ハルヒ「IBN5100を探しに行くわよ!」【その2】
- 2015年09月08日 04:10
- SS、シュタインズ・ゲート
- 0 コメント

- Tweet
ハルヒ「IBN5100を探しに行くわよ!」【その2】
古泉「……さすがに向こうの世界の責任まで取れというのは理不尽だと思うのですが」ボロッ
キョン「うるせぇ。俺の怒りが治まらないんだ」
古泉「あなたも結構な人ですよね」
キョン「どういう意味だこの野郎」
古泉「まぁ、そうでなければ異世界からの単独帰還など成し遂げられるものではないでしょう」
キョン「単独とは言ってもSOS団には助けられっぱなしだ。お前を除いてな」
古泉「手厳しいですね」
キョン「悪いがさすがにちょっと疲れた……。体中にあった傷は消えてるみたいだが、あんまり寝てなくてな」
キョン「精神的な疲労しか無いはずなんだが、少し休ませてくれ」
古泉「どうぞ。僕でよければ冷たいお茶を用意しますが」
キョン「……頼む」
古泉「了解です」ンフ
キョン(ふぅ……。なんとか帰ってこれたか。さっきも古泉に言ったが、本当にSOS団のおかげでなんとかなった)
キョン(だがハルヒが過去改変を諦めようと心から願わない限り、こんな事態が二度三度と起こるかもしれん)
キョン(こりゃ寝てる場合じゃないかも知れないな……)
古泉「はい、どうぞ。市販のものに氷を入れただけですが」
キョン「横になりながらで悪いが、色々聞いていいか?」
古泉「構いませんよ」
キョン「今はどういう状況なんだ?」
古泉「昨日の午後、涼宮さんと椎名さんが非常に仲良くなりましてね、今日はラボにてコスプレづくりを手伝うのだとおっしゃっていました」
キョン「人工衛星への不法侵入を企んでなくてよかったよ」
古泉「ラジ館の鍵が開けられなくて一時的に諦めているのだとか。それで男性陣はIBN5100探しを命じられたわけですが、あなたの提案でこうやって宿待機となっているわけです」
キョン「なるほど、実に俺らしい発想だ」
古泉「それで、向こうの世界はどういう状況だったのですか?」
キョン「その前に古泉、どうして俺が世界改変に巻き込まれたことを知っている? この世界ではハルヒによる昨日午前に実行された世界改変はなかったことになってるはずなんだが」
古泉「まさにそこが気付いたきっかけです」
古泉「あの涼宮さんが過去改変を実行したのに世界は改変されなかった、なんてことあると思いますか?」
キョン「はぁー、なるほど」
古泉「おそらく昨日の改変は実行された。そして再度“改変されなかった”として改変されたのだと推測しました」
古泉「あなたの豹変ぶりからどうやらビンゴだったようです」
キョン「ん? こっちの世界でもハルヒはDメールを送っているんだよな?」
キョン「ってことは中学生ハルヒは俺のも入れて合計3回もDメールを受信したってことか?」
古泉「いえ、そうではありません。ちょっと詳しく考えてみましょうか」
古泉「現在僕らがいる世界線の4年前において、中学生だった涼宮さんは2回Dメールを受信したことになります」
古泉「おそらく、時間的にこの1回目のDメールが今ラボでコスプレ作りをしているはずの涼宮さんが昨日送ったDメールです」
古泉「あなたが世界線漂流を行う前に居た世界線の涼宮さんが送ったDメールとは、内容も送受信時間も全く同一でしょうが、送信地点の世界線が異なるので別物となります」
古泉「1回目のメールを読んで、涼宮さんは不審がりながらも信じたのでしょう」
古泉「そして2回目のDメール受信、つまりあなたが先刻までいた世界線、α´世界線から送ったDメールですが、こちらを見て当時の涼宮さんは行動を思いとどまった」
キョン「待て待て。それじゃ、俺がさっき送ったDメールは、俺がさっきまでいたα´世界線と、俺が今いる世界線との二つの世界線の4年前に届いてた、ってことか?」
古泉「いいえ、そうではありません。まず、Dメール自体は世界線を移動できないので、Dメールはあなたが先ほどまでいたα´世界線の中学生涼宮さんの元に届いたはずです」
古泉「そしてそれによって世界線が改変されたわけですが、Dメールの受信という過去改変の事実だけは改変されてません。それこそ新しい世界線の因果律の起点となったのですから」
キョン「なんだか考えれば考えるほどややこしいな。世界線の移動と因果律の変更が同時に起こったのか」
キョン「ってことは、今俺が居るこの世界線は、ハルヒがしょっぱなのDメールを送るまでに俺が居た世界線とは似て非なる別物なのか?」
古泉「今の世界線での涼宮さんと、あなたがかつていた世界線での涼宮さんの違いは計2回のDメールを受信していたかいなかったか、という一点に限るでしょう」
古泉「ですから、この世界線はあなたがかつていた世界線と結果的には全く同じものと見なしても問題ないレベルだと思われます」
古泉「良かったですね、元の世界に戻ってきましたよ」
キョン「うーん、わかったような、わからんような……」
古泉「あまり考えすぎるとかえって行動力が削がれることもありますから、あなたくらいのほうがよりよい結果が出せるのかもしれません」
キョン「遠まわしにバカにしてないか、それ」
古泉「滅相もない。それでは、そろそろあなたの見てきた世界についてつまびらかに教えていただけませんか」
キョン「そうだな。それじゃいろいろと話しにくい部分はあるが、かいつまんで向こうの世界のこと、どうやってこの世界に戻ってこれたかについて説明してやろう」
古泉「よろしくお願いします」
古泉「……なるほど。非常に興味深いですね。差し詰め、“もしも涼宮ハルヒがジョン・スミスの正体に気付いていたら世界”とでも名付けましょうか。α´世界線では味気ないですからね」
キョン「なんの意味がある」
古泉「ちょっと長かったですかね。では“デレデレ世界線”、略して“D世界線”ということで」
キョン「もう一発殴られたいようだな」
古泉「冗談です。それと、おそらく向こうの古泉一樹は実弾を使用してないと思いますよ」
キョン「なに、そうなのか?」
古泉「機関でそのような事態が発生した場合、麻酔銃を使ったハッタリで押し切るような想定もされているのですよ。まさにそのケースだったと思われます」
キョン「そんなわけわからん事態を想定してることは不問に付してやろう」
キョン「とにかく、それならよかった。俺の背中でハルヒが古泉に撃ち殺されたなんて、本当にシャレにならん。全く笑えない」
古泉「僕には記憶がないので本当に実感がないのですよ。そろそろ勘弁してください」
キョン「俺には体温や息遣いの記憶まで残ってるんだぞ。こっちこそ勘弁してくれ」
キョン「岡部さんには感謝と謝罪をしなければな。お前からも謝ってくれよ」
古泉「重々承知しました」
長門「岡部倫太郎なら現在未来ガジェット研究所にいる」
キョン「のわっ!……って、なんだ長門か」
古泉「涼宮さんたちと一緒にいたはずでは?」
長門「涼宮ハルヒからあなたたち二人がサボタージュしていないか調査してくるよう指示された」
キョン「お見通しってわけか。こりゃ参ったな」
古泉「できれば涼宮さんには内緒にしておいていただきたいのですが」
長門「わかった」
キョン「い、いいのか長門? ハルヒより俺たちを優先して」
長門「あなたたちには3日前神保町へ連れて行ってもらった恩がある」
古泉「なんと。まさに正しく、情けは人の為ならず、と言ったところでしょうか」
キョン「情けというか、友情ってところだろうな」
長門「あなたの世界改変時の記憶を読み取らせて」
キョン「あ、あぁ……。またやるのか、昨日のアレを」
古泉「どうぞごゆっくり」
長門「身構える必要はない」
キョン「いやムチャを言うな長門さん。一思いにやっちゃってくれ」
長門「了解した」ピトッ
キョン「ちょ待っ!! 俺がソファーから起き上がってからにッ!!!!」ジタバタ
キョン(長門の短くも透き通った前髪が俺の顔にかかる! あぁ清涼感のあるいい匂いだ……)
長門「完了した」
キョン「ふぅ……。今日は暑いな」
古泉「冷房ついてますよ」
長門「」ドンッ!!ドンッ!!
キョン「な、長門ッ!?」
古泉「突然どうされたのですか!? 急に壁を殴るなど……」
長門「感情読み取りの副作用。エラーの消去」ドンッ!!ドンッ!!
キョン「や、やめろ! 手の皮がむけちまう!」
古泉「機関の用意した家なので、優しく扱っていただければと思うのですが……」
長門「わたしにはどうすることもできない」ドンッ!!ドンッ!!
キョン「今度は床を殴り始めた!?」
古泉「まるでマグマを噴出させんとする勢いですね……」
長門「……収束した。心配させてすまない」
キョン「お、おう」
古泉「長門さんの無表情壁ドンは、来るものがありますね……」
長門「リーディングシュタイナーと呼ばれる現象は、世界外記憶領域を利用した記憶の忘却およびほぼ完ぺきな形での同時的記憶受信」
キョン「世界外記憶領域? 天蓋領域の親戚か?」
長門「構造は全く異なるが、例えるなら情報統合思念体の人間バージョン」
キョン「……そんなものが存在してんのか」
古泉「つまり、アカシックレコード、ですね。なるほど、リーディングシュタイナーという名称は人智学を提唱したルドルフ・シュタイナーから引用されていると」
長門「正確には異なるが、だいたいそう」
古泉「ユング心理学の集合的無意識、パウリ効果、シンクロニシティ、シェルドレイクの仮説……。本来ならオカルティズムや擬似科学の領域として扱われやすいものですが、まさか実在していたとは」
キョン「お前のペダンチスムには辟易するよ」
長門「これに関しては涼宮ハルヒの力によるものではない」
キョン「それで、一体なんの話だ」
古泉「つまり、リーディングシュタイナー所有者が世界改変だと認識するプロセスは一体どういう仕組みなのか、ということですよね? 長門さん」
長門「そう。Dメール送信という過去改変に伴い、世界は事象間の関係性が再構成される。人間の記憶も因果律に沿う形へと再編成される」
キョン「そこは理解できる」
古泉「ではなぜあなたは再編成に巻き込まれないのでしょう。長門さん、選ばれた人間だけがその世界外記憶領域を利用できるのですか?」
長門「すべての人間が世界外記憶領域にアクセスする能力を潜在的に持っている。しかし、情報のダウンロードは非常に限定的で、多くの人間は幻覚、デジャヴやメジャヴ、あるいは夢として理解する」
古泉「なるほど、別世界線での記憶をダウンロードすることは誰でも可能性があると……。虫のしらせや予知夢といった、現代科学では説明のつかない現象の多くはこのシステムで説明ができそうです」ンフ
古泉「では、どうしてあなたと岡部さんという数少ない人間だけが世界変更を認識できるのでしょう」
キョン「まず、過去改変の事実を認識できる環境におかれている必要があるだろ? それから、岡部さんはわからんが、俺はSOS団として活動してきて脳を弄繰り回されてしまったから、じゃないのか」
古泉「遠因としてはそうでしょう。その上で、現象面としてはどのようなことが起きているのか」
キョン「えっと……、俺の記憶が世界線間を跳躍してるのか?」
長門「そうではない。記憶自体は常に世界外記憶領域にバックアップされている。あなたの脳内にあるものが記憶の全てではない」
キョン「……新興宗教か何かか?」
古泉「つまり、あなたが時間経過とともに蓄積させている記憶は常に外部サーバのような場所に自動保存されているのですよ。それはすべての人類種に関しても同じです」
キョン「全く実感がないんだが」
古泉「そしてリーディングシュタイナーの本領発揮はここからです」
古泉「過去改変によって世界線が変更してしまった。同時にあなたの記憶も再編成されている。さて、次になにが起きるでしょう」
キョン「……?」
古泉「記憶喪失です。それもありとあらゆる記憶の消滅が起きて、脳が空っぽになります」
古泉「あなたの脳は世界線変動をトリガーとする記憶喪失体質になっているのですよ。これがリーディングシュタイナー所有者の能力です。一種の新型脳炎ですね」
キョン「マジか!?」
古泉「記憶が空っぽになってしまった人間は生きていけません。そこで本能的に世界外記憶領域に直前まで更新されていた記憶のバックアップをダウンロードする……」
古泉「おそらくその時に、元々脳に入っていた記憶と、バックアップとの情報齟齬が大きければ大きいほど強烈な頭痛やめまいを感じるのでしょう。ニューロン間の電気信号の伝達が変化するわけですから」
古泉「これによってあなたという人間は記憶も意識も世界線跳躍が可能になっているのですよ」
キョン「大丈夫か俺の脳みそよ。というか、去年のエンドレス夏休みで感じた強烈なデジャブの正体はこれだったのか」
長門「そう」
古泉「しかし、現象面だけ見れば記憶を維持する能力と捉えて然るべきでしょう」
古泉「リーディングシュタイナーという能力があなたに備わってしまっていたとは、機関はあなたに対するプロファイリングを更新しないといけないようです」
キョン「だが、話では誰もが持っている能力で、デジャヴのようなものなんだろ? 俺は平凡な人類としてカテゴライズされたままで居たいのだが」
古泉「去年のお盆までは強烈なデジャヴを感じるような体験はなかったのですよね?」
キョン「そうだ、あのエンドレスサマーの時が記憶している中では初めてだった」
古泉「しかしあの時は世界線を移動したことによってデジャヴを受信したわけではありません」
古泉「涼宮さんは15532もの世界線を創ったのではなく、一本の世界線を円環状に積み上げていたのです」
古泉「そしてあなたのリーディングシュタイナーの一部、すなわち数々のループで許容量限界まで蓄積された世界外記憶領域へのバックアップデータが、強烈なデジャヴとして受信する能力によってあなたの脳内に流入し、『俺の課題は、まだ終わってねぇ!』の一言を引き出すことにより、元の時間流に戻った」
古泉「相当な負荷があなたの脳に襲いかかったことでしょう」
キョン「実際ものすごい立ち眩みだったぞあれは……」
古泉「さらに言えばエンドレスサマーでは世界線が変更されなかったために長門さんは情報統合思念体を経由して記憶をすべて保持できたと言えます」
キョン「だが今回みたいな世界改変、あるいは世界線変動では普通の生物は記憶を維持できない」
キョン「去年の12月18日の世界改変の場合は、世界線変動ではないが、4年前の長門のプログラム注入がなければ、大人朝比奈さんと、一緒にいた俺は、記憶を維持できなかった」
古泉「そうでしたね。もしかしてその時の噛みつきの後遺症が今に現れているのでは?」
キョン「いやな言い方をするな」
キョン「だが確か、お前の叔父のつてとやらがあった市立病院で俺の脳みそを徹底的に調べたんだろう? あの時のお前は俺の頭に異常は何もないと言っていたぞ」
古泉「たしかに現代医学ではあなたの脳に異常はなかったようです」
キョン「うまい言い方だな」
キョン「まぁ、確かに俺の脳みそはこのあいだの世界分裂からの世界融合もあって、ぐちゃぐちゃになってるのかもしれん。未だに思い出すだけで二つの記憶が並列しているのは不思議でならん」
古泉「それは僕も同じですが……。とにかく、あなたがリーディングシュタイナーと呼ばれる力を発動できる人物であることは間違いないようです」
古泉「この直接の原因は涼宮さんの願望実現能力ではなく、むしろ体質だと考えてよろしいのですね?」
長門「そう」
キョン「直接的原因でなくとも、間違いなくアイツが環境要因だろうけどな」
キョン「ということは、だ。俺の脳内にある俺という自我と記憶は別の世界線のものなんだから、お前らにとって俺は異世界人、ということになるのか?」
古泉「さぁ、どうでしょうか。確かに記憶は別の世界線のものでしょうが、自我、すなわち『あなた』という意識、この場合魂や精神と言い換えてもいいかもしれません、コレがどこに従属するものかについては、なんともお答えできません」
キョン「なぜだ?」
古泉「可能性として、世界線漂流に関係無く自我が共通して存在するかも知れないのですよ」
古泉「記憶というのはただのデータの蓄積です。しかし、それをコピー&ペーストしただけで同じ人間をもう一人作り出すことは可能でしょうか」
キョン「別の自我があれば、たとえ同じ記憶を持っていたとしても別人なはずだ、と言いたいのだな」
古泉「その逆も然りです。つまり、別の記憶があったとしても、同一の自我があればそれは同一人物と言えるのではないか、と」
古泉「僕から見ればあなたという人間はこの世界線で順調に17年間生活してきたわけですが、ある日突然異世界の記憶を所持していたように見えるだけであって、別人とまでは言えません」
古泉「例えるなら、同窓会で久しぶりに会った友人」
古泉「どこかにあなたはあなただと思わせるものがありましたからね。だからこそあなたがD世界線へ行った時もSOS団は異世界人のあなたに協力的だったのでは?」
キョン「お前だけは反抗的だったがな」
古泉「んっふ。さて、世界線移動で記憶を維持できることはリーディングシュタイナーで説明するとして、どうして自我までも世界線移動してきたのでしょう?」
古泉「それまで17年間あったはずのあなたの自我はどこへ消えたのでしょうか。あるいは消えたのではなく合体した、もしくは元々同一のものであったか……」
キョン「どの世界線であっても、俺という存在は俺である、という可能性か」
古泉「そうです。あなただけでなく、すべての人類、すべての生命が、あるいは」
古泉「ゆえに僕はあなたを異世界人として認めることはしません。SOS団に居たためにちょっと脳みそがおかしくなってしまった一般人、という認識がより妥当かと」
キョン「どっちもどっちだな。で、長門大先生。答え合わせを願いたいのだが」
長門「以前に言った通り、禁則事項ということで」
キョン「……長門の生誕史上初のジョークのリバイバル上映と来たか」
古泉「以前というのは、あのルソー氏vs情報生命体の時の、精神はどこにあるかという質問ですね」
長門「そう」
古泉「わかりました。これ以上の議論はカント哲学にコペルニクス的転回を与えかねません」
古泉「精神、意識、あるいは魂とは何か。今後の科学の発展に期待しましょう」
キョン「そういや、どうしてハルヒは1975年から2034年までというよくわからん期間の世界システム改変を実行したんだ? 2034年については七夕の短冊効果だったわけだが」
古泉「そう言えばあなたには言いそびれていることになっているのでしたね」
古泉「僕の推測では、涼宮さんが世界システム改変を実行したのは7月27日の夜、あの結婚披露宴が終わった後です」
キョン「あー、そういやそんなこと言ってたっけか」
古泉「改変直前に遭遇した、今後秋葉原で出会うだろう友人椎名まゆりと、担任の甥にあたる岡部倫太郎のカップルに今回の騒動の白羽の矢が当たったのだと僕は考えています」
キョン「ハルヒの近くを歩くだけで危険極まりないな」
古泉「さて、どうして結婚披露宴がトリガーとなったのか」
古泉「これはもう先ほどあなたから聞いたD世界線での話を聞いて確信を得ました」
キョン「…………」
古泉「ズバリ言いましょう。涼宮さんはご自分の結婚について考えてしまったのですよ」
古泉「担任教諭と新婦さんの姿を、同年代の岡部さんと椎名さんカップルの姿に投影し、そしてご自分にも」
キョン「……そうなんだろうなぁ。自分で言うと自意識過剰みたいでアレだが、それが“ジョンと出会っていたら”、という過去改変願望に繋がるわけか」
古泉「それから、あなたの話、というか、D世界線の朝比奈さん(大)の話による、2034年の短冊効果についても僕から推論があるのですが、よろしいでしょうか」
キョン「あ、あぁ。あの人でも理屈はよくわからないとか言ってたからな、これに関してはお前の領分なんだろう」
古泉「『自分を中心に世界が回るように』という願いによって、然る後に世界線理論を利用したタイムマシンは開発されなくなった。同時に新世界システムの期限も2034年に設定された」
古泉「ですが、システムキャンセルは世界システム改変が過去に与えた影響自体をすべて無かったことにすることはできなかった」
古泉「ということは、です。涼宮さんの短冊は“SOS団が有する超常的な能力に類するモノが今後新しく登場することを拒否する願い”としてアルタイルこと彦星様は了したのではないでしょうか」
キョン「なんともまぁネガティブに捉えたもんだな。きっとその彦星様はカササギ橋梁組合がストライキを起こしたせいでノイローゼになってたんだろうよ」
キョン「だが古泉、世界システム改変の影響が2034年に消えたのに、それ以降も世界線系タイムマシンが利用できるのはやっぱり変だぞ」
古泉「そのタイムマシンの内部に世界システムが組み込まれていたとしたら、変な話ではありませんよ」
キョン「もはや屁理屈の領域だと思うが……」
古泉「そして1975年から、という点に関しても実はある推測が立っているのですが……」
古泉「この話はあの人工衛星とも関わってくる話になります。つまり例の異世界人の話ですね」
キョン「さっきまで俺自身が異世界人と呼ばれていたからヘンテコな気分だ」
古泉「話が長くなるのですが、長門さんも一緒に聞きますか?」
長門「いい。それよりも涼宮ハルヒの動向を監視したい」
古泉「それではこれを使ってください。未来ガジェット研究所をリアルタイムで盗聴できますよ」スッ
長門「助かる」カチャ
キョン「さらっとヤバいやり取りが行われているが、俺はなにも見ていないし聞いていない。そうだな、うん」
古泉「さて、既に随分話し込んでいますが、まだまだ僕の推理ショーは続きますよ」ンフ
古泉「機関があの未来ガジェット研究所について徹底的に調査した結果、いくつか不可解な点を発見しました」
キョン「ほう? あの大学生サークルになにかひみつが?」
古泉「平仮名三つで『ひみつ』ですか。あなたも相当涼宮さんに入れ込んでいますね」ンフ
キョン「長門、古泉を記憶喪失にさせてやってくれ」
長門「今忙しい」
古泉「ともかく、あのラボ自体はなんの変哲もない趣味人サロンでした。機関の調べでは、ですが」
古泉「唯一気になった点は、テナントとして大檜山ビル2階にあの研究所が入っているわけですが、そのテナント料は破格の月10000円だとか」
キョン「都内でそれは確かに安いが、まぁ大学生相手にまともに商売するつもりなんてないんだろう」
古泉「そうでしょうね。ですがオーナーの天王寺裕吾がこのご時世にブラウン管のテレビやモニター販売、廃品回収程度でどれだけ儲かっているのか気になりましてね」
古泉「少し天王寺家について探りを入れさせていただきました」
キョン「勝手に身辺調査されるにあたってなんともまぁかわいそうな理由だ」
古泉「結果から言いましょう。天王寺氏は“ラウンダー”という名称の傭兵部隊の一員、それもおそらく中間管理クラスであることが判明しました」
キョン「……マジでか」
古泉「どこの組織に属しているかまでは堅牢無比なまでに情報がプロテクトされていてわかりませんでしたが、彼が裏できな臭いことを遂行しそれを生業としていることは間違いなさそうです」
キョン「なんだってそんなやつがブラウン管販売だのテナント経営だのをやってるんだ」
古泉「考えられるのは隠密行動中か、あるいはそれ自体が命令なのか……」
古泉「僕たち機関も涼宮さんの安全上気になりましてね、天王寺氏の経歴を徹底的に調査しました」
古泉「あまり関係ありませんが、彼は複雑な経歴の持ち主でしたよ。母親は日本人、フランス育ち、フランス帰りの帰国子女であり、来日早々できちゃった結婚をしているなど」
古泉「そして廃品回収と同時にIBN5100の捜索も行っていたようです」
キョン「ここでIBN5100か。まぁ、趣味でやっててもおかしくなさそうではあるが」
古泉「そしてここでもう一つ面白い繋がりを発見してしまったのです」
キョン「お前の本職って探偵だったんだな」
古泉「おっと、ご存じありませんでしたか」
古泉「あの大檜山ビルは天王寺氏以前のオーナーである橋田鈴という人物から贈与形式を以って無償で権利譲渡されたものでした」
古泉「ビルだけでなく御徒町のご自宅も。このことは役所から裏が取れてます」
キョン「無償ねぇ」
古泉「この橋田という人物は自宅が天王寺宅の隣近所だったらしく親交が厚かったらしいです」
古泉「一時期は同居もしていたとか。このことは御徒町に古くから住んでいる方からの情報です」
古泉「橋田鈴は譲渡後の西暦2000年に“自殺”したことになっています。43歳の若さで」
キョン「遺産贈与の直後に自殺か……」
キョン「話が普通に探偵モノの事件に発展してきたな。正直これ以上はヤバいと思うが……」
キョン「しかし、たしかに臭うな。もしかしたら諸々はフェイクで、橋田某が地下組織運営の片棒を担いでいた可能性もあるんじゃないか」
古泉「機関も同じように考えました。そして橋田氏の素性を洗ったわけですが、これがとんでもなく当たりだったんですよ」
キョン「とんでもなく?」
古泉「橋田鈴、彼女の戸籍は1975年に新規作成、舞文曲筆されたものでした」
キョン「なんてこった……」
古泉「彼女の存在をたどれる限界がとある医療施設でして、彼女は昭和50年当時そこで保護されていたようです。そこの施設長から確認した話ですが、どうやら橋田鈴は記憶喪失を装って新しい社会的人格を手に入れたようです」
古泉「なぜ橋田鈴という人間がこの世に書類上誕生する必要があったのか。橋田鈴の正体は何者なのか。非常に興味がありましてね、つまびらかに人間関係を調べ上げさせてもらいましたよ」
キョン「えげつねぇことをしやがる」
古泉「そしてこの一枚の写真を入手しました。ご覧ください」
キョン「ずいぶん懐かしい雰囲気の現像写真だな。集合写真か」
古泉「彼女は1977年、20歳の春、東京電機大学工学部の学籍を手に入れます。のちに大学院へ進学し、同大学の物理学助教授となりました。これは、教授時代の彼女がゼミ生たちと撮った卒業アルバム用の集合写真です」
キョン「そこって岡部さんと橋田さんのいる大学じゃないか」
古泉「おや、ご存知でしたか」
キョン「あぁ、D世界線――ホントにこの名前で呼ぶのか?――のハルヒが東京の大学に進学したがっててな、牧瀬さんがマシンを直してる間に色々話を聞いたんだ」
キョン「それで、この写真の中心にいる白衣の女性が橋田鈴か……」
キョン「この橋田鈴さんと橋田至さんってのは親戚かなにかか?」
古泉「いえ、機関の調べでは同姓であるだけの他人です。“橋田”という苗字は日本に1000世帯近くあります。高知県に多いようですね」
古泉「まぁ、橋田鈴さんの苗字は捏造ですから、本当の苗字は不明です」
キョン「それもそうか」
古泉「ここで注目してほしいのはこの人物とこの人物。名前は、牧瀬章一と秋葉幸高です」
キョン「牧瀬……?」
古泉「彼女に関連する話で一番興味をそそられたのはこれです。1986年、当時まだ学部生だった牧瀬青年と秋葉青年、そして橋田助教の3人からなる“相対性理論超越委員会”を結成したのだとか」
古泉「これは橋田ゼミ出身の方から証言を得ました。なかなか口を割らないので手こずりましたよ」
古泉「そこで一体なにが行われていたと思います?」
キョン「普通ならゼミの課外授業といったところなんだろうが」
古泉「そうでありながら、そうでなかったと推測しています」
古泉「そこではまさに“タイムトラベル”についての研究が行われていたそうなのですよ」
キョン「そろそろその言葉が出るかと思っていたが、ついに出たか。朝比奈さん関係以外の、“タイムトラベル”……」
古泉「卒業後も委員会は続けられたそうですが、1994年10月3日に中止となります」
古泉「資金の出処はおそらく秋葉幸高氏の会社だったのでしょう。経営がバブル崩壊やメキシコ通貨危機などの影響で立ち行かなくなり、資金提供が滞ったことでタイムマシン研究が中止となったものと思われます」
古泉「秋葉氏に関しては多く情報が機関の手に入っていますよ。新川さんの旧いご友人から穏便にお話を伺わせていただきました」
キョン(あの人も人脈が広いな……)
古泉「一方、この牧瀬章一という人物ですが、現在は理論物理学論文を非公式で発表する傍ら“中鉢博士<ドクター中鉢>”という芸名でタレント活動などもなさっているとか」
キョン「なにッ!? テレビでたまに見るあの人だろ!? ……あの中鉢博士の若かりし頃の姿だったとは」
古泉「それだけではありません。娘さんの名前にも心当たりがあるはずですよ」
古泉「現在18歳、ヴィクトル・コンドリア大学脳科学研究所所属の日本人研究員……、牧瀬紅莉栖」
キョン「な……ッ!? あの未来ガジェット研究所にいた、なんだかすごい経歴を持ってる、あの! ……まさか中鉢博士の娘だったとはな」
古泉「続けていきましょう。この秋葉幸高氏の娘さんの名前は秋葉留未穂さんと言いますが、彼女は現在フェイリス・ニャンニャンという名義で最強雷ネッターとして活躍しているとか」
キョン「……IBN5100と未来ガジェット研究所ッ!!!!」
古泉「そう、すべてはそこに繋がるのですよ」ンフ
古泉「しかし、秋葉幸高氏はどういうわけかIBN5100と何の接点もありませんでした。ここで橋田助教からの無償提供でもあれば、完全に黒、と言ったところだったのですが」
キョン「何の接点もない? フランス人の実業家に売り渡したって話はウソだったのか?」
古泉「あなたの話を信じて重点的に調べたわけですが、そのような事実は存在しなかったか、徹頭徹尾抹消されています」
古泉「あるいはこういう可能性も考えられます。あなたの気づかないうちに世界線が変わっていた」
古泉「つまり秋葉幸高氏がIBN5100を入手してフランス人に売る世界線から、そもそも入手しない世界線へと」
キョン「!!」
古泉「そして幸高氏はこの秋葉原の大地主です。街を電気街にするか、萌えの街にするかに関して発言権を持ちうる人間の一人でもあります」
キョン「色々と見えてきたようで情報が文字通り混線しているな、世界線的な意味で。蜃気楼と徒手格闘しているような気分だ」
古泉「幸高氏の話でおもしろいことがもう一つあります。2000年4月3日、娘さんの誘拐未遂事件に遭遇していたのです」
キョン「フェイリス・ニャンニャンが誘拐!?」
古泉「未遂だったようですが。偶然にも誘拐犯からのメールと当時7歳の留未穂さんの家出のタイミングがかぶってしまい、誘拐犯は誘拐を実行できず、幸高氏は誘拐を事実と誤認」
古泉「身代金1億円を用意するために相当苦心したようです。IBN5100が手元にあれば1億くらい簡単に手に入ったでしょう」
古泉「実際は1億円を用意し終わる前に娘さんが家出から戻ってきたため事件は発生せず、金銭的にも問題は起こりませんでした」
古泉「ですが、橋田鈴がキーパーソンであることは揺るがない」
古泉「関係があるかはわかりませんが、橋田助授の教え子の一人、天王寺綴、旧姓今宮綴は天王寺裕吾の妻でした。しかし1999年11月9日に第一子を出産した後、2年と経たず綴さんは“交通事故”で帰らぬ人となってします。2001年10月23日のことです」
古泉「本当に交通事故だったか、若干胡乱な点がありますが」
キョン「なんでそんなに事件発生年が偏ってるんだよ……」
古泉「陰謀の臭いがしますね」フフッ
キョン「橋田鈴の名義偽証年の1975年と言えばIBN5100の発売された年……教え子に秋葉氏、牧瀬氏、天王寺氏の嫁……」
キョン「同居人に天王寺氏……しかも、タイムトラベルの研究と、大檜山ビルのオーナー……」
キョン「未来ガジェット研究所と、IBN5100……なにもかもが繋がっている……」
古泉「僕は宿命論者ではありませんが、これを偶然の一致として一笑に付すことができるでしょうか」
古泉「まるで『セレンディピティ』だ。惹かれあった男女がお互いの連絡先を5ドル札と本に書き、5ドルはレジで払い本は古本として売る。このそれぞれが巡り巡って男女の手元に戻ってくるのはどのくらいの確率なのでしょうね」
古泉「まさか、とは思ったのですが。橋田助教の顔写真から、彼女の1975年頃、すなわち19歳頃の推定写真を作成しました。それがこちらになります」スッ
キョン「……ッ!?!?!? こいつはッ!!!!」
古泉「僕は直接お会いしたことはありませんが、阿万音鈴羽さんと瓜二つらしいですね。ブラウン管工房でバイトをされている。歳は現在18歳」
キョン「ということは、阿万音さんが、タイムトラベラーッ!!!」
古泉「これはもう疑いの余地なしと言ってもいいでしょう。現在時間平面に存在する阿万音鈴羽は年内に1975年へタイムトラベルし、その余生を2000年まで地に足つけて暮らす」
古泉「阿万音さんの身元調査もしました。こちらは手間がかかりませんでしたよ。なにせ阿万音鈴羽なる人物は1872年の壬申戸籍から現在に至るまで、世界中どこを探しても登録されていなかったのですから」
古泉「加えて阿万音鈴羽が秋葉原に姿を現した日ですが、我々の調べによると2010年7月28日のようです。つまり、あの人工衛星が墜落した日……」
古泉「結論です。あの人工衛星は別の世界線の未来から来たタイムマシン。阿万音鈴羽はその搭乗者であり、まだこの世に生を受けていない未来人である」
古泉「そのタイムマシンはおそらく、未来ガジェット研究所が開発する。ゆえに涼宮さんの7月27日の世界システム改変の影響は1975年へと円環状に広がってしまった」
キョン「それが言いたいがための長編推理小説だったのかよ、聞くだけで疲れちまった……」
キョン「ま、待て待て。1975年にタイムトラベルするのはIBN5100を入手するためだとしても、どうしてそこから未来へともう一度タイムトラベルしなかったんだ? 未来で作られただろう人工衛星型タイムマシンを使って」
古泉「例えば、あの人工衛星型タイムマシンが故障してしまった、あるいは元々未来へタイムトラベルできるように作られていなかった」
キョン「……それほどまでに重要なアイテムってことだよな、IBN5100」
古泉「未来人が命を懸けて入手しなければならない存在ですからね」
キョン「もうひとつ質問だ。世界線系のタイムマシンはタイムトラベルをすると世界線移動してしまうと朝比奈さん(大)から聞いた」
キョン「ということは、だ。この世界線上に存在する橋田鈴なる人物と阿万音さんは……」
古泉「互いに異なる世界線出身の人物でしょう。完全な同一人物ではない。ですが、世界線変動率<ダイバージェンス>の近似を考慮すれば同一人物と考えても問題なさそうです」
キョン(あの時の朝比奈さん(大)と同じか……)
キョン「そして阿万音さんは既にラウンダーと繋がっているか、あるいは将来的に、っつっても俺たちからしたら過去だが、ともかく橋田鈴として繋がることになる可能性がある。これは……」
古泉「殺してでも奪い取る。何が何でもIBN5100を自らの手中に、そして最終的にはラボへと届ける。それほどまでの執念が感じられます」
古泉「SOS団所属の未来人の目的は未来の保護でした。仮に阿万音さんもそうだとするならば、その目的はディストピア社会の保護、世界のディストピア化ということになります」
キョン「……なぁ、ハルヒのIBN5100探しは、やめさせたほうがいいんじゃないか? 仮に見つけちまったら岡部さんに渡すことになる」
キョン「俺たちまで巨大な陰謀に与することはねぇ」
古泉「やめろと言ってやめるなら、このような推理は必要なかったのでは?」
2010.08.11 (Wed) 13:28
湯島某所
長門「さすがに昼食を取るべき」
キョン「おっと、もうこんな時間か。ずいぶん話し込んじまったな」
古泉「内容が内容でしたからね。正直もうお腹いっぱいです」グー
キョン「長門は昼は食ったか?」
長門「まだ」
キョン「よし、それじゃ三人でなにか食いに行こう。ついでに未来ガジェット研究所に寄ってうちの団長様と副々団長様をお迎えに上がろうぜ」
古泉「岡部さんとも色々話がありますしね」
2010.08.11 (Wed) 13:35
牛丼専門 さんぽ
キョン(ラボへ向かう途中に財布と胃袋に優しそうな牛丼屋を見つけたので入ることにした。今時チェーン店じゃない牛丼屋とは珍しいな)
キョン「そういや、どうして阿万音さんは未来から直接IBN5100販売年の1975年へ飛ばなかったんだろうな。はい、古泉くんの答え」
古泉「そうですね……。考えられるのは、2010年に立ち寄る必要性があった。何らかの因果操作工作が既定事項であり、それはこの年に電話レンジが開発されることに関係しているかもしれません。あるいはタイムマシンの性質上中継地点を設けねばならないとか」
古泉「もしくは2010年である必要はなく、たまたま。ディストピアでは過去の情報が規制されていて、それゆえ1975年でのスニーキングミッションを達成させるために誰でも情報にアクセスできる時代で過去の情報を仕入れる必要があったとか」
古泉「この場合、阿万音さんは世界をディストピアから救う正義のヒーローということになりますね」
キョン「朝比奈さん(大)は未来ガジェット研究所がディストピア未来を回避する鍵だと言っていたしな、そうかも知れん」
古泉「パンドラの箱を開ける、という意味での鍵かもしれませんよ」
キョン「お前の想像力はボディービル世界大会4連覇並にたくましいな」
古泉「人間の想像力は最大の武器ですからね」ンフ
長門「…………」モグモグ
キョン「それからもう一つ。これからラボに行くわけだが、そもそもそのラボがディストピアの原因なんじゃないか? 人工衛星型タイムマシンはラボが作ったことになるんだろ?」
古泉「あくまで涼宮さんが7月27日、岡部さんを始めとする未来ガジェット研究所のみに白羽の矢を立てていれば、という仮説です。他にタイムマシンを完成させる研究所があったとして、同様に世界システム改変に飲み込まれていればこの仮説は崩れることになります」
キョン「タイムマシンがそう簡単に作られたら困るけどな、それを聞いて安心したぜ」
キョン「あの人たちの人間性を鑑みるに、正直言って世界を支配するだなんだは想像つかないんだよな」
キョン(岡部さんは、たしかに口から黒歴史待ったなしの妄想ストーリーダダ漏れ状態ではあるが、あれは一種のペルソナであって決してマジモンのサイコパスではなかろうよ)
古泉「完全に信用はできませんよ。と言っても僕は岡部さんに個人的にご迷惑をおかけしているらしいですから、そこは謝罪しようと思います」
キョン「俺も一度助けてもらったからな、その恩は返す」
古泉「それに今後の行動を見極めるためにもう少し情報が欲しいですからね。ラボの方々に接近しておくのも悪くないかと」
キョン「清々しいまでに打算的だな」
長門「……ごちそうさま」
2010.08.11 (Wed) 14:00
大檜山ビル前
ミーンミンミンミーン……
キョン(長門の『ごちそうさま』を合図に牛丼屋を出た俺たちはもはや通い慣れ始めてしまった未来ガジェット研究所のある雑居ビルへと向かった)
キョン「ここに傭兵部隊が潜伏してるとは信じられないほど平和だな」
鈴羽「何それ、スパイ? どこにいるの!?」
キョン「うわっ!? な、なんですかいきなり」
キョン(って、阿万音さんか。さすがに俺たちに問答無用で危害を加えるようなことはないだろうが……)
鈴羽「……少しでも怪しいと思ったらあたしに知らせて。だってあたしは、一人前の戦士だからね!」
キョン(なに言ってるんだこの異世界人)
古泉「初めまして阿万音さん。SOS団副団長、古泉一樹と申します。戦士というのは、もしかして鈴羽さんは軍隊に所属してたのですか?」
鈴羽「軍隊じゃないッ!! あたしが所属してるのは解放組織ワル……あっ、いや! なんでもないんだ! 気にしないで!」アセアセ
キョン(本当に異世界人はおっちょこちょいだったらしい。うちの未来人もおっちょこちょいではあるが)
キョン「長門、この人が例の人工衛星の搭乗者で間違いないか?」ヒソヒソ
長門「」コクッ
キョン(裏も取れたな。まぁ、これだけ慌てんぼうならそんなに警戒しなくても大丈夫か?)
??「こらぁバイトォ! サボってんじゃねぇぞ!」
鈴羽「うわぁ! いっけない、また店長に怒られる! じゃぁね君たち、達者で!」タッタッ
キョン(タッシャ……たっしゃ……達者?)
古泉「あのスキンヘッドで筋骨隆々の方が天王寺裕吾氏です」
キョン「あれが……。なるほど、スイス人顔負けの傭兵部隊って感じだ」
2010.08.11 (Wed) 14:07
未来ガジェット研究所
キョン「お邪魔します。ハルヒいますか?」ガチャ
古泉「どうも」
長門「…………」
岡部「おぉ、お前たちか。来るんじゃないかと予感はしていたのだ……。フフフ、能力者同士は引かれ合うものだからな。それもまた“運命石の扉<シュタインズゲート>”の選択……!」
紅莉栖「あら、久しぶりねキョン。三日ぶりかしら」ヨッコイショ
キョン(俺にとっては数時間ぶりなんですよね)
キョン「牧瀬さん、お久しぶりです。マシンの改良は順調ですか?」
紅莉栖「えぇ、一応……。って、岡部のやつが漏らしたの?」
岡部「その言い方だと俺の沽券に関わるからやめるのだ! 前も言っただろう、少年は俺と同じく運命探知の魔眼<リーディングシュタイナー>の使い手だとな! 故にッ! 秘境の地、ヴァージン・エクストラ諸島には存在しない知識を有しているのだッ!」
紅莉栖「己はぶっ殺されたいかッ!!!」
キョン「あ、あはは……」
岡部「ってぇ!? き、きき、貴様は機関のエイジェントォッ!! 異世界から我が命を狙いに来たのかッ!?」
古泉「大丈夫です、こちらの世界ではあなたの味方です。全力で暗躍致しますよ」ンフ
岡部「フ……フフフ。フゥーハハハ! ついに機関が我が軍門に下ったぞォ! 終戦の時は近いッ!」
古泉「イエス、ユアハイネス」ンフ
キョン(うまいこと取り入ったな、こいつ)
紅莉栖「もしかして彼もそういう趣味なの?」ヒソヒソ
キョン「いや、あれは悪乗りしてるだけです」ヒソヒソ
古泉「実際涼宮さんがお世話になってますし、前の世界線でのご無礼もあるそうですからね。何らかの形でお礼がしたいと思っているのですよ」
キョン「それに関しては俺も同意見だ。岡部さん、体感で2時間くらい前になりますが、あちらの世界ではありがとうございました」
岡部「お、おう? あーいやいや、なに、気にするほどのことではない。なぜなら俺の望みは世界の混沌、ただ一つだからな……、ククク」
キョン「えっと、ハルヒたちがいないみたいですが……。おい長門、監視してたんじゃないのか?」
長門「わたしが盗聴を終えたタイミングで涼宮ハルヒと朝比奈みくるはこのラボを出ている」
キョン「一言言ってくれよ……」
長門「……あまりに楽しそうだったため、邪魔をしないほうが良いと判断した」
キョン(もしかしてこれは長門なりの気遣いなのか? まぁ、仮にハルヒたちが居なくても用があったからいいんだけどさ)
古泉「それで、涼宮さんはどちらに」
紅莉栖「あぁ、ハルヒならまゆりとみくると三人でフブキっていうまゆりのレイヤー仲間のところに遊びに行ってるわ」
長門「レイヤーとは?」
古泉「レイヤーとは、コスプレイヤー、すなわちコスチュームプレイを行う者、という造語の略称の略称ですね」
キョン「お前の衒学家ぶりはオタク文化でも発揮されるのか」
長門「それもコスプレ?」
岡部「違う、間違っているぞ無表情文学少女よ。この白衣は知的存在にのみ着ることが許された正式なユニフォームなのだッ!」
紅莉栖「私も着てるんだから恥ずかしいんだけど……」
長門「知的存在……」トテトテ
長門「……」ジーッ
紅莉栖「あら、マシンに興味あるの?」
長門「もし良ければ観察させてほしい」
紅莉栖「うふっ。かわいい女の子に興味持ってもらえて、お姉さんうれしいわ。どうぞ、研究室に入って」
岡部「ぬぁにが『オネエサン』だ、同い年ではないかセレブセブンティーンよ」
紅莉栖「だからッ! 私は18歳だってば!!」
岡部「一個上だとしてもお姉さん呼びはちょっと引くのだが……」
紅莉栖「う、うるさいなッ/// 後輩が初めてできて嬉しくて悪いか!」
2010.08.11 14:17
未来ガジェット研究所 談話室
岡部「心配しているようだが、俺の身体は大丈夫だ。実弾じゃなかったしな。それに少年のDメール送信によって俺への攻撃も無かったことになった」
古泉「僕に襲撃実行の記憶はありませんが、改めて謝罪します。大変申し訳ありませんでした」
古泉「それにしても我々機関の存在を早々に見破っていたとは。岡部さんはなかなか鋭い方ですね」
岡部「本当に“機関”が存在していたとは……」ブツブツ
古泉「なにか?」
岡部「あ、いやいや! なんでもない! フッ、機関のエージェントなどに屈する我がラボではないのだ。フゥーハハハ!」
キョン「IBN5100の捜索にどこまで協力できるかはわかりませんが、もしよかったらハルヒとも仲良くしてやってください。アイツ、見つけるまでは東京から離れそうにないですから」
古泉「なにせ幻のレトロPCですからね、そう易々と手に入るとは思えません。手に入らなかったとしてもお許しくださいませ」
岡部「う、うむ……。実に良い働きだな、うん」
古泉「浮かない顔ですが、なにかあったのですか?」
岡部「それがだな……。どうも俺は誰かに監視されているらしい」
キョン「機関以外に、ですか?」
古泉「ちょっ」
岡部「機関には常に監視されている。無論、易々と機密を漏らす俺ではない。やつらに流れているのはすべてフェイク情報だ」
古泉(どうやら冗談だと思ってくれたようです)
岡部「……このメールに見覚えがあるか?」スチャ
キョン(『お前を見ているぞ』……それとゼリーの画像?)
古泉「……いえ。これは機関のものではないです」
岡部「こっちは?」ピッピッ
キョン(『お前は知りすぎた』……うぇっ、なんだこりゃ。血まみれの人形の首の写真か)
古泉「機関はこのような手段を取ることはないかと」
岡部「そうか……。となると、また別の組織が俺を……」
キョン「それってもしかしてラウンダーか?」ヒソヒソ
古泉「まだ断定はできません。色んな組織が狙っていてもおかしくない。事実、この未来ガジェット研究所がタイムマシンに対して最も関係が深いのですから」ヒソヒソ
キョン「そうだ、岡部さん。阿万音さんについて驚くべきことがわかりましたよ」
岡部「バイト戦士についてだと?」
古泉「阿万音鈴羽さんはある裏組織と繋がっている、かもしれないのですが。なにか心当たりはありませんか?」
岡部「バイト戦士が? そういやアイツが、紅莉栖がSERNと繋がっている、とか言ってたが……」
キョン「セルン?」
古泉「SERN。欧州原子核研究機構ですね、素粒子物理学の研究などをしている……。しかし、それではまるでSERNが裏社会のボスのような言い方ですが」
岡部「…………いや、お前らは知らないほうがいい」
キョン「?」
岡部「そう言えばあのボディコンエロ教師は誰だったのだ? 来波アサヒとかいう、新劇に出てくる駆逐艦みたいな名前の人物は」
キョン「あの人は朝比奈さん、朝比奈みくるさんが大人になった姿です」
岡部「なに? ということは、数年後からやってきた未来人だったのか!?」
古泉「いえ、実は高校生の朝比奈さんも未来人でして、かなり遠い未来からやってきたそうです」
岡部「なんと……。だがしかし、いったいなんの目的で」
キョン「それが、うちのハルヒのせいで2006年より過去へタイムトラベルできなくなってしまったからとか」
古泉「なによりそのタイムトラベルを可能にする理論の中心に涼宮さんがいらっしゃるので保護観察をせざるを得ないのだとか」
岡部「ふーむ、なるほど。タイムマシン研究者のそばには必ず未来人の影がある法則か」
岡部「その未来人の使ってるタイムマシンを使ってIBN5100を回収できないものだろうか。もちろん、販売時期まで遡行することは不可能だろうが……」
古泉「それが、あの人たちが使ってるTPDDというタイムマシンは世界線移動ができないそうです。つまり因果操作にかなり制限がある」
古泉「それゆえにこの世界線で手に入っていないのであれば、それはほぼ手に入らないということ」
キョン「それに朝比奈さんの上司の許可がないと使わせてもらえない仕様になってるので、どこまで協力してくれるか」
岡部「そうか……」
♪♪♪
岡部「すまない。電話だ……」ピッ
キョン(心臓に悪そうな着信音だな……)
2010.08.11 (Wed) 14:21
岡部「―――――――――――!!!」ヨロッ
キョン「お、岡部さん!?」
古泉「大丈夫ですか!?」
岡部「……。あ、あぁ、そうか、お前たちか。俺は大丈夫だ」
キョン「まさか、また過去改変が……」
岡部「いいか、時間がない。手伝ってくれ……」
岡部「阿万音鈴羽は、未来人ジョン・タイターだ……ッ!!」
--------------------------------------------------------
◇Chapter.5 朝日奈みくるのジェノグラム◇
--------------------------------------------------------
D 0.337187%
2010.08.11 14:21 未来ガジェット研究所
キョン(阿万音さんがジョン・タイター!? ってことは、@ちゃんのジョン・タイターはモノホンの未来人で、中身は阿万音さんだったってことか!?)
岡部「とにかく時間がない。詳しいことはすべて後で説明する。紅莉栖、マシン開発がひと段落したらラジ館に来いッ!」ダッ
紅莉栖「へ!? ちょ、ちょっと岡部ぇ!?……紅莉栖って言った。アイツ私の事紅莉栖って……」ブツブツ
キョン「あっ!……行っちまった」
古泉「……まるで、あのケータイの通話に出た途端に人が変わったかのようでしたね」
キョン「ありゃなんだ? 新手の世界改変か?」
古泉「ちょっと判断材料が少なすぎますね……。涼宮さんたちが心配です。ひとまず涼宮さんたちと合流しましょう。それが元々の目的でしたし」
キョン「あぁ、そうだな。今電話をかけよう……」ピ、ポ、パ
長門はなにやら牧瀬さんの機械いじりの片付けの手伝いがあるとかで後から集合することとなった。まぁ、長門なら大丈夫だろう。……大丈夫だって。
なぜか椎名さんと別れて池袋に向かっていたハルヒと朝比奈さんは俺からの連絡を受け、渋々秋葉原へ引き返すこととなった。IBN5100についてわかったことがあるとうそぶくことで説得に成功した。
乙女ロードとかいうところへ行くという目的を達成できずにとんぼ返りとなったハルヒは不満たらたらだった。
あとで古泉に聞いたが、この世界の池袋のサブカル事情はとんでもないことになっているらしい……。
あぁ、もしできることなら秋葉原が萌えの街であった世界線にまで戻りたい。そしたら俺はあのメイド喫茶で猫耳メイド金髪ポニーテール少女椎名まゆりとニャンニャンできるはずなのだ……!
2010.08.11 (Wed) 17:32
秋葉原 マクディナルハンバーガー
ハルヒ「いやーっ! まゆり、かわいかったわー!」
キョン(伝説の金髪ポニーテール少女まゆりッ!)
みくる「あのぅ、長門さんは?」
古泉「長門さんなら今未来ガジェット研究所で牧瀬さんのマシン開発のお手伝いをしているそうです」
ハルヒ「あの子ってプログラム系だけじゃなくて機械系も結構得意よね」
ハルヒ「それで、IBN5100探しはどうなってるの?」
キョン「一日遊んでおいてそれか」
ハルヒ「あたしは団長よ? そしてアンタは団員その一。オーケー?」
キョン「なんでもそれで通用すると思ったら大間違いだぞ」
古泉「IBN5100ですが、実はとある重要な機能を持っているものであることが判明しました」
キョン「おまっ」
キョン(俺はてっきりIBN5100はフランス人の実業家に売られただなんだと言ってハルヒの捜索意欲をそがせるものかと思っていたが)
ハルヒ「やっぱりアレはただのレトロPCなんかじゃなかったのよ! きっとロボットが人類を支配する未来において機械側のマザーコンピュータをクラッキングするために旧式コンピュータのプログラミング言語が必要なんだわ!」
古泉「涼宮さん? 未来ガジェット研究所と約束しましたよね。発見次第、ラボに無償で提供すると」
キョン(古泉は煽り検定一級でも持ってるのか)
ハルヒ「うぐっ……。使えないヘンテコ電子レンジつかまされて、してやられたわ……」
キョン(ワニ目にしてアヒル口のハルヒである。変なところで律儀なのがまたハルヒらしい)
みくる「あくとくしょーほーは許せません!」
キョン「古泉、お前いったい何考えてるんだ」ヒソヒソ
古泉「涼宮さんにIBN5100を入手してもらって、僕たちで管理しておけばいいのですよ。岡部さんには渡したくないと強く思わせて」ヒソヒソ
キョン「そんなにうまくいくか……?」
ハルヒ「ラボに文句言いに行きましょ! あんなの不当よ! クーリングオフよ!」
ハルヒ「そもそも電子レンジで過去を変えるなんて、笑えない冗談だったんだわ。それならまだ異世界に通じるテレビのほうがゴロゴロ転がってるってもんよ!」
キョン「リコール問題がタットワの技法を通じて多世界で勃発するだろうな。まぁ、そう簡単に世界は変えられないってこった」
ハルヒ「ふん、当然でしょ。最近の日本の首相みたいにコロコロ変わったら世界のほうが混乱しちゃうわ」
ハルヒ「それで、重要な機能って?」
古泉「重要な機能があることが判明しただけで、それが何かまでは、すいません、力不足ゆえつかめませんでした」
古泉「どうやら先進各国が熾烈な諜報戦を繰り広げ、水面下で衝突が起きているようです」
ハルヒ「ほうほう……!!」キラキラ
キョン(楽し気だな)
プルルルル プルルルル
キョン「ん、長門から電話だ。ちょっと電話出るぞ?」
ハルヒ「あんた成長したわね。ちゃんとあたしに許可を取るなんて」
キョン(そういうつもりで言ったんじゃないんだけどな)
キョン「あーもしもし? 長門か?」
長門『ラボに来て』
キョン「ラボにか? どうして」
長門『岡部倫太郎がSOS団に依頼したいことがあるらしい』
キョン(去り際に言ってたアレか……)
2010.08.11 (Wed) 17:55
未来ガジェット研究所
岡部「色々頼んでしまってすまない」
キョン「いえ、岡部さんの頼みであれば」
古泉「IBN5100を発見するまではご助力致しますよ」
キョン(よくもまあいけしゃあしゃあと)
ハルヒ「いつの間にかSOS団男子があの変態男に懐柔されているッ!? これはミステリーよ、いやSFよ!!」
キョン「落ち着け」
古泉「それで、どのような用件でしょうか」
岡部「このケータイの画像を見てくれ」スッ
キョン「ん……? これは、なにかのメダルか?」
岡部「実はな……」
岡部「なんとかしてこのピンバッジを作ったやつの正体を掴みたいんだ。おそらくそいつが阿万音鈴羽の父親だ」
岡部「他にわかっているのは、父親の二つ名が『バレル・タイター』であることくらいだ」
キョン(バレル・タイター……。ジョン・タイターの親戚か? あ、いや、阿万音さんがジョン・タイターだという岡部さんの言を信じれば実際一親等なのか)
岡部「詳しいことは言えないが、期限は二日以内。明後日には鈴羽は確実にこの街を飛び立ってしまう。手伝ってくれるか?」
ハルヒ「阿万音さんのお父さん……」
みくる「あの話って、阿万音さんのことだったんですね……ぐすっ……」
キョン(しかし、ジョン・タイターこと阿万音さんはおそらくこれから1975年へタイムトラベルし、2000年に43歳の若さで亡くなる……。これは、言わないほうがいいんだろうか)
古泉「善処します。ですが、これでは情報が少ないですね……」
キョン「どうやって探すつもりで?」
岡部「それは、こう、足でだな……」
紅莉栖「随分と地道ね。仮にも未来ガジェット研究所なんだから、もっと未来的な方法はないの?」
岡部「そんな都合のいいものはない」
キョン(未来的な方法ね……)
ハルヒ「わかったわ。阿万音さんのためにもひと肌脱いであげる」
ハルヒ「それに、宝探し第二弾って感じでワクワクするわ! 最初に発見した人には岡部倫太郎から盛大なプレゼントがあります!」
岡部「勝手に作るな! そんなものはないッ!」
紅莉栖「いいえ、脳科学的にも目標達成に対してご褒美を設置するのはドーパミンの分泌量が増えてモチベーション的な意味で良いことだわ」
岡部「お前は『自分へのご褒美~♪』とか言って仕事終わりにコンビニケーキとか買っちゃうスイーツ(笑)OLかッ!」
紅莉栖「う、うるさいな! 糖質はチロシンの吸収効率を上げるのよ、無知乙!」
ハルヒ「SOS団チームの威信にかけて、一番に見つけるわよ! さぁ、あたしたちはクジ引きで手分けして探しましょ!」
キョン「結局また不思議探索になるのか」
古泉「前も言いましたが、これこそ我らSOS団の本分かと」
キョン(たしかに阿万音さんの素性についてはもっと情報が欲しい。肉親について何かわかれば阿万音さんの渡航目的もハッキリするかもしれん)
キョン(俺たちにとって、世界にとって、敵なのか、味方なのか)
ハルヒ「決まりッ! それじゃ、古泉くん、一緒に行きましょ!」
古泉「お任せあれッ!」
キョン「……朝比奈さん、行きましょう。長門、機械いじりはまた後でな」
みくる「はぁい」
長門「わかった」
キョン(このタイミングで両手に華の班員構成になるとは、アレをしろってことだよな……)
2010.08.11 (Wed) 18:04
芳林公園
キョン「それで長門。例のピンバッジの制作者なんだが」
長門「あのピンバッジはまだこの世界に誕生していない」
キョン(俺はなんとなくそんな気がしていた)
キョン「ということは、この時間平面の秋葉原を探し回っても絶対に見つからないってことだな」
みくる「そんなぁ……。阿万音さんがかわいそうですぅ……」
キョン「というわけでして、朝比奈さん。相談があるのですが、長門と二人で未来へ行って、長門の宇宙的パワーで制作者を探し当てて、ここに帰って来てもらっていいですか」
みくる「え……、えええっ!?」
長門「…………」
キョン(ちょっとズルい気もするが、阿万音さんについては知っておく必要がある気がするのだ。なによりハルヒがピンバッジを見つける気満々だからな。ついでに岡部さんへの恩も返そう)
みくる「えぇぇ!? 未来から許可がおりましたぁ……。なんでぇ……」
キョン(やっぱりか)
長門「……手、繋いで」
みくる「あ、はいぃ……」ドキドキ
キョン「それじゃ、よろしく頼みますよ朝比奈さん」
みくる「えっと、タイムトラベルの瞬間を見ないでくださいね? 禁則事項なので……」
キョン(まぁ、女の子二人で女子トイレの個室に入るのも変だし、俺が目をつぶってればいいだけだな)
キョン「わかってますよ。あっち向いてます」クルッ
みくる「そ、それじゃ長門さん。い、行きますね……」
長門「…………」
キョン(何やら気まずそうな沈黙を交わしていた二人の気配が忽然と消えた)
キョン「……行ったか」
キョン(そういや未来人の家族構成ってのは興味があるな)
キョン(以前朝比奈さんに質問した時は、唇に指を当て、完璧なウインクとともに『特級の禁則事項です♪』なんて言われちまったしな)
キョン「そろそろか」
キョン(62秒後、思った通りさっきの気まずそうな沈黙が俺の背後に現れた)
みくる「た、ただいま戻りましたぁ」
キョン「早かったですね」
みくる「は、早くないです! 大変だったんですよぉ! もう!」
キョン「あはは、すいません」
キョン「それで、長門。どうだった?」
長門「あのピンバッジを制作するのは未来ガジェット研究所。その前に一度制作しようとして中断するのが橋田至、ラボメンNo.003」
キョン「あぁ、あの太った……。って、は? なんだそりゃ、俺たちはタチの悪い自作自演に付き合っているというのか?」
長門「因果の環が時間的に閉じている。ウロボロス的円環」
キョン「……朝比奈さん、どういうことでしょう」
みくる「え、えっと……。わかりません」
キョン(ピンバッジの制作者は阿万音さんの父親なんだろ? それで実際の制作発案者は橋田至……)
キョン(ん? 橋田? 阿万音さんの偽名は橋田鈴……。まさかな。万が一、いや、億が一そうだとしたら突然変異体<ミュータント>として遺伝子研究が叫ばれるだろう)
長門「つまり、既定事項」
みくる「あっ……」
長門「橋田至は本日午後6時45分頃、秋葉原の露天商にピンバッジ制作を依頼する」
キョン「なんだ、じゃぁ俺たちがすることはもう無いんだな」
長門「だが、現在橋田至はその行動を取ろうとしていない。思いつきもしていない」
キョン「んん?」
長門「わたしたちが橋田至にそのような既定事項を実行するよう促す必要がある」
キョン「あー、ってことはあれか。今年の1月に朝比奈さんとやった、ハカセ君をオレンジツインテール超能力者組織から救出した作戦とか、2月にやった釘と空き缶のイタズラみたいなやつか」
長門「そう」
みくる「ひぅっ……」
キョン「それなら簡単だ。俺たちが直接会ってそうするように頼んでくればいい。見ず知らずの人でもないしな」
長門「だが橋田至の人間性として基本的に自分の意志を貫徹する揺るぎない精神を持っている。現在は阿万音鈴羽のタイムマシン修理のみに意識が行っている」
キョン「なっ」
みくる「た、たいむましん?」
長門「加えて価値観の最高位に萌え・美少女・性欲が支配的に存在している」
キョン(なんという漢だ……)
長門「この場合、三人のうち最も適切なネゴシエーターは朝比奈みくる」
みくる「あ、あたしですかぁ……ひぇぇ……」
長門「今からあなたを橋田至が存在する座標に転送する。頑張って」
みくる「えっ、ちょ、ちょっと待ってく」シュン
キョン「き、消えた……。長門よ、マジで朝比奈さんを偵察部隊が未帰還の敵地に放り込んだのか?」
長門「彼女なら大丈夫」
キョン「たしか朝比奈さんは未来から行動を規制されていて、自分では因果をいじるような現象を操作できなかったんじゃ?」
長門「今回の件に関してはその限りではない」
キョン「どうして長門にそれがわかるんだ? もしかして、朝比奈さん(大)から直々にお前に伝令があったのか?」
長門「……禁則事項」
キョン(今のは長門なりにエスプリの効いた冗談なんだろう。その一ミクロンほど小首を傾げた無表情少女の顔はどこか現状を楽しんでいるように見えた)
キョン「……事が落花狼藉に及んだら緊急脱出措置を頼むぞ」
長門「」コクッ
ラジ館8F
みくる「――――――ださいってえええ!!? ここどこですかぁ!? なんであたし飛ばされたんですかぁ!?」ピィィ
ダル「んお? おぉ誰かと思えばミクルン氏。どしたん? もしかして頑張ってる僕のために専属チアリーディングを披露してくれるとか……ハァ……ハァ……」
みくる「えっと、そのぉ、ふみゅぅ……」
ダル「んほーーーっ!! ミクルン氏がそばに居てくれるだけでやる気100倍だお!!! やばいっす、ロリでちょいエロは無敵っす!!! もうタイムマシンなんかちょちょいのちょいって直しちゃうんだからね!!! 勘違いしないでよね!!!」
みくる「ひいっ!!!……えっ、た、タイムマシンなんですか、それ」
ダル「あれ、オカリンたちから聞いてなかったん? 今僕は阿万音氏が乗るためのタイムマシンをフェイリスたんとの一日デートのために一生懸命修理しているところなのだぜ。キリッ」
みくる「えっ、阿万音さんが、タイムマシンに……?」
みくる「そうだったんですかぁ。亡くなったお父さんに会うために2036年の未来から……。それに会えなくてもすぐ1975年に旅立たないといけないなんて……」グスッ
みくる「しかも過去にしかいけないタイムマシンなんて……。あんまりですぅ……」ヒッグ
ダル「ちょっとせつない話だよね。今オカリンたちが例のピンバッジ、もといその制作者の阿万音氏パパを探してるみたいだけど……。見つかってほしい、いや、絶対見つかるはずだお」
みくる(本当はあなたが作ることになるんですよ……。あれ、でも、っていうことはピンバッジの制作者は橋田さんで、制作者は阿万音さんのお父さんで、あれ……?)
ダル「それで、ミクルン氏は何しに来たん? ホントに僕のことを応援に? これってフラグなんじゃ……」ドキドキ
みくる「え、えっと! 橋田さんも一緒にピンバッジ探しましょう!」
ダル「うーん、ホントにそうしたいのは山々だし、僕だって阿万音氏の父さん見つけてあげたいって本気で思ってるんだけど……」
ダル「正直あと2日でこれを直しきる自信はまだ無いっつーか、僕の修理が間に合わなかったら阿万音氏がタイムトラベルできなくて元も子もないわけで、それだったら適材適所っつーか……」
みくる「橋田さんなら大丈夫です! 絶対タイムマシンを直せます!」
ダル「お、おーっ!! ゆるふわ系ロリ巨乳JKに力強く説得されたらなんかそんな気がしてきたお!! 胸アツ展開ktkr!!」
みくる「それで、あたしから提案があるんですが……」
ダル「あぁー、その提案お持ち帰りしたいぃぃぃ。あ、今のは竜宮ラナたんの名台詞だお。これ豆~」
みくる「多分、ピンバッジの制作者、つまり阿万音さんのお父さんは見つからないと思うんです……。東京は広いですから」
ダル「……ミクルン氏、意外にリアリストな件」
みくる「だから、あたしたちでピンバッジを作っちゃって、お父さんの痕跡が確かにこの2010年にあったって思わせてあげたいんです……」
ダル「あー、なるほどその手があったかー。んー、でもミクルン氏、ちょっとそれって卑怯な気が」
みくる「……卑怯なんかじゃありませんッ!!!」
ダル「うほっ」
みくる「お父さんとお母さんと離れ離れになって、会いたいときに会えなくてッ!!」
みくる「大好きだったのに、いつまでも仲良く暮らしていたかったのに……」
みくる「突然時間的過去へ行くミッションを押し付けられてッ! それをやらないと世界が危ないからってッ! どうして自分以外の人じゃなくて、自分なんだろうって!」
みくる「知ってる人が誰もいない世界に来て! 情報も規制されてて! やりたいことも限定されてて!」
みくる「さみしくて、孤独で、不安で、お父さんとお母さんに連絡を取りたくても取れなくて、生きているかも死んでいるかもわからない人の気持ちが……ッ!!」
ダル「ちょ、おちけつミクルン氏」
みくる「……ッ!! す、すみません……」グスッ
ダル「ひえーっ、ミクルン氏突然どしたん?」
ダル「……んー、でも、ミクルン氏の考えも一理ある罠。ホントに見つからなかった時は、それ、やっとくべきと思われ」
みくる「そ、それじゃぁ……!」パァ
ダル「つーかミクルン氏みたいなかわいい女の子に泣いて頼まれて断る男なんていないのだぜ。キリッ!」
2010.08.11 (Wed) 18:50
芳林公園
みくる「ピィィィィッ!!」ドサッ
キョン「……長門よ、なんの予告も無しに空間転移を行うのは心臓に悪いと思うぞ」
長門「次回から気を付ける」
キョン「……朝比奈さん、お疲れ様でした。どうやら橋田さんのほうも無事うまくいったみたいですよ」
みくる「キョンくぅん……。こわかったですよぉ……うぇぇん……」ヒックヒック
キョン(朝比奈さんには申し訳ないが、なんとも愛くるしいお姿である)
長門「…………」
キョン「さ、俺たちのミッションもこれでコンプリートだ。ハルヒたちと合流しよう」
2010.08.11 (Wed) 23:30
湯島某所 男子部屋
キョン(ハルヒたちと中央通りで合流したのち岡部さんと偶然鉢合わせ、ピンバッジの件に関して報告があった。つまり、橋田さんがピンバッジを作ろうとしていたので外人露天商にはピンバッジの件を聞いても無駄だ、という話だ)
キョン(この件についてはハルヒいわく)
ハルヒ『なかなか行動力のある人じゃない。嘘には二種類、人を傷つける嘘と、人を幸せにする嘘とがあるってことね。嫌いじゃないわ』
キョン(などと謎の好評価が付与されていた)
キョン「それで、古泉。結局阿万音さんの父親って誰なんだ?」
古泉「さぁ、そればかりは機関の総力を挙げてもわかりようがありません」
古泉「朝比奈さんから聞いたところによると、彼女は2036年から来たとのこと。2036年から来たということは、阿万音さんの誕生年は2017年。その父親なる人物は2010年現在において父親ではないのですから」
キョン「そりゃそうだ。こればっかりはわからんよなぁ……。長門with朝比奈さんのアイドルユニットによる未来へのライブツアーついでに調べてもらえばよかった」
古泉「今日はあの人工衛星が未来ガジェット研究所の制作した、いえ、将来的に制作するであろうタイムマシンであるという推測の裏が取れましたね」
キョン「そうだっけか?」
古泉「橋田さんが直していたのでしょう? ということは、おそらく彼に直せる構造であるということ。推測に推測を被せている状態ですが、例の電話レンジ(仮)とやらと構造が似ているのでは?」
キョン「なるほど。ってことは阿万音さんは未来ガジェット研究所側の人間ってことで決まりか」
古泉「未来のことなので今いち雲を掴むような話になってしまうのですが、もちろん、例の地下組織ラウンダーから送られたスパイだという可能性は0%ではありません」
キョン「あんな大学生サークルに張り付いて一体何の得があるんだと思っていたが、実際将来的にタイムマシン開発にこぎつけるとなると狙う理由もそれなんだろうな」
古泉「それに、朝比奈さんから聞いたように、あの人工衛星は過去にしかいけない。これが橋田鈴が1975年以降未来へ飛ばなかった最大の理由でしょう」
キョン「想像を絶する話だ……」
キョン「それで、例の掲示板を賑わせていたジョン・タイターなる人物があの阿万音さん本人だったわけだ」
古泉「未来人はジョンを名乗るのが好きなようですね。あなたと気が合うかもしれませんよ」
キョン「親父がバレル・タイターだったからという理由でタイターを名乗るのはともかくとして、どうしてそこで“ジョン”をチョイスしたんだか」
古泉「おそらくあなたと同じ理由でしょう。ありふれた名前であるというその一点では」
キョン「なぁ、2000年に来たジョン・タイターも阿万音さんだったんだろうか」
古泉「前も言いましたが、僕はその世界線での記憶が無いのでなんとも言えませんよ」
キョン「掲示板上の阿万音さんはなんて言っていたんだ?」
古泉「朝比奈さんが反応しなかったこと、また虚偽の情報が多くあったので今までまともに取り合っていませんでしたが、こちらがジョン・タイターの発言の一例になります」ペラッ
タイムマシンはSERNによって独占されています
一般人も企業も手に入れることはできません
彼らは自身の利益のためだけに用いて、世界にディストピアをもたらしました
私は未来を変えるためにやってきました
SERNによって作られたディストピアを破壊し、ふたたび自由を手にするためです
キョン「SERNねぇ……」
古泉「SERNによってタイムマシンが独占されているということは、ジョン・タイターはSERNの作ったタイムマシンを盗んで過去へ飛んだということでしょうか。タイムマシンを利用して過去改変が可能なディストピア社会がなぜそれを見過ごしたのか」
古泉「その他、世界線の解釈についても多世界解釈の立場を取っていました。このように矛盾点が多かったので信用できなかったのですが、これが阿万音さんの作戦だったとは……」
古泉「ノイズまみれの中にほんの少しの真実を混ぜることにより、特定の人物、今回の場合リーディングシュタイナーを持っていた岡部さんを炙り出す手法だったわけです。まんまとしてやられましたよ、なかなかどうして切れ者じゃないですか」
古泉「SERNという単語、非常に気になる存在となりましたね」
キョン「牧瀬さんがSERNと繋がっている、と阿万音さんが言ってたんだったな」
古泉「SERNと未来ガジェット研究所の共通点と言えば、ブラックホールです。SERNはかつてブラックホールを作る実験をし、失敗している」
キョン「なるほど、それに対してこっちは成功している……。産業スパイ的なアレで知りたい情報ってことか」
古泉「しかし、牧瀬さんがSERNと繋がっているという点について機関として色々調べましたが特に何も発見できませんでした。彼女は物理学者ではなく脳科学者ですからね」
古泉「ちなみに父上である章一氏とも繋がりはありませんでした」
古泉「もしかしたらこれから先の未来に接点を持つ、ということかもしれませんが、その場合は同じくお手上げです。調べようがありません」
キョン「タイムトラベラーの言うことはややこしくていかんな、うん」
古泉「そしてSERNがディストピアを構築するという予言……。正直一研究機関が世界の統治機構へと変貌するなど、全く考えの及ばないことです」
キョン「まぁでもSFの定番なんじゃないか? ターミネーターだってスカイネットっていう便利ツールが世界を支配しちまうわけだし」
古泉「そう。結局、未来は何が起こるかわからないからこそ未来なのであって、今の僕たちにはどれだけ推理を重ねても想像の域を出ないのです。なぜならバタフライ効果ですべてがひっくり返される可能性がある」
キョン「なら現在より過去のことを推測すればいい。今まで名前が挙がった怪しい組織は、ラウンダーとSERNだ」
キョン「ラウンダーってのはSERNが親玉なんじゃないか?」
古泉「……いえ、やはりSERNはどこまでいっても研究機関に過ぎないはずです。可能性があるとしたら、SERNでさえも陰謀の手先に過ぎず、さらにそれを裏で扱うような世界的な組織がいなければ、そのような結果にはならないかと」
キョン「なんだそりゃ、ユダヤの陰謀論か?」
古泉「ホントにそうかもしれませんね。ですが、仮にラウンダーがSERNの産業スパイ軍団だとすると天王寺裕吾氏と橋田鈴氏が4年近く仲良く暮らしていた理由がわからない」
古泉「阿万音さんが未来ガジェット研究所側の反ディストピア組織の一員であった場合、人間関係がかなり複雑なことになってしまいます」
古泉「ラウンダーがSERNの下部組織であるという仮説に発生したこの天王寺橋田問題に関して、一番わかりがいいのは未来ガジェット研究所が将来的にSERNという支配機構の一部となる、ということ。この場合、阿万音さんはラウンダーです」
古泉「あるいは未来ガジェット研究所がディストピアを築くために目の上のたんこぶであるのがSERNであり、これを滅するよう動いていること」
キョン「つまりジョン・タイターの発言はまるっきり反対ってことか」
古泉「これらの仮説のほうが、より可能性があるかと」
キョン「あんまり信じたくないな……」
キョン「最後にアレだ。岡部さんが突然おかしくなった件について。まぁ、あの人は元々おかしいが」
古泉「それについては長門さんから情報を得ています。あのラボの奥で牧瀬さんが一心不乱にいじっていたもの。それはタイムリープマシンらしいのですよ」
キョン「タイムリープマシン? Dメール送信装置の改良版ってことだろうが、何が違うんだ?」
古泉「つまり、自分の脳内にある記憶を過去に転送できる……。物理的タイムトラベルは達成できなくとも、これならば過去に意識を送ることができます」
キョン「記憶を転送するタイムリープね……。まるで昔の長門がやってた記憶の同期みたいだな。また4年前の七夕を思い出すぜ」
古泉「まさに時をかける少女のソレですね」
キョン「それと岡部さんとどういう関係が……って、あの時、未来の岡部さんが転送されてきてたのか?」
古泉「間違いなくそうでしょう。本来持ちえない記憶を未来から持って帰ってきた、とも言えます」
キョン「Dメールに続いて、過去にしか行けないタイムマシン。そして記憶を過去に飛ばすタイムリープマシン……。ハルヒの過去改変願望もついにここまで来てしまったか」
古泉「これでより操作的に過去を改変できるようになりましたね。よかったじゃないですか」
キョン「またトンデモ世界への改変だけはよしてくれよ……」
古泉「正しい明日が来ると信じて。おやすみなさい」
‐‐‐
なあ。ハルヒ
なによ
そう遠くない未来にタイムマシンが開発されたとしてさ、その数年後のお前が今この時代に来れたとして、もし今の自分に会ったりしたら、その未来の自分が何を言うか想像できるか?
はあ?……数年後ってことは大学生になってるかしらね。で、そのあたしが今の自分に来て……か。ふぅん? たぶん、あんたって全然変わんないのねって今のあたしが逆に言ってあげると思うわ。だってあたし、2年や3年や5年で自分の信念が変わったりしない自信があるもの。でも、どうしてそんなこと訊くの?
思いついただけだ。未来の俺はどれだけ成長するだろうかなと気になってな
なら、安心しなさい。あんたはきっとずっとそのままだから。それともあんた、中学生の自分に説教できるほど精神的な成長を遂げたとでも言いたいの?
――4か月前の俺はぐうの音も出ないほど反論できなかったが、今は違う。
「人間ってやつは、時間が経つだけで変化するんだ。記憶も肉体も」
「それにハイデガーも言ってただろ? 人間は根源的に時間的存在であるってな」
「お前が変わってないんだとしたらそれは気付いてないだけだ。一つ間違いなく言えるのは、お前は色気が出てきている」
「それだけじゃない。お前は1年前から大きく様変わりしている」
「あの頃の勢いを残しつつ、だが少しずつ、確実に一歩一歩階段を上っているのは、いくら洞察力がガラパゴスゾウガメの全力疾走より鈍重だと自覚している俺にだって解るぜ」
「時間という存在がある限り、どうしたって変化するんだ。それが成長と呼べるものであるかは責任を持てないが」
「仮にお前が、俺たちの関係についてずっとそのままであってほしいと望んでいるのなら……」
「ずっとそのままを望んでいるのなら? それは、つまり、どうなるんだ……?」
---
-------------------------------------------------------
◇Chapter.6 涼宮ハルヒのアタッチメント◇
-------------------------------------------------------
D 0.337187%
2010.08.12 (Thu) 11:45
秋葉原 牛丼専門さんぽ
翌日は逆に晴天の霹靂が起きたのかと思うくらい非日常的現象はその影をひそめた。ひそめただけで俺の隣に這いよる混沌と化していただけだが。
ハルヒは相変わらず阿万音さんの父君を訪ねて三千里に熱を入れており、午前中はいつものクジ引きで2班に別れた。
そんな折、岡部さんのケータイから古泉のケータイに電話が入った。橘京子の時もそうだったが、コイツには知らぬ間に重要人物と連絡先を交換する特技があるらしい。
話によると、なんでもピンバッジ捜索の礼として飯をおごってくれるというのだ。
人に飯をおごってもらうなんて俺にとっては僥倖もいいところだが、それはそれとして岡部さんとはもう少し色々話をしたかったので俺たちは誘いに乗ることにした。
……この店、実は一度来たことあるんですよね、とは言えなかったのであった。
キョン「いやあ、なんだか申し訳ないです」
岡部「何を言う。お前たちをこれ以上タダ働きさせていたらラボメンNo.001としての沽券に関わるからな」
古泉「では、お言葉に甘えて」
キョン(この人はたしかに岡部さんだ。軽口だって俺たちの知ってる岡部さんそのものだ。だが、どこか雰囲気が違う……。なんというか、老け込んだ?)
キョン「父親捜しの件ですが、うちの未来人による未来的身辺調査は上司からNGが出たらしく、やっぱり足で探すしかないみたいです」
キョン(いったいどんな基準で査定してるんだか)
岡部「そうか……。残念だが、未来人にも都合があるのだろう。当たってもらってすまないな」
古泉「それで、僕たちを呼びつけた本当の理由をお教え願えますか」
岡部「……実はな、機関に属する少年と、魔眼の能力<チカラ>を擁するお前たちに、IBN5100のことで相談があるのだ。本当はお前らを巻き込みたくはないが……」
古泉「奇遇ですね。僕たちもそのことで丁度お話がしたかったところです」
キョン「まぁ、乗りかかった舟です。俺たちでよければ」
岡部「その前に説明しなければならないのは……、俺は。……8月13日から昨日11日へと48時間を……!」
岡部「“タイムリープ”してきたッ!!」
キョン「やっぱりそうでしたか」
古泉「推理が当たるとやはり嬉しいものです」
岡部「……やはり簡単に信じるのだな、お前たちは」フッ
岡部「もう数えるのを諦めるほどにタイムリープしている。そこで得た情報を整理すると、IBN5100はエシュロンを通じてSERNのサーバーに捕縛されてしまった俺のDメールの情報を削除するために必要らしい」
キョン(この間俺に言いかけてたIBN5100の使い道か。そんなことにホントに使えるのか?)
岡部「まぁ待て。最後まで話を聞け。SERNはIBN5100でしか解析できないプログラミング言語で機密を暗号化している。ゆえにIBN5100の入手が前提となる」
岡部「SERNにハッキングなどできるのか、だと? 心配するな。俺の友人にはスーパーハカーがいる。我が頼れる右腕<マイフェイバリットライトアーム>こと、ダルだ」
岡部「ではDメールデータを削除して何がどうなるか、というと、どうやら世界線を大きく移動できるらしい。今俺たちが存在しているα世界線のアトラクタフィールドを脱出できるほどの、今まで経験したことが無い大変化だ」
岡部「アトラクタフィールドというのは……なに、もう知っている? それならば話が早い」
岡部「さて、ではなぜα世界線のアトラクタフィールドを脱出しなければならないかという話だが……。理由は二つある」
岡部「一つは、α世界線では将来的にSERNがタイムマシンを完成させてしまい、世界中のあらゆる技術やら情報やら人間の思想やらをその過去改変能力を用いて統制下に置くらしい。いわゆるディストピアだ」
岡部「例のDメールデータの削除によって、SERNがタイムマシンを完成させる未来が回避できるらしい。理屈はよくわからんが、これによって世界線を大きく移動、ディストピアの無いβ世界線へと改変できるというわけだ」
岡部「鈴羽がジョン・タイターだということは昨日伝えたな。アレはどうやら反SERN組織のメンバーで、要は世界平和のために動いているらしい」
岡部「あいつは明日あの人工衛星のような見た目のタイムマシンに乗って、1975年へIBN5100を確保しに行く。そうして俺たちに未来を託そうとしているわけだ」
古泉「大丈夫ですよ、僕らはお話についていけています。そんな不安げな顔をなさらないで」
キョン「まぁ、突然タイムトラベルだなんだと言われて驚いてるのは確かですが、Dメールの過去改変を取り消した俺たちですから」
岡部「なかなかどうして無鉄砲な逞しさじゃないか。俺は少し、臆病になってしまったのかもしれない……」
キョン「これはそのまま信じていいんだろうか。岡部さんが嘘を吐いているという訳じゃなくてな、情報源はおそらく阿万音さんなんじゃないかと思うんだが」ヒソヒソ
古泉「阿万音さんが岡部さんに嘘を吐くメリットも無いと思います。それに、一応話の筋が通っている。取りあえず全面的に信じてみましょう」ヒソヒソ
古泉「それで、二つ目の理由をお聞かせ願えますか」
岡部「……わかった。言おう」
岡部「この世界線から脱出しなければならない理由の二つ目……。それは……」
岡部「まゆりが……ッ! 椎名まゆりが……、死んだ……、いや、これから死ぬからだ……ッ!」
古泉「!」
キョン「……死?……マ、マジでかッ!?」
キョン(確かに俺たちはSOS団として色々な事件や困難を乗り越えてきた)
キョン(俺に至っては朝倉に2度も殺されかけたし、長門も天蓋領域にかなりヤバいところまで追い詰められた。古泉に至っては日常的に命がけだ。朝比奈さんだって病原菌だらけの池に飛び込んだりした)
キョン(何より、暗黒の十字架に磔となったハルヒの姿は、今でさえ思い出すだけで九曜と藤原をぶち殺したくなる)
キョン(だが、こんなにも揺るぎない死の宣告を“過去形で”突き付けられたことは、今の今までなかったんだ……)
キョン(耳を疑う話に俺は色を失った)
岡部「まゆりは、俺の幼馴染だ。かつて俺は、あいつをどこにも行かせないと誓ったんだ……」
古泉「……あなたは、椎名さんの死を目撃するたびにタイムリープを繰り返したのですね」
キョン(岡部さんの雰囲気が昨日の昼頃のソレと変わっていたのはそういうことか……)
岡部「……そうだ。どんなに過去を改変しようとしても、世界が結託してまゆりを殺しにかかってくる……」
キョン(何度試しても、大切な人の命を救えず、死ぬ……。どれほどの無力感か、俺には到底計り知れない……)
岡部「まゆりの死の回避のために、お前たちに相談しこともあったが、ダメだった……結果はすべて悲惨なものとなった……」
キョン「お、俺たちに頼んでダメだった……? えっと、具体的には何が起こって……?」
岡部「……知らないほうがいい」
古泉「まさに『タイムマシン』……。言及すべきはウェルズの原作ではなく、2002年の映画のほうでしょう」
古泉「主人公の物理学者は恋人を強盗に殺されてしまう。タイムマシンを完成させた彼は何度も過去へ行くがそのたびに別の事故に巻き込まれて恋人は死亡する。運命には逆らえない」
古泉「彼女を救えない真理を追究するため未来へタイムトラベルした主人公は野蛮な人類が世界を裏で支配する原始的な世界へと到着します。まさにディストピアが広がっていた」
古泉「そこにあるのは、天壌無窮の絶望」
岡部「だが、鈴羽は言った。世界線変動率<ダイバージェンス>1%の壁を超えることができれば……、β世界線へ到達することができれば、まゆりは助かるかもしれない、と」
キョン(1%……。話の流れからして、きっとそれはとんでもなくデカい数字なんだろう)
岡部「基本的にはSERNの下部組織、ラウンダーがラボに襲撃してくることによってまゆりは殺された。ゆえにSERNのサーバー内にある『牧瀬紅莉栖』の文言が書かれた未来からのメールという、やつらが興味を持つ存在を削除すれば、俺たちのマシン収奪に至る動機がラウンダーに発生しない、らしい」
キョン「……ラウンダーがSERNの犬で決まりか。ってことは、古泉の言う通り、想像だにしない陰謀の影が世を席巻していることになるな」
古泉「正直言って最悪の結果です。涼宮ハルヒを擁する僕たちSOS団が安易に接触してはいけない規模の相手でしょうからね。警戒を厳にするよう機関に通達しておきます」
岡部「だが、まゆりが助かる可能性は確かにそこにある」
古泉「あるいは、助からないかもしれない」
岡部「!?」
キョン「お、おい古泉」
古泉「もし現在のα世界線アトラクタフィールドを脱出しても椎名さんが若くして亡くなる収束があったら?」
岡部「ならば、またそのアトラクタフィールドを脱出するだけのことだ」
古泉「現在僕たちが所属しているα世界線のアトラクタフィールドに関する収束事項の捜索は、困難ではありますが可能ではあるでしょう。タイムリープが可能ならば猶更」
古泉「しかし、α以外のアトラクタフィールドがどのような収束条件を持っているかを覗きみようとするには、この世界の束、宇宙の法則の外側に観測点がなければ発見しようがない」
岡部「なら、俺のリーディングシュタイナーがそれになればいい」
古泉「生きながらにしてあなたは無間地獄へと身を落とすというのですか」
岡部「……まゆりは、どうしても、幸せに生きていてもらいたいんだ」グッ
キョン「いい加減にしろ古泉。意地が悪すぎる」
古泉「失礼。岡部さんの決意のほどを、真実の言葉をどうしても聞いておきたかったので」
岡部「……?」
古泉「僕たちSOS団としても、団長のご友人を運命に易々と奪われるようでは立つ瀬がありません。それにやはり、ディストピアになる将来など嫌ですからね」
キョン「まったく古泉という人間はどこまでも面倒くさい男だ。岡部さん、俺だってその、リーディングシュタイナーとやらを患っているんです。世界改変、一緒に付き合いますよ」
キョン(こういうことに対していつまでも憮然としているだけの俺ではないのだ。なんだかんだで俺という人間も変わってきたのかもしれない)
岡部「お、おお……! 未来ガジェット研究所とSOS団との共謀と行こうではないかッ! 我が望みは、世界の混沌ッ!」
古泉「そして我らが望むは世界を大いに盛り上げること。涼宮さんを中心として」ンフ
キョン(まさかこんな安っぽい牛丼屋で世界の真理に対抗するパルチザンが結成されているとは、お釈迦様でも思うまいよ。『斉天大聖』の四字がどこにも書かれていないことを渇仰するばかりだ)
岡部「それで、目下の鈴羽父親捜しに関してだが、これは世界線改変には関係ない。ただあいつが父親の正体を知りたいと言うから探しているだけだ」
古泉「それでタイムリープしてきたということは、発見できなかったのですね?」
岡部「そうだ。リープ前の明日8月13日、俺は西洋人露天商からピンバッジ制作を依頼してきたやつの情報を手に入れたが、リープして昨日8月11日に戻ってみるとその実行犯はダルだった。昨日話した通りだ」
キョン(でもそれはどういうわけか必要な因果、既定事項なんだよな……)
岡部「俺は既に機関の組織的能力が高いことを知っている。西の高校生探偵よ、またその力を貸してはくれないだろうか」
古泉「機関の力を頼っても結果は芳しくなかったのでは?」
岡部「そ、それはまゆりの件に関してだ。今回の人捜しなら問題ないかと思ってだな……」
古泉「ディストピア回避や椎名さんの運命を救うことには協力しますが、正直言って人捜しなどに人員を割けるほど機関も暇ではないんですよ」
キョン「お、おい。別に拒否するほどのことでは」
古泉「世界的規模の陰謀に涼宮さんが巻き込まれようとしている。それだけで機関が動かない理由としては十分かと」
岡部「……わかった。悪かったな、鈴羽の父親捜しは確かに俺の自己満足だ。無理に手伝ってもらう必要はない」
キョン「……それでも、きっと見つかりますよ」
岡部「……なぜそう言える」
キョン「うちの団長が、それを望んでいるからです」
岡部「……あぁ、確かにあれほどバイタリティーに溢れているソーラーガールであれば、親父殿の首根っこをひっつかんで連行してくるかも知れんな」
古泉「機関として岡部さんに直接協力することはできませんが、涼宮さん主導の捜査に対しての協力ということであれば全力で暗躍いたしましょう」ンフ
キョン「こいつは……。そのお役所的な発想はなんとかならんのか」
2010.08.12 (Thu) 14:35
晴海大橋
キョン(午後の班分けの時にハルヒはこう言った)
ハルヒ『あたしたち、そもそも阿万音さんについての情報を知らなさすぎたんだわ! だからお父様も不審がって出てこないのよ! というわけで、これから阿万音さんと全ッ力で仲良くなるわよ!』
キョン(これが例のフラグ回収だったのかどうかはわからない。もしかしたらハルヒが先天的に獲得している人並み外れた嗅覚のおかげか、あるいは人類未踏の周波数を受信するための脳内電波探信儀のおかげか)
キョン(なにはともあれ、うちの団長様はおっちょこちょい異世界人もとい未来人ジョン・タイターとの友好条約締結をお望みなのである)
ハルヒ「ほら、キョン! もっと風を切って漕ぎなさい!」
キョン(全く別件で注意したいことがある。公道での自転車の二人乗りは基本的に道路交通法違反であり、公道でなくてもかなり危ないのであって絶対にやってはいけない。どうして秋葉原のレンタサイクルショップに運悪く人数分台数が無かったんだろうね)
ハルヒ「ただでさえ暑いんだから、こんなスピードじゃサイクリングの爽快感なんて味わえたもんじゃないわ!」
キョン(背後から太陽光線を背負った熱血太陽ガールが俺の全力ケイデンスにケチをつけてきやがる。だれかー、助けてくれー)
※伽夜乃なんて居なかった
鈴羽「ちょっと休もうか。んー、川から吹く風が気持ちいいねー!」
古泉「この辺りの運河や川はよく整備されていますね。リバーサイドロードはたまに階段があるので自転車では移動が大変ですが」
みくる「はひゅぅ……。疲れましたぁ……」
鈴羽「朝比奈みくるはよく頑張ってるよ! ホント、一緒についてきてくれてありがとう」
長門「…………」
鈴羽「長門有希はすごいね……。一切表情を変えずにスピードを維持するなんて。もしかして才能あるんじゃないかな」
キョン(北高校内サイクリング大会でもあろうものなら長門の二位入賞は確実だろうな。一位はハルヒだが)
ハルヒ「遅れてゴメンネ! こいつあんまり運動神経良くないのよ。許してあげてね」
キョン(お前と比べたらほとんどの人間が運動音痴にカテゴライズされてしまう!)
キョン「身体の構造が適応的に進化してなくて悪かったな」
キョン(さすがに疲れたな……。橋の中腹で休憩してるもんだから、地べたに座る以外には車道の縁石に座るしか選択肢がないか) ヨッコイショ
古泉「たまにはいいじゃないですか。健全な高校生男子として運動不足はあまりよろしくないかと」
キョン「いつも遊牧民族の大移動のごとく歩行訓練に勤しんでるんだからそれで充分だろ」
ファーン!
ハルヒ「!! キョン危ないッ!!」グイッ
キョン「のうわっ!!」バターン
ブロロロロロ……
ハルヒ「なんなのよあのトラック! 制限速度50km/hはオーバーしてるわ! 日本の警察はなにを油売ってるのよ! 古泉くん、ナンバープレート覚えた!?」
古泉「営業所も特定しました、早速通報しておきます」プルルルル
みくる「キョンくん、だいじょうぶ……?」
鈴羽「だ、大丈夫!?」
キョン「あ、あぁ。心配かけてすいません、ハルヒのおかげで大丈夫ですよ」
キョン(まさかハルヒのネクタイ引っ張り技がここで活かされるとはね。シャツが少し伸びちまったが、文句は言うまい。朝比奈さん誘拐事件じゃなかっただけ儲けもんだ)
2010.08.12 (Thu) 14:48
東雲運河 ゆりかもめ高架下
キョン(晴海大橋から有明の国際展示場にかけては、ハルヒ、長門、そして阿万音さんの三人によるロードレースが開催されることとなった。さっき通報しといてなんだが、通報されないことを祈る)
キョン(古泉の野郎はタクシーを使って先回りをし、ゴール地点で審判をやることになった。俺は古泉の分だった余った一台に乗って朝比奈さんと二人でのんびりサイクリングをエンジョイさせていただくぜ)
みくる「東京って大きな街なんだねー」
キョン「空地も目立ちますね。この辺の高層ビルは建設中のものも含めてすべてマンションみたいですよ」
みくる「へぇー……。いっぱい人が住んでるんだねー」
キョン(あぁ、このくらいの会話がのほほんと続く朝比奈さんと二人っきりの東京散策なら俺はエンドレスサイクリングに興じても構わないね)
みくる「キョンくん……。阿万音さんのお父さん、絶対見つかるといいね」
キョン「大丈夫ですよ朝比奈さん。ハルヒが見つけようとしてるんですから、見つからないはずがありません」
みくる「そうだといいんだけど……。うん、きっとそうだよね」
キョン(どこかアンニュイな朝比奈さんである。もしかしたら未来人でなければ理解できない感覚なのかもしれない)
みくる「きっと素敵な人なんだろうなぁ、お父さん。快活で、元気いっぱいで、みんなを笑顔にさせるような」
キョン「あの娘にしてこの父あり、と言った感じですかね。逆に全く似てない親子だったりして」
みくる「うふふ。それでもきっと、素敵な親子なんだと思います」
キョン(朝比奈さんが確信を持ってそう言っているのだ。根拠なんか必要ないまでに、きっとそうなのである)
2010.08.12 (Thu) 15:04
有明
鈴羽「お、後続も来た来た! おっつー!」ブンブン!
キョン(栗毛色のおさげ髪が夏の太陽のように眩しい笑顔をその両手と共に振りまいている。変な人だと思っていたが、なかなかどうして愛嬌のある人じゃないか)
ハルヒ「キョーン! 早くこっちに来なさい! すっごいわよ!」ブンブン!
キョン(いつから太陽系の恒星は3つに増えちまったんだろうな。新しいオモチャを発見した犬の尻尾のごとく手を振っているのは我らが団長様だ)
キョン「それで、誰が勝ったんだ?」
ハルヒ「もちろんあたしよ! そんなことより、早くこっちに来て!」グイッ
キョン「お、おい引っ張るな! って、こりゃぁ……」
ハルヒ「東京ビッグサイト! 年に二度のオタクの祭典、コミックギガマーケットが開催される、萌え文化の聖地よ!!」
キョン「これが……。圧倒的存在感だな」
キョン(なんとなく、本当になんとなくだが、今俺が居る時代のこの場所だけはハルヒを中心に世界が回っているような気がした)
鈴羽「ここはね、父さんと母さんが出会った場所らしいんだ。コミマっていうイベントの時に」
みくる「そうだったんですか。なんだか素敵ですねぇ」
古泉「ですがコミマは毎回50万人以上の来場者が全国から集まるビッグイベント。絞り込みは難しいかと」
鈴羽「ううん、いいんだ古泉一樹。それでも、あたしは一度この目で見ておきたかったから。付き合ってくれてありがとう、SOS団!」
キョン「なんだか名前の通りのことをしてるじゃないか、俺たち。コンピ研部長消失事件や阪中の幽霊騒動の一件の時みたいだな」
ハルヒ「SOS団の名前の意味はね、“世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団”、だからね! 未来永劫その頭に刻み込んでおくといいわ!」
鈴羽「あははッ! わかった、絶対忘れないよッ! どんなことがあっても忘れない。あたしは一人前の戦士だからねッ!」
ハルヒ「決めたッ! 今年のコミマにSOS団も参戦するわッ!」
キョン「なんとなくそう言うだろうと思ってたよ。まぁ、いいんじゃないか」
みくる「年に二度の大きなお祭りなんですよねぇ。楽しみですぅ」
キョン(朝比奈さんにとっては自分の世界観を大いに変革する機会となること必至だろうな……。熱を出したりしなければいいが)
ハルヒ「コミマはいつだったかしら?」
長門「第78回コミックギガマーケットは8月15日から3日間開催の予定と椎名まゆりが言っていた」
ハルヒ「そっか、まゆりもフブキも参戦するんだった! ぜひコスプレ鑑賞しないとね!」
古泉「カメラは用意してありますよ」
みくる「……ふぇ!? コミマって、コスプレするんですかぁ!?」
鈴羽「君たち、楽しそうでいいね。ホント、幸せな時代だ」
ハルヒ「……ねぇ、阿万音さん。どうしても明日、東京から出ていかなくちゃならないの?」
鈴羽「うん……。こればっかりは仕方ないんだ」
みくる「……うぅ……」グスッ
鈴羽「朝比奈みくるはやさしいね。ありがと」ナデナデ
鈴羽「さ! 第二回戦の始まりだよっ! あたしがドベなんてラボのみんなに知れたら笑われちゃうからね! ラボまで競争だ!」シャー
ハルヒ「あっ! ズルいわよ! まだ決戦のゴングは鳴っていないじゃない!」シャー
長門「……」
キョン「長門は、行かなくていいのか?」
長門「……わざと負けてあげたほうがいいと判断した」
キョン「なるほど考えたな。だが、ギリギリまで接戦して、ごく自然に負けてあげるほうがいいと思うぞ」
長門「なるほど」シャー
キョン(ちなみに勝負の結果だが、一位ハルヒ、二位阿万音さん、三位長門となり、阿万音さん的には汚名返上できたと満足していたそうだ。レース中、すべての信号が青になり、周囲の自動車は我先に横道に逸れるというネコバスも真っ青の不思議現象が起こっていたんだとかいなかったんだとか)
2010.08.12 (Thu) 20:50
末広町交差点
キョン(チャリンコ大会での汗を流した後、宿でUNOに興じていたSOS団だったが俺は見事にババをつかまされ、あいや、UNOなんだからDRAWを食らったわけなんだが、ともかく罰ゲームとしてコンビニまで菓子と炭酸飲料を買いにいくというパシリ行為を実行する羽目になった)
キョン(コンビニへ向かう途中、人通りの消えた秋葉原の街、末広町の交差点のところで見覚えのあるおさげ髪が揺れた)
キョン「あの、阿万音さん。昼間は世話になりました」
鈴羽「あぁ、えっと、―――ニャーン―――。こんな時間にどうしたの?」
キョン(この阿万音さんは俺が今まで関わってきた人類すべての中で驚愕すべき特徴を持っている。異世界人であり、未来人であり、ハルヒに言わせれば宇宙人でもあり超能力者でもあり……、)
キョン(……そしてなによりも俺の名前を“本名”で、しかもなぜか“フルネーム”で呼ぶのだッ!!!!)
キョン「よかった……。俺は歴とした日本人、いや、人間の名前を持っていたんですよね……」ホロッ
鈴羽「もしかして買い出し? 今日のお礼もあるし、手伝ってあげるよ。体力だけは自信あるからさー」
キョン(今の今まで見逃していたが、この人は世界一かわいい素敵な女性なのかもしれない)
キョン(成り行きで手伝ってもらうことにした。これから一緒にコンビニに行って、途中まで買った物を持ってくれるというありがたい提案であった。あれ、なんだろう目から汗が)
キョン(それに、この人には色々な意味で興味が尽きないからな。決して下心ではないと断言させていただこう)
キョン「岡部さんから聞いたんですが……。あ、いや、この話をする前に自分のことを説明したほうがいいかも知れません」
鈴羽「んー?」
キョン「実は、自分もタイムトラベル経験者、そん時の名前はジョン・スミスです。世界線を改変、というか、元に戻したこともあります」
鈴羽「…………」
キョン(案の定阿万音さんの挙動が静止した。あるいは、心肺も停止しているかもしれない。顔面が蒼白になり、額には夏の夜の暑さのせいではない汗がにじみ出ていた)
キョン「だ、大丈夫です! 今日の昼間わかったと思いますけど、それでも俺は普通の高校生、一般人ですし、あなたの敵じゃない」
鈴羽「そ、そうだよね……。ちょっと、いやかなりビックリしたよ、アハハ……」
キョン(混乱した面持ちで、なんとかしゃべっているという感じだ。いや、そりゃそうだろう。タイムトラベラーが自分の他にぽんぽんいられては困るはずなんだ)
キョン「それにあなたは似たような状況に昨日遭遇したはずだ、未来からきた岡部さんと会話して」
鈴羽「あぁ、うん。そうなんだけど、慣れるものじゃないよ……」
キョン(申し訳ない阿万音さん、一つだけ聞いておきたいことがあるんです)
キョン「岡部さんから、あなたが未来人ジョン・タイターであること、それから反SERN組織のメンバーで世界の平和のために動いていることを聞きました」
鈴羽「そうか、あの岡部倫太郎から。君は信頼できる人間だと判断されたようだね」
キョン(どういうわけかこの人の中での岡部さんの評価はかなり高いらしい)
鈴羽「それで、君は本当に敵じゃないんだね? その、君の経験したタイムトラベルについて詳しく教えて欲しいんだけど」
キョン(まぁ、聞くよな。うまく答えられないが……)
キョン「えっと、ずーっと先の未来からやってきた未来人の方が居まして、その人と一緒に中坊の頃にタイムトラベルして、色々とって感じです。タイムマシンもなんだか目視して確認できないようなヘンテコアイテムでして」
鈴羽「その未来人って人は、SERNとは関係ない……、のかな?」
キョン「100%無いです。どうもあの人たちが使うマシンは世界線理論を使ったものではなく、また別の理論で時間を直線的に移動しているらしいんですよ」
鈴羽「ふーん……。歴史は繰り返す、ってやつなのかな」
キョン「それで……、一つ聞いておきたいことがあります」
鈴羽「なぁに? 答えられる範囲で答えるよ」
キョン(こういう素直な人には回りくどい質問はかえって悪手だ。球種は直球ど真ん中で行こう)
キョン「……あなたは、ラウンダーですか」
鈴羽「ッ!?」
キョン(その時、阿万音さんの右手が上ジャージの腹部のポケットに差し込まれるのを俺は見逃さなかった。どうやらあそこになにかしらの護身用の武器が入っているらしい)
キョン「それとも、未来ガジェット研究所、岡部さんの味方ですか」
鈴羽「は、はぁ!? どうしてそういう質問をするのかな!? あたしは、あたしは……」
キョン(答えに困っている、というより、しりこそばゆそうにしている?)
鈴羽「……ラボメンナンバー008、だからさ」
鈴羽「あたしが未来で所属してたワルキューレっていう名前のレジスタンスの創設者は岡部倫太郎なんだ。つまり、未来ガジェット研究所の後身ってやつさ」
キョン(こうしん……コウシン……後身?)
鈴羽「あたしたちワルキューレの敵はSERN、そしてその実動部隊のラウンダーだったってわけ。正直、ラウンダーと間違われるなんてとんでもない侮辱だよ」
キョン「す、すみません……。いまいち未来のことがわからなくて……」
キョン(俺に人間心理についての心得はないが、この人は多分嘘など吐いていない。というか吐けないタイプの人間だ)
キョン(ということは、今までの古泉のひねくれた推理は放射性廃棄物と一緒に地層処分しておいて、与えられた情報を額面通りに受け取ればいいということだ)
鈴羽「あはは。いいよ、わかってる。とかく未来人ってのはコミュニケーション不全に陥りやすいんだ」
キョン「その、父親のバレル・タイターってのは……」
鈴羽「ワルキューレの初期メンバーであり、あのタイムマシンの開発者。みんなはタイターってだけで神聖視してた」
鈴羽「あたしはね、父さんの本名を知らないんだ。聞かせてもらう前に死んじゃったからってのもあるけど、万が一あたしがSERNに捕まったことを考えて母さんが教えてくれなかった」
キョン「それで2010年に寄って、お父さんに会おうとしたんですね」
鈴羽「……ううん。ホントは違う。死んだ親に会いたいなんて思うほどあたしは殊勝じゃないよ」
鈴羽「ホントは、怖かったんだ。あの人は、本当にこのあたしの父親だったんだろうかって。本当にあたしは、人間なんだろうか、ってね」
キョン「……未来じゃ、人造人間の技術でもあるんですか」
鈴羽「あはは、そんなの無いよ。そんなのがあったらもう、ワルキューレは太刀打ちできない」
鈴羽「ほら、あたしは生まれた時からこうなることが運命づけられていたから。それは母さんに言われたからだけじゃなく、世界線の収束としてそうなっている」
キョン「収束の元に生まれた、ですか……」
鈴羽「だったら、あたしの生きる意味はなんだろうってことになるでしょ? 未来が確定してるのに、どうしてあたしには意思があるのかって。どうしてあたしは時間を感じる必要があるのかって」
鈴羽「でも、この時代のこの場所で、父さんに会って話ができれば、納得できると思ったんだ」
鈴羽「あたしがこういう運命なのは、こういう理由があったんだって。ホントに父さんがこの世界にかつて存在していて、世界の支配構造の変革を企んでいたんだって確認できたら、それだけで生きる勇気が沸いてくるはずなんだ」
鈴羽「まぁ、ワルキューレの英雄、岡部倫太郎と出会えただけでも良かったんだけどね。歴史がつながってるんだって強く実感したよ」
鈴羽「それで8月9日の夜、父さんが居るって判明してたタイムマシンオフ会に潜入したんだけど、結局父さんとは会えなかった」
キョン「どうして会えなかったんです?」
鈴羽「あたしもバカだよねー。せっかく会員になって会費まで払ったのに。なぜかフェイリス・ニャンニャンと橋田至には会えたけどね」
鈴羽「背格好が近い人に手当たり次第話しかけたんだけど、誰もジョン・タイターについて真摯な考えを持ってる人は居なかった。もしかしたらこの時代の父さんもタイムマシンなんて馬鹿げてるって思ってたかも知れないし、そもそもあの会場にホントに来ていたのかもわからない」
キョン「えっと、それは阿万音さんの未来と今が変わってしまった、ということですか」
鈴羽「元々あたしのタイムマシンはタイムトラベルのたびに微妙に世界線を移動しちゃうから、そのせいで過去が変わってたのかも知れないんだよね」
鈴羽「まぁ、賭けみたいなものだったし、気にしてないよ。2010年に来たおかげで2036年では手に入らない1975年の情報も手に入ったしね。ラジ館屋上が改装工事中でビニールシートがかかっていて、かつ雨天作業中止になってる日付とかさ」
鈴羽「ちょっと残念ってだけ……」
キョン(相当気にしてるな……。そりゃそうか)
キョン「えっと……、きっと岡部さんたちがお父さんを見つけてくれますよ」
鈴羽「あはは、そうだね。そう……だよね……」
キョン(話題を変えたほうがいいな、これは)
キョン「……ワルキューレの話を聞かせてもらっても?」
キョン(これは俺の純粋な知的好奇心だった。いつか未来人に未来のことをとっくり教えてもらいたいとこの1年ずっと思っていたのだから仕方ない。それにどうやら2036年程度の科学力では発言に禁則コードを仕込むことはできないらしいしな)
鈴羽「……いいよ。このまま立ち話もなんだし、公園に寄ろうか」
2010.08.12 (Thu) 21:02
芳林公園
鈴羽「タイムマシンは、父さんから18歳の誕生日プレゼントとしてもらった。同時に世界を変える、アトラクタフィールドを脱出する使命も拝受したわけだけど」
キョン(はいじゅ……ハイジュ……拝受か。藤原某然り、未来人というのは二字熟語に特別な思い入れでもあるのかね)
鈴羽「マシン自体は3年以上前に作られてたみたいだけど、父さんはタイミングを見計らってたみたい。収束のおかげであたしは弾丸の雨の中、かすり傷一つ負わなかったよ」
キョン(世界線の収束をそういう風に利用することもできるのか)
キョン「って、18歳の誕生日ってことは、えっと、阿万音さんは西暦何年からココに?」
鈴羽「2036年だよ。あたしが生まれたのは2017年、今からだと7年後だね」
キョン(朝比奈さんの話の裏が取れたな。2036年、ハルヒの改変限界の2年後から飛んできてたわけだ)
鈴羽「牧瀬紅莉栖には気を付けて。アレこそが世界をディストピアに導いた元凶、SERN側のタイムマシン開発者なんだ。“タイムマシンの母”なんて呼ばれてた」
鈴羽「彼女は2年前、2034年に交通事故で死んだ。というか多分捨て駒として処分されたんだろうけど……」
キョン(ディストピアっつーのがいよいよ現実味を帯びてきたな……。しかし、ハルヒの世界システム改変限界の年にタイムマシンの母が死亡するとは、なにか関係があるのか? 考えすぎか)
キョン「ただ、この時代の牧瀬さんがSERNと繋がってるとは思えない」
キョン(古泉調べによると、だけどな)
鈴羽「うーん、あたしも最近はそう思うようになってるんだよねぇー。でもあの顔を見るたびに忌々しい記憶が蘇るんだ」
キョン「それに、仮にSERNでマシンを実際に開発したとしても、もしかしたら家族を人質に取られて強制的に研究させられていたのかも知れないですよ」
鈴羽「なんだか岡部倫太郎の妄想話みたいなことを言うね」
鈴羽「でもね、たとえそうだとしても、世界人類の未来を考えたら牧瀬紅莉栖は牧瀬一家と心中すべきだった。それほどまでにディストピアは最低最悪の世界なんだよ、ジョン・スミス」
キョン「……俺は未来を知らないから、余計なことを言ったかもしれません。すいません」
キョン(ディストピアにおいて、多くはルサンチマン的状況に陥る中にあってこの人は打開的な行動を取ってるんだろう。過激な思想もそのドン・キホーテ的勇気から来るものか。もしかしたらワルキューレってのは岡部さんの意志を引き継いだ騎士道妄想集団なのかもしれない)
鈴羽「ううん、いいんだ。こんな話、ラボメンには絶対できないし、君みたいなちょうどいい立場の話し相手が居てくれてよかった」
キョン「よかったらいろいろ聞かせてください。俺も未来のことを聞くのに興味が尽きません」
鈴羽「ワルキューレの仲間はみんな面白いやつばっかりだったよ」
キョン(未来人にとっての仲間か)
鈴羽「葛城新次郎。いつもあたしのことを小娘呼ばわりして気障っぽい鼻につくやつなんだけど、仲間思いのいいやつでさ……。あたしのこと、好きだったみたい」
キョン(ラボ関係の名前の中でまったく聞いたことがなかったものだけに、信じられないくらいのリアリティが俺を襲った)
鈴羽「御子柴レイ。フードをかぶるのが好きな二丁拳銃の使い手でね……。他にもたくさん仲間が居たんだけど、二度の作戦失敗で壊滅寸前まで殺されちゃった。みんな」
キョン(息を飲んだ。人が殺されて当然の日常に居た人なんだと頭ではわかってるはずなんだが、その現実の言葉が耳に入るたびに俺の心臓のキックペダルビートがいちいち早まるのを感じる)
鈴羽「母さんも殺された。あたしの目の前で死んじゃった。……わざと急所を外されて、なぶり殺された」
キョン「なっ!?」
鈴羽「……でもね。オペレーション・ブリュンヒルデ、1975年に行ってこの時代の未来ガジェット研究所にIBN5100を届ける作戦が成功すれば、未来は変わるはずなんだ」
鈴羽「死んだ仲間も、あたしが殺した人間も、母さんも、父さんも、みんな生き返って、平和で仲良く暮らしてるはずなんだ」
キョン「でも、どうしてIBN5100を届けるなんていう回りくどいことを? それこそ、SERNの幹部が赤子の頃に行って全員殺してしまうとか……」
キョン(自分でしゃべってからとんでもないことを口走っていることに気が付いた)
キョン(今までの会話があまりにトンデモなSF話だったために、つい映画を見ている、あるいはゲームをしているような気分になっていたんだと思う。そういうことにさせてくれ)
鈴羽「見た目によらず凄いことを思いつくね……。もちろん、そんな案もワルキューレで出たけど、でもそれじゃダメなんだ。結局SERNに大きな打撃を与えることはできない」
キョン「……世界線の収束、ですか」
鈴羽「さすがジョン・スミス。そういうこと」
キョン(そう言えば俺のことを本名で呼ばなくなったな。もしかしたらこれも世界線の収束か……?)
キョン「……あのタイムマシンは過去へしか飛ばないと聞きました」
鈴羽「あー、橋田至がしゃべっちゃったのかな。そう、あのマシンは不完全なんだ。それでも、あたしはまだ18、今年で19だけど、自分のミッションには自分の一生をかける価値があると信じてるから」
鈴羽「作戦に失敗したとしても、頑張って長生きすれば2036年の世界をまたこの目で見れるかもしれないしね! なんて……」
キョン「そしたら80歳、傘寿ですね」
鈴羽「あはは、そうだね。でも、少なくとも2010年にIBN5100がラボに届くことが確定するまではたとえ“死んでも”生きてないといけないんだけどね」
キョン(……この人は2000年に自分が死んだことになっていることを知らない。詳細は不明だが、これは伝えるべきか、伝えざるべきか……)
鈴羽「作戦が成功したら、多分53歳のあたしはこの時代のこの世界のどこにもいなくなる。たとえ死んでても、骨だって墓だって残ってない。だって、IBN5100によるクラッキングが実行された瞬間、あたしはβ世界線の未来で再構成されるはずなんだから」
キョン「……そうですね。きっとそうですよ」
鈴羽「……うん、そうなんだよ。そうじゃなきゃいけないんだ」
鈴羽「ありがと、ジョン・スミス。なんかスッキリした。君って話聞くの上手なのかな」アハハ
キョン(この人の屈託のない笑顔を見ていると、どうしてか申し訳ない気持ちになってしまう)
キョン「前にも言いましたけど、IBN5100に関してはきっと大丈夫です。俺たちもできる範囲で協力しますよ」
キョン(ハルヒ大明神に願掛けしとけばたいていのことは大丈夫だろ)
鈴羽「……本当にありがと。君っていいやつだね」
ハルヒ「買い出しサボってるやつのどこがいいやつなのかしら?」
キョン「ゲェーッ!? ハ、ハルヒ!?」
キョン(やばい、ハルヒには阿万音さんが未来人であるところを知られたらそれなりに不味いんだが……ってか、『ジョン・スミス』は聞かれてないよな!?)
鈴羽「やぁ涼宮ハルヒ! 君も買い出しかな?」
ハルヒ「いつまで経っても家に帰ってこないボンクラを連れ戻しにきたのよ! 団長自らがわざわざ出向いてあげたのよ、感謝しなさい!」
キョン(お冠でいらっしゃる!)
キョン「あ、いや、実はまだ買い出しが終わってなくてな……」
鈴羽「あははッ! 夫婦漫才、ってやつだっけ?」
キョン「違いますッ!」
ハルヒ「……処遇は追って伝えるわ。とにかく、コンビニ行くわよ!」グイッ
キョン「悪かったって! だから引っ張るな!」
阿万音「あぁ、あたしも手伝うよ」
ハルヒ「買い出しは二人も居れば十分だし、阿万音さんは早く家に帰ったほうがいいわ。東京の夜は危ないって聞いてるけど」
鈴羽「そう? じゃぁ涼宮ハルヒに任せるよ。あと、今はこのベンチがあたしの家なんだ。だから君たちとはここでバイバイだね」
キョン「……は?」
ハルヒ「……へ?」
キョン(俺もハルヒもあまりの告白に目を剥いた)
ハルヒ「……えっと、まさかとは思うけど、野宿してるの?」
鈴羽「お金が無くってね」アハハ
ハルヒ「キョン! 古泉くんに連絡して、もう一人分の寝室を準備させておきなさい!」
キョン「サー、イエッサー!」
ハルヒ「阿万音さん! あなた晩御飯は!?」
鈴羽「えっと、まだ食べてないけど。そこらへんに生えてる草とか虫とかを……」
ハルヒ「じゃぁキョンのおごりね。コンビニでなんでも好きなものを買っていいわよ!」
キョン「なっ!? 罰と現実的対応をうまいこと利用しやがって……」
鈴羽「えっ、そ、そんな悪いよ」
ハルヒ「あなたは今日うちに来てご飯食べてお風呂に入ってあったかい布団であたしたちと一緒に寝る義務があるの! 一切の異議を認めないわ!」
キョン「今回ばかりはハルヒに同意だ。どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!」
鈴羽「えっと……。じゃぁ、お言葉に甘えて」エヘヘ
2010.08.12 (Thu) 22:50
湯島某所 談話室
キョン(コンビニ弁当と菓子類一色を買い込んだ後、阿万音さんにはハルヒに俺のことと自身のことを内緒にしておくように言っておいた。未来人がこの世にいるとハルヒに知られては多分マズいからな)
キョン(宿に戻って、阿万音さんはハルヒから小一時間説教を食らうことになった。まぁ、さもありなんと言ったところか、)
ハルヒ『あたしの友達が東京で野宿してるなんて知られたら末代までの恥だわ!』
キョン(とまで言わせた。これでこの異世界人だか未来人だかはSOS団団長にとって友人認定されたわけである)
キョン(ハルヒによって強制的に風呂に入れられた阿万音さんは、その後俺たちとまるで同級生のようにカードゲームに興じた。朝比奈さんの一個上の先輩だと思えば大した歳の差ではないからな。まぁ、朝比奈さんもホントに18歳かは怪しいところなんだが)
キョン(阿万音さんはトランプゲームをまったくと言っていいほど知らなかった。こう考えると朝比奈さんのほうがまだ現代になじんだ未来人なんだなと思ってしまう)
鈴羽「……4!」
ハルヒ「ダウトォ!」
みくる「ひぇっ」
鈴羽「えぇー!? どうしてわかったのさ!?」
ハルヒ「顔に書いてあるのよ。阿万音さんって嘘つくの下手ね」
古泉「それもありますが、全員の手持ち枚数とオープンカードから推測すれば、あなたが4を持っている可能性が低いことがわかります」
鈴羽「ぐう……。それを言われるとぐうの音も出ないよ……」
キョン「出てますよ」
長門「5」
ハルヒ「これが模範解答ね」
キョン(宇宙人のポーカーフェイスを見破るなどポアンカレ予想を解決するより困難だろう)
2010.08.12 (Thu) 23:50
男子部屋
キョン(一応古泉は阿万音さん用の個室を用意したらしいが、結局流れで女子4人は同衾することとなった。いや、もちろん布団は別だと思うが。別だよな?)
キョン「なぁ古泉。阿万音父の捜索方法についてふと思いついたんだが」
古泉「なんでしょう」
キョン「例の天王寺裕吾氏に聞く、ってのはどうだ? “橋田鈴”と繋がりがあったんだろ? もしかしたら1975年からの25年間のうちになんらかの証拠品があったりして、親父を特定してるんじゃないか?」
古泉「おっと……。今僕は同時に二つのことに驚いています」
キョン「一つ目はなんだか想像できるからな、殴られたくなかったら口にするんじゃないぞ」
古泉「わかりました。なるほど、そんな方法があったとは……。しかし正直なところ、深く韜晦しているような人物との接触は避けたいところです」
古泉「何よりラウンダーはラボを将来的に襲撃することになっている。ラボの真下で生活している彼が関わっていないわけがありません」
キョン「だが、それはまだ発生してない事件だ。今なら大丈夫だと思うんだが、明日天王寺さんに会いに行ってみないか?」
古泉「……いいでしょう。阿万音さんのお父上を発見することは、涼宮さんの願いでもありますからね」
古泉「ちなみに橋田鈴さんのお墓は池袋の雑司ヶ谷霊園にあるようですが、そちらも調べてみますか?」
キョン「……いや、いい」
キョン(わかってるはずなんだけどな……。壁一枚隔てた部屋で幸せそうに寝ている人が、目標を達成することなく、未来を変えることができないままに墓地で眠っているということを)
キョン「タイムトラベルってのは、おそろしいものだな」
古泉「そうですね。得てしてタイムトラベル作品は見る者にどん底の恐怖を与えるものです」
古泉「ですが、その分大逆転ハッピーエンドも用意しやすいのですよ」
キョン「あぁ、そうなることを聖母ハルヒに祈ろう」
キョン「それで、阿万音さん、つまり橋田鈴は、未来ガジェット研究所の味方だと考えていいらしい」
キョン「つまりだな、IBN5100確保の目的は俺たちと共有できるものと考えられる」
キョン「古泉予想の天王寺橋田問題も相当にこじれたことになってるとは思うが、それでも天王寺さんがあの阿万音さんと敵対関係だとは思えないんだよな。阿万音さんの人間的に」
古泉「そんなことを言っているといつか足をすくわれますよ。ですが、あなたの勘もなかなかのものですからね」
キョン「いつからハルヒの勘が俺に移ったんだろうな。……まさか、佐々木の時みたいに俺に能力が!?」
古泉「安心してください。あなたは記憶障害があるだけの一般人です」
キョン「…………」
古泉「それに団長直々にご友人として選ばれた存在ですから。それだけで僕は阿万音さんを信じることができます、いえ信じねばなりません」
古泉「明日、ブラウン管工房へ伺ってみましょう」
キョン「ハルヒの友人ねぇ。しかし、過去改変願望をキッカケとして異世界人と友達になるとはな……」
キョン「……なぁ、古泉。もしかしなくても、ハルヒの過去改変願望のせいで、未来ガジェット研究所を悲劇の運命に遭わせてしまっているんだろうか」
古泉「……いずれ指摘されると思っていたので反論を用意させていただいてます」
キョン「準備がいいな。反吐が出る」
古泉「まず、過去を変えたいと願う気持ちはほとんど全ての人間の中に経験的に湧き起こる願望と言って差し支えないでしょう」
古泉「実際D世界線の涼宮さんでさえ過去改変願望を所持していた。その意味で涼宮さんの場合、通常の人間的な思考が、本来あるべきではない特殊な力によって具現化してしまっただけに過ぎないと考えられます」
キョン「つまり、力に翻弄されただけ、ハルヒに罪は無い、ってことか。そんな理屈が通じるかよ」
古泉「アドルフ・アイヒマンの従順的無罪の主張には多くが耳を貸しませんでしたからね、あなたの言うことはごもっともです」
古泉「もう一つ反論です。仮にも椎名まゆりさんは涼宮さんの友人にカテゴライズされているはずです。ならば、どうして朝比奈さん系列の未来人組織が彼女の人命救助に名乗りを上げないのでしょう」
キョン「そんな未来のことなど知るか。ハルヒのために動くと言っても、たとえ大人版朝比奈さんでも世界の安定と友人の命を秤にかけた結果、見捨てているのかもしれない」
古泉「あるいは、そもそもこの現状が朝比奈さん系未来人の言う『未来』に繋がっているから。既定事項だから、かもしれませんね」
キョン「……ハルヒのせいではなく、朝比奈さんたちの世界のためにラボが犠牲になってると?」
古泉「あんまり怖い顔をなさらないでください。可能性に過ぎませんが、涼宮さんが全面的に悪いわけではない。これは確信を持って主張できます」
キョン「それは、わかるけどな、しかし……」
古泉「それではもう一つ。D世界線という、SOS団が秋葉原と本来関係を持たないはずの世界においてさえ未来ガジェット研究所は電話レンジ(仮)を開発していました。おそらくそのうちタイムリープマシン、将来的にはタイムマシンをも開発します」
古泉「一方涼宮さんは不安定ながらもシステム改変を消去するという、狙いすましたような願望を2034年に実現させているようです。つまり、涼宮さんはその神の力を消極的に発動してしまっただけであって、神の力を以って積極的に元に戻している」
キョン「お前、前にハルヒは神そのものではなく神の如き存在から力を与えられた人物だとか言ってたよな」
古泉「以前に申し上げた通り、涼宮さんの願望実現能力それ自体は縮小しています。しかし、彼女は進化していたのです。感情的能力よりも、むしろ意識的能力へとシフトしていたと言える。無自覚ではありますけどね」
古泉「ゆえに“神”なるモノが存在するとすれば、涼宮さんはソレにまんまと嵌められ、その上で自ら後始末をしたと考えられます。人間なら誰もが持つであろう感情を利用された意趣返しとして、それを意識的に処断した」
古泉「この“神”を冒涜したのはむしろ未来ガジェット研究所の知的好奇心と言う名の禁断の果実であり、それはまた因果の輪に閉じ込められた“偶然”の産物に過ぎないと言えるのではないでしょうか」
キョン「……お前、本気で言ってるのか」
古泉「理論的には。それに気持ち的にも。あのラボと涼宮さんと、どちらを感情的に選択するかと問われれば、僕は逡巡することなく涼宮さんを擁護します」
キョン「どうして発想がそう極端になるんだ」
古泉「ともかく、あの方々と付き合うのに贖罪の意識は必要ありませんよ。あなたが思い悩むことは他にあるはずです」
古泉「IBN5100を手に入れること。これは我らが団長の願いであり、未来にとっても鍵となっています」
古泉「それだけです。未来ガジェット研究所はSERNさえも操る巨大な裏社会組織に狙われている。僕たちは不必要な交流は慎むべきです、本来は」
キョン「本来は?」
古泉「今回は世界線変動によって事件をなかったことにできますからね。応用は利くと思います」
古泉「それに昼間にも言いましたが、ディストピア回避は我々SOS団としても目標にして行動すべきですが、それにはどうしてもラボの方々と協力しなければならない」
キョン「お前の話はホンットまどろっこしいな! 要は人道的道徳観にのっとってがむしゃらに行動すればいいってことなんだろ!?」
古泉「だって、そのほうがおもしろそうじゃないですか」ンフ
キョン(古泉の脳内は猛暑の影響で異常気象が発生しているらしい。明らかに思想がハルヒと同調してきている。……まぁ、嫌いじゃないけどさ)
2010.08.13 (Fri) 14:50
大檜山ビル ブラウン管工房
キョン(朝飯まで俺がおごることになった阿万音さんはバイトだからと言って早々に宿を出てブラウン管工房へと向かった。まぁ、誰かさんと違っていちいちおいしそうに食べてくれるんだ、悪い気はしない)
キョン(午前中の捜索は妙に緊張感のあるものだった。そりゃそうだ、今日こそが阿万音父捜索の打ち切り、デッドラインなのだからな)
キョン(にもかかわらず俺たちも未来ガジェット研究所もめぼしい手掛かりを手にしていなかった。あの傲岸不遜なハルヒの顔にも焦りが見えた)
キョン「さて、そんな団長様の期待に応えられるといいんだけどな」
古泉「機関の人員をこの近くに再配備しました。有事の時はすぐ動けますのでご安心を」
キョン「どうやら阿万音さんは居ないようだな」
古泉「ラジ館へ向かったとの情報が入っています」
キョン「よし、それじゃ乗り込む……か……?」
??「お兄ちゃんたちだあれ?」
キョン(お、お兄ちゃん……だと……。あぁ、うちの妹にこの子の爪の垢をペースト状にして飲ませてやりたいね)
古泉「これはこれは失礼しました。ちょっと店長さんとお話がありましてね。中に入ってもよろしいでしょうか」
キョン「こんな小さな子にそんな口調じゃ慇懃無礼だと思うがな」
??「お父さーん。お客さんだよー!」
キョン「ほらみろ。あんまり敬語使うもんだからお得意さんかなんかだと勘違いしちゃったじゃないか」
古泉「うーん、正直ブラウン管テレビは要りませんが、機関の資金で購入してもかまいませんよ。部室に備え付けても面白いかもしれません」
天王寺「おう綯! えらいなぁ、ちゃんとお客様対応ができたのか! どこぞの放浪バイトとはデキが違うなぁ~よしよし!」
綯「お父さんおひげくすぐったいよー」
キョン「どう見ても子煩悩な良きパパにしか見えないんだが」ヒソヒソ
古泉「あるいは、あの子を人質にスパイ活動を強要されているとか」ヒソヒソ
天王寺「なんだぁ、おめぇら。岡部んとこの新顔じゃねぇか。またクソうるせぇ実験でもするのか、あぁん?」
キョン(こ、こえぇーーッ!? さっきの猫なで声はなんだったんだよ!! 怖すぎるだろこのオッサン!!)
古泉「い、いえ。それとは別件でお話をしたいことがありまして」
天王寺「あぁ? なんの話だ」
古泉「橋田鈴さんのご家族について、なのですが」
天王寺「橋田……鈴……。あぁ、そういや、今日がその日だったなぁ」
キョン(その日?)
天王寺「なんだおめぇら。鈴さんの知り合いなのか?」
古泉「いえ、そうではありません。実は橋田鈴さんのご親戚という方から探偵依頼を受けましてね」
天王寺「なっ!? あの鈴さんに、親戚が居たってのか!?」
古泉「クライアントの情報は信頼するのが探偵ですが、個人的な意見を申しますとおそらくその方は親戚ではありません。遺産目当てなのでしょう」
天王寺「は、はぁ。ふてぇ野郎が居たもんだぜ。ってかお前さん、そんなちっこいなりして探偵なのか?」
古泉「僕みたいな高校生でないと調べられない事柄もあるんですよ。どんなところにも需要はあります」
天王寺「ははぁ。ブラウン管工房の前でそのセリフたぁ、兄ちゃんわかってんなぁ」
天王寺「気に入った、鈴さんについて色々教えてやるよ。但し、鈴さんに有利になるように動くんだぞ?」
古泉「もとよりそのつもりですよ。信頼していただけて光栄です」
キョン(こいつはいつから心理系の超能力者に転向したんだか)
2010.08.13 (Fri) 15:10
御徒町 天王寺家居間
古泉「わざわざご自宅にまで案内していただいてありがとうございます」
天王寺「いいんだいいんだ、俺もちょいと用事を思い出したからな」
キョン「なかなか趣のある御宅ですね」
天王寺「わかるかぁ、兄ちゃん。実ぁな、この家も鈴さんから頂いたものなんだよ。頂いたっつーか、成行きでそうなっちまったんだが」
キョン(この辺は機密じゃないのか。さて、どこからどこまでが陰謀なんだろうな)
古泉「ご自宅が橋田さんの遺産でしたか」
天王寺「あと鈴さんからもらった遺産はうちの工房にある42型のブラウン管テレビだな。生前は秋葉とかいう大地主に預からせてたらしいが」
キョン(42型ブラウン管ねぇ……長門が言ってたリフターってやつかも知れんな)
古泉「随分親しいようですね。天王寺さんは、橋田さんとはどのようなご関係で?」
天王寺「まぁ、お隣さんってやつだったんだ。初めて会ったのはよ、俺がこの街に来た時に綴……あ、いや、その、女の子をコソ泥から助けた時にな、俺を犯人だと勘違いした鈴さんが俺のことをぶん投げて……」
キョン(昔話は長くなる鉄則があるらしい)
天王寺「……とにかく、どういうわけか俺のことをえらく気に入ったみたいでなぁ、実の息子のように良くしてもらったんだよ」
古泉「素敵な思い出ですね。それからもう一つ、橋田さんは登記上西暦2000年の6月後半にお亡くなりになっているようですが、どのような状況だったかご存じですか?」
天王寺「いよいよ探偵じみてきやがったな。まぁ、茶でも飲んでくれや」
天王寺「ここで首を吊って死んでたのを俺が見つけたんだ。そんなことになる1年くらい前から精神的に不安定になってな……」
キョン(わかっていても、つらいな)
古泉「精神的に? 例えば、なんらかの組織からの脅迫行為や金銭的なトラブルなど……」
天王寺「そんなことは断じてねぇ! あの人は、あの人だけは潔白なんだ!」
古泉「えぇ、僕もそうであってほしいと願っています。ですので、どのように不安定になったか、わかる範囲で構いませんので教えていただけないでしょうか」
天王寺「……なんだかな、別人みたいに、あいや、根っこのところは鈴さんなんだが、なんというか、記憶が混濁しているようになっちまったんだよ」
キョン(記憶……?)
天王寺「自分を18歳だと勘違いしたり、あのときゃ平成11年だったが、平成22年だと思い込んだり……。まだ42、3で若いのに、最初は認知かなにかかと疑ったが、それでも自分が間違ったことを言ってることもわかってるらしくてな、痴呆じゃぁなかった」
古泉「……なるほど。もしかして、同時交差性多重人格、つまり特殊な解離性同一性障害かもしれませんね。しかもその人格は若かりし頃の自分であり、将来の自分であった」
天王寺「そ、そんな病気があるのか!?」
キョン(嘘八百もいいところだ)
古泉「民事的には十分に責任能力が無いと判断しうる病状です。これで探偵依頼の件はうまいこと煙に巻けそうですよ。ご協力感謝します」
天王寺「いやいや、こちらこそ鈴さんのことを知ってくれている人が居るってわかっただけでよかったよ。あの人は男も作らなかったしな」
キョン(阿万音さんが天涯孤独だったのは朝比奈さんと同じ理由だろうな。朝比奈さんが言うには、タイムトラベラーは滞在先で恋愛をしてはいけない、なんていうふざけたルールがあるらしい)
天王寺「その上、あの人の葬式にゃ、結局親戚らしい人は一人も来なかったんだ」
キョン「そういや、どうして橋田さんのご家族はいらっしゃらないのでしょう」
天王寺「……わからねぇ。昔一度、家族は居ねぇのかって聞いたことがあるんだが、そん時ゃ『居るけどもう会えない』とだけ言ってたな。言った後、自分でも自分の言葉を不思議がってたようだが」
天王寺「余計なことは教えるくせに、自分のこととなるとからきし秘密の多い人だった」
天王寺「実ぁな、一度俺も“探偵”に頼んで鈴さんの経歴を調べてもらったことがあったんだが、1975年以前の経歴は一切不明だって話だった」
キョン(“探偵”ねぇ……。なんとなく、取ってつけた感のある言葉選びだな)
天王寺「……わかんねぇけど、もしかしたら時代の闇が生み出した孤児だったのかもな。鈴さんのそんなところに俺は惹かれてたのかもしれない」
キョン(……?)
古泉「お茶、ごちそうさまでした」
天王寺「ついでに工房の前まで連れて行ってやるよ」
キョン「いえ、そんな申し訳ない」
天王寺「いいんだいいんだ。『巡り巡って、人は誰かに助けられ生きてる』。覚えとけよ、坊主ども」
古泉「素敵な言葉ですね。心に閉まっておきます」
天王寺「いやなに、俺もあの未来なんたら研究所に用があるんだ」
天王寺「実はな……、鈴さんから頼まれてたんだよ。この手紙を、今日この日、あのビルの二階を借りてる野郎に渡してくれ、ってな」
古泉「まるで未来予知です」
天王寺「そうなんだよなぁ。鈴さんの言うことはわけがわからねぇことばっかりだった。突然頭痛みたいのがあったと思うと、変なこと言うんだ。」
キョン(頭痛ね。記憶に頭痛と来たもんだ)
古泉「もしかしたら橋田鈴さんは超能力者だったのかもしれませんね」
天王寺「おい、あの変態白衣野郎の前でそんなこと言うんじゃねぇぞ。またヘンテコな研究でもされたら困るからな」
軽トラ車内
キョン「狭いぞ、俺と接触しないよう空間を作れ」
古泉「無茶言わないでください」
ビー、ビー、ビー
古泉「おっと、岡部さんからメールです。『阿万音鈴羽の父親は橋田至』……なんと」
キョン「あ、あのデブが阿万音さんの親父!?」
古泉「ピンバッジの件もありましたし、バレル・タイターという名前も……、合点の行くことは多いですね。実際“橋田鈴”を名乗るわけですし」
キョン(そうか、宇宙人&未来人による阿万音父捜索に対して未来人上司からNGが出たのは、もう既にそれを俺たちが実行し作戦完了していたからだったわけだ)
キョン「それにしても似ても似つかないだろ、あの体型……」
天王寺「なんだ、バイトの野郎の親父が見つかったのか?」
古泉「えぇ、らしいです。このまま東京を離れるそうですよ」
天王寺「そうか……。それでアイツ今日様子がおかしかったんだな。ったく、辞表ぐらい出せってんだ。まともに働きもしねぇでよぉ」
キョン(俺たちの宿を出たのが最後の出勤だったわけだ。だが、親父を探し出すというミッションが達成されたというのに、この虚無感はなんだろうね)
キョン(ミッションが達成されたということは、タイムマシンで1975年へ飛び立ったということと同義だろう)
キョン(……せっかく親父の正体を知ってタイムトラベルしたのに、いずれ記憶障害を起こすんだよな。後生だ。運命とやら。なんとか親父の名前だけは死ぬまで覚えさせておいてくれよ)
2010.08.13 (Fri) 16:10
大檜山ビル前
天王寺「そいじゃ、渡してくらぁ」カツ、カツ
キョン「……あの手紙の内容はなんだと思う?」
古泉「過去からの手紙、というのは非常にそそられるアイテムではあります。実際、BTTF2ではドクことエメット・ブラウンが生きている西部時代へ進むためのキーアイテムでした。ですが」
古泉「……今までの情報から推測すると、あまり良い内容ではなさそうです」
キョン「……なぁ、古泉」
古泉「僕も同じことを考えてました。急いで宿に戻りましょう」
2010.08.13 (Fri) 16:18
湯島某所
キョン「あんまり気は進まないがな」
古泉「でしたら僕だけが実行犯ということでも構いませんよ」
キョン「ここまで来たら騎虎の勢いだ、俺にも聞かせてくれ」
古泉「それではこちらをどうぞ」スッ
キョン「あぁ……。それじゃ、頼む」カチャ
??『……今は西暦2000年の6月13日です』
キョン「結構ノイズが多いな」
古泉「こんなものですよ。ちょうど岡部さんが手紙の内容を音読してくださっているようです」
岡部『結論だけ書く。失敗した……!?』
『失敗した、失敗した、失敗した、失敗した……あたしは失敗した、失敗した……』
『あたしがあたしだということを思い出したのはほんの1年前だった』
『あたしは24年間、記憶を失っていた』
『タイムトラベルはうまく行かなかった』
『修理が完全じゃなかったんだ。でも父さんは悪くない。あたしが悪いんだ』
『まっすぐ1975年に飛んでいればよかった。2010年に寄り道すべきじゃなかった。わがままを言ってる場合じゃなかった』
『これじゃ、未来は変わらない』
『IBN5100は手に入れられなかった』
『ごめん、ごめんね』
『あたしは、何のためにこの歳まで生きてきたんだろう』
『使命を忘れて、ただのうのうを生きてきた』
『許して、許して許して許して』
『岡部倫太郎、君はあのタイムマシンオフ会のあと、1975年に飛ぼうとしたあたしを引き留めた』
『引き留められたその夜に雷雨があって、タイムマシンが壊れてしまったんだ』
『もしも時間を戻せるなら、あの日のあたしを引き留めないようにしてほしい』
『ごめん、ごめんごめん』
岡部『こんな人生は、無意味だった―――――――』
キョン「……………」
古泉「……長門さんばりの三点リーダですね。いえ、お気持ちはすごくわかりますが」
キョン「状況はある程度理解していたが、実際に本人の言葉を聞いちまうと、ちょっとな……」
古泉「気休めにもなりませんが、この手紙を書いた人物と僕らの知っている阿万音さんは一応別世界の人間です。ほとんど近似した存在ですが」
古泉「これで阿万音さんが1975年に到着してすぐ施設に入っていた理由がわかりましたね。本当に記憶喪失だったとは」
キョン「結局、俺たちの親父さん探しは無駄になっちまったってわけだ」
キョン「そもそもなんで阿万音さんは記憶障害になったんだ? それも1975年に着いた途端に」
古泉「単に頭の打ちどころが悪かった、という可能性もあるでしょうが、ここは折角なので世界線的解釈をしてみたいと思います」
古泉「あの人工衛星型タイムマシンは時間移動の際多少なりとも世界線を移動してしまう代物らしいですね」
古泉「本来世界線の再構成を無視して世界線を移動する際、記憶を継続させるにはリーディングシュタイナーを発動させなければならない。しかし阿万音さんはあなたや岡部さんのような完ぺきな能力者ではなかった」
古泉「1975年にマシンが到着すると同時にこの世界線、現在僕らがいる世界線の因果律に合うよう記憶が再編成されるはずですが、昭和50年代に阿万音鈴羽という人間の脳は本来存在していない」
古泉「ゆえに“本来存在していない”という再構成が実行されるため、リーディングシュタイナーを所持していないにもかかわらず現象的には記憶の消失という状況のみが発生し、すっからかんになった脳に生存本能が働き、必要最低限+αの記憶が世界外記憶領域からダウンロードされたのだと思います」
キョン「それじゃ安全性に難ありもいいところだ」
古泉「対応処置がマシンに搭載されていたのでしょう。人工リーディングシュタイナー、あるいはアンチ記憶再編システムのような機能が」
古泉「だからこそ阿万音さんが2036年から2010年へ飛んだ際は記憶障害は発生しなかった。そして8月9日の雷雨によって破壊されていた機能はまさにここだったのでしょう」
古泉「1975年にラジ館が破壊されていないことから出現座標計算装置は直っていたようですが、人工リーディングシュタイナーはさすがの橋田至さんでも直せなかった」
古泉「また、1975年、ラジ館屋上に巨大な不審物が出現したという情報もありません。これについては、搭乗者が降車次第マシンが宇宙空間に転送されるよう予め設定していたか、あるいは事故でそうなってしまったか」
キョン「……あれ? でもどうして橋田鈴、というか阿万音さんは記憶を失っていたのに、のちの未来ガジェット研究所につながるような行動をとってたんだ?」
古泉「1975年から生活を始めた橋田鈴、阿万音さんは断片的に世界外記憶領域から記憶をダウンロードしていき、そして1999年に多くを受信するのです。24年前に、あるいは11年後に失ったはずの記憶を」
古泉「断片的な記憶というのは、近接した世界線の記憶、すなわち岡部さんが世界線改変をした一つ前の世界線での記憶」
キョン「聞いたのか?」
古泉「メールで教えていただきました。橋田鈴さんの手紙にもあった通り、8月9日、あの雷雨の日へ向けて、岡部さんはDメールを送った。阿万音さんを過去へ行かせるな、と」
古泉「つまり、時間進行的に直前の世界線の記憶は、故障していないタイムマシンで1975年に到着した後、記憶を保ったまま2000年まで生きた世界線の記憶となります」
古泉「これがデジャヴとして受信された。特に本来自分の脳が存在する未来と繋がっている事象を中心として記憶のダウンロードが発生したのでしょう」
古泉「ゆえに無意識的に天王寺裕吾氏に親しくし、物理学者となってタイムマシン研究をし、大檜山ビルを入手していたのだと思われます」
古泉「IBN5100はさすがに無意識的に入手することはなかったようです。あるいは、タイムマシンが消滅していたために換金財が無く金銭的に不可能だったか」
キョン「なんとも不安定なシステムだな、リーディングシュタイナーさんよ」
古泉「まさにエスの領域ですからね。論理武装で太刀打ちできそうにありません」
古泉「さて、この手紙を読んだ岡部さんはどのような行動に出ると思いますか?」
キョン「そりゃ、雷雨の日、つまり8月9日の自分にDメールを送り、阿万音さんが1975年へと飛ぶのを邪魔しないようにするんじゃないか。俺がハルヒの過去改変を打ち消した時のように」
古泉「次に世界線が変わった場合、岡部さんはほぼ間違いなくそのような行動を取ったのだと判断できます」
古泉「ですが、そうなると8月9日から本日8月13日までの、阿万音さんとの思い出がなかったことになる」
キョン「……となると、阿万音さんは親父の正体を突き止められないまま過去へ飛んじまうのか」
キョン「ってことは1975年時の偽名も“橋田”じゃなくなるのか?」
古泉「それはわかりません。そもそもこの世界線の阿万音さんだって記憶障害の中“橋田”を名乗るわけですから、ここだけは世界外記憶領域からのダウンロードかもしれません」
古泉「それならば父親の正体を知らずとも“橋田”を名乗ることになるかもしれませんね」
キョン「SOS団と遊んだこともなかったことになっちまうんだよな」
古泉「宇宙の彼方へバックアップされたままになるかと」
古泉「結局、阿万音さんが命を賭して我が物にせんとしたIBN5100は手に入れられなかった。そのため、あなたが以前の世界線で聞いていた秋葉幸高氏がフランス人の実業家にIBN5100を売った、という因果が消滅してしまっていた」
キョン「……なぁ、俺たちにはもう一つ手段が残ってるはずだ」
古泉「お聞かせください」
キョン「まず、岡部さんのDメール送信を止める。世界線を変えさせない」
古泉「それではIBN5100を阿万音さんが入手することはできません」
キョン「俺たちが手に入れればいい」
古泉「手段がありません。TPDDでは2006年以前にタイムトラベルはできない。IBN5100が販売停止となる1982年には到底届きません」
キョン「この世界に現存してるIBN5100は他にもあるだろ」
古泉「あったとしても故障している可能性が非常に高い。マシンとしては使い物にならず、かつ日本円にして1億以上の資金が必要です。交渉次第では数倍に膨れ上がる可能性も」
古泉「さすがに機関でも、SOS団名誉顧問である鶴屋家次期当主のスポンサー力を借りたとしても用意できません」
キョン「長門の力を借りれば、故障も直せるだろうし、金だって……」
古泉「それには機関の諜報能力とTFEIとの連携が必要となりますが、あまりにもリスクが大きい」
古泉「世の中、金さえあればなんでも解決できるということはなく、信用、人間性、社会的地位や互恵関係も必要です」
キョン「だが、IBN5100を使って1%の壁とやらを超えればすべてなかったことになる。リスクもなにも、全部なかったことになるんだ。だったらそれこそ地球をひっくり返すようなウルトラCをかましても問題ないんじゃないか?」
古泉「本当にそれしか手段がないというのであれば試さないわけにはいきませんが、他にも手段があるならば先にそちらを試すべきだ」
古泉「……老婆心ながら私見を述べさせていただくと、たとえ父親の正体がわからなくとも記憶を維持したまま1975年に飛んだほうが阿万音さんにとって幸せな人生になると思います」
キョン「……そう、だな」
古泉「もう一つ反証があります。岡部さんは度重なるタイムリープにおいて椎名さんの命を救おうとしたが、結果すべて失敗に終わった」
古泉「その世界線の中には先ほどあなたが提案したウルトラCも含まれていたことでしょう」
古泉「すなわち、僕たちが涼宮さんの願望実現能力および長門さんの情報操作を利用して椎名さんを救う、というものです。勿論、SOS団の特殊能力について岡部さんに公表することは無かったと思いますが」
キョン「なっ……!! そうか、俺が今こんな提案をしたくらいなんだから、試したはずだよな。それでも世界線の収束には抗えなかった、だと……」
古泉「それほどまでに世界線の収束は強力だということです。これでウルトラCは万能ではないことが証明されました」
古泉「たしかに世界線を変動させれば涼宮さんの能力を使いまくろうが“なかったことになる”わけですが、それはあくまで越えられればの話。獲らぬ狸の皮算用で世界を危険にさらすことはありません」
キョン「……だけどな、古泉。お前は阿万音さんの最期についてなんとも思わねぇのかよ! なんとかならねぇのか、方法はもう無いってのか? こんなのってあんまり―――――――――――――
D 0.409431%
2010.08.13 (Fri) 16:40
湯島某所
――――――――――――だッ!! ぐあぁッ!!!」ガタッ
古泉「おや、どうされました……。まさか、また世界改変ですか?」
長門「汗がひどい。タオルと水を持ってくる」トテトテ
キョン「はぁ……はぁ……。こっちの世界は長門が宿に居るのか。いつまで経っても慣れないな、これ」
古泉「それで、今度は何があったのです?」
キョン「あぁ、簡単に説明するとだな……」
古泉「阿万音鈴羽という人物が例の人工衛星の乗組員でしたか。人工衛星は8月9日に消滅したと報道されていましたが。それに、椎名さんにはそのような運命が待ち受けているとは……」
キョン「この世界線でも今日の夜亡くなるかもしれない……、その理由は収束なわけだが、正直俺にはよくわからない」
長門「飲んで」
キョン「おぉ、冷たい水か。サンキュー長門。そういや……、またアレをやるのか」
長門「」コクッ
キョン「この世界線でもハルヒの改変は俺が阻止したことになってるんだな」
古泉「そうですよ。例のD世界線……、という名称は通じますか?」
キョン「腹立たしいくらいにな」
長門「こっち向いて」
キョン「あ、あぁ……。よし、どんとこい!」ピトッ
キョン(あぁ、ひんやりしたおでこだこと……)
古泉「しかし、そのリーディングシュタイナーという能力はうらやましいですね。僕もあなたと過ごした前世の記憶を引き継げればいいのですが」
キョン「気持ち悪い言い方をするな」
長門「可能」
キョン「ん? 何が可能なんだ長門」
長門「古泉一樹の世界外記憶領域にバックアップされた世界改変直前の情報と、現在の記憶とを置換すること」
古泉「えぇッ!? 本当ですか長門さん! 是非お願いします!」
キョン「少しは遅疑逡巡したらどうなんだ……」
古泉「―――――――ッ!!! これは、いったい……。僕は、あれ、どうして……?」
キョン「生き返らせてやったぜ、あっちの古泉さんよぉ」
古泉「……つまり、長門さんの能力を用いて僕のリーディングシュタイナーを強制発動させたのですね」
キョン「理解の早さだけは感心するぜ。なんか脳みそがかゆくならないか?」
古泉「えぇ、それよりも大変不思議な気分ですね。あの世界線での出来事を覚えているのが僕とあなたと岡部さんだけだなんて」
キョン「そこか。まぁ、俺なんかは去年の冬からもう慣れっこだけどな」
長門「…………」
古泉「そう言えば提案しそびれていたのですが、TPDDを利用して今から8月9日へ向かって、タイムマシンに乗り込む前の阿万音さんに父親の正体を教える、というのはどうでしょう」
キョン「……!! 古泉にしては冴えてるじゃないか!!」
古泉「恐縮です」ンフ
キョン「長門ッ!! 朝比奈さんは今どこに!?」
長門「UPXにて開催されている雷ネットアクセスバトラーズグランドチャンピオンシップというイベントに涼宮ハルヒと参加中」
キョン「は、はぁ!? この世界線はなんでそんなわけのわからんことになってるんだ……」
キョン(雷ネット翔っつったら、うちの妹がよくテレビで見てたっけ)
長門「わたしも行きたかったが班分けの結果。仕方がない。仕方がない」
古泉「阿万音さんの父親捜しをする因果が消滅したからなのでしょうが、しかし困りましたね……。ラボのタイムリープマシンでは48時間が限度だと言いますし……」
キョン「そもそも今回に関して朝比奈さんの上司がタイムトラベルをOKしてくれるとは限らないか……」
長門「タイムリープマシンなら作れる。牧瀬紅莉栖の作業をラーニングした上で改良を施す」ヒュォォォ
キョン「……おぉ?」
長門「……完成した。二人同時に最大1975年6月XX日まで飛ばせる。受信機は不要。もちろん個人の脳が存在する時間長に適宜限定される」
キョン「……お袋の腹の中までならやり直せるってことか」
古泉「見た目はCDウォークマンにヘッドホンが二つ差さっているような感じですね」
古泉「いかに未来ガジェット研究所が地に足のついた科学的研究だったかを思い知らされます……」
長門「目標時刻は2010年8月9日、わたしたちが皇居前広場に居たタイミングでいい?」
キョン(このタイミングを指定したのはハルヒに言い訳ができるタイミングだからだ。この後ならあとは宿に帰るだけだし、別行動をとってもハルヒがむかっ腹を立てることは無いだろう)
キョン「あぁ。特大ホームランでかっ飛ばしてくれ」
古泉「いよいよ人生初のタイムトラベル……。楽しみですね」
長門「ヘッドセットを装着して」
古泉「ラジャーです!」スチャ
キョン「念願叶ってよかったな。若干気持ち悪いからテンションを下げろ」スチャ
長門「いってらっしゃい」ポチッ
バチバチバチ……
キョン「うぐっ……、う、うあぁぁぁぁぁッ!!!!!!」
2010.08.09 (Mon) 20:15
皇居前広場 二重橋前
キョン「ふぬぅ!!!!」
古泉「ふんもっふ!!!」
ハルヒ「」ビクッ
ハルヒ「ど、どうしたの二人とも? 突然奇声を上げたりなんかして……。皇宮警察にしょっぴかれるわよ?」
キョン「不当逮捕もいいところだ!」
キョン「ハルヒ、すまんがどうやら東京タワーでソフトクリームを買った時に財布を落としてしまったらしい」
ハルヒ「はぁ? まったく、だらしないわねぇ」
古泉「僕もどうやら同じところに財布を置いてきてしまったようです」
キョン「というわけだ。俺たち二人は一旦東京タワーに戻る。悪いが三人は先に宿へ戻っててくれ」
ハルヒ「古泉くんもなの? 仕方ないわねぇ……」
みくる「なんだか空模様が怪しくなってきました……」
キョン「ほら、雨に打たれる前に宿に戻っとけよ」
ハルヒ「わかったわよ…...」
2010.08.09 (Mon) 20:42
秋葉原
キョン「うまいことハルヒをまけたな。それじゃそのタイムマシンオフ会とやらに行ってみるか」
古泉「場所は判明していますが、どうやら現在岡部さん、椎名さん、橋田さんの3名によって阿万音さんは尾行されているようです」
キョン「なんと、そうだったのか。鉢合わせするのもマズイか……? ってか、そうか! あの時阿万音さんは結局父親に会えていたんじゃないか!」
古泉「運命のいたずらですね。しかし、確かにあの体型の橋田さんを見て、自分の父親だと思うのは難があるかと」
古泉「……おや、阿万音さんがオフ会会場から移動したと情報が入りました。このまま1975年へ飛ぶつもりですかね」
キョン「せっかくタイムリープしてきたのに会えもしないなんて笑えないぜ」
古泉「あのタイムマシンの前で待っていればさすがに会えるでしょう」
キョン「だがどうやってラジ館に侵入する?」
古泉「それはもう、機関のマンパワーを使いますよ。皆さんよろしくお願いします」
新川「はい」
森「かしこまりました」
田丸兄弟「「了解です」」
キョン「うわっ、急に現れると心臓に悪いって」
キョン(圭一氏と裕氏は警備員服、新川さんは相変わらずタクシーの運ちゃんか。ということはどこかにタクシーも待機させてあるのだろう)
キョン(そして森園生さんは印象的なメイド服ではなく、2月に見せたあのOLルックである。夜のとばりの下りた半ば廃墟化したこのビルの中で、サプレッサー付ハンドガンでも構えさせようものならその姿はまごうことなき“機関”の一員っぽいナリである)
古泉「さすがに今回ピストルは所持していません。リスクが高いですからね。それに、そのようなものが無くても我々は充分に立ち回れます」
キョン(慢心でないことを祈ろう)
田丸裕「古泉、開きました」
キョン(制帽の下に覗く好青年顔が開錠の旨を告げる)
古泉「それでは、状況開始と行きましょうか」
2010.08.09 (Mon) 20:55
ラジ館 8F
コツコツ……
キョン(そこは元々多目的ホール、あるいは会議室といった場所だったのだろうが、外壁は見事に破壊され、樽型の人工物によって占拠されていた)
キョン「実物を間近で見るのは初めてだな……。朝比奈さんのとは比べ物にならないほどタイムマシンっぽいタイムマシンだ」
キョン「そういえば、秋葉原に来る前に朝比奈さんは、未来からこの人工衛星についてなにも報告が無かったと言っていたな」
キョン(結局それはいつものやつだったということだろう。つまり、『当時のあたしは知らなかったから教えるわけにはいかなかったんです』というテンプレートだ)
キョン(まぁ、世界線がポンポン変わる今回の騒動じゃ、仮に7月28日の時点でこれがタイムマシンだと判明していたところで何も変わらなかったんだろうけどな)
キョン(だが、変わらないなら教えなくてもいいってのは違うぜ。どうして未来組織は寄ってたかって朝比奈さん(小)をイジメたがるんだろうな……)
古泉「本物の警備員への対応は田丸兄弟に任せましょう。あとは阿万音さんが来るのを待つだけかと」
キョン「あぁ、そろそろくるだ―――」
鈴羽「動くな。動くとコイツを殺す」スッ
キョン「……!?!?」
キョン(あ、足音もなく!? いつの間に背後を取られたんだ!?)
キョン(首を軽く絞められ、目の前には少し錆びついた飛び出しナイフが突きつけられている……。またナイフなのかよ……)
鈴羽「外にいた仲間は気絶させたよ。動かれると厄介だからね」
キョン(あぁ、田丸兄弟よ、フォーエバー……。新川さんはさすがにご健在だよな?)
古泉「ッ! 落ち着いてください、阿万音さん。僕たちはあなたの味方です」
キョン(あっ、健康的なソレが俺の背中に当たっている……)ムニッ
鈴羽「もう誰も信じない。あたしに味方なんていないッ!」
鈴羽「……今すぐラジ館から出ていくんだ。そうしなければコイツは殺す」
古泉「わかりました、従います。……あとは頼みましたよ」ンフ
キョン「無茶言うな……!」
キョン(笑った、ってことは、なにか仕掛けておいてくれてるのか、古泉……)
キョン「あのー、阿万音さん? 俺のこと覚えてますよね?」
鈴羽「もちろん。昨日会った。まさか君がSERNの差し金だったなんてね……」
キョン「現代のSERNがどうやって阿万音さんを追跡するんですか、っていうのは通じませんか」
鈴羽「どうしてSERNという単語に疑問を持たない? それだけで君を敵視するのに十分な理由になる」
キョン(ジョン・タイターが掲示板でディストピアの主犯について言及していた、いやこれを言ったところで余計にこじれることは明白だな……)
キョン「聞いてくれッ! あんたはまだ2010年に寄り道した目的をまだ達成できていないはずだ!」
鈴羽「!? どうしてあたしがタイムトラベラーだと知っている!?……やっぱり君はどうあっても殺さなきゃならないらしい」
キョン(聞く耳ナッシングってか!? や、やばい……!! こうなったら……)ダラダラ
キョン「Help me、森さーーーんッ!!!」
鈴羽「!!?」ガキーン
森「今のをよく対応できましたね。それなりの腕があると御見受けしました」ブンッ
キョン(あっぶねーーーー!! どっから出したんだそのバタフライナイフ!? 俺の首まで飛ぶかと思った!!)
鈴羽「お前……、SERNの戦闘部隊員か!? ラウンダーかッ!?」
森「いいえ、わたしの所属は“機関”です。しがないメイドですよ」
キョン(この前この人『メイドは世を忍ぶ仮の姿』とか言ってなかったか……?)
鈴羽「機関……? まさか、この時代の岡部倫太郎の敵ッ!!!」
森「お手並み拝見といきましょう」シュン
鈴羽「は、早いッ! クッ!」ガキーン
森「あなたは実践経験は豊富なようですが、度胸が足りない……」グググ
鈴羽「あたしは説教が嫌いなんだよ……」グググ
キョン(ナイフvsナイフによる近接戦闘が眼前で展開されている……。で、どうするの俺!?)
森「防御時の構えがまるでなってません」ブンッ
鈴羽「きゃぁッ!!」カーン カラカラカラ……
キョン(阿万音さんのナイフが吹っ飛ばされた!)
森「今です! 離れて!」
キョン「お、おう! ありがとうございますッ!」ダッ
鈴羽「はぁ……はぁ……。絶対に、あたしの邪魔は、させない……」ギロッ
キョン「待ってくれ阿万音さん! 話を聞いてくれ!」
鈴羽「そうだね、聞いてあげようか……。あの世でねッ!」ブンッ
森「スモーク!?」
キョン(ごほっ、げほっ! しまった、このまま過去へ飛ぶつもりだ!)
鈴羽(さよなら。……ありがとう、岡部倫太郎)
キョン「待ってくれ! がほっ! お前の、あんたの父親の名前は、橋田イタ――――――ッ!!!」
森「下がって! くっ……!?」
―――――――――!!!!
キョン(金属的なシュインシュイン音と同時にどこかで放電しているようなバリバリという音が全身を襲い、周囲をブラウン運動していた煙が突然乱気流を発生させ身体を持っていかれそうになる。仄かに漂う刺激臭、なんだこれ、プールの消毒液の臭いか……?)
森「!? 消えた……」
キョン「行っちまったか……」
コツコツ……
古泉「お怪我はありませんか? 外からタイムマシンのフライトを眺めさせてもらいましたが、ちょっとしたスペクタクルでしたよ。あのキラキラしたチャフのようなモノはなんだったのか、なんにしても幻想的でした」
キョン「高みの見物たぁいいご身分だこった。こっちは森さんのお陰でなんとかなった」
古泉「お二人とも、お疲れ様です」
森「後で給金を上乗せで請求しておきますから」ニコッ
キョン「だが、どうやら親父の名前を伝えることはできなかったみたいだ」
古泉「もしかしたらそれもこの世界の収束なのかもしれませんね」
キョン「お前が言うと厨二臭くてかなわんな」
古泉「臭いと言えば、この臭いはオゾンでしょうか」
キョン「オゾン?」
古泉「とにかく、宿に戻りましょう。この時空間の涼宮さんたちが待っていますよ」
キョン「……帰れる場所があるってのは、こんなにも幸せなことだったんだな」
------------------------------------------------------------
◇Chapter.7 長門有希のファシーシャスネス◇
------------------------------------------------------------
※ファシーシャスネス:facetiousness 遊戯症
2010.08.09 (Mon) 22:30
湯島某所 玄関前
キョン「この中に何も知らないハルヒたちが居るのか……。いろんな体験をしてきた俺だが、タイムリープってやつはどうにも不思議だな」
古泉「4日前のこの日、皆さんは疲労困憊で早めにお休みになったと記憶しています。この記憶と目の前の現実が一致するなんて、不思議な現象ですね」
キョン「よかったな、よくないけど」
ガララッ
長門「……タオル」スッ
キョン「おう、長門か。悪いな、助かる」
古泉「ありがとうございます。傘は差していましたが、この雨では濡れないようにするのは大変でした」
キョン「それで長門。疲れてるところ悪いんだが、俺たちを4日後の未来へ戻してくれないか?」
長門「それはできない」
キョン「……へ?」
古泉「それは当然でしょう。タイムリープは“過去に記憶を送る”のです」
キョン「い、いやいや! 未来に送れない道理はなんだ!?」
古泉「未来へのタイムリープは結局、4日後のあなたが4日間の記憶を喪失することと同義です。そして4日後のあなたを成立させるには4日間の記憶が必要。おや、矛盾が生じてしまいましたね」
キョン「……てことはなにか。俺たちはまた8月10日から8月13日をやり直さなくてはならないのか」
古泉「少なくとも8月11日からの3日間は僕たちの記憶とは異なるものとなるはずです。夏休みが4日伸びたと思えばいいじゃないですか」
キョン「このオプティミストめ……」
ハルヒ「有希、どうしたの……って、キョン! 古泉くん!」
ハルヒ「遅い! どこでなにやってたのよ!」
キョン「すまんがハルヒ、怒るなら明日にしてくれ。もう全身くたくたなんだ」
キョン(人工衛星消失事件がまだ全国ネットで話題になってなくて助かったぜ)
古泉「遅くなりまして申し訳ありません、涼宮さん。ですが、この通り財布は見つかりましたので」スッ
ハルヒ「見つかったならよかったけど! 有希はどうしたの?」
古泉「僕たちにタオルを届けてくださいました」
長門「」コクッ
ハルヒ「……まぁいいわ。ほら、早くお風呂入って、明日に備えて寝なさい」
キョン(明日と言っても体感的には3日前なんだよなぁ……)
2010.08.10 (Tue) 00:03
湯島某所
ピカッ!ゴロゴロ…
ザーザーザー
キョン(さて、このイベントは回収しておく必要があるものなのだろうか)
キョン(やらずに後悔するよりやって後悔云々とはかの元殺人鬼こと現長門のバックアップさんの言葉であるが、しかしわからんものはとりあえずやっておくに越したことがないと思うわけで)
キョン(俺も眠いしな、早々に済ませてしまおう。どれ、やっこさんの殊勝なツラでも拝みに行くか)
キョン「おーい、誰か居るのか? 電気つけて」
キョン「居ないなら消すぞー、ってハルヒか。何してるんだ」
ハルヒ「アンタ、寝たんじゃなかったの?」
キョン(それから俺は俺の記憶通りに会話を進めた。まぁ、だいたい同じ発言の応酬になったと思う)
キョン(なんだか去年の12月に朝倉に刺された“俺”に俺が演技した時を思い出すな。もう慣れたもんだ)
ハルヒ「……後は、自分が許せない」
キョン「いつになく殊勝な発言だな」
ハルヒ「『変えたい過去が無いか』って聞かれた時に、悔しいけどちょっと心が動いちゃったのは事実よ。アンタも言ったけど、あたしにだってやり直したい過去の一つや二つくらいある」
キョン(ハルヒのやり直したい過去が、まさかジョンの正体を突き止めておきたかった、だとはな。それで俺とあんなことになっちまうなんて……)
ハルヒ「だけど……。やっぱり自分の過去はやり直したらいけないと思った。思い直したの」
ハルヒ「だって、もしやり直しちゃったら、今のあたしたち、SOS団の、みんなとの思い出が、無くなっちゃうような気がして……」
キョン「……心配するな。もしハルヒが思い出をすっかり忘れちまって、それを思い出したいっていうなら、SOS団みんなで何とかするさ」
ハルヒ「……?」
キョン「それにな、どうせハルヒはどんな世界に居ようが、飽くなき探求心と未知への渇望で頭がいっぱいなんだ。過去を変えたところで永遠に欲望は満たされないだろうよ」
ハルヒ「……ふん、よくわかってるじゃない。満足なんてしちゃったら最高につまらないわ」
ハルヒ「でもね、世界はあたしを中心に回るべきなの! あたしに隠れて出てこない不思議は、岩戸をダイナマイトで爆砕してでも引っ張り出してやるわ!」
キョン(太陽神が太陽神を社会復帰させるようじゃ世も末だな)
キョン「さて、そろそろいい時間だ。今日はお前も疲れてるだろ。早く寝ようぜ」
ハルヒ「……そうね。電気代ももったいないし」
キョン(しかし、これでよかったのかねぇ。涼宮三世如来様を焚き付けた件に関してはご寛恕を乞いたいと切に願うね)
キョン「それじゃ、おやすみ」
ハルヒ「ん」
キョン(意味深長なうなずきを後に残して女子部屋へと帰って行く我らが御本尊であった)
キョン(さて、明日はどうすっかな……)
2010.08.10 (Tue) 09:33
湯島某所
みんなへ
今日の午前中は自由行動にするわ。
疲れてるなら寝てていいし、行きたいところがあるならどうぞ。
お昼は一緒に食べましょう。
SOS団団長 涼宮ハルヒ
キョン(やはり例のルーズリーフが貼りだされたか)
キョン「ハルヒはテレビを見てないよな?」
古泉「おそらくそうでしょうね。見ていたら今頃人工衛星の消失したラジ館へ直行しているはずです」
キョン「古泉、盗聴できるか?」
古泉「そう言うと思って準備万端ですよ」
みくる「遅くなりましたけど、朝のコーヒー入りましたよぉ」
キョン「朝比奈さん、俺は幸せ者です」
みくる「これから何をやるんですかぁ」
キョン「どうやらハルヒが過去を変えるらしいので」
古泉「その様子を盗聴しようと思いましてね」
みくる「……だ、だめですぅ! 涼宮さんが過去を変えたら、いくら未来人でも手が出せなくなってしまいますぅ!」
キョン「朝比奈さん、心配しないでください。この事件は既に解決済みです」
みくる「へぇ? そうなんですか……」
岡部『ん……? きさ、あ、いや、涼宮ハルヒではないか。今日は一人か?』
ハルヒ『えぇ……。はい、これ手土産よ』
岡部『おぉ……!? おぉ、これはッ!! 知的飲料、ドクトルペッパーではないかッ!! まさかお主、ドクトルペッパリアンなのか!? そうなのか!? そうなのだな!?』
ハルヒ『そこの自販機で見たことないの買ったらクソ不味かったからアンタにあげるってだけよ』
古泉「間接キッスですね」
キョン「古泉、この家にガムテープはあるか?」
古泉「あ、いえ、僕が涼宮さんの飲みかけのドクトルペッパーを飲みたいとかそういうわけでは」
キョン「俺はその口を閉じろと言ってるんだが」
古泉「おっと墓穴でしたか」
岡部『それで、来てもらって済まないがまだ助手もまゆりも来ていないのだが……』
ハルヒ『いえ、その、岡部さんに折り入ってお願いがあるの』
岡部『……ほう、このマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真に折り入って頼みだと? ぅいーだろぅ、聞くだけ聞いてやろうではないかッ!!』
キョン(今更だがこの“鳳凰院凶真”というのは、岡部さんの真名らしい。真名がなんなのかと問われれば知らん。俺のあだ名よりかっこいいことは認めよう)
キョン「まだこの時の岡部さんはタイムリープを経験していないんだな……。実に楽しげにしゃべる」
古泉「“この岡部さん”は永遠にタイムリープをすることはありませんよ。岡部さんにとって一回目のタイムリープとなるであろう8月13日の20時頃より前である、8月13日16時40分頃に“僕たちの知っているほうの岡部さん”が世界線移動をしてきますからね」
キョン「……やばい、そろそろついていけないぞ、世界線理論」
ハルヒ『……そこの、過去にメールを送れる機械を使わせて。過去を変えたいの』
岡部『ッ、電話レンジ(仮)だと言っておろうが』
ハルヒ『もちろんタダでとは言わないわ。あたしたちがIBN5100を見つけることができたら、アンタのラボに無償で提供してあげる』
岡部『それは願ってもない申し出だが……。それで、どんな過去を変えたいのだ』
ハルヒ『昔ね、あたしを助けてくれた人が居たの。この世界の闇を照らしてくれたっていうか……、ううん、そんな大層な話じゃないんだけど』
岡部『……それが貴様の世界の始まりだった、というわけだな。なかなかにポエマーではないか』
ハルヒ『……あとでたっぷり蹴り飛ばしてあげるわ。とにかく、その人に一言でいいからお礼を言いたいのよ』
岡部『ほう、なるほど』
古泉「なるほどですね」
キョン「なるほどなぁ」
みくる「なるほどですぅ」
長門「なるほど」
岡部『本来この電話レンジ(仮)はラボメンにしか使用を許可していないのだが』
岡部『ラボメンになるためには、契約者同士による血の盟約が必要となる……。その肉、骨、血を天の杯に捧げることを誓い、盟約と言う名の洗礼を受けることにより……』クドクド
ハルヒ『長いッ!』
岡部『まったく、最後まで人の話を聞けと小学校で習わなかったのか? ともかく、貴様はラボメンに収まる器ではないと見ているが、違うか』
ハルヒ『おととい言ったでしょ、あたしはSOS団団長涼宮ハルヒであって、それ以上でも以下でもないわ』
岡部『わかっている。まぁ、うちの叔父さんも世話になって、あいや、先公なんぞをやっているのだからむしろ貴様を世話しているのか?』
ハルヒ『どうでもいいんだけど。それで、使わせてくれるの? どうなの?』
岡部『あぁ、そのくらいの内容だったらいいんじゃないか。準備してやるから待ってろ』
キョン「なんだかんだ岡部さんは人が良いんだよな」
古泉「自分は気付いていないだけで兄貴肌なところがありますね。少々コミュニケーションに難ありですが」
ハルヒ『……メール、準備できたわ』
岡部『こっちも準備万端だ。して、メールの内容は?』ヌッ
ハルヒ『お、乙女の秘密よ! 見るなバカ!』
岡部『……貴様もか。まぁ、別に構わんが』
キョン(貴様“も”?)
岡部『さぁ、放電現象が始まったら送信しろ』
ハルヒ『…………』
キョン「……なぁ古泉?」
古泉「なんでしょう」
キョン「これって、ハルヒが過去改変を実行しても“なかったこと”になってるんだよな? 俺が打消しDメールを送ったから」
古泉「いえ、この世界線ではまだ打消しDメールは送ってないのでもう一度D世界線へと改変されるかと」
キョン「……俺はまたあの世界に行くのか」
古泉「いいじゃないですか。涼宮さんとのらぶChu☆Chu!を22時間近く堪能できますよ」
みくる「キョンくん……」
長門「…………」
岡部『さぁ、始まった! Dメールを送ってくれ!』バチバチバチ……
ハルヒ『……やっぱり、やめるわ』
キョン「なにっ!?」
岡部『は、はぁ!? 貴様、ここまで準備させといて、やっぱりやめるだとぉ!?』
ハルヒ『…………』
古泉「下唇を噛んでる涼宮さんの様子が容易に想像できますね」
キョン「昨日の夜に俺の話した内容が心境の変化を促したんだろうか」
古泉「変数がそこしかないのでしたら、そうなのでしょうね」
キョン「まぁ、俺としては助かったよ。あんな世界へ二度も身を投じるのはご免こうむりたい」
ハルヒ『やっぱり、やっぱり過去を変えるのはズルい気がしたの』
岡部『貴様もクリスティーナと同じことを言うんだな』
ハルヒ『違うッ! そうじゃなくて……。あたしはまだその人にお礼が言えてないんだけど、お礼を言っちゃったらその人は本当にどこかに行っちゃう気がしたの……。あたしの手の届かない、どこかに』
岡部『…………』
ハルヒ『だから、過去を変えることでお礼を言うんじゃなくて、なんとかして今からそいつを探し出して、この手でふんじばって抑えつけて抵抗できないくらいにぎったんぎったんにして!』
岡部『おいおい、お礼を言いたいんじゃなかったのか?』フッ
ハルヒ『……まぁね。ありがと、倫太郎。岡部って呼んだらあのハンドボール馬鹿とかぶるからね』
岡部『やめろッ! 俺を“りんたろう”などと間抜けた名前で呼ぶなッ! 売れない一発屋芸人みたいではないかッ! 俺の名は、狂気のマッドサイエンティスト、ほーおーいんッ!!!』
紅莉栖『ハロー。……岡部、JKと二人きりでなにやってんの?』ガチャ
岡部『あーっと、えーっと、そのだな……』ダラダラ
ハルヒ『あら、牧瀬さん』
紅莉栖『あっ、ハルヒ……。よかった、また来てくれたんだ。一昨日はその、ごめんね?』
ハルヒ『……こっちこそごめんなさい。あたし、あなたのこと、少し誤解してたみたい』
紅莉栖『えっと……なんのこと?』
古泉「さて、この辺でいいでしょう。なかなか貴重なものを聞くことができましたね」
みくる「涼宮さん、かわいい」ウフフ
キョン「まったく、山の天気のように気まぐれなやつについていくには世界がいくつあっても足りん」
キョン「それで、この後の展開を古泉は知ってるんだろ?」
古泉「たしか、涼宮さんから電話があって、あなたと二人でラジ館の調査に行きます。ですが芳しい成果は得られず、みんなでお昼を食べた後は女性陣はまゆりさんと楽しく遊び、僕たち男性陣はIBN5100探しをします」
キョン「なんと、あのハルヒが俺をじきじきにパシリとして呼び出すのか。こいつは俺も副々々団長へと格上げかな」
古泉「電気ストーブ運搬の時も直々のお使いだったと記憶していますが。まぁ、僕たちはお昼までゆっくりしてますよ。どうぞごゆっくり」
みくる「あ、あの、涼宮さんの気持ちに応えてあげてくださいね?」
キョン「? あぁ、わかってますよ。怒らせないよう気を付けます」
長門「いってらっしゃい」
キョン(たまには速攻で出て鼻を明かしてやろう)
……
プル ピッ
キョン「あーハルヒか。これからラボに迎えに行くから待ってろ」ピッ
キョン(ふっふっふ……。お前の電話のやり口を、その身を以って教えてやったぞ)
キョン(これで今後の電話の仕方を改めてくれるといいんだが、この考え自体がダメダメ少年を更正させるために道具を貸す、未来から来た猫型ロボットの脳内に酷似しているような気もする)
2010.08.10 (Tue) 10:12
大檜山ビル前
ハルヒ「…………」イライラ
キョン(そこには仁王立ちで俺を待ち構えるN2地雷があった。助けてくれ綾波)
ハルヒ「あんたバカァ!? 電話をかけてきた相手の言葉を一切聞かないやつがある!?」
キョン(でかすぎで星雲になっちまったブーメランが5000光年彼方から飛んできやがった)
キョン「たまには鳴らない電話の気分を味わえてよかったじゃないか。あ、いや、しゃべらない電話か」
ハルヒ「あんたの将来が心配だわ……。少年更正プログラムの一環として、警官の目を盗んであの人工衛星を調査する下知状を授けるわ」
キョン(犯罪を助長する罰を課してどうする!)
ハルヒ「その前に、今牧瀬さんからおもしろい話を聞いてるのよ! アンタもあやかっときなさい!」グイッ
キョン「ひ、引っ張るなって! 牧瀬さんからおもしろい話だぁ?」
ハルヒ「そうなのよ! あの人、あの若さでアメリカの大学院で脳科学研究所の研究員をやってるんですって! そこでどんな研究が行われていると思う!?」
キョン「俺のような凡人には及びもつかない人類の英知を結集した研究をしてるんだろうな」
ハルヒ「データ化した記憶に自我を持たせる実験、その名もAmadeusシステム!!」
キョン(久しぶりにハルヒの顔面からタキオン粒子たっぷりのチェレンコフ放射が行われている。不思議現象とは縁もゆかりも無さそうな科学者トークにあのハルヒが食いつくとはね)
キョン(どうでもいいが、アマデウスっつったらモーツァルトのミドルネームだったっけか?)
2010.08.10 (Tue) 10:17
未来ガジェット研究所
紅莉栖「やっほ、キョン」
キョン(アメリカ生活者だからなんだろう、気さくに話しかけてくれる。かと言って馴れ馴れしくなく、どことなく卑屈な響きに聞こえたのは何故だろうか)
キョン「牧瀬さん、お邪魔します。なんだかハルヒが世話になったみたいで」
キョン(かと言って俺はTPO的にベストな解答を出すことができず、日本社会に普遍的である無難オブザ無難な態度を取ってしまう。多分、この人にとっては俺やその他凡庸な大多数的コミュニケーションよりも……)
岡部「年下に慕われるだけでニヤニヤが止まらないとは、助手よ、お前、まさか、後輩がいないのか? そーだろうそうだろう! なんたって飛び級セブンティーンだからな! 存分に日本の伝統、先輩後輩関係を味わうがいぃー。かわいそうな貴様に、この鳳凰院凶真のことを、凶真先輩♪ と呼ぶ権利をやろう」
キョン(まさに岡部さんやハルヒのような、とにかくぶっ込んでいくスタイルの人種に対してツッコミを入れるやりとりのほうがこの人にとってはちょうどいいんだろう)
紅莉栖「いらんわ! あと助手でもセブンティーンでもないし、別に年下に慕われたからって嬉しくなんかないんだからな!!」
キョン(マイナー好かれタイプってやつだ。際立って話しかけやすくはないが、何か言ったら的確に言葉を返すタイプ)
ハルヒ「ちょっと倫太郎! 今おもしろい話をしようとしてるんだから水を差さないで頂戴」ギロッ
キョン(面白い話にゲタゲタ笑うこともなく、つまらない話を無視するわけでもない)
岡部「ヒッ……。あぁ、俺だぁ。何ッ? 例の未知からのメールの結末を固定化しろだと? なるほど、俺が事実を認識することが世界体系の存立に関係しているのだな。わかった、すぐに向かおう。エル・プサイ・コングルゥ」ガチャ バタン
キョン(どこかの誰かさんみたいにな。あれだ、適材適所ってやつなんだ)
紅莉栖「逃げたか……」
キョン「牧瀬さん……ともにがんばりましょうね」
紅莉栖「へ? あ、うん……うん?」
キョン「それで、えっと、ハルヒの大学見学の話でしたっけ?」
ハルヒ「うーん、ヴィクトル・コンドリア大学の理論物理学専攻に進学するのも悪くないと思うのよね。タイムマシンもそうだけど、プラズマ宇宙論とか、反重力子とか、アルクビエレのワープドライブとかおもしろそう! 宇宙物理学でもいいわね」
紅莉栖「私は脳科学専攻だけどね。ハルヒが好きそうなオカルト研究会も大学にあるから色々見て回るといいわ」
ハルヒ「だから! オカルトじゃないって言ってるでしょ!!」
紅莉栖「はいはい、わかってる。科学の世界において、その時代にオカルトと笑われているものがいずれ理論体系の正統派へと変貌する事象は過去に何度も発生してる」
ハルヒ「そういうことでもないったら! もう」
キョン(こいつは不思議なものと遊びたい一心なのである)
ハルヒ「そんなわけだから、キョン。アンタ理系でがんばんなさいよ」
キョン「……まぁ、ハルヒがSOS団メンバーを大学まで一蓮托生にしようとするんじゃないかとは薄々感づいていたし、それはいいんだが、そのミトコンドリア大学ってのはどんぐらいの偏差値なんだ?」
ハルヒ「世界最高峰だけど?」
キョン「ハッハッハ、ハルヒは冗談がうまいなぁ」
紅莉栖「偏差値が日本の大学のソレに換算した場合、どの程度なのかは私も調べたことがないけど、うちの大学は研究意欲に燃える学生ならだれでもウェルカムよ」
キョン(そんな詐欺行為前提のフィッシングみたいな宣伝文句を言われてもな……)
ハルヒ「キョンの研究意欲を掻き立てるかどうかは知らないけど、紅莉栖の研究所の実験の話は聞いて損はないわよ!」
キョン(いつの間にかハルヒは牧瀬さんをファーストネームで呼ぶほど親しくなったらしい。まぁ、アメリカ的にはそれが普通なのかも知れない)
キョン「えーっと、サリエリだったか」
ハルヒ「モーツァルトよ! どうしてそういう無駄知識は豊富なのかしら」
紅莉栖「Amadeusなんだけど……」
紅莉栖「ハルヒが気に入ってくれて私も嬉しいわ。えっと、4月にSCIENCYに載った論文の内容に関係してるものなんだけど、『側頭葉に蓄積された記憶に関する神経パルス信号の解析』っていうタイトルでね」
キョン「あー、牧瀬さん。ハルヒの友人だからそれなりに頭がいいだろうと思って話されているところ申し訳ないんですが、俺はもう既についていけていないレベルなので、小学6年生のうちの妹でも喜びそうな現象面だけかいつまんで話していただけないでしょうか」
紅莉栖「えっ……。あ、あぁ、ごめんね?」
キョン(謝罪されるのが一番グサッと来たが、悪いのは俺の頭のほうである)
紅莉栖「簡単に言うと、“人間の記憶”っていう非常にアナログなものを“電気信号のパターン組み合わせ”っていうデジタルなものに変換することが理論上可能になったの」
キョン「えっと、デジモン、みたいな?」
ハルヒ「話を進めて!」
紅莉栖「うちの研究チームと精神生理学研究所との共同開発プロジェクトの一つとして、この理論とVR<ヴィジュアル・リビルディング>技術ってのを使って、人間の記憶をデジタルデータに変換したものをベースに動作するAIを作っててね」
キョン「AIってのは、たしか人工知能だっけか。だが、それだと情報をY/Nで引き出すだけの装置にしかならなそうなもんだが……」
紅莉栖「正直その可能性もあった。だけど、実際にやってみてわかったのは、彼女、えっと、私の記憶をベースにしたAIはプログラム外に明確な意思を持っていた。答えたくないことには答えないし、その理由が“恥ずかしいから”なんてことはしょっちゅう。嘘だって吐くわ」
キョン「へぇ、そいつは、すごいですね」
ハルヒ「すごいことなのよ! アンタ、もっと驚きなさい!」
キョン(人間というのはむしろ明確な意思を持つことを許可されない生き物なのかもしれない)
キョン(さて、これはいわゆるトンデモ現象なんだろうが、俺は長門からその正体について既に聞いている)
キョン(あの世界外記憶領域とかに関するものだろう。そのPC内に記憶を取り込んだAIが世界外記憶領域と連結することによって、人間的な自我を獲得したり、通常の脳における記憶のように動いているのだ)
キョン(タイムマシンの次は自我を持ったロボットの反乱か? こりゃシュワちゃん大忙しだな)
ハルヒ「それって理論的な解明は全く進んでないのよね?」
紅莉栖「そう。もう、現象面ばっかりが先走ってて嫌になっちゃうわ。証明できない挙動は、それはおもしろいものだけど、せめて少しでも納得できる理論をベースにしてほしいのよね。魂がどうのこうのとか言い出す変な人が沸くから」
キョン(いわゆる宗教団体とかだろう。ガリレオ的対立というのは現代でも伝統的に行われているらしい)
ハルヒ「言わせとけばいいのよ。理解される必要なんてないわ! とことんおもしろい現象を追究すべきよ!」
キョン「そのAIってのは、牧瀬さんと瓜二つなんですか?」
紅莉栖「まぁ、当然思考パターンは似ているわね。だけどおもしろいのは、“似ている”程度ということ。全く一緒じゃないわ、というか私から言わせれば全くの別人。双子の妹ってところかしら」
紅莉栖「今年の3月に私の脳から走査したデータをベースにしてるんだけど、研究のために何回か起動してるだろうから、今頃は私の知らない記憶も持っているはずだしね。と言っても自我があるかどうかはわからない。今度帰ったら彼女が独り言をつぶやけるかどうかの実験をする予定よ」
キョン(ということは、人間の牧瀬さんの自我とは別のところにAIさんは自我を形成しているのか)
ハルヒ「……なんか、さっきからアンタ、理解してないようで実は誰よりもわかってるって顔をしてるわね」
キョン「へっ? あ、いや、そんなことは」
紅莉栖「言われて見れば確かに。実はキョンってそういうセンスがあるんじゃない?」
キョン「いやいや、無いですって! 俺の脳みそは凡々たる極致ですよ!」
紅莉栖「そういう破滅的なオートサジェスション、自己暗示は精神的にも肉体的にも良くないわ。もっと自分はできる、って信じたほうがいいわよ」
キョン(まさかのスポコン精神論である)
岡部「戻ったぞ。未来の後輩は見つかったか?」ガチャ バタン
ハルヒ「あら、いつの間に居なくなってたの?」
岡部「ふっ……ついに俺は気配を完全にシャットアウトする秘儀、“なんと!?無音拳”<キャプテンカーネル>を習得してしまったらしい……」
紅莉栖「あるあ、ねーよ。それで、岡部はどこ行ってたの?」
岡部「あぁ。なんでもラジ館から人工衛星が消失したとニュースでやっていたからな、野次馬に紛れて世界体系の安定化をしにだな……」
ハルヒ「じ、人工衛星が消失!? それってホントなの倫太郎!?」ガシッ
岡部「ぐわっ、胸倉をつかむな! ええい、そんなに確かめたいなら自分の目を使ったらどうなのだ」
ハルヒ「こうしちゃいられないわ! ラジ館に突入するわよ、キョン!」グイッ
キョン「なるほど、こういうことか……って、胸倉をつかむな! こけるっ!」
紅莉栖「あっ……。ま、またね、ハルヒ!」
ハルヒ「またね! 紅莉栖!」ガチャ バタン
2010.08.10 (Tue) 10:22
ラジ館
ハルヒ「こっちの裏手なら警備が手薄ね」
キョン「扉の鍵が偶然壊れていることを願うんだな」
ハルヒ「……だめね、鍵はすべて施錠されてる」ガチャガチャ
キョン「ならお手上げだ」
ハルヒ「うーん……。あっ、キョン! 上見て! あそこの格子に鉤縄を引っかければ登れるわ!」
キョン「かぎな……、すまん、なんだって」
ハルヒ「ロープの先に鉄鉤がついてる、忍者が使うアレよ! あれがあればあたしが上から中に入って鍵を開けられるのに!」
キョン(……秋葉原には武器屋本舗という店があるぞ、というセリフが喉まで出かかったが、この世界線でも存在してるか自信が無かったことと、もしカギナワとやらが手に入った暁にはハルヒが少年院世界線へと飛ばされるのではないかと心配になったので、俺は出かかったセリフを満を持して飲み込んだ)
2010.08.10 (Tue) 12:10
湯島某所
キョン(1時間も粘ったハルヒだったが、暑さに根を上げたのかようやく梃子が作用した)
キョン(まぁ、肝心な実物が消えちまったんだ。頑張って中に入ったとしても得られるものは少なかろう)
ハルヒ「でもどうやってあんなでっかいものが一夜にして消滅したのかしら」モグモグ
キョン(ちなみに昼飯は肉の万世のカツサンドを土産として宿に持ち帰った。確かに旨いが、財布がヤバい)
古泉「どこのプレスも報道してませんが、ある筋からの話によると、実は在日米軍のヘリが秋葉原上空を雷雲に紛れて飛行していたそうです」
ハルヒ「そうなの!? そっか、暗闇と豪雨に紛れて横田基地へ持ってったんだわ! パーツごとに分解して本国へ送って調査研究するつもりなのね!」
キョン「また適当こいて何か起こっても知らんぞ」ヒソヒソ
古泉「なにかしら着地しておかないとまずいのでは?」ヒソヒソ
その後は古泉の予言通りだった。まぁ、実際俺はさんざ動いたからな。ゆっくり休ませてもらっても罰は当たらんだろ。涼宮大明神以外からは。
翌日8月11日になって、岡部さんがタイムリープしてくることもピンバッジ探しを依頼してくることもなかった。まだ知らないのだ、この“岡部さん”は。
俺たちが知っている岡部さんがこの世界線に来訪してくるのは、タイムリープマシンを使用していないなら8月13日の夕方になるはずだと古泉も言っていた。
8月11日はほとんど俺の記憶にある8月11日と同じものだった。変に演技する必要が無いのは助かる。
具体的に言うと、長門はラボで牧瀬さんの開発手伝いをし、ハルヒと朝日奈さんは椎名さんとフブキさんと萌え談義に興じ、ブクロという名の腐海へ突入する直前に電話で呼び戻した。こればかりは危険だと俺が判断した。
マクディに居た際に長門からハルヒに電話がかかってきたが、内容は、『岡部倫太郎がやっていたボードゲームがおもしろそうなのでSOS団の部費で購入してもいいか』だった。その後俺たちは5人でホビーショップを訪ね歩いたのだった。
2010.08.12 (Thu) 21:32
湯島某所
タイムリープから早くも3日が経過した。
今日はどういうわけか突然ハルヒが、『東京ビッグサイトにIBN5100へのヒントがあるかもしれないわ!』などと世迷いごとを言い出したのでSOS団揃ってサイクリングを決行する仕儀とあいなった。今回はちゃんと自転車の数が足りた。
俺は前回のサイクリング時、『無限サイクリングをする羽目になっても構わないね』などと言ったが、それは二度と繰り返すことがないという前提があって初めて意味を持つのであって、要はあんな苦行は三度とやるもんかと誓った。
全力で東京を駆け抜けたハルヒは気持ち良く疲れたらしく、小学生並の昏倒力によって敷布団の上で幸せな惰眠を貪っていることだろう。その横では朝比奈さんが羊を数えているらしい。
残された面々は談話室で時間を潰していた。俺と古泉は昨日仕入れてきたこの“雷ネットアクセスバトラーズ”とかいうボードゲームに興じていたし、長門は長門で神保町で買った古本を早速読破し始めていた。
キョン「ほら、それウィルスカードだろ。俺の勝ちだ」
古泉「な、なにをおっしゃいますか。それはオープンしてみなければわからないはずですよ。リンクカードであるかどうかの確率は二分の一です」
キョン「お前がシャミセンなんかできるかよ。それにそんな確率論は月にウサギがいる確率と一緒だ。ほい、ほいっと。ほら、やっぱり。俺の勝ちだ」
古泉「……もう一回、もう一回だけ、お願いします」
キョン「なぁ長門。お前自身はリーディングシュタイナーを使えないのか」
古泉「くっ!!!!」ガクッ
長門「使えない」
キョン「どうしてだ? だってお前は古泉の記憶を引っ張ってこれたじゃないか。自分のはできないのか」
長門「できない」
キョン「なぜだ」
長門「わたしが人間じゃないから」
キョン(突然ヘビーな話題を振っちまったみたいだ、と一瞬申し訳なさを感じたが、その数ミクロンの首かしげにはどことなくいたずらっぽさがあった気がする)
キョン「つまり、情報統合思念体と、世界外記憶領域ってのは根本的に別もの、ってことだな」
長門「情報統合思念体はあくまでこの世界の宇宙に広域的に存在しているに限る。一方世界外記憶領域は世界の外、無数にある宇宙の全てをオーバーラップする形で存在している。ゆえにわたし自身のリーディングシュタイナー発動は不可能」
キョン「だが、4月の時間軸分岐に宇宙人三人娘は気付いていたんだろ? あれは世界の外側から観測していたわけではないのか?」
長門「時間軸分裂については喜緑江美里が両方の分岐世界を計測することで判断できた。世界の外側から観測したのではなく、両方の世界を観測した結果」
キョン「なるほどな……。わかった、長門。お前が言い出さないのでちょっと遅くなったが、例のアレをやっちゃってくれ」
長門「例のアレ、とは?」
キョン「えっと……、あの、おでこをぴとってやるやつだよ」
長門「こう?」ピトッ
キョン「!!!! い、いきなりやるんじゃない!!」アセアセ
キョン「それで、記憶はコピペされたのか」
長門「?」
キョン(なんなんだろうな、この未知との遭遇は)
キョン「記憶だよ。俺の記憶を前にもこうやって読み取っただろ?」
キョン(と、自分で発言してようやく気が付いた。この世界線ではハルヒによる世界線改変直前の様子をライブ配信していたのであったのだから、こいつは知らないのだ。俺の記憶では本来その時間に記憶のコピペが行われるはずだった)
長門「……あなたの意図していることがようやく伝達された」
キョン「すまないな、コミュニケーション能力が低くて……」
キョン(と、自分で言って泣きたくなった。まさかあの長門にこの内容で謝罪する日が来ようとは)
キョン「ッ!」
長門「」ピトッ
長門「終わった」
キョン「……ふぅ。あと何回この緊張感を味合わねばならんのだろうね」
長門「この世界線における阿万音鈴羽の1975年以降の状態およびIBN5100の獲得の結果について、すなわち秋葉幸高氏の行動の変化について調査する必要がある」
キョン「あっ」
古泉「はっ」
キョン(完全に忘れていた……。俺としたことが、野郎二人によるIBN5100捜索と称したブラブラ冷房探訪に明け暮れていたために、本来の目的であったIBN5100の行方調査について失念してしまっていた。なんたる本末転倒)
キョン「古泉、まだ機関は動いてないか?」
古泉「……少々タイムトラベルという事象に浮かれてしまっていたようです」
キョン「明日が岡部さんの飛んでくる日だが、明日一日でなんとかなるか?」
古泉「善処します」
キョン「そう言えば、明日は“俺たち”がタイムリープした日だったな。……ということは、明日俺たちもタイムリープしなければならないのか?」
古泉「それもそれで本末転倒ですが、そうはなりませんよ」
キョン「だって世界線は変動してないだろ? 古泉がそうやって記憶を維持しているということは、だ」
古泉「そもそもタイムリープは基本的に世界線を移動できません。Dメール自体も本来世界線を移動するものではないのですが、大きく因果の流れを変えることによって現在が大幅に変更されるので世界線が移動した、ように感じるだけです」
古泉「僕たちみたいに自然な時の流れに身を任せていれば、因果の変化はドミノ倒しの一つ一つなのであって、世界線を大幅に移動することは言うまでもなく不可能なのです。それは結局通常の時間変化となんら変わりは無い」
キョン「だが、明らかに世界は変わっている。俺が知ってる出来事が起こらないし、俺の知らない出来事が起こっている」
古泉「それは因果の流れ、順序が変わっただけであって、大局的なところは変わっていないのですよ。たしかに微細な事象は僕らの記憶していた因果の流れとは異なっていますが、おそらくその微妙な違いは今日、明日、明後日と延々と続く」
古泉「つまり、その世界線を世界線たらしめる根幹となる事象自体は変わっていないのですよ。これが収束、というものなのでしょう」
キョン「そう、なのか……。つまり、俺たちのタイムリープはその収束とやらに含まれていないから、明日4日前に向けてタイムリープする必要はない、ってことだな?」
古泉「そういうことです。仮に収束だった場合、嫌でもタイムリープせざるを得ない状況になるはずですね。それはそれは恐ろしい」
古泉「また、仮に僕たちの行動によって世界線が変動していたとしても、それを頭痛として認識できるのはタイムリープ実行直前の時間平面に存在するリーディングシュタイナー保有者、つまり岡部さんだけです」
古泉「要はDメールと同じですね。そしてDメールの受信履歴がそのまま残るように、タイムリーパーは改変後世界のドミノとなって時間流に身を任せるのです」
キョン「……世界線ってのは何を基準にして変動するかしないかを決めてるんだ?」
古泉「おっと、物事の本質を突くご質問ですね。D世界線はどうかわかりませんが、α世界線におけるダイバージェンスは人間が勝手に決めた相対値でしょうから“何らかの根幹的事象”からの相対的距離を元に数値化されているはずです。さて、それは一体なんでしょうか」
キョン「……ダメだ、さっぱりわからん。俺の脳みそじゃヴィクコンなんて夢のまた夢だっつー話だ」
古泉「ヴィクコンですか。涼宮さんからしたら興味の尽きない場所でしょうね」ンフ
※以下、シュタゲ“アニメ”時系列で
2010.08.13 (Fri) 10:25
湯島某所
キョン(ハルヒたち女性陣は目を覚ますとすぐ雷ネットAB<アクセスバトラーズ>の特訓を開始した。いつから玩具販促アニメと化したんだろうな)
キョン(キリがよくなり次第、UPXへ行って腕試しをしようという計画らしい。俺はまぁ、涼めるならどこでもいいが。とにかく機関からの情報待ちってところだ)
古泉「おや、岡部さんからメールです」ピッ ピッ
キョン「ほう、なんだって?」
古泉「えっとですね……」
岡部『俺は今までに大規模世界改変を引き起こしたと考えられるDメールを打ち消すことを決意した。それによって元々IBN5100を入手していた世界線にまで戻ろうという作戦だ』
岡部『最初はフェイリスのDメール。おそらくアキバの萌に関するものだ。次に漆原るかのDメール。これはハッキリわかっている、母親のポケベルに向けて野菜を食うよう勧める内容のものを送ることでルカ子の性別を男から女に変えたのだ』
岡部『次に桐生萌郁という人物のDメール。内容はケータイの機種変とあって大したことはないが、やつには気を付けろ。ラウンダーとかいうまゆり殺しの組織の一員、というか主犯だ』
岡部『ともかく、世界線復元の度にキョン少年にリーディングシュタイナーが発動すると思うが、耐えてほしい』
古泉「とのことです」
キョン「……いろいろ突っ込みどころがあって処理しきれないんだが、まぁそれは置いておくとして、IBN5100確保のためには確かに堅実な方法だ。俺のほうはいつテレポートしてもいいように気張ってればいいってことだな」
古泉「突っ込みどころに関しては機関が裏を取りに行きましょう」
長門「通常の人間はDメールを送信した記憶を持たない。ゆえに内容不明のDメールに対する打消しメールの内容を考案する作業は非常に困難」
キョン「おぉ、長門。そういやそうか、リーディングシュタイナーを持ってる人間じゃなきゃ、受信はともかく世界改変後の送信の記憶は無くなる。世界改変をする動機そのものが消えるんだからな」
古泉「ということは、その打消しDメールを作成するには高度な推理力が必要になる、ということですね」
キョン「D世界線での場合は朝比奈さん(大)の時間遡行能力に助けてもらったわけだが……、2006年以前に分岐点がある場合は手伝えそうにないな。漆原さんの件なんてまさにそれだ」
長門「対象者に世界改変前の記憶を挿入すればいい」
古泉「なるほど、僕のように強制的にリーディングシュタイナーを発動させ、自分がどんなメールを送ったのかを思い出させるというわけですね」
古泉「まるで映画『デジャヴ』のようです。主人公は何度も、まぁ映画の演出上は一回ですが、ともかく数度タイムトラベルをし、まだ時間移動をする前の過去の自分にほんのわずかなデジャヴを誘発させる。これ自体は事件解決の鍵ではありませんが、主人公の行動を変えるキッカケとなる。まさにこのデジャヴを利用するというわけですね」
キョン「よし長門。デイリークエストに追加しておいてくれ」
長門「わかった」
キョン(その時の長門は俺にしかわからない微粒子レベルのガッツポーズを決めていた、と思う)
2010.08.13 (Fri) 13:25
UPX 雷ネットABGC会場
キョン(この情報は前から聞かされていた。最初に聞いたときはなんのこっちゃと思ったが、なるほど時間的連続体の中に身を投じていれば違和感などと言うものは皆無で、ごくごく自然な成り行きに感じられる)
長門「…………」パチ
相手A「……ま、負けました」ガクッ
観客「うぉぉぉなんだあの少女!? 眉毛一つ動かさず完勝していくーッ!?」ザワザワ
長門「……デュエルアクセス」キリッ
キョン(だが、俺は興味を持ってしまった。一体全体どうしてハルヒと朝日奈さんがここへ来て、そして何をやるのか。なのでなんとかハルヒを説得して、この日は5人で同時に行動することにした)
ハルヒ「いっけーみくるちゃん! がんばれー! 特訓の成果を見せつけるのよー!」
みくる「ふえぇー、わかりませんー」
相手B「い、いやいや、定石さえ覚えてしまえばあとは簡単でござるよwwwせ、拙者が手を取り足を取り教えてあげるでござるwwwデュフフwww」
観客「おいあれ……おっぱい……ロリ巨乳……」ザワザワ
ハルヒ「じろじろ見てんじゃないわよ! 金取るわよ!」
キョン(もちろん一昨日その存在を知ったばかりのど素人がグランドチャンピオンシップなどという大それたタイトルに出場できるわけもなく、俺たちはその脇でこじんまりと開催されていた雷ネットアクセスバトラーズ初心者講座<ビギナーズバトル>とやらに参加していた)
ハルヒ「だぁー! もう、そうじゃないったら! 帰ったら特訓よ!」
みくる「ふぇぇ」
キョン(こいつは朝比奈さんを何に仕立て上げたいんだろうね)
キョン(とまあ、そんな感じで冷房の良い具合に効いた室内で時間を潰していると、本イベントのメインディッシュであるところのグランドチャンピオンが決定したらしい)
司会「……今大会のスーパーエンターテイナーに、皆様もう一度盛大な拍手を!!!!」
??「みんなー!! 応援ありがとニャーン!!」
ウワァァァァァァ!! パチパチパチパチ!! ニャンニャン!!
キョン「って、あれはフェイリス・ニャンニャン!!」
古泉「あの方があなたの言っていた猫耳メイドさんですか。なかなか可愛らしい方ですね」
キョン(そうか、この古泉はアキバが萌えの街だった世界線のことは記憶していないのか)
キョン「なぁ、直接あの猫娘にIBN5100のことを聞いたほうが機関の諜報活動より事が早く済むんじゃないか?」
古泉「二方面作戦でどうでしょうか。まぁ、聞くことができたら、という希望的観測みたいですが」
キョン「はぁ? なに言って……って、あれ? フェイリスさんはどこ行った?」キョロキョロ
古泉「ッ! 居ました、あそこです!」
キョン「へ?……なんで走っているんだ?」
古泉「どうやら危ない連中に追い回されているようですね。これはどうやら、ちょっとやばい事態みたいです」
キョン(な、なにがどうしてこうなってるんだ? えっと、トンデモ現象とは関係なく普通に事件なのか?)
キョン「……ハルヒへの言い訳は俺が考える! 古泉、機関の力を使って全力で暗躍してくれ!」ダッ
古泉「IBN5100のため、ひいては団長のためです。任せてください、人死には出しませんッ!」ダッ
キョン「ハルヒ! ハルヒ、ここにいたか」ハァハァ
ハルヒ「なによ、どうしたの? ちょうどみくるちゃんのゲームが終わったところだけど」
キョン「なぁ、ちょっと考えてみてほしいんだ。例の椎名さんのメイド姿なんだがな」
ハルヒ「……いきなり何の話? 脈絡が無いとアンタちょっとヤバイわよ?」
キョン「いや、やばくてもいいから聞いてくれ。お前ならどんなメイドコスを提案する」
ハルヒ「はぁ?……そうねぇ、あの子フリル着せると金髪が似合いそうなのよね」
キョン「そうだな! 髪型はやっぱりポニーテールだな!」
ハルヒ「……髪型はツインテールね。それで、カチューシャをつけたいわね! 猫耳がいいわ!」
キョン「そうだハルヒ、猫耳だ。椎名さんの猫耳は何があっても守られなければならない、そうだな?」
ハルヒ「はぁ? うーん、そりゃ猫耳は神聖にして不可侵の存在だからね。アンタみたいな俗物の手からは守られなければならないわ」
キョン「よく言った、それでこそ団長様だ。悪いがハルヒ、俺と古泉はちょっと寄り道してから帰る。じゃぁな!」ダッ
キョン(これでハルヒによる言挙げは充分だろう! 慢心はないッ!)
ハルヒ「あ、ちょっと!……なんなの、アレ」
2010.08.13 (Fri) 17:25
UPX 1F 屋外
キョン(さて、この次はどうするか……)タッタッタッ
プルルルル ピッ
古泉『追手側の素性がわかりました。決勝戦でフェイリスさんに敗北したヴァイラルアタッカーズという集団で、かなり悪名高いようです』
キョン「逆恨みってことか。ぞっとしない話だ」
古泉『実行犯は下っ端、背後にはケータイを使って駒を動かしているリーダーがいるようです』
キョン「将を叩かないと永遠にイタチごっこか。古泉はなんとかしてソイツの居場所を突き止めろ。ついでに警察に突き出してやれ」
古泉『了解です。ご武運を』ピッ
キョン「……とは言ったものの、あいつらどこに……、あ、岡部さん!」
キョン「岡部さんとフェイリスさんが手を取って、あの変な服装のやつらから逃げ始めた……」
キョン「どうする、俺が走って追いかけて意味があるか……」
長門「このタイミングでフェイリス・ニャンニャン、本名秋葉留美穂のリーディングシュタイナーを誘発させる」
キョン「うおっ、長門。こ、このタイミングでか?」
長門「古泉一樹に施したような完全記憶置換は今回は推奨しない。現在世界線の記憶が消滅してしまうから」
キョン「お、おう。それはまぁ、わかる」
長門「ゆえに部分的に記憶をダウンロードするように仕込む。短時間に大量のデータを挿入すると脳出血、あるいは脳に関する疾病を引き起こす恐れがあるので、必要最低限の記憶を、その記憶と密接に結びついた言葉や場所、印象などをトリガーとしてダウンロードする」
キョン「……それって危険じゃないのか?」
長門「元々リーディングシュタイナーは人間に潜在的に有する通常の能力。リーディングシュタイナー誘発は身体能力の強化と変わらない」
キョン「そんなもんか……。だが、どうして今なんだ?」
長門「秋葉留未穂の過去改変は秋葉原の街全体に関するもの。岡部倫太郎と街中を走り回っている今ならばトリガーが多いはず」
キョン「はぁー、なるほど。とは言っても、ホントにやばそうになったら長門の力で二人を救出してくれ」
長門「わたしは古泉一樹を信じている」
キョン(長門がそういうセリフを言う日が来るとはね……。よかったな古泉、絶対教えてやらねぇ)
長門「」スッ
キョン(長門が交差点の斜向かい、NRの高架下をやおら指差した。その挙動はまるで蝶の羽ばたきのごとくふわりとしたものだった)
キョン「って、あれは岡部さんとフェイリス・ニャンニャン! ぐるっと一周してきたのか」
長門「今から断片的リーディングシュタイナーを秋葉留未穂に挿入する。許可を」
キョン「……わかった。やってくれ」
キョン(そういうと長門は突き出していた右手の手のひらを上向きにして開き、何かを柔らかく投げ飛ばすような仕草をした)
キョン(そこにはいつの間にかインディゴブルーのオーラをまとった一羽の蝶がひらひらと飛んでいた。しかしそれはまるでこの世のものとは思えない存在感で、少しでも気を抜けば見失うような透明感だ)
キョン(そしてそれは、俺の視線からしてあの猫耳メイドと重なったところで消滅した、ように見えた)
長門「これでこっちは大丈夫」
キョン「次はあの二人をちょうどいいタイミングで助けないとな」
長門「わたしたちが介入するのはあまりお勧めできない」
キョン「なぜだ?」
長門「秋葉留未穂は基本的に人に対して心を開かない。常に上辺を塗り固めている。Dメールの内容を話せる相手はおそらく、岡部倫太郎だけ」
キョン「ほう……というか、ハルヒもそうだが、どうして皆Dメールの内容を隠そうとするのかね」
長門「わたしたちにできるのは……」スッ
キョン(長門は先ほど蝶を出したマジックハンドを、またもふわりとした指差し確認用に突き出した。その指示する先には、)
キョン「って、あそこに居る紳士的な壮年男性は、秋葉幸高氏か!」
キョン(俺の記憶には秋葉幸高氏の学生時代の頃の顔しかないが、たしかに面影がある)
キョン(そうか、実の娘が大会の決勝に優勝したんだ、見に来ていてもおかしくない!)
長門「あの人なら、二人を助けた上で秋葉留未穂の心を開かせる可能性がある」
キョン「さっきからこれしか言ってない気がするが、敢えて言おう。なるほど、わかった、と」
キョン「あ、あの! 秋葉幸高さんですよね!?」タッ
幸高「あ、あぁそうだが。君は?」
キョン「えっと、フェイリスさん、いや、るみほさんの知り合いの者です。るみほさんが俺のことを覚えてるかはわかりませんが……」
幸高「そうか、なぁ君。うちの娘がどこに行ったか知らないか? さっきから探しているんだが、どこにも見当たらなくて、連絡も取れないし、なにかあったんじゃないかと不安で……」
キョン「……それが、なにかあったみたいです。今娘さんは危ない男たちに追われてるみたいで……」
プルルルル ピッ
古泉『下っ端たちは機関が発見次第足止めしていますが、どうにも数が多く、今は岡部さんがフェイリスさんと隠れ隠れ逃げ回っている状況です。ですが追い詰められるのも時間の問題かと』
キョン「……くそっ!」
幸高「いったい何が起こっているんだ。娘はどこにいる!」
キョン「古泉! フェイリスさんは今どこだ!?」
古泉『……今、昭和通り側のx番地xxの裏路地に、しまった! 行き止まりです!』
キョン「……聞こえましたか、秋葉さん」
幸高「あぁ、なにがなんだかわからないが、そこに行けばいいんだな! 黒木、すぐに車を出せ!」
黒木「用意はできております」ガチャ
ブォォン!! キキーッ!! ブロロロロロ……
キョン(なんだか新川さんみたいな執事が運転するロールスロイスが爆速でアキバの街を駆け抜けていった……)
キョン「古泉、今そっちに意外な人物が向かった。多分なんとかしてくれるだろう」
古泉『意外な人物ではありませんよ。そのドライバーは機関のメンバーでこそありませんが、新川さんとは同期の桜です。幸高氏に関する情報提供者でもあります』
キョン「マジでか」
古泉『それから、リーダーのシドの居場所が判明しました。これより本案件は収束に向かうでしょう』
キョン「そいつはよかった。ついでにそのクソ野郎の顔を拝みたいんだが、どこに行けば合流できる?」
古泉『なかなか趣味が悪いですね。いいでしょう、彼は今、先ほど申し上げた裏路地へ移動中のようです』
キョン「わかった、そこをランデブーポイントとしよう。オーバー」
古泉『ディスイズブラボー、ラジャーアウト』ピッ
キョン「長門はどうする?」
長門「わたしは宿に戻って涼宮ハルヒの監視を続ける」
キョン(監視などという言葉を使ったが、おそらくアミダクジ大会と称した朝比奈さんのバレンタインデーチョコ争奪戦の時のように機転を利かせてハルヒにうまいこと言い訳してくれるのだろう。こっちの面でも頼りになるとは鬼に金棒、宇宙人にリーディングエアーだ)
2010.08.13 (Fri) 17:40
裏路地
4℃「俺のヤバすぎるオーラがぁ、そいつを真っ黒に染め上げたいと囁くんだぁ」コツコツ
4℃「シーンの最前線に立つのは常に一人ぃ。その一人とはッ! 黒い羽根を羽ばたかせた孔雀……」コツコツ
キョン「お、おい。あんなやつがヤンキーのリーダーだってのか?」ヒソヒソ
古泉「言動は常軌を逸していますが、チーマー的カリスマ性だけはあるのでしょう」ヒソヒソ
4℃「クレイジーな舞でぇ、テメェをエレガントに沈めてやるぜぇ。漆黒に選ばれるのは、この俺だぁ」コツコツ
4℃「その目に焼き付けるがいい……。冥土の土産になぁ……」コツコツ
キョン「さて、岡部さんとフェイリスさんは幸高氏によってとっくに救出されたわけだが」ヒソヒソ
古泉「残存していたチンピラも既に警察が逮捕しています。今回は田丸兄弟ではなく、ホンモノの国家権力ですけどね」ヒソヒソ
4℃「キャキャキャキャキャキャ! 待たせたなぁ。4℃様参上!」
警官A「君、ちょっと署まで同行してもらえるかな」
4℃「あぁ? なんだぁ貴様らぁ!?」
警官B「警察だ。現行犯で逮捕する」
4℃「ケイ……サツ。え、逮捕する!? WAWAWA……」
古泉「21歳無職、鈴木功一、17時45分緊急逮捕。これにて一件落着です」
キョン「……なんだか俺の友人T君の行く末が心配になってきたんだが」
古泉「彼がファッション誌に興味を持ち始めたら機関に連絡してください」
キョン「それで、岡部さんは」
古泉「黒木さんからの情報によると、殴る蹴るの暴行を受けたため、現在は秋葉家にて傷の手当てを受けているようです」
キョン(長門よ、これでホントによかったのか? まぁ、いざとなればタイムリープすればいいか……)
キョン「そうなるとしばらく連絡は取れそうにないな」
古泉「その間に僕たちは僕たちで調べられることを調べておきましょう」
キョン「そうだな……。俺はこれから柳林神社に行く。もしかしたら元の状態に戻っているかもしれん」
古泉「わかりました。こちらは引き続きこの世界線における橋田鈴さんの遍歴を洗い出しておきます」
2010.08.13 (Fri) 18:16
柳林神社
正直ここに来たのは失敗だった。
柳林神社に到着し、豪気とは正反対の雰囲気で剣を振るっていた巫女さん、漆原さんに例のIBN5100の在り処について尋ねたところ、また来たのか、何度言ったらわかるんだという感じであしらわれてしまった。
いや、俺が要約すると漆原さんの性格がゆがんで伝わってしまう恐れがあるな……。実際のセリフは次のようなものだ。
るか『えっと……以前にも、いらっしゃいました、よね……』
るか『前にもお伝えしました通り……、そのようなものは、うちでは預かっていません……。お力になれず、申し訳ありません』グスッ
俺はIBN5100をこの場で入手するはずだった世界線からそうじゃない世界線に飛ばされたはずだ。元居た世界線に戻っていないのだからこの世界線の8月7日でもハルヒによる神社巡りは行われていたのだ。
どうも世界線移動の後遺症が俺の脳に出ているらしい。元からのデキとは言わせない。
神社に奉納されてすらいないということは、この世界線でも橋田鈴、すなわち阿万音さんによるIBN5100入手作戦は失敗した、ということなのだろうか。
それとも秋葉幸高氏の手に渡りはしたが、奉納できなくなった事情があったのか。かつて俺が聞いた、フランス人の実業家の話だ。
古泉の言うメタ的視点から推理すれば後者なんだろう。この世界線ではあまりにも秋葉家と岡部さんが関わりすぎている。
案外岡部さんが独力でIBN5100を発見して終わり、というシナリオで落ち着くのかもしれないが、その場合はうちの団長様の面目的にはどうなるんだろうな。
言いようのない安心感の上に覆いかぶさる薄皮一枚の不安を持て余した俺は、夏の夕涼みに最適であろう柳林神社を後にして鬼が出るか蛇が出るか状態の暮らし慣れた宿へと帰還することにした。
2010.08.14 (Sat) 00:16
湯島某所
キョン(不思議とハルヒから俺と古泉が何をしていたのかを問いだたされることはなかった。このSOS団三人娘は雷ネットABにドハマリしているらしく、野郎どものことは興味の外に置かれたらしい。これも長門のおかげかも知れない)
古泉「まぁ、涼宮さんのことですから明日には飽きているかもしれません」
キョン(それと岡部さんからメールが入っていた。椎名さんの死亡に関して、その命の期限が24時間伸びているらしい。つまり8月14日の20時頃が文字通りデッドラインとなったわけだ)
古泉「なぜ24時間延びたのか。これは神のみぞ知る、と言ったところでしょうか。世界外に観測点がない限りは理屈を理解することは難しそうです」
キョン「さて、古泉。それじゃ戦果を発表してもらおう」
古泉「了解です。思った通り、世界線の変更によって大幅に事象が改変されていたようです」
古泉「僕のリーディングシュタイナーを強制発動させてもらって、あなたと長門さんには頭が上がりません。こんな貴重な推理をさせてもらえるのですから」
キョン「ミステリーに超能力はタブーだったんじゃないのか」
古泉「超能力どころか世界が変わってしまうという、本来なら底抜けの禁じ手なのですけどね」
古泉「さて、良い知らせと、どちらかと言えば悪い知らせとがあります。どちらからいきましょうか」
キョン「……悪い知らせからで頼む」
古泉「了解しました」
古泉「この世界線でも阿万音さん、橋田鈴さんは2000年5月19日に亡くなっていました」
キョン「そんなッ!! ならどうして世界線が変わったんだ!?」
古泉「変わっていたのです。自殺ではなく、病死という形に」
キョン「病死……」
古泉「一体どのような病状だったのか。彼女が入院していた六井記念病院にガサ入れした結果、原因不明の進行性多臓器不全と診断されていたことがわかりました。カルテにはX線を大量に浴びた可能性についても言及されていましたが、要は現代医学では不明、ということです」
古泉「わかりませんが、もしかしたらブラックホールの特異点を通過した後遺症なのかもしれません。あの電話レンジがカー・ブラックホールを発生させていたのならば、人工衛星型タイムマシンもそのような構造である可能性が高い」
古泉「ブラックホール自体は放射線を放出しませんから外部被ばくによる幹細胞の死滅とは考えにくい。もしくは、リフターの調整がわずかにうまくいかず、特異点を裸にし切れなかったことで肉体的損傷を負ったか、細胞のガン化を促進することとなったか」
古泉「死因はともあれ、これが世界線の収束なのでしょう。世界が結託して命を奪いに来る……。アトラクタフィールドとは、死神のような存在ですね」
古泉「良い知らせのほうですが、橋田鈴さん、阿万音さんのIBN5100入手は成功していました。つまり、記憶障害になることなくミッションコンプリートしたわけです」
キョン「ホントか! そりゃ、よかった……。あぁ、きっとよかったんだ。岡部さんにメールで伝えておこう」
古泉「この世界線では、阿万音さんは当時上野の一帯に蔓延っていた犯罪者集団と交渉して『橋田鈴』の戸籍を偽造されたようです。かつてそこでニンベン師をやっていた方から冥土の土産にと教えていただきました」
古泉「ちなみに今回の事の発端である、2010年6月後半に@ちゃんねるで『秋葉原に幻のレトロPCが現れたらしい』という噂を流したのは、この方が所属していたグループの一人でした」
キョン「そいつがハルヒをアキバへ呼び寄せたのか……」
古泉「1998年3月にそうするよう依頼されていたらしいですよ、橋田鈴という人物に」
キョン「因果の輪がまるで知恵の輪みたいにこんがらがってきたな。こりゃお手上げだ」
古泉「橋田鈴は1975年には、発売直後で世間の話題をさらっていたIBN5100を、どこからか手に入れた資金によって複数台購入していました」
古泉「さて、阿万音さんの病死の後IBN5100はどうなったか。以前の推理通り、秋葉幸高氏の手に移譲されて管理されたようです。おそらく橋田鈴さんは、おいおい柳林神社へ奉納するよう幸高氏にアドバイスをしたのだと考えられます」
キョン「話がようやく繋がってきたな」
古泉「ところが幸高氏は、例の娘さん誘拐未遂事件の身代金を用意するためにフランス人の実業家に売ってしまったようです」
キョン「……フランス人の実業家!!」
古泉「よかったですね、確実にあなたの記憶の中にある、スタート地点の世界線に近づいていっているようです」
キョン「だがまだアキバは萌えを取り戻していない……。フェイリスさんが8月7日に送っただろうDメールを打消すことによって、そこまで戻れるといいんだが」
古泉「きっと大丈夫でしょう、岡部さんなら」
キョン「しかし古泉よ、やたらとフランスという単語が出てくるのはなぜだろうな」
古泉「SERNと天王寺裕吾についてはまだわかるとして、どうして秋葉氏がIBN5100を売った相手までがフランスなのかはわかりません」
古泉「ただの偶然と思うのが普通ですが……。陰謀論が現実味を帯びている現在、そうも言ってられないかもしれない」
キョン「可能性としてはなにがある?」
古泉「例えば、SERNがIBN5100を血眼で回収している。それも人を殺してでも奪い取る状態で」
古泉「そのためにラウンダーを動かしている。IBN5100は、SERNが外部からハッキングされる恐れのある唯一のアイテムですからね」
キョン「橋田鈴さんはむしろその魔の手から逃れるためにIBN5100を確保してたんだな……」
古泉「橋田鈴さんもSERNをハッキングしていたのかもしれませんね」
古泉「もしかしたらIBN5100が幻のレトロPCと呼ばれるほど現存台数が少なくなっているのはラウンダーの仕業かもしれません」
古泉「当然フェイリスさんの誘拐未遂事件もラウンダーによる自作自演。身代金よりも実際はIBN5100を取得したかった」
キョン「ディストピア構築のために?」
古泉「いえ、おそらくディストピア構築は結果であって、この時点での目的ではないと思います。つまり、タイムマシン作成が現在目標かと」
キョン「やっぱり裏でSERNを操ってる黒幕がいるらしいな。話は堂々巡りに入ってきたか」
キョン「ってことは、また明日だな……」
古泉「ここ数日はスラプスティックに巻き込まれてしまってお互い疲れているはずです。ゆっくり体を休めてください。明日何が起こるかわからないのですから」
キョン「あぁ、わかってるよ。しっかし、とんだ夏休みになっちまったもんだ」
古泉「完全な自由時間という意味で言えば、実質高校生活最後の夏休みですからね。涼宮さん的な力を考慮すれば、どんな事件が起きても不思議ではありません」
キョン「なぁ、ハルヒは来年の夏休みもこんな感じで突っ走るんだろうか」
古泉「さすがにある程度は進学のため勉学に励む日々になると思いますが」
キョン「なんだか想像できないな。受験勉強で休みを潰す団長様の姿はさ」
古泉「んふっ。同感です」
------------------------------------------------------------
◇Chapter.8 涼宮ハルヒのハルシネーション◇
------------------------------------------------------------
2010.08.14 (Sat) 8:30
湯島某所
ハルヒ「さぁ、特許記念日の本日もチャキチャキIBN5100を探すわよーッ! おーッ!」
朝日奈「お、おーっ!」
キョン(ヤバい、急性胃潰瘍が発症したらしい……。本当にハルヒがIBN5100を手に入れたらどうなるんだ? ラウンダーの襲撃? 世界線の大改変? 流血沙汰だけはご容赦願いたい)
古泉「張り切っていきましょう」
キョン(古泉のやつはどうしてこんなに能天気になっちまったんだろうな。まさか、強制リーディングシュタイナーの後遺症か?)
・・・・・・
キョン(クジ引きによる班分けはちょっとビックリする結果だった)
ハルヒ「へー、このメンバーになるなんて珍しいわね」
古泉「確率的には起きて然るべきでしょうが、確かに不思議な気分です」
キョン(その結果は、ハルヒ、古泉、俺の三人班と、朝比奈さん、長門の二人班となった)
みくる「……ひぃ」
長門「…………」
キョン(朝比奈さん、ガンバです)
キョン(しかし、これでは岡部さんの元へ相談しに行けないな……)
古泉「それで、団長。本日はどこを捜索しましょうか」
ハルヒ「そうねぇ……。研究機関が臭うわね!」
キョン「警備会社に門前払いを食らうのがいいオチだ」
ハルヒ「だったら中に入れる場所に行けばいいのよ」
キョン「……?」
古泉「なるほど、大学ですが。この時期でしたらどこの大学も僕たちみたいな高校生が見学する程度なら受け入れてくれると思います」
キョン「あー、そういやうちの親にもそんな言い訳を使ったんだった。瓢箪から出た駒だな、こりゃ」
キョン(そんなわけで俺たちは近場にあった東京電機大学へと乗り込んだ。まぁ、この大学ならギリギリ俺でも目指せる程度だしな。理系を受けるつもりはさらさらないが。ハルヒと古泉にとっては成績的には歯牙にもかけない場所だろう)
ハルヒ「わかってないわね、キョン。そんなスノビズムで大学を選ぶなんて無意味だわ! 理工系の大学は偏差値なんかより本人の研究意欲のほうが重要なのよ!」
キョン(普通ならこういう発言は負け犬のシニシズムになるんだろうが、ハルヒが言うと説得力しかない)
ハルヒ「それにこのレトロな雰囲気! いかにも日本のアカデミズムって感じね!」
古泉「初代学長の丹羽保次郎氏は発明家であり、ファックスの生みの親です。まさにこの大学は、『技術は人なり』を体現した場所と言えるでしょう」
キョン「だがあちらこちらに2年後の北千住への移設の件について貼りだされているな」
古泉「時代の流れでしょうか。さみしいものです」
ハルヒ「どうやら『未来科学部』ってのがあるらしいわ! 名前からして怪しいわね……!」
キョン(ここが岡部さんや橋田さんの通ってる大学、牧瀬さんとフェイリスさんの親父さんたちが通った大学、ついでに天王寺さんの嫁さんが通った大学、そして橋田鈴さんが学生としても教授としても暮らした場所か……)
キョン「未来ガジェット研究所はとことんこの大学に縁があるらし―――――――――――
D 0.456914%
2010.08.14 (Sat) 10:16
湯島某所
―――――――ッ!!」ブフォッ!!
みくる「だ、だいじょうぶですかぁ!? コーヒーお口に合いませんでしたぁ!?」ピィィ
キョン(あ、あれ!? 俺はなんでコーヒーなんか飲んでるんだ!?)ゴホッ!カハッ!
ハルヒ「ちょっとキョン!! いくらみくるちゃんの淹れた冷コーが不味くても飲み込むのが男ってもんでしょ!?」
みくる「ふぇぇん」
長門「味に問題はない」
古泉「大丈夫ですか。もしかして体調が悪いのでは」
キョン「あ、あぁ。すまん、ちょっと部屋に戻るわ」
ハルヒ「そんな暇ないわ! 早く準備しなさい! そろそろ倫太郎が動き出すわよ!」
キョン「は、はぁっ!? どうしてそこで岡部さんの話が……」
キョン(って、しまった! 岡部さんが世界線復元に成功したのか!)
ハルヒ「はぁ? アンタ記憶喪失にでもなったの?」
古泉「……昨日岡部さんから、明日女子高生とデートをするので、現役女子高生の涼宮さんたちにどのようなデートにすれば良いかと相談があったのですが、お忘れですか?」
キョン(なんだって世界はそんなことになってるんだ……。あぁ、あれか。女から男へと戻すっていう、人智を越えた性転換のためか。なんのこっちゃ)
キョン「古泉まで俺を健忘症扱いするな。ちょっと白昼夢を見ていただけだ」
ハルヒ「それはそれでヤバいと思うけど……」
2010.08.14 (Sat) 10:31
神田川 新幹線ガード下
キョン(ハルヒに強制連行される形で宿を出たが、アキバの街は久しぶりの姿、体感では12日振りに見る“萌え”だの“アニメ”だの“メイド”だのがゴロゴロしていた。ふぅー、この安心感)
みくる「待ってください涼宮さぁん! はぁ……はぁ……」ピョコピョコ
キョン(そしてこの朝比奈さんはどういうわけか例の猫耳カチューシャを標準装備している。今後、萌えの存在確認の指標は朝比奈さんの猫耳で代用しよう。癒されるしな)
キョン(それはそうと、どういうわけかこの世界線のSOS団は出歯亀根性まる出しでヒトのデートを尾行するというお世辞にも趣味がいいとは言えない行動を取ることになっているらしい)
古泉「涼宮さんたっての希望でしてね。岡部さんの弱みを握り、それによってIBN5100の譲渡をなかったことにしようと持ち掛けるつもりなのですよ」
キョン「ゆすりたかりの類じゃねーか。ロクなことをしねぇな」
キョン(そして古泉に関しては俺がこの世界について記憶喪失状態であることを見抜いてやがる。岡部さんから教えてもらったのか?)
キョン「……そうだ、IBN5100だ! この世界線だったら、壊れたソレが手に入るはずなんだ!」
古泉「でしたら、そう急ぐことはないでしょう。とりあえず涼宮さんに付き合いませんか」
キョン(こいつはIBN5100の重要性について岡部さんから聞いてないのか……?)
ハルヒ「……あそこ! 来たわよ! やっぱりあの巫女さん、かわいいわねぇ! ほら、尾行!」
キョン「急に引っ張るな! あと大声出したらバレるぞ!」
長門「…………」
キョン(しかし、あの漆原さんがバック・トゥー・ザ・マンるってのはいまいち実感が沸かないな……。ゴリゴリマッチョマンに変身したりするのだろうか)
紅莉栖「あれ、アンタたち……」
ハルヒ「あっ……」
みくる「あっ、えっと、研究所の……」
ダル「おほっ! あ、いやいや、僕は三次元なんかに屈しないお! やっぱりかわいいオニャノコには勝てなかったよ……」ガクッ
長門「…………」
古泉「皆さん考えることは同じようです」ンフ
ハルヒ「えっと、紅莉栖も尾行してるの?」
紅莉栖「ハァ!? だ、誰があんな厨二病男のデデデデートなんか尾行するもんですか! 私はただあいつがヘマこくようなことがあったらメールでアドバイスをしてやろうとだな!」
ダル「必至すぎるぜ牧瀬氏ェ……」
ハルヒ「……そう。そうなると、あたしの計画は失敗ね。それにこんな大人数で尾行したら足がつきそうだし」
キョン(人数はこっちのせいだろうが、まぁ確かにラボのメンバーと一緒に尾行したら握れる弱みも握れないからな)
2010.08.14 (Sat) 14:35
ゲームセンター
キョン(牧瀬さんたちと会ったことでハルヒのデートイベントに対する関心は急激に薄れたらしく、昼飯を食べた後適当にその辺のゲーセンで時間を潰すこととなった)
ハルヒ「みくるちゃんッ! 次はレーシングやりましょ! 峠と湾岸どっちがいい?」
みくる「ふぇぇ」
古泉「それで、先ほどのIBN5100の件ですが、おかしいとは思わないのですか?」
キョン「ん? なにがおかしいんだ?」
古泉「もしあなたの言う通りこの世界線がIBN5100を入手できる世界線だとして、どうして現在のSOS団は未だIBN5100を入手していないのでしょう」
キョン「……そうか。あの世界線に戻ってきたって言うなら、8月7日に俺たちはIBN5100を入手しているはずだ。……してないのか?」
古泉「目下捜索中でして」
古泉「ちなみにIBN5100については岡部さんから世界線を復元させることで入手しようと試みていると聞いていますが、それは?」
キョン「聞いた。それなのにどうして岡部さんは漆原さんとデートなんかしてるんだ?」
古泉「漆原さんから交換条件を提示されたそうです。母親のポケベルの番号を教える変わりに恋人になれ、と」
キョン「……大人しい顔して知謀家じゃないか。まさに羊の皮を被った狼だな。ルカじゃなくてマタイ伝だが」
キョン(どういうことだ……。まさか、元の世界線には戻れていない?)
キョン「なぁ古泉。ちょっと長門とお前と3人になりたいんだが」
古泉「そうですね、10分程度でしたらパッといなくなっても問題ないかと思いますが、その前にアレをどうにかする必要がありそうです」
キョン「アレ?」
長門「…………」パチパチパチパチ
観客A「なんだこりゃ……人間の動きじゃねー!」
観客B「ALL GREATとか、AUTOさんかよ……」
観客C「JKが弐寺ランカープレイとか、胸熱!」
観客D「大萌神降臨!!卡哇伊!!」
キョン(筐体ゲームコーナーの一角にできた人だかりの中には、最低限のエネルギー消費で淡々と鍵盤を弾く長門の姿があった)
古泉「さて、何人かの抵抗に遭うでしょうが無理やりにでも引きずり出しますか」
2010.08.14 (Sat) 14:44
店外
キョン「悪いな、古泉。助かった」
古泉「いえいえ。長門さんもコンボ中にすいませんでした」
長門「いい」
キョン「それで、古泉特攻隊長殿。今のお前にとっては何度目の世界改変になるんだ?」
古泉「確信できる世界改変は今まで一度もありませんでした、あなたからの報告を含めて」
古泉「涼宮さんによる過去改変は未遂に終わりましたしね。よって今回が初めてです」
キョン「なに、そうなのか? ならどうして様子のおかしい俺にフォローを入れた?」
古泉「まさに様子がおかしかったから、という理由ですよ」ンフ
キョン「世話焼き女房みたいなことしやがって」
キョン「今までの経緯をいちいち口で説明するのが面倒くさいからな、お前が本来持ってるべき記憶を呼び覚まさせてやろう」
古泉「ほう、健忘症になったのは世界のほうでしたか。これはなかなか、楽しみですね」
キョン「長門、こいつにリーディングシュタイナーを発動させてやってくれ」
長門「りーでぃんぐしゅーくりーむ?」
キョン(ボケなのかマジで知らないのか一瞬困惑したが、この長門がリーディングシュタイナーの名称を知るわけないんだったな)
キョン(その上でボケてきたのか……。段々と長門のどうでもいい部分の能力が開拓されつつあるらしい)
キョン「ほら長門。おでこを出せ」
長門「?」
キョン「あー、これも説明するのか……」
古泉「―――――――ッ、はい、到着っと。長門さん、いつもありがとうございます」
長門「いい。わたしもちょっと楽しい」
キョン「……!?」
古泉「な、長門さんがそのような言葉を口にするとは……」
長門「今回の世界改変騒動においてわたしはあまり活躍できない。それはわたしが人間ではないから」
長門「あなたから読み取った記憶の範囲でしか世界を認識できない。なので、微力ながら協力できることが少し嬉しい」
キョン「……そうか、長門も少しずつ変わってきているんだな」
古泉「なんというべきでしょうか、ずいぶん人間臭くなってきましたね。もちろん、良い意味で」
長門「褒め言葉として受け取っておく」
キョン「それで長門、今度はどんな世界なんだ?」
長門「アキバに萌えが復活した」
キョン「それは目視して確認した。ってことはだ、例の神社に行けば、じゃなかった、ロッカー会社の倉庫に行けばIBN5100はあるんだな?」
長門「現在時空平面のベータロッカーシステム社の倉庫全てを確認したが、IBN5100はいずれの倉庫にも確定的に存在しない。現在トラッキング中」
キョン「……なんてこった。まるで人参を目の前にぶら下げられて走り続ける馬の気分だぜ」
古泉「ですが、僕たちにはタイムリープマシン(長門さん印)があります。これで8月7日まで戻れば確実にゲットできるのでは?」
キョン「……いや、待て待て。そもそもどうしてこの世界線の俺たちはIBN5100を手に入れられなかったんだ?」
長門「この世界線ではフェイリス・ニャンニャンこと秋葉留未穂が柳林神社へIBN5100を奉納した事実を涼宮ハルヒに報告していなかった。わたしたちが柳林神社に足を踏み入れたのは涼宮ハルヒの勘によるもの。ゆえに涼宮ハルヒは柳林神社にIBN5100が奉納された事実を確信できなかった。よってIBN5100の存在が確定しなかったためトラッキングが実行できなかった」
キョン「なんだか難しい話だが、要はフラグが立たなかったってことか」
キョン「やっぱり俺の元いた世界線に戻ってきたってわけじゃないんだな……」
古泉「完全に同じ世界線に戻ることは不可能です。今回はそのズレが大きかったのでしょう」
古泉「つまり、ほとんど同じ世界線ではあるのですが、長門さんが先に述べたフェイリスさんの行動の一点のみが異なっており、ゆえに因果の流れが変わった世界であると」
キョン「はぁ……。そう考えたら急に疲労感が俺の身体を支配し始めたぜ」
古泉「萌えがアキバに戻って来てよかったじゃないですか」
キョン「……!! そうだ!! これで俺は、あのメイド喫茶に行けば金髪ポニーテールの椎名さんに会えるッ!!!!!!」
古泉「明日のコミケで会えると思いますよ」
古泉「ですが、僕にとっては逆に不思議ですね。秋葉原が萌えの街になっているだなんて……。正直言いまして、現実感がまったくない」
キョン「そうか、古泉の記憶はそこがスタートだったんだな。長門、もっと昔の記憶、要は俺が体感した意味での8月7日以前の世界線の記憶をミックスさせることってできないのか?」
長門「可能。世界線変更直前のタイミングと該当する世界線の記憶の合体を合わせる。今回は新規消去は行わず、バックアップデータの追加のみを行う。これを8月7日分と7月28日分の2回に渡り繰り返す」
キョン「だそうだ。どうする古泉?」
古泉「そうですね……。かなりややこしいことになりそうですが、自分の記憶があって困ることはないでしょう。是非よろしくお願いします」
長門「但し大量の記憶が一瞬にして脳に挿入されるので出血する」
古泉「―――――――――というわけで、数々の世界線の記憶を持つ超人類が誕生しました。リーディングシュタイナー保持者と同じ地平に立つということ……。まさに僕は全宇宙<コスモ>と一つになったのです」タラーッ
キョン「全記憶を消去したほうが良さそうだな。あと鼻血拭け」
長門「ティッシュ」
古泉「じょ、冗談ですよ。長門さん、ありがとうございます……」
キョン「というか、頭痛を起こしたり鼻血を流したりするくらいなら、例のナノマシン注入で改変の影響を受けずに記憶を持ち越すようにできないのか?」
長門「不可能」
キョン「なぜだ?」
長門「ナノマシンの影響を与えられるのは世界線の変更が無い場合に限る」
キョン(あー、そりゃそうか。俺がハルヒに蹴られまくった世界線から戻った時、身体の生傷は消えていたのと同じ理屈だ。ナノマシンを打ち込まれたところで、打ち込まれてない世界線に移動してしまえば記憶の持ち越しは不可能なんだろう)
古泉「とにかく、IBN5100探索をしましょう。岡部さんとの合流はデートが終わってからですね」
キョン「ハルヒにはどこまでインフォームドコンセントしていいんだ?」
ハルヒ「全部に決まってるでしょ!! 三人でなにやってるのよ! 急に居なくなって心配したんだからね!」
キョン「どぅわっ!? す、すまんハルヒ! ちょっとゲーセンの喧騒が息苦しくてな!」
ハルヒ「……そうなの? 体調が悪くなる前に早くいいなさいよね。それじゃ喫茶店でも行ってちょっとゆっくりしましょ」
古泉「喫茶店……なるほど」ピカーン
キョン(古泉が突然したり顔になった。またなにか企んでやがるな)
キョン「それで、ハルヒ。喫茶店でIBN5100について教えろってわけか」
ハルヒ「そゆことっ」
2010.08.14 (Sat) 15:07
メイクイーン+ニャン2
フェイリス「ご注文のアイスコーヒーだニャン♪ ごゆっくりニャンニャン~♪」
キョン(古泉たっての申し出によって俺たちはメイド喫茶へ来ることとなった。あいつにこんな趣味があったとはな)
キョン(現在時間平面において椎名さんは外回りでチラシを配っているらしい……。くそっ、またしてもニアミスか…...)
ハルヒ「それで、アンタたちはどこまでIBN5100について情報を仕入れたの?」ジュゴー
キョン「あぁ、それなんだがな……。えーっと、あの、なんだ。だからその、うーん……」
古泉「僕からご説明致しましょう」
キョン「お、おい。ラウンダーに狙われるかもしれない状況でハルヒに暴露して大丈夫なのか?」ヒソヒソ
古泉「なにかあったらタイムリープマシン(長門さん印)でやり直せばいいだけですよ」ヒソヒソ
キョン「不安だ……」
ハルヒ「なにひそひそ話してるのよ! 早く言いなさい!」
古泉「まず、IBN5100の在り処、というより、あったはずの場所が特定できました」
ハルヒ「ホント!? どこなの!?」
古泉「それはなんと! 柳林神社という小さな神社に、とあるレトロPC収集家が、奉納していたらしいのですよ!」
フェイリス「」ピクン
キョン(なんだ、古泉のやつ。仰々しく芝居がかりやがって)
ハルヒ「やっぱりそこに在ったのね!?……あたしに嘘を吐くなんて、あの巫女さんいい度胸してるじゃない」ゴゴゴ
キョン(へぇ、この世界線ではあの人嘘吐いたのか。そういや他の人にも嘘吐いたって随分前に言ってたが、あれは岡部さんのことだったんだな)
古泉「ところが、そこの巫女さんが去年のお正月にIBN5100を壊してしまいましてね。なにしろあれは重たいですから」
ハルヒ「えぇー!? 壊れちゃってたの!? うーん、壊れたものを手に入れても仕方ないわよねぇ……」
古泉「僕の知り合いにこういう特殊なマシンを修理するのが得意な方がいましてね、その人に頼めば直るかも知れません」
ハルヒ「ホントッ!? それじゃーさっそく柳林神社へ向かいましょう!」
キョン「待てハルヒ。話を最後まで聞け」
古泉「その巫女さんがですね、奉納品を壊したことを怒られると思ってかはわかりませんが、壊れたIBN5100を街のコインロッカーに入れて放置してしまったらしいのです」
フェイリス「ニャッ!?」
ハルヒ「えぇー……。うーん、その行為は人としてちょっと許しがたいけど、まぁいいわ。ということは、ロッカーの管理会社に問い合わせれば!」
古泉「それが、まさに先ほど問い合わせをしてみたのですが、そのようなものは自社倉庫のどこにも見当たらないとのことでした」
ハルヒ「そんなぁ!? もっとちゃんとよく探すように電話しなさい! 早く!」
キョン「待て待て。無いって言ったら仮に在ったとしても無いんだろ。ここまできたら正直お手上げだ」
ハルヒ「そんなことないわ! 痕跡があるんだから在るに決まってるのよ! きっと会社の中にIBN5100に明るい人間がいて、こっそり自分の家に持って帰って暗い部屋で一人孤独にニンマリしてるんだわ!」
キョン「その架空の人間を犯人に仕立て上げる癖、なんとかならんのか」
フェイリス「ごめんニャ、盗み聞きするつもりはニャかったんニャけど……。もし見つけることができて、直せるのなら直してほしいニャ。IBN5100」
キョン「あぁ、いえ。こちらこそ大声で騒ぎ立ててすいません」
キョン(そういや橋田鈴さんが獲得したIBN5100は実質この人の手で奉納されたんだったな。でも普通子どもに任せるか? どうして幸高氏自身で奉納しなかったんだ?)
ハルヒ「なんでフェイリスが心配するのよ。あなたもIBN5100捜索祭りに興味があるの?」
フェイリス「その……。実は神社にそれを奉納したのはフェイリスなのニャ。パパの、パパの遺言だったんだニャ……」
ハルヒ「フェイリスが持ってたの!? って、そうだったの……」
みくる「遺言……そうだったんですかぁ……」グスッ
キョン「ゆ、遺言だと!? どういうことだ、あの秋葉幸高氏は、死んだってのか!? いったいどうして……」
フェイリス「ニャニャ!? パパのこと知ってるニャ!?」
ハルヒ「どうしたのよキョン、突然取り乱して」
キョン「だって、幸高氏とは昨日……」
フェイリス「昨日? パパが死んだのはもう10年も前の話ニャんだけど……。キョン、顔色が良くないニャ! お水持ってくるニャン!」
キョン(なんてこった……。よかれと思って世界線を元に戻ってきたつもりだったが、そのせいで人が一人死んじまった、だと……)
キョン(岡部さんはこのことを知っているのか……? 知った上で世界線を改変したのか……?)
古泉「急な話で納得できないことは多いと思います。ですが、今は運命だったのだと受け入れてください」ヒソヒソ
キョン「……クソッ!!」
ハルヒ「?? なんか様子がおかしいわね……」
キョン「いや、なんでもない。ともかく、亡くなった親父さんのためだ、なんとしてもIBN5100を手に入れようじゃないか……」
ハルヒ「もとよりそのつもりだけど……」
フェイリス「はい、お水ニャン。ゆっくり飲んでニャン。もしかして、キョンはパパの幽霊にでも出会ったニャン?」
キョン「幽霊……たしかに、あれは幽霊みたいなものかもしれない……」
キョン(この世界線の俺にとっては、世界外記憶領域に保存された記憶の断片でしかないんだもんな、UPXで出会ったあの秋葉幸高氏の存在は……)
キョン(なるほど、案外幽霊なんていう存在そのものじゃないか、世界外記憶領域とリーディングシュタイナーというのは。阪中事件の時は柳の下の枯れ尾花だと否定したが、火の無いところに煙は立たぬとはよく言ったもんだ)
フェイリス「その、パパはなにか言ってた、かな?」
ハルヒ「やめなさいフェイリス。コイツに霊感なんて無いわ」
キョン「そうだな……。幸高氏は、ABGC<アクセスバトラーズグランドチャンピオンシップ>でフェイリスさんが優勝するのを見届けてましたよ。それから、ヴァイラルなんとかっていうチーマー集団の物理攻撃からあなたを守っていました」
ハルヒ「ハァ? アンタなに言って……」
フェイリス「……やっぱり、ホントにパパに会ってたんだね。ありがとう、教えてくれて」ウルッ
ハルヒ「……あんまり適当言うのは感心しないけど、今回は許してあげるわ」
ハルヒ「それで!? そのベータロッカーシステムの本社はどこにあるの!?」
古泉「横浜市の金沢にあるそうです」
ハルヒ「わかったわ、それじゃ乗り込むわよ!」
キョン「ま、待てハルヒ! 本社にあるとは限らんだろ!」
ハルヒ「もちろんそうよ! だから二手に分かれるわ! 古泉くん、ここから一番近い事業所は!?」
古泉「三田にあるそうです。山手線で言うと田町駅が最寄りですね」
ハルヒ「じゃー有希とキョンはそっちね! あたしと古泉くんとみくるちゃんは横浜まで行ってくるわ!」
フェイリス「いってらっしゃいませニャー!! フェイリスは、SOS団を全面的に応援するのニャー!!」
2010.08.14 (Sat) 15:37
秋葉原
キョン(ハルヒの采配はなにか基準があったんだろうか、それとも“直観”だったのだろうか。いずれにしても後は長門の宇宙的パワーに頼ればIBN5100が手に入るというものだ)
キョン(これで未来ガジェット研究所がSERNへクラッキングを仕掛ければ、ディストピア化は回避できる上、椎名さんの命を救うことができる。同時にどでかい世界線変動が起こるらしいが、まぁ、俺の頭は慣れてるし大丈夫だろう)
キョン(なによりハルヒの最大の目的が達成される。さすがにIBN5100が手に入らなかったからという理由で夏休みをループさせられるのは勘弁して欲しいからな)
キョン「それで長門。トラッキングは完了したか」
長門「まだ」
キョン「えらく時間がかかるな……」
長門「その前に、漆原るかにリーディングシュタイナーを誘発させたほうが良いと考える」
キョン「あぁ、そうか。フェイリスさんの時と同じか。……ん? だが、メールの内容自体は判明してるんだから必要ないんじゃないか?」
長門「岡部倫太郎に報告しているDメールの内容が虚偽の可能性がある。あるいは、そもそも自分がDメールを送ったこと自体を思い出させなければ抵抗する可能性がある」
キョン「……あのか弱い漆原さんがまさか、とは思うが、今までも25kgもある壊れたレトロPC―――しかもそれは自分が壊したものである―――をロッカー会社の迷惑を考えずロッカーにぶち込んだり、相手の弱みを握って恫喝し男女関係を強要したりしてるから、一概に否定できないか」
長門「漆原るかの現在時間平面における座標は、午前中に視認した時から追跡していたので把握している。あとは誘発させるだけ。許可を」
キョン(そういってこの宇宙人は俺のほうをわざわざ振り返り、銀河のように深遠な瞳で俺を見つめてくる)
キョン「ん、でも長門さん、長門に俺の記憶をコピペする前から漆原さんを追跡してたのか?」
長門「涼宮ハルヒが今日一日尾行する予定だったため」
キョン「そういやそうだった。それじゃ、やっちゃってくれ」
キョン(言うや否や、昨日と同じように長門の右手から一羽の蝶らしき何物かが宙へと羽ばたき、秋葉原のどこかへとふわりふわり飛んでいった)
キョン(それから待つこと3分)
長門「IBN5100のトラッキングが完了した」
キョン「それで、どうなった?」
長門「IBN5100は現在――ニャーン――、コンピ研部長氏の自宅にある」
キョン「……すまん、なんだって」
キョン(わざわざこの言い慣れてたセリフを言う必要は無かったんだが、どうしても聞き返したくなる内容だったもんだから止むを得ない)
長門「情報プロテクトが施されていて、遠隔による物質転送は不可能」
キョン(いろいろ突っ込みたいところはあるが……、今はそんなことをしてる暇はないだろう)
キョン「つまり、去年の夏の試験終わりと同じく、新幹線に乗ってその不思議空間から囚われのIBN5100を救出しに行かねばならないということか」
長門「そう」
2010.08.14 (Sat) 15:52
東海道新幹線車内
キョン(去年の夏、例の魔法円模様の直視による黄土色空間への引きこもり事件に際して、その被害者は部長氏含め8人いた。うち5人はご近所さんでなんとかなったわけだが、残りの3人は新幹線に乗って救出しに行ったことがあった)
キョン「IBN5100を求めて東京に来たのに、結局北高周辺へ舞い戻るというのもなにかの因果かね。まさか俺たちが時速300km近くで西へ移動しているとはあのハルヒでも思いつくまいよ」
長門「…………」
キョン(一応古泉には連絡しといたが……、あいつの小さな企てはこんな感じだった)
古泉『僕たちはフェイリスさんが奉納した事実を知ってましたからね、メイクイーン+ニャン2でIBN5100の話をすればおそらく自分が奉納したと名乗り出る』
古泉『それを聞いた涼宮さんは、やっぱりIBN5100はこの世に存在するんだと強く確信するはずです』
古泉『そうすれば涼宮さんはなんらかの方策を立てるでしょう。それは願望実現能力としても、あるいは』
キョン(そんなパルプンテみたいな仕込みをしなくたっていいじゃないか。まぁ、IBN5100を入手さえしてしまえばハルヒの怒髪天もふわふわウェービー程度に落ち着くだろう)
キョン「それで、長門。どうしてまた部長氏なんだ」
長門「トラッキング中、故障したIBN5100は確率の雲の上に存在していた。それが確定したのは涼宮ハルヒが架空の犯人を仕立て上げた後、秋葉留未穂の奉納の事実を耳にした瞬間だった。その犯人像が部長氏」
キョン「……結局ハルヒの仕業か。あいつの記憶の中で一番レトロPCを持ってそうな人物が部長氏だったというわけだ。あれほどIBN5100はパソコンではないと言ったはずなんだけどな」
キョン「どこから質問すべきか……。えっと、まず、確率の雲の上にIBN5100が存在する、ってのはどういう意味だ?」
長門「IBN5100がシュレーディンガー方程式の解として存在していた。要は波動関数」
キョン「東京に来てから俺の理系の成績は上がったかも知れないな。つまり、確率的に存在はするが、この地球上のどこにあるかは確定していなかった、ということか?」
長門「そう」
キョン「どうしてそんな奇怪なことになった」
長門「世界線の収束が共鳴したためと思われる」
キョン(これ以上世界の仕組みについて質問することに意味はあるんだろうか……)
キョン「えっと、長門? 世界線の収束が共鳴するってのは、どういうことだ」
長門「わたしは現在世界線以外の世界線関数を確認することができないので推測しかできない。なのでもしかしたらわたしの考えは間違っているかもしれない。それでも、いい?」
キョン(長門が古泉役をせねばならんとは、世界線とは厄介なもんだな)
キョン「あぁ、もちろんだ。頼む」
長門「……本来であれば、現在世界線におけるマクロ系は近接世界線からの揺動によって本質的孤立系とは成り得ず、事象の波動関数を収縮させ、その結果コペンハーゲン解釈となる。これがマクロ宇宙、すなわち世界線の単一性の保証となるが、今回はそのバランスが崩壊した」
長門「IBN5100に関連する事象は非常に多世界解釈の因果を背負っている。微小な世界線変動率<ダイバージェンス>変化により事象の因果律は多様化、複雑化した。それが可能となるのは、世界の外にデコヒーレンスを起こさせる観測者が存在するため」
キョン「……そんなWikiを開いて適当に目についた単語を並べたようなセリフを言われてもな」
長門「簡単に言うと、岡部倫太郎を中心とする未来ガジェット研究所がIBN5100捜索と世界線移動を同時に行ったためにIBN5100の存在が曖昧なものになった」
キョン「片手間に超常現象が発生されても困るぜ……。それじゃ、次の質問だが、部長氏の部屋にカマドウマ空間よろしく情報プロテクトがかかっているのはなぜだ」
長門「涼宮ハルヒがIBN5100を確保するために発動した」
キョン「なるほど、こういうのならばシンプルで非常にわかりやすい理由だ。局地的非侵食性融合異時空間だのジャンク情報が混在だの情報生命体が覚醒だのというおはぎとぼたもちの中間的存在みたいなものではなく、純度100%のハルヒ成分によって構成されているならば清々しいほどに安心感があるというものだ」
キョン「ちなみに部長氏は今どこに?」
長門「ホンジュラス」
キョン(……あーっと、確か中米は部長氏のご両親の実家だったか。まぁ、そういうシーズンだし、ここは驚くところじゃないのか)
キョン「なんだかわけのわからんことになったが、去年と似たような手順でカギを開錠し、宝箱の中のお宝を奪取しちまえばいいだけの話なんだよな」
長門「後は任せて」
キョン(この長門さんの頼もしい発言にすべてをゆだねて、俺はこの小さな宇宙人と擬似愛の逃避行へとまさに現実逃避しても構わないだろうか。最近忙しかったし、いいよね?)
キョン「お、富士山が見えたぞ」
長門「そう」
キョン「やっぱり富士は日本一の山だな」
長門「そう」
キョン「……なぁ、長門。その、漆原さんやフェイリスさんに誘発させたリーディングシュタイナーって、本人からしたら混乱するんじゃないか? 本来あるべきはずのない記憶が頭ん中にあるんだから」
長門「通常範囲のリーディングシュタイナーの場合、多くの人間はそれを夢、幻、あるいは記憶違いなどとして認識、処理する」
キョン「そりゃそうか。それで、岡部さんがその夢や幻の内容をピタリと言い当てれば夢じゃなくなるってわけだ」
長門「……人間は夢と現実を対立すべき概念として考える。しかし、夢、幻、デジャヴと言ったものは全て人間の脳内の化学的変化および世界外記憶領域との連結であり、現実に起こっている事象。これを非現実として切り捨てるのは人間が社会的動物だから」
キョン「……んん?」
長門「仮に夢を二人で見ることができれば、それは少なくとも二人にとっては夢ではない」
キョン(去年の5月の、ハルヒによる世界崩壊のことを言ってるのか。そりゃ、そうだな。俺が仮にハルヒに、お前にキスした夢を見たと言ったら、それはハルヒにとって夢幻ではなくなり、俺がタコ殴りにされることは物体が光より速く移動することが不可能なことと同じくらい確定的だ。今俺たちが乗車してるのは“のぞみ”だけどな)
長門「逆に通常なら現実と認識すべき事象でも、その事象へアクセス可能な人間が一人しかいない場合、社会的には妄想や幻想として処分される」
キョン「ってことは、自分の妄想を周りの人間に認識できるような、催眠術誘発装置とかがあれば、それって妄想じゃなくなるのか? メガロマニアもビックリだな」
長門「理論上はそうなる」
キョン(この一連の会話は長門にとってはただの雑談なのだろう。それを楽しいと感じてるかどうかは、そのセリフの長さや言い回しでなんとなくわかる)
長門「…………」パクパク
キョン(次から次へとシュウマイが消滅していく。非常に規則正しいモーションの反復によって、箸で持ち上げられたシュウマイズは長門の口へと放り込まれていく)
キョン(駅で飯を買うのを忘れていた俺たちは車内販売で夕食を済ませることにした)
キョン「シュウマイ弁当、おいしいか?」
長門「」モグモグ
長門「」ゴクン
長門「とても」
キョン(なんともお行儀の良いことだ。クルミ割り人形のような瞳が俺にその美味さについて訴えかけてくる)
キョン「……俺のシュウマイも食うか?」
長門「……いい」
キョン(ほんの一瞬、コンマ1secにも満たない間隙、長門は言いよどんだ、気がした。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね)
キョン「気にするな、食っていいぞ。ほら」
キョン(そう言って俺は自分の弁当に一つ入っていたシュウマイを箸で長門の弁当箱に投げ入れた)
長門「……ありがとう」
2010.08.14 (Sat) 19:52
部長氏自宅
キョン(部長氏の住まいは、可もなく不可もなく、新しいとも旧いとも言えない平凡な、三階建て半地下一階のワンルームマンションだ)
キョン(記憶の通りに存在していて嬉しい気持ちになるなんて、ついに俺は非日常に慣れすぎて日常:非日常関係が逆転してしまったらしい)
長門「…………」ガチャ
キョン(いつぞやのソレと一ミクロンたりとも違わぬ所作で開錠する長門。さて、ここまでは予想の範囲内だが)
キョン「相変わらずな部屋だな。ポスターが変わってるくらいか?」
キョン(良くも悪くもまったくもって不思議な現象は発生していないように思えることに安心する)
キョン(部長氏も俺と同じ、普通の人間、普通人だったのだと思うと、海外旅行をしている時に会う見ず知らずの日本人に親近感を覚えるソレのような感覚に陥った。海外に行ったことないけどさ)
キョン「さぁ、違法侵入であることに変わりはないが、気持ち的に素早く済ませてしまいたい。例のnbtstatの高速詠唱を頼む」
長門「今回は情報プロテクトを解除すればいいだけ。その鍵はここにある。今開錠された」
キョン「なに? 鍵ってどこに……」
キョン(と、俺の質問半ばにして長門は産業用ロボットアームのごとく正確無比に右手の人差し指で床を指し示す。そこには親戚から送られてくる蜜柑箱サイズのダンボール箱があった。こんなもん、さっきまでここに無かったと思うのだが……、あれか。開錠ってのはそういうことか)
キョン(おもむろにダンボールを開けるといわゆるレトロPCが収納されていた。そのボディには『IBN5100 portable computer』と旗幟鮮明に書かれている)
キョン「つまり、SOS団にしか手に入れらないようにハルヒが保護防壁を敷いた、ってことか」
長門「そう」
キョン「さて、俺たちはこれを秋葉原へ持っていかねばならない。まぁ、仮に盗難届が出されたとしたら“無かったものが盗まれる”という弱小オカルト雑誌に掲載される程度の不思議現象という名の空き巣が発生するわけだが、まぁなんだ。大丈夫だろ。部長氏だし」
長門「抜かりはない」
キョン(まったく頼もしい限りだ)
長門「湯島の宿へ転送する。許可を」
キョン(もはや形骸化した許可申請儀式に俺はいちいち安堵の胸をなでおろす)
キョン「あぁ、もちろんだ。やっちゃってく――――――――――――――
ハルヒ「IBN5100を探しに行くわよ!」【その3】
元スレ
ハルヒ「IBN5100を探しに行くわよ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1438088111/
ハルヒ「IBN5100を探しに行くわよ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1438088111/
「涼宮ハルヒの憂鬱」カテゴリのおすすめ
- ハルヒ「みんな、ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
- 古泉「ゲームを作ってみたんですが」
- 長 門 有 希 の 黒 歴 史
- 朝倉「朝倉涼子の憂鬱」古泉「これはこれは」
- 長門「キ ク ナ」【東急東横線】
- キョン「お。奇遇だな、長門、古泉」
- 朝倉「>>5をして涼宮ハルヒの出方を見る。」
- 古泉「涼宮さんはああ見えて普通の女の子です」キョン「マジか」
- 長門「だりーな」
- キョン「特にやる事もないし、ハルヒでもからかうか」
- キョン「ハルヒって乳でかくね?」
- 長門「ただいま」キョン「おかえり」
- 朝倉「あなたを夕食に招待して涼宮ハルヒの出方を見る」
- 佐々木「ねぇ、キョン。 君は特別では無いのかい?」
- ハルヒ「こっ、高校デビューってのをしてみるわっ!」
- ハルヒ「親友(笑)」佐々木「SOS団(笑)」
- キョン「ち、近寄るな! 化け物!」
- キョン「お前ら俺が見えてないのか?」
- ハルヒ「不思議探索に行くわよ!!」
- 古泉「あぁ そういえば皆さんはオ○ニーする時はどのように……?」【前編】
「シュタインズ・ゲート」カテゴリのおすすめ
- 岡部「最近ラボメン達が中途半端に前の世界線の記憶を思い出してる」
- ダル「牧瀬氏、オカリンのこと好きっしょ?」紅莉栖「ふぇ!?」
- 岡部「へ、へぇい、キャンユースピークイィングリーッシュ?」
- 「岡部倫太郎の消失」
- 岡部「紅莉栖が好きすぎて生きているのが辛い」ダル「」
- 紅莉栖「私明後日にはアメリカに帰るの」岡部「だから?」
- 岡部「紅莉栖!」千早「はい?」
- 岡部「危ない紅莉栖!」紅莉栖「ふえっ?」
- 紅莉栖「岡部が口をきいてくれなくなった」
- 岡部「離合集散のアンフィビアン」
- 岡部「厨二キャラに疲れた」
- オカリン「今夜、星を見に行こう!」まゆしぃ「え?」
- 岡部「紅莉栖をひたすら愛で続けたらどうなるか」
- 紅莉栖「岡部ぇ……岡部がいないと私……」
- ダル「胸を大きくする未来ガジェットを作ったお」 紅莉栖「」ガタッ
- 岡部「ストライクウィッチーズ?」
- 岡部「クリスティーナを無視ししつつも愛情をそそぐ」
- 岡部「ん、これは…助手のアルバムか」
- 紅莉栖「今日はエイプリルフールか」
- 岡部「作戦名はオペレーション・インフィニット・ストラトスだ!」