男「売られてた奴隷にガチ惚れして衝動買いしてしまった」【前半】
男「キミみたいな若い娘はけっこう値が張ったが……まあ良いだろう」ジロリ
少女「………」ビクッ
男「………さて、まずはそのボロをどうにかしないとな、ついてきなさい」スタスタ
少女「………はい……」ヨタヨタ
男「………」チラッ
少女「……っ…」オドッ
男(かわいい)ポッ
少女(………こわい…)
浴場。
男「丁度湯は張ってあるようだし入りなさい、着替えるにもその体の臭いと汚れは落とさんとな」
少女「えっ、で…でもこんな立派な所なんて奴隷のわたしが……」
男「気にしなくていい、風呂はここしか無いしな」
少女「……じゃ、じゃあ入ります……えと…」
男「…………」ジー
少女「………」
男「…………」
少女「………っ……」モソモソ
男「……」ジー
少女(……じーっと見てる……やっぱり裸になるの見せなきゃダメなんだ……そうだよね、わたしは今この人の奴隷なんだから)シュル
男「うっ…ダメだ刺激が……とりあえず上がったら居間まで来なさい、良いね?」ヨロヨロ
少女「へっ?あっ、はい…」キョトン
バタンッ
少女「…………んん?」
バタンッ
男「………ふぅ」
メイド「若旦那様?」ヒョコ
男「おおぅ!?な、なに?!」ビクッ
メイド「奴隷をご購入なさるなんて珍しいというか初めてですけど、どうなさったのです?」
男「い、いやなんというか……気紛れ?」
メイド「まあ良いですけれど、あの年頃の娘ならかなり高額だったのでは?」
男「ま、まあそれなりに」
メイド「……………私のお給金大丈夫なんですかね?最近切羽詰まってるとぼやいていたのに」ジトッ
男「うぐっ……だ、大丈夫だよ仕事は最近は真面目にやってんだから」
メイド「それなら構いませんけど……嫌ですからねお給金わ代わりにあんな貧乳の激チビ渡されたりしたら」
男「買ってきたばっかりというか給金を奴隷払いにとかしないからね?渡すなら家の貴重品渡すから!!」
メイド「質屋に流すの面倒なんでちゃんと現金化して渡して下さいね?」
男「メイドさんは金の話ばっかりだね……」
メイド「当たり前です、大旦那様と違って若旦那様は商才が無いので家計は火の車ですから、私以外のメイドや執事はやめてもらったのをお忘れですか?」
男「………」
メイド「………さて、話はこれくらいにしてあのチビ娘に着替えを用意すれば宜しいのですよね?若旦那様はお仕事でもなさっていて下さいまし」スタスタ
男「う、うん…」
数十分後。
メイド「若旦那様、激チb…ごほんっ…彼女の支度を終えましたのでこちらに通しますね?」
男「あ、ああうん、ありがとう」
少女「……えと、良いのでしょうかこんな高そうな服を…」
男「そのぐらいは身なりを正して貰わないとこの家に居るのに相応しくないからな、当然だろう?」
メイド「…………なにを気取った口調で話しているのですか」
男「……………」ビクッ
少女「………?」
男「………とりあえず食事にしようか?支度を」
メイド「………まあ良いでしょう、かしこまりました」ペコリ
男「キミはとりあえず座っていなさい」
少女「あ、はっはい…」
少女「……あ、あのっ」
男「なんだ?」
少女「……わ、わたしはこのお屋敷で何をすれば?」オドオド
男「…………ふむ……そうだな…」
少女「……………」
男「………」ジー
少女「………うっ……」
男(かわいい)ポッ
少女(………こわい……)
男(しかし困った、させることか………何も考えてなかった……気がついたら財布の紐を握ってた筈がこの子の首輪についた鎖握ってたからな……まあすぐに首輪は外したが)ウーム
男「………得意な事は?」
少女「えっ、その……奴隷としての事はやったことないから分からないです……」ビクッ
男「……そうなのか?」
少女「は、はい……奴隷として売られ初めて一時間もしない内にあなた…じゃないご主人様が私を買ったので……」
男「そのわりには反抗的じゃないな、奴隷なら誰でも最初は反抗的なもんだと思うが」
少女「………そうですか?えと……そうなのかな、よく分からないですけど」
男「…………」
少女「逆らったら酷いことされるって聞いたし……逃げられないですし」
男(あっ、抱き締めたいめっちゃ抱き締めたい、抱き締めて優しくそんなことしないよって頭撫でながらベットに押し倒したい)
少女「………?」
男(ちょっとぐらい良いかな?俺ご主人様だしちょっとぐらいなら大丈夫だよね?うん平気すっごくやさしくするから大丈夫)ハァハァ
メイド「なにをハァハァ言ってるんですかロリコン」
男「」ビクッ
少女「あっ…えと、ろり…?」キョトン
メイド「………まあ若旦那様がお買いになったものですしどう扱おうと私には口出し出来る権利はございませんけれどね?」ジトッ
男「………メイドさんは何を勘違いしているのかな?俺がそんな変態な訳無いだろう?彼女はあれだ、流石にメイドさん一人じゃこの家の仕事を全部こなすのは大変だろうからって僕が考えたからでね?べ、べべ別に変な事をしようとして買った訳じゃ」
少女「は、はぁ」
メイド「そうですか、てっきり若旦那はロリコンなのかと思っておりましたからとんだ勘違いを致しました…申し訳ありません」ペコリ
男「ど、どどどっ、どうしてそんな勘違いをするかな?ふはははは……」
メイド「……いえ、だって、ねぇ?」ボイン
少女(わっ…すごい、よく見たらすごく美人だしスタイルも……)ドキドキ
男「へ?」
メイド「…………チッ…お食事の用意が出来ましたので食堂の方へおいでください」ペッ
男「主人に唾吐くメイドってなんなの……まあいいけど……それじゃ食事にしようか」
少女「は、はい」
メイド「冷めない内にお召し上がり下さいね?」
男「それじゃあいただきます」
メイド「いただきます」
少女「同じテーブルで頂いて良いのでしょうか?」
男「へ?他に何処で食べるの」カチャカチャ
メイド「使用人である私だって同じ場所で頂いているのでそんな心配はしなくてもいいですよ」
男「ていうか家って親父やじいさんの代から使用人全員丸ごと俺達と同じ場所で食べてたよな?」
メイド「そうですね、世間的には異端ですけれど良いのではないですか?それとも今から離れましょうか?若旦那様独りで食べる事になりますけれど」
男「……いやなんか寂しいし勘弁して」
少女「………」ジー
男「食べないの?」
少女「あ、いえいただきます!!」カチャカチャ
メイド「たくさんあるので遠慮せずにどうぞ」
少女「……っ…んく…」モソモソ
男「………少食っぽいな、あんまり進んでないし」モグモグ
メイド「見た目どうりですね、そんな事じゃ大きくなれませんよ?」
少女「えっ、あ、はいすいません…」
男「良いからもっと食べなさい、成長期は栄養取らないと」
メイド「そうですよ、大きくなりませんよ色々と」モリモリムシャムシャ
男「……メイドさんは育ち過ぎでしょ」
メイド「何か不都合でも?」
男「…………伸長俺より高いし」
メイド「若旦那様がチビなだけではないですか、女でも170ぐらいは普通です」モリモリ
少女「えと、成長期ですか?」
男「ああうん……キミはそうだろう?ほどほどに大きくなるためにしっかりね、食べなさい」
少女「え、いや……たぶん成長期は終わっていると……わたし小さいけどもう18になりますし……」
男「は?」
メイド「えっ」
少女「うっ…えと」ビクッ
少女「え、えと……ダメだったでしょうか?」オドオド
男「いやいやちょっとまって?18歳?」
少女「は、はい」
メイド「えっ……お、同い年?」
少女「へ?」
メイド「並んで立ったら頭が私の胸の下ぐらいに来そうなのに同い年?」
少女「あれ?メイドさんも18歳なんですか?」
男「うん、そうだよ、俺の二つ下……」ジー
少女「………そうなんですか……」
メイド(そうは見えない……てっきり12かそこらかと……)ジー
少女(……見えないなぁ、てっきり25ぐらいなのかなって)ジー
男(合法ロリ!!合法ロリ!!いや奴隷に合法も非合法も基本関係無いけど気分的に合法ロリ!!)ハァハァハァハァ
メイド「隣ではあはあ言うのはやめて下さい若旦那様」ジロッ
男「な、ななんのこと?」ビクッ
メイド「……まったく、変な事を考えていないで少しは彼女の事を真面目に考えてあげたらいかがなんですか」
男「ふぇ?」キョトン
メイド「…………この歳でここまで幼いなんて、ようは奴隷だからというのがあるでしょう?違いますか?」ヒソヒソ
少女「………?」
男「……あ、ああそうか……成長期に極端に栄養が不足してしまうと体格が変わらないまま大人になってしまうらしいからな……事実幼少の頃から奴隷身分の者はその殆どが体が小さく体力も低い……だから過酷な労働に身をおく事の多い奴隷は……」
少女「……えと…?」
メイド「………」ウルッ
男「……ふぐぅ!!」ボロボロ
少女「え、あの、ええ?」オロオロ
男「……分かった、キミはもう大丈夫だ、何も心配しなくていい!!だからたくさん食べなさいまだ間に合う!!」ガタガタ
メイド「ミルクも用意しましょう、大丈夫ここに居れば少なくともお腹を空かせる事なんかないですから、ねぇ若旦那様?」グスッ
少女「え、あの……だからわたしは奴隷にはなったばかりで以前は普通の暮らしを……えと、小さいのは元からで……」オロオロ
男「いいから!!大丈夫ちゃんと大きくしてあげるから!!」
メイド「さあミルクです、ジョッキで用意しましたからどうぞ、おかわりもありますよ」ドンッ
少女「……あ、あぅ……」オロオロ
………
バタン
少女「……けふっ……お、お腹が……」
メイド「少々食べさせ過ぎましたね……私としたことがごめんなさいね?いきなりあんなに食べさせたら贅肉になってしまうのに」ハァ
少女「だ、大丈夫ですあんまり太らない体質ですし……それより本当に良いんですか?こんなに良くして貰って……」
メイド「構いませんよ、若旦那様は見ての通りゲスい小者の変態ですが基本お優しい方ですから」
少女「は、はぁ」
メイド「………それより、貴女はどの部屋を使うように言われました?」
少女「へ?えと、ご主人様の寝室の隣が空き部屋らしくてそこを使うようにと」
メイド「却下ですね、どうせ直接手を出す根性は持ち合わせていないでしょうが夜中に忍び込んで変な事をこっそりするぐらいはもしかしたらあるかもしれませんし」
少女「へ、変な事?」
メイド「………私の口からはちょっと」フイッ
少女「そ、そうですか……でも、夜にそういう……えと、お相手させていただくのも私のお仕事なんじゃ……」
メイド「……」クワワッ
少女「あぅ」ビクッ
メイド「……若旦那様にそうハッキリと言われたのならそうでしょうけれど、言われてませんよね?」
少女「………えと」
メイド「言われてませんよね?」クワワッ
少女「い、言われてません」ビクッ
メイド「……よし、でしょうねなら無用の心配ですから大丈夫」フゥ
少女「……は、はぁ」
少女「……えと、それはわかりましたけど……お部屋はどうすれば?一応ご主人様にお話を…」
メイド「私の使っている部屋を相部屋にしましょう、今から家具を動かしたり準備すれば休む時間までには形になるでしょうし手伝って下さい」スタスタ
少女「あ、はい!!」トタトタ
メイド「ついでにメイド見習いとして色々と教えますね?丁度良いですし」
少女「わかりました、お願いしますメイドさん」
メイド「こちらこそ」ニコリ
…………
男「色々と話でもして仲良くなろうとしたらメイドさんに少女ちゃん取られた……はぁ…」
男「………まあ良いか……今の内に少女ちゃんの寝室に鍵を壊し…もとい危険が及んだらすぐに駆けつけられるように準備しておこう」ソワソワ
……夜。
メイド「………ふぅ、ベッドは流石に重い…!!」ドンッ
少女(…………木製のだけど一人で持てる重さなのベッドって!?め、メイドってこんな力必要なの!?)ガーン
メイド「どうしました?」キョトン
少女「あ、いえ……力持ちですね……」
メイド「ああ……昔からお転婆と言われる程度には力任せに男の子とケンカとかしていましたし、その名残でしょうか?」ウーン
少女「お、お転婆というよりは男勝りでは?」
メイド「その表現はちょっと不快なので避けてるだけですけど……しょっちゅう言われていました」プイッ
少女「そ、それより……あの、メイドって力仕事なら私勤まるか分からないです…」シュン
メイド「ああメイドとしての仕事にこんな男の人を呼ばなくては出来ない仕事はないですからね?ただ私が出来るというだけで」
少女「は、はぁ」
メイド「力仕事なんてあるにはありますけど女の手で出来るものに限りますから大丈夫、貴女でも勤まりますよ」
少女「が、かんばります」
ねる
登場人物3人のスペック
男
二十歳、身長166cm体重51kg
性格はメイドの評価通りゲスい小物の変態。
少女
十八歳、身長141cm体重38kg,B67W49H69
おとなしく従順な性格、よく人に騙される。
メイド
十八歳、身長175cm体重、3日断食断水すれば若旦那よりは軽量。
B 92W62H86
性格はデレるタイミングを見失って数年経過しちゃったツンデレという感じ。
じゃ(´・ω・`)また明日
翌日。
メイド「おはようございます若旦那様」
少女「お、おはようございます」ペコリ
男「……おはよう」
少女「………?」
メイド「どうやら気分が優れないようですが?」
男「……いや、体調が悪いわけではないんだけどね?あのさ、昨日って……」
メイド「ああ……そう言えば伝え忘れておりました、この子は私と同じ部屋を使わせますのでそのように」
男「……昨日は一緒に居るんだろうと思って何も言わなかったけどこれからもなの?折角部屋用意したのに」
少女「あ、えと……」
メイド「それは申し訳ありませんでしたが女同士同じ場所の方がなにかと都合もいいので」
男「い、いやでも夜くらいはプライベートタイムというかなんというか一人の時間とかあっても良いんじゃないかなーって……」
メイド「ふむ……一理ありますが、どうおもいますか?」
少女「へ?えと、あの、わ…わたしはそんなお部屋なんて戴ける身分じゃないので…」オロオロ
メイド「だそうです、無用の心配ですね」
男「遠慮してるだけでしょそれは!?そこは遠慮しないで大丈夫ですよっていってあげるところでしょ!?」
男「と、とにかく部屋は別々にしてあげなってば、ね?」
メイド「何故です?」
男「い、いや何故と言われたらその方が良いだろうぐらいしか言えないが」フイッ
メイド「大した理由がないならそこまで不満に思う事ないと思いますが」ジー
少女「……あ、あのメイドさん?ご主人様が別にしろと言うのなら私は……」オロオロ
男「……っ!!」ピクッ
メイド「ダメです」プイッ
少女「えっ…」
男「ダメですってメイドさんがなんで決めるのさ!?理由は!?」
メイド「夜一人だと寂しいので、私が」
男「……」
少女「……えと」
メイド「恐がりなので」
男「なにいってんの、凶器持ったムキムキの暴漢にも怯まず向かってくほど度胸あるクセに」
少女「ええっ?」
メイド「お化けとか幽霊とかが怖いので」プイッ
男「なにいってんの、子供の頃嫌がる俺を無理矢理引きずって近所の墓場に幽霊見つけに行くって三日三晩居座っ痛ででででで痛い痛い手首がネジ切れるぅ!?!?」
メイド「昔の事ですし」ギチギチ
少女「あ、えーと……」
メイド「もちろん貴女が嫌なら別々で構いませんが、どうします?」
少女「その……一緒で大丈夫です」コクリ
メイド「そうですか、よかった」ニコリ
男「」
メイド「ところで若旦那様、朝食を済ませたら仕立て屋へ行ってこようと思うのですが」
男「仕立て屋?なんで?」
メイド「この子に合うサイズのメイド服がないので、仕事着ですからお古のボロではちょっと…」
男「ああそういう事か、サイズ的にはメイドさんの子供の頃のが残ってるだろうけど、メイドさんの言うとおり仕事着だから新品じゃないとすぐ傷んで着れなくなるよね」
少女「メイド服ですか……」ジー
メイド「そうですよ、その格好では捗らないでしょうし」
男「………ふむ、服か……わかった、俺が連れて行くよ」
メイド「………は?」
男「いやだってメイドさん忙しいでしょ、普段から一人で切り盛りしてるから出掛けてる暇なんてなかったぐらいなのに、それなのに仕立て屋へのお使いまで頼めないでしょ、ねぇ?」ウンウン
メイド「…………くっ……ですが!!」
男「今日は俺仕事も大して無いから大丈夫だし」
メイド「……………わ、わかりました、お気をつけて」ヒクッ
男(よし、勝った)ニヤリ
メイド「……………」
少女「………?」
………
男「それじゃあ行こうか」
少女「あっ……はい」トタトタ
メイド「…………お気をつけて」ジトッ
男「じゃ、夜までには帰るからそのつもりで」
メイド「………かしこまりました」ムスッ
少女「い、行ってきます!!」ペコリ
バタンっ
メイド「………………」
メイド「……………………」
メイド「………うがぁぁあぁムカつくぅぅぅぅぅッッ!!!!なぁにデレデレしてんのよあのゲスちんは!!」ダンダンダンッッ!!
メイド「変なことしようとしてんの丸わかりなのよ元々寝かせようとしてた部屋は鍵壊れてたし!!ていうかあんなナイチチの激チビに欲情すんのかアイツは!!」ムカムカ
メイド「………あの子自体はいいこみたいだけど」
メイド「…………後つけようかな……でも仕事あるし……はぁ……」
メイド「あたしもちっちゃくなれればなぁ………無理か、育ち過ぎたのあたしだし」イジイジ
メイド「…………………はあ」トボトボ
…………
男「人が多いな、はぐれたらいけない、手を繋いで歩こう」キリッ
少女「え?あんまり多くないと思いますけど……まだ朝ですし」
男「………」
少女「えと……」
男「…………」
少女「………じゃあ、えと…失礼します」ギュ
男(………おおぅ、ええ子や……なんてええ子なんだ)ジーン
男「………メイドさんならしねゴミクズブタ野郎って罵り返されてる所やでぇ」シンミリ
少女「へ?メイドさんならですか?」
男「あ……いや気にしないで、子供の頃の話だから」
少女「はぁ」キョトン
少女「あの、聞いても良いか分からないですけど……良いですか?」
男「ん?」
少女「メイドさんとはその、恋人というかそういった関係なんでしょうか?」
男「」
少女「……あ…すいませんやっぱり聞いたらいけなかったですよね……」
男「あ、ああいやそれはいいんだけどなんでそう思ったのかを逆に聞きたいんだが…」
少女「えーと、主人とメイドっていう関係にしては仲が良い……すごく近い関係に見えたので」
男「あー、なるほど……確かにキミの言うとおりかも」
少女「それじゃあ……」
男「いや、子供の頃は好きだったけど今はそうだな……妹みたいに感じてるかな、それこそ物心つく頃から一緒に居るから」
少女「幼馴染みなんですね」
男「そうだね、最近は落ち着いたけど前は悪鬼羅刹のごとく跳ね回る男勝りな娘だったから遊び相手だった俺はオモチャにされて苦労したよ……」
少女「は、はぁ…オモチャですか…」
男「サンドバッグとも言うね、今はそれほどでもないけど嫌われてたからねぇ……ははは…」
少女「へっ?メイドさんにですか?」
男「他に誰が居るの」
少女「えっ、いやでも」
男「………うーん、あんまり人に言うのは恥ずかしいんだけど、子供の頃にその、愛の告白というのを言ってみた事があるんだよ、うん」
少女「はい」
男「………その時のメイドさんが放った言葉は今でもハッキリと思い出せる……「あたしはあんたなんか好きじゃないし!!勘違いしないでよねバカっ!!」……と、まだ純粋な少年だった俺さんは心を深く抉られてしばらく枕を夜な夜な濡らしたのさ」フッ
少女「は、はぁ…」
男「まあ昔の話だけどねー、メイドさんも見ての通り昔の事なんて気にせずケロッとしてるでしょ、いや昨日来たばかりのキミにはよく分からないかもしれないけど」
少女「……………来たばかりのわたしにも丸わかりでしたけど」ボソッ
男「ん?」
少女「いえ何でもないです」フルフル
…………
男「この子の寸法を計ってメイド服を」
店員「かしこまりました、ではこちらへ」スッ
少女「は、はい」
男(ちっ、店員は女か……男の店員なら堂々とスカート短めにしたりとか胸元を無駄に大きく開けたりとか色々特殊なメイド服も注文出来るのに)
店員「それでは奥で計らせて頂きますので男性の方は少々お待ち下さい」
男「お願いします」
男(くそ、これではわざわざ俺が連れて来なくても良かったのか?このままでは特殊メイド服どころかボンテージもビキニも初等学院の指定制服も運動着も注文出来ないじゃないか!!)ワナワナ
仕立て屋主人「おや?」
男「ん?」
主人「やっぱりそうか、街の離れの屋敷の坊っちゃんでしょう?」
男「えーと………ああ、2年前までは屋敷に直接来てもらってましたよね、お久し振りです」
主人「大旦那様の葬儀以来ですかね?いつもは使用人の方が訪れるのにわざわざお越しとは何か特別なご用でも?」
男「いや、ただの人手不足ですよ……父の代に比べたら細々とやっておりますし自分も雑用ぐらいはこなさないといけないので、はは……」ハッ
主人「左様ですか、まだお若いのに苦労なさっているようで……」ペコリ
男「いや、待って下さい特別な用件はあった、うん、ありました」クワワッ
主人「はい?」
男「…………いま寸法取っているんで……ゴニョゴニョ……で、あと……ゴニョゴニョ……」
主人「ふむ……ほう?……なんと!?」クワワッ
男「お願い致します」ガシッ
主人「喜んでお引き受け致しましょう、坊っちゃん…いいえ旦那様もずいぶんとお好きなようで」ガシッ
男「お褒めに与り光栄です」フッ
………
男「では後日屋敷の方に届けて貰えるように手配を」
店員「かしこまりました」
主人「またのご贔屓を」ペコリ
男「さて、用事は済んだし行こうか」
少女「はい、ありがとうございますっ」ペコリ
男「いやいや、服が無ければ色々捗らないからね、うん」
少女「はい、頑張ってご奉仕します」コクッ
男「もう一回言って?服を着て?」
少女「………?ご主人様に買っていただいた服を着て頑張ってご奉仕します」キョトン
男「………ふぅ」
少女「ご主人様?」
男「いやなんでもない、早く出来ると良いねぇ」シミジミ
少女「そうですね」トタトタ
主人(あっぱれなほど好き者ですな)
店員「ありがとうございましたー」
男「……丁度昼を取る時間か、折角だし何か食べていこうか」
少女「え、よろしいのですか?」
男「メイドさんには夜までに帰るって言ったから昼は用意してないと思うし………そうだな、あの店に入ろう」
少女「はい」
…………
イラッシャセー
男「なんでも頼んで良いよ、遠慮しないで良いから」スタスタ
少女「はい………あれ?」クルッ
イラッシャセー
男「どうかした?」
少女「あ、いえなんでもないです……」フルフル
男(女の子と二人で店で食事って何気に初めてだなぁ……家ではメイドさんと一緒にいつも食べてるけど)ソワソワ
少女(………後から入って来た人……メイドさん?……じゃないよね、お屋敷でお留守番してるはずだし)チラッ
女「…………」コソコソ
ウェイトレス「あの、お客様お席はどちらが………」
女「……さっき入ってきたロリコンと女の子の近くの席で二人から絶妙に死角になっている席で」
ウェイトレス「はい?」
少女「おいしいですね、こういうお店にまた入れるなんて思ってなかった……」
男「……ん?ああ、そっか」
少女「………昨日はまだよくわからなかったですけど、ご主人様はいい人みたいですし、もう怖くないです」
男「………あ、まあそうか、そりゃ自分を買った人間だし怖がられても仕方ないか」
少女「メイドさんもいい人ですし、わたし幸せですね…」
女「…………」ジー
男「…………そう感じてくれるなら良かったかな、あまり奴隷制度自体は好きじゃないから嫌遠してたんだが」
少女「ご主人様はどうしてわたしを?わたしは良かったですけど、他にもたくさん奴隷は売られていたし、わたしなんかよりお役に立てる人だって……」ジッ
男(キミが汚れていても輝く宝石のような瞳だったからさ)キリッ
少女「ご主人様?」
男「き、キミが…っひょ、よご……」オドオド
少女「………えと」
男「なんとなく」フィ
少女「は、はぁ……」
女「………………」ジトッ
男(………ふっ……落ち着け俺よ、慌てる事はない、彼女は逃げたりしないのだし別に格好つけた台詞なんて言わなくても良いだろう?)ブンブン
少女「…………?」
男(そうだ手を握ろう手を握って真っ直ぐに見つめるんだ男と女は見つめあうと恋に落ちると言うじゃないかそうだろう諸君?)カッ!!
少女「???」
男「………ち、ちょっとてててて手をだひて?」キョロキョロ
少女(……め、目が泳いでる)スッ
男「………」ソロソロ
少女「……………」ジィ
女「………………………………」
男「け、血色の良い健康そうな手だね、うん」フイッ
少女「へ?ああはい……そうですか」
女(……後なんかつけなくても良かったわねあいつどんだけ根性無しなのよ……)ハァ
男「………」ダラダラ
少女「…………えと」
女「……………」ジー
男(………想いを伝えるのって……困難な事だと思いませんか?ええ、俺は既に心がへし折れてしまいましたよ諸君……え?早いって?何を言うんですか不肖わたくし、これでも頑張った方なんですよ、ええ……だって女の子に告白はしたことありますけど口説こうとしたのは初めてですから……え?同じ事じゃないかって?何を言うんですか全然違いますよ異論は認めません)ウルウル
男(ええ分かっていますよ皆さま方、彼女はお前の奴隷なんだから命令して従わせれば良いだろうっていうんでしょう?でも違うんですよわたくしが求めるのは絶対服従の肉便器じゃなくて、、愛に溢れた子作りえっちな訳ですよお分かりですか?それには愛を語り合うシチュエーションが必要なのですよフラグをコツコツ立てていかなくてはならんとですよでもわたくしちっとも上手く出来ないから泣きそうです)ウルウル
少女「………えと……ど、どうかしたんでしょうか?」ソワソワ
女「…………アホくさ、ばれる前に帰ろっと」ガタッ
男「……なんでもない、ちょっとトイレで泣いt…ゴホン、お花を摘みに行ってくる」ガタッ
女「え、あっ」ギクッ
男「ん?あれ?メイドさん?」キョトン
女「……うぐっ…」ダラダラ
男「……なんで居るの?」
少女(……さっきの女の人やっぱりメイドさんだったんだ……)
男「………えーと、メイドさんは確か家で仕事をしてる筈では?」
女「………じ、自主休暇です」フイッ
少女「………えと、もしかしてずっと着いてきてたんでしょうか?」
女「何を言うんですか!!か、仮にも私を雇って下さっている若旦那様の後をつけるような無礼な真似などす、するはずが無いでしょうに!!」
少女「で、でも……」ビクッ
男「まあまあ、偶然居合わせただけなのは分かってるから落ち着いて、別にメイドさんは普段からよく働いて貰ってるし自主休暇なんてものも取りたくなるだろうし怒らないよ」
女「……む、むぅ……」
少女「………えと、ご主人様はホントに偶然だと?」
男「違うの?そもそもつける理由が無くないかな、だって行き先はちゃんと伝えてたしいくら何でも白昼堂々変な事はしたりしないよ俺は」
少女「………………………」
女「…………そうです理由がありませんたまには羽を伸ばそうとこのお店で昼食にしようとしたら偶然若旦那様達も居たというだけです、ええ今まで居たのすら気づきませんでしたとも」
男「俺も気づかなかったなぁ、近くに座ってたのに角度的に見えないもんねあの席」
少女(……………え、えぇぇ……?)
男「まあ、偶然にせよ3人で外出って形になったならさ、もういっそのこと遊んでから帰ろうか」
女「え、いえ……私は帰って色々……」
男「今日くらい良いって、というかそのつもりでサボったクセに」
女「さ、サボタージュというつもりは……」モジモジ
男「いいからいいから、分かってるから」ポンッ
女「……………」カァ
少女「……ふふっ…」ニコリ
男「あ、でも今月の休暇日は1日削るからね?」
女「」ピキッ
少女「……………」
男「メイドさん一応日当制だし、下手に給金減らしたくないでしょ、えーとメモメモ…」カキカキ
少女「ご主人様って色々残念な人なんですね、なんとなく把握してきました」ジトッ
男「え?なんで!?」ガーン
女「…………はぁ……」
……その日の夜
メイド「………はぁ……今日は結局こんな時間まで遊んでしまって………明日やる事が増えて大変なのに」ハァ
少女「で、でも楽しかったですし……お買い物や公園に行ったり、見世物屋にまで連れていってくれました」パタパタ
メイド「……そうですね、私も楽しかったです」ニコリ
少女「あの大きな鳥……なんて言うんでしたっけ?」
メイド「鳥ですか?えと、あれは確かダチョウという飛べない鳥ですね、この国には居ない種類の鳥だから珍しいと若旦那様も言っていました」
少女「鳥なのに飛べないんだ……だから捕まっちゃったのかな……」
メイド「………どうでしょうね、ですがダチョウは飛べない代わりに凄い早さで走るそうですよ、馬にもひけをとらないらしいですが」
少女「……へぇ……そうなんですか……凄いなぁ…」
メイド「………どうかしました?」
少女「いえ、今さらですけど……そんなに早く走れても人間には捕まっちゃうんですね」ウトウト
メイド「………」
少女「わたしじゃ逃げ切れなくても仕方なかったのかな………zzZ 」スゥ…スゥ…
メイド「……………寝ちゃったか……まったくもう……」バサッ
メイド「……憎むに憎めないわよこんな子……はぁ…」ガシガシ
数日後
仕立て屋店員「ごめんください
仕立て屋ですが!!」コンコン
メイド「はい、お待たせいたしました」ガチャ
店員「先日頼まれていたものの仕立てが終わりましたのでお届けに参ったのですが旦那様はおりますでしょうか?」
メイド「主人は留守でございますが……仕立ての事なら私も存じておりますので受け渡しは私で構いませんが?」
店員「あ…いや、主人に必ず若旦那様に直接お渡ししろとキツく言われてまして……まいったな…」
メイド「…………ふむ、絶対にですか?」
店員「若旦那様以外の者に受け渡したらクビにするとまで言われてます……」
メイド「困りましたね……若旦那様は隣り街の商会に出向いていて数日は戻らないのですが……それにその仕立てしていただいた物も今すぐ必要なのですよ」
店員「そ、そうですか……どうすればいいかな……」
メイド「ではこうしましょう、届け荷はお引き受けします、ですが貴方は店主に若旦那様にきっちりと受け渡したと報告してください」
店員「ええ!?で、でもそれじゃそちらの旦那様が怒るんじゃ……話が違うってクレーム入れられたら自分仕事をうしなってしまいますよ!!」
メイド「わたくしめの旦那様はそんな器の小さい御方ではございません、笑って許して頂けます」キリッ
店員「……ほ、ホントにですか?」
メイド「ええ、絶対に貴方に責が及ぶような事にはなりません、というかさせません」コクリ
店員「……わ、わかりました……ではここにサインを、ああ旦那様の名前でお願いしますね?」
メイド「もちろん、はいどうぞ」サラサラ
店員「ではお願い致します!!絶対ですからね!?」
メイド「ご心配なさらず」ペコリ
少女「あ……仕立てしていただいた私のメイド服が届いたんですか?」
メイド「ええ、これでやっとキチンとした服装で仕事が出来ますね」
少女「はいっ」ニコリ
メイド「ですが、それにしては異常な量です、届けにきた店員も妙な事を言っていましたし……」
※メイドさんは仕立て屋での下りを見てはいたが話の内容までは把握してませんでした。
少女「予備……にしては多いですか、メイドさんの分もあるとか」
メイド「それは無いと思いますが……まあとにかく確認しましょうか」
少女「はい」コクリ
少女「」
メイド「」
少女「………………あの、これは?」
メイド「胸が丸出しになるメイド服ですね」プルプル
少女「じゃあこっちは……」
メイド「ヒモで出来た下着ですね、もはや下着の意味は存在しない代物ですが」ヒクッ
少女「…………」スッ
メイド「ボンテージです」
少女「……………」スッ
メイド「バニースーツです」
少女「…………………」スッ
メイド「街にある初等学院の指定制服と鞄です」
少女「………うぅ……」スッ
メイド「ビキニアーマーと鋼の剣のレプリカです」
少女「サイズが大小2セットづつ揃ってます……」
メイド(あたしにまで着せるのか?え、どういう事よ!?)
ヒラッ…
※手紙
「僭越ながらもう一人の使用人の方の寸法も当店で計った事がありましたのでお仕立て致しました、今後とも当店にこの手の仕立てもお任せ頂けますようにとの些細なお客様へのご奉仕でございます。それではまたのお越しを心よりお待ち申し上げておりますー●●洋服店・店主ー」
メイド「…………」
少女「…………」
※手紙にはまったく気付かずの二人
少女「こ、これを着なさいって事なんですよね?」
メイド「………うっ……」
少女「試着とかした方が良いんでしょうか?」
メイド「ま、待って下さい試着ですか?こんな破廉恥極まりないものをわ、私に袖を通せと!?」
少女「袖が無いやつの方が多いですけどね」
メイド「そんなツッコミしないで良いですから!!」クワッ
少女「はぅっ…す、すいません」ビクッ
メイド「と、とにかく普通のメイド服以外はいらないですから、試着もしなくてよろしい!!」バンッ
少女「で、でも……いざこれを着ろって言われた時の為にも試着は……その、ご主人様に命令されたら従わないといけませんし……」オロオロ
メイド「着させませんからご安心を」カッ
少女「え、えと…わたしも着るのは確かに恥ずかしいから嫌ですけど……」
メイド「なら良いでしょう?これは全部雑巾にしましょうか丁度大掃除をしたいと思っていたので」
少女「いいんですか?」
メイド「責任は私が持ちますので大丈夫」コクリ
少女「………でもちょっともったいないような……これ金額的にすごい事になっているんじゃ……」
メイド「む……確かに……特注でしょうし」
少女「なら、えと……ご主人様を説得して
返金とか質屋に持っていくとかした方が良いのでは……お金に余裕ある訳じゃないってご主人様もメイドさんもぼやいてましたよね?」
メイド「…………一理あります……しかし、こんなもの若旦那様に素直に受け渡すのは……説得に応じたつもりでこっそり保管しそうですし」
メイド「それではこうしましょうか、若旦那様には報告しますが明け渡さず私が保管して返金や質に入れる目処が付いたら返却し監視の意味を込めて手放す瞬間に同行する、これで行きましょう」グッ
少女「……徹底してますね」
メイド「当たり前です、変態には屈しませんから、私は」フンッ
少女「………でも、メイドさんの分もあるのはちょっと意外ですね」
メイド「……むっ、それはそうですけど………どうしてです?」
少女「………あ、その……言っていいのかな…」モジモジ
メイド「……え……な、なんですか…」
少女「いやその……先日ご主人様がメイドさんの事を言っていましたので」
メイド「…………なんと言っていたか教えて下さい、内緒にしますから」ガシッ
少女「はぅ……えと、ご…ご主人様はメイドさんの事を妹みたいに思ってるって…!!」ビクッ
メイド「…ああなんだ、それですか……知ってますよ」ハァ
少女「……あ、えと、そうですか…」
メイド「はい、昔から一緒に居ましたし」
少女「幼馴染みなんですよね」
メイド「…………そうですね、昔から主人だというのは変わりませんけど」
少女「……その、でしたらどうしてって思って」
メイド「何がでしょうか?」
少女「妹のように思っているのでしたら……えと、こんなのメイドさんの分まで頼まないのでは?」
メイド「へっ?」
少女「いやですから、妹みたいに思っている人にこういう特殊な衣装を着せるのはおかしいんじゃないですかって……」オロオロ
メイド「」
少女「……あ、あのメイドさん?」
メイド「」
少女「………もしもし?」ツンツン
メイド「」
少女「め、メイドさんってば」ユサユサ
メイド「はぅあぁ!?!?!?」ビクゥ!!
少女「ひぅ!?」ビクッ
メイド「な、なななな何を言い出すんですか貴女はアイツは只の変態ロリコン野郎ですよわ、わわわわわたしわたわたあたしの事なんかい、いいいまさら何とも思ってないだろうしきっと何かの間違いよそうに違いないわだってアイツ告白してきたのだってぺしゃんこの時だし最近じゃあたしの下着とか落ちてても「これ落ちてたぞー」って無表情無関心な感じでふっつぅーに手渡ししてくるほど何とも思ってないオーラ全開なのよ!?そ、そそそしょしょんな奴があたしがこんなの着ても喜ぶはずないし!!!!」バタバタ
少女「え、あの、め、メイドさん?」オロオロ
メイド「……あっ!!」ハッ
少女「えと…」
メイド「失礼しました、少々取り乱してしまったようです、ごめんなさいね?」ペコリ
少女(………けっこう無理してクールなメイドさんを演じてるのかな……)ジー
メイド「………////」プイッ
少女「えと…メイドさんって元は口調違うんですか?」
メイド「うぐっ……実ははい……矯正しました」
少女「……無理しなくても良いと思いますけど、ほら…今はご主人様も居ないですし」
メイド「……むぅ…」
少女「それにわたし相手にかしこまっていたら息も詰まると思いますよ?だって部屋も一緒ですし」
メイド「……そういうなら、そうするけど……口調がかしこまってるっていうならあなたもでしょ、まったく…」
少女「わたしはこれが素なので特に苦労してませもん、えへへ」
メイド「………はぁ…性格の問題なのかな、まあいいけど」
少女「それじゃあわたし着替えてきますね?よいしょ…」ハシッ
メイド「へ?ちょっと待った!!あ、あなたそれ着るつもり!?試着はしなくて良いって言ったのに!!」
少女「へ?いや違いますよ、普通のメイド服の方に着替えてきます」
メイド「あ……そ、そっか本来そっちが目的の仕立てだもんね……そうよね、うん……」
少女「………あの」
メイド「なによ?」
少女「……やっぱり着てみませんか?ほら、一度も着ないのは一応ご主人様にも失礼になるかなって」
メイド「……いやぁ……失礼かまそうとしてんのは向こうな訳だから気にしなくても……」
少女「え、えと…ご、ご主人様の趣味はともかくですね?その、えっと……め、メイドさんが思っているような……なんにも感じてないなんてたぶん……じゃない絶対無いと思います!!」
メイド「え、えーとつまり?」
少女「だ、だから!!その、メイドさんを妹みたいに感じてるっていうのはご主人様が
嘘ついてるんじゃないかって!!その、えと………あぅぅ…」カァァァ
メイド「」
少女「ど、どうでしょうか?」
メイド「……な、ないわよ、ないない」ブンブン
少女「……でも」
メイド「………絶対ないってば、来たばかりのあなたよりはあいつの事は分かってるし」
少女「でもご主人様はメイドさんの事をちっとも分かってないですし」ジー
メイド「んん?ど、どういう意味?」
少女「だってメイドさんご主人様のこと好kふむぐっ!?」ジタバタ
メイド「な、何を言おうとしてるのよ勘違いよ勘違い!!それだけはない!!」グイグイ
少女「むぐっ!?んん!?」ジタバタ
メイド「ま、まったく……」パッ
少女「はぁ…はぁ…で、ですけど…」
メイド「……」しわクワッ
少女「はぅっ、で、でも素直になった方が絶対良いですし…」オロオロ
メイド「……………………………」
少女「ご、ご主人様だって絶対メイドさんの事好きですし!!」オロオロ
メイド「でもアイツロリコンだし、チビでぺしゃんこしか興味ないし」
少女「………え、えーと……でも現にこうしてメイドさんの衣装もありますし、ほらあれですよ!!」ワタワタ
メイド「………あれって?」
少女「…うぐっ…」
メイド「…………」ジィ
少女「…………お、女の子ならなんでもいい?」オドオド
メイド「ごめん殺意が沸くわそれ」
少女「じゃ、じゃなくてえと!?なんて言えば良いのか分かんないですけど…え、えーと!?」オロオロ
メイド「………分かったわよ、言いたい事は何となく分かったから大丈夫よ、ありがと」クスッ
少女「そ、そうですか?良かった…」ホッ
メイド「………それじゃちょっとだけ来てみよっか?見せるかどうかは分かんないけど」
少女「はいっ」
………
男「何故だろう、嫌な予感が過ぎたと思ったら一生に一度あるか無いかのチャンスを逃したような予感がしてきた、何だろうか?」ウーム
商人「どうかしました?」
男「あ、いえ話を続けましょう……ではこのルートでの搬入が難しいならこちらからはどうでしょうか?日数は掛かりますけど安全なルートですし」
商人「それならばいっそ海路で大量に運んでしまった方が利益も出ますし時間も掛かりませんな……」
男「それは承知していますがそもそも船で運搬する程の量を仕入れるのは難しく……」
………
……
………夜、酒場
男「………んだぁぁぁ仕事めんどくせぇぇぇぇぇ!!!!早く帰りてぇぇぇぇぇぇ!!!!」ジタバタ
男「………あ"ー……少女ちゃん連れてこれればウキウキわくわくドキドキお泊まりデェートやったんに……またしてもメイドさんに取られたもんなぁ……仕事教えるって事だから仕方ないけど」ブツブツ
男「………人間、恋に堕ちると他の事が手に付かないって言うだろう諸君?まさにそれなのさ」フッ
豪商「……相変わらずぶつくさへんな事を言っとる坊っちゃんだな」
男「ん?」ガタッ
豪商「久しぶりだねぇ、覚えとるかね?」
男「……あんたは親父の…」
豪商「そう、旦那の仕事仲間だ……坊っちゃんがここの商会に顔出したって聞いたんで挨拶にな」
男「そうですか、なら用は済みましたよね、それでは……」スクッ
豪商「まだ話は終っとらんぞ、一応昔の知り合いなんだ、最後まで聞いても良いだろう?」
男「………聞く必要がないので」
豪商「………ふん、苦労しとるみたいだから旦那のよしみで儲け口紹介してやろうってのに」
男「………失礼します」スタスタ
豪商「ふん」
………
男「………くそ、気分が悪い……飲みすぎたかな」スタスタ
男「…………っ…」ガシガシ
男「…………俺は親父とは違う、あんな外道死んで当然だ」
男「誘われたって奴隷商なんかするかよ、糞…!!」ガンッ
………数日後。
男「………さて、滞りなく仕事を終えて今、ようやくわが家の玄関前まで戻った訳だが諸君、聞いてくれ、俺は大事な事を失念していた……」
男「……………仕立て屋に頼んだ例のブツ……届くの仕事の行ってる間だってのすっかり忘れてた……」
男「どうしようどうしようメイドさんの事だから何か感づいて受け取ってるかもでも店主にはメイドさんだけには絶対渡すなって念を押しといたしでもメイドさん普段わりとポンコツなクセにそういう時だけ妙に鋭いしどうしようどうしようどうしよう……」オロオロウロウロ
少女「あっ、お帰りなさいませご主人様っ!!」ヒョコッ
男「ぴぃ!?」ビクッ
少女「……玄関前でうろうろしてどうしたのですか?入らないのでしょうか?」キョトン
男「」
少女「ご主人様?」
男「……め、メイド服だね」ヒクッ
少女「はいっ、似合うでしょうか?」クルッ
男「……うん、とっても似合うよ、ステキダヨ」フラッ
少女「…えへっ、ありがとうございますっ、それじゃあわたし、お庭のお掃除中なので」ペコリ
男「……ウン、ガンバッテネ」ヒラヒラ
少女「はいっ」トタトタ
男「……ダメだ、死んだな」フッ
男「………まて、いくらメイドさんでも命までは取らないさ、この程度の事いままでもあったろう?でも俺は生きている、そうだろう諸君?」クルッ
男「……どうやら東洋に伝わる秘伝技……DO・GE・ZAを再び使う時が来たようだ…さて、最悪全治1ヶ月程度にしてもらわねば」
ガチャ
男「………た、ただいまぁーー…」ドキドキ
(JSっぽい制服の)メイド「………お、お帰りなさいませ若旦那様…」ペコリ
男「」
(ランドセル付き)メイド「…………」モジモジ
男「すいません屋敷を間違えました」
バタン!!
男「………はて、おかしい、ここはわが家のはず……おーい少女ちゃーーん?」クルッ
少女「はいっ!!お呼びですか?」トタトタ
男「うん、やっぱり少女ちゃんだよね?俺を惑わす妖精さんとかでなくちゃんと人間だよね?」
少女「はい?」キョトン
男「いや、いいんだごめんよ掃除の邪魔をして」
少女「いえ、そろそろ終わりなので構いませんけど、どうかしたんですか?」
男「いや、扉の向こうに未知の何かがたたずんでいたから」フルフル
少女「へ?でも……」
男「まああれだ、きっと疲れて幻覚でも見たんだろう、だってメイドさんが○学生の格好とか笑えないというかむしろどん引きでしょ、ははは……」ガチャ
メイド「」
男「oh」
少女「あ、あれ?で、でもご主人様がメイドさんに着せたくて頼んだんじゃ…」オロオロ
男「はい?」
少女「えっ?」
メイド「」プルプル
………
男「………なるほど、二人は気付かなかった?この手紙」
少女「………これは…」
男「……まあそれはいいか、それよりだ、メイドさんはなんであれを着る気になったんだ……」
少女「……そ、それはわたしの口からはちょっと…」
男「まだあるぞ、数ある衣装の中からどうしてもっともメイドさんにはミスマッチと言える初等学院の制服を選んだんだ、もっと他にあるだろ、バニーとかボンテージとかビキニとか!!流石の俺も多少童顔ではあるけどセクシー系であるメイドさんに○学生の格好させて悦ぶ趣味はないよ!?誰が得したのさあんなメイドさん!?」
少女「…い、いや……他のは露出が激しくて無理ってメイドさんが……私もあれはやめた方が良いんじゃないかとは思ったんですが」
男「………メイドさんけっこう恥ずかしがりだからね、露出嫌がったのは納得だけど……ないわー」
少女「め、メイドさんも勇気だしたんですよ!?そこは認めてあげて下さいよぉ!!」バタバタ
男「そ、そお?うーん?」
男「……ところでそのメイドさんはどうしたの」
少女「部屋に籠っちゃいました……」
男「…………布団にでもくるまってそうだな、仕方ないな」
少女「えっ?どうするんです?」
男「ほっとくと長いんだよ、だからちょっとね……」スタスタ
少女「はぁ…」トタトタ
コンコン
男「メイドさん、入るよ」ガチャ
布団「………」
男「………拗ねると布団にくるまるのは子供の頃から変わんないな、さっきは悪かったってば、ちょっと驚いただけだよ」
布団「………………」
男「………うーん、いまいちよく分かんないから何て言えば良いのか迷うけど、俺に怒ってるなら遠慮しないで煮るなり焼くなりして構わないよ」
布団「………」
男「………えーと……なんだかな…ちょっと座るよ?」ポスッ
布団「………」シュッ
男「げほぁっ!?」ミシッ
メイド「…………」ムクリ
男「あばらが!!あばら骨がっ!?」ジタバタ
メイド「……女性のベッドに許可なく腰掛けるのは誉められた行為ではありませんよ」ムスッ
男「ひぃ……ふぅー…!?だからってタイムラグゼロで蹴りを入れるのはやめてっ!!」ウルウル
メイド「煮るなり焼くなり好きにしろとの事でしたのでまずはあばらを数本頂こうかと、ちょっと浅かったですが」
男「ものの例えじゃん!!まさかマジで暴力に訴えるなんて思わないじゃん!!なにさ慰めてやろうって思ってもいっつもこれだよ!!」シクシク
メイド「もう平気です、先程の恥は若旦那様がキレイに忘れれば問題ありませんし」ボキボキ、バキッポキポキ…
男「武闘派の人みたく指をパキポキ鳴らしながら言わないで、分かった、ぼくわすれたよメイドさん」コクコク
メイド「よし、なら良いのです」
少女「な、慰め…?」
男「………メイドさんわりと直情型で脳ミソ筋肉タイプだからね、とりあえずなんか殴れば気が済むの、主に俺をだが……」ヒソヒソ
少女「は、はぁ…」
メイド「なにか?」
少女「い、いえ!!」ブンブン
男「なんでもないっす」ブンブン
……………
男「………昨日は大変だった…まあなんとかメイドさんも持ち直したからいいものの」スタスタ
男「………メイドさんには行くなと言われたがここは文句を言ってやらないと気がすまん!!ごめんください!!」ガチャ
仕立て屋主人「おや?ようこそいらっしゃいませ」
男「やい仕立て屋!!よくもあんなありがた迷惑なサービスしてくれたな!!」プンスカ
主人「あ、いや旦那さま少々お待ちを……せ、先客がおりますので」
男「うるさいやいっ!!いい仕事するくせに需要と供給を丸っきり理解してないあんぽんたんめ!!何故メイドさんの分はセーラー服とかブレザーとチェックのスカートに黒か紺のハイソックスにしなかったんだ愚か者め!!あんなの誰も幸せにならないじゃないか!!」プンプン
主人「で、ですから先客がおりますので」オロオロ
イケメン「構わぬ店主よ、そちらを優先してもよい」
男「む?」チラッ
主人「……しかし」
イケメン「構わぬと言っておるのだ、その者の言う需要と供給というものも気になるのでな」
主人「は、はぁ…畏まりました」スッ
男「あらやだ、超イケメン……」
イケメン「どれ、私の事は気にせず申してみよ、聞かせて貰いたいのでな」
男「え、えーと……なら遠慮しないで………仕立て屋さんありゃないよさっきも言ったけど、サービスは嬉しいけど少女ちゃんの衣装と丸っきり同じにする?バニーだってどっちも黒だし普通ちっぱいは白でおっぱいは赤でしょう!?」
主人「なんですと?それは聞き捨てなりませんぞ!?バニーちゃんは黒が至高にして究極、そして基本ですぞ!!」
男「な、なんだとう!?」
イケメン「ふむ、黒が基本なのは間違い無かろう、だがその他の色を蔑ろには出来ぬ」
男「ん?」クルッ
イケメン「私の事は気にしなくてよいぞ」
男「……まあバニーはそれで良いとして、次はあの丸だしメイド服だ!!俺は丸出しにしろなんて注文はしていないぞあんなのチラリズムへの冒涜じゃないか!!」
主人「何を申されますか!!チラリズムなど通常のメイド服の丈をちょっと短くすれば事足りるもの!!ならば特殊メイド服は限界以上に布を排除してドエロの極みへと挑むべきではございませんか!?」
男「ぐ、ぐぬっ…で、でもあんないかにもなメイド服じゃそもそも着てくれないじゃん!!丸だしは大好物さ!!でも着てくれないなら宝の持ち腐れじゃないか!!」
イケメン「ふむ、確かにちょっとエッチな服を恥じらいながら着てくれるのがもっとも素晴らしいからな、突き抜け過ぎると相手にされぬだろう、そしてそんなものを嬉々として着る売女など願い下げだ」
男「………あんた、わかってるじゃないか」ニヤリ
イケメン「お主こそ中々の漢のようだ」ニヤリ
主人「お二方ともお若いのに好き者のようで」ニヤリ
主人「旦那様の言いたい事は解りました、どうやら私の差し出がましい行いでとんだご迷惑をお掛けしたもようで…」
男「……いや、わかってくれるなら良いんですよ、メイドさんの分は無料な訳だし」
イケメン「ほう?店主よ、お主なかなか太っ腹のようだな?商人が利益を考えずサービスするなどそうそう出来ぬだろうに」
主人「いえいえ、確かに最初は志を同じとする同志への些細な贈り物でございましたがこれがなかなか顧客を増やすのに絶妙な手段でございまして、ははは」
男「……へぇ、そうか……確かにサービスが豊富な方が客は利用してくれるからな」フム
イケメン「ほう?ではこの店は我等の同志の行きつけということか?」
主人「ええまあ、この国はもとより近隣諸国の貴族や大商人……果ては王族の方々にもご贔屓にされておりまして」
男「……す、すごいな、そんなに大きな店じゃないのに」
主人「…………ここだけの話、南の女王国に仕える女戦士団の正式衣装、デザインは私でございまして……」ヒソヒソ
イケメン「なにぃ!?まことか!?あの防御力完全無視したような最低限大事な所だけ隠しとけば良いと割りきっているあの破廉恥極まりない戦闘服を店主……貴様が!?」ガーン
男「マジですか!?あのずらしたらすぐポロリしちゃうような最早服ですらないただの布を貴方が!!なんて偉大な方なんですかあなたは!?」ガーン
主人「ふふ……あれは良いものでしょう?」
イケメン「おお……まさに歴史に残る偉業を成し遂げた賢者だ、なんという素晴らしい出会いか」ガシッ
男「男として最大限に尊敬致します、先程は無礼な発言をして申し訳ありませんでした」ガシッ
主人「いえいえ、私はただ本能の赴くままに仕事をしたに過ぎません」ガシッ
男「ところで兄弟、あんたは何処の人なんだ?この街に住んでる人?」
イケメン「ふむ、私か?この街の人間ではない」
男「へぇ、じゃああんたはこの店にわざわざ出向いて来たのか」
イケメン「ここに寄ったのはついでだ、腕のよい変態仕立て屋があると家しn…ゴホン、風の噂で聞き及んだのでな」
男「ふーん?そっか、街に用があるなら何処に行くのか教えてくれよ兄弟、それなりに詳しいし助けられるぜ?」バシバシッ
主人「ちょっ、旦那様そういう無作法は!?」オロオロ
男「へ?」
イケメン「いやよいのだ店主よ、我等は兄弟であり友であり、そして同志であろう?ならばこんなもの無作法でもなんでもないわ、はっはっはっ!!」バシバシッ
男「んん?」
主人「殿k…ゴホン、あなた様がそう仰るならばよいですが」ソワソワ
イケメン「うむ」ニカッ
男「……なに?もしかして貴族の方?」ソワソワ
イケメン「気にするな!!先程も言ったが我等は兄弟であり友であり同志であろう?今さら怖じ気づかれる方が私は悲しいぞ?それに高貴な身分など肩書きにすぎんしな!!はっはっはっ!!」
男「そ、そっすか?えへへ……」ヘコヘコ
イケメン「だから気にするな!!傾国の美男子と謳われてはいるがな!!はっはっはっ!!」
男「け、傾国の美男子って確か……」
イケメン「あっ、しまった」ハッ
主人「あ、あー…」
男「………もしかして、この国の王子様すか?」
イケメン「……………」
主人「……で、殿下……なに自分からばらしているのですか…」
イケメン改め王子「………はっはっはっ!!お忍びできていたのだがバレてしまったのなら仕方ない!!兄弟よ私がこの街に来ている事は他言無用に頼むぞ!!しかし男にも通り名が広まっているというのは意外ではあったな、はっはっはっ!!」
男「は、はぁ……」
男「なんつーか、噂通りのお方のようですね…」
王子「ほう、噂か?どのように広まっているか聞いておきたい所だな、やはり大陸一の美男子として数々の女を虜にしたという逸話も広まっているのかな?」
男「……あーいや、なんつーか、王子さま?傾国の意味はご存知でしょうか」
王子「知らん、誰が言い出したのかは分からぬがカッコいいからそのまま通り名として使っておるがな」キリッ
男(噂通りのバカ王子だった、次の国王になったら国が傾きかねないほどバカだから傾国の美男子って蔑称つけられてんのにも気づいとらん、誉められてると思ってやがる………)
王子「さて、そろそろ行かねばならん……別れは惜しいが永遠の別れというわけでもない、また会おう!!」バサッ
男「あ、はい、またいつか」フリフリ
主人「またおいでくださいませー」フリフリ
王子「さあ行くぞ我が愛馬、グレートファイナリティシンドロームエクスプロージョン号よ!!」シュバッ!!
白馬「………ヒン」ブルル
男「……折角の白馬が台無しの名前だ!!」
王子「では兄弟!!また会おう!!はっはっはっ!!」パカラッパカラッパカラッ………
シーン
男「………濃いお方だったな、何しに街に来たんだ」
主人「さあ、それは存じてませんが……悪い方ではないですよ?あんなんですが」
男「まあねぇ?アホな話するバカ友達には丁度いい性格の人だったが……大丈夫なのかこの国は」
……………
男「………ふぅ、しかし王子様か、なんとかツテ作って王宮に仕事ねじ込むのも悪くなかったなぁ、いやダメか……話をする間もなく走り去っていったしそもそもスゲェバカだったし」ハァ
少女「……あっ、お帰りなさいご主人様」オロオロ
男「…んん?どうかしたの?」
少女「いえ、あの……白馬に乗った変態さんがメイドさんに……」
男「……は?なに?白馬?」
少女「は、はい……先程尋ねて来てメイドさんを見るなり変な事を」
白馬「……ヒヒーン!!」ブルル
男「……こ、こいつはグレートファイナリティシンドロームエクスプロージョン号!?」
少女「なんですそれ、変な名前……」
男「なんでバカ王子がここに!?メイドさんに何を…」
少女「あっ、いえメイドさんに被害は無いです、返り討ちに合いましたから」
王子「」ボロッ
男「」
少女「それで、メイドさんがわたしに「馬に縛って引き回しの刑にしておきましょう、ロープの端を馬の鞍にくくりつけて走らせてきて下さい、よろしく」って」
男「おぉぉぉぉぉぉぉじぃぃぃぃぃっっ!?!?」カビーン
王子「はっはっはっ!!いやぁすまない、あまりにも美しい女性だったもので思わず求婚してしまったのだ、私としたことが先走った真似をした、すまなかった!!」ボロッ
メイド「…………求婚?あれが?」ジトッ
男「め、メイドさんやめろ!!この人王子だから!?これ以上はやばい!!」オロオロ
メイド「……むっ…さ、先程は失礼致しました」ペコリ
王子「いや、構わぬよ、女性に暴行されるなど刺激的な経験だった」ポッ
メイド「………うっ…」ササッ
男「………少女ちゃん、王子様はメイドさんにどんな求婚を?」
少女「…えっ、その……」モジモジ
男「ふむ?」
少女「……耳を…」ゴニョゴニョ
男「……なになに?
きなり抱きついて?ふむ……?愛にまみれた●●●や〇〇〇で[ピーーー]?」
少女「………い、言わないで下さい…」カァァァ
男「………メイドさん、責任は持つからもっと懲らしめて上げなさい」
メイド「………構わないのですか?最悪国外逃亡をするはめになりますが?」ゴキッバキバキッ
王子「おお?まだ続くのは嬉しいのだが待って欲しい、先程はつい本題を忘れたが用件を済ませねば」
メイド「……うっ…なんなんですかこの人は」ゾワッ
男「バカで変態な上にマゾの王子様なのか……」
少女「……顔はカッコいいのに…」ササッ
王子「ふっ、誉めても今は何も出せぬぞ?」
男「誉めてないほめてない」ブンブン
男「………用件、ねぇ?俺に用があるんですか?」
王子「うむ、仕立て屋で出会った同志が目的の人物だとは思わなかったがな」
男「……うーん、私のような者になんのご用が?」
王子「………詳細はこの書簡に記されている」チラッ
少女「へっ?」キョトン
王子「そこの娘、キミは何処の生まれだ?」
男「…………」ピクッ
少女「えと、この国から西にある小さな国ですけど……」
王子「正確には北西の……森と湖の国か?」
少女「あ、はいそうです」コクリ
王子「やはりか、うむ……どうやら間違いなくそなたのようだな同志よ、受け取ってくれ」
男「………外で話す内容では無さそうだ、客室へ案内します王子」スタスタ
少女「………あ、あの……!!」
男「少女ちゃん、これは仕事の話になるだろうから客室へは話が終わるまで近付かないで、メイドさんもそうしてくれ」
メイド「え、ああはい……お茶の用意は…」
男「俺が自分でやるから大丈夫、とにかく大事な話だから、ごめん」スタスタ
王子「……ふむ、では失礼するよ」スタスタ
少女「………あ……」シュン
メイド「………仕事の話は前からあたしにも言ってくれないのよ、今回もそうなんだと思うけど」
少女「……」
………
王子「さて、話をするにも実は私もよく分かっておらんのだ、ただ我が妹に小間使いにされたようなものなのでな、はっはっはっ!!」ニカッ
男「妹?王女殿下ですか」
王子「うむ、我が妹が言うには「にいさまは普段から国中をふらふらしてバカな事をしているから逆に誰にも怪しまれず堂々と交渉してこれる、バカだから」と二度もバカ呼ばわりされたが、我が妹が言う通り堂々とそなたに会いにこれた、流石我が妹だな」コクリ
男「………ふむ、じゃあちょっと失礼して」ガサッ
男「………確かに王族の印で封をしてありますね……どれどれ?」
王子「なんと書いてあるのだ?」ウロウロ
男「……内容これっぽっちも把握してないんすか王子…」
王子「いかにも」コクリ
男「…………まあいいか、えーと?」
……………
………
男「……………ふぅ…」
王子「読み終えたら返事を貰ってこいと言われているのだが、どうなんだ我が同志よ」
男「……………すぐには返答出来かねますね、正直俺には大事過ぎる」
王子「うむ、そうか」
男「ひとつ聞きます、どうして俺の事を?」
王子「……む?そなた、割りと有名なのを自覚しておらぬのか?ここ数年商人達の注目のまとだと聞いたのだが」
男「…………そうですか……はぁ…」
王子「我が妹に聞いた事だが見事な才覚で物流、金銀の為替……あらゆる事で確実に利益を出し若輩ながらにして大商人として頭角を表した天才……そして……」
男「……利益の大半を奴隷の解放なんて事に使っている変わり者、でしょう?」
王子「うむ、そう聞いている、違わぬな?」
男「…………はい、俺の事です」ガシガシ
王子「ふむ……何故そのような事を?」
男「………理由までは……すいません」
王子「明かせぬ理由があるのか」
男「……何かを企んでいるという訳ではありませんが……仰る通りです」
王子「そうか、ならば良い……そなたは信用できる」コクリ
男「………」
王子「こちらの話は以上だ、依頼に対しての返答を貰えぬ以上、詳しく話す訳にもいかぬからな、請け負って貰えるならこちらの書簡も渡せと言われていたのだが」
男「そっちにはなにが?」
王子「計画の細かい概要だそうだ、私にはよくわからんが」
男「申し訳ありません、王子…いや、殿下直々にいらっしゃって下さったにも関わらず……」
王子「構わぬと言っておるだろうに?元々無理強いは出来ぬ事だ」ガタッ
男「………最後に、聞きたいことが」
王子「うむ?」
男「王子は先程、少女ちゃんに国の事を聞いていましたよね?」
王子「聞いたな」
男「その訳をお聞きしたいのですが」
王子「…………少々長くなるが、良いか?」
男「はい、お願いします」
王子「まず初めに確認するが……我が父、現在の国王についてどう思っている?」
男「国王、ですか……政治に優れた名君だと思っていますが」
王子「間違ってはおらんな、我が父は優れた為政者であり、事実民の暮らしは安定し、我が国の国力はこの大陸随一と言える……だが…」
男「………」
王子「我が父は名君ではあるが、同時に暴君でもある」
王子「……我が国がこうも安定し、力がある理由は、他国へ常に攻め入り、人々を奴隷として狩りたてているからだ……労働力はもとより、戦奴としての捨て駒として」
男「……知っています」
王子「……あの娘の故郷、森と湖に囲まれた美しい土地だったそうだが、今はもう存在せぬ」
男「………」
王子「1ヶ月ほど前に我が父が派兵した軍と同行した奴隷商どもに蹂躙され、若く労働力になりうる男女はこの国へ奴隷として連れて来られた、あの娘はその一人だ」
男「……………」
………………
…………
…………
男「……金貨300、か……上々な仕事だったな……」
その日、かなりの大口の仕事をやり終えて、金貨の詰まった袋を担ぎ、男は街を歩いていた。
金貨500。
値打ちとしては一般的な平民の平均生涯収入を凌ぐほどの大金だったが、その青年はそれを1週間程度の短い期間で稼いできた。
だが、こんなものではまるで足りない……否、例えこれが万を超す量だとしても、足りる事はないのだと青年は知っていた。
男「………えーと?まずメイドさんへの給料だろ?それと生活費と次の仕入れの準備費用と……」
指折り数えながら歩みを進めるが、進む道は屋敷への帰路では無かった。屋敷で帰りを待っていてくれている使用人……幼い頃から共に暮らす女性には自分がこんな荒稼ぎをしている事を教えていない。
男「………ざっと金貨50ってところかな、後は貸金庫っと」
青年は、荒稼ぎした利益の大半を奴隷の解放に使っていた。それを使用人である彼女には知られたく無かった。
自分が奴隷という存在に関わっている事実を知られたく無かった。それが例え解放するという事であっても。
男(………次の競売は来週だったよな、その前にあと100は最低でも稼いどきたいな)
奴隷の売買は通常、月に一度か二度行われる奴隷専用の競売によって競りに掛けられる。
青年はそこに参加して可能な限り多くの奴隷を競り落とすつもりだった。
金貨500ならば多ければ100人以上は解放出来る。しかし、その日競りに掛けられるであろう奴隷の数は200はいるはずだった、どうあがいても全員解放するのは無理だった。
男「………………」
もちろん手持ちの金額でも解放する人数を増やす事は出来る。
それは、価値の低い奴隷ばかりを解放する事だ。
年老いた者、怪我や病気に掛かった者……そういった者ばかりを選び、価値の高い若く力の強い男、若く美しい女等は選ばない……そうすれば、解放される奴隷は多くなる。
そして青年は、ずっとそうしてきた。
全てを選べないから、切り捨てて、選ばなかった奴隷達の事は見て見ぬふりをしてきた。
自分にはそうすることしか出来ないからと割り切りながら2年もの間そうしてきたのだった。
彼が解放してきた奴隷は、数えれば四桁を軽く越えるだろう。
だが、この国から奴隷が居なくなる事はない。あまりにも奴隷という存在は数多く存在していた。
男「……………あーあ、たまにはメイドさんにお土産でも買っていこうかなぁと……」
あまり考え過ぎると次の仕事に支障をきたすほど参ってしまうので無理矢理にでも考えを切り替える、しかし切り替えたはいいが何を買っていけば良いのかとまた悩む、メイドさん最近仏頂面が板についてきてちょっと困っている、笑えばかわいいのに。
何を買っても怒られそうだなぁと思いつつ肩に担いだ袋を持ち直す。
その時、路地の正面から数台の馬車が向かって来ているのに気が付く。
荷台は鉄格子で囲まれ、中に薄汚れた男女が無理矢理詰め込まれたようにひしめいている。
男「………奴隷……か…」
恐らく、次の競売に出品される『商品』の一分だろう、ざっと見て30人は詰め込まれているようだった。
男「…………………」
青年は袋を握る拳に力が籠るのを自覚した。
自覚して、その馬車に乗っている奴隷達を自分が解放することはないだろうとも確信していた。
馬車に詰め込まれている奴隷達は、皆若く、どう見ても『商品』としては一級品だったから。
青年はただ、その馬車達が過ぎ去るのを眺める。
そして、その檻の中の一人と目が合った。
男「…………ぁ……」
その瞳は宝石のように光り輝いて見えた。奴隷達の多くは瞳から光を失い、まるで死んだように虚ろな眼差しの筈なのに、その瞳だけは確かに輝いて、美しかった。
その後の数分はよく覚えていない。気がついたら馬車の前に躍り出て引き留めていた……きっとがむしゃらに追い掛け、人目も憚らず追い掛けたのだろう。
男「…ぜ、ぜぇ…ぜぇ!!ま、待て、ちょっと待ってくれ……!!」
御者「なんだ貴様?」
馬車の馬を操る御者に睨まれる、だがそんな事はどうでもよかった。
今から自分は、割り切っていた筈の感情に訴えてバカな事を言おうとしている。
男「……おいあんた、こ、この奴隷……」
御者「……あぁん?」
やめろ。考え直せ。今使うべきじゃ絶対に無い。
理性的な部分が今から行うであろう愚行を止めるべく……脳裏にふつふつとせめぎ上がってくる。
………だが、もう遅い。
男「言い値で買う!!この馬車の奴隷全部置いていけ!!」
自分で自分がよくわからなくなったが……不思議と高揚感に溢れていた。
後から考えたら、それは一目惚れというものだったのだろうと思い付き、恥ずかしくなった。ちょっとだけ。
金貨300
若者が多く、価値が高いとはいえ一人につき金貨10枚というのは相場の3倍以上だった。
男「……………………や、やっちまった……」
ちょっと時間が過ぎて頭が冷えるとかなりアホな事を感情に任せてやっちまったと項垂れ地面に膝を付いた。
相場の3倍という事は本来ならここにいる3倍以上の奴隷を解放出来たという事なのだ、考えるまでもなくどちらがいいかなど一目瞭然だった。
奴隷「あ、あの……」
男「……ん?」
地面にのの字を書いていじけていると奴隷の一人が話し掛けてきた。この奴隷達の中では年長なのだろう、自分より幾つか歳上そうな男だ。
奴隷「わ、我々は競売に掛けられる筈と聞いていたのですが……いったい何が……」
どうやら状況が分からず困惑しているのだろう。他の奴隷達もそのようでこちらに目を向けている。
男「………あー、あんたらは俺が買った、競売に出される前に破格でな」
奴隷「…………」
別に隠す必要も無かったので、素直に答える。まだ鎖に繋がれたままの奴隷達はどよめき、怯えていた。
それはいつもの奴隷の態度だ、解放する前は自分がどのような悲運に去らされるのかと怖れ、怯えた反応。
男「ひとつ聞くが、あんたら何処の国の人達だ?たぶんみんな同じだとは思うが」
同じ馬車に乗せられていたという事は恐らく……ごく最近にまた奴隷狩りの名目で攻めいった国から集団で連れ去られた人達なのだろうと当たりを付けた。
奴隷「…北西にある森と湖の国の者ですが」
男「全員?」
奴隷「恐らく、ほとんどの者が兄弟や友人だと繋がりがある者のようですし」
そうか、と答えながら青年はそれならこのまま解放しても大丈夫だろうと判断する。
例え異国でも信頼できる仲間が居るならばこの国に住み着くにせよ、故郷の国へ帰るにせよどうにかなる。
男「よし、分かった……それじゃああんたらは自由だ、鎖は外すから好きにしてくれ、帰るなりこの国で仕事を探すなりどうしたっていい」
一人一人にまず金貨を1枚づつ握らせてから錠を外していく。
驚く者、呆けたような顔をする者、笑顔を見せる者泣き出す者……様々な感情がその場に溢れる。
そして、口々に感謝の言葉を紡いで頭を下げてくる。
男「………良いんだよ、お礼はいらない」
感謝されるのは悪い気分じゃないが、それをさせたいが為にこんなことをしているのではないから、と言い訳じみた事をいつも思うが口には出さない。
自分がこんな事をする理由は、もっと後ろめたい理由のせいなのだから。
そんな事はこの人達には関係の無い、だから言う必要も無いだろう。
奴隷「……あの」
男「ん?」
先程と同じ男が話し掛けてくる。
奴隷「すいません、どうやらあの子だけは兄弟も友人も一緒ではないようで……小さな子だから我々でどうするかも決めかねているんですが……」
男「………」
その奴隷だった男の指差す先に居たのが、先程馬車を引き留める原因となった少女……あの宝石のような瞳の小さな娘だった。
奴隷「……我々としても同郷の者ですし、ついて来られるなら連れていきたいのですが……」
少女「…………」
本来はそれが良いんだろう、そう思った。だが………
男「………キミ、この中に家族は?」
少女「いません…」
男「友達も?」
少女「……はい」
男「………そっか」
なら、この娘はもう独りだろう。
この国なら、あの暴君なら連れて来られた奴隷以外は皆殺しにしている。
奴隷「………やはり、ここは私がこの娘の家族を探す為も含めて故郷へ……」
男「……いや」
無駄だろう。森と湖の国の事は知っていた。本当に小さな国で、村や集落と言っても差し支えない程、小規模な国だった。人口は百人前後だった筈の国………そんな国がこの国の暴君に狙われたのだ、既に滅んでいる。
奴隷「……え?ですが……」
男「この子気に入った、俺が連れて帰るよ」
少女「………え……」
だけど、それを今この子に……ここにいる奴隷だった人達に告げるのは酷だと思う……もう少し、時間な置かないといけないと思う。
男「帰りたいだろうけど、今俺の屋敷に使用人が不足しててね、キミも帰るまでにまとまったお金があった方が良いと思うよ?………お父さんとお母さんは?」
少女「………生きてると思う……いいえ、生きてます」
男「…………そうか、でも家はもう無いと思うよ、今帰っても探せないかもしれない」
……嘘だ。確認しなくとも分かる、この子には何も残っていない。
少女「……………」
少女はそう告げると悲しそうな顔をしたが……やがてゆっくりと頷いた。
少女「……わかりました、ついていきます、ご主人様」
男「……うん、よろしく」
その少女は可愛かった。とんでもなく可愛かった。改めて見なくとも可愛かった。
どストライクも良いところだった。
男「」
少女「………?あの?」
話している最中はこの子の処遇やなんかを色々考えていたからなんとかなったがいざ区切りがついて話が落ち着いたらまともに顔も見れないぐらいにどストライクだった。
メイドさんの幼少時と比肩するっっ!!!!
決して今の出るところの出てナイスバディーなメイドさんが
魅力的でない訳ではない、今のメイドさんは可愛いと言えば可愛いが分類的にはセクシーなおねえさんである、年下だけど。
自分、ぶっちゃけロリに興味津々です。
男「………えと、その……」
少女「………?」
さっきまではよく動いた口がまったく動かないので仕方なくクールを装う事にした、テンパってる姿をこの子に晒すのは死ぬより辛い。
男「………キミのような若い娘はそれなりに値が張ったが……まあ良いだろう」ジロリ
少女「……っ」ビクッ
クールにもなりきれず何故か威圧感満載の言葉を放ってしまった。ごめんよ脅かして。
男「…………」
いたたまれず先を歩く、するとちゃんとついてくるではないか、刷り込みされた小鳥の如く。
男(かわいい)ポッ
少女(……こわい)
………こうして、少女ちゃんを大枚叩いて衝動買いしてしまい、現在に至る。
……………
………
……………
少女「…………王子様は、どうしてわたしに国の事を聞いてきたんでしょうか……」
メイド「………やっぱり気になる?」
少女「……はい、あの後どうなったのか、知りたいですし」コクリ
メイド「そっか、そうよね……」
少女「…………」
メイド「………こっそり聞いちゃう?」
少女「えっ、でも……」
メイド「気になるんでしょ?アイツもさ、たぶん探してくれてるとは思うんだけど、きちんと見つけるまで話してくれないと思うのよ、アイツそういう奴だから」
少女「………わたしの両親をですか?」
メイド「いるんでしょ?あたしと違って」
少女「………」コクリ
メイド「なら、絶対に探してくれてるよ……アイツ変態だけどさ、そんな事の為だけにあんたをここに置いといてる訳じゃないのは分かってるし、言ってくれないけどね?」
少女「………そう…ですね……ご主人様、優しい人ですし」
メイド「もしかしたら王子様との話であんたのお父さん達の話題とか出るかもしれないし、ちょっとだけね」
少女「…はいっ、ありがとうメイドさん」ペコリ
メイド「あっ、でもこっそりよ?近づくなって一応言われてるんだから」スタスタ
少女「はいっ」トタトタ
………
メイド「………んー……聞こえる?」ピタッ
少女「……は、はい少しですけど…」
メイド「………ん……アイツがあんたの国の話題振ったわね…」ヒソヒソ
少女「……っ……」ギュ
……………
王子「…………彼女はその内の一人だ」
男「…………」
王子「……あの娘、あの様子では伝えてはおらんようだな、その方が良いだろうが」
男「………もう少し、時間が必要だと思います、まだ一ヶ月足らずしか経っていない」
王子「………ふむ……」
男「王子、一応確認します……あの国の人達はどうなりましたか?」
王子「………………………」
男「……王子」
王子「我が妹が入念に調べたそうだ、国民の人口が記された帳簿が奇跡的に焼け残っていたらしく、そこに記された数字が、連れて来られた奴隷の数と死体の数が一致したと言っていた」
男「……………」
王子「そなたの予測通りだ、皆殺しにされたよ、老人から女……赤子に至るまで」
男「…………………そう、ですか……」
………………
メイド「………………ぇ……あ……」
少女「……え…?」
王子「………すまぬな、我が父の所業……許される物ではない」
男「…………ええ、そうですね……」ギリッ
ガタッ
男「っ!!」バッ
王子「何者だ!!」
男「………っ……」ガチャ
メイド「……ぁ……ご、ごめんなさ……」ジワッ
男「………メイドさん、近づくなって言っただろ」
メイド「…………っ……」ポロポロ
男「………少女ちゃんは?」
メイド「…………」ギュ
男「メイドさん」
メイド「………さ…さっきまで一緒に……うくっ……い、いま走って……」
男「……………………………そう……分かった……」
メイド「ごめんなさい……だ、だって……気にしてたから……!!」ポロポロ
男「………そうだね、メイドさんには言っといた方が良かった……俺のミスだ」ガンッ!!
メイド「っ…!!」ビクッ
王子「友よ、どうするのだ?」
男「………俺が知りたいですよ」
…………
わたしの暮らしていた国はとても小さな国でした。
とても小さいけど、のどかで、綺麗で、大好きでした。
わたしのお父さんは平民でしたけど、文官としてお城へ勤めていて、厳しいところもあるけれど優しい人でした。
お母さんも優しかったです。一人娘だったわたしに料理やお掃除、お裁縫……いろんな事を一緒にやって教えてくれました。
わたしはそんなお父さんとお母さんの間に……二人が結婚してから十何年も経ってからようやく生まれた娘だったらしくて、そんな風に望まれて生まれたと分かって居たから、とても幸せでした。
周りの子よりちょっと小さくて、そんな所も心配されていたみたいだけど……わたし自身はあんまり気にしてませんでした。だって、小さいままの方がお父さんとお母さんとずっと一緒に暮らせるって、そんなホントに小さな子供みたいなことをこの歳になっても思っていたから。好きな男の人とかも居たことなかったし。
そんなある日、隣にある大きな国の兵隊さん達がたくさんやって来ました。
わたしの国にも兵隊さんは居ましたけど……10人も居なかったすくすぐに殺されてしまったそうです。
隣の国の兵隊さん達は何百人も居たそうです、それでもわたしの国の兵隊さん達は降参せずに立ち向かったと後から聞きました。
どうして勝てないのに?と、わたしは疑問に思ったんですけど……後から考えたらその兵隊さん達は分かっていたんだと思います。
降伏しても、わたし達の運命は変わらないと。
その後はよく覚えてないですけど、泣きながら走って、走って走って……それでも逃げられなくて、最後はうずくまってこんな怖い事はすぐに終わってほしいと、ずっと神様にお願いしていました。
叶わなかったから、神様なんて居ないんだなって悟っちゃったけど。
逃げ出す前に、お母さんは言いました。
「私はお父さんと一緒に逃げるから、先にお逃げなさい」
私は嫌でした。
どうして一緒に逃げてくれないの?
お父さんもお母さんも一緒に逃げよう?
お母さんだけお父さんを待ってることない、わたしも一緒に待ってるよ?
お母さんはわたしを叩きました。
「私はもう歳だから、一緒に逃げても追い付かれる、だから、お願いだから先に行って」
わたしは、そんなの嫌だ、お母さんが走れないなら背負っていくよって言いました。
お母さんはまたわたしを叩きました。
「人より小さい子が私を背負えるわけないでしょう?私は、お父さんに背負ってもらうつもりだから、だから早くお行きなさい」
わたしはそれでもそこを動きませんでした。
「大丈夫、私もお父さんも絶対に大丈夫だから、お父さんはお城勤めなのよ?秘密の抜け穴くらい知っているわ」
窓から見えるお城は、焼かれて真っ赤に燃えていました。
「だから、早く行きなさい、先に逃げて、そしてまた一緒に暮らすんでしょう?あなたはお嫁になんか行かないって言っていたものね?」
お母さんは、泣きながらわたしを抱きしめて、そう言いました。
「……もし、もしあなたが捕まってしまっても大丈夫、あなたは可愛いから、それに若いから殺されたりしない、もし捕まってしまったら」
「そのときは逆らってはダメよ、ずっと耐えて、私やお父さんに絶対に会うんだって、そう思っていなさい、そうすればあなたは辛くても負けたりしないわ」
そう告げて、お母さんはわたしを離しました。
わたしはお母さんに頷いて、涙を煤けた袖で拭ってから笑いました。
「元気でね」
わたしはお母さんに別れを告げて、走りました。
お父さんにも会いたかったけど、また絶対に会えるって思えばそんなに辛くはありませんでした。
…………でも。
でも。
突然やって来た、変な名前の白馬に乗った変態さん……じゃない、王子様は言いました。
わたしの国はもう滅んでしまったと。
あの小さかったけれど立派なお城も、ちょっと品揃えが悪くて不便だった雑貨屋さんも。
お父さんが建てて、お母さんが守って、わたしが育ったあの家も。
全部燃えてしまったと。
住んでいた人達も、全員死んでしまったと言いました。
お父さんもお母さんも死んでしまったと言いました。
絶対にまた会えるって信じていたけど、もう会える事は無いんだと言いました。
じゃあ、わたしはどうすれば良いんでしょうか。
わたしが頑張っていこうと思えていたのはみんな無事で、いつか必ずまた一緒に暮らせる、また家族みんなで幸せに暮らしていけると信じていたからです。
わたしを買って、このお屋敷に連れてきたご主人様はちょっとどころではなく変態だけど、わたしの事をメイドさんが居るにも関わらず変な目で見てくる人ですけど、すごくお優しい方です。だから、いつか必ずわたしを故郷へと帰してくれると思っていました。
でも、ご主人様もわたしのお父さんとお母さんは死んでしまっていると分かっていたみたいです。
……だからあの時、他の解放した人達と一緒に故郷へ向かわせないで、ここに連れてきたのかな?
わたしはずっとご主人様に騙されていたんだとわかりました。
優しいから、わたしに嘘をついて騙したみたいです。
でも、出来ればすぐに言って欲しかったな……何も知らないまま笑っていたわたしがバカみたい。
大事な事をキチンと言わないからメイドさんにも勘違いされてうまくいかないんですよ、メイドさんも不器用だけど、ご主人様はもっと不器用です。わたしも器用なほうじゃないから人の事はあんまり言えないけど。
わたしはこれからどうやって生きて行けば良いのか分かりません。
厳しいところもあるけれど優しいお父さんも
いろんな事を教えてくれるお母さんも居ません。
わたしは一人ぼっちになってしまったみたいです。どうやって生きて行けば良いのかなんて教えて貰ってないのに、一人ぼっちです。
そんなの嫌でした。
わたしはまだお父さんとお母さんに教えて貰って無いことがたくさんあります。
……いいえ、全部教えて貰っていたとしても離れたくありません。
だから、わたしは自分で確かめようと思います。
良くしてくれたご主人様やメイドさんには悪いですけど……黙って故郷へ帰る事にしました。
あの変態さん…じゃない、王子様が言った事が嘘だと、間違いだと言うことを確認しに行くことにしました。
彼処へ帰れば、絶対に会えるって思うので。
………
男「………メイドさん、少女ちゃん見つかった?」
メイド「………」フルフル
男「…………荷物は?食料が少しだけ無くなっていたんだけど」
メイド「………彼女に用意した服が何着か、それと……使っていなかったリュックサックが……」
男「そう、分かった」スタスタ
メイド「あ、あの……」
男「メイドさんは入れ違いになるかもしれないからここで待っていて、少女ちゃんの足じゃそんなに遠くには行けないだろうから辺りを探してくる」
メイド「……ごめん……ホントに……」ジワッ
男「メイドさんは気にしなくていい、あの時だってそうだけど、これは俺がダメだったんだ」
メイド「……あれは…!!その……」
男「……ごめん、嫌な事思い出させちゃったか、とにかく少女ちゃんは連れて帰るから、夕飯でも用意しといて」
メイド「………」
男「………ところであのバカ王子は何処に行ったんだ?いつの間にか居ないが」キョロキョロ
………
少女「……よいしょ」グッ
少女「……食べ物と荷物、黙って持ち出してごめんなさい……わかってくれるよね、あの人達なら」スタスタ
少女「どれくらいかかるかな?出来れば馬車…お馬さんが居れば良かったんだけど、そもそも乗れないし」
少女「………街まで行けば行商をしてる人達が居るだろうから、その人達に頼んで、西の方へ乗せて貰おう、そうすれば早く帰れるし」スタスタ
パカラッパカラッパカラッパカラッ……
少女「ふぇ?馬の走る音が……」クルッ
王子「はーっはっはっはっ!!見つけたぞ娘よ!!」
白馬「ヒヒーン!!」パカラッパカラッ
少女「ふぁっ!?」ビクッ
王子「そんな遠足のような出で立ちで何処へ行くと言うのだ娘よ!?ピクニックならば幼子は保護者同伴が絶対必要なのであるが!!」
少女「ぴ、ピクニックじゃありません!!帰る途中なんです!!」トタトタ
王子「ほう、帰る途中か!!ならば方向が違うぞ娘よ、そなたの帰る所はあの屋敷であろう!?」
少女「ち、違います!!わたしの家はこっちですから!!」トタトタ
王子「ふむ?つまり国へ帰ると言うのか」
少女「そうです」スタスタ
王子「何も残っておらぬぞ、行くだけ無駄だ」
少女「そんなの信じません」スタスタ
王子「そうか、自ら確かめねば信じぬと言うことか、よし」ガシッ
少女「へっ?」ヒョイ
王子「振り落とされたらいかんな、縛っておこう、それに馬は揺れるので舌を噛むかも知れぬ、猿ぐつわをしておこう」グルグル、ギュー
少女「むーっ!?うーーっ!?」ジタバタ
王子「これで良かろう、では我が愛馬エクストリームリベンジデスファレーナ号よ!!我が脚となりて駆けよ!!ハイヨーー!!」ピシンッ
白馬「……ヒーン」パカラッパカラッパカラッ…
少女「むーっ!?」ジタバタ
男「………さて、どっちへ行ったか……冷静に考えられるなら街へまず行くだろうからこの道でいいはずだが」スタスタ
パカラッパカラッパカラッパカラッ…
ハーッハッハッハッ!!
男「ん?蹄の音とバカっぽい高笑いが……」ジー
王子「はーっはっはっはっ!!見つけてきたぞ我が友よ!!」ピシンッ
少女「むーっ!?うーーっ!?」ジタバタ
男「」
王子「流石と思わぬか?こんな幼子だとしても女の行いを理解してこうして虜にしてしまうのだからな」フッ
男「虜が字面そのものだよ!!恋の虜とかでなく普通に捕縛してるよ!!なんで縛ってんの!?」
少女「……うう……」モソモソ
王子「馬は素人には危険なのでな、そんな事より我が友よ、この娘、暫し預かるぞ」
男「は?」
王子「心配は要らぬ、少々遠出になるが必ず連れて帰るからな」キリッ
男「ちょ……待ってくれ、どういう……」
王子「故郷を見るまでは信じぬと言うのでな、確認させる」
男「…………少女ちゃん」
少女「…………」
王子「分かっておる我が友よ、そなたは私がこの娘をたらしこみ横取りするのを恐れておるのだろう?私は素晴らしく美形だからな」キリッ
男「その逆ならすげぇ心配なんだが」
王子「安心しろ我が友よ!!我が操はセクシーなお姉様に色々手解きされながらと決めている!!この娘は守備範囲外だ、5年後は分からぬがな!!ふはははははは!!」
男「モテモテの癖に操とな」
少女「………」
王子「では数日の間、暫しの別れだ!!行くぞ我が愛馬アインシュピーゲルディザスター号よ!!目指すは広野の果て、地平線の彼方だ!!」ピシンッ
白馬「……ヒン」パカラッパカラッ…
男「…………だ、大丈夫だろうか」ダラダラ
……数日後
男「………そろそろ着いてる頃かな、あの二人」
男(……少女ちゃん、受け止められるのか?俺としてはあまり賛成出来なかったんだがな、故郷の国の状況を見せつけるのは……)スタスタ
メイド「………」ザッ…ザッ…
男「あ……おはようメイドさん」
メイド「………おはようございます」コクン
男(……メイドさんもあれからまったく元気がない、説明はしたんだが……どうも自分のせいで少女ちゃんが出ていって、二度と戻らないんじゃないかって考えてるっぽい)
男(………正直、俺も戻って来てくれるかは分からないんだが……こんな国へ戻って来たくないなんて思われてもおかしくないし)ハァ
メイド「………………朝食の準備……してきます……」トタトタ
男「……あっ、メイドさん……」
男「……掃き掃除途中なのに、はぁ……」ザッ…ザッ…
男「少女ちゃん帰ってきてくんないかなー……またぎくしゃくしてた頃に逆戻りしちゃったっぽくて二人じゃ気まずいなーー……」ドヨーン
……………
………
………
王子「…………ここがそなたの国だ、少女よ」
少女「……………」
王子「分かるか?家も、城も……美しかったであろう森の木々ですら焼き払われている」
少女「…………」スタスタ
王子「………我が愛馬よ、ついていってくれ」ピシンッ
白馬「ブルル」トコトコ
少女「…………何も残っていないんですね、ほんとうに」
王子「ああ」
少女「……お城も崩れてる」
王子「ああ」
少女「…………家も、街も全部瓦礫と燃えかすになってる」
王子「……そうだな」
少女「……お城にいた人も、街に住んでいた人達もみんな?」
王子「…………」
少女「…………」
王子「……娘よ、そなたの生家は何処にあったのだ?」
少女「もう通り過ぎました」スタスタ
王子「……むっ?」
少女「小さな家でしたし、全部燃えて形も残ってませんでした」
王子「よいのか?立ち止まらず過ぎても」
少女「大事な物とかはきっとお母さんは持ち出してますから、平気です」スタスタ
王子「………娘よ」
少女「やっぱり何も残ってないからかな、誰も戻って来てないんですね……どうしようかな」キョロキョロ
王子「…………」
少女「あの時捕まらずに逃げられた人達が行きそうなのは……えと、はここからもっと西の海の国か…北の雪原の国ですよね、近いのってどっちかな……」
王子「娘よ、もう良いだろう?」
少女「良くないです、わたしはお父さんとお母さん…それに他の生き残りの人達を見つけるのに来たんですから」ギュ
王子「……娘よ、ついて来なさい、此方へ向かうぞ」トコトコ
少女「……そっちは湖で道なんてありませんけど?」
王子「よいのだ、そこにそなたの探し人も眠っているはずだ」
少女「……………っ……」
王子「我が妹の手配でな、父の眼を盗み使いを出し……亡骸を湖の畔、この小高い丘に埋葬したそうだ」
少女「…………」
王子「身元までは分からぬので墓標に名は刻まれておらぬ、だが身に付けていた品を分かりやすく供えてある」
少女「………っ……」ビクッ
王子「ここか、供えてある指輪に覚えがあるのだな?」
少女「………お母さんの身に付けていた物です」
王子「父の墓は分からぬか」
少女「…………」ウロウロ
少女「………ここです、隣じゃなかったですけど近くにありました」
王子「………そうか、すぐに分かって良かったな」
少女「…………」
王子「……理解したか娘よ、そなたの父と母はもう居ない、そなたの帰る家も……ここにはもう存在せぬのだ」
少女「……………」
王子「………理解したのなら、戻るぞ娘よ……そなたも分かっておるだろう?我が友、そなたの主人はそなたの暮らしは保証してくれる、幸せになりたいのならば戻るべきだ」
少女「……戻らない……ううん、あの人の所には行きません」フルフル
王子「何故?」
少女「わたしはお父さんとお母さんをきちんと探します」
王子「娘よ……そなたの目の前に墓標があるのだぞ?」
少女「わたしは信じない!!お母さんが言ったんです、絶対にまた会えるっていったんだもん!!」
少女「こんなお墓なんて……中にお父さん達が眠っているのなんで分からないじゃないですか!!調べに来た人達が数を間違えて報告したかも知れないじゃないですか!!わたしは、わたしは絶対に信じません!!」
少女「そうですよ……そうだった、生き残りの人は居てもバレたら大変ですよね!?貴方のお父さん…王様にバレたら今度こそ殺されちゃいますもんね?だから、みんな死んだって言うことにして生きてる人達は別の国へ逃げて、そこで暮らしてるんですよね!?絶対にそうですよ、だって……」
王子「…………口で言っても分からぬか……仕方ない」ザッ
少女「……えっ…」
王子「なに、私も色々と旅の真似事をしているのでな、こういった土を掘り返す道具は常に我が愛馬に運んで貰っておるのだ、便利なのだぞ?」ザッ…グッ
少女「な、なにを……」
王子「墓を暴くのだ、何……埋葬してから一ヶ月程ならそこまで腐ってもおらぬはずだ、そなたが見ればこの墓に埋まっている亡骸が両親のものかどうかなどすぐに解るだろう……まあ、焼き殺されていなければの話だが」ザッ…ザッ…
少女「えっ……ゃ……」
王子「眼を背けるな、もし、そなたの言うようにこの墓標の下の亡骸が両親の物で無いのならその他の墓も全て暴く、それでも見つからないのであれば……その時はそなたの両親探し、私自らがそなたに付き従い命を掛けてでも探し当ててやる」ザッ…ザッ…
少女「……そ、そ……んな……ぅ……」
王子「待っておれ、数分で確認出来る」
少女「やめて!!もう良いですから見せないで!!見たくない!!」
王子「何故止める、そなたが言ったのだぞ……両親の死を信じぬと、その為には必要な事だ」
少女「……うっ……ひぐっ……うぅ……」
王子「……泣くなとは言わぬ、幼子に親の死を確認せよと言うのも酷なのも分かる、だが、そなたが言ったのだ」
少女「……だ…って……見たら……見ちゃったら………」ポロポロ
王子「………」
少女「見たら、わたしはほんとうに一人ぼっちになっちゃうじゃないですか…!!わたしそんなのやだ!!絶対にやだ!!」
王子「…………そうか」
少女「わかってましたよ!!あの時、お母さんと別れた時から、お母さんは……お父さんも!!もう死んじゃうから会えないなんて事、あんなに酷い事になっていたこの国から逃げられるなんて本当は思ってませんでしたよ!!でも……でもそれを受け入れちゃったらわたし生きていけないと思ったから!!独りで生きてなんていけないからずっとお父さんもお母さんも生きてるって思い込んでいただけですよ!!それがいけない事ですか!?わたしは独りじゃないって思い込んで辛いことも悲しい事もやり過ごす事がいけない事なんですか!?」
王子「………いや、そうは思わぬよ」
少女「だったら、お願いですからわたしのお父さんとお母さんを……わたしの中からも殺そうとするのはやめて下さい……!!お願いですからやめて下さい……っ…うぅ……ぐっ……うぅ……!!」ポロポロ
王子「辛いか?」
少女「………」コクッ
王子「………だが受け入れよ、眼を背けてもそなたは救われぬ、ただ痛みから逃げ続けているだけだ……それではいつか、逃げきれなくなった時に心が死ぬ」
少女「…………貴方が……あの国の王子様である貴方がそれを言いますか?こんな事になったのは貴方のお父さん、王様のせいなのに……」
王子「………そうだな、それこそ言い逃れも出来ぬ事実だ」
少女「…………」
王子「…娘よ、我が父……あの暴君が憎いか?」
少女「………憎いです」
王子「……そうか、心得た」スタスタ
少女「………何処へ?」
王子「戻るのだ、あの国へ………そなたも来い、帰りを待っている者はそなたには居るだろう」
少女「……でも、わたしは…」
王子「独りでここに残るつもりならば止めはせぬ……ここで両親の亡骸と共に朽ちたいと言うのならば、それを止める権利は誰にもないからな」
少女「…………待っていても誰も戻って来ないっていう事ですか?みんな……そう、あの時ご主人様が一緒に解放したこの国の人達も?」
王子「……そうだ、誰も戻っては来ない……この国の生き残りはそなた
ただ一人だ」
少女「………………どういう事ですか?」
王子「我が友には伝えられぬ事だ、そなたも自分の胸にだけしまっておいて欲しい」
少女「…………」
王子「我が妹の言った事をそのまま
言うのだか………解放された元奴隷のほとんどは元の国へ戻る為に関所へ赴く、留まろうとする者も居るそうだが……これもやはり異邦人不法滞在者だったか?そのような刑罰があるために国外追放処分とされるらしい」
少女「それがどうして、あの時解放された人達がもう居ないって事になるんですか?」
王子「国民には知らされぬ法もあるという事だ、我が父……あの暴君は解放された元奴隷達が反乱分子になる前に処分するのだ……その者達に本当に反乱の意思があるかなど二の次に、国民には国外へ出ていったと思い込ませて、全て殺している」
少女「……それじゃあ…」
王子「我が友に感謝するのだな……そなただけは、助かったのだから……」
少女「………………………………」
王子「おそらくそなたは……その解放された筈の元奴隷達もあてにしていたのだろうが……無駄だ、ここにはもう誰も訪れぬ……残っても死ぬまで独りだぞ」
少女「………そう、ですか……」
王子「……それでも残るか?私はもう行くが」
少女「…………」フルフル
王子「そうか……ならば帰ろう、我が友がそなたを待っている筈だ」
更に数日後。
王子「……では、確かに送り届けたぞ我が友よ」
少女「…………」
男「……ありがとうごだいました王子、わざわざ……それに、少女ちゃんも……おかえり」ホッ
少女「はい……」
王子「礼には及ばぬぞ我が友よ、私も刻まねば成らなかったからな」
男「…………またいつでもいらして下さい、歓迎します」
王子「そうさせてもらうつもりだ!!彼女にも逢いたいのでな!!それではまた共に男の美学を語り合おうぞ!!」シュバッ!!
少女「………」ペコリ
王子「うむ!!では我が愛馬メイルシュトロムパンデミックフォーエバー号よ!!いざ我が城へ凱旋とするぞ!!ふははははははははは!!!!!」バシッ
白馬「…………ヒン」トコトコ…
男「………改めておかえり、さあ中へ入ろう、メイドさんも心配してたんだから」
少女「………」コクッ
その日の夜。
男「…………やっぱりショックだったんだろうな……戻ってきたは良いけど口数が極端に減ってたし、表情もずっと暗かったし……」ハァ
男「……メイドさんもなんて話し掛けて良いのか分かんないみたいでぎこちなかったな、なんとか自然になってくれれば良いんだが……」
男「………あ"ーー……わかんねぇ、やっぱり行かせるべきじゃなかったのかなぁでもなぁ遅かれ早かれだしなぁこりゃメイドさんの時みたく長期戦かなぁやだなぁ!!」グネグネウネウネ
男「………はぁ、まあなるようにしかならんか、寝よ」フー…
………
男(…………大丈夫だろうか、少女ちゃん……冗談抜きで危ないかもしれない………)ゴロッ
カタッ
男(でもどうすればいい?彼女を救うには何をすれば最善だ?俺に出来ることはあるのか?)
男「………ダメだ、全然寝付けない」ムクッ
少女「…あっ」
男「ッッ?!?!」ビックゥ!!
少女「………ね、寝てなかったんですか?」
男「」
少女「………あれ?」
男「」
男「きがつけば、ぼくのべっどにてんしがまいおりていましたまる」ピキッ
少女「……えと、ごめんなさい」ペコリ
男「…っはっ!?あ、えと、その!?なっなんで居るのさ!?」ワタワタ
少女「………さあ、どうしてだろ……」
男「………ん?少女ちゃん?」
少女「………えっと……ああそうだ、あなたはわたしのご主人様、なんですよね?」
男「え?ああうん……そういう事にはなってるけど……」
少女「じゃあ、どうしてわたしに何もしないんでしょうか?ご主人様はわたしの事、好きですよね?」
男「え……え?」
少女「わたし、身体は小さいですけど、女だし男性の視線とかはわかりますもん、違うんですか?違うならどうしてわたしなんかを気に入ってここに連れて来たんですか?ねぇ、ご主人様…」スッ
男「…っ……ちょ、ちょっと待った!!一旦落ち着いて、少し離れて!!」
少女「はい」スクッ
男(まだ近いまだ近い!!なんだ!?何が起きた!?)
少女「………別に、わたしなんかに遠慮なんてしなくてもいいのに」
男「……………本当にどうした?今まではこんな事を……ベッドに潜り込むような真似する子じゃなかったでしょ」
少女「………?ああ、今まではあれです、大人しくて従順なふりをしてたからです、だって、命令さえ聞いていれは恐い思いも痛い思いもしなくていいと思いましたから」
男「…………っ……」
少女「でも、もういいかなって思って……どうでもよくなりましたから」
男「……………」
少女「ご主人様、わたし独りぼっちになっちゃったみたいです……ああそっか……あなたは知ってたんでしたっけ」
男「…………うん、予想…じゃないな、確信してた」
少女「……嘘つき」
男「…………」
少女「………どうせ気づいちゃうなら、初めから言って欲しかったです、こんな中途半端な優しさならいらなかった」
男「……ごめん」
少女「…………」
男「…………」
少女「…………ほんと、バカみたい……」ギュ
男「…………えと…」
少女「わたし、結局戻って来ちゃいました……あの王子様に言われたから戻って来ちゃいました」
男「………」
少女「どうせ独りぼっちなのに、死ぬのが怖くてまたここに来ちゃいました……バカみたい」
男「……どうしてそう思うんだ?」
少女「わかりませんか?だって、独りぼっちになるのが嫌なら、わたしはお父さん達が眠る場所で、同じように死んじゃえば良かったんですよ、ほら…だって、天国か地獄かは分からないですけど、きっと死んだ場所が同じなら向こうでも一緒でしょう?」
男「……馬鹿だな」
少女「はい、わたしバカです、どうして良いのかちっともわかりませんから……」
少女「自分じゃわかりませんから、だからご主人様に決めてもらおうかなって」
男「…………」
少女「……わたし、どうすれば良いですか?」
男「……少女ちゃん」
少女「はい?」
男「キミ、びっくりするほどバカだな」
少女「………」
男「あのバカ王子よりバカだ、世界一狙える」ビシッ
少女「………ふざけて返されると気分悪いです」ムスッ
男「ふざけてねぇよ、マジで言ってんだよ、あの王子行動はバカだが考え方とかは立派だぞ」
少女「………」
男「キミが辛いのは分かってるよ、でも気持ちは分かるなんて在り来たりな事は俺は言わないよ、そんなもん俺はキミじゃないからぶっちゃけ分からんからな」
少女「…………」
男「でもさ、これだけは分かる、流石にピンと来たね」
少女「…………なんですか?」
男「………な、慰めてほ、ほひぃならむむむにぇを……ゲフン、慰めて欲しいなら胸を貸すよ」キリッ
少女「バカじゃないですか?」ジトッ
男「あ、あれぇ!?」ガーン
男(おかしいッッ!?何故だ、こういうときはだいたい女の子は頼りになる男の胸の中で涙を流したいものだとモテ男になる為の秘訣書に記されていたというのに!!)オロオロ
少女「……ふふっ…やっぱり変な人ですね、あなたは」クスッ
男「なるほど、俺が頼りになる男じゃないからか……変な人だからかッッ……!!」ズーン
少女「あっ、ごめんなさい」アセッ
男「………い、いや……でも良かった、やっと笑ったね」
少女「……へっ?あっ……はい…」カァァ
男「えーと、なんというか……こういうとき気の効いた事とか俺は言えないけどさ、やっぱり死にたかったとか、どうでもいいなんて言って欲しくないよ」
少女「………はい、ごめんなさい」
男「助けになれる事があるなら遠慮なく言ってくれ、俺が頼りにならないならメイドさんでも構わないからさ、彼女なら腕っぷしでも頼りになるし」
少女「……そうですね、はい…」
男「………えーと……あとはなんだ?えー……」ガシガシ
少女「大丈夫です、変に何か言おうとしたらまた噛んじゃいますよ?ふふっ」クスッ
男「……うっ」
少女「えーと、じゃあ、早速お願いして良いですか?」
男「うん?」キョトン
少女「慰めてくれるんですよね?むかし、悲しくて泣いちゃった時、お父さんがしてくれたみたいにくれたらいれ嬉しいかも?」
男「うん?なにするの?」
少女「わたしが寝るまでずっとだっこしてくれました、してもらっても良いですか?」
男「なんと」
少女「……だめ、ですか?」ジッ
男「だ、ダメジャナイヨ!?イイヨオイデオイデ!!」チョイチョイ
少女「………変な事はしないで下さいね?したらメイドさんに言いつけちゃうんですから」ジー
男「………わ、ワカッテルヨ?ダイジョブダイジョブ」
少女「それじゃあ失礼します、へへ……」ギュー
男(あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!んあ"ーーーーーー!!!!?!?!)ガチガチガタガタ
……
わたしはお父さんとお母さんにはもう会えないです。
独りぼっちになってしまいました。
辛いですし、悲しいです……でも、寂しさは少しだけ和らいだ気がしました。
もう少し、あと少しだけ時間が過ぎたら、わたしは独りぼっちだって思わなくていいかもと、そんな風に思えました。
その日、その夜抱きしめてくれた人は、ほんの少しだけお父さんに抱きしめられたような気分にさせてくれました。
鼻息と唸り声はちょっと気になったけど。やっぱり優しい人でした。
………
メイド「…………」
彼女はずっと、二人の事を見ていた。
今日、ようやく帰ってきた少女が夜中に自身のベッドから抜け出すのに気付き、何かあればまずいと思い、後をつけていた。
そして、彼女達の主人に当たる青年の寝室へと忍び込んだのも分かっていた、だが……あの少女の異常な雰囲気を察して押し入るのだけは踏みとどまっていた。
メイド(………よかった、あの子…大丈夫そう……)
それは素直に思った事だが……もうひとつの感情も、無視は出来ないでいるのも確かだった。
でも、それはもう表に出すつもりの無い感情でもある。そのつもりなら、もっとずっと早くに、あの子かこの屋敷に来る以前………あの日、あの時に伝えていた。
今更だ。
自分だってそう思う。そして主人であるあの青年も、そうだからあの子に気持ちを向けているのだろうから。
メイド(……さて、もう休まなきゃ……明日からまたあの子に色々と教えながら仕事しなきゃいけないもんね)
そう心の中で呟いて、彼女はその場を後にした。
…………
………
……独り。
風の音も、虫の声も聞こえて来ない。そんな静な夜に独りベッドに横たわっている時に、私はよく夢を見る。
………
男の子「………う、うぐぅ……」
女の子「……なっさけないわねアンタ、男でしょ?ちゃんと付いてきなさいよ!!」
それは、まだ何も知らない子供の頃のささいな思い出だ。
男の子「仕方ないだろ!?ぼくは頭脳労働派なんだよ、お前みたいなメスゴリラと一緒にしないで貰いたいね!!」ケッ
女の子「もっぺん言ってみろこの野郎」ガシッ
男の子「に"ゃーーーーー!?!?こめかみが!?ゴリラの握力は推定500kg!!成人男性のおよそ10倍の力がこめかみを!?」ミシミシミシ
女の子「………ホントに握り潰せるならぶっ潰したいわね」イラッ
あの頃はまだ、お互いに気を使うなんて事もなくて、本当の兄妹のようにじゃれあっていだものだ。
男の子「……ぜぇ…ぜぇ…!!まったく、そのちょっとからかっただけですぐに怒る性格どうにかなんないのかよ!?毎日毎日虐められるぼくの身にもなってくれません!?もうちょっとこうさ、クールでキリッしたセクシーなお姉さんを目指そうぜ!?」
女の子「……はぁ?そんなの目指してどうするのよ、だいたいあたし、チビで怒りっぽいしまだ子供だし、ていうか虐めてないし、アンタがあたしを怒らすのが悪いのよ、文句あんの?」
男の子「おおありだよ!?ぼく歳上!?しかも屋敷の当主の息子!!」
女の子「それがなによ、あたし旦那様に言われてるもん、女の子に負けっぱなしじゃ将来情けない男になるからもっとぼっこぼこにしていいって言われてるもん」プイッ
男の子「こ、この……お、おまえ奴隷じゃん!!ご主人様の命令はちゃんと聞けよな!?」
女の子「だから、キチンと聞いてるじゃん、毎日ぼっこぼこにしてる」シュッ,シュッ!!
男の子「逆効果だよ!!むしろ女性に対して恐怖心を抱きそうな勢いだよ!!」ウガー
生意気で、乱暴者で、お転婆で男勝りだった私と
今よりもっとひ弱で、嫌味っぽくて、ちょっとだけ横暴な態度だった彼との思い出は、今も色褪せずに私の胸の奥にある。
……………
…………
メイド「……………」ムクッ
メイド「…………いまなんじ?」キョロキョロ……ガタ……モソモソ
メイド「…………げっ……寝過ごした!!ああもんなんでいっつも夢見る時は寝坊するのよ!?」バタバタ
メイド「と、とにかく着替え……ね、寝癖も直さなきゃ……!!」オタオタノロノロ
コンコン
メイド「っ!?」ビクッ
男「……メイドさん?もうけっこうな時間だけど、どうかした?」ガチャ
布団「………………………」
男「まだ寝てるのか……しょうがないな」スタスタ
布団「………」ギクッ
男「諸君、こういう時はあれではないかね?無理矢理布団をひっぺがしてきゃーなにするのよばかっ、へんたいスケベっ!!出ていきなさいよばかばかばかっ!!…っと、寝起きのお顔拝見と共にそういう恥じらいたっぷりの反応を引き起こすのが男の美学ではないかね?」スタスタ……クルッ
布団(………誰に向かって問いかけてんのよ)
男「………なに?そこは目覚めのキスをするべきだと言うのか諸君?ふむ……確かにシチュエーション的にはそれも悪くなかろう」
布団「えっ」ビクッ
男「ん?」クルッ
布団「……………ぐ…ぐぅ……zzZ 」ドキドキ
男「気のせいか、すまない諸君、話の途中だったな」クルッ
布団(だから、誰に向かって語ってんのよそれ)
男「確かにシチュエーション的にははなまる百点だろう、だが断る!!」クワッ
布団「…………」ビクッ
男「俺はまだ命が惜しい、故に放っておこう、起きてきたらやれやれしかたねーなコイツって顔をしてやるのが精一杯だ。すまぬな諸君」スタスタ、バタン
………
メイド「…………」ムクリ
メイド「……何しにきたの、アイツは」
………
少女「………」ジー
男「……………」パラッ
少女「…………」ポケー
男「…………ふむ……」カキカキ
少女「………あっ…」ハッ
男「ん?なに、どうかした?」クルッ
少女「えっ、いや、あの……なんでもないです!!ホントになんでも……」ブンブン!!
男「………?まあ、いいか……少女ちゃん、もう少ししたら仕事一段落するからお茶淹れてくれる?」パタン
少女「えっ、あっ、はいすぐに!!」ペコリ、タタタッ!!
男「………さて」カタッ
少女「…………」チラッ
男「………んん?」クルッ
少女「はぅ!?」タタタッ!!
バタン!!
男「…………なんだ、少女ちゃんの様子がおかしい、昨晩添い寝した影響か?」
男「……っ!!」ハッ
男「さては惚れたのか……俺に!?」ガタッ
…………
少女「………うぅ……だめだ、普通にしてられない、昨日まではなんとも思ってなかったのに」
少女「……………う"ー…」チョコン
メイド「………どうしたの?こんな所にしゃがみこんで」
少女「あっ、め…メイドさん…」ギクッ
メイド「…………」ジー
少女(…………そ、そういえば……どうしよう……メイドさん流石に気付いてるよね、昨日わたしがご主人様の所に行ってたの)オロオロ
メイド「ねぇってば、大丈夫?」
少女「えっは、はい大丈夫です、ごめんなさい!!」ペコ
メイド「何に謝ってんのよ?ここでサボってたとか?それならあたしも今日は寝坊だからなんにも言えないから安心していいけど」
少女「へ?ああはい……えと、もしかして昨日はずっとぐっすり寝てたり……」
メイド「ぐっすりは寝てたかな」
少女「もしかして気付いてない……?」ボソッ
メイド「ああ……昨日の事をあたしに気を使う必要はないわよ?あたしもアイツも只の主従関係しかないんだから、特になんとも思ってないもの」
少女「えぅっ」ビクッ
メイド「いや、だからなんでそんなにビクビクしてるのよ……前に言ったでしょ、何でもないって、あんたが勘違いしてるだけなんだってば」ハァ
少女(………メイドさん、分かってて諦めるつもりなのかな……良いのかな、それで……)ジッ
メイド(………アイツはともかくとして、この子あたしに遠慮しそうなのよね……昨日の話聞いてれば分かる、この子もアイツのこと好きになってきてるのに変に遠慮して上手くいかなそうなのよね)ジー
少女(………やっぱりそんなのダメ、ご主人様だって悪く思ってないはずだもん、どういう訳かわたしに興味あるみたいだけどそんなのおかしいよ、だってメイドさんが居るのに、きっとあれよ、一時の気の迷いって奴だと思う。お母さん言ってたもん男の人は人生のうちに何度か気の迷い起こすから気を付けろって)キッ
メイド(いまこの子とアイツは両思いなのよ?なのに先に進まないなんてそんなの誰かが邪魔してるって事になるでしょ?その邪魔があたしなのよ、だったら何とかしないとダメ、だって、アイツの重荷にはなりたくないし)キッ
少女「……………メイドさんも素直になった方が良いのでは?」
メイド「……なんの事?それよりさ、アイツ、優しかった?あんまり調子乗らせると付け上がるから今後気を付けてね?」
少女「気を付けろって……どういう事にでしょうか?」フッ
メイド「……そ、それはあれよ……その、色々と……」ゴニョゴニョ
少女「…………まあ良いです、気を付けるのはメイドさんですし?」
メイド「いやいや、だからどうしてそうなるのよ?あたしには関係ないんだけど?だってアイツはアンタがお気に入りだし?」
少女「そんなことありませんよ、だってご主人様はメイドさんと話している時が一番楽しそうですし」
メイド「それこそ見間違い、ただアイツは主人っていう以前に腐れ縁なだけよ?」
少女「でも腐れ縁って切っても切れない関係の人達の事ですよね?ほら、ずっと一緒じゃないですか、わたしはまだずっと一緒にいるかなんて分かりませんし」ニコリ
メイド「あら、でもアイツはアンタが居なくなった時ずっと帰ってきてーってぼやいてたわよ?つまり意地でも逃がさないつもりじゃないこれからは?良かったじゃないお互い必要としあってるなんて幸せよ?」ニコリ
少女「それはメイドさんの事じゃないですかぁ、ふふふ……きっとご主人様、メイドさん居なくなったら死んじゃいますよ?」ニコリ
メイド「……」キッ
少女「………」クワッ
メイド(………なんてわからず屋なのこの子は!!こんな子だったわけ!?)バチバチ
少女(とんでもなく意地っ張り……!!だからよそ見されちゃうってなんで気付かないのこの人!!)バチバチ
少女「じゃ、はっきりさせましょうか、メイドさん?」
メイド「なにをよ?」
男「…………」
少女「ご主人様の事好きですよね?それもかなり」
メイド「あんな変態[ピーーー]ば良いとおもってるわ」
男「」
メイド「こっちもそっくりそのままお返しするわよ、アンタ、アイツの事好きよね?それもむちゃくちゃ」
少女「ご主人様は頭がちょっとおかしいので男性としては論外です」
男「」
メイド「…………ふーん?」ジトッ
少女「…………そうですか」ジトッ
男「…………」ヨロヨロ…
メイド「…………昨日あれだけ甘えてたクセに、ふーん?」フッ
少女「…………メイドさんだってご主人様の話してる時はずっと女の子の表情ですよ?ふふっ」ニヤリ
メイド「違うっつってんでしょ」
少女「こっちも違います」
メイド「……………良いから遠慮しないで、アイツと仲良くして、どーぞ」
少女「わたしの事は気にせず素直に想いを伝えて下さい、どうぞ」
メイド「……………」クワッ
少女「………」キッ
………………
男「酒、酒は何処だ、呑まなきゃやってらんねぇ」ウルウル
少女「………」バチバチ
メイド「………」バチバチ
コンコン
少女「……むっ」
メイド「……お客さん?こんな時に……」チッ
少女「メイドさん、この話は後程キッチリとをつけつけましょうか」トタトタ
メイド「望む所よ、とことん付き合うわ」スタスタ
ガチャ
メイド「お待たせ致しました、どちら様でしょうか?」
少女「ご用件を」ペコリ
眼鏡っ娘「…………」ジー
メイド「…………?」
少女(わ、お人形みたいな女の子だ……)
眼鏡っ娘「………」キョロキョロ
メイド「………あの……ご用件は?」
少女「ご主人様のお知り合いの方ですか?」
眼鏡っ娘「違う」フルフル
メイド「………ええと、なら迷子とか?」
眼鏡っ娘「………用はある」フルフル
少女「…………えと」
眼鏡っ娘「敵情視察」ジー
メイド「へっ?てきじょう?」
眼鏡っ娘「にいさまをたぶらかしたアバズレを確認しにきた」ジー
少女「……に、にいさま?」
眼鏡っ娘「………どっち?」キョロキョロ
メイド「………だれの事よ?わかる?」ヒソヒソ
少女「さ、さあ?」ヒソヒソ
眼鏡っ娘「………」スタスタ
メイド「え、な、なに?」
むにっ
メイド「ちょっ!?なにす……!?」ビクッ
眼鏡っ娘「………」ムニムニムニ
メイド「な、なんで胸をいきなり……や、やめっ!?」ワタワタ
少女「え、あの、えと…」オロオロ
眼鏡っ娘「………」ピタッ
メイド「はぁ…はぁ…!!なんなのよ!?」キッ
眼鏡っ娘「………………………」ショボーーン…
メイド「…………え、なに?なんか落ち込んでる」
眼鏡っ娘「………」チラッ
少女「うぇ!?」ビクッ
ぺたっ
眼鏡っ娘「………」ペタペタペタ
少女「ひぅ!?や、な!?やめてっ!?」オロオロ
眼鏡っ娘「…………ふっ……」ニヤリ
少女「見下された!?なに!?ええっ!?」ガーン
メイド「なんなのこの子」
眼鏡っ娘「確認した、あなた」ピッ
メイド「へっ?」
眼鏡っ娘「にいさまが言っていた女、胸に無駄な贅肉を付けた人」
メイド「ぜ、贅に…」ガーン
少女「…………見た目で分かるのに何故わたしの胸まで……」
眼鏡っ娘「心の安寧の為、人間下を見ると安心出来る、あやまる」ペコッ
少女「…………初めて自分の体型に劣等感を感じたんですけど……」ガーン
メイド「………ぜ、ぜいにく……」ショボーン
眼鏡っ娘「本来ならにいさまをたぶらかした罪は私刑に値する、でもそれはにいさまの友人が悲しむと言っていたのでやめておく」ジー
メイド「………友人て、もしかして」
眼鏡っ娘「ここに使いとしてバカそのものの立ち振舞いをしたすごい美形の人が来たはず、それがにいさま」
メイド「」
少女「……あっ、王子さまの事ですか?」ギョッ
眼鏡っ娘「そう」コクリ
メイド「じゃ、じゃあんた…じゃない、貴女様はお、王女殿下様でごさいますか?」タジッ
眼鏡っ娘改め王女「………」コクリ
少女「え、は、あわわ……」オロオロ
メイド「し、失礼致しました!!」ササッ
王女「大丈夫、私もにいさまと同じく国民とはフランクな関係」ブイ
メイド(………無表情でフランクな関係って言われても)オロオロ
少女(………王子さまの次は王女さまって……ご主人様って実はスゴく大物?)ソワソワ
…………
男「しゃあバーーーロォーーー!!!!女なんかクズだねっ!!おっぱいぐらいしか取り柄がないスカポンタンだっつぅの……うぃ……ひっく、あ"ーーー……んだゴルァ!!なに見とんじゃみせもんじゃねぇぞウルァ!!」ヒック
置物「」
男「あ"?なンだよなにガン飛ばしてンの?あ"あ?酔っ払らっちゃいけないンですかァ?うぃ…」フラフラ
置物「」
男「………あ?なんだよ?辛いなら泣けばって?おー、そだな、ンだよ心配してくれんの?ごめんな蹴っとばして……うっ……うぇ……オロロロロ」バタッ
置物「」
男「……うっぷ…つぅかさァ?聞いて?ねぇ聞いて?女ちゃんさ、少女ちゃんと話す時はため口なのよ?ねぇどういう事?わかる?ねぇ?」ガタガタ
置物「」
男「俺の前じゃ未だにあの似合わないおすまし口調なのにさ?ずるくない?ずるくない?最近ようやく昔の彼女みたいに多少ね?こうときほぐれて来たかなーってさ?俺も思ってたのよ、わかる?2年よ?2年かかってようやくその程度よ?なのになんなのさ少女ちゃんとは光の速さで打ち解けてんじゃん!!!!うぃ……あ"ー…」フラフラ
置物「」
男「………ふぇぇ……なんだよぉ…なんか言えよぉ!!うっぷ…」バシバシ
置物「」
男「さみしぃよぉつらいよぉ……うぃ…嫌われたらしんじゃうよぉ……あ、もう嫌われてるのか、そうかそうか……」ウルウル
置物「」
男「え?なんだって?何かの間違いに決まってるって言うのかいクマさん?でもクマさん俺しねとか論外とか言われたんだよ?だからやけ酒してるんだよ?うぃ……クマさんだってその口にくわえた鮭さんに逃げられたら泣いちゃうでしょ?」フラフラ
置物「」
男「え?俺は木彫りだからこの鮭とはずっと一緒だって?………なんだよぉ!!相思相愛かよふざけんなよバカァ!!俺がこんなにも傷付いてるって言うのに絶対に離れたりしないぜとか見せつけるっていうのかよ元丸太のクセにさぁ!!うっぷ…オロロロロ…」オェェ
置物「」
……………
……………
王女「そういえばついでの用事があった」
メイド「は、はぁ」
少女「えと、なんでしょうか?」
王女「ここの屋敷の主人と面会したい、会わせて」
少女「は、はい!!かしこまりました!!」ペコッ
メイド「すぐに呼んでまいりますのでお待ちください!!」ササッ
王女「………」コクリ
メイド「………おかしい、居ないわね」
少女「さっきまで書斎にいたはずなんですけど……」
メイド「何処行ったのかしら……外出はしてないみたいなんだけどな」キョロキョロ
少女「………あれ?」
メイド「どうしたの?」
少女「いえ、あそこの棚が開きっぱなしになってるので」
メイド「……んー、お酒置いといた所ね」
少女「お酒ですか、ご主人様って飲むんですか?」
メイド「最近たまーに飲むようになったんだって、浴びるように飲むから酷いのよね」
少女「はぁ」
メイド「まぁ、でもだいたい分かったわ、たぶん倉庫ね、前に本気で嫌がってみせたら飲むときはそこでこっそり飲むのよアイツ」トタトタ
少女「なるほど」トタトタ
王女「丁度いい、そこで話す」トテトテ
メイド「っ!?」ビクッ
少女「えっ」ギョッ
王女「遅いから勝手に出歩いてた、あやまる」ペコッ
メイド「い、いえ……」
少女(い、いつから後ろに……)
メイド「……ここが倉庫です、えと……今呼んでまいりますのでここで……」
王女「いい」フルフル
メイド「え、いやですけど」オロオロ
王女「問題ない、いちいち間に人間を置くのは効率が悪い」
少女「は、はぁ」
メイド「で、ですがその……だぶん酷い事になってるので……」
王女「………これを」スチャ
少女「えっ、眼鏡ですか?はい」
王女「預ける、貴女たちは離れていて欲しい、大事な話になる」
花瓶「」
王女「………聞いてる?」ジー
メイド「いや、王女殿下こっちですこっち」
少女「見えなくなるのに何故眼鏡を…」
王女「まちがえた、とにかく貴女たちは離れていて欲しい、聞かれる訳にはいかない話、盗み聞きもしたらダメ」ジー
柱時計「」チッコチッコ
少女「…………」
メイド「えと、と…とにかくかしこまりました、離れておりますので」
王女「よろしく」スタスタ
少女「め、メイドさん、いいんですか?」ヒソヒソ
メイド「………仕方ないわよ、変な事になっていない事を祈るだけだわ」
少女「ぬ、盗み聞きとかは……」ヒソヒソ
メイド「今回は無しよ、また前みたく失敗したらやだし」ボソッ
少女「………そ、そうですか……分かりました」
メイド「じゃ、離れてましょ……聞いて良いことなら後で教えてもらえるわよ、たぶん」スタスタ
王女「…………」ギィ……
男「ハァハァ……どうしてクマさんはそんなにゴツゴツして逞しいの?ぼく男なのにときめいちゃうじゃないか……慰めてやるなんて言っといてぼくを貪るつもりなんだねなんて見たままの肉食系なんだクマさん……あぁっ!!」スリスリ
置物「」
王女「…………」ジー
男「あぁっそんな木の肌触りでそんな所を責め立てるのはやめておくれよクマさん……ハァハァ……か、感じちゃうじゃないかっ!!あぁん/////」グネグネ
置物「」
王女「…………」ジー
男「え?なんだって?クマさんがぼくの求めているものの捌け口になってやるって?そ、そんな……だ、だめだよクマさん……ぼくは男で、キミは木製じゃないかっ!!」ゴロゴロ
置物「」
王女「…………」スタスタ
男「………分かったよ、クマさんがそんなにぼくの事を考えてくれてるなら……」フルフル
置物「」
王女「…………」ジー
男「………クマさんなら……いいよ?」ジッ
置物「」
王女「まだ終わらない?」ジッ
男「」ビクゥ!!
王女「話がある、聞いて」
男「」
王女「…………」ジー
男「」
置物「」
参考画像テスト
男「………」イソイソ
王女「…………」ジー
男「……すいません服を着る時間を下さい」モソモソ
王女「…………」コクリ
男「………」モゾモゾ
男「……大変お見苦しい所をお見せしました、申し訳ありませんでした」orz
王女「へいき」フルフル
男「……あのぉ、所で……キミは何処の誰ちゃん?」
王女「王女」
男「えっ」ビクッ
王女「先日はにいさまが世話になった、よろしく」ペコッ
置物「」
男「い、いや俺はこっち……」
王女「まちがえた、よろしく」ペコッ
男「お、王女殿下さまであらせられますですか?ひ、ひぃぃ……!?す、すいませんすいませんなにとぞ先程の愚行はお見逃しを!?」ペコペコ
王女「へいき、たまににいさまも似たような事をしていた、なれてる」
ゴキブリ「」カサカサカサ
男「……………いや、それは黒光する憎い虫……」
王女「……?大差ないから間違える」キョトン
男「」
男「」
王女「ごめんなさい、悪気はない、本当に目が悪いだけ」
男「それなら眼鏡とかすればいいのでは?」
王女「もちろん普段からしている、でも今はあなたの使用人に預けてきた」
男「なんでですか」
王女「汚物をはっきりと視認するのは生理的に無理、それだけ」
男「わーいはっきりと俺という人間そのものを完全否定されたぜ!!いやっほぅ!!」ウルウル
王女「悪気はない、気を悪くしないで」コクッ
男「悪気がない方が心に締め付けられる菜にかを感じるんですけど!?」
王女「違う、そうじゃない」フルフル
男「何がちがうと!?」シクシク
王女「別に貴方個人を特別貶しているつもりはない、にいさま以外の男性はすべて汚物、つまりそういうこと」
男「………にいさま以外?つまり?」
王女「私はにいさまを愛している、そういうこと」
男「oh」
王女「恋は盲目という言葉がある、まさにそれ」ピース
男「別にそんな事聞いてないっす……うまくもないし、ていうかその……兄妹ですよね?」
王女「血の繋がりはキッチリ保証されている、父も母も同一」コクリ
男「……………その、問題ありそうなんですが」
王女「へいき、愛は全てにおいて優先される、障害があるなら打ち砕く」グッ
男「…………うわぁ…」
王女「なに?」
男「いや……王子も大概だったが、流石兄妹というかなんというか……」
王女「そもそもにいさまは変態、私以外に受け入れられる女なんて恐らく居ない、世の中顔が良いだけでモテるほど甘くない」
男「あっ、そのへんは冷静に分析してんすね」
男「………えーと、それで?もしかしてその行きすぎたブラコンっぷりを宣言するためにわざわざ?」
王女「違う、先日の件」
男「………あ、ああそれですか……まだ保留中でしたよね」
王女「出来れば急いで決めて、貴方が協力してくれるならとても助かる」
男「………………正直まだ迷ってるんですが、今この場で判断しなきゃいけませんか?」
王女「遅くとも数日中、それ以上は待てない」
男「………理由は」
王女「…………次の奴隷狩りが始まる」
男「………っ……!!」
王女「次は森と湖の国のような小国じゃない、もっと大きな国を属国として支配し、奴隷の安定供給を目論んでいる」
男「………」
王女「殺される人々も今までの比では無くなる、そしてその奴隷達を使って更に属国が増えてゆく、今の内に止めなければダメ」ジッ
男「…………俺に何が出来るって言うんですか」
王女「貴方に出来る事ならなんでもいい」
男「…………」
王女「力を貸して」
男「…………ひとつだけ、お願いがあります」
王女「なに?」
男「貴方の父上に、国王に会わせて下さい、それから考えます」
王女「…………………」ジッ
男「…………」
王女「…………分かった、不安はあるけど父への謁見を第二王位継承権を持つ私の権限で捩じ込んでみる、貴方が父の事をキチンと知るのは悪くないかもしれない」スタスタ
男「……ありがとうございます、王女殿下様」
王女「いい、謁見の日は文書にて送る、待っていて」
………
王女「それじゃあ、後で」
男「はい、よろしくお願いいたします」
メイド(……結局なんの話だったのかしら?)
少女(ご主人様、真面目な顔してる…)
白馬「ヒヒン」トコトコ
メイド「……あれ?この馬は」
王女「にいさまに借りた、この子が一番早く走るから」ナデナデ
少女「えーと、お名前は…何でしたっけ?」
男「………なんだっけ、いちいちコロコロ変わってたような……えーと、確かサンビームグルービーシュナイダー号……」ナデナデ
白馬「メルメルメー!!」がぶりっ
男「ぎゃーーーーー痛ってええええええええぇぇ!?!?バカ!?やめろ噛むな!?」ブンブン
王女「この子はすごくプライドが高い、にいさま以外の人が名前を間違うとすごく怒る」
メイド「わ、若旦那さま大丈夫ですか?」ソロソロ
少女「…あー、がっぷり頭を…」
男「痛つつ……!!ぜぇ…ぜぇ…!!だったらこの馬のホントの名前教えて下さいよ危ないな!!」ズキズキ
王女「…………」エト
メイド「………」
王女「…………………」ンー…
少女「…………」
王女「…………………それじゃあ、次は王宮で、さよなら」ピシン
白馬「………ヒーン」トコトコ
男「知らんのかい」
男「…………帰ったか、兄妹揃って変な連中だ…」
メイド「若旦那様、どのような話をしていたのですか?」
少女「あ、わたしも知りたいです」
男「…………」ジトッ
メイド「はい?」
少女「へっ?」
男「…………いいっすよ、無理して話しかけなくて、俺と居るの嫌なんでしょ?」トボトボ
メイド「……はい?」キョトン
少女「…なんでそんな事いうんです?」
男「………だって、二人とも俺の事しねだの論外だのキモいだの生理的に無理だの……」
メイド「………言いましたっけ?」
少女「さあ?」
男「言ってたもん!!聞いてたかんな!!二人してなにさしらばっくれて特にメイドさんは普段から口開けば貶してくるのに言いましたっけ?はないよね!?ふーーんだ!!ふぅーーーーんだ!!!!」タタタッ
メイド「…………」
少女「………」
メイド「………ちょっと、落ち込んでるわよ、追いかけて慰めてあげなさいよ」
少女「なんでわたしに言うんですか、メイドさんが行って下さいよ」
メイド「嫌よ、まだちょっと酔っぱらってるし、お酒臭いの嫌いなのよ」
少女「わたしだって嫌いですよ」
メイド「………」
少女「………」
メイド「…………じゃあ二人で行かない?ほっとくのもあれだし、ほら、かなり妙な勘違いしてるみたいだし?」
少女「………む…分かりました、二人で行きましょう」
メイド「……まったく、あえてしらばっくれてたのになんでアンタまで同じ事してんのよ、余計にややこしくなったじゃないのよ」スタスタ
少女「そうやってわたしにおしつけようったってそうはいかないんですからね………だいたいメイドさんがしらばっくれるのはご主人様も言ってたけどおかしいじゃないですか、普段からけっこう悪口すごいのに」スタスタ
メイド「だってアンタ行くと思ったんだもん、悪かったわね」スタスタ
少女「わたしにじゃなくてご主人様に謝った方がいいですよ」
メイド「アンタもね」
少女「………」キッ
メイド「………」クワッ
………
その後、夜になってもにらみ合いは続き、当の本人は酒が完全に抜けたらケロッとしていた。
そして後日。
男「…………」カサッ
男「…………明日か、王に謁見する日は」
…………
男「メイドさん、それに少女ちゃん、ちょっと俺、出掛けてくるね?」
メイド「はい、どちらまで?」
男「……ん…ちょっと王都まで」
少女「王都っていうと……どの辺りでしょうか?わたしまだこの国の地理には明るくなくて」
男「んー……ここから東の街道沿いに馬で1日かな、だから帰るのは二日か三日後になると思う」
少女「………へぇー」
メイド「………ふむ……若旦那様、ちょっと」
男「ん、なに?」
メイド「付いていきたいのですけど、ダメですか?」
男「へ?なんで?」
メイド「………この子の表情から察せないのですか?興味津々って顔じゃないですか」ヒソヒソ
少女「…………」ボー
男「そ、そお?そっか、まあ近くの街もそれなりではあるけど王都は別格だしな……見物したいのもわかるが……うーん」
メイド「……お仕事の邪魔は致しませんので」ヒソヒソ
男「……む……うぅーーん……でも観光してる暇なんかあるかどうか…」ウゥム
少女「……あ、えっと、大丈夫ですよ?そりゃ、わたし田舎者だから大きい街には行ってみたいですけどお仕事の邪魔になるならわがまま言えませんよ」ワタワタ
メイド「…………」ジー
男「………うぐっ…わ、わかったよ、連れてく連れてく、荷馬車使う事になるけど乗り心地悪くても文句言わないでね?」ハァ
少女「いいんですか!?」パァ
男「はぅっ」キュン
メイド「それじゃあ、急いで用意しますので少し時間を頂きますね?さ、泊まり掛けになるから準備しないと」
少女「あっ、はい!!」パタパタ
男「…………少女ちゃん、だいぶ元気になったな、ちょっと大事になるかもしれないからホントは待って欲しいけど……息抜きも必要なのは確かだし」
……で。
男「さ、荷馬車じゃ早く走れないから急がないと、乗った乗った」
ボロッ
メイド「……若旦那様、いい加減買い換えましょうよこのオンボロ、私達の子供の頃から使ってますよねこれ?」
男「………か、買い換えるお金がね……うん」テヘッ
メイド「…………まあ、いいですが」ヨイショ
男(………本当は買い換えられるんすけどねーー、いや、ほらさ?この荷馬車も思い出深い品のひとつというか?まあケチって替えないだけなんですけどね!!)
少女「よいしょ……ご主人様、乗りましたよ、早く行きましょう?」ワクワク
男「………メイドさんと違って少女ちゃんはすなおで純真ですねー、文句の一つも言わないですもの」チラッ
メイド「そうですね、私は出来れば人がキチンと乗るために作られた馬車に乗りたいです」シレッ
男「あ、あれ?」キョトン
メイド「なにか?」
男「い、いや…それじゃあ行こうか」パシン
馬「ふひぃーん」トコトコ
男(……あれぇ?メイドさんが俺の悪態をスルーするとは……)ウーム
トコトコ
少女「わぁ……道も広いし人もけっこう通ってるんですね」キョロキョロ
男「この街道は王都から西への流通の要だからね、人が途切れる事は殆ど無いんだよ、東西南北四つの主道の内のひとつだから」
少女「へぇー……」キョロキョロ
メイド「私も屋敷からはあまり出歩かないですし、こういう事は貴重ですけど貴女はちょっとはしゃぎ過ぎですよ?」
少女「あ、はいすいませんっ、その……初めてなのでつい」
男「西側は基本過疎ってるからなぁ、屋敷がある街があれでも西側最大の都市だからね」
少女「わたしの国なんてもっとですよ?一番近い大きい街まで歩いたら一週間かかるんですから」
男「そりゃ難儀するねぇ、商人の俺としてはそんなへんぴな土地は勘弁」
少女「へへ、お買い物とかは確かに不便でしたね」ニコッ
男「…………」チラッ
少女「はい?なんですか?」ニコニコ
男(かわいい)ポッ
男(……じゃなくて、無理してる様子もないのに自分の国の事話してるな……そんなに時間も経ってないのに……もともと心の強い子だったのかもな)
少女「ご主人様ご主人様、あれはなんですか?」クイクイ
男「あれはサーカスの一団だな、後ろの方の馬車に動物が乗ってるでしょ、あと像もいる」
メイド「象だけは戦ってはいけませんよ、体格通り力が強く牙による一撃は人間など簡単に貫いてしまいます、それをどうにかかわしても分厚い皮膚は生半可な打撃はまったく効きません、やむ終えず対峙してしまった場合は正面から攻めずに常に後方へと回り込んで下さい、出来れば槍かなにか、武器があるのが最善ですが」フム
少女「へぇー」
男「…………」
少女「あっ、ご主人様あそこに居るのは何でしょう?」
男「んん?あーありゃはぐれ狼だな、こんな街道沿いに居るの珍しいが……」
メイド「狼ですか?狼は基本集団戦を行う生き物なので一匹程度なら問題になりませんね、犬と大差ないです、仕留めるのは素手でも容易ですよ」
少女「へぇー」
男「メイドさんは黙って、少女ちゃんが戦士になってしまう」
メイド「失礼な、私が戦闘狂みたいに言わないで下さい」
男「………戦闘“狂”ではないけど戦闘“好き"じゃん……」
少女「メイドさんって何とまでなら戦った事があるんですか?」
メイド「グリズリーまでなら何とか仕留めました」フフン
少女「ぐ、グリズリー…」
男「……………あれは俺が15の頃だった……無理矢理連れていかれた深い森の中で逞しいくまさんが………」ガタガタガタ
メイド「大変でした、若旦那様は死んだふりをして食べられかけるわ、助けたと思ったら失禁してるは…」
少女「…………へ、へぇー」
男「やめろ!!思い出させるな!!むしろそんな腹ペコくまさんとステゴロでバトって五体満足で帰ってきたメイドさんに恐怖心を抱いたよ!!こいつには腕力で勝てる日は絶対に訪れないってな!!」
メイド「熊肉美味しかったじゃないですか」
男「ああそうだね!!解体知識もないくせに仕留めて丸焼きにしようとしてるの止めて俺がきっちり肉を仕分けたからね、二度とやりたくねぇよ!!」
少女「ご主人様も何気にすごくないですか?普通そんなこと出来ないんじゃ……」
男「……ふっ、物心ついたときから本の虫だった奴の知識量を甘く見るなよ?」
少女「いいですね、二人はいろいろ思い出があって、楽しそうです」
メイド「……そう、ですか?」
男「…………」
少女「はいっ、ちょっと羨ましいかな」
男「……今から作れば良いだけだよ、少女ちゃんだってこれから俺達といろんな所に行くさ、たぶんね」
メイド「まずは王都、ですか?」
男「そうだね、仕事……というか用事が済んだら少し滞在しようか?王都はむちゃくちゃ広いからね、観光客向けの施設を回るだけでも一週間じゃぜんぜん足りないぐらいだ、きっといい思い出になる」ポンッ
少女「……はいっ、へへ……」カァ
……………
………
…………
男「…………」
少女「…………」ウツラウツラ
メイド「………もう夜中ですけれど、まだ走らせるのですか?」
トコトコ
男「………荷馬車だからね、遅いぶん長く走らせなきゃ」ボケー
メイド「ですけれど……馬が潰れてしまいますよ?」
男「…………だな、肝心の馬が潰れたら間に合うもくそもないか……仕方ない、休もうか」
少女「……ひっくち」ブルッ
メイド「今日は冷えますね、宿でもあればいいのですけれど」
男「宿屋街はもう少し先なんだよね……そこまでは行きたい所だったけど……」
メイド「……野宿ですか」
男「………そうなるね」
メイド「…………」
男「…………」
少女「…………zzZ 」 コクッ…コクッ
男「メイドさん、羽織るもの何枚ある?」
メイド「………今この子が使っている一枚だけですけど、荷物は少ない方が良いと思ってもしもの時は二人で一枚使うつもりでしたので」
男「…だよね、俺は初め一人で行くつもりで用意したからそんなもん用意してない」
少女「…………む……? 」ムニャ
メイド「………どうするのですか」
男「……どうしよう」
メイド「…………」
男「……よし、こうしよう、とにかくメイドさんと少女ちゃんで使っていい、俺は何とかなる」
メイド「風邪をひいたらどうするのです、私達の場合付いてきただけですが、若旦那様は大事な用があるのですよね?体調崩したらどうするのですか」
男「そりゃそうだが……他にどうしろと」
少女「………」ジー
メイド「彼女と一緒に使って下さい、私は大丈夫です、身体だけは丈夫ですし」
男「いやいやいや、それこそ無いよ、俺が少女ちゃんと一緒に寝るのもあれだしメイドさんだけ羽織るものなしとかダメでしょ、いくら主人だとしても女の子にそんなことはさせられないよ」
メイド「……添い寝ならもう先日していたではないですか、一度も二度も大差ないです」
男「うぐっ……い、いやそこはまた前回とは違うというかね?」
少女「………じゃ、三人で使えば良いのでは?」
男「ちょ」ギクッ
メイド「お、起きてたの!?」ビクッ
少女「少しうたた寝していただけなので……あふっ……みんなで寝ればあったかいと思いますよ……zzZ 」 モソモソ
男「……………」
メイド「……………うっ……うぐぅ……」プルプル
メイド「…………では、使って下さい」ズイッ
男「
男「…………えーと……わかった、参ったよ、俺は使わせて貰う!」
メイド「………そ、そうですか……」
男「でもメイドさんも使いなさい、ここは少女ちゃんの案でいく」
メイド「は、はぁ!?な、なななんでですか!!」
男「このままじゃ押し問答だ、お互い諦めよう?その方が利口だ」フゥー
メイド「むっ………で、でもぉ……」カァァ
男「とりあえずメイドさん先に入って、んで少女ちゃんと引っ付いてくれ、じゃないと三人は入れないからね」
メイド「…………わ、わかりましたよ……うぅ…」モソモソ
男(わぁい女の子同士のくっつきあいだぁ!!)ハァハァ
少女「………zzZ 」 ギュ
メイド「………なにやら邪なものを感じたのですが」ジトッ
男「気のせい気のせい」フルフル
男「………さて」ストッ
メイド「………あれ、えと……?」
男「………ん?ああ気にしないで、俺は少し明日の用事を確認してから入るから………えーとランプランプ」ガタッ
メイド「…………」
男「先に寝てて、少し掛かるだろうから」ポッ
メイド「…………」
男(………まあ、徹夜するつもりだがね、流石に堪えられる自信ないし)パラッ
メイド「…………」ガシッ
男「ひょっ!?」グイッ
メイド「だいたい分かってますからね?てきとうな事言ってはぐらかして自分の主張だけ押し通そうなんてそうは行きません、自分で三人で使うと言ったなら使えばいいではないですか!!」グイグイ
男「ちょ、え、待っ!?」オロオロ
メイド「………嫌です、暴れないで下さい子かはまはみ出してしまうじゃないですか!!」バタバタ
男「なっ、ちょっと!?なんで俺が真ん中なの!!」バタバタ
メイド「………………こ、この子が真ん中では……渡に気づかないようにいたずらしそうですし、抱きつく形になるし……」
男「じゃ、じゃあメイドさんが真ん中になってよ!?」ジタバタ
メイド「……………やです……」ボソ
男「なんでっ!?」
メイド「………だ、抱きつかれるよりは……抱きついていた方がまだ、精神的にもその……うぅ…」ゴニョゴニョ
男「う、うぐっ……ええっと!?」
メイド「………………も、もう休みます!!お休みなさい…!!」ギュー
少女「………zzZ 」 モソモソ…ギュ
男(あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ!?!?!?きぃやあ”あ”あ”あ!?!?!?)カタカタカタカタカタカタカタカタ…
………………
…………
男「…………………」
少女「………zzZ 」 クゥ
メイド「………zzZ 」 スゥ…スゥ…
男「……くそ、相変わらず寝つきがいいなこの子は……人の気も知らないで」
メイド「………んん……zzZ 」
男「…………はぁ、寝顔は子供の頃と変わらないのにな」ナデッ
…………
………
…………
男の子「………ん……起きたのか」
女の子「………ん……」
心地好い暖かさの中で、あの頃の夢を見る。
夢の中の私は木陰の中で彼にもたれ掛かり眠ってしまっていた。
女の子「……ごめん……」ゴシゴシ
男の子「別に」
彼は私を気にするでもなくずっと本を読んでいたと思う。どのくらい眠っていたのかは分からないけれど、ただ静かに私が起きるのを待っていてくれていたのだと、そう思う。
女の子「…………もう少し、このままでいい?まだ眠い…」
男の子「うん、好きにしろよ」
特に優しい言葉でもなかったけれど、そうだからこそ心地が良かったのかもしれない。
たぶん、ここから私は彼の事を好きだと、そう思うようになっていたと思う。
何も知らずに過ごせた子供の頃、その終わりが近づいていたあの頃に。
……………
……翌日。
トコトコ
男「……………」ボケー
少女「……わぁ……」キョロキョロ
メイド「………大きな街ですね」キョロキョロ
男「……ふあ……人口の多さはこの大陸でも屈指の都だしそりゃ面積もそれなりに広いよ」ボー
少女「ご主人様大丈夫ですか?目の下に隈が」
男「………あの状態で眠れって方が無茶だっつうの……二人はぐっすり眠ってたけどね」
メイド「………///」プイッ
男「ま、とにかく王都には着いたし、荷馬車を預けて中に入ろうか」
男「………さて、時間も押してるし王宮に直で行かないとまずいんだが………」
少女「……うっ……」タジッ
メイド「……人が多すぎて何がなにやら……」
男「……流石、王都のメインストリート人がゴミのようだ」ウヘェ
少女「…あ、わっぷ!?ふぁ!?」オロオロ
メイド「だ、大丈夫ですか?わ、若旦那様ちょっと!?あの子が人混みに流されていきますけど!?」
男「………どれどれ?」スイスイッ
少女「ごご主人様…!?」ワタワタ
男「慣れてないとはぐれるか、手を繋いで行こうか」ギュ
少女「う、うぅ……迷子になっちゃうかと思いました…」グスッ
メイド「はぅっ!?ちょ……あ、あれ!?どんどん離れちゃ……!?」オタオタ
少女「ご、ご主人様今度はメイドさんが!?」オロオロ
男「だーーもう!?この田舎者っ子どもが!?」スイスイッ
メイド「………うぅ……こ、この歳で迷子になるかと…」ヨロヨロ
男「………メイドさんも手、繋ぐ?」スッ
メイド「………」ギュー
男(あらやだ、素直)
少女「………こんな所ではぐれたらどうしようって思いますもんね、分かります」フゥ
男「………よし、そんじゃ行くか」スタスタ
少女「………」ギュ
メイド「……」ギュ
男「…………」ダラダラ
ジロジロ
ヒソヒソ
男(………やだ、思ったより変な目で見られて恥ずかしい)ダラダラ
少女「………」ギュ
メイド「………」ギュー
男「……少女ちゃんちょっと」
少女「はい?」
男「真ん中来て、そんでメイドさんと手を繋いで……そう、これでよし」
少女「………入れ換えた意味は?」
男「………お父さん娘お母さんの構図なら白い目で見られないかなーと」フイッ
メイド「なっ!?」
少女「ちょ、どういう事ですかそれ!?」
男「い、いや見た目的に?」オロオロ
少女「失礼な!!わたし小さいですけどメイドさんの子供に見えるほど小さくはないです!!」プンスカ
メイド「わ、私だって子供が居る年齢ではないじゃないですか!!せ……せめてお姉さんでは!?」ガルル
男「す、すいませんすいません!?分かったやり直す!?えと……まず少女ちゃんが俺の後ろに、服は掴んでていいよ」
少女「は、はぁ……」ハシッ
男「で、メイドさんは少女ちゃんの後ろで」
メイド「……はぁ」ハシッ
男「よし、直列ならそこまでおかしくないだろ、行こうか」スタスタ
少女「………窮屈なんですが」スタスタ
メイド「………昔の冒険者みたいな進行ですね」スタスタ
男「……えーと、そうだここだ……入るよ」スタスタ
メイド「宿屋ですか?」
男「そっ、俺はすぐに王宮向かうからさ、二人は部屋取って待ってて」
少女「あ、はいっ」
男「お願いね、ホントは連れていってあげたいしあの王子様なら歓迎してくれそうではあるけどさ?遊びで行くわけじゃないからその辺は控えとかないとね……」
メイド「大丈夫です、ここまで無理を言って付いて来たのですしその辺は分かっています」
男「時間掛かるかも知れないし遊びに行ってても良いからね?はい、これ部屋代ね、多めに渡しとくから余ったらお小遣いとして使って良いから」ポスッ
メイド「え、ああはい……ですけど二人では道に迷いそうで…」
男「ここの宿は観光客用の宿だからこの辺り一帯の案内図無料で貰えるよ、案内図見ながら回ってれば人が多くても道には迷わないって、大丈夫大丈夫」
少女「あの、いいんですか?」
男「うん、夜までには戻ってくるだろうからそれまでね、それじゃ気を付けてね」スタスタ
メイド「……あっ、えと……」
少女「……行っちゃいましたね」
メイド「……うん」
…………
メイド「さて、どうしよ?部屋は無事に借りられたけど」
少女「遊びに行くんですか?」
メイド「せっかくだしね、たまにの息抜きだし」
少女「あっ、でもその前にお風呂に入りたいんですけど……昨日は野宿だったから入れませんでしたし…」
メイド「……そういやそうね……匂ってなかったかしら」クンクン
少女「匂いは別に平気でしたよ?」
メイド「そ、そう?まああんたも臭くはなってないもんね……大丈夫か」クンクン
少女「においはともかく髪を洗いたいんですよホコリッぽい感じでちょっとあれなので」
メイド「そうね……それじゃちゃっちゃと入りましょ、ここそこそこ安いのにちゃんとお風呂付いてる部屋なのよ」
少女「それじゃあメイドさんお先にどうぞ、わたし後で良いので」
メイド「分かった、待っててね?」スタスタ
バタン
………
少女「………ふぅ、楽しみだな、何があるんだろ?」パタパタ
メイド「……………っ…」ガチャ、ドタドタ!!
少女「へっ?あれどうしたんですかメイドさん?」
メイド「ちょっと来て」ハシッ
少女「へっ、あの?」
メイド「いいからちょっと」トタトタ
少女「な、なんですか?」トタトタ
バタン
少女「メイドさん何かあったんですか?」
メイド「これ見て」ピシッ
少女「………えーと、シャワー有料…?」
メイド「……どういう仕組みか知らないけど、ここに銅貨入れないとお湯どころか水すら出ないのよ、部屋の質の割には安いと思ったらこんなところでケチってんのよこの宿屋!!」
少女「……は、はぁ……それじゃあどうするんですか?我慢するならそれでも良いですが…」
メイド「……身体は洗いたいから入るわよ、でもあんたも一緒に入って」
少女「ええっ?でも狭いですよここ?」
メイド「我慢して、二人別々に入ったらお金が勿体ないでしょ?」
少女「………銅貨の1枚2枚ぐらいは別に良いのでは」
メイド「ダメ、うちの家計は火の車なんだから!!アイツ商人のクセにドンブリ勘定だしあたし達が節約出来る所はしなきゃダメなのよ、あんただって一緒に住み始めて少し経ったし分かるでしょ?収入に対してアイツの金銭感覚がおかしいって!!」
少女「……へ?」キョトン
メイド「なに?もしかして分かってなかった?」
少女「あ、ええと、別になんでも」ブンブン
メイド「……そう、まあとにかくそういう事だから節約のためにも我慢する所はしてね?」
少女(………ご主人様ってけっこうお金持ちのはずだけどメイドさんには言ってないんだ、なんで言わないんだろ?わたしから言って良いのか分からないから黙ってるけど……)ウーン
で。
少女「や、やっぱり二人同時に身体を洗うのは無理が…ちょ、メイドさん自分で出来ますから!?」
メイド「10分しか時間無いんだから仕方ないでしょ!?良いからあんたは髪を洗ってなさい!!身体はあたしが洗っといて上げればすぐに終わるでしょ!!」
少女「で、でも人にされるとくすぐった…!?ふぁ!?」
メイド「ちゃんと手を動かす!!あたしが身体を洗う時間無くなるでしょ!?」
少女「で、でも前まで…!?せ、せめて背中だけに!?」
メイド「女同士で何恥ずかしがってんのよ良いからさっさと終らせて!!」
少女「あぅ!?ひぅ……ま、待っ…!?」
メイド「待たない!!」
少女「……あ、あぅぅ!?」
……………
………
少女「」フラフラ
メイド「……ふぅ、なんとか間に合ったわね」フゥー
少女「…………何か大切なものを奪われた気分なんですけど、メイドさんはメイドさんで自分の身体は自分で洗ってたし」ジトー
メイド「いや、あんたに頼んだら余計に時間掛かると思ったからさ?実際自分で洗って間に合ったし良いじゃないの」
少女「………ずるい」ドヨーン
メイド「さっ、シャワーも浴びたし着替えて外に出ましょ?ほら、はやくっ」トタトタ
少女「………はーい」トコトコ
………
ガヤガヤ
ドヨドヨ
少女「………やっぱり人が多いですねぇ」ギュー
メイド「……そうね、はぐれたら大変そう…………!!」フラッ
少女「人が邪魔でどんなお店があるのかも……って、メイドさんどっちへ……何かあったんですか?」
メイド「い、いや……ちょっと……」フラー
出店「はいよ!!ラッシャイ!!」
メイド「……………」ゴクリ
少女「………これなんて食べ物ですか?」ジー
出店「これはクレープってんだ!!甘くて美味しいぜ嬢ちゃん!!」
メイド「…………………」ジー
少女「メイドさん、食べたいなら買っても良いのでは?」
メイド「……で、でも……」ソワソワ
少女「ご主人様にお小遣いとしてくれたお金で買うなら別に良いと思いますけど」
メイド「…………な、なら…」
少女「わたしも食べます!!美味しそうですし」
メイド「うん……そ、それじゃおじさん、こ、このチョコレートの奴をふた……3つ下さい」
出店「はいよ!!毎度あり」
少女「ご主人様の分も買うんですね、ふふっ…」ニコリ
メイド「へっ?ああ……すいませんやっぱり4つ下さい」
少女「えっ」
メイド「……………」プイッ
少女(2つも食べるつもりなだけだった)
で。
メイド「串焼き肉ふたつ」
少女「美味しそうですね」
…………
メイド「ピザですか……ら、ラージサイズとドリンクふたつ」
少女「…………わたしちょっとしか食べられませんよ?」
…………
メイド「こ、これは……飴なんですか?それじゃふた……え?もういらない?それならひとつ」
……………
メイド「へぇ……東洋のお菓子なのですか……魚の形ですけれど……おいしそうですね、下さい」
…………
メイド「らーめん?パスタじゃないんだ、へぇ……じゃあ中に入って注文してみ……あっ、ちょっと何?ダメなの!?ま、待って置いてかないでよはぐれたらどうするのよ!?」
……………
少女「さっきから食べ物ばっかりじゃないですか!!いくらなんでも食べ過ぎですってば!!」
メイド「そ、そう?」ギクッ
少女「…………太っちゃいますよ?メイドさん実は気にしてるの知ってますからね?ご主人様より重…ふぎゅ!?」ガシッ
メイド「なんの事?」ギュー
少女「ふっぷっ!?い、言われたくないなら買い食いばっかりしないでくださいよ、もうお金ほとんど無いじゃないですか!!」
メイド「すいません」ショボン
少女「…………まったくもう」
メイド「いや、知らない食べ物多いからつい……」
少女「メイドさん、実はわたしより楽しんでますよね」
メイド「そ、そうかしら?」ギクッ
少女「はい、全力でハメを外してる見たいにみえます」
メイド「………だ、だって、アイツが居る時じゃこんな事出来ないし…」モジモジ
少女「……別にご主人様が居る所でも少しくらいは平気じゃないですかね?たぶんご主人様もそっちの方が良いって言うと思いますけど」
メイド「なによ、また前の続き?あれいつまでやっても平行線だからもう止めようって事でお互い納得したでしょ」
少女「いえ、別にそういうつもりじゃないですけどね?メイドさんの気持ち云々を抜きに考えても仲が良いのは良いことだとわたしは思いますけど」
メイド「今で十分よ、それにさあたしが言うのもあれかも知れないけど使用人不勢が主人の前ではっちゃけ過ぎちゃダメでしょ、普通はね」
少女「……うーん、でもご主人様とメイドさんって幼馴染みだし、十分例外のうちに入るんじゃ」
メイド「……………だからよ、昔を知ってるからこそ弁えなきゃいけないの、とにかくあたしはアイツとは絶対に一線置かなきゃダメって決めてるの、余計な事は言わなくていいわよ」
少女「…………決めてるんですか」
メイド「うん」
少女「……えと、理由とかは聞いたらダメですか?」
メイド「うん、人に言うような事じゃないし、たとえあんたでも教えたりは出来ない、だからもう聞かないでね、流石にこれ以上はしつこいって思っちゃうし」
少女「……はい、分かりました、それじゃあもう聞きません……メイドさんごめんなさい」
メイド「いいよ、気になるのは仕方ないし」
少女(………昔、ご主人様とメイドさんの間で何かあったんだよね、もう聞けないけど)
メイド「………………」
…………………
……………
一方、王宮にて。
男「…………流石、近隣の国々の中じゃ一番豊な国って言われるだけあるな、でかいし広い、それに綺麗だ」ツカツカ
王子「王宮というものは国の象徴だからな、力の誇示の為にも必要以上に荘厳な造りにされるものだ、住んでる身としては広いだけで不便、更に言うなら窮屈な場所でしかないがな」
男「王族だからこその悩みって奴ですかね、それはそうと王子………正門で決めポーズしてたから仕方なく話し掛けましたけど……俺みたいな一介の商人ごときが王族の方と並んで歩っていて平気なんですか?……ぶっちゃけ俺の屋敷とかなら人目は気になりませんけどここだと誰かしらに見られてるから不安なんですが……いつ不敬であるぞー!!とか言われないかとひやひやしてんですが」ヒソヒソ
王子「気にするな我が友よ、王族と言っても私は国民と親しい関係をきづく事で知れ渡っておるからな、例え隣に並んで歩くのが平民だろうが奴隷だろうが家臣たちは何も言っては来ない」
男「は、はぁ」キョロキョロ
王子「はっはっはっ!!これも我が人徳の為せる技であろう!!そなたは堂々としておれば良いのだ!!はっはっはっ!!」
男「そ、そっすか」ジー
ジロジロ…ヒソヒソ…
男(みんなまた王子がバカやってるぐらいに思ってそうな呆れた顔してやがる………確かに人徳の為せる技だな、家臣に漏れなく呆れられる王子ってどんだけだよ)ジー
王子「して我が友よ、父との謁見で何を導き出そうとしておるのだ?」
男「……そうですね、とりあえずは国王様の事を実際に見てどのような人なのかを………っと、王女様が居るな……ちょっと挨拶っと、おーい王女様ー」トタトタ
王女「……………?」クルッ
王子「あっ、待つのだ我が友よ!!」
男「………王女殿下、国王様への謁見の件ご尽力ありがどぼぐげぇっ!?!?」ビタン
近衛「姫様に近づく不埒者があ!!者共出合えぃ!!この者を捻り潰して引っ捕らえろ!!」ガチャガチャ!!
男「痛っ!?な、なに!?何事!」ジタバタ
近衛2「動くな!!貴様不敬であろう!!よりにもよって姫様に近付くなど言語道断!!」
男「」
王女「…………」ジー
女兵士「姫様、此方へ…あぶのうございます」チャキッ
男「ひょっ!?」ダラダラ
王子「……遅かったか、止めよ兵達よ!!その者は私の友だ!!」トタトタ
男「」ダラダラ
近衛「………」チャキッ
男「ぴぃ!?」ガタガタブルブル
王子「ええい剣を納めて解放せい!!この者は我が友だ!!怪しい者ではない!!」
女兵士「……しかしながら殿下」スッ
王子「なんだ?」
女兵士「殿下のご友人だと言うのであれば、尚更姫様に近付けさせる訳にはごさいませぬ、それこそ姫様……いえ、女の身には大変危険だと宣告しているようなもの!!何卒ご理解を」ビシッ
男「なんぞそれ」
王子「……………すまぬ我が友よ、反論が出来ぬ……!!」クッ
男「あっ、ちょっと王子!?なんでその理屈で言い負かされてんの自覚あったのかよ!?」ガビーン
女兵士「連れてゆけ」
近衛達「「「はっ!!!!」」」ガチャガチャガチャガチャ……
男「おぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?なんでだぁぁぁぁぁぁ!?!?」ズルスル
男「ち、ちょっと王女さま!?黙ってないで助けて下さいよ!?俺、俺ですよこの前会ったでしょうが!!」
王女「………?……だれ?」ハテ
男「」
女兵士「はやくそのゴミを連れてゆけ」シッシッ
男「ちょ、ちょっと王女さまよく見て!?俺ですよ俺!?」
王女「知らない、汚物に知り合いはいない」
女兵士「はやくその生ゴミを連れていけ!!」
男「ちょっとーーー!?王女さまってば!?」
王子「我が妹よ、また相手の顔を見ておらなかったのか?先日話をつけに行って居っただろう、我が愛馬を借りて」
王女「…………ああ、あの人……にいさまのご友人の」ポンッ
男「そ、そうですよ思い出しました!?」
王女「裸で卑猥な事を叫びながら変態行為に及んでいた……」
男「」
王女「よく顔を確認していなかったので分からなかった、あやまる」ペコッ
女兵士「……姫様に何をした貴様、事と場合によっては命に関わるが?」ギロッ
男「」
王女「へいき、行動自体はにいさまと大差がない」
女兵士「……キサマァ!!この女の敵がぁ!!近衛兵達、首を突き出させろ!!この場で切り落としてくれる!!」ジャキ
男(´д`)
男「何故だ!?状況が悪くなっていく一方なんですけど!?王子さまちょっと自分の行動と比較してこんなになってんだから何とかして下さいよ!?」
王子「う、うむ……女兵士よ、確かに私の行いは私が神に愛された人としての最高傑作と言える美形だからこそ赦されるものではあるがな?流石に首をはねるような事ではないと思うのだ、だからここは剣を納めて欲しい」
男「そこはただしイケメンに限るじゃなくて、ただし王族に限るだと思いますけどとにかく何とかお許しを!!」ガタガタ
女兵士「………むっ……」チラッ
王女「許してあげて、元々私は何とも思っていない」
女兵士「……畏まりました、おい」
近衛達「「はっ…」」ガチャガチャ
男「た、たすかった……怖かった…ほんとに怖かった……」ウルウル
王子「……す、すまぬな我が友よ、ああ言われると私も弱くてな」
王女「あやまる、ごめん」ペコッ
男「い、いや……大丈夫っす…」ドヨーン
男「………さて、時間食っちまったし急いで国王様の所に行かないと」
王女「…………」
王子「うむ、我が父を見て、どう感じるか……そなた次第だ我が友よ」
男「………はい、それじゃあちょっと行って参ります、王子…それに王女殿下」
「その必要は無い」
王女「!」
王子「……父上?何故ここに……玉座の間にいらっしゃるとばかり」
男「………!!」
王「少々退屈であったのでな、宮内を彷徨いていたら中々愉快な事を我が子達がしておると思ってな、物陰から見ておった」ニッ
王女「………」ペコリ
王子「そうでございましたか父上、相変わらずですね」ペコリ
王「そなたほど自由に振る舞えればもっと良いのだかな……余にはこの宮殿内を歩き回るぐらいがせいぜいだ、このぐらいは構わぬだろう?」
王子「はっ」
王「さて、そなたが我が子達が申しておった者だな?余に謁見をしたいとの事は聞いておる」フム
男「…っ…は、はい!!大変恐れながら国王陛下…貴方様に一度お会いしたく都合を付けて戴きました」
王「ふむ?して、そなた………平民不勢がこの余に何を思って謁見を望んだ?」ギロッ
男「……っ…!」ビクッ
王子「……父上、この者は……」
王「二人は下がっておれ」
王子「………はっ」
王女「………」ペコリ
王「……………ふん、面を上げて申してみよ、どうなのだ?」
男「……は、はい……では」チラッ
王「……ふっ」ニヤリ
男「……え」
王「……ふ…くくっ…ああ、すまぬな、我が子達の友人に対して失礼をした!!どうも初対面の者をふざけて威圧するのが面白うての、悪かった!!はっはっはっ!!」
男「…………は、はぁ…」ドキドキ
王「謁見との事だがそなたは畏まった場所よりは気楽に歩きながら話をしていた方が楽であろう?ついてまいれ」ニッ
男「……は、はい!!」スタスタ
王「我が子達……あの二人と付き合うのは大変であろう?少々奔放に育て過ぎたのでな」
男「ああ……いえ、まだ出会ってから日も浅く大変だとの意識は……」
王「そうか、ならば良いのだ……これからも仲良う取り計らって貰えれば余も嬉しい」
男「は、はい……」
王「そなたは商人と聞いたが?」
男「はい、細々とやっております」
王「………ふむ?」ジー
男「…………ぅ…」
王「……商人には向かぬ顔をしておるな、ズル賢さが足りぬと見える」ニヤリ
男「そ、そうでございますか?」
王「うむ、商人というものは瞳に欲を写しておるものだがそなたにはそれが無いのでな、情に流されて損をする眼をしておるよ」
男「……うぐ…」ギクッ
王「当たりかね?どうやら余の観察眼はまだまだ安泰のようだな?はっはっはっ!!」
男「さ、流石でございます陛下」
王「それで?余に会いに来たのは何故なのか教えて貰えるかね?どうやら余にゴマを擦りに来た訳ではなさそうなのでな」
男(………適当にゴマすって架空の商談でもでっち上げつつ判断しようと思ってたんだが……無理だなこの人には通用しない、恐らく)ゴクリ
王「どうした?申してみよ」
男「………恐れながら……国王陛下は名君として知られておりますが、もうひとつ、このように評されております」
王「暴君であろう?知っておる、そう言われるような事もしているのでな」
男「……………」
王「ふむ……どうやらそなたは余に反発する考えを持つ者のようだな」
男「い、いえ……滅相もありません」
王「隠さずとも良い、当たり前の話だろう?全てにおいて完璧な人などおらぬ、そして王とて一人の人間なのだ、受け入れられもすれば拒まれもする、違うか?」
男「………………」
王「安心せい、余のやり方に異を唱えた程度でそなたを罰したりはせぬよ、むしろ正直に申して貰える方が余も助かる」ポンッ
男「………は、はい」
王「そう畏まるなと言っておろう?そなたは我が子達を知っておるだろう?余はあれらの父親なのだぞ?」ニッ
男「……では、正直にお話致します……陛下はどうして奴隷を必要とし続けるのですか?」
王「国益の為だ」
男「……………国益……」ギリッ
王「……商人だと言うのであれば分かると思うが……国というものは常に金が必要なのだ、力も、豊かさも、平穏も、全てにおいてだ」
男「…………人の命と、尊厳を犠牲にしてでも、ですか?」
王「…………そうだな、そなたの言いたい事はよく分かる、人は尊く、分け隔てなく生きるべきだと……そう申すのであろう?我が子達と同じように」
男「…………」
王「余もその通りだとは思っておる、余とて人の心は持ち合わせておる、そなたのように命を憂う事もある、だがな、それでも捨てねばならぬ心もあるのだ」
王「国益の為だと簡単に言ったがそれは民の為だ、この国の民が幸福に暮らせる為に、何を得て、何を捨てねばならぬのかを余は判断せねばならぬ」
男(………この人は…)
男「…………」
王「其の国の王は、名君にして暴君である、賢王であり覇王と成る者である」
王「………ある吟遊詩人が余の事を謳った歌の一節だ、これが変化し世に流れたのだろうな」
男「…………覇王、ですか」
王「その吟遊詩人には余が覇道を歩んでおるように見えたのだろう、実際にはこの国だけで余は手一杯だがな」
男「ですが……それに近い事を陛下はしております」
王「今だけだ、いずれそれも終わる」
男「それは何時ですか?」
王「さてな……だが国が安定すれば必ず訪れる」
男「最後にひとつだけ」
王「国とはなんだとでも聞くつもりかね?それには余は人と答えるぞ?」
男「いえ、陛下にとって人とは何ですか?」
王「………ふむ、そう来たか……」
男「…………」
王「そうだな、宝……とでも答えておこう」
男「……そうですか、分かりました」
…………
男「………」スタスタ
王子「……終ったようだな、我が友よ」
王女「話がある、付いてきて欲しい」
男「はい、俺もそのつもりでした」
…………
王子「して我が友よ……そなたにはどう写った?我が父、国王は」
男「………国の事を、国民を第一に考えてる素晴らしい王様でしたね、人当たりもよく快活で明るい、人好きのする聡明で名君と呼ぶのに相応しい人ですよ」
王女「…………」
男「流石、王子さまちお父上でしたよ……ナイスミドルだったし、でも…」
王子「ふむ?」
男「俺の意見を聞きながら、俺を相手にはしていなかった、模範的な賢い王様のふりをしているだけだ」
王女「……根拠は?」
男「……眼…」
王子「…眼、か……」
男「……眼が俺の父親と同じだったんだ、俺には優しくて頼りになる理想的な父親だったアイツに、奴隷商として非道な事をしていながら、眉ひとつ動かさずに人を殺していながら、優しかったあの悪魔に」
………………
………
…………
今から四年ほど前に遡る。
当時、16になったばかりの少年は初めて父親の仕事へと同行した。
父親の仕事の事は聞いていた。
奴隷商人、それがどういうものであるか……聡明だった少年は理解していた。
否、理解しているつもりになっていただけだった。
その日、自分は何も知らぬ只の子供だったのだと思い知る事になる。
………
薄暗い地下室に、頑丈な鉄格子で仕切られた部屋……否、牢屋とも言える場所がいくつもあった。
男「………………」
その中には蠢くものがいくつもあった、全ての鉄格子で仕切られた部屋…牢屋にいくつも、何十……いや、もしかしたら百を越える程の数のモノが。
汗、吐瀉物、糞尿……それに血の匂いが入り雑じった異臭が充満して、何度も吐きそうになった……臭気により鼻だけでなく目すら違和感に襲われている程だった。
異常だと思った。聞いてはいた、知ってもいた……だが理解はしていなかった。
こんな場所がこの世に存在していて良いのかとすら思った。そんな劣悪な場所に居るのだ、百を越えるか越えないかという数の奴隷達が。
うめき声が聞こえる。
啜り泣く声も聞こえる。
命に係わりそうな酷い咳をする音、鎖を引き摺るような音、鉄格子が軋む音………
全て知っていた。
だが、その全てを理解していなかった。
ここに来るまでは。
鉄格子の仕切りによって幾つかグループ分けがされているようだった。
男「…………っ……!!」
単純に男と女で分けてあるのもそうだが………おおよその年齢でも別々に分けて閉じ込められている、暗がりに慣れて馴染んだ眼はようやくそれを認識し始めた。
少年はひとつの牢屋の前に立ち尽くす、その中に入れられていたのは子供だった。子供で、女の子ばかりだったのだろう、そう見えた。
中に居るのは十人程、皆ボロボロの衣服を着ていて、中には上着部分が殆ど破れ胸を露出させている娘まで居る。
全員痣と擦り傷だらけであり、髪は乱れ、啜り泣く者……膝を抱えて動かぬ者、虚ろな眼をして横たわる者、怯えた瞳でこちらを見つめる者や睨み付け、震える者も居る。
男「……………」
その子達を見た瞬間、少年の脳裏にずっと一緒に育った少女が浮かんだ。
彼女も奴隷だったのだ。幸せそうに日々を過ごしているが、身分はこの檻の中の少女達と変わらない。
それを思ってしまったその時に、少年は恐くなった。
同じ身分、同じ立場、同じ人間。
それなのに、こうも違っている。
こうなってしまっていたかもしれないのだ、彼女も。
こうなってしまうかもしれないのだ、彼女も。
少年にとってそれは耐えがたい事だった。
男「父さん」
地下室から逃げるように這い出た先、先程の場所とは全く違う……至って普通の、地下に奴隷達がひしめいている等とは想像も出来ないような手入れの行き届いた一室の中に父は居た。
父は優しく、穏やかていて逞しいという印象を受ける人だった。
奴隷商だというのはもちろん知っていた。だが、その風貌と雰囲気……それに屋敷で共に住まう彼女への態度からは人を商品として扱うような人物には到底見えなかったのだ。
だからこそ、この父とあの少女と共に過ごして来たからこそ、奴隷という存在に対して理解が及んでいなかったのかもしれないと、後になって思う。
少年は父にこう言った。
奴隷達を解放出来ないのか、と。
父は優しく諭すように答えた。
彼らはただ解放しても行き場所がないんだ、だから誰かの庇護下に入らなければこの国では生きていけない、可哀想だが奴隷とはそういうものだ。と、微笑みながら。
少年は続けた。
なら、どうしてあんな酷い場所に閉じ込めるんだ?と。
父は優しく諭すように答えた。
彼らの中には恨みを覚えて暴力に訴える者や、何も知らぬまま逃げ出してしまう者もいる、確かに酷い場所だが然るべき時までは頑丈な檻の中にいてもらわねばならない、もし生半可な場所に保護をして一斉に逃げ出しでもしたらどうなると思う?お前は頭がいいから分かるだろう?…と、微笑みながら。
だったら殺されないように国外へ連れて行くなりなんなり方法はいくらでもあるだろう、と少年は捲し立てる。
父は、溜め息と共に告げる。
子供の理屈だ、そんなにうまくいくはずがないだろう?あまり困らせないでくれ、と。
その時の父の顔は穏やかではあったが、少年には悪魔に見えた。
幼い頃に絵本で見た、人の命を刈り取りながら笑う悪魔のように、父の顔は見えたのだ。
それからの一年間は父との口論……と言っても少年の方が一方的に絡んでいるだけではあったが……そんな風に不穏な雰囲気の続くまま時が過ぎて行った。
幼馴染みであり、奴隷の少女はそんな二人の仲を心配していたが理由までは伝えられる事はなかった。
その日々が終わりを告げたのは少年が17になり、冬が終わり春になる頃である。
…………
…………
女「………屋敷を出る?」
男「ああ、自立するんだ」
女「…………なんで……?やっぱり旦那様とケンカばっかりだから?」
男「……………まあ、それも理由のひとつだけどさ」
女「……………が、学校は?だってまだハイスクールに入学して一年も経ってないよ?旦那様は大学卒業まで面倒は見るって……この前……」
男「特例で卒業資格だけは貰えてる、黙ってたけど一年で三年分の全課程終らせてるんだよ、まぁ………元々大学に飛び級出来る話もあったぐらいだしなんとか中退って事だけは回避してる」
女「…………そうなんだ……そっか…」
男「大学も行かないよ、商人目指してる訳だし、貴族のボンボンだらけのお遊び学校なんて行くつもりは初めから無いしね」
女「…………商人なら…旦那様の下で学んだ方が良いと思う……」ジッ
男「…………ごめん、それだけはお断りだ」
女「………………」
男「………あー、なんだ、ちょっと提案がるんだけど?」
女「……なによ?」
男「お前、一緒に来ないか?」
女「えっ、はっ?ちょ……ええっ?」ギクッ
男「お前今いくつだっけ?」
女「え、えっと…!?その…正確には分かんないけど……今年で15よれそれが?」
男(………たった数年でよくもまあこんなにあちこち膨らむもんだ……)ジー
女「ど、どこみてんのよ!?それよりさっきのどういう意味なのか教えなさいよ!!」
男「どういうもこういうも……そのままだろ」
女「つ、ついてこいって……えと、その……」カァァ
男「んあ?わからん?駆け落ちしよーぜっつってんの」ボジボジ
女「か、駆けっ!?ちょ……ハナクソほじりながら言うのそれ!?」
男「どうするん?んん?」
女「え、あぅ……えと…………ふぇ……」オロオロ
男「いやさ?父さんはたぶんお前と結婚認めてくれないと思うんだよねぇ、だってお前奴隷じゃん?俺んち平民だけどでかいし、胸糞悪いけどあの糞親父結構な権力者なのよ、なもんだからいくら幼馴染みっつっても結婚は正攻法じゃ無理なんだよねぇ、あ、これも家でる理由の一つね?」コネコネ、ポイッ
女「ちょ、ちょっとタンマ!?お願い待って!?」ドキドキ
男「でねでね?そんでさ、出来ればっつかなんというかね?この家にお前置いときたくないのよ」
女「ま、待ってって言ってるのに…!!ええと……それはなんで?」
男「ないしょ、付いてきたらその内教え……ぶえっくしょっ!!う”…ティッシュティッシュ……」
女「……はい」スッ
男「さんきゅー嫁」チーン
女「よ、嫁じゃない!!ま…まだき、決めて……」オロオロ
男「なんだよ?なんか問題あるの?」
女「……め、メイドに…まだ見習いだけどなったばっかりだし……えと、室長さんたちにも良くして貰ってたし……」ゴニョゴニョ
男「………まあ、ウチは使用人も含めて楽しくわいわいやってたからなぁ、そりゃそうかもなぁ」
女「………う、うん……だからさ、その……か、駆け落ちとかは……やめ……」ジッ
男「無理、もう決めてるんだよ、俺は出ていくしお前は連れてく」
女「…………うぅ…」
男「なに悩んでんだよ?簡単だろ?」
女「……か、簡単って!!アンタ一生の問題なのに何を!!」ムカッ
男「いや、だって、お前俺の事超愛してるじゃん、ほらかんたん」ニヤリ
女「………」イラッ
女「……あ……アンタなんか……!!」プルプル
男「ん?」キョトン
女「あたしはアンタなんかぜんっぜん好きじゃないし!!勘違いしないでよバカッッ!!!!」クワッ
男「ええ!?な、なんだってーー!?」ガーン
女「…はぁ…はぁ…!!う……う”う”う”…!!ひ、一人でいけバカーーーーー!!!!」ダダダダッッ!!
男「え!?マジで!?うそん!?おりゃあてっきりあんさんはオイラにメロメロなのかと!?そ、そんなバカなーー!?」ガーン
………その翌日。
女「……ち、ちょっと!?ホントに行くの?ねぇ!!」
男「………なんだよ屋敷の外まで追いかけてきて追い討ちか?泣くぞこんにゃろう」ジトー
女「…ぇ……あれは!!その……」シュン
男「………はぁ……もう決めてるって言っただろ、一人でも行くよ俺は」スタスタ
女「ま、待って!!」ハシッ
男「ん……?」
女「……………」キュ
男「………袖が延びちまうんだけど、暫く一張羅なんだから勘弁してくれ」
女「……………っ……」ギュー
男「………………」
女「………………」
男(………あー、そうだ)
女「………………………………ぁ……あたしも、や……やっぱり……」ジワッ
男「ちょっと待ってろ?」ゴソゴソ
女「……え?あ、ああうん………」
男「ほい、やるよ」ポイッ
女「………?………ナイフ?」
男「死んだ母さんに子供の頃買って貰ったやつ、振り回して遊んでたりお前に連れてかれてた山籠りやら樹海探索やらでも大活躍してただろそれ」
女「……あっ、あのナイフ……」
男「それさ、調べたら結構な名工が打ったもんなんだとさ、売って軍資金にしようかなって思って持ち出してきたけどやっぱり売るのは勿体ないし、お前にやるよ」
女「………こんなの使わないもん」ギュ
男「……まあ、こと戦闘に関してはお前、武器なんぞ要らんだろうが……」
女「そういう意味じゃなくて!!その………」
男「……?……まあ、とにかくだ今から家に置きに戻るのも面倒だし、持ち歩いてても無くしたりしそうだし?お前にやる、要らんなら預かっとけ、わかった?」
女「…………」
男「……うーん、まああれだ、一人前になったら帰ってくるって、二度と帰らないなんて言ってないからな?」ポン
女「……………うん……」
男「……じゃ、行ってくる、またな」ニカッ
女「………」コクン
………………
そして、少年はその後一年掛けて商人としてのノウハウを蓄積し、日々成長して行く。
本来なら彼女も連れていきたいと思っていた。しかし断られてしまったのもあるが自身が彼女を守っていけるだけの力があるかどうか、その不安もあり連れて行くのは断念したというのが少年の中では大きかった。
男「ビックになってから「迎えに来たよ、ハニー(イケメンボイス)」これで次は勝つる!!!!」キリッ
男「俺の失敗はアイツが俺に首ったけだと勘違いしていたからだ、だとすれば一から口説き落とす努力を怠らなければ次こそは!!次こそは奴の乙女心をズキュンと射止められると思わんかね?そうは思わんかね諸君!?」バッ
ちなみに彼の妙な独り言癖はこの頃ついた、少年は失恋と孤独によりちょっと心が参っていた、寂しいから誰も居ないのに観客がいるという設定を作っていた。
男「ふむ、諸君の言いたい事も分かるぞ?そんなキザなセリフお前に吐けんの?そう言いたいのだろう諸君は!?俺を誰だと思っている?この置物を奴だと思い込み口説き落とすセリフを見事に言ってみてくれる!!」コトッ
クマさん「」
男「……む、むひゃっ…迎えにひはよはにゃー!!」プルプル
クマさん「」
男「…………」
男「ふっ、焦らず行こうじゃないか諸君、まだまだ時間はあるからな……」フッ
クマさん「」
男「こ、告白の練習はさておいてだ、次はあれだその後だろう、夜のアレだ、バカにされたくないからな」
クマさん「」
男「……さて、イメージイメージ、幸い知識だけは豊富に持ってるからな、あとはどう実戦で使えるか」ヌギヌギ
クマさん「」
男「……そんなに固くなるなよ……ちゃんと優しくするから、ほら……緊張してる、まるで材木みたいにゴツゴツしてるぜ?」サワサワ
クマさん「」
男「怖くなんかないよ、だって……お前はこんなに逞しいんだぜ?乱暴になんか出来ない」クスッ
クマさん「」
男「……さあ、安心して瞳を閉じて………優しくするって約束のキスだ……」チュー
クマさん「」
少年の逞しい妄想力と変態力もこの頃に養われていた。まだ十代なのに少々拗らせていた。人間淋しい思いをしているとろくなことに為らないという良い例である。
その一方で、少年の才能は確実に開花もしていた。
殆ど準備金がない状態からたった数ヵ月である程度大きな仕事の一端を担える程に。
この国では労働の殆どを奴隷に任せている。だが少年は奴隷を使役するのを否定しつつ、人を雇い、賃金を十分に支払った上で確実に利益を出せる仕事を選ぶ。
そういった判断を行える能力が他に類を見ない程に優れていた。
否、他の者が奴隷という存在に甘えていた中で、曖昧な判断でも損などしないという温い考えを持つ商人ばかりだったからこそ少年のような一切の無駄を許さずに利益を確実に上げるという姿勢が実を産んだのかもしれない。
そして………
少年が家を出て、一年以上が過ぎた頃には少年の生活は安定し、一人前と認められるには十分過ぎる程に力を付けた。
男「……………さて、そろそろ行くか」
迎えに行こう。
やっと準備が整った、もう彼女を守って暮らしてゆくには十分な資金と力がある。一年以上も掛かってしまったがこれでも早くここまで来れた方なのだ、そのために死に物狂いで努力し、耐えてきた。
今度は引き下がらない、以前断られた時は自身が不安だったこともあり、一度否定されただけで諦めてしまったが次は相手が折れるまで挫けないつもりだった。
それほど少年にとってあの幼馴染みの少女は、大きな存在だった。
男「…………そういや、前んときはちゃんと言ってなかったな」
愛している。
それを言葉にするのがむず痒く、気恥ずかしくて変にふてぶてしい態度での告白になってしまったあの時、少年はちゃんと後悔している。きちんと言っておけば良かった、そう思っている。
だから、次はちゃんと伝えよう。
自分の思いを言葉にして、彼女へと。
いまいち練習の成果は覚束ないが、それでも彼女は分かってくれるだろう、今度こそ。
男「…………帰るか」
そして、少年は故郷への帰路へと向かう。
少年が帰った時、感じたのは違和感だった。
辺りは夜の帳が落ちて薄暗い、だが……屋敷には明かりが灯っていない、中に入っても十人程召し抱えていた使用人達の誰も居ないのだ。
だが鍵は掛かっておらず、空き家になってしまった訳でもない。
ただ、無人と化している。
この家を出ている間、父の噂は聞いていた、相変わらず非道なやり方で奴隷達を扱って財をなしていたようだった。なにか変わった事を聞いた覚えはない、あるとすれば一人息子が蒸発したという噂……つまり自分が出ていった事ぐらいで父そのものに対する事は以前と変わらなかった筈だ。
だからこそおかしい、何故誰も居ない?寝ている訳でも、隠れている訳でもない。
屋敷の中を歩き続けながら、少年の思い立った事は、使用人も連れてバカンスでも行ったのか?と考えた。
だが鍵は掛かっていなかった為、違うとすぐに思い立つ。
一階部分の殆どを散策しても菜にも分からず、少年は不安になっていった。
彼女はどうなった?
なにかあったのか?
不安と共に動悸が激しくなってゆく、途中彼女が使っていた使用人部屋も寄ってみたが何もなかった。
背筋に冷たい物を感じながら二階へと駆け上がる。
二階にあるのは自分と、それと父の寝室に書斎……あとは亡き母の使っていた部屋がある。
少年は真っ先に父の寝室へと向かった。
まずは父が居るのかどうか、その確認をするのが一番手っ取り早いだろう、そう思った。
父が居るのなら事情を聞けばいい。居ないのであれば数日滞在して念のために帰りを待ちながら街へ行き何か知っている者を探して話を聞けば良い。
そして、父の寝室の扉を開けた瞬間に少年の思考は白くなにもかもが吹き飛んだ。
数秒の放心の後、少年は眼に写るモノを理解しようと、いつものように状況の把握と結果の推測、それらの行いは商人としていくらでもやってきたのだから。
父は居た。
自身のベッドからずり落ちたようになりながら、仰向けになって。そして、血溜まりを胸から流れ出る傷から作って。
もう一人、ベッドの上で自分に気付き、震えながら、怯えるような瞳を向ける者が居た。
髪は乱れ、涙を溢れさせながら、嗚咽混じりに何かを言おうとしている。
「……ぁ…あたし…だ、旦那さまがっ……!!」
無理矢理に引き裂かれたのだろう、衣服は破られて、下着も剥ぎ取られているようだった。
そして、その露になった肌に赤く、べっとりとした赤がまとわりついている。
父の胸には、あの時少年が渡したナイフが刺さっていた。
ああ……そうか。
自分は選択を、間違ってしまったんだ。
少年はそう理解した。
父の返り血に染まる、彼女を見つめながら、少年は思った。
無理矢理にでも、あの時連れて行かなくてはならなかったんだと。
……時は少し遡り、少年の帰郷する数時間前。
少年の幼馴染みの少女は、以前と変わりなく日々を過ごしていた。
少年が居なくなってしまったのは正直に淋しいと感じている。だが彼は帰ってくるとはっきり言ってあの時出ていったのだ。
……その内帰ってくる、だから大丈夫。
この一年、彼女はそんな事を思いながら過ごしていた。
たまに手紙も来ていたし、向こうも順調に生活しているというのは分かっていたというのもあるが。
使用人としての仕事にも慣れてきた。
初めは性格なのか性分なのか、色々壊してしまったりと大変だったがこのところはそんなこともなく、自分に与えられた仕事はキッチリとこなしている。
少女は素直に屋敷の人達に感謝していた。
あの少年も、この屋敷の主人も、使用人仲間の人達も良くしてくれる。
奴隷という身分の自分には分不相応だともこのところは感じている。奴隷という存在がどんなものかは知っている。知っているからこそ自分は恵まれていると思った。
「………………」
彼は、帰って来た時……自分に何を言うだろう?
それを想うと息が上がり、鼓動が早くなって、頬に熱が帯びるのを感じる。
次はちゃんと素直になろう。
恥ずかしくても、今度は怒り顔じゃなくて、笑顔を見せたいから。
女「………………ふふっ…」
さあ、夕飯の支度をしよう。今日は旦那様が自分以外の使用人に暇を出しているので全部自分でやらなくてはならない。
どうして自分一人だけ?とも思ったがそこまで深くは考えていなかった。自分は使用人になってまだ一年程度で一番新人とも言えるし、それに一人で屋敷を一日だけでも任されるようになったと思えばちょっと誇らしくもある。
今日は旦那様と二人きりだ、口には出さないが息子である彼が出ていってからは旦那様もきっと淋しいと思っているだろう。
だから、今日は旦那様の好物の物でもお作りして、夕食の時にはいつもよりたくさんお話をしよう。
旦那様は、物心付くか付かないかぐらいの自分をこの屋敷へと招き、育ててくれた人だ。口には出さないけれど、自分にとっては父親と変わらない人だ。
とても優しい、理想的な人だった。
「お前を欲しいと言う者が居る」
夕食の支度を終えて、寝室へと呼びに行った時、旦那様がそう告げて来た。
理解するのに少し時間が掛かった。
自分を欲しいとはどういう意味だろう、よく分からなかった。
「破格だったのでな、売らせて貰った」
何を言っているんだろう?
「明日までに荷物をまとめておきなさい、それと身体をよく洗って清潔にしておくんだ」
この人は何を言っているんだろう?
「お前も奴隷だ、意味は分かるな?」
理解が及ばず、ただその場に立ち尽くす。
自分を売った。旦那様はそう告げた。
それはどういう意味?
それは何を意味する事?
奴隷ってなんだろう?
あたしは奴隷で、この屋敷に買われて来た娘で、この目の前のヒトの所有物。
それは子供の頃から理解していた。自分にはこの人の命令には逆らう権利が無い、だからこれまで……子供の頃からこの人だけには逆らった事がなかった。それが普通だと思っていた。
女「…………………ぁ…あたしは……」
何かを言おうとした訳ではなかった。
ただ、その言葉が自然と口から漏れだしていた。
女「………ぃ……いやで……す……あたし……待っ……なきゃ……」
ただ頭の中に、あの時の、出ていってしまった時の少年の、あっけらかんとした笑顔だけが浮かんでいる。
彼女は無意識とはいえ、初めて自身の所有者へ異を唱えた。
初めて、目の前の人が恐いと感じた。
今まで優しく理想的な父親として見えていた顔が、まったく違うように見えてしまう。
「………主人に逆らうような娘ではなかった筈だがな」
近付き、睨み付けられる。
それだけで足がすくんで震えが止まらない。
「来なさい、仕置きが必要なようだ」
手を引かれて無理矢理にベッドへと歩かされる。
「仰向けに横になりなさい」
何を意味するのかは聞き返さなくとも理解出来た。
つまり、仕置きとはそういう事なのだろう。
……嫌だった、当たり前だ。
何故こんな事になっているのか理解出来ない。
それでも旦那様……主人の声は続く。
「早くなさい、聞こえないのか?」
……従うしかなかった。
機嫌を損ねたら、それこそ本当にこの屋敷に居られなくなってしまうかもしれない。
「……そうだ、良い子だ」
嫌だった。当たり前だ。
でも、これ以上怒りに触れる訳にも行かなかった。
血が滲むほど下唇を噛み締めて、振り払いそうになってしまう腕を、シーツを握り締めて堪えた。
例え衣服を引き裂かれても、首筋を舌が這い回り寒感に苛まれようと、我慢した。
溢れそうになる涙をせき止めて、ただ終るのを待つ。胸を揉みしだかれて舌が乳房を濡らそうと、何も言わず、ただ待った。
嫌だった。当たり前だ。
だけど、このまま彼に会えないまま何処かへ連れていかれてしまうのはもっと嫌だった。
だから耐えようと思っていた。
耐えて、この自分に覆い被さる人が満足さえすれば、もしかしたら自分を売るという事を考え直すかもしれない。
自分は汚れてしまうけれど、それによって彼が幻滅してしまうかもしれないとも思うけれど。それでも二度と会えなくなるよりは全然マシだと思うから。
耐えようと思っていたし耐えられると思っていた。
結局、ただ身体をまさぐられているだけだ。殺される訳じゃない。
私は奴隷なんだ、だから、このぐらいの扱いなんて当たり前なのだろう。
そうやって、諦めてしまえば嫌な事を受け流すぐらい、簡単だと思っていた。
「なんだ、息子には抱かれなかったらしいな」
……………。
「興味を持たれなかったか」
違う。
「それとも、感情に任せてお前が拒んだか、お前はそういう娘だからな」
その言葉を囁かれた瞬間に、せき止めていた涙が溢れてきて、止まらなかった。
そう、自分が悪いんだ。
どうして素直になれなかったんだろう。
本当は嬉しかった筈なのに、着いてこいと言われた時、本当は抱き付いてしまいたいくらいに胸が高鳴り、喜んでいたのに。
変に言い訳ばかりして、先へ進むのが恐くて立ち止まって………それで彼は一人で行ってしまったじゃないか。
「……っ……う…ひっく………ぐっ…!!……うぅ……!!」
本当はついていきたかった。
彼と二人で歩んでいきたかった。
ずっと一緒に居たかった。
「ひぐ……うぅ……ぁ…ぁああ……!!……ふ……ぅあ……!!」
たまに貰っていた手紙にだって彼は居場所を記していたのだ、それを頼りに追いかけたって良かった筈だ。
でも、それもしなかった。自分には勇気がなかった。
彼と二人で居られていたなら、こんな嫌な思いなんかしなくて良かった筈なのに、淋しい思いなんかしなくて良かった筈なのに。
自分が、なにもかも自分が悪いんだ。
……そう考え出したら、もう止まらない。
両手で顔を塞ぎ、零れる涙と嗚咽混じりの泣き声が自らの耳に響いてゆく。
泣きじゃくる私の腰を浮かせて、脚を開かせられる。
「………なんだこれは?」
それは、あの時から肌身離さず身に付けていたあの時渡されたナイフだった。
「……息子のか、健気に持ち歩いていたのか、バカな子だ」
「どうせもう二度と会うことなどない、それにこんなもの……奴隷不勢が持ち歩いて良いものでもない」
取り上げられたそれを、私は咄嗟に取り返そうとしてしまった。
女「……か、返し……て…!!」
旦那様が握っていたのは鞘の部分で、私が取り返そうとつかんだのは柄の部分だった。
「……………!!」
危険を感じたのだろう、旦那様は力ずくで奪い返そうと覆い被さってきた。
そして、気がついたら呻き声と共に旦那様は倒れこみ、床へとずり落ちた。
私の手には、刃物が肉を突き刺す感触がハッキリと伝わっていた。
女「………ぇ……あ……うそ……」
掠れるような声を出すのが精一杯で、身体は震えてその場から身動きも出来ない。
その時、突然扉が開く。
そこにいたのは、出ていって一年以上帰って来なかった彼だった。
その後、少年は泣きじゃくる彼女を連れてその部屋を後にし、ゆっくりと……慰めるようにしながら話を聞く。
自分が売られるという事。
拒否しようとして、乱暴されそうになった事。
少年の渡したナイフを取り上げられ、取り返そうとしたらああなってしまったという事を。
少年は冷静に考えていた、彼女に起こった事は不幸な事故だ、自分はそう思う。
だが、世間的にみたらどうなる?
奴隷身分の者が主人に逆らい刺し殺してしまったのだ。
死罪は免れない、間違いなく彼女は殺されてしまう。
少年はまず彼女の格好をどうにかしようと浴室へ向かわせる。
自分の身体を洗う事すらままならないほど気が動転している彼女ではまともに湯を浴びる事も出来ないので、断りをひとつだけいれて入念に血を洗い流した。
破れて返り血だらけの衣服は暖炉に投げ捨てて火をくべる。
男「………いいか?これからは俺がお前の主人になる、だから、俺の命令には絶対に服従しろ、分かったな?」
女「…………………」
未だにショックを受けている彼女にそう告げて、さらに続ける。
男「………今から憲兵を呼ぶ、だけどお前は捕まえさせない、殺されちまうからな」
女「…………ぇ……?」
男「親父を殺したのは俺だ、反発して出奔してた息子が帰ってきて、口論になって刺しちまった、そういう事にしろ、いいな?」
女「な……そ、そんな……!!」
男「……大丈夫だ、安心しろ……ちょっとゲスいやり方だが何とかなる、だからお前は何も知らないって事にしろ、命令には従えよ?」ギュ
女「………う………」ジワッ
男「…………」
少年は父の寝室へと再び赴く、やらなければならない事がある。
男「………父さん、やっぱりあんた悪魔だよ、こうなって当然だ」
自身の身体に父の血を付着させながら、少年は言う。
男「俺は父さんが、アイツにこんな真似をするなんて思っていなかった、いくらあんたが奴隷商で、命をゴミ同然に扱うような非道な奴でも、アイツは家族も同然の奴だったのに、父さんはそれでもアイツを奴隷として見ていたんだな」
突き刺さったナイフに手を掛ける、凶器も自分が持っていた方が良い。
男「…………俺はあんたみたいにはならないよ決して、だから安らかに眠ってくれ」
結果だけ言うなら、少年も幼馴染みの少女も捕まる事はなかった。
少年の言い分はすんなり通り、彼女へ罰が及ぶこともなかった。
そして、少年は少年で捕まる訳には行かなかったので、色々と手回しをしたのだ。
自分が捕まってしまうとその者の所有物である奴隷が差し押さえされる可能性が少なからずあったからだ、そしてそれを回避する為にあらゆる手段を講じた。
父と繋がりのあった貴族諸侯への献金や父の仕事の権利の譲渡……憲兵への賄賂、他の使用人への口裏合わせを含めた多額の退職金等々……ハッキリ言って相当ゲスい手段だったがなりふり構っていたら全て終わりなのだ、少年は躊躇わなかった。
その全てが済んだ時、少年には父の遺産と呼べる物は屋敷ひとつのみで他には何も残っていなかった。
それと、命懸けで奔走し、守りきった少女……それだけしか残らなかった。
…………
男「……………終わったな」
女「…………」
男「……あー、まあ……住む家だけは残ったし、なんとかなるよ、なっ?」ポンッ
女「………どうして?」
男「……ん?」
女「どうしてここまでするの?あ、あたしは……だ、旦那様を……!!」
男「良いんだよ、言っただろ?俺は元々あの悪魔を[ピーーー]つもりで帰って来たんだ、あいつのやっていた事は全部説明したし、奴隷ってもんがどんなものかも実際に見せた、それでもアイツが優しい父さんだったって、今でも言えるのか?」
女「………………」
男「……………もう良いんだよ、全部終わったんだ、だからさ……」スッ
女「やめて」
男「…………っ…」
女「あたしは……もう無理だよ……」
男「……そっか…」
女「………あたしは……受け入れる資格なんかない」
男「…………」
女「………だから……もういいよ……」
男「何がだよ」
女「…………」
男「…………ひとつだけ言っとくからな、俺はお前を解放なんかしない、お前が罪の意識を持ってるなら、従ってくれ」
女「……………」コクン
男「………はい、じゃあこれ……奮発して新調してきたメイド服……のカチューシャ」スッ
女「……カチューシャだけ?」
男「仕方ないだろ!?今の俺ってばすかんぴんなんだから!!」
女「………わかった、じゃなくて…ありがとうございます若旦那様」ペコリ
男「……若旦那様ぁ?」ウヘェ
メイド「今までの馴れ馴れしくして申し訳ありませんでした、これからは私のこともメイドとおよびくだひゃっ……下さい」
男「おい、噛んだぞ今」
メイド「………」プイッ
男「……こ、この……分かったよ!!じゃあ俺もお前の事メイドさんって呼ぶようにするよ!!さん付けして他人行儀にあつかったるぁちくしょーー!!!!」プンスカ
メイド「………すいません、でも……こうでもしないと、私は…」ジワッ
男「………分かってる、気が済むまでそうしていたらいいよ」ハァ
男「………似合わないな、そのしゃべり方」
メイド「………」コクン
何も知らない子供のままでいられたなら、それはどんなに幸せな事だろう。
でも、人は大人になってしまう、望もうが望まないが、誰でも子供で居られなくなる時期が必ず来る。
彼女にはそれが唐突で、とても残酷な方法で来てしまった。
これから自分は、ゆっくりと彼女の心を解きほぐして行こうと思う。
正直に言えば今でも愛している。だが、それは二度と彼女には伝えられない。
つ伝えれば、また彼女の傷を開きかねないから。
彼女が自分をどう思っているのか、それはもう分からない。きっと彼女自分と同じくその胸の内を明かす事はもう無いだろう。
今は二人で過ごして、傷を癒しながらお互い別々の恋を探すべきなのかもしれない。
少なくとも、自分はそう思った。
彼女へ触れる事かをきつす傷つける事になるだろうから。
……………
少女「日が暮れてきましたね、そろそろ宿に戻ります?」トタトタ
メイド「そうね、もうお金ないし……けっこう楽しめたからいいけど」スタスタ
少女「ご主人様もう戻って来てるかな」
メイド「そろそろじゃない?夜には戻るって言ってたんだし」
少女「そうですね……それじゃ宿で待っ……痛っ…!!」ドンッ
メイド「あっ、大丈夫?ちょっとあなた!!ぶつかったなら謝るぐらい!!」キッ
豪商「んん?」ジロリ
少女「!!」ビクッ
豪商「………おお?どっかで見た顔だ……そうだ……あの娘か」
メイド「……?どなたですか?」
豪商「主人はどうした?んん?」ニタリ
メイド「……っ……」ジリッ
少女「……………」ブルッ
豪商「……まあ良い、その内挨拶に行くかも知れんしな、その時改めて会うとしよう……奴隷身分の者がふらふらしているものではないぞ、さっさと帰るんだな…行くぞ」
大男「……」コクリ
メイド「……奴隷って…」
少女「……」カタカタ
メイド「……あたしのことよね、なんで分かったのよ……」
少女「……」カタカタ
メイド「……大丈夫?震えてるけど」
少女「さ、さっきのひと……」ブルッ
メイド「……うん、あの人が?」
少女「……わ、わたしをこの国まで連れてきた人です、一度だけ見たことが…」
メイド「……奴隷商ってこと?」
少女「……」コクン
メイド「……………」ブルッ
メイド(……………奴隷商人って……旦那様の繋がり?……やだな…せっかく考えなくなってきてたのに)キュ
…………
男「…………分かりました、お受けします」
王子「……そうか、よくぞ決断してくれた我が友よ」
王女「助かる、ありがとう」ペコリ
男「………あの二人の安全は保証してくれるんですよね?念のためというか、それが俺の懸念なので」
王子「任せておけ、あの二人の安全は私自らがそなたの屋敷へ出向き命に換えてでも守り抜くと!!」キリッ
王女「護衛を派遣する、にいさまでは貞操が危ない」
王子「はっはっはっ!!何を言うのだ我が妹よ!?貞操が危ない等とそれでは私が二人の娘に襲い掛かると言わんばかりではないか!!はっはっはっ!!」
王女「にいさまの貞操が危ない、だからダメ」ジー
王子「そ、そうか?ふむ……それはそれで…」ドキドキ
男「いや危なくないから、王子が来たら荒れそうなのは確かだけれども!!」ブンブン
男「そ、それで……護衛を勤めてくれるっていう人は?」
王女「入ってきて」
女兵士「はっ!!失礼致します!!」
男「うっ!?さっきの……」ビクッ
女兵士「先程は失礼致しました」キッ
男「」
王女「私の直属の近衛兵、その隊長をしている、腕は確か」
王子「うむ、剣の腕ならば私と互角だからな彼女はき適任であろう」コクリ
男「そもそも王子がどのくらい強いのか知らないんすけど」
王子「そうだな……旅の最中襲ってきた虎を撃退したことはあるが」
王女「さすがにいさま」
女兵士「私は虎とは戦った経験はありませんが、大の男10人程度なら切り伏せる自信があります」フフン
男「御二人とも剣で?」
王子「うむ」コクリ
女兵士「他に何がある、槍や斧でも構わんが」
男(………実力はメイドさん以下と……すげぇやメイドさんこっそり付けてる知り合い戦闘力ランキング10年連続ダントツ一位だぜ)メモメモ
王子「ん?」
女兵士「何を書いているのだ」
王女「そういう事だから、よろしく」ペコリ
男「分かりました、一度屋敷に戻ってすぐに取りかかります」
王子「うむ、頼む」
………………
男「…………で、今から付いて来るんすか?」
女兵士「当たり前だ、付いていかなければ護衛の意味がないだろう」ジロッ
男「……あの、睨まないで欲しいんですが」ビクッ
女兵士「黙れ女の敵が、両殿下のご命令でなければ誰が貴様なんぞ……」クワッ
男(…………うわーきつーい)
女兵士「……なんだその眼は」
男「……いや、所で女兵士さん、ご年齢は…?」
女兵士「29だ」
男「……………」ジッ
女兵士「なんだその憐れむような眼は!?」
男「いや、あんまトゲトゲしてると婚期のがしますよ」スタスタ
女兵士「………」ジャキ
男「………そうやってムキになってたら寄り付きませんよ、ホントに……」ジッ
女兵士「…………」プルプル
…………
男「…ひょ……ひょこがほうれふ…」ボロッ
女兵士「そうか、では部屋まで案内しろ」スタスタ
男「少々お待ちを……えーとフロントさんちょっと前にどえらい美人のボインボインとむっちゃくちゃキュートなちっこい子が部屋を取ってるはずなんですが……」
女兵士「…………」
メイド「あっ、若旦那様」スタスタ
男「おっ?ちょうど見つけられたか、少女ちゃんは?」
メイド「部屋で休んでいますよ、それより若旦那様」ツツツ…
ガッ!!
男「ひぐっ!?」ビクン
メイド「………その女の人、誰ですか……?」ギリギリ…
男「痛い痛い痛い痛い足が足の指が砕け散る!?」ガクガクガクガク
女兵士「話は部屋の中でしよう、まずはそれからだ」ツカツカ
メイド「…………」キッ!!
男「おっふぅ!?な、なんでもないよ!?なんでもないからね!?」ビクッ
メイド「………どうだか…!!」プイッ
…………
少女(………はぁ……もう平気かなって思ってたのに、メイドさんに心配かけちゃった……やっぱりすぐには完全に立ち直れないのかな、すごく怖かった)キュ
少女「……ご主人様まだ帰って来ないのかな……」
ガチャ
女兵士「失礼する、ここがお前の部屋で間違いないのだな?」ツカツカ
男「ちょ、ちょっと少女ちゃん休んでるっていってんのに!?」ガシッ
少女「」ピシッ
女兵士「むっ、この娘がそうか、これで全員だな?」
少女「しゃーーーッッ!!!!」キシャー!!
男「!?」ビクッ
メイド「えっ、なに!?」ビクッ
少女「…失礼しました、それで、どなたですかっ!!」クワッ
女兵士「ねこみたいな子だな、威嚇されたぞ」
メイド「初めて見た…」ビクビク
男(知らん人に近づかれた時の猫の反応や)ポッ
メイド「…………」ジロッ
少女「………」ジトッ
男「……………」ダラダラ
女兵士「さて、何から説明すればいいやら」フム
少女「まず貴女はどなたなのかお聞きしたいのですけど」ジトー
女兵士「む、私か、私はそうだな………」チラッ
メイド「…………」ジー
女兵士「この男にナンパされてな、家に迎えられたのだ」
メイド「」
少女「」
男「ちょっと表出ようか?」ガタッ
女兵士「む?」
………
男「あんたなんば言っとんのや!?よりによってナンパとかなにいってくれちゃってんのぉ!?!?」ウガー!!
女兵士「余人に情報を漏らされる危険性があるからな、私の身分も当然極秘だ、だったらナンパされたとか適当に誤魔化しといた方が良いだろ」
男「よくねぇよ!!お、俺の居場所をぶっ壊す気かあんたさんはよぉ!?!?」ガルルル!!!!
女兵士「失礼した、さて、先程の自己紹介を少々訂正するとしよう、ナンパではない、あれはジョークだ」
メイド「………」
少女「………」
男「……………」
女兵士「本当はこの街の路地裏で生業を立てる娼婦だ、先程の長期契約で招かれてな、しばらく厄介になる」ペコリ
メイド「」
少女「」
男「ちょっと屋上までこいやババア」ガタッ
………………
女兵士「失礼な!!私はまだ若いぞ!!まだ肌は水を弾く!!」キッ
男「聞いてねえよ!!よりによって一番女の子に聞かれたらいけないワード出しといてなに考えてんの!?あやまれ!!俺の蔑まれるようね瞳に見つめられる未来に対してあやまれ!!」ウルウル
女兵士「何が聞かれたらいかんだ生娘か貴様は」
男「おれ、あんた大嫌いだ」ムカムカ
女兵士「奇遇だな、私もだ」シレッ
今日はおわり(´・ω・`)
久しぶりにスペック
王子
19歳身長181cm体重73kg
超絶ハンサム、ただしバカで変態、童貞。
王女
14歳身長152cm体重41kg
B,73,W,52,H,70
冷静沈着で切れ者だが近親相姦バッチコイのぶっ飛んだ怖い子。
女兵士
30歳身長168cm体重59kg
B, 73,W, 58,H, 79
男性経験無し、交際経験も無し、休日の過ごし方は主に読書(官能小説かBL 小説)
白馬(本名不明)
牝3歳
命名は王子だが本人は忘れている。
木彫りのクマさん
出奔時代に購入、理由は『目元がぶちギレた時の彼女に似ていたから』
(´・ω・`)じゃ、また明日
男「売られてた奴隷にガチ惚れして衝動買いしてしまった」【後半】
転載元
男「売られてた奴隷にガチ惚れして衝動買いしてしまった」
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