうね』
マチ「タミの気持ちを疑う訳じゃない、だけど一時の感情、私なんかでタミの将来の選択肢を狭めたくない」
マチ「タミは美人で優しくて、きっと将来素敵な人と結婚出来ると思う もちろん相手は私じゃない」
マチ「私は…… 何よりタミに幸せになって欲しい……」
沙里『マチちゃんはタミちゃんのことを真剣に考えてあげてるのね』
マチ「当たり前じゃない、あの子は親友なんだし」
沙里『それじゃあさ、タミちゃんはマチちゃんとのことを真剣に考えていないと思う?』
マチ「えっ…… ?」
沙里『タミちゃんだってマチちゃんと同じように女の子同士の恋愛を真剣に考えて、その上でマチちゃんに好きって伝えたんじゃないかな』
マチ「……」
沙里『マチちゃんの返事一つでこれからの二人の関係は大きく変わると思う』
沙里『…… 大切な人を傷付けて、後悔しないでね』
マチ「……」
マチ「ありがとう…… 姉さん」
沙里『そうだ! 私的には妹が一人増えるのは大歓迎よ! マチちゃんだけでも可愛いのにタミちゃんまで妹になったらわた
マチ「切るわ」
携帯を切り、ベッドに伏せて再び思案する
私がどう返事してもタミと今まで通りの関係で居られないなら……
タミとこれからずっと距離を置いて生きるか、タミと恋人としてずっと居るか……
そっか…… そう考えたら答えは一つしか無いじゃない……
向かう場所はタミの家の前、ここで彼女を待つ 昨日の返事をするために
タミ「マチちゃん」
マチ「おはよ」
タミ「お、おはよう……」
タミは少し緊張した様子だった、悩んだり迷ったりしたのはタミも一緒……か
マチ「昨日のことだけど…… 」
タミ「う、うん……」
あーもう、そんな調子だと私まで緊張してきちゃうじゃない…… せっかく覚悟決めてきたのに……
マチ「え?」
タミ「もしマチちゃんが迷惑だったなら…… 昨日のこと忘れていいよ……」
タミ「マチちゃんは変わらないのが好きなら、わたし達の関係も今まで通りで」
マチ「……」
うぅ…… せっかく勇気出して行動したタミになんてこと言わせてんのよ、私
マチ「確かに、変わらないことがいいって私言ったけど、私たちの関係はもう既に変わってるのよ」
マチ「私は今までの関係が居心地良かったけど、きっともうあの頃には戻れない」
マチ「だったら私は変わる、新しい私になる」
私はタミの体に手を回して一気に自分の元へ抱き寄せる
タミ「わわっ!」
マチ「これが私の答え、大好きよタミっ」
タミ「んっ……」
マチ「さぁ! 『華のJK』を始めましょう!」
ハナ「タミさんタミさーん!」
なる「た、タミお姉ちゃんがサリーちゃん先生の妹になったってほんと!?」
マチ「はっ!?」
タミ「うん、本当だよ」
マチ「タミまで何言ってるのよ!」
タミ「えぇ~? 違うの?」
わ子「やっぱり二人ってそういう関係だったんですね……」
ラン「えっ? どういうことどういうことー!? ランちゃんにもわかるように説明してー!」
ヤヤ「て言うかアンタ達本当にこんなこと聞くためだけに高等部まで来たのね……」
マチ「ねぇハナちゃん、その話誰から聞いたの?」
ハナ「サリーちゃんから聞きました」
マチ「あーもうほんとあの人はー!」
おわり
読んでくれた方ありがとうございます。
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