杏「本当にバンジージャンプやんなきゃいけないの?」
瑞樹「今回の『筋肉でドン! Muscle Castle!!』、いかがでしたでしょうか?」
瑞樹「番組の雰囲気をがらりとリニューアルしてからの1発目でしたが、結構盛り上がったのではと思います」
瑞樹「愛梨ちゃんはどう?」
愛梨「そうですね~。ただクイズに答えるだけじゃなくて、とにかく体を張るってところが良かったんじゃないでしょうか」
愛梨「最後のすべり台クイズなんかは、特に体を使っていましたね!」
瑞樹「ええ。頭を使う、同時に全身を使う……」
瑞樹「まさに、あの部分に番組の根幹が詰まっているのよ!」
愛梨「すべり台クイズといえば、最終盤のCANDY ISLANDチームのあの追い上げ!」
瑞樹「あれは本当にとんでもなかったわ。おもに杏ちゃん」
瑞樹「どすえチームがあのまま圧勝すると、正直バラエティー的にはNGに近いんだけど……」
瑞樹「その流れを覆して、なおかつ盛り上げてくれた。今回のMVP決定よ」
愛梨「勝ったのに罰ゲームをやる流れになっちゃいましたけどねー」
瑞樹「そこはまあ、頭脳で勝って、肉体で負けた的な……そういう感じで」
瑞樹「さて、来週は今回出演の両チームによる罰ゲーム特番です!」
愛梨「1枠丸々使って、野外ロケで~す♪」
瑞樹「カワイイアイドル達による全力のバンジージャンプを、どうぞご覧ください。それでは!」
瑞樹「瑞樹と」
愛梨「愛梨の」
瑞樹・愛梨「筋肉でドン! Muscle Castle!!」
瑞樹「次回もお楽しみに♪」
愛梨「さようなら~♪」
番組終了後 舞台裏
瑞樹「みんな、お疲れ様~」
かな子「お疲れ様です!」
智絵里「おっ、お疲れ様……です」
杏「はあ……お疲れ様」
瑞樹「杏ちゃん、もうそんな脱力モードになっちゃったの?」
杏「本気出す部分が終わったから、杏はいつもの杏に戻るよ……」
瑞樹「緩急が極端ねぇ。その切り替え能力が羨ましいわ」
双葉杏(17)
三村かな子(17)
緒方智絵里(16)
川島瑞樹(28)
十時愛梨(18)
愛梨「それにしても、杏ちゃんすごかったね~」
瑞樹「私も正直あそこまでやるとは思わなかったわ。解答見たとき、目が点になったもの」
かな子「私達も、杏ちゃんがあんなにすごいなんて知りませんでした」
智絵里「どうやって計算したの……?」
杏「普通に暗算しただけだよ」
かな子「普通はあんな暗算なんてできないよ!?」
瑞樹「恐ろしい新人ね……シンデレラプロジェクトって」
瑞樹「せっかくだから、1人ずつ感想でも聞いていこうかしら。初めてのバラエティー番組なんでしょう? どうだった?」
かな子「は、はい! その、緊張しました!」
かな子「ポスターやCDジャケットの撮影でカメラを向けられることはありましたけど……」
かな子「テレビカメラにいっぱい囲まれて、その向こうには何十人もお客さんがいるのも初めてで」
かな子「なんか、始まる前からドキドキで……もう終わったのに、まだドキドキしていて……」
かな子「すっごく楽しかったです!!」
瑞樹「わかるわ」
瑞樹「私も初めての番組やステージのとき、緊張もしたけど、それ以上に楽しさでいっぱいだったもの」
かな子「そうだったんですか?」
瑞樹「そうよ。私ね、この年齢だから他の子よりもステージに立つのがちょーっと遅かったんだけど」
瑞樹「こういうステージに綺麗な衣装を着て踊り出たら、これがアイドルかぁ……って嬉しくてたまらなかった」
かな子「女の子はみんなアイドルが憧れですからね」
瑞樹「何歳になっても、女の子の心はずっと女の子。私はそう思う」
瑞樹「今日の経験は、あなた達の中でとても大切なものとして残るはずよ。がんばってトップアイドルになってね!」
かな子「はい! がんばります!」
愛梨「智絵里ちゃんは?」
智絵里「その……わ、私も、かな子ちゃんと同じで緊張しました……」
智絵里「緊張して、撮影以外にも、2人の足を引っ張って……」
愛梨「撮影以外?」
杏「あー、うん。智絵里ちゃん、休憩中に倒れちゃったんだよね」
愛梨「倒れた!?」
瑞樹「それ本当? 気分は大丈夫?」
智絵里「今は、もう大丈夫です。たぶん緊張しすぎたのかも……」
智絵里「みんな、あの……心配かけて、ごめんなさい」
かな子「そんな! 謝らなくて良いよ、智絵里ちゃん!」
杏「そうそう。初めての収録だったから、緊張するのは仕方ないって」
杏「それに、杏達としては、智絵里ちゃんと一緒に今日の仕事を最後までできたことが嬉しいよ」
かな子「うん。私達、3人揃ってCANDY ISLANDだもんね!」
智絵里「あっ……ありがとう……杏ちゃん、かな子ちゃん……うぅ、ひぐっ」
杏「あーあー! 智絵里ちゃん!?」
かな子「な、泣かないで?」
瑞樹「美しいわね……若い子の友情。青春って感じで」
愛梨「緊張かぁ、私も最初の頃はドキドキしたなぁ」
愛梨「それでもう、すぐに暑くなっちゃって……」
瑞樹「ダメよ、愛梨ちゃん」
愛梨「わかってますよ~」
かな子「何かあったんですか?」
瑞樹「愛梨ちゃん結構暑がりで、こういうところでも何かあるとすぐに脱ぐのよ。服を」
杏「えっ、カメラの前なのに?」
瑞樹「カメラの前でも容赦無く」
智絵里「す、すごい……」
かな子「愛梨さんが脱いだら、あの体が……」
愛梨「この司会の衣装は通気性が良いので、今のところは問題無しですよっ!」
瑞樹「暑くならないように工夫してくれんじゃないかな? 愛梨ちゃんはミニスカで足出てるし」
愛梨「あぁ、なるほど。そうかもしれませんね!」
瑞樹「最後は杏ちゃん」
杏「えー、杏も?」
愛梨「ヒーローインタビューです! あっ、杏ちゃんは女の子だからヒロインインタビューかな?」
杏「そうだなぁ……」
杏「後々に振り込まれるであろうギャラや、CDの印税、自分へのご褒美で食べる飴のことを考えると胸がいっぱいです!」
杏「以上」
智絵里「あ、杏ちゃん……」
かな子「杏ちゃんらしいといえば、らしい……のかな?」
瑞樹「いいじゃないの。ご褒美っていう結果のためにがんばったってことでしょう? がんばる目的があるのは良いことよ」
瑞樹「はぁ……こうやって初々しいデビューを飾る後輩を見ると、目頭が熱くなるわね」
愛梨「瑞樹さんも、すっかり先輩の貫禄ですね」
瑞樹「そうねぇ、だって私ももう28歳……ってコラ! 言わせないの!」
愛梨「えへへ」
瑞樹「というか、私も愛梨ちゃんも貫禄が出るほどアイドルやってないでしょうに」
愛梨「そうですけど、でも3人にとっては私達も先輩アイドルですから。先輩らしくしないと、ですよ♪」
瑞樹「……ふふっ、先輩か。これより後の後輩達からも、アイドルのお手本って言われるような先輩になりましょうね」
愛梨「はい!」
瑞樹「それじゃあ、私達はこれで。来週のロケもよろしくね」
愛梨「じゃあね~♪」
かな子「今日はありがとうございました!」
智絵里「あの、あ、ありがとうございました!」
杏「おつかれさまでしたー……」
瑞樹「色々と期待しているからね~?」
智絵里「川島さん達、いいなぁ……大人の雰囲気、っていうのかな」
かな子「美人で、スタイルも良くて……」
杏「何食べたら愛梨さんみたいな胸になるんだろうね?」
智絵里「うん……胸、かなりすごいよね……」
杏「かな子ちゃん、あんな感じにババーンってなる、美味しくて大丈夫なお菓子って無い?」
かな子「大丈夫なお菓子は……ごめん。私もちょっと」
杏「あぁ、大丈夫。別に本気で聞いたわけじゃないから」
武内P「みなさん」
かな子「プロデューサーさん!」
智絵里「あ……プロデューサーさん……」
杏「プロデューサー、おつかれー」
武内P「お疲れ様です」
かな子「あの、どうでしたか? 今日の収録は……」
武内P「はい。実に、すばらしいものでした」
武内P「3人それぞれの魅力、そしてCANDY ISLANDというユニットの魅力。存分に発揮されたと思います」
武内P「カメラを通して、テレビの向こう側にいる視聴者のみなさんにも、それは伝わるでしょう」
武内P「今日は……最高の番組デビューでした」
かな子「あっ……ありがとうございます! 良かったね、智絵里ちゃん! 杏ちゃん!」
智絵里「うん……! やったね、みんな!」
杏「なんだか照れるなぁ。これで飴が添付されたファンレターとか来たらどうしようかなー、へへへへ」
武内P「あの、緒方さん」
智絵里「は、はい」
武内P「具合のほうは……よろしいのでしょうか?」
智絵里「はい、大丈夫です。かな子ちゃんや杏ちゃんのおかげで……元気になりました!」
武内P「そうですか。でも、決して無理はなさらないでください」
智絵里「心配をかけてしまって、すいませんでした」
武内P「いえ……みなさんが元気であることが、ファンの方々や私にとって1番ですので」
武内P「あとは、楽屋入りの時と同様に共演した方々へのあいさつをお願いします」
杏 (あいさつ……そういえば、KBYDチームがうちの楽屋に来たから、あいさつに行ってなかったな)
武内P「それと……罰ゲームのロケに関してですが」
杏「あっ」
かな子「そうだった……」
智絵里「お、お仕事がまたできるのは嬉しいけど、やっぱり……」
武内P「すみません。お気持ちは重々承知なのですが……」
杏「わかってるって。めっちゃ怖いけど、やるしかないし。怖いけど」
武内P「はい……」
武内P「すでに企画段階において、当該箇所への予定は組んであります。つまり日程は決定済みです」
武内P「集合・移動の時間等さらに詳細なものが決まり次第、追って3人にご連絡を……」
かな子「はぁ……」
智絵里「うぅ……」
武内P「……すみません」
杏「いや、プロデューサーが謝る必要は無くない?」
武内P「この番組への出演を打診したのは私なので……」
杏「それなら、なおさらだよ」
杏「プロデューサーがデビューの場をくれた。杏達はやりきった」
杏「引き分け罰ゲームは理不尽だけど、負けなかったからCDの宣伝だってできた。文句無しの展開じゃん? ねぇ、2人とも?」
かな子「……うん、そうだね。この番組に出なかったら、アピールもできなかった」
智絵里「お客さんにも、知ってもらえたもんね」
杏「最高の番組デビューだったんでしょう? じゃあ、『すみません』じゃないよね?」
杏「『おめでとう』と『ありがとう』……違う?」
武内P「……はい。おめでとうございます」
杏「ありがとう、プロデューサー」
楽屋
かな子「ふぅ……終わったー……」
智絵里「でも、長いようで短かった気もするね」
杏「杏は全力出しすぎてボロボロだよ……飴を食べないと元気が出ない……」
かな子「杏ちゃんのおかげで引き分けに持ち込めたから、本当にありがとうね」
杏「杏は罰ゲームが嫌だったから、ちょっとエンジンかけただけ。引き分けに持ち込んだ決定打は、智絵里ちゃんだよ」
智絵里「わ、わたし? そんなこと……」
かな子「智絵里ちゃんもありがとう。私もシロツメクサなんてわからなかったもん」
杏「クローバーは幸運の印。よっ、CANDY ISLANDの幸運担当!」
智絵里「そ、そんなたいしたことじゃないよ……えへへ」
杏「そういえば」
杏「プロデューサーが楽屋へのあいさつって言ってたけど」
杏「よく考えたら、最初のあいさつも杏達が行く前にKBYDチームがこっちに来ちゃって、なし崩しにあいさつになったから……」
杏「今度はこっちから行かないとマズくない? 芸能界の上下関係的に」
智絵里「そういえば……ど、どうしよう、かな子ちゃん!」
かな子「落ち着いて智絵里ちゃん。まだ着替えてないけど、とりあえずこのまますぐに向こうの楽屋に……」
幸子「その必要はありませんよっ!!」
かな子「えっ!?」
智絵里「あっ」
友紀「おいーっす! どもどもー!」
紗枝「おつかれさんどす~」
幸子「また来ましたよ、CANDY ISLANDのみなさん! このカワイイボクと……」
友紀「もういいじゃん。収録終わったんだし」
紗枝「そうどすえ。いちいち長い正式名称を言う必要もあらしまへんやん?」
幸子「ちょっと!? なんですか、この温度差!」
友紀「この場で派手に盛り上がっているのは幸子ちゃんだけだよー」
紗枝「人様の楽屋ではお静かに、どすえ」
幸子「えぇー……」
輿水幸子(14)
姫川友紀(20)
小早川紗枝(15)
かな子「あの、開始前にあいさつに行かなくてすいません!」
智絵里「収録前もこっちに来てもらって、今も……」
杏「えっと、なんというか」
友紀「そんなの別に構わないよ。キャリアもそんなに変わらないし」
紗枝「そうどすなぁ。うちらは特に気にしてまへんよ」
幸子「ボクも遅れて来た立場ですから、これといって言うことはありません!」
紗枝「そもそも、幸子はんが楽屋を間違えはったから、うちらがこっちに来たんどすえ?」
幸子「うっ……す、すいません」
友紀「しかし、良い勝負だったよ! 楽しかった!」
友紀「途中までリードしてたから、このままあたし達が勝っちゃうかなぁ……なんて思ったりもしたんだよね」
紗枝「まさか最後で追いつきはるとは、すごおすなぁ」
幸子「本来は頭脳や可愛さではボクのほうが上ですが、みなさんビギナーですから。今回ばかりは勝ちを譲ってあげただけですよ!」
友紀「ほう……? 幸子ちゃん!」
幸子「えっ、は、はい?」
友紀「いきなりだけど問題! 徳川将軍は何代目まで続いたでしょうか?」
幸子「何代……10、じゅう……えっと」
かな子「15代目!」
紗枝「まあ、ポンと出てきはりましたなぁ」
幸子「今ボクも言おうと思ってました! 本当です!」
友紀「思ってたならすぐ言わなくちゃ。クイズは速さだよ!」
杏「かな子ちゃんは歴史問題に山を張ってきたからね」
智絵里「やったね、かな子ちゃん♪」
かな子「そんなことないよ。覚えた範囲の問題が運良く出ただけだから」
紗枝「問題は次回の罰ゲームどすなぁ……」
かな子「やっぱり、結構高いところから飛び降りるんだよね?」
智絵里「こ、怖いね……」
友紀「なになに? みんなビビっちゃってるの? バンジーなんて楽しそうじゃん!」
杏「いやいや……そんなポジティブにはなれないって」
友紀「だって、バンジーなんて普通経験しないでしょ? お金もかからないし、やってみたいとか思わない?」
紗枝「思いまへんよ。怖いやないどすか」
幸子「そんな気持ちじゃダメですよ紗枝さん! 『バンジーを飛んでも自分はカワイイ』くらいの心を持たないと!」
友紀「おっ、幸子ちゃんもやる気だね! さすがはバラエティー芸人!」
幸子「フフーン! ……って誰が芸人ですか!?」
幸子「次回の収録もご一緒になるわけですから、みなさんよろしくお願いします」
杏「まぁ、うん」
友紀「案外楽しくてスッキリするかもしれないよ? ほら、ファイト♪」
かな子「ファ、ファイト!」
友紀「そうそう。ファイトファイト!」
紗枝「テレビに出て間も無いのに、とんでもないことになってしまいましたなぁ」
智絵里「そう、ですね。やっぱり考えるだけで怖いです……」
紗枝「うちらも同じどす。お互いに励ましあって、最後にはみんな笑けるような収録にしましょ」
智絵里「はい。がんばります」
幸子「では、また収録日にでも!」
かな子「帰っちゃったね」
智絵里「幸子ちゃん達……明るくて、楽しそう」
かな子「うん。なんか、アイドルを楽しんでいるって感じで」
杏「毎週この番組で苦いお茶飲まされているのに、心底楽しんでいるのは感心ものだよ」
かな子「あはは……」
杏「杏達もトップアイドルになるには、苦いお茶を楽しむレベルに到達しなきゃいけない可能性が……?」
智絵里「そ、それは、なかなか難しいかも……」
かな子「瑞樹さんに、幸子ちゃん……」
かな子「ポスターで見かけたり、テレビの向こう側にいた人達なのに」
かな子「同じ場所に立って、目の前で会話までしちゃったね」
智絵里「うん」
智絵里「私達、この間まで一般人だったのに」
かな子「アイドルに……アイドルになりたいなって小さい頃は思ったりしたけど、本当になっちゃうなんて……」
智絵里「夢みたい、だよね」
かな子「うん。すごく甘くて、キラキラした夢」
杏「そんなフワッとした気分じゃダメだよ、2人とも?」
杏「この番組に出た時点で、杏達はもう名実ともに『テレビの向こう側の人』になったんだから」
かな子「や、やっぱりそうなっちゃうのかな?」
杏「1億3000万人の目の前に、CANDY ISLANDが体操着で踊り出たわけだよ」
智絵里「改めて考えると、なんかすごい……」
智絵里「あっ、じゃあ……罰ゲームのバンジーも1億3000万人の前でやるってことだよね……」
杏「一応、そうなるかな」
智絵里「あうぅ……カエルさん、カエルさん……」
かな子「みんな! ここはあえて前向きに行こうよ!」
かな子「友紀ちゃんがさっき言ってたでしょう? バンジーが楽しそうだって」
かな子「やることは決まっちゃったから、むしろ精一杯楽しんじゃおうよ」
かな子「私もバンジーなんてやったこと無いし、怖そうだけど……でも、楽しいかもしれないもんね!」
杏「……ふっ」
かな子「あ、あれ? 何か変なこと言っちゃった?」
杏「いやいや、そうじゃなくて」
杏「かな子ちゃん、罰ゲームが発表された瞬間に“無理です”って即答したじゃん?」
智絵里「あっ、言ってた」
かな子「あれは……だって、バンジージャンプって言われたからビックリして」
杏「杏達だって内心は全力拒否だったよ。ねっ?」
智絵里「うん」
杏「今だって気持ちは変わっていないのに、精一杯楽しもうって励まそうとしてくれてるのが、本当にすごい」
かな子「そうかな? 私は、みんなが暗いままは嫌だなぁ……って思っただけで」
杏「メンバーを思いやって、率先して行動して、そういう人はリーダーに向いている気がするね」
かな子「リ……リーダー!?」
智絵里「かな子ちゃんがCANDY ISLANDのリーダー……うん、すごく良いかも♪」
かな子「智絵里ちゃんまで!? む、無理無理、それは無理だよ!!」
杏「CANDY ISLANDなんてスイート感全開な名前なんだから、お菓子大好きかな子ちゃんがリーダーだとしっくり来るんだけどなー」
かな子「甘いお菓子は好きだけど、でもそれとこれとは違うよ……」
智絵里「わたしも……かな子ちゃんにはピッタリだと思うけど」
杏「そうそう。スイーツとしてバランス良好」
杏「かな子ちゃんがメイン……まぁ、ケーキの本体」
杏「杏と智絵里ちゃんはトッピングのフルーツって具合かな? アンズとチェリー」
智絵里「アンズとチェリー……?」
杏「智絵里……ちえり……ちえりー……チェリー……」
杏「杏はアンズ。そのまんま」
智絵里「チェリー……たしかに、わたしの名前ってさくらんぼみたいだね」
杏「ケーキというリーダーに、フルーツのトッピングとしてメンバーが脇からアシスト。名前負けしてないしピッタリ」
かな子「……」
智絵里「……あれ、かな子ちゃん?」
かな子「それは違うよっ!」
杏「おわっ」
智絵里「か、かな子ちゃん!?」
かな子「ケーキは……飾るフルーツが無ければ、生クリームしか無いの」
かな子「スポンジの間に入っていたり、上に飾られたフルーツも含めて、それでケーキっていう完成形なんだよ!?」
かな子「だから……だからそんな……」
かな子「自分達がただのトッピングみたいに言っちゃ……ダメだよ……」
杏「その、ごめん。変に卑下したわけじゃなくて」
智絵里「かな子ちゃん……」
かな子「あっ……ご、ごめん。私も別に怒ったとかじゃないの。えっと……」
かな子「お菓子はどれかが重要とかじゃなくて、そこにある甘いもの全部が主役だから……」
かな子「リーダーって推してくれるのは嬉しいけど、私はそういう線引きはいらない気がするの」
かな子「お菓子みたいに、みんなが主役。みんなリーダー。それで良いと思うよ!」
かな子「……そういうことじゃ、ダメかな?」
杏「みんなリーダー、か。良いんじゃない? 代表者がいなくても」
杏「頭になる人が必須ってわけでもないしね」
智絵里「みんな仲良しさんで、良いと思うよ」
かな子「じゃあみんなリーダーってことで!」
杏「みんなリーダーなら、何担当のリーダーか決めておこうか。まず智絵里ちゃん。好きなものとかで何か」
智絵里「わたし……? わたしは、何でも良いけど……好きなものなら、クローバーとか?」
杏「おっ、それ良いんじゃない? チームに幸運を呼び込むクローバーリーダー。今日のラストもそうだったし」
智絵里「こ、幸運なんて……。シロツメクサはたまたま……」
かな子「ううん。あの1問で引き分けに持ち込めたから、智絵里ちゃんは幸運を呼んでくれたよ♪」
かな子「杏ちゃんも、あそこまで得点を引き上げてくれてありがとう」
智絵里「うん、杏ちゃんがいなかったら負けてた」
杏「逆転を希望したのは杏だからね」
杏「ファッションショーで負けたし、杏のせいで道連れにするのは嫌だったからさ」
かな子「クイズが得意な杏ちゃんは、頭脳リーダーとか!」
杏「頭脳リーダー……ちょっと仰々しいけど、それで良いかな」
智絵里「最後は、かな子ちゃん」
かな子「私はどうしようかなぁ」
杏「はい、5秒前」
かな子「えぇっ! 考える時間くれないの!?」
杏「はやくはやくー。2……1……」
かな子「あー、うん、お……お菓子リーダー!!」
杏「はははっ、お菓子リーダーかぁ」
智絵里「ふふ、かな子ちゃんらしいね」
かな子「えー? ダメ?」
杏「ピッタリだよ。CANDY ISLANDの名前にこれ以上無いほど合っているリーダーじゃん」
智絵里「お菓子作りも上手な、お菓子リーダー」
かな子「上手だなんて……」
杏「出演者に配ったら喜ばれるよ、きっと」
かな子「あぁ、それ良いかも! プロデューサーさんに聞いてみて、今度やってみようかな」
武内P『みなさん、戻る準備は整いましたか?』
杏「あっ、プロデューサー来ちゃった」
智絵里「す、すいません! まだ着替えていないので、もうちょっと待ってもらえますか?」
武内P『し、失礼しました』
杏「杏達の生着替えを見たいなら中に入って来ちゃってもいいけど」
武内P『さすがにそれは……。では、着替えが終わりましたら車まで来て下さい。その間に私はもう少しスタッフの方々と話をしてきますので』
かな子「はい、わかりました!」
智絵里「未央ちゃん達はここに来ないの?」
杏「今日は観客として来ていたから、楽屋には来れないと思うよ」
かな子「さっき携帯に連絡が入ってて、先に戻っているからって。3人からも感想聞いてみたいね♪」
杏「ボケ・ツッコミ特訓の成果がどれくらい発揮されていたか、それを特に」
智絵里「わたし、ちゃんと出来ていたのかな……」
かな子「プロデューサーさんをあまり待たせるのも悪いし、着替えちゃおっか」
346プロダクション内 シンデレラプロジェクトの部屋
卯月「みなさん、お疲れ様です!」
凛「おかえり。みんな良かったよ」
未央「ええい2人とも、頭が高ーい! 本日の番組功労者の御前であらせられるぞ!」
卯月「ははー!」
凛「何そのノリ……」
未央「しぶりんも、ほらやってやって!」
凛「いや、やらないって」
島村卯月(17)
渋谷凛(15)
本田未央(15)
智絵里「みんな……今日の収録、見に来てくれてありがとう。あの、どうだった……?」
卯月「とっても良かったです! がんばる智絵里ちゃんの姿を見て、勇気をもらいました!」
凛「まぁ、最初はガチガチに緊張してたから見ていて心配だったけどね」
智絵里「あう……ごめんなさい……」
凛「でも、途中からいつもの自然な智絵里になって安心した。100点満点だよ」
智絵里「えへへ……♪」
智絵里「緊張が解けたのは、未央ちゃんのおかげなんだ」
かな子「そう、未央ちゃんが昨日色々手助けしてくれて」
凛「未央が?」
智絵里「緊張したら、お、お客さんを……カエルさんだって思えば良いって」
智絵里「そうしたら……だんだん大丈夫になったの」
卯月「未央ちゃんがアドバイスしてくれたんですね!」
かな子「他にも、みくちゃん達が一緒にボケとツッコミについて教えてくれたんだよ!」
凛「じゃあ、最後のCD告知の小ボケも?」
かな子「うん!」
卯月「すごいですね、未央ちゃ……未央ちゃん?」
未央「うーん……」
杏「な、何? 杏の顔がどうかした?」
凛「未央、何で難しい顔して杏を見つめてるの?」
未央「うー……ん………?」
杏「近い近い近い近い! どうしたのさ一体!?」
未央「不思議だなー、って思って」
杏「だから何が……」
未央「公共の場に出たときのキラキラしたカワイイ杏ちゃんと……」
未央「そうじゃないときのグータラでやる気ゼロの今みたいな杏ちゃんは、何度見ても……」
未央「落差が激しすぎる!」
卯月「それはたしかに……」
凛「いつもは仕事したくない、サボりたい、帰りたいってよく言っているもんね」
未央「本当は双子が入れ替わっているとかじゃないよね?」
杏「そんなわけないじゃん」
智絵里「あ、あのね! みんなは杏ちゃんのこと、変に思っているかもしれないけど……」
智絵里「杏ちゃんは、わ、私達に色々と教えてくれたり……気にかけてくれたり……」
かな子「すごく頼りになるんだよ、杏ちゃん」
凛「そんなベタ褒めするほどなんだ」
未央「杏ちゃんと長時間一緒に仕事したことが無いからなぁ。実はすごかったんだね」
卯月「私達がまだ知らない杏ちゃんの姿ってことですねっ!」
未央「どっちが本当の杏ちゃん? こっち? そっち?」
杏「ご想像におまかせするよ」
今西部長「どうやら、テレビでの仕事はうまくいったようだね」
ちひろ「みなさん、とても良い顔をしていますよ♪」
かな子「はい、精一杯出し切りました!」
智絵里「いろんなことがありましたけど……みんなのおかげで、うまくいきました」
杏「せっかくなので、ギャラに色を付けてくれれば嬉しいな、っと」
今西部長「ふむふむ。CDの売り上げが良ければ印税もそれだけ入るし、人気が出れば相対的にギャラも増えると思うが、そういうのはどうかな?」
杏「はーい! 杏、もっとがんばりまーす♪」
未央「変わり身はやっ!」
智絵里「あの、プロデューサーさんはまだお仕事なんですか?」
今西部長「ああ。今日の君達の仕事について報告書等のまとめ作業がまだあるから、あと20分や30分じゃあ終わらないだろう」
かな子「そうなんですかぁ……」
ちひろ「終わるまでは私もお手伝いしようと思いますので」
今西部長「私は彼から直接感想を聞きたいから、同じくもう少し残るつもりだ」
今西部長「すでに夕方だし、暗くなる前に君達も早く帰路についたほうが良いよ」
凛「プロデューサーが忙しいなら、邪魔しないほうが良いよね」
卯月「では、あいさつだけして帰りましょうか」
未央「そうだねー」
かな子「私達も帰ろう?」
智絵里「うん」
杏「はぁー、ようやく長い1日が終わる」
未央「何言ってんの。家に帰るまでが仕事だよ!」
杏「なんでやねん……って杏はボケ担当なんだけど」
346プロダクション社外 帰り道
卯月「さようならー」
未央「じゃあねー!」
凛「またね」
かな子「うん、また今度ね♪」
未央「しまむー。しぶりーん。ちょっとゲーセン寄って行こうよゲーセン!」
凛「たまにはまっすぐ帰ろうよ……」
卯月「そうですよ未央ちゃん。あまり頻繁に行くとおこづかい無くなっちゃいますよ?」
未央「ダメなの? じゃあじゃあ――」
杏「さぁ、今日の疲れをとっとと取るために、はやく帰ろう」
かな子「杏ちゃんそればっかり言ってない?」
杏「疲れたのは事実だからさ。2人もそうじゃない? カメラと人に囲まれたことだし」
智絵里「そうだね……たしかに、ちょっとだけ疲れちゃったかも」
かな子「そんな疲れたときは、あま~いお菓子を食べると良いんだよ♪」
杏「あぁ、なんか聞いたことある」
智絵里「で、でも、疲れたときの甘い物は逆に太っちゃうって話もあるよ……?」
かな子「えぇー!? そんなぁ……」
杏「こんにゃくゼリーみたいなカロリーの低いお菓子を食べればいいんじゃない?」
かな子「そ、そうだね! それなら大丈夫だよねっ!」
かな子「あっ、忘れてた!」
智絵里「どうしたの?」
かな子「昨日……お菓子を食べれば緊張もほぐれるかなーって思って、クッキーを焼いたんだけど……」
かな子「小麦粉使い切っちゃって、買ってから帰る予定だったの! ごめんね、ちょっとスーパー行ってくる!」
智絵里「うん。じゃあ、さようなら」
かな子「ばいばーい!」
杏「じゃねー」
杏「緊張をほぐすためにお菓子作って食べるってのが、実にかな子ちゃんというかなんというか……」
智絵里「……」
智絵里「あ、あの、杏ちゃん」
杏「んー」
智絵里「少し聞きたいことがあるんだけど、大丈夫……?」
杏「改まってそんなこと聞かなくても。遠慮なく言ってくれれば」
智絵里「うん……」
智絵里「わたしの勘違い、とも思ったんだけど」
智絵里「最後のクイズ……シロツメクサの問題、本当は杏ちゃん……答えを知ってたんだよね?」
杏「……」
杏「どうしてそう思うの?」
智絵里「……かな子ちゃんはマシュマロ対決で目立って、杏ちゃんもファッション対決でアピールできたけど」
智絵里「わたしだけは、最後まで特に何もできなかったというか……目立ってなかったから……」
智絵里「謝ったり倒れたり、そんなのばっかりで……」
智絵里「だ、だから杏ちゃんは、クローバー……シロツメクサについて知ってるわたしに、パスしてくれたんだよね?」
杏「……さあて、それはどうだろうね」
智絵里「杏ちゃん?」
杏「買い被りすぎってことかな」
杏「逆転したくて最高難易度の問題をバンバン答えて、調子に乗り始めたら最後で詰まった……」
杏「その問題がたまたま、智絵里ちゃんの好きなクローバーについてのことだった」
杏「つまりは、そんなところ」
智絵里「本当に?」
杏「そうそう。ラストの決め手は智絵里ちゃんの実力あってこそ」
杏「難関クイズを正解した上に、引き分けにまで持ち込んでアピールタイムをもらえたんだから」
杏「万事解決。めでたしめでたし。ちゃんちゃん」
杏「いやー、やっぱり四つ葉のクローバーは幸運を呼ぶんだねー」
智絵里「う、うん……」
杏「はっはっはー」
智絵里「それでも、あの……」
智絵里「ありがとう。杏ちゃん」
杏「何に対してのありがとうかさっぱりわからないけど、どういたしまして」
杏「とりあえず帰ろうか。杏は早々に寝たいんだ」
智絵里「うん♪」
杏「そっちもゆっくり休んだほうが良いと思うよ」
智絵里「そうするね。えへへ……」
特番収録当日 ロケ車内
かな子「ん……んん……」
智絵里「すぅ……すぅ……」
杏 (車に揺られてぐっすり眠ってる。今日が今日だから、昨日寝付けなかったのかな)
杏 (そりゃあしょうがないか)
杏「ふぅ……プロデューサー」
武内P「はい。何でしょう?」
杏「本当にバンジージャンプやんなきゃいけないの?」
武内P「そうなりますね……」
杏「そうだよね。ちょっと聞いてみただけ」
杏「プロデューサー」
武内P「はい」
杏「智絵里ちゃんは土壇場に弱くて、かな子ちゃんはおっとりしていて、杏は杏で……」
杏「それこそ、風に吹かれたらすっ飛びそうなデコボコ3人組に見えるかもしれないけどさ」
杏「意外とやるもんでしょう?」
武内P「はい。実際、先の番組でも息のあったコンビネーションを見せていました」
杏「まあね」
武内P「相手の足りない点は、自分の良い点で。自分の足りない点は、相手の良い点でお互いを補う……」
武内P「ユニット、ひいては人間関係もそうして成り立つものです」
武内P「デコボコ……凸凹の字は左右に並べるとバランスが悪いですが、上下に重ねると、1つのキレイな四角形になります」
武内P「ですが、そのままではまたバラバラになってしまうので……」
杏「お互いに補い合って、結束をする?」
武内P「私個人としては、そうなるのではないかと」
杏「へー」
杏「じゃあさ」
杏「CANDY ISLANDと同時にユニットデビューの発表をした、きらり達の凸レーションもそんな感じ?」
杏「単に子犬みたいな小中学生2人の手綱をきらりが持つってことじゃなくて……」
杏「逆に、あの2人だからこそきらりを支えてあげられると思ったとか?」
武内P「……総合的に判断した結果です」
杏「ふーん。まぁ、そう判断したってことにしておくよ。了解了解」
武内P「1つ、聞きたいことがあるのですが」
杏「あいあい」
武内P「双葉さんにとって、このCANDY ISLANDというユニットはどうですか?」
杏「どうって?」
武内P「シンデレラプロジェクトのみなさんは個人レベルでも非常に仲が良いです」
武内P「……が、各々ユニットとして組んだことで、何か不和などが発生してはいないかと、気になりまして」
武内P「もしも、歩幅が合わない、馴染めない、そのようなことがあれば、責任は私にありますので……」
杏「はぁー……あーあー……」
武内P「双葉さん?」
杏「あのさ」
杏「14人を誰よりも身近で見ているプロデューサーが、例のその……総合的な判断でユニットを組ませたんだよね?」
杏「このメンバーなら大丈夫って自信もあったんでしょう?」
杏「今になってそんな不安になったらダメだって」
武内P「す、すみません……」
杏「大丈夫。別に怒ったとかじゃないから。気にしないで」
杏「杏にとってのCANDY ISLANDは……そうだなぁ」
杏「……サボれないユニットかな」
武内P「サボれないとは?」
杏「さっき言ったけど、智絵里ちゃんは不測の事態でテンパるし、かな子ちゃんはおっとりだけど、どうしてもマイペースだから」
杏「危なっかしいとは、また違うんだけど」
杏「なんか……放っておけないんだよね、2人を見てると」
杏「杏は何もせずに印税ゲットして楽したいんだけどさー」
杏「サボりたいのにサボれない。動きたくないのについつい動いちゃう」
武内P「つまり………」
杏「悔しいくらい楽しいよ。この2人といると」
武内P「それは、本当に良かったです」
杏「他の子もそうだと思うよ。プロデューサーの采配は間違ってない」
杏「あー……たくさんしゃべったら疲れた。杏も寝るから、到着したら起こしてー……」
武内P「あの、双葉さん」
杏「なーにー」
武内P「もうすぐ現場に到着するのですが」
杏「んえ!? 杏まだ全然休んでないんだけど……」
武内P「はあ……」
杏「しゃーない、飴でも舐めとこう……おーい2人ともー、そろそろ着くってよ」
かな子「ん……」
智絵里「ふわぁ……」
かな子「は、あれ? もしかして寝ちゃってた?」
杏「ぐっすり寝ているのが良かったから、思わず写真を撮っちゃった」
智絵里「……写真……だ、ダメ!」
杏「うっそー。撮ってないよ」
智絵里「ほっ……」
杏「でも、プロジェクトのホームページに寝顔写真出したら絶対人気出ると思うな」
智絵里「や、やだ、恥ずかしいよ……」
武内P「到着しました」
智絵里「幸子ちゃん達は、もう来ているんでしょうか?」
武内P「どうやらまだみたいですね」
杏「じゃあ、少し景色とか見ていても良い?」
武内P「構いませんが、着替えや装具の着用時間もありますから、あまり長くは……」
杏「5分もあれば目に焼き付けられるから大丈夫」
かな子「杏ちゃんが景色目的で散策かぁ……ちょっと意外」
杏「目に焼き付けておきたいところがあってね」
杏 (目に焼き付けておきたいのは、本当は景色というよりも……)
杏「たしか、駐車場に行く手前の道路をまっすぐ進むと……」
杏「あった。あそこだ」
杏「観光案内情報通りなら、あそこから橋が見えるはず……」
杏「あれだ。うっわぁ」
杏「ギャラが出るっていってもねぇ……」
杏「あんな場所から飛ばなきゃならないなんて、拷問だよ拷問」
杏「下の川が……結構下か……」
杏「飛ぶ場所から見たら相当怖いよね、たぶん。ビビらない人とかいるのかな」
杏「……プロデューサーには意外とやるなんて言っちゃったけど、これはさすがに大変だぞ」
杏「ただいまー」
かな子「あっ、おかえり杏ちゃん!」
智絵里「景色は、見てきたの?」
杏「よーく見てきた。そりゃあもう怖いくらいじっくりと」
紗枝「えろう癒される風景どすからなぁ。嵐山を思い出しましたわ」
幸子「観光も良いですが、今日は収録ということをお忘れなく!」
杏「どすえチームも到着したんだ」
幸子「“カワイイボクと”が足りないですよ!」
幸子「みなさんの少し後に到着しました。ボク達の車とすれ違わなかったということは、ここから離れた場所に行っていたんですか?」
杏「そうだね。少しだけ離れたところ」
友紀「みーんなー! はやく着替えて橋に来なって! すごい良い眺めだよ!」
友紀「おぉー、高い高い! あっちの湖も超キレイだよ、あれ! 光ってる!」
幸子「……本当にもう友紀さんは」
紗枝「まるで子供みたいどす」
杏「このメンバーで最年長なんだっけ?」
幸子「そうです。あれでも唯一お酒を飲める成人ですから」
智絵里「で、でも、いつまでも元気なのは良いことだし、羨ましいな……」
幸子「元気すぎるのも大概ですけどねぇ」
瑞樹「みんな、おはよう。元気してる?」
愛梨「おはようございまーす♪」
智絵里「おっ、おはようございます」
かな子「おはようございますっ!」
瑞樹「あらあら、みんな心なしか表情が硬いんじゃないの?」
紗枝「そないな顔してはりましたか?」
瑞樹「なんとなく、そんな気がね」
杏「今からやることがやることだし」
かな子「心臓がもうドキドキしてるよ……智絵里ちゃんは?」
智絵里「私も、あそこの橋を見たら怖くなってきて……」
愛梨「CANDY ISLANDチームはまだテレビに出て日が浅いんだよね?」
かな子「はい」
愛梨「今日の罰ゲームはちょっと内容が極端だけど、バラエティー番組に出れば罰ゲームもいろんなものをやらされると思うんだ」
愛梨「場合によっては今日みたいな怖いこともあると思うけど、その……嫌いにならないでね? アイドルの活動」
愛梨「まだまだ楽しいことも、いーっぱいあるから」
瑞樹「愛梨ちゃん……」
愛梨「すいません、瑞樹さん。3人の顔を見てたら、どうしても……」
かな子「……いいえ、大丈夫です!」
かな子「私達は……今アイドルをやれていること自体が、最高に楽しくて幸せなんです」
かな子「ちょっとした嫌なことも、怖いことも、全部合わせてアイドルなんだと思います!」
智絵里「わたしも、その……そうです。お仕事ができて、すごく嬉しいです」
智絵里「それに……みんながいてくれるから、どんなこともがんばれます!」
杏「杏は最終的に働いた分のお金が発生すればOKだけど……まぁ、おおむね右に同じってことで」
瑞樹「……なるほどね」
瑞樹「若いからってだけじゃなくて、強いわ。あなた達は」
愛梨「負けてられないですね、私達も! 幸子ちゃん達も!」
幸子「ボクだってアイドルを楽しんでいますよ!」
紗枝「ええ、うちもそうどす」
幸子「友紀さんは……聞かなくても見ればわかりますね」
瑞樹「ますます今日の収録が楽しみになってきたわ! いつも以上に気合い入れて挑むわよ、愛梨ちゃん!」
愛梨「はーい♪」
かな子「着替える前に、いつものやっちゃおうよ。せーの――」
杏「あーっと、待った待った」
かな子「えっ? あぁ、うん」
杏「たまには違う人が音頭を取るのも良いんじゃない? 例えば……」
智絵里「……へっ? わたし?」
かな子「そうだね! いつも私からばかりだし、智絵里ちゃんも!」
智絵里「そんな……わたしは、む、難しいよ……」
杏「軽くで良いよ。がんばろう、おー! とかさ」
智絵里「うん……えっと……」
智絵里「クローバーの花言葉は『幸福』が有名だけど、他にも『約束』って花言葉があるの」
智絵里「今日は、みんな楽しくお仕事をして、最後は笑顔で終わろうね」
智絵里「約束……だよ!」
かな子「うん!」
杏「ん」
智絵里「せーの、CANDY ISLAND……」
智絵里・かな子・杏「おー!!」
友紀「いいなぁ~、スポーツの円陣みたいで」
幸子「うわぁっ!!」
紗枝「友紀はん、いつのまに……」
友紀「橋の景色は楽しんだから、今戻ってきた」
友紀「それよりも……あたし達もやってみない? ああいうやつ!」
幸子「CANDY ISLANDがやったようなことをですか?」
友紀「そうそう! 今日は別に勝負じゃないけど、やればやる気とか出るよきっと♪」
紗枝「たしかに、やったら案外面白いかもしれまへんな」
友紀「そういうことだから……ほら、幸子ちゃんお願い」
幸子「えっ! ボクがやるんですか!?」
友紀「当然。チーム名が幸子ちゃんの『カワイイボクと~』から始まるんだから!」
幸子「わかりました。それじゃあいきますよ、ええと、カワイイボク……チーム!」
紗枝「カ、カワイイボクチーム?」
友紀「それだとあたし達の要素無くなってるじゃん!」
幸子「毎回毎回どすえチームとか野球どすえとか縮められていますし、たまにはボクも目立ちたいです!」
幸子「とにかく掛け声いきますよ……カワイイボクチーム!」
幸子「ファイトー!」
紗枝「おー!」
友紀「よっしゃー!」
幸子「バラバラじゃないですか!!」
友紀「やっぱり急ごしらえの円陣なんてこんなもんだよねー」
紗枝「こういう3人どすから仕方ありまへんな」
幸子「やる意味あったんですかね、これ……」
瑞樹「どすえチームは相変わらずのハチャメチャっぷりねぇ」
愛梨「開始前からこれですから、今回も面白くしてくれると思いますよ~」
瑞樹「特に幸子ちゃんのリアクションは素晴らしいものね、楽しみ楽しみ」
スタッフ「すみません、みなさん! バンジーについての諸注意をご説明するので、一旦こちらに来てもらえますか?」
智絵里「は、はい!」
かな子「いよいよ……だね」
杏「なるようにやるって」
友紀「かっとばしていこー!」
紗枝「まあまあ友紀はん。かめらが回るまで、ぱわーは温存しましょ」
幸子「バンジーくらい、よ、余裕ですよ。余裕!」
スタッフ「――以上になります」
スタッフ「その装具を着けたまま、こちらのジャンプ台に6人立つ感じでお願いします。そのままカメラのスタートに入りますから」
紗枝「空中にせり出しとりますやん……」
友紀「こんなの足元見なければ楽勝楽勝!」
幸子「ふ、ふふ、そ、そうですよ! も、問題なんか、一切無いです!」
スタッフ「インストラクターさんのサポートも入りますが、非常に危険な場所ですので並ぶ際はご注意ください」
瑞樹「私達も手早く進行するから、少しだけガマンしてね」
幸子「NGテイクとか出さないでくださいよ! 深い意味は無いですが、ここにずっと立つのは色々とキツイですから!!」
愛梨「大丈夫、大丈夫♪」
スタッフ「準備整いました!」
杏「2人とも、大丈夫?」
智絵里「わ、私は……まだ柵寄りだから……」
かな子「前だけ、前だけ見ていれば……」
杏「ここに棒立ちするのもちょっとだけだから、気をしっかり」
智絵里「うん……」
かな子「深呼吸、深呼吸……」
スタッフ「本番入ります! 5秒前……3……2……」
武内P「……」
武内P「双葉さん、三村さん、緒方さん。がんばってください……」
愛梨「みなさーん! 退屈してますか~?」
愛梨「……あれ? 声が返ってこないですね?」
瑞樹「そりゃあそうよ。ここはスタジオじゃないんだから」
愛梨「あぁ、そういえばそうでした!」
瑞樹「私達2人は今、スタジオを飛び出して野外に出ています!」
瑞樹「深緑の渓谷。反対側には青々と輝く湖。この真っ赤な橋とのコントラストも最高ですね」
愛梨「ステキな風景ですよね~。近くには温泉もあるらしいですよ~?」
瑞樹「温泉……いいわねぇ、収録が終わったらすぐにでも行きたいわ」
瑞樹「おっと、いけない。私達は別に観光漫遊をしに来たわけじゃないわよね?」
愛梨「はい。前回の放送で、CANDY ISLANDチームおよび、カワイイボクと野球どすえチームがダブル罰ゲームという奇跡を起こしたので」
愛梨「本日は、その罰ゲームをしてもらうために、ここに来ました!」
愛梨「その内容は……」
瑞樹「絶景をバックに、この橋からバンジージャンプをしてもらいまーす!」
瑞樹「では、今から飛び降りてもらうメンバーを紹介しましょう!」
瑞樹「まずは先週初登場にして、いきなり罰ゲームに巻き込まれたCANDY ISLANDチーム!!」
かな子「よろしくお願いします!」
智絵里「せ、精一杯がんばります!」
杏「デビューCDもぜひ買ってください♪」
瑞樹「終盤の追い上げで、どすえチームを罰ゲームの道連れにしたのは見事だったわねぇ」
智絵里「な……なんか、すいませんでした」
瑞樹「いいのよ。視聴者さんもたまには向こうのチームが負ける姿を見たいんだから」
愛梨「対してこちらはいつもの3人で~す!」
幸子「紹介! チーム名の紹介お願いします!」
愛梨「はい、カワイイボクと野球どすえチーム。通称KBYDです♪」
友紀「しまっていくよー!」
紗枝「ゆ、友紀はん、あんまり大きく動きはるとうちが落ちてしまいますわ!」
幸子「2人とも落ち着いて。見てください、CANDY ISLANDは堂々としてますよ」
友紀「そんなこと言ってると肩揺らしちゃうよ、ほーらほーら」
幸子「わあああああああ! なななな何考えてるんですか! 危ないでしょうが!」
友紀「いやいや、ごめんごめん」
愛梨「以上、こういう場所でも元気などすえチームでした~」
瑞樹「そうそう! まだ今回のバンジーについて言ってなかったわね!」
愛梨「こちらのバンジーの落差は約62メートルとなっていまーす」
かな子「ろ、62!?」
幸子「高っ!」
友紀「うっそ……東京ドームの天井くらいあるじゃん……」
瑞樹「おおっと、鋭いわね友紀ちゃん」
瑞樹「数値上の比較では、東京ドームがグラウンドから天井までが61.7メートル。東京ビッグサイトが地面からヘリポートまで58.2メートル」
瑞樹「つまり、まぁそれらの建物の屋上からジャンプするみたいな感じ」
杏「マジで……」
紗枝「ああもう、うち目眩がして……」
智絵里「私も……」
瑞樹「はいはいはーい。グロッキーになってるところ申し訳ないけど、タイトルコールいくわよ?」
瑞樹「筋肉でドン! Muscle Castle!!」
愛梨「夏の罰ゲーム特番!」
瑞樹「紫外線なんかに負けずに、みんな気合い入れて行くわよー。はい、せーの! えいっ、えいっ……」
全員「おー!!」
スタッフ「はい、オッケーです!」
智絵里「はぁぁ……」
杏「智絵里ちゃん。向こうに戻って大丈夫だよ」
智絵里「うん……ま、待って……すぐに柵を越えるから」
かな子「私達は大丈夫だから、ゆっくりで良いからね。危ないから」
智絵里「そうするね。ちょっと、足が震えちゃって……」
杏「片方の手、握っていようか?」
智絵里「ありがとう……杏ちゃん」
幸子「ようやく一区切り……んっ!?」
友紀「……」
幸子「友紀さん、また肩持って揺らそうとしてますね!?」
友紀「いやぁ、あのね……そうじゃないんだよ」
幸子「へ?」
友紀「下は見てなかったんだけど、東京ドームくらい高いって聞いたらさ……足が固まっちゃって、はは……」
幸子「はい!? さっきの話でそこまで急に怖くなったんですか!?」
友紀「野球観戦に行けばわかるって! 天井めっちゃ高いんだよ東京ドーム!」
友紀「たのむよー、幸子ちゃーん」
友紀「このまま肩掴んでるからムカデ競走みたいに一緒に柵まで行ってよー」
幸子「しょうがないですね、じゃあ手を……ってちょっと! 肩に体重かけないでください! 危ないから!!」
友紀「怖いんだもん」
幸子「だからっていきなり体重かけるのはダメですって! バランス崩したらどうするんですか!」
紗枝「な、なんでもええから、はよ戻っておくれやす……」
瑞樹「それでは、今から両チームの飛ぶ順番を決めましょうか!」
愛梨「先攻チームの3人が飛んだあと、後攻チームの3人に飛んでもらいま~す♪」
瑞樹「まずは両チームの代表として、腕力に自信のある子を1人選出してね」
紗枝「うちらのチームで腕力なら……」
幸子「選択肢は1つですよね」
友紀「おっ、それ遠回しにあたしに振ってるね? しょうがないなー。まかせて! 体動かせることなら何だってやるよ!」
幸子「一気に元気になったなぁ、この人」
杏「腕力かぁ……杏の細腕じゃあ無理っぽい」
智絵里「体力や腕力は……」
杏「まず、うら若き乙女達に『腕力に自信のある人を選んで』って言うのもどうかと思うけど」
かな子「杏ちゃん。智絵里ちゃん」
かな子「私、やってみても良いかな?」
智絵里「かな子ちゃんが?」
かな子「お菓子作りで泡立てたり、よく小麦粉をこねたりしているから……」
杏「もしかしたら、少しは力があるんじゃないか……ってことか」
かな子「腕力って言うほどの力は無いけど、もしかしたら私でもできることかもしれないし」
杏「わかった。智絵里ちゃんも、それで良いよね?」
智絵里「うん……かな子ちゃん、あのね」
智絵里「何をするのかわからないけど、無理だけはしないでね?」
かな子「うん! 待ってて!」
かな子「すいませーん、CANDY ISLANDチームは私がやります!」
瑞樹「CANDY ISLAND代表は三村かな子ちゃん。どすえチーム代表は姫川友紀ちゃん。これで行くわね」
かな子「はい!」
友紀「全力でぶつかっていくよ!」
愛梨「2人には、この場で腕相撲をしてもらいます。勝った側のチームがバンジーの先攻後攻の順番を選んでください!」
かな子「う、腕相撲かぁ……」
友紀「罰ゲームでも筋肉を使わせるなんて、さすがだね」
瑞樹「今スタッフさんが対戦用の台を持ってくるから、肩の準備をしておいてね」
瑞樹「さぁさぁ、拳は組んだ? ひじは付いてる?」
かな子「は、はい!」
友紀「腕相撲とか久々だなー。学生時代以来かも」
愛梨「合図をしたら開始ですよ~?」
愛梨「よーい……スタート!」
かな子「んっ!」
友紀「ふっ!」
杏「がんばれー、かな子ちゃん!」
智絵里「が、がんばって!」
かな子「んっ……く……!」
紗枝「友紀はーん! おきばりやすー!」
幸子「負けたら記者会見の上、キャッツのイメージガール退任ですよ!」
友紀「ちょ……ちょい待ち! そのペナルティ重すぎない!?」
かな子「ぐぅ……!」
愛梨「おおっと! わずかにかな子ちゃんが友紀ちゃんを押しています!」
瑞樹「しかし、かな子ちゃんは全力を出して顔が真っ赤。対して友紀ちゃんはケロっとしてる。さすがは野球で鍛えた肩と腕!」
友紀「おぉー、すごいすごい!」
かな子「は……はい……」
友紀「かな子ちゃん、お菓子作りが趣味なんだって?」
友紀「握る手にしっかり力が入ってるよ。お菓子作りもトレーニングになってるんだね」
友紀「それに、手にぬくもりも感じる」
かな子「あり、がとう、ございます……!」
友紀「正直、カワイイ後輩ちゃんだから手心を加えて、勝ちを譲ろうとか考えていたけどさ」
友紀「スポーツマンシップっていうか、野球好きとしては……」
友紀「体を使う勝負に、ウソは……つきたくなくてさ……ッ!」
かな子「うあっ……!」
友紀「ごめんね。この勝負、いただくよ!!」
かな子「え、おっ……ああっ!!」
愛梨「おおっとー! さっきまで拮抗しているように見えたのに、友紀ちゃんがかな子ちゃんの腕をあっさり倒してしまいました!」
瑞樹「あー、やっぱりパワーセーブしてたのね」
愛梨「順番決め対決は、どすえチームの勝利で~す♪」
かな子「はぁ……負けちゃった……」
友紀「いや、なかなか良い勝負だったよ! ありがとう!」
かな子「こちらこそ、ありがとうございます」
友紀「さっきも言ったけど、温かくて良い手を持っているからさ」
友紀「かな子ちゃんが手作りしたお菓子、今度あたしにも食べさせてよ!」
かな子「は……はい! いっぱいいっぱい、作って持ってきます!」
友紀「本当? 期待しちゃってるからねー♪」
愛梨「勝者の友紀ちゃん! どすえチームの順番はどうしますか~?」
友紀「どうするー?」
紗枝「うち、まだ心の準備が……」
幸子「最後のほうに飛んだほうが色々とおいしいと思いますよ」
友紀「んじゃ、どすえチームはあとで」
瑞樹「わかったわ。先に飛ぶのはCANDY ISLANDチームの3人です!」
かな子「ごめん、みんな」
智絵里「ううん……かな子ちゃんはがんばったよ」
杏「だね。健闘だった」
かな子「でも、最初に飛ぶことになっちゃって……」
杏「そんなの気にするほどのことでも無いよ。先にしろ後にしろ飛ぶことになるんだし」
智絵里「かな子ちゃんはゆっくり休んで、あとに飛んで良いからね?」
かな子「杏ちゃん、智絵里ちゃん……ありがとう……」
愛梨「CANDY ISLANDチームは誰が最初に飛びますか~?」
杏「はーい! 先発、双葉杏がいきまーす♪」
かな子「ええっ! 杏ちゃんが!?」
杏「そうだよ」
杏「腕相撲に行ったときにね、智絵里ちゃんと決めたんだ」
智絵里「かな子ちゃんが率先してがんばってくれてるから、今度はわたし達の番って」
かな子「もしかして、さっきの『ゆっくり休んで、あとに飛んで良い』っていうのは……」
杏「そういうことかな」
杏「それに、あれだよ」
杏「甘いケーキ本体を先に食べてから、乗っかったフルーツを食べると酸っぱく感じるじゃん」
杏「フルーツは先にしたほうがバランス良いんだよ」
かな子「ふふふっ……どっちから食べても、フルーツもケーキもおいしいよ?」
杏「知ってる。おいしいものはどう食べてもおいしい」
杏「じゃあ、飛んでくるから」
智絵里「あ、杏ちゃん!」
かな子「がんばって!」
瑞樹「さぁ、バンジーのスタッフさんが杏ちゃんの装具に……ヒモを着け終わりました」
杏「……」
愛梨「愛らしい杏ちゃんの顔も、すっかり険しくなってますね~」
杏「そ、そんなこと無いですよー。やだなぁ、あはは」
愛梨「今からここを飛び降りるんだから、緊張するのは仕方ないよねぇ」
瑞樹「そんな杏ちゃんにプレゼントがありまーす! はい、これどうぞ」
杏「プレゼント……この大きな、横断幕? あっ、CANDY ISLANDって書いてある」
瑞樹「せっかくだからCANDY ISLANDチームの知名度向上兼、CDの宣伝用として用意したのよ」
杏「わざわざこれを? いやー、ありがとうございます! Muscle Castleって良い番組ですね♪」
瑞樹「そう言ってもらえると嬉しいわ♪」
瑞樹「じゃあ、それ両手で持ったまま飛んでね」
杏「は?」
瑞樹「カメラに横断幕のユニット名を向けて、宣伝しつつジャンプしちゃってほしいわけ」
杏「……」
愛梨「ちなみに、ここは条例というか取り決めがあって、下の川に物を落としちゃダメなんですっ!」
瑞樹「もしも、ジャンプ中に怖くてパッと手を離したりすると……」
瑞樹「とっても偉い人やバンジースタッフさんに、それはもうめちゃくちゃ怒られるから注意してね♪」
杏「……訂正。やっぱりこの番組ってあんまり良い番組じゃないですね」
瑞樹「何を言ってるのよ杏ちゃん。一応、今回は罰ゲームなんだからね?」
杏「ここまで出演者にペナルティを課す罰ゲームって……」
スタッフ「5、4、3、2、1、バンジー! の掛け声でジャンプしてもらいます」
スタッフ「カウントは速いのと遅いの、どちらにしますか?」
杏「ゆ、ゆっくりで……」
スタッフ「わかりました。せっかくですから出演者のみなさんでカウントしてはどうでしょう?」
愛梨「それ良いですね~! では、各参加者の全員一緒のカウントをお願いします」
かな子「わ……わかりました!」
智絵里「杏ちゃん、大丈夫かな……飛べるかな……」
幸子「ボクらのときも、このカウント入るんですかね?」
友紀「幸子ちゃんのときだけ高速でカウントしてあげるよ!」
幸子「あ、焦るからやめてください!」
紗枝「うちもゆっくりのほうが良いどすなぁ」
CANDY ISLANDチーム 1番手:双葉杏
杏 (はぁ、なんでまた変なノルマかけられて跳ばなきゃいけないんだか)
杏「カメラに見せながらだと、飛ぶのは後ろ向きですか?」
スタッフ「そうですね。まず、飛ぶ前にかかとを半分ほどジャンプ台から外に出してください」
杏「はい……」
杏 (ううああああ! かかとに足場の感覚が無い! こわい!!)
スタッフ「なるべく後ろにちょっと跳ねるように飛んでくださいね」
杏 (くうっ……だんだん膝が震えてきた……!)
智絵里「ねぇ、かな子ちゃん……杏ちゃんが……」
かな子「杏ちゃん、笑ってるけどかなり引きつってるね……」
智絵里「大丈夫……だよね? きっと大丈夫だよね? わたし……」
杏「かな子ちゃん! 智絵里ちゃん!」
智絵里「!」
かな子「どうしたの!?」
杏「軽く宣伝しつつひとっ飛びしてくるからさ」
杏「まぁ、少しだけ待っててよ」
杏「へへっ♪」
かな子「あ、杏ちゃん……!」
智絵里「待ってるよ! わたし達、待ってるから!」
杏「ほいほい。行ってくるよーっと」
杏「カウントお願いします!」
瑞樹「杏ちゃんからスタートコールが入りました!」
愛梨「残りの参加者のみなさんは大きな声でカウントに参加してください♪ いきますよ~」
瑞樹・愛梨「5!」
幸子「4!」
杏「デビューシングル、『Happy×2 Days』!」
友紀「さんっ!」
杏「カワイイ曲なので是非買ってください!」
紗枝「にっ!」
杏「そして、私達CANDY ISLANDのことを……」
かな子・智絵里「いち!!」
杏「よろしく」
全員「バンジー!!」
杏「お願い……しまあああああああぁぁぁうおああぁぁああああああぁぁぁ!!!」
智絵里「あ……杏ちゃーん!」
かな子「ああああっ!!」
愛梨「双葉杏ちゃんが今、宣伝文句と共に飛び降りました!」
瑞樹「なかば無茶振りだったけど、見事にやり通した杏ちゃん! まさにプロ根性!」
瑞樹「あと、すごい声量よね。同じ事務所だけど、杏ちゃんの本気の絶叫は初めて聞いたわ」
愛梨「私もですね~。杏ちゃん、大きな声って出さないですから」
愛梨「ヒモの反動で何回かバウンドしていますねー。落ち着いたら声をかけてみましょう!」
杏「――――――!」
杏「――――あぁっ、はっ」
杏「いぃぃ……」
杏「はぁ、はぁ……高い……」
杏「終わった。よかったぁ」
愛梨『杏ちゃーん。大丈夫ですかー?』
杏「大丈夫じゃないっつうの……なんて言えないし」
杏「はーい! 大丈夫でーす!」
愛梨『それじゃあロープを巻き上げるから、そのまま掴まっててね~!』
杏「ああ、戻ってこれた……」
瑞樹「落差62メートルから帰還した感想は?」
杏「Happy×2 Days、絶賛発売中です! お求めは、お近くのCDショップへどうぞ♪」
愛梨「なんと、笑顔で宣伝の続き! すごい、すごいバイタリティーです!」
杏「もう戻っていいですかね……」
瑞樹「もちろん。2人のところに戻って良いわよ」
杏「あーい……」
愛梨「さぁ、次は智絵里ちゃんか、それともかな子ちゃんか。楽しみですね~」
智絵里「杏ちゃん!!」
かな子「杏ちゃん、大丈夫!?」
杏「いやぁ、スリルがあって思わず声が出ちゃったけど、大丈夫大丈夫」
かな子「体は? ヒモの反動で跳ね返っていたけど、どこか痛くない?」
杏「結構大振りになったわりには何とも無いかな。飛び終わると、こんなもんかってレベル」
智絵里「よかったぁ……」
杏「智絵里ちゃんとの約束だからね」
智絵里「えっ? あ……」
杏「始まる前のやつ。楽しく笑顔で、って言ったからさ」
杏「これでも楽しくやったつもりだよ? 途中からあんまりそれどころじゃなくなったけど」
杏「さぁ、次は智絵里ちゃんの番」
智絵里「うん。わかった」
智絵里「杏ちゃんも笑顔でがんばってくれたから、わたしもがんばってみる!」
杏「その意気なら飛べるさ」
かな子「きっとできるよ。私達もここから見守っているから」
智絵里「ありがとう、かな子ちゃん。杏ちゃん」
CANDY ISLANDチーム 2番手:緒方智絵里
愛梨「次の選手は、緒方智絵里ちゃんで~す♪」
智絵里「あ、あの! よろしくお願いします!」
瑞樹「緊張している智絵里ちゃんもなかなかカワイイわねぇ。何かこう、庇護欲が湧いてくる感じ」
愛梨「なでなでしてあげたくなりますよね~」
瑞樹「むしろ、ぎゅっとしてあげたくなるわね」
智絵里「そ……そうなんですか?」
瑞樹「守ってあげたくなる儚い感じがね、みんなの心をくすぐるのよ」
瑞樹「そんな智絵里ちゃんなので、私達も正直飛ばすことにためらいがありますが……」
瑞樹「行ける?」
智絵里「行けます!」
智絵里「杏ちゃんだって、勇気を出して飛びましたから。だから……今度は、わたしが!」
愛梨「やる気に満ち溢れた智絵里ちゃんも良いですね~」
瑞樹「その気合いがあるうちにやってしまいましょう! 装着をお願いします!」
智絵里 (今も、まだ怖いけど……)
智絵里 (楽しく笑顔で最後まで、そうするって決めたから)
智絵里 (わたし……がんばるよ!)
瑞樹「準備できた? カウント行くわよー!」
愛梨「5!」
4!
3!
2!
1!
智絵里「すぅー……はぁー……」
瑞樹・愛梨「バンジー!!」
智絵里「行ってきます!」
智絵里「うっ――――ん――――!!」
愛梨「智絵里ちゃんが飛びました!」
愛梨「……けど、声の1つも聞こえてきませんね」
瑞樹「まさか、飛んだときに怖すぎて気を失ったとかじゃないでしょうね?」
杏「なっ……」
かな子「うそ……!」
瑞樹「智絵里ちゃーん? 智絵里ちゃん大丈夫?」
愛梨「あっ! 智絵里ちゃんが下から手を振ってます!」
かな子「あぁ、びっくりしたぁ……」
杏「自分が飛ぶときより心臓に悪いよ……」
愛梨「おかえりなさーい」
智絵里「はぁ、はぁ……」
瑞樹「びっくりしたわよ、もう本当に。飛んでから一切無言だから何があったのかと」
智絵里「す……すいませんでした……」
智絵里「グッと歯を食いしばらないと、思わず叫び声が出ちゃいそうだったので……」
瑞樹「むしろ、テレビの前の視聴者さんはその姿を見て興奮するはずよ!」
智絵里「それは、その、えぇっ!?」
愛梨「以上! 2番目のチャレンジャー智絵里ちゃんでした~!」
杏「やったね」
智絵里「ちゃんと飛べたんだよね……本当にできたんだよね……?」
かな子「そうだよ、飛んだんだよ! 智絵里ちゃん!」
智絵里「……飛び終わったはずなのに、足が震えてきた」
杏「あとは見ているだけだから、ゆっくりしよう」
智絵里「そうだね」
かな子「2人が飛んだから、次は私だね。大丈夫かな……」
智絵里「……」
智絵里「か、かな子ちゃん、背中……向けてもらっても良い?」
かな子「こう?」
智絵里「チョ……チョップ、です。えいっ」
かな子「あうっ」
智絵里「ご、ごめん! 痛くなかった?」
かな子「うん。痛くは無いけど、急にどうしたの?」
智絵里「かな子ちゃんに……少しでも勇気をあげられたらなって思って……」
智絵里「今……わたしに残ってた勇気を全部……かな子ちゃんにあげたから」
智絵里「かな子ちゃんも、飛べるよ!」
かな子「智絵里ちゃん……うん。ありがとう!」
杏「じゃあ、杏もチョップして残った勇気と働く気を叩き込むね。えいっ」
かな子「働く気はダメだよ! それは持っておいて!」
杏「えー? しょうがないなぁ」
かな子「智絵里ちゃんも杏ちゃんもありがとうね。私、行ってくる!」
杏「いてらー」
智絵里「いってらっしゃい!」
CANDY ISLANDチーム 3番手:三村かな子
愛梨「新進気鋭、CANDY ISLANDチームの最後の刺客、三村かな子ちゃんです!」
瑞樹「腕相撲は惜しかったわねぇ。友紀ちゃんとの対決の感想は?」
かな子「力がとっても強くて、完敗でした……」
かな子「でも、楽しかったです!」
瑞樹「友紀ちゃんもたぶん同じように思っているはずよ。あの子、ああいうの大好きだから」
かな子「あと、今度お菓子を作って持ってくるって約束もしました!」
瑞樹「手作りお菓子? いいわよ、それ。ザ・女子力! 家庭的な一面でファンも増えるわ!」
かな子「じ、女子力ってほどでも」
瑞樹「充分すぎる女子力よ! 男の人っていうのは、例えば料理好きの女の子が特に……」
愛梨「えー、瑞樹さんの女子力トークが炸裂しそうなので、装着をお願いしま~す」
かな子「……」
かな子「うぅー……」
愛梨「ヒモを装着した途端に、かな子ちゃんから落ち着きが消えちゃいました」
瑞樹「目が……目が既にちょっとうるんでるけど」
かな子「大丈夫です! が、と、飛べます! がんばれます!」
かな子「杏ちゃんや智絵里ちゃんに、さっき勇気を分けてもらいましたから!」
瑞樹「CANDY ISLANDはお互いを思い合う気持ちが素晴らしいのね」
瑞樹「私のいるブルーナポレオンも、年齢差はあるけどそりゃあもうお互いのことを……」
愛梨「瑞樹さーん」
瑞樹「ごめんなさーい。かな子ちゃんと話してると熱が入っちゃって♪」
愛梨「かな子ちゃん、心の準備はできましたか~?」
かな子「自分でもわかりません。たぶん、行けます」
瑞樹「行けるなら迷わず行っちゃいましょう! カウント!」
愛梨「5!」
4!
3!
かな子「バンジーって声で飛ぶ……バンジーって声で飛ぶ……」
2!
1!
瑞樹・愛梨「バンジー!!」
かな子「バンジーで、とっ……あ」
かな子「あ、あ、あ、やあああああああ!!!」
瑞樹「かな子ちゃん飛ん、だ……?」
愛梨「飛んだというよりも、足を滑らせて落ちただけのような……」
杏「ちょっ!」
智絵里「か、かな子ちゃーん!!」
瑞樹「前にジャンプするから普通は頭や体から落ちるはずだけど、かな子ちゃんは足から行ったわねぇ」
愛梨「下を覗いてみましょう! ……バウンドが収まって……かな子ちゃーん、今どうですか~?」
かな子『い、生きてまーす……』
瑞樹「今引き上げるからねー」
かな子『はぁーい……』
愛梨「一言どうぞ!」
かな子「やりました……」
瑞樹「最初、変な落ち方しちゃったわよね?」
かな子「落ちた瞬間に背中に変な汗を感じました……」
瑞樹「大丈夫よ。バンジーのスタッフさん達も、そういう飛び方は想定済みだから」
瑞樹「さてと、これで前半戦のCANDY ISLANDチームは全員終了になりました。後半戦は、どすえチームの3人が飛びますからね。みなさん、チャンネルはそのまま!」
愛梨「そのかけ声は古いですよー」
瑞樹「いいの! 私こういうの好きなんだから!」
スタッフ「オッケーでーす!!」
かな子「ただいま、みんな……」
智絵里「体は大丈夫?」
かな子「まだちょっと頭がぐるぐるしてて」
杏「いいから、ほら。こっち来て。座って」
かな子「ありがとう、杏ちゃん」
杏「はい、タオル」
かな子「はうぅ……」
幸子「お疲れ様です、みなさん! 見事な飛びっぷりでしたね!」
紗枝「尻込みせず、すぐに飛べるなんてびっくりやわぁ」
友紀「熱中しすぎて声出すのも忘れちゃってたよ!」
杏「あぁ、そういえば途中から声が聞こえてこなかったような……」
幸子「ボクらのチームもなかなかできるということを、彼女達に証明してみせましょうね、紗枝さん!」
紗枝「せ、せやね」
友紀「ひとまずはおつかれ。次はあたし達がやっちゃうから」
かな子「がんばってください!」
智絵里「わたしも、応援してます」
杏「飴でも舐めながら見てるね」
KBYDチーム 1番手:小早川紗枝
瑞樹「CANDY ISLANDチームが体を張った前半戦が終了して、いよいよ当番組の体当たりメンバー、どすえチームの登場です」
愛梨「まず先鋒となるのは、はんなり担当の小早川紗枝ちゃんで~す♪」
紗枝「よろしゅう、お、お頼申します……」
友紀「いよっ! 日本一!」
幸子「紗枝さん、がんばってください!」
愛梨「どすえチームは元気いっぱいですね~」
瑞樹「ジャンプ台の紗枝ちゃんだけはそれどころじゃない雰囲気をしてるみたいだけどね」
瑞樹「ところで……普通に飛ぶだけじゃあ、つまらないと思わない?」
愛梨「そうですねぇ。全体の半分が過ぎたことですし、どすえチームには違うことをしてもらいたいですね~」
紗枝「あっ……何か嫌な予感……」
瑞樹「ということで!!」
愛梨「紗枝ちゃんには、クイズを出題します♪」
紗枝「ええぇっ!? この場で? この状況で!?」
友紀「マジ?」
幸子「ボク達だけそんなことやらなきゃならないんですか?」
瑞樹「あなた達はCANDY ISLANDに比べて、番組的にも芸歴的にも先輩でしょう? できる先輩って部分をアピールしないと」
紗枝「そやかて……」
瑞樹「問題です。歴史の……30!」
紗枝「最高難易度やないですか!!」
瑞樹「大きな決断をしなければいけない状況のことを、紗枝ちゃんのふるさと・京都の、あるお寺に例えたことわざで……?」
紗枝「清水の舞台から飛び降りる?」
瑞樹「……と言いますが」
瑞樹「では、江戸時代が始まってから終わるまでの265年間、実際に飛び降りた人数は何人でしょうか!」
紗枝「人数!? えっと、えーっと……」
幸子「普通にガチ問題ですけど……」
友紀「手加減無しの全力投球だよコレ。紗枝ちゃん答えられるかなぁ?」
愛梨「解答チャンスは1回きりですよ~」
紗枝「んん……62!」
瑞樹「62人! 理由は?」
紗枝「今日、収録に来て1番最初に聞いた大きい数字やったので」
瑞樹「答えは……」
愛梨「ざんね~ん! 違います!」
紗枝「そやね、そないな単純問題なわけ無いよね……」
幸子「ドンマイですよ」
友紀「さすがにこれは仕方ないね」
愛梨「答えは、234人でした~」
紗枝「多いっ!」
瑞樹「清水寺所蔵の『成就院日記』に詳細が記録されていて、同書に印されている人数だけでも、江戸時代だけでのべ234人いたとのこと」
瑞樹「あくまで記録に残った分の人数なので、実際にはさらに飛んだ人がいたのではないかと推測されています」
瑞樹「どうやら当時は願掛け目的でジャンプしてたみたいね。私にはちょっと無理かな」
友紀「つまり、『お願い!清水デラ』ってことか! あはははは!」
幸子「……」
紗枝「……」
友紀「あれぇ~? 今の最高にうまくない?」
愛梨「そういうことで、残念ですが紗枝ちゃんハズレですっ!」
紗枝「ど、どないなことになるんどすか?」
瑞樹「ペナルティとして……本放送では幸子ちゃんの飛ぶシーンがカットされます!」
幸子「ええええええええ!!!」
友紀「幸子ちゃん、おつ」
幸子「“おつ”じゃないですよ! ボク完全に巻き添えじゃないですか!」
瑞樹「大丈夫。あとで挽回のチャンスがあるから」
幸子「本当ですか?」
瑞樹「逆転をしてこそのクイズ番組だもの」
友紀「紗枝ちゃんはあとで歴史の特訓だよー!」
紗枝「もう色々と堪忍しとくれやす……」
愛梨「紗枝ちゃん、準備は良いですか?」
紗枝「あきまへん! まだあきまへん!」
瑞樹「そうなの……はい、カウント!!」
紗枝「そんな殺生な!」
愛梨「いきまーす、5!」
4!
3!
紗枝「あぁ、もう……」
紗枝「京都はええところですから、みなさんどうぞおこしやす!」
2!
1!
瑞樹・愛梨「バンジー!!」
紗枝「きゃああああぁぁぁぁああ!!」
――――――――――
――――――――
――――――
――――
紗枝「ふえぇ……幸子はぁん……」
幸子「よしよし。もう飛び終わりましたから大丈夫ですよ」
幸子「……なんで1番年下のボクがこんなお母さんみたいなことさせられてるんですかね」
友紀「それは幸子ちゃんがカワイイからだよ」
幸子「なるほど! カワイイあまり甘えたくなると、そういうことですね! ならば仕方ありません!」
友紀「お母さん! 順番変わって!」
幸子「自分で『最初には飛びたくないけどトリも嫌だ』って言うから2番手になったんでしょう? 責任持って飛んできてください」
友紀「へーい……」
KBYDチーム 2番手:姫川友紀
愛梨「中堅で飛ぶのは、どすえチームのスポーツ担当、姫川友紀ちゃんで~す♪」
友紀「よろしくお願いしまーす!」
瑞樹「友紀ちゃん、どうして上を向いてるの?」
友紀「下さえ見なければ怖くないって結論に行き着いたんで」
愛梨「でも、足元が危ないから気をつけてね?」
友紀「だいじょ……あー! もう、そんなこと言うから足元を見ちゃったよ! 下が見えたぁ!!」
友紀「こわい! ヤバイ!」
瑞樹「これが東京ドームで打たれたホームランボールの目線よ」
友紀「追い撃ちやめて!」
瑞樹「怖がっているところ悪いけど、紗枝ちゃん同様に友紀ちゃんにも色々やってもらうわよ」
愛梨「これをクリアすれば、幸子ちゃんの出番はカットされませんよ~」
友紀「そっかー……あたし無理っぽいから、もうカットで良いんじゃないかな?」
幸子「友紀さん!!」
友紀「冗談だよ。ちゃんとやるから」
友紀「で、どんなクイズ? 個人的にスポーツジャンルが良いなぁ~」
愛梨「友紀ちゃんにやってもらうのは、実はクイズじゃありません」
友紀「ありゃ?」
瑞樹「紗枝ちゃんにはクイズで頭を使ってもらったからね。友紀ちゃんには体を使ってもらうわ」
友紀「ここでバンジー以外に体使うの?」
愛梨「やってもらうのは……応援です!」
幸子「応援……」
紗枝「誰の何をどすか?」
瑞樹「友紀ちゃんが応援したいもので結構よ」
瑞樹「推し球団のキャッツへ向けたエールでも良いし、どすえチーム全体への鼓舞でも良いし」
愛梨「お腹から声を張り上げれば、怖さも軽減されると思いますよー」
友紀「応援ねぇ……よっし!」
友紀「キャッツの応援も交えて、あとに控えている幸子ちゃんを応援します!」
幸子「ゆ、友紀さん……!」
友紀「ちゃんと見てなよ? 1回しかやらないんだから」
紗枝「ええ人どすなぁ。そうでしょう、幸子はん?」
幸子「フ、フフーン! ボクはカワイイですから、仲間に愛されるのも当然ですよ!」
紗枝「うふふ、そうどすな」
瑞樹「友紀ちゃん、谷間に響く応援をお願いね。カウントはしないから」
友紀「だったら、応援が終わったタイミングで飛ぶってことで!」
友紀「ふぅー……声出していこーー!!」
友紀「フレー! フレー! フレーフレー幸子ちゃん!」
友紀「ファイト! ファイト! ガッツだぜ!」
友紀「H・O・MER・U・N! ホームラン!」
友紀「フレー! フレー! フレーフレーキャッツ!」
友紀「目指せ、ゆう……しょおおおぉぉぉおおぉぉうううぅぉぉおおおお!!!」
――――――――――
――――――――
――――――
――――
友紀「うえーん、幸子ちゃーん」
幸子「あなたまでボクのところに来るんですね……よしよし」
友紀「あー、母性を感じる」
幸子「20歳が14歳に向かって何言ってるんですか」
幸子「……でも、友紀さんのこと、少し見直しました」
幸子「べ、別に感謝しているわけではないですから。ボクのかわいさの前では、応援したくなるのも当たり前ですし!」
友紀「この凹凸の少ないボディーがまた良いよね、これ」
幸子「叩き落としますよ!!」
KBYDチーム 3番手:輿水幸子
瑞樹「来ましたよ、ついに本日最後のチャレンジャーとなりました」
愛梨「どすえチームの大将枠、自称カワイイ担当の輿水幸子ちゃんで~す♪」
幸子「自称じゃないです、事実です!」
幸子「全視聴者のみなさん、お待たせしました。どうも、カワイイボクです!」
幸子「バンジーでも輝く様をしっかり目に焼き付けてくださいね!」
愛梨「幸子ちゃん、カメラが独占できているのでテンション高いですね♪」
瑞樹「ものすごくビビってた開始直後の幸子ちゃんはどこに行ったのかしら?」
幸子「テレビ画面にボク1人が大きく映っているというのに、ビビってなんかいられます? 怖くないですよ。本当ですからね。怖くないですからね!!」
幸子「ところで、カットの件はどうなったんですか?」
瑞樹「友紀ちゃんのハイパーな応援が良かったから、カットは無しで」
幸子「やった!」
瑞樹「カットは無くなったけど、もちろん幸子ちゃんにも課題はやってもらうからね?」
幸子「前の2人ができたんですから、ボクだって余裕でキメますよ」
幸子「何をやるかわかりませんが、何が来ようとたいしたことはありません」
瑞樹「おぉ、言い切る言い切る。ふっふっふ、その余裕はどこまで続くのかしらね?」
瑞樹「幸子ちゃんにやってもらうことは……愛梨ちゃん、何でしょうか?」
愛梨「それは……“無し”です!」
幸子「えっ、無し……?」
瑞樹「紗枝ちゃんには頭を、友紀ちゃんには体を使ってもらいました」
瑞樹「幸子ちゃんにはこれといって特に指示・指定はありません!」
愛梨「体でも頭でも、何をやっても良いです。とにかく面白いことをしてください♪」
瑞樹「私達はそれに対してOKとかNGとか出さないから、素晴らしいパフォーマンスをよろしくね」
友紀「フリースタイル!?」
紗枝「また難儀なことを……」
幸子「もうちょっと具体的な何かは無いんですか!?」
瑞樹「無いわね、残念ながら」
幸子「自由というのが1番困るんですけど!!」
瑞樹「あのね、幸子ちゃん? これはあなたの実力を試すチャンスなのよ」
瑞樹「この自由に見えて束縛された状況から、面白いことをする……」
瑞樹「それができれば、腕があるアイドルってことが証明されるのよ!」
幸子「ぐっ……正論すぎて反論できない……」
幸子「……わかりました!」
幸子「面白いこと言います!」
愛梨「面白いこと……ですか~。ちなみに、なぜそのチョイスなのでしょうか?」
幸子「この状況で面白いことができるとしたら、口を使うことくらいですからね」
幸子「カワイイボクは、こんな時こそ完璧にできると証明してみせますよ!」
友紀「ハードル上げていくなぁ」
紗枝「大丈夫やろか?」
瑞樹「豪語するからには、その面白い話を披露してもらいましょう! 幸子ちゃん、どうぞ!」
幸子「では……んんっ!」
幸子「今日のバンジーではボクが最後です。要はトリですね」
幸子「そりゃあもう、鳥のように」
幸子「バーッド飛びますよ!」
幸子「以上です。どうですか、この素晴らしい三段構え!!」
瑞樹「……」
愛梨「……」
紗枝「……」
友紀「あっははははは!!!」
友紀「やるねぇ、幸子ちゃん! 渾身の1発だ!」
幸子「そうでしょう? そうでしょう!」
友紀「さっきがんばって応援した甲斐があったよ!」
友紀「特にバーッドの部分が勢いあって、あたし好きだね!」
紗枝「友紀はん。お酒入ってはります?」
友紀「収録前に飲んでくるわけないじゃーん、素面だよ。それが?」
紗枝「いえ、なんとなく……」
幸子「川島さん、愛梨さん! どうですか、このメンバー絶賛の面白い話!」
瑞樹「はーい、カウントいきまーす」
幸子「無視!?」
愛梨「うーん、ノーコメントというか……」
瑞樹「最後の最後にこれだと全然締まらないのよね……」
幸子「こんな場所でわざわざギャグを言ったのに、ひどくないですか!?」
瑞樹「2つの意味で、とっても勇気がいる行動だったのは、そうね」
愛梨「あっ!!」
瑞樹「どうしたの愛梨ちゃん?」
愛梨「瑞樹さん、あれですよ。横断幕」
瑞樹「あぁー、そうだそうだ。あったわねぇ、どすえチーム用のやつも」
幸子「あるんですか? ボクら別に宣伝すること無いですけど……」
瑞樹「この番組に対する意気込みとかで良いんじゃないかしら? はい、これ」
紗枝「ちゃんとKBYDと書かれてはりますなぁ。色もきれいやわ」
友紀「幸子ちゃん! 最後らしくズバッとキメちゃってよ!」
幸子「まかせてください!」
瑞樹「さぁ! 幸子ちゃんには横断幕を持ってもらったまま、文字通り鳥になってもらいましょう!」
愛梨「本日最後のカウント入りま~す♪」
瑞樹「いくわよ! 5!」
4!
幸子「この間は引き分け勝負でしたが」
3!
幸子「次の対決では、絶対このボク達が勝利しますからね!」
2!
幸子「あとはそうですね……」
1!
瑞樹・愛梨「バンジー!!」
幸子「えっ、まだ言い終わって無いのに……つまりですね!」
幸子「ボクらも、がんばります……よおぉぉおおおおおああぁぁぁこわいこわいこわいぃぃああああ!!!!」
――――――――――
――――――――
――――――
――――
瑞樹「これで6人の勇気あるアイドル達が飛び終わりました」
瑞樹「いやー本当に壮絶な罰ゲームだったわね?」
愛梨「でも、こういう感じの体を使った罰ゲームは続けていきたいです!」
瑞樹「そうね。視聴者さん達は間違いなく盛り上がっただろうから、定期的にやっていきたいわ」
瑞樹「あっという間のお時間となってしまいましたが……」
瑞樹「瑞樹と」
愛梨「愛梨の」
瑞樹・愛梨「筋肉でドン! Muscle Castle!!」
愛梨「次回は再びスタジオでお会いしましょう~♪」
瑞樹「また来週~♪」
終了後 控えテント内
智絵里「終わったね……」
かな子「終わっちゃったね」
杏「みんな生きてる?」
智絵里「うん」
かな子「杏ちゃんは?」
杏「体がズシンと重くなってきた気がする」
智絵里「わたしも、なんとなく」
かな子「そうなんだ。私は今もずっとドキドキしてる」
武内P「お疲れ様です」
智絵里「あ、プロデューサーさん!」
かな子「お疲れ様です!」
杏「お疲れというかマジ疲れというか」
武内P「少し離れた場所からではありましたが、みなさんの活躍を見させていただきました」
武内P「本当に、お疲れ様でした」
杏「プロデューサー」
武内P「はい」
杏「今日の収録、杏達は極力明るい雰囲気でやり通したつもりだったけど」
武内P「収録中は双葉さんも、三村さんも、緒方さんも……いつものみなさんの笑顔と同じくらい……いや、それ以上の」
武内P「とても良い表情に見えました」
杏「でしょ?」
かな子「ありがとうございます!」
智絵里「ありがとうご……あ、あれ?」
杏「智絵里ちゃん?」
智絵里「あはは、な、なんでだろう……」
智絵里「ほっとしたら急に、なんか……涙が……えへへ」
かな子「大丈夫だよ智絵里ちゃん。もうカメラは回ってないから」
智絵里「ありがとう。でも、ずっと、まだまだ、みんなといたいから……」
智絵里「収録を笑顔で楽しく最後までだったけど、そうじゃなくて」
智絵里「これからも3人で……CANDY ISLANDで、ずっとずっと、笑顔で楽しくやっていこうね♪」
かな子「もちろんだよ! 私も智絵里ちゃんや杏ちゃんと一緒だと、すごく楽しいもん!」
杏「杏は、正直印税がもらえれば別に良いし働きたくもないけど」
杏「……2人と一緒なら、こういうのも悪くはないかな」
杏「智絵里ちゃん。かな子ちゃん。ありがとう」
智絵里「うん♪」
かな子「これからも、みんなでがんばろうね♪」
――fin――
転載元
杏「本当にバンジージャンプやんなきゃいけないの?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1439601188/
杏「本当にバンジージャンプやんなきゃいけないの?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1439601188/
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コメント一覧 (31)
-
- 2015年08月15日 21:29
- 作者がちゃんと自分で跳んで撮影してきたっていうwwwすげーよwww
-
- 2015年08月15日 21:29
- これ写真あるってことは作者バンジー行って来たのかな
-
- 2015年08月15日 21:40
- >>2
行ってきた上に幸子の飛び方と杏と同じ後ろ向きに落ちる飛び方もしたんだってさ。
-
- 2015年08月15日 21:42
- 18話が物足りなかったからこういうSSはありがたい
ところで18話の幸子は先輩アイドル感薄くなかった?楓さん達と比べそんなにガッツリ出てないし、持ち歌披露してないし、もう少し絡ませても良かった気が
-
- 2015年08月15日 21:45
- 最後の数枚は落ちながら撮ったのか
スゲーなこの人
-
- 2015年08月15日 22:07
- 幸子には、それだけ人を狂わせる、何かがあるって事だよ。
-
- 2015年08月15日 22:49
- 作者の勇気に☆5
-
- 2015年08月15日 23:14
- こういう後日談的なもの好き。
てか作者自ら飛んでるのか、すごいな
-
- 2015年08月15日 23:29
- アニメだとこの番組も常務の意向で終わっちゃってるのかな?
-
- 2015年08月15日 23:33
- ※9
1話だか2話だか3話だか4話だか5話でやってたはず
-
- 2015年08月15日 23:35
- こういうのでいいんだよ、こういうので
-
- 2015年08月15日 23:35
- とときんが出るとクラクラす可愛い
-
- 2015年08月15日 23:52
- 団結みたいな議論しとったな
-
- 2015年08月16日 00:31
- CPは14人しかいないから杏がだらけられる状況が少なくなるからしっかりしないといけない場面が多くなるのは必然だよなぁ。
というか何気にだらけて迷惑かけたの4話だけだし。
-
- 2015年08月16日 02:11
- カメラ持って飛ぶとか勇者だなw
-
- 2015年08月16日 02:23
- SSも写真もよかった、文句ない
-
- 2015年08月16日 05:49
- こいつはアホ(確信)
-
- 2015年08月16日 08:36
- ニューリーダー病患者
「お、俺様は何リーダーになるんだい?」ドキドキ
-
- 2015年08月16日 09:58
- ※14
きらりもだけど杏もスゲー空気読むからな
CPメンバーって天然なのと自己主張控えめな子多いから
必然的に杏が上手く立ち回らないといかん
CPメンバーがからかいやすい幸子や世話焼きの菜々さんとかそういう面子だったら、
杏も甘える感じでもう少しだらけたんだろうなって思う
-
- 2015年08月16日 10:27
- これはいい補完
作者が直接やってきたってのもすごい
-
- 2015年08月16日 11:24
- 実際飛んだ経験あると分かると思うけど、カウント通りに飛ぶってだけで物凄く勇気がいる
当然尻込みすればそのぶん恐怖にとらわれて飛びにくくなるんだけど、飛べない人は飛べない
そこら辺CANDY ISLANDの肝の座り方は凄いと思うし、結束力をモチベーションに変える感じが上手く書けてたと思う
-
- 2015年08月16日 11:32
- >友紀「そっかー……あたし無理っぽいから、もうカットで良いんじゃないかな?」
うーんこの畜生
そういえば幸子がいつまで経っても飛ばないからユッキが蹴落とすってSSもあったな…
-
- 2015年08月16日 12:23
- SS内で述べられていますが、清水の舞台から234人が飛び降りていますが生存確率は結構高く198人が助かり平均生存率85%だったそうです。
-
- 2015年08月16日 19:11
- 愛が重すぎるんだよなぁ(褒め言葉)
-
- 2015年08月16日 21:35
- 作者自らバンジーを飛ぶ勇気は凄い
内容も18話のよい補完になってる
-
- 2015年08月16日 23:52
- 聖地巡礼というか最早取材やな
-
- 2015年08月17日 16:01
- 癒された。CIとKBYDと作者に。
-
- 2016年07月25日 19:55
- 作者さん乙。しかし、杏の後ろ向きで踵半分出した状態って想像しただけでひやっとしますね。
清水寺から飛んだ人数記録されてたのは知らなかった上、生存率高いのにも驚きです。ですが、亡くなる人がいる位ですから生き残っても障害残った方もいるんでしょうね。そこまで決意して飛んだのですから、願いが叶っているといいですが…
-
- 2016年09月04日 07:30
- 作者さんの熱意とアイドルへの愛情がものすごいSSでした。
-
- 2016年11月25日 02:22
- アニメだと、ここの部分はEDでダイジェストのみやったもんなあ…
これは良い補完やね
-
- 2018年02月18日 20:07
- 猿が京?
まじ怖いぞいってこいよ