ハルヒ「IBN5100を探しに行くわよ!」【その1】
ミーンミンミンミーン……
キョン「あいび……。すまん、なんだって?」
古泉「IBN5100。幻のレトロPCとも称される旧式のコンピュータのことですね。
しかし、それが発売されたのは確か今から……」
長門「35年前の1975年」
古泉「だそうです。これを探すとなると相当困難かと」
キョン「ところでハルヒよ、またどうしてそんなものに興味を持ったんだ」
ハルヒ「これを見なさい!」
ハルヒとシュタゲクロス
キョン「パソコンの画面? なになに……」
【都市伝説】幻のレトロPCが出現したらしいwwwww【9スレ目】
キョン「これ、某大手掲示板じゃないか。こんなところの情報を鵜呑みにする気なのか?」
ハルヒ「ところがどっこい! “疾風迅雷のナイトハルト”まで出張ってきて本格的に捜索されているらしいわ!」
ハルヒ「どこのどいつかは知らないけれど、それをあたしたちSOS団が先回りゲットして鼻を明かしてやりましょう!」
キョン「なんだその厨二病全開のネーミングセンスは」
長門「『疾風迅雷のナイトハルト』。MMORPG”エンパイア・スウィーパー・オンライン(通称エンスー)”において多くのプレイヤーから英雄視されている神プレイヤーのアカウント名”ナイトハルト(クラス:パラディン)”の通称」
キョン「……長門よ、ネトゲもやってるのか?」
長門「わりと」
ハルヒ「この祭りの覇者としてSOS団が君臨すれば全世界にSOS団の名が知れ渡るって寸法よ!」
みくる「なんだかすごいですぅ」
キョン「ハルヒ、そんな旧式のパソコンなぞあっても要らんだろう。もう既にお前の目の前にはコンピ研から略奪してきたブラウン管モニターと共に立派なPCがあるじゃないか」
長門「正確にはIBN5100はパソコン、パーソナルコンピュータではない」
ハルヒ「わかってないわねぇ、キョン。こんなレトロPCがネット環境に対応してるわけないでしょ?」
キョン「じゃぁ何に使うんだ」
ハルヒ「売ればプレミアつくだろうから、コレクターに高値で売ってもいいけど……。数十年大切に保管しておいて、また噂を流して全国一斉宝探し大会を開催するってのもいいわね!」
古泉「SOS団運営の見事な利用方法かと」
ハルヒ「そうなのよ! 不思議探索の成果を元手に次の不思議探索が始まる……。これぞ資本主義の基本ね!」
キョン「資本なら今年の3月に長門が部費をたんまり生徒会からもらってきただろ。そもそもそのレトロPCとやらはこの日本のどこにあるって言うんだ?」
ハルヒ「アキバらしいわ」
キョン「あ、アキバって、まさかお前」
ハルヒ「今年の夏は、アキバへ行くわよーっ!」
---------------------------------------
◇Chapter.1 涼宮ハルヒのモラトリアム◇
---------------------------------------
D 1.130426% β世界線
2010.07.16 (Fri) 16:11
文芸部部室
キョン「ま、待て待て! ホントにこんなあるかないかもわからんものを探すために東京くんだりまで行くつもりか!?」
ハルヒ「ハァ。まったく、呆れて物も言えないわ。アンタ、この1年と3ヶ月でSOS団の何を学んできたの?」
古泉「不思議探索こそ、SOS団の本分かと」
ハルヒ「副団長はわかってるわねー。ほら、平団員は見習いなさい?」
古泉「お褒めに預かり光栄です」
キョン「そりゃいつも通り駅前をウロウロする程度なら構わんが、見知らぬ遠方の大都市となると何に出くわすかわかったもんじゃないぞ」
ハルヒ「それがおもしろいんじゃない! ついでに東京観光もできて一石二鳥よ!」
キョン「できればメインディッシュを逆にして頂きたい! だが一日二日で見つかるような代物とも思えん」
古泉「宿泊は、東京の湯島にある僕の親戚の家に間借りという形で良ければ宿泊費は抑えられます」
古泉「来月から家族で長期間海外旅行に行くそうで、もし良ければ家番を兼ねて泊まってくれないかと頼まれていたのですよ」
ハルヒ「さっすが古泉くん! それじゃ、SOS団大不思議探索@東京遠征を計画するわよ! おーっ!」
みくる「お、おーっ!」
キョン「……やれやれ」
2010.07.16 (Fri) 18:10
通学路 下校中
ハルヒ「ついに私たちSOS団が萌えの本場アキバに行くわよ、みくるちゃーん!」
みくる「は、はぁーい! 今から楽しみですぅ!」
ハルヒ「浮かれちゃダメよ、みくるちゃん! 最大の目的は都市伝説級の逸品を探し当てることなんだからね!」
みくる「えぇー」
長門「…………」
キョン「それで、その親戚ん家ってのは」
古泉「もちろん、機関の手配になります。ご安心下さい、今年は殺人事件など起こりませんので」
キョン「寸劇と言ってくれ。警官の耳にでも入ったら職質される」
古泉「それに日程は8月以降と釘を刺しておきましたので、SOS団としても機関としても色々準備できるでしょう」
キョン「心配しているのはそこじゃないんだがな。今年の夏休みも息つく暇が無さそうでありがたいこった」
2010.07.19 (Mon) 10:12
終業式 HR
担任「あー、いよいよ明日から夏休みだ。高校2年の夏は、確かに来年が辛いからと言って遊びたくなるのはわかる」
担任「だがな、だからと言って遊んでばかりいると来年がつらくなるのはお前たちだからな。宿題も去年より多く出ているんだから……」クドクド
キョン(いつもに増して話が長いな、岡部の野郎)
キョン(そういえば朝比奈さんは大学受験をどうするつもりなんだろうか。まぁ、未来人が進路を心配するというのも変な話だが)
ハルヒ「…………」ハァ
キョン(背後に聞こえた溜息は朝比奈さんの身の上を案じたものだろうか、それとも岡部の長講一席による退屈から生じたものだろうか)
担任「……であるからして、しっかりと自覚を持って有意義な時間を過ごすように。最後に、先生からお前らにビッグニュースがある!」
キョン(……ん?)
担任「この度、先生は結婚することになりました!! だっはー!!」
キョン「んなッ!?」
ハルヒ「なんですってッ!?」
2010.07.19 (Mon) 14:23
文芸部部室
ハルヒ「SOS団の総力を挙げて岡部の結婚披露宴を盛り上げるわよ!」
みくる「お、おーっ」
ハルヒ「来週の27日にやるらしいから、みんなで準備するわよ! アキバ探索計画の立案は一旦後回しね」
古泉「んっふ。担任教諭の結婚をお祝いするなんて、素敵なことじゃないですか」
キョン「岡部の野郎も生徒が余興をすることに満更でもないらしい」
キョン「それでハルヒよ、今度はなにをやらかすつもりなんだ?」
ハルヒ「あたしたちにできることと言ったらバンドとかかしら」
キョン「あぁ、去年の文化祭の時のアレか。それならENOZの先輩方に手伝ってもらうか?」
古泉「一応僕はベースが弾けますよ」
みくる「た、タンバリンならなんとか……」
ハルヒ「じゃぁキョン。ドラム練習しておきなさい。あたしは軽音部に言って楽器借りられないか頼んでくるから!」
キョン「はいよ、ドラムねドラム、ってできるか! あ、おい、話を聞け! ……行っちまいやがった」
長門「大丈夫。演奏についてはわたしがなんとかする。あなたはスティックを握ってさえいればいい」
キョン「涙が出るほど助かるぜ、長門」
ハルヒ「軽音部に話したら楽器貸してくれるって!」
キョン「まさか野球部の時みたいに脅したんじゃないだろうな」
ハルヒ「そんなことしなくても向こうから貸してくれたわよ。去年の文化祭からあたし、結構軽音部に勧誘されてたのよねぇ……。毎回断ったけど」
キョン(そういやうちの軽音部はハルヒに純粋に恩があるんだったか)
ハルヒ「そんなわけだから、キョン。今すぐココに軽音部から楽器を運んで来なさい!」
キョン「このクソ暑い中ドラムセットを旧部室棟へ移動させるなんて、よくそんな拷問が思いつくもんだ」
古泉「僕も手伝いますよ」
キョン「疲れた……。両の手がじんじんしやがる」
古泉「衣装はどうしましょう」
ハルヒ「せっかくだからコスプレしましょ! 有希は次回作の映画の宣伝を兼ねて魔女っ子、あたしは新歓の時のチャイナにするわ!」
ハルヒ「古泉くんとキョンはスーツスタイルでバッチリ決めてきなさい! みくるちゃんは……」
みくる「ふぇぇ……」
ハルヒ「やっぱりいつものメイド服よね!」
それから一週間、SOS団はさながら軽音楽部の体を成していた。とは言ってもホンモノの軽音部が聞いたら失笑もののクオリティだ。
文芸部室はここ数年の静謐を破り、ひたすらに騒音を奏でるパンドラの箱と化していた。
コンピ研やら他の部活動から文句の一つも来なかったのはどういう理屈なんだろうな。もしかしたら宇宙的パワーが働いていたのかもしれない。
急に俺のドラム技術が上達したらハルヒが怪しむだろうからと、長門の能力によって俺の演奏は日ごとにド下手、かなり下手、下手、ちょっと下手、我慢できる、普通といった具合で押し上げられていった。器用なもんだ。
古泉が微妙にうまいのが癪に障る。まぁ、長門とハルヒの超絶技巧があればそれなりに聞けるものになるんじゃないか。朝比奈さんは主に演出面と精神衛生面担当だ。
2010.07.27 (Tue) 16:46
祝川 旅館 結婚披露宴会場
司会「続いては、新郎の職場であります、北高の生徒さんたちによる出し物です! どうぞー!」
担任(す、涼宮が居るのか……。不安だ……)
パチパチパチ……
キョン「マジで大丈夫なのか……」
長門「信じて」
古泉「僕も長門さんに頼りたくなってきました……」
長門「がんばって」
みくる「ふみゅぅ……緊張します」
ハルヒ「大丈夫よみくるちゃん! それじゃ、行くわよ!」
私ついていくよ どんなつらい
世界の闇の中でさえ
きっとあなたは輝いて
超える未来の果て 弱さゆえに
魂壊されぬように
my way 重なるよ今
2人に God bless…
パチパチパチ……
担任「おぉー!! お前らありがとうなぁー!! 俺は今、モーレツに感動しているー!!」
キョン「ふぅー、なんとか成功したみたいだな」
古泉「あなたはスティックを握っていただけの自動演奏でしたけどね」
キョン「うるさいぞ古泉」
ハルヒ「さぁ、早く着替えて、あとはおいしいものをお腹いっぱい食べましょう! 元取るわよ元!」
みくる「はぁーい」
長門「…………」コクッ
みくる「あたしちょっとお手洗いに行ってきます」
ハルヒ「あ、じゃぁあたしも行くわ。有希は?」
長門「いい」モグモグ
ハルヒ「そう。じゃぁみくるちゃん、二人で行きましょ」
みくる「はぁい」
キョン「なんとなくハルヒがなにかやらかすかと思っていたが、平穏無事に終わりそうでよかったよ」
古泉「それはフラグというやつですよ」
長門「…………」モグモグ
古泉「ところで、IBN5100と言えば、タイムトラベラー“ジョン・タイター”のことはご存知ですか?」
キョン「ジョン・タイター?……あぁ、部室の本棚にそんなタイトルの本があったっけか。だが、そのジョン太郎とIBN5100とにどんな関係があるんだ」
長門「IBN5100には公表されなかったコンピュータ言語の翻訳機能があることが2036年にわかったとタイターは言っている」
長門「彼の使命は2年後に迫っている2038年問題に対応するためのものであり、過去から受け継いだコンピュータプログラムをデバッグするためにIBN5100が必要。そのために1975年へタイムトラベルをしている」
キョン「レトロPCにそんな機能が本当にあるのか?」
長門「実際にIBN5100は内部でSystem/370のエミュレーションをおこなっており、メインフレーム上のプログラムのデバッグに使用できる機能がある」
キョン(相変わらず長門の口から出てくる長台詞はよくわからん)
古泉「未来人を擁するSOS団が未来を救うためのキーアイテムを捜索する……。なかなかどうして、面白そうではありませんか」
※書籍『未来人ジョン・タイターの大予言』(短縮URL)
http://u111u.info/moks
キョン「ジョン・タイターか……どうにも胡散臭いな」
キョン「俺たちは4年前にハルヒの作った時空断層があることを知ってるから、1975年にタイムトラベルできるわけないことを知っている。なんとも世界はハルヒを中心に回っているようだ」
古泉「おや、その時空断層はたしか朝比奈さんのタイムマシン、TPDDでは時間遡行ができないという代物だったと記憶していますが」
キョン「それがどうした」
古泉「理論と仕組みが異なれば時空断層など関係なく過去へ行けるかも知れませんよ。歩いては渡れない川に、橋を架ければ越えられるように」
キョン「お前は世界五分前仮説信者じゃなかったか?」
古泉「バートランド・ラッセルは思考実験として提唱したのであって、信者を集めるためのものではありませんが」
古泉「ですが敢えて理屈を述べるならば、五分前に過去世界も創造されていれば問題なく過去へ行けます。どうでしょう?」
キョン「70点だ」
古泉「残りの30点は?」
キョン「俺の心労が増えたための減点だ」ハァ
キョン「肝心な話なんだが、ハルヒはその未来人について知っているのか?」
古泉「えぇ、それはもちろんそうでしょう。“未来人”、“ジョン”、“予言書”……あの涼宮さんをしてこれらの単語を看過させることが不可能であることはあなたがよくご存じのはずだ」
キョン「となるとだ。ハルヒはIBN5100をレトロPCとか都市伝説とかネット上の宝探し祭りとして捉えてるだけでなく、その上未来的な超秘密アイテムとして認識してるわけだ」
キョン「なるほど今回の東京探索の理由に合点がいった。納得はいかないが」
キョン「だがどうしてそれを俺や朝比奈さんに言おうとしない? お前ら二人はまぁ、元から知ってたわけだが」
古泉「もしかしたら、心のどこかであなたをジョン・スミス、そして朝比奈さんを未来人だと思う節があり、それが涼宮さんにブレーキをかけさせたのかもしれません」
キョン「後者は俺が暴露しても全く信じなかったわけだが、あいつも心境が変わったのかね。ないと言い切れないのが今年に入ってからハルヒのたまに見せるアンニュイな部分なんだよな」
古泉「去年もそのような場面はあったのですよ、あなたは気付いていなかったかもしれませんが」
キョン「核融合しか能のない永久恒星ではないのは、あいつが人間である証明なんだと前向きに考えよう」
ロビー
ハルヒ「なにこの旅館! トイレまで遠すぎよ! 間に合わなかったらどうするつもりなのかしら、まったく!」
みくる「涼宮さん、落ち着いてくださいー」
??「あれー? ここどこー?」
みくる「あ、あのー、もしかして披露宴会場の場所をお探しですかぁ?」
??「うん、トイレに行ったら迷子になっちゃったのです……」
ハルヒ「あたしたちもこれから戻るところだから一緒に行きましょ」
??「わぁ、ありがとうなのです! えっと……」
ハルヒ「あたしは涼宮ハルヒ! SOS団団長よ! で、こっちはウチのマスコット兼メイドのみくるちゃんね!」
みくる「あ、朝比奈みくるですぅ」
まゆり「トゥットゥルー☆ まゆしぃです!」
ハルヒ(不思議ちゃん……! なんてキャラの立ち方なのかしら……!)
??「ここに居たのかまゆり。なかなか戻ってこないから心配したぞ」
まゆり「あ、オカリンだー! まゆしぃは優しい女の子たちに道案内してもらってたのです」
オカリン「そうだったのか。連れが迷惑かけてすまないな」
まゆり(オカリンって、こういう時はすっごくまともな対応ができるんだよねぇ……)
ハルヒ「いえいえ、どういたしまして」
みくる(涼宮さんって、社交的になろうと思えばなれるんですよねぇ……)
オカリン「ん? もしかしてさっきバンド演奏してた、叔父さんのとこの生徒か?」
ハルヒ「はい、そうです。岡部先生が叔父さんってことは、オカリンさんは親戚の方ですか?」
岡部「そうだ。あと名前はオカリンではなく岡部倫太郎だ」
みくる「それでオカリンさんなんですねぇ」
まゆり「そうなんだよー。オカリン、コッチがハルにゃんで、コッチがミクルンだよー」
ハルヒ「は、ハルにゃん!?」
みくる「ミクルン……」
岡部「こいつは椎名まゆり。変なあだ名をつけるのが趣味なのだ」
まゆり「えぇー、かわいいよー。ミクルンのメイドさんコスも可愛かったねぇ♪ 実はまゆしぃもメイドさんとして働いてるんだよーえへへー」
みくる「えっ、まゆりちゃんってメイドさんなんですか?」
岡部「いや、こいつはメイド喫茶でバイトしているだけだ」
ハルヒ「メ、メイド喫茶……!」
まゆり「アキバにある、メイクイーン+ニャン2っていうお店なのです。もし東京に来ることがあったら遊びに来てにゃんにゃん♪」
ハルヒ「ぐっ、これが本場の萌えなのね……。いかに自分の世界が狭かったかを思い知らされたわ……」ガクッ
みくる「ふぇぇ、すごいですぅ」
ハルヒ「8月になったらあたしたち、東京の秋葉原にふしぎ、じゃなかった、観光に行く予定なんです。もし良かったらまゆりちゃんのお店に遊びに行っていいかしら?」
まゆり「ホント、ハルにゃん! うれしいよーぜひ来てねー」
ハルヒ「必ず行くわ!」
岡部「さぁ、そろそろ行くぞまゆり。お袋たちまで心配し始めるかも知れん」
まゆり「またねー、ハルにゃん、ミクルン♪」
みくる「ばいばーい」
ハルヒ「……ということがあったのよ!」
古泉「東京の方との交流ですか。アキバでの予定が一つ出来ましたね。メイド喫茶、非常に興味をそそられます」
キョン「あのハンドボール馬鹿がこんな形でSOS団に貢献してくれることになるとはな。それにしても、メイド喫茶ねぇ……」
ハルヒ「エロキョン! なに鼻の下伸ばしてるのよ!」
キョン「なぁっ、俺は断じて鼻の下など伸ばしていない!」
ハルヒ「ふぅん、どうだか……。みくるちゃん、本場のメイド喫茶で修行して、メイド秘奥義を極めるわよ!」
みくる「は、はいっ! って、え、えぇっ!? あたし、修行するんですかぁ!? ふぇぇ」
D 0.571024% α世界線
2010.07.28 (Wed) 12:40
キョン自宅
キョン「昨日は普段使わない筋肉を無理やり動かしたもんだから疲れちまったんだが、久しぶりに昼ごろまで寝ていたら頭が痛い……」
キョン妹「夏休みだからってダラけちゃいけないんだよー?」
キョン「カウチポテトに洒落込んでいるお前に言われたくない。チャンネル変えるぞ」ポチッ
キョン妹「あぁー! ひっどーい!」
プルルルルル……
キョン妹「キョンくんでんわー」
キョン「言われんでもわかってる。ん、ハルヒからか。あー、もしm」
ハルヒ『今すぐテレビをつけなさい!』
キョン「……今まさにテレビの視聴をお前に邪魔されたところなんだが」
ハルヒ『チャンネルを変えて、ニュース番組を見るの! 早く!』
キョン(去年のデジャヴを感じる……。まぁ、さすがにエンドレスループは始まってないだろう)
キョン「あーもう、わかったわかった。えっと、ニュース番組、ニュース番組……」ピッピッ
速報! 秋葉原に人工衛星落下 LIVE
リポーター『……混乱が続く秋葉原の空から中継です。現在は通行規制が敷かれているためラジ館周辺には人が居ません。ご覧ください、こちらが墜落したと思われる人工衛星です! ビルの壁面から飛び出るような形で……』
キャスター『……ラジオ情報館に墜落した人工衛星は依然正体不明です。各国いずれもこれは自国のものではないと表明しており、衛星は身元が分かるまで保管されることとなるようです……』
キョン「な、なんだこの映像は……!?」
ハルヒ『わかんないけど、なんだかすごいことになってるわ!! 秋葉原ッ!!』
2010.07.28 (Wed) 13:30
北口駅前
ハルヒ「遅い! 罰金!」
キョン「こっちには妹を振り切るというハンデがあるんだから大目に見てくれてもいいじゃないか……くそっ……」キーコキーコ
みくる「キョンくん、だいじょうぶですかぁ」
長門「息が上がっている」
ハルヒ「予測できる困難に対して何も対策を立てていないのは合理人のすることじゃないわ。早く自転車停めてきなさい!」
ハルヒ「改めてみんな、緊急招集に応じてくれて感謝するわ!」
古泉「僕もみなさんとちょうどお話ししたいと思っていたところです。例の人工衛星について」
喫茶店 珈琲屋夢<ドリーム>店内
ハルヒ「あれは人工衛星じゃないわ」
キョン「お前ちゃんとテレビ見てたのか? 人工衛星だって言ってたじゃないか」
ハルヒ「はぁ? マスコミの言う事なんて、事実を隠蔽するための情報工作に決まってるじゃない」
キョン「なっ……!」
ハルヒ「きっとあれは宇宙船、UFOよ! 中に宇宙人が乗っていたんだけど、今は黄色人種に変形して、日本の文化をラーニングして、一般人に紛れて生活しているはずだわ!」
キョン「久しぶりに電波な方向でぶっ飛び始めたな、ハルヒよ」
ハルヒ「それかタイムマシンね! 未来からタイムトラベルしてきたんだけど、空間座標維持装置が壊れてしまっていて、本来出現するはずだった場所から座標がズレてしまったためにビルにめり込んだのよ!」
キョン「搭乗者の未来人はどうして過去にそうなることを予測できなかったんだ」
ハルヒ「あるいは超能力者の仕業かもしれないわ! ある日突然自分に備わったPKを世界中に見せつけたくて、宇宙空間に漂うスペースデブリをテレポートさせたら自分の力をコントロールできずに人工衛星を出現させてしまったの!」
キョン「さっき人工衛星じゃないって言ってたのはどこへ行ったんだ。だれかなんとかしてくれー」
古泉「僕は未来人説を推したいですね。あれがタイムマシンなら一度乗ってみたくあります」
ハルヒ「みくるちゃんはどれだと思う?」
みくる「ふぇっ!? え、えーっと、あたしは、宇宙人さんと仲良くなりたいなぁって思います」
ハルヒ「有希はッ!?」
長門「人智を越えた能力による自律進化の可能性を有する人間……ユニーク」
ハルヒ「みんな満点な回答ね!」
キョン「……まぁ、俺に聞かれても困るけどな」
2010.07.28 (Wed) 19:20
公園
長門「不可視遮音フィールド展開」シュイン
キョン「また集まってもらってすまない」
古泉「いえ、あなたの心配はごもっともです」
みくる「あれ、なんなんでしょうねぇ」
キョン「まず一番の懸念事項は、あれがハルヒの能力によって引き起こされた事件なんじゃないかということだ。タイミングが出来すぎている」
古泉「人工衛星が仮に地球に墜落したとして、大気圏を突破した物体があんなに綺麗な形を保てるとは思えません。ラジオ情報館というテナントビルも原型を留めているのが不思議です」
古泉「仮にあれが人工衛星だとするならば、宇宙空間からダイレクトで秋葉原へテレポートしてきたと考えるべきでしょう」
キョン「テレポートねぇ。またとんでもない話だな」
古泉「そして国籍不明の人工衛星というのもかなりおもしろい話です。普通なら現物を調べれば国籍程度わかりそうなものです」
古泉「しかし過去にこんな例がありました。冷戦時代の話ですが、極軌道上に国籍不明の2体の人工衛星が出現したことがありましてね、“ニューズ・ウィーク”はこれを『太陽系外に起源を持つ知的種族群が送り込んだ訪問者』として発表したのですよ」
キョン「今度は宇宙人の仕業と来たか。こりゃもう、ハルヒが望むすべての属性を合わせ持ったキメラの所業なのかもしれん」
キョン「長門はどう思う?」
長門「現物を確認するまでは、なんとも」
キョン「秋葉原についてから、ってところか」
キョン「古泉の言うテレポート説ならハルヒの能力の可能性が高いな。あいつは一体全体何を望んでいるんだ?」
古泉「秋葉原に降り注ぐ宇宙的規模の奇跡、と言ったところでしょうか。折り重なる“偶然”の力でどこまでも我々を楽しませたいようです」
キョン「どっかの人工衛星には犠牲になってもらったがな」
みくる「一応未来に通信してみたんですけど、特にあの物体の正体については報告がありませんでした」
キョン「ありがとうございます、朝比奈さん。そうなるととりあえずは安心していいのか……?」
古泉「未来からの報告が無いとなると、涼宮さんの能力ではない線も大いにあり得そうです」
キョン「どこかの組織の陰謀、ということか?」
古泉「陰謀論を口にするのは趣味ではありませんが、可能性は否定できません」
キョン「お前自身が陰謀論の塊みたいな存在だろうが」
古泉「手厳しいですね。ですが、涼宮さんを狙うにしてはいささか遠回り過ぎる……」
キョン「そういえばハルヒを狙う勢力って今どうなってるんだ?」
古泉「あまり部室以外でこの話はしたくありませんが、長門さんの遮音フィールドもあることですし……、いいでしょう。お話します」
古泉「以前あなたにお話した時よりは僕の所属する組織、“機関”が優勢になっています」
古泉「自己崩壊していった組織もいくつかあります。とは言っても、新規参入する巨大な組織が登場するとも限りませんので警戒を疎かにしているわけではありませんよ」
キョン「不安は拭えない、か。できればこの間の“偽SOS団”に次ぐ新しい団体様の御登場は勘弁していただきたい」
古泉「IBN5100の探索とあの人工衛星にもし何か関連があるとすれば……。SOS団は大いなる権謀術数に巻き込まれることになるでしょう」
キョン「お前はいつから予知能力者になったんだ。そういや前に予知能力の超能力者がいるとかいないとか言ってたっけな」
古泉「みちるさん事件の時のアレは冗談ですよ。未だに機関は予知能力者を手中に収めていません。未来関係は朝比奈さんに一任していただきたいところです」
みくる「え、ええっ!? あたしですかぁ……。がんばりますぅ」
それからというもの、ハルヒはほぼ毎日のように俺たちを駅前の喫茶店に招集し、東京観光、もとい不思議探索イン秋葉原の作戦計画を立てていった。15泊16日、およそ月の半分を東京で過ごす条約が全会一致で採択され、議長国のハルヒによって締結された。
だが突然の岡部の結婚披露宴のせいでハルヒも今年の夏休みの宿題にはまだ手をつけてなかったらしく、なるはやで終わらせる運びとなった。もちろん俺の分の集団的安全保障も織り込み済みだ。
去年よりも量が多く一日二日で終わるものではなかった。まぁ、これでループ回避フラグが立ったと思えば安いものだが、いささか自分の動機が不純な気もしなくもない。
なにより今までにない長征、大東遷だ。その資金は個々人で稼がねばならなかった。俺の場合罰金分も用意しないといけないしな。だが、風船配りバイトだけはお断りだった。
それよりも頭を使ったのは例のレトロPC、IBN5100の在り処についてだ。コレクターズPCがありそうな場所、と言ったら普通は場所が絞れそうなもんだが……。
どうも東京という街は信じられないほど狭いエリアに多くの店舗がある。数だけじゃなく種類も豊富だ。一ヶ月の時間があったとしても秋葉原の全てを回ることなど到底不可能に思えた。
それに店舗にIBN5100があるとも限らない、らしい。ハルヒは、忘れ物センターや、希少品としての展示、質入れ、どこかの倉庫、あるいは呪われた装備としての教会における捧げ物化もあり得るなどと言い出した。こりゃ魔法使いの古泉がシャナクを習得する必要があるな。
ゆえにありとあらゆるところを探さなくてはならない。もちろんそれにはメイド喫茶や同人ショップ、ガンバムカフェやゲームセンターも含まれる、のだそうだ。
……まぁ、俺も秋葉原が楽しみでないと言えば、嘘になるんだけどさ。結局、軽音部へのお礼やら宿題やら下準備やら資金調達やら親への根回しやら機関の人員配備やらで10日近くもかかってしまったが、ハルヒ大明神が慊焉とせぬ面持ちで二学期を迎えられる大遠征作戦になるならば徒労ではないはずだ。
D 0.456903%
2010.08.07 (Sat) 08:21
東海道新幹線車内
ハルヒ「うーん、遅くまで調べ物をするんじゃなかったわ。みくるちゃん、膝枕ぁー」
みくる「はーい♪ ゆっくり休んで下さい」
ハルヒ「……ぐぅ」zzz
みくる「ふふっ、涼宮さん猫みたい♪」ナデナデ
キョン(じ、実にうらやまけしからん光景が前列の三列シートで展開されている……!)
古泉「可愛らしいですね。まるで遠足を楽しみにしていた子どものよう」
古泉「夏休みに友達と一緒に東京旅行をする。なんと健全な高校生の青春ではありませんか」
キョン(通常なら犯罪係数の高い発言だろうが、このさわやかハンサム野郎が言うとどこ吹く風である)
キョン「……古泉。今回の東京旅行で何も起こらないと思うか?」
古泉「再確認しておきますが、去年と比べれば涼宮さんの願望実現能力は間違いなく縮小傾向にあります」
古泉「勿論、だからと言って今回、“涼宮さんが望んだからIBN5100が我々の手に入る”という可能性もゼロではありません」
キョン「レトロPCは確かに都市伝説だろうが、いわゆる超常的なオカルトや完全なるオーパーツというわけでも無いからな」
キョン「ハルヒのやつ、心のどこかでアキバにあるはずだと信じているかもしれん」
古泉「そうだとしたら我らSOS団の手元にコレクター垂涎の品が手に入る。しかも価値のわからない人にとってはただのガラクタです。SOS団的に万々歳じゃないですか」
キョン「どうもお前は楽観的だな」
古泉「んっふ。せっかくの東京観光です。機関のメンバーも有事に備え東京に潜伏していますし、僕らは僕らで楽しみましょう」
キョン「頼り甲斐のあるこって。お前、もしかして今度こそは自分がタイムトラベルできるかもしれないからって浮かれてないか。IBN5100で未来を救うつもりか?」
古泉「確かにあの人工衛星のことも気になりますが、IBN5100とタイムトラベルに何の関係が?」
キョン「白々しいにもほどがあるだろ」
古泉「察しの悪いようなので一応言いますけど、涼宮さんのIBN5100探しはこの夏休みをSOS団みんなで楽しむための口実に過ぎないのですよ」
キョン「俺がどれだけハルヒと付き合いがあると思ってるんだ。それくらいわかっている」
古泉「でしたら何も最初から心配し過ぎることはありません。結局僕たちは、何かがあってからしか動けないのですから」
キョン「悔しいが、な」
キョン「長門、東京は初めてだったか?」
長門「初めて」
キョン「そうか。楽しみだったりする、のか?」
長門「秋葉原の近く、神保町という地域には日本一の古書店街があるらしい」
キョン「……クジ引きで同じ班になったら行ってみるか」
長門「それから、秋葉原はカレーが有名らしい」
キョン「長門が秋葉原を心底楽しみにしていることがよーく伝わってきたぞ」
2010.08.07 (Sat) 10:30
秋葉原駅 電気街口
ハルヒ「アー! キー! ハー! バー! ッラーーーーッ!」
キョン「やめんか恥ずかしい!」
古泉「残念ながらラジ館は無残な姿になっているようですね。報道陣や野次馬、警察もかなりの数いるようです」
ハルヒ「残念なんかじゃないわ古泉くん! 謎が謎を呼ぶ完璧な姿じゃない! 警官が少ない時間帯を調べて内部に潜入するわよ!」
キョン「こんな警官だらけのところで犯罪計画を立てるんじゃありません!」
ハルヒ「あーッ! あっちにホンモノのメイドさんがいるッ! みくるちゃん、ちょっとこっちに来なさい!……って、みくるちゃん?」
キョン(あれ、さっきまで隣に居たのに朝比奈さんどこへ……、って、早速キャッチに捕まってるーッ!?)
みくる「え、えぇー、お買い得ですねぇ」キラキラ
絵売り「もうあなただけに特別な料金で……きっと運気が回ってきますよ……」
古泉「朝比奈さん、向こうで涼宮さんが呼んでますよ。すいません、少々急いでるもので」
絵売り「チッ。お手間は取らせませんのでこちらがお会計に」グイッ
長門「…………」ジーッ
絵売り「ヒッ……」タッタッタッ
キョン「な、長門? 何をしたんだ?」
長門「宇宙的パワーで追い払わなければこちらが金銭を支払うまで請求していた」
キョン「エイリアンかなにかだな、そりゃ」
みくる「涼宮さん、ごめんなさいぃ。わぁ、ホンモノのメイドさんですね!」トテトテ
猫耳メイド「メイクイーン+ニャン2をよろしくお願いしますにゃんにゃん♪」
みくる「メイクイーンニャンニャンですかぁ!」
ハルヒ「ぜひお邪魔させてもらうわ。チラシを3枚ちょうだい! みくるちゃん、本場のメイド喫茶でお茶入れメイドのなんたるかをバッチリ学んできなさい!」
みくる「は、はいぃ! あたし、がんばりますっ!」
キョン「ハルヒにとってのホンモノのメイドって森さんみたいなのじゃなかったのか?」
古泉「まぁ、メイド喫茶のメイドさんもある意味ホンモノなのでしょう」
キョン「そう言えば長門、あの人工衛星を直接見て何かわかったか?」
長門「あれはこの世界のものではない」
キョン「……は?」
長門「あの物体はわたしたちの存在する現世界の全ての時空間および全ての亜空間を含めて存在するはずのない波動で構成されている」
キョン「ちょ、ちょっと待て長門……それって、つまり……」
古泉「異世界からの来訪者、ということですね」ンフ
キョン「……1年と4か月越しにフラグ回収とは、うちの団長様には頭があがらんな」ハァ
古泉「長門さん、あの中に生体反応の痕跡はありますか?」
長門「今から10日前、7月28日、あの物体がラジ館に出現した瞬間、搭乗員と思われる人間が一人居た。この世界に到着後すぐに降りた模様」
キョン「おいおい、マジで異世界人さんのお出ましかよ……。こりゃハルヒの能力も現役バリバリだな」
古泉「ちょうど僕ら宇宙人、未来人、超能力者と同様に、涼宮さんに対しては友好的になっていただけると嬉しいのですが」
キョン「だといいんだがな」
ハルヒ「有希ーッ! 古泉くーん! それからあとキョーン! なにやってんのー、早くメイド喫茶に行くわよー!」
キョン「往来のど真ん中で叫ぶやつがあるか! どこまでも恥ずかしい奴だ」ヤレヤレ
古泉「メイド喫茶に行きたいのは山々ですが、先に皆さんの荷物を宿泊先に預けておく方が良いでしょう。僕が荷物を置いてきますので、みなさんはお先に行っておいてください」
キョン「一人で運べる量じゃないぞ」
古泉「ご心配なく。タクシーを使いますから」
キョン(……あぁ、アレか。東京にも進出したのか、新川さん)
ハルヒ「そう? なんだか悪いわね」
古泉「すぐ合流しますので」
2010.08.07 (Sat) 11:00
メイド喫茶メイクイーン+ニャン2
ハルヒ「おっじゃまするわよー!」バターン!カランコロンカラーン!
キョン「店の扉を壊す気か!」
メイド「ニャニャ!? とっても元気なお嬢様ニャ!」
ハルヒ「うほおぉぁーホンモノのメイドさん達が居るーッ!!! みくるちゃん、よーく見てよーく勉強しておきなさいッ!!!」
みくる「これが……メイド喫茶……ッ!!」グッ
キョン(猫耳ツインテールか……。悪くない)グッ
メイド「お帰りニャさいませお嬢様、ご主人様。何名様ですかニャ?」
ハルヒ「五人よ! 一人は後から来るわ! しっかし、かわいいわねぇーとってもかわいいわー、この猫耳カチューシャもよくできてるわねー」
メイド「そう言って頂けて大変光栄ニャのですが、あんまりジロジロ見られるのは……、あっ、猫耳は触っちゃだめニャ!!」
キョン「こらハルヒ、店員さんに迷惑をかけるんじゃない」
ハルヒ「なによ、キョンだってかわいいって思ってるんでしょ? この変態」
キョン「は、はあッ!? とばっちりもいいところだ!!」
メイド「変態ご主人様~、お席はこちらになりますニャ~ン♪」
キョン「へ、変態じゃない!! 俺は、断じて、変態じゃない!!!」
ハルヒ「すっごく変態っぽいセリフね、それ」
フェイリス「あらためましてこんにちニャンニャン! フェイリスのニャンニャンネームは、フェイリス・ニャンニャンって言いますニャン♪ よろしくニャンニャン♪」
キョン「……激しく頭痛がしてきたのだが」
長門「ニャが多い」
フェイリス「お嬢様達はご来店初めてですかニャ? まず簡単にご説明させていただきますニャン!」
ハルヒ「その必要はないわ!」
フェイリス「ニャニャ! まさか、お嬢様様はフェイリスのお店に道場破りに来たのかニャ!?」
ハルヒ「そのまさかよ! 我らがSOS団のマスコット、みくるちゃんとのメイド対決のためにわざわざ東日本までやってきたのよ!!」
みくる「ふぇぇー!? そうだったんですかー!?」
キョン「なんの話だ」
フェイリス「ニャニャ!? 西のメイドさん代表だったとは、このフェイリスの双眸を持ってしても見抜けなかったニャ。もしや既にメイド秘奥義を習得しているのではっ!?」
キョン(メイド秘奥義って共通語だったのか)
ハルヒ「いいえ、この娘はまだ成長途中……。あなたが気付けなかったのは、そこの有希の宇宙的情報操作能力によるものッ!!!」バーン
長門「…………」
フェイリス「ニャニャ!? コズミックパワーまで味方に付けているのかニャ!?」
ハルヒ「さぁ、雌雄を決しようじゃない! 看板は頂くわ!」
フェイリス「ニャフフ……。仕方ないニャ、メイクイーン+ニャン2の秘密兵器を出さなければならニャい時が来たようニャ……」キラーン
ハルヒ「な、なんですって……」ゴクリ
キョン「注文、まだかなぁ」
フェイリス「召喚<サモン>ニャ! 我がメイクイーン+ニャン2が誇る汎用人型決戦兵器、“マユシィ・ニャンニャン”!!」
まゆり「ごめんねフェリスちゃん、今日は登校日で遅くなったよー。すぐにホール行くねー」カランコロンカラーン
ハルヒ「ま、まゆりーッ!?」
まゆり「あーっ、ハルにゃんにミクルンだぁ! 来てくれたんだねーうれしいよー!」
キョン(ん、まゆりってたしか、岡部の結婚披露宴に居た……。あぁ、姿を確認する前に裏手に回ってしまったか)
フェイリス「ま、まさか既にマユシィ・ニャンニャンが秘密地下組織SOS団の毒牙にかかっていようとは……。フェイリスの負けニャ、看板は持っていって構わない、ニャ……」ガクッ
ハルヒ「いいえフェイリス・ニャンニャン、いい勝負だったわ。そして勝負の後に残るのは友情ッ! これから共に日本の、そして世界の萌え文化を支えていきましょう?」
フェイリス「ハ、ハルにゃん……! わかったニャ、友情の証にこの伝説の猫耳カチューシャをあげるニャ!」
ハルヒ「あっ、そのカチューシャをみくるちゃんにつけて、ここのお店で働かせてもらってもいいかしら?」
キョン「突然素に戻りやがった」
フェイリス「オッケーだニャン♪ ニャンニャンネームは、ミラクル・ニャンニャンでどうかニャ?」
みくる「え、えぇー!? あたしここで働くんですかぁー!?」
古泉「遅くなりました……ほう、これは」カランコロンカラーン
まゆり「お帰りなさいませご主人様、マユシィ・ニャンニャンです! よろしくにゃんにゃん♪」
みくる「お、お帰りなさい、ませ、ご、ご主人様ぁ……。えっと、み、ミラクル・ニャンニャン、ですぅ……うぅっ……」ピョコン
キョン(金髪ポニーテール……だとッ!!!!!!!! 朝比奈さんも当社比マシマシで素晴らしいが、金髪ポニー……、犯罪的だッ!!!!!!)ガタッ
ハルヒ「こらぁみくるちゃん! もっと胸を張って堂々としなさい!」
みくる「ふぇぇ」ピィィ
まゆり「ミクルンとってもかわいいねーえへへー♪」
フェイリス「お店の制服もよく似合ってるニャ!」
キョン「……コーヒーがおいしいな」チラッ チラッ
古泉「そうですね」
キョン「うおっ、お前いつの間に」
長門「…………」モグモグ
キョン「今更で恐縮なんですが、お店のご迷惑になってませんか? 問題があるようでしたらすぐやめさせますので」
フェイリス「大丈夫だニャーン! ここにいるご主人様たちはよく訓練されているので問題ないニャン」
キョン「はぁ、さいで」
みくる「きゃぁっ!」ガシャーン
ご主人様「」バッシャァァァ
みくる「ひぅっ、ご、ごめんなさいぃ……。お水こぼしてしまいましたぁ……ぐすっ……」
ご主人様「……ど……」
キョン「なぁッ!? す、すいませんうちのモノが」
ご主人様「ドジッ娘属性ktkrェェェェェッ!!!! んほおおぉぉぉぉっ!!!!」ビショビショ
キョン「」
キョン「わ、わけがわからん……。これがアキバなのか……」
古泉「意外と俗っぽいところに不思議な世界がありましたね」
長門「ユニーク」モグモグ
まゆり「だいじょうぶミクルン? ちょっと休憩室で休んでる?」
みくる「い、いえ、そういうわけには……」
まゆり「じゃぁ私がお店の裏側を教えてあげるね♪ こっちがキッチンでー」
みくる「あぁっ、待ってまゆ、ま、マユシィ・ニャンニャンさぁん!」
フェイリス「そういえばご主人様たちは観光で来たのかニャン? 萌えの街アキバを心行くまで楽しんでいってほしいニャーン♪」
ハルヒ「いいえ、フェイリス・ニャンニャン。あたしたちSOS団が観光をしているのは奴を欺くためのフェイクよ! 真の目的は他にあるわ!」
キョン「……古泉、『奴』って誰だ?」
古泉「疾風迅雷のナイトハルトでは?」
キョン「そんな名前もあったな。ハルヒの脳内ログに残ってるとは思えんが」
古泉「ネットの情報では既に彼を中心とするメンバーは例のブツの捜索を諦めたそうですが」
フェイリス「ニャニャ! その真の目的とはいったい!?」
ハルヒ「本当はSOS団内部の超極秘機密事項だけど、戦友<とも>となったあなたにも特別に教えてあげるわ。それはッ! 幻のレトロPC、IBN5100を探し出すことなのよッ!!」
フェイリス「あっ、それフェイリスが昔柳林神社に奉納した奴ニャ」
ハルヒ「し、知っているの!? フェイリス・ニャンニャン!」
フェイリス「フェイリスのパパはレトロPCとか古い電化製品の収集家だったんだニャ」
キョン(だった? 今は違うのか)
古泉「まさか東京に着いて早々にヒントを得るとは。幸先グッドですね」
ハルヒ「こうしてはいられないわ! 有希! 古泉くん! 急いでヤナバヤシ神社へ向かうわよッ!」
八ルヒ「キョンはみくるちゃんを連れて後から来なさい! フェイリス、まゆり、また来るわねッ!」カランコロンカラーン
古泉「では、僕らは行きましょう」
長門「…………」スーッ
フェイリス「いってらっしゃいませお嬢様―! ご主人様ー!」
まゆり「いってらっしゃいませお嬢様♪ ご主人様♪」
キョン「あ、おい! ハルヒッ!……って、行っちまいやがった」
キョン(無軌道に楽しんじゃってまぁ。悪い気はしないけどな)
フェイリス「ところでぇ、ハルニャンたちはそんな古いパソコンを見つけてどうする気ニャンニャン?」ジトーッ
キョン(顔が近いッ! じっと見つめられると、さすがに照れるッ!)
キョン「ど、どっかのタイムトラベラーが探しているようですが、そ、それを阻止したいのかも知れません」アセッ
フェイリス「タイムトラベル……」
キョン「そ、それじゃ、俺たちもそろそろおいとまします」
キョン「朝比奈さん、準備できましたか?」
みくる「はぁい、お待たせしましたぁ」
フェイリス「はい、これ柳林神社までの地図ニャ。それから、ミラクル・ニャンニャンことミクルンには、友情の印の猫耳カチューシャだニャ!」シャッ
まゆり「るかちゃんによろしくねー♪」
キョン(るかちゃん?)
みくる「お世話になりました。また色々教えてくださいねぇ」ピョコン
フェイリス「お会計はコチラになりますニャン」
キョン「……慣れとは恐ろしいな。押し付けられてもいない伝票を自然に手に取ってしまうなんて」
キョン「仕方ない、払ってやるか。どれどれ……って、あの、フェイリスさん? これ、一桁間違ってません?」
フェイリス「お会計はコチラになりますニャン♪」
キョン(お、おおおお落ち着け俺……冷静になって考えろ……東京の物価、五人分の昼食費、接待サービス、チャージ料、オプション代……)
みくる「あの、キョンくん。あたしも払うよ?」ネコミミ
キョン「あ、ありがとうございます……」グスッ
2010.08.07 (Sat) 13:20
メイクイーン+ニャン2 従業員用更衣室
フェイリス「お疲れ様ニャーン♪」
まゆり「あーフェリスちゃーん」
フェイリス「これからキョーマのところかニャ?」
まゆり「うん。お昼ご飯を買ってきてって」
フェイリス「ふーん……。ねぇ、マユシィは見たことあるニャ? タイムマシン」
まゆり「タイム……? あぁ! 電話レンジさん?」
フェイリス「電話レンジ?」
まゆり「バチバチーって雷みたいのが、こう、ビリビリーって。ちょっと怖いんだぁ」
フェイリス「すっごいニャ! 映画に出てくるタイムマシンみたいニャ!」
まゆり「うん……でも、マユシィはあんまりあーゆーことしてほしくないんだけどなぁ」
フェイリス「どうしてニャ?」
まゆり「……なんか、オカリンが遠くに行っちゃう気がするのです」
2010.08.07 (Sat) 13:40
柳林神社
キョン「あの猫耳メイドニャンニャンに渡されたメモ用紙に書かれた手書きの地図によれば……ここだな」
キョン「ハルヒのやつ、覚えておけよ……くそぅ……」
みくる「元気出して。あ、涼宮さん!」ピョコン
キョン(この人はどうして律儀に猫耳を付けたままなのか)
ハルヒ「ゼェ……ゼェ……やっと見つけたわ、ヤナバヤシ神社……」
キョン「なんだ、迷子になってたのか」
ハルヒ「違うわよ! 色んな人にヤナバヤシ神社の場所を聞きまくったんだけど、どいつもこいつも知らないだの聞いたことがないだの言って、教えてくれなかったのよ!」
ハルヒ「探すのを手伝おうとすらしないし! まったく、使えないったらありゃしないわ!」
古泉「それで例の人工衛星のところに居た警察官に場所を聞いてココへたどり着いたというわけです」
キョン「この秋葉原を彷徨ってる人間のほとんどが秋葉原に住んでないんだろうな。大都市特有の冷たい風ってやつか。今はヒートアイランドだが」
古泉「ミルグラムの過剰負荷環境、ゴフマンの儀礼的無関心、あるいはバイスタンダー・エフェクトといったところでしょうか」
ハルヒ「ムッキー!! 無駄な時間を過ごしたわ!!」
ハルヒ「へー、柳に林でヤナバヤシって読ませるのね。風流じゃない」
キョン「しかしホントにこんなところにレトロPCがあるのか」
古泉「おや、境内に誰かいますね」
ハルヒ「あぁーッ!!!! み、みくるちゃん!! 野生の巫女さんだわ!! ホンモノの巫女さんだわ!!」
キョン(お前の方が野生獣だろうが)
みくる「神社に……巫女さんッ!!」ゴクッ
巫女「えいっ! やあっ! たあっ!」ブン、ブン
ハルヒ「ねぇあなた! ホンモノの巫女さん!? その模擬刀はなに!? もしかして修行!?」ツンツン
巫女「えっ、えっ!? いや、あの」
ハルヒ「まさか萌えの街アキバにホンモノの巫女さんが居るなんて! いえ、ここが萌えの街になる前から神社はあったんだものね、当然よね」クンクン
巫女「あ、あの、やめっ、ひっ」
ハルヒ「みくるちゃん!! この巫女さんの弟子になって、巫女のなんたるかについて指導してもらいなさい!! 第二回SOS団主催クジ引き大会を盛り上げるためにも!!」
みくる「あ、あの、涼宮さん……」
ハルヒ「なによッ!!!」
巫女「……ぐすっ、えぐっ」
キョン(あっちゃー……)
古泉「突然おしかけて騒ぎ立ててしまい、大変申し訳ありませんでした。どうかお許しください」
巫女「え、い、いや、その、ぼ、僕の方こそ、驚いちゃって、すいません……」
ハルヒ「ボクっ娘だわ!! 美人な上にボクっ娘だわってキョン!! なに突然首根っこ掴んでるのよ!!」
キョン「お前は少しは反省しろ! バカハルヒ!」グイッ
ハルヒ「はぁ!? なんであたしが反省しなきゃいけないのよ!」
キョン「自分が何をしでかしたのかわかってないようだな」
ハルヒ「なによ、そこのかわいい巫女さんが泣き出しちゃったこと? あのくらいで泣き出すなんて、あたしじゃなくて相手に問題があるとしか思えないわ」
キョン「こいつ……!」
巫女「いいんです! 僕が弱いのがいけないんです……」
みくる(すごくシンパシーを感じる……)
古泉「なるほど、それで強くなるために模擬刀で素振りを」
巫女「え、どうしてわかったんですか?」
古泉「エスパーですから」ンフ
ハルヒ「素振りなんかで強くなれたら世話無いわ」
キョン「お前はもう黙ってろ」
ハルヒ「アンタ名前は?」
るか「え、あの……。……漆原、るかです」
キョン(『るかちゃんによろしく』ってのはこのことか)
ハルヒ「神道の娘に福音書の『ルカ』の名前をつけるなんて、きっとご両親は趣向倒錯者ね。宗教的にも性別的にも」
キョン「後生だからその口を閉じてくれ」
るか「……えっと、皆さん、お参りですか?」
ハルヒ「違うわッ!!」
るか「え? えっと、それじゃ……」
ハルヒ「IBN5100がここに奉納されてるって聞いたから、いただきに来たのよ! 宝物庫はどこかしら?」
キョン(最悪だコイツ……)
るか「あ、あいびー……? え、だ、だめです。一般の方に倉庫は解放できません……」
ハルヒ「アンタの事情なんて知らないわよ。場所だけ教えてくれればあとはこっちで勝手に探すから」
キョン「ちょちょちょ、ちょい待てハルヒ! すいませんねホントこいつバカでどうしようもないやつで!」
キョン「おい、こっち来いハルヒ! 古泉、あとは頼んだぞ」グイッ
ハルヒ「なによー! 邪魔すんな離せー! 離しなさいバカキョン!!」ジタバタ
古泉「了解しました。先ほどから誤解を与えるお話ばかりで申し訳ありません。実はですね……」
るか(早く帰ってくれないかな……)
ハルヒ「離しなさいッ! バカキョン!」ガブッ
キョン「バカはお前だ、ってェッ! いててててッ! 噛むなッ! 噛むんじゃないッ!」
ハルヒ「アンタが離さないからいけないのよ!」
キョン「お前はどうして神社に来ると気が大きくなるんだ」
ハルヒ「はぁ? 別に神社とか関係ないじゃない」
キョン「去年神社の境内で神主に向かってエアガンを乱射したバカはどこのどいつだ」
ハルヒ「それは……」
キョン「あれから少しは成長したと思っていたが、どうも俺の思い過ごしだったらしい」
ハルヒ「……」
キョン「おい、聞いてんのかハルヒ」
ハルヒ「殴れば」
キョン「は、はあっ!?」
ハルヒ「気に入らないなら殴ればいいじゃない! あの時みたいに! ほらッ!」
キョン「それじゃ俺がお前を殴ったみたいじゃないか! ギリギリ古泉に止めてもらっただろ!」
ハルヒ「何よー! 何が気に入らないのよー!」
キョン「はぁ……。あのな、お前が“楽しい”のど真ん中にいるってことはよくわかる。俺だってそうさ、なかなかに楽しんでるぞ、秋葉原」
ハルヒ「は、はぁ?」
キョン「あるかないかもわからん都市伝説級の代物を、遠路はるばる探しに来ておいて見つけられるとは限らないと思っていたが、思いの外すぐ尻尾が掴めて心が躍っているんだろう。お前は」
ハルヒ「……なによ、キョンごときがわかった風な口を聞いちゃってさ」
キョン「俺が言いたいことはただ一つだ。あの巫女さんに一言謝ってこい」
ハルヒ「……わかったわよ、うるさいわね。……ちょっとその辺散歩してくるわ」
キョン(少しは成長してるのか)
キョン「先ほどはうちのもんが失礼しました」
るか「あ、いえ。お気になさらず。それより、その、レトロPCなんですが……」
キョン「あ、あるんですか!?」
古泉「いえ、どうやら壊れてしまって、捨ててしまったようです」
るか「去年のお正月、倉庫の掃除をしていた時に手を滑らせてしまって……」
古泉「ポータブルコンピュータとは言っても25kg近くある相当に重たいものですからね。仕方がないですよ、あまり負い目に感じる必要は無いかと」
キョン「そうか、それは残念だったな。せめて壊れたものがそのままここに置いてあればよかったんだが」
るか「えっ? でも……」
キョン「実はコイツ、そういうのを直すのが得意なんですよ。な、長門」
長門「任せて」
るか「そ、そうなんですか!?」
キョン「……? まさか、どこかにあるんですか?」
るか「じ、実は、壊しちゃったIBN5100は、そこの台車を使って、あの、コインロッカーに入れたんです。ご、ごめんなさい!」
古泉「結構大胆なことをしますね、漆原さん」
キョン「ってことは、そのコインロッカーを探し当てれば」
古泉「さすがに去年の1月に入れられたものが今年の8月まで約19か月もの間回収されずに残っているとは思えません」
キョン「ふーむ。 ……長門、トラッキングできるか?」ヒソヒソ
長門「可能」ヒソヒソ
長門「現在の保管場所がわかった。ベータロッカーシステムという会社の自社倉庫」ヒソヒソ
キョン「グッジョブだ、長門」
古泉「管理会社の社員の中にIBN5100について明るい人でも居たのでしょうか。それともただ廃棄を忘れられているだけか……。ともかく、保管されているというのは僥倖ですね」ヒソヒソ
キョン「ハルヒの能力だと言いたいのか? 真偽は今はどうでもいいさ」
キョン「そのIBN5100をここへ、っつっても、ハルヒと漆原さんに見つからないよう俺たちの前に転送することはできるか?」ヒソヒソ
長門「可能。タイミング次第」
古泉「あとは長門さんがIBN5100を新品同様に直せば団長に献上できますね」
キョン「漆原さん、情報提供ありがとうございます。なんとかIBN5100の修理に手が届きそうです」
るか「す、すごいです……。あ、でも、預かり物なので直ってもお譲りすることは、ちょっと……」
キョン「大丈夫ですよ。俺たちはIBN5100がこの世にあることを確かめに来ただけですから。またハルヒのバカがなにか言い出したら俺が背に腹を変えてでもなんとかします」
るか「は、はぁ……。あ、あの、ありがとうございます」
キョン「あ、でも長門の機械に強い特技はハルヒには内緒なんです。元から壊れてなかったってことにしておいてください」
るか「実はその……。一週間くらい前にもこちらにその古いパソコンを求めに来た方がいたんですけど、その時は自分が壊してしまったと言い出せなくて『そのようなものは無いです』と嘘をついてしまったので……すごく、嬉しいです……」
古泉「ほう、僕たちの他にもIBN5100を探している存在が」
キョン(しかし、こうまでして簡単に見つけ出すことができるとはな。ハルヒの能力様様と言ったところか)
キョン「それじゃ、俺たちはこれで――――――――――――――
その時だった。
もう二度と味わいたくないと思っていたソレが、夏の暑さとお宝発見的興奮によって完全に油断しきっていた俺の脳内に直接叩き込まれた。
既視感を感じた。そのこと自体に既視感があった。だがそれで安心できるようなものじゃない。むしろ逆だ。
膨大な情報操作、それに伴う意識の混濁と、めまい、立ちくらみ、頭痛。
眼球の奥がチリチリ焼けるような、三半規管が限界点を突破するような、だが無重力状態でぐるぐる回っているような感覚ではない、そんな激痛と気持ち悪さと格闘すること数秒。
目を開くと……、物語は世界の気付かぬうちに風雲急を告げていたのであった。
-------------------------------------------
◇Chapter.2 涼宮ハルヒのプラグマティズム◇
-------------------------------------------
D 0.409420%
2010.08.07 (Sat)
柳林神社
キョン(……ッ!!! な、なんだったんだ、今のはいったい……)フラッ
古泉「だ、大丈夫ですか? もしかして熱中症でしょうか、失礼」ピトッ
キョン「ッ、手のひらで俺の額を触るな! 近い近い!」
古泉「……どうやら体温はそこまで高くないようですが。大事をとって病院へ行った方がいいかもしれません」
キョン「いや、悪いがその必要はない。そんなことより、さっそくその、ベータなんとかっていうロッカー会社の倉庫からIBN5100を転送しようぜ」
古泉「はい? えっと、なんの話です」
キョン「なんの話って、長門がここにかつて奉納されていたIBN5100をトラッキングして現在の位置を確かめたんだろ?」
長門「……?」
みくる「え、えーっと、妖刀、五月雨さんは、こうですかぁ? えいっ」ブン
るか「た、たぶん……。僕も自信がないんですけど……」
なにかおかしい。
なんとなくそんな気がした。
俺の質問に対して、古泉が、そして長門がこんな風に純粋な疑問符をそのまま返球してくることなど、今の今まで一度でもあっただろうか。
あったとしたら、それは……。
胸騒ぎがする。
まさか、な。
この感覚には覚えがあった。
まさか、だよな?
バカみたいに暑い真夏の東京にいるにもかかわらず、アイスピックでついたかのような真冬の寒さが脳裏をよぎった。
まさか……、嘘だろ、嘘だよな?
嘘だと言ってくれ……!
古泉「大丈夫ですか? やはり顔色が悪いようですが」
キョン「ッ!!」ダッ
古泉「あっ、ちょっと! どこへ行くのですか!」
キョン(わからん! わからんが、とにかくこの古泉と長門は直接信用できるかまだわからないッ!)
キョン「ハルヒ!! どこだッ!! ハルヒどこにいるッ!!!!」タッタッタッ
キョン(あいつさえいれば……ッ! あいつさえいてくれれば、また切り札が使える……ッ!!)
キョン(だがもしあいつがいなかったら……、クソッ!)
キョン(それにさっきからなんなんだこの違和感は。景色が、どこかおかしい?)ハァハァ
万世橋付近
キョン「どこだッ!! どこだハルヒ!! どこにいるッ!!」
ハルヒ「ちょ、ちょっとキョン! なに恥ずかしいことしてんのよ! やめなさい!」
キョン「は、ハルヒ……! よかった、いてくれたか……」ハァハァ
ハルヒ「なにやってんのアンタ。もしかして、あたしが迷子になったとでも思ったの?……なによその安心しきった顔は。バカにしてるのかしら?」
キョン「い、いや、いいんだ。なんでもない。気にするな」
ハルヒ「はぁ? なによそれ。ともかく、あたしもそろそろ柳林神社に行こうと思っていたところよ。早く行くわよ!」
キョン「あ、あぁ。一緒に行こう」
ハルヒ「……? アンタ、なんだか気持ち悪いわよ」
キョン(気持ち悪くたっていいさ。お前が視界にいるだけでこれほどに安心できるのだからな)
柳林神社
ハルヒ「さっきはゴメンネ!」
るか「い、いえっ! こちらこそ、おどおどしてて、すいません……」
ハルヒ「もし自分を強くしたいならあたしに相談しなさい! るかちゃんをスパルタ教育してあげるわ!」
古泉「ほぅ、これは。さすがあなたですね」
キョン「なにがだ」
古泉「それで、涼宮さん。次はどこへ向かいましょうか?」
ハルヒ「そうねぇ、今度こそこの神社に奉納されてるって思ったんだけど、あたしの勘が外れるとはねぇ」
キョン(まるでIBN5100が過去に一度も奉納されていなかったかのような口ぶりだが……。いったいどんなトンデモ現象が馬脚を露したんだ?)
ハルヒ「取りあえず、まだ行ってない神社に行くわよ! それじゃぁね、るかちゃん!」
みくる「ご指導ありがとうございましたぁ」
るか「は、はい」
キョン(俺はここで『IBN5100には手が届いていたはずなんだ!』とか、『神社に来たのはお前の勘じゃなくてあの猫耳メイドからの情報のおかげだろ!』、あるいは『朝比奈さんの猫耳をどこへ隠した!』などと喚き散らす気は毛頭ない。そんなことをすれば白い眼を向けられるのはなんとなく予想が付く)
古泉「あと行っていない神社となると、ここか、ここでしょうか」
キョン(……なにやら景色がおかしい気がする。俺の記憶しているアキバは、もっとこう目のやり場に困るというか、余計な妄想に駆り立てられる何かが街中に溢れていたと思うのだが)
みくる「ふえぇ……歩き疲れましたぁ……」
キョン(まぁ、ハルヒがいるうちは慌てる必要はない。どうせ超然とするしか身の振りようがないのだ。あとでゆっくり長門と古泉と、あともしかしたら朝比奈さんとも相談させてもらおう)
2010.08.07 (Sat) 18:31
湯島某所
ハルヒ「ぜんっぜんダメね。今日の収穫はゼロだったわ」ガララッ
古泉「こちらが今回の東京遠征の宿になります」
みくる「うわぁ、結構いいところですねぇ。旅館みたいですぅ」
古泉「個人の住宅となる以前は旅館としても経営していたようです。小さな大浴場もありますよ」
古泉「こちらが女性陣の部屋の鍵、そしてこちらが僕たち男性陣の部屋の鍵です」
キョン「あぁ、見知らぬ土地をさんざ歩き回って疲れた。今日はゆっくり休ませてもらおう」
ハルヒ「アンタは走り回ってたからでしょ。それに東京は夜になってからが楽しいんじゃなーい」チッチッチッ
キョン「さすがに夜の東京をブラブラさせるような、お前の親御さんを心配させることはできない」
古泉「どうやら秋葉原周辺は20時にもなると飲食店やコンビニ以外はほとんど閉まるらしいですね。あまりおもしろいものもないかと」
ハルヒ「じゃぁ汗拭いたらご飯食べに行きましょ! みんな、なに食べたい?」
キョン(ほう、ハルヒが俺たちに意見を徴するとは)
キョン「俺はもんじゃ焼きというものを食ってみたいな」
ハルヒ「邪道。却下」
キョン「この野郎……」
古泉「そうですね。僕は築地の銀だこを」
ハルヒ「それも邪道。っていうか、粉ものは絶対ダメだから。アンタたちそれでも西日本代表の自覚あるの?」
キョン(なんの話だ)
みくる「えっと、その、みんなで食べれるならあたしはなんでも……」
ハルヒ「有希は? なにか食べたいものある?」
長門「……カレー」
2010.08.07 (Sat) 21:40
男子部屋
キョン(夕食をキッチン・ジローとかいう名前のカレー屋で済ませた俺たちは風呂に入って早々にGO TO FUTONすることになった)
キョン(みんな相当に旅疲れを顕わにしていたので夜遅くまでカードゲームに興じるようなことは無かったわけだ。まぁ、明日もIBN5100を探さねばならないしな)
古泉「それで、今日あなたの様子が突然おかしくなった件について、教えていただけますか」
キョン「なんだ、気づいていたのか」
古泉「僕もあまりよくない方向で慣れてきてしまったようです」ンフ
キョン「……先に、お前が記憶している今日一日の俺たちの動きについて説明してくれ」
古泉「かしこまりました、ご説明致します。それが僕の役目ですからね」
古泉「僕たちは北口駅から電車に乗り、新大阪駅で新幹線に乗り換え、10時半頃に秋葉原駅に到着しました」
古泉「その後ラジ館前で例の人工衛星について議論などしていましたが、涼宮さんが突然『IBN5100は巫女さんがいる神社にあるはず! みくるちゃんに巫女としての稽古をつけてもらいましょう!』とおっしゃりまして、神田周辺の神社巡礼を打ち始める運びとなりました」
古泉「湯島天満宮、神田明神、妻恋神社、そのほか名もなき小さな祠にもお参りしましたがなかなか巫女さんとは遭遇できず。ようやくあの柳林神社で剣を振るっていた巫女さん、漆原さんにお会いできたのです」
古泉「レトロPCは奉納されていないか、という質問に対して、そのようなものはない、ということで漆原さんからお返事をいただきまして、涼宮さんはちょっとご機嫌斜めでした」
古泉「漆原さんに八つ当たりする涼宮さんをあなたがなだめて、どうやら涼宮さんは散歩に、そしてあなたは戻ってきました。……あとはあなたも記憶している通りかと」
キョン「なるほど……。どうやらうまいこと辻褄が合わせられているようだな」
キョン「しかし、巫女としての稽古ってのはなんだ」
古泉「阪中さんの飼い犬ルソー氏のごとき嗅覚を身に付け、除霊する能力ではないですか? あの時は般若心経でしたが、実際漆原さんは清心斬魔流奥義、参拾弐式・桜暴の習得に励んでいたようです」
キョン「……えらく話が脱線している気がするんだが」
古泉「次はあなたの知っていることを教えてもらえればと思いますが」
キョン「おそらくあの柳林神社に到着してしばらく話し込んだあたりで世界が一部改変された。そして俺だけが記憶を維持している」
古泉「その根拠は?」
キョン「二つある。一つは俺の周りにいた人間が寸前までの状況を俺と共有していなかったこと」
古泉「長門さんもでしょうか。でしたら、『記憶を所持するすべての生命体』と言い換えるべきかと」
キョン「……揚げ足取りのようで、大事な訂正だな。そうだ、すべての生き物の記憶が変わっていた。俺以外のな」
古泉「そして、もう一つの根拠は?」
キョン「それがな……、どうやらこの世界は“萌え”という概念が無いらしい」
古泉「……どういうことでしょう」
古泉「僕の記憶している中ではちゃんと“萌え”の概念はあります。いえ、それを理解できているかと問われれば、無遠慮に首肯できるものではありませんが。あるいは、概念そのものが書き換わっていると?」
キョン「いや、そうじゃない。多分この世界の住人には信じられないんだろうが、俺の記憶の中には、“メイド”だの“猫耳”だの“萌えアニメ”だのがあってだな、そいつらが“ニャンニャン”などを語尾につけて的確に男のリビドーを刺激するという文化があったんだ」
古泉「……非常に限定的ではありますが、大丈夫です。この世界、いえ、僕の記憶の中にもそのような趣向は存在しています」
キョン「なに、そうなのか? それならなぜアキバからメイド喫茶やらホビーショップやら同人グッズ店やらが消滅していたんだ?」
古泉「なんと、あなたの居た世界ではアキバはサブカルの街だった、ということでしょうか。これは驚きです」
キョン「お前、信じてないだろ」
古泉「バレましたか」
キョン「この世界の秋葉原はどんな街なんだ?」
古泉「まさかそのような質問をされるとは、なんとも不思議な気がします。いいでしょう、ご説明します」
古泉「秋葉原という街は戦後のヤミ市から発展した街で、東京電機大学の御膝元でラジオパーツショップなどが集まり次第に電気街を形成していきました」
古泉「時代の変化に従い、電子ゲームショップやPCショップが充実していくようになります」
古泉「現在では安心安全安価の三拍子揃った世界屈指の電気製品集積地区として世界的に有名になっていますよ。日本の家電産業の中心都市と言えるでしょう」
キョン「……なるほどな。まぁ俺の居た世界でもそうだったわけだが」
キョン「じゃぁ、日本のサブカルチャーの中心といえばどこなんだ?」
古泉「東京では中野、あるいは池袋でしょうか。大阪では日本橋ですね」
キョン「中野に池袋ねぇ。どうにも俺にはピンと来ないな」
キョン「しかし、一体どうしてこんなピンポイントな世界改変が行われたんだ? 誰が犯人なんだ? 目的は? ハルヒとの関係は?」
古泉「ミステリーの基本は、Who、Why、Howの三つの視点を想定し、順序立てて物事を考え、問題を分かりやすいものに落とし込んでいくことですよ」
キョン「そういわれてもな。俺だって冷静なフリをしているだけで、内心それなりに焦っているんだ。もし例の異世界人が犯人だったら? その目的がハルヒだったら? 世界がヤバいぞ」
古泉「ですが、涼宮さんは未だSOS団の中心に鎮座しておられます。ゆっくり、順番に考えてみましょう」
古泉「まず考えられるのは、涼宮さんの願望実現能力によるもの、という線です」
キョン「あんなにIBN5100を探してたハルヒが? いったいなんだってそんなことを」
古泉「可能性としては……、そうですね。例えば、東京に来た初日にIBN5100を見つけてしまうことを恐れたのでは」
キョン「……あー、なるほど。それはわからなくもない理由だ。ハルヒ的には色々探索したり冒険した後に宝物を見つけたいと思っているのかもしれん」
古泉「ですが、この理屈ですと秋葉原の街が改変されたことに説明がつきません」
キョン「萌えが重要な要素だなんだと豪語してたやつが、街からまるごと萌え要素を抜き去るなんてまかり間違っても実行せなんだろうよ」
古泉「次の説は長門さんによる世界改変説ですが……。これこそ、たとえそうだったとしても今の僕たちに理由を知る術はなさそうです」
キョン「あいつは相談もせずいきなりそんなことをするやつじゃない」
古泉「わかっていますよ。あとは、そうですね……。異世界人による侵略説を考えてみましょうか」
キョン「例の人工衛星に乗ってはるばるこの世界に漂流してきたおっちょこちょいのことか。だがな、そいつが俺たちのIBN5100捜索を妨害してなんになる?」
古泉「それはわかりません。ですが、この場合あまりよろしくない事態が発生していることになります」
キョン「なんだ?」
古泉「つまり、その異世界人は僕らの存在を把握している。最低でもあなたの存在は把握していることになります」
キョン「……なんだってッ!?」
古泉「どうしてあなただけが改変前の記憶を維持できているのか」
古泉「さすがに去年の冬、正確には4年前の夏ですが、あなたが長門さんに打ってもらったというプロテクトはもう解除されているでしょうから、あなたの記憶を維持する操作ができるのはそれなりの能力を持っている者。そして何より、あなたという人物を特定できる者だけです」
キョン「なんてこった……。俺は常にどこの馬の骨ともわからん異世界人に監視されていると考えるべきなのか……」
古泉「悪いケースの想定としてはありえなくもないとは思いますが、あまり気負っても仕方がないかも知れません。もしかしたら今までの想定はすべてハズレで、まったく関係ない事件に偶然巻き込まれてしまっただけ、なのかもしれないのですから」
キョン「世界改変なんかに偶然巻き込まれる確率は幾ばくほどなんだろうな」
古泉「まだわからないことばかりですが、IBN5100が一つキーアイテムとなっているという予想は可能性が高いと思います。ゆえに今後ともIBN5100の捜索を続けていくべきかと」
キョン「嫌だと言ってもハルヒのやつはそうするだろうよ。捜索の途中で異世界人の野郎が尻尾を出すとも限らん」
古泉「僕には実感がありませんが、やはり世界が勝手に改変されたとなれば元に戻した方が良いと思います。記憶を引き継いでいるあなたが鍵ですよ」
キョン「また鍵か。今度はどんな扉を開錠せねばならんのだ」
古泉「ゲート状をしているとは限りませんが。存外身近なところに存在しているかも知れませんね」
2010.08.08 (Sun) 9:00
湯島某所
ハルヒ「クジ引きをするわよ!」
キョン「うってかわって元気だな、ハルヒよ」
ハルヒ「考えてみれば初日で見つかるわけがなかったのよねー。どんな映画や小説だってそうだわ! お宝は後半ラストのココゾってところで登場するに決まってるのよ! そうじゃなきゃぼったくりもいいところだわ」
キョン「その理屈だと今日も全力無駄足ブラブラ大会にならなきゃならんのだが」
ハルヒ「わかってないわねー、キョン。そこに至るまでには血と汗と涙の長編スペクタクルが必要なの! そんなわけで、今日はいつもみたいに二班に分かれて探索をするわ!」
キョン「汗は仕方ないとして、血と涙は勘弁してほしい」
古泉「それでこの班ですか」
長門「…………」
キョン「よろしくな、長門、古泉」
ハルヒ「古泉くん! キョンがサボらないようにしっかり監視しておくのよ!」
古泉「了解しました」
ハルヒ「それじゃみくるちゃん! 二人で歌舞伎町でも行く? それとも鶯谷? 吉原?」
みくる「えっ、あ、秋葉原に行くんじゃないんですかぁ」
キョン「やめなさい」
長門「まだ午前中」
キョン(ハルヒたちの背中を見送ると、俺はすぐさま長門に昨日起こった世界改変について説明した)
キョン「……というわけなんだ」
長門「そう」
古泉「長門さんでも世界改変は検知できませんでしたか」
長門「できなかった。おそらく世界全体が書き換えられたと思われる」
キョン「世界全体が、書き換えだと……?」
古泉「なるほど。情報統合思念体もそっくりそのまま更新されてしまっているのですね」
長門「そう。ただ、もう一つ可能性がある」
キョン「な、なんなんだそれは。教えてくれ、長門」
長門「…………」
キョン(ほんのコンマ数秒だが、長門が発言するのをためらったように思えた)
長門「……あなたの記憶が改ざんされている可能性」
キョン「なっ……」
古泉「……たしかに。その考えが一番今の僕たちには捉えやすくあります」
キョン「つまりなにか古泉。昨日は頭のおかしくなったやつのホラ話に適当に相槌を打っていただけだと言いたいのか。え?」
古泉「いいえ、そうではありません。お気を悪くされないでください。ですが、僕たちから観測したあなたは、やはりそのように映るのです」
キョン「どうだかな! お前、俺にIBN5100を探させる動機を与えるよう誘導尋問したかっただけなんじゃないのか? おい」
古泉「それ以上は不毛です。やめてください」
キョン「なんだよ」
長門「…………」
キョン(うっ、危うく吸い込まれそうになるくらいの透明な瞳が俺をにらみつけている……。長門さん、一ミクロンほど怒気を帯びてらっしゃるようだ……)
キョン「……わかった。ともかくIBN5100を探そう。ついでに異世界人もな」
キョン「と言っても探す当ても無くなっちまったが」
古泉「あなたの元いた世界ではIBN5100は柳林神社にあったのですよね? どういう経緯でそこに」
キョン「あ、あぁ。そういえばフェイリス・ニャンニャンとかいう口に出すのも恥ずかしい名前を持った猫耳メイドの父親がレトロPCの収集家だったらしく、昔神社にIBN5100を奉納したんだとか……そうか、あの猫耳メイドに聞けば!」
古泉「連絡先は」
キョン「……しまった、俺はあいつの本名も所在もなにもかも知らない。それにそいつの職場だったメイド喫茶も昨日見たらラーメン屋に変わっていたし、連絡の取りようが……」
キョン「いや、待てよ。あの女の子だ、金髪ポニーテールの、名前はたしか、えーっと……、椎名まゆり!」
古泉「あなたのクラスの担任の先生の結婚披露宴の時、涼宮さんが出会ったというあの女の子ですね」
キョン「そうだ! そいつも同じメイド喫茶で働いていた……ってことは、ダメか。やっぱり連絡の取りようがない」
古泉「涼宮さんなら、あるいは。連絡先を交換しているかも知れませんよ」
キョン「……そう、だったか? なぁ古泉。メイド喫茶でバイトをしていない椎名さんに対して、ハルヒはどんな興味を持ったんだ?」
古泉「あの結婚披露宴の時ですね。たしか……」
ハルヒ『なんてキャラが立ってる女の子なのかしら! ねぇ、あなたもメイドになってみない?』
まゆり『えぇー、まゆしぃは作るの専門で、あんまりコスは着ないんだよー』
ハルヒ『大丈夫! あたしが立派なメイドに仕立ててあげるわ! 自信持っていいわよ!』
まゆり『そ、そうなのかな。わーい』
ハルヒ『連絡先教えて! 今度東京に行ったとき、一緒にメイドのなんたるかについて語り明かしましょう! ね、みくるちゃん!』
みくる『あ、あたしもですかぁ。ふぇぇ』
古泉「とか、だったような」
キョン「気っ持ち悪い声真似だな」
古泉「いい加減僕も怒りますよ?」
キョン「ともかく、見事に改ざんされているな……。まぁ、この世界でもフェイリス某と椎名さんがつながっているかどうかはわからんが、モノは試しだ。取りあえずハルヒに聞いてみよう」ピ、ポ、パ
プルルルル プルルルル ピッ
キョン「あーハル」
ハルヒ『今いいところなんだから後にして!!』ピッ
キョン「……」
キョン「あの野郎! なにも聞かずに切りやがった!」ピ、ポ、パ
プルルルピッ
キョン「……」
キョン「出ずに切りやがった……くそっ……」
古泉「まぁまぁ。また後でかけ直しましょう」
キョン「仕方ねぇ。神保町にでも行くか」
古泉「専門店街ですか。音楽、スポーツ、そして本の街ですね」
長門「…………」
古泉「おやおや、なるほどそういうことですか。お昼までまだ時間もありますし、行ってみましょう。都営新宿線を使いましょうか、ここからですと最寄り駅は岩本町駅ですね」
キョン「この世界ではお前はナビ役らしいからな。よろしく頼むぞ」
古泉「任されました」
万世橋付近
古泉「橋を渡って、次の交差点を左ですね」
キョン「ん……? 向かいから歩いて来るのは」
古泉「漆原さん、と、もう一人女性ですね。僕らより年下でしょうか」
キョン「一応挨拶はしておくか。……漆原さん、昨日はお騒がせしてすいませんでした」
るか「あ、昨日の、えっと、え、SOX団の人たち、でしたっけ」
キョン「SOS団、です」
キョン(なんつー間違いだ!)
るか「あっ、す、すいません! その、SOS団の皆さん、こんにちは。今日も暑いですね」
女の子「トゥットゥルー☆ こんにちはー」
※ちなみに
古泉、キョン、長門、ハルヒ と まゆり、るか、フェイリス は同学年
(今年度で17歳組。まゆりは遅生まれで今年16歳、来年17歳になる。るかはシュタゲ劇中で誕生日を迎えないので16歳、今年17歳になる。フェイリスは既に誕生日を迎えていて17歳)
みくると紅莉栖も同学年
(今年度で18歳組。紅莉栖はサイエンシー誌に載った時は17だったがシュタゲ劇中では18歳)
その一個上がオカリン、ダル、鈴羽(今年で19歳組。ダルだけ19歳でオカリンと鈴羽は誕生日が遅く18歳)
さらにその一個上が萌郁さん(20歳、誕生日は迎えてる)
キョン(トゥ……? どこかで聞いたような……。流行ってんのか?)
古泉「今日は巫女服ではないのですね。どこかへお出かけですか」
るか「えぇ、今夏休みで、ちょっとラボに……」
古泉「ラボ? というと、研究施設かなにかでしょうか」
女の子「あのねー、ラボはねー、びりびりーってなって、バチバチーってなって、ぐずぐずで、ぶにゅにゅなんだよー。ねー、るかちゃん!」
キョン「まったくわからん」
古泉「楽しそうなところですね」
女の子「ばいばーい」
キョン「じゃぁな」
るか「失礼します」
古泉「いってらっしゃいませ」
キョン「あの漆原っていう巫女さんも俺たちと同じ高校生だったんだな」
古泉「僕たちの身近に居ないだけで、当然巫女というお仕事の方でも高校に通っていると思いますよ」
キョン「そうだな。……あーぁ、椎名さんがどこからかひょっこり現れてくれればいいんだけどな」
古泉「現れたとして、僕たちには顔がわからないのでどうしようもありませんが」
キョン「いんや、俺はバッチリ覚えてるぞ! あの金髪ポニーテールは異様なまでに似合っていた。あんな髪型してるやつが居たら一発で反応できるね、俺は」
古泉「そうですか」
2010.08.08 (Sun) 13:00
秋葉原 中央通り
キョン(結局神保町の古本屋でシミと格闘しながら時間を潰した俺たち三人は昼頃に秋葉原に戻って来てハルヒたちと合流し、太三郎とかいう名前のラーメン屋で昼食を取った後またくじ引きとなった)
キョン(ちなみに午前中ハルヒが電話に出なかったのはUFOキャッチャーでなにかのアニメのマスコットキャラクターのクッションが取れそうで取れなかったためだとか)
キョン「それで今度はこのメンバーか。何気に初めてだな」
ハルヒ「はぁ? 一度アンタと二人きりで不思議探索したことがあったじゃない。第二回目だったかしら」
キョン「いや、そうじゃなくてな、朝比奈さんも入れて三人が初めてだなと言ってるんだ」
ハルヒ「あっ、そういうこと」
みくる「うふふ」
泉「それじゃ、僕たち二人はあの人工衛星から降り立った異世界人でも探してきましょう」
キョン「おまっ!」
ハルヒ「えっ、なになに!? あの人工衛星って異世界から来たものだったの!? 絶対その異世界人をとっちめてふんじばって簀巻きにして東京湾まで持って来なさい! ドラム缶にコンクリート詰めして持って帰るわよ!」
キョン「お前はどこのヤクザだ!」
ハルヒ「あ、でもちゃんとIBN5100も探すのよ! いいわね!」
長門「わかった」
古泉「了解です!」
2010.08.08 (Sun) 13:07
秋葉原
キョン「それで、ハルヒ。IBN5100なんだがな、もしかしたら例の椎名まゆりが鍵を握っているかもしれないとタレこみがあった」
ハルヒ「えっ、それどういうこと?」
キョン「なんでもその椎名さんの友達のお父さんがレトロPCの収集家だったらしく、昔持ってたらしいんだ」
ハルヒ「……へー。アンタにしてはちゃんと不思議探索してたのね。褒めてつかわすわ」
キョン「団長様からお褒めの言葉たぁ、ありがたいこった。明日は雷雨になるかもな」
ハルヒ「それどーゆー意味よ! とにかく、まゆりちゃんに連絡してみればいいのね?」
キョン「番号知ってるのか?」
ハルヒ「えぇ。そうだわ、ついでにメイド談義としゃれ込みましょう! ね、みくるちゃん!」
みくる「は、はいぃ」
まゆり『トゥットゥルー☆ まゆしぃです!』
ハルヒ「まゆりちゃん? あたしよ、ハルヒ! 覚えてる?」
まゆり『あーハルにゃんだー! 久しぶりだねー、東京に来てるのー?』
ハルヒ「そーなのよ! それで今からあなたに会いに行こうと思って!」
まゆり『わー、うれしいなーえへへー』
キョン「ま、待て待て。先にIBN5100について聞いてくれ」
ハルヒ「それで、今どこにいるの?」
まゆり『えっとね、秋葉原っていうところにいるんだけど……。ごめんねハルにゃん。今ちょっと友達が泣いちゃってて、まゆしぃがおうちまでお見送りしてるところなのです』
ハルヒ「え、秋葉原にいるの!?……うん、そうなんだ。じゃぁ、また今度ね」
まゆり『ごめんねー、ハルにゃん。またねーバイバ』ピッ
キョン「……お前のその最後まで人の話を聞かん癖はなんとかならんのか」
ハルヒ「まゆりちゃんの用事が済むまで待ちましょ」
キョン「それに賛成だ。ゆっくり待とう」
ハルヒ「ゆっくりなんてしてられないわ! まずは秋葉原駅の構造分析に向かうわよ!」
キョン「何の意味があるんだそれ」
ハルヒ「わかってないわねー。この大都会でいつ何時爆弾テロが起こるかわかったもんじゃないわ。その時に備えて脱出ルートを確認しておくのがプロの仕事なのよ」
みくる「ば、爆弾テロですかぁ。ふぇぇ」
キョン「プロってなんだプロって。スリや置き引きならともかく思想的な犯罪はさすがに防犯の守備範囲外だ。勘弁してくれ」
2010.08.08 (Sun) 15:58
秋葉原駅 UPX側ロータリー
みくる「迷子になってごめんなさいでしたぁ」
キョン「いやいや、こんな迷宮みたいな構造になってる駅が悪いんですよ。小さな改札出たらデパートの一角だなんて思わないですよ普通」
ハルヒ「だらしないわねー。そんなんじゃ生き残れないわよー!」
キョン「お前は何と闘っているんだ」
ハルヒ「まったく……。ん、あれ? あそこの階段に腰かけてる人、白衣着てるけど、岡部……えっと、倫太郎さん? 変な恰好」
みくる「えっ、あっ、ホントです。岡部さんです。こんなところで会うなんて奇遇ですね。(変な恰好ですぅ)」
キョン「あぁ、あれがあの岡部の甥っ子とかいう、アレか。へー、あの人が……。(変な恰好だな)」
ハルヒ「あのー、岡部さん、ですよね?」
岡部「違う。俺の名前は……、って、貴様らは」
みくる「覚えてませんか? あの、岡部先生の結婚披露宴の時の」
岡部「あぁ、まゆりの恩人JK二人であったか。そうか、そう言えば秋葉原へ来るだのと言っていたな」
岡部「ようこそ、始まりにして終わりの地、趣都秋葉原へ。今日着いたのか?」
みくる「あ、いえ。昨日から色々見て回ってるんですよ」
ハルヒ「いいえみくるちゃん、ただ見て回ってるだけじゃないわ! IBN5100を探しているのよ!」
キョン「SOS団の機密じゃなかったのかそれは」
岡部「あい、び……なんだって……」
キョン「あ、えっとですね、IBN5100というのは昔のコンピュータでして……」
岡部「そんなことはわかっているッ!!!!!」ガバッ
キョン「!?」
ハルヒ「!?」
みくる「ふぇ!?」
岡部「どうしてお前たちがIBN5100の存在を知っている……どうして探しているのだッ!!」
キョン「お、落ち着いてください。えっと、ネットの掲示板で、そういう都市伝説が出回っててですね……」
岡部「……あぁ、そうか。そうだったな。なんだ、そんなことか」ガクッ
ハルヒ「なにこの人、まゆりちゃんの彼氏だから良い人かと思ってたけど、ちょっと頭のヤバい人みたい」ヒソヒソ
キョン(お前が言うな、とは言えんな)
キョン「あー、きっと疲れてるんだろ。あんまり言ってやるな」ヒソヒソ
キョン「えーっと、岡部さんもIBN5100を探しているんですか?」
岡部「あぁ……。実は元々手元にあったのだが、気付いたら無くなっていた」
ハルヒ「なんですって!? やっぱり秋葉原にIBN5100があるって噂は本当だったのね!!」
岡部「だが、今はどこにあるのか見当もつかん。どうして無くなったのかも」
ハルヒ「不用心ね。どうせ暑いからって窓全開にした状態でレトロPC持ってます自慢でもしてたんでしょ。そんなの不特定多数に盗んでくださいって差し出しているようなものだわ」
岡部「ぐっ……いや、何も言うまい」
キョン(図星か……)
岡部「多くの人間にとってあれはただのプレミア付きレトロPCだろうが、俺にとっては違う。使い道があるのだ」
キョン「使い道? どんなですか」
岡部「それは企業秘密だ。フフゥン」
キョン(笑い方気持ち悪いな……)
ハルヒ「とにかく、そのIBN5100を盗んだってやつを見つけて、とっちめてやらないとね!」
岡部「……なぁ、頼みがある。もしお前たちがIBN5100を見つけたら、その、俺に譲ってもらえないだろうか」
ハルヒ「……条件次第ね」
岡部「ほう、女子高生の分際で話が通じるではないかぁ」
ハルヒ「やっぱりやめた。見つけたとしても絶対アンタなんかに譲ってやんない」
岡部「は、はぁ!? い、いやいや待て! 冗談だ! 貴様は見るからに才女そうな出で立ちだからな、頭の回転も速いやつだと感心したのだ! ただそれだけだ!」
ハルヒ「……まぁ、いいけど。それと、貴様って言うのやめてもらえるかしら? あたしのことは涼宮ハルヒ、あるいは団長様とお呼びなさい」
岡部「だ、だが断る!! しょんべんくさい娘っ子の言いなりになど誰がなるものか……」
ハルヒ「そのクソみたいな矜持のせいで手に入ったはずの結果を易々とドブ川に流し去るつもりなのね。かわいそうな人」
岡部「ぐっ……。お、お願いします涼宮様ハルヒ様団長様……」
ハルヒ「プッ。無様ね」
キョン「あんまり調子に乗るな。一応年長者だぞ」
ハルヒ「まぁいいわ。ここはSOS団団員その一に免じて許してあげる」
ハルヒ「それで? タダでアンタに協力するのは絶対に嫌なんだけど?」
岡部「実は我が未来ガジェット研究所では偉大な発明品の数々の開発に成功していてな……。その中の一つを、本来ならば高価あるいは一般使用禁止のブツばかりなのだが、特別に使わせてやろう! フフフ、喜びに身もだえるがいい」
ハルヒ「どこからも上から目線なのが心の底から気に入らないけど、未来ガジェット研究所? 大学のサークルかなにかかしら。とってもおもしろそうな響きね」
岡部「一見は百聞に如かず、だ。お前たちを我がラボへと招待してやろう。そして括目せよッ! フフッハハハッ」
キョン(ラボ……? どこかで聞いたような……。そうだ、漆原さんが言ってたんだっけ)
キョン「もしかして、漆原るかさんもそのラボに?」
岡部「ドッキーン! な、なぜそのことをををっ!! まさか、聞いたのかまゆりから……」
キョン「い、いえ。今日の朝挨拶した時に楽しそうにラボに行く話をしていたので」
岡部「……ふぅーびっくりした。でも、楽しそうに、か。ハハ……ルカ子の、ルカ子が、ルカ子だったなんて……」モミモミ
みくる「もしかして熱中症で頭がおかしくなっちゃってるとか……」ヒソヒソ
ハルヒ「おもしろいからもうちょっと観察してみましょ」ヒソヒソ
岡部「話は変わるが。お前たちの中に、何らかの事情でしばらく親と会ってないやつはいるか?」
ハルヒ「突然なんの話よ」
岡部「俺の知り合い……いや、ラボメンの一人がどうも遠い地方から上京してきたらしいんだが、自分の親父をこの秋葉原で探しているのだそうだ。だが、明日会えなかったら帰るのだと言う」
ハルヒ「ラボメン?」
岡部「ラボのメンバー、俺の仲間だ」
キョン「へぇ……それはなかなかにヘビーな話ですね。俺もハルヒも親元で暮らしてます。朝比奈さんは……」
みくる「…………」
ハルヒ「あ、そっか。みくるちゃんって一人暮らしだったわね」
キョン(え、そうだったのか。まぁ、そうなんだろうなとはそこはかとなく思ってはいたが、ハルヒがそのことを知ってたとは)
みくる「は、はいぃ。あたしのお父さんとお母さんは、すごく遠いところにいて、今すぐに会えないくらいで、会いたくても会えないっていうか、仕方ないっていうかぁ……ぐすっ……」
ハルヒ「おー、よしよし」ダキッ
岡部「……やはり、親と会えないというのは、あまりいいことではないよな」
みくる「ひぐっ……だから、岡部さんのお仲間さんは、明日お父さんを見つけられるといいなって思います」
ハルヒ「みくるちゃんはいい子ねー、よしよし」ナデナデ
みくる「す、涼宮さぁん、恥ずかしいですぅ」
2010.08.08 (Sun) 17:17
秋葉原 大檜山ビル前
おさげの女「うぃーっす、おかえりー岡部倫太郎。あれー、そちらさん、どちらさん?」
岡部「勝手にサイクリングに連れ出して、勝手に俺の事ほっぽり出していきやがって、調子の良いやつだ、まったく。このジャリ餓鬼どもはだな」
ハルヒ「タイキック!」バンッ
岡部「イッター! や、やめんか小娘!!」
ハルヒ「関節とグーパンとどっちにしようかしら」ボコォ!
岡部「ぐはぁッ!! い、言いながら殴るやつがあるか!! わ、わかった! すまなかった! だからやめてくれ、団長様ツ!!!」
ハルヒ「わかればよろしい」
おさげの女「あはは、君っていつもおもしろいことやってるね」
岡部「おもしろくない」ボロッ
岡部「えー、こちらの団長様はですね、涼宮ハルヒ様と、その申し上げましてございまして、関西からわざわざIBN5100を探しに来られたのだとかなんとか」
おさげの女「IBN……」
ハルヒ「SOS団よッ! よろしくね! こいつはキョン! んで、こっちのかわいいのがみくるちゃんよ!」
キョン「あー、どうも」
みくる「よろしくですぅ」
おさげの女「あぁ、うん。よろしく」
岡部「ほら、鈴羽も自己紹介くらいしておけ」
鈴羽「え、あ、そっか。あたし、阿万音鈴羽。えっと、ここでバイトしてる」
岡部「うむ。よし、それでは貴様ら……あー、君たちを我がラボへご案内してしんぜよう」
ハルヒ「わーい! ほら、早く案内しなさい!」ゲシゲシ
岡部「いてて! いちいち蹴るなクソアマ! グボアーッ! ……ずびまぜん」
キョン(そりゃ暴力を振るうハルヒが全面的に悪いが、この人もよく懲りないな……)
鈴羽「あ、あのッ! 君たちッ!」
キョン「はい?」
みくる「?」
鈴羽「もし、もしなんだけど、IBN5100が手に入ったら、その、岡部倫太郎に協力してやってくれないかな……」
ハルヒ「条件次第って話だけど、何? アンタ、アレに惚れてるの?」
鈴羽「惚れ……ッ!? い、いやいやいや!? どうしてそういう話になるのさ!?」
ハルヒ「じゃぁなんでアレの協力を仰ぐようなことを言うのよ」
鈴羽「それは、重要なんだ、IBN5100が……」
ハルヒ「なんのために」
鈴羽「……あたしたちの、未来の、ために」
ハルヒ「……」
キョン「……」
みくる「まぁ……」ポッ
岡部「早く案内しろだなんだと抜かしておいてグダグダトロトロといつまでも階段の下にタムロしおって。貴様ら夏休み入り立ての田舎の高校生か。おっと、図星だったなぁって痛いッ! やめろ蹴るなッ!」
ハルヒ「うっさい! 早く階段上んなさいよ! このスケコマシ!」
キョン「あー、阿万音さん。俺たちはこれで。IBN5100の件は多分なんとかなりますよ」
鈴羽「あはは、引き留めてごめんね。バイならー」
みくる「ば、ばいならー」
キョン「朝比奈さん、それ死語ですよ」
みくる「えぇー」
2010.08.08 (Sun) 17:28
大檜山ビル2F 未来ガジェット研究所
岡部「フフフ、数々の艱難辛苦を乗り越え、ようやく我が居城へと帰還したぞ……。俺はッ! 帰ってきたッ!」
ハルヒ「邪魔よ。早く中に入りなさい」ゲシッ
岡部「どぅわっと! 全く、だから俺は気の強い女が嫌いなのだ」ブツブツ
ハルヒ「何か言ったかしら?」
岡部「あ、いえ、あの、なんでもございませんですのことですはい」
デブ「んほおおぉぉーーーーッ!!! かわいいオニャノコのダブルビッグバーガーセットktkrーーーーーッ!!!」
白衣の女「ちょ、岡部! アンタ、さっきの今度でなんてことを……。この歳で淫行で逮捕されるなんて……」ウルッ
岡部「うぇいうぇいうぇーいッ! どこをどうみたら俺が淫行をしているように見えるのだ馬鹿者!」
ハルヒ「どっからどうみても夏休みに地方から東京に遊びに来た世間知らずな女子高生を口八丁手八丁で自分の部屋まで連れてきたヤバいオニイサンよね、アンタ」
岡部「自分で言うなマセ餓鬼がって痛い!! 小指を踏んづけるな痛いッ!!」
ダル「オカリン、アンタ今最高に輝いてるぜ……」
紅莉栖「ふーん、なるほど。IBN5100の捜索に協力をねぇ。私は牧瀬紅莉栖、一応脳科学者よ。日本に来てからは物理学者みたいなことやってるけど。よろしくね」
ダル「でもフェイリスたんのお父たまもIBN5100持ってなかったし、協力してくれたらオカリン的には助かるんじゃね? あ、僕はダルシィって呼んでくれていいお。とぅっとぅるー」
ハルヒ「変な名前」
ダル「あぁ……いいよぉ……もっと罵ってくれてOKだよぉ……」ハァハァ
紅莉栖「この変態!」
キョン「な、なんなんだこのカオスな空間は……」
岡部「おぉ少年、貴様なかなかわかっているではないかぁ。カオス状態こそ、この狂気のメァッドサイエンティスト、鳳凰院凶真が理想とするメァッドな研究環境なのだぁ。フゥーハハハ!」
みくる「ひうっ……お、大きい声、怖いですぅ……」
紅莉栖「おい岡部、何度も女の子を泣かせるんじゃない」
ハルヒ「岡部、みくるちゃんを泣かせるんじゃないわよ」
岡部「……ゴメンナサイスミマセン」
ハルヒ「で、これが未来ガジェットっていうやつなの? ガラクタばっかり」
岡部「……俺だぁ。ついに“機関”の奴らが年端もいかない女子を洗脳して我がラボを切り崩しにかかったらしい。この鳳凰院凶真の鋼の精神を毒電波で破壊するつもりだ。あぁ、そうだ。至急救援頼む。エル・プサイ・コングルゥ」ブツブツ
キョン(機関……? なんだ、独り言か?)
ハルヒ「ま、実用性はともかく、発想はいいわね。おもしろいわ。特にこのモアッドスネークなんか、クレイモア地雷に似せてあるのがグレイトね」
岡部「お、おお?……フフフ、そうであろうそうであろう。それもすべてこの俺、鳳凰院凶真のIQ170を超える灰色の脳細胞のおかげ」
ダル「作ったのはほとんど僕なんですけどね! だるしー大勝利!」
ハルヒ「アガサクリスティーのポアロなの、アイザック・ニュートンなの、どっちかにしなさい。……それとこれ、加湿器って話だけど、煙幕としても使えるかも! 当然、地雷として脅しに使えるでしょうけど!」キラキラ
キョン「お前は秋葉原のど真ん中で戦争でもおっぱじめる気なのか」
岡部「未来ガジェット4号“モアッドスネーク”をお前たちにやるのは忍びないが……致し方ない。IBN5100のため、我がラボの更なるガジェット研究のためだ。さぁ、受け取るがいいッ!!」
ハルヒ「は? 要らないわよこんなゴミ」ポイッ
岡部「」
ハルヒ「IBN5100を何に使うかと思ったら研究に使うのね。ってことはまだガジェットあるんじゃない。出し惜しみするんじゃないわよ」
岡部「ダメだ。“アレ”はラボの最重要機密事項であって、部外者に易々と公開できる代物では、ぬぁい!」
ハルヒ「じゃ協力しない。お邪魔しました」クルッ
岡部「ガシッと!! ま、待て涼宮ハルヒ団長殿ぉ? ほ、ほら、このモアッドスネークにだな、今ならなんと、なななぬぁんと! この未来ガジェット5号、“またつまらぬものを繋げてしまったby五右衛門”をセットで!」
ハルヒ「要らない」
ダル「まー、別に協力してくれるってんならさ、教えてもいんじゃね? 今までだってオカリンの話だと桐生氏に教えちゃったりしてるわけっしょ」
紅莉栖「それに、正直な話をするともう少しサンプルが欲しいわ」
岡部「この実験大好きっ娘め」
紅莉栖「だ、だれが実験大好きっ娘か!!」
紅莉栖「これよこれ。Dメール送信装置。簡単に言うと、過去にメールを送れるわ」
岡部「助手、貴様裏切りおったな!! あと『電話レンジ(仮)』だと何度も言っているだろーが!!」
ハルヒ「過去にメール? またつまらないものじゃないでしょうね」
紅莉栖「まぁ、私も最初はそう思ってんだけど、これが悔しいくらいになかなかな実験結果を叩きだしてくれているようなのよね……。伝聞体になってるのは、全部岡部の言葉を信じれば、という条件付きだという意味よ」
ハルヒ「じゃぁつまらないわね」
岡部「ちょ、まっ、うぇーぃとぅ!! とりあえず俺の話を聞けッ!! いや、聞いてください、お願いします」
ダル「がんがれオカリン」
みくる「過去にメールですかぁ……」
キョン(過去にメール、ねぇ……)
ハルヒ「一応言っとくけど、過去にメールを送れるわけないじゃない」
岡部「ぐぬぬ……」
紅莉栖「私もあなたの意見に大賛成よ。正直言ってまだ理論も穴だらけだし、結果も不安定だし、実用的とは到底言えない」
紅莉栖「何よりタイムトラベルなんてできるわけがない。11の理論全てに問題があるわ」
岡部「まだそんなことを言っているのか貴様」
ダル「理論にも穴はあるんだよなぁ」
ハルヒ「どうやって過去にメールを送るっての?」
紅莉栖「今のところわかっているのは、この携帯電話と繋げた電子レンジを一定時間逆回転させて、ある時間帯に放電現象を発生させて、そのタイミングで『#000』と時間を指定したメールを送るか、あるいはこのペケロッパで時間を打ち込めば、一定期間の過去跳躍メールを送信できる、ということ。それ自体は私も確認したわ、送れる文字数はかなり限られているけど」
キョン(そもそもなんでそんなもん作ったんだ)
ハルヒ「へぇー。それで? 過去が変わったりするわけ? たとえば、宝くじを当てたとか!……って、当たってたらこんな雑居ビルで研究してないわよね。アホくさ」
岡部「ロトくじの実験も行った。実験自体は成功し過去は変わったが、ちょっとした手違いで大金は手に入らなかった。7000円ほど当たったが」
ハルヒ「え……」
ハルヒ「……アンタ今、なんて言った?」
岡部「ちょ、ちょっとした手違いだったんだ! 断じて俺に非があるわけではないし、それに大金があったとしても貴様のようなお子様にはやらん!」
ハルヒ「それじゃなくて、その前よ!」
岡部「……? 過去が変わった、というところか」
ハルヒ「ホントに過去が変わったの? そんなこと、起こるわけない……できるわけないじゃない!」
紅莉栖「それが、どうもそうらしいのよねぇ。私やそこの橋田は過去が変わったせいで記憶も変わってて認識できないんだけど、確かにDメールを送って過去を変えたらしいのよ、そこの岡部は。それなりに辻褄の合うことを言ってるくらいしか証拠はないのだけど」
ハルヒ「は、はぁ!? 過去が変わって記憶が変わるなら、なんでアンタの記憶が変わらないのよ! アンタ、自分が神に選ばれた特別な人間だとでも言うつもり!?」
紅莉栖(私と同じことを女子高生にも言われて、岡部かわいそう)プッ
岡部「落ち着け。冷静になれ、ちびっこ団長よ。ちょっとお子様には刺激が強すぎたようだなぁ痛いッ!! そこはアキレス腱ッ!! わかった、わかったから!! 段階を追って実験を見せてやろう!!」
そのあとの俺たちはというと、バナナがゲル状になったり、ちぎったバナナが元の房に戻ったり、解凍したから揚げが凍ったり、受信したメールの受信日時が5日前になったりするなどといった手品を見させられた。ドシンドシン揺れてたが大丈夫かこのオンボロテナントビル。
ハルヒのほうは終始胡散臭そうな目で研究所チームにいちいち突っかかっていた。今は牧瀬助手とかいう人と物理学のディスカッション形式の問答を繰り広げている。よくついていけるもんだ、改めてハルヒの才女ぶりに感心してしまった。
俺はもはや見慣れた目の前のトンデモ現象よりも、この岡部某という変な大学生が俺と同様に記憶を維持できる点が気にかかっていた。
記憶維持についても“運命探知の魔眼<リーディングシュタイナー>”ガーとか前世の記憶ガーなどとよくわからん厨二的説明を岡部さんから受けたが今いちよくわからなかった。
共通点はやはりIBN5100。これは一体誰の仕業なんだろうな。
そしてもう一つ。昨日の世界改変についてだが、あれがこの研究所のいうところの『過去改変』だったとしたらどうなる? いつの時点で何が改変された? ええい、ややこしいことはすべて古泉に任せてしまえ。
キョン「そう言えば、さっきフェイリスさんのお父さんがIBN5100を持ってなかったとおっしゃってましたね」
岡部「あ、あぁ。そうだ。昨日、俺とそこのダルとまゆりと三人で、フェイリスの父君が持っていたというブツを確認しにいったのだが、なかったのだ。ずいぶん前にフランス人の実業家に売ってしまったのだとか」
ダル「フェイリスたんの家、すっごくいい匂いがしたお。あぁ、思い出しただけでもテント張りそう」
キョン(海外に行っちまったってんなら、これで俺たちのIBN5100探しはふり出しだな。椎名さんに連絡を取る必要もなくなったってわけだ。あぁ、なんてもったいないことをしてくれたんだ、世界よ)
岡部「というか貴様、フェイリスを知っているのか?」
キョン「え? あ、えーっとですね……」
キョン(しまった、この世界では知らないことになってるんだったか……)
ダル「もしかして君、雷ネットやってるん? それだったら知ってるはずだ罠。なんつったって、フェイリスたんのつよかわいさは全国的に有名だから、仕方ないかもわからんね」
岡部「なに、そうなのか」
キョン「まぁ、一応」
キョン(適当に合わせておこう)
キョン「それと、IBN5100を本当は何に使うつもりなんです?」ヒソヒソ
岡部「……電話レンジ(仮)改良のためだと言っただろうが」ヒソヒソ
キョン「そんなわけないことくらいは一介の高校生でもわかります。35年前のPCなんて用途が限られすぎている」
岡部「……君のような勘のいいガキは嫌いだ。仕方ない、特別に教えてやろう」
岡部「貴様、未来から来たジョンを知っているか?」
キョン「……!?」
岡部「未来人のジョン・タイターだ。知らないのか?」
キョン(あぁ、なんだそれか。ややこしい名前だ)
キョン「えぇ、知ってますよ。本をチラッと読んだ程度ですが」
キョン(実際には読んではないが、まぁ受け売りの知識でも大差ないだろう)
岡部「そうか。なら話が早い。実はそのジョン・タイターが言うにはだな」
キョン「たしか2038年問題に対処するのに必要、でしたっけ」
岡部「あぁ、だがそれは西暦2000年にアメリカの掲示板に現れたジョン・タイターの話だ。今ネット掲示板@ちゃんねるをにぎわせているほうのジョン・タイターの話なんだがな、ちなみにさっき教えた世界線変動率やアトラクタフィールドというのもそいつが……」
岡部「……」
岡部「待て」
キョン「?」
岡部「おかしいぞ、貴様」
キョン「はい?」
岡部「なぜ2000年に来たジョン・タイターの話を知っている……どうして2006年に発売された書籍のことを知っているッ!?」ガシッ
キョン「ぐあっ! いってーなこの野郎!」グググ…
岡部「答えろ、今すぐ答えろ!! 貴様、何者だ!? どうして俺と同じ、魔眼<リーディング・シュタイナー>を所有している!? なぜ我がラボに乗り込んできた!?」
キョン「は、はぁッ!? アンタ、一体なにを言ってるんだ」
みくる「や、やめてくださぁい」
ダル「ちょ、オカリンおちけつー」
岡部「とーぼーけーるーなー!! 俺をさんざっぱらバカにしおって、目的はなんだ? IBN5100はここには無いぞ……ハッ!? まさかッ、電話レンジ(仮)を略奪しに来たのか!?」
紅莉栖「おい岡部」
岡部「やらせはせん! やらせはせんぞぉぉぉお!!」
ハルヒ「アンタ」
岡部「……」
紅莉栖「洋書の角と」
ハルヒ「あたしの蹴りと」
紅莉栖&ハルヒ「「選ばせてあげるわ」」
紅莉栖「へぇー、キョンも改変前の記憶が引き継げるのね。岡部だけが特別な人間じゃないって証明できて一安心よ、ありがとね」
紅莉栖「それにますます実験サンプルが取れそうだわ。もしよかったら実験に協力してくれないかしら」
キョン(この人まで俺のことをキョン呼ばわりするのか……)
ハルヒ「いくら牧瀬さんの頼みでも、ダメよ。コイツを貸し出しすることはできないわ」
ハルヒ「ってゆーかキョン! なんでそんなオモシロ能力を持っててあたしに言わなかったのよ!」
キョン「落ち着けハルヒ。俺だって自分の記憶違いかなにかだと思ってスルーしてただけだ。それに能力というほどのものじゃないだろ」
ハルヒ「まったく、どんだけバカなのかしら。過去が変わってるのに気づかないなんて、もったいないわ!!」
キョン「バカで悪かったな」
紅莉栖「うーん、じゃーこういうのはどうかしら。ハルヒが過去にDメールを送信して、過去を変えるの。そしたら多分キョンも記憶の維持、えっと、過去改変の様子が観測できるはずなんだけど」
キョン(過去改変ねぇ……。これってどうなんだ、宇宙的未来的超能力的トンデモ現象じゃないのか? それともこの牧瀬とかいう研究者の言う通り、通常科学の範囲内なのか?)
紅莉栖「どう? ハルヒは変えたい過去、やり直したい過去とかない? できれば現象が観測しやすい、シンプルなものが好ましいんだけど」
ハルヒ(あたしの、変えたい、過去……)
ハルヒ「……却下」
キョン「へぇ……意外だな。ハルヒならこの手の超常現象には率先して挑戦していくものだと思っていたが」
ハルヒ「……帰る。邪魔したわね。行くわよキョン、みくるちゃん」
紅莉栖「あっ……」
キョン「お、おい? 突然どうしたんだ?」
ハルヒ「早く来なさい! あ、何か踏んづけたわ」グニッ
岡部「グェッ」
ダル「我々の業界でも拷問です。本当にありがとうございましたッ!」
紅莉栖「あ、あのッ! なにか気に障ったのなら謝るけど……もしよかったら、また来てね」
ハルヒ「……悪いけど、二度と来ないわ。じゃぁ」バターン
キョン「色々お騒がせしてすいませんでした。こんな別れ際で申し訳ないんですが、すぐ追わないといけないので……って、おいこら早足で歩くな! し、失礼します!」
みくる「お、おじゃましましたぁ」パタン
紅莉栖「真夏の台風のようだったわね……」
ダル「オカリンが息してない件について」
神田明神付近
キョン「おいッ、待てって、ハルヒッ!」
ハルヒ「なによッ! うるさいわねッ! ついてこないで!」
キョン「いーや、こんな東京のど真ん中でお前を一人にさせるわけにはいかん! 嫌と言われてもついていくぞ」
キョン(コイツをほっといたら東京中の人間に迷惑をかけまくること必至だからな)
ハルヒ「……ッ!! バカキョン、勝手にしなさいッ!!」
キョン「あぁ、言われなくてもそうさせていただくね。なぁ、突然どうしたんだ」
みくる「ま、まってくださぁーい。ひぃ、ふぅ、はぁ……」
ハルヒ「……アンタ、変えたい過去って、ある?」
キョン「はぁ?」
ハルヒ「あるかって聞いてんの! 真面目に答えて!」
キョン「そんな突然言われてもな……。あ、一つあったぞ」
ハルヒ「……なに」
キョン「遅刻して罰金を食らった日、もっと朝早く起きてればと何度思ったことか」
ハルヒ「……ふふっ」
キョン「あ、今鼻で笑いやがったな? こんにゃろ。こちとら死活問題なんだ」
ハルヒ「まったく、アンタは底抜けのバカね」
キョン「今日一日で何回バカバカ俺に言えば気が済むんだ」
ハルヒ「あーあ、バカバカしくなっちゃった」
キョン「そうかよ」
ハルヒ「……みくるちゃんは、変えたい過去ってある?」
みくる「あ、あたしですかぁ……。えっと、今朝のうーぱクッション、取りたかったですねぇ」
ハルヒ「ふふっ、そうだったわね」
みくる「涼宮さんは笑ってる顔のほうが素敵ですよぉ」
ハルヒ「そんなカワイイことを言うのはこのほっぺか! このっ! このっ!」グニグニ
みくる「ひゃー!? ひゃめへふははいぃ!!」
キョン「やめなさい」
ハルヒ「えーっ、こんなにやわらかいのよ! こんなによ!」
キョン「やめなさい」
ハルヒ「……なんかね、過去を変えるのって、ズルい気がしたの」
キョン「それはわかる気がするな。たとえ今がどんなにピンチでも、過去が変えられるなら未来の自分が必ず助けに来てくれる」
キョン(去年のクリスマス頃から今年の正月までそんな気分だったな。先延ばしにしたせいでえらい目にあったが)
ハルヒ「発想が貧困ね。そうじゃなくて、時間って、世界って、一つだから尊いと思うし、一つしかないから一生懸命頑張ろうって気になるじゃない? それが、いくらでも過去をやり直せる世界になっちゃったら、なんていうか……、人間ダメになっちゃうと思うのよね」
キョン(およそハルヒらしからぬ文言がその口から飛び出している)
ハルヒ「起きてしまったことは変えられないし、やらなかったことに再挑戦はできない。たとえ失敗したとしても、それも含めて今の自分ができてると思うから」
ハルヒ「だから、過去を変えることは、たとえ物理的に可能だとしてもやるべきじゃないと思う。思ったの」
キョン(古泉よ、こりゃ存外常識人のレベルを超えて聖人君子の域に達しているぞ)
2010.08.08 (Sun) 00:10
湯島某所
キョン(あの後ハルヒは突然何かに吹っ切れたようになった。梅雨が明け真夏になったと思って力強く咲いたヒマワリが思いがけず台風を食らったが台風一過の日差しに勢いを巻き返したかのような雰囲気をまとっていた)
キョン(宿に帰った俺たちは風呂に入って、カラオケセットがあったので俺と朝比奈さんが歌わさせられて、トランプに興じ、時計の針が天辺を回る前に就寝となった)
キョン「さぁ古泉。今日も講釈を頼むぞ」
古泉「まったく、あなたと相部屋では夜も眠れませんね」
キョン「変な言い方はやめろ。一瞬で眠らせてやろうか」
古泉「おぉ、こわいこわい」
古泉「パラレルワールド。これは今年度頭の入団試験事件の時にお話しましたね」
キョン「あぁ。だが、どうも今回は単純な並行世界への移動というだけでは説明ができない気がするんだ」
古泉「と、おっしゃいますと?」
キョン「その前にだ。古泉、ジョン・タイターって知ってるか?」
古泉「ジョン・タイター、ですか。申し訳ありませんがリサーチ不足です。一体なんなのでしょう」
キョン「なるほどな、やっぱりここも改変が起こっていたのか。いつから知らないんだ? って、聞いてもわかるわけないか」
古泉「そうですね。その質問には、改変後の僕の脳みそでは、“生まれた時から知らない”としか答えようがありません」
キョン「予言書、『未来人ジョン・タイター』。長門がどっからか持ってきた本が部室にあったはずなんだが」
古泉「なんと……。それならば僕が知らないはずはないですね。なるほど、ますますおかしい」
キョン「だが、こっちのジョン・タイターのことをあの岡部某は知っていた」
古泉「『こっちのジョン・タイター』、ということは、それとはまた別のジョン・タイターなるものが存在するのですか」
キョン「どうやらそうらしい。今現在進行形で@ちゃんねる掲示板に出没しているアカウント名に“ジョン・タイター”という名がいるそうだ」
キョン「そいつも未来人を名乗って未来的なことを書き込んでいるらしい。メールアドレスをさらしているらしいから、連絡を取ることもできるとか」
古泉「その方はホンモノの未来人なのですか?」
キョン「多分NOだな。朝比奈さんがなんの反応も示していなかった」
古泉「しかし現在進行形となると涼宮さんが興味を持ちそうですね」
キョン「スレでまさにIBN5100の話題も出しているらしいしな。2036年におけるディストピア回避のための重要アイテムらしい」
古泉「未来人を擁するSOS団が未来を救うためのキーアイテムを捜索する……。なかなかどうして、面白そうではありませんか」
キョン(どこかで聞いたセリフだな)
キョン「まぁ、抑えつけても仕方がないことではあるが、ハルヒがネットカフェでサーフィンしたいとか言い出したら注意が必要かもしれん」
古泉「心得ておきましょう」
キョン「そういえば岡部さんが独り言で“機関”に狙われているだとか言ってたんだが」
古泉「えっ!? 今日のことなのに、なぜ知られて……。あ、いや、おかしいですね。バレた、という報告は入っていないのですが」
キョン「……マジだったのか」
古泉「調査した限りではどこまでも一般人であるとわかっていますが、なかなかどうして鋭い方じゃないですか。警戒レベルを引き上げるよう通達しておきます」
キョン「プライバシー通り越して人権侵害じゃないのかそれ」
古泉「涼宮さんと積極的に交流しようとする人間は逐一素性を洗っていますよ。と言っても岡部氏に対してはまだ盗聴と張り込み程度ですが」
キョン「……通常業務お疲れさん」
古泉「それでは本題に入りましょう。あなたが体験した世界改変の正体について、ですね」
キョン「まず、この世界は最低でも3回は世界改変を体験していることになる」
キョン「一つは昨日の柳林神社にいた時に起こったものだ。主な改変点はIBN5100の奉納事実の消滅と、同時に秋葉原からサブカル系ショップが消滅したこと」
キョン「一つはさっき言った、ジョン・タイター関連の世界改変だ。これはいつ起こったかわからない。改変点は、2000年のアメリカに現れたはずのタイターが2010年の日本に現れている点だ」
キョン「最後の一つは、あの岡部の野郎、過去を変えることができるメールでロトくじを当てようとしたらしい。まったく、一族揃ってろくでもねぇ」
古泉「これはまた広く一般的な願望ですね」
キョン「クジ自体はなんらかの手違いで当選しなかったらしいが、過去改変自体は成功したらしい」
古泉「つまり、未来ガジェット研究所なる組織は、自在に過去を改変する可能性がある」
キョン「しかも現在進行形でその精度を上げようとしているらしい」
古泉「……いろいろ考えがまとまっていませんが、とりあえず一つ言えることがあるので申し上げます」
キョン「なんだ」
古泉「昨晩僕が言った、あなたは異世界人に狙われているかもしれない、という可能性が極端に低くなりました」
キョン「ほう。それはなぜだ」
古泉「柳林神社からIBN5100の奉納事実が無くなったのは、秋葉原の都市計画が変更された事象の副産物に過ぎなかった、と結論づけるべきでしょう」
古泉「そのIBN5100とやらは、元々は猫耳メイドのフェイリスさんの御父上の所有物だったとお伺いしていますが、おそらく街の変化と同時にIBN5100を奉納する動機が無くなってしまったと思われます」
キョン「ん? 理由がよく、わからないが」
古泉「僕もその理由はよくわかりません。しかし、大事なのは具体的な理由ではなく、あの未来ガジェット研究所に過去を改変する可能性がある、という一点のみです」
キョン「……あぁ!」
古泉「フェイリスさんも岡部さんのお知り合いなのですよね? ここまでの人物と環境が揃っていれば、おのずとトリックが見えてくる……。いえ、事件が自然発生してしまうものなのですよ」
キョン「はぁ、そりゃ、そうだよな。そんな簡単に世界改変をできるやつがポンポンといてたまるかってんだ。つまり、今回の事件の全ての犯人は」
古泉「未来ガジェット研究所、と見てよろしいかと」
古泉「あなたもだいぶメタ的な視点に立って推理するようになりましたね」
キョン「だが記憶の引き継ぎについてはどうなんだ? これは異世界人の仕業じゃないのか?」
古泉「未来ガジェット研究所が過去改変の犯人であると先ほど推理したわけですから、同時に異世界人による侵略説が排除された。よって記憶の引き継ぎは異世界人の仕業ではありません」
キョン「それじゃいったい誰の……」
古泉「あえてめぼしい人物を申し上げるなら、涼宮さんを除いて他にいないかと」
キョン「……なんだ、それじゃ結局いつものやつじゃねーか」
キョン(まさかハルヒの手によって俺に不思議属性が付与されることになるとはな)
キョン「タネがバレちまったらもう気張ることはねぇな。今日はぐっすり眠れそうだ」
古泉「寝ているうちに世界が改変されているかもしれませんが」
キョン「……冗談でもやめてくれ。去年の五月のアレは思い出すだけで胃もたれになりそうだ」
古泉「今度は一緒に《神人》と闘ってみますか?」
キョン「……なぁ、古泉」
古泉「はい、なんでしょう」
キョン「俺が体験した世界改変は、すべて過去改変だとして考えていいんだよな?」
古泉「推理上はそのようになっているかと」
キョン「ロトくじは確定的だ。フェイリスさんの過去改変も、アキバと萌えに関わるなにかだったんだろう。だが、ジョン・タイターに関する過去が変化したのは、研究所として、動機も、状況も、方法もよくわからん」
古泉「ふむ。もしかしたらこれは、バタフライ効果かもしれませんね」
キョン「バタフライ効果?」
古泉「おや、ご存じありませんか?」
キョン「あれだろ? 風が吹けばおけ屋が儲かる的な」
古泉「ふふっ、そうですね。ちょっと違いますが」
古泉「よく言われているのは、ブラジルの蝶の羽ばたきが、テキサスで竜巻を起こす、というものです。カオス理論の標語的な存在ですね」
古泉「元々は気象学者による数値予報研究の提言ですが、我々はむしろ因果律を操作するようなSF作品で引用することがあります」
キョン「つまりタイムトラベルものだろ?」
古泉「有体に言ってしまえば、そうですね」
キョン「ジョン・タイターに関する改変を引き起こしたDメールも、どう考えたってそうなる原因とは思えないモノだったが、結果的にジョン・タイター改変を引き起こした可能性がある、と」
古泉「そうです。ですが、大事なのはそこではありません」
古泉「我々はジョン・タイターに関する改変が起こってしまった、という結果を認識することはできていますが、ではいざその原因を特定しようとしたところで、バタフライ効果を想定した場合、それはほとんど絶望的です。どうしてテキサスの竜巻の原因をブラジルの一匹の蝶になすり付けることができるでしょう」
キョン「言いたいことはよくわかった。要はあんまり考えずに寝ろ、ってことだな?」
古泉「ご明察」
キョン「回りくどいこって……。せいぜい良い夢見ろよ」
古泉「あなたも。おやすみなさい」
---
ジョン……ねぇ、ジョン
アンタはどうしてあたしの前に現れたの?
「……なんだ? どこからかハルヒの声がする」
あたしを救ってくれたの? この色褪せた世界から
他の子にもそうしてるの? あたしだけ特別?
「声が少し幼いな……」
北高の生徒は全部洗った、けどアンタはいなかった
アンタは、一体だれなの?
「閉鎖空間というわけでもなさそうだが……」
あたしは街を出歩く度にアンタの面影を探してる
あれから宇宙人も、未来人も、超能力者も、異世界人も現れないじゃない
「中学生ハルヒの日記を覗き見してるみたいでバツが悪いな」
アンタに会えたら一言言いたいことがあるのに
確かにあたしは救われた。けどね、いつまで待たせる気なの?
「これは夢か?……つらつら考えてみるに俺はなんてセリフを中学ハルヒにしゃべらせているんだ。フロイト先生も失笑だ」
あたしの青春は、こんなにつまらないまま終わるの?
そんなの、絶対イヤ
だから、なんとかしなさい! キョン!
「……あぁ、なんとかやってみるよ。SOS団全員でな」
---
---------------------------------------------------
◇Chapter.3 涼宮ハルヒのパラノイア◇
---------------------------------------------------
2010.08.09 (Mon) 9:00
湯島某所
ハルヒ「本日のIBN5100捜索は中止!」
キョン(ホントに寝てる間に世界改変が起きちまったのかと思ったよ……。記憶の齟齬が無いから違うと思うが)
キョン(昨日の夜はどこかの天真爛漫な由緒ある家のお嬢様のようにはしゃぎ回っていたあのハルヒが、不機嫌を特殊メイクで顔にはっ付けたような仏頂面をしてやがる)
キョン(ハルヒにはIBN5100のツテであるところの椎名まゆりの友人の父親の線が消えた、しかも何年も前に海外に売られたらしいということは昨日宿に帰る途中で伝えたが……。そのせいでご立腹なんだろうか?)
ハルヒ「まったく、考えれば考えるほどイライラしてくるわ! みくるちゃん、お茶! 古泉くん、東京の地図!」
みくる「は、はぁい!」
古泉「こちらに」
キョン「おい古泉ちょっと来い。これは一体どうゆうことだ」
古泉「こちらが聞きたいくらいです。あなたが寝ている間、閉鎖空間が発生し《神人》退治で忙しかったのですよ」
キョン「なに? そうだったのか。そいつは、なんだ。お疲れ」
古泉「……失礼しました。まぁ、差し詰め嫌な夢でも見たのではないでしょうか」
キョン「その程度で済めばいいんだけどな」
キョン(昨日俺もなにか変な夢を見たような、見なかったような……)
ハルヒ「キョーン! 古泉くーん! 荷物持って談話室まで来なさい! 今日は全っ力で東京観光するわよ!」
古泉「おや、涼宮さんは溜め込んだストレスを健全な方法で昇華させるようです」
キョン「新陳代謝の激しいやつだ」
アメヤ横丁
ハルヒ「いいわねー、このぐちゃぐちゃ具合!」
キョン「おい、勝手に進むな! おい!」
みくる「あれぇ、みなさんどこですかぁ、ここどこですかぁ」
上野恩賜公園 上野動物園
ハルヒ「みくるちゃーん! 有希―っ! あのゴリラ、キョンにそっくりよー!」
みくる「ま、まってくださぁーい」
長門「デジカメ」パシャ パシャ
浅草寺 仲見世通
ハルヒ「ニンジャー! サムラーイ! ハラキリー!」ブンッ!ブンッ!
みくる「ちょ、ちょんまげはやめてくださいぃふぇぇ」
長門「」パシャ パシャ
キョン「あれが新東京タワーか、でかいな」
古泉「まだ展望台部分より上はほとんど頭角を現してしませんが、あれは内部で建設中のアンテナ部分、ゲイン塔をエレベーター式に押し上げるリフトアップ工法で」クドクド
浅草花やしき お化け屋敷
ハルヒ「こんなんでビビると思ってんの? もっと気合い入れておどろかしなさいよ!」
みくる「ぴ、ぴえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
長門「幽霊……」
隅田川 水上バス
ハルヒ「ジャンプしたら橋げたに飛び移れそうね!」
キョン「バカ、そんなに乗り出したら川に落ちるぞ!」
芝公園 東京タワー
ハルヒ「ひっくい景色ねー! 金返せドロボー!」
キョン「やめろ!」
みくる「ソフトクリームおいしいですぅ」
古泉「東京タワーの高さが333mだということは有名かと思いますが、竣工は昭和33年と『3』に愛された電波塔でして」クドクド
皇居前広場 二重橋前
ハルヒ「一度来てみたかったのよねー、皇居!」
キョン「頼むから余程なことを口走るんじゃねぇぞ……」
ハルヒ「日本中のありとあらゆる時空の謎を集約した場所だと思わない!?」
みくる「なんだか空模様が怪しくなってきましたぁ」
古泉「雨に降られる前に宿に戻るのが良いかと」
2010.08.09 (Mon) 21:09
湯島某所
キョン「つ、疲れた……。もーだめだ、足が棒のようだ……」
古泉「すいません、僕に、託された分の、お土産まで、持って、いただいて……」
みくる「……ぴぃぃぃ……」
長門「雨が降り出す前に戻れてよかった」
ハルヒ「まったく、みんな体力なさすぎよ? 今後は団員の体幹トレーニングも考えておかなきゃね」
キョン「その一言で疲労度が五倍増しだぜ……」
2010.08.10 (Tue) 00:03
湯島某所
キョン(その日ハルヒの渋っ面から始まった観光と言う名の東京砂漠縦断キャラバンを完遂した俺たちは泥のように眠った、はずだったんだが)
キョン「くそ、寝る前にトイレに行っておくべきだった。おかげで中途半端な時間に起きちまったぜ」
ピカッ!ゴロゴロ…
ザーザーザー
キョン(外は雷雨、雨降りの音が建物の中まで響いて来る)
キョン「ふー、スッキリした。古泉のやつ、俺が部屋を出ても起きないほど爆睡してたな。昨日寝てないのにホントご苦労なこった」
キョン「……ん? 1階の談話室の電気がついてる?」
キョン(誰か居るな……って、なんだハルヒか。熱心にA4サイズのルーズリーフになにかを書き込んでいる。明日の計画書でも作ってんのか?)
キョン(……一旦階段まで戻ってから声を掛けてやろう)
キョン「おーい、誰か居るのか? 電気つけて」
キョン「居ないなら消すぞー、ってハルヒか。何してるんだ」
ハルヒ「アンタ、寝たんじゃなかったの?」
キョン「変に目が覚めちまってな。それで、お前の方こそ何してたんだ?」
ハルヒ「あたしも眠れなかったの。それだけ」
キョン「そうかい」
キョン(見事にルーズリーフは隠されてしまったな)
ハルヒ「あたしが眠くなるまでちょっと話に付き合いなさい」
キョン「へーへー。明日はどんな灼熱強行軍が待ってるんだろうな。新宿か? 渋谷か?」
ハルヒ「まだ観光したりないの?」
キョン「いや、連日はさすがに勘弁してほしい。というかだな、今朝はどうして虫の居所が悪かったんだ?」
ハルヒ「……昨日のこと、時計的に言えばおとといの事だけど、色々と許せなかったのよ」
キョン(どうしたんだ、急に神妙な顔しやがって)
ハルヒ「まずね! あたしの預かり知らないところで『過去を変える実験』とかいうメッチャ面白そうなことやってるんじゃないわよ!!」
キョン(心配して損した)
ハルヒ「世界はあたしを中心に回るべきなの! ありとあらゆる不思議は全てあたしに対して挑戦的であるべきだと思わない!?」
キョン「あーそうだな、思う思う。だがあれは不思議というより科学実験だと思うが」
ハルヒ「それを! 人を上から見下すしか能が無い厨二病こじらせた童貞コミュ障野郎に独占されてるのが……ホント許せないわアイツ……」イライラ
キョン(童貞かどうかは関係ないだろ!)
キョン「だがあの未来ガジェット研究所が秘密主義結社だとはとても思えん。むしろその逆のベクトルだ。誰でも過去メールを使えるみたいな話だったし、独占されてるわけではないだろ」
ハルヒ「違うわよ! 全っ然違う! あたしが! 実験サンプルになるとか! 頭下げて使わせてもらうなんてのはね! もってのほかなの!!」
キョン(文節ごとに語気が強くなっていらっしゃる。このままハルヒをイライラさせてたら古泉がマジで過労死するかも知れないな。ちょっとはご機嫌取りでもやってみるか)
キョン「まぁ、東京に来ていろいろおもしろい話が聞けてよかったじゃないか。お前はお前でやりたいことをやればいいし、あっちはあっちでやってただけだ。いい刺激になったんじゃないか」
ハルヒ「……そりゃ、おもしろそうだったのは事実だけど」
キョン「だったら素直におもしろがっとけ。悔しいなら、もっとおもしろいことを見つければいいのさ」
ハルヒ「……あとね、あの牧瀬紅莉栖って人も許せないの」
キョン「ん? 意外だな、結構仲良くしてたじゃないか」
ハルヒ「それはあの変質者を叩くのに共闘しただけよ。あの人、あたしに過去を改変するように迫ってきたでしょ?」
キョン「あぁ。俺に観測しろだなんだと言ってたな」
ハルヒ「純粋に実験目的なのはわかるけど、『変えたい過去はない?』なんて、ヒトの琴線に触れるような言葉を使ってズカズカと土足で上がりこんできたのよ」
キョン「まー、そうともとれるか。自分の人生の変えたい過去、やり直したい過去が無い人間が仮に居たとしたらそれはもう伝説上の生き物だからな。その質問をする時点でだいぶ利己的だと言えるかもしれない」
ハルヒ「それに! あの口ぶりだときっと自分は自分で自分を実験台にした過去改変をしてないのよ! 理由はたぶん、怖いから、とかでしょうけど……」
ハルヒ「それを平気な顔して他人に勧めてくるなんて、狂気のマッドサイエンティストとかあの岡部は言ってたけどそんなんじゃないわ」
ハルヒ「人の気持ちがわからないのよ。友達が居ないんじゃないかしら、あの人」
キョン(ハルヒにそこまで言わせしめるとは。中学の頃のハルヒに言って聞かせてやりたいよ。ホントお前はSOS団を結成していて良かったな)
ハルヒ「後は、自分が許せない」
キョン「いつになく殊勝な発言だな」
ハルヒ「『変えたい過去が無いか』って聞かれた時に、悔しいけどちょっと心が動いちゃったのは事実よ。アンタも言ったけど、あたしにだってやり直したい過去の一つや二つくらいある」
キョン(ハルヒのやり直したい過去ってなんだろうな)
ハルヒ「だけど……。やっぱり自分の過去はやり直したらいけないと思った。思い直したの」
ハルヒ「あたしの過去は、あたしのもの。他の何物とも取り替えたくない」
ハルヒ「だって、もしやり直しちゃったら、今のあたしたち、SOS団の、みんなとの思い出が、無くなっちゃうような気がして……」
キョン(なにがこいつをそこまで不安にさせてるんだろうね。第六感ってやつか?)
キョン「それは無くなったように見えるだけで、実際は無くなってないんじゃないか?」
ハルヒ「……?」
キョン「いやなに、SF的な話だけどな。仮に過去改変が起きて世界が再構成されたとしても、改変前の世界があったって事実は変わらないだろ?」
ハルヒ「でもそれって『憶えてる』、って言えるの?」
キョン「もしかしたら俺がしっかり憶えてるかも知れないぞ?」
ハルヒ「あー、そうだったわね。だけどそういうことは暗記科目の点数を上げてから言わないと説得力が無いわよ?」
キョン「そっちは約束できん」
ハルヒ「少しは意地張りなさいよ。ま、過去なんて改変できるわけないわ。所詮SFよね、アレの虚言の範疇だし」
キョン「さて、そろそろいい時間だ。今日はお前も疲れてるだろ、早く寝ようぜ」
ハルヒ「……そうね。電気代ももったいないし」
キョン(よかったな古泉、お前の財布は心配されているらしい。お前のはな)
キョン「明日は探すのか? IBN5100」
ハルヒ「まだ考え中。明日の朝発表するわ」
キョン「あいよ。それじゃ、おやすみ」
ハルヒ「ん」
キョン(不愛想な挨拶だけ残して女子部屋へと帰って行く我らが団長様であった)
2010.08.10 (Tue) 9:03
湯島某所
みんなへ
今日の午前中は自由行動にするわ。
疲れてるなら寝てていいし、行きたいところがあるならどうぞ。
お昼は一緒に食べましょう。
SOS団団長 涼宮ハルヒ
キョン「昨日書いてたルーズリーフはこれか……」
キョン(談話室の入り口となっている襖にペタッとセロハンテープを四隅に貼る形で自由行動の文言が貼りだされていた)
キョン「古泉、ハルヒは?」
古泉「それが、僕が起きた時には既に玄関に靴はありませんでした」
古泉「ですがご心配要りません。機関の者が跡を追っています。いつでも居場所が確認できますし、連絡取れますよ」
キョン「頼もしいんだか人権侵害なんだか。そうだ古泉、もし疲れてるんだったら寝ててもいいんじゃないか? こんなチャンスは滅多になかろうよ」
古泉「いえ、僕は二度寝すると余計疲れてしまうタイプなので、コーヒーでもいただきながらゆっくりした時間を過ごそうと思います」
みくる「少し遅くなりましたけど、朝のコーヒー入りましたよぉ」
キョン「あぁ、朝比奈さん。俺は幸せ者です」
キョン(談話室は入口が廊下より一段高くなった襖の部屋で中には畳が敷いてあるが、その上に低めのレザーソファーと高級感あふれる低い脚のテーブルが置いてある)
キョン(“談話室”という名前が部屋の前に書いてあったので俺たちはそう呼んでいるが、個人宅としては応接間と言ったところだろう。まぁ、機関の提供する設備など考察しても意味がなさそうではあるが)
古泉「涼宮さんが居ない今、もし良ければ例の過去改変について色々話し合ってみましょうか。僕たち4人で」
キョン「一応昨日の深夜、ハルヒにな、『過去改変は所詮SFだ』と釘を刺しておいた」
古泉「おや、僕たちが寝静まった後で逢瀬とは。あなたもなかなか積極的ですね」
みくる「キョンくん……」
キョン「ち、違う! 偶然、偶然だって! 勘違いですよ朝比奈さん!」
古泉「ですが。『押すな』、というのは逆に、『押せ』、という意味であるとどこかの大御所芸人さんがおっしゃっていましたよ」
キョン「こりゃ失敗したか」
長門「過去改変の具体的プロセスについて説明がほしい」
キョン「まだ話してなかったが、こりゃ説明するのは大変だ。俺自身でも、聞くには聞いたが理解できてないことが多すぎる」
長門「いい。あなたの記憶だけ読み取らせてもらえばいい」スッ
キョン「なるほど……って、おい! 長門ッ! 顔が、ちか、ちか、近いッ! ひっ……」ピトッ
みくる「な、長門さん、大胆ですぅ……」
古泉「おでことおでこを合わせておられますね……」
長門「人間の記憶は大脳皮質、とりわけ側頭葉に電気信号の伝わりとして記憶される。人間が記憶にアクセスしようとする時、前頭葉から側頭葉へ信号が行く。このトップダウン記憶検索信号を読み取り、あなたの脳が該当すると判断した記憶だけをわたしの脳にコピー&ペーストしている」
キョン(長門がしゃべる度にクールミントのような吐息が俺の顔面にかかる! こそばゆい!)
キョン(そして俺は声が出せん! 声を出したら俺の泥臭い息がモロに長門の顔にかかってしまう!)
キョン「……あのー、長門さん? あんなことをする必要があったのでしょうか?」
長門「あなたが思い出すことのできない記憶も同時に読み取るにはあの方法が一番」
キョン「……さいですか」
長門「朝比奈みくるに質問がある」
みくる「ひぇっ。あ、あたしですかぁ」
古泉「ふむ、長門さんが朝比奈さんにご質問とは、珍しいですね」
長門「あなたの居た未来では、未来ガジェット研究所という存在や、あるいは電話レンジ(仮)という名前の装置はどのような扱いをされていた」
みくる「え、えっと、あの、おとといあそこに行ってお話を聞いたのが初めてでしたぁ」
キョン「まぁ、リアクションを見てなんとなくそうなんだろうなぁとは思ってましたよ」
キョン「ん? そうか、過去改変なんて事象が未来で語り継がれていないってことは……、どういうことなんだ?」
長門「カー・ブラックホールをあの設備で生成すること、またカー・ブラックホールを利用して過去にメールを送ることは原理的に不可能。よって過去改変は無理」
キョン「カー・ブラックホール? あぁ、牧瀬先生がハルヒとの講義の中で言ってたっけか……」
キョン「そりゃ普通に考えたら無理だよな、ケータイと電子レンジくっつけただけで過去にメールを送れるなんて」
キョン「そういや、確かリフターにあたる存在がなにかわからんのに稼働してるとか言ってたが、そのことか?」
長門「違う。蓋然性を考慮すればブラウン工房のテレビがリフターの役割を果たしている。だがこれを特定できたところで変わらない。電子の配給の調整によるカー・ブラックホール生成可能性も関係ない」
古泉「その“原理的に不可能”、という理由をお聞かせ願えますか」
長門「あの電子レンジ内部にはリング状特異領域が裸の特異点となったものが二つ存在していた。しかし量子効果によって空間的特異点へと変換されるため時間移動に利用することはできない」
みくる「あっ、まったくわからないです……。あたし、タイムトラベラーなのに……」
キョン(安心してください朝比奈さん。俺もわかりません)
古泉「裸の特異点を二つも作り出すことは未来ガジェット研究所では本来技術的に不可能であると。かつ原理的に不可能ということは、彼ら未来ガジェット研究所が過去改変を成し遂げたというのは、嘘だった、ということですか」
長門「岡部倫太郎の発言のうち過去改変に関する物に関しては虚偽の意識がなかった。加えてバナナやから揚げの実験は小規模ではあるが間違いなく過去改変」
古泉「つまり、最低でも自身は真実を述べているつもりであり、過去改変は確実に操作的に発生させていると。そうなると、一体なぜ過去改変が起こったのでしょう」
長門「他の存在が影響を与えていると思われる」
キョン「……まさか、それってのは」
長門「涼宮ハルヒ」
長門「涼宮ハルヒによる世界システムの改変のために、一定期間に限り先述の時間跳躍メカニズムの実用および未来ガジェット研究所における奇跡的な技術的達成が可能となった」
キョン「……なんだってやっこさんは過去を変えたいだなんて願っちまったんだろうねぇ」
古泉「その一定期間というのは?」
長門「1975年から2034年」
キョン(よくわからん数字だが、1975と言えばIBN5100発売の年だったな)
みくる「こ、困ります! 涼宮さんの能力で過去改変されたら、未来人でも対応できなくなってしまいます!」
キョン「朝比奈さん、心配しないでください。どういうわけかハルヒの奴は、自身が直接手を下す方法ではなくなんだか七面倒くさい遠回りなやり方で過去改変しているので、止めるタイミングはいくらでもありますよ」
古泉「ふむ……。涼宮さんはどうして過去改変をしたいと思ったか、ですか」
古泉「…………」
キョン(ん? 古泉のやつ、どうしたんだ?)
古泉「まず長門さんに確認しておきます。1975年から2034年を改変したということは、たとえ最近になって涼宮さんが世界システムを改変したとしても、35年前から既に世界システムは改変されていたことになっているのですね?」
長門「そう」
キョン「お前が前に言ってた、世界五分前仮説の過去世界創世みたいな話か?」
古泉「そんなことを言った記憶は僕にはありませんが……、おそらく合っていると思いますよ」
古泉「ゆえにたとえ涼宮さんがどのタイミングで改変を起こしたとしても、その改変以降に世界システムが改変された、ということではなく、既に世界はそういうことになっていた状態になるのです」
キョン「それはわかったが、だからどうしたんだ?」
古泉「ですが、過去改変を願った時点から涼宮さんの手によって過去改変が実際可能となる時点までに距離を置く意味はありません。つまり、涼宮さんが過去改変を願った時点は最近なのです」
古泉「……未来ガジェット研究所の手による最初の大規模な過去改変はいつ行われたと思いますか? それはあなたの記憶に影響のあるもの、おそらくジョン・タイター改変でしょう」
キョン「それが全く見当がつかないんだが、俺が体感できるほどの大改変は例の柳林神社でのが最初だった」
古泉「……7月28日のお昼頃、つまり例の人工衛星が秋葉原に墜落した頃ですが、その時あなたになにか体調の変化は?」
キョン「さぁ、どうだったかな……。たしか前日の腱鞘炎もどきアンド右ふくらはぎの筋肉痛のせいで昼頃までぐったりしていて、寝過ぎて頭が痛かったような」
古泉「普段からあなたは昼頃まで寝た時は頭痛がするのですか」
キョン「い、いや、そんなことはないと思うぞ、多分。ってことはなにか? あのタイミングで世界改変が起こり、人工衛星が突っ込んできたと? だが、だからどうしたってんだ」
古泉「いえ、大事なのはそこではありません」
古泉「仮に7月28日に過去改変があったとして……、問題は……」
古泉「その前日が、“結婚披露宴”だったということ……ッ!!!!!」
キョン「お、おい? 突然血相を変えてどうした?」
古泉「未来ガジェット研究所へ乗り込んで涼宮さんを止めてください!!! いえ、緊急事態です、今すぐ機関の者に制止させます!!! 僕も一緒に行きます!!!」
キョン「はぁ? お前なにを言って」
古泉「涼宮さんがッ!!!! 今まさに過去を改変しようとしてい――――――――――――――――――
D 0.409420 4920656e767920796f75%
2010.08.10 (Tue) 10:05
????
キョン「―――――――――ッ!!!!! いってぇ!!!!! 頭が、割れるッ!!!!!」
古泉「だ、大丈夫ですか!? 落ち着いて、深呼吸してください」
キョン「はぁ……はぁ……。な、なぁ古泉、さっきは何を言いかけたんだ……」
古泉「ええとですね、『どうして最近の邦画はつまらなくなったのか』という話について、それはミーハー層の感受性が変化したという前提を踏まえて……」
キョン(こいつ、一体、なんの、話を……くそっ、またアレかよ……過去改変による世界改変か……。しかも俺が体感した中で一番どでかいやつだ……)ズキズキ
古泉「……映像やストーリーメイクなどの技術的なものの質自体は上がっている、ということを言おうとしていたのですが、そんなことよりお体大丈夫ですか?」
キョン「長話をしやがってホントに心配してるのかお前……? まぁ、身体のほうは大丈夫だ、心配するな」
古泉「それならよかったです」
キョン(どうも調子が狂うな……)
キョン(しかし参った。心の準備ができてないのはいつものことだが、こうも間断なく世界が改変させられると自分の記憶力が不安になるぜ)
キョン「えっと、ハルヒのやつはどこだっけか」
キョン(とにもかくにもまずはハルヒだ。さりげなく情報を吸い上げてやろう)
古泉「先ほど朝比奈さんとお手洗いに行かれたところですよ」
キョン(よかった、ハルヒは居る)
キョン(だがここは一体どこなんだ?……観察するに映画館の通路か?……もしかして、秋葉原から俺たちの街に帰ってきたのか?)
一旦状況を整理しよう。
改変直前の古泉の話からすると、ハルヒがDメールとやらを過去に送って世界を改変した。
いったいどんな世界に変わったってんだ? そしてそれはどのタイミングで変わった? ハルヒはどうして、なにを変えたかったんだ……?
元の世界に戻る算段は全くないが、この辺りを調べてみるか……。
さて、夏休みの自由研究、4次元間違い探しの始まりだ。
ハルヒ「ジョン~! 待たせてゴメンネ~? さみしかったぁ?」ムニュ
キョン(その胸はやわらかかった……い、いやいや! 現実逃避しとる場合ではないッ! 今こいつなんて言った!? そしてなんだこの、俺の腕に絡みついてきたハルヒと、おっぱいは!)ドキッ
みくる「涼宮さぁん、待ってくださいぃ。ジョンくんは逃げませんよぅ」
ハルヒ「ジョンどうしたの? そんな変な顔しちゃって。まぁアンタはいつも変な顔だけど」ププッ
キョン「な……な……」
キョン(数秒でいい、俺に考える時間をくれ……。どうしてハルヒは上目遣いで執拗に俺との距離を詰めてくるんだ? い、いやそこじゃなくて、どうして俺の事をジョンと)
古泉「先ほど少し体調に異変があったみたいでして、混乱されているのでは」
ハルヒ「えぇぇーーッ!! 大丈夫ジョン!? どこか痛いところはなぁい!? 救急車呼ぶ!?」ピ、ポ、パ
みくる「わわぁー、呼んだら来ちゃいますよぉー!」ガシッ
キョン「あ、あぁ! 救急車はいらん! 簡単に呼ぶな馬鹿野郎! えっと、ほら! 俺は元気だぞー!」アハハ
ハルヒ「そ、ならよかった。なんかいつも以上に挙動がおかしいわよ? フフッ」
キョン(このSOS団は一体なにがどうなってると言うんだ!?)
キョン(そう言えば、このSOS団に長門はいないのか?)キョロキョロ
長門「……」トテトテ
キョン「おぉ長門! 居てくれたか!」
長門「……?」
キョン(やっぱり世界改変は検知できないのか……)
古泉「長門さんがエンドロールをすべて見終えたようですね」
キョン「あぁ、なるほどな。それで」
古泉「なるほどな、とおっしゃいますと?」
キョン「言葉の綾だ。気にすんな」
ハルヒ「有希も揃ったわね! それじゃ、次はどの映画を見ようかしら!」
キョン「……古泉、俺たちって映画館のはしごでもやってんのか?」
古泉「もしや自覚がなかったのですか?」
キョン「はぁ、さすがに2年目ともなると飽きるものかと思っていたが」
古泉「おや、去年も涼宮さんと映画館のはしごをされたのですか? うらやましい限りです」
キョン「…………」
キョン(おかしい。明らかにおかしい。これはそろそろトボけて付き合うのは厳しいか)
キョン「なぁハルヒ、みんな。悪い、俺、ちょっと本当に体調が悪くなっちまったみたいだ。今日は帰るよ」
キョン(一旦家に戻ってハルヒ以外に再集合をかけよう)
ハルヒ「えーっ。ねぇみくるちゃん、ジョンが体調を悪くするのは規定事項だったの?」
みくる「えっと、そのような報告は未来から連絡されてません」
キョン(なッ!? なんだその会話!? さっきから冷静を装い続けている俺だが、そろそろビックリ水位の上昇が堰を切って溢れ出さんとしている……!)
ハルヒ「てことは仮病ね? ジョンのくせに生意気だ―! こうしてやるー! うりうりー!」
キョン「だはぁっ! や、やめんかハルヒ! 抱きつくな! 暴れるな! 顔をこすりつけるな!」
古泉「ほほえましい限りです」ンフ
みくる「ですねぇ」ポッ
長門「…………」
ハルヒ「で、なんで仮病なんか使おうとしたのよ」
キョン(どうする、なんて言い訳をする……。シャミセンが円形脱毛症になった、いやこれは一度使ったな……)
キョン「い、いや、それがだな、その……。家で待つ妹が心配になってだな」
キョン(きっとこの世界のジョン君は妹思いのシスコン野郎だったに違いない!)
ハルヒ「アンタの家族、お母様のご実家に行ってるんでしょ? ほら、初恋の相手だった従姉妹が近くに住んでるとかいう地方に」
キョン(手詰まりだ!)
ハルヒ「ふーん、このあたしに隠し事。別にいいわよ? 不思議の一つや二つ、男なら隠しておくものよね」
キョン「勘弁してくれ……」
ハルヒ「でもね、浮気だけは絶対に許さないから」ニコッ
キョン(笑顔だが顔が笑ってねぇなぁ……。あたかも誘拐犯を恫喝する際の森園生さんを彷彿とさせる表情に背筋が凍った)
キョン(ん? “浮気”、だと?)
キョン「まさか、俺とハルヒは付き合っているのか?」
D 0.409419 4920656e767920796f75%
2010.08.10 (Tue) 10:05
????
キョン「―――――――――ッ!!!!! いってぇ!!!!! 頭が、割れるッ!!!!!」
古泉「だ、大丈夫ですか!? 落ち着いて、深呼吸してください」
キョン「はぁ……はぁ……。な、なぁ古泉、さっきは何を言いかけたんだっけか……」
古泉「ええとですね、『なぜ漫画原作の実写映画化が最近増えているのか』という話について、一般的には既存の固定ファン数から動員数を予見できる作品のほうが収益見込みが安定するからとされますが……」
キョン(こいつ、一体、なんの、話を……くそっ、またアレかよ……過去改変による世界改変か……。しかも俺が体感した中で一番どでかいやつだ……)ズキズキ
古泉「……SFX、特殊メイクやアクションなどの技術的な質に対する実験の俎上となっている、ということを言おうとしていたのですが、そんなことよりお体大丈夫ですか?」
キョン「長話をしやがってホントに心配してるのかお前……? まぁ、身体のほうは大丈夫だ、心配するな」
古泉「それならよかったです」
キョン(どうも調子が狂うな……)
キョン(しかし参った。心の準備ができてないのはいつものことだが、こうも間断なく世界が改変させられると自分の記憶力が不安になるぜ)
キョン「えっと、ハルヒのやつはどこだっけか」
キョン(とにもかくにもまずはハルヒだ。さりげなく聞き出してやろう)
古泉「先ほど朝比奈さんとお手洗いに行かれたところですよ」
キョン(よかった、ハルヒは居る)
みくる「お待たせしましたぁ」トテトテ
キョン(だがここは一体どこなんだ? 大きな映画館のロビーのようだが……もしかして、秋葉原から俺たちの街に帰ってきたのか?)
ハルヒ「ジョン~! 待たせてゴメンネ~? さみしかったぁ?」ムニュ
キョン(その胸はやわらかかった……い、いやいや! 現実逃避しとる場合ではないッ! 今こいつなんて言った!? そしてなんだこの、俺の腕に絡みついてきたハルヒと、おっぱいは!)ドキッ
みくる「涼宮さぁん、ジョンくんが照れてますよ」ウフ
キョン「な……な……」
キョン(数秒でいい、俺に考える時間をくれ……。どうしてハルヒは上目遣いで執拗に俺との距離を詰めてくるんだ? い、いやそこじゃなくて、どうしてこの二人は俺の事をジョンと)
ハルヒ「えっと、あなたがその、みくるちゃんでいいのね? トイレのみくるちゃんじゃなくて」
みくる「はい、そうですぅ」
キョン(ヤバい、ついに俺は混乱し過ぎて日本語のリスニング能力に異常をきたし始めたらしい……)
ハルヒ「ジョンどうしたの? そんな変な顔しちゃって。まぁアンタはいつも変な顔だけど」ププッ
古泉「先ほど少し体調に異変があったみたいでして、混乱されているのでは」
ハルヒ「えぇぇーーッ!! ジョン、だいじょうぶ!?」
みくる「だいじょうぶですよ、涼宮さん! 未来からジョンくんの身体には問題ないと連絡が来てますっ!」
キョン(なッ!? なんだその会話!? さっきから冷静を装い続けている俺だが、そろそろビックリ水位の上昇が堰を切って溢れ出さんとしている……)
キョン「……あぁ、大丈夫だ。俺は元気だぞ」
ハルヒ「そ、ならよかった」
キョン(このSOS団はなにがどうなってるっていうんだ!?)
キョン(そう言えば、このSOS団に長門はいないのか……?)キョロキョロ
長門「……」トテトテ
キョン「おぉ長門! 居てくれたか!」
長門「……?」
キョン(やっぱり世界改変は検知できないのか……)
古泉「長門さんがエンドロールをすべて見終えたようですね」
キョン「あぁ、なるほどな。それで」
古泉「なるほどな、とおっしゃいますと?」
キョン「言葉の綾だ。気にすんな」
ハルヒ「有希も揃ったわね! みくるちゃんは……」
みくる「あっ、あの、あっちのあたしのことは気にしないでくださいぃ」
ハルヒ「そう? それじゃ、次はどの映画を見ようかしら!」
キョン「…………」
キョン(おかしい。明らかにおかしい。これはそろそろトボけて付き合うのは厳しいか。一旦家に戻ってハルヒ以外に再集合をかけよう)
キョン(とは言ってもさっき『体調が悪い』という言い訳が朝比奈さんのせいで使えなくなっちまったからな……)
キョン(どうする、なんて言い訳をする……。シャミセンが円形脱毛症になった、いやこれは一度使ったな……)
キョン「あー、すまんが、俺は一旦家に帰らせていただきたい。家で待つ妹が心配になってだな」
キョン(きっとこの世界のジョン君は妹思いのシスコン野郎だったに違いない!)
ハルヒ「アンタの家族、お母様のご実家に行ってるんでしょ? ほら、初恋の相手だった従姉妹が近くに住んでるとかいう地方に」
キョン(……やっちまった!)
ハルヒ「ふふん、このあたしに嘘を吐くなんて、ジョンのくせに生意気だ―! こうしてやるー! うりうりー!」
キョン「だはぁっ! や、やめんかハルヒ! 抱きつくな! 暴れるな! 顔をこすりつけるな!」
古泉「ほほえましい限りです」ンフ
みくる「ですねぇ」ポッ
長門「…………」
ハルヒ「ふーん、このあたしに隠し事。別にいいわよ? 不思議の一つや二つ、男なら隠しておくものよね」
キョン「勘弁してくれ……」
ハルヒ「でもね、浮気だけは絶対に許さないから」ニコッ
キョン(笑顔だが顔が笑ってねぇぜ、おい……)
キョン(ん? “浮気”、だと?)
キョン「まさか、俺とハルヒは付き合っているのか?」
D 0.409418 4920656e767920796f75%
2010.08.10 (Tue) 10:05
????
キョン「―――――――――ッ!!!!! いってぇ!!!!! 頭が、割れるッ!!!!!」
古泉「おや、突然どうし……だ、大丈夫ですか!? 落ち着いて、深呼吸してください」
キョン「はぁ……はぁ……。な、なぁ古泉、さっきは何を言いかけたんだっけか……」
古泉「さっきですか? ええとですね、『どうして映画版ジャイアンは良いやつなのか』という話について、それはそもそもコミック版やアニメ版などの日常編における敵役だとしても映画版となれば日常組vs非日常組という構図になるのはストーリーメイキング上仕方なく……」
キョン(こいつ、一体、なんの、話を……くそっ、またアレかよ……過去改変による世界改変か……しかも俺が体感した中で一番どでかいやつだ……)ズキズキ
古泉「……決してジャイアンだけが特筆すべき存在ではない、ということを言おうとしていたのですが、そんなことよりお体大丈夫ですか?」
キョン「長話をしやがってホントに心配してるのかお前……? まぁ、身体のほうは大丈夫だ、心配するな」
古泉「本当ですか? 無理しないでくださいね」
キョン(どうも調子が狂うな……)
キョン(しかし参った。心の準備ができてないのはいつものことだが、こうも間断なく世界が改変させられると自分の記憶力が不安になるぜ)
キョン「えっと、ハルヒのやつはどこだっけか」
キョン(とにもかくにもまずはハルヒだ。さりげなく情報を吸い上げてやろう)
古泉「先ほど朝比奈さんとお手洗いに行かれたところですよ」
キョン(よかった、ハルヒは居る)
キョン(だがここは一体どこなんだ?……観察するに映画館の通路か?……もしかして、秋葉原から俺たちの街に帰ってきたのか?)
ガサゴソ
キョン(ん? 自販機の後ろに、誰か居る?……朝比奈さんか? でもどうして隠れてるんだ?)
ハルヒ「ジョン~! 待たせてゴメンネ~? さみしかったぁ?」ムニュ
キョン(その胸はやわらかかった……い、いやいや! 現実逃避しとる場合ではないッ! 今こいつなんて言った!? そしてなんだこの、俺の腕に絡みついてきたハルヒと、おっぱいは!)ドキッ
みくる「涼宮さぁん、待ってくださいぃ。ジョンくんは逃げませんよぅ」
ハルヒ「ジョンどうしたの? そんな変な顔しちゃって。まぁアンタはいつも変な顔だけど」ププッ
キョン「な……な……」
キョン(数秒でいい、俺に考える時間をくれ……。どうしてハルヒは上目遣いで執拗に俺との距離を詰めてくるんだ? かわいいじゃねーか! い、いやそこじゃなくて、どうしてこの二人は俺の事をジョンと)
古泉「先ほど少し体調に異変があったみたいでして、混乱されているのでは」
ハルヒ「えぇぇーーッ!! 大丈夫ジョン!? どこか痛いところはなぁい!? 救急車呼ぶ!?」ピ、ポ、パ
みくる「わわぁー、呼んだら来ちゃいますよぉー!」ガシッ
キョン「あ、あぁ! 救急車はいらん! 簡単に呼ぶな馬鹿野郎! えっと、ほら! 俺は元気だぞー!」アハハ
ハルヒ「そ、ならよかった。なんかいつも以上に挙動がおかしいわよ? フフッ」
キョン(このSOS団はなにがどうなってるっていうんだ!?)
キョン(そう言えば、このSOS団に長門はいないのか……?)キョロキョロ
長門「……」トテトテ
キョン「おぉ長門先生! 居てくれたか!」
長門「……?」
キョン(やっぱり世界改変は検知できないのか……)
古泉「長門さんがエンドロールをすべて見終えたようですね」
キョン「あぁ、なるほどな。それで」
古泉「なるほどな、とおっしゃいますと?」
キョン「言葉の綾だ。気にすんなこの野郎」
ハルヒ「有希も揃ったわね! それじゃ、次はどの映画を見ようかしら!」
キョン「……古泉、俺たちって映画館のはしごでもやってんのか?」
古泉「もしや自覚がなかったのですか?」
キョン「はぁ、さすがに2年目ともなると飽きるものかと思っていたが。そんなに映画好きだったとはな。そりゃ超監督をやるくらいだから、映画好きなのかアイツ」
古泉「おや、去年も涼宮さんと映画館のはしごをされたのですか? んっふ、うらやましい限りです」
キョン「…………」
キョン(おかしい。明らかにおかしい。これはそろそろトボけて付き合うのは厳しいか)
キョン「なぁハルヒ、みんな。悪い、俺、ちょっと本当に体調が悪くなっちまったみたいだ。今日は帰るよ。埋め合わせはまた今度するから」
キョン(一旦家に戻ってハルヒ以外に再集合をかけよう)
ハルヒ「えーっ!? ねぇみくるちゃん、ジョンが体調を悪くするのは規定事項だったの?」
みくる「えっと、そのような報告は未来から連絡されてませぇん」
キョン(なッ!? なんだその会話!? さっきから冷静を装い続けている俺だが、そろそろビックリ水位の上昇が堰を切って溢れ出さんとしている……)
ハルヒ「てことは仮病ね? ジョンのくせに生意気だ―! こうしてやるー! うりうりー!」
キョン「だはぁっ! や、やめんかハルヒ! 抱きつくな! 暴れるな! あぁいい匂い! 顔をこすりつけるな!」
古泉「ほほえましい限りです」フッ
みくる「ですねぇ」ポッ
長門「…………」
ハルヒ「で、なんで仮病なんか使おうとしたのよ。バカジョン」
キョン(どうする、なんて言い訳をする……。シャミセンが円形脱毛症になった、いやこれは一度使ったな……)
キョン「い、いや、それがだな、その……。家で待つ妹が心配になってだな」
キョン(きっとこの世界のジョン君は妹思いのシスコン野郎だったに違いない!)
ハルヒ「アンタの家族、お母様のご実家に行ってるんでしょ? ほら、アンタの“ハツコイ”の相手だった従姉妹が近くに住んでるとかいう田舎に」
キョン(手詰まりだ!)
ハルヒ「ふーん、このあたしに隠し事。別にいいわよ? 不思議の一つや二つ、男なら隠しておくものよね。それでこそ日本男児ってやつだわ」
キョン「勘弁してくれ……」
ガサゴソ
キョン(ん、なんだ? また自販機の裏に……)
ハルヒ「よそ見すんなッ!」グイッ
キョン「グエッ」
ハルヒ「その耳かっぽじってよく聞きなさい。浮気だけは“ゼッタイに”許さないから♪」ニコッ
キョン(だから顔が笑ってねぇってばよ!)
キョン(ん? “浮気”、だと?)
キョン「まさか、俺とハルヒは付き合っているのか?」
D 0.409417 4920656e767920796f75%
2010.08.10 (Tue) 10:07
????
キョン「えっと、ハルヒのやつはどこだっけか」
キョン(とにもかくにもまずはハルヒだ。さりげなく聞き出してやろう)
古泉「先ほど朝比奈さんとお手洗いに行かれたところですよ」
キョン(よかった、ハルヒは居る)
みくる「お待たせしましたぁ」トテトテ
キョン(だがここは一体どこなんだ? 大きな映画館のロビーのようだが……もしかして、秋葉原から俺たちの街に帰ってきたのか?)
ハルヒ「ジョン~! 待たせてゴメンネ~? さみしかったぁ?」ムニュ
キョン(その胸はやわらかかった……い、いやいや! 現実逃避しとる場合ではないッ! 今こいつなんて言った!? そしてなんだこの、俺の腕に絡みついてきたハルヒと、おっぱいは!)ドキッ
キョン「な……な……」
キョン(数秒でいい、俺に考える時間をくれ……。どうしてハルヒは上目遣いで執拗に俺との距離を詰めてくるんだ? い、いやそこじゃなくて、どうしてコイツは俺の事をジョンと)
ハルヒ「えっと、あなたがその、みくるちゃんでいいのね? トイレのみくるちゃんじゃなくて」
みくる「はい、そうですぅ……」
キョン(ヤバい、ついに俺は混乱し過ぎて日本語のリスニング能力に異常をきたし始めたらしい……)
ハルヒ「ジョンどうしたの? そんな変な顔しちゃって。まぁアンタはいつも変な顔だけど」ププッ
古泉「先ほど少し体調に異変があったみたいでして、混乱されているのでは」
ハルヒ「えぇぇーーッ!! ジョン、だいじょうぶ!?」
みくる「だいじょうぶですよ、涼宮さん。 未来からジョンくんの身体には問題ないと連絡が来てます」
キョン(なッ!? なんだその会話!? さっきから冷静を装い続けている俺だが、そろそろビックリ水位の上昇が堰を切って溢れ出さんとしている……)
キョン「……あぁ、大丈夫だ。俺は元気だぞ」
ハルヒ「そ、ならよかった」
みくる「…………」
キョン(このSOS団はなにがどうなってるっていうんだ!?)
キョン(そう言えば、このSOS団に長門はいないのか……?)キョロキョロ
長門「……」トテトテ
キョン「おぉ長門! 居てくれたか!」
長門「……?」
キョン(やっぱり世界改変は検知できないのか……)
古泉「長門さんがエンドロールをすべて見終えたようですね」
キョン「あぁ、なるほどな。それで」
古泉「なるほどな、とおっしゃいますと?」
キョン「言葉の綾だ。いちいち気にすんじゃねぇ」
ハルヒ「有希も揃ったわね! えっと……」
みくる「あっ、あの、あっちのあたしのことは気にしないでくださいぃ」
ハルヒ「そう? それじゃ、次はどの映画を見ようかしら!」
キョン「…………」
キョン(おかしい。明らかにおかしい。これはそろそろトボけて付き合うのは厳しいか)
キョン(一旦家に戻ってハルヒ以外に再集合をかけよう)
キョン(とは言ってもさっき『体調が悪い』という言い訳が朝比奈さんのせいで使えなくなっちまったからな……)
キョン(どうする、なんて言い訳をする……。シャミセンが円形脱毛症になった、いやこれは一度使ったな……)
みくる「えっと、ジョンくん!」クイッ
キョン「あ、はい? なんでしょう朝比奈さん」
キョン(そのちっこい先輩は俺の半そでシャツの腹部をついと摘まんで来た。なんと言うことだ、俺は“キョン”という呼称が恋しくなっていた)
みくる「えっと……とりあえず今は涼宮さんと一緒にいることを考えてくださいぃ」
キョン(……まさか、朝比奈さんはついに未来人属性からサイコメトラー属性へとジョブチェンジしてしまったというのか!?)
キョン「朝比奈さんがそう言うなら、わかりました。理由はもし教えてもらえるならいずれ」
みくる「はい! ありがとう、ジョンくん!」
ハルヒ「そこぉ。何をひそひそ話してるのかしら?」
みくる「ひぇっ」
キョン「あ、いや、なんでもないんだ。気にするな」アハハ
ハルヒ「ふーん、このあたしに隠し事。別にいいわよ? 不思議の一つや二つ、男なら隠しておくものよね」
みくる「あっ……」
キョン「勘弁してくれ……」
ハルヒ「でもね、浮気だけは絶対に許さないから」ニコッ
キョン(朝比奈先輩とそういう仲になれるのならばあれかしと祈るばかりだが……)
キョン(ん? “浮気”、だと?)
キョン「まさか、俺とハルヒは付き合っているのか?」
更新遅くてホントごめん 今日8月6日の夜に続きを投稿したい(希望)
しばらくハルヒサイドの話が続きます。ゴメンネ!
(ループ演出は燻製ニシンの虚偽だったなんて言えない……)
<ヒント>
・時をかける少女(モロバレ)
・16進数%は、ハルヒ的変態パワーで作り出されたなんか変な世界線、程度の意味合い。 文字コード変換用
・下二桁、20→19→18→17→16への段階的な変化はなんかこう未来的な技術(すごい)
――――――――――――――――――――――――――
D 0.409420%
2010.08.10 (Tue) 10:03
未来ガジェット研究所
ハルヒ「……メール、準備できたわ」
岡部「こっちも準備万端だ。して、メールの内容は?」ヌッ
ハルヒ「お、乙女の秘密よ! 見るなバカ!」
岡部「……貴様もか。まぁ、別に構わんが」
岡部「さぁ、放電現象が始まったら送信しろ」
バチバチバチッ
ハルヒ「…………」
ハルヒ「……ジョン」ピッ
――――――――――――――――――――――――――
D 0.409416 4920656e767920796f75%
2010.08.10 (Tue) 10:05
????
キョン「―――――――――ッ!!!!! いってぇ!!!!! なんだこれ、いってぇぇぇぇ!!!! 頭が、頭が割れるッ!!!!!」
キョン(脳がかゆいッ!! 死ぬほど痒いッ!! 目と耳から指を突っ込んで掻き毟りたいくらいだッ!!)
古泉「おや、突然どうし……だ、大丈夫ですか!? 落ち着いて、深呼吸してください。はい、ひっひっふー」
キョン「はぁ……はぁ……。な、なぁ古泉、さっきは何を言いかけたんだっけか……」
古泉「ええとですね、『なぜ日本映画は比較的海外進出しにくいのか』という話について、そもそも映画業界が斜陽産業と呼ばれていた時代から脱するためにテレビ局や広告代理店が映画を企画し始めたため……」
キョン(こいつ、一体、なんの、話を……くそっ、またアレかよ……過去改変による世界改変か……。しかも俺が体感した中で一番どでかいやつだ……)ズキズキ
古泉「……国内向けビジネスとして特化してしまった、ということを言おうとしていたのですが、そんなことよりお体大丈夫ですか?」
キョン「長話をしやがってホントに心配してるのかお前……? まぁ、身体のほうは大丈夫だ、心配するな」
古泉「本当ですか? 何かあったらすぐ言ってくださいね」
キョン(どうも調子が狂うな……)
キョン(しかし参った。心の準備ができてないのはいつものことだが、こうも間断なく世界が改変させられると自分の記憶力が不安になるぜ)
キョン「えっと、ハルヒのやつはどこだっけか」
キョン(兎にも角にもまずはハルヒだ。さりげなく情報を吸い上げてやろう)
古泉「先ほど朝比奈さんとお手洗いに行かれたところですよ。連れション、というやつでしょうか」ンフ
キョン(よかった、ハルヒは居る。あと古泉は一回殴る)
キョン(だがここは一体どこなんだ?……観察するに映画館の通路か?……もしかして、秋葉原から俺たちの街に帰ってきたのか?)
みくる「はぁ……はぁ……、あ、古泉くん! と、……」トテトテ
キョン「あぁ、朝比奈さん。って、どちらへ行かれるんですか?」
みくる「ちょっと買い物に行ってきまぁす!」トテトテ
キョン(?)
ハルヒ「ジョン~! 待たせてゴメンネ~? さみしかったぁ?」ムニュ
キョン(その胸はやわらかかった……い、いやいや! 現実逃避しとる場合ではないッ! 今こいつなんて言った!? そしてなんだこの、俺の腕に絡みついてきたハルヒと、おっぱいは!)ドキッ
みくる「涼宮さぁん、待ってくださいぃ。ジョンくんは逃げませんよぅ」
ハルヒ「ジョンどうしたの? そんな変な顔しちゃって。まぁアンタはいつも変な顔だけど」ププッ
キョン「な……な……」
キョン(数秒でいい、俺に考える時間をくれ……。どうしてハルヒは上目遣いで執拗に俺との距離を詰めてくるんだ? い、いやそこじゃなくて、どうしてこの二人は俺の事をジョンと呼んでいるんだ!?)
キョン(それだけじゃない。俺はたしかに映画館を出る方向に走っていった朝比奈さんを確認している。それじゃこのトイレから出てきた朝比奈さんは誰なんだ!?)
古泉「先ほど少し体調に異変があったみたいでして、混乱されているのでは」
ハルヒ「えぇぇーーッ!! 大丈夫ジョン!? どこか痛いところはなぁい!? 救急車呼ぶ!?」ピ、ポ、パ
みくる「わわぁー、呼んだら来ちゃいますよぉー!」ガシッ
キョン「あ、あぁ! 救急車はいらん! 簡単に呼ぶな馬鹿野郎! えっと、ほら! 俺は元気だぞー!」アハハ
ハルヒ「そ、ならよかった。なんかいつも以上に挙動がおかしいわよ? フフッ」
キョン(このSOS団はなにがどうなってるっていうんだ!? あ、朝比奈さんが二人!?)
キョン(そう言えば、このSOS団に長門はいないのか……?)キョロキョロ
長門「……」トテトテ
キョン「おぉ長門! 居てくれたか!」
長門「……?」
キョン(やっぱり世界改変は検知できないのか……)
古泉「長門さんがエンドロールをすべて見終えたようですね」
キョン「あぁ、なるほどな。それで」
古泉「なるほどな、とおっしゃいますと?」
キョン「言葉の綾だって何回言ったらわかるんだ」
キョン(ん? なんで“何回言ったら”なんて言ったんだ、俺……)
ハルヒ「有希も揃ったわね! それじゃ、次はどの映画を見ようかしら!」
キョン「……古泉、俺たちって映画館のはしごでもやってんのか?」
古泉「もしや自覚がなかったのですか?」
キョン「はぁ、さすがに2年目ともなると飽きるものかと思っていたが」
古泉「おや、去年も涼宮さんと映画館のはしごをされたのですか? んっふ、うらやましい限りです」
キョン「…………」
キョン(おかしい。明らかにおかしい。これはそろそろトボけて付き合うのは厳しいか)
キョン「なぁハルヒ、みんな。悪い、俺、ちょっと本当に体調が悪くなっちまったみたいだ。今日は帰るよ」
キョン(一旦家に戻ってハルヒ以外に再集合をかけよう、と思ったが、これは失敗する気がするな……)
ハルヒ「えーっ。ねぇみくるちゃん、ジョンが体調を悪くするのは規定事項だったの?」
みくる「えっと、そのような報告は未来から連絡されてませぇん」
キョン(なッ!? なんだその会話!? さっきから冷静を装い続けている俺だが、そろそろビックリ水位の上昇が堰を切って溢れ出さんとしている……)
ハルヒ「てことは仮病ね? ジョンのくせに生意気だ―! こうしてやるー! うりうりー!」
キョン「だはぁっ! や、やめんかバカハルヒ! 抱きつくな! 暴れるな! 顔をこすりつけるな!」
古泉「ほほえましい限りです」ンフ
みくる「ですねぇ」ポッ
長門「…………」
ハルヒ「で、なんで仮病なんか使おうとしたのよ」
キョン(どうする、なんて言い訳をする……。シャミセンが円形脱毛症になった、いやこれは一度使ったな……)
キョン「い、いや、それがだな、その……。家で待つ妹が心配になってだな」
キョン(きっとこの世界のジョン君は妹思いのシスコン野郎だったに違いない!)
ハルヒ「アンタの家族、お母様のご実家に行ってるんでしょ? ほら、アンタの“ハツコイ”の相手だった従姉妹が近くに住んでるとかいう地方に」
キョン(なんとなくそんな気がしていた!)
ハルヒ「ふーん、このあたしに隠し事。別にいいわよ? 不思議の一つや二つ、男なら隠しておくものよね」
キョン「勘弁してくれ……」
ガサゴソ
キョン(ん、なんだ? 自販機の裏に……二人目の朝比奈さんか?)
ハルヒ「よそ見すんなッ!」グイッ
キョン「グエッ」
ハルヒ「その耳かっぽじってよく聞きなさい。浮気だけは“ゼッタイに”許さないから♪」ニコッ
キョン(何度見てもおっかねぇ顔だぜ……)
キョン(ん? “浮気”、だと?)
キョン「まさか、俺とハルヒは付きモガフッ!!!グフッ!!フゴッ!!」
みくる(?)「は、はぁ……はぁ……。しゃ、しゃべらないでくださいぃ!」
キョン「バザビナザン!!ビギガ!!ビギガドバドゥ!!ジヌ!!」ジタバタ
ハルヒ「ちょ、ちょっとみくるちゃん!? さっきまでこっちに居たような、って居る?」
みくる「あ、あれぇー、あたしがもう一人いますぅ」
みくる(未)「えっと、あたしはちょっとだけ未来から来たみくるですぅ」
みくる「あ、どうもー」
みくる(未)「どうもー」
古泉「大変です涼宮さん! 彼が息をしていません!」
キョン「」
みくる(未)「4回目にしてやっと成功しましたぁ」
キョン「頑丈そうな布地の両端を両手で持って背後から頭部をひっかける形で鼻と口を塞ぐとか……。もうちょっとお手柔らかにできなかったんですか……」ゴホッ
ハルヒ「みくるちゃん、よくわからないけどGJよ!」
みくる(未)「わぁい」
古泉「おや、4回も挑戦したということは、4人の朝比奈さんがいないとおかしいのでは?」
みくる(未)「えっと、ちょっとした小技を使ったんです。ほんのちょっとずつ時間平面に開ける穴をずらすように分岐点を探し出してあげれば、【禁則事項】と組み合わせて【禁則事項】になるんです。あっ、これは禁則事項でした……ごめんなさい」
キョン「なんなんだこの世界は……」
みくる(未)「涼宮さん、ちょっとこっちで、こっちのあたしさんと二人きりでお話がしたいんですけど、いいですか?」
ハルヒ「許可する!!」ドヤァ
みくる「ありがとうございますぅ」
みくる(未)「失礼しまぁす」
キョン(このハルヒの満足そうな笑顔よ)
キョン(というか、タイムトラベルまでして俺の口をふさいだってことは、相当にあの発言は禁句だったということか……。仕方ない、ハルヒの彼氏ジョン君を演じよう。これは不可抗力である)
みくる「それで、何が起こったの? あの時のジョンくんの言葉?」
みくる(未)「そう。ジョンくんは、自分と涼宮さんが付き合ってることを疑問に思って、それがきっかけで別れ話に発展します」
みくる「えっ……」
みくる(未)「原因は世界外部からの干渉によってジョンくんの記憶が書き換えられたこと。これは本来あたしたちの時間線のSTCデータには無い事項、特大のイレギュラーでした」
みくる「ひぇぇ……」
みくる(未)「規定事項が次々に破綻し、大量の時空震動が観測されたから未来は大混乱。分岐と収斂を繰り返してあたしという存在自体が消えかかったりしました。時空断層を構築されなかったのが不幸中の幸い」
みくる「はゎゎ……」
みくる(未)「最初の世界線では、別れ話の後いろいろあって、涼宮さんが絶望を感じてしまって、久しぶりに閉鎖空間を展開します。それも地球規模で」
みくる「うん……」
みくる(未)「古泉くんたちの機関は壊滅状態、長門さんたちの攻勢も長くは持たなかった。時間線も存在が曖昧なものになってしまって、そんな中にあってなんとか世界線理論的過去改変の実行許可を取り付けたあたしは近接世界の過去に飛んだの」
みくる「そっかぁ……」
みくる(未)「それで世界を4回やり直して、なんとかこの世界線に来れたの……」グスッ
みくる「……つらかったね」グスッ
みくる(未)「うん……つらかったよぉ、ふぇぇ」ダキッ
みくる(未)「まもなくSTCデータの上書きが完了すると思います」
みくる「うん……」
みくる(未)「次の世界線の変更と同時に、あたしという存在はその世界線に再構成される」
みくる「…………」
みくる(未)「たぶん、その世界線のあなたと合体するようなことになると思うんだけど、あたしの記憶は全部なかったことになる」
みくる「うん……」
みくる(未)「実質、あたしが消えちゃうんだよね……えへへ……」グスッ
みくる「……こうして抱きしめていれば、怖くないです」ダキッ
みくる(未)「……うん、ありがとう、あたし」ギュッ
D 0.337187 4920656e767920796f75%
2010.08.10 (Tue) 19:07 北口駅前
キョン(結局映画館のはしごに遅くまで付き合わされてしまった。中は冷房施設ではあるが、外気温との寒暖の差のせいか、ちょっとめまいがした)
キョン(ハルヒのやつ、執拗なまでに俺のことを束縛しやがって……まぁ、色々柔らかかったことは脳裏に焼き付けておこう)
ハルヒ「みんなまた明日ねー! 明日は昆虫採集、セミ取り合戦よ!」
キョン(どうも去年のエンドレス夏休みの無制限イニング延長戦に突入しているような気分だ)
みくる「あ、あの、ジョンくん……」
みくる(ジョンくんはどうして記憶が書き換わっちゃったんだろう……)
キョン(この朝比奈さんは未来から来たほうなのか、元々居たほうなのか、どっちなんだろうな。みちるさんの時を考えると未来から来たほうなのかもしれない)
ハルヒ「さ、ジョン。帰るわよ」グイッ
みくる「あっ……」
キョン「おい、引っ張るなハルヒ。朝比奈さん、また明日」
みくる「は、はい……」
キョン「それじゃ、踏切まで一緒に行くか」
ハルヒ「は? 何か用事でもあんの?」
キョン「え?」
ハルヒ「ん?」
キョン「……あ、あぁ。そうだったな。お前の家まで見送ってやろう」
ハルヒ「アンタさっきからなに頓珍漢なこと言ってるの?」
キョン「……これもハズれたか」
ハルヒ「もしかして、あたしの家に居づらくなった……?」ウルッ
キョン(上目遣いはやめろ! くそ、ハルヒが女の武器を意識的に使うようになるとこんなにも攻撃力がアップするとは!! というか、なにか? この世界の俺はこのハルヒと一つ屋根の下で暮らしているとでも言うのか! うらやま、じゃなかった、けしからん!! けしからんぞ!! お父さん許しませんからね!!)
ハルヒ「……?」
キョン「そそそ、そんなことは断じてないぞ! お前の手作り飯が美味いことは俺の胃袋が重々承知しているんだ! あぁ今日はお前のお母様が飯当番なのか!? たとえ味音痴な飯マズ嫁だったとしても一向に構わん! ちょっと今日は、ホントに、家に帰んないとヤバいんだって! 頼む! この通りだ!」
ハルヒ「うぇーんジョンが浮気してるー!! あたしとは遊びだったのねー!!」ビェェ
キョン「往来で変なことを言うな!! なぁ、どうしたら俺を家に帰してくれるんだよ!!」
キョン(ハルヒの家に行ってみろ、絶対に古泉や長門、朝比奈さんたちと相談する隙を得ることはできない!)
ハルヒ「じゃーあたしもジョンの家行くー♪」ダキッ
キョン(本末転倒だーッ!?)
2010.08.10 (Tue) 19:30
喫茶店 珈琲屋夢<ドリーム>
キョン(とりあえず晩飯をおごるという条件で喫茶店に逗留することに成功した。が、その場しのぎにしかならないことは百も承知だ)
ハルヒ「♪」モグモグ
キョン(どういうわけかわからんがこのハルヒは蜂蜜ヌガーのように俺にべったりとくっついて離れない……)
キョン(それからどうでもいいことだが、『ジョン』と呼ばれ続けた俺の瞼の裏には、光陽園学園の制服を着たハルヒの不遜な顔がちらついていた。あぁ、懐かしいじゃねぇか)
喜緑「ご注文の品はすべてお揃いでしょうか。伝票こちらに置いておきますね」ニコッ
キョン「あ、どうも」
キョン(この人まだここで働いてたのか。こっちの喜緑さんも情報統合思念体の総意の代表なんだろうか)
キョン「……なぁハルヒ。昔話をしないか?」
ハルヒ「んー?」モグモグ
キョン「お前が俺の正体を『ジョン・スミス』だと知ったのは、どういう経緯だったんだっけか」
ハルヒ「タイムトラベルの後遺症かしら、ジョンって時々記憶力に問題があるわよね。でも心配しないで! 今年もしっかりテスト勉強の面倒はあたしが見てあげるから!」ゴックン!プハーッ!
キョン(ム、ムカつくが、耐えろ、耐えろ俺……)
ハルヒ「ハッキリバッチリ確定したのは去年の七夕でしょー、アンタの自己申告で」
ハルヒ「でも4年前の夏ごろには特定してたわけ。それはジョンがよく覚えてるでしょ?」
ハルヒ「中学生のほうのアンタには結局声かけられなかったけど……。未来が変わっちゃうんじゃないかと思ったら不安だったのよ」
ハルヒ「同い年ってのはわかってたし、あたしが北高に入学すれば良いだけだしね。3年間退屈だったけど、ジョンのおかげでそれなりにやってけたわ」
ハルヒ「入学式の日、偶然にもアンタの真後ろになって、ニヤニヤを隠すのが大変だったわねぇ」ニヤニヤ
キョン(コイツ、思い出し笑いしてやがる……)
ハルヒ「まぁ、それからのアンタは『俺はジョンじゃない! 変なあだ名を増やすな!』の一点張りでめんどくさかったけど」
キョン(ということは、4年前の七夕の日に中学生ハルヒがジョンの正体、おそらく俺の生年月日と本名あたりを特定できた、という点が過去改変されてるわけか……)
キョン「なぁハルヒ。4年前の七夕の日、変なメールを受け取ってなかったか? 例えば、未来から来たメールとか」
ハルヒ「んー?…………!!!???」ガタッ
ハルヒ「……」ギロッ
キョン(ん? 突然表情が変わった。これは核心か……?)
ハルヒ「ねぇ、ジョン」
キョン「なんだ」
ハルヒ「アンタ、誰」
キョン「……!? な、なにを突然ななな何を言ってるんだハルヒさん!! 俺は至って普通のどこにでもいるジョン・スミスじゃないか!」アハハ
ハルヒ「あたしはあの宇宙からのメッセージのことは誰にも話したことがない。たとえタイムトラベラーのジョンやみくるちゃんでもね」
キョン(う、宇宙からのメッセージ?)
ハルヒ「あたしのジョンはどこにいったの!? アンタは誰なの!? 答えなさいッ!!」バンッ!
キョン「そんな不審者を見るような目つきはやめてくれ……胃が痛む……」
ハルヒ「……うーん、でもアンタも確かに人畜無害そうなジョンではあるのよね」ジロジロ
ハルヒ「ねぇ、一体なにが起こってるの? 怒らないから話して御覧なさいよ」
キョン「それは絶対怒るための前口上だろうが。これはもう、正直にゲロっちまった方がいいのか……」
ハルヒ「……ねぇ」
ハルヒ「…………」
ハルヒ「……あたしのジョンは、生きてるの?」ウルッ
キョン(……愛されてんなぁ、どこぞのジョン・スミスさんよぉ)
キョン「大丈夫だ、ジョンは生きてる。俺の中でな」
ハルヒ「……そ。ならいいわ」
キョン(わからんが、そういうことにしておこう)
ハルヒ「いえ、良くないわ! ってことは、突然あたしの彼氏になりかわったどこの馬の骨ともわからないやつを、ぶッ飛ばすこともできないじゃない! カーッ、アンタいったいなんなのよ!」バンッ
キョン「あ、あぁ。俺はだな、その、なんつったらいーか……。あれだ、異世界人だ」
キョン(ええいままよ! 『ジョン・スミス』という切り札が既に切られている状況だ、こういう話をしても大丈夫だろう!)
ハルヒ「異世界人……」ポカン
キョン「お前が生きてきたであろうこの世界に実によく似た世界からやってきた。いや、やってきたというか、あっちのお前が俺をこっちに送り込んだんだけどな……」
ハルヒ「あ、あっちのあたし?」
キョン「そうだ。ある事実を確認するためにな。それはさっき話してた、未来からのメールだ。お前が宇宙からのメッセージだと勘違いしてるやつだ」
ハルヒ「勘違い……。ねぇ、じゃぁあれを書いたのは」
キョン「あっちのハルヒだ」
ハルヒ「あっちのあたし……。そう、そうだったの……」
キョン(普通ならすんなり受け入れられる話ではないが。今回ばかりは長門の無表情並にコイツがなにを考えているのかさっぱりわからん)
ハルヒ「ふざけんじゃないわよ……。それって、まったく……」
キョン(怒ってるのか……?)
ハルヒ「サイッコーに、おもしろいじゃない!!!!!!」
キョン(くくっ、やっぱりハルヒはハルヒだったか……!!)
キョン「ってお前、店内で大声を出すな!」
ハルヒ「ってことはなに!? 異世界のあたしはついに異世界の、しかも過去にメッセージを送る能力を手に入れたってことなのね! なんてすばらしいの!」
ハルヒ「いつもジョンやみくるちゃんがうらやましかったのよねー、お手軽にタイムトラベルできて! どうしてあたしにはできないのかって!」
キョン「朝比奈さんも自由に時間移動できるわけじゃないんだけどな」
ハルヒ「あーっ、もう! うらやましいわーそっちの世界のあたし! なんでこんなにあたしだけ平凡なのかしら!」
ハルヒ「古泉くんは絶対裏でなにかやってるし、有希もなんだか知らないけど超人的な能力を持ってるっぽいのに! あたしだけ! 平凡!!」
キョン(本当はお前が一番ぶっ飛んでるんだとは言えないな……。というかこのハルヒはここまで暴露されていてまだ自分の能力に気づいてないのか。あるいは、本当に持ち合わせてないのか……?)
ハルヒ「あっちのあたしは、アンタと付き合ってないのね?」
キョン「えぶはっ!?……まぁ、そうだが」
ハルヒ「なるほどね、そういうこと……。つまり、異世界のあたしが叶えられなかったことを、あの日、こっちのあたしに託した、ってことなのね」
キョン(こいつの頭の回転が無駄に速いことに救われる日が来るとはな)
キョン「『恋愛感情は一時の気の迷いで精神病の一種』だと御高説をのたまったのはなんだったんだ」
ハルヒ「何の話よ……。あぁ、なるほど。ジョンと付き合ってないあたしならそういうこと言うかも。ふふ、おもしろいわね異世界人!」
キョン(ということはなんだ。元の世界でも、やっぱりハルヒは俺の事を……)
ハルヒ「言っとくけど勘違いしないでよね。あたしはアンタの不思議属性に惹かれてただけなんだから」
ハルヒ「去年の7月まではずーっと苦痛だったわ。こんなつまらない、退屈を絵に描いたような奴がどうしてあたしの白馬の……あたしと関わり合いを持ったのか、ずっとイライラしっぱなしだったんだからね!」
キョン(おそらくこれはツンデレではない。くぅ……)
キョン「よくそんなやつと今の今まで付き合っていられたな。俺が見た限りではラブラブバカップルだったぞ」
ハルヒ「まぁ、色々あったのよ。童貞のアンタに教える義理は無いわ」
キョン「なんでわかった!? あっ……」
ハルヒ「やっぱり。反応が初々しいを通り越してウブ過ぎたのよね」プププ
キョン(くそ、まんまとカマかけに嵌ってしまった)
キョン「……ん? 童貞の“アンタ”? 待てよ、まさか」
ハルヒ「それ以上詮索したら殺す……。精神的に殺す……」ゴゴゴ
キョン(ジョンの野郎、許さない絶対にだ……ッ!!)
ハルヒ「紛らわしいからアンタのことをジョンって呼ぶのをやめるわ。谷口たちがキョンって呼んでたっけ。じゃーキョンで」
キョン(異世界に来てもキョンと呼ばれる運命なんだな、俺は)
キョン「まぁともかくだ。その未来からのメールの内容を教えてくれ。それが俺の知りたい事、というか知るべき事だ」
ハルヒ「……絶対に教えない」
キョン「……は、はぁ!? 俺が元の世界に戻れないかも知れないんだぞ!?」
ハルヒ「それだけは絶対に嫌。死んでも嫌。元の世界に帰りたいなら他の方法を探しなさい」
キョン「なにがそんなに嫌なんだ」
ハルヒ「あれはあたしだけの特別なの! あれを書いた別世界のあたしも、絶対アンタには見られたくないって思ってるはずよ! キョンに見せるくらいなら死んだほうがマシ!」
キョン「おいおいハルヒ様よぉ、それはお前の愛しのジョンが戻ってこないってことなんだとわかって言ってるんだろうなぁ。え?」
ハルヒ「…………」
ハルヒ「…………」グスッ
キョン「あっ」
ハルヒ「バカぁ……死んじゃぇ……この、殺人者ぁ……うぐぅ……」
キョン「あぁ……その、なんだ。……すまん」
ハルヒ「グスッ……すまんで済んだら警察は要らないわよぉ……こっちは恋人人質に取られてんのよぉ……」
キョン「……飯、おごるよ」
ハルヒ「当たり前でしょ……。もう、いいから早くどっか行って……」
キョン「あ、あぁ……。ホントに、済まなかった」
ハルヒ「早く消えて!!! あたしのジョンの顔と声でしゃべるな!!! この、このぉ!!!」ブンッ
キョン「おわ! 灰皿を投げるな!! わ、わかったよ、出てくから……」
ハルヒ「……グスッ……ヒグッ」
キョン「……」カランコロンカラーン
喜緑「……またのご来店をお待ちしております」
2010.08.10 (Tue) 20:21
キョン自宅周辺
キョン(俺にとって未来からのメッセージと言えばファンシーな手紙が下駄箱の中に伝説のラブレターよろしく意味不明な記号群やなにやら可愛らしくも几帳面な書体の直筆文で届けられるアナログチックなものだったが、それが電子メールに取って代わって無機質な活字を媒体経由でデジタルデータ解析しなければならないとは、時代の波には抗えないようだ)
キョン「こりゃハルヒから聞き出すのは時間がかかりそうだ。しっかし、泣いて笑って怒って喜んで、忙しいやつだな」トボトボ
キョン(……ホント、ヒトの気持ちがわからないやつは最低だな。いや、この世界の記憶を持ってないんだからある程度仕方ないと思うが、それにしてもなぁ……)
キョン「ただいまーっと、うちのもんは誰もいないんだったっけ」ガチャ
??「おかえり、キョンくん」
キョン「あぁ、ただいま……って、誰だ!? スーツの、女性……。あ、朝比奈さん!?」
みくる(大)「なんてね。ビックリした? あ、住居不法侵入で通報しないでね」
キョン「あ、いえ、それはもちろんですが、いったいどうしてこの時代に?」
みくる(大)「色々積もる話もあるんだけど、それはまたいつか。簡潔に説明するね、あまり時間がないから」
キョン「時間が、ない……?」
みくる(大)「あなたは元の世界に戻らなければならない。ですよね」
みくる(大)「正確に言えば、過去改変のキッカケとなった事象を相殺することによって、この世界線を元の世界線変動率<ダイバージェンス>に近似した世界線に変更しなければならない」
キョン「事象を相殺するって、どうやってです? またあの七夕の日に行って大立ち回りを繰り広げればいいんでしょうか」
みくる(大)「そんなところなんだけど、よく聞いてね」
みくる(大)「今回対象となってる事象は時間平面理論における分岐点とはなりえないの。世界線理論で言うところの世界線収束範囲<アトラクタフィールド>の収束のようなもの」
みくる(大)「つまり、これからわたしとタイムトラベルしてあの日へ行っても、この世界の根幹を成り立たせているDメール受信とそれに伴う中学生の涼宮さんの行動から生じる因果律だけは変えることができない」
キョン(時間平面理論ってのはたしか、ハルヒが文芸部会誌に掲載した『世界を大いに盛り上げるためのその一・明日に向かう方程式覚え書き』とかいう落書きと、罪のないカメを真冬の川に投擲する作業の賜物だったと記憶しているが……)
キョン「……つ、つまり?」
みくる(大)「簡単に言うと、実力行使による事象の改変は大幅な世界線変動をもたらさない、ってこと」
キョン「それじゃぁどうやって事象を相殺する、というか世界を変えるんです?」
みくる(大)「あなたもDメールを送るの。涼宮さんの行動を元通りにするような内容のものを」
キョン「ですが、Dメール送信による過去改変はこの世界でも通用するんですか? てっきり秋葉原の、未来ガジェット研究所とかいうところのへんてこマシンは機能しなくなってるものだと」
みくる(大)「あら、それはどうして?」
キョン「たしか長門は、ハルヒの“過去を改変したい”という願望があったからDメールなるものが実用化されたとか言ってたので……。ということは」
みくる(大)「そう。この世界の涼宮さんも過去を変えたいと願っているということ」
キョン「あ、あの恋愛病罹患者のハルヒが!? いったいアイツがどんな過去を変えたいと?」
みくる(大)「あなたと付き合ったことをやり直したいと思ってるみたいよ」
キョン「…………」
キョン(あれ、なんだろう。俺のことじゃないとわかっているのに、涙が……)ツー
みくる(大)「あ、言い方が悪かったわ! ごめんなさい! えっとね、キョンくん。要はその、宝物はストーリーの最後に発見すべきっていう法則というか!」アセッ
キョン「は、はい?」
みくる(大)「なんかね、ラブコメ要素を抜きにしちゃって最初からラブラブしてるのはつまらないって思ってるみたいなのよ」
みくる(大)「付き合う前の、お互い好き合ってるのに気持ちを伝えられないドキドキ、そのせいで発生するすれ違いやハプニング……。そういう学生生活を経験したかったらしいわ」
キョン「……あの野郎、どこまでも自分勝手なことを。振り回されるこっちの身にもなってくれよ、まったく」ヤレヤレ
みくる(大)「キョンくーん? 顔がにやけてるぞ♪」
キョン「そう言えば、どうして時間が無いんですか? 過去改変なら、去年の冬の世界改変の、再改変の時みたいにいつまでも猶予があるんじゃ」
みくる(大)「……涼宮さんの過去改変の力はとても強力で、現在進行形で元の世界線からの収束力が弱くなっていて、現在世界線が現アトラクタフィールドから離脱しようとしているの」
みくる(大)「時間線が収斂を忘れて分岐したままになってしまうとも言える。まるで太い縄の糸がほつれて二度と結びつかなくなるように」
キョン「えっと……?」
みくる(大)「メモ用紙2枚とペンを借りるね……。今キョンくんが居るこの世界線を仮にα´という直線だとして……、キョンくんが今日の朝までいた元の世界線をαとすると……、こう」
キョン「二枚の紙に、それぞれ一本ずつの直線ですね」
みくる(大)「そしてこの1枚の紙で構成されてる二次元平面がアトラクタフィールド。他にもいっぱい世界線はアトラクタフィールド上にあると仮定できるけど、とりあえずこの1本ずつね」
みくる(大)「通常のアトラクタフィールドの世界線がαの紙面上。そして、こっちのα´の世界線が涼宮さんの過去改変によって生み出されたアトラクタフィールド。それが、位相を変える形で交差しているの。こんな風に」エイッ
キョン「片方の紙の平面部に、もう片方の紙の端っこを垂直にあてて、“T”のような状態になりましたね」
みくる(大)「この2本、というか2枚の中身がほとんど一緒だったのは今から4年前の七夕の日。時間平面理論でいうところの超大型時空震が発生した時点ね。ここからα´が分岐発生したと考えてもよくて、そこから現在までは4年の月日が流れてる」
みくる(大)「そして今日、改変が起こってキョン君はα平面からα´平面に移動した。そう考えてるわね?」
キョン「はい。違うんですか?」
みくる(大)「実は世界全体が改変されているの。だから正しく言えば、“世界”という唯一無二の存在が今まで着てたαという服を脱ぎ捨てて、α´という服に着替えてしまった、っていう感じかな」
みくる(大)「この時、時空震は発生しない。もしかしたら発生してるのかもしれないけれど、改変によって無かったことになるから観測できないの」
キョン「パラレルワールド、じゃないってことか……」
みくる(大)「パラレルワールドとも仮定できるけどね。ホント、コペンハーゲン解釈とエヴェレット・ホイーラー・モデルのいいとこどりってズルいわね」
みくる(大)「これとわたしたち側の未来人のタイムトラベルを組み合わせられる、2006年から2034年の間はちょっとした小技が使えちゃうわけだけど、バタフライ効果を考えるとあんまりやりたくないのよね」ハァ
キョン(未来人によってタイムトラベルの仕方が異なるのか。TPDD<タイムプレーンデストロイトデバイス>は結局、パラパラ漫画に鉛筆を突き刺すイメージのタイムトラベルで合っているのか?)
キョン(そういや、あの憎々しい顔の藤原とかいう野郎も別の世界線、あるいは時間線から分岐前までやってきた存在だったんだろうか。まぁ、ハルヒがそっちの時間線側に時間断層を作ったらしいから、古泉の言う通り二度と現れることは無いんだろうが)
キョン(ええい、ややこしいな。考察したところで俺の海馬傍回は見事に記憶を長期保存することを拒んでいるようだ)
キョン「そういえば、2034年まで、というのは?」
キョン(長門もそんなこと言ってたっけか)
みくる(大)「涼宮さんの力で新しく発生した時空間関係のシステム……、わたしたちは世界線系タイムトラベルとか、アトラクタフィールド理論、世界線理論、リーディングシュタイナー系タイムトラベルなどと呼んでいるんだけどね」
キョン(リ、リーディングシュタイナーだと! あの岡部某の話は全部が全部ホラじゃなかったのか……)
みくる(大)「こっちのシステムには時限措置が取られていたの。去年の七夕の日、涼宮さんが短冊になんて書いたか覚えてる?」
キョン(突然何の話だ……? 短冊になんの関係が?)
キョン「えーっと、『地球の自転を逆にしてくれ』ってのと『自分中心に世界が回れ』でしたっけ?」
みくる(大)「そう。それはこっちのα´世界線でも一緒。それが16年後と25年後に叶う。彦星のアルタイルまで16光年、織姫のアークライトまで25光年ね」
キョン(アークライトってのはベガの別名だったか)
みくる(大)「後者の願いが2009年から見て25年後の2034年に叶うわ。これによって世界線系のタイムマシンはそれ以降新規開発が不可能になった。開発が不可能になっただけで、既存のマシンは普通に使えたみたい。理屈はよくわからないけど」
キョン(2025年には地球の自転が逆になるのかという野暮な質問はやめておこう)
みくる(大)「ともかく、時間が無いっていうのは、αとα´が互いに干渉不可能なほど独立してしまうまでの時間が無いということ」
みくる(大)「このメモに書いた例でいうと、まずα´平面上にα平面と交わっている線と仮定できる直線を書いて……、これをα´平面上のα世界線とします」
キョン(このα´の紙に新しく書いた直線ってのがさっきの“T”の付け根の部分ってことか)
みくる(大)「αの直線はこのまままっすぐ伸びるとして、今わたしたちが居るα´世界線は……えいっ」ビリビリ
キョン(α直線とα´直線のあいだの部分を平行にメモ紙の半分くらいまで破いた? そしてα´が書かれていたほうを持ち上げて……、ひねった?)
みくる(大)「α´はこんな風に、三次元座標的に独立した、二度とαと干渉しないベクトルとして進んでいくことになる。わたしたちはこの変な世界線を時間平面演算の関係から16進数アトラクタフィールドと呼んでいるわ」
みくる(大)「こうなってしまうと適切な過去改変を実行したところでα´の世界線の性質そのものが変化してしまって、元のαへと世界が改変されることは永遠に不可能になるの」
キョン「あれ? ってことは、今俺の目の前にいる朝比奈さんはα´の未来から来たってことなんですよね?」
みくる(大)「そう。キョンくん自身が今まで接触してきたわたしとは別の世界線、しかも別のアトラクタフィールドの出身ということになるわね」
みくる(大)「だけどやってることも記憶もほとんど同じはずだし、同じ人だと思ってくれて大丈夫よ。それに今日の改変前まではあなたの知ってるわたしと全く同じ存在だったはずだから。αとα´は、ほとんど同じ世界なの。今のキョンくんを除いてね」
キョン「むむむ……」
キョン「……朝比奈さん(大)にとって、元の世界線に戻るメリットってあるんですか」
みくる(大)「このままだと近い将来ディストピアになってしまう。わたしは直接体験することはなかったけれど、涼宮さんたちにとって良い未来とは言えないし、超未来においてディストピア社会とわたしたちの組織との衝突もできれば避けたい。今のところわたしたちは専守防衛に徹しているけど」
キョン「ディストピア……。ジョン・タイターの言ってた通りか。でも、朝比奈さん(大)がディストピアより未来から来たってことは……」
みくる(大)「完ぺきな統制社会とは言っても1世紀も続かなかったわ。首脳陣の利権がこじれたのが原因だとか。その頃には2034年製タイムマシンも経年劣化で使い物にならなくなってたしね」
キョン「でも、α世界線に戻ってもディストピアになる運命は変わらないとジョン・タイターは言っていたらしいんですが」
みくる(大)「αならその運命を変えられる可能性がある。より良い世界が待っている。その鍵を握っているのはあなたであり、未来ガジェット研究所よ」
キョン(いつからこの人はグノーシス主義に傾倒するようになったんだか)
キョン「世界を運命から救う、か。大層な大義名分がふっかかってきたもんだな……」
キョン「それで、タイムリミットはいつなんですか?」
みくる(大)「明日の午前12時まで」
キョン「なッ!? なんだってそんなすぐなんですか!? あ、明日ッ!?」
みくる(大)「涼宮さんの力だとわたしたちは考えているわ。わからないけど、彼女なりの照れ隠しのつもりなのかも」
キョン「はぁ?」
キョン(我ながら素っ頓狂な声を発してしまった)
みくる(大)「うーん、これはわたし個人の推測なんだけどね。多分、涼宮さんは“キョンくんが自分と付き合いたいと思うかどうか”を試しているのかもって思うの」
キョン「……ホントに迷惑千万なやつだ。たとえ無意識だとしても、そりゃないぜ」
みくる(大)「一応確認しておくけど、世界を元に戻す? それとも、この世界で生きていく?」
キョン「いやいやいや! さすがにそれは選択の余地はないですって。それはもう、去年の冬からずっと気づいていることです」
みくる(大)「でもそれって涼宮さんと付き合いたくないってこと?」
キョン「…………」
みくる(大)「ふふっ。いじわるしてごめんね。わかってるわ、SOS団として過ごしてきた日々を改変したくない。そういうことよね」
キョン「時間が無いなら早く行きましょう……」
世界が改変され、SOS団の記憶がすっかり入れ替わっちまっていて、俺はハルヒと付き合っているし、朝比奈さんの正体はハルヒにバレていた。
ちなみに朝比奈さんの正体がバレたのは、自分が未来人ジョンだとハルヒに白状したどこかのアホがどうやって3年前にタイムワープしたのかまでもセットにしてゲロっちまったかららしい。
現状はこのトンデモ度合の三重奏を奏でているというのに、どういうわけだか俺は落ち着いていた。
そういや第一回目の七夕飛行の時もそうだったな。TPDDを失くしたと泣いていた朝比奈さんを尻目に俺はどこまでも冷静だった。
第二回目は、そりゃあの後朝倉による暗殺とかいう事態が待ち構えていたとは言え、朝比奈さん(大)と合流してからはそれなりに落ち着きを取り戻していたのだ。
さて、今ひとたびの七夕飛行へと飛び立とう。帰ったらハルヒが電話レンジを使わせてもらったお礼として未来ガジェット研究所にIBN5100を届けないといけないしな。
こうして安心してタイムトラベルできるのはやはり、SOS団という名前の、能力的にも、仲間としてもとんでもないやつらが居るからである。つくづく俺はSOS団のメンバーで良かったと思うね。
そんなわけで、今の俺にはこんな状況を楽しむ程度の余裕が生まれていたのだった。
-------------------------------------------
◇Chapter.4 涼宮ハルヒのレーゾンデートル◇
-------------------------------------------
D 0.337186 4920656e767920796f75%
2006.07.07 (Mon) 21:00
光陽園駅前公園
キョン「……うぐっ」
キョン(この嘔吐寸前までいきそうなグルグル目眩には慣れたもんだが、慣れたからと言って不快指数が下がるわけでもなかった)
みくる(大)「近接世界線への到着を確認。これでさっきまでいた時間線の規定事項、あるいは世界線の因果律にある程度拘束されない行動が可能になったわ」
みくる(大)「でもあんまり激しい改変は避けてね、バタフライ効果が怖いから」
キョン(前回の朝比奈さん(大)ツアー{※復活朝倉に刺される前}の轍を踏まないようしっかり靴を履いて飛んできたぞ。前回の朝比奈さん(小)ツアー{※復活朝倉から自分を救う時}の時もしっかり靴は履いていたわけだが)
みくる(大)「やっぱり世界線系タイムトラベルは落ち着かないわね……。STCデータをいちいち再構成しないといけないなんて」
キョン(あれ? でもそれって高校生の朝比奈さんにできたことが、大人になったらできなくなってた、ってことか? うちの未来人の愛らしいおっちょこちょいはいつまで経っても治らないらしい)
みくる(大)「α´世界線における深刻なパラドックスを起こさないようDメールの内容を確認次第、元居た時間平面へ帰還。いいわね」
キョン(このようにロボアニメの司令官ばりのクールなセリフを吐いているが、中身はいつもの朝比奈さんだと思うと憎さ余って可愛さ百倍である)
キョン(まぁ、この世界線では朝比奈さん(小)を木偶のように操っているわけではなさそうだから、憎む理由もないのかな)
キョン(その時俺はしょうもないことを思いついてしまった。聞くだけならロハだろう)
キョン「……朝比奈さん。帰還場所、この場合時間平面というべきところを、2010年の8月10日ではなく、8月9日以前にすることはできないでしょうか」
みくる(大)「できるけど、リスクはなるべく避けたいです」
みくる(大)「どんなことがあって8月9日以前に存在したジョンくんと、今のあなた……キョンくんが接触するかわからないし。この場合もパラドックスが起きちゃうわ」
キョン「一応わかってはいるんですが、どうもそのジョンって野郎がどんなやつか気になりまして……」
みくる(大)「……こちらの世界だけが持ってる記憶はなるべく所持しないほうが身のためよ。改変時の頭痛がひどくなっちゃうわよ?」
キョン「頭痛くらいならなんとか……」
みくる(大)「もうっ! 任務中にやめてください! 好奇心は猫をも殺すとは言うけど、今のキョンくんはそれです」
みくる(大)「考えても見て。涼宮さんと日中から“らぶchu☆chu”してる人間をキョンくんが直視したら、それはもうトラウマものよ!」
キョン(八重桜鑑賞会での一発芸じゃあるまいし、そんなことでトラウマになるほど俺の心臓は固形化したケイ酸塩で構成されているわけ……では……)
キョン「…………」
キョン「……はッ!?」
キョン(なんだこの小学生のお絵かきのために調合された水彩絵の具パレットのような心象は……)
みくる(大)「わかった?」
キョン「……なかったことにしてください」
みくる(大)「それでいいんですよ」ウフフ
みくる(大)「そろそろ時間よ」
キョン(さすがに校庭に侵入しては気づかれてしまうからな、校門の外で待機だ)
キョン(というか、今この時間平面に俺が3人、中坊の俺も入れれば4人の俺が存在してることになるのか。人口密度高いな)
ガシャン!
キョン(お、来たな、世界の始まり様。今も昔も身のこなしは軽やかだ、校門を飛び越える姿も様になってやがる)
ハルヒ(小)「……」キョロキョロ
ハルヒ(小)「……」タッタッタッ
キョン(どうやらまだメールは受信してないみたいだな)
みくる『うぇぇぇぇぇん……』
キョン(あらら、TPDDを失くした朝比奈さんの泣き声まで聞こえてきた)
みくる(大)「……早く跡を追いかけましょう」
キョン(消失)『世界を大いに盛り上げるためのジョン・スミスをよろしく!』
ハルヒ(小)「!?」キョロキョロ
キョン(ここまでケータイいじらず……か。そろそろか?)
ハルヒ(小)「!!」アルーハレータヒーノコトー♪
キョン(……来やがった!)
ハルヒ(小)「……」ピッ、ピッ
ハルヒ(小)「……!?!?!?!?!?」
キョン(暗がりでもよくわかるほどに目ん玉を白黒させまくって4回転アクセルでも決めるんじゃないかという勢いだ……)
キョン(いったいどんな内容が書かれていたんだ? さて、どうやって盗み見るか……)
ハルヒ(小)「ジョン!! そこを動かないで!!」タッタッ
キョン(な!? 冬から来たほうの俺と朝比奈さん(大)のほうに向かって走り出しやがった!?)
みくる(大)「今よ! キョンくん!」
キョン(……ええい、行ったれ!)
キョン「お、おい! 俺はこっちだ!」
ハルヒ(小)「!?……おっかしーわねー、確かにあっちから声が聞こえたんだけど」
キョン「……宇宙からのメッセージ、受信したか?」
ハルヒ(小)「えっ!? なんでアンタがそれを……」
キョン「なんでって、手伝ってやっただろう。俺にも見せてくれよ」
キョン(どうだ……?)
ハルヒ(小)「だ、ダメに決まってるでしょ! 書いたのはアンタだけど、書かせたのはこのあたしよ!」
キョン「どういう理屈だそりゃ」
キョン(ならば、どうするか……)
ハルヒ(小)「……」チラッチラッ
キョン(ん? ハルヒのやつ、俺のことを観察してるな)
キョン(そうか、俺の正体を知るには身分証なんかを奪取しないとならんのだろう。これはわざと盗まれてやったほうがいいのか?)
キョン「なぁ、さっきから何見てるんだ。俺の正体が知りたいのか?」
ハルヒ(小)「は、はぁ!? 誰がアンタなんか……」
キョン「交換条件だ。そのメールを見せてくれたら教えてやってもいい」
ハルヒ(小)「はぁ!?!?……ちょっと考えさせて」
キョン(これは決まったか?)
ハルヒ(小)「……うん、決めた」
キョン「そうか。ならケータイを……」
ハルヒ(小)「メールは見せない。あたしはアンタの正体をつかむ」
キョン「……どこまでもお前らしいよ、やれやれ」
ハルヒ(小)「うりゃ!!」ビシッ
キョン「だはッ!! い、いきなり蹴りかかるやつがあるか!!」
キョン(ここで俺が片膝をついてしまったのが運の尽きだったらしい)
ハルヒ(小)「もう一発!!」バシッ
キョン「見切ったグワァー!!」バターン!
キョン(見切ったところで避けられるわけもなく! 俺は無様にも小さな体躯から繰り出される閃光魔術<シャイニングウィザード>をモロに受け、後頭部からアスファルトに叩きつけられてしまった!)
ハルヒ(小)「胸ポケット!? 違うッ、ズボン!?」ガサゴソ
キョン「お、お前は追剥か、この野郎……」グエッ
ハルヒ(小)「あったッ!! 生徒手帳!!」シュバッ
キョン(中一女子にやられる高二男子ってどうなんだ……)
キョン(……なんてな、反撃のチャンスを狙っていたのさ!)
キョン「おらッ!!」ガバッ
ハルヒ「きゃぁッ!!」バターン!
キョン(俺から身分証を奪取した瞬間、喜色満面になって隙ができることはわかっていたぜ)
キョン(中坊のハルヒなら押し倒すことくらいできる!)
キョン「さぁケータイを出せ! って、言うこと聞くわけねぇよなぁ。ならばッ、実力行使ッ!!」ハァハァ
ハルヒ(小)「い、いやぁぁぁぁっ!! どこ触ってるのよ変態ぃぃぃぃ!!」ゲシゲシ
キョン(あ、あれ、今俺ってもしかして日本国の法律に則って刑事事件を起こしている……?)
キョン「あ、あった……。メールは、3通!! これか!!」ピッ
ジョンの正体
つかめ!私は
ここにいる。
キョン(なんとまぁ、キュウリの浅漬けの如くえらくあっさりした内容だったわけだ)
キョン(あいつがこのメールを見せたくない理由はあの宇宙語がバレたくなかったためなのだろうか。俺は長門に教えてもらったわけだが)
ハルヒ(小)「は、はぁ……はぁ……。なんなのよ、アンタ……」
キョン「あ、あぁ。説明が遅れてすまなかった」
キョン「実はこの3通のメールには珪素構造生命体共生型情報生命素子が寄生していてな」
キョン「お前に乗り移って悪さをする可能性があったんで消しに来たんだ。ほらよ、返すぜ」ポイッ
ハルヒ(小)「えっ、消しちゃったの……」
キョン「安心しろ、メール自体は3通ともそのまま残してある。それじゃぁな」スタスタ
ハルヒ(小)「えっ……。よ、よかった……」
キョン(体があちこち痛む……。早く休ませてくれ)
みくる(大)「さぁ、帰りは純粋なTPDDで戻ります。行きますよ」シュン
ハルヒ(小)「……って、生徒手帳返すわよ! 中身覚えたから!……って、あれ? 居ない?」キョロキョロ
同一世界線 D 0.337186 4920656e767920796f75%
2010.08.10 (Tue) 22:14
キョン自宅
キョン「いててッ、もう少しやさしく……」
みくる(大)「甘えん坊さんね、キョンくんは」チョンチョン
キョン(ぜひとも昔のナースコスを着て治療に当たってほしいなどとチラッとでも思ったことは心のクローゼットに閉まっておこう)
みくる(大)「はい、これで手当てはおしまい」
キョン「……これで良かったんでしょうか」
みくる(大)「今のところ順調よ」
ハルヒ「なーにが順調なのかしら」
キョン「なにって、そりゃお前世界を元に戻す作業がだな……って、ハ、ハルヒッ!?」
みくる(大)「涼宮さんッ!?」
ハルヒ「みくるちゃーん。おっきくなったわねー、みくるさんって呼んだ方がいいかしら?」
みくる(大)「……」アセアセ
ハルヒ「アンタたち、こんな夜遅くに二人っきりで何してるの? たのしそうねー」
みくる(大)「……」ダラダラ
ハルヒ「あたしに隠れて。ねぇ?」ニコッ
キョン(何度目かの妖絶な笑みを見て俺はふがいなくも腰が抜けそうになった。同時に脳内には走馬灯が……)
ハルヒ「ほら、ジョン。忘れ物よ」ポイッ
キョン「ハッ……! あ、あぁ、生徒手帳か。ありがとよ」
キョン「って、あれ? なんでお前が持ってるんだ?」
ハルヒ「なんでって、アンタ、あたしとの別れ際に置いてっちゃったじゃない」
キョン「それはそうだが……、どういうことだ?」
ハルヒ「相変わらず頭が弱いわねぇ。要はね、4年越しに忘れ物を届けたってことよ」
ハルヒ「あの時のアンタをあたしは4年間覚えていたの。高校2年生のアンタをね」
キョン(そうか! 本来高校1年の時の身分証をパクられていたから、ここだけは世界の因果の流れが変わっちまってるわけか!)
キョン「そうだったか。改めて礼を言う……って、なんだこの生徒手帳!? ボロボロじゃないか!?」
ハルヒ「当たり前でしょ! 4年間もほったらかしてたのよ! あたしが管理してなかったら今頃ゴミっかすになってたわよ。感謝しなさい」
キョン「ん? さっき喫茶店で飯食ってた時、俺の正体にどうして気づかなかったんだ?」
ハルヒ「それは……、もちろん前からずっと高校2年になったらジョンがまたタイムトラベルするんだろうなーって身構えてたけど、まさか中身が入れ替わるなんて思ってなかったのよ」
ハルヒ「4年前のあの時のジョンが、異世界人のアンタのほうだったなんてちょっとショック」
キョン「悪かったな」
ハルヒ「まぁいいわ。特別に許してあげる」
キョン(さっき灰皿を泣きながら投げつけてきたやつとは思えないな……)
キョン「待てよ、ってことは世界が少し変わっている……?」
キョン「これって世界線が変動したってことなんですよね?」ヒソヒソ
みくる(大)「そうとも言えるけど、そういうわけじゃないわ」ヒソヒソ
みくる(大)「そもそもTPDDは基本的に世界線を大きく移動させるようなタイムトラベルはできないの。だから、世界が変わった、というよりも、因果の流れが少し変わった、っていう感じかな」ヒソヒソ
キョン(そういや前に藤原某が『たいした違いにはならない』だなんだとほざいていたが、たしかに出来事の中身が入れ替わっただけで大局的な結果は何も変わってない、のか)
ハルヒ「」イラッ
ハルヒ「それで、みくるさん? こいつはこの後何をしなければならないのかしら?」
みくる(大)「……禁則事項です」
キョン「当たり前だ。お前を巻き込むわけにはいかん」
ハルヒ「あたしがおもしろそうなことに首を突っ込みたいって言ってるの」
ハルヒ「SOS団の団長は誰だったかしら。あなたもSOS団の一員ならわかるわよねぇ、み・く・る・さ・ん?」ニコッ
キョン(こいつなんでさっきから朝比奈さんに対してキレてるんだ……?)
みくる(大)「す、涼宮さんも知ってますよね? き、禁則事項は口が裂けても言えないって」プルプル
ハルヒ「その口裂いてから言ってもらわないと説得力にかけるわね。キョン、ハサミどこ?」
みくる(大)「ぴぃぃぃっ!!」ガクガク
ハルヒ「言っとくけど、アンタたちに拒否権なんか無いのよ。わかってる?」
キョン「というかハルヒよ、俺はこの世界を崩壊させようとしているも同然なのだぞ。そんなのの片棒を担いでいいのか?」
ハルヒ「だっておもしろそうじゃない」
キョン(この涼宮ハルヒという生物はどこの世界で生を受けたとしても“おもしろさ”を価値判断の最高位に位置付けているらしい)
ハルヒ「それにアンタは世界を元の世界に戻そうとしてるんでしょ? あたしも興味あるのよね、あっちの世界のあたしに」
みくる(大)「……わかりました、善処します」
キョン(禁則が折れた!?)
ハルヒ「……あなたのこと“みくるちゃん”って呼ぶから、あたしに敬語使わなくていいわよ?」
みくる(大)「そ、そんな、滅相もないです……」
キョン(んー……。今の管理職っぽい朝比奈さん的には、むしろ昔の状態の時よりハルヒに頭が上がらなくなってるのだろう)
ハルヒ「ねぇ、お願いみくるちゃん。あたしね、一度でいいからあなたとタメ張っ……対等な立場でお話したかったの」
ハルヒ「そのほうがお友達っぽいじゃない? 今のあなたとじゃなきゃできないと思うんだけど……ダメ?」ウルッ
キョン(こいつはどこでこんな女の武器的交渉術を身に付けたんだろうな。育て方を間違ってしまったようだぞ、この世界の因果律様よ)
みくる(大)「!?/////」
キョン(そして効果は抜群のようである。まぁ気持ちはわかりますよ、朝比奈さん)
みくる(大)「ハ、ハルヒちゃん……///」
ハルヒ「…………」
キョン(これは……)ゴクッ
みくる(大)「は、恥ずかしいから何か言ってよ!///」
ハルヒ「大人になってとんでもない爆弾を隠し持ってたわね……。これがギャップ萌えってやつなのね、素晴らしいわ……!」グッ!
キョン「違うんじゃないか。知らんが」
ハルヒ「さて! 腹を割って話せる仲になったところでみくるちゃん!」
みくる(大)「う、うん///」
ハルヒ「二度とあたしに断りなく夜にジョンと二人きりで逢わないこと。イ・イ・ワ・ネ?」ニコッ
キョン(朝比奈さんがあまりの恐怖に失神してしまったところで俺はハルヒに今後の行動の説明をした)
キョン「明日の12時までに秋葉原に行って未来ガジェット研究所とかいう大学生のサークルに赴き、そこにあるはずの電話レンジ(仮)とかいう珍妙な名前の“過去にメールを送れるマシーン”を使わせてもらう」
キョン「そして4年前の、あの未来からのメール、これをDメールと言うらしいが、それを受信した直後のお前にまた俺からDメールを送り、俺の正体を探らせないようにする」
ハルヒ「そんなモノがあたしの知らないところで開発されていたなんて! ムカつくわ……」
キョン(どこかで聞いたセリフだ)
ハルヒ「ジョン! じゃなかったキョン! 大学は東京の大学に進学するわよ!」
キョン「お前は話を聞いていなかったのか。世界を改変するんだから今ここで口約束しても仕方ないだろう」
ハルヒ「アンタは覚えてるんでしょ? だったら向こうのあたしに伝言しなさいよ」
キョン「……それってどうなるんだ?」
ハルヒ「もう! こんな調子じゃ、アンタ一人で東京に行かせるなんて不安ね」
ハルヒ「仕方ないわねー、ここはあたしと一緒に秋葉原に行きましょう♪ もちろん団員全員でね!」ダキッ
キョン「のわっ! 急にひっつくな!!……というか、お前、俺のこと嫌いだったんじゃなかったのか?」
ハルヒ「嫌いよ、大っ嫌い。でも、ジョンがまだウブだった頃のことを思い出しちゃって……ふふっ。アンタが悪いんだからね!」ギュゥ
キョン(あー、これは。これは、いかん。たぶん、ダメなやつだ。あー……)
古泉「おやおや、仲良きことは美しき哉。楽しそうで何よりです」
キョン「……SOS団には夜遅くに俺の家に集まる習性でもあるのか。うちは誘虫ランプか何かか?」
キョン「次回からはたとえタイムトラベルに出かける時でも玄関のカギを掛けることを心掛けよう」
ハルヒ「古泉くん、突然どうしたの?」
古泉「偶然この家の前を通る用事があったのですが、何やらにぎやかな声が聞こえてきましてね」
キョン(嘘が下手すぎるだろこいつ……。大方、俺の家に盗聴器でも仕掛けてるんだろうな)
ハルヒ「古泉くん! 明日秋葉原に行こうと思うのだけど、SOS団みんなで行くことにしたわ!」
ハルヒ「有希も誘いましょう! あと、そこにいるみくるちゃん大人バージョンも!」
古泉「おもしろそうですね。特に朝比奈さんの大人バージョンさんとは久しぶりにお話したいところです」
古泉「すいません涼宮さん。ちょっと彼をお借りしてもよろしいでしょうか。男同士で積もる話がありますので」
キョン「は?」
ハルヒ「いいわよ」
キョン「いいのかよ」
ハルヒ「あたしはみくるちゃんとお風呂入るわ。キョン、お湯もらうわよ」
ハルヒ「ほら、みくるちゃん起きて!」
みくる(大)「ふみゅぅ……」
キョン(どうしてハルヒはうちの風呂場のことを勝手知ったる面してるんだろうということは聞かないでおいたほうが長生きできそうだ)
古泉「さ、僕たちは外へ行きましょう」
キョン(さっきからアルカイックスマイルを浮かべやがって。何か企んでやがるな?)
2010.08.10 (Tue) 22:57
線路沿
キョン「それで、話ってなんだ。なにか問題でも起きたのか?」
古泉「えぇ。それも宇宙規模の大問題が」
キョン「……マジか。いったいなにが起きたってんだ?」
古泉「何者かがこの素敵な世界を破壊しようとしているのですよ。なんとしても阻止せねばなりません」
キョン「なにッ! いったいどこのどいつが……。って、古泉よ。まさかとは思うが、それは俺のことか?」
古泉「ご明察」
キョン「……無駄話してる時間は無いんだが」
古泉「気付いてるんだか気付いてないんだかわからない人ですね、相変わらずです」
古泉「今回、この件に関して僕はあなたの敵だと言っているのですが」
キョン「そんなことしてお前になんの得があるんだ」
古泉「得しかないのですよ。喫茶店でのお話によれば、改変先の世界では“あなた”と涼宮さんはお付き合いしていらっしゃらないとか」
キョン「あの場にも忍び込んでたのか……。それがどうした」
古泉「そちらの世界における閉鎖空間の発生率は?」
キョン「そうだな……。4月の頭頃に去年の4月頃の頻度に戻ったと言っていたか。最近だとおとといの夜も発生したらしい」
古泉「やはり……」
古泉「あなたにとって驚きの数字を教えて差し上げましょう。去年の7月7日以降、閉鎖空間は何度発生したか」
キョン「……?」
古泉「ただの1回です」
キョン「な、なに……ッ!!」
キョン(1回って、あの佐々木の閉鎖空間と合体した変な閉鎖空間の、アレだけってことか!?)
古泉「推測するまでもなく、涼宮さんはあなたと親密な関係になることで閉鎖空間でのストレス発散をシフトさせたのですよ」
古泉「あなたとのやりとりでストレスを解消することを“おもしろい”と感じていた」
キョン「そうだったのか……。それじゃ、ジョンってのはそれなりにお前ら機関に貢献してたってわけだ」
古泉「えぇ。正直、僕はもう閉鎖空間での能力の使い方を忘れてしまいそうですよ」
古泉「事実、機関のメンバーのほとんどが文字通り能力の使い方を忘れつつあります」
キョン「そりゃ、お前らの能力の特性上仕方なかろうぜ」
古泉「機関は現在このような状態なのです。命を落とす危険が常に付きまとう閉鎖空間が日常的に発生する世界への改変など、誰が賛同するでしょうか」
キョン「古泉、お前にしてはらしくないな。この世界をまるごと改変するって言ってるだろ?」
キョン「お前ら機関も日常的に能力を使ってる世界に改変されるんだから、なにも問題はない。そうだろ?」
古泉「……あなたは、そんなに人間の気持ちがわからない人だったでしょうか」
古泉「むしろそれが問題なのです。機関は現在、死の恐怖に関連するあらゆるリスクから比較的遠いところに居ます」
古泉「しかし、明日から日常的に閉鎖空間が発生する世界になりますと言われて、生理的に受け入れられる人間がいるでしょうか」
キョン「だからな、お前らの記憶だって変わるんだから」
古泉「人間の想像力は偉大です。つまるところ……僕は、死ぬのが怖いんです」
キョン「なっ……」
古泉「たとえこちらの世界線で感じているこの恐怖感を一切忘却するとしても、世界が変わってしまえば明日《神人》に殺されるかもしれない」
古泉「そんなのは、ただの洗脳だ」
キョン「ち、違うッ!!」
古泉「どこが違うのですか。確かに殺される時の恐怖感は、今僕が感じているようなものではないのでしょう」
古泉「しかし、たとえ記憶が改ざんされ、感情や能力が世界線に応じて改変されるとしても……、僕たちは安穏を選ぶのです」
キョン「……それが機関の答えか」
古泉「そして、残念なことに僕個人の意見でもあります」
古泉「明日の12時」
キョン「ッ!!」
古泉「明日の12時まで、あなたの手足を拘束してしまえば僕の勝ちです」
古泉「逆に明日の12時までに秋葉原でメールを送信できたらあなたの勝ち。さぁ、ゲームを始めましょうか」
キョン「……古泉よ。お前さん、俺に一度でもゲームで勝ったことがあったか」
古泉「創作物のキャラクターなら、一度も達成できなかったことをここぞという時に達成するというのはストーリーメイキングの定石ですよ」
キョン「どうもお前のセリフは墓穴を掘るスコップの音に聞こえてならんな……」
キョン「悪いが、今回ばかりはお前に付き合ってる暇はない。なぜなら俺にとって本当の世界はココじゃない」
古泉「そう言うと思っていました」
キョン「そして俺は勝利を確信している」
キョン「なんてったって、あの団長様が俺を明日秋葉原へ連れていくと断言したんだぜ? それを反故にすることなど、モーゼだってできまいよ」
古泉「ならば涼宮さんに能力を使われる前にあなたを確保してしまえば良い。たったそれだけのこと……」
古泉「……皆さん、今ですッ!!」
キョン「そんなハッタリが通用するかよ。周りにゃ人間の気配なんか……ッ!?」バターン
新川「少々荒っぽいですがお許しください」ギューッ
森「対象<ターゲット>確保しました」
キョン(え……えッ!? なんだ!? 俺は、今の一瞬で捕まったのか!?)
キョン(くそっ、縄で腕と胴体が縛られてる……嘘だろ……!?)
古泉「あっという間に決着を見てしまいましたね。まぁ、明日の12時までは気を抜けませんが」
キョン「お、おい。やめろ、やめろよ古泉……。お前はッ! あのSOS団の日々を、忘れちまったってのか!!」
古泉「忘れるもなにも、“あなた”にとってはハナからそんなものは無かったのです。この世界にとって、“あなた”の記憶はただの幻想にすぎない」
キョン「前に、俺に言ったよなぁ!! 機関を裏切ってでも俺に味方するって!!」
キョン「俺と対等なダチになりてぇっつってたよなぁ!? あれは嘘だったのかよ!!」
古泉「……チッ。小癪な手段を使いますね」
古泉「言わせてもらいますが、僕らのSOS団に異世界人は居ません。ゆえに僕の行動はSOS団を守る行動です」
古泉「“あなた”はッ!! SOS団団員ではないッ!!」
キョン「くそっ!! どうすりゃいい、どうすりゃいいんだッ!!」ジタバタ
古泉「さぁ、彼を例の場所へ運んでください」
新川「了解です、古泉」
キョン「待っ―――――――――――
同一世界線 D 0.337186 4920656e767920796f75%
2010.08.10 (Tue) 22:56
キョン自室
―――――――――ってくれ、って、あ、あれ……ん!? な、何がどうなった!?」
キョン「ここは……、俺の部屋!?」
みくる(小)「はぁ……はぁ……。なんとか、間に合いましたぁ……」ペタン
キョン「あ、朝比奈さん! 小さいほうの!」
みくる(小)「え、えっと……未来の涼宮さんに頼まれて、この時間平面のあなたを救助するように言われたんですぅ」
キョン「そうだったんですか!! それで、ハルヒは今どこに!?」
キョン(最低最悪のクソみたいな可能性だが、機関のやつらがハルヒをマインドコントロールして……、この世界を絶対改変させたくないと強く願わせたら……ッ!!)
みくる(小)「ひゃぁ!? たぶんまだこの家の中に……あっ、ジョンくん!」
キョン「どこだハルヒ!! どこにいるッ!!」バタン!
2010.08.10 (Tue) 22:57
浴室
キョン「ハルヒッ!! ここかッ!? ええい、腕が使えないなら蹴破ってやる!!」バターン!!
ハルヒ(大盛)「な、なに!?」
みくる(特盛)「きゃぁ!?」
キョン「よ、よかった……居てくれたか......」ハァハァ
ハルヒ(大盛)「……変態」
みくる(特盛)「あ、あの……キョンくん……」カァァ
キョン(……と、特盛!)
ハルヒ(大盛)「いつまでもナイスバディなみくるちゃんの裸を見てんじゃないわよ!!!! エロキョン!!!!!」シュバッ!
キョン「どぅぶぁへぇーッ!!!」ドンガラガッシャーン
2010.08.10 (Tue) 23:10
キョン自室
ハルヒ「……状況はわかった。あたしはこれからまだ自分の部屋でゆっくりしてるはずのみくるちゃんに連絡して、その時間に行ってキョンを助けるよう伝えればいいのね?」
みくる(小)「は、はいぃ。それで未来から許可が下りるので問題ないと思います」
ハルヒ「いつもありがと、みくるちゃん。みくるちゃんはこれからどうするの?」
みくる(小)「えっと、今帰るとパラドックスが起きるかもしれないので、ジョンくん、じゃなかった、キョンくん、も、もしよかったら今日はここに泊めていただければ……」
キョン(この人には異世界のハルヒの過去改変による世界改変によって俺の記憶が維持されてしまったということを説明した)
キョン(ついでにコッチのハルヒが自分をキョンと呼ぶよう命令した。今回ばかりはGJと言わざるを得ない)
キョン「えぇ、いいですよ。妹の部屋を使ってください」ボロッ
みくる(小)「ありがとうございますぅ。それと、そちらの方は……?」
キョン(俺は今の今までどんなことがあろうと朝比奈さん(大)の秘密主義には未来的に超重要な理由があるのだと信じて、それに従うように行動してきた)
キョン(だが、あろうことか朝比奈さん(大)は100円均一で販売してそうなレベルの度無しメガネをかけただけの状態で、いとも簡単に過去の自分である朝比奈さん(小)と相対しているのだ)
みくる(メ)「初めまして、みくるちゃん。わたしは来波<くるなみ>アサヒと申します」
キョン(その正体は朝比奈さん(メガネ)である。OLスーツと相まってセクシー教師風味だ)
キョン(渡橋泰水に続いてまたアナグラムか……。“波が来る”とか、“朝日”ってのはなんとなくより良い未来が到来するイメージがあるな。ほらあれだ、月曜日には黄色ってイメージがあるだろ?)
みくる(小)「は、初めまして! えっと、涼宮さんたちとは……」
みくる(メ)「明日SOS団で東京に行くことになりまして、その引率の先生役なんですよ。大丈夫、あなたたちの味方です」ニコッ
みくる(小)「そうなんですかぁ」ホッ
キョン(きっとあのメガネは、体は子ども、頭脳は大人的少年探偵ばりの秘密アイテムなのだと信じよう。そしてこれが朝比奈さん(大)の言ってた“善処”の結果なんだろう)
キョン(そうでなければ俺はわりと真面目に朝比奈さん(大)に対して、あるいは未来人のお偉方に対して本気で怒らねばならん)
みくる(小)「ジョンくん、じゃなかった、キョンくん、お怪我はだいじょうぶですかぁ?」
キョン「大丈夫ですよ。蹴りを食らうのは慣れてますから」
キョン(長門にニーキックをもらったりな)
ハルヒ「自業自得よ」
キョン「そう言えば朝比奈さんはどうやって俺を助けたんです?」
みくる(小)「えっと、ですね……。まず、今回の事象が分岐点でよかったです。時間平面理論なら得意分野ですから」ニコッ
みくる(小)「キョンくんの身体と接触するように時空間座標を合わせてTPDDを起動させて、該当時間平面到着と同時にTPDDを再起動してこの部屋まで飛んだんです。少し時間も巻き戻してますよぉ」
キョン「そんな使い方ができたんですね。まるでテレポートだ」
キョン「それで、そろそろこの縄を解いていただきたいのですが……」モゾモゾ
ハルヒ「折角だから明日の朝まで縛っておきましょう」
ハルヒ「美女三人と一つ屋根の下じゃコイツがどんな行動を取るかわかったもんじゃないわ」
キョン「……くぅ」シクシク
みくる(小)「で、でもまた古泉くんたちに襲われたら!」
みくる(メ)「古泉くん……」
ハルヒ「あたしの目の前でそんなことさせないし、多分できないんじゃないかしら」
ハルヒ「それができるなら今ここに突入されててもおかしくない」
キョン(アイツらはなんだかんだでハルヒのことを神だか神の子だかとして神聖視してるはずだからな)
キョン(鍵である俺と同時に居るところではムチャできないはずだ)
ハルヒ「それに今日はコイツから離れないで寝るから大丈夫よ」
キョン(生殺しだ……)シクシク
みくる(メ)「それじゃ、おやすみなさい」ガチャ
みくる(小)「おやすみなさぁい」バタン
キョン(二人は妹の部屋で寝ることになった。まるで親子のようだな)
ハルヒ「さあキョン。現在時間平面のみくるちゃんにも連絡したし……、明日に備えて寝るわよ」
キョン「ベッドを使って構わないが、せめて枕だけでも俺の分を床に置いてくれないか」
ハルヒ「離れないって言ったじゃない。アンタ、抱き枕になりなさい」
キョン「……は!?」
ハルヒ「ほら、コッチに来いッ!」
キョン「うおおッ!?」バタッ
ハルヒ「そして抱き着く! こうしてればさしもの古泉くんでも手出しできないはずだわ!」ギュッ
キョン(む、胸がッ!! 涼宮ハルヒの平均以上には大きい健やかなる胸がハアァッ!! 俺の顔をうずめているゥゥゥッ!!)スゥー!ハァー!
ハルヒ「ホントウブねアンタ……」
キョン(女子特有の風呂上がりの匂いが俺の鼻腔をくすぐる……! この甘ったるい香りは花丸マークの5月某日――未来方向タイムトラベル時のほう――に嗅いで以来だな……)
キョン(あぁ、中身はあんなやつだがしっかりと女性ホルモンが出ているらしい! 肉体的にも成長してるのか……)ドキドキ
ハルヒ「すぅ……」ギュッ
キョン(……って、もう寝たのか。コイツ、寝ながらにして腕の力を込めてきやがる)
ハルヒ「んん……」
キョン(色っぽい声を出しやがって)
ハルヒ「ジョ……ン……」
キョン(正直、たまりません……)
ハルヒ「だい……好き……」
キョン(性欲を持て余す)ギンギン
2010.08.11 (Wed) 6:09
北口駅前
キョン(俺の腕を縛っていた縄は起き掛けに解いてもらった。あれじゃ歯も磨けないしトイレにも行けなかったからな)
キョン(だがどういうわけかハルヒはその縄を手に持っている。何に使う気だ?)
ハルヒ「おっはよー! みんな、準備はいい? さぁ、SOS団が世界を変えに行くわよ!」
みくる(小)「お、おー!」
みくる(メ)「うふふ。いいなぁ、この頃のわたし」ボソッ
長門「…………」
ハルヒ「有希も朝早くの招集にしっかり応えてくれて、団長として鼻が高いわ!」
キョン(そう言えばこっちの世界の長門は、古泉みたいなわけわからん状態にはならないのか?)
キョン「なぁ、長門。お前は、宇宙人的に見てこの事態をどう考えている」ヒソヒソ
長門「情報統合思念体の総意として世界改変については好ましく考えられている」
キョン「それはまた、いったいどうして」
長門「この世界では自律進化の可能性を得ることができないことが予見された」
キョン「そう、なのか? まぁ、元の世界でもどうなのかはわからんが」
長門「涼宮ハルヒとあなたが付き合っていない世界なら、あるいは」
キョン「……それって、そんなに大事なことなのか」
長門「すごく」
キョン(まぁ、理由はともあれ長門が仲間だってなら問題はないか。……仲間、というより、単に利害が一致しているだけ、というのがなんとも隔靴掻痒だ)
ハルヒ「キョン、ちょっと手出しなさい」
キョン「ん? こうか」スッ
キョン(その後コイツは何を思ったのか自分の手首と俺の手首を縄で縛ったのだ。片手で器用なもんだ、じゃなくて!)
キョン「お、おい!? なんのつもりだ! この縄を解け! これから電車に乗るんじゃなかったのか!?」
ハルヒ「ダメよ、こうしてないと人ごみの中でアンタが連れていかれちゃうかも知れないじゃない」
キョン「そうは言ってもだな、これはさすがに……」
ハルヒ「恋人繋ぎしてあげるから観念しなさい?」ニコッ
キョン(ただひたすら俺が恥ずかしいだけか……。仕方ない、辛坊しよう)
キョン(なに、世界線漂流の恥はかき捨てなのだ。決してハルヒの和解斡旋案をうべなったわけではない)
キョン(昨晩は古泉に煮え湯を飲まされたり、ハルヒにテストステロンの過剰分泌を強制させられたおかげで一睡もできなかった。移動中に仮眠を取らせてもらおう)
2010.08.11 (Wed) 10:04
秋葉原駅 電気街口
キョン(新幹線の中で爆睡した俺とハルヒは機関に襲撃されるようなこともなく無事東京へ到着した)
キョン(俺たちの睡眠は未来人と宇宙人の聯合艦隊によって本土防衛されていたらしい)
ハルヒ「アー! キー! ハー! バー! ッラーーーーッ!」
キョン「やめんか恥ずかしい!」
みくる(小)「ここが秋葉原ですかぁ」
みくる(メ)「みくるちゃん、変な人に話しかけられてもついて行っちゃダメよ?」
キョン(冷静に考えると俺は美女4人に囲まれたハーレム状態でありながら縄で縛られ動物のような名前で呼ばれているというパラフィリアもビックリのアブナい辺幅を飾っていた)
ハルヒ「さっそく未来ガジェット研究所へ向かいましょう! キョン、案内して!」
2010.08.11 (Wed) 10:20
大檜山ビル2F
ハルヒ「ここが未来ガジェット研究所……! いい感じに人の目を盗んで俗世に擬態してるわね」
キョン「好評価すればそうなんだろうが、ボロいテナントビルだとも言えるな」
ハルヒ「有希! 機関の動向は!?」
長門「周囲に多数。現在は手をこまねいている様子」
キョン(このハルヒは長門のことをどういう風に理解しているんだろうな)
ハルヒ「なるほどなるほどー。それじゃぁみくるちゃん、とつげきー!」
みくる(小)「あ、あたしですかぁ!? ひゃぁっ!!」バターン
キョン(人、それを無策と言う!)
岡部「だ、誰だ!?」
紅莉栖「あら、お客さん?」
みくる(小)「あ、あのっ! 突然お邪魔してすいません……」ヒグッ
岡部「ほう、いつぞやの西の高校生探偵団ではないか」
キョン「どうも、三日ぶりですね。岡部さん、牧瀬さん」
紅莉栖「三日ぶり……?」
岡部「あぁ、そうか。助手は覚えていないだろうが、彼ら、というかそこの少女涼宮ハルヒにも、過去を司る女神作戦<オペレーションウルド>に参加してもらったのだ。その様子では成功していたようだな。フフゥン」
ハルヒ「なにコイツ、態度がデカいわね」
みくる(メ)「なんですかその大層な名前の作戦は」
紅莉栖「あんまり気にしないでください……この人変なんです……」
岡部「変ではぬぁい! メァッドと言いたまえ! えー、レディとは初対面ですね」
みくる(メ)「来波アサヒと申します。引率の先生みたいなものだと思ってください」ニコッ
紅莉栖(ところでどうして手首を男女が縄で縛りあっているのかしら……。そういうプレイ?)
キョン「時間が無いので簡潔に言います。今俺たちは機関に狙われています。迅速に元の世界線に戻していただきたい」
岡部「な、何ッ! ついに機関が我がラボの偉大なる研究を危険視し、世界の変革を阻止せんと武力行使に出ただとッ!!」
キョン「……まぁ、間違ってはいません」
岡部(えっ、機関ってなんだ!? 咎人への啓示<アポカリプス・オブ・ガリアン>のことではないよな……。何かの組織か!?……よくわからんが、少年の話に合わせておこう!)
紅莉栖「なに、彼もソッチ系の人なの?」ヒソヒソ
ハルヒ「そうよ、カッコイイでしょ」ヒソヒソ
紅莉栖「は、はぁ!?」
ハルヒ「あげないわよ?」
紅莉栖「い、いらないわよ!」
キョン(俺の隣でひそひそ話をするならせめて聞かれないよう努力していただきたい)
岡部「フ、フフ。我が望みは世界の混沌……、止められるものなら止めて見るがいい! フゥーハハハ!」
キョン「それで、急いで電話レンジを貸してほしいんです」
岡部「電話レンジ“(仮)”だ、カッコカリ! というか、Dメールで元の世界線に戻ろうというのか? 果たしてそんなことが可能か……?」
みくる(メ)「それについてはわたしから。その前に……」スッ
みくる(小)「ふ……ふみゅぅ……」バタッ
みくる(メ)「この子が疲れて眠ってしまったので、そこのソファーを貸してもらってもいいでしょうか」
キョン(また例のアレで眠らせたのか。半年に一回はやってる計算になるな、コレ)
紅莉栖「どうぞ」
みくる(メ)「ありがとうございます」
みくる(メ)「Dメールによって発生した過去改変は、キッカケとなる事象を打ち消す行動を取らせるようなDメールを送れば、ほとんど元の世界線と同定できる世界線変動率<ダイバージェンス>の世界線に移動します」
岡部「貴様はいったい……」
ハルヒ「いいから早くその電子レンジを出しなさいよ」
岡部「電話レンジ(仮)だと言っておろう!! しかし、今は使えないのだ……」
キョン「な!? 一体どうして!?」
岡部「いや、それがだな……」
紅莉栖「申し訳ないけど、今電話レンジは改造中でちょっとバラバラな状態なの。一応元のDメール送信装置に戻すこともすぐできるけど……」
岡部「カ・ッ・コ・カ・リどぅわぁ!!!」
キョン「すぐって、どれくらいですか!?」
紅莉栖「1時間くらいかしら。できれば戻したくないってのが本音よ。あと2日も待ってくれれば改造が完了してDメールも機能するようにできるんだけどね」
ハルヒ「時間が無いって言ってるでしょ! 話聞いてんの!?」
紅莉栖「は、はぁ!? あのねぇ、いきなり押しかけてきといてね、どうして私が知らない高校生のお願いを聞いてあげなきゃいけないの?」
岡部「やめろ二人とも。それで……キョン、とか言ったか。少年よ、本当に世界をあるべき姿に戻したいと言うのだな」
キョン「俺は、SOS団との大切な思い出を取り戻したい。あの日あの時に、そう決意したからな……」
長門「…………」
みくる(メ)(あれー、キョンくんは至って普通の返事をしてるつもりなんだろうけど厨二病くさい……!)
岡部「それが答えか。フッ、貴様も運命探知の魔眼<リーディングシュタイナー>の能力に踊らされた男の一人……」
岡部「いいだろう。貴様がその罪を背負い生きていくというならばッ!!……同じ能力者のよしみだ、慈悲をくれてやろう」
岡部「クリスティーナ! マシンのDメール機能を復活させろ!」
紅莉栖「ティーナをつけるな! んもうッ! 後でなにかおごってよね!」
岡部「それで、Dメールによって世界はどのように変わっていたのだ?」
岡部「俺にとっては目の前から涼宮ハルヒ女史が消滅したようにしか見えなかったが」
キョン「改変後、俺たちは地元に居ました。一番大きく変わってたのは、ハルヒと俺がつ、つ……、男女交際をしている世界になってたんです」
ハルヒ「どうもー」ダキッ
キョン「ハルヒさん、抱き着かれると暑苦しいのですが」
ハルヒ「まぁ、あたしが付き合ってたのは未来人ジョン・スミスだけどね」ダキッ
岡部(ジョン・スミス? たしか俺がジョン・タイターについてググった時、まったくヒットしなかった中にそんな言葉があったような……。なんだっけか、涼宮ハヒ……?)
岡部「ほっほーん、あの時のDメールはそういう内容だったのか、この発情期ティーンエージャーがッ!」
ハルヒ「知ってんの!?」
岡部「いや、メールの中身までは知らん。見せろと言っても聞かなかったからな、あの時の貴様は」
ハルヒ「そ、そう。知らないならいいけど。あと貴様って言うのやめて」
岡部「フッ、世界が変わっても貴様は変わらんな」
ハルヒ「口で言ってわからないの。そう」シュッ
岡部「ギガンドボグデギバダンダ(機関の目的はなんだ)」ボロッ ←ハルヒに顔面を蹴られた
キョン「俺の世界改変を止めさせること。具体的には、今日の昼の12時までにDメールを送信させないようにすることです」
岡部「12時?」
みくる(メ)「その時間を過ぎてしまうと世界線同士がアトラクタフィールドレベルで不干渉状態に陥ってしまって、Dメールによる改変を受け付けなくなってしまうんです」
岡部「さっきからこの麗人はどうしてそんなに世界線に詳しいのだ? ジョン・タイターのファンか何かか?」
ハルヒ「この人、こう見えても未来人なのよ」ドヤァ
岡部「な……! マジなのか?」
みくる(メ)「うふふ。わたしはとっても遠い未来から来ました。色々聞きたいって顔してるけど、Dメールを送るまでは待ってね」
岡部「あ、あぁ。……ん? だがDメールを送ったらこの麗人は目の前から消えていなくなってしまうのでは……」
キョン「向こうのハルヒが知らないはずの人なので、内密によろしくお願いします。詳しくは帰ってから」
2010.08.11 (Wed) 11:41
未来ガジェット研究所
カチッ カチッ カチッ カチッ
紅莉栖「…………」カチャカチャ
長門「…………」ペラッ
キョン「……洋書、おもしろいか?」
長門「わりと」
みくる(メ)「…………」
みくる(小)「スゥ……スゥ……」
岡部「ええい、クリスティーナよ! まだできんのか!?」
ハルヒ「一時間でできるって言ったじゃない! もう過ぎてるわよ時間!!」
紅莉栖「うるっさい! ほんっとうにうるっさい! メールの準備でもして待ってたらどうなの!?」
岡部「そうだったなー、うんそうしよううん。少年、メールの文面は考えているのか?」
キョン「えっと、全部で18文字でしたよね。これです」
『ジョンに関わるな世界がつまらなくなる』
岡部「こんなんでいいのか?」
ハルヒ「このあたしが太鼓判を押すわ。あの時のあたしがこのメールを受信したら、多分行動しないから」
ハルヒ「でもそれでいてジョンのことを知りたいとは思い続けると思う。ホントにつまらなくなるのか、調べたらおもしろそうだしね」
キョン(いつも古泉のやつにメンタル診断されてたハルヒだが、こう自分の口で言ってくれると回答に信憑性がある)
岡部「本人が言うと説得力が違うな。しかしどうして未来人はジョンを名乗りたがるのか……」
紅莉栖「はい、完成したわ。送り先の日時はいつ?」
紅莉栖「すぐ放電現象を起こすから、そしたら送信して」
岡部「おぉっ! よくやったぞクリスティーナ!」
紅莉栖「」ギロッ
岡部「ヒッ。に、睨むでない……」
みくる(メ)「2006年7月7日21時59分です」
紅莉栖「オーケー。すぐ計算する。2008年が閏年だから……」
11:57:00
長門「……機関が動き出した」
岡部「何ッ!! 機関め、最後の悪あがきと来たかぁー。ククク……」
キョン「このタイミングで……! 岡部さん、浮ついてる場合じゃない! なんかこう、撃退措置を!!」
古泉「その必要はありませんよ」
ハルヒ「!!」
みくる(メ)「!!」
岡部「む?」
キョン「くっ……、来やがったか」
古泉「このタイミングにすべてを賭けさせていただきました」
古泉「さぁ、チェックですよ。王手飛車取りです」
キョン「ってことはまだ詰んじゃいねぇだろうが……」
ハルヒ「あたしの前でよくもまぁ堂々と……」
古泉「元々あなたたち二人のことを、僕は快く思っていない節がありました。いえ、正直に言いましょう」
古泉「羨ましかったのですよ、涼宮さんとお付き合いされているジョン・スミス氏が」
古泉「思春期特有の病として処理すべきでした。ですが、今回のイレギュラーが発生して、僕はわからなくなった」
みくる(メ)「あなたはカタストロフを望んでいるの……!?」
古泉「いいえ。僕は彼を殺すつもりが無いどころか、二人の仲を裂こうとさえ考えていません」
古泉「この安穏とした世界で平和に暮らしてほしいのですよ。今回の行動について、今すぐには無理でもいずれ涼宮さんも理解してくれると信じています」
キョン「なんだこいつ……イカれてやがる……」
ハルヒ「男の嫉妬ほど醜いものはないわ……」
古泉「後で何が起きても機関が処理をする、ということでようやくコンセンサスが得られたのですよ」
古泉「涼宮さんを手中に納めてしまえば、他組織のみならず宇宙人や未来人とも交渉しやすいですしね」
キョン「こいつ、この場でハルヒを人質に取る気か……ッ!」
岡部「貴様が“機関”のエージェントだと……? どこからどう見ても営業スマイルの高校生にしか見えんが。まさかッ! それは世を忍ぶ仮の姿で……」ブツブツ
古泉「巻き込まれてしまって、あなたもかわいそうな人だ」BANG!!
岡部「は……あ……」ガクッ
紅莉栖「え……お、岡部? 岡部ぇっ!?」
ハルヒ「拳銃!? 嘘でしょ!?」
キョン「この野郎……ッ!!」
11:58:36
古泉「あとは牧瀬さんを1分間行動不能にさせればチェックメイトです」
古泉「サイエンシー誌にも論文が掲載された若き天才に向けて銃口を向けなければならないとは」カチャ
紅莉栖「なんなのよアンタたち、一体なんなのよッ……」スッ
古泉「さすがアメリカ生活が長いだけあって聞き分けが良いみたいですね」
古泉「そのまま両手を挙げて1分間おとなしくしていてくだされば撃ちませんので」ニコッ
紅莉栖「……あなた、この電話レンジについて、どこまで知っているの?」
古泉「そこの異世界人からの情報しか得ていませんが、この場所が必要であること。つまりあなたたち二人の研究員による助力が必要、ということでしょう」
紅莉栖「そうね、間違っていないわ。だけど一手届かなかったわね」
古泉「何を……」
紅莉栖「この電話レンジはそもそも遠隔操作できるように作られているのよッ!!」
バチバチバチバチバチッ!!
古泉「!?」
11:59:51
バチバチバチバチッ
ガタガタガタガタ
紅莉栖「放電現象!! 今よ、キョン!!」
キョン「よしきたッ!!」ピッピッピッ
古泉「くっ!!」BANG!!
ハルヒ「させないッ! きゃぁ!!」パァン!
キョン「ハ、ハル――――――――――――――――――
D 0.337187%
2010.08.11 12:00:00
湯島某所
―――――――――――ヒッ!!!!! ぐっ……」ズキズキ
古泉「おや、お帰りなさい。どうでした、向こうの世界は」
キョン「はぁ……はぁ……。最高に悪夢だったぜ、ちきしょう……」
古泉「それはそれは。少し落ち着いてから情報交換と行きましょうか?」
キョン「あぁ、それは助かる。だが今すぐ確認したいことがある」
古泉「なんでしょう」
キョン「ハルヒは、生きているか?」
古泉「……えぇ、生きていますよ。ご安心ください」
キョン「そうか……」
古泉「……なるほど、そのような世界改変を経由してきたのですね」
キョン「世界がそっくり再構成されているとして、直前までいたお前と、今目の前にいるお前は同じ存在なんだよな?」
古泉「そうなるみたいですね。あなたの言う通り、パラレルワールドというわけではないなら」
キョン「よし、古泉。歯ぁ食いしばれ」
古泉「えっ」
ハルヒ「IBN5100を探しに行くわよ!」【その2】
元スレ
ハルヒ「IBN5100を探しに行くわよ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1438088111/
ハルヒ「IBN5100を探しに行くわよ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1438088111/
「涼宮ハルヒの憂鬱」カテゴリのおすすめ
- ハルヒ「みんな、ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
- 古泉「ゲームを作ってみたんですが」
- 長 門 有 希 の 黒 歴 史
- 朝倉「朝倉涼子の憂鬱」古泉「これはこれは」
- 長門「キ ク ナ」【東急東横線】
- キョン「お。奇遇だな、長門、古泉」
- 朝倉「>>5をして涼宮ハルヒの出方を見る。」
- 古泉「涼宮さんはああ見えて普通の女の子です」キョン「マジか」
- 長門「だりーな」
- キョン「特にやる事もないし、ハルヒでもからかうか」
- キョン「ハルヒって乳でかくね?」
- 長門「ただいま」キョン「おかえり」
- 朝倉「あなたを夕食に招待して涼宮ハルヒの出方を見る」
- 佐々木「ねぇ、キョン。 君は特別では無いのかい?」
- ハルヒ「こっ、高校デビューってのをしてみるわっ!」
- ハルヒ「親友(笑)」佐々木「SOS団(笑)」
- キョン「ち、近寄るな! 化け物!」
- キョン「お前ら俺が見えてないのか?」
- ハルヒ「不思議探索に行くわよ!!」
- 古泉「あぁ そういえば皆さんはオ○ニーする時はどのように……?」【前編】
「シュタインズ・ゲート」カテゴリのおすすめ
- 岡部「最近ラボメン達が中途半端に前の世界線の記憶を思い出してる」
- ダル「牧瀬氏、オカリンのこと好きっしょ?」紅莉栖「ふぇ!?」
- 岡部「へ、へぇい、キャンユースピークイィングリーッシュ?」
- 「岡部倫太郎の消失」
- 岡部「紅莉栖が好きすぎて生きているのが辛い」ダル「」
- 紅莉栖「私明後日にはアメリカに帰るの」岡部「だから?」
- 岡部「紅莉栖!」千早「はい?」
- 岡部「危ない紅莉栖!」紅莉栖「ふえっ?」
- 紅莉栖「岡部が口をきいてくれなくなった」
- 岡部「離合集散のアンフィビアン」
- 岡部「厨二キャラに疲れた」
- オカリン「今夜、星を見に行こう!」まゆしぃ「え?」
- 岡部「紅莉栖をひたすら愛で続けたらどうなるか」
- 紅莉栖「岡部ぇ……岡部がいないと私……」
- ダル「胸を大きくする未来ガジェットを作ったお」 紅莉栖「」ガタッ
- 岡部「ストライクウィッチーズ?」
- 岡部「クリスティーナを無視ししつつも愛情をそそぐ」
- 岡部「ん、これは…助手のアルバムか」
- 紅莉栖「今日はエイプリルフールか」
- 岡部「作戦名はオペレーション・インフィニット・ストラトスだ!」