男「ヤンデレってなんだ?」
男「昨日、ネットでそんなのを見たんだよ。なぁ、友は知ってるか??」
友「え? なんで、このタイミングで……」
男「いや、いまの授業でさ、昨日の夢を見たんだ」
友「勉強をしなよ……。うーん……、そうだね。知らないこともないけど……」
男「なんだ、歯切れが悪いな」
友「いや、ヤンデレってのにもいろいろあってね。人によって解釈が違ったりするんだよ」
男「ほう。例えば??」
友「まず、そうだなぁ……」
友「ヤンデレっていうのは『病んでしまうほど、相手のことが好き』って感じの意味なのは知ってるかい?」
男「あぁ、昨日ちょっと見たから、なんとなくはわかるよ」
友「うん。じゃあ、例えを出すとさ」
友「ある女の子がいるとする。その女の子は男のことが好きなんだ」
男「え、さらっと俺を登場人物にするなよ」
友「そのほうがわかりやすいでしょ? ……しかし、その男は友という女の子と付き合っている」
男「……まぁ、聞こう」
友「で、その女の子は、男が自分のものにならないのなら……。ってことで、男を殺してしまったとする」
男「おぉ、怖いな」
友「これはヤンデレだと思うかい?」
男「え? ……でも、そのぐらい俺……いや、俺ってのも変だけど、男のことが好きだったんだからヤンデレになるんじゃないのか?」
友「そうだね。そこが難しいところなんだ」
友「ヤンデレっていうのは、それほど相手のことが好きなんだけど……。でも、男は好きな相手を殺せる?」
男「……あぁ。いや、俺は無理そうだなぁ……」
友「でしょ? まず一つが、相手のことが好きなら殺すっていうのは変なんじゃないか、ってことだね」
男「でも、それがヤンデレなんじゃないのか?」
友「うん。ボクはそれも立派なヤンデレだとは思うけどね。ただ、それはメンヘラって言う人もいる」
男「おぉ……。新しい単語が……」
友「まぁ、そこに至るまでの過程も大事だとは思うけどね」
男「過程?」
友「そう。例えば――」
友「男と小さい頃からずっと一緒だった幼馴染がいるとする」
男「……うん」
友「ははっ、幼馴染ちゃんのことは今は忘れときなよ。……それで、その幼馴染はずっと男のことが好きだった」
友「でも、そこで男が違う女と付き合ってしまって、それで我慢できなくなって殺してしまう」
友「そんな感じのと、極端なこと言えば、出会ったばかりの女の子がそういうことをするのとでは全然違うだろう?」
男「まあ、確かになぁ……。それでいえば何だろう、年月の積み重ねみたいのがあるもんな」
友「うん。要するに、幼馴染にはそれをしてしまうだけ、男への思いが大きくて、その思いの期間も長かったってことだね」
友「ボクは、それこそヤンデレっていうのにふさわしいと思う」
友「ただ、さっき言ったように、出会ったばかりの女の子がそれをしてしまうと、それはただ自分を愛してくれないなら……。まぁ、言ってしまえば、自分の事しか考えてないって感じかな」
男「ふーん……。案外奥が深いんだな……」
友「まぁ、それもヤンデレって思う人もいると思うし、それもいいとは思う」
友「ただ、そこらへんの境界線みたいなものが曖昧なんだよね」
男「そっか……。俺には、まだ早かったのかもしれない」
友「とりあえず、知らなくてもいいことは確かだね……」
友「そうだなぁ。でも、今出したのもほんの一例だからね。しかも、ヤンデレには種類みたいのもあるし」
男「種類か……。難しいな」
友「そんなでもないよ。さっきボクが言ったのは、自分のものにならないのなら相手を殺してしまうっていうパターン」
友「それは、他の人に取られたくないという、嫉妬のようなものがでかいよね」
男「うん」
友「でも例えば、独占欲が非常に大きい子だとしたら、それは監禁とかにつながる」
友「それも、他の誰かと一緒に居てほしくないっていうのがあるよね」
男「あぁ、でも移す行動が違うのか」
友「そう。……あとは、そこで相手の女の子を殺してしまうパターンもある」
男「あぁ、そっちもあるのか」
友「そうだなぁ、それらは結構行動的な感じだよね。おとなしい感じだと、例えば男と一緒になりたい! みたいな?」
男「え? それなら可愛いじゃないか」
友「それが、胃袋的なものだとしたら?」
男「い、胃袋??」
友「そう。まぁ、有名どころで言えば、作ってくれたお弁当の中に、自分の血とかを入れて相手に食べさせる、とかね?」
男「そ、そういうレベルでの『一緒になりたい』ね……。それも怖いなぁ……」
友「あとは、逆に男を食べちゃうとかね」
男「怖いな」
友「まぁ、いろいろあるってことだよ。よくわかった?」
男「おぉう……。まぁ、ゆっくり知ることにするよ……」
友「そうだね。とりあえず男のことを一番に思ってくれる人。そして、その愛が重すぎたりすると……、ってことさ」
男「うむ。……まぁ、俺には縁のない話か」
友「……そうだね」
友「ところで、あの――」
キーンコーンカーンコーン
男「あ、しまった。授業が始まっちまう!」
友「…………そうだね」
男「よし、帰ろう」
友「あれ、部活はいいのかい?」
男「え? 行っても本読んでるだけだしなぁ……。いま、俺はゲームがやりたいんだ」
友「よ、欲望に忠実なんだね……。……あ、あの、じゃあさ」
男「ん、なんだ?」
友「と、途中まで一緒に帰らないかい? ボクも結構暇なんだ」
男「あぁ、別にいいけど……。お前も部活は??」
友「さ、さっき連絡が入ってね! きょ、今日は無しになったみたいなんだ」アセアセ
男「へぇー、あの剣道部が……。でも、部活のやつらと買い物とか行かないのか?」
友「むー、なんだい? 男はボクと一緒に帰りたくないってことかい?」プクー
男「違うよ! 女子高生ってそういうのが好きだと思っただけだよ!」
友「あははっ、別に気にしなくていいよ? ……それとも、男が買い物に付き合ってくれる?」
男「ダメだ! 俺が行ってやらないと……っ!!」
友「あーはいはい。別に男がいなくたって、他の強い人たちとみんな狩りに行ってるよ」
男「……まぁ、そうかもだけどさ……。……わかったよ、今日はいろいろ教えてもらったし、行こうぜ?」
友「本当!? よしっ、じゃあすぐ行こう!」グイッ
男「――で、服を買いに来たのか」
友「うん! だって、女の子だからね」
男「いや、別にそんなことわかってるが……」
友「……じゃあ、もっと女の子扱いしてくれてもいいじゃないか……」ボソッ
男「ん、どうした?」
友「……なんでもないよっ! ほら、こっち!」グイッ
男「わ、わかったよ! 引っ張るなって!」
友「――これとか、どう?」
男「あー似合ってる」
友「……これは?」
男「おー似合ってる」
友「…………よし、殴るよ」グググ…
男「やめろよっ! 俺はファッションのセンスなんかないっての。服なんて全部母親が買ってきたやつだぞ!?」
友「別にセンスとかいいんだよ。……男が好きなやつを言ってくれれば……」
男「うーん……。つっても、普通に全部似合ってるんだけどなぁ……」
友「…………そ、そうかい?」カァアア
男「あ、でも……、最初のやつとか。俺は好きかもしれない」
友「さ、最初のやつ!? ど、どれだっけ??」
男「ほら、なんか白いやつ」
友「な、なんか適当じゃないかい……?」
男「そ、そんなことないって! ……あれが、一番友に似合ってると思う。……あ、でも俺目線だからな!? 気にしなくても――」
友「……そっか、これか……。うん! じゃあボクこれを買ってくるよ」
男「いや、自分の欲しいもの買えよ」
友「これが欲しいんだよ。じゃ、ちょっと待っててね?」
男「ふぅ……よくわからん……」
友「ふふっ……、いい買い物ができたよ」
男「そうかい。それならよかった」
友「……あ、あの、じゃあさ!」
男「ん?」
友「こ、今度、一緒に出掛けないかい?」
男「あぁ、放課後?」
友「い、いや! 休みの日にさ。二人で」
男「あー……。まあ、基本的に俺も暇だからなぁ……」
友「だろうね」
男「うっ……。あ、休みの日も忙しいわ!」
友「わかったわかった。別に見栄を張らなくてもいいから……」
男「……わかったよ。いつかな」
友「い、言ったね!? 絶対、行くからね?」
男「お、おう……」
友「ボクもこの服着ていくから! ……あははっ、楽しみだなぁ……」ニコニコ
男「なんだ、友達とそんな出かけたことないのか?」
友「…………殴るね」
男「なんでっ!?」
男「――じゃ、俺こっちですから、友さん」ガタガタ
友「そうだねッ! じゃ、また明日ッ!」プンスカッ
男「や、やっぱり女の子っていうのは、よくわかんねぇよ……」
男「まぁ、いいか……。とりあえず、家帰ってゲーム――」
男「…………あれ?? そういえば……」
男「友、なんで俺がやってるゲーム知ってるんだ……??」
友「まったく……! デリカシーってものがないよね、男は……」プンスカ
ブーブー
友「あぁ、もう……」
友「はい、もしもし?」
――あ、やっとでたっ! 友、今日なんで部活でなかったのよ!?
友「なにさ、ちゃんと理由は言ったじゃないか」
――理由って……! 買い物でしょ!? あんた試合に出るんだから……
友「悪かったって! 明日からはちゃんと出るから……。うん、ごめんね?」
男「……まぁ、席も隣だし、俺が忘れてるだけで話したことあるんだろうな」
男「さぁ、家に帰って――」
男「――あれ? 俺の家の前に誰かいるな……。もしかして幼馴染か??」
男「おーいっ! 幼馴染、どうしたんだ?」
幼馴染「あ、男……。いま帰ってきたの?」
男「ん? そうだけど?」
幼馴染「ねぇ、どこいってたの?」
男「あぁ、デパートのほう行ってたんだよ。ほら、あの駅と一緒になってるやつ」
幼馴染「そう、なんだ……。何回も連絡したんだよ? なんで返事くれなかったの?」
男「え? ……うぉ! ごめん、授業の時マナーモードにしてそのままだった……」
男「……でも、こんなにメールしてこなくても……」
男「それに、今日は一緒に帰れないよーって言ったじゃないか」
幼馴染「聞いたけどっ!! 理由までは言ってくれなかったじゃん!」
幼馴染「……あれ? 男ってさ、デパート行って何買ってきたの……? 袋持ってないけど……」
男「え? あぁ、俺は何も買ってないからな」
幼馴染「……ッ!!! 誰と行ったのッ! 何人でッ!?」グワッ
男「うおぉ……。と、友と二人でだよ……。ほら、俺の隣の席のさ」
幼馴染「へぇ……、わかったよ」
幼馴染「……男は渡さないんだから……」ボソッ
男「なぁ、悪かったってー」
幼馴染「……そうだね。男は悪くないよ」
男「え? ……あれ、どこ行くんだ?」
幼馴染「ちょっと、用事ができたの」
男「え、そうなのか……」
男「なんだ、せっかくだから家に上がってくか、って言おうと思って――」
幼馴染「上がる」
男「へ? あ、あれ、用事は……?」
幼馴染「いま無くなった」
男「え、あ、そうなの?? じゃ、じゃあ上がるか??」
幼馴染「うん! 久しぶりだね……!」
男「あー、そうだな。中学の時まではよくお互いの家の中入ったりはしてたけどなぁ」ガチャ
幼馴染「そうだよね。懐かしいなぁ……。あのころに戻りたい」
男「ははっ、別に今も大して変わらないだろう」
幼馴染「……なんで、あの頃に既成事実作らなかったかなぁ……」
男「ん? どうした?」
幼馴染「ううん、なんでもない」
男「……? そっか」
幼馴染「わぁ……。えへへ、何も変わってないね」
男「まぁ、何も変える必要がなかったからな」
男「ちょっと待ってろよ。いまお茶でも持ってくるからさ」
幼馴染「うん! ……ゆっくりでいいよ?」
男「ははっ、そんな時間はかかんないと思うけどな」
ガチャ
バタン
――――
男「――麦茶しかなかったわー」
幼馴染「あっ、う、うん! 大丈夫だよ……っ!?」ハァ…
男「おう……? なんか顔赤くないか? 大丈夫か??」
幼馴染「な、ナニもしてないよ?? え、えへへ……っ!」アタフタ
男「いや、体調のことを気にしてたんだけど……。あぁ、まぁいいか。ほれ」カチャ
幼馴染「あ、りがとう! ……いただきます」
男「なんだ、息も荒くないか?? 俺の部屋になんか病原菌でもあったのか??」
幼馴染「大丈夫だからっ! な、なんでもないから……」
男「ふぅん……。なら、いいけど……?」
幼馴染「ほ、ほら、昔の話でもしよう? ね?」
幼馴染「――ね。私達、結構やんちゃだったよね」
男「そうだな。今では考えられないもんなぁ」
幼馴染「……そんな男を知ってるのは私しかいないからね」
男「え? まぁ、ほとんど幼馴染としかいなかったしな、俺も」
幼馴染「そうだよねっ? 私と一緒にいる時間が一番長かったよね?」
男「そうだなー」
幼馴染「だからさ。あれだけ一緒に居て、今も一緒ってことは、それだけ私たちの相性みたいのがいいじゃないかと思うんだ」
男「まぁ、悪かったら一緒に居ないしな」
幼馴染「で、でさ……。やっぱり、男のことを一番よく分かってる女の子っていえば、私になるよね?」
男「おー、そうかもな」
幼馴染「これって、あの……。もう――」
男「やっぱ、幼馴染って大事だよな。……これからも、ずっとこの関係で居たいな!」ニカッ
幼馴染「……………………………………………………うん」ウルウル
――――
男「――あー、そんなこともあったなー」
幼馴染「うんうん! それでさ――」
男「……って、もうこんな時間か……。帰らなくて大丈夫なのか??」
幼馴染「あ……。で、でも、家も隣だしさ。泊まってってもいいぐらいだよ!」
男「いや、それは恥ずかしいわ」
幼馴染「そ、そんなことないよ! ……でも、そうだよね」
幼馴染「じゃあ、そろそろ帰るよ。また、明日学校でね?」
男「おう、幼馴染は部活か?」
幼馴染「あ、うん……。朝練があるんだ……」
男「大変だよな。がんばれよ!」
幼馴染「…………うん。それじゃ……」
ガチャ
バタン
男「しっかし、なんだか幼馴染とこんな話したの久し振りだ……」
男「あ、そろそろ親も帰ってくるし、洗濯物出さないと――」
男「――ん? あれ、シャツが無くなってる……。しまった、どっかに置いてきちゃったっけ……?」
幼馴染「泊まりたかったけど……。でも、男と居たらできないもんね……」
スンスン
幼馴染「はぁ……男の匂いでいっぱいだよ……。んっ……」
幼馴染「……ッ! 男のことを一番よく知ってるのは、私なんだから……!」ハァハァ
幼馴染「……んぅ、だれにも……渡さない……!!」ンッ…
男「……やめろって……。ははっ…………だ、だから……」
男「やめろぉおおおおおおおおおお!」ガバァ
男「……な、なんだ……夢か……」
男「あぶねぇー……。大破したまま進撃とかシャレにならないぞ……」
「男ー! なんか叫び声聞こえたけどー??」
男「いや、なんでもないー! ふぅ、よし学校行くか……」
男「ん~……! ちくしょう、憎いほど晴天だなぁ……」
男「まぁ、今日は部活に顔だそうかな……」
「せーんーぱいっ!!」ドンッ
男「うおぉ! ……びっくりしたぁ、後輩か」ドキドキ
後輩「はいっ! いやぁー、朝から先輩に会えるだなんて幸せですぅ!」
男「ははっ、大げさな……。ってか、ほぼ毎日朝にこうして会ってるじゃないか」
後輩「えへへっ! 先輩と通学ルートが一緒だなんて、神様に感謝ですねっ!」
男「お、おう……。なんだか、そこまで言われると恥ずかしいが……」
後輩「いやぁ~、先輩はあったかいですねぇ~……」ダキッ
男「やめろよ。ただでさえこんな晴天だってのに……」
後輩「あ、照れてるんですかぁ~? んふふ~」ギュウウ
男「あーはいはい。学校近くなったら離れろよ?」
後輩「はいっ! それまでは……」フフーン
男「――ほら、学校着いたぞ。後輩はあっちだろ?」
後輩「う~、名残惜しいですが……。それじゃ、私はここでっ!」
男「お~う……。がんばれよー?」
後輩「あっ、みんなおはよー!!」
「あ、後輩ちゃん……。ねぇねぇ、後輩ちゃんの家って反対方向だよね? なんでいつもあっちのほうから来るの?」
後輩「だって、あっちが私の通学路だから」ニコッ
ガララ
男「おいーっす……。つっても、まだ早い――」
お嬢様「あ……、男さん。おはようございます」ニコッ
男「あれ、お嬢様早いんだね」
お嬢様「うふふっ、男さんも早いんですね?」
男「あぁ、今日はうなされて……。いや、まぁいろいろね」
男「お嬢様はいつもこんな早いの?」
お嬢様「私は……、車で来てるので……。ほかの皆さんに見られるのが恥ずかしいんです……」
男「へぇー、確かに目立ちそうだもんなぁ……」ヨイショ
お嬢様「あ、あの、もしよろしければ、男さんも一緒にどうですか??」
男「へ? 車でってこと?? いやぁ、そんな家遠くないし、それに悪いだろ?」
お嬢様「そ、そんなことありません! い、いつも一人なので寂しいんです……」
男「あ、そうなんだ。……まぁ、でも俺も、自分のペースで登校したいんだよなぁ」
男「今日は偶然早く起きたけど、いつもなら遅刻ギリギリだからな」
お嬢様「…………なのに、後輩さんと歩いてたんですか?」
男「あぁ、あれは勝手に――。って、あれ、見られてた? 恥ずかしいなぁ」
お嬢様「……毎日?」
男「うっ……。なんか、あいつといつも会うんだよな。すごい確率で」
お嬢様「そう、なんですか……。でしたら『偶然』会えば、いいんですね?」
男「え、いや、あー……。そうなるの、かな……?」
お嬢様「うふふっ、わかりました。頭に入れておきます」ニコッ
男「マジか。そうだなぁ、偶然会えればいいけどねー……」
お嬢様「えぇ――」
お嬢様「偶然、ですね?」
男「しっかし、早く来てもやることなんてないもんだな。やっぱ遅刻ギリギリが一番だ」
お嬢様「そ、それも、どうかと……」
お嬢様「あ、そうです。今日の予習とかは――」
男「却下だ」
お嬢様「あ、ダメなんですね」
男「お嬢様はいつも何やってるんだ?」
お嬢様「私は、いつも本を読んだり……ですかね?」
男「へぇー、何読んでるの?」
お嬢様「あ、今読んでいるのは、シェイクスピアのロミオとジュリエットです」
男「……………………………………へぇー」
お嬢様「……ほ、本はあまり好きじゃないですか?」
男「い、いや、まぁそれをよく知らないだけなんだけどさ……」
お嬢様「私、これが好きなんです」
男「ふーん……。でも、たしかあまりいい結末じゃないんでしょ?」
お嬢様「はい。最後には二人とも死んでしまいます」
男「お、おう……。や、やっぱいいかなぁ……」
お嬢様「……でも、私もこんな風に愛し愛されてみたい……」
男「え?」
お嬢様「『ほどほどに愛しなさい。長続きする恋はそういうものだよ』」
男「え??」
お嬢様「うふふっ、どう思います?」
男「えっと……。ま、まぁ、その通りなんじゃないか?」
お嬢様「でも、ほどほどに愛していて、愛する人に飽きられてしまったらイヤではありませんか?」
男「あ~……。うーん、難しいな」
お嬢様「だったら、お互いが居なければ生きられないほど愛し合いたいですよね?」
お嬢様「ねぇ、男さん?」
男「へ、俺?? あぁ、どうだろう……。まぁ、でもそんな感じならお互い幸せなのかな……??」
お嬢様「やっぱりそう思いますっ? そうですよね? そうですよね??」
男「お、おぉ……。ははっ、やけに押してくるな」
お嬢様「あ、す、すいません……」
男「まぁ、でも。お嬢様にそこまで思ってもらえたら、男冥利に尽きるって感じだね」
お嬢様「……ッ!! あ、あの、男さん! 実は――」
男「まぁ、俺なんかには関係のない話だけどさ!」
お嬢様「あ、その――」
ガララ
友「おっはよ――……あれ!?? 男がボクより先に教室にいる!??」アゼン
男「ん? おぉ、なんだ寝坊か?」
友「うっ……。な、なんだかすごい悔しい気持ちでいっぱいだよ……!」
男「はっはー! 雑魚めが」
友「なぁ!? そ、そもそも勝負なんか――!」
ワーワーギャーギャー
お嬢様「……はぁ…………」シュン
キーンコーンカーンコーン
男「よっしゃあ! 昼飯の時間だぁっ!」ガタッ
委員長「あ、ねぇ男君? ちょっといいかな?」
男「おぉ、なんだ??」
委員長「ほら、今度ゴミ拾いのボランティアあるじゃない? それについてちょっと話したいんだけど……」
男「えー、今?」
委員長「あ、イヤならいいの」
委員長「家に行くから」
男「よし、話を聞こう」キリッ
委員長「あ、そう? 私的にはそれのほうが嬉しんだけど……」
男「いや、ぜひここで話そう」
委員長「なーんだ、残念。それじゃ、男君が副班長って感じでいい?」
男「うん、しょうが――……待って!? 俺、そんなゴミ拾いに乗り気じゃないんだけど!!?」
委員長「え、そうなの? う~ん、じゃあ話長くなりそうだし、今度男君の家に行くね?」
男「あぁ、そうしてくれ――ると困るなっ!! なんでだよっ!? ほかの人は??」
委員長「みんな男君に一票だって」
男「マジかよ、そいつらの名簿出せよ。往復ビンタするから」
委員長「あ、じゃあ私にするの……?」オヨヨ…
男「あんたが筆頭かっ!? しないよっ?」
委員長「ははっ、よかった。じゃあ副班長で決定ね?」
男「まぁ……、まぁなんだ。落ち着こう、深呼吸だ」
委員長「副班長、日程はどうする?」
男「そうだなぁ……。再来年ぐらいでいいんじゃないか」
委員長「う~ん、これも長くなりそう。放課後、男君の家に行くよ」
男「だから待ってよっ!? なんでそんな俺の家に来たがるの!?」
委員長「あ、私の家でもいいけど……」
男「そういう問題じゃないんだよ!」
委員長「ちょっと、恥ずかしい、かな……」テレッ
男「放課後にッ! 放課後にどっか店行こう! それで日程とか決めよう、な!?」
委員長「しょうがないなぁ……。わかった、じゃ放課後ね?」
男「はぁ……、うん。ただ、部活に顔出すから、ちょっと時間かかるけど……」
委員長「うん、了解。じゃ、放課後ね、副班長?」
男「あーはいはい、放課後ね」ハァ…
男「…………あ!」
委員長「はい、男君は副班長に決定。返事したもんね?」ニッコリ
男「はぁ…………」ションボリ
キーンコーンカーンコーン
男「ん~~っ! よしっ、とりあえず今日は終わった……」
男「さて、部活に顔出して、そのあとは委員長か……」
男「ま、幼馴染には悪いが、またメールでもしておこう」
ガララ
男「こんちわーっす……」
先輩「……ん」
男「あぁ、やっぱ先輩早いですね」ヨイショ
先輩「……男」パタン
男「はい? あれ、本閉じちゃうんですか?」
先輩「……なんで、昨日は来なかった……の?」
男「あぁ、昨日急に用事はいっちゃって……。先輩にもメールしましたよ??」
先輩「……持ってない」
男「いや……、持ってきてないの間違いでしょう……。携帯電話なんだから携帯してくださいよ」
先輩「……昨日は、男の顔を見なかった……」
男「まぁ、そんな日もありますって」
先輩「……昨日は7時まで待ってた……」
男「マジっすか!? そこまで待ってなくていいですよ!」
先輩「……男。今日はどこにもいかない……?」
男「あぁー……。その、今日も用事が入っちゃいまして……」
先輩「……………………………そう」ギュッ
先輩「…………屋上、行ってくる……」スクッ
男「どうしてっ!? ま、待ってください!」
先輩「……じゃあ……どこにも、行かない……?」
男「あー…………」
先輩「……さよなら」
男「いやっ、ダメですって!! あぁ、もう!」ガシッ
先輩「……男が止めてくれてないと、私死んじゃうから……」ニコッ
男「えぇ……!! うーん……でも委員長にも約束しちゃったし……」
男「じゃ、じゃあ、ほら別のとこで埋め合わせしますからっ!」
先輩「……どんな感じに?」
男「あぁ……っと。…………どんな感じがいいですか?」
先輩「……じゃあ、次からの部活の間、男は私を膝に乗せる」
男「う…………期限は?」
先輩「……私が卒業するまで」
男「あ、えっと一週間なら――」
先輩「……遺書は、引き出しに」
男「あぁっと! え、っと……に、二週間……」
先輩「……一か月」
男「………………わ、わかりました……」シブシブ
先輩「……ふふっ。……じゃあ、約束」ニコッ
男「ははっ、約束ですね……」
男「……まぁ、とりあえず、先輩も携帯持ち歩いてくださいよ?」
先輩「…………」
男「いや、そんな嫌そうな顔しないで……」
先輩「……男は……その方が、うれしい……?」
男「え? いや……。……あぁ、でも、先輩ともっと気軽にコミュニケーション取れるんだから、うれしいですね」
先輩「……じゃあ、持つ」
男「お、じゃあお願いしますよ?」
先輩「……うん」
男「んじゃ、そろそろ行ってきまーっす」ガララ
バタン
パカッ
先輩「……んー……GPSは……」カタカタ
――――――
――――
――
男「はぁ……何だかすげぇ疲れた……」
男「委員長って、なんでいつも俺の家に来たがるんだろうな」
男「女の子ってよくわからん」
「男ー? 帰ってきてるのー?」
男「あ、はーい。帰ってきてるよー」
「あら、そうなのー? じゃあ、そろそろお姉ちゃん帰ってくるころだから、よろしくねー」
男「………………えー?」
「じゃ、買い物行ってくるからー」
男「………………あ、そういや、今日だったか……」
バンッ!!
ガタガタ
ドンドンドンドン
男「あ、この音って……」
姉「ただいまーー!!」ガチャ
姉「うわっ! 本物の男くんだ!! 会いたかったよー!」ダキッ
男「うおぉ! ね、姉さん!?」アタフタ
姉「う~~ん、やっぱ男くんって最高!!」ギュウウウ
男「わ、わかった! わかったから!」
姉「むふふー、充電終わるまで離さない――ん、だから……?」
男「……ん? あれ、どうしたの姉さん??」
姉「香水のにおいがする」
男「え? あぁ、まぁちょっとはつけてるよ?」
姉「ちがうよ。これは男くんの香水じゃない」
姉「ねぇ? 今日は誰に会ってたの?」
男「誰って……」
男「まぁ、いろいろ会ってたけど……?」
姉「違うよっ!! ねぇ、正直に言って!? 今日、誰と――」
男「――あ、そういえば。姉さんのために、さっきケーキ買ってきたよ?」
姉「……ッ!! ……わ、私のため……?」ドキッ
男「あれ、食べない??」
姉「………………………………………………………食べる」
男「ははっ、よかった~」
男「…………母さんと好みが一緒で…………」ボソッ
姉「え!? どうしたの??」
男「ううん。それじゃ、持ってくるね」
姉「むふふ~、私も一緒に行くよー!」
男「じゃあ一緒にいこっか――?」
「ねぇ、男ー?」
男「んー? なに母さん?」
「……私のケーキは?」
男「…………」
「…………へぇ」
イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
姉「……むぅ……おと、こ……くん…………えへへ……」スヤスヤ
姉「………………離さない……よ……」ムニャムニャ
キーンコーンカーンコーン
男「ふぃー……」ハァ…
友「あれ、遅かったね。寝坊かい?」
男「おぉ……、確かに言われると悔しいな……」
友「でしょ? まぁ、わかればいいんだ」
友「それにしても、なんだってそんな疲れてるの?」
男「あ、聞いてくれよ。いや、今日はいつも通り遅刻ギリギリの時間に家を出ようとしたんだよ?」
友「……まぁ、今更なにも言うまいよ」
男「そしたらさ――」
男「朝はなぜかえらく機嫌の悪い幼馴染に叩き起こされるだろ??」
友「……へぇ、なんでかな」
男「すると、一緒に寝てたらしい姉さんも、それで機嫌が悪くなるんだよ」
友「……原因はそれだね」
男「家を出る時は、何とか姉さんの抑止を振り切って出たわけだ」
友「……うん」
男「そしたら、また後輩と会ってさ、他愛もない話をしながら一緒に歩いてたんだよ」
友「……へぇ」
男「ちょっと歩いたら、今度はお嬢様と偶然出会って、お嬢様に学校まで車に乗せてもらったのな」
友「…………へぇ」
男「んで、ちょっと早く学校に着いたと思ったら、委員長に呼び出されたわけよ」
友「……………………」
男「やっと解放されたと思って、さっき携帯を見たら先輩からのメールが127件だ」
友「…………………………………へぇ」
男「そんなこんなで、ちょっと疲れたんだよ……」
男「――あ、でさ、昨日またネット見てたんだけどさ。ヤンデレについてちょっとわかった――!」
友「殴るね」
男「なんでっ!??」
とりあえず、おしまい。
これって、途中から安価とかとってもいいのかな?
これで二作目で、勝手がよくわからない……。
一回安価ってのをやってみたかったんだ。
男「……あの、友さん……」
友「……なにさ?」
男「いや、なんか、ホントすいませんっした……」
友「…………はぁ……」
男「うっ……なんか、悪いことしたかなぁ……」
友「ほら、授業始まるよ?」
男「あ、お、おう!」
――放課後
男「さて、あっという間に放課後か……」
男「さって、それじゃ>>60に行こうかな!」
1.友さんの機嫌を窺いに行く
2.幼馴染と帰る
3.下級生の教室の前を通る
4.教室の掃除を手伝う
5.部活に行く
6.グラウンドに出る
番号指定でお願いします。
男「と、友さーん……?」
友「……なに?」
男「あ、あの、もし、もしよろしければ、これからあの、お茶など……いかがかなぁ……と」
友「……部活だから」
男「あ、そうですよねー!? あ、つ、都合のいい――」
友「――だ、だからっ!」
男「……?」
友「ぶ、部活が終わるまで、ボクの事待っててくれる……かい?」
男「へ? あ、あぁ、そりゃ待ってるけど……」
友「ぜ、絶対だよっ!? 絶対待っててね!?」
男「あ……おう!」
「お、今日はちゃんと部活に来たね――」
友「ねぇ、ちょっといい?」
「え?」
友「練習試合をやろうよ? それで、ボクが勝ったら――」
男「ふわぁあ……。どのくらいで終わるのかぐらい聞いとけばよかったなぁ……」
友「お待たせっ? さぁ、どこに連れてってくれるんだい?」
男「うおぉお!? も、もう終わったのか!?」
友「あ、うん。今日はちょっとだけの練習だったんだ」
男「へぇー。あ、昨日休みだったからか」
友「え? あ、あぁ、そうかな……?」
「…………鬼よ。鬼がいたわ……」ガタガタ
友「ふふふーん♪」
男「あれ、なんだそんな機嫌悪くないのか」
友「え?」
男「あ、いや。なら、別にご機嫌取らなくてもよかったなぁーって――」
友「……機嫌悪くなったっていいんだよ?」ムスッ
男「さぁ、俺のおごりだ。行こうか」
友「あははっ! 楽しみだよ」
友「へぇ~。よく男がこんなところ知ってるね? ちょっと見直し――」
男「あぁ、昨日委員長とここで打ち合わせしたんだよ」シレッ
友「…………へぇッ!」ゲシッ
男「痛いっ!! えっ、なんだよ!?」
友「何でもないよッ」フンッ
男「うっ……。で、ど、どれ頼むの? 好きなもの頼んでいいよ」
友「うーん……。――あっ……」
男「ん? なんかいいのあった?」
友「……………………これ」ユビサシ
男「………………え、これ?」
友「な、なんだよ! 好きなもの頼んでいいんでしょ!?」
男「…………これかぁ……」
『恋人限定! ジャンボチョコパフェ』
男「えぇー……」
友「べ、別に恋人同士に、とか思われたいわけじゃなくてっ! あの、チョコパフェが食べたくて――」
男「昨日委員長も頼んでたや――」
ガンッ!!
友「ぜったい、これにする。文句はないね?」
男「……ッ!」コクコク
オマタセシマシター
友「わぁああ……!」キラキラ
男「………………」
友「……ほら、早く食べようよ?」
男「……おう」
友「ほら、あーん」
男「ファッ!!? な、なんだよ!?」
友「恋人限定なんだから、恋人っぽくしないとダメでしょ? ほら、あーん?」
男「こ、こんなの男女でならなんでもいいんだよっ!?」
友「いいから、あーん」
男「い、いや、恥ずかしいって!」
友「あ、早くしないと落ちちゃうよ!」
男「だ、だから――」
友「…………」ジー
男「いただきますっ!」パクッ
友「ふふーん、よろしい」
男「……わぁ! 昨日と同じ味だ!」
友「そういうことは言わなくていいの!」
友「ほ、ほら、じゃあボクにも……」
男「えー」
友「……殴るよ」
男「ほ、ほら! あーん」
友「あははっ、あーん!」パクッ
友「うんっ、おいしいね?」
男「はは……、そうだね……」
友「――あー、おいしかった」ニコニコ
男「友さんが喜んでくれて、なによりでございますよ……」ゲッソリ
友「……こ、今度のデートの時には、誰もつれてったことのないとこに連れて行ってね?」
男「え? デート??」
友「………………………………あっ」カァアア
友「いいいいいいいいいいいや!? 違うんだよ!?? い、いいまのは、言葉のあやというか、あの、う、ウーロン茶みたいなさ!??」アセアセ
友「ね!? 緑茶とさ、ウーロン茶の違いって知ってる!!? あれって、発酵させるかさせないかなんだって!!」
男「え、そうなの?」
友「そうなの!! で、でね!? 発酵と腐敗っていうのもね! あ、あの人間に良いか悪いかで――」
男「――まぁ、今度出かけるって約束したしなぁ……」
友「………………うん」テレッ
男「そのときは、別の場所探しておくよ」
友「……た、楽しみにしてるよ!」
男「しっかし――」
友「ん?」
男「そんな友達と出かけるぐらいで、テンション上げなくても――」
友「動かないでね」スッ
男「ちょっ!? やめてっ!??」ビクッ
――――――
男「さて、友とも別れてもう19時かぁ……」
男「そろそろ家に帰ろうかな」
男「いや、コンビニでも……。うーん……」
男「よし、>>72に行くか」
1.暇だから友をびっくりさせよう
2.おとなしく家に帰ろう
3.いや、ちょっと公園によろうかな……
4.ちょっと高級住宅街の中を通ってみる
5.さっきの店に忘れ物をした気が……
6.あ、部室に漫画を忘れた!
7.ちょっと近道して帰ろうかな
しまった。
最初の安価で委員長のルート作ってなかったです。
ドンマイ、俺。
男「しまった、部室に漫画忘れてたなぁ……」
男「まぁ、さすがにこの時間なら先輩もいないだろうし、取りに行くか……」
―――部室
ガララッ
男「おじゃましまーす……」ヒッソリ
先輩「……男。遅い」パタン
男「はいっ!? え、あれ、先輩!?」ビクッ
先輩「……どうしたの?」
男「あ、いや……。もう、帰ってるものだと思ったので……」
先輩「……男に会うまで……帰らない」ニコッ
男「い、いや帰ってくださいよ……」
先輩「……せっかくメールもしたのに……」
男「量が多すぎるんですよっ! 俺が返信するまで待ってくれてもいいじゃないですか」
男「――あ、そうだそうだ。とりあえず、忘れた漫画取りに来たんですけど……」
先輩「……男、今日はどこいってたの?」
男「あ……え、っと……」
男(……一昨日と昨日もちゃんと部活に出てないわけだし、本当のこと言ったら怒られるよなぁ……)
男「あ、あれですよ。ちょっと自分探しの旅に――」
先輩「……言い方を変える」
先輩「あのカフェに、誰と行ってたの?」
男「………………え?」
先輩「……わからない?」
先輩「○○市××町□-□□-5のカフェで、誰と居たの?」
男「あっ……え、なんで……」
先輩「……ねぇ、応えて」
男「あ、あのっ! ごめんなさいっ! 友と行ってましたぁ!!」ドゲザァ
先輩「……ふぅん……部活、出ないで……女の子と一緒に居たの……」ジー
男「あ、いや! あの事情がありまして……っ!」
先輩「……へぇ……、言い訳……するの」ジトー
男「……あ、あのどうすれば許していただけるでしょうか……」
先輩「……別にいいよ……私……もう学校、来ないから……」
男「いやいやいやいや!! あ、あのそれは――!」
先輩「……ありがとう……楽しかった……」ガララ
男「あ、あああの! ま、待ってください!! あ、あの、なんでもしますっ!」
先輩「……そう。……ならやめる」シレッ
男「へ!? あ、ありがとうござ――」
カチッ
――ください!! あ、あの、なんでもしますっ!
男「……え?」
カチッ
――の、なんでもしますっ!
先輩「……ふふっ、なんでもするんだよね……?」
男「………………」ダラダラ
先輩「…………」ニコニコ
男「――本当に、これでいいんですか??」
先輩「……いい」
男「ま、まぁ、ならいいんですけど……」
先輩「……んふふ……」スリスリ
男「……ははっ、くすぐったいですよ……」
先輩「……男、いい匂い……」スンスン
男(結局先輩を、膝にのせてるわけだけど……。これ、先輩の体温をじかに感じて、なんだか恥ずかしいな……)
先輩「………………」ニコニコ
男「本は読まないんですか?」
先輩「……明かりつけたら……気付かれちゃう……」
男「あ、それもそうですよね……」
先輩「…………」
男「…………」
男(あれ、何だか変な雰囲気……)
男「……あ、あぁの! 先輩? 先輩って――」
先輩「…………」スースー
男「…………ははっ、先輩寝ちゃったか……」
男「疲れてたのかな……。先輩の家って、確かそんなに遠くなかったよな――」
男「――それじゃ、先輩。おやすみなさい……」
ギュウウ
男「あれ……」
先輩「…………男……」スースー
男「すいません、お邪魔しましたー」
「あ、すいません、ありがとねー」
「……あら、この子……。さっきの男の子の上着握ってるじゃない……」
先輩「……ふふ……いい匂い……」スースー
――――
男「たっだいまー!」
姉「男くぅーんッ!! ねぇ、どこ行ってたの!? 遅くない!?」
男「あぁー、ちょっと。……部活が長引いちゃってね」
姉「……あれ? 上着はどうしたの?」
男「んー? 学校に忘れた」
姉「忘れたって……。……あれ、また女のにおいがする……」
姉「男くんッ!!? ねぇ、今日こそ――ッ!」
男「あ、そういえば、姉さんのためにプリン買ってきたんだ!」
姉「……い、いや! 今日は誤魔化され――」
男「え、食べない? ……せっかく買ってきたのになぁ……」
姉「食べるー! もう、男くんはかわいいなぁ!」
男「は、ははは……」
――翌朝
幼馴染「ほら、朝だよ? お、お姉さんも起きてくださいっ!」
男「……起きた、起きたよぉ……」
姉「えへへ……おとこくーん……」ムニャムニャ
男「あれ? また姉さん一緒に寝てたのか……」
幼馴染「また、じゃないよっ!! こういうのはしっかりしなきゃダメなんだよ!?」
男「つっても、実の姉じゃないか」
幼馴染「――ッ! 男は何もわかってないっ! もう、じゃあ私とも一緒に寝てよ!」
男「いや、意味わからないよ」
男「――さて、幼馴染は部活の朝練に行ってしまった……」
男「朝ご飯食べても、全然時間余ってるなぁ……」
男「まぁ、とりあえず>>82しようか」
1.少し早めの時間に家を出る
2.暇なので幼馴染を追いかける
3.通学路をゆっくり歩いてみる
4.高級住宅地を通ってみる
5.いや、いつも通り遅刻ギリギリで
6.先に上着を取りに行く
7.たまには姉さんにかまう
8.路地を通って近道する
すいません。一回目と二回目に姉√を入れてなかったです……。
ドンマイ、俺。
とりあえず今日はこれまで、あとは明日の朝見ます……。
オトコクーーン
ドコイッタノーー!!
男「はぁ、たまには姉さんにかまってあげるか……」
ドタドタ
姉「男くーーんっ! どこ行ってたのぉ!!」ガチャバン
男「いや、リビングに来てただけじゃないか」
姉「ダメだよぅ! 男くんは私と一緒に起きて、一緒に朝ごはん食べて、一緒にお風呂入って、一緒にトイレも行って――」
男「はいはい。ほら、姉さんの分の朝ごはんもあるよ?」
姉「わぁあ! 男くんが作ってくれたの!?」
男「いや、幼馴染かな」
姉「……………じゃ、いらない」
男「それは、幼馴染に失礼だよ。ほら、早く食べちゃって」
姉「ふーんだ。絶対食べないから!」
男「そっかぁ……。じゃ、もったいないし俺が食べるかぁ……」
ピクッ
姉「そ、それはダメッ!」
男「え、でも姉さん食べないんでしょ?」
姉「…………男くんが、食べさせてくれるなら食べる……」ブー
男「じゃあ、俺食べるわ」
姉「うわぁーん! 男くんの意地悪っ! 食べるよっ!」
男「あ、なんだ。食べるのね」
姉「最近、男くんが冷たくて、お姉さんかなしいなー……」ムゥー
姉「ちょっとぐらい、お姉さんに優しくしてもいいんじゃないかなー……」ブツブツ
男(あぁ、いじけちゃった……。でも、そうだよな。今はかまってあげるってさっき、決めたじゃないか……。ちょっとぐらいなら……)
男「ほら、姉さん。あーん」
姉「……お、男くんっ!! あむっ!」パクッ
姉「むふふ~、男くんが食べさせてくれるから、すごいおいしいよー!」ニパー
男「ははっ、それはよかった……」アハハ…
男(――結局ほとんど食べさせたな……)
男「ほら、もう姉さんも大学じゃないの?」
姉「今日は大丈夫なんだよー? だから、もっとイチャイチャしようっ?」
男「いや、もう俺は学校に行かなきゃ……」
姉「じゃあ、私も一緒に行くー!」
男「なんでよ!? ……ほら、じゃあ行ってくるから!」
姉「あーん……」
姉「…………男くん」
男「ん? なに? 一緒には行かないよ?」
姉「うん」
男「……?」
姉「今日は、いつごろ帰ってくる?」
男「あー……。何もなければ、まっすぐ帰ってくるけど……」
姉「……そっか。じゃあ、何もなければいいね」
男「え、あ、そう、だね……?」
姉「……むふふ~! お姉ちゃんは大学サボってでも早く帰ってくるからねー?」ダキッ
男「うわっ! い、いや、それはダメでしょ!?」
姉「だ・か・ら」
姉「 早く、帰ってきてね? 」ニコッ
ガララッ
男「おいっすー」
男「ふぅ、いいね。いつも通り時間ぎりぎりだ」
男「えっと、1時間目は――」
キーンコーンカーンコーン
男「おっしゃあ! お昼の時間だぁッ!」ガタッ
ガヤガヤ
男「さって、とりあえずお昼ご飯でも……」
男「あ、そうだ。>>93するかぁ」
1.普通に友と食べる
2.たまには幼馴染と食べる
3.購買でも行こうかな……
4.ベランダで食べよう
5.あ、そういえば委員長に呼ばれてた気が……
6.携帯を見てみる
7.姉さんに電話する
8.体育館裏に行ってみる
男「あ、そういや、朝からゴタゴタしてて携帯見てなかったなぁ……」
パカッ
新着メール 72件
男「……えーと、昨日はあれからメールなんて来てなかったし、朝からだよな」
男「おはようから始まって、うーん……ん? 今先輩部室に居るのか」
男「じゃ、上着返してもらうついでに、先輩とご飯でも食べようかな――」
男「――で、先輩?」
先輩「……なに?」
男「なんで先輩俺の上着着てるんですかっ!? 自分のは!?」
先輩「……これ……朝起きたらあったの……」シレッ
男「俺のですよっ!! 先輩が上着つかんで離さないから、そのまま綺麗に脱いできたんじゃないですかっ!」
先輩「…………これは……私の……」ギュッ
男「いやいやいやいや……。そもそも、男の上着じゃ変ですよ……」
先輩「……じゃあ……男には私の上げる……」
男「いや、返してくださいよ。どっちにしろ、サイズ的に無理です」
先輩「……………………」フイッ
男「えぇえええ……。返してくださいよー」
先輩「……私……自分の、上着持ってきてない……」
男「えぇー……。じゃ、わかりましたよ……、明日返してください」
先輩「……うんわかった」ニコニコ
男「はぁ……、なんで俺が……」
先輩「………………♪」ギュウウ
男「……まぁ、いいか」
先輩「……男……これ、ちょうだい」
男「ダメですよっ!? 俺のどうなるんすか!」
先輩「………………がんばれ」グッ
男「何をっ!??」
先輩「……じゃあ、一週間……でいい」
男「それでもダメですっ!」
先輩「…………むー……」
先輩「……部活……来なかったくせに……」
男「うぐっ……」ビクッ
先輩「……………………」ジー
男「……………………」ダラダラ
先輩「………………………じー」
男「…………わ、わかりました……」
先輩「…………ッ!」パァアア
男「で、でも!! それじゃあ、アレですよ!? 膝に乗せるってやつは無しですからねッ!?」
先輩「…………イヤ……」フイッ
男「じゃあ返してください」
先輩「………………わかった」シブシブ
男「あ、じゃあ返して――」
先輩「……膝に乗せなくて……いい」
男「え、そっちですか!?」
先輩「…………ふふっ……」モフモフ
男「えぇ……。ま、まぁ、しょうがないか……」
男「――あ、もうこんな時間か……。次移動教室だし……俺、もう行きますね? 先輩は大丈夫なんですか?」ガララッ
先輩「……うん」
先輩「……私は、コレ……使ってから行く……」ギュウウ
――――放課後
男「おし、今日も学校が終わった……」
男「今日はどうしようかなー……」
男「あ、姉さんも早く帰ってこいみたいなこと言ってたっけか」
男「うーん、とりあえず>>100かな」
1.隣の席から視線を感じる……
2.教室の入り口から視線を感じる……
3.グラウンドを通って裏門から帰ろうかな
4.お嬢様が本読んでるから、声をかけてみる
5.生徒指導室から視線を感じる……
6.部活に行こう
7.いや、姉さんが待っている!
8.体育館裏に行ってみる
キリがいいので100で。
男「…………」
友「…………」ジー
男「……なんだよ」
友「……ねぇ、今日ボク部活休みなんだー……」
男「へぇ、よかったな」
友「…………」
男「…………」
友「……ねぇ」
友「今日、ボク部活休みなんだー」
男「…………へ、へぇ、よかった――」
友「――今日っ!!」
男「おうっ!」ビクッ
友「部活休み、なんだけど……?」
男「あ……、それじゃ、ど、どっか行くか……?」
友「おっ! 男のほうからボクを誘ってくれるのかい?」ワァァ
友「その気持ちはうれしいけど……。今日はちょっと用事あるんだよなー……」ウーン
男「あぁ、じゃあ帰るわ」スッ
ガンッ!!
友「…………」ニコッ
男「なんだよっ!? 暇なら暇ってはっきり言えばいいじゃねぇか!」
友「なっ!! ひ、暇じゃないよっ! 男が暇そうにしてるから、しょうがなくボクが付き合ってあげようかなー、って思っただけさ!」
男「嘘つけ!! ……はぁ、まぁいいよ……。ゲーセンでも行くか?」
友「あっ…………、うん」
――――
友「――なんか、男と来るの久しぶりだねー」
男「えー? あぁ、そうかもなー……」
友「……あ、このぬいぐるみかわいい……! ねぇ、男。これ取ってみてよ!」
男「えー」
友「なっ……。さ、最近、男って否定から入るよね……」
男「いや、確かにそうかもしれないが、それはお前もだぞ?」
友「え? いや、ボクはそんなこと――」
男「――違うよ。最近、友が『そういうコト』ばかり振ってくるってことさ」
友「…………あぁ、そう、かもね……。………ボクも、焦ってるってことかな……」ボソッ
男「まぁ! たまにはそんな我儘も聞いてやるかなっ!」
友「おっ、本当かい?」
男「ふっ……。俺を誰だと思っている……?」
友「………………」
男「UFOキャッチャーの世界で、俺の名を知らないものが居るだろうか? いやっ、居ないっ!!」
友「…………」ウワー
男「かつて、神と呼ばれた実力……。ここで披露してやろう――――ッ!!!」
友「――ねぇ、神?」
男「…………いやぁ、ね。俺もハードル上げすぎたなぁって思ったんだよ。なんだろう、ゲーセン行くとテンション上がっちゃうんだよ」
友「あははっ、どうやらそうらしいね。神は」
男「うぐぐ……」
友「でも、なんだかんだで取ってくれたね……?」
男「え? あぁ、まぁな」
友「ボクは最初のお金しか出してないし、別にいいって言ったのに……」
男「……9割は俺の出資になったからな。大事にしろよ……!」
友「うん。……言われなくても、そうするつもりだよ」
男「なら、よし。……んじゃ、そろそろ帰るか」
友「そうだねっ!」
――――――
男「ふぅ、ようやく帰宅だ……」
男「しかし、明日からの友のからかいがヒドイだろうなぁ……」
男「あんなに、張り切らなければよかった……」
男「まぁ、過去のことは置いておこう。さて、>>109するか」
1.友にメールを送ってみる
2.おや、隣の家から物音が……
3.コンビニでも行こうかな
4.窓から外を見てみる
5.委員長にボランティアのことについて電話する
6.おや、携帯の様子が……
7.何もしない
8.ちょっと、公園に散歩しに行く
男「――ん? なんだ、携帯が……震えているッ!!」
男「……はぁ、寂しいな。なになに……?」
メール:57件
男「あれ、先輩かな。どうしたんだろ」
男「うーんと……最後のメール見てみるか……」
先輩
さよなら。
男「」
男「え、なんで!? め、メールは……!」
先輩
部室で待ってます
先輩
寂しい
先輩
誰とどこでなにしてるの?
先輩
待ってます
男「あぁ、もう!! 学校だなっ!?」イソイソ
男「電話は――でないっ! と、とりあえずメールしとくか」
男「クソッ、間に合ってくれよっ!!」
――――――学校
男「はぁ……はぁ……。ごほっ……疲れた……」ゼェゼェ
男「と、とりあえず、部室に行くか? あ、でも、はぁ、屋上とかか……!?」
男「と、とにかく動かないと……っ!!」
>>114
1.部室に行く(続く)
2.屋上に行く(先輩BAD END)
――――部室
ガララッ!!
男「――先輩ッ!!」
男「はぁ……ぜぇ…………あ、あれ?」キョトン
先輩「……あ、男。…………待ってた……」
男「せ、先輩が、あんなメールするから……。心配しちゃいましたよ……」ハァ…
先輩「……そう」
先輩「……男は、あぁいうメールをすれば、来てくれる」ニコッ
男「……ッ!」ゾクッ
男「せ、先輩? も、もうやめてくださいよ……?」
先輩「……男? 今日はどこに行ってたの?」
男「……ちょっと、買い物ですよ。め、メールもしたじゃないですか!」
先輩「……見てない」
男「え、な、なん――」
先輩「……男が来ない要件のメールなんて、見ない」
男「……と、とりあえず、今日はもう遅いですし帰りましょうっ! ね!?」
先輩「……わかった」
男「……はぁ……」
男「……そ、それじゃ、先輩」
先輩「……男。……また明日」
男「はい……また、明日……」
先輩「…………」ニコッ
――――自宅
男「――はぁ……、先輩にも困ったもんだなぁ……」ドサッ
ヴヴヴ…
男「ん……?」
先輩
おやすみ
男「……ははっ。――おやすみなさいっと……」
男「さぁって、姉さんにちょっと構ったら寝るかっ――」
――朝
幼馴染「――ほぉらっ! 男、起きてってばっ!」
男「うぅん……。あと、3時間……」
幼馴染「寝過ぎよっ!!? もうっ、朝練行っちゃうからねっ?」
男「はいはい、行ってらっしゃい……」
幼馴染「もうっ――」
ガチャバタン
男「うーんっ……! さて、これからどうするかな?」
男「まぁ>>119かな」
1.普通に学校行くか
2.すぐに家をでる
3.ちょっと時間を遅らせて家を出る
4.ん? あの高級車は……
5.あれ、着信があるみたいだ
6.おや、メールが……
7.姉さんを起こしに行こうかな
8.公園にふらりと寄ってみる
男「おや、メールが……」
男「まぁ、先輩だろうな……」パカッ
男「……あれ、二件か……。少ないな」
男「…………………」
男「……ハッ! な、なんか寂しいと思ってしまった……。これが、普通だよな……。……えっと――?」
先輩
おはよう
男「はい、おはようございます……」
先輩
会いたい
男「…………はぁ……」ヨイショ
男「――さてと、それじゃもう家を出ないとなっ!」
――――先輩の家
ガチャ
先輩「…………行ってきます」
先輩「………………はぁ……」ウナダレ
男「あ、おはようございまーす!」
先輩「…………え……?」ビックリ
男「えっ? せ、先輩が来てくれって、メールで送ってきたんじゃないですか……」
先輩「……へ、返信……もらって、ない……から…………」
男「……あれ? あ、忘れてた……」
男「――ま、まぁ!! あれですよ! 先輩だって俺からのメール返信してくれないじゃないですか? これでお相子ってことで……」シラー
先輩「……………………」ジー
男「うっ、ごめんなさい……」
先輩「…………うれしい……」ニコッ
男「な、ならよかったです……」
男「ほ、ほら! 早く学校行きましょう? 遅れちゃいますよっ!」
先輩「……うん」
男「いやーっ! それにしても、今日もいい天気ですねー!」
男「こんな天気のいい日は、テンキーでも――。って、あれ?」クルッ
先輩「………………」ボー
男「せ、先輩? あ、歩かないんですか……?」
先輩「…………て……」スッ
男「え? ……あぁ……、えぇ……歩きましょうよ……」
先輩「…………なら、学校いかない……」
男「えぇー……」
先輩「……ずっと、立ってる」
男「……はぁ…………」
男「――そうですね! 部活の後輩として、先輩をずっと立たせるわけにはいきません!」ギュッ
先輩「……っ」
男「それじゃ、行きましょう!」
先輩「…………うんっ」
男「ところで、先輩。今日は自分の制服着てるみたいですけど、俺のはどこへ?」
先輩「……部屋に飾ってある」
男「え…………じゃあ、返してくだ――」
先輩「――やだ」
男「ですよねー……」ウナダレ
―――学校
友「――いやぁ、まさか抜き打ちテストが入るなんてね……」
男「まったくだ……。これでは、俺の頭が悪いってことが学校にバレてしまう……」
友「いや、それならきっと最初からバレてるんじゃないかな」
男「……なんだよ、友はできたのかよ」
友「……うるさいな、張り倒すよ」
男「ごめん」
友「まぁ……、なにはともあれ。昼休みだね」
友「――ね、ねぇ、男って誰かと一緒にご飯とか食べるの?」
男「いや、その時によるかな」
友「じゃ、じゃあさ――!」
ピンポンパンポーン
『えー、2年の男君。2年の男君。至急、生徒指導室のほうへ来てください』
プツッ
男「…………えー」
友「……男、なにしたのさ?」
男「いやぁ、何もやってないと思うんだけどなぁ……」
友「まぁ、犯罪者はみんなそういうよね」
男「いやっ! 何もやってねぇって!」
男「――ハッ!! も、もしかしたら、もう一人の俺が、か、覚醒して……!?」
友「………………」シラー
男「…………」
男「……まぁ、なんだ…………」
男「……行ってきます……」トボトボ
ガララ・・・
友「……はぁ、間が悪いなぁ……」ガックシ
――生徒指導室
男「あぁ、来てしまった……。この教室入るの初めてだなぁ……、怖いなぁ……」
男「し、失礼しまーす……」ガララ・・・
先生「――あ、男君。待ってたよ!」
男「あれ、先生? ……先生が俺のこと呼んだんですか?」
先生「うん。ちょっと、男君にお話があってね?」
男「そ、そうなんですか。なんだ、てっきり俺はなにかやらかしたかと思って……」
先生「ふふっ、そういう悪いことで呼んだわけじゃないから安心して?」
先生「――でも、これはちょっとダメかな?」
男「えっ?」
スッ
先生「ほら、さっきの抜き打ちテスト……。ほら、いっぱい間違えてる」
男「うっ……。ま、まぁ、そんなに勉強は得意じゃないもので……」
先生「これじゃダメだよ? 勉強する時間がないの?」
男「い、いや、そういうわけじゃ……!」
男「ただ、余り集中できないと言いますか、その……ねぇ?」
先生「ふーん、そっか……。じゃあ――」
先生「――男君は自分の家では、集中して勉強ができないってことだね?」ニコッ
男「へ? あぁ、まぁ……そうとも言いますかね?」
先生「よしっ!」
先生「それじゃ、先生の家で勉強しよっか!」
男「なんでっ!?」
先生「先生の家だったら、マンツーマンで教えてあげられるし、それなら男君も集中できるでしょ?」
男「いやいやいやいや!!」
先生「うん、そうしよう。それがいいよ! 男君は文芸部だよね?」
男「ちょっと待って! あれ、俺はもう行くこと決定なんですかっ!?」
先生「あぁ、大丈夫。お母様にはもう、あいさつしたから」
男「そういうことじゃないよ! しかも、それも初耳だよ! 『お母様』って……」
先生「ふふっ、素敵なお義母さまね」
男「あれ、なんかニュアンス変わってないですか? 気のせいですよね!?」
男「そ、それに! 点数が低いのって俺だけじゃないでしょう!? ……と、友のはどうなんですかっ!?」
先生「あ、ごめんね。やっぱり先生だから、生徒のテストの点数は教えられないの」
男「こんな時だけ都合がいいなっ! で、でも、俺が一番下ってことはないと思うんですけどっ!!」
先生「……うーん、そっか……。それじゃ、しょうがないね」
先生「じゃあ、男君は補習ね?」
男「え、え? 補習……?」
先生「そう。そうだなぁ……。夏休み全部使って、先生が男君をずっと見てあげる」ニコッ
男「え、あ、あの! 俺、そんなに成績悪くないんじゃないかなーって……」
先生「…………今はね」ボソッ
男「い、今なにか聞こえたけどっ!?」
先生「どうする? 先生の家でヤるか、夏休みの学校でヤるか」
男「あれ? もちろん勉強をですよね?? ってか、その二択しかないんですかっ!?」
先生「あ、今ここでもいいよ?」
男「だから、勉強ですよねっ!??」
男「と、とにかくっ! それは納得いかないですっ! 平均点……よりちょっと下……ぐらいは取れてるじゃないですかっ!」
先生「……じゃあ、男君が学年最下位になれば、それでもいいってことね?」
男「まぁ、それなら……しょうがないの、かも、しれないのかも、しれないですが…………」
先生「わかった。じゃあ、それで決まりね」ニコッ
――学校:教室
ガララ
男「うーい……」
友「あ、おかえり。……で、結局なにしたの?」
男「いや、なにもしてないから!」
友「じゃ、なんで呼ばれたのさ?」
男「そうだなぁ……。あえて言葉にするなら『自分との戦い』……かな?」キリッ
友「へぇー、死ねばいいのに」
男「辛辣だなっ!」
キーンコーンカーンコーン
ガララッ…
先生「はーい。それじゃ、授業始めるよー」
男「はぁ、ゆっくり休むこともできねぇ……。――って、あれ?」
友「ん? どしたの?」
男「いや……教科書がねぇ。あれ、持って帰ることなんてないんだけどなぁ……」ガサゴソ
友「も、もー、しょうがないなー。そんな男に、隣の席であるボクが――」
女「――あ、男くん、教科書忘れちゃったの? それじゃ、私が見せてあげる!」
男「おぉ、女さんか。ありがとう……でも、大丈夫だよ。こっちのバカに見せてもらうから」
友「なっ……!」
女「……そっか――」
女「――男くんは、私の教科書は見たくないんだね。……ごめんね、でしゃばっちゃって」
男「い、いやっ! やっぱり見せてもらっちゃおうかなっ! いやー、ずっと女さんの教科書見たかったんだよね!!」
女「あはは、そう? じゃあ机寄せるね!」
友「……………………」イライラ
先生「……………………」バキッ
お嬢様「………………………」ミシッ
男「…………」カキカキ
女「…………」ジー
男「…………」ケシケシ
女「…………」ジー
男(なんだろう、すっげぇ視線を感じる……)
男「…………」チラッ
女「…………」ニコッ
男「はは……」
女「ふふっ」ニコニコ
男「…………」カキカキ
女「…………男くん?」コソッ
男「え? ど、どうしたの?」
女「ううん、呼んでみただけ」ニコッ
男「そ、そっか。あはは……」
女「ふふふっ」ニコニコ
友「ね、ねぇ、男!!? この問題わからないんだけど教えてくれないかなぁ!!」バンッ
男「うおぉうっ!! そ、そんな勢い良く来なくても……」ドキドキ
先生「男君? あとで職員室にきなさい」
男「なんでっ!? 何もしてないじゃないですかっ!??」
お嬢様「男さんは、私の席の隣がいいと思います」スクッ
男「あれ? その席誰かいたよね? なんで空席なの!?」
委員長「うーん……。これは男君の家で話し合わないとだね」
男「やめてっ!!?」
キーンコーンカーンコーン
男「はぁ……。なんだか散々だな……」ウナダレ
女「ふふっ、もう教科書忘れちゃだめだよ、男くん?」ニコッ
男「おっと、そうだね。気をつけなきゃ」
女「……でも、授業中に男くんと11回も目が合っちゃった」ニコニコ
男「え、あぁ……そ、そんなだっけ? あはは……」
男(そりゃ、女さんがずっとこっち見てるからなぁ……)
女「ねぇ、知ってる?」ニコニコ
男「え、な、なにを??」
女「人ってね好きな人がいると、意識的にも、無意識的にも、その人のことを見ちゃうんだって」ニコニコ
男「へ、へぇ……」
女「男くんは私のこと好き?」ニコニコ
男「はえっ!? あ、あの、えっと――」アタフタ
女「私は男くんのこと好きだよ? ううん、大好き」ニコニコ
男「え、あ、ありが、とう……」
女「ってことは、両思いだよね? 私たちって」ニコッ
男「い、いや! あ、あの、ちょっと待っ――」
女「ねぇ、付き合おうよ。今度、男くんのお家行ってもいい?」ニコニコ
男「だから女さんっ!?? ちょ、ちょっと――」
女「あ、大丈夫だよ? 場所なら知ってるから」ニコニコ
女「じゃあ、今度――」
ガララッ!!
幼馴染「――男っ、今日は一緒に帰れるでしょ? ほら、早く帰ろう?」ガシッ
男「お、おぉうっ? あ、ちょっ、引っ張るなって――」ズルズル
女「――ふふっ、男くん。また、教科書見せてあげるね?」
女「 何度でも 」ニコッ
男「――お、幼馴染!? なぁ、なぁって!」
幼馴染「……はい、男」スッ
男「え、あれ……? これ、俺の教科書だ。なんだ、幼馴染が持ってたのか?」
幼馴染「違うよ」
幼馴染「『女子トイレのごみ箱』に捨ててあったの」
男「え…………」
幼馴染「わかるでしょ? もう、あの女には――」
男「――いや、女子トイレには入った記憶ねぇんだけどな……」ポケー
幼馴染「はい?」
男「え?」
幼馴染「…………」パチクリ
男「…………え?」
幼馴染「……まぁ、それでいっか……」ハァ…
男「な、なにが??」
幼馴染「ううん、なんでもない」
男「お、おう、そっか……」
幼馴染「うんっ! じゃ、早く帰ろ?」グイッ
男「……あぁ、そうだな!」
男「あ、ところでさ。俺の体育着知らない? またどっかにいっちゃ――」
幼馴染「知らない」
男「――った……。そ、そっか、なんで失くすんだろうなぁ……。もう4着目だ……」ガックシ
幼馴染「えへへ……」カァアア
男「ん、顔赤いぞ?」
―――自宅
男「あー、何だか今日は疲れたなぁ……」
男「それにしても、幼馴染は大丈夫かな? 顔も赤かったし、息も少し荒かったけど……」
「男ーっ? 帰ってきてるのー?」
男「あ、はーい」
「じゃあ、妹ちゃんがくるからよろしくねー。母さん買い物行ってくるからね」
男「あ、そうなの? はーい」
男「妹か……。そういや、どっか泊まってたんだっけな――」
ガチャバンッ!!
ドタドタドタ
ズテーン
……
トントン
男「はーい?」
妹「入ります。……兄さん、いま帰ってきました」
男「おう、おかえり。……途中転んだろ」
妹「転んでないです」
男「まぁ……いいけど」
妹「……あれ、兄さん?」
男「ん? どうした?」
妹「おかえりのチューはないんですか?」
男「一回もしたことねぇだろ」
妹「はぁー、ダメですね兄さん」
男「え、俺が!?」
妹「こういう時は『ごめんよ妹、気付けなくて……』とか言って、抱きしめてディープキスでもやるものですよ」
男「嘘つけよ。そんな兄貴イヤだわ」
妹「私は大歓迎ですが」
男「はいはい……。――しかし、妹が友達の家に泊まるだなんて珍しいな」
妹「……………………嵌められたんです」ボソッ
男「は? 誰に?」
妹「決まってるじゃないですか。あの――」
ガチャ!!
姉「――男くーんっ! お姉ちゃん、いま帰ってきたよーっ!!」ヒャッホーウ
男「お、姉さんおかえり。ほら、さっき妹も帰ってきたんだ」
妹「ただいま、姉さん」ニコッ
姉「…………へぇ、帰ってきてたんだ~」
妹「はい、おかげさまで」ニコニコ
姉「もうちょっと、お友達と仲良くしてればよかったのに」
妹「はっ、誰があんなガチレズと……」
姉「お似合いだよっ?」ニコッ
妹「それは、どうも……」
姉「…………」ニコニコ
妹「…………」ニコニコ
男「うん、仲のいい妹と姉さんを見るのは、俺好きだよ!」ニコー
姉「そ、そうだよねーっ!! 妹ちゃんがいなくて、姉さん寂しかったなーっ」ニゴッ
妹「わ、私も寂しかったです」
―――翌日
ジリリリリ!!
男「――ハッ!!?」ガバァッ
男「……あぁ、しまった……。そういや、今日は祝日だから学校休みだったか……」
男「ちくしょう……。こんな早起きしてしまうだなんて……ッ!!」ギリリッ
「男ー? 起きてるの―?」
男「はーい、今起きたよー」
「それならよかった。どうせあんた暇でしょー? 今日は幼女ちゃんが遊びに来るから、相手してあげてね。それじゃ、仕事行ってきまーす」
男「……え、えぇー……。いや、まぁ暇なんだけどさ……」
男「それにしても幼女ちゃんかー。なんか、休みのたびに会ってる気がするけど……――」
――――
ピンポーン
男「はーい」ガチャ
幼女「おはよー! おとこ、遊びに来たよ!」
男「うん、おはよう。よく来たねー」ナデナデ
幼女「えへへへ……」テレッ
男「よーし、何して遊ぶ?」
幼女「おままごとー!!」
男「お、いいね」
幼女「じゃあ、じゃあね。私がお母さんで――」
男「うんうん。それじゃ、俺はお父――」
幼女「――おとこが、奴隷ねっ!」
男「ははー、マジかー。そいつぁ、『おままごと』に収まるのかな」
幼女「奴隷はねー? 私のいうことに従わなくちゃいけないんだよー!」フンゾリ
男「へぇー……。もはや、ただ一方的な王様ゲームだね」
男(まぁどうせ、抱っこしてとかそんなことだろう。適当に付き合っておくか……)
――――――
幼女「おとこ! ジュースを持ってきなさい」
男「はっ、おおせのままに」
男「――おまたせしました! どうぞ」
幼女「よろしい。それじゃ、ご褒美に私をナデナデしてもいいよ!」
男「真でございますかっ! 感謝の極み!」ナデナデ
幼女「う……ん……えへへ……」ニヨニヨ
男「……幼女ちゃん。これ、いつまで続くのかな……?」
幼女「あー! 勝手にナデナデやめちゃダメー!」
男「あ、おぉごめん」ナデナデ
幼女「えへへー……」
トントンガチャ
妹「入ります。兄さん、少し勉強を教え……て……」
男「ん? あぁ、悪いな。いま幼女ちゃんが来てるんだ」
幼女「……ちっ、邪魔なのが…………」ボソッ
男「ん? なんか言った?」
幼女「うん、こんにちわーって言ったの!」
男「お、やっぱり幼女ちゃんは偉いねー?」ナデナデ
幼女「えへへ……」テレッ
妹「いつからウチは託児所になったのでしょうか? まったく……、兄さんも頼まれたのだとは思いますが、そんなことよりも妹を優先していただかないと……」
男「意味がわかんねぇよ」
幼女「おとこっ! ねぇ、抱っこして!」
男「はいはい、仰せのままに」ヨイショ
幼女「……ん……それじゃ、ご褒美にチューしてあげる!」チュッ
男「へ? い、いやんむっ――!」
妹「」
妹「な、ななななな……」プルプル
幼女「えへへーっ!」ニッコリ
男「あ、あはは……。よ、幼女ちゃん? あんまりこういうことしちゃダメだよ?」
幼女「いっぱいはしないよーっ! だってご褒美だもん!」ニコニコ
男「あ、いや、そういう意味じゃ……。まぁ、いい――」
妹「――よくありませんッ!!」ダンッ!!
男「な、なんだよ」ビクッ
妹「兄さんっ! 妹というものがありながら、他の女に唇を許すとは何事ですかッ!!」
男「いや、妹関係ないだろ。……それに、こんな小さい子なんだからさ」
妹「小さい大きいとかっ! 若いとか若くないとか!! 男性だとか女性だとかは関係ないんですッ!!」
男「いや、男はイヤだな」
妹「と・に・か・く! ほら、早くこの妹にもキスしてください! そうしたら許します」
男「誰がするかっ。まったく……」
幼女「おとこっ! おなか空いた―!」グイッ
男「えっ? あぁ、もうこんな時間か……。じゃあ、どっか食べに行こっか?」
幼女「うんっ! デート!」
男「ははっ、そうだね」
妹「ダメですっ! デートならこの妹と行きましょう!!」
男「あーはいはい。妹は留守番お願いな?」
妹「嫌です。私も行きます」
男「もう少しで母さん帰ってくるからさ」
妹「嫌です」
幼女「いもうとっ!」
妹「……なんでしょう?」
幼女「…………」スッ
妹「なっ……!? 何故、これを……!!?」
幼女「……こんな写真見たら、男は可愛い妹のことをどう思うだろうね?」
妹「………………くっ!」
男「んー? なに話してるんだー?」
幼女「いもうとはやっぱりお留守番してるって!」
男「お、納得してくれたか」
妹「はい……ッ! どうぞ、お気をつけて……ッ!」ギリッ
男「えっ、なんでそんな悔しそうなのっ!?」
幼女「おとこっ! 早くいこー?」
男「あ、うん……。じゃ、じゃあ、留守番よろしくな?」
バタン
妹「……油断しました…………」ギリッ
―――自宅
男「たっだいまー」ガチャ
妹「――ッ! お、おかえりなさい兄さん」アタフタ
男「ん? どうしたんだ、そんな慌てて」
妹「い、いえ。こんなに早く帰ってくるとは思わなかったもので……」
男「あぁ、途中で幼女ちゃん寝ちゃってな。いま、届けてきたんだけど……」
妹「………………」
男「……でだ、妹よ」
妹「…………はい?」
男「お前は俺のベッドで、俺のパンツを持って何やってるんだ?」
妹「…………せ、洗濯しようと思いまして……」シラー
男「…………妹よ、ちょっと頭だしな」
妹「は、はい……」
男「…………」スッ
妹「…………ッ!」ビクッ
男「わざわざありがとな。助かるよ」ナデナデ
妹「……ふぇっ!? あ、いえ、そんな大したことでは……」
男「いや、助かってるよ……。さぁて、俺も疲れたし寝るとするかなぁ……」
男「――だから、俺のベッドからどいてくれない?」
妹「は、はい。それでは私は洗濯してきます……」
男「ごめんな、よろしくー」ウトウト
ガチャバタン
妹「……危なかったです……。いや、もはやアウトな気もしますが……。兄さんがぼーっとしてて助かった……」
妹「しかし、また写真を撮られては敵いません。少し自重しなくては……」
男「――ってことがあったんだよ」
お嬢様「……うふふっ、兄妹仲がいいんですね」
男「あー、まぁ悪くはないかな?」
お嬢様「私も、いつか義妹さんと仲良くなりたいです」
男「……あれ、今なんか違うニュアンスで聞こえたんだけど気のせい、かな」
お嬢様「気のせいかもしれませんね?」
男「うーん、なんだかお嬢様と話してると、話のペースを持ってかれる気がするよ」
お嬢様「いえ、そんなことは――」
ガララッ!! バンッ!!
「おいッ!! このクラスに男ってやつがいるだろ!! ちょっと来てもらおうか!」
お嬢様「……お、お知合いですか??」
男「いやぁ、知らない人だなぁ……。俺、何かしたっけ……」
ガヤガヤ
「おい、アレってこの学校で一番のヤンキーの取り巻きじゃないか?」
「男くん、ヤンキーさんに目を付けられちゃったんだ……。かわいそう……」
「おいおい、マジかよ。あの、目があっただけで殺られるって噂の!??」
「あぁ、あの噂は本当だぜ……。おかげで、俺の髪の毛も……ッ!!」
「いや、それはもともとだろ」
ガヤガヤ
「うるせぇぞッ!! どこだッ、早く出てこねぇか!!」
男「……あぁ、そういうことか……。じゃあお嬢様、俺はちょっと行ってくるよ」
お嬢様「い、行くんですか??」
男「いや、最初は誰かと思ったけど……。まぁ、心配いらないよ」
お嬢様「……? では、念のため、私の連絡先を教えておきますね? もし、何かあったら連絡してください」
男「お、ありがとう。まぁ、何もないと思うけどねー……。あ、じゃあ俺のも教えるよ」
お嬢様「あ、男さんのは知ってるから大丈夫です」ニコッ
男「えっ?」
男「――はいっ。俺が男です」
「お前か……。ヤンキーさんがお前を呼んでる。着いてきてもらうぜ」
男「……お、俺がいったい何をしたっていうんだッ!??」
「知らねぇよ。ただ、ヤンキーさんがキレてることは事実だ。……何したんだか知らねぇが、ご愁傷様ってやつだな」
男「く……クソォ!!」
「オラッ! 行くぞ」グイッ
お嬢様「男さん……」
―――学校:体育倉庫前
「ヤンキーさんっ! 男ってやつ、今連れてきました!!」
ヤンキー「ふぅ……。やっと来たか……。久しぶりだなァ、男?」
男「な、なんだよっ!! 俺にいったい何の用があるっていうんだー!」
「うるせぇぞお前!」ガシッ
ヤンキー「おいッ!!」
「は、はいっ!!」ビクッ
ヤンキー「お前はもういい。あたしはこいつとサシで話があるから、さっさとどっか行きな!」
「す、すいませんでしたッ! 失礼します!」アタフタ
ヤンキー「――ったく、どこで誰が見てるかわからねぇ。倉庫の中に入りな」
男「……くっ!」ギリッ
コソコソ
「これから、ヤンキーさんの地獄のリンチが始まるんだろうな……!」
「あぁ……。ホント、あの男ってやつ何したんだろうな?」
「さぁ? でも、あんなにキレてるヤンキーさん久しぶりに見たぜ……!!」
「……し、しばらく近づかないでおくか……」
ヤンキー「おとこぉ~! ねぇ、どうして最近会いに来てくれなかったのさー! 寂しかったよぅ……」グスッ
男「あ、あはは……。ごめんね、い、いろいろあったんだよ……」ナデナデ
男「まぁね。……しかし、こんな呼び出し方をされるとは思わなかったよ」
ヤンキー「ご、ごめんね! あ、あの、もうちょっと我慢するつもりだったんだけどねっ? 今日、偶然登校中のおとこを見ちゃって……」スリスリ
ヤンキー「その時は、周りにほかの人たち居たから、話しかけられなくてね……。あのっ、今日どうしても会いたくなっちゃったの……」シュン
ヤンキー「ご、ごめんね? め、迷惑だったよね……」
男「ははっ、そんなことないよ。ビックリはしたけど、俺も会えてうれしいよ」ナデナデ
ヤンキー「ほ、本当っ!? 許してくれる?」
男「別に、最初から怒ってなんかないけどな」
ヤンキー「えへへっ! やっぱりおとこは優しいね……!」
男「ただまぁ、次からはこういうのやめてね? 俺、すげぇクラスに戻りづらいぜ」
ヤンキー「うん……。おとこに迷惑がかかるなら、もうしないよ!」
ヤンキー「で、でもっ! あたし、もっとおとこに会いたい……」
ヤンキー「ねぇ、今度はいつ会える……かな?」スリスリ
男「会おうと思えばいつでも会えるんだから、そんな気にすることでもないと思うけど……」
ヤンキー「うぅー……」
ヴヴヴ…
男「ん、携帯……? いや、俺のじゃないか」
ヤンキー「あ…………」
男「あぁ、ヤンキーさん――」
ヤンキー「『さん』は付けないでよぅ……」
男「あ、あぁ、ヤンキーの携帯じゃないの?」
ヤンキー「いいの! 別に大した内容じゃないよ……」
男「ダメだよ。もし、緊急な用事だったらヤバいでしょ?」
ヤンキー「うー……、おとこがそういうんだったら……」
ピッ
ヤンキー「はい、何の用だ? え? ……お前、まさかその程度のことで電話してきたわけじゃねぇよな……? もういいッ、二度とかけてくんなッ!!」
男「……いつもながら、すげぇ変わりようだ……」
ヤンキー「――ほらぁ、ね! 全然大した内容じゃなかったよぅ!」スリスリ
男「あ、あはは……」ナデナデ
ヤンキー「……あっ、そうだおとこ! 今度いっしょに海とかいこーよぉ!」
男「あー、そんなのもいいかもしれないね。……でも、ヤンキーは電車とかに乗ったら目立っちゃうんじゃない?」
ヤンキー「私がバイク運転するから! おとこは、こーやって私に抱き付いてくれてればいいよ?」ギュー
男「男らしいな」
「――へぇ、そういうことでしたか」
ガララッ!!
ヤンキー「――ッ!! だ、誰だッ!」
男「……あ、あれ、お嬢様……?」
お嬢様「ふふっ、男さんが連れていかれて何事かと思えば……。これは、意外なところを見てしまいました」
ヤンキー「み、見張りのやつらは何やってんだ……!」
お嬢様「彼女らを責めないであげてくださいね? 彼女たちでは、私を止めることなんてできないんですから」
男(外になんかスーツ姿の人が見える……)
ヤンキー「……で、いったい何の用だよ」
お嬢様「いえ、なにも。私は男さんを連れ戻しに来ただけですから」
ヤンキー「調子に――!」
お嬢様「――そうでした。先ほどの男さんとのやり取り、録画させていただきました」スチャ
ヤンキー「……なんだよ、それで脅そうってのか?」
お嬢様「いえ、そんなことは。……ただ、男さんを返していただけないのであれば……」ニコッ
ヤンキー「……お、おとこぉ……」ナミダメ
男「はは、しょうがないよ……。――さて、そいじゃ教室に戻るかな」
お嬢様「ふふっ、はい。では、一緒に戻りましょう?」
男「そうだね、そうし――おぉっとっ!?」
お嬢様「えっ?」
ドンッ
バキッ
男「――あぁ!! ご、ごめんお嬢様! よろめいた拍子に、そのカメラ壊しちゃった……」
お嬢様「お、男さん……」
ヤンキー「おとこぉ……!」
男「今度、責任をもって弁償するよ……」
お嬢様「……ふふふっ。大丈夫ですよ? もう、買い替える予定のカメラでしたし……」
お嬢様「…………ただ、男さんのデータが無くなってしまったのは痛いですが……」ボソッ
男「えっ?」
お嬢様「いえ。……それに、録画したというのはウソです」
ヤンキー「はぁ?」
男「えぇ!?」
お嬢様「ふふっ、それでは。私のカメラを壊した男さん? 教室に戻りましょう?」
男「うぐっ……。はい……」
男「――それじゃ、ヤンキー。とりあえず俺は戻るよ」
ヤンキー「うん……」シュン
男「今度、一緒に海行こうな?」
ヤンキー「……うん!!」ニパー
お嬢様「――あ、男さんっ?」
男「ん?」
お嬢様「その……私とも、今度どこかにお出かけしませんか……?」
男「……うん、もちろん!」
―――翌日
男「おっはよー……」
友「あぁ男、おはよう。…………なんだか眠そうだね?」
男「あぁ、ゲームやってたからな」ウトウト
友「そこらへん歪みないね」
友「と、ところで、なんだけどさ」
男「んー?」
友「い、いや、その……。い、いつ誘ってくれるのかな……って思ってさ……」モジモジ
男「え? なにに?」
友「蹴るよ?」ゲシッ
男「もう蹴ってるッ!?」
男「で、出かけるってやつだったか?」
友「そ、そうだよっ! 男が、あまり誘ってくれないから……」ボソッ
男「そうだなぁ……。それじゃ、今度の>>189でどうだ?」
友「じゃ、じゃあ>>189だねっ!? ぜ、絶対だからね!?」
男「おう」
友「た、楽しみにしてるよ……」
>>192
土曜日or日曜日
土曜日……だよね。
男「しっかし、別に遊びに行くぐらいいつでもいいだろうに……」
幼馴染「――あっ! 男、こんなところに居たんだ」
男「ん? おぉ、なんだ探してたのか?」
幼馴染「うん、携帯マナーモードにでもなってるんじゃない?」
男「あぁ、そういやしてるかも。で、なんの用事だ?」
幼馴染「このまえ、さ? 男って友っていう……雌豚……と買い物行ったって言ってたよね?」
男(なんか変な声聞こえた……)
男「あぁ、行ったな」
幼馴染「だから、ってわけじゃないんだけどさ。今度、私の買い物に付き合ってくれない?」
男「えぇー……」
幼馴染「……行ってくれないの? なんで? あの女とは行ったのに、私とはイヤだってこと?」
男「へ? あ、いや、じょうだ――」
幼馴染「私、男に嫌われるようなことやったかな? それなら言って、すぐに直すから! ねぇっ!!」
男「い、いや、冗談だって! じゃ、じゃあ次の>>195に行こう! な?」
幼馴染「あっ……。ご、ごめんね、興奮しちゃって……」
幼馴染「わかった。次の>>195だね。やっぱり男は優しいね?」
男「まぁ、体の半分は優しさでできてるって評判だからな」
1.土曜日
2.日曜日
―――学校:階段
男「――あれ、なんか忘れてる気がする……」
男「いや、まぁ、大したことじゃないかな?」
後輩「せーんーぱいっ!!」ダキッ
男「うおぉ! び、びっくりした……。お前はそれ以外のやり方を知らないのか」
後輩「えっへへ~。でも、ほとんど毎日やってるんですから、いい加減慣れてくださいよぉー」
男「いや、学校でやられたのは久しぶりだな。……そういや、今日の朝は会わなかったな、珍しく」
後輩「あー……、今日は燃えるゴミの日でしたからね」
男「ん? 関係あるのか?」
後輩「大アリですよー! もう、袋もって家まで帰るの大変なんですから!」
男「へぇー、そうなの――ん? 持って帰る???」
後輩「あ、さては先輩。今日の朝、私に会えなくて寂しかったんですかっ?」
男「ちょっとな。例えるなら、毎日届いてる新聞が一日来なかった感じだ」
後輩「……まぁ、いいでしょう! ところで先輩?」
男「ん、どうした?」
後輩「この前、映画のチケットをもらってしまったんですっ! だから、ぜひ一緒にどうかなと思いましてっ」
男「あー、映画か。たまにはいいかもな」
後輩「本当ですかっ!? それじゃあそれじゃあ! 今度の>>197に行きましょうねっ」
男「おう、わかった」
1.土曜日
2.日曜日
―――学校:教室
男「ん? なんか大変なことになっている気がする……」
お嬢様「あ、男さん!」
男「おー、お嬢様か。どうしたの?」
お嬢様「あ、いえ……。男さんを見かけたので、つい……」
男「あはは、そっか。でも、最近お嬢様も遅刻ギリギリで学校来るようになったな。いいことだ」
お嬢様「い、いいことなのかはわかりかねますが……。そうですね、最近はそんな感じです」
男「なんかあったの? まぁ、たまに車乗せてもらってるから、俺としてはうれしかったりするけど」
お嬢様「ふふっ、それはよかったです。……最近、家のほうで準備があるんです」
男「準備? なんか忙しいんだな。さすがお嬢様だ」
お嬢様「いえ……。そろそろ、私の家に新しく人が増える予定なんですよ」
男「あ、そうなんだ」
お嬢様「えぇ、男さん……?」ニコッ
男「……え?」
お嬢様「いえ、なんでもありません」
お嬢様「――ところで、私のカメラを壊した男さん?」
男「うぐ……。なんでしょうか、お嬢様……?」
お嬢様「いえ、大したことではないのですが……」
お嬢様「私、一回ウィンドウショッピングっていうのをやってみたいのですが……。家の者は一人ではいかせられない、というので……」
男「あー……。まぁ、俺でよければ。この前一緒に出掛けるって約束したしね」
お嬢様「わぁっ! 本当ですか? それじゃあ次の>>201でいいですか?」
男「わかった! >>201だね」
1.土曜日
2.日曜日
べ、別に、日曜日でもええんやで……?
―――学校:教室
男「……なにか、忘れているような……?」ウーン
委員長「あ、男君。ちょうどいいところに!」
男「委員長、どうしたの?」
委員長「男君覚えてる? 今度の週末に……」
男「あ、あぁ~、ボランティアか。そういや、そんなのもあったな」
委員長「も~……。一回男君の家に行って、確認しなきゃかな?」
男「いや、もうバッチリだからっ! うん、バッチリ!」
委員長「本当かなぁ~?」
男「だ、大丈夫だって! 委員長は心配性だなぁ……はは……」
委員長「まぁ、細かいことはあとで男君の携帯にメールでもするよ」
男「おう、よろしくたのむわ……。しかし、そうなると本当に俺が行かなきゃいけない意味がよくわからないな」
委員長「ん? どうして?」
男「いや、だって俺、ほとんど何もしてないだろ?」
委員長「ははっ、男君は何もしなくていいんだよ? ただ、居てくれれば」
男「え? あぁ、そう……なのか?」
委員長「うん」ニコッ
男「――ッ!」ゾワッ
男「し、しかし、また変なところをゴミ拾いするもんだよな……。あんなとこ誰も来ないだろうに」
委員長「そうだね。『誰も来ない』からいいんだよ」
男「あー、たしかに、そういうとこにゴミ捨てそうだもんなー……」
委員長「……そうだね」
委員長「――とりあえず、男君。今度の>>205だからね? 忘れちゃダメだよ?」
男「あぁ、わかった」
1.日曜日
2.土曜日
―――学校:部室
男「なんか最近、よく物事を忘れる気がするなぁ……」
先輩「……男、どうかした……?」
男「あぁいや。なにか、取り返しのつかないことになっている気がして……。まぁ、気のせいだとは思うんですけど」
先輩「……そう」
男「あっ! そういや、もう一週間たったんじゃないですか?? 上着返してくださいよー」
先輩「……やだ」
男「えー……。それはズルいっすよ先輩! 一週間って約束じゃないですか」
先輩「…………」フイッ
男「せ、先輩……」
先輩「……男……毎日、部活くる?」
男「え? いや、正直毎日はちょっと……。……でも、入部したとき先輩も毎日は来なくてもいいって言ってたじゃないですか」
先輩「……じゃあ、入部したとき……毎日来て、って言ったら……男は来た?」
男「あー、まぁ来てたかな??」
先輩「…………じゃあ、明日から毎日来て」
男「え、そうなるんですか?」
先輩「……そうなる」
男「えぇー……」
先輩「……それか」
男「それか??」
先輩「……今度の>>209に、私の家に来て」
男「先輩の家ですか? まぁ、いいですけど……」
先輩「……それなら、決まり」
先輩「…………逃がさないから……」ボソッ
1.日曜日
2.土曜日
―――自宅
男「別に何かしたってわけじゃないんだけど、疲れたなぁ……」ハァ…
男「まぁ、一応上着は返してもらったし、先輩との約束も守らなきゃなぁ……」
姉「お・か・え・りーっ!! 男くんっ!」ダキッ
男「うわっ、びっくりした……! ただいま、姉さん」
姉「もぉー、どうしてこんなに帰りが遅いのっ! お姉ちゃんずっと待ってたんだからね?」
男「ははっ、ずっとって大げさな……。まぁでも部活に顔出したり、いろいろとね?」
姉「ふ~ん……。部活、ね……」スンスン
姉「ねぇ、男くん?」
男「ん? どしたの、姉さん?」
姉「この上着、どうしたの?」
男「へ? ……どうしたのって、これは俺の上着だけど……?」
姉「そんなのはわかってるよッ!!」
男「ね、姉さんっ?」ビクッ
姉「…………ダメだね、この上着。捨てなきゃ」
男「は? ちょ、ちょっと待って姉さん!?」
姉「ダ~メっ! ほらっ、早く脱いでっ」グイッ
男(す、すごい力だ……)
姉「これはお姉ちゃんがちゃんと処分しておくから、男くんは安心してね?」
男「い、いや、でも……」
姉「そうだっ! 今度の>>213にお姉ちゃんとお買い物行こっか? ね?」
男「お、お買い物??」
姉「うんっ! 新しいのはお姉ちゃんがお金出してあげるから! ふふふっ、男くんとお買い物! 楽しみだなぁ~」ルンルン
男「えっ、ちょっと待っ――」
姉「じゃ、お姉ちゃんちょっと用事出来ちゃったからっ! 今度の>>213、忘れちゃダメだよっ?」
1.土曜日
2.日曜日
―――学校:生徒指導室
男「……い、いや、そんなはずは……」
先生「……そんなはずは?」ニコニコ
男「…………あ、あの、今回だけ見逃すなんてことは――」
先生「…………」ニコニコ
男「――あ、無理なんですね」
先生「あぁ~、先生も男君には頑張ってもらいたかったけど……。こればっかりはしょうがないよね?」ニコニコ
男「そ、それにしては随分うれしそうですね……」
先生「そんなことないよ? あー、しょうがないよね。残念だなー、先生も用事があったんだけどなー」
男「な、なら、次からは気を付けますので、その、今回――」
先生「 ダ~メ 」ニコッ
男「で、でもっ――!」
男「名前の書き忘れぐらい、見逃してくれても良いじゃないですかっ!!?」ダンッ
先生「男君、そんなこと言っちゃダメだよ? 名前っていうのはね、男君のお養父さんとお養母さんが一生懸命考えてくれたものなんだからね?」
男「いや、それはそうですけど! なんか、話がずれてる気が――」
先生「――とにかくっ! 今回のテストで0点をとったのは男君だけです。……わかるよね?」
男「は、はいぃ……」
先生「はい、よろしい。じゃあ、今度の>>224に学校に来ること。わかった?」
男「え……。は、早くないですか?」
先生「ふふっ、善は急げ。ってね?」
男「はぁ…………」ガックリ
1.土曜日
2.日曜日
―――自宅:夜
男「……いやー、名前は書いた記憶があるんだけどなぁ……。……しかし、土日にすごい予定が詰まってしまっている気がする……」
男「いやまぁ、大したことはないだろう。さて、ゲームでも――」
キラメキラリー♪
男「――ん? 電話……?」
男「……しかも非通知か。と、とりあえず出てみるか」ピッ
男「も、もしもし?」
女『あ、もしもし男くん?』
男「あ、そう、ですけど……って、女さん??」
女『ふふっ、そうだよ? ごめんね、男くんの声が聞きたくなっちゃって……』
男「あ、あはは……。非通知だったから、誰かと思ったよ」
女『あ、そうなの! 電話番号の最初に184ってつけると非通知になるんだって。男くん知ってた?』
男「まぁ、それは知ってたよ。……って、それより女さん。なんで俺の電話番号知って――」
女『男くん知ってたんだ? ふふっ、物知りだねっ?』
男「あ、あぁありがとう。で、なんで俺の――」
女『それでね。今日、男くんに電話したのはね? まぁ、声が聴きたかったのももちろんあるんだけど……』
男「あ、いや、待ってっ!? あの、俺の話を――」アタフタ
女『今度の>>227、デートしようよ? 最初はやっぱり、男くんのほうから誘ってほしかったけど……。でも、我慢できなくて……。いいよね? えへへ』
男「いやいやっ!? そ、その日は用事があったような――ッ!!」
女『それじゃ、楽しみにしてるね? ふふっ、楽しみで寝れないかも……。おやすみ、男くん』
ピッ
男「ちょ、ちょっとまっ――。あぁ、もう切れてるしっ! い、急いでかけなおさないと……って――」
男「――俺、女さんの電話番号知らねぇよ……」
男「ってことは、直接女さんに会って言うしかないけど、今日は水曜日で……、明日は祝日」
男「……金曜日しかない、けど……。楽しみとか言ってたしなぁ、そこで断るのも……」
男「はぁ……>>227かぁ……」ガックリ
1.土曜日
2.日曜日
―――自宅
男「あぁ……、まさかこんなことになるなんてなぁ……」
男「はぁ…………」
男「……まぁ、なんとかなるか」
男「決まってしまったものはしょうがない。人生、結局はどうにかなるもんさ」
男「さて、気を取り直してゲームでも――」
バンッ
妹「兄さんッ!!」
男「おぉうっ!?」ビクッ
男「な、なんだ妹か……。急にどうした? てか、ノックぐらい――」
妹「最近、兄さんは私に冷たいです」
男「へ? いや、そんなことはないよ。平常運転だ」
妹「……この前、幼女ちゃんとデートに行きましたよね?」
男「デート? いや、あれはそんなもんじゃ……」
妹「いえ、デートです」
男「お、おう……。それで、それがどうしたんだ?」
妹「ズルいです」
男「い、いやズルいってお前……」
妹「ズルいです。幼女ちゃんとは喜んで出かけたのに、私とはそんなことありません。それに、兄さんは私と出かけてくれなくなりました。妹なのに。ほかの女とは出かけるのに、ズルいです」
男「い、妹?」
妹「ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい――ッ!」
男「……ッ!!」ゾクッ
男「わ、わかった! な、なら、今度の>>238に出掛けよう!!? そ、それでいいか??」
妹「…………デートですか?」
男「お、おう。で、デートだ」
妹「――わかりました。今度の>>238ですね。……楽しみにしてます、兄さん?」ニコッ
1.土曜日
2.日曜日
―――翌朝 自宅
男「……やばい、やばいぞ」
男「き、気付けば、今度の土日っていろんな人と約束が入ってしまってるのではないか……??」
男「と、とりあえず女さんもあるし、妹も……。あれ、姉さんとも約束――いや? あぁっ、学校にも呼ばれてるしっ! 先輩の家に行くのと、ゴミ拾いのボランティアと……。お、お嬢様にも付き合うっていっちゃった気がするし……。……あ、映画のチケット……。そういや、幼馴染とも約束しちゃったし……。……あれ、友ともかっ!??」
男「……………………」
男「……………よし」
男「ゲームするか」
ピンポーン
男「……ッ!」ビクッ
男「な、なんだ、お客さんか……。はーい?」
ガチャ
幼女「おはよー! 会いにきたよっ!」ニコッ
男「あ、あれ、幼女ちゃん……? ……今日来るとは聞いてなかったなぁ……」
幼女「おとこ、今日おやすみなんでしょっ?」
男「え? あぁ、そうだけど……。よく知ってたねー?」
幼女「うんっ! ……男の事なら、なんでも知ってるよ……?」ボソッ
男「ん? 何か言った?」
幼女「だって、この前のデートでおとこがいってたもん!」ニコニコ
男「あれ、そうだったかー」
男「……とりあえず、どーぞ?」
幼女「ううん、今日はいーのっ!」
男「あれ、それじゃあ何しに来たの??」
幼女「今日はねー? このあとお出かけするから、遊べないんだけど……。でもねっ? 今度の>>245に、おとことデートしよーって思ったの!」
男「ヴっ……。よ、幼女ちゃん……? べ、別の日とかってどうかなぁ……? あの、俺って――」
幼女「――……グスッ。おとこ、デート……ひっく、してくれない……?」ウルウル
男「――いやぁ!!? しようしようっ! いやー、その日暇でしょうがなかったんだよねっ!!!」アセアセ
幼女「――わかったっ! それじゃあ……約束破っちゃ、ヤダよ……??」ニコッ
1.土曜日
2.日曜日
―――数分後
男「……幼女ちゃんとも約束してしまった……」
男「ま、まぁ、あれは断れねぇよ……。うん、人として断るわけにはいかなかった」
男「こうなってしまった以上はしょうがない。明日の学校で、友にでも日にちをずらしてもらえるように言えば、それで大丈夫だろ」
男「さて、ゲームを――」
ワッターシハゲンキトリッパー♪
男「――って、また電話っ? ……あ、もしかして女さんかもっ!!」カチッ
男「も、もしもし女さんっ!!?」
ヤンキー『……男、私だよ?』
男「あれ、ヤンキーか……。あはは、ごめん勘違いしちゃ――」
ヤンキー『――ねぇ、女って誰?』
男「同じクラスの女の子だよ。さっきその子と電話しててさ、かけ直してきたのかと思って出ちゃったんだ」
ヤンキー『お、男はさ、その女って人とどういう関係なのっ!?』
男「どういう関係……って。まぁ、友達だよ」
ヤンキー『……本当? 信じていいの?』
男「え? そ、そりゃまぁ信じてくれると助かるけど……」
ヤンキー『うんっ! 男がそういうんだったら、私信じる!』
男「お、おう……。ありがとう……?」
ヤンキー『うん、だって男が大好――あ、ちょ、ちょっと待ってねっ!??』
男「う、うん……」
ヤンキー『ナンダヨッ! イマトリコミチュウダカラコッチクルンジャネェッテイッタダロッ! ヤクタタズガッ!』
ヤンキー『――あ、おまたせっ! えへへ、でねー? 今日男に電話したのはね?』
男(なんか聞こえた)
ヤンキー『今度の>>249に海行きたいなって思ったんだ! この前一緒に行ってくれるって言ってたよね?』
男「や、ヤンキーもかぁ……。あ、あのさ? 別の日に――」
ヤンキー『ごめんねっ? 男が海一緒に行こうって言ってくれたのが、私すっごいうれしくて……。私ってこんな性格だから、いままでそういうこと言ってくれる人なんかいなかったし、男が初めてなの! あ、移動はやっぱりバイクでいいかな? 怖くなんかないよー、ちゃんとそのときは安全運転で行くからっ! なにより、せっかく男と一緒にいるんだから、早く着いちゃったらもったいない……かな、とか思ったり……。い、いや、私なに言ってるんだろうねっ!? ご、ごめんね、変な事いって! 本当に私うれしかったの! 男、ありがとう……?』
男「……うん、もうどこでも行ってやるよちくしょう」ヤケクソ
1 土曜日
2 日曜日
―――自宅
男「……なんてこった……」
男「いや、え、なんてこった……」
男「普段土日に用事なんて入らないってのに……」
男「……ま、まぁなってしまったものはしょうがない。ポジティブに考えなければ」
男「えーっと……。全部で12人と予定が入ってて……」カキカキ
男「とりあえず、日曜日のほうは深く考えなくてもいいよな、3人だし……。……いやまぁ、一日に3人と出かける約束したっていうのもなかなかのものだけど……」
男「問題は土曜日だ。9人って……」
男「ま、まぁまぁ落ち着け、俺。まずは、まずは人数を減らすことを考えよう」
男「よし……。それじゃ友から順番に、別の日にできないか相談してみるか」
男「まぁ、大丈夫大丈夫。人生どうにでもなるものさ」
友『え、あ、お、男かい?』
男「おうよ。急に電話してごめんなー?」
友『い、いやっ、ぜ、全然構わないよ! むしろ毎日電話して来てもいいぐらいだよっ』
男「いや、それはしないけど……」
男「ま、いいや。で、今度の週末のことでちょっと話があってさ」
友『……う、うんっ』
男「悪いんだけど――」
友『――やっぱり中止とか言ったら、垂直落下式ブレーンバスターだからね』
男「ち、違うよ、やめろよっ!?」
友『なーんだ。で? 悪いんだけど……なに?」
男「い、いやぁさ、その出かけるってのを別の日にできないかなー……って」
友『えー……別の日?』
男「うん。来週とかさ」
友『……はぁ、しょうがないなぁ……』
男「お、さすがっ! ありがとう!」
友『しかし、どうしたの? 急な用事が入ったとか?』
男「あ、あぁ……うん。そ、そんなとこかな……」
友『………………男?』
男「ん、ん?? なんだよ?」
友『まさかとは思うけどさ? 別の人と約束しちゃったとかじゃ、ないよね?』
男「……………………ち、違うよ」
友『…………へぇ』
友『……前言撤回。ボク、その日しか認めないから』
男「あ、あの、友さん?」
友『それじゃあッ! また明日学校でッ!!』
ブチッ
男「…………友は無理かぁー……」
男「まぁまぁ、失敗は誰にでもある」
男「さて、次は幼馴染に頼むかな」
ガララッ
男「おーい、幼馴染ー」
ガララッ!! バンッ
幼馴染「はーいっ! どうしたの?」
男「出てくるの早いな」
幼馴染「だってうれしくて……。こんな風に男と窓から話すのって、なんだか久しぶりだね?」
男「そうだなぁ、最後にやったのは中学のころか」
幼馴染「そう、中学二年生の8月23日。たしか……、男が『機関に狙われ――」
男「――まぁ、その話はいいんだ。落ち着こう、深呼吸だ」
男「で、でな? 今度の週末の話なんだけど……」
幼馴染「あ、出かけるやつだよねっ! 私、すっごい楽しみなんだっ!」
男「ヴ……。あ、あの、ちょっとお願いがあってな……?」
男「その、日にちを別の日に――」
幼馴染「やだ」ニコッ
ガララッ!! バンッ
カチャリ
男「……あれ、幼馴染さん? あの、まだ話の途中なのですが……」
男「…………あ、電気も消えた」
男「……………………」
男「……幼馴染も、ダメ……と」
男「いやいや。大丈夫大丈夫」
男「この二人は運が悪かっただけだ。なんのことはない」
男「さて、次は……後輩か」
男「いや、でも後輩が言っていたのは映画だし……。ちょっと申し訳ないな」
男「まぁ、でもその日しか見れないわけではないだろう」
男「別の日に俺のおごりで行こうって言えば、大丈夫かな」ピッピッ
後輩『はいはーい! 先輩から電話なんて珍しいですねーっ!』
男「おーう、急にすまんな」
後輩『いえいえー。私はいつでも準備オッケーですからっ!』
男「お、おぉ、そうなのか……」
後輩『それでそれで! どうしたんですかっ? も、もしかして、これから――』
男「あぁ、いやぁな。今度の映画見に行くって話の事なんだけどさ」
後輩『あ、そうですか……。まぁいいです。でー、それが??」
男「ちょっと用事が入っちゃってさ。悪いんだけど、奢るから別の日に――」
後輩『あははっ! 先輩、嘘はダメですよっ!』
男「――ッ。い、いや、う、嘘じゃ……」
後輩『嘘ですよ。だって、約束したじゃないですか。ねぇ、先輩? 嘘ですよねっ?』
男「こ、後輩? ち、違う――」
後輩『――それだけですか? えへへ、寝る前に先輩の声が聴けてよかったですっ!』
後輩『それじゃ、先輩も夜更かししちゃダメですよー? …………見てますから……』
ブツッ
男「…………後輩もダメだったか……」
男「……ま、まぁ、他は、他は大丈夫だろ……」
男「えぇと……、次はお嬢様かな……」
男「あ、でもお嬢様の連絡先知らない――ってこともなかったか。そういや、教えてもらったっけな」
男「まぁ、お嬢様は大丈夫かな……」ピッピッ
お嬢様『――もしもし? 男さん、ですか?』
男「あぁうん。夜に電話かけてごめんね」
お嬢様『いえ、男さんでしたら、いつかけてきても構いませんよ?』
男「はは、そう言ってもらえると助かるよー」
お嬢様『……まぁ、もう少しで電話する必要もなくなるんですけど……』ボソッ
男「ん? 何か言った?」
お嬢様『いえ、なにも。ところで、何かあったのですか?』
男「あぁ、そうそう。ちょっとお嬢様にお願いがあってさ」
お嬢様『お願い? この私にできることでしたらなんでも、大丈夫です』
男「い、いやぁ、そんな大したことではないんだけど……。今度の出かけるって話なんだけどさ?」
お嬢様『はい、楽しみにしてます……けど?』
男「いやー、そんなとこ申し訳ないんだけど、ちょっと来週とか別の日にできないかなーって……」
お嬢様『なぜですか?』
男「ちょっと急な用事が――」
お嬢様『用事? なんのご用事ですか?』
男「あ、いや……。か、家庭の……」
お嬢様『男さん? ちゃんと言っていただかないとわかりませんよ? ……それとも、なにかやましいことでも?』
男「い、いやぁ……。えぇっと……」
お嬢様『…………ねぇ、男さん? 私のカメラを壊した男さん? では、その用事というものは、私よりも大事ということですね? それでよろしいですか?』
男「いえ、用事はたった今無くなりましたぁっ! おやすみなさいっ!」
お嬢様『ふふっ、おやすみなさい男さん。また明日学校で……』
プツッ
男「お嬢様も無理でした」
男「…………ま、まぁ? あと、三人を別の日にできればいいわけだし?」
男「うん……、よゆーだろ……」
男「…………と、とりあえず! あと残ってるのは、先生と女さんと妹か……」
男「この時間じゃ、もう学校に先生居ないかな……? 女さんも連絡取れないし……」
男「二人は明日学校でお願いするとして……。まぁ、妹か」
男「とはいえ、そこは妹だ。兄である俺のお願いだったら二つ返事で――」
妹「――イヤです」
男「そ、そこを何とか……」
妹「イヤです」
男「だ、だから! 妹と約束する前に、他のやつとも約束してたのを忘れてたのは俺が悪いとは思うけど……」
男「ほらっ、別の日にしようぜ? そのほうがゆっくり――」
妹「何度言われたって、私の希望は変わりません。兄さんにはなにより妹を優先していただかないと……」
男「いや、妹だからそこらへん融通きかせてくれよ……」
妹「とにかく、私は絶対にイヤですから。約束していたのかもしれませんが、他の方のをお断りしてください」
男「……それができれば苦労は……」
男「ほ、ほら! なんか……ね!? ほかの日にした方がいいことあるよっ!」
妹「…………兄さん。ちなみに……、その約束した方というのは、どんな方なんですか?」
男「あぁー、えっと……。友っていう同じクラスのやつ……とか……だよ」
妹「……? まぁ、いいです。とにかく、兄さんは妹を最優先に動いてください」
男「えぇ~……」
妹「ほら、兄さんもせっかくの日曜なんですから、そんな『男友達』とでかけるより、かわいい妹と――」
男「は?」
妹「…………かわいく、ないでしょうか……?」シュン
男「いや、妹はかわいいが……」
妹「…………っ」
妹「と、とにかくっ! 私は絶対にイヤです。それじゃおやすみなさ――……あ、もし……一緒に寝てくれるんでしたら、少し考えてもいいですが……?」チラッ
男「いや、じゃあいいや」
男「――うーん……ミスったかなぁ……」
男「いやしかし、妹の性格から考えると、一緒に寝たって――」
男「約束? いえ『考えてもいい』と言ったつもりですけど?」
男「――とか普通に言いそうだもんな」
男「しょうがない、先生に頼んでみるか。いや、ただ補習するってだけだろ? 別の日でも大丈夫大丈夫……――」
―――翌日:学校
先生「――そっか。まぁ、用事が入ったならしょうがないね……?」フゥ…
男「ほ、本当ですかっ? あ、ありがとうございます! いやー、さすが先生っ! 話がわか――」キラキラ
先生「じゃ、留年かな」
男「――る……。…………え、え? い、今なんと……」
先生「んー? いや、まぁ……しょうがないね?」
男「ちょ、ちょっと待ってっ!? あ、え、りゅ、留年ですかっ?? えっ、そ、そんな厳しかったでしたっけっ!??」
先生「大丈夫だよ、男君。来年も、先生がちゃんと見てあげるから」ニッコリ
男「いやいやいやいやいやっ!! い、いくらなんでもそれは……」
先生「大丈夫。先生、偉い人と仲良しだから」
男「何が大丈夫なのっ!?」
先生「――まぁ、とりあえずわかったよ。それじゃ、今度の補習は別の日――。あ、もうやらなくていいのか……どうせ……」
男「あ、あああああああのっ先生っ??」ワタワタ
先生「ん? どうしたのかな、男君?」
男「…………や、やっぱり、用事のほうは何とかいたしますので、補習をやっていただけないでしょうか……」
先生「あ、そう? も~、男君はしょうがないなぁ。それじゃ、予定通りね?」
男「ありがとうございますっ!!」
男「もうだめかもしれない」
男「……はぁ……」トボトボ
男「俺ってそんなにダメな子だったかなぁ……」
男「――いいやっ! しょげても仕方がない! がんばれ、俺。……次は女さんだな」
男「ポジティブシンキングだ。なぁに、一人でも別の日にできればこっちのもんだ……。さて、教室に居るかな?」ガララッ
女「――あ、男くんおはよう! 急に電話しちゃってごめんね?」ニコニコ
男「あぁおはよう。ははっ、少しびっくりしたよ」
女「でも、今度のデート楽しみだなぁ……。ね、男くんっ?」
男「あ、あぁー……。あのそのことなんだけどさ?」
女「…………うん、なぁに?」ニコッ
男「――ッ」ゾクッ
男(な、なんだか、笑顔が、怖い……)
男「……あ、あのさ、ちょいと急用が入っちゃってさ。その、出かけるっていうの、別の日でもいいかな?」
女「…………」ニコニコ
男「……あ、あの女さん??」
女「……ごめんね、聞こえなかったなぁ。もう一回言って?」ニコニコ
男「そ、そっか。えっと、今度の――」
ガタッ
女「…………」ニコニコ
男「お、女さん? きゅ、急に立ち上がって、どうした、の?」
女「ううん、なんでもないよ? ……それで、今度の……なぁに?」ニコニコ
男「こ、今度の……週末の話なんだけ……ど……」
女「うん……楽しみだよね? 楽しみすぎて、もう、どうにかなっちゃいそうなくらいに……ね?」ニコニコ
男「あ、あの別の――」
女「ねぇ、男くん?」ニコッ
男「俺も楽しみ……です……」
―――夜 自宅
男「……ダメだったなぁー……」
男「まぁ……なんだ。そんなしょげることはない。俺はできるだけのことはやったよ、よくやった俺」
男「……結果は、何一つ変わらなかったわけなんだけど……」
男「――しかし、いくら嘆こうと過去に戻れるわけではない」
男「いま、俺ができることは、なってしまった現実に目を向け、それを正面から受け止めることだ」
男「…………」
男「よし……ッ!」
男「逃げ――」
ガタッ
男「おうッ!」ビクッ
男「…………」ドキドキ
男「…………やるしか、ないのか」
男「いつもなら楽しくてしょうがない金曜の夜が、こんな最悪な夜に変わるとは……」
男「……月曜日、無事に学校へ行けるんだろうか……」ハァ…
男「さて……と」
男「明日……、まずは土曜日をどうにかしなければならない」
男「なぁに、心配するな……。俺ならできる、俺ならできるはずだ……」
男「一日は24時間もあるんだから……。一人に対して2時間半ぐらいは時間をかけられるはず……!」
男「………まぁ、深夜から動くわけにもいかないが……」
男「…………あ、でも後輩は映画だから時間が決まってるのか……」
男「先生も補習だから……」
男「……いや、ヤンキーさんにいたっては海じゃねぇか」
男「うーん……! みんなには、待ち合わせ時間については夜連絡するよー、っていっちゃったし……」
男「……………………」
男「に、逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ…………」
男「……落ち着け、冷静に考えるんだ……」
男「……まずは……――」
――――――
――――
――
――
――――
――――――
男「――よしっ、これなら完璧だろ……!!」
男「わ、我ながらこの計画表の完成度の高さに、体が震えてきやがったぜ……!」
土曜日計画表
AM
5時 起床。準備ができ次第、妹と出かける。
7時 少し妹を待機させる。隙を見て幼馴染との合流地点へ。妹と幼馴染の間を往復しながら、店の営業時間まで持たせる。
9時 店が開いたら、二人とも中にいれて、理由を付けて二人から離れる。その時お嬢様との合流地点へ。
10時 妹を帰らせる。できれば幼馴染も帰らせる。そして、映画館へ。
PM
0時 お嬢様を家まで送り、急ぎ学校へ。
1時 急いで補習を終わらせ、友との合流地点へ。喫茶店へ連れていく。
3時 友を帰らせる。すぐさま幼女ちゃんを迎えに。
4時 幼女ちゃんにおやつを食べさせる。そうすると眠くなるはずなので、寝させる。
5時 女さんとの待ち合わせ場所へ。
?時 女さんが終わり次第、ヤンキーさんと海へ。
男「――完璧だ……! 完璧すぎる……!!」
男「朝が少し早いが……。まぁ、妹なら大丈夫だろう」
男「幼馴染とも買い物できるのが1時間しかないが、まぁ幼馴染なら大丈夫!」
男「後輩の映画がある関係で、どうしてもデパートに4人集めなければいけないが……。まぁ、それも仕方がない」
男「映画も始まってしまえば、後輩もそちらの方へ集中するだろうから、映画が何時間なのか分からないが、終わりにだけ合わせれば多少俺がいなくても大丈夫」
男「午後の補習も何時間かかるのかよくわからないが、きっと大丈夫」
男「……怖いのは女さんだな。す、少し動きが読めないからなぁ……」
男「だが、そのために女さんには少し余裕をもって時間を割く」
男「ヤンキーさんは、まぁ大丈夫だろう」
男「ふっふっふ……。むしろ明日が楽しみになってきたぜ……!!」
男「――よし、なんとかみんなに連絡はしたぞ」
男「……まぁ、妹には朝に出掛けるとしか言ってないけど」
男「とはいえ、5時も朝であることに違いはない。ヤンキーさんにも、行ける時間になったら連絡するって言ったし……」
男「……やれるぞ! この計画ならやれる……!」
男「――おっと、もうこんな時間か……。明日は早い、もう寝るかな……」
男「………………」
男「あ、そうだ。ログインボーナス、今日もらってなかったな。危ない危ない……」ピッピッ
男「どうせなら、遠征任務もやっとかなきゃもったいないよな。明日できないかもだし……」ポチッ
男「うわっ、このキャンペーン今日までかよ……。しょうがない、これやったら寝るか」カチカチ
男「うーん? あ、これも――」
――――――
――――
――
ユサユサ
「……さんっ? …………兄さん?」
男「ん……んぅ……?」
妹「兄さん? まだ寝ていたんですね……。今日は朝から出かけるって、昨日言ってたじゃないですか」
男「え? あぁ、そうだよ……な」ウトウト
妹「しっかりしていただかないと……。それで、いつごろ出かけるんですか?」
男「時間? 時間は……」チラッ
AM 6:48
男「」
男「」
妹「……兄さん? どうかしたんですか? ……あ、私とのデートが楽しみで寝れなかったって――」
男「――へあっ!? いや、なん、でもない……という……わけ、でもないん、だけど…………」チラッ
AM6:50
男「い、いいいいいい妹よっ!!」アタフタ
妹「な、なんでしょう?」
男「いま、いますぐ出かけようっ!!」
妹「い、今ですか?? 私にもいろいろと準備が……」
男「大丈夫っ!! 妹はそのままでも可愛いからっ!!」
妹「――っ! ぁ……はい……」カァアア
男「よし、行こうっ!! い、いま、光速で着替えるからちょっと待ってろっ!!」
妹「……はい……」カァアア
―――とある公園
妹「――し、しかし、兄さん? こんな急がなくても……」
男「い、いやぁね! 妹と、少しでも長くデートしたくてさっ!!」イソイソ
妹「そ、そうですか……。それは……、うれしいですけど……」
男(えぇっと、幼馴染との待ち合わせ場所は、あっちだったよな……。時間は――)チラッ
AM6:58
男(ま、まだ大丈夫……! いや、思わぬハプニングだが、まだ立て直せる……!!)
妹「……兄さんと、二人きり……」
妹「腕とか組んでも……」スッ
男「あー、急にトイレに行きたくなってきちゃったなー!! すぐ行ってくるから、妹はここで待ってて!!」ダッシュ
妹「え、あ、はい……」
AM7:00
幼馴染「……ちょ、ちょっと早く来すぎちゃったかな?」ソワソワ
幼馴染「でも、男とデートなんて……! もう、楽しみで寝れなかったよう……」
幼馴染「ふふっ、早く来ないかなー」
ドドドドドド
幼馴染「……え?」
男「ハァ、ハァ……ゲホッ。お……ハァ、おはよう、幼馴染……」ゼェゼェ
幼馴染「お、おはよう。た、たしかに早く来ないかなーとは思ったけど、そんな急いで来なくても……」
男「ハァ、は、はは……。早く、幼馴染に会いたくて、さ……ゼェ……」フゥー
幼馴染「男……! うん、私も会いたかった!」
男「は、ははは……」
幼馴染「でも、こんな時間じゃ買い物っていっても、店が開いてないよね?」
男「ま、まぁ、なんだ。たまには、幼馴染とゆっくり過ごしたいと思ってさ!」
幼馴染「あ、そういうことなんだ! そうだねー、最近は邪魔……な雌豚……がいて、あまり話さなかったもんね!」
男(なんか聞こえた)
男「そ、そーいうことなんだよー! さぁさぁ、ベンチに座って!」
幼馴染「うん!」
男「――おぉっと! なら、あれだな!! 少し俺は飲み物でも買ってこようかなーっ!! 幼馴染はここで待ってて!!」
幼馴染「あ、私も行くよ!」
男「いいいいいやっ、大丈夫だからっ!! な、幼馴染は疲れてるだろうから、俺が買ってくるよ!」
幼馴染「い、いや。どちらかというと、男のほうが疲れてる気がするけど……」
男「と、とにかく待っててな!」ダッシュ
幼馴染「う、うん……?」
妹「……兄さん……」ポツーン
…ドドドドドド
男「いやぁ、悪いな、妹!」ゼェゼェ
妹「いえ……。しかし、そんな息が切れるほど走らなくても……」
男「は、はははー! 妹のところに早く戻りたくてね!」
妹「……っ! や、やっと兄さんにも、妹を優先することの重要性がわかってきましたか」
男「ま、まぁな!」
男「とりあえず、ちょっと歩こうか」
男(大丈夫……! あとは計画通りに行けば……!!)
妹「なんだか、兄さんと二人っきりになるのって久しぶりな気がします」
男「えっ? そんなことはないだろ、一緒に住んでるんだから」
妹「そうなんですけど……。でも、そうじゃないんです」
男「そうか? まぁ、妹がいいならそれでいいけどさ」
妹「……いま、私たちはどんな関係に見られてるんでしょうか……」ボソッ
男「ん? なんか言ったか?」
妹「いえ……。……今日はデートなんですし、腕とか組んでも……」スッ
男「あ、あー! しまったなー、トイレに忘れ物してしまったー!! ちょっと取ってくる!」ダッシュ
妹「あ……はい」シュン
妹「………………」ポツーン
妹「………………」モジモジ
妹「ついでだから、私もトイレに行こうかな……」
幼馴染「――あ、男」
男「ハァ……ゼェ……。た、ただいま……」ゼェゼェ
幼馴染「そ、そんな自動販売機って近くになかった?」
男「あ、あぁ、ちょっと見当たらなくて……」
幼馴染「近くにあった気がするけどなぁ……?」
男「ほ、ほらっ! とりあえず買ってきたから!」
幼馴染「あっ……。これ、私の好きなやつ……。男、覚えててくれたんだ」
男「ん、まぁな。ってか、そう簡単に忘れられることでもないけどな」
幼馴染「ううん、でもうれしい。……だって、それを知ってるのは……、男だけなんだよ?」
男「そんな大げさな……。ほかにも知ってるやついるんじゃないか?」
幼馴染「そうかなぁ?」
男「まぁ、幼馴染の事を好きな奴とかさ。お前、結構人気高い――」
幼馴染「そんなの知らない」
男「あ……、う、うれしかったりとかはないのか?」
幼馴染「うれしくない。……ばか」
男「……?? まぁ、でも――」
ニイサーン
ドコデスカー!!
男「――――ッ!!」
幼馴染「どうかしたの?」
男「あ、あぁ!! 急にトイレに行きたくなっちゃったなー! ちょっと行ってくるっ!!」ダッシュ
幼馴染「あ、わ、わかった……」
妹「――兄さん? ……いったい、どこに……?」
男「お、おぉ! どうしたんだ妹よ!」
妹「あ、兄さん。トイレに行ってたのではないんですか?」
男「い、行ってたよ? た、ただ、あれだ。ちょっと、妹に飲み物でも買っていこうと思ってな!! ほら!」
妹「あ、そういうことですか……。ありがとうございます、兄さん」
男「いやぁ、気にすることはない! さ、さぁ、あっちに行こう!」
妹「……? は、はい……」
男(あぶねぇ……! だが、いける。ここまでは順調だ……!)
男(やってやる。無事に明日を迎えて見せる……!!)
―――9時 デパート前
妹「あぁ、ここですか。たしかに、ここなら何でもそろってますよね」
男「……ハァ、そ、そうだろ? ……よ、よぉし、入ろうか……」
妹「……なんだか、兄さん。今日は忙しないですね」
男「そ、そんなことないぞぉ……。何も問題はない。オールクリアだ」ゼェゼェ
妹「そう、ですか」
男「い、妹は何が見たいんだ? なにか欲しいモノとかあるのか?」
妹「いえ、特にはないのですが……」
男「あ、アレとかどうだ? よし、あそこに行ってみよう!」グイッ
妹「雑貨屋ですか」
男「う、うん! 嫌いじゃないだろ?」
妹「まぁ、見てて飽きないです」
男「うんうん! ――う、うっ! きゅ、急に便意が……! い、妹はここで待っててくれ!」ダッシュ
妹「あ……、兄さん……」シュン
妹「兄さんと居ないなら、こんな所にいたって……」
幼馴染「――もぅ、どこ行ってたの?」
男「い、いやぁ、ちょっとね!」
幼馴染「……? なんか、今日の男は落ち着かないね?」
男「そんなことないさぁ! あ、あはは……」
幼馴染「ねぇ、男?」
男「ん、どうした??」
幼馴染「私に、隠し事とかしてないよね?」
男「…………当たり前、じゃないですか」シラー
幼馴染「……だよねっ! ほらっ、早く入ろう?」ガシッ
男「お、おう!」
幼馴染「――わぁ! ねぇ、これとかどうかな?」ヒラヒラ
男「あぁ、似合ってるよ」
幼馴染「男、さっきからそれしか言ってない……」プクー
男「い、いや、本当に似合ってるって!」
男(……マズいなぁ。早くお嬢様のところに行かないと……!)
男「あ、あー! ちょ、ちょっとお腹の具合が……! ちょっと――」
幼馴染「トイレに行ってくる?」
男「……う、うん」
幼馴染「……わかった。それじゃ、私はここで待ってるね?」ニコッ
男「あ、あぁ、ごめんな!」ダッシュ
幼馴染「………………」
幼馴染「………………」ギリッ
男「――と、とりあえずは作戦通り……!」
男「だけど……さすがに無理があるような……。トイレ行き過ぎだしな……」
男「だ、ダメだダメだ! あきらめるな。午前中さえ乗り切れば、何とかなる……と、思うんだ……!」
男「……大丈夫、俺ならやれる……」
男「さて、お嬢様との待ち合わせ場所はあそこだったよな――」
お嬢様「――あ、男さんっ。こっちです」
男「あぁ、お嬢様。おは……よう……ございます……」
お嬢様「……? ――あぁ、すいません。こちらの人たちは、私の家の使用人です」
男「あ、へぇ~……そ、うなんだ」
お嬢様「……もう結構です。下がりなさい」
「ですが……」
お嬢様「……もう一回言いましょうか?」ニコッ
「し、失礼しましたっ! で、では……」イソイソ
お嬢様「――では、男さん? エスコート、お願いしますね?」
男「あ、あぁ……、がんばるけど……。やっぱり、なんか住む世界が違うなぁって思っちゃうね」
お嬢様「そんなことありません。じきに男さんも…………あら?」チラッ
男「ん? どうかしたの?」
お嬢様「…………いえ――」
お嬢様「猫を、見つけまして」ニコッ
男「猫?? デパートの中なのに? 迷い込んじゃったのかなぁ……?」キョロキョロ
お嬢様「……どうでしょうね。ついてきたのか、邪魔しに来たのか」
男「邪魔?? ……よくわからないけど……?」
お嬢様「ふふっ、気にしないでください。ただの――」
お嬢様「 泥棒猫、ですから 」
男「ははっ、魚でもくわえてたの?」
お嬢様「いえいえ。泥棒猫とはいっても、まだ何もできてないみたいです。まぁ、なにより――」
お嬢様「盗らせる気なんて、ありませんけどね」ニコッ
男「――ッ」ゾクッ
男(な、なんだろう……。たまにお嬢様って、すごく怖いんだよな……。そんなわけないのに、なんでかな……)
男「と、とりあえず行こうか?」
お嬢様「はい。……ふふっ、男さんっ?」ムギュ
男「ちょ、お、お嬢様!? そんなくっつかなくても――」
ドガシャァン!!
男「おぉうっ!? な、なんだ??」
お嬢様「大丈夫ですよ。……猫が暴れただけですから。――ほらっ、はやく行きましょう?」グイッ
男「う、うん……?」
お嬢様「――男さんっ、男さんっ! これは、これはいくらぐらいするものなんですか??」
男「100円だね」
お嬢様「それじゃあこちらは?」
男「それも100円」
お嬢様「これなんかも?」
男「100円」
お嬢様「こっちのはっ?」
男「それは200円」
お嬢様「えっ」
男(お嬢様が思いのほか100円ショップに食いついたなぁ……。ウィンドウショッピングってこういうのじゃない気がするけど……)
男(いや、まぁ好都合だ。この隙に二人のところに一旦戻るか……)
男「ごめん、お嬢様! 俺、ちょっとトイレに行ってくるから、ここで待っててくれる?」
お嬢様「あ、はい。わかりました」ニコッ
―――雑貨店
妹「――兄さん、今回はずいぶん遅かったですね」
男「あ、あぁ、ごめんな。ちょっと大物だったんだよ……」
妹「そうですか。……兄さん」
男「ん、どうした?」
妹「兄さんは…………」
男「おう」
妹「――……いえ、なんでもないです」
男「え、なんだよ気になるじゃん」
妹「私は、兄さんのことを尊敬してますし、信頼もしてます。いいんです、それだけで」
男「お、おぉ……、ありがとう……?」
妹「――兄さんも、たった一人の妹なんですから、一線を超えるぐらいの気持ちでいてもらわないと……」マッタク…
男「いや、それは超えちゃいけないもんだろう」
妹「私はかまいませんが」
男「あぁはいはい。……あ、しまったー! トイレに――」
妹「また忘れ物ですか? まったく……、待ってますから早くとってきてください」ヤレヤレ
男「お、おぅ! 行ってくるっ!」ダッシュ
妹「…………兄さんは、悪くないですよね」
―――服飾店
幼馴染「――あ、おかえり男」
男「た、ただいま……」ハァハァ
幼馴染「そんな急がなくてもよかったのに」ニコニコ
男「ははっ、い、一応ね……」
幼馴染「ねぇねぇ、男! これは似合ってると思う??」ヒラヒラ
男「白のワンピースか……。うん、すごい似合ってると思うぞ?」
幼馴染「本当っ?? じゃあ、これ買っちゃおうかな!」
男「いやいや、自分の好きなの買えばいいのに」
幼馴染「ううん。男が選んでくれた、これがいいの!」
男「……まぁ、いいけどさ」
幼馴染「……でも、すこし汚れが目立っちゃうかも」
男「白い服なんてそんなもんだろ」
幼馴染「まぁ、そうだよね。特に――」
幼馴染「赤い色なんて、すごい目立っちゃうよね」
男「……? まぁそれは目立つだろうな」
幼馴染「うん、でもいいの。男が似合うって言ってくれれば……」
男「ははっ、そんなに言ってほしいなら、別にいくらでも言ってやるよ」
幼馴染「……信じてるから」ボソッ
男「……あ、あー! ごめん、トイ――」
幼馴染「忘れ物? もう、男はこれだから……。待ってるから早くとってきなよ」
男「わ、悪いな! 行ってくるっ!」ダッシュ
幼馴染「…………男は優しいから……」
男「――ハァ……ま、待たせたねお嬢様」ゼェゼェ
お嬢様「ふふっ、いえ大丈夫ですよ?」
男(よし、いい調子だぞ……! この調子で行けば、みんな笑顔で明日を迎えられるんだ……!!)
男(なんてことはない。ここまでやってこれたんだ。大丈夫、俺ならやれる。I CAN DO IT)
お嬢様「……さん。……男さん?」
男「――おぉっ!? ど、どうしたのっ!??」ビクゥ
お嬢様「そ、そんな驚くとは……。――いえ、これはいくらぐらいするものなのかな、と思いまして……」スッ
男「あぁ、それは1080円」
お嬢様「えっ」
―――デパート 9:50
妹「これなんか、兄さんの部屋にいいんじゃないですか? ほら、机とベッドの隙間にでも」
男「あぁ、確かにピッタリかも」
妹「これは、クローゼットの上の棚にでも置いとけば便利です。ほら、兄さん使わなそうなものって上の棚に投げ込むじゃないですか?」
男「たしかに――。って、なんでそこまで知ってるんだよ!?」
男(やっと……。やっとここまで来たぞ……)
男(だが、ここからが難所でもある。妹と幼馴染を帰らせなければいけないが……)
男(いや、大丈夫。心配なんていらないさ。なんせ、実の妹と、毎日のように一緒に過ごしてきた幼馴染だ。きっとわかってくれるはず……!)
男(…………大丈夫……かな)
妹「それで、こっちのやつは――」
男「あ、あのさっ、妹!」
妹「はい。どうしたんですか?」
男「あー……っと……」
妹「……?」
男「か、帰らないか?」
妹「……はい?」
男「――あ、あれだよっ!! これから雨降るって言ってた気がしないでもないし! やっぱりこんな日は家でゴロゴロするに限るかなーって、そんな風に思ったりしてしまっただけなんだけどさ! いや、妹が帰りたくないっていうなら、まぁそれはあれだよ? アレだけどさ!!」アタフタ
妹「…………」ウツムキ
男(あ、これはマズい――)
妹「わかりました」ニコッ
男「ま、まぁ、そうだよな! だけど、そこをなんと――……え?」パチクリ
妹「わかりました。それでは帰りましょうか、兄さん」ニコニコ
男「あ、あー……。俺、ちょっと帰る前に寄りたいところがあって……。まぁ、あの、妹を連れていくほどのところでもなく……えっと……」
妹「そうですか。それでは、私は先に帰っていますね?」ニコッ
男「あ、うん……」
妹「どうしたんですか? 兄さん?」ニコニコ
男「い、いやぁ! なんでもないぞ、妹よ! そ、それじゃ家でっ!」ダッシュ
妹「はい、わかりました」ニコッ
妹「 寄り道は、しないでくださいね 」
――服飾店
幼馴染「――わかった。急な用事ができちゃったなら仕方ないよね……」
男「あ、あぁ、本当にごめんな?」
幼馴染「ううん。男と少しでもお買い物できたのが、私はうれしいから」ニコッ
男「今度さ、別の形で埋め合わせするよ」
幼馴染「本当っ? あははっ、男は本当に優しいね?」ニコニコ
男「そ、そんなことはないよ! そ、それじゃ、俺は行くから!」
幼馴染「うん。気を付けてね?」ニコニコ
男「おうっ!」ダッシュ
幼馴染「…………優しいね――」ボソッ
幼馴染「 でも、雌豚達にまで優しくしちゃダメなんだよ? 」
幼馴染「男は、私にだけ優しければいいの」
幼馴染「……でも、しょうがないよね。それが男のいいところだもんね」
幼馴染「……雌豚どもが悪いんだよね? そいつらがいなくなれば……」
幼馴染「本当、邪魔だな……」
幼馴染「絶対わたさないんだから……!」
男「な、なんかヤケに二人ともすんなり終わったな……」
男「まぁ、なんだかんだで早く家に帰りたかったのかもしれないなっ! しかし、これは僥倖だ。この調子で行けば……!!」
男「よしっ! 頑張るぞ!」
男「さて、次は後輩か…。ふっ、まぁ簡単だろう」
男「映画が始まってしまえば、もう隣に誰が居ようが関係ないしな。適度にお嬢様との間を往復すれば、もう大丈夫だ」
男「もう山は越えた。幸せな明日が、俺を待っているぞっ!!」イヤッホーウ
―――映画館
男「――さて、とりあえずお嬢様と別れて映画館着たけど……。後輩がいないな……」
男「たしか、このあたりで……」
後輩「せーんーぱいっ!!」ダキッ
男「うぉうっ!? あ、あぁ後輩か……。ど、どこでもやることは変わんないのな……」ドキドキ
後輩「ふふーんっ! 一日一回はやらないと気が済まないです!」
男「それはまた、はた迷惑な」
後輩「いやー、それにしても! 休日に会う先輩というものもいいですねっ。なんだか新鮮な感じがします!」
男「確かにな、あまり休日に会うことはないもんな」
後輩「そうですねー。……『会う』ことはないですもんね」
男「――で? そういや、結局何の映画を見るとかってのも、俺は知らないんだが……」
後輩「はいっ! 先輩に、ちょっとサプライズ感を出そうと思って!」
男「ほうほう。して、どんな映画なんだ?」
後輩「じゃじゃーん! これですっ!」
『父さんと犬』
男(……なんだこの、まったく惹かれないタイトルは……)
男「あ、あぁ……。聞いたことなかったけど、これは有名なのか?」
後輩「有名か有名じゃないかと問われれば、有名じゃないと応えるしかないですね」
男「な、なんでこれを……? ま、まぁいいか。いったい何時間なんだ――?」
上映時間:4時間
男「」
男「な、なかなかあれだな。長いんだな……」
後輩「はいっ! 私の理想にぴったりなんですよ!」
男「え、理想?? どういう……――」
後輩「まぁまぁ! とりあえず中に入りましょう? ほらほらっ!」グイグイ
男「お、おぉ……」
ギィィ
バタン
後輩「――この映画のいいところはですね。まずはその上映時間です」
男「あぁ、長いな。こんなの初めて見たぞ」
後輩「ですよねー。まぁ、他にもあるんですよ」
後輩「次にそのストーリーですね」
男「ほう。4時間かけるだけの価値があるということか」
後輩「あははっ、全然ですよ。山もなければ、谷もない。ただ、おっさんと犬が戯れてるだけの映画です」
男「……へ、へぇー。で、でもなんか、感動するポイントとかがあったり……?」
後輩「いやぁ、そんなのもないです。でも、逆に言うと静かなんですよねっ!」
男「あぁー……」
後輩「ほらっ、映画ってやっぱりドカーンとか、大きな音が鳴ったりするじゃないですか?」
男「まぁ、そういう映画だと鳴るよな」
後輩「そういうのがなくて、まるでBGMを聞いているかのような感じなんですよね」
男「……それは、映画としてダメなんじゃないか……?」
後輩「まぁまぁ! それでですね……――あ、この席です」ストン
男「おう」
後輩「それで、何よりもいいところはですね~……?」
男「何よりもいいところは……?」
後輩「私たち以外、誰もこの映画を見に来ないってとこです」ニコッ
後輩「素敵ですよね――?」
後輩「4時間、先輩と二人っきりだなんて」ニコッ
男「――ッ!」ゾクッ
後輩「あははっ! やっとこの時がきたんですねっ!」
後輩「私、どれだけ今日を楽しみにしてたと思います?」
後輩「ずーっと……。ずーーーーっと前からです」
後輩「毎日毎日、先輩と登校するのも楽しいですけど、やっぱりそれだけじゃ足りないんですよ」
後輩「はぁー……。でももう一年早く生まれたかったなぁー、って思うときは多々ありますね」ウーン…
後輩「そうすれば、ほかの誰にだって先輩をとられなんかしないんですけど……」
後輩「でもでもっ! こうして、後輩として出会えたってこともうれしいんですけどねっ?」ニコッ
男「あ、あはは……。そんなに後輩に懐かれてると――」
後輩「懐く? 違いますよ。愛しています、先輩」
男「え……。――じょ、冗談やめろって! そ、そうだ、俺なにか飲み物でも買って――」グッ
後輩「先輩」ガシッ
男(あ、あれ、後輩につかまれた腕が動かない……。こいつ、こんなに力強かったのか……??)
後輩「先輩って、鈍いですよね……。もう、鈍感すぎてこっちがどうにかしちゃいそうですよ」
男「こ、後輩……?」
後輩「――まぁ、もう関係ないですけどね。……逃がしませんから」ググッ
男「ちょ、こ、後輩――!!」
後輩「なーんて! そんな風にやるつもり、だったんですけどねぇ……」
男「……え??」
後輩「どうやら、私たち以外にもお客さんが来ちゃったみたいです」ハァ…
男「あ、お、客さん……?」チラッ
妹「面白そうな映画ですね、兄さん?」
幼馴染「男と映画っていうのも何年ぶりかなぁー?」
お嬢様「ふふっ、男さんも誘ってくれればいいのに」ニコニコ
男「」
男「…………あ、あれ、妹さん……。か、帰ったのでは……?」ビクビク
妹「なんだか急に映画が見たくなっただけです。まさか、兄さんがこんなところにいるとは、思ってもみませんでしたけど」
男「お、幼馴染も……」
幼馴染「私も映画が無性に見たくなっちゃってね? 男がいるとは思わなかったけど」ニコッ
男「そ……そっか。……ぐう、ぜんだね……」ガタガタ
お嬢様「この映画、なかなか面白いですね? 男さん?」ニッコリ
男「ウ、ウン、ソウダネ……」
後輩「はぁ……。先輩方と妹さん? せっかくの私と男先輩の時間を邪魔しないでほしいんですけど……」
幼馴染「あぁ、後輩ちゃん? ……学校の中でだけなら見逃してあげたのになぁ」
妹「……邪魔ですか。私と兄さんが一緒にいることが、一番自然なことだと思いますけど」
お嬢様「『兄さん』……? ――あぁ、男さんがこの前話していた義妹さんですね。私、仲良くなりたかったんですよ」
妹「そうですか。私はなりたくないですが」
後輩「…………」ムスッ
幼馴染「…………」ニコニコ
妹「…………」ツーン
お嬢様「…………」ウフフ
サァ、オイデポチ
ワンワン!!
ハハハハ――
男( 逃げ出したい )
男(落ち着け。落ち着くんだ俺……)
男(どうすればいい? いや、もう結構どうしようもない気がするけど……)
男(ダメだっ! ポジティブに考えるんだ……。あれだ、とりあえず過去は振り返らないようにしよう。もう後悔しかない)
男(今の時刻は10時半。12時には学校に行かなければいけない。そして映画は14時までだ……)
男(あと1時間半のあいだに何とかしなければ……!!)
オイ、ポチ!! ドコヘイクンダ!!
ワン!!
カエッテコーイ!!
男「い、いやー! じ、実はさ、みんなで一緒に遊ぼうと――」
妹「やけに、朝から兄さんがコソコソしているな、とは思ったのですが……。だから一昨日はあんなことを言っていたんですね。……友、という人はいないようですが」
男「さ、サプライ――」
幼馴染「おかしいって思ってたんだ。最初に会った時は、妹ちゃんの匂いがしてもしょうがないかなーって思ってたのに、ずーっとするんだもん」
男「みんな、な、仲良く――」
お嬢様「私も、猫が三匹もいるとは思ってませんでした……」
男「あ、あの――」
後輩「やっぱり、先輩は人気者ですねー? ――でも、負ける気はしません」
ポチ…ドコヘイッタンダ…
ワン!!
…!! ポチ、ポチナノカッ?
イエス
男( 逃げよう )グッ
ガシッ
妹「どこへ行くつもりですか兄さん?」
幼馴染「まさかトイレじゃ、ないもんね?」
お嬢様「まだ、映画は終わっていませんよ?」
後輩「先輩っ? とりあえず座りましょう?」
男「ま、待って……話せば、話せば分かり合えるっ! みんな仲良く! ね!?」
妹「『分かり合う』? ……そんな必要あるのでしょうか?」
お嬢様「義妹さんとならわかりますが……。それ以外は必要ありませんね」
妹「そこも必要ないです」
後輩「そうですよねー? ……男先輩以外はいらないんですよ」
幼馴染「男は優しいから……。だから、男は何も悪くないよね?」
男「み、みんな……?」
妹「そうですね。兄さんは何も悪くありません」ギロッ
後輩「先輩は鈍感で、お人よし過ぎるんですよーっ」ハァ・・・
幼馴染「男の事、一番わかってるのは私なんだから……!」ググッ
お嬢様「ふふっ、みなさん……。何をしたって無駄だと思いますけど」ウフフ
ショクン、ワタシハセンソウガスキダ
ワン!!
クソノヨウナセンソウヲノゾムカ?
クリーク!!
ヨロシイ、ナラバ―
「「「「……………………………………」」」」
妹「――……え?」
幼馴染「あれっ??」
お嬢様「あら……」
後輩「あちゃー……」
――――――
――――
――
男「何とか逃げれたけど……。今日、家帰れないよなぁ……」トボトボ
男「――いやいやっ! もう起ってしまったことはしょうがない!」
男「あとは、時間が解決してくれる……と、いいな」ハァ…
男「予定も、午前中のミスは午後には関係ないし。……よし、学校に行くかっ! それでさっさと終わらせよう……」
―――学校
先生「――ってこと。どうかな?」
男「ま、マジですか……?」
先生「うん、マジ。男君も補習がすぐに終わるかもしれないし、私も用事があるし、早く終わりにできたらうれしいからさ?」
先生「――問題数は2問! どっちも解ければ、補習は終わり」
男「数学ですもんね……。それならいける、かな……?」
先生「うんうん。男君は理数系だもんね?」
先生「ただ、それもできないようだったら……。もう徹底的に、先生の家で勉強を教えてあげる」
男「ヴ……。……で、でも! すごく難しい問題……とかじゃ、ないですよね??」
先生「先生がそんな問題出すと思う?」
男「え……。むしろ、思わないとでも思ってたんですか?」
先生「はぁ……。男君は疑り深いなぁ……」
男「そういう環境を作り上げたのは、先生じゃないですか!」
先生「――わかった。それじゃあ、これから出す予定の、その2問を男君に見せてあげる」
先生「男君は、見てから受けるか受けないか、選んでいいよ」
男「本当ですかっ!?」
先生「ただしっ! ずっと見られちゃうとさすがにズルいから、10秒だけね?」ニコッ
男「あ、ありがとうございますっ!」
先生「1問目は普通の問題。2問目が証明問題になってるからね? それじゃあ、はい――!」ヒラッ
問1
Xⁿ+Yⁿ=Zⁿ
この式が成り立つ、X・Y・Z・nに当てはまる数字をすべて答えよ。ただし、数字は1以上の自然数とする。
問2
上記の式で、nの値が3以上の時――
男(あ、よかった……簡単そうだ!)
先生「どう? 受けてみる? それとも、普通に補習する?」
男「……受けますっ!」
先生「よろしい」ニコッ
先生「それじゃ、時間は30分間で。……始めっ!」
ピラッ
男(俺ならできる、俺ならできるはずだ……!)
男(えぇっと……、当てはまる数字か……。うーん……)
男(――おっ! Xが3で、Yが4。Zが5で、2乗なら大丈夫じゃないか??)
男(よしよしっ! この調子で行けば、楽勝だ……!!)
先生「…………」ニコニコ
―――20分後
男(――あっれぇ……?? なんだこれ……。ぜんっぜんわかんねぇ……)
先生「残り10分」ニコニコ
男「うっ……。せ、先生、こんなの授業でやりましたっけ……?」
先生「残り9分45秒」ニコニコ
男「あぁ……はい……」
男(大丈夫! 何を焦る必要があるのだ……。考えればわかるはずだ、落ち着いて、冷静に……)
男(……………………)
男(いや、ダメだ。これ、わかんねぇ)
―――試験終了
先生「――はいっ! それじゃ回収するね?」
男「…………はい」
先生「さーて……。どんな感じかなぁ……?」
問1
X=3 Y=4 Z=5 n=2
問2
答えを書こうと思いましたが、書くためには余白が足りず、断念いたしました。
先生「…………ある意味正解かな……」ボソッ
男「え、えっ、なにか言いましたっ??」アセアセ
男「…………」ガタガタ
先生「これの答えは、先生の家でゆっくり聞いてあげる、ね?」
男「ま、マジですか…………。普通に補習受けとけばよかった……」ガックリ
先生「まぁ、そんなこともあるよ――」
先生「それじゃ、行こうか?」ガシッ
男「へっ?? ……い、今からですか??」
先生「そうだよ? 何か問題があった?」
男「いやいや! それはあまりにも急というものではありませんかっ!?? せ、せめて来週とか……」
先生「ダメだよ。こういうことは、思い立ったときにヤらないと」
男「とは言っても……」アセアセ
男(しかも、先生に掴まれた腕が動かない……)
先生「ほーらっ。抵抗しないの……」グイッ
男「きょ、今日は別の用事も入ってて! そっちにもいかなきゃなんですけど!」
先生「別の用事? どんな用事かなぁ?」
男「えぇっとぉ…………。友達と、遊ぶ、約束が……」
先生「学生の本分は勉強です。ほら、もう行くよ?」グイグイ
男「い、いやぁ……。……す、すいません先生っ!!」ドンッ
先生「きゃっ……!」ドサッ
男「本当にごめんなさいっ!! 月曜日に何でもするんでっ!!」ダッ
男(しょうがない! これはしょうがないことなんだっ!! とりあえず、友のとこに行かなくちゃ――)
ガチャガチャ
男「あ、あれ、開かない……!? な、なんで??」ガチャガチャ
先生「……この教室の扉は、内側からも鍵で開けるようになってるの。……だから、コレがないとここからはでれないんだよ?」チャリン
男「あ、あはは……。知らなかったなぁ……」ガタガタガタガタ
先生「痛かったなぁ……。でも、しょうがないからもうココでいいかな? 私も、男の子引っ張っていくほど力もないし……」
男「い、いや、それは本当に申し訳ないんですけどっ! で、でも、あの――!」
先生「それじゃ、男君。しよっか?」ニッコリ
男「え、え!? 勉強をですよねっ?? あぁもう、誰か――!!」
先生「無駄だよ、今日は誰もいないから。今日というこの日のために、ずーっと準備してきたんだだから……」ヌギヌギ
男「ちょっ、なんで、服を……!!?」
先生「抵抗したかったら、抵抗していいからね? でも、男君は優しいから……。もう、私のこと突き飛ばしたりしないよね?」
男「せ、先生……、なんで……?」
先生「なんで? それは男君が大好きだからだよ。ほかに質問は?」ニッコリ
男「だ、大好き……えっと……冗談、じゃない……ですよね」
先生「ダメかな? 教師失格かな? ……でもね、もう我慢できなかったんだ」
先生「男君の周りって、女の子ばっかりなんだもん。友さんも、幼馴染さんも、女さんも、先輩さんもお嬢様も委員長さんも……。あ、あと後輩さんもかな?」
先生「最近はヤンキーさんとも一緒にいるようになっちゃって……。やっぱり、先生って立場じゃ難しいよね」
先生「――でも、もう決めたの。男君は、私が養ってこうって」
男「や、養うって……」
先生「私なら、男君を一生守っていける。……大丈夫、心配しないで?」
先生「家に来れば男君の部屋もちゃんとあるし、もちろんご飯だって作るよ」
先生「男君……だから、ね?」ニッコリ
男「――ッ!」ゾクッ
男(先生が近寄ってくる……。先生の様子もなんだか変だし……、どうにかして出れないのか……!?)
先生「大丈夫だよ? 先生が優しくリードしてあげるから」
男「あ、あはは……。……そうだ……花壇……」ボソッ
先生「えっ?」
男「……ご、ごめんなさいっ! また月曜日学校でッ!!」ダッ
先生「お、男君っ!? そっちは窓――!」
男「うおぉおおおおお!!」ガッ
ドシャァ!!
男「し、死ぬかと思った……。教室が二階でよかった……」
先生「だ、大丈夫っ……?」
男「大丈夫ですっ! そ、それじゃっ、さようなら~!!」ダッシュ
先生「男君…………」
先生「…………三階にしとくべきだったなぁ……」ハァ…
男「……先生の下着姿……」
男「――い、いやいや!! 俺は何を……」カァアア
男「しかし、先生はどうしたんだろう……。なにか、つらいことでもあったのかな……」
男「――まぁ、それは今日が終わってから考えよう。……えぇっと、今の時間は……」
PM 12:57
男「……なんだ、計画通りじゃないか! さすが俺だぜっ! あーっはっはっは――」
男「……は……はは……」
男「はぁ…………」ガクッ
男「…………次、行くか……」トボトボ
男「――しかし、友のところも少し距離があるんだよなぁ……」
男「近道していくか。林の中を突っ切ることになるけど……、しょうがない」
男「――……できるだけ、明日からのことは考えないようにしよう……」
「――あっ……。お、男!」
男「え? ……あぁーっと……なにか?」
男(誰だろう? どっかで見覚えのあるような……。いや、でもこんなかわいい人知らないよな……)
「な、なにかとは何さっ!? ……ボクが……せっかく……」ボソッ
男「この声……。――えっ!? と、友……か??」
友「はぁっ!? そうに決まってるじゃないか! ……もう、冗談でもたちが悪いよ?」
男「あ、あぁ……。そ、そっか、その服……、この前買ったやつだもんな」
友「そ、そうっ! ど、どう……かな……?」
男「……すごい似合ってるよ。いつもの友と雰囲気が違うから、気付かなかった……」
友「そ、そっか、似合ってるならいいんだ……」エヘヘ…
男「はは…………」
友「………………」
男「………………」
友「…………あ、あはは…………」モジモジ
男「あはは………………」オロオロ
男「…………」ソワソワ
友「…………」ソワソワ
シーーーン…
男「――あぁ、もう! じゃ、じゃあ行こうか!!」
友「そ、そうだねっ!! 行こう行こう!」
男「い、いやー! それにしてもいい天気だな!」
友「そうだねっ! いい天気だね!」
男「こんな天気のいい日は、テンキーでも買っちゃおうかなー!」ドヤッ
友「……………………」
男「ごめん」
友「いいよ。……しかし、男からそれ聞いたのたぶん4回目ぐらいなんだけど」
男「これ、結構好きなんだよな」
友「別にそれはかまわないけど、それを聞いたボクはどうすればいいのさ」
男「笑えば――」
友「あーはいはい」
男「最後まで言わせろよっ!? まったく……。……ぷっ、はははっ!」
友「ははっ、あはははっ! ……やっぱ、男とはこうでなくっちゃだよね」
男「おう、そうだな……! なんか、今日はいろいろありすぎて、少し疲れてるみたいだ」
友「へぇー、そうなんだ……」
友「――で、いろいろってなに?」
男(あ、墓穴掘った)
男「あぁー……。い、ろいろは、いろいろさー……」
友「…………ふぅーん」ジトー
男「あ、あはは……」
友「……………」
男「……………」ダラダラ
友「――まぁ、いっか」
男「え?」
友「ほらっ、時間がもったいない! 今日はどこに連れてってくれるんだい?」ニコッ
男「あ、あぁ、よしっ行こうか!」
友「おー! あははっ、ボク、男がどんなところに連れてってくれるのか、すごい楽しみだったんだよねっ!」ルンルン
男「ふっふっふ……。まぁ、期待して待っていることだなぁ……。必ず、友の想像を裏切って見せるぜっ!」
友「へぇー。……悪い方じゃなきゃいいけど――」ハァ…
友「――美味しいっ!」
男「だろっ?」ドヤッ
友「……そのドヤ顔が、どうにもムカつくけど……」
友「――でも、確かにいい喫茶店だね? たしかに、想像を裏切られたよ」
男「ははっ。まぁ、それはよかったよ」
友「それにしても、どこでこんなお店知ったんだい?」
男「まぁ、なんだ。いい男っていうのは、こういう店を嗅ぎ付けてしまうも――」
「おぉ、男君じゃないか。……あれ、今日はお母さん達と一緒じゃないんだねぇ?」
男「――の、なん、だよ……。……あ、はは、こ、こんにちは……」
友「……へぇ~。いい男……ねぇ」ニヤニヤ
「おっと、今日は彼女さんが――」
男「――とりあえず黙っときましょうか店長??」ニコニコ
男「あー、かまわなくていいよ。店長は、俺の姉にも妹にも同じこと言うんだから……」
友「…………へー」ゲシッ
男「えっ!? なんで蹴ったのっ!??」ビクッ
ソレジャ、ゴユックリー
男「――まぁ、そういうことさ。……でも、本当におすすめのとこなんだよな」
友「……うん。ボクもこういうところ、好きだよ」
男「『誰もつれてったことのないところ』ってのとは、ちょっと違うかもだけどな。……ただ、ここってあまり多くの人に知ってほしくないんだよな」
友「ははっ、じゃあ男はそんな大事なお店を、ボクに教えてくれたわけだ」
男「まぁ、そうなるな。気に入ってくれたようで何よりだ」
友「うん、うれしい……」ニコッ
男「お……おう…………」
友「えへへ………………」ニコニコ
男「………………」
友「………………」
男「………………」
友「………………」
男(あれ、なにこの雰囲気)
友「――そ、そういえば、男ってさ?」
男「お、おう、どうした??」
友「ここに来るとき、どこ通ってきたんだい? パッと見た感じ気付かなかったけど、服にいろいろついてるよ?」
男「えっ? ……あぁ、ほら――」
男(――いや、あの林を突っ切る近道は、遅刻常連のやつらにとっては有名な道だけど……。それを言ったら、なんでそんな急いでたんだ、って話になるよな……)
男「……木登り、してたんだ」
友「は? …………頭でも打ったの?」
男「あぁー……打ったかもな」シミジミ
友「…………?」
男「――なんてことがあったんだよ」
友「あははっ! へぇー、そいつはまた面白いことがあったもんだね」
男「なかなかの災難っぷりではあったけどな……」チラッ
男(……そろそろ時間か。だ、大丈夫、友ならきっと……)
友「…………」ニコニコ
男(……まぁ、1・2発殴られるのは覚悟しとこう)
男「あ、あー、もうこんな時間になっちゃったなー」
友「え? ……本当だ、気付かなかったよ」
男「よ、よしっ。そろそろ帰るかっ!」
友「…………は?」
男「と、友とはいっつも遊んでたりするしさっ! 別に今日じゃなくてもいいっていうか、その、あれだっ!! また別の――」
友「……はぁ……」ヤレヤレ
男「……っ」ビクッ
友「……男は、なにか他にやることがあるんだね?」
男「い、いやー!?? べつに、そういうわけじゃ――!」
友「………………」ジー
男「…………はい」
友「正直でよろしい。…………わかった」
男「え……?」
友「大事な用なんでしょ? ……なーんか、最初会った時から様子がおかしいなぁ。って、思ってはいたんだけどさ」
男「あ、あぁ……」
友「ボクは、今日これだけ男と一緒に――。じゃ、なくてっ! ……こんないいお店も教えてもらったし。ボクは満足だよ」アセアセ
男「ごめん……。今度、今度はもっと違うとこ行こうぜっ! 来週でも……、二人とも暇だったらさっ!」
友「うん、そうだね。楽しみにしてるよ」ニコッ
男「しかし、ちゃんと別の友達とも遊んだ方が――」
友「…………」バキッ
男「とても痛いッ!??」ビクッ
男「――よかった……。すんなり帰ってくれて……」
男「でも、友は電話した時からなんか怪しんでた様子だったから、ぜったい怒ると思ったんだけど……」
男「まぁいっかっ! よぉし、次は幼女ちゃんのところだなっ! ここまでくれば、もう楽勝だろ」
男「……………………」
男「でも……、今日どこで夜を越せばいいんだ……」ズーン
幼女「おとこーっ!」ガバッ
男「おっ! 幼女ちゃん今日も元気だね!」
幼女「うんっ! 早くおとこに会いたいなーって思ってたの!」
男「ははっ、そっか。よし、それじゃさっそく行こっか?」
幼女「どこに行くのー?」
男「うーん……。幼女ちゃんはどっか行きたいところとかある?」
幼女「あそこっ! おっきなとこ!」
男「大きい?? ……もしかして、映画館とか一緒になってるとこかなー?」
幼女「うん、そこっ!」
男「ははっ、そっかー! でも、別のところにしよっか、ね?」
幼女「えー、どうしてー?」
男「あ、あー、それは……」シラー
幼女「…………??」ニコー
男「お、鬼が、居るから……」
幼女「お、鬼さんがいるのっ?? じゃあ、いいっ!」プイッ
男「そ、そうだろ?? よぉし、じゃあ動物園とかどう?」
幼女「動物園っ! ……でも、動物園には鬼さんいないよね??」
男「ははっ、大丈夫だよ!」
幼女「なら行くっ! ……女の子の鬼さん、でないといいねっ!」ニパー
男「うん、そうだねー……――えっ?」
幼女「どうしたのー? 早くいこーよー!」パタパタ
男「――あ、あぁ、うん……」
―――動物園
幼女「わー、キリンさんだー!」
男「おぉー……、動物園なんて何年ぶりだろ」
幼女「えへへ~、楽しいねっ?」
男「そうだねー」
幼女「むー、ホントに楽しい??」
男「うん、楽しいよっ! 俺も、動物は好きだからね~」
幼女「じゃあじゃあっ! 今度はあっちに行こー?」グイグイッ
男「あははっ、そんな急がなくても大丈夫だよ――」
幼女「――おとこ~? 手、つないでもいい?」
男「ん? そりゃ、全然いいけど」ギュ
幼女「ふふ~んっ! それじゃ、今度はあっちー!」グイグイ
幼女「う~、ちょっと疲れちゃったかもしれない……。おとこ、抱っこしてー!」
男「あーそうだよねー? ――はい、これでいいかな?」
幼女「うんっ! えへへへ~……」グゥ~
幼女「……おなかすいちゃった……」
男「俺もおなか空いちゃったよ……。それじゃ、ご飯食べよっか――?」
幼女「おとこ、あーんしてっ!」
男「はいはい、おおせのままに。――はい」
幼女「あむっ! ……うん、おいしいっ!」ニパー
男「それはよかった」
幼女「それじゃ、おとこにもしてあげるね? あーんっ!」
男「――あ、あぁ、ありがとう……。あーん……」パクッ
幼女「おいしいっ?」
男「うん、おいしいよー?」ニコッ
幼女「――わーっ! ライオンさんだー!」
男「おぉー、すごいね。迫力満点だなぁ……」
幼女「えへへ~、おーいおーいっ!」ブンブン
男「あぁっ! あんまり刺激しちゃダメだよーっ?」
女「そうだよー? ライオンさんも、びっくりしちゃうからねー?」
幼女「…………チッ……」ボソッ
男「ん? どうかしたー?」
幼女「――ううんっ! なんでもなーい!」ニパー
女「あははっ、子供はかわいいねー」
男「うん、無邪気なところがいいよね」
女「……まぁ、あの子は何か裏がありそうだけど……――」ボソッ
女「――ねぇ、男くん?」
男「ん? どうしたの?」
女「私たち三人が並んでたら、周りの人は夫婦だと思ったりしちゃうかな?」
男「あぁ~……。どうだろ、見えちゃうかもねー」
ギュッ
女「いつか、私たちの子供も……、あんないい子だったらいいなぁ」
男「ははっ、何をいって――」
男「………………」ハッ
男「――…………るん……ですか……、お、女…………さん……!?? な、なんでここ――」アゼン…
女「えー、冗談なんかじゃないよ? ……ねぇ、男の子と女の子だったら、どっちがいい?」ニコッ
男「い、いやぁ……。どっち、と言われましても……」オドオド
女「私はね? 男の子が欲しいなぁ、って思ってるの。きっと男くんに似て、素敵な子になると思うんだ」
男「な、なんの話だか分からない、なぁ……」アハハ…
女「女の子は、いらないよね? だって……――」ウーン
女「――男くんの近くには、私だけいればいいから」ニッコリ
男「――――ッ」ゾクッ
女「え?」ニッコリ
男「……いや……なん、でここにいるのかなぁーって……あはは……」
女「…………」ニコニコ
男「…………」ダラダラ
女「……聞きたい?」ニッコリ
男「いや、大丈夫です」
女「ふふっ、ほら手つなごう?」スッ
男「……う、うん」
女「…………どうしたの? ――手、つなぎたくない?」
男「い、いやっ! そういうわけじゃ――!」
幼女「おっとこーっ!」ドンッ
男「うおっ!? ――よ、幼女ちゃん。もう、危ないよ?」
男(ヤバかった……。幼女ちゃんがいなかったら、何かすごいプレッシャーに押しつぶされるところ――)
幼女「……このおばさん、だれー?」
男「」
男「よ、幼女ちゃんっ!? あ、あのね、この『お姉ちゃん』は――」
女「ふふっ、こんにちは? ……私はね、男くんと結婚する女っていうの。よろしくね?」ニッコリ
男「はいぃ!?? お、女さんっ、なにを――」
幼女「ウソつき」
女「……何がかなぁ?」ニッコリ
幼女「おばさん、ウソつきだね。……男は、おばさんみたいな人、好みじゃないよ……?」ボソッ
女「へぇー、そうなんだ。でも、関係ないよ? ――男くんは、私のことが好きなんだから」
幼女「ふふっ、かわいそうなおばさん。現実を見れないんだね?」
女「へぇ………………」ニコニコ
男(何話してるかわからないけど、とても近寄れる雰囲気じゃねぇ)ガタガタ
PM 04:10
男(――と、とりあえず、こうなってしまったことは仕方がない。次のことを考えなければ)
男(幸い、女さんの目から見れば、俺は幼女ちゃんの保護者のように見えるだろうし……)
女「男くんが、五時からじゃないと私と出かけてくれない、っていうから、それまで時間つぶしのつもりで来たんだけど……」
女「こんな『偶然』ってあるんだね? やっぱり、男くんと私は赤い糸でつながれてるんだよ」ニッコリ
男「あ、あはは……。そ、そう……かな?」
女「それにっ、男くんがもし……万が一にもほかの女の子と一緒に居たら、私は何してたかわからないけど……」
男「ウ、ウン……」
女「でもっ、こんな子供の面倒見ていたなんて……。ふふっ、もっと好きになっちゃったよ」
男「ハハッ、アリガトウ……」
幼女「…………」ジー
幼女「――おとこっ! あっちいこっ!」グイグイ
男「おぉ、わかったわかった……」
男(厳しい状況だ……。だが、ヤンキーまでの時間は、まだまだある)
男(それまでに何とか――)
ヤンキー「わぁー、ウサギさん可愛いなぁ……」ナデナデ
男「」
ヤンキー「飼いたいけど……。でもこの前は、猫を撫でてただけで、次の日には『生きたまま埋めた』みたいに噂ができちゃったし……。飼えないよなぁ……」
男「………………」
幼女「……? おとこ、どうしたの?」
男「う、ううん。なんでもないよー?」
女「あれ? あの人って……」
男「――いいいいやっ!!?? 気のせいじゃないかなっ?? ね、こんなとこにヤンキーがいるわけないじゃないっ??」アセアセ
女「私、そこまで言ってなかったんだけど……。――まぁ、それは置いといて」
女「――ヤンキーさんのこと呼び捨てで呼んでるなんて、ずいぶん仲良しなんだね? どうやって仲良くなったのか、私、知りたいなぁ……」ニッコリ
男「」
男「ちょ、ちょっとねっ!!」
女「ちょっと?? ……ヤンキーさんと『ちょっと』なにがあったの?」ニコニコ
男「…………あっ、幼女ちゃん! あっちでゾウさんに餌があげられるみた――。……ってあれ、幼女ちゃんは……?」キョロキョロ
幼女「――ねーっ、お姉ちゃんっ! 一緒にウサギさん触ってもいいー?」
男「」
ヤンキー「えっ? あ、あぁ、いいけど……。お父さんとかお母さんはどうしたの?」
幼女「お兄ちゃんなら、あそこにいるよっ!」ビッ
ヤンキー「お兄ちゃん……?」
男「……っ」サッ
ヤンキー「…………あの、向こうのキリン見てる人かな?」
幼女「うんっ! 隣に居るのはおばちゃん」
ヤンキー「おばちゃんって……。随分若く見えるけど……」
女「…………」スタスタ
女「――こんにちは。 ヤンキーさん、ですよね?」
ヤンキー「――っ! ……チッ、……そうだとしたら?」ギロッ
女「私、同じ学年の女っていうの。よろしくね?」
ヤンキー「……で、要件は?」
女「ははっ、大したことじゃないよ。……一つ、聞きたいことがあるんだけどさ」
ヤンキー「…………?」
女「ヤンキーさん、単刀直入に聞くけど。私の男くんとどういう関係なの?」
ヤンキー「は? お、男……? 男って同じ学校の……?」
ヤンキー「――って、ちょっと待てよ。『私の』ってなんだ?」
女「そのままの意味だけど……。それぐらいの意味ならわかるでしょ?」
ヤンキー「――ッ!! へぇ……、随分とバカにしてくれるなァ……」ピキッ
ゴゴゴ…
幼女「あれーっ? おとこ、どこ行くのーっ?」ニパー
男「」ビクッ
男「……ぃ、ぃゃぁ……。……少し、トイレに…………」ビクビク
ヤンキー「――へっ!? お……おと……こ??」パチクリ
男「……や……やぁ……」
ヤンキー「わぁぁっ! ほ、本当におとこだぁ……!」キラキラ
男「き、奇遇だ――」
ヤンキー「――会いたかったぁ!」ダキッ
男「うおっ!? ちょっ、あ、あの、周りに――」
ヤンキー「――昨日から、ずっとずーっと楽しみにしてたんだっ!」
男「や、ヤンキーっ? お、落ち着い――」
ヤンキー「本当だよっ? 楽しみすぎて昨日眠れなくて……」
男「わかった! わかったから――」
ヤンキー「夕方からって聞いて、少しがっかりしちゃったけど……。で、でもっ、それでもうれしかったからっ」
男「あ、あの――」
ヤンキー「でねっ? 時間まで何してようかなー、って思ったんだけど、こう見えて私って動物が好きなんだ! だから、普段はあまり来ないけど、ちょっと行ってみようかなってことで来てみたのっ!」
ヤンキー「動物と一緒に居るのも楽しかったんだけど、早くおとこに会いたいなぁーって、ちょうど思ってたところだったんだよねっ!」
ヤンキー「すごいよねっ! こんな偶然。あははっ、やっぱりおとこ大好きっ!」ギュゥ
男「あ、あはは……。――で、でもいいの?」
ヤンキー「えっ? 何が??」キョトン
男「いや……ねぇ?」チラッ
ヤンキー「…………あ」
ザワザワガヤガヤ
アツイナー
ミセツケテクレルネー!!
女「……ふぅん」
幼女「へぇー……」
ヤンキー「………………」ゴホンッ
ヤンキー「――な、何か見たかッ?」ギロッ
女「ばっちり見たけど」
ヤンキー「………………」カァアア
女「あの学校では随分と恐れられているヤンキーさんも、男くんの前ではそうなっちゃうんだね?」ニコッ
ヤンキー「………………う、うるせぇ」ボソッ
女「――まぁ、でも。安心したかな」
ヤンキー「……え?」
女「だって――」
女「それは、ただの犬と何も変わらないしね」ニッコリ
ヤンキー「…………どういう意味だよ?」ギロッ
女「普段、他の弱い犬たちには大きい顔して、いざ飼い主が来れば、飼い主に甘える……。――ね、犬と変わらない」ニッコリ
ヤンキー「――ッ!!」ブチッ
男「ちょっ、二人とも落ちつい――!」
ガシッ
幼女「おとこーっ? ――……邪魔しちゃダメだよ。いま、面白いところなんだから」ニヤッ
男「え……よ、幼女……ちゃん……??」ゾクッ
ヤンキー「――ハ……、ハハハッ! そんなこと言ってきたのお前が初めてだよ……。……後悔すんなよ」
女「ふふっ、必死だね? ……それもそっか、そうでもしないと飼い主に見捨てられちゃうもんね?」ニコニコ
ゴゴゴゴゴゴ……
男「……あー……」
男「――よしっ、ゾウさん見にいこっか?」
幼女「……おとこ、げんじつとーひだね」
男「いやいや、俺は幼女ちゃんと動物園に来ただけ。もともと、誰とも会ってなかったんだ。会う予定もなかったし。うん、そういうことなんだ」
幼女「…………まぁ、都合はいいか……」ボソッ
男「ん? どうしたの?」
幼女「――ううん、なんでもなーい!」ニパー
PM5:18
男「――ごめんね? いろいろあったから、あまり動物園にもいられなかったけど……」
幼女「ううんっ! 今日はおとこと一緒で楽しかったー!」ニコニコ
男「……そういってもらえると、俺もうれしいよ」
幼女「うーん、でもねー?」
男「ん? どうしたの?」
幼女「――あの女はダメだよ?」
男「――ッ!」ゾクッ
男(まただ……。たまに、幼女ちゃんが幼女ちゃんじゃないように思えてくる……)
男「あ、あぁ、女さんの事かな? まぁ、悪い人ではないんだけど……」
幼女「あれはダメ。いつか男を傷つける」
男「あ、えっと……。どうしたの、急に? なんか変だよ?」オロオロ
幼女「……そうね。もう、関係ないか……」ウツムキ…
幼女「――じゃあねー? ごほーび上げるから、目をつむってー?」キラキラ
男(……そう、だよな、これが幼女ちゃんだ。……やっぱり俺も、疲れてるんだろうな)
男「えー? なんか怖いなー」
幼女「こわくなんかないよー? ごほーびだからっ!」ニッコリ
男「はははっ、しょうがないなぁー……」
幼女「えへへ~……」
男(ま、どうせまた軽いキスとかなんだろうなー。……いや、やっぱり幼女ちゃんは俺の癒しだ)
カチャ
バチッ
男(――ん? なんだろうこの音……。なにか……――ヤバいッ!!?)バッ
バチチチッ
ヒュン…
男「――あ、あぶねぇっ!? ……よ、幼女、ちゃん……? え、な、何を……!」
幼女「……チッ。――はぁ……、台無し……」
幼女「……なんで避けちゃうかなぁ? あと、ちょっとだったのに……なっ!!」ブンッ
バチッ
男「うおっ!? ――ちょ、ちょっと待ってっ! きゅ、急にどうしたのっ!?」
幼女「……避けないでよ男。痛いのは一瞬だから……――」
幼女「次、起きた時には、全部終わってるからさ……」
男「――ッ!!」
男「わ、訳がわからないよっ!? そ、それ、見たことないけど、スタンガン……だよね?? なんで、そんなもの……」
幼女「………………」
幼女「――すたんがんっ?? ちがうよーっ。これはね? この前、おとーさんに買ってもらったおもちゃなんだー?」ニコニコ
男「…………ウソ、だよね……?」
幼女「………………」
幼女「――……ははっ……。あはっ、アハハハハッ!!!」
男「…………幼女ちゃん……」
幼女「……そうだよねぇ、もう騙されないよねぇ? あぁーあ、失敗するなんて、いままで演技してたのがバカみたい!」ケラケラ
男「幼女ちゃん……だよね? い、いったい、どうしたの……?」
幼女「『どうしたの?』って……? 別に、どうにもしてないよ。私はもとからこういう性格なの。……男に近づくために、猫かぶってただけ」
男「で、でもっ! 幼女ちゃんは、何年も前から――」
幼女「――そうだよっ!! 何年も前から、私は男に近づくために計画してきたっていうのに……。邪魔な女たちが……ッ!!」イライラ
男(――……あれっ? よく見たら、この家何かが……変じゃないか?)キョロキョロ
男(この前の時は気付かなかったけど……。まるで、生活感が――)
幼女「 気になる? 」ニコッ
男「――ッ!」ビクッ
幼女「大丈夫だよ、心配しなくても誰もいないし……」
幼女「――誰も、来ないから」
男「……そ……んな……。こ、この前まで…………――!」
幼女「…………ははっ」
幼女「 邪魔、でしょ? 」ニッコリ
男(違う、これは、幼女ちゃんじゃない。見た目はそうにしか見えないけど、これは、違う。違うはずだ――)
幼女「逃げる? そうだね、それが一番いいと思うよ」
男「…………どういう意味?」
幼女「そんな構えなくっていいよ。コレ以外、何も用意なんてしてないから」ヒラヒラ
幼女「男に今できるのは、私におとなしく捕まるか、逃げるか……。この二択でしょ?」
幼女「まぁ、私的にはおとなしく捕まってくれた方がうれしいけど、男はそういうわけにはいかないもんね?」
幼女「だったら、逃げるんでしょ? なら、逃げればいいと思うよ」
男「…………?」
幼女「……なんでそういうこと言うんだって顔だね? ……わかるよ? 私だって、男をずっと見てきたんだから」
幼女「残念ながら、どうしたって私は子供だし、男には追いつけない……」
幼女「でも、絶対に捕まえる」ニッコリ
男「…………ッ!!」ゾクッ
幼女「……だから、逃げてもいいよ? ……ね?」ニコッ
男「――な、何がどうなってんだよぉおおおおおお!!」ダッ
ガチャバンッ!!
ハハッ!! アハハハハッ!!
アハハハハハハハハハハハハハハハッ!!
―――公園
男「――ハァ……ハァ……。ゲホッ……はぁ……」
男「夢、じゃない……よな……? ゼェ……ドッキリとか……」
男「――やめよう。……とりあえず、俺はどうすればいい……」ハァ…
男「ははっ、ハハハハッ……。何もできねぇんじゃないか……」
男「家にも帰れない。どこか遠くに……って言っても、もうそんな金もないし……」
「――男?」
男「――ッ!」バッ!!
男「……あっ、先輩……?」
先輩「……なにしてるの? こんなところで……」
男「あ、あぁ、いや……。ちょっと、いろいろありまして……」
先輩「……ふぅん……そう」
男「………………」
先輩「………………」
男「……先輩、帰らないんですか?」
先輩「……男は、帰らないの?」
男「あぁ、えっと……。ちょいと、帰れなくなったと言いますか……なんというか……」ゴニョゴニョ
先輩「……私の家……泊まる?」
男「えっ?? それはいいですよっ! 悪いですし……」
先輩「……どうせ、明日来る予定……」
男「あぁー……いやっ! でも泊まるのは……」
先輩「……いいの?」
男(しかし、このままだと野宿する羽目になるうえ、もしかしたら誰かに見つかる可能性もあるよなぁ……)
男「――……じゃ、じゃあ、お言葉に甘えてもいいですか?」
先輩「……うんっ」ニコッ
男「――ところで先輩はなんであんなところ歩いてたんですか? あまり休日は出かけない、って言ってませんでしたっけ?」
先輩「……ちょっと……コンビニ行ってた……」ガサッ
男「あぁ……。あ、じゃあ袋持ちますよ?」ヒョイ
先輩「……ありがとう」
男「いえいえ、こっちがお礼言わなきゃなんですから。――……あれ?」
男(この袋……。このコンビニってこっちの方向にあったっけ……??)
先輩「……どうか、した?」
男「――あ、あぁ、いえ! 私服姿の先輩って新鮮だなぁー、って思っただけです」ニコッ
男(きっと、俺が知らないだけだよな……)
―――先輩の家
先輩「……どうぞ」
男「おじゃましまーす……」
先輩「……大丈夫……今日と明日は……誰も帰ってこないから」
男「あ、そうなんですか……」
男(……あれ、それって……二人きりってことじゃ……)
先輩「……くつろいで、いいから……」スタスタ
男「く、くつろいでって、先輩はどこへ?」
先輩「……お風呂。……一緒に入る……?」
男「いいいいいいやっ!! 大丈夫ですっ! くつろがさせていただきますっ!!」
先輩「……そう」スタスタ
シーン…
男「――……はぁ……。それにしても、今日は疲れた……」
男「……なにから、片づければいいだろうなぁ……。いっぱいありすぎて……」
ハピネス~コノステキナ~
男「――あっ、メール……。そういえば、朝からドタバタで全然見てなかった……」ポチッ
着信 256件
メール 384件
男「………………」スッ
男「――あー、テレビとか見てもいいかな? いいよねっ! くつろいでていいって言ってたし、きっと大丈夫だよねっ!! やったー、テレビだ……」アハハ
ポチッ
――いま、巷では相手をとことん追いつめる『追い詰め女子』が流行っ――
プツッ
男「……飽きたなぁ」
男「………………」
男「しかし……先輩に拾ってもらってよかった……。あのままだったら、本当にどうなってたかわからない……」
男「いま、これだけ落ち着いていられるのも、先輩のおかげだ。感謝しないと……うん……」ボーッ
男「……しかし……疲れたなぁ……。少し、眠い……――」ウトウト
――PM6:30――
男「――……うぅん……」
男「……あれ、ここって、どこだっけ…………?」ボーッ
先輩「……男、起きた?」ジー
男「……へ? ――せ、先輩ッ!!?」ガバァ
男(い、今、膝枕……して……)
先輩「……ご飯、できた」
男「あ、あぁぁありがとうございますっ! い、いただきますっ!」
――PM8:40――
男「――ごちそうさまです。いやー、おいしかったですっ!」
先輩「……そう……よかった」ニコッ
男「先輩って、料理上手なんですね」
先輩「……別に……大したことない」
男「いやいやっ! 毎日食べたいぐらいですよ」
先輩「…………そう。…………それなら、大丈夫……」ボソッ
男「えっ?」
先輩「……なんでもない」
先輩「……もう、寝る……?」
男「そう、ですね。あ、じゃあこのソファーで――」
先輩「……こっち」
男「え? あ、いや、ここで……」
先輩「……こっち」
男「……あの…………」
先輩「…………………………」ジー
男「つ、着いていきます……」
先輩「……うん」
男(あれかな、なんか開いてる部屋があって、そこ使っていいよとかそういうことなのかな? きっとそういうことなんだろうな)
ガチャ
先輩「……私の部屋。……入って」
男「………………えーっと……」
男「あ、あれですか? トランプとかですかっ?」
先輩「……トランプ、やる?」
男「い、いいいやっ! べ、別にやりたいというわけでは無かったんですけどっ!」
先輩「…………?」
男「お、お邪魔します……」
男(は、入ってしまった……。しかし、この前先輩をおくってきたときも見たけど、少し殺風景な部屋だよなぁ……)
先輩「………………」ガチャン
男「……せ、先輩?」
先輩「……どうしたの、男?」
男「こ、ここで寝ろ、ってことですか……?」
先輩「…………嫌?」
男「い、いやいやっ、嫌じゃないですけど……。 やっぱり俺、さっきのソファーで――」
先輩「……ダメ」
男「り、理由は……?」
先輩「……ご飯、食べた」
男「……まぁ…………はい……」
先輩「……泊めて、あげる」
男「…………はい……」
先輩「………………」ジー
男「………………」
先輩「………………」ジーー
男「…………こ、ここで寝させていただきます……」
先輩「……うん」ニコッ
男(で、でも、あれなんだろ。きっと布団とか用意してくれて『私がこっちに寝るから、男はベッド使っていいよ』とか、そんなノリなんだろう。いやいや、ご迷惑かけているのは俺なんですから、そんな俺は床で寝ますよ、床で――)
先輩「…………隣……」ポンポン
男「」
男「そ、それはダメですっ!! あの、えっと……ダメです!」
先輩「……なんで?」
男「…………なんで、と言われましても……」
先輩「…………私と、一緒に寝たくない……?」
男「ね、寝たくないというか……。や、やっぱり……、年頃の男女ですし……」モゴモゴ
先輩「……そう。……男は、私のこと……嫌いなんだ……」
男「いやいやっ! そんなわけないじゃないですかっ。――た、ただ、それでも一緒に寝るというのは……」
先輩「………………」
男「な、なんとも…………」
先輩「………………………………」
男「………………あ、あの……」
先輩「………………グスッ……」
男「――ね、寝ましょうッ!!? ね、それがいいっ! あ、あーっ、眠くなってきたなー!!」
先輩「…………隣……?」
男「…………あ、えっと……」
先輩「…………グスッ……」ウツムキ
男「――あ、当たり前じゃないですかっ!! わ、わー、先輩の隣で寝れるなんて、なんて幸せ者なんだろうなっ!」アセアセ
先輩「……そう、よかった」シレッ
先輩「――…………」ポンポン
男「……し、失礼、します……」モゾモゾ
男(――どうしてこうなった……)
先輩「……おやすみ」
男「あ、はい……おやすみなさい……」
パチッ
男(…………いや、俺が変に考えすぎなんだよな。ただ先輩は、俺をベッドで寝させてあげようっていう、純粋な行動なんだろう。ははっ、深く考えてたのが恥ずかし――)
先輩「…………男?」ギュウッ
男「…………な、なんでしょう……?」
先輩「…………私………………」
男「……………………先輩?」
先輩「――……なんでも……ない」
男「そ、そうっすか……」
先輩「…………なんで……背中向けてるの?」
男「俺この体の向きじゃないと寝れないんデスヨー」
先輩「………………そう」
男(それにしても、すごい先輩のいい匂いがする……。ね、寝れないかもしれない……)
男「い、いやー、しかし今日は助かりましたよー……。先輩に会ってなかったらどうなってることか」
先輩「………………そう」
男「………………………………」
先輩「………………………………」
男「――…………あ、そういえば……。結局、明日には俺がここに来る予定ではありましたけど、何する予定だったんですか?」
男「それが結構気になってたんですよねー……」
先輩「………………………………」
男「…………先輩?」
先輩「………………」スー
男「……なんだ、寝ちゃったのか……。……まぁ、俺も寝るか。なんだかんだで、疲れてるしなぁ……」ウトウト
男「……他のことは……また……明日考えればいいか……」
男「……おやすみなさい」
――AM3:15――
ガタガタ
ガタン
ガチャガチャ
ジャラジャラ…
ガチャリ
ガチャリ
男「――……うぅん? なんだ……?」
カチャカチャ
カチャカチャ
男(……ん? ――あぁ、先輩の家に泊めてもらったんだっけ……)
カチカチ
ギギ…
男(あれ、先輩が居ない……。ってか、この音はなんだ? それに、あそこにいるのは……)
男「…………先輩……?」ボソッ
先輩「――ッ!!」バッ
男「………………スー…………」グーグー
先輩「……気の……せい……?」
男「……………………うーん…………」ムニャムニャ
男(うおぉおお……!! せ、先輩がすげぇ勢いで振り返ったから、とっさに寝たふりしてしまった……)
男(し、しかし先輩……明かりも付けずに、なにやってるんだ?? 一瞬でよく見えなかった……)
男(まぁ、ちょっと探し物とかかな……)チラッ
先輩「…………これで……大丈夫……」ボソッ
男(……うーん、やっぱりよく見えない……。だけど、なにか変じゃないか? この部屋、さっきと……)
先輩「………………」クルッ
男「――っ!」サッ
男「………………グー……」
男(……いま、先輩……なに持ってた? …………て、手錠のように、見えたけど……)
カチカチ
ジャラジャラ…
男(あ、あれ……。も、もしかして、すごくピンチなんじゃないか??)
男(い、いや、先輩が……そんなこと……。――そ、そうだよ、わからないっ! 何か別のことに使うのかもしれない!)
男(とりあえず、もう少し様子を見てみないと――)チラッ
先輩「 やっぱり、起きてる 」
男「」
男「――せ、先輩ッ!!?」ガバッ
先輩「……おはよう」
男「あ、あぁ、あはは……。お、おはよう、ございます……」
先輩「……男、どうしたの?」ニコッ
男「い、いやぁ、何だか目が覚めてしまって……ですね……。――せ、先輩は……な、何をしてたんです……か?」
先輩「……男、手だして」
男「は、はは……。な、なんで、ですか?」ビクビク
先輩「……手…………だして……?」ニコニコ
男「い、いやです……。お、俺、トイレに――って……!?」ダッ
先輩「……どこいくの、男」
男(や、やっと暗闇に目が慣れてきたと、思ったら……)
ガチャガチャ
ガンガンガン!!
男「な、なんだよ……これ……」
男「さ、さっきまで、こんな鍵ついてなかった……のに……」
男(南京錠だけでも、すごい数だ……。こんなの……どうすれば……)
先輩「……さっき、つけた」
男「そ、そうなんですか……。そうですよね、最近不審者が出るとかいうそんな話を聞かないこともないような気がしますからね……あはは……」
ガチャリ
男「……あっ」
先輩「……これで……一緒……」ギュウ
男「……あ、あはは…………」ジャラ
パチッ
男「――えっ? なに、これ……」
先輩「……男……大好き……」ギュゥウウ
男「い、いや、先輩? これ、えっ? 全部、俺の写真……?」
先輩「……男が……あまり部活に来ない……から……撮ったの……」ニコッ
男「は、ははは…………。そ、それは、申し訳なかったです……」
男(お、俺の写真が、壁中に……。――あ、あれは、友と買い物行った時の写真か……? 俺以外の人の顔が、全部塗りつぶされてる……)
――AM6:00――
男「………………」ダラダラ
先輩「………………ん……」ギュゥウ
男(太陽出てきたなぁ……。叫べば、助けを呼べるかなぁ……)
男(携帯は寝る前に、うるさいから電源切っちゃったし……、下手に触って先輩に没収されたら、打つ手なくなっちゃうもんなぁ)
先輩「………………」スリスリ
男「…………あ、先輩。僕、トイレに行きたいなーって……」
先輩「……はい」スッ
男「ぺ、ペットボトル……。――あ、あの、大の方なんですけど……」
先輩「………………」スッ
男「――あ、やっぱりいいです。便意は引っ込みました。だから、しまってください」
先輩「…………そう……」
先輩「………………」ギュゥウ
男「……先輩、そんなくっつかれると暑いですよ」
先輩「……クーラー、つける?」
男「い、いや、あの、離れてくれれば……」
先輩「………………」ピッ
先輩「………………」ギュゥウウウ
男(あぁ……涼しいなぁ……)ポケー
先輩「………………」スリスリ
男「………………」
先輩「………………」スンスン
男「………………」
先輩「………………」スリスリ
男「………………」ナデナデ
先輩「………………っ!」
先輩「………………」ギュゥウウウ
男(なんか、小動物みたいだ……。かわいいなぁ……)
――AM7:12――
先輩「………………」ギュゥウウ
男「………………」
先輩「………………」ギュ…
男「…………先輩?」
先輩「………………」スー
男「……ははっ、寝ちゃった……。疲れてたのかなぁ……」
男「まったく、こうして見ればかわいい――」
男(――って! いや待て、これはチャンスなんじゃないか??)
男(この隙に何か、なにか脱出する方法を……)
男(鍵……の場所はわからないよなぁ……。ほかには……)キョロキョロ
男(……そうだよ、携帯があったじゃないか! よしっ、先輩を起こさないように……)モゾモゾ
先輩「………………んぅ……」ギュウ
男「………………」ビクッ
男「………………せんぱーい……?」ボソッ
先輩「………………」スー
男「……よし………………」ゴソゴソ
男(――とれたっ! 先輩の頭で画面が見えないけど……。とりあえず、電源入れて……――)
ワタシモガキナガラアルキダスノ~♪
男「――ッ!!」ビクッ
男(ちょうど電話かかってきやがった! と、とりあえず、音を止めなきゃ! え、えっと、どうすればいいんだっけか……あぁ、なんでもいいから止まってくれっ!!)
ピタッ
男「…………ふぅ……」
男(よし……。まずはマナーモードにして……あ、先輩は――)
先輩「………………」ジー
男「………………あ、先輩おはようございまーす」ダラダラ
先輩「……おはよう」ニコッ
先輩「……男? なに、してたの……?」
男「い、いやぁ、なんにも……」シラー
先輩「……男……怒らないから……ね?」
男「お、怒られることは、なんにも――って……。もう、わかってるんですよね?」アハハ…
先輩「……私は……男の口から、聞きたい……」ニコッ
男「……ご、ごめんなさい。携帯で助けを呼ぼうとしていました……」
先輩「……そう」
男「………………」ダラダラ
先輩「…………それじゃあ……悪いことした男には……お仕置きが、必要……だよね?」
男「じょ、情状酌量の余地……なーんて……?」
先輩「………………」ニコッ
男「……ないんですね」
男「ち、ちなみに、お仕置きって……なにを?」
先輩「……大丈夫。……怖くない」
男「あぁー……、それはうれしい……なぁ」アハハ…
先輩「……男――」
ピンポーン
男「……お、お客さんですよ?」
先輩「……知らない」
ピンポーン
先輩「……男? 服……脱がすね……」
男「い、いやっ、ちょっとまっ――」
ピンポーンピンポーンピンポンピンポンピンポンピンポンピピピピピピ――
ドンドン!! ガンガンガン!! ガッシャーン!!
「おっとこくーんっ? お姉ちゃんが迎えにきたよー!」
男「――え? この声って……!?」
先輩「……お姉ちゃん……?」
男「い、いや……でも、なんで……」
姉「男くーんっ? どこの部屋に居るのかなー……?」トントン…
男「や、やっぱり姉さんだ……。なんでここが……」
先輩「……男のお姉さん……たしか……」
姉「ここかな?」ドガァン!!
姉「――うーん……? 男くーん……?」コツコツ…
先輩「……男、呼ばないの?」
男「…………あ、あはは……。なんか、あまりいい予感がしないんですよね……」
姉「――あっ、ここだっ!」
ガチャガチャ
姉「あれ、開かないよ? ねー、男くん居るんでしょ?」
ガチャガチャ
ドンドン
姉「ねぇ、なんで返事しないの?」
ガンガンガン!!
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!!
姉「――あ、そっか! 男くん寝てるんだねっ!」
姉「もぉーしょうがないなぁ……」
姉「――お姉ちゃんが起こしてあげなきゃ」
ガンガンッ!!
ドゴォン!!
姉「 見ーつけたっ 」ニコッ
姉「あれー、男くん起きてるね。……なんで嬉しそうにしないの? お姉ちゃんが迎えに来たのに。ねぇ、なんで?」
男「い、今起きて、ちょっと寝ぼけてるだけだよっ! す、すごくうれしいなぁ……」
姉「はははっ! だよね? そうだよね? もぅ男くん大好きっ!」
姉「――で、あんたは誰なの? この匂い……男くんの制服についてた……」ギロッ
男「ね、姉さんっ! この人はっ部活の先輩で――!」
先輩「……生徒会長……」ボソッ
男「えっ?」
姉「…………」
男「せ、先輩、姉の事知ってるんですか……?」
先輩「……私が一年のころの……生徒会長」
姉「――あ、そっか! 男くんとは入れ違いだったから、知らないよね! 言ってなかったし」ケロッ
男「ぜ、全然知らなかった……。でも、先輩もよくそんな二年前の会長の事覚えてますね……」
先輩「……有名……だから」
男「有名……? 姉さんが?」
先輩「……全国1位」
男「…………え?」
先輩「……全国模試で1位とったから」
男「――っ! ははっ……ま、まさか……」
姉「あぁー、そういえばそうだったかもしれないなぁ……。たしか、あの時は男くんが『頭のいい女の人が好き』って言ってたから」
男「で、でも、そんなの、知らなかった……」
姉「だって、男くんの好みが変わっちゃったんだもん」
先輩「……その次は……柔道部でもないのに……柔道県大会優勝」
姉「そうそう。それは『強い女の人が好き』って言ってたから」
男「…………は、はは……」
先輩「……あとは……マラソンでも……たしか」
姉「え? ――あぁ、その時は『走ってる女の人が好き』だったかな」
男「……ぜ、全部知らないんだけど……」
姉「えぇーっ、言ったよぅ! 男くんが全部信じてくれなかっただけで……」ムゥー
姉「――まあ、そんなことはどうでもいいの」
姉「ねぇ、なんで男くんがあんたと手錠でつながってるわけ? それに、この写真……――」ギロッ
先輩「……別に……あなたには関係ない……」ツーン
姉「……っ!! へぇ……、いい度胸してるね」イライラ
男「ね、姉さんっ!? あ、あのちょっと――」
姉「大丈夫だよー、男くん? ……すぐにその女の手首切り落として自由にしてあげるから」
男「なにも大丈夫じゃないよっ!? 姉さん、これはち、違うんだって!」
姉「違う……? 何が違うの? ねぇ、男くん」ニッコリ
先輩「…………おと……こ……?」
男「あ、えっと…………」
男(ど、どうしよう……。でも、このまま何も言わなかったら、先輩が危ない……。正直、姉さんだったら本当にやってもおかしくはない……)
姉「……男くん? まさかとは思うけど、この女を庇おうとしてるわけじゃないよね?」ニコォ
男「ち、違うってっ! あ、あの、えっと、これは……――」
先輩「………………」
姉「これは……?」
男「お、俺の趣味、だからっ!!」
姉「」
先輩「……男……」ドンビキ…
男「……せ、先輩は引かないでくださいよっ!??」コソッ
先輩「……わかってる……」ニコッ
男「……姉さんは、本当にやりかねませんから。昔から、そうなんですよ……――」コソコソッ
姉「――はっ! ……へ、へー……、そ、そそそそうなんだ……。男くんって、そういう趣味が、あ、あったんだ……ね……」
男「………………うん……」
姉「………………それも、いいか……」ボソッ
男「――え? な、何か言った?」
――AM7:55――
姉「――それじゃ、『私の』男くんの趣味に付き合ってくれてありがとうね。……えっと、先輩さん?」
先輩「………………」ジッ
姉「まぁ、男くんの先輩ってことらしいし、いつもお世話になってるみたいだから、この写真については見なかったことにしてあげる」
先輩「………………」
姉「――さ、帰ろっか? 男くん」ギュッ
男「う、うん……」
先輩「――……生徒会長」
姉「…………なぁに?」ニコッ
男(せ、先輩……!? な、なにか変な事言わなければいいけど……)オドオド
先輩「……『姉弟』で……いつまでも仲良く……してください」ニッコリ
姉「………………」
先輩「……男くんは……良い子です。……そんな……『血のつながった』弟が居て……羨ましいです」ニコッ
姉「………………」キッ
男(なんだ、よかった……。何を言うのかと思ったけど、これなら姉さんも――)ホッ
姉「………………」
先輩「………………」
男(――あれ……? なんだろう、この気まずい雰囲気……)
姉「――……行くよ、男くん」グイッ
男「えっ? あ、あぁ、わかったよ。そんな引っ張らなくても……」
ガチャ
先輩「……じゃあね、男……」
先輩「――……また、後で……」ニコッ
男「……え?」
――バタン
姉「………………」スタスタ
男「ね、姉さん? もう引っ張らなくて大丈夫だから!」
姉「…………なに、男くんはお姉ちゃんと手を繋いでたくないってこと?」
男「い、いや! そういうわけじゃないけどさっ!」
姉「なら、いいでしょ」スタスタ
男「あ、あぁ……うん」
姉「あとね、男くん」
男「ん?」
姉「部活は辞めてもらうから」キッパリ
男「へっ!? い、いやいやいやいや!」
姉「……わかった?」スタスタ
男「わ、わかんないよ!」
姉「いいから辞めるの。男くんは、お姉ちゃんのいうことを聞いてればいいから」グイグイ
男「姉さんッ!」バシッ
姉「――ッ! ……お、男くん……?」ビクッ
男「あ……ごめん……」
男「――で、でも! 俺だって、もう子供じゃない。自分で、考えて動くよ」
姉「ご、ごめんね。お姉ちゃんも……悪かったよ……」
男「ううん、いいよ……」
姉「………………」
男「………………」
姉「……あ、えっと……。あの、先輩って娘は、学校ではどんな感じなの?」
男「あー……。まぁ、おとなしい……かな?」
姉「ふぅん……」
男「……そういえば、先輩……。また後で、ってどういう意味かな……? 聞き間違いかな……」ボソッ
姉「………………っ!」ハッ
姉「男くんっ! 服、全部脱いで。それと携帯。あぁ持ってるもの全部出して!」グワッ
男「えっ」
男「ちょ、急にどうしたのっ!?」
姉「いいからっ! 早く!」
男「む、無理に決まってるだろ! こんなところで!」
姉「じゃあ、上着と持ってるものだけでいいから! ……あとは家で処分すれば」ボソッ
男「わ、わかったよ! ……っていっても、財布と携帯ぐらいしか……」
姉「………………」ジッ
姉「……携帯はダメだね」ブンッ
男「えっ?」
ガッシャン
バキッ!!
男「」
姉「財布も捨てるね」ポイッ
男「ちょっ! えっ、えっ!??」オロオロ
姉「お札は抜いたから大丈夫だよ。カードだって、ポイントカードぐらいしか入ってないでしょ?」
男「お、俺が頑張って溜め続けた、ポソタポイントが……。って、それはいいけどっ! 急になにを――」
姉「携帯はお姉ちゃんが新しいの買ってあげる。そうだよ、どうせこれから服も買いに行く予定だったんだし……」
男「い、いやだからっ! どうしてこんなことしたんだって!」
姉「……男くんは、あの家に何時間居たの?」
男「先輩の家に……? えっと……半日ぐらいになるのかな?」
姉「チッ……」
姉「――その間、ずっと起きてた?」
男「いや、そりゃ寝たけど……」
姉「……まさか、あの部屋でじゃないよね?」
男「………………」ダラダラ
姉「……ふぅん……」ギリッ
姉「とりあえず、家に帰るよ。いろいろ、準備しなきゃ……」ブツブツ
男「あ、うん……。――って、あ、あの姉さん! い、妹……とかは……?」
姉「知らない。昨日は帰って来てなかったみたいだけど」シレッ
男「そっか……」ホッ
男(しかし、家に戻るのはいいけど……。危ないことには変わりないんだよな……)
男(どうにか打開策を考えないと……)
男(しかし、なんだか姉さんの元気がないのが気になる……。考え事でもしてるみたいだけど……――)
姉「――ねぇ、男くん」
男「な、なに? どうしたの、姉さん」
姉「お姉ちゃんね……。男くんのことが好きだよ」
男「えっ……? あぁっと…………」
男「…………うん。俺も、姉さんのこと好きだよ」
姉「……ははっ。お姉ちゃん、男くんがそう言ってくれてうれしいな……」
姉「……そうだよね。…………関係なんか、ないよね……」
男「どうしたの、急にそんなこと……」
姉「……血なんて…………」
男「……姉、さん?」
姉「――ううん、なんでもないよー? えへへ、男くん大好きっ!」ギュゥ
男「あ、あはは……」
男(よかった。いつもの姉さんに戻ったみたいだ……)
姉「それじゃっ、早くお家に帰ろっか!」
男「うん、そうだね!」
姉「――よーし! お家に着いたね」
男(……よかった。どうやら、妹は家には居ないみたいだ……)ホッ
姉「それじゃ、男くんはぜーんぶ服着替えてね?」
男「まぁ、わかったよ。よくわからないけど……」
姉「それでね……着替え終わったら、お姉ちゃんの部屋に来てくれる?」
男「え、なんで?」
姉「えへへ、お姉ちゃんが可愛い弟に良いことしてあげるっ!」ニコッ
男「あー……。ま、まぁ、わかったよ……」アハハ…
姉「うんっ! それじゃ、後でねっ?」
――AM8:45――
トントン
男「――姉さん? とりあえず、着替え終わったけど……」
姉「あ、男くん! 入っていいよー」
男「あ、うん……」
男(そういえば……。前回、姉さんの部屋に入ったのっていつだっただろう……? なんだか、ずいぶん前の事だった気がする)
男「そいじゃ、お邪魔しま――」ガチャ
姉「……男くん? どうしたの、入ってこないの?」
男「え……?」
男「あ、あれ、なんで……――」
男「――ここは、俺の部屋?」
男「そんなっ、部屋は……間違えて、ない、よな……?」
姉「お・と・こ・く・ん?」
男「うわぁ!」ビクッ
姉「ははっ。もぉー、どうしたの……?」ニコニコ
男「ね、ねぇ、姉さん……。この部屋って……?」
姉「えへへー、すごいでしょ? この部屋に居るとね、いつでも男くんを感じられるんだぁー……」ニコニコ
姉「……まぁ、いつもは男くんの部屋に居たいんだけど……。高校生になってから、男くんもたまに怒るようになったし……」シュン
姉「――でもほら、これとか懐かしいでしょ? 男くんが小学生の時まで使ってた机……」
男(……よく見ると、部屋の家具の配置は全く一緒になってるけど、あれは古くなって捨てたものばっかりだ……)
姉「この毛布も。枕も。イスも。クッションもぜーんぶ……ね?」
姉「――でも、足りないの」ニコッ
ガチャリ
男「あ、あれ、なんで鍵なんか……――」
姉「男くんならわかるよね……? この部屋に足りないもの……。そして、お姉ちゃんがいっちばーん、欲しいもの」
姉「――ね? 男くん」ニコッ
姉「むー、男くんはいつもそうだよねー……」
姉「まぁ、いいけどね。それも含めて男くんだから」
姉「小さい頃から、ずーっと。私だけの男くん……」
男「ね、姉さん……?」
姉「男くんのことを一番見てきたのは私。……妹ちゃんより、お母さんより、私は男くんを見てきたんだから」
姉「だから、男くんは私だけのもの……。男くんには私が居ればいいの」
姉「だって……、だってわたしは男くんの――」
――――『姉弟』で……いつまでも仲良く……してください……
姉「…………っ!」
男「……ね、姉さん? あ、あれだよ、姉さん少し疲れてるんじゃないかなっ? ほら、落ち着いて……?」
姉「お……とこくん……。……そう、そうだよ……」ギュッ
グイッ
ドンッ
男「え……?」
姉「男くん、大好きだよ。大好き。もう……――」
姉「――誰にも渡さない」ニコッ
ガチャリ
ガチャリ
男「あ、あれ、姉さん? なんで……」ガチャガチャ
男(ま、また手錠……。しかも、今度はベッドの足に……。これじゃ、何もできない――)
姉「男くん、私ね……子供が欲しいなーって思うんだぁ」
男「へ、へぇー……。じゃ、じゃあ俺は叔父さんになるのかなー」アハハ…
姉「……わたし、その冗談は好きじゃないなぁ」
姉「――まぁ、いいよ。……今日なら、デキるとおもうから……」ヌギヌギ
男「ね、姉さんッ!?? ま、待ってよ! ま、まさかとは思うけど……。お、俺たち『血が繋がってる』んだよっ!?」
姉「…………っ! ――……だから? だからダメなの?」
男「だ、だって、俺たち『姉弟』だし、こんな――ムグッ!」
姉「…………ごめんね、男くん。お姉ちゃん、バカだからわかんないや」ニコッ
男「ね、姉さんっ!! 今なら、俺は気にしないからっ! だから――」
姉「……もう、うるさい口だなぁ。……そうだっ、お姉ちゃんのパンツあげる」エイッ
男「はっ!? ちょ、ムグッ――!」
姉「うれしい? そうだよね、男くんはお姉ちゃんのパンツ大好きだもんねー?」
男「んー!!」ブンブン
姉「もう、そんな嘘つかなくてもいいんだよ? 誰もいないんだし……」
姉「それじゃ……男くんの男くんを――」ガシッ
男「ごめん、姉さん」
姉「えっ……?」
ドンッ!!
姉「キャッ……!」ドサッ
姉「あ、あれ、なんで……っ!?」
男「……あのベッド使わなくなったのは、姉さんが手錠をかけた木の部分が、ボロボロだったからなんだ……」
男「それで……。ごめん、ちょっと俺は出かけてくるから」フイッ
姉「ま、待って男くんっ! どこにもいかないで……!」
男「…………ちょっと、出かけるだけだよ。いつか、戻ってくるから」
姉「……だめ、だめだよ……。男くんが居ないと、お姉ちゃん……生きていけないよ……」
男「……ごめん」
ガチャ
姉「待っ――!!」
バタン
姉「………………………………」
姉「…………ふふっ……」
姉「…………男くんのことを一番理解しているのはお姉ちゃんなんだから……」ブツブツ
姉「……そうだよ。だからお姉ちゃんは男くんと一緒に居ないとだめだよね……」ブツブツ
姉「…………あっ、そうだっ。……きっと男くんは周りの娘達に毒されちゃったんだ……」ブツブツ
姉「…………助けないと……。だって私はお姉ちゃんだもん……待っててね男くん……いま助けに行くからね……」ブツブツ
姉「……おとこくん」
――AM9:30――
男「――これで……家にも戻れないな……」
男「夢……じゃ、ないんだよな……」
男「……ん、そっか。今日はもう日曜だったなぁ……」
男「……あぁ……まったく……、どうなってんだか……」トボトボ
男「………………」
男「ダメだ……。色々なことがありすぎて、頭が回らない……」
男「…………あっ、そうか。携帯もないんだったな……」
男「財布も……。一応ポケットの中に二千円入ってるけど……コレじゃなぁ……」
男「はぁ………………………………」
男「――よしっ!!」ガバッ
男「まー、うだうだ考えるのは俺には向いてない! うんっ!」
男「――まぁ、いろいろ問題はあるけど、過去に戻れるわけじゃないんだし……」
男「そうだっ! もしかしたら、みんな演技とかで、明日になったら普通に戻ってるかも……っ!」
男「――なら、いいなぁ……」ハァ…
男「……とりあえず、今の状況を整理するか……」
男「…………いや待てよ」
男「それより、俺……普通に歩いてちゃマズいんじゃ……――」
「お・と・こ・くん?」
男「……えっ?」ゾクッ
男(あれ、これすごくやばいんじゃないか……? いや待て、落ち着け。とりあえずどうする、走るか? でも、迂闊に動き回ったら、他の人に――)
「……男君っ! もう、メール送っても返事くれないし……。――って、どうしたの? 顔、青いけど……」
男「――へっ!? ……って、あ……委員長……?」
委員長「そうだけど……。あれ、男君……なにかあったの?」
男「そっか……委員長か……。――いやーごめん、なんでもないんだ」ホッ
委員長「そう……? あまり、なんでもないようには見えないけど……」
男「ははっ、まぁ……ね」ハハ…
委員長「うーん……。少し、心配だな……」
男「……ありがとう、委員長」ニコッ
男「――で、俺にメール送ったんだっけ? いやいや、今日は携帯も失くしちゃってさ……もう……ね」ズーン
委員長「あはは、そうだったんだ。それならしょうがないね」
委員長「……でも、男君? 今日いろいろあったのはわかるけど……、私との約束忘れてないかな?」
男「……あっ…………わ、ワスレテナイヨ」
委員長「あら、そうなんだ。まぁそうだよねー? 副班長である男君が、こんな責任感のない人間なわけないもんねー?」
男「ま、まったくだな。責任感という言葉は、俺のためにあると言っても過言ではないからな!」フンゾリ
委員長「ぷっ……はははっ! なにそれ……ふふっ!」
男「ははっ、あははははっ!」
男「――……あー、なんかありがとな委員長」
委員長「えっ? ……別に、私は何もしてないと思うけど……」
男「ううん。……なんか、やっと日常に戻れた感じがしたよ……」
男「実際のところは、何にも解決なんかしてないんだけどさ。……でも、ちょっと頭がスッキリした」
委員長「……なんだかよくわからないけど、お役に立てたみたいでうれしいな」
委員長「そっか……。……うん、男君」
男「ん、なに?」
委員長「男君、今日のボランティアの事、気にしなくていいからね?」
男「えっ?」
委員長「返信がなかったから、少し心配してたけど……。どうやら、すごく大変みたいだし……」
委員長「――……それに、男君が理由もなく約束を破るような人じゃないっていうのは、私もわかってるつもりだから」ニコッ
男「……委員長」
委員長「それじゃ! また明日学校でね、男君」クルッ
男「あっ……。――ちょ、ちょっと待ってくれ委員長!」
委員長「えっ? どうしたの、男君」
――AM10:15――
委員長「――でも、本当によかったの? 無理しなくても……」
男「いや、いいんだ。あまり委員長に迷惑もかけたくないしね」
男(それに、ゴミ拾いの場所に居たほうが安全かもしれないし……)
委員長「まぁ、そこまでいうなら……」
男「えっと……場所はこの辺だったっけ?」
委員長「うん。今日の場所は、もうちょっと歩いたところにあるけどね」
男「……今日の場所って……。あれ、次もあるの……?」
委員長「……それはまぁ……ねぇ。……まさか、男君は一回で終わりだと思ってたの??」
男「…………う、うん……」
委員長「はぁ……。――副班長? こういうのはね、継続してこそ意味があるんです」
男「…………まったく、その通りでございます……」
委員長「よろしい。……その辺の話もしたつもりだったんだけどなぁ」
男「うっ……」
委員長「男君が、どれだけ私の話を聞いていなかったかというのがわかるね」ニコッ
男「き、聞いていなかったというか……、あの……聞き漏らしていたというか……。あ、あれかな、委員長と話すのが楽しくて忘れちゃったのかなー……」
委員長「また調子のいいこと言って……。――まぁ、今回はお世辞のうまい男君に免じて、特別に許しちゃいましょう」
男「さっすが委員長っ!」イヨッ!!
委員長「ふっふーん!」エッヘン
委員長「――それに、こうして男君も来てくれたしね」ニコッ
男「ま、まぁ……副班長だしね」テレッ
委員長「ふふっ、そうだね」
委員長「…………でも、本当に助かったよ……」
男「気にしなくていいって! ……しかし、ほかの人はどこに……――?」
委員長「男君が、私の思い通りに動いてくれて」
男「――えっ?」
ガンッ!!
男「――――っ!!」グラッ
ドサッ
男(頭を……殴られた? 誰に? ……委員長に? なんで……。――というか、いま俺は地面に倒れてるのか? ……頭が……混乱して……)
委員長「あ……ごめんね、男君」
男「……い……いん……ちょう……?」
委員長「うーん、ぶつけるところが少しずれちゃったかなぁ。やっぱり、ぶっつけ本番は難しいね。とはいえ、練習するわけにもいかないし……」ブツブツ
委員長「心配しないで? あとでちゃーんと、私が診てあげるから」ニコッ
男「な……んで……」
委員長「あ、大丈夫だよ? 男君を探している人たちがいっぱいいるのは、私もわかってるから」
男「…………っ」
委員長「ふふっ、私ね、男君がなにを考えてるか、だいたいわかるつもりではいるんだ」
委員長「このボランティアのことだって……。男君は、クラスのみんなに聞けばすぐにわかったのに……」
委員長「参加する人なんて、誰もいないってことがね」
委員長「まぁ、もちろん。その時はその時で、考えはあったけれど」
委員長「さっき会ったのだって……。私が男君を見つけたのは、偶然だと思った?」
男「……え……?」
委員長「あの時、私が男君の前に出るのがベストだと思ったんだ」
委員長「どう? 前に居たのが私で安心したんじゃないかな?」
委員長「だって、ただでさえいろんな人につかまって……。大変だったもんね?」
委員長「でも、私はあえて男君と別れようとした」
委員長「『また明日、学校でね』なんて」
委員長「男君はたぶんその時、心の中では私の事疑ってたんじゃないかな?」
委員長「でも、私がそう言ったから、男君は疑うのをやめた」
委員長「だからここに、ノコノコと一緒に来たんでしょ? なんにも警戒しないで」ニコッ
委員長「――まぁどちらにしろ、男君の性格から考えれば、来てくれるんじゃないかな、とは思ったけどね」
委員長「もしかしたら、この場所に来た方が安全だ、なんて思ってたかもしれないけど……」
委員長「――どうかな? あってる?」ニコッ
男(もう、誰を信じればいいんだ)
男(家にも帰れない。学校にも行けない……。悪い夢だと思いたいけど……――)
委員長「――さて、と。それじゃ、男君? 私は準備してくるから、少し待っててね?」
男「……やだ」プイッ
委員長「……ふふっ。男君が、痛みに耐えながらそのロープを解けるのなら、ぜひ逃げてみてね」ニコッ
委員長「でも……ね、男君。よーく考えてみて。もし逃げ出せたとしても、男君はこれからどうするの?」
男「………………」
委員長「男君は、私と一緒に居たほうが安全だよ。それは私が保証してあげる」
男「……ははっ、俺はすっごく頭痛いんだけど……?」
委員長「……それはごめんなさい。――でも、他の人はそんなものじゃ……済まないかもしれないよ?」
男「………………」
委員長「それじゃ、すぐ戻ってくるから」クルッ
男「…………はぁ……」
男(だいぶ、痛みは治まってきたな……)
男(……しかし、委員長の言う通りなのかもしれないな……。ヘタに動くより、いっそ委員長に……)
「まったく……。いつかはこうなるんじゃないかと、思ってたけどね」
男「――えっ? ……お、お前……っ!??」
友「驚いてる暇はないよ。ほら、あっち向いて。ロープ切るから……」
男「あっ……あぁ……で、でもどうして……」クルッ
友「まぁ、偶然だよ。……昨日、男が何か大変なことがあったのはわかってたからね。……それで、今日委員長と歩いてるのを見つけてさ」
友「もちろん、悪いとは思ったし、なにもなければ見なかったことにしようとはしてたんだけど……」
男「……いや、でも助かった。ありがとう……」
友「……とりあえず、ここから逃げなきゃ。……立てるかい?」
男「おう……なんとかな」
友「よし、それじゃすぐに――」
「逃がすわけないじゃない」
ブンッ!!
友「――ッ!!?」ヒュッ
委員長「……っ。――さすが、友さんだね」ニコッ
友「それは褒めてくれてるのかな?」
委員長「もちろん。まさか避けられるとは思わなかったな」
友「まぁ、男がとっさに引っ張って助けてくれたのが大きかったよ」
友「――……男、ここはボクに任せて、逃げて」ボソッ
男「で、でも、友は……!?」
友「ボクは大丈夫さ。これでも、剣道けっこう強いからね」ニコッ
男「……ごめん」
友「気にすることはないよ。……それじゃ、後で連絡するから!」
男「……わかった。――……って、俺いま携帯無いんだよ!」
友「えっ? あー……、それじゃ『おすすめの場所』でまた会おう」
男「えっ……。――あぁ、わかった!」ダッ
友「ふふっ……。――それじゃ、お待たせしたね委員長」
委員長「大丈夫。……それにしても、友さんには一本取られたなぁ……」
友「まぁ……運が悪かったってことで、ね」
委員長「――しょうがない、とりあえず私は降参しようかな?」
友「……へぇ」
委員長「正直、さっきの不意打ちが失敗しちゃってから、もう半分あきらめてたんだ」
委員長「私が剣道部のエースである友さんに敵うわけないしね」ニコッ
友「…………えらい素直だね……」
委員長「………………」ニコッ
友「……なにか、隠してるのかな?」
委員長「さぁ、どうだろうね?」ニコニコ
友「…………一応言っておくけど、男にはもう近づかないでほしいな」
委員長「………………いやだ、って言ったら?」
友「……別に、なにもしないけどさ。――でも次、男に危害を加えたら……ボクは手加減しないからね」ギロッ
委員長「ふふっ……、気を付けるよ」ニコッ
――AM10:50――
男「――はぁ……はぁ……。ここまで来れば、大丈夫かな……」
男「……イッ! ……友には、助けられたなぁ」イテテ…
男「『おすすめの場所』っていうのは、昨日行ったカフェの事だよな。向かわないと……」
男「……遠いな。でも、そこに行くしか……もうどうしようもないし――」スタスタ
「――ったく、なんで私たちがこんなことしなくちゃいけねーんだろうな」
男「――っ!」ビクッ
「おいっ! ヤンキーさんが聞いてたらどうするんだよっ!!」
男(……とっさに隠れちゃったけど……。ヤンキーの仲間の人たちか……?)
「こんなとこに居るわけねーだろ。……しかし、この男ってやつなにしたんだ? 私たち総出で探させるなんて……」
「知らないよ。でも、珍しく切羽詰まってる感じだったよなー……」
男(ヤンキーさんが、俺を探してる……? ……俺のことを心配してくれてるのかな……)
男(……いま、ここで見つかってヤンキーさんのとこに行った方が安全か……? ヤンキーさんなら、話も通じそうだし――)
「それにしても、ヤンキーさんと一緒に居たあのガキはなんなんだ? 妹か?」
男「――っ!!」
「妹が居るなんて聞いたことないけどなぁ……。なんか、変なガキだよな……。子供なのに、子供じゃないっていうか……」
「はぁ、まぁいいや。とりあえず、行こうぜ」
「そうだなー……――」
男(――妹……。ヤンキーに妹が居るなんて聞いたことないし……。たぶん……、いや、幼女ちゃんに間違いない……よな……)コソコソ
男「……あの二人って知り合いだったのかな……? ……違うか、動物園で会ったのが初めてみたいだったし……」
男「……協力してるっていうか……。たぶん、幼女ちゃんに利用されてるのかな……」
男「何はともあれ、これでヤンキーさんに見つかるわけにもいかない、か……」
男「……行こう。見つからないように……」
男「はぁ……違う意味で頭が痛くなってきたぜ……」
「やっと見つけた、男……」
男「……お……幼馴染……?」
男「……よ、よう」
幼馴染「探したんだから。昨日から、ずっと」
男「…………ごめん」
幼馴染「男の家にも行った。携帯にだっていっぱい連絡した」
男「うっ……。そ、それには訳があってだな……」
幼馴染「言い訳なんて聞きたくない」
男「……まあ、そうだよな」
幼馴染「……男」
男「……?」
幼馴染「私と一緒に来て」
男「……どこに?」
幼馴染「どこでもいいでしょ。来て……くれるよね?」
男「ど、どこでもいいってことはないだろ……」オドオド
幼馴染「来てくれない……の?」
男「…………どちらにしろ、今は無理だよ。……本当、自分勝手で悪いんだけ――」
幼馴染「なんで…………。なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでナンデなんでなんでなんでなんでナンデナンデナンデッ!!?」
男「――……幼馴染……?」
幼馴染「なんで来てくれないの!? 私の事が嫌いになったっ? 私、何かしたかな? 男に嫌われちゃうようなことしちゃったのかなっ?」
男「お、幼馴染っ? す、少し落ち着いてくれ――」
幼馴染「なんで……ッ!? いや……いやだよ……! いや、いやだ……。イヤだイヤだ嫌だいやだいやだイヤだ嫌だ嫌だイヤダイヤダイヤダっ!!!」
男「…………っ!?」
幼馴染「――……そうだよね……。男は、優しいから……。私は、私は悪くない……。……悪いのは、あいつらだよね……」スラッ
男「……お、おい、幼馴染……? なんで、包丁なんか……」
幼馴染「もう、イヤなの」
幼馴染「男が、私以外の雌と一緒に居るのを見るのは、もうイヤなのッ!! ……だから――」
――――でも、他の人はそんなものじゃ……済まないかもしれないよ?
男「……冗談じゃない」ボソッ
幼馴染「――男を殺して。私も死ぬから!」
男「本気……なのか?」
幼馴染「大丈夫、心配しないで。男と私は、それでずっと一緒に居られるの……」
幼馴染「もう、誰にも渡さない。もう、誰にも触れさせないんだから……ッ!!」ダッ
男「――くそっ!」ダッ
男(……幼馴染の足は速くない。逃げるのは、何ら難しいことではないと思うけど……)
幼馴染「待って……待ってよッ!! やっぱり、私の事キライになったんだッ!!」
男「違うッ!! 嫌いになんてなってない!」
幼馴染「――チガウ。もう、私はキラワレちゃってるんダ……」ブツブツ
幼馴染「……コレ以上、キラワレチャウ前に……やらなきゃ」ボソッ
男「……ダメか。逃げるしか……っ!」
「せーんぱーい……、見ーつけたッ!!」
男「――なッ!!?」
後輩「……今度は、逃がしませんから……!」ダッ
男「ちょっ……お前もかっ!! ちくしょうっ!」ダッシュ!!
後輩「せんぱーい? 私を置いていくなんてヒドイじゃないですかぁ……」ニコッ
後輩「先輩を見逃すなんて、久しぶりでした……」
男「はぁ!? なに言ってんだっ!」
後輩「……いつもみたいに、私が――!」
ヒュッ!!
後輩「――ッ!」ズサァ!!
幼馴染「――後輩ちゃん……? さすがに、もう見逃してあげられないなぁ……」スタスタ
男「幼馴染……っ? でも……チ、チャンス……か!」ダッシュ!!
後輩「――チッ……。いつもいつも……」
幼馴染「何か、言った?」
後輩「――いえ、何も? ……でも、いいんですかぁ~? 先輩、逃げちゃいますよ?」
幼馴染「そうだね。――でも私より先に、雌豚が男に触ってほしくないから…………さッ!!」ブンッ!!
後輩「――おっと! ……はぁ……いつもいつも邪魔なんですよね……。……ただ先輩の隣の家ってだけで、仲良くしていた幼馴染先輩がっ!」
幼馴染「ふふっ、悔しいんだ? そう、誰も私と男の間になんて入れないの。生まれたときから、そう決まってるんだから……」
後輩「……じゃあ、幼馴染先輩がいなくなれば、万事解決ですね?」
幼馴染「………………渡さない――ッ!!」
――AM11:40――
男「――はぁ……はぁ……っ!! ……よかった、とりあえず二人は追ってきてないみたいだ……」
男「……って、あまりよくはない、か……。幼馴染は包丁持ってるわけだし……、下手したら……」ゾクッ
男「……でも、どうすれば……。――って、あれは……交番か!!」
男「さっきの二人のことを言おう! つかまっちゃうかもしれないけど……、最悪の事態には……よしっ!」
ガララッ!!
男「――あ、あのっ! すいません!!」
「んー? どちらさ――ッ!!?」ビクッ
男「……? ……あ、あのお巡りさん? どうか、したんですか……?」
「い、いやぁ、なんでもないよ……。ゴホン……それで、どうかしたのかな?」
男「そ、そうなんですっ! あ、あの、今さっきのことなんですけど――」
「――ふむ、わかった。すぐ、別のものを向かわせよう」
男「はぁ……ありがとうございます!」
「と、ところで……、君の名前は?」
男「あ、俺は男って言います! ……それじゃ、ちょっと急いでるもので――!」
「ちょっ! ちょっと待ちなさい!」
男「……はい? まだ、なにかありましたか?」
「ま、まぁ、君も色々あって大変だったみたいだし……。コーヒーでも淹れるから、一杯飲んで、一度落ち着きなさい」
男「あ……あぁ、お気持ちはうれしいんですけど! どうしても、急用が……!」
「それは、待ち合わせとかかな?」
男「えっ……まぁ、一応……」
「ははっ、ならコーヒー一杯ぐらい飲んだって、大したことではないさ。交番でお巡りさんと話してたとでもいえば、相手も納得するだろう」
男「は、はぁ……」
「焦ってもなにもいいことはない。あえて少し余裕を持った方が、物事はうまく進むものだよ」
男「…………でしたら、一杯だけ……」
「そうかっ! ほら、座って座って……!」
男「は、はい……」
「じゃ、少し待っててね……!」
男「あ、わかりました……」
ガチャ
バタン
男(……確かに、いったん落ち着いて状況を見直した方がいいかもしれない……。さすが、お巡りさんは言うことが違うなぁ……)
男(――しかし、交番っていうのは案外入るの初めてだったり……。ちょっとドキドキするなぁ……)
男(――……あれ? コーヒーとポッド、こっちの部屋にあるじゃないか……。……じゃあ、お巡りさんは……なんで、隣の部屋に……?)
ボソボソッ
男(……電話? なんで、このタイミングで……。何を話してるんだろう……――?)コソッ
「――はいっ! 間違いありません! 送られてきた画像とまったく同じ少年です! 名前も、男と名乗っていました」ボソボソッ
男「――――ッ!!」
「いま、とりあえずここに留まらせています。あ、あの、これで本当に100万円も……。――あ、ありがとうございます! で、では……っ!」
「――いやぁ、ごめんね男くん……。急な電話が……。――い、いないっ、そんな――っ!!?」
男「――くそっ! まさか警察も……っ!?? こんな事できるのって……」
ザッザッザ…
男「――っ!」ササッ
「――おいっ。連絡があったのはこっちのほうだったよな……?」
「はい、確かにそのはず……ですが…………ん? …………いや、どうやら逃げられたみたいです……」
「なんだとっ? ――ふんっ、まぁいい。この近くに居ることは間違いないんだろう」
「おそらく……。…………しかし……、なんで我々がこんな……――」ビクッ
「――こんな……? 『こんな』……なんでしょう?」
「――ッ!!? お、おおお嬢様っ!!? ど、どうしてこのようなところに……!」
お嬢様「……あら、私の質問が聞こえなかったのでしょうか?」ニコッ
「す、すいませんお嬢様っ!! こいつはまだ――!」
お嬢様「言い訳は聞きません。……連れていきなさい」
「「はいっ」」
お嬢様「……しかし、さっきの話は本当ですか?」
「はい。どうやら、交番の警官が電話をしているうちに逃げたそうです」
お嬢様「はぁ……まったく。……まぁ、それは仕方ありません。とりあえず、この近くには居るはずでしょう? 絶対に見つけ出してください」
「全力を尽くします」
お嬢様「お願いしますよ……? 私は、男さん以外の方と婚約するぐらいなら、死にますから」ニコッ
「――っ。わ、わかっております……」
お嬢様「なら、いいのです」
ザッザッザ…
男(……や、やっぱりお嬢様か……。なんか、俺の想像以上に大変なことになってるんじゃ……)
男(どうする……。今すぐ動くか、機会をうかがうか……)
男(……いや、何人いるかわからないし、今はおとなしくしてるか……)
――PM01:10――
男(――うー……。あれからどのくらい時間が経ったんだろう?)
男(少しずつ、場所を変えたりしているけど、いまだ俺を探してる黒服の人はいる……)
男(……これじゃ、動けない。こうなったらイチかバチかで行くしか……)
ザッザッザ…
男「――っ」
「――おい! ここは探したのか?」
「いや……。でも誰か見てるんじゃないか?」
男(ま、マズい……! 来ないでくれ……!!)
「たしかにな……。これだけ探しても居ないってことは、もう別のところに行ってるのかもしれん」
「そうだよな……」
「まぁ、一応見ておけよ。それでいいだろ」
男「――っ!」
「あぁ……わかった」ガサガサ
男(ダメだ……。もう、行くしかないっ!!)グッ
プルルル…
「ん……? ――おいっ! 隣町のほうで目撃情報があったらしいぞっ!」
男(えっ……?)
「本当か!? よし、行こう!」ダッダッ
男「……助かった……のか……?」
男「目撃情報って……。いや、でもよかった。まだいるかもしれないけど、気を付けて進もう……」
――
――――
――――――
男「――あぁ、もう……。なんだか、すごい遠い場所に向かって歩いてる気分だ……」
男「……おっと。この道を行ったら、自宅の近くを通ることになっちゃうな……。違う道……」
男「いや、待てよ」
男「逆に家の周りには誰も居ないかも……しれないっ! そうだよな、灯台下暗しっていうし……」
男「それに、もしできたらお金も……。さすがに二千円じゃなにするにも微妙な金額だし」
男「よし、そうと決まれば……――」
男「………………」コソコソ
男「だ、大丈夫かな……。やっぱり予想通り、誰も……――」
「おかえりなさい。兄さん」
男「――居ない、なんてことなかったかぁ…………」ビクビク
妹「どこ行ってたんですか兄さん……。心配したんですよ」
男「……ま、まぁなんだ。話せばわかると思うんだ……。その、いろいろ悪いことが重なってしまってだな……――」
妹「――しかし、おかしいですね。いつもの兄さんなら、私を見かけるなり襲ってきてもいいはずなんですけど」ハァ…
男「あ、あれっ!? そんなことしたことないよなっ!?」
妹「……でもまぁ、兄さんなら必ず戻ってくると、私は思ってました」
男「ははっ……、さすがは俺の妹だな」
妹「………………」
妹「ところで、兄さん」
男「どうした?」
妹「姉さんと、ヤったんですか?」
男「」
妹「その反応……っ!! やっぱり、そうなんですね……」グッ…
男「い、いやいやいやいやっ、違う違うっ! ちょ、ちょっとびっくりしただけだよ……」
妹「……それじゃ、まだ……?」
男「あ、当たり前だろ! まだ……っていうか、これからもそんな気は……――」
妹「よかった……」
妹「兄さんは、まだ穢されてないんですね」ニコッ
男「……っ」ゾクッ
男「――……ま、まぁ、そういうことになるのかもしれないが……。え、っと……、い、妹?」
妹「……はい…………?」スタスタ
男「ちょ、ちょっとストップっ! あ、あの……どうした?」
妹「どうした?? 別に、どうもしてないですが」ニッコリ
男「そ、そうかなぁ……。なんか、いつもの妹と違う気がしてならないんだけど……」ビクビク
妹「あはは、何を言ってるんですか兄さん。いつもと変わらない妹ですよ。兄さんが愛してやまない、可愛い妹です」ニコニコ
男「え、えぇっと……。――と、とりあえず、俺は少し金を取りに来ただけだからさ! とったら、また出かけようと……思ってるんだけど……」
妹「ダメです」
男「えっと……理由は?」
妹「当たり前じゃないですか。兄さんとその妹である私は、常に一緒に居るべきなんです。それ以外の理由なんていりません」
男「そう言ってくれるのは、兄としてはうれしいが……。ま、まぁ、あれだ、姉さんだっているんだし――」
妹「知りません。そんな人は」
男「…………は? い、いやいや、何を言ってるんだよ……。いつもあんな仲良くしてるじゃないか……」
妹「……そう思ってるのは、兄さんだけですよ」ボソッ
妹「とりあえず、兄さんには私と一緒に居てもらいます」
男「だ、だから……そういうわけにはいかな――」
妹「力ずくでも」
男「……えっ?」
妹「兄さんは自覚がなさすぎます。もう、皆さんの糸は切れちゃったんですよ」
男「な、なにを……」
妹「今までずーっと、絶妙なバランスで張っていた糸が切れたんです。もう、戻れないんです」
妹「……兄さんが悪いんですよ?」
男「い、妹……?」
妹「――でも、安心してください。この世でただ一人の妹である私が、ずーっと兄さんの味方です」
ガチャン!!
男「……ちょ、ちょっと待てって……。お、お前も……」
妹「最初から決まってたんですよ。兄さんと私の間に入れる人なんて、誰も居るはずないんですから」ガギッ…
男「お、俺たち、兄妹なんだぞ……? 冗談……だよな……?」
妹「…………冗談? いやですね、私は冗談なんて、ただの一言も言ってないですよ」
男「だ、だから――っ!」
妹「ごめんなさい、兄さん。頭の悪い私には、わかりません」ニコッ
男「――っ!!」
ガッシャーンッ!!
ガンガン!!
男「………………あ、あれ……?」チラッ
妹「……はぁ、本当……。邪魔しかできないんですか……姉さん?」
姉「見ぃーつけたぁ。やーっぱりここに居たんだねぇ……男くん」フラフラ
男「姉さん……」
姉「男くんの匂いならすぐわかるよー? ふふふ、ちょっと遠回りしちゃったけどねぇ……」
妹「……あなたと同じ血が流れているって思うだけで、私は自殺したくなります」
姉「……あぁ、妹ちゃん……居たんだ?」
妹「…………ちょうどいいですね。この世で一番、あなたが邪魔なんですよ」
姉「あははっ――!」
姉「私もだよ」
妹「………………」
姉「………………」
男「ちょ……ちょっと二人ともっ!!? な、なにを……」
姉「私と男くんのほうが、長い時間一緒に居るもんね……。それに、妹ちゃんが私に勝てるところなんてあったかな?」
妹「少し早く生まれたぐらいで、調子に乗らないでください。むしろ、姉さんに負ける要素がありません」
姉「ふふっ、いっつも泣いてばかりだったのにねぇ」ニッコリ
妹「…………だから、邪魔なんですよ、あなたは」
男「ふ、二人ともっ! 喧嘩は、やめよう、よ……」ビクビク
姉「男くん……。それはもう遅いんだよ」
妹「そういうことです。そもそも、姉さんと仲良くなったことなんてありませんから」
男「そんな…………」
男(このままじゃ、二人は一触即発の雰囲気だ……。俺が、何とかしないと……!)
男「や、やっぱりこんなの変だよっ!!」
妹「兄さん……」
男「だってさ、俺たちはこの地球上で唯一の兄妹だろ!」
姉「…………」
男「たしかに、少し仲が悪くなるなんてこともあるかもしれない。……けどさ!」
男「辛い時には助け合える……。そうじゃないか?」
妹「…………」
姉「…………」
男「ほら、喧嘩するほど仲がいいともいうし!」
男「俺たち『血のつながった兄妹』なんだからさ!」バンッ!!
姉「…………」イラッ
妹「…………」グッ
姉「…………わかった」
妹「…………そう、ですね」
男「……ほ、本当――っ?」
姉「……ごめんね、妹ちゃん。私も男くんをとられる感じがして怖かったのかもしれない」
妹「……私も、実のところ姉さんに嫉妬してたんだと思います」
姉「…………仲直りしよう? 私たち、姉妹なんだし」
妹「…………はい」
男「――あ、あははっ! 俺もうれしいよ!」
姉「それじゃ――」
妹「そしたら――」
姉・妹「 次は、男くん(兄さん)と仲良くしないと 」
男「………………あれ?」
姉「変? なにがかなー?」ニコニコ
妹「まったくですね。何がおかしいというのでしょう?」ニコニコ
男「い、いやぁ……なんだろう……ね……」
姉「だって、当たり前でしょ? 弟と仲良くなるのは」
妹「やはり、兄妹みんなで仲良くなったほうがいいですよね。兄さん?」
男「お、俺はさ……も、もう仲がいいから……いいんじゃないかなぁ……」
姉「そんなことないよー。もーっと、もーーっと仲良くならないと、ねぇ妹ちゃん?」
妹「そうですよね、姉さん」
男「………………………………」ダラダラ
男(…………逃げなきゃ――)
姉「 逃がさないから 」
男「――っ!!?」
妹「……兄さんの考えてることなんて、手に取るようにわかります」
姉「どうして、逃げようとするのかなぁ……?」
妹「きっと恥ずかしがってるんですよ、姉さん」
姉「ふふっ、そうだねぇ。かわいい男くん」
男「あ、あはは…………」
男「……姉さん、妹。……俺、実は言わなきゃいけないことがあるんだ……」
姉「え…………?」
妹「…………?」
男「二人とも……――」
男「 大好きだよ 」ニコッ
姉「…………ふぇっ?」カァアア
妹「…………っ!!」
男「――ってことで、それじゃっ!!」ダッシュ
妹「……っ! しまっ――!」
姉「――……あっ!」
ガチャバンッ!!
ダダダダ…
妹「…………油断しました……」
姉「あぅ……。でも、あれは反則だよ……」
妹「――まぁ、仕方ありません。……それに、兄さんが行きそうなところなんて、だいたいわかります」
姉「……たしかに、それもそうだね……」
ウフフ…
ウフフフフ……
アハハッ!!
アハハハハハッ…
――PM02:45――
男「――……はぁ……はぁ……。む、無我夢中で走ったけど……、追ってこない……?」
男「しかし、もう何がどうなってるんだか……。……あっ、結局お金もとれなかったし……」
男「……いいや。早く、友との待ち合わせ場所に……――」
カツ…カツ…
男「――っ!」ビクッ
ササッ
男(……って、足音がしたからとっさに隠れちゃったけど……。こんなことにいちいちビビってたら、先に進めないよな……)
男「……そんな都合悪く、誰かに会わないだろ――」
先生「………………」カツカツ
男「……いっ!」ソッ…
ササッ
男(…………やばい)ダラダラ
先生「……えっ……? いま、男君の声がしたような……」
男「………………」ダラダラ
先生「…………これは、僥倖かもしれないなぁ……」スタスタ
先生「男くーん……? どこにいるのかなぁ……」
先生「怒らないから、でてきなさーい……」
男「………………」
男(感付かれてしまった……。いっそのこと走って逃げるか? でも、リスクが……なぁ……)
先生「聞こえてるかな、男君」
先生「昨日はごめんね。いきなりでびっくりしちゃったよね……」
先生「でもね、先生のことを信じてほしいんだ」
先生「なにも心配いらないから。男君の為にいっぱい貯金してきたし、ただ一緒に居てくれればいいの」
先生「男君は勉強嫌いでしょ? 私と一緒に来てくれれば、もう学校にも行かなくていいから。ずーっと好きなことしてていいんだよ」
先生「だから……でてきてくれないかなぁ」
先生「…………じゃあ、こうしよう!」
先生「もし、いま出てきてくれたら、私の家の中では自由にさせてあげる」
先生「……でも、このまま先生に見つかったら……――」
先生「――首輪でも、着けてもらおうかなぁ……」ニッコリ
男(…………あれ、結局先生の家に拘束されることに変わりなくないか……?)
男(で、でもどうする……? ここに居たっていずれ見つかるだろうし……。いっそ先生と一緒に行って、隙を見つけるとか……)
男(――い、いやっ、先生が約束通りにするとも限らないよな……。や、やっぱり……、イチかバチかで……)
「あれーっ、こんなところで何してるんですか先生っ?」
先生「――えっ? ……と、友さん……?」
友「奇遇ですね。今日は休みなんですか?」
先生「え、えぇ……そんなところだけど……。友さんは?」
友「あぁー……いや、なんといいますか……」
友「ちょ、ちょっと……隣町のほうに用がありまして……」チラッ
男「…………っ」
男(そ、そうか……。その情報は友が……)
友「――ま、まぁ、そうゆうことでっ! それじゃ、また学校でー!」ダッシュ
先生「あ……あぁ、また……明日……」
先生「………………隣町……?」
先生「……そういえば、さっきまで居た黒服の人たちも、隣町のほうに行ってたわよね……」
先生「……ってことは……男君も……?」
先生「…………さっきのは気のせいね。……早く向かわないと」
タッタッタ…
男「……い、行った……?」
男「……そうか。あの情報を流してくれてたのは友だったのか……。ははっ、流石だな……」
男「よし、これなら行けるぞ……!」
男「ははっ、よぉーしっ!」
男「運は俺についてる……っ!」
男「さぁ、急がないと……」
女「そうだね。急ごう?」
男「しかし、ここからだとどの道がいいかなぁ……」
女「あれ、そもそもどこに行く予定だったんだっけ?」
男「ははっ、忘れちゃダメだよ……。ほら、あの…………――」アハハ…
女「あの………………?」ニコニコ
男「………………………………」ダラダラ
女「男くんは、どこを目指してるのかなぁ?」ニッコリ
女「えー、教えてほしいなぁ……。いいでしょ、男くん?」
男「お、女さん……いつの間に……?」
女「私はいつでも、男くんの傍にいるよ」
男「…………へぇー……」
女「昨日はひどいなぁ……?」ギュッ
男「ま、まぁ、あの……私にもいろいろと訳がありまして……」
女「今日は、一緒に居られるのかな?」ニコニコ
男「いや……。その……用事がありまして……」
女「居れるよね?」
男「…………あ、あの……」
女「ねぇ?」
ギュウウウ
男(……これは、逃げられそうにない……)
女「うふふっ、楽しいねぇ?」
男「ソウダネ」
女「……私だけの男くん……」
女「ほら、運命の赤い糸……。私と男くんでつながってるの、見えるでしょ?」
男「う、ウン……」
女「ぜーったい、切れないんだぁ……」
男「で、でも、アレだと思うなー。きっと、女さんにはもっと素敵な人が――」
女「そんなのない」
男「――居ると、思ったんですけどそうですか……」
女「もちろん、男くんにも私しかいないよ?」
女「ほかの赤い糸があったって、ぜーんぶ切っちゃうから……」ニコニコ
男「そっかぁ……」
男「………………」
女「………………」ニコニコ
男「……そっかぁ……」
女「さぁ、それじゃ行こうか、男くん?」
男「…………いやぁ、どうしようかなぁ……なーんて……」
女「……そんな男くんも嫌いじゃないけど……。あんまりわがまま言ってると……――」スッ
男「行きましょう」
女「ふふっ……いい子だね。……でも、一回お仕置きしないといけないかな?」
男「い、いやぁ! 大丈夫です……」
女「怖がらなくていいんだよ? さぁ、男くん?」ニコニコ
男「………………うん……」ダラダラ
男(……いよいよ、終わったかなぁ……)
女「楽しみだなぁ……。男くんもそうだよね?」
男「ウン……――」
ブロロロロロ…!!
男(……あれは……バイクか? いいなぁ、俺も盗んだバイクで走りだしたいなぁ……)
男「――……って、アレ……こっちに来てるんじゃ……っ!?」
女「……まさか…………」
キキィッ!!
男「…………止まった……!?」
女「…………あぁ、もう……」イラッ
ヤンキー「――っ! おとこっ、やっと見つけたっ!」
男「や、ヤンキー!?」
ヤンキー「おとこぉ……。全然連絡も取れなくて、すごく心配したよぅ……」
男「ご、ごめんな。い、いろいろと――」
女「あら、奇遇だねヤンキーさん。……とりあえず、さっさと居なくなってくれないかなぁ?」
ヤンキー「……なんでおめぇが男と一緒に居るんだよ……?」
女「わざわざ言わないとわからないのかな? ねぇ、ワンちゃん?」
ヤンキー「…………良い機会だな。動物園での決着つけようじゃねぇか」
男(……って、待てよ。ヤンキーさんが居るってことは……もしかして……)
幼女「 見ーつけた 」
男「――っ!」ジリッ
幼女「いやー助かったよ……。動物園で会ったお姉ちゃんが、扱いやすくて」
男「……やっぱり。ヤンキーになに言ったんだ?」
幼女「そんな大げさなことは言ってないよ。……ただ『早く見つけないと、男が危ない』って言っただけ」
男「……そっか」
幼女「――……それじゃ、おとなしく捕まってくれるの?」
男「……いいや、悪いけど……。俺は行かなきゃいけないところがあるんだ」
幼女「はぁ……そうだよね……」
男「…………あ、あれ、いいの?」キョトン
幼女「まぁ、しょうがないからね。本当はヤンキーのお姉さんに捕まえてもらう予定だったんだけど……――」
ヤンキー「………………」
バチバチッ!!
女「………………」
幼女「――あんな感じだし。……よかったね、女って人と一緒に居て」ニコッ
男「……不幸中の幸いってやつだな」
幼女「――でも、わかったでしょ?」
男「…………え?」
幼女「私は、男を見つけられる。……今回は運が良かったけど、つかまるのも時間の問題だと思うよ」
男「…………ははっ、幼女ちゃんは怖いなぁ……」
幼女「でも、男も大変だね……? いろんな人に探されてるみたいだし……」
幼女「――あっ、そうだ。……たしか、友って人いたよね?」
男「えっ? あぁ……居るけど……――」
幼女「アレは信用しちゃダメだよ? ……忠告しといてあげる」
男「…………頭に、入れとくよ」
――PM03:30――
男「――はぁ……はぁ……。もうこんな時間か……」
男「早くいかなきゃ……友が……」
――アレは信用しちゃダメだよ?
男「――……ははっ、何を言っているんだか。……そうだよ、あれも幼女ちゃんの作戦なのかもしれないし、惑わされちゃダメだ」
男「……とにかく、これ以上時間かけるのはマズいだろ。早くしないと……」
男「……早く……しないと……」
スタスタ
男(……あれ、あの人影って……)
男「………………マジっすか……」
先輩「…………」ニコッ
男「……け、今朝ぶりですね……先輩……」
先輩「…………そう……」
男「せ、先輩はこんなところで何してるんですか?」
先輩「……男に……会いに来た……」
男「……そう、ですか……」
スタスタ
カチカチカチ…
男「――ちょ、ちょっと待ってくださいよ先輩!」
先輩「…………?」
男「お、俺、これから行かなきゃいけないとこがあって……」
先輩「……そう。……だから……ずっと同じ方角に……逃げてる……」
男「そ、そうなんですよっ! だ、だから……――」
男「………………えっ……?」
男「……せ、先輩……? なんで……知ってるんですか……?」
先輩「………………」ニコッ
男「先輩っ! 応えてくださいっ!!」
先輩「……さぁ……?」
男「…………っ!」
男(まさか、ずっとつけてた…………いや、それはないよな。先輩は『前』から出てきた。……俺の行くところがわかってる……?)
男(いや、それもないはずだよな。だってそれは、友と俺しか知らないはず……)
――……また、後で……。
男(……そうだ。あのとき先輩は確かにそう言った……。どうしてだ? 会う予定なんて…………)
スタスタ…
先輩「…………逃げられない……よ……」カチカチ…
男「……考えてる余裕は無い……か……」
ダッ!!
男(……もう、寄り道はできない! 時間をかければかけるだけ、友も危なくなる……!)
男(今はとりあえず、少しでも早く友に会って、状況を説明しないとっ!!)
先輩「………………」ジー
男(…………あれ、何もしてこない……? なんで……――)
先輩「………………」ニコッ
男「――っ!」ゾクッ
男(なんだ……。もしかして、これも先輩の作戦とか……!?)
男(――いやっ! 余計な事考えちゃダメだ。とにかく、走ろう……!)
――――――
――――
――
――PM03:50――
――
――――
――――――
男「――はぁ……はぁ……。案外遠いもんだな……」
男「……って、そうだ。ここからなら、あの近道が使えるじゃないか」
男「たしか……昨日も学校から友のところ行くときにも使ったよな……。まさか二日連続で使うことになるとは……」
男「……よしっ!」
ガサガサッ!!
グキッ
男「――イッ……。あぁ、足ひねった……」
男「……いや、とりあえず急ごう……――」
――――――
友「………………」ソワソワ
男「――っ! おーいっ、友っ!!」
友「あっ……男っ! 無事だったんだねっ」
男「はぁ……はぁ……おかげさまでな」
友「ははっ……。いや、まさかこんな大事になってるだなんて、ボクも思ってなかったよ……」
男「本当……笑えねぇ……――って、そうだっ! それどころじゃないんだった!」
友「えっ……――?」
友「――……なるほど。この場所が見つかるのも時間の問題ってことだね……」
男「……そうなんだよな。…………友も、俺と居ると危ないかも……」
友「……ははっ、それもそうかもしれないけど……」
友「水臭いじゃないか……。ボクは……男となら…………」ボソッ
男「……友?」
友「いぃいいいやいや、なんでもないよっ!」アセアセ
友「――オホンっ! えぇっと……とにかくこれからのことだね……」
男「……そうだな。俺は、ここに来るのが精いっぱいだったな……」
友「うーん……。男の居場所が知られてる……か……」
友「……でも、相手だって人間のはずだし、何かあるはず……」
男「うーん……」
友「まぁ、でも時間の問題ではあるだろうね」
男「えっ? どういうことだ?」
友「確証はない……けど、相手がそれをわかるのは、今日か明日までぐらいだと思う」
男「本当か?」
友「たぶんね。……だから、今日を入れて二日……いや三日逃げ切れば、もう大丈夫だと思うんだ」
男「三日…………」
友「ちなみに、だけど。携帯は持ってないんだよね?」
男「あぁ、なんでか姉さんに捨てられたんだよな……」
友「なるほど……。ほかに持ち物は?」
男「いや……、なけなしの二千円なら持ってるけど……」
友「あはは……。――まぁ、とにかく場所を移動しようか」
男「あぁ、そうだな――っつ……」ズキッ
友「えっ? 足、怪我してるの??」
男「あぁいや、大したことはないんだけど……」
友「もしかして、またあの道通ってきたのかい?」
男「まぁ、急いでたからな……」
友「それじゃ……少し歩くけど、ボクの家に行こう」
友「なにもなければいいけど……。覚悟を決めるしかないかもしれないね」
男「あぁ、その時は俺も、もう逃げないよ。……色々…………ありがとうな、友」
友「……今度、ご飯でも奢ってよ? それでいいよ」ニコッ
男「ははっ……奢るよ。何でも奢る」
友「――よしっ、決まりだね。それじゃ、行こうっ」バッ
そう言って友は、まるで太陽のような笑顔で手を差し伸べてきた。
俺はその手を――――
――――とらなかった。
友「…………男?」
男「…………友……さ」
男「さっき……言ってたよな」
友「……男? 話があるなら、歩きながらでも――」
男「――言ったよな。…………『またあの道を通ってきたのか』って……」
友「…………うん」
男「なんで、そう言ったんだ?」
友「なんで……って、昨日の事じゃないか。まさか忘れたのかい?」
男「そう。俺は昨日、学校からここに来るときに、あの近道を通った」
男「今日も、昨日と同じあの道を通ったんだ」
友「……? なら、別にいいじゃないか?」
男「……でもさ。それじゃおかしいんだよ」
友「……おかしい?」
男「昨日の会話……。覚えてないか?」
友「………………」
男「俺は覚えてる。……いや、思いだした」
友「………………」
男「たしか、友は俺にこう言ったよな――」
男「『ここに来るとき、どこを通ってきたのか。服にいろいろついてるけど』……ってさ」
友「………………あぁ、そうだったね」
男「…………俺、応えたはずなんだ」
男「 木登りしてたって 」
友「………………」
男「別に、意味があるわけじゃない。ただ、誤魔化そうと思ってでた言葉だったんだけどさ……」
男「……あの道を使ったことを知られたくなくて、そんなことを言ったんだ」
男「…………なんか、怒られる気がしてさ……」
友「………………」
男「だから……、友は知ってたらおかしいんだよ――」
男「昨日、俺があの道を使ったってことを……」
友「………………」
男「………………」
男「…………なあ、友。……なんか言い返してくれよ」
男「なんか、理由があるんじゃないのか。……なんで知ってたのか」
友「…………ないね」
友「ははっ……。今すぐ、男を納得させられるような理由が思いつけばよかったんだけど……残念」
男「…………嘘だろ……」
友「そっか……。そういえばそうだったよね……。今日一日でも、いろいろと忙しかったからすっかり忘れてたよ」
男「…………ウソ……だろ……」
友「いやー…………――」
友「――あと、もう一歩だったのになぁ」ニコッ
男「――――っ」
男「――うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
アハハッ
アハハハハッ!!
アハハハハハハハハハハハッ!!
――――――
――――
――
――PM04:20――
――
――――
――――――
男(――走った)
男(……もう、どうなってもいいと思った)
男(車に轢かれても、誰かに見つかっても……。もう、そこであきらめようと思った)
男(……だけど、気付けば俺は駅に来ていた)
男「…………もう、疲れたなぁ……」
男「…………ん、二千円……」
男「……これだけあれば、どこまでいけんのかな……」
男「…………いいや、よくわかんないけど……一番高いの買ってやろう」
男「きっと、そこには……俺のこと知ってるやつなんて一人もいやしないし……。すこしは、落ち着けるかもしれない……」
ガヤガヤ…
男「……なんか、人混みの中に居ると安心するなぁ……」
男「――とりあえず……座って……電車でも待つか……」ウトウト
男「はぁ……なんだ……急に……眠気が……」
男「疲れてんのかな……」
男「ベンチで横になったら迷惑かな……。まぁ、いいよな……」フラッ…
男「……もう…………………………」
男「………………………………」
――――――
――――
――
「…………ます。こちらは……――」
不意にそんな声が聞こえた気がした。
それをきっかけに、徐々に意識が覚醒してくるのがわかった。
「……あぁ、寝ちゃったのか……」
起こされたのは、どうやらアナウンスの声だったようだ。
男は、ゆっくりと体を起こして、周りを見渡す。
暗い。
どれだけ眠っていたのだろうか。
目の前には、誰も乗っていないが、扉を開けて電車が止まっていた。
「……なんか、寒いな……」
冷えた体を擦りながら、駅のホームの時計に目をやった。
時計の短針は11時を指している。
どうやら、6時間近く寝てしまったようだ。
男は、小さくため息をつく。
駅に着いた時の喧騒とは打って変わって、今は誰一人居ない。とても静かだ。
「…………って、こんなことしてる場合じゃ――!」
そこで、昼間の出来事を思い出す。
再び、慌てて周りを見渡す。今度は、人影……もしくは何か変わったことはないかと注意しながら。
しかし、男の心配は杞憂に終わる。
……もう、誰も追ってきていないのだろうか?
先輩は? 自分の居場所が分かるわけではなかったのか?
それとも、誰も男がここに居ることを予想できなかったということなのか。
なにはともあれ、何もないことに安堵して、胸をなで下ろす。
「……でも、夢じゃないんだよな……」
すこし寒いが、夜風で少し頭が冷やせたようだ。
今日一日は、常に頭を使い、常に動き回っていたようなものだったから、こんなに冷静に考える時間がなかった。
思えば今日は、先輩の家で監禁されていたことから始まった。
次は、姉に助けられたかと思えば、再び監禁されかける。
なんとか逃げ出した後は……そうだ、委員長に会ったんだった。
最初に委員長を見たときは、とても安心したのを覚えている。委員長なら安全だと。
だけど、そんな期待も裏切られて…………友に……助けられた。
「……そこから、もう友の思惑だったのかな……」
逃げて。
幼馴染からも逃げて。
後輩からも逃げて……。
お嬢様とその使用人みたいな人たちからも逃げて。
妹に……会って。
そのあと、姉も来たんだったかな……。
それでも、何とか抜け出して。
先生と鉢合わせて……。
「……それも、友が助けてくれたんだよな……」
そのあと女さんに会った時は、さすがにもう無理かと思ったけど……。
ヤンキーが来てくれて……。
そうだ、ヤンキーは大丈夫だろうか……? まだ、幼女が近くに……。
「きっと、大丈夫だよな……」
自分に言い聞かせるように、ぼそりと呟く。今の男には、そう願うしかなかった。
ヤンキーたちと会ったその場から移動する最中、先輩に会って……。
――笑った。
……なんで、あの時先輩は……。――いや、いくら考えても、きっとその理由はわからないだろう。
……そして、友のところにたどり着き……――。
……そして、裏切られた。
唯一、友だけは信用できると思っていたのに。
ふと、男の頬に涙が流れた。
「もう……、俺は何を信じればいいんだ……」
兄妹も、クラスメイトも、教師も、幼馴染も、親友も……――。
「……まもなくドアが閉まります。お乗りのお客様は――」
そんなアナウンスが流れた。
そこで、男もハッと我に返る。
そして大きく深呼吸すると、ゆっくりと立ち上がった。
どこか寂し気に光る電光掲示板を見れば、この電車が終電だということがわかる。
気付かずに寝過ごしてしまっていたら……。
ふと、そんなことが頭をよぎる。
しかし、いま男は起きているのだからと頭を振って、その考えを振り払った。
一歩電車の中に足を踏み入れると、外よりは少し暖かい。
最初から、電車の中で考えればよかったと思い、自嘲の笑いを浮かべる。
何故だかイスに座る気分にはなれなくて、吊革をつかみながら外を眺めた。
暗い、窓の外の景色。
そして、そんな窓に反射してうつる自分の姿を、ただぼんやりと見ていた。
あまり自分の姿というものを鏡で見ることも無いが、ただそこに居た自分は、なんだか少し小さく見えた。
再び自嘲気味に笑うと、今度は景色に目をやる。
「………………えっ……?」
そして、見てしまった。
暗い景色の中、ポツンとたたずむ人影を。
「………………っ!」
ドクンと、大きく心臓が動く。
気付けば呼吸も早くなっていた。
いや、まだあの人影が誰かとは限らない。
何度もそう思い込もうと試みるが、うまくいかない。
暗くてよくわからないが、こちらのほうをジッと見ている。
まだかっ! まだドアは閉まらないのかっ!
男にできるのは、ただひたすらに祈ることだけ。
尋常じゃないほどの冷や汗を右手で拭う。
再び外に視線を向けると、人影はいなくなっていた。
先ほどより激しく心臓が動く。
もし、いまこの電車に駆け込んで来たら……。
いやしかし、あの場所からここまでくるのには数分はかかるはず……。
それまでには……――。
プシュー。
そんな空気の抜けるような音とともにドアが閉まる。
同時に男は、膝から崩れ落ちた。
助かった……。さっきまであの人影があった場所から、この電車まで来るのにそんなに早く来れるはずがない。
それに、あの人影は自分とは何の関係のない人かもしれないじゃないか。
先ほどは、肯定できなかった考えも、扉が閉まったいまはすんなりとそう思えた。
ゆっくりと電車が走り出す。
男も、座席につかまりながら立ち上がり、そのまま椅子に腰を下ろした。
背中を丸め、深いため息をつく。
さっきまで寝ていたというのに、助かったという安心感からか、また眠気が襲ってきた。
「……寝るか……」
どうせ起きていたって、やることなんてない。
そう思いながら、男はゆっくりと目を瞑った。
ゆっくりと、落ちていく。
電車の走る音。
電車の揺れる感覚。
車内の暖かさ。
そのすべてが、男を眠りへと誘っているようだった。
男の中では、やはり安堵の気持ちが大きかった。
何一つ物事が好転したわけではないのはわかっているが、それでもゆっくりと考える時間ができるというのは、やはり安心する。
大丈夫。なんとかなる。
そう、自分に語りかける。
いつか、みんなとも仲良くなれる時が…………。
そう、自分に言い聞かせる。
いや……、後は起きたときに考えよう。
今はもう、眠ろう。
男の脳が、もう休みたがっているように重くなる。
とても、心地のいい。
電車の揺れも、音も。
椅子の柔らかさも、体に残る疲れも。
そして、目に当てられる冷たい……手も……。
ぞわっと、全身に鳥肌が立った。
そして、再び激しく動き始める心臓。
いつの間にか、固く握った両の手も震えている。
そんな……どうしてっ!?
いくら考えても、答えはわからない。
嘘だ……。こんなの……こんなの…………っ!!
気のせいだと思いたい。
否定したい。
しかし、目の前の現実はそれを許さない。
そしてソレは、微かに笑ったかと思うとこう言った。
「 だーれだ? 」
お わ り
大変長らくお待たせいたしました。
これにて、完結とさせていただきます。
これだけグダグダとしてしまったのにもかかわらず、最後まで見てくださった方々、本当にありがとうございます。
皆さんの応援があったから完結までやってこれたと思います。
>>53で終わらせとけばよかったなぁ、と後悔しながらも、何とか自分の思い描いていた終わりまでやることができました。
またSSを書く時がありましたら、その時も暖かい目で見守ってくれると嬉しいです。
それでは。
元スレ
男「ヤンデレってなんだ?」
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男「ヤンデレってなんだ?」
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コメント一覧 (32)
-
- 2016年03月15日 02:47
- 誰か3行でまとめて
-
- 2016年03月15日 02:48
- 傷つけあうことこそが愛
-
- 2016年03月15日 03:21
- 結末だけ教えて
-
- 2016年03月15日 04:57
- 安価友と先輩のループじゃん…キャラいっぱい出した意味…
-
- 2016年03月15日 05:43
- ギャグかと思ってたらホラーになってた。
-
- 2016年03月15日 06:49
- 短いかと思ったら26頁…
-
- 2016年03月15日 06:52
- 後半いきなり違う作品になっててワロタ。クソ長いけど意外と読みやすかったで
-
- 2016年03月15日 06:53
- 入りは好きだしブクマしてちょこちょこ見ようかな
平日の朝からこの長さを見る時間はないわ
-
- 2016年03月15日 06:55
- ※2 ほのぼのハーレム
ヤンデレ追いかけっこ
「だーれだ」
-
- 2016年03月15日 08:22
- 昔ヤンデレ大全とかいうムック本買った時にハルヒの朝倉やひぐらしのレナがノミネートされてて
「は?(全ギレ)」ってなったのを唐突に思い出した。
-
- 2016年03月15日 16:19
- 少しばかりヤンデレたちが戦争を起こす結末を期待してました
-
- 2016年03月15日 18:53
- 割と読んだなぁと思ってスクロールバー見たらまだ上の方にあってわろた
-
- 2016年03月15日 20:31
- リアル鬼ごっこより恐ろしいじゃねぇか
-
- 2016年03月15日 23:22
- わりとまじで結末だれだったんや?
-
- 2016年03月16日 01:09
- ※15
普通に考えると先輩か友か幼女だけど、誰とでもとれるようにしてくれたんじゃね
-
- 2016年03月16日 16:18
- 長い割にすぱっと読めた
個人的には好きです
-
- 2016年03月16日 23:49
- ほう、どれどれ… 1/26!?
誰か三行
-
- 2016年03月17日 01:29
- なぜ団体行動しないで1人ずつ
-
- 2016年03月17日 08:29
- 長いなぁと思ったけど面白くて普通に最後まで読んでしまった
-
- 2016年03月17日 12:59
- 長い
-
- 2016年03月17日 14:23
- 最後は先輩かなぁ
-
- 2016年03月17日 17:33
- 完結したか
ベルトコンベア兄貴のヤンデレものすき
-
- 2016年03月18日 11:31
- 先輩けっこうすき
-
- 2016年03月18日 14:57
- 面白かったよ
-
- 2016年03月19日 01:39
- 完全にホラーじゃねぇか!面白かったけどさ!
このめんばー
-
- 2016年03月19日 01:40
- 途中送信してしまった
最後まで読んだけどこのメンバーの中では幼女のついていないヤンキーだけが男を幸せにできるな
-
- 2016年03月19日 15:11
- ヤンキーだけは唯一病んでないな。
男の言うことならちゃんと聞きそうだし、言っちゃ悪いけど幼女に利用されるくらいの頭の出来だし、安心感がある。
他のメンバーなら、男を探す必要があるなんて吹き込まれたとしても幼女を同行させたりはしないだろう
-
- 2016年03月21日 02:24
- 最後ホラーになったなw
しかし面白かったわ。監禁さえなければ羨ましい
-
- 2016年03月22日 00:56
- ほのぼの系SSだから手軽に読めるよ。けしてホラーなんかじゃないよ。
-
- 2016年03月27日 23:27
- さすがに長かった
-
- 2016年04月10日 12:33
- ヤンキーは「ヤンキーデレ」って意味でヤンデレではあったんだろう。
ヤンデレ:相手が好き過ぎてこわれる
メンヘラ:相手が好きな自分が好きな人間の屑