サーニャ「…ストライクウィッチーズ」 エイラ「怪異ノ魔女」【後半】
- 2015年11月14日 13:40
- SS、ストライクウィッチーズ
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サーニャ「…ストライクウィッチーズ」 エイラ「怪異ノ魔女」【後半】
エイラ「ストライクウィッチーズー」 芳佳「怪異の魔女!」
芳佳 リーネ ペリーヌの部屋
ペリーヌ「――~ん…」パチ
ペリーヌ「……わたくしは…、眠ってしまったのね…」ムク
リーネ「ぁ…! ペリーヌさん」
ペリーヌ「…リーネさん?(メガネを…)」
リーネ「あの…ぉ、おはようございます」
ペリーヌ「ええ、こんにちはリーネさん。 …今何時でして?」スチャ
リーネ「……もうお昼を過ぎています」
ペリーヌ「そう。 本当に起床の時報はありませんでしたのね」
リーネ「はい。 わたしもその…少し前に目が覚めて」
ペリーヌ「……昨晩のことは、やっぱり現実でしたの…」
リーネ「……」
ペリーヌ「ミーナ中佐達が戻って来てからわたくし達は自室待機を命令されましたけど、とても眠れる気持ちになんてなれませんわ」
リーネ「…はぃ」
ペリーヌ「…だけど身体は正直ね。 魔法力の消耗と、緊張や不安の疲れなのかしら……時々どうしても自分を許せなくなってしまいますわ」
リーネ「ペリーヌさん…」
ペリーヌ「……ごめんなさいリーネさん、今のは忘れて」
リーネ「……」
ペリーヌ「…ところで、宮藤さんは戻ってきまして?」ノソノソ
リーネ「ぁ、はい…多分。 目を覚ます時に物音がしてたから、芳佳ちゃんだと思います」
ペリーヌ「そう…、ならサーニャさんはきっと無事ね。 でないとあの子が側を離れる訳ありませんもの」
リーネ「…そう、ですね。 そうですよね」
ペリーヌ「ええ、テコでも動きませんわ」スタスタ
リーネ「ふふ」
ペリーヌ「宮藤さんの無茶苦茶は筋金入りですけど、まったく困った娘ですわ。 横になった形跡はあるようですけ――」チラ
ペリーヌ「!?」
リーネ「……? ペリーヌさん、どうしたんですか?」
ペリーヌ「…リーネさん、ここの引き出し開けました?」
リーネ「え? …い、いえ。 私は昨日からずっと携帯してます」
ペリーヌ「……あの子のが無いですわ」
リーネ「ぇ!?」ドキ
ペリーヌ「……」
リーネ「…芳佳ちゃん」スクッ
ペリーヌ「およしなさい、リーネさん!」
リーネ「で、でも…!」
ペリーヌ「わたくし達が口を出す問題ではありませんわ、たとえ貴女でも」
リーネ「そんな…」
ペリーヌ「……一度、少佐の所へ行きましょう」
医務室
芳佳「はい、おしまい! さっぱり出来たかな?」
サーニャ「…」
芳佳「寝てる人の体を拭くのってやっぱり大変だね、私が汗掻いちゃった。 えへへ」
サーニャ「…」
芳佳「……」
芳佳「……ねえ、サーニャちゃん。 これ覚えてる?」ゴソ
サーニャ「…」
芳佳「私が去年501に来た時からミーナ中佐が預かってたんだって。 …ここに来てからまた渡されちゃったけど、ずっと仕舞ってたんだ」
芳佳「……あの時私、戦争は嫌だって言ったけど…。 でも…」
サーニャ「…」
芳佳「…基地の人もみんな身体を壊してるの。 サーニャちゃんを襲った敵と同じなのかな?」
サーニャ「…」
芳佳「サーニャちゃん…」
サーニャ「…」
芳佳「っ…」
芳佳「……やっぱり倒さなくちゃ」
芳佳「ネウロイも、全部…!」グ
『…サーニャ』
芳佳「!」
エイラ「……」スタスタ
芳佳「…エイラさん!?」
エイラ「……」
サーニャ「…」
エイラ「……サー…ニャ…?」
サーニャ「…」
エイラ「ッ……」ギリ
芳佳「あ、あのっ…エイラさん!?」アタフタ
エイラ「…ミヤフジ」
芳佳「は、はい!?」ビクッ
エイラ「……正直に言え。 サーニャは……、…………死んでるのか…?」
芳佳「ぅえ!? ち、違います違いますっ!! サーニャちゃんは生きてます! 大丈夫ですよ!?」アセアセ
エイラ「…………ホント…なんだな…?」
芳佳「本当ですっ!! まだ意識が戻ってないですけどちゃんと生きてます!!」
エイラ「……そっか」
芳佳「ぇ…? …エイラさん?」
サーニャ「…」
エイラ「…またなサーニャ。 部屋で待ってるからな」
芳佳「えっ、…それだけですか?」
エイラ「ミヤフジ、サーニャを頼む」クル
芳佳「あ、あれ…? あの、エイラさん!?」
エイラ「……」スタスタ
芳佳「エイラさーん!」
ミーティングルーム
美緒「そうか、宮藤が…」
ペリーヌ「この様な事態ですし……わたくし達には宮藤さんの真意に確信を持てないのでその、とにかく少佐にはお伝えしておくべきだと思いまして」
リーネ「芳佳ちゃん…」
美緒「…わかった。 宮藤の事は私が預かる、お前達はとにかく回復に努めろ」
ペリーヌ「了解しました。 …リーネさん、部屋に戻りましょう?」
リーネ「ぇ…で、でも…」
美緒「宮藤は芯の強いやつだ、心配ない」
『少佐ッ!』
ペリーヌ「大尉!」
美緒「…どうしたバルクホルン?」
バルクホルン「エイラがいない!」タタッ
美緒「なにっ!?」
ペリーヌ「…!?」
バルクホルン「少し様子を見ておこうと部屋を覗いたら、もぬけの殻だった! サーニャの所かと思ったがすぐに出て行ったと宮藤が証言している」
美緒「医務室にだと!? ……くっ、やはり隠すのは間違いだった」
バルクホルン「…? どういうことだ少佐?」
美緒「…エイラにはまだサーニャの容態を明かしていない」
バルクホルン「なんだと!?」
リーネ「で、でもサーニャちゃんは無事なんですよね…?」
美緒「ああ無論だ、命に別条はない。 だが意識回復や後遺症の有無等は不明だ、まだ油断は出来ん」
ペリーヌ「……それでもエイラさんには十分すぎる程の刺激ですわね…」
美緒「せめて我々の口から先ず事実を伝え、それからサーニャと合わせるべきだった」クッ
バルクホルン「…そうだな、エイラが受けるショックは大きい。 私にもわかる…」
美緒「今のあいつは自責の念に囚われている。 そんな奴がこの状況で抱える衝動はひとつだ」
リーネ「……まさか、エイラさん…!?」
バルクホルン「!? ……いやしかし無理だ! あいつのストライカーは――」
美緒「今のエイラにそんな分別が有ればいいがな」
バルクホルン「だ、だが無断出撃があれば報告が有る筈だ!」
美緒「人員の健康士気も壊滅している、もはや基地内の連絡網は絶対ではない!」
バルクホルン「ッ!! ……ということは…!?」
ペリーヌ「エイラさん…!」
美緒「至急エイラを見つけ捕捉する! …それと、宮藤は医務室に居るんだな?」
バルクホルン「あ、いや。 私と入れ違いに出て行ったが……リーネ、ペリーヌ、お前達の部屋ではないのか?」
美緒「!? ……シャーリーを信じないわけではないが、やはり直接見ておく必要があるな(後回しでいいかと思ったが、今のエイラとサーニャに立ち会ったというのも心配だ)」
バルクホルン「…どういう意味だ少佐? 宮藤に何かあったのかっ!?」ズイ
美緒「それは私に任せろ、お前はハンガーを確認後エイラを探せ!」
バルクホルン「待ってくれ少佐!!」
美緒「話は後だっ!! 急げ!!」
バルクホルン「ぐっ…! ……了解した!!」ダッ
美緒「…ペリーヌ、リーネ!」
リーネ「!」ビクッ
ペリーヌ「あぁっはい! なんでしょうか!?」
美緒「すまんがお前達は手分けして中佐とシャーリーにこの事を報告してくれ、中佐には基地統制に復帰するよう通達も頼む」
リーネ「りょ、了解」
ペリーヌ「はい。 ですがあの、少佐は…?」
美緒「私は宮藤を探す!」
ハンガー
バルクホルン「…誰もいない、エイラはまだ基地内か?」
バルクホルン「…………! (いや待て、発進ユニットが一台出ているぞっ!?)」タタッ
――――
――
―
バルクホルン「……これは!」
『んー! んぐーー!!』
バルクホルン「! 誰だ!? 誰かいるのか!?」キョロキョロ
整備士長「ふぐん~ー!!」ジタジタ
バルクホルン「なっ!! おいどうした!?」
整備士長「んぐっ、んんー!」
バルクホルン「待っていろ、今解いてやる!」グイグイ
整備士長「~……っぶはぁ!!」
バルクホルン「大丈夫か! 何故こんなところに縛られていた!?」
整備士長「――た、大変です大尉! ユーティライネン中尉がI225を履いて、発進しましたっ!!」
バルクホルン「…なんだとっ!!?」
整備士長「申し訳ありません! お止めしたのですが聞き入れてもらえず、隊長達に報告しようとしたら……この様な事に」
バルクホルン「ぐっ、やはりあのユニットはエイラが…!」チィッ
整備士長「装備も持ち出されています!」
バルクホルン「中尉の行き先は何処だ!! 何か言わなかったか!?」グイィ
整備士長「いえ、行き先はわかりませんが……その」
バルクホルン「なんだ!? 早く言え!!」
整備士長「…ご、“ごめん”と。 酷く冷静な様子で」
バルクホルン「……!」
整備士長「…ぁ、あの?」
バルクホルン「(エイラの奴、ヤケになるよりたちが悪い!)…私も出る! お前は昨夜当番の記録班を叩き起こせ、哨戒ルートを私に報告させろ!!」
整備士長「りょ、了解しました!」
バルクホルン「ッ…」ダッ
――
―
バッ――
スポッ
バルクホルン(…早まるなよ、エイラ!)フィィイン
バルクホルン「ゲルトルート・バルクホルン、緊急出撃する!」
アドリア海上空
エイラ「……」ブゥゥン
エイラ「…――!」キュピンッ
エイラ「……ココか」
エイラ「…………」フィィン
エイラ「…ムリダナ。 どうやってもやられる未来しか視えない」
エイラ「……」
エイラ「それがどうした、サーニャは雲の中の敵とだって戦ってたんだ」
エイラ「……こんなヤツ、ワタシが絶対…っ!」ジャキン
バシュゥゥウッ
バシュッ バシュゥウン――
エイラ「…出てコォオイッッ!! このヤロォォオオォオ!!!」ガチガチ
バシュシュゥウウ
バシュウゥウン――
エイラ「オマエはっ…ワタシがぁあー!!!」ガチガチガチ
バシュゥウウゥウ
バュウゥンッ
ドゴォォオォ ゴォォン
ドゴォァォオン…
エイラ「……ハァ…ハァ…。 …クソッ……出て来いよ……ッ…」
――ブゥゥウン
バルクホルン「エイラ!! こんな所でなにをしている!」
エイラ「…!」ゼェ ハァ
バルクホルン「……」チラ
ゴゴォォォ…
バルクホルン「…敵がいるのか?」
エイラ「……」
バルクホルン「……フリーガーハマーに機関銃のフル装備か。サーニャのストライカーまで無断で持ち出してどういうつもりだ?」ジロ
エイラ「借りた」ボソ
バルクホルン「ふざけるな」
エイラ「…アイツはワタシが倒す」
バルクホルン「……正体を知っているのか?」
エイラ「それが解ればこんなコトしないさ」
バルクホルン(こいつ…!)ムッ
エイラ「……」
バルクホルン「何故撃った? 何を撃った!?」
エイラ「……」
バルクホルン「…向こうに敵がいるのか?」ブゥゥン
ガシッ
バルクホルン「ッ!! なにをするエイラ!?」
エイラ「それ以上進むとやられるぞ、大尉」グイ
バルクホルン「…!?」
エイラ「……」
バルクホルン「……ウィルスか」
エイラ「ウィルス…?」
バルクホルン「軍規違反者には教えん! とにかく基地に戻――」
『ーー~!』
バルクホルン「…! なんだっ!?」バッ
エイラ「!」
ネウロイ「~-」ビュゥン
エイラ「ネウロイ…!」
バルクホルン「…爆炎に炙り出されたか。 どこに潜んでいた!?」
エイラ「ッ…、オマエか…!!」ギリ
バルクホルン「こちらバルクホルン、501基地応答せよ! 現在アドリア中央海域でユーティライネン中尉を捕捉、同時に北東方面から未確認の中型ネウロイが――」
エイラ「大尉は下がってロッ!!! ワタシが……ワタシがぁああ!!」ジャキ
バルクホルン「お、おい待て! エイラ!! それ以上行くとウィルスが…!」
エイラ「うぁあああ!!」ブゥゥウン
バルクホルン「……くそっ! エイラまでやらせてたまるか!!」ブゥゥウン
ネウロイ「―!」ビームッ
エイラ「ッ…!!」ヒュン
バルクホルン「よせエイラ! 未確認型に無暗に突っ込むな!!」
ネウロイ「~! ―~!!」ビビビー
エイラ「――!」ヒュンヒュン
エイラ「…消えろォオ!!!」バシュゥウ
ネウロイ「!?」
ドガァアアッ
バルクホルン「ぐぅ…!? 何をやっているんだ、あんな至近距離でフリーガーハマーを…ッ!」パァア
ネウロイ「ッ……~ッッ…!」バヒュン
エイラ「! 小さいのが逃げた!? 本体!」
ネウロイ「―ーッ」ビュゥウンッ
バルクホルン「!」
ネウロイ「―!」ギラッ
バルクホルン「…私なら刺せると思ったか? 甘いッ!!」フィィイン
ヒュンッッ
バルクホルン「な…!? 消えた!?」ブン
ネウロイ「~~!」
バルクホルン「――!! …後ろか!」フィィン
――ダダダッ
バルクホルン「のわっ!!?」パァア
ネウロイ「~ッ!?」バギィ ベギン
ネウロイ「」
バリィイン
パラパラ…
バルクホルン「……エイラ貴様、私ごと…!?」
エイラ「ゴメン。 でも大尉ならシールド間に合うだろ」
バルクホルン「そんな戦術があるかっ!! 私も敵の動きは追えていたのだから、慌てず味方のいない射線を確保すれば――」
エイラ「気を付ける」
バルクホルン「っ…!(こいつ、もはや別人だ)」グヌ
≪~~≫
エイラ「!!」キュピーン
エイラ(マズイ…)
バルクホルン「…おいエイラ、お前が焦る気持ちもわかるが我々はチームなんだぞ?」
エイラ「そんなコトより早く逃げよう大尉。 さっきのネウロイはハズレだな」
バルクホルン「は? なんだと?」
エイラ「早く!」グイ
バルクホルン「お、おい! なんだ!? なにを言って――」
~フワッ
エイラ「ヴッ…!!」ゾク
バルクホルン「――ッ゛!?」ゾク
基地野外
芳佳「……」
芳佳(絶対許せない! 私が全部やっつける…!)
『宮藤』
芳佳「!」
美緒「…こんな所でどうした?」スタスタ
芳佳「坂本さん…」
美緒「部屋に戻れ。 サーニャの看病やドクターの手伝いで碌に休んでもいないのだろう?」
芳佳「……私は平気です。 それに、休んでいる暇なんて無いですから」
美緒「……」
芳佳「……」
美緒「…ふっ、お前は悩むと海をよく眺める。 私と同じだ」
芳佳「……」
美緒「後手に持っているのは拳銃だな?」
芳佳「……はい」
美緒「理由を言え」
芳佳「…私が持ったら駄目ですか? 坂本さんも、みんなも持ち歩いてるじゃないですか」
美緒「はぐらかすな、私はお前がそうする決心をした理由を聞いているんだ」
芳佳「…………」
美緒「……」
芳佳「…坂本さん。 私、戦います」
美緒「ああ、我々はウィッチだ。 これからもネウロイとの戦いは続くだろう」
芳佳「いいえ、もっと戦います!! ネウロイも全部やっつけます!!」
美緒「……」
芳佳「全部私が! そうすれば――」
美緒(…そうか、なるほどな。 様子見に来て正解だった)
芳佳「――私が、私だけが戦争をすれば…!」
美緒「もういい宮藤、落ち着け」ポン
芳佳「ぁ……坂本さん」
美緒「お前の気持ちも分かる。 悔しさ、無力さ、胸が詰まる程の悲しみ……私も経験した。 人が生きていく限り、誰もが永劫にそうだろう」
美緒「…だかな、宮藤? 決して憎しみで得物を取るな!」
芳佳「ッ…!」ドキッ
美緒「偽善は言わん。 ネウロイは敵で、戦争は奴らを倒すために必要だ。 私もお前もそれ故戦ってきた」
芳佳「……」
美緒「だが戦争は目的ではない。 我々が飛ぶのは人々を、皆の空を守る為だ」
芳佳「ぁ…!」
美緒「お前が戦争を嫌い、戦争をする理由を忘れるな。 その力が何の為に有るのか今一度思い出せ、宮藤!」
芳佳「坂本さん…!」
美緒「……」ジッ
芳佳「………すみませんでした、私…」シュン
美緒「もう心配ないか?」
芳佳「はい…。 ……っ、 大丈夫です!!」
美緒「うむ、そうか。 よぉし!」ベシッ
芳佳「ぁぐ!?」
美緒「わっはっは! ならばそれは護身用に持っていろ!」
芳佳「いたた…。 ぃ、いえ……やっぱりこれは仕舞っておきます」
美緒「む、そうか? おかしな奴だ、はっはっは!」ベシ
芳佳「ぁぶへっ!? い、痛いですよ坂本さん!?」
美緒「はっはっは! これしきで泣き言とは鍛錬が足らんぞ宮藤ぃ!」
芳佳「うぇええ!?」
ゥゥウゥウウ――
美緒「む!」
芳佳「!? 警報…!」
美緒「(ネウロイだとしたら早すぎる。 まさかエイラを追ったバルクホルン達が…!?)…行くぞ宮藤、急いで状況を確認する!」
芳佳「はい!」
―同刻―
執務室
ミーナ「……マレフィキウム、これにも載ってないわね」パタム
ミーナ「はぁ……。 一応ここに駐留するにあたって、歴史資料も適当に集めて貰ってはいたけど…。 初めて開く本だと探すのもしんどいわ」
ミーナ(今の所、古語学所にも辞書にも無い。 となると造語・俗語の類? ガランド少将の言うように、何かの禁忌なのだとしたら意図的に伏せられてる可能性も…?)
ミーナ「…もう少し古い出版物か、検閲や規制の範囲外の資料はないかしら?」ゴソゴソ
ミーナ「あら、なにかしらこれ? “説話の真実 ~本当は怖い20の話~”…? こんな胡乱な本、誰が持って来たのよ」
ミーナ「ロマーニャ帝国の口承文学でも載ってるのかしら? こういう訝し図書なら何が書いてあっても相手にされないでしょうね、もぅ!」ペシ
ミーナ「……」
。
○
(ガランド『聞いたのはさっきのラテン語と丁度同じ頃だ。 ……これは少々クサイぞ中佐?』)
○
。
ミーナ「!」ハッ
ミーナ「…まさか――」パラパラパラ
ミーナ「――あった! “悪魔狩りの真実、魔女狩り”……魔女狩り??(早速胡散臭いわね)」
ミーナ「…………」ヨミヨミ
ミーナ「…嘘!? 本当に載ってるわ、マレフィキウム!」
ミーナ「………………」ヨミヨミヨミ
ミーナ「……な、なによこれ…?(もしこれが本当なら、今私達を苦しめてる正体は――)」
ジリリリンッ
ミーナ「!」
ミーナ「…はい、第501統合戦闘航空団隊長ミーナ・ヴィルケ中佐です」カチャ
『ミーナ中佐! 連合派遣の遺跡調査班から発掘情報共有の許可が降りました!』
ミーナ「わかったわ、直ぐにこっちへ廻して頂戴」
『了解しました!』
ミーナ「…ガランド少将、本当に手が早いわね。 ますます頭が上がらなくなるわ」カチャン
トントントンッ
ミーナ「…!(今度はなに?)」
『ミーナ中佐、いらっしゃいますか!?』
ミーナ「(どうしてかいつも、間の悪い時に限って慌ただしくなるのよね…)いるわ、入って!」
ペリーヌ「…失礼致します」ガチャ
ミーナ「ペリーヌさん! …身体はもう大丈夫なの?」
ペリーヌ「あ、はい。 わたくしは魔法力もそれなりに回復しています」パタン
ミーナ「そうなの、…よかったわ。 それで要件はなにかしら?」
ペリーヌ「はい。 坂本少佐からの御伝言で、基地統制に復帰して欲しいと」
ミーナ「わかったわ。 坂本少佐は?」
ペリーヌ「宮藤さんの様子を見に行かれました。 それで中佐への連絡をと頼まれまして」
ミーナ「宮藤さんの…?」
ペリーヌ「それから、その……エイラさんが失踪しました」
ミーナ「えっ…! どういうこと!?」
ペリーヌ「バルクホルン大尉が仰るには……部屋から出て、医務室に行ってからの足取りがわからないそうでして…」
ミーナ「そんなっ! ……サーニャさんの所へ行ったの!?」
ペリーヌ「み、宮藤さんから聞いたと大尉が……それで今はバルクホルン大尉が探し――」
ウゥゥウゥウウ――
ペリーヌ「!?」
ミーナ「…本当、間が悪いわね。 なにもかも」ギリ
ハンガー
美緒「…よし分かった。 ストライカーの整備は済んでいるか?」
整備士長「申し訳ありません。 人手が足りず、ユーティライネン中尉の109の修理検討しか…」
美緒「不安は残るが仕方ないか。 では燃料のチェックだけでいい、急げ!」
整備士長「はっ!!」ビシッ
美緒「宮藤、お前は残れ」
芳佳「そ、そんな!? 私は大丈夫です! さっき話したじゃないですかっ!?」
美緒「そうではなく、お前はまだ魔法力が回復していない。 今はサーニャの側にいてやれ」
芳佳「ぅ…」
ペリーヌ「少佐ー!!」タッタッ
美緒「ペリーヌ、ミーナ!」
ミーナ「…状況は確認してる?」タタッ
美緒「ああ。 エイラを探して出撃したバルクホルンから、エイラを補足と同時に中型ネウロイが出たと連絡が入った」
美緒「しかし連絡途中にエイラが突出、その後直ぐに通信も繋がらなくなったらしい」
ミーナ「基地のレーダーでは捉えてないの?」
美緒「どういう訳かな。 もしかしたら件の奴かもしれん」
ペリーヌ「ま、まさか…!」
ミーナ「…急いで出撃よ!」
美緒「了解。 だがストライカーは昨晩のままだ、今最低限のチェックだけ急がせているが人手不足で時間がかかる」
ミーナ「っ……また歯痒い状況ってことね」
エーリカ「――ミーナ!」スタタ
シャーリー「中佐、この警報は…!?」ザッ
リーネ「はぁ……っ…はぁ…」ヘナ
ミーナ「…! そうだわ、シャーリーさん!」
美緒「そうか、成る程!」
芳佳「え?」
シャーリー「ネウロイですか!? 昨日でかいのが出たのに! まさかサーニャとあたしを襲ったやつじゃ…!?」
ミーナ「まだハッキリしてないけど、報告では中型のネウロイよ」
美緒「シャーリー! 他へまわした整備班の集合が遅れている、お前の力を貸してくれ」
シャーリー「どういう事です――…って、げぇ! チーフ独りだけかよ!?」
美緒「私とお前とミーナ、ハルトマンの機体を手分けしてチェックするぞ!!」
シャーリー「了か……あれ? バルクホルンはどうしたんです?」キョロキョロ
美緒「バルクホルンはエイラを追って既に出ている、共に通信不能だ」
シャーリー「!?」
エーリカ「トゥルーデが!?」
美緒「故に急ぐぞ!!」
ガザザッ
ミーナ「――! こちらミーナ、報告して」ス
ミーナ「…………」
ミーナ「……わかったわ。 戦闘配備は継続、観測班に踏ん張らせなさい」
シャーリー「――ならあたしが直ぐ出撃ます! ストライカーは自分でもう調整済ですから」ダッ
リーネ「あ、シャーリーさん!?」
美緒「待て、単独で向かうのは危険だ!」
ミーナ「…待ちなさいシャーリーさん!!」
シャーリー「言ってる場合ですかっ!? もうこれ以上被害を出す訳にはいかない!! サーニャをやったやつが出たんだとしてら、今1番耐えられるのはあたしだ!」
美緒(…!?)ピク
ミーナ「落ち着きなさい! 管制から連絡があったわ、2人は無事よ」
シャーリー「!!」
エーリカ「本当、ミーナ!?」
芳佳「よ、よかったぁ~!」
美緒「…負傷はしているのか?」
ミーナ「外傷は無いらしいけど、ダメージは負っているみたい。 一応2人とも自力で帰投中よ」
美緒「……という事は、昨晩と同じか。 決して軽視はできんな」
リーネ「…サーニャちゃんと、同じ…!?」
芳佳「そ、そうですよ! 早く迎えに行きましょう!?」
ミーナ「ええ。 だからシャーリーさん」キリ
シャーリー「!」
ミーナ「至急、2人を迎えに行って頂戴」
美緒「敵は追ってきていない様だが、警戒を怠るなよ? 無線は常に繋いでおけ」
シャーリー「……了解!!」
――――
――
―
――ブゥゥン
シャーリー「着いたぞ2人共! おいバルクホルン! しっかりてくれ!?」
バルクホルン「ぐっ……はっ……ふひゅ…っ……」ガクッ
エイラ「…ゥ、クソォ…」
エーリカ「トゥルーデ!!?」ダッ
芳佳「バルクホルンさん! エイラさん!」タタッ
バルクホルン「ぁぐ……っか…ッ……ぅ…!?」
エーリカ「トゥルーデ! トゥルーデ!! しっかりしてよ!?」
ペリーヌ「エイラさん! 大丈夫でして!?」
エイラ「……グゥ…、気持ちワル…。頭イテェ…」
ミーナ「そんな…! シャーリーさんこれは!?」
美緒「…どういうことだシャーリー? 2人共ついさっきまで自力で帰還出来ていたんじゃなかったのか?」
シャーリー「ええ。 その…通信で聞いてたでしょうけど、ちよっと前に急に様子が変わって……特にバルクホルンのやつが」ギリ
バルクホルン「ひゅっ……っひぅ…!!」
芳佳「ま、まずい!! 呼吸困難になってる!? …バルクホルンさん! 力を抜いて、呼吸に意識を向けてください!!」
バルクホルン「ぎひゅっ……~ぅ…!」ギュ
芳佳「力んじゃダメです! バルクホルンさん!!」
エーリカ「宮藤!! トゥルーデ、左胸を押さえてる…!」
リーネ「…それって…し、心臓……!?」オド
芳佳「!? ……どうしよう脈拍もおかしい、不整脈かもしれない!?」サ
ミーナ「…トゥルーデ! しっかりしてトゥルーデ!!」
芳佳「と、とにかく楽な姿勢にさせないと! バルクホルンさん!?」
バルクホルン「ぁ…っ……ぐ…ふっ…」ガクガク
ミーナ「トゥルーデお願い! 宮藤さんの指示に従って!!」
美緒「…駄目だ、もはや自制を利かす余裕も無いぞ!」
シャーリー「バルクホルン…!」
エイラ「グゥ……た、大尉…」ヨロ
ペリーヌ「エイラさん! 貴女も今は喋らないで、わたくしに体を預けて楽になさい!」
バルクホルン「ぐぅッッ…!!?」ビグッ
エーリカ「!? トゥルーデェ!!!」
芳佳「(…ごめんねサーニャちゃん、戻った魔法力全部使わせて!)……今助けます、バルクホルンさん!!」フィィィン ピョコ
美緒「宮藤!?」
芳佳「少しだけですけど回復してますから、やってみます!」フィィ
リーネ「芳佳ちゃん…」
芳佳「バルクホルンさん、落ち着いて……自分の意識と一緒に呼吸して下さい。 ゆっくり、ゆっくり…!」フィィィ
バルクホルン「…っはふ……はぁっ……!」
芳佳「誰かバルクホルンさんを支えて、横にさせてくださいっ!」
ミーナ「わ、わかったわ!」
エーリカ「トゥルーデ、ゆっくり!」
芳佳「…バルクホルンさん、少しずつでいいから力を抜いて。 呼吸に集中してください」
バルクホルン「ふぅ……はふ…、…ひふ………はぁ…」
シャーリー「いいぞバルクホルン! 呼吸が落ち着いてきた!」
芳佳「脈も…なんとか魔法で安定すれば……っ…!」ゼェ ハァ
エーリカ「宮藤、お願いっ…!」
リーネ「頑張って芳佳ちゃん!」
芳佳「ぅ…っ!」フィィィ
バルクホルン「……はぁ…、ふぁ…ふぅー……」
美緒「…持ち直したか」
ミーナ「……脈拍も、さっきより安定してきてるわ」ス
エーリカ「よかったトゥルーデ……うっ…ぅぅ」
リーネ「ハルトマンさん!?」
エイラ「……」
バルクホルン「す…まない、宮藤……なんとか楽に…はぁふ……」
芳佳「まだ無理しちゃダメですよ!?」
ミーナ「トゥルーデ、今はいいから。 とにかく休みなさい。 私達で自室まで運ぶわ」
バルクホルン「……す、すまな…」
ミーナ「いいから! 今はもう喋らないで!」
シャーリー「…あたしが連れて行きます」
美緒「ああ、頼む。 ……だがその後は私と中佐の元に来い、看病はハルトマンに引き継げ」
シャーリー「え? あ、はい…了解」
美緒(出撃前のシャーリーの口振り、独自に調べて何か掴んでいる様だな。 ミーナも情報収集に手を尽くしているし、1度共有整理し皆の足並みをそろえねば…)
美緒「エイラ、お前は大丈夫そうか?」チラ
エイラ「ぉ、おう……気分悪いけど…ナントカナ…」
美緒「そうか。 お前には色々言うべき事もあるが、全ては落ち着いてからだ」
エイラ「……」
美緒「…ペリーヌ、すまんがエイラをそのまま部屋まで連れて行き休ませてやれ」
ペリーヌ「は、はい! 了解しました! ……いきますわよエイラさん?」グイ
エイラ「ゥ…」ヨロヨロ
美緒「ミーナ、我々はもう少し警戒を維持するべきだと思うが…どうする?」
ミーナ「……ええ、そうね」スク
ミーナ「宮藤さんは改めて負傷者とサーニャさんを診てあげて頂戴。 それからリーネさんはルッキーニさんを起こして来て状況の説明をお願い、その後は2人共待機!」
芳佳「はいっ!」
リーネ「りょ、了解…!」
ミーナ「エーリカはシャーリーさんが戻るまで私達とここで警戒配備よ、いいわね?」
エーリカ「……うん」
ミーナ「…大丈夫よフラウ。 ほら、もう少し頑張りましょう?」サスサス
エーリカ「…わかってるよ」グシグシ
美緒「敵の正体は未だハッキリしない状況だ、全員気を抜かずに事に当たれ!!」
エイラーニャ部屋
エイラ「……」
ペリーヌ「エイラさん、大丈夫でして?」
エイラ「……」
ペリーヌ「……大尉が貴女を探しに出た事は知ってますわ。 どうしてあんな事に…」
エイラ「…サーニャと同じさ、アイツがやったんだ」
ペリーヌ「それはわかっています! そうではなくて、どうしてそんな所に独りで…!? 貴女の履いていたストライカー、あれはサーニャさんの物でしょ?」
エイラ「アイツをブッ倒すタメだ。 決まってるだろ」
ペリーヌ「……」
エイラ「……」
ペリーヌ「…負傷はしましたけど、サーニャさんの命は無事ですのよ?」
エイラ「そんなのワカッテる。 サーニャがいなくなったらこんな所で寝てないさ」
ペリーヌ「だったら、サーニャさんを悲しませるような真似はよしなさいな」
エイラ「…違う」
ペリーヌ「…なにがですの?」
エイラ「…………」
ペリーヌ「…? エイラさん?」
エイラ「ペリーヌ、そこのカード…」チラ
ペリーヌ「へ? ……これですか?」
エイラ「出撃する前にシャッフルしたけど、そこで止めたんだ」
ペリーヌ「?」
エイラ「…一番上、めくってくれ」
ペリーヌ「……え、ええ」ペラ
ペリーヌ「これは…タワー、ですわね?」
エイラ「……」
ペリーヌ「このカードはどういう意味ですの?」
エイラ「…次、めくってくれ」
ペリーヌ「はい?」
エイラ「次めくってくれ」
ペリーヌ「……もう! 甘やかすのは今日だけですわよ」ペラ
ペリーヌ「えっと~……ぅ! で、デビル…」
エイラ「…位置は?」
ペリーヌ「えっ」
エイラ「上下の向きはサカサマか?」
ペリーヌ「ぁ…い、いえ。 普通ですけど」
エイラ「…………そっか。 そういうコトか」
ペリーヌ「は?」
エイラ「あの時、タワーの前に出たデビルの逆位置…。 アイツのコトだったんだな」
ペリーヌ「ちょっと、さっきから何を言ってますの?」
エイラ「そんで今は正位置、悪魔が起きたんだ。……それで…サーニャを‥ッ!」
ペリーヌ「……エイラさん、貴女疲れているんですわ。 少しお眠りなさい」
エイラ「…ゼッタイ許さないぞ、ゼッタイ…」ブツブツ
ペリーヌ(エイラさん…)
―翌日―
ミーティングルーム
シャーリー「――うし、こっそりスイッチオン」カチ
…ゥィーーーン
シャーリー(…あ~、やっぱちょっと目立つな)
シャーリー「まいいや。 そんで、ゲインを上げてっと…」グリグリ
≪ … ≫
シャーリー「――こんなもんかな? 上げ過ぎたか? …自分じゃわかんねぇ」
ルッキーニ「シャーリ~」ヒシ
シャーリー「ん? どうしたルッキーニ、今こっち来ると危ないぞ?」
ルッキーニ「ん~…」ギュ
シャーリー「…なんだ眠たそうだな?」
ルッキーニ「あんまし寝られなかった…」
シャーリー「怖い夢でも見たか?」
ルッキーニ「…なんかまたぐーんってして、すぐ起こされる」
シャーリー「それで寝不足?」
ルッキーニ「寝たけど……なんか、あんまし…」ウジュ
シャーリー「……なるほどね。 よしよし、辛かったな」ナデナデ
ルッキーニ「…あたし病気になったのかな…?」
シャーリー「大丈夫だよルッキーニ。 ずっと続くとヤバイけど、今なら元を断っちまえばそれで終わりさ」
ルッキーニ「うじゅ……」
シャーリー「……なあ、ルッキーニの敏感さを見込んで聞きたいんだけどさ?」
ルッキーニ「…なに?」
シャーリー「今、するか? ぐーんって」
ルッキーニ「……?」
〈〈… 〉
ルッキーニ「…………」
シャーリー「…するだろ?」
ルッキーニ「ぅん…」
シャーリー「やっぱな。 ルッキーニはよくハンガーの鍼なんかで寝てるから平気だと思ってたけど、流石にレベルが違うか」
ルッキーニ「んぃ~~、シャーリー助けてぇ…」
シャーリー「あー…。 これくらいで即影響出る訳ないけど、もう少し下げとくか」グリグリ
『…リベリアン』
シャーリー「え?」チラ
バルクホルン「昨日はその……悪かったな、世話をかけて」スタスタ
シャーリー「バルクホルン! もう大丈夫なのか!?」
バルクホルン「ああ、落ち着いた。 ……少し、まぁ…疲れてはいるが何ともない」
シャーリー「……本当かよ? お前が強がりのひとつも言わないなんて」
バルクホルン「な、なんだそれは! まったく//」フン
バルクホルン「…実際基地に戻った時は危なかったが、あそこで持ち直せた時点でそれ以上がない事はお前が1番わかっているんだろ?」
シャーリー「!」
バルクホルン「…ハルトマンから話は聞いた。 ウィルスではなかったんだな」
シャーリー「……ああ、間違いない。 ついさっき100パーセント確信したよ」
バルクホルン「…その機械で同じことができるのか?」チラ
シャーリー「敵のレベルは多分こんなもんじゃないけど、一応な。 …バルクホルンはあんまり近づかない方がいいぞ? いくら体を鍛えていようが、こいつの耐性は弱いみたいだし」
バルクホルン「…お前の作ったものなら不安だが、我が国の技術部からの借用品なら心配ない」
シャーリー「……ちぇ、言ってくれるよ //」ムス
バルクホルン「フッ…」
ルッキーニ「バルクホルン、も平気なの? バルクホルンもこの前のシャーリーみたいになっちゃったんでしょ…?」
バルクホルン「今は平気だと言っただろ。 むしろお前の方が大丈夫かルッキーニ? 随分としおらしいが」
ルッキーニ「ん……だってここ、ぐーんってするんだもん…」
バルクホルン「は?」
シャーリー「ルッキーニにはわかるみたいなんだよ。 数日前からずっと気にしてたみたいだし」
バルクホルン「…これが感じ取れるのか、凄いな。 しかし大丈夫なのか?」
シャーリー「ああ、耐性自体は比較的あると思うよ。 気になって多少イラつくだろうけど」
ルッキーニ「もぉ全然寝れないよぉ~…」
バルクホルン「…そうか」
シャーリー「まあそれも、もうすぐお終いにするさ! あたし達の手でな!」
バルクホルン「しかし敵の攻撃手段は判明したが、どう対抗する? …ウィッチである我々ですら、敵の索敵範囲ギリギリの距離でこれなんだぞ?」
シャーリー「その辺もバッチリ、ハルトマンの妹からいいもん貰ったよ!」ポンポン
バルクホルン「……その箱の中か?」ジー
ルッキーニ「にゃ…なにそれ?」
バルクホルン「…随分簡単だな。こんな物で無効化できるなら苦労はないと思うが」
シャーリー「んっふふ、そいつはちょっと特別なんだよ。 これから説明するから待ってな」
バルクホルン「特別か…。 んー…?」マジマジ
――――
――
ミーナ「全員揃ったわね? それじゃあ今から――」
エイラ「待ってくれ」
ミーナ「…なに、エイラさん?」
エイラ「サーニャを忘れんなよ、全員じゃないだろ」
ペリーヌ「ぇ、エイラさん…」
美緒「……」
バルクホルン「……」
エーリカ「……」
リーネ「……」
芳佳「っ…」
ルッキーニ「……」
シャーリー「……」
ミーナ「……そういうつもりで言った訳じゃありませんが、ごめんなさい。 少し配慮が足りなかったわね」
エイラ「……」
ミーナ「…では負傷者1名を除いて、ウィチーズ隊全員いるわね? 数日前から起きてる問題に関して、これから緊急ミーティングを行います」
美緒「(先にエイラの件を片付けた方が良さそうだな)…いや待て、中佐」
ミーナ「坂本少佐」チラ
美緒「…!」
ミーナ(わかってるけど、これ以上横槍を入れないで)ジ
美緒「(――と訴えている目だな。 …仕方ない)いやすまん、続けてくれ」
芳佳「…?」
ミーナ「皆もわかってる通り、今私達は非常に不穏な状況に陥っています」
エーリカ「不穏?」
ルッキーニ「敵じゃないの…?」
シャーリー「ルッキーニ、今は静かに聞こうな」ポム
ミーナ「表現を濁したのはそれが最も適しているからよ。 サーニャさんの報告から始まってここ数日、私達が被った被害の原因も何もかもが分からないままだったわ」
美緒「勿論考えられる可能性は限られているが、証拠が無い以上は敵の有無すら定かではい」
ペリーヌ「し、しかし少佐……でしたら何故緊急ミーティングを?」
バルクホルン「分からないまま“だった”。つまり何らかの事実が判明したということだろう? それも重大な」
エーリカ「白々しいねトゥルーデ~? 私達はもう知ってるじゃん、ねえシャーリー?」
ルッキーニ「? …シャーリーなんか知ってんの?」
シャーリー「…まぁそうだけど、とりあえず今は中佐達に任せよう」
リーネ「!」
芳佳「そうなんですかっ!?」
エイラ「……」
ミーナ「ええ。 バルクホルン大尉の言う通りだけど、全員落ち着きなさい」
ミーナ「…貴女達を焦らすつもりもないから端的に言うけど、現状を打破するために私達が倒すべき敵は存在します。 負傷したウィッチを始め、この基地までも襲っている攻撃の正体もわかりました」
エイラ「…!」
芳佳「!?」
ペリーヌ「ほ、本当ですか…!?」
美緒「ああ、その対策も含めてな。 シャーリー、来い」
シャーリー「はーい…っと」スク
ルッキーニ「シャーリー?」
シャーリー「ちょっと行ってくる」
シャーリー「……」スタスタ
美緒「…昨日話した事で間違いは無いんだな?」ヒソ
シャーリー「ええ。 一足先に確信できましたよ」ヒソヒソ
美緒「うむ、では任せる」
シャーリー「アイマム」
シャーリー「うし! みんな聞いてくれ、これから敵の攻撃手段について説明する!」バン
シャーリー「今回の騒動、今もあたしらを苦しめてる原因。それは――」
エイラ「……」
シャーリー「…音波だ!」
リーネ「ぉ、音波…!?」
芳佳「音波ってことは……えっとつまり、音ですよね?」
ペリーヌ「当たり前じゃないの。 貴女はこんな時でもおとぼけですのね」
芳佳「そんなぁー!?」
エイラ「……」
シャーリー「まあ、ざっくり言えばな。 ……敵は多分、普通じゃ考えられないくらいの出力で音波を飛ばしてるんだ」
シャーリー「でも音ってのは元々空気振動の波だから、あたしらの目には見えない! これが見えない攻撃の正体ってこと」
芳佳「な、なるほど…!」
シャーリー「そんでもって、それはこの基地にまで届いてる。 基地内で体調や精神の不安を感じる人間が多いのはそのせいだ」
エーリカ「トゥルーデがこの前のミーティングで変にイライラしてたのも、そのせいだったんだよね?」
バルクホルン「と思うがな。 …お前が奇跡的に朝食の席に間に合ったり、人目も気にせずしおらしく泣いたりしたのもそのせいだろう?」
エーリカ「まーね♪」
バルクホルン「……否定しろ」
ペリーヌ「…確かにあのミーティングの時は、何人かの方が少しおかしかったですわ」
芳佳「そういえば、そうだね?」
リーネ「ぅ、うん…(芳佳ちゃんもほんのちょっとだけ恐かったし)」
美緒「いや、それらしい兆候はもっと以前からあったかもしれん。 なあミーナ?」
ミーナ「…もしかして、私が休んだ日の事を言っているの?」
美緒「自己管理も甘くない筈の中佐にしては、なかなか憔悴していたからな。 でなければ私から無理に休めなどとは言わん」
ミーナ(どうかしらね…)
ルッキーニ「……シャーリー、それじゃあたしのこれもそうなのぉ…?」グデ
シャーリー「ああ、そうだぞ。 音波のせいだ」
ルッキーニ「うじゅ…」
芳佳「……あれ? でもシャーリーさん、私そういう音っていうか……別になにも聞こえませんでしたよ? いつも通りだったと思います」
シャーリー「そりゃそうだ。 あたしらの耳には聞こえてないよ」
リーネ「…?」
ペリーヌ「……どういうことですの??」
シャーリー「人間のが音として感じ取れる振動周波数はだいたい20ヘルツか、よくて10数ヘルツくらいからだ」
シャーリー「んでこれより低い周波数…いわゆる超低周波ってのは、音としてあたしらが感じる事は不可能なのさ。つまり聞こえない」
エイラ「……」
芳佳「き、聞こえていないんですか…!?」
シャーリー「ああ、あたしにもね。 こうしてる今も敵の音波が届いてるかもしれないし、実際にそこの装置で同じこともしてるよ」チョイ
芳佳「!? …ええぇ!?」ガーン
エイラ「……」
美緒「むぅ……何も聞こえんな?」
シャーリー「よぉーく聞くと加振器のコイル回してる音とか色々聞こえちゃいますけどね? ちなみに人を殺すような強さは絶対出ないんで安心してください」
ミーナ「…もう動かしていたなんて気づかなかったわ! それにしても、ここまで巨大なスピーカーが必要なのね」
シャーリー「超低域ですから。 ストライカーの耐久試験用のを貸してもらいました」
エーリカ「私のおかげでね!」
バルクホルン「ウルスラのおかげだろ」
ペリーヌ「……本当に、ここから音が出ているんですの…?」ジー
シャーリー「可聴域に結構近い所が出てるから人によっては聞こえるぞ? 可聴域には個人差も結構あるみたいだし、ルッキーニは僅かに感じ取ってるもんな?」
ルッキーニ「ぅん……ぐーんってしゅる…」
ペリーヌ「全然わかりませんわ…」
ミーナ「ならコップに水を入れて置いてみたらどうかしら? 振動波が出ているなら液面が揺れる筈よ」
バルクホルン「…そうだな。 ハルトマン、少し借りるぞ」ヒョイ
エーリカ「えー! 待ってよトゥルーデ、それまだ飲み切ってないんだけど!?」
バルクホルン「だから借りるんだ!」スタスタ
バルクホルン「……」コト
ミーナ「……」ジー
美緒「…うむ。非常にわかり辛いが、確かに置いた時と違う揺れが干渉しているな」
芳佳「不思議ですねぇー…!?」
リーネ「……ぁ、あの…いいですか?」オズオズ
シャーリー「ん?」
リーネ「その……聞こえないなら、問題ないんじゃないですか…?」
芳佳「…そうなのリーネちゃん?」
リーネ「ぇ…だ、だって感じないんだよ? それなら別に意味は無いような…」
芳佳「あっ! そっか! どうしようシャーリーさん、私達にはこの音の攻撃効きませんよぉ!?」アワワ
シャーリー「あっはは! 残念だけどそうはいかないんだ」
芳佳「でも、音として感じないんですよ!?」
シャーリー「音としてはな。だからやっかいなんだ、こいつは」
リーネ「…?」
芳佳「???」ポカーン
ミーナ「…宮藤さん、リーネさん。 たとえ私達には聞こえなくても、その振動を認知する事は出来てしまうのよ?」
美緒「こうして目で確認もしている訳だしな」
バルクホルン「…そういう意味でなら触って直接感じる事もできる。 これはかなりわかり辛いが、スピーカーのコーンを触ればいい」ピト
シャーリー「それだけじゃない。 窓がガタガタ鳴ったり、他の物に共鳴を起こすことで二次的に不快感を与え続けることだってあるんだ」
シャーリー「…しかもそれを、あたしらは普段気づけない!」キリ
ペリーヌ「では、その結果ストレスが積み重なって…?」
美緒「…不定愁訴になる、という事か」
エーリカ「じゃあ結構前からやられてたんだね? 私達」
エイラ「――…チガウな」
エーリカ「えっ?」チラ
エイラ「ワタシと大尉が受けたのはそんなんじゃない。 …サーニャを苦しめたのは、そんなんじゃない」
ペリーヌ「エイラさん…!」
エイラ「それにアイツは数日前、アノ夜から突然起きたんだ。 サーニャの魔導針もワタシの未来予知も、タロットも間違っちゃいない」
エーリカ「……ぇ、えっと~…?」
ミーナ「……」
美緒「……」
シャーリー「…わかってるってエイラ、あたしもそう思う」
エイラ「……そっか。 ゴメン、続けてくれ」
シャーリー「おう」
エイラ「……」
ミーナ(……エイラさん、とりあえずは冷静みたいだけど――)
バルクホルン(――どうもらしくない、昨日から)
美緒(…危ういな)
芳佳(やっぱりなにか変だよエイラさん。 どうしちゃったんだろ…?)
シャーリー「この低周波騒音てのはただ人を不快にさせるってだけじゃなくて、直接的に悪影響を受けることもまれにあるんだ。 まだ学術的に証明はされてないらしいけど」
バルクホルン「つまり根拠はないのか?」
シャーリー「けど否定だってできないだろ? …低周波音や超低周波音はエンジンとかの機械騒音や、爆発とか台風、それと貯水放出時の轟音なんかによくあったりして――」
シャーリー「実際に工場やダムの近隣に移った人が酷い頭痛や吐き気、果ては原因不明の病気に悩まされる例だってある」
バルクホルン「…随分と詳しいな」
シャーリー「軍に入隊する前は毎日バイクのエンジン弄るか乗るかだったからね。 その辺の知り合いに聞いたことがあったの思い出して、もしかしたらと思ってさ?」
芳佳「へぇー…! 私、診療所の娘なのに全然知りませんでした!」
ペリーヌ「病因として確立しているわけではありませんもの、わたくしだって知りませんでしたわ」
美緒「…話を戻すが、つまりそれらの原因が複合的に作用しサーニャの惨事を生んだという事だな?」
シャーリー「そうだと思います。 でも仮に日常にそういう環境があったとしても、普通なら自覚する程おかしくなるのに何ヶ月や何年とかかる筈ですけどね」
バルクホルン「…そうだろうな。 工業機械に近づいただけで血反吐を吐いて昏睡するわけもない」
美緒「うむ」
エーリカ「…じゃあ敵の出してるその音波は相当出力が強いってことか」
シャーリー「そうなんだけど、サーニャは距離を詰めただけじゃなくて敵に見つかった。 だからさらに異常なデシベルの超低周音波に狙われたんだ。 エイラの未来予知はその境界線だったってことさ」
エイラ「……」
バルクホルン「人間の生理的に無防備な所を侵される、か…」
エーリカ「んー確かにそれなら身体のいろんなバランスを崩して、最悪中から壊れるぐらいあり得るかも」
芳佳「そ、そうなんですかっ!?」
エーリカ「多分だけどね? サーニャンは血圧とか血流異常で呼吸器の血管が破れたのかもしれないし、トゥルーデの呼吸困難と循環器異常も神経バランスの混乱とか急な異常ストレスから起きた可能性もあるよ」
ペリーヌ「ひぃぃ…」
ルッキーニ「ぅじゃぁぁ、怖いこと言わないでよぉ…!」
芳佳「は、ハルトマンさん…私なんかより全然詳しいですね……」
エーリカ「そう考えると、トゥルーデのウィルス説も案外近かったかも?」
バルクホルン「……違ったのだからどうでもいいだろ、忘れろ!//」
美緒「だがその病原は見えん、聞こえん、逃げられんとくる」
ミーナ「改めて聞くと恐ろし過ぎるわね…」
芳佳「――……あれ? でも変じゃないですか?」
シャーリー「ん? またか?」
芳佳「症状が色々ありそうなのはなんとなくわかるんですけど…、でもサーニャちゃんが攻撃された時にシャーリーさんもそばに居たんですよね?」
芳佳「…それなのにシャーリーさんは吐き気づいただけでしたし、直ぐ元気になったのって少し不思議じゃないですか?」
リーネ「そ、そういえば…」
美緒「うむ、確かに。 昨日シャーリーは“敵の攻撃を最も耐えられるのは自分だ”と言ったが、何か特別な理由がお前に有るのか?」
シャーリー「少佐、別にあたしだけ特別なんじゃありませんよ。 整備班の皆もあたしと同じです」
美緒「なに?」
ミーナ「……言われてみれば、他の班のヘルプは殆どが整備班からだわ」
芳佳「特別って、どういうことですか!?」
シャーリー「んふふ、それはなぁ…――」ニヤ
芳佳「……」ゴクリ
シャーリー「慣れだ」
芳佳「…………ぇ? えぇぇ!?」ガーン
シャーリー「言ったろ、あたしは昔からエンジン弄りばっかしてたって? 実際そういう所で働いてるやつは皆結構平気だったりするんだよ。 勿論弱いやつもいるけど」
シャーリー「こういうのは乗り物酔いと似て人によって強い弱いの差はあるんだけど、続けてると慣れてくるって場合もあるんだ」
芳佳「な、なるほど…!」
エーリカ「そんなんでいいんだ?」
シャーリー「…つってもあたしだってあんな異常な音波くらったら関係なくヤバいからな? マジで苦しかったし」
バルクホルン「だがそれにしてもサーニャだけが我々3人に比べて重篤過ぎはしなかったか?」
エイラ「……」
シャーリー「……多分だけど、サーニャは元々危ないとこまで来てたんじゃないかと思う。 毎晩哨戒に出て音源に接近してたんだから、たった数日でもそれだけ影響受けてたって事だよ」
美緒「…そうか」
シャーリー「とりあえず、見えない攻撃の正体はこんな所ですけど?」
ミーナ「有難うシャーリーさん、後は任せて。 戻っていいわ」
シャーリー「アイマー」スタスタ
シャーリー「よいしょっと。 ただいま」トス
ルッキーニ「んねぇ…シャーリー、あれもう止めてぇ…」ウジュ…
シャーリー「え? あっやべ、そうだな! 電源切ってくる」
ミーナ「……シャーリーさんのおかげで謎は解けたけど、聞いての通りこれは明らかに作為的に引き起こされてる現象よ!」
美緒「…このまま放っておくことは勿論できん。我々の敗北はロマーニャ南部防衛線の崩壊を意味する!」ズイ
美緒「故に我々はこの“害敵”を絶対に討たねばならん! …異論はないな?」
ミーナ「……」
シャーリー「……」
ルッキーニ「?」
バルクホルン「少佐、なにを今更! それが我々の使命ではないか!!」
ペリーヌ「そうですわ! ネウロイを倒すことに異論などあり得ません!!」
ペリーヌ「…ですわね、リーネさん?」
リーネ「ぇ、は…はいっ!」ビク
ペリーヌ「宮藤さんも、もう話し合うだとか変な事を考えたりしませんわよね!?」
芳佳「絶対に大丈夫です!! 私は皆を守るために、戦うって決めたんです!」
エイラ「……」
美緒「うむ、そうだな。 その通りだ」
ミーナ「…………」
ルッキーニ「…んでもどうすんのぉ? 耳ふさいでちゃ、銃持てないよ?」
シャーリー「大丈夫さルッキーニ、とっておきがあるんだ!」
ルッキーニ「とっておき?」
バルクホルン「…その箱の中身だな、ミーナ?」
ミーナ「え…? ぇ、ええ。そうよ――」
ミーナ「……オホン! 時期はまだ決まっていないけど、攻勢に出る際には全員これを装着します」ゴソ
芳佳「…なんですかそれ?」
エーリカ「ヘッドホン?」
ミーナ「防音効果に優れた特別性のイヤーパッドよ。 これもウルスラ中尉が一緒に送って来てくれたわ」
シャーリー「さっきの過振器なんかで、ストライカーの耐久試験を行う時に作業者が使うんだ。 それだけだとあの音波の遮断は多分難しいけど、そいつは更にあたし達の為に術式を組み込んでもらってる」
バルクホルン「…ウルスラに感謝だな」
ミーナ「魔法力を込めるだけで術式がパッドに密閉型のシールドを展開してくれるわ。 災害級の超低周波音が及ぼす作用は完全に明らかじゃないけど、少なくとも耳から受ける影響は防げるはずよ!」
芳佳「おぉ~…!」
美緒「日がな装着し続けるのはかえって煩わしいかと思うが、少しでも体調を整える為に今日から全員着けて寝ろ」
ルッキーニ「えぇ~、邪魔そー…」
シャーリー「起こされるよりマシだろ? 我慢だルッキーニ」
ペリーヌ「まぁ…起きてる間は聞こえ辛くなっては不便ですものね」
エーリカ「これでトゥルーデの怒号も聞こえなくなるのか。 いいね!」
バルクホルン「よくない、自分でちゃんと起きろ」ジト
美緒「普段目覚ましに頼っている者は私が叩き起こしてやるから安心しろ」
リーネ「ぅ…(今日から早めに寝なきゃ…!)」
ミーナ「……」
ミーナ「…それじゃあ、長くなったけど今日の所は以上よ」
美緒(む?)ピク
シャーリー「…ぇ!(あれ?)」
ミーナ「今後の対応と作戦に関しては上層部とも話し合うから、決定次第また連絡をします。 それまで全員回復と防衛に努めて。 勝手な行動は絶対に駄目よ」
美緒「おい中佐? まだ――」
ミーナ「…では、解散して」スタスタスタ
美緒「ぉ、おい!?」
エーリカ「終わった終わったー」ノビー
バルクホルン「緊張感を持てハルトマン。 謎は解けたが、まだまだ楽観できる状況ではないぞ?」
ペリーヌ「…予想は出来ていましたけど、大変な事態になりましたわね。 空気の振動で攻撃されるなんて…」
リーネ「う、うん…」
ルッキーニ「あーん、まだなんかぐーんってする…」
芳佳「大丈夫ルッキーニちゃん?」
エイラ「……」
美緒「ミーナの奴、いったいどういうつもりだ…?」
シャーリー「――少佐! 中佐、なんで先に切り上げちゃったんですか? まだ全部終わってませんよね?」スタタッ
美緒「ああ、わかっている。 お前は私の代わりに様子を見に行ってくれ」
シャーリー「いいですけど、少佐は行かないんですか?」
美緒「エイラの件もまだ済ませていないんでな。 そちらを頼んだ」
シャーリー「…わかりました。 じゃあバルクホルンも連れて行きますよ?」
美緒「……そうだな。 いいだろう、そうしてくれ」
シャーリー「了解」
バルクホルン「さて、私は基地の見回りでもしておくか。 まだ途中だったし」
シャーリー「――バルクホルン、ちょっといいか?」スタタ
バルクホルン「ん? なんだシャーリー?」チラ
シャーリー「中佐の所へ行こう、あたしと来てくれ」
バルクホルン「…どうした?」
シャーリー「来ればわかる。 ここで話すと長いから、とにかく行くぞ!」グイ
バルクホルン「お、おいなんだ!? 引っ張るな!」
バタバタバタッ――
エイラ「……」スタスタ
美緒「…エイラッ!! 待て!!!」
芳佳「わっ!?」ドキィ
リーネ「ッ…!!?」ビクッ
ペリーヌ「きゃ!?」
ルッキーニ「ぅじゃ!?」
エイラ「……」
芳佳「び、びっくりしたぁ…! 急にどうしたんですか坂本さん!?」
美緒「…お前はまだ残れ。 話がある」
エイラ「……」スタスタ
美緒「……」
エイラ「戻ったぞ、ナンだ?」
美緒「…“なんだ”だと? まさかとは思うが想像つかんか?」ジロ
エイラ「……」
美緒「……」
ルッキーニ「あ、あわわわ…」ガタガタ
ペリーヌ「…ぁ、あの少佐! お待ちくださ――」
エーリカ「ストップ! やめときなってペリーヌ」サッ
ペリーヌ「で、ですけど…!」
美緒「…まあいい。 ところで身体の調子は大丈夫か?」
エイラ「……ウン、平気だ。 直ぐにでもアイツを倒しに出られるぞ」
美緒「そうか。 だが昨日の今日だからな、一応拳は勘弁してやるっ――」ブンッ
エイラ「!」
ベヂィインッッ
リーネ「!!」ビクッ
エーリカ「うっわー……痛そう」
芳佳「ちょ…!! 坂本さんっ!?」
エイラ「……」ヒリヒリ
美緒「…サーニャの容体を詳しく伝えなかった事はすまない。 だがあんな無策をしでかすのなら、どの道お前に伝える意義など始めから無い」
エイラ「……」
美緒「責任の肥大妄想で前が見えんのなら、目を覚ますまで寝てろ! 後は我々で始末をつける」
エイラ「…ゴメン少佐、悪かったよ。勝手に出撃して大尉まで巻き込んだのは謝る」
美緒「……」
エイラ「もう皆に迷惑かけるような事はしない、勝手に出撃もしない。 約束する」
エイラ「アイツを消すために、ワタシもちゃんとやるよ」
美緒「……そうか」
エイラ「ウン。…もう休んでもイイか?」
美緒「…。ああ」
エイラ「アリガト少佐、それじゃ」クル
スタスタスタ――
美緒「……」
芳佳「…さっきはちょっと変かなと思っちゃったけど、エイラさん大丈夫そうだね?」
ペリーヌ「ぇ、ええ」
美緒「……だと、良いがな」ボソ
廊下
シャーリー「…中佐ー!」タタッ
バルクホルン「ぉ、おい!? いい加減離せ!」
ミーナ「! あ、あらシャーリーさんにトゥルーデ…。 どうしたの?」
シャーリー「さっきのミーティング、どうしてあたしの話だけで止めちゃったんですか? 昨日中佐があたしと少佐に言ってたことはどうするんです?」
バルクホルン「…? なんの話だ?」
ミーナ「……」
シャーリー「あたしらが退治するかもしれないやつのこと、今のうちにちゃんと話しておいた方がいいんじゃないですか?」
バルクホルン「……おい待て、どういう事だ?」
ミーナ「…シャーリーさん止めて、その話はまだ言うべきじゃないわ」
バルクホルン「いや聞こう。 シャーリー、話せ」
シャーリー「おう、その為に連れてきたんだ」
ミーナ「止めなさいっ!!」
シャーリー「……中佐、あたしも正直動揺してますよ。 中佐に責任負ってもらってる立場で言えることじゃないけど、言い辛いのもわかります」
ミーナ「……」
シャーリー「けどこいつには教えときましょうよ。 あたしだって知ってるんだし、そんで4人で考えませんか?」
バルクホルン「…なんの話かは知らないが、今回の事に関しては隠し事はなしだぞミーナ? 我々全員には知るべき責任と、義務がある!」
ミーナ「……」
シャーリー「……」
バルクホルン「話してくれ、ミーナ!」
ミーナ「…………わかったわ。 とりあえず、場所を移しましょう」
執務室
バルクホルン「なっ…!! あの音波攻撃が魔法だと!!?」
シャーリー「…だよな。 驚くよな」
ミーナ「正確には害悪魔術…いえ、やっぱり魔法と言った方がいいかしら」
バルクホルン「害悪魔術!? どういう事なのか全く分からないぞ…?」
ミーナ「この意訳は私が見つけた資料の中で使われていた物の引用で、元はラテン語のマレフィキウムという語彙よ」
バルクホルン「…いや、知らないな。 聞いたこともない」
シャーリー「あー、あれだよバルクホルン。 悪魔狩りの話みたいなさ――」
シャーリー「“魔法で悪戯する悪い子はオバケに食われるぞ~!”」グワー
シャーリー「――ってやつ」
バルクホルン「……ああ、懐かしいな。 私の故郷では鎌で首を刈り取られるというオチだったが」
シャーリー「おいおい、子供泣くぞそれ…。 つうかリアクションが軽い」
バルクホルン「こんな時にふざけるな。 ……で、なんだったか? そのマレフィキウムとやらを操るネウロイがいると、そう言うのかミーナ?」
ミーナ「…ちょっと違うわね」
バルクホルン「違う?」
ミーナ「……ネウロイが魔法を使うなんて、流石に考え難いわ」
バルクホルン「いや、だから私やシャーリーも戸惑っているんだが…?? ミーナがそう言い出したんじゃないか」
シャーリー「(このやりとり、あたしと少佐もやったなぁ)…おかしいと思うだろ? でも中佐は別に矛盾してないよ」
バルクホルン「は…? ネウロイが魔法を使うかもしれないと言うのか? 音波の影響といい、また悪魔の証明を持ち出す様なら流石に話にならないぞ」
シャーリー「前提が間違ってるんだよ。中佐の考えが正しければ、“魔法による超低周波音があたしらを襲ってる”って事だ」
バルクホルン「……」
シャーリー「それだけなら、確かに変な話だけど一応あり得るだろ?」
バルクホルン「……ぃ、いやおい! ちょっと待て!?」
バルクホルン「…まさかとは思うが、ネウロイ以外の仕業だと…?」
シャーリー「まあ、信じたくないよな」
バルクホルン「本気で言っているのか!?」
ミーナ「…………ええ、本気よ」
バルクホルン「馬鹿な!? な、何を根拠に!?」
ミーナ「…マレフィキウムは、私達には禁忌とされている行いなの。禁忌を位置づけるのは歴史と文化、そしてそれ等を操ろうとする人達でしょう?」
バルクホルン「……だから我々が知りもしなかったと?」
ミーナ「そうよ。 過去の事実も言葉も封殺されているのは、それが本当にあった事だから」
ミーナ「そして予防策として、それを起こしうる存在に思想を刷り込み行動を抑制する。一種のプロパガンダね」
シャーリー「さっきの“悪魔狩り”の話も、それの1つらしいんだってさ?」
バルクホルン「…私にはこじつけにしか聞こえないぞ? ネウロイ以外の何者がこんな事をするというんだ! そもそも、魔法を使っているというのなら敵はウィ――っ…我々の同類という事だぞ!?」
シャーリー「……まあな」
ミーナ「答えを聞きたがったのは貴方よトゥルーデ。とりあえずこれを見てみなさい」スッ
バルクホルン「…なんだこれは?」ヒョイ
シャーリー「どっかのもぐりが書いたインチキ臭い本だってさ」
バルクホルン「は?」
ミーナ「公的な情報は徹底して隠蔽されてるからこそ、こういう物に真実が紛れていることだってあるわ。ちなみに156ページ、6行目よ」
バルクホルン「…?」パラパラ
バルクホルン「……“つまり大義を掲げた国による取締りが魔女狩りであり、害悪魔であると処罰された魔女達が悪魔の正体である。” ……魔女狩り…?」
ミーナ「話の概要は私達も知ってる悪魔狩りと同じ、魔法を悪事に使ったウィッチに罰が下る…つまり処刑されたってことね」
ミーナ「ウィッチの活躍は古くからあるし、歴史の枢要にも関わるほど地位や名誉を得ていた事実もあるわ。 けど語られない歴史の中では悪用された例もあったみたいね」
シャーリー「まあ人間ですからねぇ。 だから軍もスカウトしてるんじゃないですか?」
バルクホルン「……なるほど。 つまりラテン語で言うそのマレフィキウムという悪事が今回の騒動であり、ウィッチによる犯行の可能性もあり得ると言いたいんだな?」パタン
ミーナ「ええ」
バルクホルン「だがミーナはまだ私の質問に答えられていないぞ? あの音波がマレフィキウムだと言う根拠がないではないか」
ミーナ「そうね。説明が遠回しになってごめんなさい、順を追わずにいきなり話しても解らないと思ったの」
バルクホルン「そうか。…まぁ、確かに信じ難い話だな」
――コンコンッ
『中佐、坂本だ。 入るぞ?』
ガチャ
美緒「…む、やはりお前達もいたか」パタン
シャーリー「どうも」
美緒「首尾はどうだ? シャーリー」
シャーリー「あー、バルクホルンにはたった今話してる最中です。 とりあえずこの4人でって事で」
美緒「そうか、わかった」
ミーナ「美緒…」
美緒「2人から言われただろうから、私からは必要ないな?」
ミーナ「…ごめんなさい。やっぱり今言えばまた混乱すると思って」
美緒「その辺りはこれから決めよう。それより、遺跡調査の連中から情報が廻ってきたぞ? ここへ持って来る前に先に見させてもらったが」スッ
ミーナ「ええ、丁度よかったわ。有難う」
バルクホルン「遺跡調査の情報だと…? 丁度いいとはどういうことだ?」
ミーナ「…トゥルーデ。この一件がマレフィキウムによる事件かどうか、そしてそれを起こしている正体がここにあるかもしれないわ」
バルクホルン「なに!? どうしてそんな所に…?」
ミーナ「そもそも“マレフィキウム”という単語の出どころは、連合上層部の噂話なの」
バルクホルン「上が…!? 奴らはマレフィキウムについて知っているというのか?」
美緒「いや、寧ろ知ろうとしていたのだろう。 故に、ここの遺跡の魔法が生きていると知るや否や調査班を寄こした」
ミーナ「どこから何を嗅ぎ付けてここまで的を絞った調査をしてるのか、その目的も不明だけど……このタイミングを偶然で片付けるほど楽観できる状況でもないでしょう?」
ミーナ「…それに私が上に今回の危険を報告して調査班の退避を打診したけど、見事にあしらわれたわ。まるで予想済みだとでも言うみたいに」
バルクホルン「!?」
ミーナ「だから私の方でも探ってみたの。その結果が、これよ」ピラピラ
バルクホルン「……そういう、ことか。 しかしいったい何が…?」
シャーリー「少なくとも、それを見ればなにを調べていたかはわかりますね?」
ミーナ「ええ」ペラ
美緒「…残念と言うべきかわからんが、中佐の読み通りだ。連中が調べていたのは1人のウィッチに関する物だった」
バルクホルン「……この地の遺跡に関わっていた古代のウィッチか?」
シャーリー「なんかまた嫌な予感がするけど…、流石にそのウィッチがあたしらに悪さしてるってわけないですよね? めちゃくちゃ昔の話なんだし」
ミーナ「……」ヨミヨミ
美緒「文字を刻んだと思われる跡もあるようだが、劣化によって崩れてしまっている個所も多い。更に、書かれている言葉自体も半分近くが解読不能だそうだ」
シャーリー「…ってのは言い訳で、実は隠蔽してるんじゃないですか?」
美緒「その可能性もある。しかし今はこちらで裏を取る時間も無い」
ミーナ「いいえ。ガランド少将の息もかかってるから、下手な事はしない筈よ。とにかく今ある情報を精査するわ」ピラ
バルクホルン(やはり情報源はそこだったのか…)
ミーナ「…………」
シャーリー「どうです中佐? なんかわかりましたか?」
ミーナ「……“ヒジリ ノ マナ マレフィキウム ヲ シズメン”…」
シャーリー「えっ?」
ミーナ「…“カイイノマジョ ニ ヨウゴウ ノ バツ ヲ”……!?」
美緒「それは取り分け厳重に閉ざされていた場所に刻まれていたらしい。…意味から察するに、害悪を招いたある者を裁いたという記述だろう」
ミーナ「……聖のマナ(この字、どこかで見たような…?)」モヤ
ミーナ「――!!」ハッ
シャーリー「“カイイノマジョ”……てぇ、なんですか?」
バルクホルン「怪異…。我々で言えば、ネウロイ……という事になるのか?」ムム
シャーリー「つーことは、ネウロイのウィッチか!」
バルクホルン「……意味が解らない。どうしてネウロイが出てくる? マレフィキウムは魔法を使った犯罪じゃないのか?」
美緒「その辺りは謎だが他の結果も見る限り、上層部が探っているのはこの“怪異の魔女”である事は間違いなさそうだ」
バルクホルン「…なにか嫌な思惑が有りそうだな。 しかし我々が直面している問題とはやはり無関係な気がするが?」
シャーリー「強情だなぁ、バルクホルン」
バルクホルン「お前だってたった今否定しただろう? 古代も昔の人間が犯人な訳ない」ジト
バルクホルン「しかもそいつは処断されたと記されているんだ、完全にありえん」
シャーリー「いや、うん…そこはあたしも同感だけど。 まぁネウロイ以外の仕業ってのは確かに無くはないなって思うし…」
バルクホルン「まだそんな事を言っているのか貴様! ネウロイ以外の誰がこんな事をすると言うんだ!?」
シャーリー「あれだけ強く超低周期振動だけを飛ばすなんて普通ありえねぇんだよ。 言うなら超自然的な災害で、ネウロイの攻撃傾向よりむしろ魔法っぽい気がするから納得したってだけだ!」
バルクホルン「だから、それはお前の感想と憶測に過ぎないと言っている!!」
シャーリー「なんだってぇ? …お前こそネウロイだって証拠ないじゃんか!」
バルクホルン「常識で考えろ!!」
シャーリー「それが通じないかもしれねぇって状態だろ!」
美緒「…おい落ち着けお前達、それをこの面子で考察す――」
バンッッ
美緒「!」チラ
シャーゲル「ッ…!?」ビクッ
ミーナ「……思い出したわ。3人とも聞いて頂戴」
美緒「…気持ちはわかるが中佐、今は腹を立てぬ様努めるべきだ。 敵の術中に落ちるぞ?」
ミーナ「違うわ坂本少佐、大丈夫よ」
バルクホルン(ぃ、いや…)タジ
シャーリー(すげぇビビったんだけど…)
ミーナ「“ヒジリ ノ マナ”…恐らくこの部分の訳だと思うけど、これと同じ物を前に見たことがあるわ」
美緒「ほぅ?」
バルクホルン「…そ、それが我々にどう関係するんだ?」オズオズ
ミーナ「……じゃあ結論を先に言うけど、私達の敵はこの“怪異の魔女”かもしれないわ」
シャーリー「えっ…?」
美緒「……」
バルクホルン「理由を聞きたい、ミーナ」
ミーナ「ええ。 …まず聖のマナという言葉だけど、この間ペリーヌさん達が見つけた地図に同じ記述が確かあった筈よ」
シャーリー「地図って…? なんです?」
美緒「例の、全員で浜辺へ出た時の一件だ」
シャーリー「あぁ! 少佐がおかしく――…じゃなくて、ワイン被って酔っ払った日の?」
バルクホルン「…宮藤達が海中で見つけた地図を頼って、遺跡に入り込んだんだったな?」
ミーナ「後で事情を聴いた際に一応その地図は接収して、その時に私も目を通したの。私達が最終的に辿り着いたあの植物園を指して、よく似た記述があったわ」
バルクホルン「似ていた? …同じではないのか」
シャーリー「その地図って今見れます?」
美緒「いや、あれは報告の折に上へ渡してしまった」
シャーリー「ありゃ、そうなんですか…」
美緒(……む? いや待て、もしや上層部の関心を引いたのは報告ではなく地図内の情報だったのか…!?)
ミーナ「分構成もほぼ同じ様な形だったけど単語がいくつか違ってたと思うわ。 多分、その意味はこう――」
ミーナ「…聖のマナが、何かを守る」
シャーリー「守る? …“何か”ってなんですか?」
ミーナ「私もラテン語に詳しい訳じゃないし…そこまでは憶えてないけど、あそこにあった胡椒とか香辛料になる植物でしょうね? でも問題はそこじゃなの」
美緒「…そうか! ペリーヌが破った魔法トラップだな?」
ミーナ「ええ。 つまりあの遺跡中の魔法を今日まで遺しているのは、“聖のマナ”と呼ばれる壮大な魔法力で間違いないわ」
美緒「聖のマナ……つまり最も優れた者の魔法ということか?」
ミーナ「それが誰か個人なのか魔法自体を指すのかはわからないけど、遺跡に残ってる古代魔法はこの共通のエネルギーによるものと考えていいんじゃないかしら?」
シャーリー「全部同じ魔法力ってことかぁ。しかも今までずっと残ってるとか……、すっげぇな」
美緒「ウィッチの素質を血統で語る説によれば、古き世のウィッチは今より数も少なく、その血と伴に能力や寿命も強かったらしい。 眉に唾をして聞く話ではあるがな」
バルクホルン「…理由は何であれ、とにかくここの遺跡を護る魔法は全て共通の力で繋がっているだろうというのは解った。 続けてくれ、ミーナ」
ミーナ「……そう考えると現状の、ある可能性が見えてくるわ」
バルクホルン「?」
ミーナ「この碑文、2つの意味は根本的には同じ。 言い換えて強調した形になってるけど――」
ミーナ「主語の“ヒジリ ノ マナ”は2行目にもかかってる。 だから他それぞれも共通の物事を指してるとすると…」
シャーリー「…えーっと? マレフィキウムを鎮めるのと、怪異の魔女に永遠の罰を与えるのが同じってことですか?」ポリポリ
美緒「いや、逆の方がしっくりくるな? 永劫の罰を下す事で、害悪を収める」
ミーナ「…まあ、それはどっちでもいいけど。 つまり“マレフィキウム”=“カイイノマジョ”、“シズメン”=“ヨウゴウ ノ バツ”という事よ」
バルクホルン「……」
ミーナ「そして、それを踏まえて表現を混ぜるとこうなるわ――」
ミーナ「“聖のマナ、怪異の魔女を永劫に鎮めん”」
美緒「む…!」
シャーリー「……それってもしかして、ちょっとヤバくないですか…?」
ミーナ「怪異の魔女は処刑された訳じゃなくて、ずっと今まで封印されていた。…こう考えられるわ」
美緒「あの植物園の様にか? しかし何故…?」
ミーナ「理由は不明だけど問題なのは、どんなに優れた魔法でも永遠を維持するなんて無理という事と――」
ミーナ「同じ力で維持されてた魔法を最近、ペリーヌさんや私達……それに多分調査班も幾つか破ってしまっているという事よ!」
美緒「……」
シャーリー「ぅ…!(おいおい、マジかよ…)」
バルクホルン「……私もようやく理解したぞミーナ。 だから大昔の害悪魔術とやらが今我々を襲っているんだな?」
ミーナ「状況証拠からの推理だけど、上層部の反応を考えれば間違い無いわ」
シャーリー「てことは、やっぱり…?」ゴクリ
ミーナ「…最悪、人間と戦うことになるわね」
バルクホルン「っ…、冗談じゃないぞ!」
美緒「こんな事をしでかす奴だ、化け物であった方が寧ろ助かる――」
美緒「だが言った筈だバルクホルン、我々はこの害敵を討たねばならんとな」
バルクホルン「しかし少佐!! 我々は――」
美緒「落ち着け! このままではこの基地ごと全員おかしくなる、そうだろうシャーリー?」チラ
シャーリー「……はい。もし音源が近づいてきて、ここを狙われでもしたら全員サーニャの二の舞です…」
ミーナ「それだけじゃないわ。 万が一ここへ上陸でもされたら、民間人も含めて何もかもお終いよ」
美緒「つまり敵は、まさに怪異。 ネウロイと同じだ」
バルクホルン「ぐっ…、なんということだ…!」
シャーリー「バルクホルン…」スス
バルクホルン「よせ、わかっている!」バッ
バルクホルン「…考えもしなかった事で、少し動揺しただけだ」
シャーリー「……」
バルクホルン「……話は理解した。 私も軍人だ、覚悟は…しておこう」
ミーナ「ええ、お願い」
美緒「――よしっ! 話を割ってすまんが、切りのいい所で当面の方針についても確認しておきたい。 これ以上我々の足並みが乱れるのはいかんからな」
バルクホルン「…ああ、確かに」
シャーリー「そうですね」
ミーナ「……そうね。ごめんなさい」
美緒「もういい中佐、今は過去より次だ」
シャーリー「…けど今更方針って言っても、とにかくなんとかしないと解決しないですよねこれ?」
美緒「無論、可及かつ最優先で手は打つ。 しかし慎重にいかねばならんという考えもあるだろう、あらゆる意味でな?」
ミーナ「…ええ、難しいわね。下手に部隊の不安を煽るのは避けたいけど…」
バルクホルン「対処……いや、戦闘を仕掛けるために肝心な情報も結局はまだ解らず終いだ。 先ずは敵の居場所と、もう少し具体的な事も掴めれば…」
美緒「…切迫してる故に磐石とまでは成らんだろうが、何れにしろ闇雲に藪を突くわけにはいかない」
シャーリー「ならもう少し様子見ですか?」
美緒「まだ動ける我々は、あくまで積極的にだがな? 消耗している者達はその間に回復させる」
バルクホルン「それは私も賛成だ」
シャーリー「――…あっ、でも少佐! そういえばエイラのやつは大丈夫なんですか?」
バルクホルン「!」
ミーナ「…!」
美緒「……今は信じるしかない。 こちらから一方的では、これ以上はもう効果はなさそうだ」
ミーナ「……」
シャーリー「ん~…わかりました。 念のため、気を付けときますよ?」
バルクホルン「…私も見張っておこう」
美緒「ああ。だがお前の事では既に謝罪していたぞ、バルクホルン? やり過ぎるなよ」
バルクホルン「し、私情は無い! 大丈夫だ!」ギクッ
美緒「…そうか、わかった」
シャーリー「そうかぁ?」ジー
バルクホルン「そうだっ!///」
美緒「兎にも角にも、我々ストライクウィッチーズが地に足を付け直す迄に敵の現状を看破し、作戦を建てる――」
美緒「…といった所でどうだ中佐? 我々の統制と皆への情報開示に関しては任せる」
ミーナ「…………了解よ、坂本少佐。任せて頂戴」フゥ
ミーナ「隊長として、見極めてみせるわ」
美緒「うむ」
シャーリー「決まりですね?」
バルクホルン「了解した」
―数日後―
医務室
芳佳「…どうしよう、サーニャちゃん少しむくんできてる気がする」
サーニャ「…」
芳佳(オムツもずっとキレイなままだし、汗もほとんどかいてない…)
サーニャ「…」
芳佳「…えっと、確か――」パラパラ
芳佳「……」ヨミヨミ
芳佳「…サーニャちゃん、ちょっと目開けるからね? ごめんね」クイ
サーニャ「…」
芳佳「(瞳孔が、えぇっとー…小さい。 てことは…?)……はい、ありがとうサーニャちゃん」
芳佳「……栄養失調じゃないのかな? でも排泄も汗も出ないのって、コルチ先生が言ってた自律神経系に異常があるってことなんじゃ…??」
芳佳「――もしそうだと、低糖の症状が出にくいって書いてあるし……どうしよう? このままだと点滴ばっかりでむくんじゃうけど、減らしていいのか私にはわからないし…」
サーニャ「…」
芳佳「…ごめんねサーニャちゃん。先生に聞いて、またすぐ来るからね?」
芳佳「――あっ! …その前に、床ずれできちゃうからまた身体動かすね? …よい…っしょ!」グイグイ
サーニャ「…」ゴロン
芳佳「ぁ…!(少し蒼くなってる!? そんな! …やっぱりちょっと栄養不足なのかも!?)」
芳佳(ぅえぇっと~!?)オロオロ
芳佳「…と、とりあえず血行をよくしなきゃ!」サスサス
サーニャ「…」
芳佳「サーニャちゃん、頑張ろう? 私が絶対助けるから! 頑張ろうね!?」
『……ミヤフジ』
芳佳「――!」
芳佳「えっ…? エイラさんですか!?」ガタッ
エイラ「…ミヤフジ」
サーニャ「…」
芳佳「……は、はい。なんですか?」
エイラ「ワタシ、これから監視塔の当番なんだ。ミヤフジと行けって言われてさ?」
芳佳「…へ?」
エイラ「だから悪いんだけど一緒に来てくれ、ココにはドクターとハルトマンを呼んであるから」
芳佳「……そ、そうなんですか。 …わかりましたけど――」
エイラ「……」
芳佳「…エイラさん、入って来て大丈夫ですよ? なんで、そんな所から後ろ向いて話してるんですか?」
エイラ「……イイだろ、べつに」
芳佳「……」
エイラ「…………か、カッコつけてんだよ。そんなコトより早く行くぞ? ルッキーニがウルセーんだ」
芳佳「エイラさん…」
エイラ「……」
芳佳「…サーニャちゃんは絶対、大丈夫ですから!」
エイラ「……」
芳佳「……」
エイラ「ッ……ナンだよ、それ」ボソ
芳佳「えっ?」
エイラ「……とにかく早くいくぞ」
芳佳「……」
監視塔
ルッキーニ「エイラおそーいっ!」
エイラ「ワタシに言うなよ、ミヤフジのせいで遅れたんだ」
芳佳「えっ! なんでそうなるんですか!?」
ルッキーニ「もーっ! よしかぁー!」プンプン
芳佳「えぇぇ!? ご、ごめんねルッキーニちゃん! でも私のせいじゃないよっ!?」
エイラ「ホラ、これやるから機嫌直せって?」スッ
ルッキーニ「むにゃ…! ……なにそれ?」
エイラ「ナニって、見たまんまのお菓子だろ。食べていいぞ?」
ルッキーニ「…………いらない! エイラのお菓子はマズいもん!!」プイ
エイラ「まだ根に持ってんのかよオマエー? これはサルミアッキとは違うって」
ルッキーニ「……ほんと?」
エイラ「ホントだぞ、ホラ」
ルッキーニ「……。 んじゃもらう、ありがと」
エイラ「ン」
ルッキーニ「じゃ交代ね、ばいばーい!」ステテ
タッタッタッ――
芳佳「……」
エイラ「…ミヤフジも食べるか? コレなら結構食べやすいぞ?」ス
芳佳「エイラさん、それ本当にサルミアッキじゃないんですか? そっくりに見えるんですけど…」
エイラ「ウン? さっきからそう言ってるだろ」
芳佳「……なんていうお菓子なんですか?」
エイラ「スーパーサルミアッキ」
『うじゃあぁあぁじゅぅあぁああぁああ!!?!』
芳佳「!?」
エイラ「……なんだルッキーニのヤツ、これでもイヤなのか?」
芳佳「さ、サルミアッキじゃないですか!? ひどいですよエイラさん!」
エイラ「エッ! いや、違うぞ? これはサルミアッキより全然食べやすくて物足りないくらいなんだ。別物だぞ?」
芳佳「そ、そんなの私達にはわかりませんよぉ…」
エイラ「なんだよー、折角気を使ってこっちを仕入れたのに」パク
芳佳(ぁ、それじゃあ本気で勧めてたんだ…!?)
『あーーんっ! みずぅぅうう!!』
芳佳「……(ルッキーニちゃん、可哀想に…)」
エイラ「まーイイや。…それよりミヤフジ、スコープは1個しかナイから交互で使うぞ?」
芳佳「えっ? あぁ、はい! わかりました」
エイラ「オマエもここにいるからには手伝ってもらうかんなー、サボんなよ?」
芳佳「……あの、エイラさん。 そもそもなんで私が一緒なんですか? 当番についてもさっき初めて聞きましたし…」
エイラ「人手不足だからなー。 哨戒にも出られないし、ワタシ達も働けってコトじゃないか?」
芳佳「はあ…。なるほど」
エイラ「ミヤフジはドクターの手伝いで忙しかっただろ? 中佐の命令で、比較的暇なヤツらで交代してたんだ」
芳佳「そうだったんですかぁ。この前から全員揃ってミーティングする事もなくて、私全然知りませんでした」
エイラ「中佐も少佐も忙しそうだし、仕方ないんだろ?」
芳佳「そうですね。……でも、これって2人でやる意味あるんですかね? 交代制なのに」
エイラ「ワタシは問題起こしたからな、単独行動はダメだからミヤフジと行けって大尉に言われたんだよ。ちなみにハンガーには出入り禁止だ」
芳佳「えっ…!」
エイラ「…マ、ナニもさせてもらえないより全然マシだけどな! 自業自得ってヤツだ」ヘラ
芳佳「……」
エイラ「ナニ暗い顔してんだよ? やっぱりスーパーサルミアッキ食べたいのか?」
芳佳「ぁ…いえっ、それは本当にいらないです!」
――――
――
―
エイラ「アー、暇だな…」
芳佳「そうですねぇ…。でもダメですよエイラさん? ちゃんと見張ってないと、ネウロイが来たら大変ですから」
エイラ「ココから見るより、ネウロイなら先に観測されるって」
芳佳「でも、今回のネウロイは全然レーダーに映らないんですよ!?」
エイラ「………………」
芳佳「……あ、あれ? エイラさん?」
エイラ「…しょうがネーな、ホラ貸してみろって」
芳佳「え? あ、はい」
エイラ「ンーどれどれ…」ジー
芳佳「……(エイラさん…いつも通りに見えるのに、時々冷たい顔をしてる風に見える。 気のせいかな…?)」
エイラ「――…やっぱナンにもいないな」ポイ
芳佳「わっ! ちょ…!? もう交代ですか!?」パシッ
エイラ「ゴメン、ちょっとトイレ行ってくる」
芳佳「えぇ!? そんなぁ、私も我慢してたのに!」
エイラ「ザンネンだったな、先に行かせてもらうぞー」
『いいやっ! 認められない!』
エイラ「…ゲッ!?」
芳佳「バルクホルンさん!」
バルクホルン「自室待機を拒むなら、単独行動は厳禁だと言ったはずだ」スタスタ
エイラ「…トイレもダメなのかよー?」
バルクホルン「自分の胸に聞け」
芳佳(…胸に……!)ゴクリ
エイラ「イイじゃないかよ大尉~、漏れそうなんだ」
バルクホルン「そういう事は任務の前に済ませておくものだ。 それ以外の時は私や、他の誰かに随行してもらえ」
エイラ「ヘンタイじゃないかー!?」
バルクホルン「入り口までだっ!!//」
バルクホルン「…っとにかく! 今は任務に集中しろ。 お前が禁固を解かれている理由を忘れるんじゃないぞ?」
エイラ「わかってるけどさぁ~、そろそろホントにヤバいんだってぇ…」モジモジ
バルクホルン「その手には乗らん、自業自得だ」
エイラ「ゥゥ……ホントに出そうなのに、随分大尉に嫌われたな…」
芳佳「…あ、あのバルクホルンさん! 私がここで監視当番してますから、エイラさんをトイレに行かせてください!」
エイラ「ウェ? ミヤフジ?」
バルクホルン「そうは言ってもだな宮藤、それではお前の役目とエイラの責任があべこべになってしまう」
芳佳「でもトイレは仕方ないじゃないですか! エイラさんが可哀想ですよ!?」
バルクホルン「ぅぐっ!? ……ま、まぁそれはそうだが…」
芳佳「バルクホルンさん、あんまりですよぉ!」
バルクホルン「むぐぐっ!!」
エイラ「…いやミヤフジ。確かにトイレ行きたいんだけど、そんなに熱くなられてもな」
バルクホルン「~っ……し、仕方ない。エイラ、宮藤に感謝しろ」
エイラ「ウェ? いいのか大尉?」
バルクホルン「ああ。ただし私が付いて行く」
芳佳「ありがとうございます、バルクホルンさん!」
バルクホルン「…行くぞエイラ、ついて来い!」クル
エイラ「ぉ、オウ」タタッ
スタスタスタ――
芳佳「……」
芳佳「…よし、エイラさんが戻って来るまで私がしっかり見張ってなきゃ!」サッ
芳佳「んー……」ジー
芳佳「…………でも、やっぱりなんにも見えないや。 …って、その方が良いのか」
『…まったく貴方は、なにを独りで喋っているんですの』
芳佳「へ? …あ、ペリーヌさん」
ペリーヌ「ドクターが呼んでいましてよ?」スタスタ
芳佳「えっ、そうなんですか!?」
ペリーヌ「恐らくサーニャさんの事ではなくて?」
芳佳「…なんだろう? まだ点滴のことは相談してないし」
ペリーヌ「とにかく貴方は早く医務室へお戻りなさい」
芳佳「あの、でも私今はここの当番をしないといけなくて…」
ペリーヌ「特別に変わってあげますから安心なさい。 ……あの子の事も、少し気になりますし」
芳佳「え?」
ペリーヌ「……宮藤さん?」
芳佳「は、はい!?」
ペリーヌ「あまり人を待たせるものではありませんわ、早くお行きなさい」
芳佳「あぁ、えっと…わかりましたぁ!」オロオロ
芳佳「それじゃあお願いします!」スタタッ
ペリーヌ「……」
ペリーヌ「…宮藤さんは大丈夫の様ですわね。 少佐が付いていらっしゃるのですから当然ですけど」フゥ
ペリーヌ(わたくし達も、あんな風に真っ直ぐ生きられればいいのでしょうけど…)
――――
――
―
バルクホルン「――ん? 宮藤はどこへ行った?」
ペリーヌ「ドクターに呼ばれていましたので、わたくしが交代しましたわ」
バルクホルン「そうか。 ではすまないがペリーヌ、エイラの監視を頼むぞ?」
エイラ「…ハッキリ言うんだな大尉」
バルクホルン「偽るメリットも無いからな。 見張られる身であると自覚すれば、うかつなことは出来まい」
エイラ「もうしないって、反省してるだろー?」
ペリーヌ「お任せください、大尉」
エイラ「ハァー…、つうかオマエとかよ」
ペリーヌ「なんですの、相変わらず失礼ですわね?」
バルクホルン「…では、私はもう行くからな」スタスタ
エイラ「大尉のヤツ、結局ナニしに来たんだよ…」
ペリーヌ「貴方を見張っているようで、本当は心配なさっているのではなくて?」
エイラ「……迷惑、かけてるのか」
ペリーヌ「そういう事ではありませんわ」
エイラ「じゃあナンだってんだよ? ワタシのせいだろ?」
ペリーヌ「……はぁ、まったく。平気そうに振舞っていても、やっぱり重症ですわね」
エイラ「ハ?」
ペリーヌ「…けど、無理もありませんわ」
エイラ「ナニ言ってんだオマエ?」
ペリーヌ「……」
エイラ「なんだよツンツンメガネ? 悪いモノでも食べたのかー?」
ペリーヌ「……そうやって自分を保つ事に反対は出来ませんけど、もう見ていられませんわ。まるで昔の自分を見てるみたいで…」
エイラ「ェ?」
ペリーヌ「…エイラさん」ジッ
ペリーヌ「貴方が前に進む為には、自分を騙したままでは無理でしてよ?」
エイラ「――ッ!」
ペリーヌ「……」
エイラ「……ナ、ナンだよ。ナニ言ってんだよオマエ…」
ペリーヌ「とぼける必要はありませんわ。わたくしもかつて大切な物を蹂躙された身ですもの」
エイラ「……」
ペリーヌ「わたくしも、とても言葉に出来ない痛みを憶えましたわ。そして暫くは……とても怖かった」
エイラ「ゥ…」
ペリーヌ「…けど不思議ね。今よりもずっと弱くて孤独だったわたくしがあんな目に遭ったのに、心の底から絶望は出来ませんでした」
ペリーヌ「――どんな人間もきっと願いや希望を秘めて、生きているんでしょうね。 …貴方もそうでしょう、エイラさん?」
エイラ「……ゃめてくれよ、ペリーヌ…」
ペリーヌ「いいえ聞きなさい。 貴方が望むものをちゃんと取り戻したいのでしたら、逃げてはいけませんわ」
ペリーヌ「…昏睡しているとはいえ、サーニャさんはまだ生きて――」
エイラ「ヤメロォッッ!!!」
ペリーヌ「!?」ビクッ
エイラ「ッ……聞きたく、ない」ギリ
ペリーヌ「……」
エイラ「~ッ…」
ペリーヌ「エイラさん、どうしてですの…? 貴方はまだ喪っていないじゃない。なのに…」
エイラ「……」
ペリーヌ「……」
エイラ「…オマエの言う通りだ」ボソ
ペリーヌ「ぇ…?」
エイラ「ワタシは……ッ…怖いんだ」
ペリーヌ(エイラさん…!)
エイラ「考えるのがたまらなく怖いんだ…。でも……私はナニもできない…――」
エイラ「…サーニャが、コノのままずっと……ッ…も、もぅ取り返しのつかないコトになってたら……うぐっ…~ぅぁ…ぅ…」
ペリーヌ「大丈夫ですわ。 ドクターも、宮藤さんだっておりますもの」
エイラ「~グスっ…、…適当なコト言うなよ。みんな、ナニもわからない癖に…」グシグシ
ペリーヌ「っ…! いいかげんになさい!! 回復する可能性だってあるじゃない!?」
ペリーヌ「それを信じる前に諦めてっ…! …貴方がしてることはただ逃げてるだけ、サーニャさんに対する裏切りですわ!!」
エイラ「……」
ペリーヌ「大切な人なのでしょう!? でしたら現実を見て、守る為に前へ進みなさいっ!!」
エイラ「……」
エイラ「………… オマエはもうガリアを取り戻せてるもんな 」ボソ
ペリーヌ「!!?」
エイラ「……だからそんなコト言えるんだ。他人事みたいに…」
ペリーヌ「――!! ぁ…貴方という方はっ!!!」バッ
エイラ「グッ――」ビク
ペリーヌ「……っ…、どう…っして…?」ウル
エイラ「ぺ、ペリーヌ…?」
ペリーヌ「……ぐ…ぅ…。…目をっ…覚ましなさぃ…!」ポロポロ
エイラ「!?」
ペリーヌ「~っ、ぅ…!」ダッ
タッタッタッタ――
エイラ「……」
エイラ(叩かれるかと思ったのに。ペリーヌのヤツ、泣いたのか…?)
エイラ「……」
エイラ「…ワタシが、泣かせたのか……? ワタシが…」
。
○
(ペリーヌ『――もう見ていられませんわ。まるで昔の自分を見てるみたいで…』)
(ペリーヌ『わたくしも、とても言葉に出来ない痛みを憶えましたわ。そして暫くは……とても怖かった』)
(ペリーヌ『貴方はまだ喪ってないじゃない。なのに…』)
(ペリーヌ『……っ…、どう…っして…?』)
○
。
エイラ「…………」
エイラ「ッ……クソ、ふざけんな! サイテーじゃないかワタシ!!」ダッ
――――
――
―
ペリーヌ「…うっ……ぐす……っ」ヨロ
ペリーヌ「……よしなさぃ、ペリーヌ・クロステルマン…! 1番辛いのはエイラさんです…わ」
ペリーヌ「ガリア貴族の令嬢が…っ……こんなことでな、泣いてなど……ぅ…」
『ペリーヌ!』
ペリーヌ「――!」ギクッ
エイラ「ハァッ…、ハァ…。…ま、待てよ」スタタ
ペリーヌ「……なんですの? 貴方は当番中でしょう、付いて…こないで」グシグシ
エイラ「…………監視役から離れるワケにいかないだろ」
ペリーヌ「……」
エイラ「ソノ…、さっきはゴメン」
ペリーヌ「……」
エイラ「無神経なこと言って…」
ペリーヌ「…失ってしまった悲しみも辛いですけど――」ボソ
エイラ「ェ…?」
ペリーヌ「失うかもしれない恐怖だって、辛いですわね」
エイラ「……」
ペリーヌ「…お気になさらず。エイラさんは、悪くありませんもの」チラ
エイラ「……」
ペリーヌ「無理を言ってごめんなさい。交代を頼んできますから、わたくしはこれで…失礼しますわ」スタスタ
エイラ「ッ……待ってくれペリーヌ!」グイ
ペリーヌ「!」
エイラ「……ワ、ワタシ…サーニャの所へ行く!」
ペリーヌ「エイラさん…!」
エイラ「ワタシは……怖いけど、ホントは諦めたくないんだ!」
ペリーヌ「……」
エイラ「だから! …だからサーニャの為に、ワタシも!!」
ペリーヌ「……ええ、行きましょう」
医務室
芳佳「……」フィィン
サーニャ「…」
コルチ先生「…もういいわ、宮藤さん」
芳佳「え? でもまだ…」
コルチ「落ち着いて。私達がやってるのは医療行為、冷静な判断から全てが始まるのよ?」
芳佳「…………はぃ、そうでした。すみません」シュルル
コルチ「いいのよ。熱意も大事なエネルギーのひとつだからね? 特に貴方達にとっては」
コルチ「けど治癒魔法をこれ以上かける意味はやっぱりないわ。今の宮藤さんの実力を考えると、身体損傷はもう全快している筈よ」
芳佳「……でも先生、サーニャちゃんはまだ…」
サーニャ「…」
コルチ「…深く眠ってると言える状態に近いのかしら? あとは意識さえ戻れば――」
『失礼します』
芳佳「ぁ、ペリーヌさん! ……あれ、見張り当番終わったんですか?」
ペリーヌ「ええ、まぁ」スタスタ
ペリーヌ「ドクター、サーニャさんの様子はいかがですか?」
コルチ「身体はもう大丈夫な筈だから……これで目が覚めてくれれば、大丈夫よ」
ペリーヌ「そうですか…」
コルチ「古典的な方法だけど、貴方達で話しかけてあげれば“キッカケ”になるかもしれないわね?」
ペリーヌ「わかりましたわ。 丁度、うってつけの方がいらしてますから」
芳佳「え…?」
ペリーヌ「……さぁ、エイラさん?」チラ
エイラ「……」ソー
芳佳「エイラさん!?」
ペリーヌ「……」
エイラ「…………」
芳佳「…?」
エイラ「ゥ……」タジ
芳佳「エイラさん? どうしたんですか?」
エイラ「……ッ…」
芳佳「サーニャちゃん待ってますよ! 入ってき――」
ペリーヌ「宮藤さん、少しお待ちなさい」クイ
芳佳「えっ?」
ペリーヌ「いいから、お待ちなさい」
エイラ「ッ……」
ペリーヌ(頑張って、エイラさん…!)
エイラ「……~ッ」ギュッ
ズンズンズンッ
エイラ「……」ザッ
サーニャ「…」
エイラ「…………サーニャ」
サーニャ「…」
エイラ「……サーニャ」
サーニャ「…」
エイラ「ッ…、サーニャ!!」
サーニャ「…」
エイラ「サーニャ…」ニギ
サーニャ「…」
エイラ「…ワタシ、もう逃げないぞ」
ペリーヌ「……」
芳佳「エイラさん…」
エイラ「……でも…ッ…うぐ――」ウル
エイラ「…サーニャに……サーニャに聞こえる声で、ッちゃんと……謝りた…ぃ…」ポロポロ
サーニャ「…」
エイラ「だか…ッ……だがらっ! 起ぎてぐれぇ…、サーニャァ゛!」
サーニャ「…」
エイラ「サーニ゛ャア゛ッ!!!」
芳佳「……」
ペリーヌ「……」
サーニャ「…」
エイラ「……ッ…ゥグ…、……ゥゥ~」ポロポロ
芳佳「ぇ、エイラさん……」
ペリーヌ(御本人の為にと思ってやりましたけど、やはりこれ以上は見るのも辛いですわ…)
エイラ「…グゥゥ」ガク
サーニャ「…」
エイラ「……頼む…ゥ、…もぅ…一度だけ……ワタシと…ッ…」
サーニャ「……」ピク
コルチ「――!」
エイラ「サー……ニャァ…」グス
『………ェ…ィ…』
エイラ「――ふぇ…?」キョロ
サーニャ「……エイラ…?」
エイラ「!!!」
芳佳「サーニャちゃん!!?」
ペリーヌ「まぁ!? ほ、本当に…!!」
コルチ「…やったわね」フフ
サーニャ「……芳佳…ちゃんに、ペリーヌさん…?」チラ
芳佳「サーニャちゃん、やった! 本当に…っ、よかった…!!」ウル
サーニャ「……? 私…、ここは…?」キョロキョロ
ペリーヌ「サーニャさんがずーっと眠っていましたから、エイラさんが退屈しておりましたのよ?」
サーニャ「ぇ…?」
エイラ「…さ、サーニャ…??」
サーニャ「…エイラ。……どうしたの? 泣いてるわ」
エイラ「……わ、ワタシの…こえ……き、聞こえ…?」ワナワナ
サーニャ「……うん。さっきからずっと、呼んでたよね?」
エイラ「…~~~~ッ」
サーニャ「エイラのストライカー、もう治った? …今日の夜間哨戒は一緒に行け――」
エイラ「うぁぁァ~~っ!!」ダキッッ
サーニャ「!?」ビクッ
エイラ「…ごめ…ん、…ッ……ごめんな…サー…ニャぁぁ…」ギュゥゥ
サーニャ「ぇ、えっと……。…大丈夫エイラ、ちゃんと直してからまた一緒に飛びましょう? …私は待ってるから」ナデナデ
エイラ「あぁぁ~…っ……ごめ…なさぃ…っ、…ごめんなぁ…ぅぁぁ~――」
サーニャ「…もう平気よ、ちゃんと聞こえてるから。そんなに泣かないで」
エイラ「ぅあぁぁ~~ッ」
芳佳「…エイラさん、サーニャちゃんが目を覚ましたのになんだか謝ってばっかりですね?」ニコ
ペリーヌ「まぁ、いろんな意味で……かしらね」
芳佳「へ?」
ペリーヌ「貴方は知らなくていいことですわ」ツン
芳佳「えぇ! なんですかそれぇ!?」ガーン
コルチ「…はいはい貴方達! 嬉しいのはわかるけど落ち着いて」
コルチ「…サーニャさん、おはよう。体に違和感はない?」
サーニャ「……は、はぃ」
エイラ「ぅぅ……ぐすッ…」
コルチ「自分の名前と所属は言える?」
サーニャ「…サーニャ・V・リトヴャク。オラーシャ陸ぐ――…ぁ! 501統合戦闘航空団所属です」
コルチ「ここは何処? 今は何年?」
サーニャ「ぇ…? …1945年。ここは――」キョロ
サーニャ「…基地の医務室です」
コルチ「……ごめんね、ちょっと診せて?」スッ
サーニャ「ぁ…」
コルチ「…………」モミモミ
サーニャ「……」
コルチ「感触はある?」
サーニャ「はい」
コルチ「……聴診器、当てるわよ?」グイ
サーニャ「…はい」
コルチ「……」
サーニャ「……」
コルチ「…大丈夫そうね」
サーニャ「??」
コルチ「宮藤さんの魔法が効いたわ。疾患は無さそうだし、恐らく体内の損傷も完治してる」
芳佳「本当ですか!?」
コルチ「ええ。けど数日間の寝たきりで体力も筋力も落ちているから、暫くはリハビリが必要になるわ」
ペリーヌ「…ですが無事でなによりですわ、本当に」
エイラ「ぇぐ……ぅぐ…」
コルチ「だからもう泣かないの、ユーティライネンさん。彼女は助かったのよ」サスサス
エイラ「~ッ……はぃ゛…」グス
芳佳「私も本当に嬉しいです! よかったね、エイラさん!」
エイラ「ぅン……ウン…っ」グシグシ
サーニャ「…ぁ、あの? 寝たきりって……私…?」アセアセ
ペリーヌ「これからゆっくり御説明しますわ。…ですがその前に、皆さんにも喜んでいただきましょう?」ウフフ
芳佳「あっ、そうだね! 私呼んできます!!」ダッ
――――
――
―
エーリカ「サーーニャーンッ!!」ガバ
サーニャ「きゃっ!?」
バルクホルン「ばっ…!? おいハルトマン! 病み上がりの人間に飛びつくな!」
シャーリー「まぁまぁ、いいじゃん。あたしだって抱き締めたいくらいだよ」
ルッキーニ「うじゃー! よかったぁ、サーニャー!」
リーネ「ぅん……本当に…」ホロリ
ミーナ「懸命な治療感謝します、ドクター」
コルチ「いいえ、今回は手探りでしたから」
美緒「…宮藤も、よく頑張ったな?」ポン
芳佳「そ、そんな!? 私なんて、なんの役にも…!」
美緒「謙遜するな、はっはっはっ!」
サーニャ「……」
ミーナ「おかえりサーニャさん。こうして貴方の無事を確認できて、本当に安心したわ」
サーニャ「えっと……はい…」
ミーナ「本来なら皆でゆっくり祝福したいのだけど、少しだけ質問させて頂戴」
サーニャ「?」
ミーナ「…貴方が夜間哨戒へ出た途中で、血を吐いて意識を失ったのは憶えているかしら?」
サーニャ「ぇ…?」ポカーン
サーニャ「……」
サーニャ「――……ぁ!」ハッ
美緒「む、記憶はあるか。よし」
サーニャ「…そうだった。私、突然すごく苦しくなって…」
美緒「サーニャ、お前は敵の攻撃を受けて瀕死になったんだ」
サーニャ「えっ!?」
美緒「超低周波の空気振動によるものらしい。 エイラの予知通り、影も音も無くお前を落とした」
シャーリー「いや少佐。正確には聴こえないだけで、音は有りますよ?」
サーニャ「…? ……??」
バルクホルン「…ややこしくなるから黙っていろ、シャーリー」
サーニャ「……でも、あのネウロイは倒したんじゃ…?」
美緒「確かにエイラの予知も確認できたという事は、あの時点でそう遠くない場所まで接近したのは間違いないだろう。…だがあのネウロイではなかった」
サーニャ「……」
美緒「お前とシャーリーの後にも同一と思しき被害を受けた者も出ている。そして副次的な悪影響も基地全域に及んでしまっている始末だ――」
美緒「…この件を起こした真の敵は、未だ何処かにいる」
サーニャ「……。 ……敵…」
美緒「幾つか判明した事もあるが、居場所等わからない点もあるのが我々の現状だ。そこでお前の記憶もあてにしたい」
美緒「…あの夜、シャーリーが駆けつけた際にお前は何かを言おうとした筈だ」
サーニャ「……」
美緒「今ここで、聞こう」
サーニャ「…………」
ミーナ「…大丈夫よサーニャさん。 べつに貴方を襲った脅威に関係ない事でも構わないから、思い出せるなら言ってみて?」
シャーリー「……」
サーニャ「…えっと」オド
一同「…………」
サーニャ「すみません。その…うまく、思い出せません」
美緒「…そうか」
美緒「…そうか」
サーニャ「…、でも――」
美緒「?」
サーニャ「空には誰も……ぁ、シャーリーさんと私以外には誰もいなかったと思います…」
シャーリー(――…ん?)ピク
美緒「……間違いないか?」
サーニャ「えっと…、はい。通信は繋がっていませんでしたけど、魔導針の感度は直前までありました」
美緒「直前までだと?」
サーニャ「その…短波反応が、少し乱れたと思ったら……なにも感知できなくなったんです」
美緒「……」
サーニャ「その時にたしか、シャーリーさんが来て……そこからは憶えていません」
サーニャ「でもその時までは特に異常な反応は有りませんでした。 空と、海上付近にも多分…」
美緒「…むぅ」
ミーナ「……流石に変ね。“見えない”と“いない”では全く別よ?」
シャーリー「そうですね。…物理的に存在するなら電波を反射しない訳にはいきませんから」
ルッキーニ「にゃ? どゆこと??」
美緒「…我々には持ち得ない技術で逃れたか?」
ミーナ「それって…、もしかしてステルスの事を言ってるの?」
バルクホルン「ありえないな。学者の空論だ」
美緒「…いやしかし、ならば敵は何処に存在する? 恐らく最接近したであろうサーニャの索敵範囲すらも遠いとは、私には思えんのだがな」
ルッキーニ「…ねえシャーリー、ステルスってなに?」クイクイ
シャーリー「え? あーっと……レーダーの一次電波を遮るとか、二次電波を消したりできれば探知はされないんじゃねーかっていう考えの事だよ。今んとこ無理だけどな」
ルッキーニ「…? 一次とか二次とかってなにー?」
シャーリー「あー……わるい、また今度ちゃんと教えるよ」ナデナデ
ルッキーニ「??」
リーネ「でも、なんでどこにもいないんだろう…。怖いね芳佳ちゃん?」
芳佳「う~ん…」モヤモヤ
エーリカ「もうさ、幽霊とかの方が説得力ありそうなくらいだね?」
リーネ「ぇぇ…っ、ゅ…幽霊…!?」ゾワワ
ペリーヌ「!? ちょ、ちょっと中尉! 変な冗談はよしてくださいます!?」
エーリカ「まーそんな訳ないか~。 でも本当、どこにいるんだろう?」
芳佳「……あの、ちょっといいですか? 私思うんですけど――」
芳佳「海の中にいたりはしないんですか?」
シャーリー「!?」
芳佳「空には多分いなかったんですよね? じゃあ海に潜ってたり……なんて」
シャーリー「……」
リーネ「芳佳ちゃん、それは流石に…」
芳佳「え?」ポケ
ペリーヌ「はぁ~~~。…まったく、貴方はまた変なことを言って」
芳佳「えっ? えぇ!? なんでですかぁ!?」ガーン
バルクホルン「宮藤。ネウロイは基本的に水を避ける、奴らが海を渡るのは空路意外に前例がない」
芳佳「あ、そうなんですか…。それじゃあ海は無理ですね」
ペリーヌ「ウィッチの常識でしてよ? そんなことで、よくもまぁ今まで航空ウィッチをやっていたものですわ」
芳佳「えへへ」
ペリーヌ「……。どうしてそこで照れるんですの…」
リーネ「あ、あはは…」
コルチ「――皆さんごめんなさい? 話が移ったみたいだから、続きは場所を移してもらえる? サーニャさんを少し安静にしてあげたいわ」ズイ
ミーナ「…そうね、ごめんなさいサーニャさん」
サーニャ「ぁ…ぃ、いえ…」
美緒「すみませんドクター。 では一度解散するか?」
ミーナ「ええ、私達でまた少し整理しましょう。大尉達も来て頂戴」
バルクホルン「…そうだな。了解した」
シャーリー「……」
ミーナ「? …シャーリーさん?」
美緒「どうした?」
バルクホルン「…おいシャーリー、聞いているのか?」トン
シャーリー「ぇ…? ぁ、はい。あたしもそれでいいですよ」
バルクホルン「まさか体調が優れないのか?」
シャーリー「あーいやいや大丈夫、気にしないで。んじゃ行きましょう!」スタスタ
エイラ「……サーニャ」
サーニャ「うん。…エイラ、やっと落ち着いてきた」ニギ
エイラ「…ゥン //」
コルチ「はい、ユーティライネンさんも申し訳ないけどまた後でゆっくり話してあげて?」
エイラ「…………」
サーニャ「…エイラ?」
エイラ「もうチョット、いさせてくれ」
コルチ「気持ちは分かるけど、今は意識が戻ったばかりだから我慢してください」
エイラ「ゥ…」
サーニャ「ぁ…あの、先生。私は平気ですから、エイラも――」
コルチ「駄目よ中尉、自覚がなくても貴方はまだ弱ってるんだから。今が一番気を抜けないの」
サーニャ「……」
ペリーヌ「エイラさん、後でまた来ましょう? もういつでも会えるんですから」
エイラ「ゥ~……」
ペリーヌ「さぁ、エイラさん?」
エイラ「…………ワカッタ」
ルッキーニ「うじゅー、エイラ子供みたい」
エーリカ「これは当分、私達がサーニャンとゆっくり話す番は回ってこなさそうだねぇ?」ニシシ
芳佳「大丈夫ですよ。 これからずっと、まだまだ時間はあるんですから!」ニコ
リーネ「…うん!」
執務室
美緒「…さて、我々はどう打って出るべきか」フム
ミーナ「サーニャさんの情報に少なからず期待はしていたけど、困ったわね」
シャーリー「でもそれ以上に回復してくれたことが1番ですよ」
バルクホルン「ああ。 兵士として、生きて帰ることが最も尊い」
美緒「そうだな。 …それにサーニャの持ち帰った情報にも意味は有る。少なくとも敵は短波探知を掻い潜るか、もしくは宇宙にでもいるかだ」
ミーナ「その二択を笑えないから困ってるのよ…」ハァ
シャーリー「……少佐、それなんですけど――」
美緒「ん?」
シャーリー「…宮藤の言ったこと、あたしはアリだと思います」
美緒「宮藤の…? 敵が海中にいるという、あれか?」
バルクホルン「!? ぉ、お前はまた突然…!」
ミーナ「……どういうことか聞きたいわ」
シャーリー「はい。まず第一に宇宙空間――…というか、対流圏より上にはいない筈です。 見えない攻撃の正体が超低周波音で間違いないって仮定した話ですけど、大気の極端に薄い層圏や…まして空気の無い所からそれを撃つのは無理ですよ」
美緒「むぅ……そうか」
バルクホルン「しかし成層圏ぐらいまでならどうだ? 実際にネウロイが到達した前例もある」
シャーリー「確かに大気が全くない訳じゃないけど…。仮にやれたとしても、伝わる速さと距離を考えるとやっぱ難しいよ」
シャーリー「エイラの予知ってそこまで遠い未来じゃないんだろ? 捕捉される1歩前に直撃まで読めてるんだったら、やっぱ少佐の言うようにそう遠くない場所にいていい筈だって」
バルクホルン「…確かに」グヌヌ
ミーナ「……それじゃあ、海中なら可能なの?」
シャーリー「低い音って遠くまで聞こえますよね? …周波数の低い振動ほど物質を伝わり易いんです。だから音源が海の中でも一応ありえますし、逆に短波レーダーに捕まらない理由にもなります」
美緒「…なるほど、辻褄は合うな?」
ミーナ「だとすると、やっぱり…」
バルクホルン「待ってくれ! ということは海中型のネウロイなのか? 水が平気な…!?」
シャーリー「んまぁ去年のネウロックの件とかもあったし、それもアリなんだけど……」ポリポリ
バルクホルン「?」
ミーナ「ネウロイじゃない可能性も益々あるって事よ、トゥルーデ」
バルクホルン「…!!」
シャーリー「ていう話になるかなーと思って、あそこでは言わなかったんですけどね」
美緒「しかし人間ならばどうやって呼吸をしているのか、という話にはなるがな? …ただ、四六時中海の中にいるとも断定できんが」
ミーナ「…それにあの碑文の“シズメン”という言葉。 比喩じゃなくて本当に沈めたとすると、何かしらで目覚めたそのまま海中にいると考えれば矛盾は無いわ」
バルクホルン「……」
シャーリー「…まあ正体はなんにしても、海の中にいる線を考える価値はあると思いますよ?」
美緒「ふむ、わかった。元々手掛かりも無かったんだ、私もその線の捜索を支持しよう」
バルクホルン「…確かに、少佐の言う通りか。こうしている間にも状況は悪化するなら、さっさと行動して蓋を開るべきだな」
ミーナ「……じゃあ全員同意ってことね?」
ミーナ「分かりました、それじゃあ問題の海域に焦点を当てて探りを入れてみましょう」
美緒「…我々で海中捜査となると、先ずは必要な物資を手配しないといかんな?」
ミーナ「いいえ、それだと時間がかかり過ぎるわ。 501だけでは出来ないでしょうね」
バルクホルン「……ならどうする?」
ミーナ「…少し厄介だけど、上層部に話を通して協力を仰いでみるしかないわ」
シャーリー「いいんですか?」
ミーナ「この前使ったルートが恐らく警戒されてる以上、ガランド少将に迷惑はかけられないし……この件に関しては他に即物的な手もないの」
美緒「……あの遺跡を掘り返している訳だから、連中も少なからず今回の件に関わって何かを企てているかもしれん」
バルクホルン「少将が手を回したとはいえ、情報の開示がやけに簡単だった事も私は気になる」
ミーナ「…ええ。でもこのついでに彼等の思惑も探れれば、こっちとしても状況がより把握できるかもしれないわ」
シャーリー「たくましいですね中佐…。何にも手伝えなくてすみませんけど、頑張ってください!」
ミーナ「ええ。明日直ぐにでも直接行ってくるから、その間ここは頼むわね?」
美緒「中佐、それならば私も同行しよう」
―翌日―
欧州某所 連合指令本部
モブ将官A「――…成る程、そうか」カタ
ミーナ「……」
美緒「……」
モブ将官A「ご苦労だったなウィッチーズ諸君。この件は以降こちらで預かる、安心したまえ」
美緒「なっ…!?」
ミーナ「お待ちください閣下! 私達は支援の要請を――」
モブ将官B「自重したまえ中佐。もはやこれは君達に課せられた任務外の事態だ」
美緒「……我々に手を引けと?」
モブ将官A「少々誤解のある言い方だが、結論としてはそうなる」
ミーナ「…納得のいく説明を、聞かせてください」
モブ将官B「説明、か」フン
美緒「っ…」ジロ
モブ将官A「君達の報告を聞く限り、アドリア海中に潜むその敵とやらはネウロイではない」
モブ将官C「ビームも実弾も撃たない、そして海が住処。…明らかにネウロイと異なる特徴だ」
ミーナ「……」
美緒(白々しいな…)
モブ将官B「ネウロイでは無い以上、忙しいウィッチ諸君らの手を煩わせる問題ではあるまい?」
モブ将官A「…501部隊にはヴェネツィアの新型ネウロイからロマーニャ公国を防衛する使命がある。その備えを疎かにしてはならない」
ミーナ「……結果として防衛対象を危機に晒しては本末転倒だと思われます。それに我々は任務を疎かにする訳では――」
モブ将官A「片手間で守れるのかね?」
ミーナ「……」
モブ将軍A「それほど自負するのなら、何故君は自分の国すら守れなかったのだ」
ミーナ「ッ…!!」ギリ
モブ将官B「フッ」ククク
美緒「(こいつ!!)…なんて言い草をっ! それが上に立つ者の言うこ――」
ミーナ「止めなさい! 坂本少佐!!」サッ
美緒「中佐!? だが…!」
ミーナ「命令よ、黙りなさい」
美緒「っ…」グヌ
モブ将官A「はっはっ、まだまだ威勢が良いな坂本少佐。頼もしくて結構な事だ」
ミーナ「…閣下。私も部下を瀕死に追いやられたのです、このまま引き下がる訳にはいきません」
モブ将官C「中佐、残念だが聞き分けたまえ」
ミーナ「どうか御協力ください。 必ず成果は出してみせます」
モブ将官A「…………」
ミーナ「…閣下!」
モブ将官A「……勘違いするな、フュルスティン」ギロ
ミーナ「…!?」ゾクッ
モブ将官A「貴様等の階級は我々が与えたものだ。 ウィッチなど、対ネウロイの特性が無ければただの兵卒にも劣る娘だという事を忘れてもらっては困る」
美緒「……くっ!!」ギリ
モブ将官A「それにロマーニャが危機に晒される心配はない。“我々が預かる”と言ったのだ」
モブ将官A「世界を守っているのは君達だけでは無い。我々も皆軍隊、その使命は同じだ――」
モブ将官A「…傲慢も大概にしたまえ」
ミーナ「ッ…!」
美緒「…………狙いは怪異の魔女か?」
モブ将官A「ん…?」
ミーナ「! ちょっと少佐!?」
モブ将官B「…どういう事だね?」
美緒「今更惚けないで貰おう。こちらに情報を寄越したのは貴方達だ」ザッ
美緒「…501基地下の遺跡を調べたのは気まぐれでは無い筈。そして我々を囮ついでに、謎解きをさせた!!」
ミーナ「止めて美緒! 待って、熱くならないで!?」ヒソヒソ
美緒「止めるなミーナ、もう限界だ」
モブ将官C「…くっくく、これはまた面白い妄想だ。坂本少佐に冗談を言う趣味があったとは」
モブ将官A「こらこら、彼女は天然なのだから笑っては可哀想だ」
モブ将官B「それは尚更タチが悪いですな?」ニヤ
美緒「ッッ!! な、なんだと…!!」
ミーナ「美緒! …お願い、今は堪えて!」グイッ
美緒「~~ッ…………くっ…!(こんな、こんな奴らのために我々は…!!)」バッ
モブ将官A「……はぁ、まったく」ギシ
美緒「ぐ…」キッ
モブ将官A「青いな、少佐? 証拠も無しに我々に対する貴官のその言い掛かりと態度……残念ながらそれでは何も守る事など出来ん――」
モブ将官A「…無駄死にだ」ギロ
美緒「!」
ミーナ「!!?」
モブ将官B「ふむ…、いいでしょう」チラ
モブ将官C「……仕方ないな」コク
ミーナ「まっ、待ってください閣下!! 責任なら隊長である私が――」ズイ
美緒「ミーナ!?」
モブ将官A「くぁっはっはっ!!」
美緒「!?」
モブ将官A「…どうかね少佐? ネウロイは倒せようと、威勢だけで世は渡れないのだよ」ニコ
美緒「ぐ…っ!」
モブ将官A「今回は部下思いの中佐に免じて忘れよう。…君も少しは上司を見習いたまえ?」
ミーナ「…………有難う、ございます…」
美緒「っ…」
モブ将官A「礼には及ばない。私も君のその優しさに心を打たれた」
ミーナ「……」
モブ将官A「…だがもう下がりたまえ、我々の気が変わらんうちにな? 報告ご苦労だった」
ミーナ「……了解しました」ス
美緒「…! ま、待て!! 話をはぐらか――」
ミーナ「失礼します…っ!」ガシ
美緒「うぐっ!? …ぉ、おい中佐!?」
ミーナ「黙って!!」グイィ
美緒「待て中佐! これでは奴らに――」ヨロ
ミーナ「……」スタスタ
バダンッ
モブ将官A「……」
モブ将官B「…流石に勘付かれましたな? 上級大将殿」
モブ将官A「あの女にはガランドも付いているからな」
モブ将官C「だからこそ、利用できたのでしょう?」チラ
モブ将官B「しかしミーナ中佐もなかなかに賢しい。…やはり片腕だけでも落としておくべきだったのでは?」
モブ将官A「そんな余計な事は計画に無い、少佐を処罰すれば今後の運びに支障が出る。あの女の荷物にして返せればそれでいい」
モブ将官C「……それで? 目標への決行はいつに?」
モブ将官B「それは勿論、今直ぐ取り掛かり明日には出る! 逃げられんうちにな」
モブ将官A「…ヴェネツィアの巣の動きはどうなっている?」
モブ将官C「相変わらず、規模の割に大きな動きはない」
モブ将官A「……迂回するネウロイの数は?」
モブ将官C「比較的活発だが目標付近から南下はせず、とんぼ返りのようだ」
モブ将官B「…ふふふ、やはり呼ばれているのか?」ニヤリ
モブ将官A「我々の見立て通りだ。アレは実在する」
モブ将官C「問題はネウロイ共をどうするかだが…」
モブ将官A「ロマーニャ北部のウィッチ隊に指令を出せ。我々の作戦とは別にな」
モブ将官B「……しかしあの役立たず共は敗残部隊だぞ?」
モブ将官C「復旧には時間がかかると思うが? 501にやらせてしまえばいい」
モブ将官A「こちらの作戦より先に掃除されては意味がない。現状で構わん、囮と時間稼ぎにはなる」
――――
――
―
ミーナ「……」スタスタ
美緒「よ、よせ中佐!? 引っ張るな! 1人で歩ける!」ヨロヨロ
ミーナ「……」
美緒「何を怒っているんだ!? …取り敢えず手を――」
ミーナ「……」バッ
美緒「むぉっ!? ……ぃ、いきなりは離すな…」トタタ
ミーナ「……」クル
美緒「…………ぉ、おい? 中佐…?」
ミーナ「っ…!」
バヂンッッ
美緒「ぶぐっ…!?」
ミーナ「っ…はぁ……はぁ…!」
美緒「……!? な…何をする??」ヒリヒリ
ミーナ「もうあんな無茶はしないで!!! 死ぬ所だったのよ!? こんなくだらない場所で!!」
美緒「……。…大袈裟だな」
ミーナ「大袈裟じゃないわ!! さっきは戯れだったかもしれないけど、あの人達はその気になったら本当に私達を消せるのよ!?」
美緒「…だが許せなかった」
ミーナ「だからって…!!」
美緒「人々を守るために、決死の覚悟で散った同胞達を――」
美緒「…それでも故郷を、友を失い残された者達……お前の無念を嘲笑されて!」
ミーナ「!!」
美緒「……私には、我慢ならなかった」
ミーナ「美緒…」
美緒「…すまない、ミーナ。庇ってくれて感謝する」
ミーナ「……ぅ…」
美緒「…!?」
ミーナ「ぁ…貴方を……また失う所だったわ…?」ウル
美緒「……ああ。今後気をつける」
ミーナ「っ…もぅ……心配させないで…!」
美緒「すまない」
ミーナ「…ぅ……っ」
美緒「すまないミーナ」ス
ミーナ「~っ……」ササッ
美緒「……」
ミーナ「…っ……戻りましょう。決まってしまったことは仕方ないわ、…今の状況で出来ることを考えます」
美緒「…了解した」
―夕刻―
輸送機内
美緒「……」
ミーナ「……」
美緒「…中佐」
ミーナ「……なに?」
美緒「何を考えている?」
ミーナ「……」
美緒「……」
ミーナ「…貴方と同じ」
美緒「……。“今もこうして自分の傍にいてくれる友に、どう恩返しができるのか”…ということか?」
ミーナ「ええ」
美緒「……」
ミーナ「……」
ミーナ「………… ///」
ミーナ「……ごめんなさい、嘘よ //」
美緒「なんだ。残念だな」
ミーナ「上層部の――…というか、あの人達の狙いが“怪異の魔女”である事は明らか。そして私達を利用してそれに近づく手立てを得たのも、美緒が言った通りだと思うわ」
美緒「ああ、すまなかった」
ミーナ「それはもういいから。……で、結局彼等の最終目的が何なのかっていう事を考えてたんだけど…」
美緒「……うむ」
ミーナ「元々解っていたけど。彼等がウィッチに対していい感情を持ち合わせてないのは、今日の台詞で確実だし――」
ミーナ「ワザとらしくても体裁を繕ってる点を考えて、世間や少なくとも私達にとって前向きな話じゃない事は間違いなさそうだわ」
美緒「同感だ。奴らは何かを企んでいる」
ミーナ「…そしてその鍵が」
美緒「怪異の魔女、か」フム
ミーナ「……流石に私達の数倍生きてるだけあって、彼等は狡猾だわ。特にあの上級大将は卓抜してる」
ミーナ「そんな人物があんな言質を残すなんて普通じゃない」
美緒「はっきりと侮蔑されたからな。典型的マスキュリストだ、まったく」フン
ミーナ「今は思想の持ち様に言及する気はないけど、あの発言は多分ある種の緩み……油断だったのかもしれないわ」
美緒「油断?」
ミーナ「ええ。勝利を確信した人間の気の緩み、つまりは傲りね」
美緒「我々を傲慢と言ったあの口でか?」
ミーナ「彼も血の通った人間だったって事じゃないかしら。相応に老いた姿を見たでしょ?」
美緒「ああ。しかし眼だけは違ったがな」
ミーナ「…話を戻すけど、彼が勝利宣言を零したって事はつまり――」
美緒「……奴らにとって決着が目前、ということか?」
ミーナ「殺すのか捕獲するのか……どうするつもりかは分からないけど、怪異の魔女が彼の望みを叶える礎にでもなるんでしょうね」
美緒「…………阻止はできないのか?」
ミーナ「無理よ。今話している事も確実とは言えないから」
美緒「だが明白だ」
ミーナ「証拠が無いわ。情報不足も目立つし、100パーセントだっていう保証もない」
ミーナ「…彼等相手には、勝てる勝負で挑まないと取り返しがつかなくなるわ。今日みたいに」
美緒「……」
ミーナ「自分だけの正義感で動けるほど、もう私も身軽じゃないのよ…」
美緒「……。ミーナ…」
ミーナ「だからお願い、分かって頂戴」
美緒「……」
ミーナ「……ごめんなさい。もう、この話はやめましょう」
美緒「…いや中佐、私もすまなかった。お前を責めるつもりは無かったんだ」チラ
ミーナ「貴方はもう謝らないで。十分わかってるから」
美緒「ならば感謝しよう、ミーナ。お前の気持ちに…!」ガシッ
ミーナ「ちょ…! そ、そんないいわよ!? 一体どうしたって言うの!? ///」ドキィ
美緒「こんな時でないと、改まって言う事も出来んと思ってな」
美緒「…先程私が、お前の横で何を考えていたかは聞いただろう?」ジ
ミーナ「……美緒… ///」
美緒「…ミーナ」
ミーナ「…… ///」ドキドキ
『……ぁ、あのぉ~? お取込み中すみませぇーん…』
ミーナ「!!?! ////」ビクッッ
美緒「…ん? 通信か?」
ガザザッ
シャーリー『ど、どうもー……護衛のイェーガー機でぇーす…。あはは…』
美緒「護衛? どういうことだ?」
シャーリー『いや、あの……隊長代理に言われて…。一応迎えに…』
美緒「バルクホルンか。…心配性だな、迂回しているからアドリア海には入らんというのに」
シャーリー『用心ってやつですよ。あいつ、自分じゃ中佐の代わりは務まらないって嘆いてましたから』
美緒「やれやれ、経験者がよく言う」
シャーリー『…まぁそんな訳で来たんですけど……えぇっと、その~…』
美緒「ん? どうした?」
シャーリー『じ、邪魔するのもあれだし……このまま黙って飛んでても良かったんですけど…。 あの…罪悪感っていうかぁ――』
美緒「は?」
シャーリー『…こ、この先は流石に聞いてちゃダメかなって思ったんで…。えぇー…野暮だったんですけど、そのぉ~… ///』
美緒「シャーリー、要領が得んぞ。一体何の話だ?」
シャーリー『あの…だ、だからぁ~ですね…? ぁ、あたしは誰にも言う気はないんで、その…………すみませんでした』
美緒「…??(中佐に礼を述べていただけの筈だが、こいつは何を言っている?)」
ミーナ「~~ ///」
――――
――
―
シャーリー『…そうですか』
美緒「ああ、我々には手が出せなくなってしまった」
ミーナ「ごめんなさい、私の力不足よ」
美緒「我々の、だろう?」
シャーリー『…まあ、いいんじゃないですか? お偉いさんが何するのか知りませんけど、音源をなんとかしてくれるなら』
シャーリー『サーニャも無事ですし、解決してくれるならとりあえす安心ですよ』
美緒「……そうだな。確かにそうだ」
ミーナ「…ええ。今の所は、皆無事でなによりね」
シャーリー『そーそー! 攻撃の仕組みも分かってるんだから、向こうも対策して被害は出さないでしょうし。あたしらはまた、いつも通りネウロイからロマーニャを守りましょう!』
美緒「……ただこうなってしまった以上、怪異の魔女の正体が結局ネウロイ…などと言う事になければいいんだが」
ミーナ「まあ…そうね。仮に主力艦隊を出したとしても、ウィッチなしではせいぜい中型単機を退治するのがやっとよ」
美緒「多くの殉職者と引換えにな」
シャーリー『…その可能性は低そうですけどね?』
美緒「うむ、我々で散々に推理したからな。的が外れた場合、あの狸どもに逆恨みされかねん」
ミーナ「うふふ、狸だなんて。…いいわねそれ」クス
シャーリー『あはは……ていうか、サーニャが言ってた感じ的にマジで人間かもしれないですから』
ミーナ「ぇ?」
美緒「…どういう意味だシャーリー? サーニャの証言にそういった情報は無かったぞ?」
シャーリー『いや、まぁ…もしかしたら単なる揚げ足取りかもしれませんけど――』
シャーリー『サーニャはあの時、空には“誰”もいなかったって言いましたよね?』
美緒「……そうだったか?」チラ
ミーナ「ごめんなさい、私もはっきりとは憶えていないわ。でも確かにそういう言い方だったかもしれない」
シャーリー『“ネウロイはいなかった”でも、“何もいなかった”でもなくて、誰もって言い回しをしたのは……本当は“誰か”いたからじゃないですかね? それか心当たりがあるとか』
美緒「むぅ…、しかしだとすれば何故それを伏せる? 身内の仕業でもなく、瀕死にされたことからサーニャ自身の味方でない事は明らかだ。仮にかばったとしても、理由ががない」
シャーリー『どうでしょうね。…あたしの勝手な邪推なんで、あんまり深く考えられても困っちゃいますけど』
美緒「んー…」
ミーナ「だとすると…ハリケーンの目は怪異の魔女もとい、古代のウィッチでほぼ確定かしら」
シャーリー『しかも大寝坊助の、ですよね?』
ミーナ「私達が推察した通りだったわ。…ただ、この事実をベターと捉えていいかどうかの判断は付かないけど」ハァ
美緒「現状を言うなら、悪いと捉えるしかあるまい」
ミーナ「……そうね。私達は中身については何も知らないし――」
ミーナ「このハリケーンが、最終的にどんな結果を生んでしまうのか…」
ミーナ「このハリケーンが、最終的にどんな結果を生んでしまうのか…」
美緒「…中佐、話が蒸し返ってしまったついでに提案したい。手は出せずとも、やはり我々は備えておくべきだ」
ミーナ「……」
美緒「台風が無事に止むまではな? …どうだ?」
シャーリー『……』
ミーナ「……ええ、そうでしょうね」
美緒「よし。シャーリー」
シャーリー『あ、はい?』
美緒「サーニャを調べてくれ。何かを隠しているのだとしたら、恐らく全てを憶えている筈だ」
シャーリー『……』
美緒「一度はお前に言おうとしたんだ。任せるぞ?」
シャーリー『…いいですけど。あたしが聞いて、それでも言いたくない様だった追求しませんよ?』
美緒「何? 何故だ?」
シャーリー『だって、あたし達もしてるじゃないですか。隠し事』
美緒「……」
ミーナ「……」
―翌日―
アドリア某海域 旗艦内ブリッジ
モブ将官B「……おい、爆雷準備はまだか」
モブ兵「はっ! 潜航各艦は現在所定のポイントへ展開中であります」
モブ将官B「急がせろ。水上艦隊と航空部隊にも伝えておけ」
モブ兵「了解であります」
モブ将官B「フンッ、愚図どもめが。手間取りおって」
モブ参謀「…やはりこれだけの規模は不要だったのでは?」
モブ将官B「この作戦に失敗は許されんのだ。出し惜しむ理由など無い」
モブ参謀「しかしこの戦力で雷撃を行えば、炙り出す前に殺してしまう恐れがあるかと…」
モブ将官B「アホめ。相手は怪物なのだ、これぐらいで消滅するものか! ……とは言え、弱らせるくらいの効果は期待するがな」
モブ参謀「はあ。怪物…ですか?」
モブ将官B「ただのウィッチ風情が深海潜伏に耐えられる訳がないだろう。“アレ”は人間ではなく正真正銘の怪物、最初の悪魔だ」
モブ参謀「あ、悪魔…!?」
モブ将官B「おいおい……私は察しの良過ぎる輩もだが、無能も嫌いだぞ。…君に魔女狩りの話はしていなかったか?」ジト
モブ参謀「ぁ、いぃえ! 憶えております。申し訳ありません…」
モブ将官B「フンッ、まあいいだろう。…とにかくアレさえ手に入ればこの馬鹿げた戦争も全て終わる。そして我々が始――」
モブ兵士「将軍! 全艦配置及び、作戦準備完了しました!」
モブ将官B「…おお、そうか。気に障るタイミングだが、いい知らせだな」
モブ参謀「…では閣下?」
モブ将官B「ぃよし、聴音装置を作動させろ! ……作戦開始だ」ニヤ
501基地 医務室
エイラ「そしたらな、ルッキーニのヤツ悲鳴を上げて逃げてったんだ。ヒドイだろー? 折角取り寄せたのに」
芳佳「ルッキーニちゃんは悪くないですよぉ…」
エイラ「スーパーサルミアッキだって罪はナイぞ。ミヤフジも食べてみろって」ス
芳佳「うっ!? ぃ、いらないです!」タジ
サーニャ「うふふ。ルッキーニちゃん、災難だったわね」クス
エイラ「ウェ!? そんな、サーニャまでヒドイじゃないかー!?」ガーン
サーニャ「うふふ」
エイラ「まさかワタシをからかってるんだな? ンモー!」
――スタスタスタ
シャーリー「よっ! ちょっと邪魔するよ、お3人?」
芳佳「あ、シャーリーさん!」
エイラ「…シャーリーはどうだ? スーパーサルミアッキ」
シャーリー「いや、また今度にしとく」
エイラ「そうかー? ウマいのに…」パク
シャーリー「つうか悪いんだけど、宮藤とエイラはちょっと席外してくれないかな?」
芳佳「えっ?」
サーニャ「…?」
エイラ「ハ? ナンでだひょ?」モゴモゴ
シャーリー「まあ、ちょっとサーニャと話があるんだ。頼む」
芳佳「……えぇーっと、私はいいですけど…」チラ
エイラ「ヤダ」
シャーリー「……」
サーニャ「エイラ、わがまま言っちゃ…」
エイラ「ダメだ! ワタシはサーニャの側を離れないぞ!」
サーニャ「エイラ… //」
シャーリー「……まぁ、いっか。ごめん、宮藤も出て行かなくて別にいいや」
芳佳「あ、はい。 …あの、いったいなんのお話なんですか?」
シャーリー「あー、大したことじゃないよ。ちょっと気になってるだけで」ポリポリ
シャーリー「…サーニャ、聞いていいかな?」
サーニャ「はい?」
シャーリー「あたしがサーニャを助けに行った時なんだけど」
サーニャ「!」
シャーリー「あの時さ、結局なんて言おうとしたのかな~と思って」
サーニャ「……」
シャーリー「……」
芳佳「あれ? でもそれって確か、サーニャちゃんは憶えてないんだよね?」
サーニャ「……。ぅ、ぅん…」
エイラ「サーニャ? どうした?」
サーニャ「…………」
シャーリー「……」
芳佳「?」
サーニャ「……ぁ…、あの――」ボソ
シャーリー「いいよ、無理しなくて」
サーニャ「!?」ドキッ
シャーリー「言いたくないなら、あたしはそれでいいと思う。理由も無理には聞かないし、責めたりしないよ」
サーニャ「……」
シャーリー「だからせめてさ、それならそうだと正直に言ってくれると……嬉しいかな?」ニコ
エイラ「…?? ナンの話してんだ2人とも?」
サーニャ「……シャーリーさん」
シャーリー「ん?」
サーニャ「…もし、その……坂本少佐の言ってた敵が、ネウロイじゃなくても……倒すんですか?」
シャーリー「必要ならね。あたしらがやるのは防衛だから、誰かを救うためならやるしかない」
サーニャ「……」
シャーリー「けど“アイツ”にはもう、あたしらの手は出せない。上でそう決まったんだ」
エイラ「ハァ!? そうなのか? ワタシ聞いてないぞ!」
シャーリー「昨日な。上層部に取り上げられちまったんだってさ」
芳佳「ぇ、それじゃあ基地の人達は全員このままなんですか!?」
シャーリー「上が直接なんとかするみたいで、たった今作戦中らしい。…まあ今日のミーティングで連絡あると思うよ」
サーニャ「っ……ぁの、シャーリーさん!」
シャーリー「んぇ?」チラ
サーニャ「…その……実は――」
シャーリー「……」
サーニャ「…………声を、聞きました」
シャーリー「…うん。そっか」
芳佳「こ、声…??」
サーニャ「黙っていてごめんなさい」シュン
シャーリー「いいって。そんなことの為にサーニャが起きるの待ってた訳じゃないんだから」ナデナデ
サーニャ「… ///」
エイラ「あ! こらシャーリー、ヤメロー!」グイィ
シャーリー「あはは、いいじゃんちょっとくらい?」
エイラ「ダメだー!」
芳佳「…ねえサーニャちゃん? その声って、なにか言ってたの?」
サーニャ「うん。……なにを言ってたのかはわからなかったけど――」
シャーリー(やっぱラテン語だったからか…?)ピク
サーニャ「なにか……喋ってたような、喋りかけてたような。それは私の感じた印象だけど、でも…ただのノイズじゃなかった」
サーニャ「あの時、ハッキリ感じることが出来た瞬間はとても怖かったけど。なんだか、どこか哀しい感じだったわ…」
芳佳「哀しい、感じ…?」
サーニャ「……」
エイラ「そんなヤツのこと気にすんなって。サーニャに酷いことしたヤツだぞ?」ムムー
サーニャ「でも…」
シャーリー「……サーニャはさ、なんだったと思う?」
サーニャ「ぇ…?」
エイラ「ぉ、おいシャーリー!? そんなの聞いてどうすんだよ!」ガタ
芳佳「エイラさん!?」
サーニャ「……」
シャーリー「いいよ、ここだけの話だから。 …ぶっちゃけどう思う?」
サーニャ「…きっと。……苦しんでるんだと、思います」
芳佳「えっ??」
シャーリー「…メーデー、てこと?」
サーニャ「……」コク
エイラ「ナニ言ってんだよサーニャ? サーニャは殺――ッ……やられかけたんだぞ!? そんなの完全に敵意じゃないかじゃないか!」
サーニャ「…あれは多分、私がネウロイだと思って警戒したから」
シャーリー「ぇ…? そういうのって、お互いに解ったりするの?」
サーニャ「ぁ、いえ…すみません。なんとなくなんです、そんな気がして…」シュン
シャーリー「……(エイラの胸騒ぎといい、案外こういうのが当たったりするかもしれないな…)」モヤモヤ
芳佳「サーニャちゃん、それどういうこと? アドリア海にいるのはネウロイじゃないってこと!?」
シャーリー(――あっ、やべ。まずい流れになっちゃった? …けどもう、仕方ないか)
サーニャ「それは、……本当にそうなのかはわからないけど――」オド
サーニャ「…ごめんね芳佳ちゃん、変なこと言って」
芳佳「えっ!? ぁ、ううん! いいよ別に、気にしないで!」ワタワタ
サーニャ「……でもなんだか、少し不安で」
エイラ「不安って…、どうしたんだサーニャ? 大丈夫だぞ、ワタシがいるって!」
サーニャ「……」フルフル
サーニャ「そうじゃないの。 ただ、その…」
エイラ「へ??」
シャーリー「…多分、躊躇ったんだよね? あたしらが倒す気満々だったから」
芳佳「ぇ、それって…?」
サーニャ「……」コク
エイラ「…も、もしかしてサーニャ。アイツを庇ってんのかッ!?」
シャーリー(んー、まさか宮藤じゃなくてサーニャが拗らすとは…。予想できなかった)ポリポリ
サーニャ「あの、シャーリーさん」
シャーリー「ん? なに?」
サーニャ「…その、さっき私達はもう手が出せなくなったって言ってましたけど。いったいどうなっちゃうんですか?」
シャーリー「ん、ん~…。上層部がなにしたいんだかはあたしも知らないけど、まあ…攻撃すると思うけどね。この状況はなんとかする筈だし」
エイラ「そ、ソリャそうだ! やっつけてもらわないと困るぞ!?」
サーニャ「……」
芳佳「サーニャちゃん大丈夫? 疲れたなら少し横になる?」スス
サーニャ「………なにも、誤解がなければいいけど」ボソ
芳佳「ぇ…?」
…
……~
≪ ≫
サーニャ「――ッ!!」ピョコ
芳佳「サーニャちゃん!?」
シャーリー「! どうした…!?」
サーニャ「……この声…! また…、あの時と同じ…!?」フィン フィン
エイラ「サーニャ!??」
シャーリー「…?(まさか…――)」フィィン ピョコ
シャーリー「……」ピョコ ピョコ
≪ ≫
…カタカタカタ
シャーリー「(!! やっばい、マジかよ!?) …宮藤、エイラ! 今すぐイヤーパッド着けろ!!」
芳佳「えっ?」
エイラ「な、ナンダヨいきなり? ワタシ今持ってないぞ」
芳佳「私も、寝るときに着けるだけなので部屋にあります」
シャーリー「じゃあ急いで取りに行くぞ!? それからサーニャの分と、避難警報を――」
ウゥゥウウゥウ――
芳佳「!?」
エイラ「エ? …スクランブル!?」
シャーリー(このタイミングはどう考えても普通のネウロイじゃねぇ! …怪異の魔女が出たのか!? でもあたしらは出撃れないんじゃ――)
サーニャ「……やっぱり、泣いてる…。聞こえる…」ボソ
芳佳(…?)ピク
ウゥウウゥゥゥ――
『ウィッチーズは至急ブリーフィングルームに集合してください。 繰り返します――』
エイラ「ア!? なんだって? 警報なのに出撃しないのか?」
シャーリー「くっ、急にどうしたってんだ…!?」
アドリア海 旗艦内ブリッジ
モブ将官B「……」
モブ参謀「閣下、そろそろ爆雷の数が打ち止めになるかと思いますが」
モブ将官B「…しぶといな」
モブ参謀「もしかして誤情報では? これだけの事をしたうえで申し上げにくいのですが、本当にその様なものが潜んでいるとは――」
モブ将官B「黙れ。今更つまらん口を挟む暇があるなら次善策の一つでも考えていろ!」
モブ参謀「……はい」
モブ兵士「潜航艦隊から連絡っ! 聴音装置にアンノウンを一機捉えました!」
モブ参謀「まさか本当に?」
モブ将官B「…ククク、出たな。随分と深く潜っていたじゃないか」
モブ兵士「アンノウン、雷撃エリアから上昇中! 近づいてきてます!」
モブ将官B「爆雷止めるな、囲め!! 残り全て投下しろ、海上へ炙り出せぇ!」
モブ兵士「はっ! …サブマリン、爆雷全弾投下せよ! アンノウンを中心に集中爆雷――」
モブ将官B「よし、フェイズ2だ」クイ
モブ参謀「了解です。…おい、アンノウンの出現座標に合わせて海上艦隊の展開修正を連絡しろ。それから航空部隊に攻撃準備を――」
モブ将官B「さて、いったいどんな面か楽しみだが…。怪物とはいえ、小娘一人には少々過ぎた歓迎会だったか?」ククク
モブ兵士「――! 異常な音波を観測しました! 音源は爆雷ポイント周辺、アンノウンからと思われます!」
モブ将官B「501の言っていた奴か。 恐らく例のマレフィキウムだろうが――」
モブ将官B「…フン、古いわ化石が。その手はオラーシャがとうに研究中だよ。魔法など、もう奇跡ではなく科学なのだ」
モブ兵士「――!? せ、潜航各隊沈黙!!」
モブ将官B「…何ぃ?」イラ
モブ兵士「魚雷残弾が次々と艦内で誤爆しているとの報告が…!」
モブ将官B「チッ、愚図が。だから全弾使えと言っただろうが」
モブ参謀「どうやら衝撃で信管が誤作動を起こした様ですね?」
モブ将官B「っ…さっさと消音部隊に指示を出せ!! 音源に接近させろ!」
モブ兵士「し、しかしアンノウンの付近は爆発が…」
モブ将官B「確実に死にたくなければ任務を遂行しろと言え。お前も次に口答えをすれば反逆罪だ」ジロ
モブ兵士「は…、はっ! 了解しました!」ビクッ
モブ参謀「…上手くいくでしょうか? 単純な逆位相だけでは恐らく完全に打ち消せないと思いますが」
モブ将官B「かまわん。我々が無傷で、目標が達成できればいい」
モブ兵「アンノウン上昇! まもなく海上に来ます!」
モブ参謀「!」
モブ将官B「…よし」ニヤ
ザザァァアァァ――
モブ将官B「!?」
――ザバァーーンッッ
???「ーー~ー!!!」ゴゴォォ
モブ参謀「………ぁ、あれは…!??」
モブ将官B「なぁ…っ!! なんだとっ!!?」
モブ兵「レーダーで捉えました! アンノウンは“ネウロイ”、推定大型の未確認です!」
モブ将官B「そんなもの見えてるわ!! 馬鹿者がぁ!!!」クワッ
モブ参謀「…閣下、これはいったい?」
モブ将官B「ぐっ…、何故だ!? そんな馬鹿な!!」ギリ
モブ参謀「予定通りに作戦を進めますか? ネウロイとは言え、確かに特異な例ではありますが」
モブ将官B「……くそ、こんな失態…。これでは私が奴に……私の立場が…!」ブツブツ
モブ参謀「閣下」
モブ将官B「~~っ!! うるさい黙れぇ! 怪異の魔女意外に用は無い!!!」バッ
モブ将官B「……化かしおってネウロイが。…全部隊攻撃!! 粉々にしろぉ!!」
モブ参謀「よ、よろしいのですか? 作戦は――」
モブ将官B「そんなものはたった今消し飛んだわっ!! やれぇ! 潰せぇー!!」
モブ兵士「りょ、了解! …全隊に通達、作戦変更! 全艦出現したネウロイを攻撃、撃破せよ」カチ
ドォンッ ドオォン
ゴォオン ゴァアアンッ
???「ッーー、……~ッ~~ー~!!」
???「……ッ…~ッ…」フィィィン
モブ将官B「……ちぃ、この責任は501に取らせてやる…! あの女狐どもめ…~!!」ギリギリ
モブ参謀「しかし本当にビームや実弾の類が来ないとは。これならば我々でも倒せますね」
モブ将官B「何がネウロイ使いだ、あいつめ……怪異の魔女などとんだ空事だったわ…」ブツブツ
ピーッ ピピーッ
モブ兵「た、た大変ですっ!!」
モブ参謀「どうした?」
モブ兵「北と北西の方角から、新手のネウロイですっ!」
モブ将官B「――…!」ピクッ
モブ参謀「なに!? 数はいくつだ?」
モブ兵「数えきれません! 無数の…恐らく飛行型が真っ直ぐこちらに接近中です!」
モブ参謀「……そんなまさか、ロマーニャ北部のウィッチがやられたのか?」
モブ将官B「違う」
モブ参謀「ぇ…?」
モブ将官B「この作戦に影響が出る事態が起これば、内密に私まで連絡が来る筈…。恐らく南進してきたのはヴェネツィアからだけではあるまい――」
モブ将官B「……てっきりもう呼んでいるものかと思っていたが…、まさか本当にこんな事が…っ!!」グヌヌ
モブ参謀「あの、閣下?」
モブ将官B「そいつ等を呼んだのはあの怪物だ。…やはりヤツが、怪異の魔女なのか!」
モブ参謀「えっ」
モブ将官B「この能力、間違いない…。……ク、グクク…」ニタァ
モブ兵士「1分以内に接敵します!」
モブ参謀「――! ぐっ…仕方ない、全艦撤退させろ!」
モブ将官B「駄目だっ!!」
モブ参謀「!?」
モブ将官B「作戦は復帰、フェイズ3だ! 直ぐにあの未確認型を捕まえろ!!」
モブ参謀「な…!? なにを仰るのですか閣下、相手はネウロイですよ!? あんなネウロイを捕捉できる装備など我々には…!」
モブ参謀「それに南進してくるネウロイとぶつかれば、我々だけでは3分と持たず全滅――」
モブ将官B「黙れぇ!! この作戦の成功で、この世界の全てが変わるのだっ!! 続行しろぉー!!」
モブ参謀「不可能です!! もう我々は逃げるしかありません、でなければ全員唯死ぬだけです! 持ち帰る者も残りません」
モブ将官B「私の命令だ! 従えぇ!!」チャキ
モブ参謀「ッ!?」
モブ将官B「ぜぇ…はぁ……っ。…少なくとも、今死なずに済むぞ?」
モブ参謀「ぅ……。 …………了解、しました」
モブ将官B「貴様等もだ。上官の命令に従わない者は処罰する!」チャキッ
モブ兵士「っ……」ガクブル
モブ参謀(……もう、この方には付いていけない。近くのウィッチ隊になんとか救援を…!)
501基地 ブリーフィングルーム
シャーリー「中佐!」ザッ
ミーナ「…全員来たわね」
美緒「遅いぞお前達、一刻を争う事態だ」
エイラ「一応これでも走ってきたんだぞ…」
シャーリー「何かあったんですか!? 出撃を待ったって事はまさか――」
芳佳「ネウロイですか!?」ズイ
ミーナ「その通りよ」
芳佳「なら早く出撃しましょう!」
シャーリー「えぇっ、そっち!? あの、でもさっきから音波がヤバいし、その~…“あっち”のヤツじゃないんですか!?」アセアセ
エイラ「?」
美緒「落ち着けシャーリー」
ミーナ「分かってるわシャーリーさん、2人とも正解よ」
シャーリー「えっ?」
ミーナ「とにかく時間がないの、皆その場で聞いて頂戴!」バッ
ミーナ「ついさっき、アドリア海で作戦中だった連合本部の指揮する艦隊の救援要請を受けたわ」
エーリカ「連合の艦隊~? アドリア海で作戦中って、それどこの国の?」
バルクホルン「…欧州奪還連合の一派閥が秘密裏に武力を隠しているという噂が一時流行ったが、多分それだろう。とにかく今は聞けハルトマン」
ペリーヌ「ネウロイに襲われているのですか!?」
ミーナ「ええ。最大で中型を含む大群が北方面から続々と集まってるわ」
リーネ「っ…!?」
芳佳「そんな!? なら早く助けに行かなきゃ!」ダッ
美緒「待て宮藤!」グイ
芳佳「わぐ!?」
ミーナ「…その通り、ネウロイと戦うのは私達の役目。けど今回のネウロイは普通じゃないの」
ペリーヌ「!? ま、まさか…」
エーリカ「……例のやつなの?」
美緒「ああ、間違いない。急襲してきているネウロイ共は既知の物だが、その前に海中から姿を現した大型がいる。ここ数日間我々を苦しめている奴だ」
芳佳「!!」
シャーリー「……(上の作戦中に出たってことは、つまり引っ張り出したんだ。なら確かに間違いなさそうだけど――)」モヤ
ルッキーニ「…しゃーりぃ~」トテトテ
シャーリー「ん、ルッキーニ?」
ルッキーニ「んじゅ……」ギュ
シャーリー「…! もしかしてお前、気分悪いのか?」
ルッキーニ「うん…。なんかまたぐーんって…」
リーネ「だ、大丈夫ルッキーニちゃん…?」
シャーリー「やっぱり、今まで以上に強いのが来てる(つうことはマジで出てきた!? …けど、正体は古代のウィッチじゃなかったのか!?)」
バルクホルン「…つまり各個出撃は迂闊だと判断して、先ずここに集めたんだな?」
美緒「その通りだ。だが事態も緊急を有する――」キリ
美緒「…全員イヤーパッドを持て! ストライクウィッチーズ、全機出撃だっ!!」
ミーナ「今手に持ってる人はハンガーへ急いで、ストライカー装着及び武装をして待機! くれぐれも勝手に出ないで!」
美緒「準備の完了した者はインカムと共に直ぐイヤーパッドを装着、無線で報告しろ。念のため感度を確認する」
バルクホルン「了解。 いくぞハルトマン!」
エーリカ「あ、やば! トゥルーデ、私あれどっかやっちゃったよ。 多分部屋だと思うけど…」
バルクホルン「どうせそうだろうと思って私が管理していた。 ほら」ス
エーリカ「わ、ありがとー! 助かった~」
バルクホルン「戦闘では気を抜くなよ、急ぐぞ!」ダッ
エーリカ「りょうかーい!」タタッ
ミーナ「――…待って宮藤さん!」スタスタ
芳佳「ふぁ、はい!?」
ミーナ「サーニャさんは大丈夫そう?」
芳佳「ぁ、えっと…はい! 大丈夫です、元気になってきてますけど」
ミーナ「わかったわ。なら貴方にも出撃してもらいます」
芳佳「へ? ぇ、あぁ…はい(…??)」
ミーナ「念の為にもう一度様子を見てきて、 問題なさそうならサーニャさんにイヤーパッドを渡してハンガーへ急ぎなさい」スッ
芳佳「はあ」
ミーナ「インカムも渡しておくから、もしこの状況下で心配が有りそうなら私に連絡して貴方は残りなさい。その場合は万が一の防衛も任せるわ」
芳佳「ぇ、えっと……わかりました!」
ミーナ「頼むわ。それじゃあ急ぎなさい!」
芳佳「りょ、了解っ!」スタタ
ミーナ「……それから――」キョロキョロ
ミーナ「いた、…エイラさん!」
エイラ「ウッ!?」ギクッ
ミーナ「よかった、いたわね」スタスタ
エイラ「……な、なんだよ中佐? ワタシはもう大丈夫だぞ…」
ミーナ「……」ジ
エイラ「ッ…こ、今度は勝手な出撃じゃないぞ!? ワタシも行かせてくれ!」
美緒「中佐! 我々もハンガーへ急――…ん? どうした?」タタッ
エイラ「いや、ワタシも絶対に行く!! 今度こそサーニャを守るんだ!!」
ミーナ「……少佐」チラ
美緒「ん?」
ミーナ「貴方はどう思う?」
美緒「エイラか、うむ…」
エイラ「少佐! 頼む!!」
美緒「…時間が惜しいからハッキリ答えろ。お前は何故出撃したい?」
エイラ「――!?」
ミーナ「……」
エイラ「………ホントのコト言うと、ワタシはあいつを許せない。この手でメチャメチャにやり返してやりたい」
美緒「……」
エイラ「でもサーニャは生きてる……また、ワタシに笑ってくれるんだ! だから――」
エイラ「…だから守る! そのためにもワタシは出撃たいんだッ!!」
ペリーヌ「!(エイラさん…!?)」ピク
リーネ「ペリーヌさん? 早く私達も行かないと」
ペリーヌ「ぇ、ええ…。急ぎますわ」タタ
美緒「ふむ」
エイラ「ッ…」
ミーナ「どうかしら少佐? 貴方に委ねるわ」
美緒「…………よし。これならば、いけるだろう」
エイラ「!?」
ミーナ「いいのね?」
美緒「我々を信じて正直になったんだ、ならばこちらも信頼しない訳にいくまい」
ミーナ「わかりました。それじゃあ、装備はアレでいくわよ?」
美緒「ああ。 …よく戻って来たな、エイラ」ポン
エイラ「……じゃあ、ワタシも出撃られるのか…?」ワナワナ
ミーナ「エイラさん、貴方のストライカーはまだ安全に飛べる状態じゃないわ。だから隊長として、出撃は許可できません」
エイラ「ナンダヨォ!? サーニャをあんな目に遭わされてナニも出来ないなんてあんまりじゃないかっ!?」ガーン
ミーナ「落ち着きなさい。勿論貴方には出撃てもらうわ」
エイラ「へ…? ェ、だって今ダメだって…??」
ミーナ「エイラさんのBfを戦闘使用するのは許可できないから、貴方には代わりにMiGを履いてもらいます」
エイラ「Migって…――! そ、それってサーニャの!?」
ミーナ「緊急措置よ。装備もサーニャさんの物から一部転用しなさい、火力が足りなくなる可能性もあるから」
エイラ「……」
美緒「…言っただろうエイラ? “全員出撃”だとな」
エイラ「少佐…?」
美緒「サーニャの分、お前が“共に”出撃ろ」
エイラ「!!」
美緒「ほら、いつまでも締まりの無い顔をするな。急ぐぞ!」
エイラ「~、……了解だッ!」
医務室
サーニャ「……」
。
○
(美緒『――敵は、未だ何処かにいる』)
(エイラ『サーニャはやられかけたんだぞ!? そんなの完全に敵意じゃないかじゃないか!』)
(シャーリー『まあ…攻撃すると思うけどね』)
○
。
サーニャ「……私も、行かなきゃ…」モゾ
サーニャ「…っ……ぇ?」ヨロ
サーニャ(あ、足が…ふらつく!?)
芳佳「――サーニャちゃん!! なにしてるの!?」
サーニャ「! …芳佳ちゃん」
芳佳「いきなり歩いたら危ないよ!? ずっと寝てて筋力が弱ってるんだから!」
サーニャ「ぅ、ぅん……でも…――ぁ!」ヨロ
芳佳「あぁ待って待って!? とりあえずベッドに戻ろう!」グイ
サーニャ「ゆ、ゆっくりなら…大丈夫、だから……」
芳佳「でも最初から独りはダメだってば!? ほ、ほら横にならなくてもいいからせめて座ろうよ…ね?」
サーニャ「…………ぅん」トサ
芳佳「戻ってきたら、私が付いててあげるから。それから慣らしていこうよ?」
サーニャ「……芳佳ちゃん、出撃するの?」
芳佳「えっ? ぅ、うん。ネウロイが出たみたいだから」
サーニャ「ネウロイ…」
芳佳「…どうかしたの?」
サーニャ「お願い芳佳ちゃん、気をつけて。あそこからはなんだか怖いものも感じるの――」
サーニャ「…それに……」
芳佳「それに?」ポケ
サーニャ「……。ううん、なんでもない。…とにかく気をつけて?」
芳佳「…? う、うん。わかった」
サーニャ「……」
ハンガー
エイラ「……」
ガザッ
美緒『応答しろエイラ、聞こえるか?』
エイラ「オウ、バッチリだ。周りの音がほとんど聞こえなくてヘンな感じだけどな」
美緒『聴覚を封じる戦闘はかなり厳しさを増す事になるが、今回ばかりは仕方ない。だがこれで敵の攻撃を完全に無効化できる保証はない、気を抜くなよ』
エイラ「モチロンだ」
美緒『うむ、頼んだぞ』
エイラ「……」
美緒『全員聞け! 宮藤が到着次第出撃するぞ、気を引き締めろ!』
『了解!』
エイラ(サーニャのストライカーを履くのは2回目だな…)
エイラ「…………」ゴソ
エイラ「……」ピラ
エイラ「…デビルの正位置」
エイラ「クッ…!(今度は逃げないぞ悪魔め…! ワタシがブッ倒してやる!)」ビリビリィ ポイ
エイラ「……ヨシ!」
ツンツンッ
エイラ「ン?」
ペリーヌ「…………」
エイラ「……ア? ナニやってんだペリーヌ、ていうか銃で人のコト突くなよなー」
ペリーヌ「……! …!」クイクイ
エイラ「ナンだよ? 変な動きだなー」
ペリーヌ「……ッ!! ~~!!」クイクイクイ
エイラ「アー? ………ナンだ? イヤーパッド取れってコトか?」
ペリーヌ「……」コク
エイラ「……ナンでだよ、インカムで通信すればいいだろー?」
ペリーヌ「~~っ!!!」クイクイクイ
エイラ「な、なんだよ!? ワカッタから落ち着けって!」
エイラ「はいはい……ホレ、これでいいのか? ナンの用なんだ?」グイ
ペリーヌ「…エイラさん」
エイラ「オウ」
ペリーヌ「……お気持ちの整理はついたようですわね?」
エイラ「エ? アー…少しな。自分の役割を思い出しただけだし」キョロ
エイラ「サーニャがやられてからオマエに引っ叩かれるまで、ちょっとイロイロ見えなくなってたダケだ」
ペリーヌ「……ええ、そうですわね」
エイラ「…でもさ、ワタシも人間なんだ。この怒りは消えないし、チャンスがあれば復讐するつもりだかんな」
ペリーヌ「……」
エイラ「止めるなよ、ペリーヌ」
ペリーヌ「…ええ。それでもいいと思いますわ」
エイラ「?」
ペリーヌ「けど御自身を顧みない様でしたら、止めますわよ。…細やかな友人として」
ペリーヌ「けど御自身を顧みない様でしたら、止めますわよ。…細やかな友人として」
エイラ「……ワタシとツンツンメガネが友だち~?」ムフフ
ペリーヌ「ッ…ふ、ふん! 別に貴方ではなくてサーニャさんの為ですっ! 勘違いしないでくださいまし ///」プイ
エイラ「……」
ペリーヌ「~ //」
エイラ「ペリーヌ」
ペリーヌ「! な、なんですの…?」チラ
エイラ「アリガトな。ペリーヌがいなかったら多分、今こんな気持ちになれてなかったと思う」
ペリーヌ「……いいえ、まあ…その。お役に立てたのでしたら、幸いですわ」
エイラ「ついでにお前も守ってやるよ、友だちとして」ニヤ
ペリーヌ「はぁ!? け、結構です! ///」
エイラ「遠慮すんなって―」
ペリーヌ「あぁ貴方のシールドではかえって不安ですからっ! //」
エイラ「ナンだよソレー。まだあのコト根に持ってんのかー?」
ペリーヌ「知 り ま せ ん っ !!」プン
ガザザッ
宮藤『お、遅れてすみませーんっ!』
美緒『よし来たな。…宮藤、靴は脱ぎ捨てろ! 直ぐに出撃る!』
エイラ「…イヨイヨ、だな」
ペリーヌ「……ええ」
エイラ(行ってくるぞ、サーニャ)スチャ
――――
――
―
アドリア海
ブゥゥウン――
ミーナ「…全員いいかしら? 今回はこれまでの総力戦とは違うわ。知覚を制限しての戦闘になるうえ、パッドを覆う魔法シールドに常時魔法力を消耗することになる――」
ミーナ「加えて敵の全容も完全には分かっていないわ」
バルクホルン『厳しい状況に関わらず、時間が限られるということか…』ガザ
エーリカ『難易度高いね~』
ルッキーニ『なんかボス戦っぽいぃ…』
美緒『お前達、これは遊びじゃないぞ』
ミーナ「お互いの事故や迅速な状況対応に気を配ることが重要になるわ、全員いつも以上に声をかけ合って。 発見報告に気を配って頂戴!」
『『了解!』』
ミーナ「……(途中から来た敵の規模次第では、最悪を想定しないといけないわね…)」ゴクリ
美緒『中佐! 味方の艦隊が視えたぞ!』
ミーナ「――! ぇ、もう!?」
美緒『航空機は無し、船は8隻。……向こうからネウロイも来ている。恐らく早々に撤退したんだろうが、追われている』
シャーリー『かなり南下してきてますよ? 相当しつこいネウロイですね』
ミーナ「……坂本少佐、敵のタイプは判断できる? ヴェネツィアの新型かどうかだけでも」
美緒『いくつか視える。だが見覚えのない型も交じっているな』
ミーナ(…おかしい。ヴェネツィア以外からも襲来してるって話だけど、それだと行動範囲が異常だわ)
ミーナ「(それにヴェネツィアの群と同調するのも変…、トラヤヌス作戦の結果から考えても群れや縄張り意識のような物は有る筈なのに)…少佐、数はわかる?」
美緒『いや、正確には無理だ。続々と増えていてとても数えてなどいられん、現状で中型以下がざっと4~5
0だ』
芳佳『ちゅ、中型が50体も…!?』
シャーリー『…スカイ・ゼロって感じだな』
エイラ『全部倒すってならあんまりモタついてらんないぞ?』
バルクホルン『いや、幸い我々は予定の航空距離を費やしていない。効率を重視すればやれる』
エーリカ『うげ~』
ミーナ(ネウロイがセオリーを外してくるのは今更だけど、これは明らかに……まるで敵地ね。まさか怪異の魔女の仕業かしら?)モヤ
美緒『――……む、おかしい。中佐! 旗艦との通信が繋がらん』
ミーナ「! …やっぱりあの救難通信の途中でやられたのね」
芳佳『えっ!? そんな…! な、亡くなってるんですか!?』
エイラ『ソリャー…そんだけの大群相手に生きてられるならワタシ等はいらなだろ』
ペリーヌ『エイラさん、およしなさいな』
ミーナ「…とにかく残りの艦隊だけでも守るわ! 宮藤さん、リーネさん、ルッキーニさん、シャーリーさんは味方の護衛に付いて戦線の離脱を支援して!」
ミーナ「残りは敵戦力を誘って迎撃! 少佐と私を中心にトゥルーデとフラウ、エイラさんとペリーヌさんの各ロッテで当たるわ!」
ミーナ「いい、この先何が起こるかわからないわ! 私と坂本少佐で適時指示を出すから、各自連絡を怠らないで!」
『『…了解ッ!!』』
――――
――
―
ミーナ「美緒! 手を貸して」サ
美緒「む、…よし!」ニギ
ミーナ「っ…」フィィイン
美緒「……くっ、まだまだ増えているな」
ミーナ「ええ、しかも全部が一直線に艦隊を目指してるわ」フィィン
美緒「…右の撤退が遅い。そこから釣って行くか」
ミーナ「わかったわ!」
ブゥゥウンッ――
ネウロイ「~~」
美緒「くらえぇ!」ダダッ
ミーナ「ふっ…!」ダダダ
ネウロイ「…!?」ガガッ
ネウロイ「ーーッ!」
ビビィーー
ミーナ「来たわね」
美緒「こっちだ!」ブゥゥン
ネウロイ「……」ピタ
ネウロイ「……」
ビュゥゥン
美緒「!?」
ミーナ「…追ってこない?」
ビュゥゥウンッ ビュゥン――
ネウロイ「「「~ー」」」
ミーナ「……これって…!?」
美緒「我々は眼中にないのか…?」
美緒「……――!! いかんっ、宮藤ぃ!!」
芳佳『さ、坂本さん!! 船が! 私のシールドだけじゃとても足りなくて――…あぁっ!! そ、そんな!?』ガザ
ミーナ「不味いわ! 完全に集中狙いされてる!」
美緒「おのれっ…ネウロイめぇ!!」ブゥゥゥン
ミーナ「あ、美緒っ! どうするつもり!?」
ミーナ「ッ…(…そうね、危険だけど迷ってる時間なんてないわ)」
ガザザッ
バルクホルン『くっ…どうなってる!? 奴ら、こっちの誘いに乗って来ないぞ!?』
エーリカ『どうするトゥルーデ? かなり突破されちゃったみたいだけど』
ミーナ「…全員聞いて! ネウロイは今私達に無関心、目標だけに執着してるわ――」
ミーナ「突出してるロッテも艦隊周辺の遊撃に回って! 足の遅い所は私が指示するから、なんとか離脱させるわよっ!」
――――
――
バルクホルン「ミーナ! 我々は散会して各所を支援する!」
ミーナ『了解。左は貴方達に頼んだわ』
バルクホルン「…エーリカッ! 中央は任せるぞ、私は端から片付ける!」
エーリカ「了解!」ブゥゥン
――
―
ルッキーニ「っ…!」ダンッ
ネウロイ「ー…ッ」ベキ
ネウロイ「 ――…~」
ルッキーニ「んまだまだっ!」ダンッ ダダン
ネウロイ「ッ……ッ…!?」ベギベギ
ルッキーニ「! …うじゃ!!」ダァン
ネウロイ「」ベギン
ルッキーニ「やったぁ!」
ゴォオオンッ
ルッキーニ「――!? あっ! 船がやられちゃう!」ブゥゥン
ネウロイ「ー~~!」ビー
――ブゥゥンッ
ルッキーニ「だめぇー!!」パァァ
ルッキーニ「っ…」
ネウロイ「「……」」ゾロゾロ
ネウロイ「「ーー~!」」ビビィー
ルッキーニ「ぁぎゅ…!! っ…これ以上もたないよぉ!」パァァ
ネウロイ「「「~~ー!!」」」ビビビー
ルッキーニ「~~っ! ああーん、もぉー!!」
ガザザッ
『ルッキーニ! 5秒後に反撃しろ!』
ルッキーニ「――えっ?」
ネウロイ「「「―…ッ」」」ベキッ ベギン
ルッキーニ「!?」
――ブゥゥウン
バルクホルン「ぅぉおおお!!」ダダダダ
ルッキーニ「バルクホルン!?」
バルクホルン「何をしてる少尉ッ! 再生される前にコアを仕留めろぉ!」ダダダッ
ルッキーニ「――!? ぅ、ぅうん!」チャッ
ルッキーニ「……、っ…!」ダンッ ダンダァンッ
ネウロイ「」バキィ
ネウロイ「「」」ベキ ッバリン
ルッキーニ「…ふぅ……はっ……。 はぁ~~…」
バルクホルン「よし、いいぞ少尉。流石だ」ブゥゥン
ルッキーニ「ぁ、ありがと…バルクホルン」
バルクホルン「見ての通りこのネウロイ共は我々に対して反撃意外はしてこない。味方に群がる前に今の要領で押し返すぞ!」
ルッキーニ「ぇ?」
バルクホルン「私の火力で敵の装甲を片っ端から崩していく、お前はコアをスナイプしろ」
バルクホルン「いいか? スピードが肝心だ、休まずついて来い。…一撃で仕留めろ!」ブゥゥン
ルッキーニ「あ! ま、待ってぇー!?」ブゥゥウン
――――
――
―
リーネ「……んっ!」ガチ
ダァンッ
ネウロイ「」バギィン
リーネ「…っはふ。……はぁ…」
エーリカ「リーネー!」ブゥゥン
リーネ「――! ハルトマン中尉!」
エーリカ「大丈夫?」
リーネ「は、はい…。今の所はなんとか…」ゼェ ハァ
エーリカ(こんな中独りで2隻を守りきってるなんて、やるじゃん! …けど相当消耗してるね)
エーリカ「弾倉はまだ有る?」
リーネ「ぁ、もうあまり…」
エーリカ「(さっきまでの集中力じゃ、リーネはこれ以上持たないかなぁ?)…わかった。じゃあ私がやっちゃうから、リーネはこのまま艦を守って」
リーネ「は、はぃ…!」
エーリカ「全部は無理かもしれないから、溢れたやつだけさっきの調子でお願いね!」ブゥゥウン
――――
――
―
ペリーヌ「…トネールッ!」フィィイン
バリバリャィイッ
ネウロイ「「」」ッバギィ
ネウロイ「ッ…」
ネウロイ「ー~!」ビー
シャーリー「やらせないっつうの!」ブゥゥン
シャーリー「っ…、エイラ!」パァア
エイラ「任せろ!」ガション
エイラ「…オラッ」ガチ
バシュウゥウウ――
ドゴォオアアン
パラパラ…
エイラ「フゥ…、チョット撃ちすぎちゃったな」
シャーリー「あともう一息だ、味方の船は殆ど逃げきれてる」
ガザッ
バルクホルン『左の2隻は脱出完了した! 引き続き敵を殲滅する』
エーリカ『中央左も完了、2隻逃がしたよ!』
シャーリー「……あっち早えなぁ」
ミーナ『こっちもなんとかなったわ。 残りシャーリーさん達の所ももうすぐだから、敵を行かせない様に注意して!』
バルクホルン『了解!』
ペリーヌ「…なんだかひどく差を感じますわ」
シャーリー「そんなことないって。こっちにはガリアとスオムスのトップがいるんだからさ?」
ペリーヌ「わ、わたくしはブランク持ちですから! 別にもう、そんなんじゃ…」
エイラ「情けないぞー、メガネのいちば~ん」ブゥウン
ペリーヌ「“青の一番”ですっ!!//」
シャーリー「…とにかくこっちも後ちょっとだ。行くぞ2人とも、まだネウロイが来てる!」
ペリーヌ「~、…了解しましたわ」ブゥゥン
エイラ「だな。 ちゃっちゃと――…!」
エイラ「…………ナンだ、ナンだアレ…?」ジー
エイラ「……このブキミな景色、見覚えあるぞ? …まさか」
――
―
美緒「粗方片付いたか。これで全部か?」
芳佳「ふへぇ~…」
美緒「だが肝心の奴がいないな? …中佐、ここの救援は完了したが我々はど――」
ミーナ「――ッ!? 待って! この空域にまた新手よ、大きいわ!」フィィン
芳佳「!? ま、まだいるんですかぁ!?」ガーン
美緒「…いや、大型という事はまさか」
ミーナ「そこまではわからない。…少佐、向こうよ! 丁度雲が切れてるわ」ビッ
美緒「了解」
美緒「…っ!」フィィン
???「…………」
美緒「……ネウロイ、だと思うが。“本丸”かどうかは流石にわからんな、何しろ見るのは初めてだ」ジー
ミーナ「彼らが炙り出した“目標”が推定大型の未確認と言うのは間違いないわ。それから外見特徴が他より独特だって話よ」
美緒「…………なら間違いなさそうだな。明らかに見慣れたそれではない、外装がまるで泥か何かの様でやけに不気味だ」
芳佳「な、なんですかそれ!?」
ミーナ「……脚は遅いみたいね。コアは見える?」フィィィン
美緒「いや、ここからではまだ遠い。朧だ」
ミーナ「ッ…こっちもこれだけ広範囲の空間把握だと、ディティールまでは掴めないわ」
美緒「どうする、接近するか? とりあえず我々の耳は保護されているが」
ミーナ「……」
美緒「? おい」
芳佳「ミーナ中佐、どうかしたんですか?」
ミーナ「ご、ごめんなさい…なんでもないわ。 ちょっと考えてただけ」
ミーナ「……とりあえず、先に他の子達の援護に行きましょう。 このまま突入する前にまず残りのネウロイを一掃して体制を整えるわ」
――――
――
――ブゥゥウン
シャーリー「はぁっ……ふぃー…。ありがとうございます中佐、なんとかなりましたね」
ルッキーニ「うじゅ~…」
バルクホルン「まったく、この程度でだらしがないぞ!」
エーリカ「え~、私も正直もう疲れて来たけど?」
美緒「お前達気を抜くな。ここからが本番だ」
ミーナ「…残念だけど少佐の言う通りよ。私達が倒さなくちゃいけない相手はこれから」フゥ ハァ
エイラ「アイツだな…?」チラ
ミーナ「ええ。 …連合軍隊が狙った海中のアンノウン、私達を騒がせた犯人よ」
エーリカ「なんか不気味だね。 なんにもしてこないでゆっくりこっちに近づいて来てる」
ペリーヌ「見た目も、なんだか悍ましくて気持ち悪い感じがしますわ…」
リーネ「ぅぅ…」モジ
芳佳「リーネちゃん? …どうしたの?」
リーネ「ぁ…ぅ、ぅぅん…。その…」
芳佳「大丈夫だよ、リーネちゃんは私が守るから! みんな一緒なら負けないよ!」
リーネ「ぇ…? ぁ、う…ぅん」モジモジ
シャーリー「あれが…マジであんな“ネウロイ”が今回の仕業を…?」
エイラ「間違いないぞ。雲模様もアイツを予知した時と同じだ」
バルクホルン「雲?」
エイラ「そうだ。ホラ、あの辺の感じ」クイ
バルクホルン「?」チラ
バルクホルン「……高積雲、か? 不安定な大気状態だとは思うが、それがどうした?」
シャーリー「!」
エイラ「違うって、その辺のが崩れた感じでグヤグシャに広がってるだろー? サーニャと夜間哨戒した時も、少佐と偵察に出た時も、見えない攻撃を予知した時に飛んでた空にはアレがあったんだ」
シャーリー(そっかなるほど…! てことはまさに今も例の音波は出てんのか。耳を護ってるあたし等は今んとこまだ無事っぽいけど――)モヤ
バルクホルン「…つまりあのネウロイを倒せば、今度こそ決着がつくという事だな?」
美緒「そういうことだ! 奴は恐らくビームを撃たない。他のネウロイは全滅し、少なくとも中距離以上から奴は丸腰だ」
エーリカ「今度は私達も射程距離で戦えるってことだね?」
シャーリー「い、いやいや待てって! 音響ってのは近い程影響がヤバイいんだぞ!? あのレベルの音源に近づき過ぎたらあたしらウィッチだって危険かもしれない!」
ミーナ「…シャーリーさんのぃ…言う通りね。…私達の消耗もあるし、出来るだけ迅速にやらないと」ハァ
芳佳「…ミーナ中佐? あの、やっぱり――」オズ
ミーナ「だ、大丈夫。 平気よ宮藤さん…」
シャーリー(――!?)
芳佳「ごめんなさい…、私が未熟なせいでミーナ中佐や坂本さんに無理をかけちゃって」
ミーナ「宮藤さん、今は戦闘中だから…。そういう話は終わってからにしなさい?」
ミーナ「…坂本少佐、コアは確認できる?」
美緒「うむ、この距離ならいける筈だ」フィィン
美緒「……視えた、かなり浅い! 奴が今こちらを向いているとして、丁度背中の中心から上6分といった辺りだ」
バルクホルン「よし、我々の火力で十分届きそうだな。コアの位置が解っていればこちらの物だ」
美緒「いや、だがあの図体の割にコアはかなり小さそうだ。 それに移動しないとも限らん」ジ
美緒「…まだかなり視え辛いな。もう少し注視し――…ん?」
美緒「……何だ?(コアから何か……線? 糸か? いや、やはりよく視えん。気のせいか?)」ムム
ペリーヌ「少佐? いかがされました?」
美緒「むぅ…、魔眼視がどうも安定しない。視界が若干だが霞む」
ペリーヌ「えっ!?」
美緒「特右目に関して、こんな事は無かったんだが…~?」グシグシ
ペリーヌ「少佐ぁ! もっ、もしや御身体の具合が!?」ガーーン
芳佳「えぇ!? さ、坂本さん! 大丈夫ですか!?」
美緒「騒ぐな、別段何でもない。気のせい程度だ」
芳佳「で、でもぉ!?」ワタワタ
バルクホルン「…平気なのか少佐? まさかシールドだけでなく魔眼の方も――」
美緒「余計な心配だバルクホルン。それよりも敵が迫っている、戦闘突入に集中しろ!」
シャーリー「……(みんなの様子が…。これって、まさかマジで)」チラ
ルッキーニ「……ぅじゅじゅ…」モジモジ
シャーリー「ルッキーニ、もしかしてお前も調子よくないのか?」
ルッキーニ「ぇ…っ! な、なんでぇ!? ///」ギクッ
シャーリー「さっきから様子おかしいだろ、見てりゃ分かるよ。大事なことだから正直に言ってみ?」
芳佳「!? そうなの、ルッキーニちゃん!?」
ルッキーニ「ぅ…、ぅぅ~~… ///」
シャーリー「頼むルッキーニ、時間も無いんだ! 言い辛い事だとしても、なに隠してるのか言ってくれ」
エイラ「?」
美緒「おい、何の話だシャーリー?」
ルッキーニ「ぅぐ……。 じ、じつは――」モゴ
ルッキーニ「………ぉ…おしっこ、でそう……です ///」モジモジ
リーネ「!!」
バルクホルン「は…?」
シャーリー「……なるほどね」チッ
バルクホルン「は?? 何が“なるほど”だ、こんな時に?」
ペリーヌ「…お言葉ですけどシャーリーさん達、今はふざけている様な時では――」
シャーリー「こりゃ最悪だ、マズい…」
エイラ「…? まあ、そりゃサイアクだな。オシッコ漏らすんじゃ」
美緒「……おい、いい加減にしろお前達。ここは戦場だぞ、死にたいのか?」イラ
エーリカ「あー、待って待って少佐? 多分真面目な話だよ」
美緒「何?」
エーリカ「いやあのさ。実は私と、あと多分リーネもさっきから催しちゃってるんだけどさ――」
リーネ「ーー!? /////」ギク
芳佳「えっ、本当なのリーネちゃん!?」
エーリカ「…これ、なんか原因有りそうなんでしょ? 私さっきから腎臓の辺りも違和感あるんだよね」
バルクホルン「な…!?」
美緒「…そうなのかシャーリー?」
シャーリー「~…はい。あたし等さっきから敵の攻撃、食らってます…っ!」ギリ
美緒「!! なんだとっ!?」
エーリカ「…やっぱりね。少佐が視覚に異変を感じるのも、きっとそのせいだよ」
美緒「……」
ミーナ「……そ、そうぃう…事だったのね…。ッ…!」ヨロ
美緒「…ん? 中佐、どうした!?」
ミーナ「…ごめ…なさい。実はちょっと私も頭痛がして…て――」フラ
エーリカ「え? み、ミーナ…?」
ミーナ「魔法の過剰行使のせいかと思った…けど。……まさか、聴覚以外からでも影響を受けてぃた…のね……――ぐっ…!!」ガク
バルクホルン「お、おいミーナ!?」ブゥゥン
――ガシッ
芳佳「ミーナ中佐!?」
ペリーヌ「中佐!」
美緒「やけに黙っていたかと思ったらお前、震えているじゃないかっ!?」
ミーナ「…へ、平気よ……離…して…」
バルクホルン「平気なものかっ!! ホバリングも出来ずに今落下しかけたんだぞ!?」
ミーナ「~…! ど、怒鳴らないで……ぃ痛゛っ…!!」キリキリ
美緒「くそ、なんてことだ……宮藤ぃ!」
芳佳「は、はいっ!」
ミーナ「ッ…」
芳佳「す、凄い汗!? …今すぐ治癒魔法かけますっ! しっかり抱えててください!」バッ
バルクホルン「頼む宮藤!」
エイラ「オイ、そんな暇あるのか!? アイツがこっち来てんだろ!?」
美緒「くっ…! 奴はとうに我々相手に仕掛けていたという事か!!」ギリ
シャーリー「つーかこの攻撃を防がないと……ルッキーニ、手を貸してくれ!」ブゥゥン
ルッキーニ「うぎゅ!?」
エーリカ「防ぐって…どうするのさ!?」ブゥゥン
ペリーヌ「ちょ、ちょっと貴方達!?」
シャーリー『このままじゃヤバい、手の空いてる奴は手伝ってくれ!!』ガザ
ペリーヌ「えぇ…!?」
リーネ「…!? ぇっと…」オドオド
美緒「行けお前達、こちらは我々だけでいい!」
エイラ「…わかった!」ブゥゥン
ペリーヌ「ぇ、えぇあの! ちょっと!?」
――ブゥゥウン
エーリカ「シャーリー、いったいどうするつもりなの!?」
シャーリー「ハルトマンも一緒にいただろ? …こう、するんだよっ!!」バッ
パァアアッ
シャーリー「……これじゃまだ小さいか? くっ…、もっとでっかくなれぇ!!」
パァアアア
リーネ「…し、シールド?」ブゥゥン
ペリーヌ「今更そのような事で防げますの…!?」
シャーリー「ウルスラから聞いておいたんだ、音響兵器みたいな指向性エネルギーの類は間接射撃ができないって! ネウロイのビームだってこうやって後ろを守るだろ!?」
エイラ「な、ナニ言ってんだよ!? 物陰に隠れたって音は聞こえるだろ!」
シャーリー「ここは空で下は海だ、街中や室内と違って反射や共振する物なんてほとんどない!」
シャーリー「――…それから、ルッキーニ来てくれ!」
ルッキーニ「な、なにシャーリー…!?」
シャーリー「光熱魔法だ。あたしのシールドに重ねる感じで、できるだけ大きく! 相当デタラメな熱量がいるから、キツイと思うけど全力でやってくれ」
ルッキーニ「ぇ…でもシャーリー、あたし今……我慢してて…」モジ
シャーリー「最悪今出ちゃっても誰も怒らないし馬鹿にしない、絶対!!」
ルッキーニ「うじぇえっ!? で、でもぉ!」
シャーリー「…みんなを助けること、優先したいだろ?」
ルッキーニ「ッ………~ぅ、うんっ! わかった!!」
シャーリー「よっしゃ、いくぞ!」
ルッキーニ「…ぅんにゃぁぁあーっ!!」フィィィイン
エイラ「な、なにやってんだよアレ…!?」
エーリカ「えーっとたしか…大気を膨張させて空気振動を伝わりにくくするからって、ウルスラが言ってた方法だけど…」
エイラ「??」
ペリーヌ「本当に大丈夫ですの!?」
シャーリー「手ごたえが無いからわかんないけど、かなりマシな筈だよ! それよりペリーヌも手伝ってくれ!」
ペリーヌ「…わ、わかりましたわ!」
バルクホルン「ミーナ! しっかりしろ!」
ミーナ「…ぅ……」
芳佳「…どうして!? あまりよくなってる感じがしない…!?」フィィイン
美緒「……不味いな。やはり中佐自身の言った通り、先程の戦闘からかなり無理はしていた様だ。そもそもに軽度の魔法力失調へ陥りかけている」
リーネ「そ、そこまで行っちゃうと“治癒”じゃどうしようも…!」
芳佳「っ…!」
美緒「…ここでイヤーパッドへ供給されている魔法力は断てない。このままではいかん」
美緒(気づくべきだった…! あの混戦の中、我々だけでなく周辺空域にまで魔法を広げて戦況を警戒し続けていたんだ……恐らくサーニャの代わりに!)グヌ
バルクホルン「少佐、撤退させよう!」
美緒「ああ、中佐は今のうちに離脱させる。我々で後はやるぞ?」
バルクホルン「……」コク
美緒「宮藤、中佐を基地まで連れて行け。 リーネは護衛だ」
芳佳「…はい」
リーネ「わ、わかりました!」
ミーナ「……待…って。駄目…」ヨロ
バルクホルン「ミーナ、無理をするな!」
芳佳「そうですよ!? 私が基地まで連れて行きますから!」
ミーナ「い、いいから…! …聞いて」
美緒「よせミーナ。負傷者の立場を解らないお前ではあるまい、意地を張るな」
ミーナ「聞きなさぃ!!」
美緒「!?」
リーネ「ひゃ!?」ビク
ミーナ「っ…は……ふっ…ぅ」ゼェ ハァ
バルクホルン「ミーナ…!?」
ミーナ「……離脱…は、無理よ」
芳佳「えっ?」
ミーナ「ひ…東から、ネウロイが…。廻り…込まれてるわ」
バルクホルン「!? …そんな馬鹿な、まだいるのか!」
美緒「ミーナ…お前、そんな状態で未だ魔法を?」
ミーナ「この…っ、このまま増え続ける可能性も…あるわ…。……貴方達全員の…話を聞いてたけど、…っ……今は…私達が標的」ズキッ
芳佳「ミーナ中佐、状態が悪化しちゃいます。無理しないでください!」
美緒「いや待て」サッ
芳佳「坂本さん!?」
美緒「無駄にするわけにはいかん、聞かせろ。お前は魔法で少しでも楽にさせてやれ」
芳佳「ぅ……」
バルクホルン「少佐…」
美緒「…中佐、その情報が正しければ我々は負ける。ならばこの状況でどうするべきだ?」
ミーナ「最後まで……消耗戦は…出来ないわ。だから…先に、止めるしか」
美緒「止める?」
ミーナ「…“怪異”をなんとか…しないと、きっとこの状況は続く…わ」ゼェ
美緒「! つまりヤツがネウロイを!?」
ミーナ「ぇぇ。……多分、それが彼らの欲しがった…ものよ」
芳佳「…ど、どういうことですか?」チラ
バルクホルン「……」
美緒「(成る程、やはりウォーロック事件が終わりでは無かったんだな)…了解した、戦闘指揮は私が代わる。中佐は宮藤達となるべく安全な位置で身を守ってくれ」
ミーナ「ぃ、いいえ…。宮藤さんは連れて行きなさい」
芳佳「!」
ミーナ「シールドが…有効なら、宮藤さんと誰かで…。突破して接近したら、高火力で直ぐに…」
美緒「……しかし」
ミーナ「…ありがとう宮藤さん。もう、いいわ……大分平気に…なったから」グイ
芳佳「えっ!? でも――」
ミーナ「…命令よ。貴方は……行きなさい。行って、私達を…守って」
芳佳「!!」
リーネ「ミーナ中佐…」
バルクホルン「…ならば代わりに私がミーナに付く。また自飛行が困難になった時に担げる者の方がいいだろう」
美緒「バルクホルン!?」
ミーナ「…駄目よ、貴方の戦力は――」
バルクホルン「命令違反だというなら後で好きにしろ、宮藤を行かせるならお前の身は私が預かる!」
ミーナ「トゥルーデ…」
美緒「……仕方ない、私も賛成だ。聞き分けろ中佐?」
ミーナ「…ごめんなさい」
バルクホルン「よし、作戦は決まったな? ……シャーリー、聞こえるか!?」
ガザッ
シャーリー『全部聞いてたよ! こっちは全員了解、あたし等もこのままじゃ直ぐガス欠だ!』
美緒「なら考える暇などないな。私と宮藤であの大型の背後へ突入する、他は東から来るネウロイの足止めだ!」
エイラ『……それはダメだぞ少佐』
美緒「!?」
エイラ『少佐はシールドが出せないんだから、いくら宮藤がいたって危険すぎるぞ? 遮蔽物も無い空で音を避けられるワケないし、絶対止めた方がいい』
ペリーヌ『ぇ、エイラさん貴方…』
美緒「…だが奴のコアを迅速に討つなら私の魔眼と烈風丸が必要だ、他に手立てはない」
ミーナ「……だから、私はトゥルーデに頼み…たかったの」
バルクホルン「……」
美緒「ミーナ!? お前まで…」
ミーナ「お願い、トゥルーデ。私は大丈夫…だから」
バルクホルン「いや、しかし――」
エイラ『ワタシが行く』
芳佳「!」
美緒「何…!?」
エイラ『フリーガーハマーの残弾がまだ残ってる、これなら火力も範囲も問題ないだろ? ワタシなら未来予知でイレギュラーにも対応できる』
美緒「……」
エイラ『たしか後の真ん中、少し上なんだよな? …そこまで接近して確実に当ててやる』
ペリーヌ『……』
美緒「(…懸念もあるが、エイラの言う理も確かか。あの敵はまだ何かあるかもしれん)わかった。エイラ、お前に託そう」
バルクホルン「少佐…!?」
美緒「宮藤」チラ
芳佳「は、はい!」
美緒「エイラと行け、あのネウロイを止めるんだ」
芳佳「…わかりました!」キリ
美緒「エイラ!」
エイラ『オウ』
美緒「私が魔眼視した様子だと奴のコアは何かが妙だ、恐らく何所か…いや何かと繋がっている」
エイラ『ハ…?』
美緒「奴の背後にはまだ何某かあるかもしれん。注意しろ」
エイラ『……わかった。任せてくれ』
バルクホルン「…宮藤、お前もくれぐれも無茶はするな?」
芳佳「はい!」
ミーナ「ぃ…、急ぎなさい。東からの群ももうすぐ来る筈よ…、残った戦力でなんとか抑える…わ」
???「…………」ゴゴゴ
――ブゥゥウン
芳佳「はぁ…、すんなり近づけちゃいましたね?」パァァ
エイラ「油断すんなミヤフジ。ナンにもしてないように見えて、シールド解いたらどうなるかわかんないぞ?」
???「………………」
≪≪~≫≫
…~ォォオォオオンッ
芳佳「!? わあっ!!?」グラ
エイラ「ぐぉ!? …だから言っただろ!?」ヨロ
芳佳「風…? ぃ、今のってなんですか!?」
エイラ「知るか! それよりさっさと後ろに回り込むぞ?」
芳佳「は、はい!」ブゥゥン
エイラ「ア、オイ!? バカ、正面向きながらだ!」
――
―
芳佳「……このネウロイのコア、どこだろう?」
エイラ「真ん中の上に少しだから、あの辺だな」
芳佳「う~ん……、…? あっ、なにか小さく見えませんか?」
エイラ「! …ソレだな!!」ブゥゥン
芳佳「あぁ、ちょっとエイラさん!?」
――ブゥゥウゥン
エイラ「ッ!?」
芳佳「…!? な、なんだろう…あれ??」
エイラ「白い……毛、か?」
芳佳「えぇ!? ネウロイにもしっぽってあるんですか??」ガーン
エイラ「知るかそんなの、ワタシも見たことないって」
芳佳「……う~ん」モヤ
エイラ「ま、ナンでもいいや。とにかく今のうちにコレを撃ち込んでやる」ガショッ
エイラ(サーニャのお返し分、そのために弾を残しておいたんだっ!)
芳佳(あれ、いったいなんだろう? 変だなぁ…――)ウーン
芳佳「……、ぁ!」
。
○
(サーニャ『…もし、その……坂本少佐の言ってた敵が、ネウロイじゃなくても――』)
(サーニャ『………なにも、誤解がなければいいけど』)
(美緒『奴の背後に何某かあるかもしれん』)
(サーニャ『なにか……喋ってたような、喋りかけてたような』)
○
。
芳佳「……」
。
○
(芳佳『サーニャちゃん、それどういうこと? アドリア海にいるのは――――』)
○
。
芳佳「…!!」ドキッ
芳佳「ぅ、うそ……まさか…!?」ザワ
エイラ「? どうしたミヤフジ? 爆炎が危ないから下がってろー」
芳佳「(…確かめなきゃ!)ちょっと、もう少し近くで見てみます!!」ブゥゥン
エイラ「エ? オイ、ミヤフジ! ナニやってんだよぉ!?」
――
―
???「…………、……。……~…」
――ブゥゥウンッ
芳佳「!!?」ギョッ
???「…………Des……ab、………hi…………ex……solv…e……plac…t…」ブツブツ
芳佳「そ、そんな!? まさか…本当に――」
???「…pl……c…、……plac…et…。………tri…los……s…、……tr…bu……u…」
芳佳「…ひ……人! 人がいるっ!?」
???「……」
芳佳「っ…ぁ、あの!!」
???「Qu…ar……、…o…lo……nol…o……」
芳佳「(口…? 口元が、なにか言ってる??)…聞こえますか!? あのっ!」
???「……nolo…、axui――」
芳佳「ッ……とにかく今助けます!!」サッ
ぐぃ――
???「…ッ……!!!」フィィン
芳佳「――――!?」
???「trib…ッ……tribulos…ッus…!」
芳佳「……な、なに…こ――」
???「…N……eeee!! ne appropieeeeS!!!!」フィィイイン
芳佳「ッーー…ッぐぅ!!?」ゾワァッ
ガザッ
エイラ『ミヤフジーーーッ!!!』
ダダダダッ
???「ッ…! …g……g……」バスバスバス
芳佳「!!?」
――ブゥゥウゥン
エイラ「ダイジョブかミヤフジ!? ナニやってんだよ!!」グィ
芳佳「はぁふ……っは…、エイラ…さん?」
エイラ「ケガしたのか!? ナニされたんだ!?」
芳佳「…えぇっと、そ…それが――」
エイラ「クソッ……このヤロォ!!」チャキ
芳佳「!! 駄目です! 止めてくださいエイラさんっ!?」バッ
エイラ「ワッ!? …な、ナニすんだよ!? 危ないだろ!」
芳佳「聞いてください!! この人は人間です!」
エイラ「……ハ?」
芳佳「人なんですっ!!」
エイラ「………ナニ言ってんだ、オマエ?」
芳佳「撃ったら死んじゃいます!! だから…っ!」
エイラ「……当たり前だろ、そのつもりなんだから」チャキ
芳佳「!? 駄目ですエイラさん!」
エイラ「少佐の言ってたコアと繋がってるのってコレだろ多分。だから今すぐ――」
芳佳「止めてくださいっ!!!」グィイイ
エイラ「ぉぶ!? オイッ!!」
芳佳「よく見てくださいエイラさんっ!? この人は人間です!!」
エイラ「……さっきので頭にナンかされたのかオマエ? この怪物のどこが人なんだ」
芳佳「見た目はそうかもしれませんけどっ…! ほら、髪の毛と上半身ですよ!? 口元もさっきからずっと動いているんです! まだ生きてます!!」
???「a……g…g…」
エイラ「ゥ…」タジ
芳佳「このネウロイに捕まったのかも! 助けましょう!?」
エイラ「……ッ」
芳佳「エイラさんっ!!」
エイラ「~~ッ…! し、しるかそんなの!! コイツは倒す、ゼッタイッ!!」チャキッ
芳佳「駄目ですエイラさん! 人な――」
エイラ「コイツはサーニャを殺そうとしたんだ!!! ソレをオマエは庇うのかっ!!?」
芳佳「…!! そ、それは…」
???「…a……aa…」メキメキメキ
芳佳「!?」
エイラ「見てみろ! 銃痕が再生する人間がいるかっ!?」
芳佳「そ、そうですけど……でも私! さっきこの人の――」
エイラ「コイツはッ……このネウロイは人間じゃねえ!! 悪魔だ!!」フィィン
エイラ「ワタシは絶対、…許さないっっ!!!」グ…
芳佳「――!? …止めてぇ!!」
???「ッ…! noLooOooOOO!!!」フィィイン
ダァンッ
」
芳佳「…!?」
エイラ「……ぇ…、シールド…!?」
???「ッ…n…ッl……」パァァ
エイラ「こ、コイツ…まさか…?」
芳佳「…ウィッチ!?」
???「…nolo、……axili…u…」
芳佳「――――!!」
ガザッ
美緒『エイラァ!! 急げ! ネウロイが突然一斉にそっちへ向かい始めた!』
エイラ「エ゛!?」
美緒『艦を追っていた時と同じだ! 数の差で我々では止めきれん、突破され始めている!』
ミーナ『…間違い…なく貴方達を狙ってるわ、ぃ…急いで…!』
バルクホルン『少佐! 今ならミーナを連れて離脱できる!』
リーネ『ぇ…? 待ってください! でも芳佳ちゃん達が!!』
シャーリー『違うリーネ、負傷者だけでもまず逃せってことだ! こっちもそろそろ……ぐっ!?』
ルッキーニ『シャーリー! 大丈夫!?』
ペリーヌ『と、とにかく急いでくださいまし!』
エイラ「…く、クソォ! ………いったいナンなんだコイツ!? ウィッチってコトは本当に…人間??」
芳佳「(…サーニャちゃんが心配してたこと、誤解って――)……」モヤ
芳佳「っ…!(やっぱり助けなきゃ!)」ズイ
エイラ「!? おいミヤフジ!」
芳佳「とにかくこのネウロイから引っ張り出します!」ガシ
???「ッ!!」
エイラ「バカッ! 危ないからヤメロ!?」
芳佳「ふん~ーー!!」グググ
???「aaaAAaaaaAaaaAAAッッ!!!」フィィィイン
芳佳「ーーッ…ゥ゛……!?」ゾワワッ
エイラ「ミヤフジ!!」バッ
グイッ
ブゥゥウン――
芳佳「~……ッはぁ…ぁ…」
エイラ「止めろよオマエ!! 死ぬぞ!?」
芳佳「はふ……ぅ…。ち、違うんですエイラさん…」ヨロ
エイラ「ナニが違うんだよ!? 攻撃されたじゃないか!」
芳佳「そうじゃ、なくて…っ。…この人に触った時、私の中に…なにか…」
エイラ「ハァ!??」
芳佳「絶対に…~っこの人、助けなきゃ…!」グス
エイラ「…! ミヤフジ、…泣いてるのか!??」
芳佳「~ぇぐっ……わたしじゃ…ぁりません…。これは…ぅ……きっと――」グイ ポイッ
エイラ「ンナ!? ちょっ、なにイヤーパッド外してんだよ!?」
芳佳「っ……!」ブゥゥンン
エイラ「ミヤフジーッ!?」
美緒『エイラもう持たん、お前達の所にネウロイが群がる! 逃げろ!!』
エイラ「それが…ミヤフジがおかしくなっちまった! なんかワケわかんないコト言い出して、武器もシールドも解いて敵に接触してんだ!」
バルクホルン『なにぃっ!!?』
リーネ『芳佳ちゃんっ!!』
美緒『直ぐに止めろエイラ!』
エイラ「止めても聞かないんだよ!!」
ミーナ『なら…先に敵を倒して……』
エイラ「それが、機関銃が防がれるんだ! フリーガーハマーだとミヤフジも一緒に吹っ飛んじまう!」
芳佳「……」ブゥゥン
???「…hi…ex……solve……plac…t」
芳佳「……私の声、聞こえる? …大丈夫、大丈夫だよ」
???「……placet…、………tribulosu…s…」ブツブツ
芳佳「えぇ~と…なに語だろ? 全然わかんないや」アハハ
芳佳「……でも、声はちゃんと聞こえたよ。あなたの気持ち」
???「nolo……nolo…」
芳佳「私に出来ることって、こんなことだけだけど――」スッ
芳佳「…あなたを、助けたい!」フィィイン
ポワァァァ…
???「n…?」ピタ
芳佳「……痛かったよね」
???「…a……a………!?」
芳佳「これでもう大丈夫。きっと、大丈夫だから…」
???「…………Tu…a…ッ……auxili――」ジワ
芳佳「――…!」
???「…auxiliata……est…、……mi…hi…?」ツー
芳佳「…?? ……うん」ニコ
???「!!」
芳佳「…さぁ、ここから出よう? 私達と一緒に――」
ブゥゥウゥンッ
エイラ「ミヤフジー!!」
芳佳「!? ぁ、エイラさん! あのっ…待ってください、この人は――」
エイラ「時間限れだ、逃げるぞ!?」グイ
芳佳「えぇ!? な、なんですか!?」ヨロ
エイラ「他のネウロイがソコまで来てる! オマエの返事は聞こえねーから無理やり引っ張るか――……ッ!!」
芳佳「ぁ…!」
ネウロイ「「「「~……」」」」
エイラ「ぐ……ヤバイ…、クッソォ…!」
芳佳「ネウロイ!? か、囲まれて…!」
???「……」
エイラ 芳佳「ッッ――」
???「……do…ne、…tande……m…」フィン…
……
…
芳佳「……ぁ、あれ?」
エイラ「……ナンだ…?」
ネウロイ「「「「 」」」」シーン
エイラ「攻撃して来ないぞ??」
芳佳「…?」
???「……Please」ス…
芳佳「えっ?」チラ
???「…fiunt……amici…me――」
ネウロイ「「「「 … ……」」」」ギラ
ネウロイ「「「「…! ……~ッーーーッ!!」」」」ビィィイーッ
ズズンッ――
???「ッッ…」メギャ
芳佳「わっ!?」
エイラ「!?」
ネウロイ「「「「~ー!! ーーッ!」」」」
ビビビィーーッ
???「……ッ…ッ…」ボギァ
エイラ「…な、ナンだ!?? 同士討ちかッ!?」
芳佳「そんな…! ゃ…止めてーー!!」ジタジタ
エイラ「!! …ミヤフジ、暴れんなって!」
――ガザザッ
ミーナ『二人共ッ、今の内よ!!』
エイラ「…中佐! なんかネウロイがワタシ達じゃなくてアイツを撃ち始めて…!? どうなってんだ!??」
ミーナ『そんなのいいから!! 逃げなさいっっ!!!』
エイラ「…! りょ、了解!!」ブゥウンッ
芳佳「あっ! なにするんですかエイラさん!?」
エイラ「ッ…暴れんなミヤフジ!」ブゥゥン
芳佳「待ってください!? まだっ…あの人を助けないと!!」
ネウロイ「「「「ーー!!」」」」
???「 … ッ …… …ッ 」
芳佳「やめてぇええーーっ!!!」
――――
――
―
―数日後―
501基地 執務室
ミーナ「…………」カキカキ
ミーナ「……はぁ」コト
ミーナ「疲れた…」ギシ…
ミーナ(…こうして事務作業をしていられる時がどんなに平和か痛感はするけど――)
ミーナ「……今回の事、どこまでをどう報告すべきかしら」
ミーナ「あぁ…損害報告に補填の申請もしなきゃいけないわ。昨日までで溜まった諸々の申請書や始末書もまだ処理してないのに…」グデー
ミーナ(あの人も来て時間も使うでしょうから、今日中は絶望的ね…。お願いだからネウロイはしばらく来ないで頂戴)
コンコンッ
ミーナ「!」
『中佐、坂本だ。入るぞ』
ミーナ「ぇ…ええ、どうぞ」ピシ
美緒「…失礼する」ガチャ
ミーナ「なにかあったの?」
美緒「いや、特に問題はない。ガランド少将からじきに到着すると連絡があった」パタン
ミーナ「あら、それじゃあ出迎えに――」ガタ
美緒「それから“忙しいだろうから出迎えはいらない”と、お前に伝言だ。直接ここへ来るらしい」
ミーナ「……本人が良くたって、そういうわけにもいかないのに。もぅ」トスン
美緒「各員に礼を徹底する様に周知はしてある。問題は起きんだろう」
ミーナ「そこまでの心配はしてないけど…」
美緒「まぁこんな時に訪れるだけに気を使って下さったんだろう。中佐もまだ完全に回復してない様だしな」
ミーナ「…そんなことないわ。私はもう平気よ」
美緒「ふっ、嘘をつけ。慌てて背筋を正した様だが、ノックの返答が力無かったぞ?」
ミーナ「! //」ギクッ
美緒「まぁ、お前が丸数日と机を空けただけでも大した物だがな」フッ
ミーナ「…誰の為だと思ってるのよ」ジト
美緒「いやすまんすまん、私も皆も中佐には感謝している」
ミーナ「はぁ…まったく調子いいんだから」
美緒「ふぅ……」
ミーナ「……」
美緒「…で、本当に身体はもう大丈夫なのか? 宮藤に頼れん今、あの状態からの自然回復ではまだ完璧ではないんじゃないか?」チラ
ミーナ「そうねぇ? 確かにあの時の身体的な苦しさは今まで生きてて一番だったわね。…うふふ、死んじゃうかと思ったわ♪」
美緒「おい…」
ミーナ「だけどもう平気。少し疲労が残ってるけど、平気よ」
美緒「…そうか。ならいいが」
ミーナ「これ以上横になってると、考え事しか出来なくて返ってストレス溜まるのよ?」
美緒「と言って起きていても、書類に頭を抱えていれば同じだろう」
ミーナ「うふふ」
美緒「まったく…」チラ
美緒「……。…報告書か」
ミーナ「ええ。改めて文字にすると可笑しな話で、提出するのが恥ずかしいわ。…そもそも結局なにが起こってたのかも曖昧なままだし」ハァ
美緒「……あの時、我々は敗北を悟り撤退を覚悟した」
ミーナ「ええ。エイラさん達の“怪異”撃墜が間に合わずネウロイは増え続けて、私達の魔法力と強音波を浴びた身体も限界だったわ」
美緒「…だが突然ネウロイは“怪異”を撃墜した。挙げ句の果てはとんぼ返りか、残りは同士討ちを始めて全滅だ」
ミーナ「……恐らくネウロイを呼び寄せて操っていたのがあの大型ネウロイ、“カイイ ノ マジョ”」
美緒「…。やはりコアコントロールか?」
ミーナ「そうにらんだ人達もいるみたいだけど、どうかしらね。…ただ侵略地の異なるネウロイが集まったり、あまりに画一的な行動をしてた事はウォーロック事件を超える異常さと言えるわ」
美緒「ふむ…、ネウロイの間にも敵味方は有る様だからな? 最終的には群を異とするネウロイ同士が争い、一部は縄張りに戻ったのか」
ミーナ「怪異が攻撃されたのも、多分そういう事でしょうね」
美緒「…と、言うと?」
ミーナ「トラヤヌス作戦の時と同じ、ネウロイはネウロイをも侵略する…。ヴェネツィア群を始めとする周辺のネウロイもあの怪異を探ってたってことよ」
美緒「我々だけでなく、ネウロイもだと…!?」
ミーナ「…ネウロイの寿命は知らないけど、古代の怪異も今のネウロイにとっては単なる破壊対象だったのかも」
美緒「むぅ…」
ミーナ「サーニャさんが昏睡した前の日の戦闘を思い出して頂戴? あの時倒したネウロイの最初の行動……あのポイントは怪異が沈んでた位置からそう遠くなかったわ」
ミーナ「上層部が作戦を決行した時も、予め各方面からそれぞれネウロイが探りに来てたんじゃないかしら? あの日の大群はそれが災いした結果だと思うわ」
美緒「……なるほどな。しかしそうして集まったネウロイ達を操っていたのだとしたら、何故あの場で突然止んだんだ?」
ミーナ「さあ…。結局正体も分からないから、その辺はなんとも言えないわね」
美緒「…ふむ、正体か」ムム
ミーナ「ええ」
美緒「…………」
ミーナ「……宮藤さんからは、なにか聞けた?」
美緒「いや、概ねエイラから聞けた情報と変わりない」
ミーナ「そう」
美緒「…ただ、あの怪異に付随していたらしい物をあいつは“人間だった”と明言しているがな」
ミーナ「……」
美緒「エイラの証言通り、魔法による治癒と救助を試みたのも本当だ。動機は先程の通りだが、エイラ曰く化物の態をしていたそれを何故人だと確信したのかは分からん」
ミーナ「……シールドを貼ったなら、その考えに行き着いたっておかしくはないわ」
美緒「ふっ…古代のウィッチ、怪異の魔女か。大真面目に話し合ってはいたがまさか本当だったとはな?」
ミーナ「…………ええ、そうね」
美緒「ウィッチの所為でこんな目に合うのだと思えば、御上が取り締まるのも必然だったのかもしれん」
コンコンコッ
『…それが誤解だとしてもね』
美緒「ん…?」
ミーナ「!」
『……入っていいかな? ミーナ中佐』
ミーナ「…ええ。勿論です」
美緒「もういらしたのか」
ガチャ――
ガランド「失礼。廊下まで聞こえてるぞ中佐?」パタン
ミーナ「わざわざ御足労、痛み入ります。少将閣下」ガタ
ガランド「気にしなくていい。帰路のついでだし、可愛い後輩の見舞いがてらに届け物もあったからね」スタスタ
美緒「…お久しぶりです、ガランド少将」
ガランド「ああ、君も息災みたいだな少佐。…ますます北郷に似て来た」フッ
美緒「……恐縮です」モジ
ガランド「さて、忙しくて悪いが先に用件だけ済まそう。あまり時間もなくてな」
ミーナ「…はい。ですが少将がここへお越しになる理由をまだ聞いてませんが」
ガランド「いやなに、ちょっとした話だけさ。先日の遺跡騒動の事では君達を巻き込ませてしまったから、私なりに説明責任を果たそうということだよ」
ミーナ「はあ…?」
美緒「……巻き込んだ、とはどういう意味ですか?」
ガランド「今回の事に関して軍組織の一部が糸を引こうとしていたのは、君等も知る所だと思う」
ミーナ「…はい。恐らく以前うちのウィッチが見つけた遺跡の地図に手掛かりがあったのだと思います。やはりその時からある程度の事を調べていたのかと」
美緒「……」
ガランド「ん……残念なんだが、それは違う」
ミーナ「えっ…?」
美緒「……どういう事です?」
ガランド「どうやらその“プラン”は元々ウォーロックとの競合だったらしい。だが信用度や実現の可能性においてだろうな……マロニーの案が優先された」
ミーナ「……ちょっと待ってください少将? それでは1年以上も前から彼らはこの遺跡の事を!?」
ガランド「情けない事に私も全く知らなくてね、中身までは不明だが多分当たりは付いていたんだ――」ヤレヤレ
ガランド「…だがこの地は欧州帝国時代のウィッチ達が残したとされる文明遺産。いくら戦時下とはいえ、隠れて弄くり回すことなど出来なかったんだろう」
美緒「……つまり最初の最初から、我々は傀儡だったと言う事ですか…っ!?」
ガランド「…本当にすまない。君らの後ろ盾になってやれたつもりだったが、……私も泳がされていた」
ミーナ「501の再結成は連合最上層にとっても都合のいい物だったから、だからここに突然基地を設けた訳ですね…」
美緒「っ…それだけでは無い!! 奴らはトラヤヌス作戦の結末も、新たなネウロイがロマーニャを脅かす事すら腹の中で歓迎したんだっ!!」
ミーナ「み、美緒…。少将がいらっしゃるんだから、もう少し…」
ガランド「いいさ中佐、これは私の責任でもある。せめて私の知れる限りの説明と謝罪をと思い、ここへ来たのだから」
ミーナ「ですが……という事は、それを探っていて先日は連絡がつかなかったんですか?」
ガランド「ああ、それもあるが……君らが渦中にいた最中私はノイエ・カールスラントへ行っていた。今がその帰りという訳さ」
美緒「! ノイエ・カールスラントに…?」
ミーナ「少将自らということは、陛下の所へ?」
ガランド「相変わらず聡いな、君は」フゥ
ガランド「怪異の魔女……ここの地下から出た事について陛下に伺いをたてに行ってきた」
ミーナ「またそんな無茶を…」
ガランド「軍内部の企みは別として、あの方も歴史のタブーは身分柄よく御存知でいらっしゃる様だからね」
美緒「……では何かわかったのですか? 先程、我々の話に対して“誤解”と仰っていましたが?」
ガランド「いや、概ねは合っているよ。恐らく先日君達が戦ったそれが怪異の魔女なら……大昔にも同じ様な猛威を振るい、封印され、当時の皇帝はそれを機にウィッチを取り締まったんだろう――」
ガランド「…だがこの“魔女狩り”の闇はもう少し深い」
美緒「?」
ミーナ「闇…ですか?」
ガランド「その当時の皇帝は歴代の中でもとりわけ独裁欲が強く、魔法という奇跡を起こし人々を惹きつける者達の存在を恐れていたという――」
ガランド「…そしてその私欲のために彼女らを弾圧する大義を求めた。皮肉にも、現代の我々と重なる様な話だ」フッ
ミーナ「……」
美緒「……」
ガランド「そしてこれは別から得た情報なんだが、魔女狩りが起こったとされる同じ頃に“怪異の権化”と呼ばれる人物がいた」
ミーナ「…人、なんですか?」
ガランド「人の姿だからこそ、そう揶揄される。…その人物は非常に能力の強いウィッチだったそうだがもう一つ、周りと異なる特徴を持っていたらしい」
美緒「……それがネウロイ?」
ガランド「惜しいが違う。当時にもネウロイに類する存在はいたとされている、…人々の生活を脅かす大きな災いのひとつとして“カイイ”と呼ばれたとね」
ミーナ「なら怪異の魔女は本当に人間だったということ…?」
美緒(…とするならば、我々が見たあのネウロイ然とした怪物がそのカイイだったのか?)ムゥ
ガランド「そう、彼女は我々と同じウィッチだったが……恐らく生まれつき色素が欠乏していた」
美緒「む?」
ミーナ「……! まさか、アルビニスト…!?」
ガランド「現在の定義ならそうだろう、しかも体毛から肌に至るまで全身だ。 …ある伝記によれば“骸色の身体に血の眼孔、そして怪異のごとく肌に這う紅色”が凶兆として暗意に畏れられていたと記されてる」
ミーナ「…あまりにナンセンスだわ」ギュ
美緒「生まれを侮蔑する差別だからな。過激な思想だ」
ガランド「実際に彼女がどんな悪人だったかは流石に分かり様など無いが、当時のウィッチ達も少なからず組織化されていて…彼女がその管理下にいた事は間違いない」
ミーナ「その跡地がここなのね…」
美緒「なるほど、故に記録となる物も残っていたという事か。そこでの渾名が“怪異の魔女”……そして何某かであの風体になり、人々を襲った…」フム
ガランド「いやそれが、陛下が伝え聞かれた所によれば街を襲ったのは多数のカイイだったそうだ」
美緒「!?」
ガランド「そのウィッチの持つ能力は今の我々で言う超感覚系の様なもので、魔法それ自体は人畜無害だったらしい」
ミーナ「…少将、それだと話が少しおかしくなると思いますけど」
ガランド「だからだよ。……ここからがタブーの理由だ」
ミーナ「……」
ガランド「当代の統制者はウィッチを嫌った、そしてその中に凶兆を担う者がいた――」
ガランド「…そこであらゆる災厄の罪を怪異の魔女に負わせ、悪評を流布した。それが浸透すると次は他のウィッチ達も徐々に貶め、ウィッチそのものに対する国民感情を誘導」
美緒「それはつまり、先程仰っていた大義を得るため…?」
ミーナ「……ひどいわね」
ガランド「“害悪魔女”や“魔法犯罪”等の言葉も、そうしたレッテル張りの象徴だった訳だ」
ミーナ(それで“マレフィキウム”も後に真実を知る人達の間で暗黙されて、公に出す事はタブーになったのね…)
ガランド「自分達の冤罪を知るウィッチ側は、怪異の魔女を殺して皇帝に示談を申し出たが……その後も数年に渡って“魔女狩り”はエスカレートし、続いたという話の様だが」
ミーナ「ぇ…?」
美緒「……怪異の魔女はアドリア海に沈められたのでは?」
ガランド「私が陛下から伺えた話はこうだったが……逸話的だからか、その最初の害悪魔女が生きている説も有るとか無いとか」
美緒「……」
ガランド「陛下の知る話も含め、どの程度真実かは定かでは無いと仰っていた」
美緒「…だがここの地下からは例の碑文が出た」ンー
ミーナ「……そうね」
美緒「そして異様な事態が我々を襲い、原因となる謎のネウロイに宮藤は人間を見たと言う…」
ガランド「! …いたのか?」
ミーナ「宮藤軍曹はそう言っているようです。しかし居合わせていたユーティライネン中尉は、不相応の外見だったため判断しかねると」
ガランド「……」
ミーナ「ただ、攻撃を仕掛けた際に一度だけシールドを展開したと…。それに関しては二人共一致してます」
美緒「宮藤は、何か言葉を述べていたとも言っていた…。内容は不明だが」
ガランド「…………終わった事とはいえ、スッキリしないな」
医務室
芳佳「……」
芳佳「…ぅ~、そんなぁ……また目眩が、気持ち悪い…」モゾ
芳佳(こんな調子じゃまたリーネちゃんに心配かけちゃうよ…。自分で治せないって辛いなぁ)
芳佳「……」
芳佳「………あれからもう何日も経ってるんだよね」
芳佳(こんな風に寝込んじゃうのなんていつぶりだろう…、小さい時に熱出して以来かな?)
『……失礼します』
ガチャ
サーニャ「…芳佳ちゃん」トテトテ
芳佳「ぁ…サーニャちゃん?」モゾ
エイラ「おーい、ワタシもいるぞー?」スタスタ
ウルスラ「…お久しぶりです、宮藤さん」
芳佳「エイラさん、ハルトマンさん…」
エイラ「一応言っとくけど、コッチは妹の方だかんな?」クイ
芳佳「ぇ…? …………あっ、ごめんなさい」ムクリ
ウルスラ「ぁ、ぃぇ。別に誤っていただくような事では…」
芳佳「でも、どうして…?」
サーニャ「501が元に直るまで、少しの間助っ人に来てくれたの」
エイラ「カールスラントの少将が連れてきたんだってさ?」
芳佳「そうなんだ、…ありがとうございます」
ウルスラ「はい。私も皆さんにはご迷惑をお掛けしたので心配でしたし、日頃から姉もお世話になっていますので」
エイラ「まぁナンダカンダで姉ちゃんって世話焼けるもんな~? わかるわかる」ウンウン
サーニャ「…芳佳ちゃん、体の具合はどう? お食事持ってきたけど」ス
芳佳「うん。少しずつ良くなってるけど……ごめんね、まだ食欲はそんなに無いんだ」
サーニャ「そぅ…なの……」カチャ
エイラ「!! こらミヤフジ、サーニャを心配させんなー!?」
芳佳「あぁ、ごめんなさいっ!」
ウルスラ「…ユーティライネン中尉、病床にいるのは宮藤さんの方ですよ?」
エイラ「なんだよー、サーニャだって元気になったばっかなんだぞ? 心も身体も負担は禁物なんだ!」
サーニャ「ふふ…、エイラってばずっとこの調子で離れないの」ヒソヒソ
芳佳「ぁ、あはは…。そうなんだ…」
ウルスラ「ですが宮藤さんも無事に回復されてるようで安心しました。件の超低周波音源の側で無防備になったとお聞きしたので…」
芳佳「えっ」
エイラ「マッタクもー。オマエがシールド解いてイヤーパッドも捨てた時は予知してなくても死んだと思ったぞー?」ヤレヤレダナ
サーニャ「! エイラ…」ジト
エイラ「ウェッ!? …だ、だからワタシは必死で止めてたんだって!?」アタフタ
サーニャ「……あんまり酷い言い方したらダメ」
エイラ「うわ~ん、ゴメンよサーニャ~!」
芳佳「う~ん…けど基地に戻ってきて夜急に苦しくなっちゃった時は、私も一瞬死んじゃうかもって思っちゃったなぁ」
サーニャ「芳佳ちゃんまで…」
芳佳「えへへ、ごめん」
ウルスラ「…ですが確かに、脅かす訳ではありませんがそうなる可能性もあったかもしれませんね」
芳佳「ぇ゛っ!? そ、そうなんですか…!?」ガーン
ウルスラ「はい、それ程に危険な行為だったとは思います」
エイラ「…ほらなー?」
サーニャ「エイラ」
芳佳「そっかぁ。……でもあの時はそういう事考えられなかったな」
エイラ「ハ?」
芳佳「……。…ねぇ、サーニャちゃん?」
サーニャ「ん、なに? 芳佳ちゃん」
芳佳「私も感じたよ、あの人の声」
サーニャ「…!」
エイラ「?」
ウルスラ「……」
芳佳「サーニャちゃんの言ってた通りだった。凄く怖かったけど、でも……誤解だったよ」
サーニャ「っ…」
芳佳「ごめんね、私…助けてあげられなかった」ギュ
サーニャ「……芳佳ちゃん…」
エイラ「オイオイその話かよー? …あんまり深く考えんな、人なんかじゃないって」ガク
エイラ「アイツはネウロイだったんだ、ネウロイ! ミヤフジにナンの責任もないだろー?」
ウルスラ「……(少尉から多少のお話は聞いてましたが…、ここはオフレコという事にしておきましょう)」
芳佳「…違うんです。私、あの人に触った時になんかそのぉ……色んな事が入って来たんです」
エイラ「??」
サーニャ「……」
芳佳「そしたらなんて言うか…。心の中が色々……変な風になっちゃって」
エイラ「なんだソレ…」
ウルスラ(…怪異の魔女、ですか。もしウィッチであるなら――)
芳佳「なんだか凄い衝撃だったけど、その時にわかったんです。…これはこの人の心だって」
サーニャ「……」
エイラ「ナニ言ってんだよオマエ、わけわかんねーぞ?」
ウルスラ「…もしかしたら、それは一種のテレパシーのようなものかもしれませんね」
エイラ「ウェ?」
芳佳「テレパシー…?」
ウルスラ「はい。精神感応〈メンタルテレパシー〉とも言いますが、自分の心の内容が直接他の人の心に伝達されることをそう呼びます」
サーニャ「……」
ウルスラ「恐らく宮藤さんの仰るその人の心の内容が、互いの魔法力の接触を通じてとりわけ強く宮藤さんの心に伝達されたのかもしれません――」
ウルスラ「…その結果、宮藤さんは受け取った心の内容がまるで自分の心と錯覚する程の強い共感状態になった可能性があります」
エイラ「……魔法力同士って、オイ…」
ウルスラ「ぁ…! すみません、勝手に先走ってしまいました。…もしその方がウィッチであればという仮定の話です」
芳佳「……やっぱりウィッチだったんだ」
エイラ「ぅ…! ホラ、またそういう話になる…」
ウルスラ「実際に超感覚系の固有魔法でテレパシーを発現した例は、軍の持つ記録にも古いですが…確か数件程あった筈です。特徴として、どのウィッチも先天的な盲目や弱視力者だったみたいですが」
エイラ「な、なんだよソレー。そんな情報ドコから持って来てんだよ…」
ウルスラ「世界中で把握される全てのウィッチのデータは各国、時にはそれを超えた軍組織の中で管理されています。勿論、個人データなので観閲には制限がありますよ?」
エイラ「……じゃあナンで妹ハルトマンはソノ個人データを知ってんだよ?」
ウルスラ「私は魔導兵器開発の必要に応じて何度か」
エイラ「ソーナノカ…」
サーニャ「ぁの…芳佳ちゃん、その……えっと…――」オド
サーニャ「……その人の心は、やっぱり…」
芳佳「うん。凄く苦しくて、哀しくて…怖かったけど――」
芳佳「…それはその人の心だった。あの海の中でずーっと前から、助けて欲しかったんだと思う…」
サーニャ「……」
エイラ「……(サーニャの仕返ししてやったとか言える雰囲気じゃないな、コレ)」ドヨーン
芳佳「…なのに私……~っ…なにもできなかった…っ!」ウル
サーニャ「芳佳ちゃん…」
ウルスラ「…そんな事はありませんよ、宮藤さん?」
芳佳「…っ……、ゥルスラ…さん?」
ウルスラ「貴方はサーニャさんを、多くの仲間を救いました。 守られた人達のためにもどうか胸を張ってください」
芳佳「……」
エイラ「ハァ……あー、それにさミヤフジ? 自衛行動を止めたってことは、きっとソイツも救われたからナンじゃないか?」ポリポリ
サーニャ「エイラ…」
ウルスラ「……はい、きっとそうです」コク
エイラ「だからさ、ソノまー…元気出せって?」
芳佳「……。…うん、そう…ですね」
エイラ「オウ、そうだそうだ!」
サーニャ「…うん」
シャッ――
バルクホルン「その通りだ宮藤! お前はよくやった!!」デンッ
シャーリー「あちゃー…、我慢できずに出ちゃったよ」
エイラ「エ…? オワッ!?」ビクッ
芳佳「ぁ…バルクホルンさん、シャーリーさん」
ウルスラ「…隣のベッドにいらしたんですね」
サーニャ「全然気づかなかった…」ポカーン
シャーリー「やぁ~ごめん、邪魔したね。…あたしらは気にせず続けて続けて――」シャ
バルクホルン「こら! 閉めるな!?」ジャッ
ウルスラ「お久しぶりですバルクホルン大尉、イェーガー大尉。ご挨拶が遅れてしまいました」
バルクホルン「ああ、気にするなウルスラ。そっちは元気そうで何よりだ」
シャーリー「よぉ~! この前はいろいろありがとな?」フリフリ
エイラ「――ってオイーッ! そんなトコでナニしてんだよ大尉!? ビックリするじゃないか!」ムガー
バルクホルン「上官に向かって何してるとは挨拶だな貴様。私も宮藤と一緒に(仲良く!)ここで養生していただけだ」キリッ
エイラ「……スゲー元気じゃねーか」
シャーリー「あはは! いやいやでもこいつ、この手の耐性は本当に弱いみたいでさ? 鉄の女も中身は繊細っていうか――」
バルクホルン「やーめーろシャーリ~ッ!///」ズイィ
シャーリー「どうどう、興奮するとまた血圧上がるぞー?」
ウルスラ「…イェーガー大尉もお休みになられていたんですか?」
シャーリー「ん? あー、あたしはもう全然平気。 ルッキーニが回復したからこいつの面倒見てやってたんだ、ハルトマンは起きてこないし」カチャ
ウルスラ「そ、そうですか…(姉さま…)」
バルクホルン「フンッ! こんなやつ、喧しくて邪魔なだけだ!」プイ
シャーリー「はいはい、…ほら飯だぞ? あ~~ん」スス
バルクホルン「なっ…!? おいよせ、それぐらい独りで出来るっ!!///」
エイラ「…アア!? オイコラー! それサーニャが持ってきた食事じゃないかーっ!? ナニ勝手に盗ってんだよ!?」
シャーリー「だって宮藤食べないんだろ? 冷めたら不味くなっちゃうし。ほれ、あーん?」ズイ
バルクホルン「ぐぅ…! くどいぞリベリアン!?///」ササッ
エイラ「ヤメロー! 食うな大尉ー!」
バルクホルン「誰が食うかっ!」
シャーリー「恥ずかしがんなよ、病人だろ? ほれほれ~」ニヤニヤ
バルクホルン「貴様、憶えていろぉ…!」グヌヌ
――バンッ!!
エーリカ「ウルスラ来てるんだってー!?」ステテーン
ルッキーニ「シャーリ~!」ウジュー
ペリーヌ「ちょ、ちょっと貴方達…! ですから病室は静かに――」
リーネ「芳佳ちゃん、大丈夫? …ご飯持って来たけど――」
ギャー ギャー
芳佳「あ、あはは…(どうしよう、コルチ先生に怒られちゃうなぁ)」
ウルスラ「…賑やかですね?」クス
サーニャ「……はい。またいつもの、501です」フフ
――――
――
―
欧州某所 連合指令本部
モブ将官C「――…サルベージの報告が上がってきたが、何も出てこなかった様だ」
モブ将官A「……ディアボリ計画は失敗か」
モブ将官C「奴は無駄死にだったな」
モブ将官A「私の階級には追いついた。それで本望だろう」
モブ将官C「…空いた席はどうする?」
モブ将官A「支障はない。必要な時に埋めればいい事だ」
モブ将官C「ふむ…。しかし惜しかったな、あの能力を手中に入れればネウロイとの戦争を終わらせた“その先”まで決着がついたのだが」
モブ将官A「終わった事に興味などない。結局は我々自らの手で達成するまでの事――」
モブ将官A「…だがこの体たらくが続く様では、じきにその先すらどうでもよくなってしまう」
モブ将官C「命は有限、だからな」
モブ将官A「…。…そうだ」
モブ将官C「ならさっそく次のプランを試すか? 並行して準備は進んでいる」
モブ将官A「…進度は?」
モブ将官C「システムに関しては、あとは載せるだけだ」
モブ将官A「……よし、では扶桑海軍へ連絡を出せ」
モブ将官A「――…御自慢の大艦に、出番だとな」ニヤ
ストライクウィッチーズ ~怪異の魔女~
(・×・)<お終いダ
【エピローグ】
501基地
地底遺跡
ガランド「……人間が生活していた環境にしては、足場が悪いな」ザッザッ
ウルスラ「私達が来た入り口へと水が流れています。…恐らくここは用水路のような場所で、動線としては使われていなかったのかと」ザッ ザク
ガランド「つまり下水溝か、やれやれ…」
ウルスラ「紀元前の話なので今はただの水路です。 それよりもガランド少将、こちらをお使い下さい」ス
ガランド「ん?」
ウルスラ「足元が悪いので」ドウゾ
ガランド「……ヘルメットか」
ウルスラ「はい、フロントライトも装備されています」キラッ
ガランド「……」
ウルスラ「……」
ガランド「…………わかったよ。折角だしな」ハァ
ガランド「…よしと。どうだ?」カポ
ウルスラ「はい。大変お似合いです」
ガランド「……それは褒めているのか?」
ウルスラ「……。フロントライトを点けるのでしたら、横のスイッチを――」
ガランド「おい」
ウルスラ「申し訳ありません、冗談です。ですが危険ですから、せめてそれぐらいの防具を装備して頂きたいのは本音です」
ガランド「……はぁ。君は会うたびに口数が増えるな」ガク
ウルスラ「いえ、皆さんのおかげです」
ガランド「ほらそういう所だよ、自分のボス相手に。…姉譲りか?」
ウルスラ「どうでしょうか」
ガランド「……もういい、進むぞ」ザッ
ウルスラ「はい」
――
―
ウルスラ「……あの、ところで少将?」ザッザッ
ガランド「ん、どうした?」
ウルスラ「どうして突然この遺跡を探索されるのですか? その…御自身でやられる必要性も、何かあるのでしょうか?」
ガランド「そうだな、これは軍務というより私の個人的な所によるものだ。だから人は使わないよ」
ウルスラ「……」
ガランド「君は私の“友人”として連れてきた。これでどうだろう?」
ウルスラ「……フリードリヒ陛下が飛行禁止まで仰せられたという噂。わかる気がします」
ガランド「それは誤解だ。私にもうストライカーを履かせたくないのは本当だろうが」
ウルスラ「本当ですか…」
ガランド「本当さ」フッ
ウルスラ「……」
ガランド「…なあ、中尉? 少し私の疑問に付き合ってくれ」
ウルスラ「? …はい」
ガランド「ネウロイを操る為にはどんな魔法が必要だと、君は思う?」
ウルスラ「ネウロイを操る能力…ですか?」
ガランド「いや、言葉のままだ。ウィッチの魔法でネウロイの行動を支配する事は可能か……それはどんな能力の魔法か、という事だ」
ウルスラ「…?」
ガランド「どうだろう? ひとつ考えてみてくれ」
ウルスラ「……そうですね…」
ガランド「……」
ウルスラ「…………」
ガランド「仕方ない、少し条件を絞ろう」
ウルスラ「ぁ、いえ…あの。まだ考え始めて10秒も経っていませんが」
ガランド「ん~、そうだな……試しに超感覚系の魔法なんてどうだろう?」
ウルスラ「!」
ガランド「まあ、歩く間の時間潰しだ。ゆっくり考えてみてくれ」
ウルスラ「……それでしたら、ひとつだけ」
ガランド「随分速いな!? まだ考え始めて10秒も経たないだろう?」
ウルスラ「ぁ、…でしてらもう少し――」
ガランド「いやいや、それでいい。聞かせてくれ」
ウルスラ「はい。……テレパシーならいかがでしょうか」
ガランド「テレパシーか。なるほど……んー…」ムム
ウルスラ「やはり、難しいでしょうか?」
ガランド「いや、君の言いたい事はわかる。心をそっくり相手に投影すれば受け手は真に共感し、同調するという読みだろう? 一瞬で思いつくとはやるじゃないか」
ウルスラ「……」
ガランド「だが心中投影は精神感応の域を超える。“伝える”ではなく“乗っ取る”に近いからな」
ウルスラ「はい。なので仮にウィッチの魔法力と技術が極めて高い水準の場合でしたら…、それならば可能性はあるかと思います」
ガランド「フフ、随分と推すじゃないか。常識的に我々ウィッチに可能なレベルを超えていると思うぞ?」
ウルスラ「…理論的には、というお話ですので」
ガランド「何か心当たりでもあったか?」
ウルスラ「…! ………いえ、特にそういった事はありません」
ガランド「そうか。…そもそもネウロイに心の概念が通用するかという問題にはなるが、君のアイディアは一理あるとしよう」フムフム
ガランド「では、次だ」
ウルスラ「…はい」
ガランド「……ならアルビノ体質に、君の言う様なその天才的な魔法技術は宿るだろうか?」
ウルスラ「?」
ガランド「アルビニストのウィッチは天才か、君はどうだと思う?」チラ
ウルスラ「……私は前例を知りませんが、先天的な色素の欠乏によってウィッチの才能発現率や魔法力の保有量が上がることはないと思います。そういった先天的な体質に付随して神的な力が宿るというのはやはり迷信です」
ガランド「君もそう思うか。安心した」
ウルスラ「どちらかと言えばむしろハンディな側面が多い筈です。色素欠乏症は体質的に紫外線等の光に虚弱性を持っていますし、生まれつき視力が弱いことも――」
ウルスラ「…ぁ!」
ガランド「ん? どうかしたか中尉?」
ウルスラ「……ぃ、いえ。なんでもありません」
ガランド「おっと! 喋っているうちに抜け道だ、ようやく水路から出られそうだな」
ウルスラ「? …この梯子はまだ新しいようですね」
ガランド「撤収の間も与えず追い出したからな。調査連中の置き土産と言ったところだ」
ウルスラ「……では帰りに片付けていきましょう」
ガランド「えっ」
ウルスラ「歴史遺産を散らかしたままにする訳にはいきませんので」
ガランド「……まいったな」
――
―
ガランド「よし、次はここだな?」
ウルスラ「……ガランド少将、ここはただの壁では?」
ガランド「いや、ここにも何かありそうだ」
ウルスラ「…先程のようなカラクリ仕掛けは無さそうに見えますが」
ガランド「あの隠し部屋の広さだけでは、まだこの通路の不自然な長さは埋めきれない」
ウルスラ「ですがここは地下ですよ? 外形が存在しないので空間を使い切る必要もなかったのかと」
ガランド「……なあ中尉、君はさっきの部屋を使えと言われたらどう思う?」
ウルスラ「? …そうですね、正直困ります。開閉の度にあの仕掛けを解くのは少々利便性に欠けるので」
ガランド「フフ、意見が合うな。私もだ」ニヤリ
ウルスラ「あの、それがなにか…?」
ガランド「中尉の言う通り、さっきの部屋は常用する為の作りではない。だが金庫にしては荒らした様子もなければ物一つ置かれた形跡もない」
ウルスラ「……つまりブラフという事ですか?」
ガランド「恐らくそうだ。あの隠し部屋は使う以外の目的で造られていて、大抵の場合はあれを発見することで満足する」
ウルスラ「ということは、本当の仕掛けがここに?」
ガランド「この遺跡の仕掛けにブービートラップが点在するのも、この手のブラフに迷彩を施す為だろう。彼女達の技術は多分もっと高い(なんといっても皇帝の嫉妬を買ったぐらいだからな)」
ウルスラ「……興味深いですね」ピラ
ガランド「? …それは何だ?」
ウルスラ「魔術式を編み込んだ呪符です。 噴流式魔導エンジンの圧縮機構部に使用している物と同じ物です」スタスタ
ガランド「……どうして携帯してる?」
ウルスラ「…こんなこともあるかと思いまして」
ガランド「……」
ウルスラ「少将の考えが正しければ、本命の仕掛けは魔法による可能性が高いです。この遺跡に残る魔法力はまだ生きている筈なので、この呪符を利用してその反応を確かめ――」ピト
フィィィン
ウルスラ「!?」ピョコ
ズズズズゥ…
ガランド「……この反応は、どっちだ?」
ウルスラ「…どうやらウィッチの持つ一定量以上の魔法力に反応して動くようですね」
ガランド(私が触れても無反応だったんだが……それなりに衰えているという事か)ヤレヤレ
ウルスラ「結果オーライですが開きました。それでは行ってみましょう、少将」シュルル
――スタスタスタ
ウルスラ「…! これは…!?」
ガランド「……いや驚いた、時代を感じるな。拷問部屋とは」
ウルスラ「さ、流石にコレクションという訳では…?」
ガランド「無いだろうな。…例えばあそこの支柱は明らかに使い古している、上の深い筋は幾度となく人体を吊るした後だろう」スタスタ
ウルスラ「……」
ガランド「打痕らしきものも残っているな――…ん?」
ガランド「恐らくこれか?」ジャラ
ウルスラ「ぅ…」ゾク
ガランド「九尾猫の鞭か、…こんな物で本当に人を叩いていたとはな」ポイ
ウルスラ「ゃ……やはり知識と実物は別物です…ね」
ガランド「気分が悪ければ休んでいろ、中尉。この禍々しさでは仕方が無い」
ウルスラ「ぃぇ……平気、です」
ガランド「…しかし古代ウィッチ達の遺産にこんな物があったとは、なるほどな。現実は小説よりも奇するとは本当だ」
ウルスラ「…?」
ガランド(どうやら怪異の魔女を貶めたのは当代皇帝だけではなかった様だな? 異色で産まれてしまった彼女の世界には、同類など存在しなかったんだろう…)
ガランド「……だとすれば、“害悪魔女”の元祖だった彼女はそもそも悪でもなんでもない冤罪…」フム
ガランド(そしてこの部屋で全ての矛先を代行させられたのか。…魔女狩りの真因を当のウィッチ達で生んでいたとは皮肉だ)
ガランド「ん? ……そうか、だから軍曹の魔法が彼女を――」
ウルスラ「あの、ガランド少将? 先程からいったいなんの話を…?」
ガランド「! …あぁいや、独り言だ。なんでもない」
ウルスラ「……」
ガランド「残念だが私も気分が悪くなってきた、そろそろ戻るとしよう」フゥ~
ウルスラ「…はい、了解しました」
――
―――…
――…………
……
…
――そこは暗いどこかだった。
目を開けても、もうほとんどなにも見えない。
これならお昼に外へでても怒られないかな…?
……。
…わたし、なにしてたんだっけ?
…………そうだ、おつとめから逃げたんだ。
もう痛いのいやだったもん…。
お母さまがこれで最後っていったけど、いつもよりたくさん血が出て苦しかったから……。
……。
黒い子たちはもう帰っちゃったのかな…?
またお話し聞いてほしかったのに。
ぁ…!
わたしを連れ出してくれた黒い子は、まだ一緒にいる…?
……。
友達に、なれたのかな? …嬉しいな。
…………。
やっぱり答えてくれない…。
……ここも、さむい。
つめたいよ…。
もう苦しいのはぃ――
『~…』
ッ…!!
『……~…♪』
……ゃ…、だれ…!?
『……ぇ……に…』
痛いのはもう、いや…。
『…こち……~ャ………リ……ャク… …異常…………まし…』
ゃだ…こないで……!
『…~なが………して…?』
こないでッ!!
『…唄? ……~がぅ………か哀し…~』
ぃゃ……ぃやぃゃいやいゃいやぃやいやいやだ!!! いやっ!!
怖い、さむい…助けてっ……こないでッ…
こないで、こないで……。
……こないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないで、こないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないで、こないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないでこないで、こないでこないでこないでこないでこないでこないで――――
……
…
<ゴォォ…ン ズズズ…>
…いゃ……やめて……。
<ゴゴォン…… ボゴォゴッゴ…>
……ゃ…、ぃゃ…。
<ズズゥ ゴォォ…>
いたぃ……やめ…て。
ゃだ……やだやだ!! たすけて…!!
痛い……ごめんなさいお母さッ…、でも…くるし……たす…て…!
『…ひ……人! ~がい……っ!?』
――!
『ぁ、あの!! …聞こえッ……あ…~!』
やめて………ぃゃ…、…たすけ――
『……とにか…今助け……す!』グイッ
ッ!!
……ぃゃ…だ。
いゃ…いやだ……いやッ! いゃぁあぁあああぁああ!!
こないでぇぇええぇえええ!!!
<バスバスバスッ>
いだぃッ…ぁ゛つい゛……だれがッぁ…たす……ずッ…たすげでぇ!!
だれ゛かッ…だれがァ――
『…~ソォ! いったいナ……だコ…!?』
『とにかくこ……ロイから引……~します!』ガシ
…ッッ!
ぁ…ぁぁ……――
…ぁぁぁあぁああぁああああぁああああ!! いやぁあぁあああッッ!!!!!
『ゥ゛……!?』
『~ヤ…ジ……!』
ゆるして……くださぃ…。
…おねがい……、もぅ…やめ……。
「――大丈夫、大丈夫だよ」
痛いのは…ッ……こわいのは…、ゆる…して……。
「――ちゃんと聞こえたよ。あなたの気持ち」
ぃや……ぃゃ…。
「あなたを、助けたい!」
<ポワァァァ…>
……!?
ぁ、あったかい……?
……まぶし…ぃ??
「痛かったよね」
だれ…?
……どうして…笑ってるの?
痛いのは……、そう…痛いのはわたしだったのに……どうして泣いてるの…?
「これでもう大丈夫。きっと、大丈夫だから」
…まさか、わたしに……?
助けて…………くれた…?
……あなたは…~ッわた…、わたしのお話を……聞いてくれる……の…っ!?
「うん」ニコ
――――!!!
「さぁ、ここから出よう?」
……そっか。
やっと…、……終わったんだ…。
「ぁ、あれ?」
「ナンだ…?」
これで……最後…。
もう…痛いのも、こわいのも……。
「攻撃して来ないぞ??」
「…?」
――ぁ!
そうだ、この子ならきっと……なってくれる!
……~っ…。
ぁ、あの…。
「えっ?」
……わたしと、友達に――――
【エピローグ・完】
元スレ
サーニャ「…ストライクウィッチーズ」 エイラ「怪異ノ魔女」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1424266121/
サーニャ「…ストライクウィッチーズ」 エイラ「怪異ノ魔女」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1424266121/
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コメント一覧 (21)
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- 2015年11月14日 15:12
- すとぱんつSSきたー
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- 2015年11月14日 15:23
- ちょつと長すぎんよ、内容に文句はないけど
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- 2015年11月14日 16:20
-
長いな、でも面白いし、小説だと思えば。
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- 2015年11月14日 16:58
- …人間の業は深い
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- 2015年11月14日 17:59
- 素晴らしい
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- 2015年11月15日 01:52
- むちゃ面白かった
こんだけの量を読ませるとはやってくれるな!
ストパンSSええぞーこれ
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- 2015年11月15日 03:31
-
これは面白い!
-
- 2015年11月15日 07:55
- 途中で一回だれてしまったけど面白かった
-
- 2015年11月15日 09:07
- 序盤の不気味さはすごいな
何が起きてるのかわからないけどまずいことになってるのだけは明らかですごく怖かった
そして最後はとても切ない
面白かった
夢中で読みました
-
- 2015年11月15日 14:46
- 音波が原因と分かってから住処を追われたイルカが犯人かとミスリードされたよ。
この世界で人間以外がウィッチになった例って一度もないんだっけ?
イルカの超能力者が出てくる作品とか多いからイルカのウィッチとかもありえそうなんだけどなぁ。
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- 2015年11月15日 16:32
-
本スレで冗談半分に言われてたけどクジラならあり得るかもね、天然のソナー搭載だから
イルカは確か高周波じゃなかった?
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- 2015年11月17日 04:27
-
SSっていう文量じゃないな もう小説の文量だわ
にしても、読ませる文章だったな
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- 2015年12月01日 20:05
-
ただひたすらに長い…
内容に文句無し、と言うか結構すきやな。
私たち10人の人?
-
- 2016年01月05日 00:10
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一気に読ませる素晴らしい文章でした。
新作も期待しています。
-
- 2016年01月12日 21:03
-
いやあすばらしすぎるわこれ
10人の人かな?一気読みした
ブクマもしとこう
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- 2016年02月05日 11:48
-
面白くて長いのにあんま長く感じなかったわ、音に当てられてる時の描写もすごく良かった
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- 2016年03月20日 01:09
-
ss書いたことあるけど完敗だ。嫉妬するほど引き込まれる内容。長いかもしれないけど密度が高いものを求めてたので文句無し
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- 2016年04月14日 10:22
- すげー!
これで劇場番いけるで!
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- 2016年11月06日 23:35
- 本当に面白かった。また書いてほしいです!
-
- 2016年12月11日 17:21
-
これは面白かった
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- 2017年05月05日 00:43
-
公式化出来るくらいのクオリティ
もはやSSの域を越えた作品