騎士「私のために剣を作れ」 鍛冶屋「いやだ」
- 1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/05/25(金) 00:13:12.96 ID:Txyt+5iX0
士「な、何故だ!?」
鍛冶屋「いや、何故って・・・・・・」
騎士「?」
鍛冶屋「あんたには店内のラインナップが見えないのか?」
騎士「包丁、ノコギリ、ハサミ、鉈・・・・・・。 鍬と、ツルハシと色々あるな」
鍛冶屋「ああ。 つまりはそういうことだ。 俺は日用品を作るのが専門で、剣とか槍なんかには縁がない鍛冶屋だ」
騎士「なら、作ろうと思えば作れるわけだな」
鍛冶屋「作れるだろうけど、やだ」
騎士「・・・・・・」
鍛冶屋「ていうか、剣なんて武器屋にいくらでも上等なのがあるだろう? なんだってまたウチみたいなボロ鍛冶屋に注文するんだよ」
騎士「武器屋にある剣は、あらかた試したが、全て私にはあわなかった」
鍛冶屋「気に入らなかったってのか?」
騎士「いや、折れた」
鍛冶屋「・・・・・・は?」
騎士「私が全力で剣を振ると、刀身がもたないんだ。 すぐに折れてしまう」
鍛冶屋「・・・・・・意味が分からねぇ」- 2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/05/25(金) 00:18:50.22 ID:Txyt+5iX0
騎士「私もだ。 だから普段は常に何本もの剣を携帯している」
鍛冶屋「はぁ~。 大変だな~」
騎士「だが、それにもいい加減なんとかしないといけないと思ってな。 そこでだ。 森の奥に住む良い腕の鍛冶屋がいると聞いてここまでやってきたのだ。 聞けば、そこで売っている品物は、決して折れず、曲がらず、孫の代まで使っても刃こぼれ一つしないというではないか」
鍛冶屋「孫の代までっていうのは言い過ぎだと思うが、そういった評判はありがたいな」
騎士「これはもう、私の剣を作るのはそこの鍛冶屋しかいない! そう思ったのだ!」
鍛冶屋「そりゃあ、あんたみたいな美人に言われりゃ光栄だね」
騎士「だろう!? だから、私のために剣を作ってくれ!」
鍛冶屋「いやだ」
騎士「おい!」
鍛冶屋「あんたの話は分かった。 そうとう苦労しているんだろう。 けど、俺は作らない」
騎士「何か、理由でもあるのか?」
鍛冶屋「それをあんたに言う必要があるのか?」
騎士「少なくとも、私が納得するかもしれん」
鍛冶屋「強情な騎士様だ」
騎士「許せ。 それが私だ」
- 3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/05/25(金) 00:21:07.43 ID:Txyt+5iX0
鍛冶屋「・・・・・・」
騎士「・・・・・・」
鍛冶屋「・・・・・・ふぅ。 俺が剣を作らないのは、人の生死に関わりたくないからだ」
騎士「ふむ」
鍛冶屋「家で使ってる包丁やハサミが折れたり欠けたり曲がったりしても、まず死ぬことはない。 使い方さえ間違わなければな」
鍛冶屋「だが、剣は戦うための道具だ。 人を殺すための武器だ。 そして、折れたり欠けたり曲がったりしたら、担い手は限りなく死に近づく。 俺は、そんなことの片棒をかつぐのは・・・・・・いやだね」
騎士「・・・・・・」
鍛冶屋「さぁ話したぞ。 そういうことだから、騎士様にはお引き取りを・・・・・・」
騎士「問題ない」
鍛冶屋「・・・・・・はい?」
騎士「貴様の話を聞いて、子細問題ない事がわかった」
鍛冶屋「ん? ・・・・・・え?」
騎士「人の生死と言ったが、あんずるな。 私が戦うのは人ではない。 魔物だ」
騎士「近頃、北の国との国境近辺に魔物が出るという報告があってな。 私はその討伐隊に参加する任についたのだ」
鍛冶屋「魔物退治か」
- 4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/05/25(金) 00:23:27.91 ID:Txyt+5iX0
騎士「そうだ。 魔物を打倒するため、人々を守るための剣だ」
鍛冶屋「だが、それでも剣に何かあった場合・・・・・・傷を負うのは担い手だ」
騎士「その点も問題ない。 いや、それこそ何の問題もない」
騎士「私は国中の誰よりも強いからな」
鍛冶屋「・・・・・・マジか」
騎士「ああ。 先日城で行われた剣術大会でも優勝したぞ」
鍛冶屋「おいおい・・・・・・今の世の中、あんたみたいな美人さんが男よりも強いのか?」
騎士「ふ、そうだな。 何せ、討伐隊を率いる我らが隊長も女性だぞ」
鍛冶屋「・・・・・・いや待て、おまえ剣が保たないって言ってたろ。 どうやって優勝したんだよ」
騎士「全て初撃で倒した」
鍛冶屋「・・・・・・」
騎士「私の強さは王のお墨付きだ。 兵達からも認められている」
騎士「だから、貴様の心配していることは起こらない。 何かあったとしても、それは熟練の料理職人が包丁で指を切ってしまうぐらいの確率と傷だ」
- 5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/05/25(金) 00:26:38.83 ID:Txyt+5iX0
鍛冶屋「いや、でもそれは・・・・・・」
騎士「何だ? 私は貴様の危惧していることをクリアしているぞ」
鍛冶「う・・・・・・まぁ」
騎士「つまり、何も心配することはないということだ」
鍛冶屋「俺が言いたいのはそういう・・・・・・」
騎士「出撃は二週間後。 それまでには完成させておいてくれ」
鍛冶屋「おい、俺はまだやるなんて一言も・・・・・・」
騎士「前金としていくらか持ってきたが、足りなかったら城に申請してくれ。 この事は、王も了承済みだ」
鍛冶屋「いや、だから金の問題じゃ・・・・・・」
騎士「ああ、早く完成する分には問題ないが?」
鍛冶屋「話を聞けよ!!」
騎士「とにかく、貴様の作る剣で、数千の兵が助かるんだ。 よろしく頼むぞ」
鍛冶屋「俺の作る剣じゃなくて、お前の腕が、だろ」
騎士「ふふ。 同じことだ。 では、また来る!! 期待しているぞ!!」
―――騎士は鍛冶屋の店からスッキリとした顔で帰っていった。
鍛冶屋「・・・・・・だから、やるって一言もいってないだろうが。 ったく」
- 8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/05/25(金) 01:07:04.60 ID:Txyt+5iX0
―――王城 廊下
王「どうだ、変わりないか?」
警備兵「異常ありません。 王子様も、お部屋からは出ておりません」
王「そうか。 それはそれで心配だが・・・・・・食事はとっているのか?」
警備兵「はい、それは・・・・・・」
王「食欲があるだけ、まだ良い方か・・・・・・」
警備兵「お入りになりますか?」
王「うむ」」
- 9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/05/25(金) 01:11:37.45 ID:Txyt+5iX0
―――王子の部屋
王「王子、体の具合はどうだ?」 カチャリ
王子「父上。 はい、大分良くなったかと自分では思うのですが・・・・・・。 ご心配をおかけして申し訳ございません」
王「かまわん。 無理せず、療養していなさい。 二週間前に倒れたときはどうなることかと思ったが、今は顔色も良くなってきたな」
王子「ははは。 それはきっと、公務から離れているからでしょう」
王「はっはっは。 確かに、あれは頭が痛くなる仕事だな」」
王子「そういうお父上も、よく政務のことで頭を抱えていらっしゃるではありませんか」
王「それは仕事がどうのではなく、頭がお前ほど回らないから、自分の能力を嘆いているのだ」
王子「お疲れなのでしょう。 少しは政務官に仕事を分けて、お休みになられては?」
王「ああ。 お前が現場復帰したら、それも考えよう」
王子「私は“今の役職”が気に入っているのですが?」
王「こいつ・・・・・・」
王子「ははははは」
王 「はっはっはっは」
王子「では、私は早く体調を治して、お父上が遠出できるくらい仕事が出来るようになりましょう」
王「そうしてくれ。 皆も、お前の元気な姿を見たいと言っている」
王子「うれしいことです」
王「また来る。 何かあれば、遠慮せずいいなさい」
王子「はい。 父上もご自愛ください」
王「ああ」
―――扉はゆっくりと締まり、部屋には再び静寂が訪れた。
王子「・・・・・・」
- 10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/05/25(金) 01:18:34.22 ID:Txyt+5iX0
―――鍛冶屋 工房
騎士「まさか、二週間まるまる待たされるとは思わなかったぞ」
鍛冶屋「それだけ大変だったんだよ」
騎士「貴様、顔色が悪いぞ?」
鍛冶屋「ああ、寝不足だ、ね・ぶ・そ・く。」
騎士「睡眠はしっかりとらないと、体を壊すぞ」
鍛冶屋「俺だって無茶苦茶な注文を受けなければ毎晩ぐっすり寝てるよ」
騎士「経営管理がなっていないのではないか?」
鍛冶屋「あんたの剣が原因だよ!」
騎士「ふむ、それはすまない」
鍛冶屋「・・・・・・もう少し位、申し訳ないって感じに顔のパーツは動かないのか?」
騎士「ん? 何故だ?」
鍛冶屋「ああ、もういいや。 ほら、ご注文のあんたの剣だ。 何にも言われてなかったから、好きなように作ったぜ」
騎士「ほぉ、大剣か。 悪くない」
鍛冶屋「聞いた限りの力なら、あんたは普通のロングソードみたいに軽々と扱えるんじゃないか?」
騎士「そうだな。 私にとっては、ナイフと同じようなものだ」
鍛冶屋「(それはそれでどうなんだ・・・・・・?)」
鍛冶屋「店の裏で試しに振ってきたらどうだ? 手頃な木とか岩なら結構あるぞ」
騎士「あぁ。 そう、させてもらおう」
鍛冶屋「・・・・・・お前、緊張してないか?」
騎士「そ、そんなことはない! さあ、行こう」
- 11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/05/25(金) 01:22:33.66 ID:Txyt+5iX0
―――店の裏
騎士「ふっ!! はぁ!!」
鍛冶屋「・・・・・・」
鍛冶屋「(おいおい、大剣の動きが早すぎて全然見えないとか・・・・・・ありえねぇ)」
騎士「ふぅ・・・・・・」
鍛冶屋「ん、終わりか? どうやら問題なさそうだな」
騎士「・・・・・・」
鍛冶屋「どうした、何か違和感でもあったか?」
鍛冶屋「(だとしたら参ったなぁ。 心血注いでくたくたで、もう一本なんて無理だぜ)」
騎士「・・・・・・ぃ」
鍛冶屋「え?」
騎士「素晴らしい!!」
鍛冶屋「お、おお!?」
騎士「本当にすごいぞこれは!! いくら振ろうとも、何度切ろうとも刀身にガタがこない!!」
鍛冶屋「そういう注文だったからな。 折れない、曲がらないっていう。 さすがに限度はあるが、見た限りでは大丈夫そうだな」
騎士「ああ、実に見事だ・・・・・・っ!!」
鍛冶屋「そんだけ喜んでもらえたなら、こっちも作った甲斐があるってもんだ」
- 12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/05/25(金) 01:28:12.33 ID:Txyt+5iX0
騎士「・・・・・・ぐすっ」 ホロリ
鍛冶屋「・・・・・・え?」
騎士「本当に、っ・・・・・・ぐすっ・・・・・・う、本当に・・・・・・」 ポロポロ
鍛冶屋「泣くほど!?」
騎士「う、ん。 もう剣を大量に持ち歩かなくても済む。 おかしな目で見られることもない」
鍛冶屋「(まぁ、何本も剣を携えてたら、畏怖の対象には見られるだろうな)」
騎士「名剣を探すことも、武器屋の悲壮な顔を見なくていい」
鍛冶屋「・・・・・・」
騎士「今まで、どの鍛冶屋に頼んでもだめだった」
鍛冶屋「そうか」
騎士「私の・・・・・・私の剣だ・・・・・・っ」
鍛冶屋「(強すぎるっていうのも、大変なんだな)」
騎士「あ、すまない。 見苦しいものを・・・・・・」
鍛冶屋「そんなことねぇよ。 あんたにとっては、それだけ重要なことだったんだろ」
騎士「・・・・・・うむ」
鍛冶屋「なら、素直に喜んどいてくれよ。 その方が、俺も嬉しいぜ」
騎士「そうか・・・・・・。 そうだな」
鍛冶屋「ああ」
- 13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/05/25(金) 01:36:40.77 ID:Txyt+5iX0
騎士「ところで、この刀身に刻まれている文字のような紋様は何だ? 剣を振る度に光るのだが」
鍛冶屋「・・・・・・それは、制約だ」
騎士「制約?」
鍛冶屋「そうだ。 それを説明する前に、一つ言っておく。 あんたの剣は、剣として完璧じゃない」
騎士「? 何を言ってるんだ? どれだけ振り回しても、大丈夫な剣なんて今までなかったんだ。 完璧な仕上がりじゃないか」
鍛冶屋「それが制約の力だ。 呪い、魔法の一種だな。 ある条件の下に、無理や道理を押し通す。 あんたの剣に刻まれている文字というのがそれだ」
騎士「ほう、それは凄いものだな。 まじない一つで、ここまで強化されるのか?」
鍛冶屋「もちろん制約無しでも十分な物が出来た。 出来たとは思ったが、万が一ということもある。 だから、制約で保険をかけたんだ。 滅多にしないことだがな」
鍛冶屋「強化される延び幅は、その条件にもよる」
騎士「この剣にはどんな条件が付いているのだ?」
鍛冶屋「あんたは前に、依頼する剣では人を切らないと言ったよな?」
騎士「うむ、確かに言ったぞ」
鍛冶屋「だから、それに沿った形にした。 そうすれば、俺の信念にもかなう」
騎士「・・・・・・」
鍛冶屋「俺が剣に刻んだ制約を簡単に言えば、“人間をその剣で傷つけた場合、そのダメージが担い手にそのまま返る”っていうものだ」
騎士「なるほど・・・・・・そういう事か」
- 14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/05/25(金) 01:43:28.63 ID:Txyt+5iX0
鍛冶屋「悪いな。 喜んでいるところに水を差すような話で。 だが、言っておかなくちゃいけないことだった」
騎士「ふふ。 この度の戦は魔物が相手だし、問題はない。 それにだ・・・・・・」
鍛冶屋「ん?」
騎士「その様な制約がこの剣に付いていようと、私の胸に沸き上がる歓喜に陰りはない」
鍛冶屋「・・・・・・そうか」
騎士「そうさ。 なにせ、ついに手に入れた私の剣だぞ?」
鍛冶屋「まぁ、それでも万が一という事態が起こるかもしれない」
騎士「・・・・・・?」
鍛冶屋「出来には自信がある。 制約もきっちり働いている。 俺が作った作品の中でも限りなく完璧に近い。 だが、人が作り、人が扱う以上、絶対はない」
騎士「・・・・・・うむ」
鍛冶屋「俺は、話に聞く勇者の使う武具を目標にこの剣を鍛え上げた。 だが、さすがに神が造った武器には届かなかっただろう」
騎士「・・・・・・」
鍛冶屋「矛盾という言葉があるように、絶対に壊れないなんてことは・・・・・・あり得ないんだ」
騎士「・・・・・・う、ん」
鍛冶屋・・・・・・」
騎士「・・・・・・」
- 15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/05/25(金) 01:48:38.01 ID:Txyt+5iX0
鍛冶屋「・・・・・・で、だ」
騎士「・・・・・・?」
鍛冶屋「結局のところ、あんたの身に何かあって、大変なことになるのは俺も一緒だ。 何せ、その剣を作ったのは俺なんだからな。 ウチの看板に傷が付くのは避けたいし、俺の首が飛ぶのはもっと避けたい」
騎士「・・・・・・うむ」
鍛冶屋「だから、あんたと一緒に俺も行ってやるよ。 そうすれば、いつでも剣のチェックが出来る。 メンテナンス係だな」
騎士「え、いや、だが・・・・・・いいのか?」
鍛冶屋「何が?」
騎士「貴様の嫌いな生き死にがある戦場なんだぞ?」
鍛冶屋「別に、戦いのど真ん中に出るってわけじゃないんだ。 国境には砦もあるんだろ? 割り切るさ」
騎士「う、しかし・・・・・・」
鍛冶屋「せっかく手に入れた自分の剣が壊れるのなんて、あんただっていやだろ?」
騎士「嫌だ」
鍛冶屋「なら、答えは出ているんじゃないのか? 俺はもう言いたいことは言ったぜ」
- 16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/05/25(金) 01:56:34.02 ID:Txyt+5iX0
騎士「そうか・・・・・・そうだな。 では、よろしく頼むぞ鍛冶屋」
鍛冶屋「任せろ。 自分の仕事とあれば、一切手は抜かない」
騎士「現地に着いたら、隊長には私から説明しよう」
鍛冶屋「そうしてくれ」
騎士「出発の準備にはどれくらいかかる?」
鍛冶屋「もう済んでる。 初めから着いていくつもりだったからな」
騎士「そうか・・・・・・。 店はどうするんだ? 休業にするのか?」
鍛冶屋「ここの所、働きづめだったからな。 ここいらで休みをとっても文句はいわれないだろ。 依頼されていた日用品の手入れも済んでいるし、休みをもらうと知らせも出してる。 個人営業だからな。 これぐらいの融通は利くんだよ」
騎士「すまないな。 迷惑ばかりかける」
鍛冶屋「そう思うなら、早いとこ魔物を倒して、騒ぎを納めてくれ。 俺が世話を焼くのは自分のプライドのためだからな」
騎士「任せてくれ。 貴様の作った剣に賭けて、見事討伐を完了してみせよう」
鍛冶屋「ああ、期待してるよ」
- 17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2012/05/25(金) 02:01:22.44 ID:Txyt+5iX0
騎士「それで、お前の荷物は・・・・・・なんだそれは?」
鍛冶屋「いや、荷物だけど」 ズシッ
騎士「お前は自分の棺桶を持ち歩くのか」
鍛冶屋「これは鍛冶道具兼用の入れ物なんだよ」
騎士「なるほど。 用意のいいことだと感心するところだった」
鍛冶屋「・・・・・・何の用意だよ」
- 22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/25(金) 15:10:11.97 ID:gccUALEF0
―――街道
騎士「もう既に部隊は動いているから、我らは途中から合流することになる」
鍛冶屋「悪いな、完成がギリギリになっちまって」
騎士「無茶を言ったのはこちらだ。 詫びるなら私の方。 だから気にするな」
鍛冶屋「ああ。 ところで、王は元気か?」
騎士「日々政務に追われてはいるようだが、壮健であられるぞ」
鍛冶屋「そうか。 ・・・・・・王子は?」
騎士「あまり見ないな。 いや、見なくなったと言うべきか。 以前であれば、大衆の前にもよく顔をお見せになってはいたんだが」
鍛冶屋「体調でも悪いのか?」
騎士「そういった話は聞かないな。 そうであったとしても、我らのような者にまで、そのような情報は入ってこない」
鍛冶屋「だろうな」
騎士「何か気になる事でも?」
鍛冶屋「いや、なんとなく聞いただけ」
騎士「・・・・・・お前はお会いしたことでもあるのか?」
鍛冶屋「ははっ、まさか。 一介のボロ鍛冶屋には縁のない話だ」
騎士「ふふ、だろうさ」
鍛冶屋「・・・・・・お前から見て、今の国はどうだ?」
騎士「平和だな・・・・・・。 魔王が倒された今の世界は平和そのものだ。 遠方の国では、流星が城に落ちたなどと言う話もあるが、被害もそれほど大きくはなく、魔王とは関係ないという話だ」
鍛冶屋「だがそうなると、あんたらの仕事は極端に少なくなるんじゃないか?」
騎士「そうでもない。 魔王が倒れたと言っても、魔物の絶対量が減ったわけではないんだ。軍隊縮小の話は出ているが、まだまだ先の長い話だ」
鍛冶屋「先が長いと言えば、本隊とはどれくらいで合流できるんだ?」
騎士「馬を全力で飛ばして急げば夜中。 急がなければ、二日後だな」
鍛冶屋「・・・・・・けっこうあるな」
- 23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/25(金) 15:15:16.24 ID:gccUALEF0
騎士「国境だからな。 まぁ、本番でいきなりこの剣を使うわけにもいくかない。 慣らしも兼ねてゆっくり行こう」
鍛冶屋「そうか。 その辺りの事は畑が違うから、あんたの好きにしたらいいさ」
騎士「ああ。 それにしても、腕がなるな。 剣を気にせずに戦うなど、いつぶりの事だろうか」
鍛冶屋「はしゃぎすぎて振り回しすぎるなよ。 出来るだけ騎士道に恥じない立ち振る舞いを心がけてくれ」
騎士「む、私はいつでもそうだ」
鍛冶屋「さようですか」
騎士「ならば誓おう。 私は、貴様が作ったこの剣を、決して己の欲望を顕示するためには振るわないと」
- 24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/25(金) 15:27:15.00 ID:gccUALEF0
―――街道 夜
騎士「鍛冶屋、ずっと気になっていたんだが」
鍛冶屋「ん?」
騎士「その棺桶・・・・・・もとい、道具入れの中には何が入っているんだ?」
鍛冶屋「言っただろう。 鍛冶道具だって」
騎士「それにしては、大きすぎやしないか?」
鍛冶屋「そうだなぁ。 まぁ俺の扱う物は、人より少し大きめだから仕方ないんだ。 師匠からのお下がりだし」
騎士「貴様の師匠というのは、どういう人なのか、聞いてもいいか?」
鍛冶屋「別にこれといって特徴のない男だったよ。 普通と違うところがあるとしたら、背丈が俺の倍位はあったかな。 いや、三倍か?」
騎士「これ以上ないほどの特徴だと思うが・・・・・・」
鍛冶屋「そんな師匠が使ってたものだから、サイズが少しばかりでかいんだよ。 俺もその道具で慣れてきたから今更人並みの道具を使う気にもならないし、かえってこっちの方がいい時もある」
騎士「ほう・・・・・・」
鍛冶屋「ほとんど見よう見まねで鉄を叩いてた。 道具なんて重すぎて、ガキの頃は扱えなかった」
鍛冶屋「それでも、あの人の鉄を打つ姿が格好よくてなぁ。 絶対に諦めるなんて事は無かったんだ」
騎士「・・・・・・いい顔で話すのだな、師匠のことを」
鍛冶屋「あぁ? やめてくれよ。 あんな頑固オヤジ、思い出すだけでも拳骨の威力が頭に蘇ってくるぜ」
騎士「ふふ、そうか」
鍛冶屋「・・・・・・お前、絶対信じてないだろう」
騎士「何を言うか。 隣人を信じることも出来ずに何が騎士か」
鍛冶屋「ああそうだな。 あんたはそんな感じだ」
鍛冶屋「(しょっちゅう人に騙されていそうだ)」
騎士「・・・・・・何だ?」
鍛冶屋「いや、それがあんたの美徳なんだろうな」
- 25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/25(金) 15:43:37.11 ID:gccUALEF0
―――王城 地下牢
牢屋番「ん? この様な所に誰だ・・・・・・」
王子「・・・・・・」
牢屋番「お、王子!? 一体どうしたのです!?」
王子「牢屋番か」
牢屋番「はい。 あの、まさか、お一人ですか? 護衛も付けずに・・・・・・」
王子「すまない」
牢屋番「あ、いえ、出過ぎたマネを致しました。 お許しください」
王子「いいんだ。 君の言う通り、間違っているのは僕のほうだ」
牢屋番「王子、お体の方はよろしいのですか? あまりお顔を出さなかったようですが・・・・・・」
王子「ああ、大丈夫。 少しくらいなら、こうして歩き回っても支障はないよ」
牢屋番「あ、いや・・・・・・ですが・・・・・・」
王子「ところで、君はいつも、ここを一人で見ているのかい?」
牢屋番「普段は三人体制なのですが、此度の討伐に向けて城内の人手が足りなくなったこともあり、本日は私一人です」
王子「逞しいな」
牢屋番「いえ、職務ですので。 あと定期的に交代も入りますし、それに、この堅牢な牢獄からは絶対に誰も出れないでしょう」
王子「職務に忠実なのはいいことだ。 ということは、この国でもっとも牢内のことを詳しく知っている一人でもあるわけだ」
牢屋番「そう、なりますが・・・・・・」
王子「では、翌週に死刑が執り行われる罪人の事は知っているな?」
牢屋番「知っているもなにも、この国でそれを知らない民がいますでしょうか」
牢屋番「占い師とその身を偽り、関わった者の精気を吸い取る。 事が大々的に起こったことではないという事もあり、被害者の総数は、今だ検討もついていないとか・・・・・・」
王子「ああ。 分かっているだけでも、小さな村の幾つかが廃れ、消えていったという話だな」
牢屋番「捕まった時にはその所業もあり、国中にその話が広まりました」
王子「そうだな。 もしかしたら、私よりも有名人かもしれない」
牢屋番「お戯れはよしてください。 奴は王子様とは違いすぎます」
牢屋番「牢に入っている今とて、油断ならぬ相手です」
- 26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/25(金) 15:59:59.00 ID:gccUALEF0
―――砦
隊長「おお、戻ったか騎士よ」
騎士「はい。 無事、剣の受け取りも済み、いつでも交戦出来ます」
隊長「相変わらず血の気が多いな。 しばらくはまだ時間がある。 旅の疲れを癒すといい。 にしても・・・・・・」
騎士「はい?」
隊長「浮いた話の一つもなかったお前が、まさか男連れでとはな」
騎士「彼は鍛冶屋です。 ようやく出来上がった私の剣に万が一がないように、着いてきてくれたのです」
隊長「なんだ、もう少し脚色して周囲を驚かせようとは思わないのか?」
騎士「微塵も思いません」
隊長「だろうとも」
鍛冶屋「初めまして。 鍛冶屋といいます。 短い間ですが、お世話になります」
隊長「ああ。 あの騎士が使える剣を作った鍛冶屋がどんなステレオタイプの奴かと思えば、結構若いな」
鍛冶屋「師匠が早くに墓に入っちまったんで、我流も交えて細々とやってますよ」
隊長「今度私の剣も作ってくれないか?」
鍛冶屋「よしてください。 今回の件だって、半ば強引に事が運んだ故です。 もう一度作れと国が命じてきたとしても、二度と剣は作りませんよ」
隊長「ふむ・・・・・・。 もったい無い気もするが、それが君の考えなら仕方がないな」
鍛冶屋「いやほんと、騎士もあなたくらい素直に納得してくれていれば、面倒がなくてよかったんですけど。 まぁ、美人の泣きっ面が見れただけでも造った甲斐が・・・・・・」
騎士「・・・・・・」 シャキン
鍛冶屋「・・・・・・ゴホン」
隊長「ふふ。 どうやら短い間によい関係が築けたようだな。 大いに結構」
騎士「仕事の腕前だけは一目おいています」
鍛冶屋「それで十分だな。 他を期待されても困る」
隊長「そうでも無いぞ鍛冶屋。 少なくとも私は君に、騎士が泣いたという一部始終を今晩の食事の時にでも聞けることを期待しよう」
騎士「・・・・・・そんなフリをして」
鍛冶屋「・・・・・・俺が無事でいられると思いますか?」
- 27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/25(金) 16:14:03.06 ID:gccUALEF0
―――砦 食堂
鍛冶屋「へぇ。 それじゃあ今回の魔物討伐は、王子が派遣させたのか」
隊長「魔王がいなくなり、軍縮が進んでいるとはいえ、大所帯を動かすとなれば大金が必要だ。 そこで、王子様が国の財政、各部署の予算、人員をやりくりして、我々を動かせるだけの軍資金を捻出したのだ」
鍛冶屋「随分有能なんだな」
隊長「ああ。 それに、民のことをちゃんと考えてくださる」
隊長「国境に住む民は少ない。 それでも、魔物で苦しんでいるという事実を見過ごすことは出来ないお方なんだ」
騎士「王子のそういう所が、国民に支持されているんだ」
鍛冶屋「なるほど」
隊長「議会を納得させるためにろくな睡眠を取らず、資料を作ったりもしていた。 体調がよろしくないというのに・・・・・・」
騎士「それで・・・・・・あまり顔をおみせにならなかったのか」
隊長「国と民のことを誰よりも想っているんだ。 その暖かいお心遣いは、そう、まるでこの国を照らす太陽のようだ」
鍛冶屋「・・・・・・そうか。 王子はこの国の太陽か」
隊長「ああ」
鍛冶屋「・・・・・・いい国だな」
隊長「私もそう思う。 その国を守る使命を与えられている事に誇りを持っている」
鍛冶屋「頼もしい限りだぜ」
騎士「・・・・・・それにしても、隊長は随分と王子の事に詳しいようだ」
隊長「・・・・・・ん?」
鍛冶屋「確かにな。 ろくな睡眠もとっていないってのは、どうやって知り得た情報なんだろうか」
隊長「え、あ・・・・・・」
- 28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/25(金) 16:36:33.25 ID:gccUALEF0
騎士「謁見の最中にだって、そんな話は出ないと思うが」
鍛冶屋「体調が悪いっていうのも、あんまり知られていないことなんじゃないのか? なぁ騎士様よ」
騎士「初めて聞いたな」
隊長「それは、だな。 その・・・・・・」
鍛冶屋「それは・・・・・・?」
隊長「いや、手伝いをしたというか、進言したというか」
騎士「ほう、進言すれば王子のお手伝いができると・・・・・・もしや、私室にも入ったことが?」
鍛冶屋「騎士様よ、それだけお二人の中が親しいものであるということじゃないのか」
騎士「なるほど。 城にいる時、よく一緒にいる姿を見かけたが、そういう事か」
鍛冶屋「何、一緒に・・・・・・?」
騎士「ああ、お互い旧知の仲であるかのようにな」
隊長「・・・・・・」
鍛冶屋「そうか~。 なら、ここは俺たちが察してやるべきじゃないかな?」
騎士「ふむ。 そうだな。 察してやらんでもないな」
隊長「・・・・・・さて」
鍛冶屋「ん? 隊長殿?」
騎士「どうした?」
隊長「今夜は少し飲み過ぎたようだ。 私は先に部屋に戻る」
鍛冶屋「まだボトルも空いてないぜ?」
騎士「料理だってまだこんなに・・・・・・」
隊長「なぁ、二人とも・・・・・・」 ギロリッ
鍛冶屋「・・・・・・っ」
騎士「・・・・・・っ」
隊長「今宵話したことは他言無用だ。 もしこの事が他所の者の耳にでも入った場合、お前達二人とも王国の誇る大砲に詰めて星の彼方まで吹き飛ばす」
騎士「う、うむ。 私は誰にも言わないと約束しよう」
鍛冶屋「・・・・・・右に同じく」
隊長「そう願うぞ。 では、また明日。 お休み」
- 29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/25(金) 17:04:23.88 ID:gccUALEF0
―――王城 地下牢 最深部
王子「久しいな呪術師」
呪術師「おや、誰かと思えば、珍しいお客さんじゃないですか。 クックック・・・・・・。 見張りたちはどうしました? よくここまで、一人でこれましたねぇ。 物騒なことですよ・・・・・・」
王子「私は王子だ。人払いなど容易い」
呪術師「地下牢で人払いですか? 杞憂なのでは?」
王子「お前には関係のないことだ」
呪術師「クックック そうですか」
王子「いつかはここの住人になるだろうとは思っていたが、死刑の日取りが存外早かったな」
呪術師「ええ、私がここに来てからというもの、死刑囚が“原因不明の死”で次々と居なくなってしまったんですよ。 それで、順番が繰り上がってしまいましてねぇ。 参ったものですよ」
王子「私の耳にはお前が全員呪い殺したと報告されているが?」
呪術師「クックック。 そんな眉唾物の話を・・・・・・。 おっと、あなただけは信じざるをえないんでしたねぇ」
王子「・・・・・・呪術師、お前は死ねるのか?」
呪術師「さぁ、どうでしょう。 なにせ、死んだことがないものですから。 ですが、あなたは・・・・・・もうそれほど時間無いようですね」
王子「呪われた命だ。 これ以上ズルズルと生きているつもりはない」
呪術師「ではなぜ私の下に来たのです? そんな事を聞きに来たのではないはずだぁ。 さぁ、もうすぐ俗世より旅立つ私に何か?」
王子「・・・・・・今言った通りだ。 私の命を終わらせに来た」
呪術師「おやおや。 それほど急がずとも、近い内に望みはかないますよ」
王子「急ぎの用があるからこうして出向いてきているんだ」
呪術師「ほう・・・・・・」
王子「神を冒涜し、命を弄ぶ貴様なら、この先“私が死ぬまでに使うエネルギー”を寿命に集約させる事は可能か?」
呪術師「クックック。 出来ないことはありませんねぇ。 しかし、そんな事をすれば、王子の寿命は本当に短く、そうですねぇ、二日間で寿命は尽きてしまうでしょうが・・・・・・?」
王子「構わない。 その二日間が、我が生涯最良の日となるならば」
- 30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/25(金) 17:16:12.03 ID:gccUALEF0
―――砦 朝
騎士「では行ってくる。 貴様が詩でも創作している間に終わらせてくるぞ」
鍛冶屋「俺にそんな高尚な趣味はねぇ」
騎士「だろうとも」
鍛冶屋「存分に腕をふるってこい。 その為の、お前の剣だ」
騎士「・・・・・・ああ」
鍛冶屋「くれぐれも、魔物以外を斬ったりするなよ」
騎士「留意しよう」
鍛冶屋「万が一にもありえないだろうが、無事に帰ってこいよ」
騎士「擦り傷すら負わないさ」
鍛冶屋「だろうな」
騎士「それに、私ほどのものになると、そう簡単に傷を負うことも許されん。 矢の一本でも腕を掠めようものなら、士気が大きく下がる」
鍛冶屋「重役ってのは面倒臭いな」
騎士「しかし、誇らしくもある。 私は今の自分が好きだ」
鍛冶屋「そんな笑顔で言うってんなら、そうなんだろう。 羨ましい限りだ」
騎士「貴様は違うのか?」
鍛冶屋「いいや、超気にいってるよ。 好きな事やって、暮らしていくってのは万民が望むことだろ」
騎士「ほう。 鍛冶とはそれほどのものなのか?」
鍛冶屋「最高だな。 俺の天職じゃないかと思う」
騎士「天職か・・・・・・」
鍛冶屋「鉄を打つ音も、散る火花も、出来上がった物も。 全てが俺の心を満たしてくれる」
騎士「・・・・・・」
鍛冶屋「きっと俺は、死ぬまで鍛冶屋なんだろう」
- 31:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/25(金) 17:23:34.58 ID:gccUALEF0
騎士「ふ、なんだ。 お前もいい顔で、自分の仕事を誇っているじゃないか」
鍛冶屋「え、そうか?」
騎士「貴様がそこまで言う鍛冶、興味がわくな」
鍛冶屋「いや、繊細な作業を必要とするから、多分あんたには無理じゃないかな・・・・・・」
騎士「む、それはどういう意味だ」
鍛冶屋「多分、それに応えたら俺は無事ではすまない」
騎士「その物言いが全てを物語ったな」
鍛冶屋「い、いやいや。 まだ序章位だって」
騎士「随分と短い物語だったな」
鍛冶屋「お、お~け~。 よし、そ、それじゃあ機会があればちょろっとやらせてやるから。 な?」
騎士「・・・・・・」
鍛冶屋「ほ、本当は俺の聖域とも呼べる場所には誰も入らせないんだぜ? あんたは特別さ」
騎士「・・・・・・本当か?」
鍛冶屋「おうよ! まぁ、興味を持ってもらうってのは嬉しいことだしな。 鍛冶屋ってのは、案外地味な印象を持たれてるからよ」
騎士「・・・・・・うむ」
鍛冶屋「ほら、もう行かなきゃいけない時間じゃないのか?」
騎士「確かに、少々話し込んでしまったな」
鍛冶屋「隊長さんにもよろしくな」
騎士「うむ。 我らの勝ち鬨を心待ちにしているがよい」
- 41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 01:38:27.89 ID:YtfmjzCH0
―――砦 廊下
兵士「あれ、鍛冶屋さんじゃないですか。 どうされました?」
鍛冶屋「部屋でじっとしているのもなんだしさ。 何か手伝えることでもないかと思ってぶらついてるんだよ」
兵士「そんな、騎士様の大切な客人に手伝いなど・・・・・・」
鍛冶屋「大切な客人なんて、騎士当人が一番思っていないとは思うが・・・・・・。 なんにせよ、タダ飯喰らいになる気はないんだ。 やらせてくれよ」
兵士「し、しかしですねぇ・・・・・・」
鍛冶屋「こう見えて一人暮らしが長いからな。 料理、洗濯、力仕事、エトセトラ。 意外となんでもいけるぜ」
兵士「そういったものには、既に十分な人手がありますので」
鍛冶屋「う~ん、本当に何もないのか? 遠慮なんかされるとこっちが引け目に感じちまうよ」
兵士「はい。 此度の討伐には、王子様が万全の用意をして下さったので、いつも以上に安定した軍の運用がなされているんですよ」
鍛冶屋「へぇ。 本当に、すげぇな王子様ってのは。 政治手腕が伊達じゃぁないな」
兵士「本当にそう思います。 あの方のお蔭で、どれだけの人々が救われていることか」
鍛冶屋「あぁ。 アンタらの隊長が言っていたぜ。 この国を照らす、太陽の様な方だってな」
兵士「おっしゃる通りだと思います。 きっと、今後は我が国だけでなく、他国、大陸中を暖かく照らすお方となるでしょう」
鍛冶屋「(軍の隊長だけでなく、一介の兵にまでそう思われているのか・・・・・・。 本当に、凄い奴だな)」
兵士長「お、鍛冶屋殿じゃないか。 どうしたんだ、こんな所で?」
鍛冶屋「職探しってところかな」
兵士長「なんだそりゃ?」
兵士「鍛冶屋様が、何か手伝えることはないかと・・・・・・」
兵士長「はっはっは。 客人の手を煩わせるほど人出には困ってないな」
鍛冶屋「はぁ。 完成されたシステムは、時に虚しさを生むな」
兵士「そ、そんな落ち込まなくとも・・・・・・」
兵士長「そんなに手持ち無沙汰なら、砦内を案内しようか? もしかした、必要としている部署があるかもしれない」
鍛冶屋「おお、そうしよう! さ、そうと決まれば早く行こうぜ!」
兵士「・・・・・・よく分からないお方だ」
- 42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 01:52:25.79 ID:YtfmjzCH0
―――国境 交戦予定地
斥候「報告します。 魔物の群れは当方に対して横並びに広く分散し、現在も進行している模様です」
隊長「好都合だ。 敵一体一体の能力はそれ程でもない。 我が軍は最小単位を二人一組とし、これを殲滅する」
騎士「私は?」
隊長「お前は元々遊撃兼斬り込み隊を任せているんだ。 鍛冶屋に作ってもらったその剣、存分に振るってこい」
騎士「言われずとも、全ての魔物を屠るつもりで戦場を駆けてきましょう」
隊長「期待している。 しかし、一つだけ心に留めておけ」
騎士「?」
隊長「恐らくこの戦い、お前自身ですら知らなかった自分の戦い方を、初めて目の当たりにすることになるだろう。 お前は強い。 それはお前の剣が手に入った事で揺るぎないものとなった。 長年にわたって抑制された心に、しっかりと楔を打っておけ」
騎士「はい」
隊長「怪物と闘う者は、自分が怪物にならないように気をつけなければいけないんだ。 深淵を覗くならば、深淵もまた等しくお前を見返すという格言があるくらいだからな」
騎士「確かに、私ですら知らなかった全力を初めて向ける機会です。 本能の赴くままに敵を倒し、己を見失う可能性を示唆されてもしかたがありません」
隊長「・・・・・・」
騎士「しかし、私は彼に誓いました。 己の欲に振り回されないように、この剣を振るうと」
隊長「そうか。 ならば安心だ」
騎士「ただ・・・・・・」
隊長「ただ?」
騎士「自分ですら知らない全力を今回出すと思うと、逆にセーブのしどころが掴めるかどうか・・・・・・」
隊長「その心配はいらん。 友軍にさえとばっちりがこなければ、好きにやればいい」
斥候「敵、稜線より顔を出しました!」
隊長「よし!! 全軍、目の前の敵を迎え撃て!!」
騎士「切り込み隊! 突撃!!」
- 43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 02:06:17.76 ID:YtfmjzCH0
―――砦
―――鍛冶屋は案内された通りに砦を周り、改めて自分に出来る事は無いということを思い知った。
鍛冶屋「まさか、本当にすることがないとはな」
兵士「だから言ったんですよ」
兵士長「まぁ、兵達にも給料分は働かせてやらないと、あんたみたいに引け目を感じてしまう者が多いってこった」
鍛冶屋「真面目だなぁ」
兵士「では最後に案内するのは・・・・・・」
鍛冶屋「・・・・・・ん?」
兵士長「どうした鍛冶屋?」
鍛冶屋「いや、そこの通路の先、今光らなかったか?」
兵士「どうでしょうか。 私は気づきませんでしたが」
―――ニョロニョロ
鍛冶屋「ん? 蛇か?」
兵士長「これを光と見間違えたか?」
鍛冶屋「いやいや、それはないだろ」
兵士「どこからか、迷い込んだんでしょうか?」
兵士長「そりゃあ蛇の一匹くらい紛れ込んでることはあるだろうな。 平原ど真ん中、国境の砦ともなれば」
鍛冶屋「塀の外に放り投げるか」
兵士「ですね。 実害は今のところありませんし、殺すというのも気が引けますね」
鍛冶屋「それか、今晩のメシに一品追加するか」
兵士長「そういうことなら、料理長に掛けあってくれ」
- 44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 02:20:36.74 ID:YtfmjzCH0
―――ガルルルル・・・・・・
兵士「ご飯の話をした途端に、随分大きな腹の虫ですね」
兵士長「なんだ、朝は食わなかったのか?」
鍛冶屋「いやいや、俺じゃないって。 こんな獣みたいな腹の音なんて、どんだけ飢えてるんだってレベルだろ」
兵士長「じゃあ誰だ?」
兵士「僕じゃありませんよ」
兵士長「私でもないな」
―――ガルルル・・・・・・!!
鍛冶屋「・・・・・・これ、唸り声じゃないか?」
兵士「・・・・・・」
兵士長「・・・・・・」
―――三人はゆっくりと通路の角を見やる。 先ほどまでいた蛇の先には、獅子の顔をもち、背中にはヤギの頭を持った巨大な何かが顔を覗かせていた。
キマイラ「・・・・・・」
兵士「で、で、ででっ!?」
兵士長「こいつは!?」
鍛冶屋「おいおいおいおい!!」
キマイラ「ガァァァァァァァァァァァ!!」
―――キマイラが現れた!!
- 45:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 02:52:29.20 ID:YtfmjzCH0
―――国境 交戦地
騎士「はぁっ!!」
隊長「弓兵! 絶え間なく撃ち続けろ!!」
―――騎士の動きは、まさに竜巻であった。
斬撃は敵を一刀両断し、剣風は敵を巻き上げ、吹き飛ばしていく
土煙を高く舞い上げながら突撃していく様は、魔物たちの動きをたじろかせ、動きが鈍る。
それはもはや、自然災害と言っても過言ではないほど、凄惨な光景であるとも言える。
騎士の通過した後に、もはや動く対象は一つもないのだから。
そして、さらに隊長の指揮によって各部隊が敵を殲滅していく。
部隊の士気はさらに高まり、兵士たちは勇猛果敢に魔物へと立ち向かっていく。
その光景は、圧倒的な物量を押し出してくる魔物に対して、なおも優勢だと思えた。
騎士「(鍛冶屋・・・・・・貴様の作った剣は、今何人もの同胞を救っているぞ!!)」
騎士「無理をして作らせた分、必ずその成果に報いて見せるぞ!!」
―――今の騎士の戦闘に防御は無かった。
騎士の攻撃の全てが、敵の準備が整う前に切り伏せ、敵に準備が出来た頃には遥か遠くの敵を倒しているからだ。
もはやこの戦場に、その暴風を止めれるものなど存在しなかった。
- 46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 03:03:00.92 ID:YtfmjzCH0
連絡兵「隊長!! 砦内に魔獣が出現したとの報告がっ!!」
隊長「なに!?」
連絡兵「情報によれば、対象はキマイラ。 魔物の中でも、極めて危険な種族です!!」
隊長「(一体どうやって・・・・・・っ。この戦場にすらいない大物ではないかっ。 まずい、砦内には、キマイラほどの魔獣に対抗できる兵がいない。 それに、今ここで砦を落とされるわけにいかん!)」
隊長「騎士に伝えろ。 至急砦に戻り、現れたキマイラを討伐するようにと!!」
連絡兵「はっ!!」
隊長「各隊にも通達を出せ!! 陣形が突出しすぎないように細心の注意を!!」
連絡兵「了解です!!」
隊長「もちこたえてくれよ・・・・・・皆」
- 47:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 03:19:47.93 ID:YtfmjzCH0
―――砦
―――こっちだ!!
非戦闘員は裏門へ行け!!
どんなモンスターなんだ!?
大隊が出払っている時に・・・・・・っ
対象は大型!!
誰か隊長に知らせを!!
兵士「急いで!! 走ってください!!」 タッタッタッ・・・・・・!!
兵士長「い、一体どこから入ってきたんだ!?」 タッタッタッ・・・・・・!!
鍛冶屋「入口からじゃ・・・・・・ないよなっ」 タッタッタッ・・・・・・!!
兵士長「キマイラなんて高位の魔獣が、どうしてこんな所に・・・・・・」
鍛冶屋「(さっきの光・・・・・・あれが関係しているのか・・・・・・?)」
兵士「はぁ、はぁ・・・・・・。 隊長も騎士様もいないのに・・・・・・っ」
鍛冶屋「そんなにやばいのか? いや、見た感じハンパじゃないのは十分解ったけどな」
兵士長「悔しいが、太刀打ちできるような相手じゃない。 獅子の口からは灼熱の炎を吐き、山羊の胴体は俊敏性にすぐれ、蛇の尻尾をは猛毒を持っている。 魔界でも、そうそう見かける様な奴ではないという話だ」
鍛冶屋「そいつは・・・・・・確かにヤバそうだな」
兵士長「まったくだ。 そんな奴が、まさか目と鼻の先に現れるってのは・・・・・・」
兵士「何を呑気に!?」
- 48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 03:32:50.35 ID:YtfmjzCH0
鍛冶屋「・・・・・・っと、ちょっと待ってくれ!!」
兵士「鍛冶屋さん!? その部屋に何が・・・・・・」
兵士長「どうした鍛冶屋?」
鍛冶屋「ここ俺の部屋なんだ。 命と同じくらい大切な物をほったらかしにしておけないんだよ」
兵士「そ、そのスレッジハンマー(大型ハンマー)が、ですか?」
鍛冶屋「おうよ、俺の鍛冶道具だ。 あと、これは鉄を打つための金槌な」
兵士「(身の丈ほどもあるけど・・・・・・。 これで本当に鉄を打つんですか?)」
兵士長「それで、鍛冶をするってのか?」
鍛冶屋「ん? そうだけど?」
兵士長「・・・・・・本当かよ」
兵士「・・・・・・はっ!? も、もういいんですよね? い、急ぎましょう!!」
キマイラ「グルルルルル・・・・・・」
- 49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 03:45:48.47 ID:YtfmjzCH0
鍛冶屋「にしてもでけぇな。 何食えばあんだけでっかくなるんだよ」
兵士「ちょ、ちょっと鍛冶屋さん!! 通路の角から顔を出さないでください、見つかってしまう!!」
兵士長「まぁ、パンやパスタじゃないことは確かだな」
鍛冶屋「はぁ・・・・・・まさかこんな事になるとは。 大人しく家で鉄を叩いてたほうが良かったかな」
兵士長「過ぎた事を言ってもな。 今をなんとかしないとよ」
兵士「ええ、そうですね」
鍛冶屋「お仲間が何とかしてくれないのか?」
兵士長「さっきも言ったが、あれだけの魔物は、俺達の手には負えない。 魔界でも屈指の化け物だ。 出来ることは、この砦から出さないようにする事と、一刻も早くこの事を隊長か騎士様に知らせることだ」
鍛冶屋「出さないようにする事?」
兵士長「あいつをここをここで逃がしちまったら、近隣の街だけじゃなく、もしかしたら王国にも被害が及びかねないだろ」
兵士「今頃、砦の全兵士がその様に動いているはずです」
鍛冶屋「もし、隊長たちが苦戦していたら?」
兵士長「そん時は、あいつの腹の中だ」
鍛冶屋「・・・・・・聞かなきゃよかったぜ」
兵士「ええ、まぁ・・・・・・」
鍛冶屋「てことはなにか? 俺たちはあのキマイラを引きつけておくための餌か?」
兵士「遠回しに言うとそうなります」
鍛冶屋「単刀直入に言うと?」
兵士長「餌」
鍛冶屋「まんまか!?」
- 50:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 04:00:14.46 ID:YtfmjzCH0
キマイラ「ガァァァァァァ!!」
兵士「き、気づかれました!! こっちに来ます!!」
鍛冶屋「いい匂いがしてるんじゃないか!!」
兵士長「悪い気はしないが、今だけは勘弁して欲しいな!!」
兵士「キ、キマイラの口から何か・・・・・・っ!?」
兵士長「まずい!! 通路の角に飛び込め!!」
―――キマイラは獅子の口から灼熱の炎を吐き出した!
鍛冶屋「うぉ!? あぶねぇ!! ってあち!? あ、あっつ!?」
兵士「ちょ、直撃なんかしたら・・・・・・」
兵士長「うぉ!? 鎧ごと溶かされそうだな・・・・・・!!」
鍛冶屋「溶鉱炉はなれてるけど、そういうのは遠慮したいなっ」
兵士「って、また来ますよ!! 走って下さい!!」
鍛冶屋「ったく、とんだ役回りだぜ!!」
―――三人は息つく暇もなく我武者羅に走った。 しかし、キマイラは大きな胴体に似合わず俊敏な動きで執拗に追いかけてくる!!
- 57:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 21:18:08.46 ID:4SaEVxBB0
兵士「く、クソ!! 行き止まりです!!」
兵士長「畜生!! あいつ、俺たちをここに誘導したってのか!?」
鍛冶屋「袋小路か・・・・・・やばいな」
兵士「引き返そうにも・・・・・・」
兵士長「もうすぐそこまで来てやがる・・・・・・っ」
―――ガルルルル・・・・・・
鍛冶屋「慎重なのか、それとも遊んでるのか、直ぐにこないな」
兵士長「それでも、曲がり角一つ挟んだ位の距離だ」
鍛冶屋「くそ、こっちの本命はまだ到着しないのかよ」
兵士「敵に、圧されているのでしょうか・・・・・・」
兵士長「だとしても、今は信じて待つしかない」
兵士「自分にも、力があれば・・・・・・っ!!」
兵士長「言ったところでどうにもならん!! ここは、出たとこ勝負だ。 ただ黙って食い殺されるよりは、抵抗したほうが時間が稼げる!!」
―――兵士と兵士長は鍛冶屋の前に出る。 そんな事をしても、時間稼ぎにすらならないと知りながら・・・・・・。
鍛冶屋「お、おい! 捨て鉢になるなよ!! ちょいと撫でられただけでこっちは殺されちまうんだぞ!!」
兵士「そ、それでも、こうする以外に・・・・・・」
兵士長「へへ、家に帰ったら息子の誕生日を祝ってやるはずだったんだがな・・・・・・」
兵士「か、かぁさん・・・・・・」 グスッ
- 59:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 22:03:04.38 ID:4SaEVxBB0
鍛冶屋「だぁもう!! 俺だって死にたかねぇよ!! けど戦って勝てねぇなら、逃げるしかないだろ!!」
兵士「に、逃げるといっても・・・・・・」
兵士長「もう逃げ場なんて無いんだよっ」
鍛冶屋「んなこと知るか!! 無いなら作ってやるよ!!」
兵士長「一般人にそんなこと出来るわけないだろ!!」
鍛冶屋「・・・・・・っ、おい! この壁の向こうはどこなんだ!?」
兵士「そ、それがどうしたんです?」
兵士長「今そんなことを聞いてどうする!?」
鍛冶屋「いいから早く教えろ!!」
兵士「た、確か・・・・・・ああ、うん、そうだっ、食料庫だったはずですっ! 先月増設して作ったんだ、間違いない!!」
鍛冶屋「(なら、そんなに分厚くはないか・・・・・・)」
鍛冶屋「オーケー!! ここは任せろ!!」
兵士「な、何を言ってるんです!?」
兵士長「あのキマイラを・・・・・・倒せるというのか!?」
鍛冶屋「勘違いすんな。 一般人で戦闘ド素人の俺が、あんなの倒せると思うか?」
兵士「思いま、せん・・・・・・」
鍛冶屋「だろ? 無理無理。 逆立ちしたって勝てねぇよ」
兵士「で、では・・・・・・」
兵士長「どうするってんだ?」
鍛冶屋「俺にはあいつを倒すことは出来ないが、現状を何とかすることは出来そうだぜ!!」
兵士長「なん、だと!?」
鍛冶屋「あんたら、少し壁から離れてな」
―――鍛冶屋は壁の正面に立ち、両手に持った巨大な金槌を肩に担ぐように構える。
兵士「ま、まさか・・・・・・」
鍛冶屋「鉄以外を叩くのは気が進まねぇが、場合によっちゃあ仕方ねぇ!!」
兵士長「ちょ、ちょっとまっ・・・・・・!?」
鍛冶屋「うおぉぉぉぉらぁぁぁぁぁ―――!!」
―――全神経、筋肉が総動員し、両手に持った巨大な金槌が裂帛の気合と共に振り下ろされた!!
- 60:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 22:23:57.03 ID:4SaEVxBB0
―――ドガァァァァン!!
―――豪快に土煙が上がり、視界は一時不明瞭となる。
しかし、それもすぐに収まり、三人はその先に視線を向けた。
そこには、袋小路となっていた通路の壁に、大砲でも撃ち込まれたかのような大穴が出来ている光景があった!!
兵士「・・・・・・」
兵士長「・・・・・・」
鍛冶屋「・・・・・・逃げ道が出来たな」
兵士「増設とはいえ、堅牢な壁を・・・・・・」
兵士長「鍛冶屋、お前本当は何者だ?」
鍛冶屋「何者って、鉄を叩くしか能が無い男だ。 まぁ、今は非常時だから壁を殴ったが」
兵士長「キマイラも倒せそうな気もするんだが・・・・・・」
兵士「ええ・・・・・・」
鍛冶屋「無理だって言ってるだろ。 それに、それはあんた等の仕事。 忘れてないか? 俺はただの付き添いで来ただけだって事」
鍛冶屋「本当は今みたいなことだって、あんまりやりたくないんだぜ? 鉄以外の物を力任せにぶん殴って、仕事道具を傷めるかもしれないんだからな」
兵士長「・・・・・・だな。 あれを倒すのは俺達、軍の仕事だ」
兵士「・・・・・・ですね」
鍛冶屋「だろ? けどな・・・・・・」
―――鍛冶屋は瓦礫が飛び散った食料庫を見回す。
兵士長「どうした鍛冶屋?」
鍛冶屋「ここなら俺にも、あいつに一泡吹かせてやれそうだぜ」
兵士長「あいつって・・・・・・まさかキマイラのことか!?」
兵士「え、どういうことです?」
鍛冶屋「まぁ、あんまり説明してる時間もないんだ。 もうすぐキマイラもここに来ちまうだろうし」
兵士「確かに、その通りですが・・・・・・」
兵士長「何か策があるのか?」
鍛冶屋「ああ。 だが、これにはあんた達の強力が必要だ。 頼めるか?」
兵士長「・・・・・・恩人の頼みだ。 一回くらいは聞いてやるぞ」
兵士「は、はい!! 私に出来ることなら!!」
鍛冶屋「よし、じゃあ簡潔に説明するから、一回で覚えてくれよ。 別に難しいことじゃない」
鍛冶屋「・・・・・うまくいけば、俺達の勝ちだ!!」
- 62:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 22:56:15.30 ID:4SaEVxBB0
―――砦 食料庫
鍛冶屋が大穴を明けてからそれほど間を置かずして、キマイラが堂々と食料庫に姿を現す。
待ち構えているのは、鍛冶屋だけだった。
鍛冶屋「来たかいニャンコロ。 生憎だがここには人間様の食料以外は置いてないんだ。 残念だったな」
キマイラ「グルゥゥ!!」
鍛冶屋「それとも、遊び相手がほしかったのか? けど、それも無駄足に終わったな。 小突く程度にじゃれあうには、お前はちょっと強すぎる」
鍛冶屋「ここいらで幕引きとしようぜ? そうすれば、砦の修繕費には目を瞑ってくれるように俺から頼んでやるよ」
キマイラ「ガァウ!!」
―――キマイラの毒蛇であるしっぽが、鍛冶屋の頭をかすめる!!
鍛冶屋「っと!? へ、やる気満々か。 まったく、魔王がいなくなったってのに、血の気の多い奴がいるのは、人間も魔物もかわんねぇな」
鍛冶屋「まぁ、“あっち”はまだ美人だから可愛気がある。 だがお前は・・・・・・何だそのしかめっ面は。 少し白粉を顔に塗ったほうがいいな!!」
―――鍛冶屋は金槌の先で小麦粉の袋を引っ掛け、キマイラに向けて放り投げた!!
キマイラ「グルゥゥゥっ!!」
鍛冶屋「お、白磁の肌になったじゃねぇか。 似合ってるぜ!!」
キマイラ「ガァァウ!! ガァァァァ!!」
―――キマイラは目に小麦粉が入ったのか、縦横無尽に暴れまわり、食料庫内の全てをバラバラにし、積まれていた小麦粉、その他多くの食料が宙に舞う!!
鍛冶屋「あ~あ、これじゃあ俺も庇いきれねぇよ。 もったいねぇな。 何人分が駄目になったんだ?」
―――キマイラの鋭い眼光が鍛冶屋を捉える!!
鍛冶屋「キマイラさんよ。 俺はきっと、生のままより焼いた方が美味いぞ!!」
―――キマイラの口の中が、紅蓮に染まっていく!!
鍛冶屋「お前は不味そうだけどな」
―――食料庫には、場に似つかわしくない粉雪が舞っている。
鍛冶屋が投げつけ、キマイラが散々暴れて舞に舞った小麦粉だ。
その一欠片が、小さく煌めいた!!
瞬間――――――っ!!
- 65:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 23:45:29.11 ID:4SaEVxBB0
―――砦 食料庫外周
兵士長「急げ!! 食料庫に全大砲と弓を向けろ!!」
兵士「し、しかし大丈夫なのでしょうか? 鍛冶屋さんの作戦は無茶にもほどが・・・・・・」
兵士長「俺もそう思う。 正直、正気の沙汰じゃない。 だが、あの時見た鍛冶屋の目は、そういう不安を払拭させるような自信に満ちていた。 有無を言わせない何かってやつが・・・・・・」
―――その時、轟音と共に、食料庫が瓦礫を吹き飛ばしながら大爆発を起こした!!
兵士長「・・・・・・っ!? 合図だ!! 撃て!! 放てぇぇぇ!!」
―――続いて鳴り響くのは、鉄の筒装填されし砲弾を火薬によって押し出す重厚な攻撃音。 そして、空を裂き、雨のように降り注ぐ矢を発する弦の音。
砦内に残るほとんどの兵が、残存する大砲の横に立ち、弓を構え、今だ視界の晴れない瓦礫が舞い散る食料庫に向けて攻撃をし続ける!!
兵士長「撃ちまくるんだ!! 動く暇も、逃げる暇も与えるな!! ここで倒せなければ、兵士の名折れだぞ!!」
―――兵士の誰もが、着弾点に舞い上がる激しい土煙と舞い上がる瓦礫に、朧気にさえ、目標を確認できなかった。
ただ、その事に対して誰一人疑問を持つ者はいなかった。
不安がないわけではない。 目の前に敵がいないかもしれない。 その時は、背後から自分の頭が刈り取られるかもしれない。
しかし、このまま援軍・・・・・・騎士か隊長がこなければ同じこと。 他の村や町、城下が危険にさらされるかもしれない。
ならば、攻勢に出れる今を信じる。
兵士ですらない男が作り出した、この好機を!!
- 66:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/26(土) 23:50:29.74 ID:4SaEVxBB0
兵士長「(鍛冶屋、無事なんだろうな!?)」
兵士「(鍛冶屋さん・・・・・・)」
―――絶え間ない攻撃をし続け、大砲の弾も、放ち続けていた矢も残りが少なく立ってきた頃。
状況を見定めるため、兵達は攻撃を停止させた。
砦にいる全ての人間が、固唾を飲んだ。
空気さえ凝固してしまいそうな緊張感が、その場を満たしていた。
兵士長「・・・・・・」
兵士「・・・・・・」
―――一どこからともなく吹いたそよ風が、落ち着きつつあった食料庫の煙を、毛布を広げるように払っていく。
誰もが注目する食料庫のど真ん中。 食料など微塵も残っていない着弾点に―――。
巨大な体躯を持つキマイラが力無く横たわり、身動き一つせず・・・・・・沈黙していた。
- 67:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/27(日) 00:14:27.27 ID:UbLpsofN0
兵士長「やった・・・・・・か?」
兵士「最初の爆発に始まり、あれだけの攻撃・・・・・・。 これなら・・・・・・」
キマイラ「ガ、ググ・・・・・・」
弓兵「う、動き出した!?」
砲撃手「生きてるぞ!!」
兵士「まさか、あの攻撃に耐えるなんて!?」
兵士長「くっ、駄目か・・・・・・いや、だがキマイラも相当弱っているはずだ!!」
キマイラ「グ、ガルゥ・・・・・・」
鍛冶屋「往生際が悪いぜニャンコロ!!」
―――その声と同時に、瓦礫の中から調理用の大型鉄板が上空に吹き飛び、下から鍛冶屋が金槌を振り上げながら飛び出した!!
兵士長「か、鍛冶屋!?」
―――鍛冶屋は金槌をキマイラの獅子の顔に叩きつけようと振り下ろす!!
しかし、その攻撃は獅子の牙によって受け止められた!!
鍛冶屋「ま、マジかよ!?」
兵士長「鍛冶屋!! もういい!! 逃げろ!!」
兵士「鍛冶屋さん!! 早く逃げてください!!」
鍛冶屋「ん、んなこと言われても・・・・・・っ!?」
―――鍛冶屋は金槌を引き戻そうとするが、顎の力があまりに強く、引き戻せない!!
キマイラは弱々しくその体躯を起き上がらせ、獅子の口の奥には、紅蓮の炎が宿り始める!!
兵士長「鍛冶屋!!」
兵士「鍛冶屋さん!!」
鍛冶屋「くそ、ダメか・・・・・・っ!?」
騎士「いや、よくぞ持ちこたえた」
―――砦内が絶望の下に静まり返ろうとしていた時、上空より、キマイラめがけてハヤブサの如く急降下してきた騎士が、動きの鈍くなった獲物の心臓をその巨体ごと、鍛冶屋より受け取った大剣で大地に縫いつけた!!
その衝撃と急所を破壊された事により、キマイラは今度こそ、間違いなく生命活動を停止させた。
- 75:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/27(日) 21:28:31.50 ID:LPwFKio70
鍛冶屋「・・・・・・ったく、遅いぞ騎士」
騎士「む、これでも急いだ方だぞ」
――― 一瞬の静寂のあと、砦のいたる所から歓声の声があがった。
兵士「ありがとうございます騎士様!! そして、鍛冶屋さんも!!」
兵士長「いや~、それよりもよく無事だったな。 うまくやると言っておいて、ろくな説明もなかったから焦ったぞ」
兵士「そうですよ。 よくぞご無事で」
鍛冶屋「まぁ、ちょっと髪が焦げたかな」
騎士「遠目からもあの爆発は分かったが・・・・・・一体あれは何だったんだ? 砦中の火薬を使いでもしたか?」
鍛冶屋「あれか? あれは小麦粉を使った、ただの粉塵爆発だ」
兵士「粉塵爆発・・・・・・ですか?」
鍛冶屋「保管庫を見た時、密閉された空間と小麦粉をみて、ピンと思いついたんだよ。 昔、師匠と鉄鉱石を取りに行った時にどんな物か、話だけは聞いていたからな。 小麦粉でも起こるってのは知ってた」
騎士「聞きかじった知識だけで・・・・・・」
鍛冶屋「ああ。 あとはアドリブ」
兵士長「アドリブだって? あれがか?」
鍛冶屋「上手くいくんじゃないかなぁって思ったんだよ」
騎士「お前は、その爆発のまっただ中にいたんじゃないのか?」
鍛冶屋「いたよ。 まぁ、キマイラと接触する前に、ちゃんと深い塹壕を掘って、爆発する瞬間は料理用に使うでかい鉄板を上からかぶったから無事だった。 ただ、酸欠になりそうだったけどな」
騎士「塹壕だと? 兵達皆で掘ったのか?」
鍛冶屋「俺だけだよ。 そんな皆で一斉にやってたら、誰が大砲と矢を打つんだよ」
騎士「そんな、馬鹿な・・・・・・」
兵士長「・・・・・・いや、鍛冶屋なら出来るな」
兵士「はい、鍛冶屋さんになら・・・・・・一瞬じゃないでしょうか」
- 76:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/27(日) 21:50:19.78 ID:LPwFKio70
騎士「本当、なのか・・・・・・。 っ!? 鍛冶屋!! 貴様、右腕が・・・・・・っ!!」
鍛冶屋「ん?」
兵士長「お、おい!! 何が髪が焦げただ!! 腕に鉄が食い込んでるじゃないか!!」
兵士「あ、あ、ああ・・・・・・」
騎士「出血は!? 他にはどこか怪我を・・・・・・っ」
鍛冶屋「お、落ち着けお前ら。 俺なら大丈夫だ。 問題ない、本当、全然、痛くないから」
兵士長「バカ野郎!! 痛くないならなおさら重症だ!!」
兵士「早く診てもらわないと!!」
騎士「誰か!! 担架を持ってきてくれ!!」
鍛冶屋「いや、だから違うんだって! ほら、騎士もそう慌てるなって。 今袖をまくるから・・・・・・」
騎士「・・・・・・!? そ、それは・・・・・・」
兵士長「鉄の、腕?」
兵士「もしかして、義手・・・・・・ですか?」
鍛冶屋「ああそうだ。 俺が無事だったのは、この腕のおかげでもあるんだよ。 パワーも結構出るし、ずっとこの腕で鉄板を抑えてたんだ」
騎士「・・・・・・はぁ」
兵士長「そういう事は」
兵士「先に言ってくださいよ」
鍛冶屋「はははは!! 悪い悪い、言ってなかったなそう言えば」
騎士「・・・・・・要らぬ心配をさせるな!!」
鍛冶屋「ま、まぁいいじゃねぇかよ。 終わったことだし。 ちょっと散らかしちまったけど、結果オーライだろ」
兵士長「これが・・・・・・」
兵士「ちょっと・・・・・・」
騎士「・・・・・・そう、だな。 いや、よくやってくれた鍛冶屋。 お前のおかげで、多くの兵士が救われたぞ」
鍛冶屋「大げさだろ。 タダ飯食らいがいやで、偶然やれることが舞い込んできただけだって。 直接倒したのはあんた等と騎士だろ」
兵士長「謙遜するな。 あの怪物は、お前がいなければ倒せなかったぞ」
兵士「もしかして、照れてるんですか?」
鍛冶屋「照れてねぇ!!」
騎士「ふふ、お前がそう言うんなら、それでも構わん。 だが、ありがとう。 この言葉位は受け取ってくれ。 それとも、王国最強である私からの感謝では不服か?」
鍛冶屋「・・・・・・いいや。 ありがたく貰っておくぜ。 騎士様よ」
- 77:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/27(日) 22:08:50.26 ID:LPwFKio70
―――その日、別の場所では見事討伐を終えた隊長率いる兵達は勝ち鬨を上げた。
また、砦内にて高位の魔獣、キマイラを少人数で討伐したという事で兵士達は大いに盛り上がり、その立役者である鍛冶屋を含めて簡単な宴を催した。
砲撃手「あれは凄かったぜ!! あんなに砲弾が命中しても動き出したキマイラを見たときは冷や汗が出たけどよ~」
突撃兵「騎士様の切り込みっぷりには毎度の事驚かされますぜ! 新しい剣を手にしてからは、輪をかけてヤバイ!!」
弓兵「しっかし、鍛冶屋殿は本当に戦闘経験がないんですかね~。 度胸あるな~」
―――稀に見る快挙に、その中心人物である鍛冶屋は屈強な男達に「よくやった」と肩や背中を叩かれまくり、相当くたびれていた。
その光景を微笑ましく見ていた隊長と騎士もその輪に加わり、宴は大いに盛り上がった。
しかし、食料庫が吹き飛んでしまったため、殆ど酒オンリーの酒宴であった事は言うまでもない。
- 78:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/27(日) 22:49:45.69 ID:LPwFKio70
―――砦 翌日
騎士「すまないな、早朝から剣の手入れを頼んでしまって」
鍛冶屋「何言ってんだよ。 俺はこの為に着いてきたんだぜ」 カン カン カン
騎士「それはそうだが・・・・・・。 昨日の今日で、貴様も疲れているだろうと思ってな」
鍛冶屋「ああ、確かに酒宴の席で兵士達に引っ張りまわされて疲れたってのはあるな」 カン カン カン
騎士「ふふ、そうか・・・・・・」
鍛冶屋「・・・・・・ふぅ。 よし、これといって刀身に不具合は無いな。 剣のメンテナンスは初めてだし、軽く調子を見ただけだが、やっぱり剣の使い方がしっかりしてると武器も長持ちするな」
騎士「自分の作った剣が優秀だから・・・・・・とは思わないのか?」
鍛冶屋「そこは当然の事と織り込み済みだ」
騎士「だろうな」
隊長「二人とも、もう準備はいいか? そろそろ出発しよう」
―――街道
隊長「討伐を終え、加えて大物を倒したとは言っても、砦の食料庫が吹き飛び、食料の殆どを失ってしまったからな。 報告に戻らなくてはならない」
騎士「早馬を飛ばさないのですか?」
隊長「どの道私がいなければ進まない話がほとんどなんだ。 ならば、直接出向いた方がいい」
鍛冶屋「俺が同行している理由は?」
隊長「主戦力の騎士に剣を作った事、機転を効かせた方法でキマイラを倒した事。 この功績は無視できないだろう」
鍛冶屋「倒したのは騎士だって言ってるだろ。 いや、ていうか本当に、別に無視してくれてもいいんだけど」
隊長「勿論そうだが、それ程変わらないよ。 あのタイミングを作ったのは鍛冶屋なんだから」
騎士「食料庫も吹き飛ばしたしな」
鍛冶屋「悪かったな、面倒事を拵えちまってよ!!」
騎士「ふふ、冗談だ」
鍛冶屋「(こいつ、義手のこと黙ってたのまだ根に持ってるのか・・・・・・?)」
隊長「我らは君に感謝の念しかないよ。 砦の修繕は確かに大事だが、兵達の命がそれで救われたのだ。 よその国がどうかは知らないが、我が国のトップは、むしろよくやったと肩を叩いてくれるだろうさ」
鍛冶屋「・・・・・・なのかぁ? 実は締め上げられるなんてオチは勘弁してくれよ?」
騎士「緊張してるのか?」
鍛冶屋「へっ、まさか。 それはないけどな。 ただ・・・・・・」
騎士「ただ?」
鍛冶屋「形式張った事とかあるんだろ? 俺そういうのよく分かってないからなぁ」
隊長「大丈夫。 キマイラを倒すことよりずっと簡単だよ」
- 79:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/28(月) 00:10:06.90 ID:uRxEsCQc0
騎士「しかし、貴様はいつもああいう事をポンと思いつくのか? というか、すぐ実行に移すのか?」
鍛冶屋「言っただろ、あの時はたまたまそれが良い考えだと思ったんだよ」
騎士「たまたま、か・・・・・・」
隊長「ふむ・・・・・・」
鍛冶屋「どうした?」
騎士「・・・・・・鍛冶屋、貴様は前に、人の生き死にには関わりたくないと言っていたな」
鍛冶屋「ん? ああ、確かに言ったな」
騎士「そこに、自分がちゃんとはいっているのか?」
鍛冶屋「・・・・・・自分?」
騎士「あの作戦は、確かに見事だった。 だが、一つ間違えればお前は間違いなく死んでいた」
鍛冶屋「・・・・・・いや、まぁ、かもな」
騎士「熟読の末、覚悟の上で行われた行動なら、まだ納得のしようもあるが、パッとの思いつきで即実行する決断力は、酷く危ういものだ。 指揮官ならばそれは必要だろう。 だが、鍛冶屋は一般人だ。 食糧庫に抜けた時、兵士達にその場を任せて逃げてもよかったんだ」
鍛冶屋「言いたいことは、まぁ分かるぜ。 けど、その後兵士達が騎士の到着まで逃げ切れずにやられてたら、結局全滅してたかもしれないだろ?」
騎士「ああ。 だが、別に貴様が危険を犯す必要はない。 鍛冶屋が食料庫でやった役割を、その場に居た他の兵に任せても良かったはずだ」
鍛冶屋「うっ・・・・・・」
騎士「私は貴様を責めているわけではない。 限られた時間の中で、確かに作戦の発案者が動いたほうが効率がいいかもしれない」
騎士「しかし、民のために命を賭ける兵ではなく、守るべき民が命を賭けねばならない事に、私は・・・・・・」
鍛冶屋「騎士・・・・・・」
隊長「・・・・・・私と騎士は、宴の後、二人でその事を話し合っていてな。 騎士の言うことにも一理あるんだ」
騎士「私の剣を思い、付き添いをしてくれるのはありがたい。 本当にうれしく思う。 だが、それで戦場まで来てくれた貴様が、本来の役目とは全く別のことで傷つくことになったら、私は忍びない」
鍛冶屋「・・・・・・ああ」
隊長「結果論で言えば上手くいった。 しかし、また次も成功するとは限らない。 食料庫という場所、キマイラの行動、騎士のタイミング。 どれかが少しズレていてもだめだった」
鍛冶屋「確かにな。 二人の言う通りだ」
鍛冶屋「はは、普通そうだよな。 何で、自分からあんな事したのか・・・・・・」
隊長「鍛冶屋・・・・・・」
鍛冶屋「けどよ、さっきも言ったけど、あの時は本当にいい考えだと思ったんだよ。 これで、うまくいけば皆生き残れるってな」
隊長「もちろん、疑ってないよ。 そのおかげで、私は部下を失わずに済んだ」
騎士「私もだ。 あの時の感謝に、偽りはない」
騎士「それに、思い出したんだ。 砦で討伐の出かけ際に話していたことを」
鍛冶屋「話・・・・・・?」
騎士「誇らしげに自分の仕事を話すお前は、戦場には似合わないと、その時思ったんだ。 だから、偶然とはいえ今回のこと、巻き込んでしまって本当に申し訳ないと思っているんだ」
鍛冶屋「お、おいおい待ってくれよ。 戦場に着いてきたのは俺の意志だ。 あんたが責任を感じる事なんてないんだぜ?」
鍛冶屋「ていうかもう終わったことじゃねぇか。 ほらほら、何沈んだ顔してるんだよ騎士。 俺も軽率だったって。 な? はい! もうこの話終了!! おしまい!!」
騎士「鍛冶屋・・・・・・」
隊長「・・・・・・そうだな。 鍛冶屋もそう言ってくれているし、もうこの話はやめよう」
騎士「・・・・・・うん」
鍛冶屋「ほら、何かこの空気を吹っ飛ばす話題は無いのか隊長さんよ?」
隊長「私としては、二人きりで出かけ際に話していたという話に興味があるけどな」
鍛冶屋「・・・・・・いや、それは改めて語るとなると恥ずかしいというか、面倒臭いというか」
隊長「なに、先は長いんだ。 小さな話題でもどんどん掘り下げていこうじゃないか」
- 80:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/28(月) 00:47:08.26 ID:uRxEsCQc0
―――王城 謁見の間
王「おお、王子! もう体調は良いのか? 昨日までの顔色が嘘のようだ」
王子「はい。 長くご心配をお掛けしました。 ですが、今朝はとても気分が良かったのです」
王「無理は、していないか?」
王子「嘘のように快調ですよ。 今なら隣国までジョギング出来そうなくらいに」
王「はっはっは。 そうか。 だが、そんなことをしてまた倒れてしまってはもともこもないぞ。 病み上がりなのだから、まだゆっくりと休んでいなさい」
王子「お心遣い、ありがとうございます。 私も本当はご挨拶の後、ゆっくりと中庭で本などを読みながら微睡みに落ちようかと思っていたのです」
王「なかなか良い思いつきだ。 出来ることなら私が代わりたい程にな」
王子「ええ、父上ならそういうと思って、今回はやめておこうと思い止まったのです」
王「お前は相変わらず口がうまいな。 一体誰に似たのか・・・・・・」
王子「政治を学べば、皆上手くなるものですよ」
王「そうだな。 そうかもしれぬ」
王子「・・・・・・実は、本日父上の下に参ったのには、一つ訳がありまして」
王「む、何だ? 申してみよ」
王子「はい・・・・・・」
王子「久しく行っていなかった、あの場所へ・・・・・・」
王子「兄さんのもとへ、足を運びませんか?」
- 81:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/28(月) 01:16:30.19 ID:uRxEsCQc0
―――城下町
隊長「謁見までには時間もかかるだろう。 その前に、行きたい所があるんだが、騎士と鍛冶屋も着いてきてくれないか?」
鍛冶屋「行きたいところ?」
騎士「隊長は城に帰ってきたら、何処よりも最初に行く場所があるんだ」
鍛冶屋「お、美味いものでも食いに行くのか?」
隊長「それは謁見が済んだ後でな」
鍛冶屋「なら風呂か? 確かに、謁見前に身だしなみを整えるのは大事だよな」
隊長「それも謁見後で大丈夫だ。 我が王はそこまで潔癖症ではないさ」
鍛冶屋「・・・・・・自宅?」
騎士「それも違う。 帰還の挨拶だ」
鍛冶屋「いや、それも込みで謁見するんだろ? ・・・・・・え、王より先に挨拶する人がいるのか? 誰に?」
隊長「本来は一般の民は入れないのだが、今回は特別だ。 国の危機を救い、民の為に貢献した鍛冶屋の事をきっとお喜びになって下さるだろう」
鍛冶屋「・・・・・・ちょっと待て、そんなに凄い人? 全然聞いてないんだけど?」
騎士「ふふ・・・・・・」
鍛冶屋「いやいや、笑い事か?」
鍛冶屋「隊長さんよ、別に俺ここで待ってても・・・・・・」
隊長「そう言うな。 ご挨拶するのは私の知人であり、兄妹弟子でもある人だ」
鍛冶屋「兄妹弟子・・・・・・? ま、まぁそれなら・・・・・・」
隊長「そして・・・・・・」
隊長「この国の、王子の・・・・・・兄君だ」
- 87:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/28(月) 22:56:26.67 ID:PJH2QXMg0
―――10年前 王城
弟「ねぇ、兄さんは王になったらどうする? 何をしたい?」
兄「俺はそもそも、王になりたくないよ」
弟「そうは言っても、いずれは兄さんがこの国を任されることになるんだよ?」
兄「・・・・・・それじゃあ、俺が何にもしなくていい国を作る。 で、遊びまくる」
弟「そんな夢物語な・・・・・・。 王家としてどうしたいかだよ」
兄「だから、難しいこと考えるのは苦手だし、そんな面倒くさいこと俺には向いてないんだよ」
弟「そうかなぁ。 むしろ兄さんだからこそ向いてる気がするけど・・・・・・」
兄「おいおい、どこがだよ・・・・・・。 俺より頭のいいお前のほうがよっぽど王の素質があるだろ」
弟「兄さんだって勉強しないだけで、僕と同じくらい頭がいいじゃないか」
兄「それはない」 キリッ
弟「ある。 というか、僕が言いたいのはそういう事じゃなくて、兄さんの行動力のことだよ」
兄「行動力?」
弟「うん」
兄「・・・・・・あるか~?」
弟「あるよ。 多分、城内の人皆が僕と一緒の考えだと思うけど」
兄「どうしてそんな事が分かるんだよ。 聞いて回ったのか?」
弟「聞かなくても耳に入ってくるんだよ。 兄さんのやんちゃっぷりはどこにいても耳に入るんだから」
兄「・・・・・・ふ、まぁな」 ドヤァ
弟「毎日のように城から抜け出そうとする。 書庫の本は落書き帳に早変わり。 摘み食いなんて当たり前で、勉強中に居眠りをしなかった日なんてないでしょ」
兄「最後のは関係ない気もする・・・・・・」
弟「そして、いつも僕の手を引いて、冒険に連れて行ってくれるじゃないか」
兄「お前を連れて行くのは城内限定だけどな。 万が一親父に見つかったら地獄を見る」
弟「もうお父上も諦めてるんじゃないかなぁ」
兄「それに、やっぱ冒険は一人じゃつまんないだろ」
弟「・・・・・・うん」
兄「部屋に閉じこもって勉強するのもいいけど、たまには体も動かさなきゃな」
弟「それなら、いつも剣の稽古で動かしてるじゃないか」
兄「いやいや、お前は数回棒を振っただけですぐにばてるだろ。 だから、基礎体力向上の為にだな・・・・・・」
弟「って、そういえば、そろそろ稽古の時間じゃない?」
兄「・・・・・・うへぇ」
- 88:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/28(月) 23:20:18.85 ID:PJH2QXMg0
―――王城 中庭
先生「兄は勉強はからっきしだというのに、こういうのは本当に筋がいいな」
兄「へへ、まぁね」 ブン! ブン!
弟「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
先生「弟も相変わらずだな。 そんなんじゃ、ウチの娘にもやられちゃうぞ?」
娘「お、お父さん!」
弟「あ、あはは・・・・・・はぁ」
兄「娘も言ってやれよ、本ばっかり相手にしてないで、体も動かしましょうって」
娘「い、いえ。 お勉強も大事かと・・・・・・」
先生「そうだな。 確かに勉強も大事だ。 それに、大きくなった時には、君達は剣を持つこともなくなるだろう」
兄「まぁ、そうだろうな」
弟「・・・・・・ですね」
先生「きっとその頃には、娘も二人を守れるだけの・・・・・・そうだな、軍を率いる隊長位になっているだろうな」
兄「娘なら本当になっちゃうかもな」
娘「は、はい。 頑張って今以上に腕を磨きます!」
兄「(今以上って・・・・・・)」
弟「(ただでさえ兄さんより強いのに・・・・・・)」
娘「・・・・・・? あの、その腕に巻いているのはなんですか?」
兄「ん? ああこれか。 なんでも、願いの叶う組紐(くみひも)らしい。 弟がくれたんだ」
弟「兄さん? 僕の記憶違いじゃなければ、ようやく完成した組紐を勝手に持って行っちゃったはずなんだけど?」
兄「っく、持病の記憶障害が・・・・・・っ」
弟「随分都合のいい持病ですね」
兄「・・・・・・はっ、ここは、中庭か?」
弟「もういいです」
兄「いいじゃねぇか。 その後自分でもう一つ作ったんだろ?」
弟「やむを得ずですけどね」 ジトッ
- 89:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/28(月) 23:22:09.22 ID:PJH2QXMg0
娘「綺麗ですね~!! 手作りなのですか?」
弟「うん、そうだよ」
兄「こいつ、手先は本当に器用だからな」
娘「模様も丁寧に編み込まれてて・・・・・・ステキです!!」
弟「そ、そうかな・・・・・・。 よかったら、君にも作ってこようか?」
娘「え!? いえ、そんな・・・・・・私なんかが・・・・・・」
弟「遠慮しないでいいよ。 難しいものでもないし」
娘「そ、そうなんですか?」
先生「作ってもらったらいいじゃないか。 将来どんな付加価値が付くか・・・・・・」
娘「・・・・・・トウサン?」 ギロリ
先生「なんていうのはもちろん冗談で、せっかくのご好意だし、頂いたらどうだい?」
兄「ちなみに、この組紐は切れた時に願いが叶うそうだぜ」
弟「まぁ、ジンクスってやつだよ。 結ぶ時に願をかけるんだ」
娘「そう、ですか・・・・・・。 あの・・・・・・っ」
弟「ん?」
娘「組紐・・・・・・お願い、出来ますでしょうか?」
弟「うん、もちろんだよ!」
- 90:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/28(月) 23:35:41.72 ID:PJH2QXMg0
―――王城 王の私室
弟「兄さん、ここはさすがにまずいんじゃ・・・・・・」 コソコソ
兄「何言ってんだよ。 だからスリルがあって面白いんじゃないか」 コソコソ
弟「だからって、父上の部屋に無断で入るなんてまずすぎるよっ。 干肉背負って虎穴に入るようなものだよ。 もしもこんなことがバレたら・・・・・・」
兄「弟・・・・・・」
弟「兄さん・・・・・・」
兄「その時は・・・・・・」
弟「その時は・・・・・・?」
兄「笑ってごまかそうぜ」 キラン
弟「全然笑えないよ」
兄「にしても、何にもね無ぇな。 お宝の一つでもあったらそれらしくさまになるんだが・・・・・・」
弟「いやいや、ゲットしても持ち帰れないよ。 それこそ大目玉だ」
兄「別に何だっていいんだけどな。 親父の部屋にしかない、これだっ! って感じのものなら。 けどまぁ、本当に何もなさそうだな」
弟「父上は私室に仕事を持ち込むのを嫌うみたいだね」
兄「う~ん、ダンジョン最深部に何もなかった時の虚しさか・・・・・・」
弟「行ったこともないでしょ」
兄「けどよ、もう少し何かあってもよさそうじゃないか。 生活感がなさすぎるぞ」
弟「もしあったとしても、誰かの目につくような場所には大切な物を置かないんじゃないかな」
兄「・・・・・・かもな」
弟「ほら、何も無いって分かっただけでも収穫だよ。 早く戻ろうよ」
兄「・・・・・・へぇ~い、ビビっちゃってるのかい弟よ」
弟「兄さん!」
兄「分かった分かった。 そう声を張り上げると本当に見つかるぞ」
弟「はぁ・・・・・・」
兄「それじゃ、しっかりついてこいよ。 生きて帰るまでが冒険だ」
弟「これスパイ活動じゃ・・・・・・」
- 91:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/28(月) 23:59:08.52 ID:PJH2QXMg0
―――王城 廊下
弟「あ、あれ?」
兄「ん? どうした?」
弟「・・・・・・無い」
兄「髪が?」
弟「それはまだまだ大丈夫」
兄「じゃあなんだよ?」
弟「・・・・・・組紐が無いんだ」
兄「お、とうとう切れたのか」
弟「あれはまだ作ってそんなに経ってないし、多分、腕からすっぽ抜けたのかも」
兄「落としたのか?」
弟「そう、なるね」
兄「心当たりは・・・・・・って、今日行ったのはあそこ位だもんな」
弟「ああ、そんな・・・・・・」
兄「お宝が見つからないのに貴重品を落としてくるなんて・・・・・・やるじゃん」
弟「最悪だよ。 もう、最悪に“輪”をかけて最悪だ」
兄「組紐だけにか? ってうまいこと言ってる場合じゃねぇぞ。 今ならまだ親父のやつ会議中だろうし、急げばまだ大丈夫じゃないか?」
弟「かなぁ・・・・・・」
兄「くくく、やっぱりビビっちゃってるな」
弟「そんなことないよ!!」
兄「ふふん、俺がとってきてやろうか? 我が弟よ」 キリッ
弟「っ!。 もういい!! 兄さんは先に戻ってなよ!!」
兄「ははは!! ちゃちゃっと見つけて戻ってこいよ~!! 」
- 92:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/29(火) 00:27:36.20 ID:pG/d+txm0
―――王城 王の私室
弟「まったく、どうして兄さんはああも意地悪なんだろう・・・・・・」
弟「でも、それ以上に頼りになる時があるから、結局はプラマイゼロかな」
弟「将来は王になるんだから、もう少ししっかりしてくれても・・・・・・」
弟「あ、あった!! よかったぁ、そんなに時間は経ってないからすぐに出れば・・・・・・ん?」
弟「本と本の間に・・・・・・なんだろう? これは、羊皮紙・・・・・・こんな所に?」
弟「(・・・・・・そうだ! これを持って帰れば、きっと兄さん悔しがるに違いない!)」
弟「(こんな所に挟まっているような紙だし、それほど重要なものじゃなければ、父上も気にしないはず)」
弟「(ようやく僕にも兄さんを見返すチャンスが来たぞ!!)」
弟「(にしても、この走り書きみたいなもの、何が書かれているんだ? 宛名もないし・・・・・・)」
弟「ええっと・・・・・・期限の・・・・・・」
―――期限の日は、刻一刻と迫っています。
これ以上の先延ばしは、政務官達も黙ってはいないでしょう。
むしろ、今日まで何も起きなかったことが奇跡に等しい。
それも、王子達の存在が城の者達に好意的に受け止められているからでしょうが・・・・・・。
弟「な、何・・・・・・これ・・・・・・」
- 93:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/29(火) 00:33:22.79 ID:pG/d+txm0
―――今日まで、心の蔵を焼かれるほどの葛藤があったかと思います。
しかし、もはや決めねばなりません。
何ども進言しておりますが、“王家の双子は忌み子”なのです。
必ず、どちらかはこの国の未来に影を残すこととなるでしょう。
“優れたものを王子とし、選ばれなかったものは死ななければならない”。
この代々受け継がれてきたしきたりは、例外なく守らねばなりません。
災いより多くの民を救うため、より繁栄へと国を導くために、お早いご英断を待望しております。
悔いの無きよう・・・・・・。
- 94:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/29(火) 00:48:39.38 ID:pG/d+txm0
―――王城 中庭
弟「はっ!! やぁ!!」 ブン! ブン!
先生「す、すごいな。 先日とは別人のようだ」
兄「ああ。 最近じゃ走り込みも自主的にやっているみたいだしな」
先生「それで、勉強も欠かさずやると・・・・・・何かあったのかい?」
兄「いや、思い当たることは何も」
先生「ふむ・・・・・・」
兄「ま、引きこもってるよりは、こうして体を動かすようになったのはいいことじゃん」
先生「それにしては、なんだか鬼気迫るものを感じるが・・・・・・」
弟「はぁ、はぁ・・・・・・はぁ!! たぁ!!」
娘「・・・・・・」
弟「・・・・・・ふぅ。 先生、ちょっと休んでもいいでしょうか?」
先生「ああ、ちゃんと汗を拭くんだよ。 風邪をひいてしまうからね」
弟「はい」
娘「あ、あの・・・・・・」
弟「ん? なにかな?」
娘「い、いえ・・・・・・なんでも、ないです」
- 95:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/29(火) 01:05:42.33 ID:pG/d+txm0
―――数日後 王城 廊下
兄「なぁ、今日のこと親父から何か聞いてるか?」
弟「今日のこと? 何だろう・・・・・・?」
兄「そうか、じゃあ俺だけなのかな・・・・・・」
弟「どうかしたの?」
兄「いや、実はな、今日は城外に出て、連れて行きたい所があるって親父に言われてさ。 久々に親子だけでって話だから、お前も聞いてるのかと思ったんだけど・・・・・・」
弟「え? 僕はこの後座学が・・・・・・」
“優れたものを王子とし、選ばれなかったものは死ななければならない”
弟「っ!?」
兄「護衛も殆ど連れずにらしいんだよ。 おかしいと思わないか?」
弟「そう、です、か・・・・・・」
兄「・・・・・・お前、顔色悪いぞ? 大丈夫か?」
弟「っ、だ、大丈夫だよ・・・・・・本当に・・・・・・」
兄「まぁ、あれだな。 お前最近頑張りすぎなんだよ。 ちょっとは息抜きもしないと、へばっちまうぞ? 元々俺よりも体力がないんだからよ」
弟「気を付け、るよ」
兄「それとな、お前ちゃんと娘に組紐作ってやれよな。 でないと、先生仕込みの剣術でボコボコにされるぞ」
弟「組、紐・・・・・・?」
兄「ていうかよ、今度は娘も誘って三人で冒険に行こうぜ。 やっぱ冒険のパーティーには花がないとな」
弟「あ、あの・・・・・・」
兄「今度は宝物庫の鍵をゲットして・・・・・・くくっ、スリル満点だな」
弟「に、兄さん、実は・・・・・・」
兄「っと、そろそろ時間かな。 じゃ、行ってくるぜ!」
弟「あ、の、父上は・・・・・・兄さんを・・・・・・っ!!」
兄「土産を期待して、おとなしく待ってろよ!!」
―――それが、兄さんとの最後の会話だった。
- 97:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/29(火) 01:27:45.39 ID:pG/d+txm0
その日の夜。 僕は父上の私室に呼ばれ、淡々と兄さんが死んだことを伝えられた。
他人事のように、何かの間違いだと虚しく口が動く。
どこで? どうやって? どうして?
王家の者が、そう簡単に死ぬのか? なぜ兄だけが死んだのか?
頭の中には溢れかえる程の疑問が次から次へと湧き上がってくる。
しかし、心の底では、その事実を吐き気を催すほど冷徹に受け止める自分がいた。
兄さんは、あの羊皮紙に書かれていた通りに、父上に選ばれ、殺されたんだ。
・・・・・・僕はあの羊皮紙の内容を、兄さんに語らなかった。
僕は、死にたくなかった。
・・・・・・死にたく、なかった。
すっと黙って、自分だけ、父上に選ばれるように、死に物狂いで努力し続けた。
だから、兄さんは、自分が殺したようなものだ。
・・・・・・ようなものだ?
・・・・・・違う。
僕が、兄さんを殺したんだ。
後日、自分の編んだ組紐が巻かれた腕だけが、山岳地帯で発見された。
葬儀は内々的に、参列者もなく行われた。
その後、城内の者には兄さんに関する情報、会話などは禁忌とされ、まるで存在自体が封印されたかのようだった。
それからの事は、正直あまり詳しく覚えていない・・・・・・。
娘が兄さんのことを聞いてきた気もする・・・・・・。
自分は肉体、精神共に疲弊し診療してもらったのは覚えている・・・・・・。
あとは、ひたすらに勉学の日々だった・・・・・・。
文字と政で、頭の中を満たしていった。
全てを、忘れるように。
忘れ去りたいかの様に。
ただ、後になって知った事といえば・・・・・・。
城外の国民は、王子が兄弟だった事実を、誰一人として知らなかったということだ。
民は知らないのだ。 現王子に、仲の良かった双子の兄がいたことなど・・・・・・。
- 98:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/29(火) 01:46:48.44 ID:pG/d+txm0
―――現代 王城内 聖堂
王子「兄さんの亡骸など無い、形だけの墓・・・・・・」
王「最後にここへ来たのは、いつのことだったか」
王子「私は来る度にいつも思います。 こんな・・・・・・それも隠れるように、奥深くに・・・・・・」
王「うむ・・・・・・。 形だけの墓。 思い出が眠る場所だ」
王子「悩み事や嫌な事があると、よくここへ来て、兄さんに愚痴を聞いてもらっていました」
王「そうか・・・・・・。 お前達二人は本当に仲が良かったからな」
王子「私は振り回さればかりでしたけどね」
王「ああ。 本当に、元気でやんちゃな、優しい子だった・・・・・・」
王子「・・・・・・はい。 ですが、それも今日で最後です。 もう、ここに来る事は二度と無いでしょう」
王「・・・・・・?」
- 99:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/29(火) 01:59:13.68 ID:pG/d+txm0
―――王城内 聖堂前 廊下
鍛冶屋「お、ここか?」
隊長「ああ。 とても王族の墓があるようには見えないだろう?」
鍛冶屋「まぁ、そう、だな。 というか、王子に兄がいたのか・・・・・・初めて知ったぞ」
騎士「それも当然だ」
隊長「ああ。 国家の最重要機密といってもいいな」
鍛冶屋「ちょっ!?」
隊長「しかし、私は王子より、“信頼出来るものには話してもいい”と許可を頂いている。 少しでも、兄君の事を知って欲しいとな」
鍛冶屋「はぁ・・・・・・。 肝が冷えるからやめてくれ!! マジで焦った!!」
騎士「ん? 中から声が・・・・・・。 誰か先客がいるのか?」
隊長「先客? ここは普段魔法で施錠されて、誰でも入れる様な場所ではないんだが・・・・・・」
鍛冶屋「ていうか、この辺、全然人がいないな」
騎士「人払いでもしているのでしょうか?」
隊長「ん? この声は・・・・・・・・・・・・え、王子?」
- 100:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/29(火) 02:18:37.01 ID:pG/d+txm0
―――王城内 聖堂
王子「長かった・・・・・・」
王子「この日をどれだけ待ち望んでいたか」
王子「それも、ようやく報われる」
王「・・・・・・一体、何の事だ?」
王子「この国の法を整備し、人を育て、役職を見直し、長い年月を経て政に対しての総合的なポテンシャルをあげてくることが出来た」
王子「王がいなければ何も出来ない、何も決まらないこれまでとは違う。 民が国を動かす時代の始まりです。 そこには、呪われたしきたりも・・・・・・存在しない」
王子「王はもう、必要ない。 王家などいらない・・・・・・。」
王子「だから・・・・・・だから、私がこれから行うことにより、国が傾くことも、ない」
王子「全てはこの時のため。 王がいなくとも、この国が変わらずに存在できるように心血を注いできた」
王「・・・・・・王子?」
王子「私達の冒険は、ここでお終いです。 父上」
―――王子はどこからともなく、抜き身の剣を取り出した。
王子「私の代わりに存在を消された兄さんの元へ、二人で参りましょう」
- 109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/29(火) 23:40:06.95 ID:Ew6JG6VL0
王「・・・・・・そう、か」
王子「あまり驚かないようですね」
王「十分に驚いている。 しかし、どこか当然のように受け止めている自分がいるのだ。 いつか、このような日が来るのではないかと、思っていた・・・・・・」
王子「そうですか」
王「だが、私はお前の兄にしたことを弁解する事はない。 全て覚悟の上で行なった事だ」
王「あの日の選択の下に、今日がある。 私にとっては、それが全てだ」
王「しかし、まさか王家のしきたりを知っていたとは・・・・・・」
王子「私も、出来ることならあんなもの知りたくはなかった」
王子「そうしたら、生きていたのは兄さんだったかもしれないのだから」
王「・・・・・・私を殺したあとで、その後、お前はどうする?」
王子「死んだ後のことなど、気にする必要がありましょうか?」
王「たとえ今こうして刃を向けられていようとも、私はお前の父なのだ」
王子「・・・・・・」
王子「・・・・・・ご安心を」
王子「先に申し上げた通り、私もそう時をおかずして朽ち果てることでしょう」
王「(朽ち果てる・・・・・・? 自ら命を絶つわけではなく、朽ち果てるというのは、どういう言い回しなのだ?)」
王子「毒を、飲むのか?」
王子「毒? ・・・・・・ああ、そうではありません」
王子「私の命は、今日一日を持って幕を閉じるのです。 それが、呪術師との約束」
王「・・・・・・呪術師!? あの呪術師か!?」
王子「・・・・・夜が明ける頃には、私は兄さんの元へと召されるでしょう」
- 110:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/29(火) 23:56:24.50 ID:Ew6JG6VL0
―――聖堂前 廊下
隊長「・・・・・・・・・・・・え?」
鍛冶屋「あ~っと・・・・・・盗み聞きは良くないと思うが、なんか、中で話してる会話の内容が聖堂には似合わなくないか?」
騎士「状況から察して、謀反というわけではないみたいだが・・・・・」
鍛冶屋「これ、今中に入ったらまずいんじゃない?」
騎士「しかしこのままでは王の命が危ない。 黙って聞いているわけにはいかないだろう」
隊長「王子の命が・・・・・・今日で・・・・・・? 何故・・・・・・」
鍛冶屋「こっちはこっちで心此処にあらずか」
騎士「隊長、しっかりしてくださいっ」
隊長「・・・・・・あ、あぁ」
騎士「鍛冶屋、私と隊長は王子の行いを止めねばならない。 万が一にも聖堂に人が入ってこないよう見張っていてくれ」
鍛冶屋「た、確かに。 こんな場面誰かに見られるわけにはいかないからな。 よし、任せろ」
騎士「隊長も、よろしいですね?」
隊長「・・・・・・」
騎士「隊長!!」
隊長「き、聞いている。 大丈夫だ」
隊長「(・・・・・・王子っ)」
- 111:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/30(水) 00:33:04.66 ID:B+4cHPkx0
―――王城内 聖堂
王子「父上は、兄さんが居なくなってから数日後に。 私が町外れの修道院へ連れて行かれ、治療を受けたのは覚えていますか」
王「・・・・・・もちろんだ。 あれほど衰弱したお前を見たのは、後にも先にもあの時だけだからな」
王子「そうですね・・・・・・。 診てもらった人物は、高名な修道士だった。 医学、魔法にも長けた優秀な修道士だった」
王子「修道士は、後に呪術師と呼ばれる男でしたが・・・・・・」
王「うむ。 今では考えられないが、多くの者に尊敬され、良く出来た人物だった」
王子「はい。 その呪術師の見立てでは、私の寿命は精神的な影響と、生まれ持った体の弱さ、無理な運動で、そう長くはないと診断されました」
王子「その時の私は、死にたくないという思いで剣術や勉強を取り組んでいた時とはうってかわり、兄さんを死なせてしまった後悔の念から生きる意味を見いだせず、いつ死んでも構わないと思っていた」
王「・・・・・・」
王子「今思い出しても、愚かな考えです。 そんなことを思うくらいなら、私が死ねばよかったのに・・・・・・」
王子「しかし、そんな事を考えていた私に、呪術師はこう言ったんです」
―――このまま君が死んだら、何の為に君の兄は身代わりとなって死んだんだい?
王子「その時呪術師に言われた事で、確かに自分の中に、生きる目的が生まれた」
王子「私の代わりに死んだ・・・・・・私が殺した兄のために、自分がこの国の行先を見届けようと」
王子「そして同時に、同じような事が二度と起こらないようにしようと。 兄を殺したしきたりなど、王家ごと消し去ってしまおうと・・・・・・」
王子「だから私は呪術師に言った。 どんな手段でもいい。 生きていたいと」
王子「呪術師は、そのころから既に魂を操る術を心得ていた」
王子「そして、契約の内容を聞き、私は寿命を伸ばしてもらうことと引き換えに、あるものを差し出すことになった」
王子「二人の間に交わした契約は、誰にも話してはいけないという決まり。 でも、今となってはもうどうでもいいこと」
王「・・・・・・お前は、一体・・・・・・あるものとは何だ?」
王子「寿命を延ばす契約の代償に差し出すことになったのは・・・・・・私の魂。 “器”の寿命を延ばす代わりに、“中身”を毎日少しずつ、呪術師に支払い続けることでした」
王「・・・・・・っ!?」
王子「その支払いも、満期に達したという事です」
- 113:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/30(水) 00:53:12.46 ID:B+4cHPkx0
王子「これで、ご理解いただけましたか? だから、私のことは気にしないでください。 時を置かず、兄さんとあなたの下に参ります」
王「・・・・・・まさか、そんな・・・・・・」
王「我が子が、そんな事に・・・・・・。 今の今まで気づく事も出来なかったとは・・・・・・。 だが・・・・・・いや・・・・・・しかし・・・・・・」
王子「ええ、それも仕方の無いこと。 私も父上も、互いのことを気にかける時間すらなかったのですから」
王「これが、神の与えた運命なのか・・・・・・この様な・・・・・・」
王子「そうです。 そして、私とあなたは、愛する家族を手にかけた罪によって、今裁かれる宿命なのです」
王「私が裁かれることで罪が精算されるというのなら、甘んじて受けよう。 だが、お前までその罰を受ける必要はない」
王子「王家である私が残っていては意味がないのです。 それに私は、優秀な者が選ばれるということを兄に知らせず、自分だけが勤勉に励んだ。 そして私は兄を見殺しにした。 殺されに行く兄を、黙って見送った。 それだけの事をしたんです。 もう、十分すぎる理由がある」
王「それは違う!! お前の兄は・・・・・・っ」
王子「もういいでしょう。 これ以上、話すことはありません。 その資格もない」
王「聞くんだ!! あの日、私と兄は・・・・・・!!」
王子「さようなら、父上。 あなたといた仮初の平和で綴られた日々は、決してつまらなくはありませんでしたよ」
―――王子は振り上げた剣を勢い良く王へと振り下ろした!!
- 114:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/30(水) 01:08:11.65 ID:B+4cHPkx0
―――ガキン!!
隊長「・・・・・・いけません、王子」
王子「隊、長・・・・・・?」
―――王子の振り下ろした剣は、隊長の剣によって受け止められた!
隊長「あなたがどのような思いで、覚悟でいるのか、私には想像もつきません」
隊長「ですが、例え何であれ、あなたに親殺しの業を背負わせる訳にはまいりません!」
騎士「王よ、ご無事ですか?」
王「う、うむ・・・・・・。 お主達、討伐に赴いていたはずでは・・・・・・」
騎士「そのことも含め、ご報告にあがるため、一足早く城に戻ってきたのです」
王子「そう、か・・・・・・。 よく無事に戻った。 大儀であったな」
隊長「王子、これは一体、どういうことなのです」
王子「・・・・・・」
隊長「私には、何が起こっているのか・・・・・・。 国の終焉を目の当たりにしているかのようです」
王子「それは違う。 逆だよ隊長。 これから始まるんだ。 新しい体制の、各々が作り上げる国家。 古いしきたりなどない、真の国作りが」
隊長「そこに、指導者はいらないとおっしゃるのですか」
王子「王家に変わる指導者として、候補はすでに決めてある。 明日には満場一致で受理されるだろう。 心配する必要はない」
隊長「今の王は希代の手腕を持つ優れた王です。 それ以上の方がいるというのですか?」
王子「王家のしきたりで我が子を殺す王を、謀略は王家の常とはいえ、私は許せない。 だから王族のいらない国を治めるシステムを長い年月を掛けて作り上げてきたんだ。 この日のために」
隊長「・・・・・・兄君がお喜びになるとお思いですか?」
王子「兄さんの為じゃない。 これは、私の自己満足だ」
- 115:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/30(水) 01:24:37.72 ID:B+4cHPkx0
隊長「では!!」
隊長「あなたの命が、今日で尽きるというのは・・・・・・本当なのですか?」
王子「・・・・・・本当だ」
王子「呪術師に支払う魂を、この先支払い予定の分も合わせて全て精算した。 そうすることで、こうして今、健康体の様に動き回れるんだ。 そうでなければ、私は今もベットの上だろう」
隊長「もう、どうにもならないのですか?」
王子「どうしようというんだい? もう、選択肢なんてないんだ。 ここで父上を殺して、僕は呪われた命に幕を引くんだ」
隊長「私と騎士を前に、出来るとお思いですか?」
王子「・・・・・・」
王子「いや、君達に勝つことは出来ないだろう」
隊長「っ! では・・・・・・」
王子「・・・・・・それでも、やらなくてはいけないんだ!!」 グン!!
騎士「なっ・・・・・・!?」 ググッ
―――王子は隊長の剣をなぎ払い、さらに、一歩踏み込んで隊長の体をはじき飛ばした!!
隊長「っく・・・・・・」
騎士「隊長が、競り負けた・・・・・・!?」
隊長「(これが、本来の王子の力・・・・・・!?)」
王子「どうだい? 昔のように、剣を合わせようか・・・・・・」
隊長「王子、どうか、思い直してください・・・・・・っ」
- 116:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/30(水) 02:00:55.16 ID:B+4cHPkx0
王「隊長、騎士よ、前をあけよ」
隊長「王!?」
王「王子、それほどまでにこの命が欲しいのなら、わしは差し出しても構わん」
騎士「何を!?」
隊長「おやめ下さい!!」
王子「・・・・・・なんのつもりです?」
王「私とて、過去に犯した罪から逃れようなどとは思わぬ。 加えて、お前にそれほどの思いをかせ、その手によって裁かれるというなら、喜んで受けよう」
王子「・・・・・・」
王「だから、その前に、最後に一つだけ聞かせて欲しい」
王子「・・・・・・何ですか?」
王「確かにお前は、幼少の頃より体が弱かった。 無理な運動に、精神的負担が重なり、寿命が縮むということもあるだろう」
王子「それがどうしたのです?」
王「・・・・・・しかし、それで、寿命がまもなく尽きるなど、ありえんのだ。 ありえん、はずなのだ・・・・・・」
王子「どうしてそのような事があなたに分かるのです。 人の寿命など、それこそ人の道を外したものでなければ分からないことなのに」
王「お前の寿命は、まだまだ尽きないはずなのだ。 これからも生きて、何年も何十年も生きて、国の行く末を見届けるはずなのだ!!」
隊長「・・・・・・王?」
王「では聞こう、王子よ。 ここ十年以内に、呪術師は、お前がもう生きられない体だと、言ったのか・・・・・・? それに近い事を、一つでも言われたのか?」
王子「・・・・・・だったらどうだというのですか? それがあなたに、何の関係が・・・・・・」
王「関係ならある。 なぜなら・・・・・・なぜなら、お前の寿命を伸ばすために十年前、私は呪術師に魂を差し出したのだから!!」
王子「・・・・・・父上が、呪術師に? 魂を差し出した・・・・・・?」
呪術師「いやはや、なかなか上手くいかないものですね~。 クックックック・・・・・・」
- 117:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/30(水) 02:26:14.00 ID:B+4cHPkx0
騎士「誰だ!! どこにいる!?」
隊長「!? そこか!!」
―――隊長は突然現れた呪術師に斬りかかる!! しかし、その刃には何の手応えもない。
騎士「攻撃が、効かない!?」
隊長「というより、通り抜けた。 幻影か!?」
騎士「本物は・・・・・・」
王子「まだ、地下牢ということか」
呪術師「早々に舞台の幕が降りていれば、こうして演出家が出てくることもなかったのですが・・・・・・」
呪術師「どうやら、時間内に終わりそうもないようですね~」
王子「・・・・・・どういうことだ?」
呪術師「は~い~?」
王子「先ほどの話、本当なのか? 父上が・・・・・・父上が、魂を貴様に差し出していたというのは」
呪術師「クククだとしたら、どうなのです?」
王子「何?」
呪術師「別に関係ないではないですか。 あなたの行動を阻害す要因にはならないでしょう」
王子「確かに貴様の言う通りだ。 しかし、私は自らが短命であると知らされ、今日まで生きてきたのだ」
呪術師「ええ、そうでしたね・・・・・・」
王子「呪術師よ、ならば冥土の土産として聞こう。 父上が魂を差し出したのに、私の体調が一向に回復しなかったのは、何故だ?」
呪術師「その点は別におかしなことなど何もない。 いたってシンプルな答えです。 いえ、誰だって思いつくのではないでしょうか? ックックック」
王子「何・・・・・・だと・・・・・・?」
王「貴様・・・・・・まさか・・・・・・!?」
呪術師「ええ、王の魂は全て私のエネルギーへと転換していきました。 素晴らしく高純度の魂でしたよ!! ハッハッハッハッハ!! ア~ハハハハハ!!」」
- 119:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/30(水) 02:46:56.54 ID:B+4cHPkx0
王「っく、おのれぇ!! 図りおったか!!」
呪術師「フッ、ククク・・・・・・図る? 何を今更・・・・・・私にとってはまさに筋書き通りですよ」
王子「どういうことだ」
呪術師「私にとっての始まりはね、王子。 あなたが幼少の頃、私の前に現れた時からなのですよ」
―――当時、修道士として名の売れていた私の前に、あなたは現れた。
心身ともに疲れ果て、目には活力がなく、屍同然でしたね。
恐らく、このまま放っておけば、間違いなく衰弱死する。 聞けば、王に子は一人のみ。
私はその時、職務に忠実に、王子に生きる希望を与えたのです。 幼い子は何があっても救おうという、修道士としての職務を。
私の話す言霊に力をのせ、王子に“生きる活力を語り聞かせたのですよ。
その時でしょうか、私の頭の中に、この長きに渡るプランが思いついたのは・・・・・・。
私は慈善というものでは到底のし上がることの出来ない、さらなる高みに至りたかった。
そこに、国の跡取りとなる王子が現れたのは。 これはもはや、天啓といっていいでしょう。
私は王子の寿命を延ばすという契約の下、魂を少しずつ分けてもらう事になった。
“そんなことをせずとも”、回復すれば十分に、末永く生きることができたであろう王子の魂をね。
生きる目標を得た時点で、王子の体調が回復に向かうのは分かっていた。
けどねぇ~。 長く生きられすぎても困るんですよ。
私は呪術師、命の旋律者。 魂の技師。
器の中身たる魂を操作すれば、そのものに成り代わることも十分可能。
顔も、声も、癖も、記憶も!! 全てを模倣し、やがては誰一人、本当の私を知る者は居なくなる。
そこに、オリジナルは必要ない。 邪魔なだけです。
そして、時が来たら本来の私に戻ればいい。
この国の指導者として。
嬉しい誤算だったのは、王が私のもとに訪ねてきたことだ。
息子の命を助けて欲しいと、命を奪い続ける張本人に願い出てくるとは、滑稽でしたよ!! さすがの私もポーカーフェイスが崩壊するところでした。
模倣する対象は地位が高ければ高いほどいい。
当然、王の魂も遠慮なく頂戴しました。 いや、現在進行形だから、頂いているといったほうが正しい。
クックック・・・・・・。
- 120:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/30(水) 02:57:46.97 ID:B+4cHPkx0
王「踊らされていたというのか・・・・・・この男に・・・・・・」
王子「・・・・・・全て、仕組まれていた・・・・・・と・・・・・・」
王子「私は・・・・・・私の決意は・・・・・・呪術師の国取りの手伝いをしただけだったのか・・・・・・」
呪術師「そう悲観なさらないでくださいよ。 別に貴方達に責任はないのですから」
呪術師「安心して眠りについてください。 この国のことは、私に任せて!!」
―――幻影である呪術師の体から漆黒のオーラが迸る!!
王「ぐ、あぁぁ・・・・・・!!」
王子「ごふっ! かっ、あ・・・・・・っ!!」
―――王と王子は崩れ落ちた!!
隊長「王子!? 王!?」
呪術師「さぁ、残りの魂もいただきましょうか!! そして、己の不幸を呪いながら死んで行きなさい!!」
―――聖堂が突然、炎に包まれる。
隊長「っく、呪術師!! 貴様ぁぁ!!」
騎士「炎が、強すぎる・・・・・・」
隊長「(王子と王を避難させなくては・・・・・・っ)」
- 128:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 00:00:05.97 ID:+P2xMhKD0
―――ドガァン!!
―――突然、聖堂の入口が吹き飛んだ!! それと同時に、聖堂を被っていた炎が消えた。
騎士「っ!? 鍛冶屋か!?」
隊長「炎も、幻術だったか・・・・・・」
鍛冶屋「おい!! 何がどうなってやがる!?」
騎士「鍛冶屋! 王と王子が危ないのだ!! 私はこれから、その原因を絶ちに行ってくる!!」
鍛冶屋「あぁ!? なんだってそんな事に・・・・・・って、話してる場合でもなさそうだな」
隊長「待て騎士! それなら私が・・・・・・っ!!」
騎士「隊長はお二人を安全な場所へお連れしてください!!」
隊長「し、しかし・・・・・・っ」
鍛冶屋「何だかよく分からねぇが、気をつけてな」
騎士「ああ!!」
―――騎士は聖堂を突風のように走り去った。
隊長「そうだ、しまった!! 鍛冶屋、これを騎士に!!」 ヒュン
鍛冶屋「・・・・・・っと!? 」 パシッ!
隊長「鍛冶屋の物ほどではないが優れた業物だ。 騎士に渡してくれ」
隊長「騎士の剣では、人は切れないのだろう? 頼む」
鍛冶屋「・・・・・・解った。 任せろ」
隊長「すまない。 また危険な目にあわせてしまって」
鍛冶屋「いや、こういう事態だし、そんな時に、やることがあるってのはいいことだと思うぜ」
隊長「そうか・・・・・・」
鍛冶屋「それじゃ、行ってくるぜ!!」
―――鍛冶屋は騎士を追って聖堂を出て行く。
王子「・・・・・・目が霞んで、よく、見えなかったが、誰かいた、のか?」
隊長「は、はい。 兵士ではないのですが、頼れる男です」
王子「っぐ、そう、か・・・・・・」
王子「(どうしてだろう。 なぜか、とても懐かしい感じがしたのは・・・・・・」
隊長「王子、お気を確かに!! すぐに医者の元へ連れて行きますから!! 王も・・・・・・っ」
王「っぐ、わしは王子ほどではない。 急いで、医者の元へ連れて行ってやるのだ」
隊長「何を言うのです!! 王も私と一緒に!!」
王「頼む、隊長よ。 今急がねばならんのは、私の命ではなく、未来ある希望の光を守ることだ」
隊長「・・・・・・王」
王「頼んだぞ。 わしのことは、兵にでも知らせてくれれば大丈夫だ」
隊長「・・・・・・わかり、ました。 どうか、王も体をご自愛ください。 あなたたち二人は、こんな所で死んではならないのですから」
- 131:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 00:29:23.17 ID:+P2xMhKD0
―――王城 地下牢
騎士と鍛冶屋は最新部に向けて走り続ける。
鍛冶屋「騎士!!」
騎士「鍛冶屋!? どうした?」
鍛冶屋「はぁ、はぁ、お前走るの速すぎ。 ほら、隊長さんから」
騎士「これは、隊長の剣・・・・・・」
鍛冶屋「騎士の大剣じゃ、人とは戦えないって事でな、渡してくれって頼まれたんだ」
騎士「そうか。 ありがとう」
鍛冶屋「なぁ、さっき言ってたの、あれはどういうことなんだ?」
―――騎士は、鍛冶屋に事の詳細を簡潔に説明した。
鍛冶屋「呪術師が、王と王子を?」
騎士「そうだ。 どうやら、今まで王子の体調が優れなかった理由や、此度の騒動の発端はそいつにあるらしい」
鍛冶屋「・・・・・・マジかよ。 とんでもねぇ話だな」
騎士「今お二人は呪術師に魂を奪われつつある状態だ。 このままでは、お二人の命が危ない」
鍛冶屋「・・・・・・そうか。 なら、急がねぇとな」
騎士「恐らく、一筋縄ではいかない相手だ。 何せ、この国をたった一人で乗っ取ろうとする男だ。 手強いに違いない」
鍛冶屋「・・・・・・なるほどな」
騎士「だが、私は必ず呪術師を倒し、王と王子、国を守ってみせる」
鍛冶屋「・・・・・・それなら、少しでも勝率を上げる為に、尽くせる手は尽くしておかないとな」
騎士「なんだ、私の力だけでは不安か?」
鍛冶屋「いや、王国最強の騎士がいれば大丈夫だろうとは思うけどよ。 それでも、万が一ってあるだろ」
騎士「・・・・・・?」
鍛冶屋「だからさ、戦いに関しちゃ門外漢だが、俺がついていってやるよ。 何かの役にたつかもしれないだろ?」
騎士「だ、駄目に決まっているだろう!! あの時の話をもう忘れたのか!?」
鍛冶屋「覚えてるよ。 けど、今はそんなこと言ってる場合じゃねぇだろ? 俺一人がいるだけで、もしかしたら勝率が1%でも上がるかもしれない。 けど上がらないかもしれない。 それでも、国の一大事に黙って何にもしないままあんた一人を行かせるなんてのは、性分以前の問題だ。俺には出来ない」
騎士「・・・・・・死ぬかもしれないぞ」
鍛冶屋「そん時はそん時だ」
騎士「・・・・・・」
鍛冶屋「・・・・・・」
騎士「・・・・・・貴様の機転の働かせ方、度胸は搦手で来る相手には有効かもしれない。 期待しているぞ。 国の未来がかかっている」
鍛冶屋「・・・・・・っ!? おう!! まぁそんな能力俺にはないんだけどな」
騎士「・・・・・・すまない。 あんなことを言った矢先、巻き込んでしまって・・・・・・」
鍛冶屋「俺から言い出したことだろ。 それに、あんたとは短い付き合いだけど、なんかほっとけないんだよ」
- 133:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 00:48:23.70 ID:+P2xMhKD0
―――王城 地下牢 最深部
鍛冶屋「(兵士がいない・・・・・・)」
騎士「(何かの力が、働いているのか・・・・・・?」
呪術師「お初にお目にかかります。 あなたがかの有名な騎士様ですか。 たった一人で、大隊クラスの力を持っているという王国一番の手だれ」
―――そこには、ローブを深くかぶった呪術師が牢の外に出て佇んでいた。
騎士「分かっているのなら無駄な抵抗はやめろ。 と言っても無駄だろうな」
呪術師「で、そちらの方は・・・・・・?」
鍛冶屋「俺か? ただの鍛冶屋だ」
呪術師「ほう、それにしては、随分と高位の魂をお持ちのようだ」
鍛冶屋「へ、外面を褒められるより内面を煽てられる方が照れるな。 ま、そういうあんたは両方気に食わねぇけど」
呪術師「そうですか? なら、こういうのはどうです?」
―――呪術師は自らの顔に、手を重ねた。
騎士「なっ!? それは・・・・・・王子の・・・・・・」
呪術師「そう。 王子の顔ですよ。 もうほとんどの魂を頂いたのでね。 少し加工してやれば、こういう事も造作ないのですよ。 クックック」
鍛冶屋「・・・・・・なるほどな。 そうやって、この国の他の奴らは騙されちまうってことか」
騎士「なんの違和感も無く、誰一人として、国の主が変わったことに気づかない・・・・・・」
呪術師「クックック、もしかしたら、何か思い違いをなされているのかもしれませんので、ひとつ言わせて頂ければ・・・・・・」
呪術師「私は別に、混沌の世界や破壊の世界を王国にもたらそうなどとは考えていませんよ」
呪術師「ただ、日々の実験材料が手に入ればいいのです。 他の事はそれ程興味はありません。 まぁ、国主になったらなったで、また考えが変わるのでしょうけどね」
騎士「貴様の言う実験材料は、人々の魂だろう。 そんな事、この私がさせない!!」
呪術師「ええ、そうでしょうね。 だから、こんな展開になる前に、はやく王子には動いていただきたかったのに」
呪術師「・・・・・・いえ、これは手早く討伐を終えた貴方がたの功績によるものでしょうね」
呪術師「これでは、一体何のために魔族達を操り、国境付近に攻め入らせようとしたのか・・・・・・」
鍛冶屋「おい、それじゃあなにか? あの魔族達の進行は、お前がやったっていうのか?」
呪術師「フッフッフ。 ええ、そうですよ。 わたしが差し向けたものです。 魔族のフリをしてね」
騎士「という事は貴様、魔族ともつながりがあるのか・・・・・・」
呪術師「人間の常識では先に進むことができないことが多々あるのですよ。 そこで、時に魔族の力を借りることもあります」
騎士「貴様の操った魔族たちのせいで、国境付近の人々がどれだけ亡くなったか・・・・・・っ」
呪術師「ああ、その事ですか。 それならご心配には及びません」
鍛冶屋「な、に・・・・・・?」
呪術師「ほとんどの住人は私と共にあります。 “私の魂と共にねぇ”!!」
騎士「き、きっさぁまぁぁぁぁぁぁぁ!!」
- 134:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 00:59:12.85 ID:+P2xMhKD0
―――騎士の最速で振るわれた隊長の剣を、呪術師は片手に顕現させた剣で受け止めた。
呪術師「流石ですね。 踏み込みの速度は、常人では知覚すら難しいでしょう」
騎士「馬鹿な・・・・・・受け止めた、だと?」
鍛冶屋「マジかよ・・・・・・どうなってんだ一体? 」
騎士「貴様、剣も使えるのか!?」
呪術師「私が、というよりも、私の糧となった魂の持ち主が使えるのですよ。 何人もの腕利きが、私に力を与える。 クックック」
呪術師「だから、こんな事も出来るのですよ!!」
―――呪術師の手のひらに魔力が集まる!!
騎士「何!? ぐはぁっ!!」
鍛冶屋「騎士!!」
呪術師「魔法使いの魂も大勢頂いています。 そして、魔力が尽きることもない。 今の私には、魂という精神エネルギーの塊が無尽蔵にあるのですからね」
騎士「っく・・・・・・。 どこまでも腐った男だ」
呪術師「何を言うのです。 私はもはや万能の人間。 全知であり、全能である私はもはや神に等しい」
鍛冶屋「ふざけた事ばっかり言いやがって。 ただ自分に酔ってるだけじゃねぇか」
呪術師「ええ、そうですね。 なにせ、本当に楽しいのですから、仕方ありません。 全ての生き物、人間、社会はいずれ、私の前に頭を垂れるでしょう」
騎士「そんな事、私が絶対にさせん!!」
呪術師「フフッ。 あなたに私は止められない。 私はもはや誰にも、止められないのです」
鍛冶屋「余裕じゃねぇか。 今にその鼻っ柱をへし折ってやるぜ」
呪術師「あなたは一般人とはいえ、なかなかに油断ならない気がする。 そう、ですね・・・・・・こういうのはいかがですか?」
―――鍛冶屋の背後に、魔方陣が現れる!!
騎士「鍛冶屋!! 後ろだ!!」
鍛冶屋「何!? ぐぁぁ!!」
―――魔法陣より現れたキマイラの前足で、鍛冶屋は吹き飛ばされた!!
呪術師「あなたには馴染みのあるこいつをあてがいましょう」
鍛冶屋「こいつ、っぐ、あん時倒したやつじゃねぇか・・・・・・」
騎士「貴様、召喚士の魂も・・・・・・」
鍛冶屋「だから、急に砦内にこいつが出てきたのか・・・・・・っ」
呪術師「ええ。 そして、高位の魔物を召喚するための代償は、勿論・・・・・・ックックック」
騎士「おのれぇ!!」
呪術師「さぁ、始めましょうか!! この国を賭けた戦いを!!」
- 135:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 01:11:35.48 ID:+P2xMhKD0
―――王城 病室
王子「・・・・・・隊長」
隊長「お気づきになりましたか王子。 今、騎士達が呪術師を倒しに向かっています。 もう少しの辛抱です」
王子「・・・・・・私は、どこで道を誤ったのか・・・・・・」
隊長「王子・・・・・・」
王子「あの日、父の部屋へと引き返した時だろうか・・・・・・。 それとも、兄さんが城を出る際に、何も言わなかった時だろうか・・・・・・」
隊長「おやめください。ご自分を責めるようなことはないのです」
王子「呪術師の下に行った時だろうか・・・・・・。 生きる目的を、刷り込まれた時からだろうか・・・・・・」
隊長「王子!!」
王子「きっと、どれもが正しい。 全て、自分の身から出たことだ」
隊長「・・・・・・たとえ」
王子「・・・・・・」
隊長「たとえそうであったとしても、あなたはこの国を良くしようと人一倍頑張ってきたではありませんか。 国中の民の心を、王子は太陽のように照らしてくれました。 それは、まごう事なき事実です」
王子「それが、親殺しを目的とした過程であってもか?」
隊長「あなたは、殺してなんかいないじゃないですか。 いえ、そうであったとしても、その時は私がまた止めます。 何度でも、あなたが過ちを犯そうとするなら、止めてみせます」
王子「・・・・・・そうか」
隊長「はい」
- 136:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 01:18:28.98 ID:+P2xMhKD0
―――王城 地下牢 最深部
―――魔術師と騎士の激しい攻防は続く。
呪術師「素晴らしい! 矢を切り払う者は何人もいますが、魔力の結晶である魔弾を弾き、さらに切り込んでくるとは・・・・・・!!」
騎士「っく、切り込める間合いまでがこれほど遠く感じるとは・・・・・・」
騎士「(鍛冶屋とも分断された。 向こうは無事だろうか・・・・・・)」
呪術師「さぁ、次は炎にしましょうか。 それとも氷? 雷、風、毒、光、闇、無・・・・・・。 全て同時がお好みでしょうかねぇ?」
騎士「(まずい、このままでは隊長から渡された剣がもたないっ)」
騎士「(点でくる攻撃、線で走る攻撃、面で迫る攻撃。 球で飲み込む攻撃・・・・・・。 戦いが長引いたところで、奴には疲弊という文字はない。 それどころか、かえって長引くことで、王子と王の命が危険にさらされる)」
騎士「急がなくては・・・・・・っ!!」
呪術師「クックック。 考え事ですか? 思考する時間すら、死に直結する事を教えてあげましょう」
- 137:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 01:27:55.51 ID:+P2xMhKD0
鍛冶屋「やべぇ、騎士と分断されちまったか・・・・・・っと、うぉ!?」
キマイラ「ガァァァァ!!」
鍛冶屋「強さは相変わらずみてぇだな。 ていうか、こんな奴普通の人間が勝てる相手じゃねぇぞ」
キマイラ「ガァウ!!」
鍛冶屋「くっそがぁ!!」
鍛冶屋「(そう何どもかわしきれるもんじゃねぇ。 それに、口から吐く炎も、遮蔽物が少ないここじゃよけきれない・・・・・・)」
キマイラ「ガァァァ!!」
―――キマイラが口から灼熱の炎を吐き出す!!
鍛冶屋は手に持った巨人の金槌で地面を抉り振り抜くように叩き、即席の土嚢兼石壁を作り上げる!!
鍛冶屋「このままじゃやばい。 早いとこ次の手をうたねぇと・・・・・・っ」
キマイラ「ガァァァ!!」
―――キマイラは再び咆哮をあげ、アギトを大きく開いた!!
鍛冶屋「(周りに使えるものはねぇ。 頼りになるのは師匠の金槌と自分の体だけかっ)」
鍛冶屋「・・・・・・ま、なるように、なるか!!」
- 138:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 01:40:10.21 ID:+P2xMhKD0
―――バキン!!
騎士「しまったっ!!」
―――甲高い音を立てて、隊長から受け取った剣が折れた!!
呪術師「剣を気遣いながら、よくもまぁここまでもったものですよ」
騎士「(気づかれていたか・・・・・・)」
呪術師「そろそろ本命を抜いたらどうですか? それとも、“人を切れない”剣では戦えませんか?」
騎士「そんなことまで知っているのか・・・・・・」
―――騎士は背中に背負っていた大剣を抜いた。
呪術師「これから国を動かそうというのです。 情報戦は重要ですよ。 しかし・・・・・・」
騎士「・・・・・・」
呪術師「戦えるのですか? 自傷行為はお勧めできませんよ。 クックック」
騎士「いくらでもやりようはある。 いざとなったら、ガントレット(手甲)で貴様の顔面を砕いてやろう」
呪術師「フフ。 その前に、今度はその剣をへし折ってあげましょう」
騎士「いくら貴様とて、それだけは絶対に無理だ」
呪術師「ほう・・・・・・」
騎士「この剣は、国一番の鍛冶屋が作った特別性だ。 それに・・・・・・」
騎士「そんな事、私が決して許しはしない!!」
―――呪術師は騎士に向けて膨大な数の魔弾を放つ!! 騎士はそれを全てはじき飛ばし、数発は呪術師に向けて跳ね返した!!
呪術師「確かに、あなたの能力とその剣が合わされば、何が起こるかわからない。 いかに全能な私としても、神殺しに匹敵する者には油断できません」
騎士「早々に終わらせてもらうぞ、呪術師!!」
呪術師「どうでしょうね。 そう簡単に終りますかな?」
―――突然、地下牢中の壁が淡く赤色に輝きだした!!
騎士「あ、な・・・・・・何だ・・・・・・力が・・・・・・」
呪術師「フフフ。 あなたがここに来る前に、既に手はうっていたのですよ」
騎士「トラップ、か・・・・・・っ」
呪術師「似たようなものです。 ああ、ご安心ください。 なにも、魂を奪うような類ではありません。 これは、単純に力が弱まるという簡易的な結界です」
騎士「力が、弱まるだと・・・・・・」
呪術師「ええ。 もとよりあなたの実力は十分に把握していましたし、これぐらいの備えは必要でしょう」
騎士「・・・・・・っ」
呪術師「難点といえば、私の力も同じような影響下に置かれてしまうことですが・・・・・・」
―――呪術師の周りに、魔力の結晶体がいくつ浮かび上がる。
呪術師「魔力に関しては一切の干渉はないので、実質ノーペナルティーというやつですよ」
騎士「っち、それでも・・・・・・っ。 私は貴様を必ず倒す!!」
- 140:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 01:54:44.21 ID:+P2xMhKD0
鍛冶屋「な、何だ!? 急に力が・・・・・・」
キマイラ「グゥゥゥ」
鍛冶屋「どうしたっていうんだ・・・・・・。 コイツの動きまで、鈍くなっているのか?」
キマイラ「ガァゥ!!」
―――キマイラの突進を受け、鍛冶屋は壁に吹き飛んだ!!
鍛冶屋「ぐあぁ!?」
キマイラ「ガァァ!」
鍛冶屋「それでも、人間一人を殺せるだけの力はあるってか・・・・・・」
鍛冶屋「(やべぇ、今ので肋骨を何本かやっちまったか・・・・・・)」
キマイラ「グワァァァァ!!」
―――キマイラは鍛冶屋の目と鼻の先まで歩み寄る。
鍛冶屋「こ、いつ・・・・・・っ!!」
―――キマイラの喉の奥から、低い唸り声と共に紅蓮の炎がせり上がってくる。
鍛冶屋「・・・・・・ったく、このにゃんころ!!」
鍛冶屋「そんなに俺が食いたけりゃ、腕の一本ぐらい分けてやるよ!!」
―――鍛冶屋はキマイラの開いた口に、右腕を突き入れた!!
鍛冶屋「その代わり、吐き出すんじゃねぇぞ!!」
―――鍛冶屋は突き入れた右腕・・・・・・鋼鉄の義手をキマイラに食いちぎらせ、強引に引き抜く!!
キマイラ「ガガグゥ!!」
鍛冶屋「オラァァァ!!」
―――鍛冶屋は左手に持った金槌でキマイラの鼻っ柱を叩きつけた!!
キマイラの口の中で吐き出すはずであった炎が暴れまわり、喉の奥にあった義手が高温によって溶け出し、キマイラの喉を塞ぐ!!
鍛冶屋「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
キマイラ「・・・・・・ッ、ギ・・・・・・っ・・・・・・」
―――キマイラは呼吸が出来ず悶え苦しみ、やがて、その巨体を沈ませた。
鍛冶屋「はぁ・・・・・・。 くそ、高い代償払っちまったぜ。 師匠が作ってくれた義手が、こんな形で役に立つなんてな・・・・・・」
鍛冶屋「騎士は、うまくやってるか・・・・・・?」
- 143:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 02:12:33.24 ID:+P2xMhKD0
騎士「はぁっ!! てやぁ!!」
呪術師「力を抑えられて、幾度も魔法をその身に受け、まだこれだけの速さを維持できるとは・・・・・・流石ですね」
騎士「(ダメだ、このままでは・・・・・・。 ガントレットで呪術師を倒すのは、体力的に厳しくなってきた」
騎士「剣で、打倒するしかない・・・・・・」
呪術師「しかし、被弾が増えてきていますね。 限界が近いのですか? まぁ、本来であれば、もっと前に勝負がついていてもおかしくないのですがね」
騎士「舐めるな。 まだまだこれからだ!!」
騎士「(・・・・・・全力を出して、あと三回が限界か。 正直、まさかここまでやる者だったとは思わなかった)」
騎士「(私もまだまだだな。 だが、負けぬ。 剣で斬った反動の事など、考えている余地もないし・・・・・・な)」
呪術師「さて、そろそろ終わりにしましょう。 国を任される身として、時間はいくらあっても足りません。 クックック」
騎士「・・・・・・参る!!」
呪術師「フッ、この後に及んで、真正面から突撃ですか!!」
―――呪術師の周囲、そして手のひらからあらゆる属性の魔法が飛び出す!!
騎士は紙一重で全てをかわし、一瞬にして呪術師の懐へと飛び込む!!
呪術師「なっ!?」
騎士「取った!!」
―――騎士の剣が呪術師の体を捉える!!
呪術師「・・・・・・フフフ」
―――しかし、呪術師の体は霧散し、陽炎のように消えた!!
騎士「幻・・・・・・術・・・・・・!?」
―――無防備となった騎士の背中に、雷の魔法が放たれる!!
騎士「うっ、あぁぁぁぁっ!!」
呪術師「惜しかったですね・・・・・・」
―――呪術師は騎士のすぐ近くで実体となった。
騎士「あ、あぁ・・・・・・」
呪術師「さて、今度こそ、終幕といきましょうか。 その魂、ここで失うには惜しい。 せっかくです。 この私が頂きましょう。 そしてあなたは我が魂となり、共にこの国で生きていこうではないですか!!」
- 144:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 02:24:32.32 ID:+P2xMhKD0
鍛冶屋「そういうセリフは、もっと色気のある場所で言うもんだぜ」
呪術師「・・・・・・おや、生きていましたか」
鍛冶屋「ああ。 危うくローストされるところだったがな」
呪術師「ほう、痛々しい腕で、よくもまぁその様な軽口を叩けるものです」
鍛冶屋「別に、コレくらいで命を拾ったと思えば安いもんだ。 だが、あれでも愛着がある腕だったんだ。 落とし前は付けさせてもらうぜ」
呪術師「クックック。 ただの人間に何ができるというのです・・・・・・」
鍛冶屋「俺がやるんじゃぇねよ。 城の問題は、城の人間が解決してもらわないと・・・・・・な、騎士様よ」
騎士「と、当然、だ・・・・・・」
呪術師「あれを浴びて、まだ動けるのですか・・・・・・」
鍛冶屋「そりゃあ国一番の騎士様だ。 インドア派のあんたとは鍛え方が違うだろうよ」
呪術師「フッ。 しかし、何度やろうと同じこと。 貴方たちは絶対に私には勝てません。 さぁ、これ以上の劇は予定されていません。 ご退場願いましょうか!!」
―――呪術師の周囲に、再び魔力が幾つも収束し、殺意という方向性を持って鍛冶屋と騎士に狙いを定める。
鍛冶屋「さ、せ、る、かぁぁぁ!!」
―――鍛冶屋は地面を片手で持ったハンマーで抉るように振り抜き、大量の礫を作り出し、それは矢の様に呪術師へと飛んでいく!!
呪術師「無駄です!!」
―――呪術師に向かう礫の全てを、生み出した魔法で迎撃していく。
騎士「はぁぁぁぁぁ!!」
―――剣を引きずるように走る騎士。 火花を地面に散らせながら、再び魔術師の懐へと飛び込む!!
呪術師「何度やっても同じですよ、ハハハハハ!!」
―――騎士は呪術師に斬りかかり、しかし、先ほどと同じように幻影のごとく消えてしまう呪術師。
呪術師「同じ轍を踏むとは愚かな!! もういいでしょう、あなたはここで死になさい!!」
―――背後に現れた呪術師の手のひらから、氷の礫が大量に現れ、騎士の背中に放たれる!!
鍛冶屋「女性の背後にはスマートに近づけよ、マナーがなってないぜ!!」
―――鍛冶屋が騎士と呪術師の間に割って入り、騎士の盾となった。 鍛冶屋の体には氷の礫が幾つも突き刺さり、その部分が凍結していく!!
呪術師「なに!?」
鍛冶屋「っが!!」
騎士「鍛冶屋ぁっ!?」
鍛冶屋「ぐ、貸し、一つだぞ・・・・・・」
騎士「・・・・・・っ、ああ!!」
―――騎士は即座に反転し、倒れつつある鍛冶屋の横をすり抜ける!!
騎士の踏み込み速度は、呪術師に魔術の発動を許さず、幻影を作り出す間も与えない。
渾身の力で跳躍した騎士は稲妻の如く呪術師に肉薄し、下から邪魔者を払いのけるように、神速をもって“制約の刻まれた大剣”を振り上げた!!
- 154:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 20:20:14.38 ID:1c5644Tl0
―――ズッバァァ!!
呪術師「が、は・・・・・・そんな、馬鹿な・・・・・・」
―――物音一つしない地下牢に、鮮血の飛び散る音が、“二つ”。
騎士「・・・・・・」
呪術師「こんな・・・・・・事が・・・・・・。 こんな事が、あっていいはず、無いんだ・・・・・・。 こんな終幕、私は・・・・・・認め・・・・・・な・・・・・・」
騎士「・・・・・・」
呪術師「・・・・・・フ、 ックク・・・・・・何だ・・・・・・そう、いう・・・・・・事でした・・・・・・か・・・・・・」
呪術師「そ・・・・・・の、剣の・・・・・・制約は・・・・・・に、担い手などでは・・・・・・なかった・・・・・・のか・・・・・・」
騎士「・・・・・・え?」
―――騎士は、自分の体を見回した。 そこには、呪術師につけたような体を大断するほどの傷は無かった。
騎士「・・・・・・そんな。 なぜ・・・・・・」
呪術師「・・・・・・あの、男・・・・・・に、私は・・・・・・」
騎士「・・・・・・・・・・・・?」
呪術師「お、思えば・・・・・・あの、魂・・・・・・を、持つ・・・・・・事を、疑う・・・・・・べき、だっ・・・・・・た」
騎士「・・・・・・ま、まさか」
―――カラン、と騎士の手から大剣が滑り落ちた。
呪術師「あの男さえ・・・・・・い、いなけれ、ば・・・・・・」
騎士「・・・・・・か、鍛冶屋・・・・・・。 鍛冶屋!!」
呪術師「あ、の・・・・・輝き・・・・・・は・・・・・・あの、輝き・・・・・・は・・・・・・」
―――それ以降、呪術師の口から・・・・・・二度と、言葉が発せられることはなかった・・・・・・。
- 155:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 20:35:06.55 ID:1c5644Tl0
騎士「鍛冶屋!!」
鍛冶屋「・・・・・・」
騎士「っ! 鍛冶屋!! 目を醒ませ!!」
―――騎士は鍛冶屋の体に目をやる。 そこには、氷の礫によってできた傷とは別に、体を斜めに走る様に、大きな傷があり、服には大量の血液が滲んでいた。
鍛冶屋「・・・・・・き、騎士。 やった、か?」
騎士「あ、ああ!! やったとも!! 鍛冶屋のおかげだ!! お前が国を救ったんだぞ!!」
鍛冶屋「・・・・・・へ、へへ。 そう、か」
騎士「そんな事より、制約の大剣・・・・・・あれは、どういうことなんだ? 説明してくれ」
鍛冶屋「別に、お、おかしな事はない。 あそこ、には、担い手じゃなく・・・・・・“作り手が、反動を、受ける”って刻んであるん、だ、よ」
騎士「ば、バカ者!! 何故、何故そのようなことをした!!」
鍛冶屋「せ、制約ってのは・・・・・・対象、同士が、離れすぎても・・・・・・まずいんだ・・・・・・。 ち、近くにいないとな・・・・・・
」
騎士「だから・・・・・・討伐に着いてきていたのか」
鍛冶屋「それに、な・・・・・・」
鍛冶屋「自分が作ったもので、あんたが傷つくってのは・・・・・・。 ちょっと、なんか、めんどくせぇって・・・・・・思ったんだよ」
鍛冶屋「人の、生き死にに対する、代償は・・・・・・剣を作ったお、俺が、払わないと・・・・・・な・・・・・・」
騎士「・・・・・・頼んでない。 頼んでないぞ!! そのような事!! 私が勝手に押しかけて、無理を言って作らせたんだ!! 貴様がその様な目にあうことなんて、おかしいんだ!! 馬鹿げている!!」
鍛冶屋「・・・・・・ああ。 そうだ。 これは、俺の自己満足だ。 お前が気にするような事は、ない・・・・・・」
騎士「・・・・・・うぅ、ぐっ・・・・・・」 ポロポロ
鍛冶屋「お、おいおい。 別に、泣くほどのことじゃ・・・・・・」
騎士「私は、自分の不甲斐なさが・・・・・・悔しい・・・・・・」
鍛冶屋「何、言ってやがる。 自分の役目を、無事に果たしただろう。 ここは、誇るべきだぜ」
騎士「誇れるか!! 貴様がその有様で、どうやって誇ることができる!!」
鍛冶屋「・・・・・・誇ってくれよ」
騎士「・・・・・・」
鍛冶屋「そうでなきゃ、体張った意味がないだろうが」
- 156:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 20:45:34.75 ID:1c5644Tl0
騎士「鍛冶屋・・・・・・」
鍛冶屋「それに、な」
騎士「・・・・・・なんだ?」
鍛冶屋「実は、血は盛大に出たが、傷は、それほど深くはないみたいなんだ・・・・・・これが」
騎士「・・・・・・・・・・・・え?」
鍛冶屋「どうやら、制約がうまく働いたみたいだな」
騎士「どういう、ことだ?」
鍛冶屋「あの呪術師、魔物を操れたってことは、魔物の魂も取り込んでいたはずなんだ」
騎士「・・・・・・!? そ、そうか。 そういう事か!!」
鍛冶屋「魔物の魂に、制約が半分反応してくれたんだろう・・・・・・」
騎士「し、しかし、重傷である事には変わりない!! すぐに医者のところへ連れて行くぞ!!」 グイッ
鍛冶屋「お、おいおい。 そんな、乱暴に扱わないでくれよ。 こう見えて、体は丈夫には出来てないんだ・・・・・・」
騎士「ふっ。 こんなところで貴様に死なれては、私が面白くない。 ほら、肩を貸してやる」
鍛冶屋「ああ・・・・・・っぃてて」
騎士「これで、貸し借りなしだな」
鍛冶屋「そこはまだ借りとけよ」
- 157:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 20:56:28.49 ID:1c5644Tl0
―――王城 病室
空は徐々に白み始ていた・・・・・・。
王子「・・・・・・あの二人が、やってくれたみたいだ」
隊長「王子?」
王子「・・・・・・体が、いや、まるで、魂が・・・・・・楽になったようだ」
隊長「そう、ですか・・・・・・よかった。 本当に・・・・・・」
王子「すぅ・・・・・・。 はぁぁ・・・・・・。 すごく、体が軽い・・・・・・。 息をするだけなのに、こんなに・・・・・・生きている感じがする」
隊長「でも、まだ安静にしていてください。 まだ、体にどんな影響があるか・・・・・・」
王子「分かったよ。 隊長は、昔から心配症だな」
隊長「当然ですよ。 あなたのお目付け役でもあるのですから」
王子「ふふ、本当に、君は変わらないな・・・・・・」
隊長「・・・・・・王子」
王子「・・・・・・そう言えば、あの時・・・・・・」
隊長「あの、時?」
王子「聖堂を打ち破った、彼・・・・・・どこか、懐かしい感じがしたんだ。 あれは、誰だったんだい?」
隊長「あの男は鍛冶屋といって、騎士が連れて来た者です。 魔物討伐の際には、とても助けられました」
王子「そう、か・・・・・・。 鍛冶屋だというのに、凄いな・・・・・・」
隊長「ええ。 なんというか、見かけによらず、・・・・・・いえ、雰囲気通り、無茶をする男なのです」
王子「はは・・・・・・まるで、兄さんのようだ」
隊長「ええ、本当に・・・・・・ふふふ」
王子「“話してみたかったな”。 その男と・・・・・・」
隊長「話せますよ。 もうすぐ、騎士と二人で一緒に、戻ってきます。 その時に、幾らでも話せばいいではないですか」
王子「ふふ、そうだね。 けど・・・・・・」
王子「どうやら、私の体は・・・・・・もう時間切れのようだ・・・・・・」
- 158:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 21:14:50.04 ID:1c5644Tl0
隊長「・・・・・・・・・・・・え?」
王子「どうやら、私の魂は、もう全て消費されてしまっていたようだ。 自分でも分かるんだよ。 今、私の中にあるのは、既に消えかけている篝火のようなものだということが・・・・・・」
隊長「そんな・・・・・・嘘ですよね?」
王子「もう、中身がないんだ。 ここにあるのは、器にに残った、残滓だけで・・・・・・」
王子「鍛冶屋と・・・・・・話してみたかった・・・・・・」
隊長「な、何を・・・・・・。 そ、そんな事、言わないでください!!」
隊長「呪術師は、倒したのですよね!? なら、あとはもう、あなたの人生を歩むだけじゃないですか・・・・・・っ!! 王もきっと、それをお望みのはずです!!」
王子「あんなことをした私にかい?」
隊長「もちろんです!! 王はいつでも、王子の身をあんじていました! これからだってそうです!!」
王子「そう、だね。 本当に、そうだ・・・・・・。 そう出来たら、本当によかった・・・・・・」
隊長「王子!!」
王子「だけど、今日まで生きてこれただけでも、良しとしなくては、兄さんに申し訳ない」
隊長「やめて下さい!! これからなんです!! 国も、あなたの人生も、あなたの兄君が歩めなかった未来も!! 今日から始まるんです!!」
王子「あぁ。 君の、言う通りだ。 だから・・・・・・。 見られない僕と、兄さんの代わりに、新しく歩みだした国を、よろしく頼むよ」
隊長「やめて、下さい。 そんな、そんなことをどうか、おっしゃらないで・・・・・・」 ポロポロ
王子「どうか、泣かないでくれ。 どんな時も、いつも一緒にいてくれた・・・・・・君には本当に感謝している」
隊長「やめ、て、くださ、い・・・・・・」 ポロポロ
王子「隊長・・・・・・」
- 159:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 21:33:03.25 ID:1c5644Tl0
―――王子は、自分の腕に巻いていたひとつの組紐を外す。
王子「ずいぶん遅れたけど、どうか、受け取って欲しい。 君に贈れる、最初で最後の男の見栄だよ」
隊長「・・・・・・っ・・・・・・?」
王子「組紐・・・・・・約束だったろ。 ずっと渡せなくて、すまない」
隊長「・・・・・・組、紐?」
王子「女性への贈り物にしては、ムードが足りなかったかな。 これじゃあ、兄さんに、怒られてしまうな」
隊長「覚えて、いらしたのですか?」
王子「もう、ずっと前に完成はしていたんだ。 ただ、贈り物って、したことなくてね。 情けないだろ。 一国の王子が、贈り物一つで臆病になるなんて。 恥ずかしくて、ずっと自分の腕に巻いていたんだ」
隊長「王子・・・・・・」
王子「さぁ、腕をだして」
隊長「・・・・・・ありがとう、ございます」
王子「よかった・・・・・・。 よく似合うよ。 君の願いが、いつか叶うといいね」
隊長「私の願いは・・・・・・っ」
王子「本当に、今まで、ありがとう。 どれだけ言葉を飾っても、僕のこの思いは、全てを表現しきれないだろう」
―――隊長は感極まり、これ以上の泣き顔は見せまいと、顔を俯かせる。
隊長「私も、今日まで良くしていただいた王子には、本当に・・・・・・本当に・・・・・・」
王子「ああ。 ありがとう。 “僕”はそんな君の事が・・・・・・」
―――夜が明けた。
太陽の日差しが国中を、そして、王子の病室を明るく照らし出す。
隊長「・・・・・・王子?」
―――太陽の様な存在と呼ばれた青年の腕から、長年巻き続けてきた組紐が切れ、地面に落ちる。
そして、隊長が顔を上げた時には、王子の体は霧のように・・・・・・幻であったかのように、ベッドの上から消えていた。
隊長「・・・・・・っ、う、ぐ、ぐすっ・・・・・・う・・・・・・っ」
彼は、生涯を捧げた国を、いつまでも照らし続けるだろう。
この先、何年、何十年、何百年と。
いつまでも、いつまでも・・・・・・。
- 160:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 21:52:27.78 ID:1c5644Tl0
エピローグ
―――王は、王子の死を正式に発表。
国民は王子の死を知らされ、国中が深い悲しみに包まれた。
その際、国の指導者として、王と亡き王子からの宣言により、隊長が任されることとなった。
鍛冶屋は一命を取り留め、長い期間、半ば強制的に騎士によって寝かしつけられ、傷は無事に完治した。
国は鍛冶屋に多大な報奨金を与えるとしたが、店の事が心配だと逃げるようにして自らの家へと帰った。
そして、近頃の鍛冶屋はというと・・・・・・。
失った自分の右腕を腕を作るために、一人、工房にこもっていた。
そして・・・・・・。
- 161:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 22:04:17.76 ID:1c5644Tl0
鍛冶屋「ったく、やっぱり、片手じゃ勝手が違うな・・・・・・」 カン カン カン
鍛冶屋「それに、構造もなんとなくでしか分からねぇものを一から作るってのは、なかなか厳しいな・・・・・・」 コツ コツ コツ
鍛冶屋「まぁけど、新規開拓になるかもしれねぇし、いっちょ、長い目を見て頑張るか・・・・・・」 カン カン カン
騎士「ほう、なんなら、手伝ってやってもいいんだぞ?」
鍛冶屋「はいはい。 そうするくらいなら、猫の手を借りたほうがまだマシ・・・・・・って」
騎士「久しいな、鍛冶屋」
鍛冶屋「お、おお。 久しぶりだな。 って、あれからそんなに日は経っていないと思うけど?」
騎士「そうか?」
鍛冶屋「ていうかお前。 確か今は、隊長さんの仕事を手伝ってるんじゃ・・・・・・こんな所で油を売ってていいのか?」
騎士「うむ。 少し暇をもらってきた。 今頃どうしているかとな。 そういえば、隊長が今度顔を出せと言っていたぞ」
鍛冶屋「隊長が?」
騎士「ああ。 あれから一度も会っていないのだろう?」
鍛冶屋「そういえばそうだな。 とは言っても、今じゃ国の指導者だからなぁ」
騎士「ふふ、そんな事を気にする人ではない」
鍛冶屋「さようかい」
騎士「で、今何をしているんだ?」
鍛冶屋「何をしているもなにも、本業の合間を縫って、自分の手を“ハンドメイド”しているところだ」
騎士「ほう・・・・・・。 ところで、その腕、いつから・・・・・・」
鍛冶屋「・・・・・・?」
騎士「いや・・・・・・、その・・・・・・、言いにくいことなら・・・・・・」
鍛冶屋「別に、そんな大したことじゃねぇよ」
騎士「そう、なのか?」
- 162:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/05/31(木) 22:21:57.16 ID:1c5644Tl0
鍛冶屋「・・・・・・俺はな、小さい頃の記憶が無いんだ」
騎士「記憶が、無い?」
鍛冶屋「ああ。 朧げには覚えているんだ。 だが、ほとんど無いといってもいい」
鍛冶屋「かすかに親父、のような人の顔は、思い出せ・・・・・・そうで、思い出せないんだ。 あと、兄弟が・・・・・・いたようないなかったような・・・・・・」
騎士「はっきりしないな」
鍛冶屋「そうなんだよ。 けどな・・・・・・」
騎士「けど?」
鍛冶屋「なんとなくだけど、幸せだったような気はするんだ・・・・・・」
騎士「・・・・・・そうか」
鍛冶屋「で、話を戻すが、記憶を無くして、気づいた時にはすでに、腕はなかった。 それで、目が覚めた時から世話をしてくれた師匠が、その後腕を作ってくれたんだ」
鍛冶屋「なんでも、片腕をなくした俺を担いでいた男が、師匠に頼み込んだみたいなんだ。 “こうするしかなかった。 この子を頼む”ってな」
鍛冶屋「師匠はその男と知り合いだったみたいでよ。 俺を引き受けて、鍛冶屋に育て上げた。 ていうか、俺が師匠のものまねをしている間に、のめり込んでいったんだけどな」
騎士「その男、もしかして・・・・・・」
鍛冶屋「どうだかなぁ。 親父なのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。 まぁ、今となってはどうでもいいことだ」
鍛冶屋「腕のほうは、年齢に合わせて、幾つもストックを作ってくれていたんだが、あの日、キマイラに食われた腕が最後の腕だったんだ」
騎士「そう、だったのか・・・・・・」
鍛冶屋「だからよ、まぁ、こうして新しい腕を作っているってわけだよ」
騎士「なるほどな」
騎士「・・・・・・そ、そういえば、以前、私に鍛冶をさせてくれると言っていたな?」
鍛冶屋「あぁ? そんなこと言ったか?」
騎士「・・・・・・言った。 絶対に言った」
鍛冶屋「いや、でも、今は・・・・・・」
騎士「さて、じゃあさっそく、鍛冶屋の腕を作るか。 この金槌を使えばいいのか?」
鍛冶屋「あ、ちょっ!? おい!!」
騎士「ふふん、遠慮などするな。 私は貴様に借りがある。 今こそ返すべき時ではないか」
鍛冶屋「いや、それはまた今度でいいから!!」
騎士「初めてだが、手ほどきの程、よろしく頼む」
鍛冶屋「だから待ってって!!」」
騎士「さぁて、貴様の為に、腕を作るぞ!!」
鍛冶屋「やぁめぇてぇくぅれぇぇぇぇぇ!!」
FIN
- 172:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県):2012/06/01(金) 03:47:14.08 ID:1D3LhTyN0
乙でした!
槍兵「竜騎士になりたいんです」 役所「無理です」
勇者「お前が勇者をやってみろ」 魔王「どうしてそうなる?」
転載元
騎士「私のために剣を作れ」 鍛冶屋「いやだ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1337872392/
騎士「私のために剣を作れ」 鍛冶屋「いやだ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1337872392/
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コメント一覧 (40)
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- 2012年11月18日 10:06
- 前もなかったっけ?これ
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- 2012年11月18日 10:37
- お前が勇者をやってみろの人だな
クセが分かりやすい
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- 2012年11月18日 10:48
- 前も見たな。いい作品だった。
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- 2012年11月18日 11:12
- ソードワールドの短編でこうゆう話があったなぁ・・・あの鍛冶屋は鎧作ってた、ただの鍛冶屋だったけど
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- 2012年11月18日 11:22
- 聖剣の鍛治師みたいだな
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- 2012年11月18日 11:23
- これまとめてなかったんだ
違うトコで読んだのかな
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- 2012年11月18日 11:55
- 王子報われねえな
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- 2012年11月18日 13:20
- 結構前のやつだな
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- 2012年11月18日 14:05
- 鍛冶屋は王子兄・・・なのか・・?
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- 2012年11月18日 16:33
- 読みやすかったなぁ
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- 2012年11月18日 17:15
- この人の作品は、勇者をやってみろと竜騎士になりたいんですとコレしか知らないんだけど、他にもあっありするの?
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- 2012年11月18日 18:32
- きまいら良く別の作品と同じ人が書いたって分かるよな
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- 2012年11月18日 20:02
- ↓きまいら……?
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- 2012年11月18日 20:34
- きまいら
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- 2012年11月18日 20:44
- きまいら!
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- 2012年11月18日 20:52
- きまいら、もうやめてやれ
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- 2012年11月18日 20:56
- きまいら!はいつになったらまとめられるんですか!?
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- 2012年11月18日 21:17
- ―――キマイラが現れた!!
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- 2012年11月18日 21:59
- 鍛冶屋が兄っていう設定があんまり生きてないなw
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- 2012年11月19日 02:45
- ベタだけふぉ面白かったぜ
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- 2012年11月19日 05:25
- 同じ作者が新作でも書いてたりすんの?
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- 2012年11月19日 06:21
- おい、きまいら、いい加減にしろよ
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- 2012年11月19日 06:38
- きまいら は おまいら の間違い
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- 2012年11月19日 16:20
- タイトルでアテナとヘパイストスみたいの想像したのにww
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- 2012年11月19日 23:27
- 3作全部面白かった
微妙な誤字も
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- 2012年11月20日 16:12
- 兄が王子だとバレなきゃ設定が生きないだろ
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- 2012年11月21日 01:12
- 台詞が良かった。
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- 2012年11月28日 21:31
- 長い。イマイチ。ラノベ臭
最初のキマイラ戦で終わってたほうがアッサリしてて良かったと思う
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- 2012年11月29日 05:50
- ラノベ臭ってお前・・・・・・
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- 2012年12月03日 06:22
- 呪術師が冗長に説明しに来たのが笑える
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- 2013年01月30日 22:09
- なんで隊長気付かないの?
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- 2013年03月09日 00:55
- すごい良かった
著作権とかどうとかじゃなく
無名の人がいいモノを投下する
もうそれでいいだろ、全部。
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- 2013年03月09日 00:58
- 設定が生きてないっつーか
生きてないんだけど、
伏線を張っといたままって終わり方に
あえてそうしたんだろうよ
そういうのもアリだろ
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- 2013年03月09日 01:12
- >>31 確かにw
っていうか隊長って結構若いじゃん
隊長は不憫だな‥
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- 2014年03月04日 07:32
- 隊長が女てか娘だったことが一番驚いた
てっきり騎士が娘かと…
ラブロマンス入れてくれよ、寂しいじゃないか。いや王子と娘の悲恋も良かった?でも騎士が女である必要性ないじゃん、なんか勿体無いよ
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- 2014年09月29日 18:09
- 同じく騎士が娘かと 隊長男としか思えなかったww
魔王が勇者やるのと同じ人だったのか
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- 2015年08月29日 07:29
- イイね
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- 2016年02月14日 00:05
- ちょっと長かったけどベストな読みやすさで好き
結局鍛冶屋は王子の兄なのかな?
だとしたら、王子が王を殺してたら大変なことに・・・
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- 2016年08月17日 01:14
- 双子の兄なのに顔は全然似てないのか
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- 2018年01月09日 00:01
- 隊長が女ってのは序盤で騎士が言ってる
双子だからって顔が同じとは限らない
とにかくいい作品だった