唯「タイムトラベル」紬「Look for」梓「memoriesです!」
澪「あれ……どこに行ったんだろうな」
唯「? どうしたの澪ちゃん」
澪「ん? あぁ、何でもないよ。気にしないで」
唯「ん~?」
澪「……」ポケー
梓「(澪先輩どうしたんでしょうね」
紬「(今日は一日中上の空……心配ね」
唯「(りっちゃんが風邪でおやすみだからかな?」
梓「(他にも理由がありそうですけど……」
澪「どこ行ったんだろうな……」
紬「(さっきからどこ行ったんだろうって呟いてるわね」
梓「(何か落とし物したんでしょうか?」
唯「(それとなく聞いてみよう!」
唯「澪ちゃん何か落とし物でもしたの?」
澪「えっ?」
梓「全然それとなくないじゃないですか……」
澪「うん……まあ、そうなんだけど。今更どうにかなるものじゃないし」
紬「いつ落としたの?」
澪「……小学四年生ぐらいかな」
梓「それは……確かにどうにもなりませんね」
澪「うん。だから、いいんだ。心配かけてごめんな」
唯「澪ちゃん……」
澪「ただ……何となくこの時期になると思い出すんだ。どこに行ったのかなって……」
────
澪「じゃあ、私はこっちだから」
唯「うん。またね~澪ちゃん」
澪「……」トボトボ
梓「元気なかったですね、澪先輩」
紬「りっちゃんのお見舞いにみんなで行けばちょっとは気が紛れると思ったんだけど……」
梓「仕方ないですよ。この時間は点滴らしいですし」
唯「むぅん……」
梓「何唸ってるんですか唯先輩」
唯「澪ちゃんの無くした大事なもの……探してあげられたらいいのにな~って」
梓「そうですね……律先輩がいなくてただでさえ元気がないのに無くした物の思い出まで思い出すなんて……でも」
梓「小学四年生……今から8年も前の落とし物を探すなんて無理ですよ」
紬「もし、……無理じゃないとしたら?」
唯梓「!?」
梓「何か手がかりでもあるんですかムギ先輩!?」
紬「ううん、でも……『その場に居合わせれば』、可能じゃないかしら?」
梓「その場に居合わすって……」
唯「ムギちゃん……まさか!」
紬「琴吹グループは色々なジャンルで仕事をしているの」
梓「車とかロケットとかの開発もしてるとか、ですよね?」
唯「凄いねムギちゃん!」
紬「私は何もしてないんだけどね。お父様が凄いの」
唯「じゃあムギちゃんのお父さん凄いね!」
紬「ふふ、ありがとう」
梓「それでそれがさっきのとどう関係があるんですか?」
紬「うん……その中の1つにね、あるの」
梓「……ま、まさか」
紬「時間逆行制御装置……つまり、タイムマシンよ……」
唯「じゃあ早速それで澪ちゃんの落とし物を探しに行こう!」
梓「ちょちょちょ、まってください! なんでそんなあっさりなんですか唯先輩は! タイムマシンですよタイムマシン!
あの実現不可能と言われているタイムマシンがあるなんてノートン先生もビックリなことですよ!?」
唯「やだな~あずにゃん。ドラ○もんだと21世紀になったら当たり前にあるって言ってたよ~?
あずにゃんったら遅れてる~」
梓「アニメと現実を一緒にしないでください!
この世界じゃ車は空を飛ばないしタイムマシンもないんです!」
紬「タイムマシンはあるわよ~」
唯「ほら~あるんだって!」
梓「ああもうっ」
紬「梓ちゃんが驚くのは無理もないわ。時間って概念は通常私達人間じゃ越えられないものね」
梓「擬似的に越えることは出来たりするらしいですけど……タイムマシンって言うにはちょっと違いますもんね」
紬「梓ちゃん詳しそうね~」
梓「そんなことないですよ。ちょっとSF小説をかじったくらいで」
唯「とにかく今大切なのは澪ちゃんだよ!
あんな辛そうな澪ちゃん見たくないもん」
紬「そうね……何とかしてあげられるなら何とかしてあげたいわね」
梓「でも……(タイムトラベルには危険も伴う……)いや、わかりました。やってやりましょう!
時間を越えての落とし物探し!(所詮は本当に行ったことのない俗説です! 私が真のタイムトラベラー、アズ・タイターになってやるです!)」
紬家前──
梓「ムギ先輩遅いですね……」
唯「ねぇあずにゃん。タイムマシンってやっぱり乗るのかな!?」
梓「どうですかね……フィクションの世界でならいくつも登場しますけど」
唯「車がいいな~。こうぎゅあ~ん! どしゃーん! ぎゅんぎゅんっ! ズババババーって!」
梓「バック・トゥ・ザ・フューチャーですか。有名ですもんね。
でもタイムトラベルの衝撃が物理的な衝撃とも限りませんし……乗り物とは限りませんよ」
唯「なんかよくわかんないけどあずにゃんカッコいい!」
梓「まあ唯先輩よりは知識ありますかね」
唯「じゃあこれからあずにゃんのことあずにゃん先生って呼ぶね!」
梓「いえ、結構です」
唯「えー」
紬「お待たせ二人とも」
梓「タイムマシンは!? タイムマシンはどこですかムギ先輩!?」キョロキョロ
唯「あずにゃん落ち着きなよ」
紬「これよ~。お父様の書斎からこっそり持って来ちゃった」
梓「これは……」
唯「時計?」
紬「そう。懐中時計」
梓「はは……ははは、あはははは」
唯「あずにゃん?」
紬「どうしたの梓ちゃん?」
梓「どうしたもこうしたもないですよ! タイムマシンですよ!? 時間を越えるんですよ!?
そんな大質量を産み出さなきゃならないものが懐中時計なんて……あり得ないですよ!」
紬「で、でも……お父様と斉藤がタイムマシンだって……」
梓「聞き間違えたんじゃないんですか?
『それはこの屋敷の奥にあるタイムマシンを起動させる暗号になっているのだ、ふふふ』とかのタイムマシンだけを抜き取って聞いちゃった……とか」
紬「……そうなのかしら」
唯「でもこの時計の中についてる石……綺麗だね~」
梓「本当ですね……。ダイヤモンド……じゃないですね。真っ白……真珠みたいだけど……透き通ってます……ずっと見てたら何だか吸い込まれそうですね」
紬「お父様達が言うには特別な石らしいわ。それがタイムトラベルを可能にしてるんだとか」
梓「この石が……ですか」
唯「とりあえずやってみようよ! タイムトラベル!」
紬「そうね! 百聞は一見に如かずですもの」
梓「……はあ(そんな簡単に時間を越えられるわけないですよ……」
唯「澪ちゃんが小学4年生の頃だから~」
紬「今から八年前ね。時期は今頃って言ってたから今日にしましょう」
梓「どうやって年月日を決めるんですか?」
紬「この短針を右に進むと未来に、左に戻すと過去に飛べるらしいわ。つまり八年前だから左に8、短針を戻すの」
梓「ふむふむ」
紬「長針は月、つまり今は6月だから6に合わせて……」
梓「なるほど……」
紬「後は秒針を行きたい日時に合わせるの。13日だから13ね」
梓「秒針も60ありますけど日は30しかありませんよね?」
紬「1~30はその日の午前、30~60はその日の午後に飛べるらしいの。何時かはあまり指定出来ないらしいわ」
梓「ふむふむです。で、出力は……」
唯「早く行こうよぉ~!」
紬「最後にこの横の時間を合わせるボタンを押せばタイムトラベルよ!」
唯「なんかドキドキするね!」
梓「はいっ! 時間を越えるなんて一生に一回出来るか出来ないか、いや、普通出来ませんよね!」
唯「何かこうポーズとか決めた方がいいかな?」
梓「ポーズ、ですか?」
唯「ターイムトラベルースイッチ! オンッ! みたいな」
梓「何かロボットの合体シーンみたいですよそれ」
唯「うぅ~でもなんかやりたい」
紬「こんなのはどうかしら? 澪ちゃんの思い出を探す時間旅行だから……」
紬「タイムトラベル Look for memories」
梓「思い出を探しに時間旅行ってことですね」
唯「英語わかんなーい」
────
唯「じゃ、行くよ!」
紬「ええ!」
梓「はい!」
唯「タイムトラベル!」ビシッ
紬「Look for~♪」ホワホワ
梓「memoriesです!」ポチッ
梓「なっ……時計の針が……めちゃくちゃに回って……」
唯「なんだか……ぐにゃぐにゃするよ~?」
紬「何かに掴まってないと……吹き飛ばされそう……!」
梓「皆さんこの懐中時計に掴まって!!! 早く!!!」
ギュワアアアアアアアアアアアア──
────
4時30分13秒────
唯「ここは……ムギちゃんの家の前?」
紬「ん……あら? 明るいわ」
唯「おはようムギちゃん」
紬「おはよう唯ちゃん。タイムトラベルは成功したのかしら?」
唯「さあ?」
紬「梓ちゃんは?」
唯「あ、そう言えばあずにゃんがいないよ!」
梓「後ろですよ唯先輩」
唯「無事だったかあずにゃんよ!」
梓「はい、なんとか。唯先輩よりちょっと早く目覚めたので……手早くタイムトラベルの成否を確認してきました」
唯「どうやって?」
梓「一回はやってみたかったんですよ……これ」バサッ
紬「これは……!」
梓「そう、新聞です。さっきコンビニで買って来ました。日時は……」
梓「2003年の6月13日……間違いないです。私達……タイムトラベルしたんですよ!!!」
唯「来たんだね……本当に!」
紬「お父様ったらこんなことを隠すなんてずるいわぁ」
梓「どうやって来たかとか、時間軸がどう移動したのとか、色々気になることはありますけど……まずはここに来た目標を達成しましょう」
唯「澪ちゃんの落とし物探しだね!」
紬「まずは澪ちゃんの家に行きましょう!」
梓「時間は……この懐中時計4時30分13秒で止まったまま動かないですね。
さっきコンビニで見たら朝の7時ぐらいでしたから、ちょうど澪先輩が学校へ行く時間です」
唯「急いでつけないと!」
紬「おー!」
梓「時間を飛んでもいつも通りですね……二人とも」
澪の家────
唯「たしかここだよ!」
梓「そう言えば澪先輩の家って初めて来ますよ」
紬「私も~」
唯「私もりっちゃんに教えてもらっただけで遊びに来たことはないよ~」
梓「案外謎に包まれてましたね、澪先輩」
紬「りっちゃんと澪ちゃんしか知らないことがいっぱいあるのねきっと」
唯「む! 誰かくるよ!」
唯紬梓≡ササッー
◎◎◎≡ササッー
幼澪「行ってきまーす」
幼澪「」トコトコ
唯「み、み、澪ちゃんだよねあれ!」
梓「そ、そうみたいですね!」
紬「」ほわ~
唯紬梓「か、可愛い~」
梓「はっ! こんなことしてる場合じゃないですよ! 早く後をつけないと!」
唯「持って帰りたい可愛さだよ~」
紬「お菓子あげようかしら~」
梓「もうっ! 二人ともしっかりしてください!」
────
幼澪「」トコトコ
唯紬梓「」じ~
幼澪「」トコトコ
唯紬「」じ~
梓「」じ~
幼澪「?」キョロキョロ
唯紬梓∥「……」
幼澪「」トコトコ
梓「近いですよ二人とも! 危うくバレるとこでしたよ!」
唯「だってランドセル背負ってる澪ちゃん可愛いんだも~ん」
紬「連れて帰りたいわね~」
唯「よ~しこの飴ちゃんで誘惑しちゃおう!」
梓「誘拐するためにタイムトラベルしたんじゃないんですよ!」
幼澪「うぅ……」ブルブル
唯「ややっ! 何か震えてますよ澪ちゃんが!」
梓「どうしたんでしょうね」
紬「お腹が痛いのかしら?」
犬「グルウウウウウ」
幼澪「うぅ……怖いよぅ」
唯「犬が怖くて通れないのかな?」
梓「か、可愛い~……守ってあげたくなりますね」
唯「あずにゃん?」
梓「はっ! な、なんでもないです!」
紬「よぅし! みんなで助けましょう!」
梓「駄目ですよムギ先輩! 極力接触は避ける、それがタイムトラベルの基本です!
私達がいなくても何とか出来たんですから、ここは静観しましょう」
紬「タイムトラベルって難しいわね……」
幼澪「えいっ」ダダッ
唯「おおっ! 澪ちゃん渾身のダッシュ!」
紬「犬通りを抜けたわ♪」
梓「怖がりは今より深刻みたいですね……門に隔てられたロープつきの柴犬に怖がるなんて」
唯「そう言えばこの頃の澪ちゃんってもうりっちゃんと知り合ってるのかな?」
梓「そこら辺は私より付き合いの長い二人の方が知ってるんじゃないんですか?」
紬「う~ん、いつ知り合ったかとかは聞いたことないわね」
唯「幼馴染みだから幼稚園ぐらいかな?
私と和ちゃんはそれぐらいだったよ」
梓「その話はまた今度あっちでゆっくりしましょうか。それより今は小さい澪先輩を追いましょう」
唯「よしよ~しわんころ~」犬「くぅん」
梓「唯先輩っ!」
幼澪「はあっ……はあっ……!」
梓「まだ走ってますね」
紬「がんばって~」
幼澪「んはぁっ……はあっ……」ポロ
唯「あ、ランドセルから何か落ちたよ?」
梓「気づいてないみたいですね」
紬「もしかしてあれが澪ちゃんが言ってた大切なものじゃないかしら?」
梓「行ってみましょう!」
────
梓「これは……」
唯「ふでばこ?」
紬「キティちゃんね~可愛いわ~。中に入ってる鉛筆やシャーペン何かも可愛いキャラものばっかりね」
梓「まあ人によって思い入れは違いますからね。きっとお母さんからの贈り物か何かなんでしょう」
唯「じゃあこれを持って帰って澪ちゃんに渡せばミッションコンプリートだねっ!」
梓「駄目に決まってるじゃないですか! そんなことしたらタイムパラドックスが起きますよ!」
梓「タイムパラドックスって言うのはですね、本来ないものをそこに持って来ることで生まれる矛盾のことです」
紬「いけないの?」
梓「例えばです、この時間の唯先輩にこれからやるテストの回答全てを写したノートを渡すとしますよね?」
唯「夢のような話だね~」
梓「そうすると唯先輩は当然全テストで100点満点です」
紬「でも唯ちゃんなら名前とか書き忘れちゃいそう」
唯「あ~ムギちゃんひど~い!」プンスカ
紬「うふふ、冗談よ」
梓「真面目に聞いてくださいっ! そしたら唯先輩は……もしかしたら桜ヶ丘高校にも来ないかもしれません」
紬「えっ……?」
唯「やだな~あずにゃん。ちゃんと行くよ~というかもう行ってるよぉ」
紬「もしかして……」
梓「……ムギ先輩は気づきましたね。そうです、私達がやってることは歴史さえも変えることが出来ることなんですよ」
紬「歴史を……変える」
唯「どういうこと?」
梓「はあ……唯先輩にもわかりやすく説明しときます。あ、飴ちゃん借りますね」
唯「ああっ~私の非常食がぁ~」
梓「後でちゃんと返しますから」
梓「唯先輩、飴ちゃんがある世界とない世界、どっちを選びますか?」
唯「ある世界とない世界?」
梓「簡単に言えばこの飴ちゃん、ほしいですか? ほしくないですか?」
唯「ほしい!」
梓「はい、どうぞ」
唯「わ~い。ってこれ元々私の飴ちゃんだよあずにゃん!」
梓「細かいことは置いといてください。つまりこれで唯先輩には飴ちゃんがある世界に分岐したんです」
唯「ほぇ?」
紬「……でもそれだけのことで未来ってそんなに変わるのかしら?」
梓「まあこれぐらいのことじゃ変わることはないと思います。でもさっきみたいにテストの回答を写したノート、とかなら唯先輩の未来はきっと劇的に変わります……!」
唯「具体的に言うと……!?」
梓「東大だって夢じゃありません……」
唯「おおおおおっ」
梓「これが俗に言うタイムパラドックスです。過去に戻って起こした変化が後の未来に影響、矛盾するってやつです」
紬「つまりその変化の度合いを考えて行動しなきゃならないってことかしら?」
梓「そうなりますね。さすがムギ先輩、ものわかりが早くて助かります。
それに比べて……」
唯「小さい頃の私にどうやってテストの回答渡そう……」
梓「ゆーいせーんぱぁーい。さっきの話聞いてなかったんですか?」ジトー
唯「やっぱり……駄目?」
梓「駄目に決まってますよ!」
唯「う~あずにゃんのけちんぼ!」
梓「今を変えるってことはこの先、つまり私達のいる世界を変えるってことになるんです。
テストの回答を渡して東大に行く未来にすれば、唯先輩と私達は出会わないかもしれないんですよ?
それでもいいんですか?」
唯「うそ……そんなのやだよ」
紬「唯ちゃん、私達は過去にいるの。私達の行動で未来を変えちゃったりしたら大変でしょう?
だからそうならないよう慎重に動きましょうって梓ちゃんは言ってるの」
唯「うん……そうだね。私達が出会わない世界なんて……嫌だもんね。
ごめんねあずにゃん」
梓「わかってくれたらいいんです」
唯「でもそうすると澪ちゃんのふでばこはどうしたらいいの?」
紬「悔しいけれど……このまま帰った方がいいのかしら」
唯「そんなぁ……明日も澪ちゃんがあんな悲しそうな顔するのやだよ……」
紬「でも……」
梓「大丈夫ですよ。筆箱はちゃんと澪先輩に届けられます」ニヤッ
唯「ほんとに!?」
紬「どうやって!?」
梓「確かに持って帰って直接渡すことは出来ませんけど、今拾って誰にもバレないようにこっそり澪先輩のランドセルに戻してあげたらいいんです!」
唯「なるほど!」
紬「でもそれって直接渡すこととどう違うの?」
梓「時間軸が違います。タイムパラドックスは8年前、私達が知り得もしない澪先輩の筆箱を持って来て渡す、と言うところで起こります」
紬「確かにその頃まだ知り合ってもない私達がその筆箱を持ってる時点でおかしいものね」
唯「うんうん」
梓「なので最初から落としてないことにするんです。そうすれば誤差はふでばこの有り無しだけに留まります。
これぐらいならさっきやった飴ちゃんの有り無しと同じぐらいでしょうし問題ない筈です」
唯「さっすがあずにゃん先生!」
紬「凄いわ梓ちゃん!」
梓「えへへ」ドヤ!
梓「じゃあ早速これを小さい澪先輩に届けましょう! バレないように、ですよ?」
唯紬「おっー!」
学校────
唯「いる?」
梓「ん~このクラスじゃないみたいです。ムギ先輩、移動お願いします」
紬「は~い」
唯「4年生が二階で助かったね~」
梓「はい。肩車でギリギリ覗ける高さです」
紬「梓ちゃん軽いわね~」
梓「そ、そうですか?///」
唯「あずにゃんはちっちゃいからね~」
紬「っこらしょ、ここでいいかしら」
梓「はい。……居ました、澪先輩です」
幼澪「……」
梓「本読んでますね」
唯「りっちゃんは~?」
梓「……それらしい人はいませんね」
紬「まだ知りあってないのかしら」
「なにやってんの?」
梓「何って監視ですよ。さっき言ったじゃないですか。澪先輩を監視してランドセルに筆箱を入れるチャンスを伺うって……」
梓「あれ? さっきのって……」
唯「あずにゃんあずにゃん!」
梓「えっ?」
紬「あらぁ」
幼律「肩車なんてやってなにやってんの? おねえちゃんたち」
唯「りっちゃんだよ!」
梓「なんてこったあああああ」
紬「可愛いわね~お菓子いる?」
幼律「」プイッ
紬「あら?」
幼律「あやしそうな人から物もらっちゃだめだって言われてるからもらわないもん!」
紬「あらあら」
. ≦: : 二二二:. ミ: . .、
. イ . : v ´ _____ \、:\
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/ . : / . . : : i>一` ミ-一´―-ミ:ハ: :ヽ
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ノ.:イ: /| : :!ハ { 廴.ツ ヒ.シ /イ::: : : .}
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>>50
りっちゃん可愛い
唯「ど、どうするのあずにゃん!?」オタオタ
梓「し、し、仕方ないです! このまま拉致して記憶を無くさして……!」アタフタ
唯「どうやって記憶を無くさすのあずにゃん!?」
幼律「おねえちゃんたち、学校の人じゃないよね?」
紬「ええ。私達はね、ここの卒業生なの」ニコリ
幼律「へーそうなんだ」
紬「だから学校の前にちょっと見てただけなの。だから怪しくなんてないのよ?」
梓「(ムギ先輩ナイスアドリブですっ!」
唯「(今まであの甘い笑顔に何人も騙されて来たんだよきっと!」
幼律「じゃあ……」
紬「」ゴクリ……
唯「」ゴクリ……
梓「」ゴクリ……
幼律「お菓子もらってもいいよねーっ!」
紬「ええ。はい、どうぞ」
唯「(やっぱりりっちゃんだーっ!」
梓「(この頃から可愛げなかったんですね……律先輩」
キーンコーンカーンコーン……
幼律「やっばい遅刻っ! じゃあね~変なお姉ちゃん達!」
紬「ばいば~い」
唯「やっぱりりっちゃんはりっちゃんだったね」
梓「まあ……バカっぽいですしすぐ忘れてくれますよ律先輩なら」
唯「あずにゃん酷いね、さりげに」
────
先生「一時間目は図工になります。みんな彫刻刀は持って来ましたか?」
幼律「は~い忘れました~!」
先生「あらあら」
梓「律先輩は相変わらず……ん? 元がこの場合なんて言うんでしょう?」
紬「タイムトラベル専用の用語はないから難しいわね~。元々変わってないから元変わらず、かしら?」
梓「なるほど」
唯「ああん私もちっちゃいりっちゃんと澪ちゃん見たいよ~!」
梓「遊びでやってるんじゃないんですから。我慢してください唯先輩」
唯「ぶぅ~」
先生「じゃあ友達に借りてくださいね」
幼律「は~い!」
梓「お、これは面白いことになりましたね」
唯「なになに!? あ~んもうやっぱり見たい~!」
梓「これでこの時間の澪先輩と律先輩の仲良さがわかりますね」
紬「きっとりっちゃんは澪ちゃんに借りに行くわ」
唯「私なら迷わず和ちゃんに借りに行くよ! 違う教室でもね!」フンス!
梓「この時間の和先輩が不憫でなりませんよ……あ、動きました」
幼律「ちょーこくとー貸して!」
友達A「いいよ~」
幼律「ありがとう~」
梓「あれ? 澪先輩じゃありませんね……」
紬「なん……ですって?」
唯「喧嘩してるとか?」
幼澪「……」
幼律「~~~」
梓「そんな感じには見えませんでしたね。何と言うかまだあんまり仲良くないって感じかな」
紬「そうなの……何だか悲しいわね」
唯「ふふ、私と和ちゃんの圧勝だねっ!」
────
梓「それにしても一時間目から移動教室なんてついてますね」
紬「これで筆箱を澪ちゃんのランドセルに入れたら任務完了ね!」
唯「何かゲームみたいで面白いね!」
梓「さっきまでの緊張感はどこに行ったんですか唯先輩……あ、この教室ですよ」
ガラララ──
唯「わぁ~机ちいさ~い」
紬「ほんとね~」
梓「え~と澪先輩のランドセルは……っと」
紬「これじゃない?」
唯「ロッカーの上に秋山みおって書いてるよ!」
紬「字まで可愛いなんて」ぼわわ~ん
梓「この秋山、は漢字でみおが平仮名な辺り小学四年生って感じしますよね」
唯「私は中学上がるまで平以外平仮名だったよ!」
梓「それはどうでもいいです。 じゃあさっさとこれを入れて帰りましょう」
唯「あずにゃん冷たいよ~。暖かい頃のあずにゃんにタイムトラベルしてよ~」
梓「はいはい行きますよ~」
紬「一時間図工、二時間目国語、三時間目道徳、四時間社会……ふふ、りっちゃんが寝ちゃいそうな時間割」
唯「せっかくだからここに『放課後ティータイム参上!』ってかいとこっか!」
梓「そんなことしたらタイムパラドックスってレベルじゃなくなりますよっ!
誰かにバレる前に急いで学校から出ましょう!」
紬「唯ちゃん早く~」
唯「わかったよぉ~」
紬の家前──
梓「戻って来ましたね」
紬「ええ。後は元の時間に合わせて飛べばいいのね」
梓「はい。この時間で起きて反映されたことは、『澪先輩が筆箱をなくさなかった』って云うことだけです」
唯「りっちゃんに見られちゃったのは大丈夫なの?」
梓「子供の頃の記憶なんて曖昧にしか覚えてない筈ですから。私達を見てあの時の! なんて言う出す確率は低いです。
それに律先輩ですしね」プッ
唯「りっちゃんだもんね」
紬「りっちゃんですものね」
梓「じゃあ帰りましょう! 私達の時間に!」
紬「ええ」
唯「おぉ~」
紬「じゃあセットするわね」
唯「あ、そうだ」
梓「何やってるんですか唯先輩?」
唯「ここに来た記念に一枚、と思って」
梓「そう言えば携帯電話の時計ってどうなってます?
その機種新しいですからこの時代だとまだ出来てない筈ですけど」
唯「普通に動いてるよ~?」
梓「日付は……2011ですね。あの懐中時計は効果範囲があってその中のものは一緒に時を越えてく……って感じですかね」
唯「??」
梓「まあこの事実を知ってる本人の携帯で撮る写真なら問題ないかな。
三人の記念、そして他の人には明かされることのない秘密記念に、一枚撮りますか」
唯「やった~! またパラちゃんがどうとかでダメとか言われると思ったよ~」
梓「タイムパラドックスですよ、唯先輩。私だってここに来た証を一つぐらい持って帰りたいですから。
後で添付して送ってくださいね」
紬「セット出来たわよ~」
唯「こっちも出来たよ!」
梓「じゃあ行きますよ~?」
紬「??」
唯「ムギちゃん笑って~」
梓「はいっ! 押しましたよ!」スタタタ
紬「? 写真撮るの?」
唯「うんっ! あずにゃん学士から許しが出たからね!」
梓「真ん中はムギ先輩で。一番の功労者なんですから!(いつか琴吹グループがタイムマシンを公表した時、私達が一番最初のタイムトラベラーだった! なんてことになったら……ふふふ)」
紬「ふふ、わかったわ」
唯「ではタイムトラベルの記念を祝して!」
梓「はいチーズ、です!」
梓紬唯 カシャッ──
────
────
グニャアアアアアアア────
唯「わっ」紬「っと」梓「に゛ゃっ」
唯「この感覚だけはなれないね~」
紬「ちゃんと戻って来れたのかしら?」
梓「ちゃんと夜ですし……多分、戻って来れたと思います。年のために帰りに新聞見ときます」
紬「ありがとう梓ちゃん」
梓「いえ、これぐらいは」
紬「そうじゃないの。今回のこと全部よ。梓ちゃんがいなかったらきっと私達とんでもないことを引き起こしてたかもしれないわ」
唯「うんうん。過去に戻るってことがそんなに危ないことなんて思わなかったよ」
梓「そんな……感謝されるようなことしてないですよ」
紬「それでもありがとう。これで澪ちゃんが明日から少しでも笑顔でいてくれるなら、私も嬉しいから」
梓「ムギ先輩……」
唯「私も嬉しいよ!」
梓「唯先輩……」
梓「(ああ、この人達はなんていい人なんだろう。こんな何でも出来る力を目の当たりにしても歪まない……友達の為にだけに使うなんて)」
梓「(私が嫌な子なだけなのかな……だとしても、私の役目は)」
梓「もうこんな危ないことしちゃ駄目ですよ?(ここでタイムマシンの誘惑を絶つこと。二人がタイムマシンの恐ろしさに気づく前に、自分を見失わないように)」
紬「は~い」
唯「は~い」
こうして一度目のタイムトラベルは無事終わったかに見えました。
けど、それは私達をバラバラに引き裂く始まりだったんです……。
これで第一部は終わりになります
三部構成の予定ですけど何分あんまり考えてやってないので四部とかになるかもです
伏線はなるべく回収するですが忘れたらすいません
後書きためないんで遅いです
では続き書きます
次の日──
梓「(あの後確認したらちゃんと2011年に戻ってた……こうやって普通に戻って来ると昨日の出来事が嘘みたい)」
純「オーッス梓」
梓「おはよ、純」
純「今日も練習頑張ろね~お互い」
梓「うん。……ふふ、純はいつも平和そうでいいな~」
純「なによその意味深な笑い方~」
梓「別に~」
純「コラ~言いなさいよ~!」
憂「おはよう二人とも。どうしたの?」
純「梓が私のことバカにするんだよ憂~」メソメソ
梓「してないしてない」
梓「(ああ、平和だなぁ~……)」
梓「(何か足りないぐらいに、平和だ)」
放課後──
梓「じゃあ私部室行くから」
純「ん~わかった。掃除終わったら後から行くよ」
梓「?」
憂「行ってらっしゃ~い。また明日ね梓ちゃん」
梓「え、あ、うん」
梓「(そんなことより澪先輩の筆箱がどうなったか確認しないと!)」
???────
部室前に行くと、その扉の前に誰かが居ました。
梓「ん? 誰だろ……」
唯「あ、あずにゃん……」
梓「え? えっと……どちら様でしたっけ?」
唯「あ、あずにゃあああああああああん」ぎゅっ
梓「わっ、あ、あの」
そう言えば、私、何しにここに来たんだっけ?
澪先輩って……誰?
唯「部室がないのです」
梓「はあ……」
音楽準備室は確か使われてなかったはず。
ここに部室なんて存在するわけもないのに何を言ってるんだろうこの人は。
三年かな? おっとりとした可愛らしい人だな~。
唯「ムギちゃんも変なんだよあずにゃん! それに澪ちゃんも!」
梓「そのあずにゃんって……もしかして私のことですか?」
唯「……あずにゃんまでおかしくなっちゃったの?」
梓「その変な呼び方やめてください。第一私はあなたのこと知りませんよ」
唯「あずにゃん……これを見てもそんなこと言える?」
おっとりした先輩が見せて来たのは、三人が写った携帯の写真だった。
右にこの人、真ん中に誰か知らない人、左に……。
梓「私……」
とても、仲が良さそうに。
梓「あぐっ……頭がっ……」
フラッシュバック──
まさにその言葉が似合う出来事だった。
頭の中の偽の情報を押し退けて、唯先輩達との記憶が蘇る。
梓「わ、私は……軽音部で……唯先輩の……後輩」
唯「そうだよあずにゃん! 良かったぁ……あずにゃんがこのまま戻って来なかったらどうしようかと思ったよぉ」
梓「ごめんなさい……唯先輩。私もなんでこんなこと忘れてたのか……唯先輩のこと……知らない人だなんて……こんな時に嘘でも言っちゃ駄目ですよね、ごめんなさい」
唯「泣かないで、あずにゃん。大丈夫だから……」
梓「はい……」
何が、どうなっているんだろう。
ただ、とんでもないことが起きているという予感だけは、外れていない気がする。
──
唯「それでクラスに入ったら澪ちゃんもムギちゃんもりっちゃんもいなくてね~!
あ、和ちゃんはいたよ! 前の席!」
梓「(考えられることは昨日のタイムトラベル以外考えられない……)」
唯「でね、さわちゃんが担任じゃないの!
それで変だな~って色々なクラス回ってみたりしたらムギちゃんと澪ちゃんがいて~」
梓「(でも筆箱を入れたぐらいでこんな変化が現れるものだろうか……)」
唯「そしたらさっきのあずにゃんみたいに私のこと知らない~って言うから……怖くなって……ここに走って来たら……部室が、ぶしゅつがああ~」
梓「よしよしです、泣かないでください」
唯「グスン……あずにゃん……これからどうしよう?」
梓「とりあえずムギ先輩のところに行きましょう」
唯「でも……さっきは私のこと知らないって」
梓「その写真見せてないですよね?」
唯「うん……」
梓「なら大丈夫です。私と同じようにフラッシュバックさせてやりましょう!
今回ばかりは唯先輩の行動が生きましたよ。グッジョブ唯先輩ですっ!」ビシッ
こんな時ぐらい、私が励まさないと!
唯「ん……ふへへ。やっぱりあずにゃんは頼もしいね」ニコッ
梓「(そんなことないですよ。唯先輩がいるから頑張らなきゃって思えるんですから……」
唯「ん? 何か言った?」
梓「何でもないです。さ、行きましょう」
────
紬「あら、あなたはさっきの……」
唯「これを見るのです!」グイッ
梓「さあ! さあさあさあさあっ!」グイグイッ
紬「ひゃあああああああああああっ」
紬「ゆ、唯ちゃん? 梓ちゃんも。こ、ここは?」
唯「戻って来れたんだねムギちゃん!」
梓「その前に……」ピポパピポ
サァティンノニンキナンテ~カンケイナイ~───
紬「あら、メール」
梓「あの写真を添付しときました。待ち受けにしといてください」
紬「わかったわ」
梓「じゃあ状況を整理するためにゆっくり話せる場所に移動しましょう。ここじゃ目立ちますから……」
唯「なんかエージェントみたいだね、私達!」ニンニンッ!
紬「それは忍者よ唯ちゃん」フフ
梓「とりあえず近くのファミレスにでも行き」
純「あれ? まだ行ってなかったんだ梓……って誰?」
梓「(唯先輩達のことを覚えてない……ってことはやっぱり……)」
・・・・
梓「ごめん純、私今日はちょっとジャズ研休むから」
純「ん、別にいいけどさ。じゃあ先輩達に言っとくね」
梓「ごめんね」
紬「(梓ちゃん、ジャズ研って……」
梓「(詳しくは後で話します」
唯「あずにゃんがジャズ研にとられたぁ~!」
純「?」
梓「いいから早く来てください唯先輩っ!」
ファミレス────
唯「一体何がどうなってるのか……パフェでも食べないとやってらんないよ!
あずにゃんはジャズ研に取られてるし~」ブツブツ
紬「梓ちゃん……これってもしかして」
梓「はい……間違いなく私達がタイムトラベルした影響で未来が変わってます……」
紬「そんな……じゃあ……もう私達は」
梓「落ち着いてくださいムギ先輩。ここで一番怖いのはこの記憶を忘れることなんです」
紬「記憶を忘れる……?」
梓「はい。色々な学説があるのですが……簡単に言うとこの世界は私達が澪先輩に筆箱を入れた世界なんです」
紬「どういうこと?」
梓「あの筆箱を入れた瞬間から分岐したんです……この世界に。塗り替えられた、って言っても相違ないでしょう」
紬「じゃあまた筆箱を元に戻せば……!」
梓「……その話は次のステップになります。まずは記憶を忘れないこと、について説明します」
紬「わかったわ」
梓「この世界はさっきも言った通り澪先輩が筆箱をなくさなかった世界なんですがその無くさなかった世界と私達が元いた世界は大きく違っています」
紬「うん……」
唯「軽音部がなかったりあずにゃんがジャズ研だったりってこと?」
梓「そうです。唯先輩に写真を見せられるまで私達はこの世界の住人として当たり前に暮らしていましたよね?」
紬「そうね」
唯「びっくりしたんだから」
梓「つまり、私達の記憶がこの世界のものに入れ替わりつつあるってことですっ……!」
紬「それって……」
梓「はい。このまま行けば私達のこの記憶は消え、そのまま知り合うこともなく別々の道を行くでしょう」
紬「そんな……」
唯「そんなの駄目だよっ! 絶対!」
梓「唯先輩の言う通りです。こんな世界は間違ってます」
紬「じゃあどうしたらいいの……?」
梓「この状況を打開するための作戦……それは」
紬唯「それは!?」
梓「その前に喉が渇いたのでドリンクバーおかわりして来ます」
紬「」むぎゅっ!
唯「あ、あずにゃん私も行く~」
紬「ほんとに大丈夫かしら……」
梓「お待たせしました」チューチュー
唯「で、あずにゃんその作戦とは?」チューチュー
紬「」ムギュムギュ
梓「カムバック軽音部!!!」グッ
梓「作戦です」
唯「おおっ! なんかすごそう!」
紬「具体的にはどうすればいいのかしら?」
梓「まずはどうしてこうなったかを突き止めます。澪先輩の所に行って筆箱の有無を確かめるのが一番ですかね」
紬「ふむふむ」
唯「でもなんで軽音部がなくなったんだろう……」
梓「確か軽音部の創設者って……」
紬「りっちゃんよ。りっちゃんが澪ちゃんを誘って無理やり軽音部に入れた……って澪ちゃんからは聞いてるけど」
梓「なるほど、大体わかって来ましたよ。この世界のカラクリが、ね」ニヤリッ
学校────
唯「軽音部がないとしたら澪ちゃんって何部なのかな?」
紬「私は合唱部だったわ」
梓「私はジャズ研ですから……みんな軽音部に入る前に決めてた部活に入ってるみたいですね」
唯「じゃあ私は……」
梓「軽音部以前にどこに入ろうとかって決めてなかったんですか?」
唯「全く決めてなかったよ!」
梓「じゃあ帰宅部ですね。間違いありません」
唯「えぇ~」
紬「あ、あれってもしかして」
和「」
唯「和ちゃんだっ! 時を越えても幼馴染みであり続けてくれる私の永遠の友達和ちゃんだよっ!」
梓「飛躍させすぎですよ」
和「あら、唯。今日は顔出さなかったのね」
唯「んん~和ちゃ~ん」ぎゅいぎゅい
和「こうやって枝にしがみつく生き物いたわね……確かなまけものだっけ」
和「ムギ、唯と知り合いだったのね」
紬「えっ、あの……」
梓「(ムギ先輩合わせて合わせて。私達がこの世界の人間じゃないと疑われたら後々面倒になりますから」
紬「(わかったわ」
紬「そうなの。たまに合唱部に遊びに来てくれたりしてるの」
和「そう。ごめんなさいね、迷惑かけてない?」
紬「ううん、迷惑だなんて」
和「唯。あなたも一応生徒会なんだから他の部に迷惑かけちゃ駄目よ?」
梓「ぶっ」
紬「ぶふっ」
唯「? 生徒会? 私が?」
梓「(ゆ、唯先輩合わせて合わせて」
唯「(む~笑うことないじゃん!」
梓「(すいません、唯先輩が生徒会とか……合わなすぎて……まるで焼きそばにどんべいのあげが乗ってるぐらいあってな……ププッ」
和「忘れちゃったの? 一年の時に私が生徒会入るって言ったらあなたも入るって言ったじゃない」
唯「ごめんなさ~い」
梓「ち、ちなみに役職は?」
和「書記補佐よ。書記の子がしっかりしてるから唯の出番はなくて……幽霊部員みたいなものよ。
その癖お茶やお菓子が出るときはふら~っと顔出すんだから。まあみんなそんな唯がいてこその生徒会だって言ってくれてるんだけどね」
梓「やってること全く変わってませんね! 唯先輩!」
唯「なんでそんな嬉しそうに言うのあずにゃん!?」
和「そう言えばこの子は……」
紬「二年でジャズ研の梓ちゃん。合唱部と合同練習の時に知り合った子で、唯ちゃんとも仲良しなの」
梓「中野梓です!」
和「真鍋和よ。そう、唯にこんなしっかりした後輩が出来たのね。いいことだわ」
和「じゃあ私は生徒会行くけど、唯は?」
唯「今日はお菓子の匂いがしないからやめとく~」
和「鋭いわね……確かに今日はないわね。まあいいわ。後輩に変な背中見せないでね」
唯「もう和ちゃんまで! 失礼だなぁ!」
ひらりと後ろ手に手を振る和先輩は、やっぱり世界が変わっても和先輩でした。
唯先輩のこと、大切に思ってるんだろうな……。
紬「さ、澪ちゃんのところに行きましょう」
梓「はいっ!」
唯「で、澪ちゃんって何部なの?」
梓「まずはそこからでしたね……」
紬「とりあえず澪ちゃんっぽいところから回ってみましょう」
文芸部────
梓「いきなりビンゴですよムギ先輩!」
紬「小学生の頃の澪ちゃん見たらピンと来たの。でも……」
梓「はい……文芸部にいるってことはこの澪先輩は律先輩とそんなに仲良くない可能性がありますね……」
唯「そう言えばりっちゃん顔……もうずっと見てない気がする」
梓「体感時間だとかなり時間が経ってますしね……」
紬「りっちゃん……風邪大丈夫かしら」
唯「……」
梓「それより先に澪先輩です! 二人とも自分のクラスはわかりますか?」
唯「私は和ちゃんと一緒で」
紬「私は唯ちゃんとは違うクラスね。でも和ちゃんとは知り合いみたい」
梓「……ということは澪先輩の性格からしてボッチの可能性が高いですね……」
紬「ボッチ?」
梓「澪先輩がムギ先輩の知り合いと言う可能性に賭けて……いざっ!」
ガラララ──
澪「ん?」
梓「こんにちは~」
紬「お邪魔しま~す」
唯「でもほんとにはお邪魔はしませんよ~」
澪「あっ、あっゎのっ、どちらさまでしかっ?」
梓「(予想以上キター! このドモりよう半端じゃないボッチですよ……!」
紬「(この様子だと私の知り合いでもないみたいね」
唯「(というかこの澪ちゃん眼鏡かけてるよ!」
梓「(きっと友達がいなくて本が友達、な子だったんですね……それで視力を代価に」ウンウン
紬「(澪ちゃん……澪ちゃんっ! もう一人じゃないからねっ!」ウルウル
澪「あ、あの~……」
紬「(この感じだといきなり言ったら驚かれそう……」
梓「(ここは任せてください。この世界のカラクリは熟知しましたから」
唯「(あずにゃん先生かっくい~っ!」
梓「えっと、ここって文芸部ですよね?」
澪「うん……そうだけど」
梓「私達仮入部しようと思って来たんです。面白かったら入ろうかなって。掛け持ちになるんですけど」
澪「ほんとにっ!?」パァ~
紬「(凄い笑顔になったわ」
唯「(あれは澪ちゃんがベースを語るときの顔だよ!」
梓「(世界が変わっても人の根本は変わってないみたいです。和先輩然り、唯先輩然り。この世界だと本がベース代わりみたいですね」
心の声漏れてるだろwwww
澪「ここには凄いいっぱい面白い本があってね~……(云々」
梓「へ~」
紬「面白そうね~」
唯「ふあ~」
────
澪「貸し出したこのカードを作ってくれたら出来るからいつでも借りてってね(云々」
梓「はい……」ウトウト
紬「早速作ったわ! 貸出しカード~♪」
唯「ぐぅ~……」
────
澪「でね、この本棚は私が作ったんだ~(云々」
梓「Zzz……っとそうなんですか!」
紬「凄いわっ! 手作りだなんて! 私にも作れるかしら……」
唯「ずぅ~ぴぃ~……」
────
澪「あ、もうこんな時間。そろそろ帰らないと」
梓「(長かった……まさか三時間も話続けるなんて……元の澪先輩もこうなのかな)」
紬「絶対入部するわね!」
唯「ふぁ~……」
片方の(だけは小声
閉じてると心の声って感じです
わかりにくくてすみません
澪「ありがとう。文芸部も先輩達がいなくなって今は私一人なんだ……実は今月中に部員が入らないと廃部だって言われてて……。
今日知り合ったばかりの人にこんなこと言うのは間違ってると思う。けど、私は本が好きだから……だから、文芸部に入ってくださいっ!」ペコリッ
梓「……」
紬「……」
唯「……」
胸が、苦しい。
この澪先輩のお願いを、叶えてあげたいのに……そうしたら、何もかも忘れてしまいそうで……体が震えてしまう。
紬「わかったわ。ちゃんと入部するから、ね? 頭上げて澪ちゃん」
ムギ先輩……駄目ですよ。
唯「お菓子が出るならいいよ!」
唯先輩まで……。
澪「ありがとう、二人とも」
いなくなっちゃう……このままじゃ、二人とも。
ううん、軽音部みんなが……!
だから────
梓「っ!」
紬「あっ」
唯「えっ?」
気が付けば、二人の手を取り、走り出していた。
驚いたムギ先輩顔も、
呆気に取られてる唯先輩の顔も、
悲しそうに顔を歪める、澪先輩の顔も……
全部無視して……私は二人を連れて無我夢中で外に出た。
途中二人に何回も話しかけられても、絶対に止まれなかった。
後ろから何かが追いかけて来てて……それが私達を飲み込んで行く気がしたから。
怖かった……忘れてしまいそうで。
あの楽しかった日々を、何もかも……。
──
梓「はぁ……はあ……」
紬「梓ちゃん……どうしたの?」
梓「駄目ですっ! あのまま流されたら……きっと私達戻って来れなくなりますよ!?」
唯「でも……澪ちゃん……泣いてたよ」
梓「それは……」
紬「どんな世界でも澪ちゃんは澪ちゃんだもの。それなのに……」
梓「ち、ちが……」
唯「謝りに行こうよ、あずにゃん」
紬「そうね。それがいいわ」
梓「違う……違う違うっ!」
三人一緒だと思ってたのが、いつの間にか私一人切り離されている間隔に陥る。
唯「あずにゃん、いこ?」
紬「梓ちゃん」
私は……、
不意に目を落とした携帯の待ち受けが、呼び覚ます……!
梓「はっ!」
梓「唯先輩! ムギ先輩! これをっ!」ババッ
唯「ほぇ?」
紬「これは……」
唯「ふんぎょおおおおおおお」
紬「むぎゅうううううううう」
梓「戻りましたか……?」
唯「うん……」
紬「危なかったわ……。何だか元に戻ることなんてどうでも良くなってた……」
梓「目的を見失わないでください。確かにこの世界の澪先輩も澪先輩ですけど……私達の知ってる澪先輩じゃないです!」
梓「このまま今の澪先輩と一緒文芸部をやったら……きっとそれはそれで楽しいです。
でも、じゃあ軽音部はどうなるんですか? 律先輩は?」
梓「私はそんなの嫌です……このまま全部忘れて……違う楽しいことやってる自分なんて許せません!」
唯「うん……そうだね。私達が間違ってたよ、あずにゃん」
紬「私達が知ってる澪ちゃんはベースが大好きだもんね。本が好きなのも本当かもしれないけど……だからってベースを知らない世界のままにするなんて酷いわよね」
梓「気をつけてください……こうやって私達の記憶を塗り替える機会を伺ってます」
唯「誰が……?」
梓「言うなればこの世界が……ですかね。異分子である私達を取り込もうとしてるのかもしれません」
紬「目に見えない敵ってことね……」
梓「はい。記憶を失う前に手がかりを見つけて、私達はもう一度タイムトラベルしなきゃ行けないんです。
それまでこの画像をしっかりと見てください」
梓「これが、今の私達を唯一繋ぐ絆ですから」
翌日────
違う時間で過ごす夜は、同じ場所なのによく眠れなかった。
寝たら忘れてしまうんじゃないかと、私はただ一生懸命画像を見て……気付いたら眠ってしまっていたという、唯先輩も呆れるバカさ加減だ。
梓「ふぁ~……ぉはようございますムギ先輩」
紬「おはよう梓ちゃん。唯ちゃんは?」
梓「まだみたいですね」
私達はこれから少しでも一緒にいられるようにと、学校の登校、下校は常に一緒に行うことにした。
私は学校なんて行かなければいいと言ったけれど、ムギ先輩が駄目と言うのでこうなった。
確かに、いきなりそんな態度を取れば回りから不思議がられる……。
敵は目に見えない世界だ、いつ襲ってくるかもわからないなら、気付かれないよう毎日を過ごすしがない。
唯「おはよ~」
梓「遅いですよ唯先輩!」
紬「まあまあ」
唯「んじゃいこっか~」
こうして三人並んでいれば絶対に忘れない。
私達が軽音部で、一緒に過ごしてきた仲間だってことを。
唯「違う世界でもちゃんと授業聞かなきゃだめなのかな?」
紬「勉強はいつだってやっておいた方がいいわよ唯ちゃん」
梓「来年受験なんですから。しっかり勉強してくださいよ」
この三人で登校すると言うこと自体が、あっちの世界では一回もない異質なことだとしても、もう、私達がこの世界に足を取られているのだとしても……。
唯「わかってるよぅ」
紬「うふふ」
梓「ふふっ」
こうやって笑っていられる限り、大丈夫だと信じたい。
授業中──
梓「(唯先輩にはああ言ったけど……今は真面目に授業してる場所じゃないよね)」
色々やることが多すぎて、紙に書いてまとめないと頭がパンクしそう。
梓「(まず私達がタイムトラベルをしてこの世界に変わったことは間違いないはず……)」
\/と線を二本書き、そこに私達の世界、筆箱がある世界と書き分ける。
梓「(私達のしたことと言えば他に……」
その下にあの時やったことを書き連ねて行く。
・新聞を買う
・律先輩に会う
・筆箱を戻す
・写真を撮る
梓「(ざっとこんなもんかな……やっぱり怪しいのはどう考えても筆箱と律先輩かなぁ)」
梓「(普通に考えればこのままあの時間以降に飛んで私達が取った筆箱を取って戻せばいいだけなんだけど……何か引っかかるなぁ)」
シャーペンを鼻と口元の間で摘まむと、フイフイと動かして遊んでみる。
何か思いつくかもしれない。
梓「……」
思い付かなかった!
梓「(とにかく今は澪先輩が筆箱を持ってるかどうかの確認が最優先かな。もし持ってないとしたら逆に律先輩に会ったっていうのがキーになってるかもだし……)」
梓「(まあ律先輩に限ってそんな細かいこと覚えてないと思うけどね)」
先生「ここ、中野~答えてみろ」
梓「はいっ!わかりませんっ!」
先生「そ、そうか……じゃあ平沢~」
梓「(なんかこっちと違う世界から来たからふわふわするって言うかやりたい放題出来ちゃうって気持ちがヤバいかも!
って純みたいなこと思ってたり)」
純「へっくしっ」
何と言うか、この状況にワクワクしてる、私!
そんな不安半分ワクワク半分のまま、放課後。
唯「とりあえず、昨日のことは謝ろうね」
梓「はい。もう大丈夫です。ちゃんと割り切ってますから」
紬「うん。私も大丈夫。この世界の澪ちゃんとして話すわ」
唯「うん、じゃあ行くよ!」
ガラララ──
澪「あっ」
梓「昨日はごめんなさいっ! いきなりあんなことして……あの……怒ってますよね?」
澪「」ポロポロ
梓「あっ、えと、ほんとにごめんなさいっ!」
澪「よかった……」
梓「えっ」
澪「もう二度と来てくれないんじゃないかと思って……こっちから謝りに行こうとしたんだけど……他の教室で誰かを呼んでもらうのって恥ずかしくて……」
唯「間違いなく澪ちゃんだよこの子は~」ウルウル
紬「二人とも、ハンカチよ」ウルウル
梓「確かに、澪先輩ですね……」
澪「改めて自己紹介するよ。秋山澪です。三年一組だから二人とは違うクラスかな」
紬「私は琴吹紬。三年二組よ。よろしくね、澪ちゃん」
唯「平沢唯だよ! ムギちゃんと同じ三年二組だよ! よろしく澪ちゃん!」
梓「中野梓です……二年一組です。よろしくお願いします」
澪「中野さんは二年生なのか~じゃあ来年は部長だな」ニコッ
梓「(何かもう入ってる前提で話が進んでる!? それより……)」
梓「あの、梓でいいです。その方が落ち着きます……」
澪「そ、そっか。下級生にさん付けなんてちょっとカッコ悪いもんな。じ、じゃあ……梓って呼ぶよ」
梓「はい!」
唯「私も唯でいいよ!」
紬「私はムギね」
澪「う、うんっ! よろしくね、唯! ムギ!」キラキラ
梓「(澪先輩凄い嬉しそう……こっちじゃよっぽど友達がいなかったんですね……)」
梓「(さて、ここからどうやって聞き出そう)」
紬「とりあえず最初は仮入部ってことでいいかしら?
実際やってみないとわからないことも多いだろうし。掛け持ちだと続けるのが難しくなるかもしれないから」
澪「うん、わかった。掛け持ちだもんね……しょうがないよね……」
梓「(ムギ先輩上手いですっ! これなら後々断っても嫌な感じはしませんしね!
澪先輩はちょっとかわいそうですけど)」
梓「(筆箱筆箱……ないなぁ。かばんの中かな)」
紬「」チラッ
梓「」チラッチラッ
紬「」コクリ
紬「澪ちゃんの眼鏡って可愛いわね~」
澪「そ、そうかな?」
紬「度は入ってるの?」
澪「うん。あんまり視力が良くなくて」
紬「本は離して読まなきゃ駄目よ?」パチッ
梓「(ふふ、時を越えた私達に取ってアイコンタクトなんて造作もないです! 今のうちに本を見るふりして澪先輩のかばんの中を失敬して……っと)」
唯「」パチクリパチクリ
梓「……」
唯「(大好きだよあずにゃん!)」パチクリパチクリ
梓「(さ、早くかばんの中を失敬して……)」
唯「(私のは通じてないの!?)」
ガサゴソガサゴソ。
梓「(なになに? トイプードルの大行進? クマさんとキツネの冬眠生活? ペンギンは空を夢見る? パンダさんとコアラの灰色ラブロマンス?
メルヘンチックな本ばっかり……澪先輩らしい。筆箱は……ないなぁ)」
梓「(まあ高校生にもなってさすがにキティちゃんの筆箱は持ち歩かないか……家にあるのかな?)」
梓「(こうなったら直接聞くしかないですよね……)」
梓「あ、あの……」
澪「ん? 何か気に入った本あった?」
梓「いえ、その……(どうキティちゃんの筆箱に話を持って行く私っ!
頑張れ私っ!)」
紬「(がんばって梓ちゃん!)」
唯「(ファイトだよあずにゃん!)」
梓「わ、わたし~キティちゃん大好きなんですよ~」
澪「えっ?」
唯「(声が上ずってるよあずにゃん!)」
梓「とくに~筆箱に目がなくてですね……(もうどうにでもなれですっ!」
澪「キティちゃんの筆箱……?」
梓「澪先輩……持ってたりしませんか?」
紬「(豪快なセンタリングね! 梓ちゃん!)」
澪「う~ん……昔持ってたような」
梓「い、今は!?」
澪「どっかに無くしちゃったのかな。覚えてないや」
梓「そう……ですか」
澪「売ってる場所探そうか?」
梓「いえっ! 結構です!」
紬「(……おかしいわね」
唯「(おかしいと言えば……なんであずにゃんに私のアイコンタクトが届かないんだろう……」
その日は四人でマクナルに行き、華の女子高生らしく談笑した後解散、に見せかけてまたマクナルに来て私はシェイクを注文しているところです。
店員「……?」
梓「(言いたいことは痛いほどわかります……。いっそのこと……)」
__________
梓「さっき私が来なかったですか!?」
店員「え、あ、はあ……」
梓「何してるです! そいつがあずにゃんですよ! 追え~!」
_ ________
0o。
梓「(とでもやった方が店員さん的には面白いだろうけど……)」
梓「(いくら違う世界から来てもそんな大それたことできな」
唯「さっき私が来なかったっ!?」
店員「えっ?」
紬「私も私も!」
店員「来ましたよ!!! ま、まさか!!?」
唯「そいつはル○ンだ~追え~!」
紬「追え~」
店員「はいいいいっ!」
梓「(店員さんめちゃくちゃノリいいしっ!)というか何やってるんですか二人ともっ!」
────
梓「目立つ行動は控えてくださいよ……全くぅ」
唯「ごめんごめん。ついやりたくなっちゃって」
紬「誰しもが憧れる名シーンよね~」
唯「こんな機会でもないと出来ないもんね!」
梓「(……そっか、二人とも私と同じ気分だったんだ。不安だけど……ワクワクする。
時間を越えて世界を越えて、今私達三人だけが知ってるんだ。そんな状況にワクワクするなと言う方が無理なんだ)」
梓「(そう、私達は唯一のタイムトラベラーなんだから!)」
でも、ちゃんと帰るためには……。
梓「じゃあ、作戦会議を始めます」
真面目さも、必要だよね。
それを読み取ったかのように二人とも真面目な顔にシフトした。
マクナルって略すのはどこの地域だ
梓「今の澪先輩は多分、筆箱を持ってません」
紬「私もそう思うわ」
唯「でも確かに澪ちゃんのランドセルの中に入れたよ?」
梓「はい。それは間違いないはずです。その後何かがあってまた無くしたか、或いは……」
紬「澪ちゃんが大切なものは筆箱じゃないっていう可能性ね」
唯「でもでもじゃあ何でこんなにこの世界が変わっちゃったの?
私達がやったことは筆箱を入れたことぐらいだよ?」
梓「こうなるともう可能性は二つです。あの時会った律先輩が私達を見て何か違うアクションを起こしたか……それか澪先輩の大切なものは別にあって、それは筆箱を入れることによって消滅した……或いはその両方ですかね」
唯「さっぱりわかんないよあずにゃん……」
梓「私もちょっと混乱してます。どっちにしろもう一度あの世界に行って澪先輩の動向を確かめる必要がありますね……」
紬「その前にりっちゃんに会って私達のことを覚えてるのか確認した方が良くないかしら?」
梓「そうですね……。じゃあ明日は律先輩に会いましょう」
紬「わかったわ」
唯「……」
梓「唯先輩?」
唯「え、うん。わかったよ」
梓「?」
梓「じゃあ今日の会議はこれにて終了です。解散っ!」チューッ!
紬「」ムギチュー!
唯「」チュュー
三人共一気にシェイクを吸い上げる姿は、端から見ればどう見ても仲睦まじいだけの女子高生にしか見えないだろうな……。
翌日────
梓「おはようございますムギ先輩」
紬「おはよう梓ちゃん」
唯「おはよ~」
梓「今日は早いですね唯先輩」
唯「憂に早く起こしてって頼んだから」
梓「こっちの憂も変わらずしっかりものみたいですね」
昨日の巻き戻しのようにまた三人で歩を進める。
多分今日、律先輩に会った後にまたタイムトラベルをすることになるだろう。
そうしたらまた未来が変わってしまうかもしれない……それでも、私達は元の世界を取り戻す為にやらないといけない。
二回目のタイムトラベルを。
────
梓「おはよ~」
純「」むす~
憂「おはよう梓ちゃん」
梓「純どうしたの? 栗みたいな顔して」
憂「それは……梓ちゃんの方が知ってるんじゃないかな?」
梓「えっ?」
純「昨日なんで何も言わないで部活休んだのさ!?」
梓「あっ……(そうだった、今は私ジャズ研の部員なんだっけ。色々あってすっかり忘れてた……)」
純「先輩達も心配してたよ? 今まで毎日来てた子が二日連続、しかも理由もなしに休んだって」
梓「ごめんね……昨日と一昨日は外せない用事があって」
純「あの先輩達と?」
梓「うん……」
純「まあいいけどさ……ちゃんと休むなら休むで連絡ぐらいしてよね。みんな心配するんだからさ」
梓「ごめんね……純(そうだ。いくら世界が違うって言っても純は純なんだ。元通りになれば関係ないからっておろそかに扱うなんて……友達として失格だよね……)」
梓「(あの時は澪先輩のせいにしちゃったけど……そうじゃない。この世界に取り込まれるかどうかは自分の意志次第なんだ。だから気を強く持とう!
元の世界に帰って、また一緒に色々遊ぶ為に……)」
梓「今日はちゃんと行くからさ(今の純の気持ちを踏みにじるようなことはやめよう。時間を越えたって、友達だもんね、私達)」
放課後、唯先輩達に部活に出ることを告げた私は純と一緒にジャズ研究会の部室に来ていた。
先輩A「お、来た来た。不良娘~」
先輩B「梓が来ないよ~ってわんわん泣いてた人が何いってるのやら」
先輩A「そ、それは言わない約束でしょ!?」
後輩A「ふふ、お帰りなさい、梓先輩」
純「お帰り、梓」
梓「ただいま……」
ただいま……?
何が、ただいま何だろう。
知らない先輩と、知らない後輩が、私を勝手に知ってる世界に、私のただいまなんて……あるわけないのに。
梓「(唯先輩……ムギ先輩)」
私のただいまは、今はあの二人にしかないのだと思い知らされた。
────
梓「ただいまですっ! 唯先輩ムギ先輩!」
唯「お帰りあずにゃん」
紬「お帰りなさい梓ちゃん。部活どうだった?」
梓「やっぱり軽音部がいいです」
唯「ふふ、素直な子じゃ。撫でてあげよう」
梓「別にいいですよっ」
紬「あらあら」
梓「で、二人はここで何してるんですか?」
唯「ごろごろ~?」
紬「ごろごろね~」
梓「生徒会室で、ですか?」
唯「和ちゃんに言ったら今日は使わないからって」
紬「お茶まで出してもらったの。梓も飲む?」
梓「あ、はい、いただきます」
梓「(場所が変わっても軽音部は健在ですね。ここに律先輩も混じって……澪先輩と私がそれを怒って……)」
梓「そうでした! 律先輩は?」
唯「……」
紬「梓ちゃんも飲む?」でした
脱字が混じり出したのでそろそろヤバいかもです
二部の終わりまでは行きたいところ
紬「それがね……りっちゃんこの学校にいないの」
梓「えっ……そんな……」
唯「私が一番最初にみんなを探し回った時……りっちゃんだけは見つからなかったの」
紬「さっき気になって和ちゃんに頼んで持って来てもらったんだけど……」
梓「クラスの名簿……」
それを一枚づつめくって行く。
一組、いない。
二組、当然いない。
三組……いない。
そして最後、四組にも……田井中律の名前はなかった。
梓「律先輩は……どこ行っちゃったんですか?」
紬「りっちゃんがこの桜ヶ丘に入ったのって澪ちゃんがいたからだと思うの」
梓「あ……ああっ」
そうか、だから軽音部もなくて……澪先輩はあんなに臆病だったのか……。
律先輩……一体どこに消えたんですか?
結局手がかりもなくその日は解散となった。
梓「このまま律先輩のことを無視してタイムトラベルしてもいいのかな……」
梓「(筆箱を抜き取れば全てが元通りなんて……そんな簡単に行くのだろうか)」
そんな時だった──
あの、ドラムの音が聴こえて来たのは。
梓「このドラムの音……何か懐かしい」
梓「このパワーはあるんだけど……走り気味で今にも壊れそうなリズムをギリギリ保ってる感じ……」
目を閉じると蘇る、律先輩のドラム──
梓「間違いないです! このドラムの人は律先輩です!
でも何でこんなにところで律先輩のドラムが……」
『最近巷で大人気のガールズバンド、ラブ・クライシスの三人で、初恋、でした。次の曲は……』
梓「あ、ラジオの有線でしたか」
電気屋の近くなの忘れてた。
梓「う~ん……それにしても律先輩はどこに……どこに……?
えっ? 何でラジオの有線に律先輩のドラムが流れて……えっ?」
梓「えええええええっ!!?」
その意味を知った時、律先輩を見つけた嬉しさよりショックの方が大きかったのは内緒です。
ネタにも詰まってきたし、ちょっとだけ寝ます
11時間かけても完成しない短編なんて……。
SSってほんと難しい
>>169
気長に待ってる
保守間隔が分からん
間隔はこんなもんかほしゅ
ほしゅ
翌日──
朝の登校中に昨日の出来事を話した。
紬「ラブ・クライシスって言うとりっちゃんや澪ちゃんが知り合いだったバンドの子よね?」
唯「私達がライブハウスで演奏した時いたよね!」
梓「はい。律先輩はそのラブ・クライシスの一員になってるみたいなんです。ドラムで」
紬「確かにあり得ない話じゃないわ。多分澪ちゃんとりっちゃんが仲良くなったのは小学生ぐらいだから……」
梓「私達が筆箱を入れることで澪先輩との関係が何らかの形で絶たれた……そしてそのまま律先輩はラブ・クライシスの人達と仲良くなってバンドを組むようになった……これなら一連の話は合致しますね」
紬「ええ。ようやくこの世界の全貌が見えてきたって感じかしら」
唯「でもメジャーデビュー間近なんて凄いよね~」
梓「そうですね……。元々ラブ・クライシスの二人がかなり力を入れてるのはライブハウスでわかりましたが……何と言うか……律先輩が入ってメジャーデビュー間近になるって」
紬「先を越されて複雑ね!」
梓「あ、やっぱりムギ先輩もそう思います?」
紬「って言うのは冗談。それより取られた~っていう嫉妬心の方が強いかも。りっちゃんはHTTのメンバーだもの」
唯「そうだよ! デビューするとしたら五人で、だよ!」
梓「(タイムマシンがあれば……私達がどうなっているのかもわかるんだ。けど……そんなのズルいよね)」
梓「そうですね。どうなるかはわからないですけど……律先輩はHTTのメンバーですもんね(先のことは、わからないから面白いですよね)」
何気なく過ごし、放課後。
ジャズ研で味わったあの感覚以来私はこの世界を嫌悪し始めていた。
これ以上ここにいたら純も憂も嫌いになってしまいそうで……怖かった。
梓「(でも、今日でもうこの世界とはさよならだ。バイバイ、この世界の純、憂、澪先輩)」
そう、今日私達はまたタイムトラベルする。
この世界を修正するために。
私達の居場所に帰るんだ。
梓「カムバック軽音部!!! です!!!」ググッ
────
梓「律先輩いますかね?」
紬「家にいてくれるといいんだけど」
唯「まさかりっちゃんを出待ちすることになるなんて思わなかったよ~」
梓「いや、普通にピンポン押せばいいじゃないですか」
そう、今私達は律先輩の家の前にいる。
タイムトラベルをする前に私達の顔を覚えてるのか、の確認と、久しぶりに律先輩の顔を見たいと言う二人の意見によるものだ。
ピンポーン
梓「……なんかドキドキしますね」
紬「久しぶりだもんね」
唯「りっちゃんのおでこが恋しいよ~」
「は~い、今出ま~す」
唯「あはぁっ! りっちゃんの声だよ!」
ガチャリ───
律「どちらさまで」
唯「りっちゃあああああん」ぎゅうっ
紬「りっちゃんりっちゃんりっちゃんっ!」ぎゅむ
律「わ、な、なんだ?」
梓「二人とも落ち着いてくださいよ……(気持ちはわからなくもないですけど)」
律「あ~……えっと、ライブ見てくれた子とかかな?」
梓「」ムカッ
梓「(早速天狗になってますね……律先輩のくせに生意気……)ってあれ?」
律「?」
梓「律先輩……カチューシャは?」
律「え? 何で私がカチューシャしてたこと知ってんの?」
唯「おでこがないりっちゃんなんてーっ!」
紬「でもこれはこれで」
梓「二人とも落ち着いてくださいっ!」
────
紬「というわけなの~」
律「へ~マキとアヤの知り合いだったんだ」
梓「(ムギ先輩のあることないこと話が炸裂したのは言うまでもないでしょう)」
梓「(にしても……)」
律「」キラキラ
梓「(何かビジュアル系になってるし! 似合わないですよ律先輩! デコ出しの方が可愛いですよ!)」
唯「りっちゃん、バンド楽しい?」
律「初対面でりっちゃんって……まあいいけどさ。うん、まあ……楽しいかな」
唯「何か物足りなくない?」
律「えっ……」
梓「(唯先輩……)」
律「……参ったな。初対面の子にここまで見抜かれてるなんて」
律「確かにラブ・クライシスはいいバンドだけどさ……何かこう私の目指してる音楽じゃないんだよな」
紬「具体的に言うと?」
律「そうだなぁ~……やっぱりギターが弱いかな。マキはドラムの方が生きそう。でも私が他の楽曲出来ないからこんなこと言える立場じゃないんだけどな」
唯「ふふ~ん」
梓「(なんでそこで得意気なんですか唯先輩! ギターなら私も入ってるじゃないですか!)」
紬「ベースは? りっちゃんの思い描くベースなの?」
律「……。確かにアヤは上手いけど……私の好きなベースって言われるとやっぱりちょっと違うかな。
私が好きなベースはさ、もっと低音で……力強くて……みんなを影から支えるような……そんなベース」
唯「澪ちゃんだ……! 澪ちゃんのベースだよそれ!」
律「澪……?」
梓「そんなわけないですよ! だってこの世界じゃ澪先輩はベースなんて弾いたことないはず……」
律「澪……なんか懐かしい名前だな。そんな呼んだ覚えもないのに……呼び慣れてるっていうか」
唯「でも間違いないよ! りっちゃんが思い描く理想のベースは澪ちゃんのベースだよ!」
紬「元々そういうベースが好きだったって可能性もあるけど……」
梓「これってもしかして……タイムシフトメモリーアウト……」
梓「タイムシフトメモリーアウトですよ唯先輩!!!」
唯「なにそれ!?」
梓「過去が改変されきってない歪んだ状況で起きる現象です! 名前は今つけました!」
唯「なんかよくわからないけどどういこと?」
梓「つまり律先輩は完璧にこの世界の律先輩じゃないんですよっ!!! 改変前の律先輩の記憶を無意識にフラッシュバックしてるんです!」
唯「全然わかんないけどすごいね!」
梓「はいっ! 凄いんですっ!」
律「???」
紬「りっちゃん、私達ね……別の世界から来たの」
律「え? は?」
唯「りっちゃんの好きなベースの人はね、澪ちゃんって言うんだよ!」
律「澪……」
梓「その人を今日取り戻しに言って来ますから! 律先輩は安心して待っててください!」
梓「じゃあそろそろ行きましょうか」
紬「そうね」
唯「HTTを取り戻す為にね!」
律「おいおい、私は全く何がなんだかなんだけど?」
梓「律先輩はわからなくていいんです。ただその好きなベースの音、忘れないでください」
律「あれ……? あんたどっかで見たような」
梓「また、過去で会いましょう、律先輩」
後ろ手に手を振りながら去る──
律先輩から見ればこれ以上にない意味不明な経験だろう。
けど、その意味を知っているのは私達だけでいい。
思えばこれは澪先輩の大切なものを届ける、から、澪先輩と律先輩の思い出を繋ぐ旅になっている気がする。
だから当の本人達は知らなくていいんです。
元々あったものを繋げ直そうとしてるだけなんだから。
夜────
紬「タイムマシンが同じ場所にあって良かったわ」
梓「ほっ……これでタイムマシンが開発されてない、なんてオチだったらどうしようかと思いましたよ」
唯「なかったら私達が作ればいいんだよ!」
梓「私嫌ですよ? 何十年もかけて作ったタイムマシンでまた過去に戻ってあそこから人生やり直す~なんて」
紬「それも楽しそうだけどね」
梓「ムギ先輩までそんなこと」
紬「ふふ、冗談よ」
梓「今回のことでムギ先輩が一番変わりましたよね」
紬「梓ちゃんだって負けず劣らずよ?」
唯「私は!?」
梓紬「いつも通り(です(ね~」
唯「えぇ~……」
梓「変わる必要なんてないんですよ。私達も、世界も」
紬「そうね。ありのままがいいわね」
梓「じゃあ行きましょうか。私達の世界を取り戻しに」
紬「ええ……」
唯「うん……」
梓「どうしたんですか二人とも? 眠いんですか?」
紬「そうかもしれないわ……」
唯「なんだかとっても眠いのです……」
梓「別に時間はいつでもいいので……明日にしますか?」
唯「だめ……あずにゃんは行って」
梓「は? 何言って……」
紬「もう、時間みたいね……。梓ちゃん……これ」
ムギ先輩がフラフラしながらタイムマシンである懐中時計を手渡して来る。
紬「セットは……出来てるから……後はボタンを押すだけよ」
梓「ムギ先輩……? 唯先輩……!!!」
唯「ごめんね……あずにゃん。ちょっとだけ一人にしちゃうね」
梓「そんな……嫌ですっ! 何でそんなこと言うんですかっ!?」
唯「わかるんだよ……あずにゃん。この世界があっちの世界を完全に飲み込みつつあるのが」
梓「そんな……」
紬「多分……この世界に長く居すぎたせいだと思うの。私達はきっともう……この世界の住人になってしまったんだわ。
梓ちゃんを除いて……」
梓「なんで私だけ……」
唯「あずにゃんは私達の後輩だからね……」
紬「ちょっとだけ、侵攻が遅いのかも……」
梓「そんな……あっ! これを見てください!」
私達を幾度も繋いで来た携帯の待ち受けの写真……。
梓「なんで……」
それさえも、この世界に飲み込まれつつあった。
梓「唯先輩とムギ先輩の体が……消えかけてる」
紬「行って、梓ちゃん。今の私達を連れて行っても邪魔になるだけだから」
梓「そんなことありませんっ! そんなこと言わないでっ!」
精一杯首を振りながら否定する。私の居場所はもうここしかないのに……それさえも消えちゃうなんて……。
唯「あずにゃん、手を出して」
梓「ゆい……先輩」
おずおずと出した手のひらに乗せられたのは、1つの飴玉だった。
唯「これあげるから泣かないの。ね……?」
梓「ゆ゛い゛先輩っ……」
紬「大丈夫……。きっとまた五人で軽音部をやる世界になるわ……」
梓「ム゛ギュ先輩ッ……」
唯「さあお行き、あずにゃん……。私達があずにゃんのこと知らないなんて言い出す前に……」
紬「HTTを、私達をよろしくね……梓ちゃん」
涙を無理やり拭き、作り笑顔で答える。
梓「はいっ! 必ず私が元通りにして見せますからっ!」
唯「うん……頼んだよ……たった一人の……私達の……」
紬「大切な大切な……後輩……」
後退り、距離をとってボタンを押す。
カチッ───
梓「行ってきますっ!」
次のただいまは、みんなが揃った部室で言うことにしよう。
グニャアアアアアアア───
視界が歪む、その時、何故か唯先輩やムギ先輩の他に澪先輩や律先輩がいて、私を見送ってくれた気がした。
────
これで第二部完となります
やっぱり第三部+後日談で終わりそうです
ちょっと休憩した続き書きます
保守&支援してくれた方ありがとうございます
未来で待ってる
────
二度目のタイムトラベルはとても冷たくて……凍えてしまいそうだった。
誰も私を知らない世界──
どこにも帰る場所がなくなった世界──
こんな世界で私は一人ぼっちで……取り戻さなくちゃいけない。
みんなの元の居場所を。
私の元の居場所を。
梓「行こう」
やることは決まっている。
ランドセルに入れられた筆箱を抜き出し、どこかへやること。
ただそれだけだ。
それだけで未来は変わって行く……あんなにも。
タイムマシンというものはこんなにも恐ろしいものなのだと使って思い知らさることになるなんて、皮肉だ。
あんなに本を読んでわかってたつもりだったのに。
────
唯「たしかここだよ!」
梓「そう言えば澪先輩の家って初めて来ますよ」
紬「私も~」
唯「私もりっちゃんに教えてもらっただけで遊びに来たことはないよ~」
梓「案外謎に包まれてましたね、澪先輩」
紬「りっちゃんと澪ちゃんしか知らないことがいっぱいあるのねきっと」
唯「む! 誰かくるよ!」
唯紬梓≡ササッー
◎◎◎≡ササッー
幼澪「行ってきまーす」
幼澪「」トコトコ
唯「み、み、澪ちゃんだよねあれ!」
梓「そ、そうみたいですね!」
紬「」ほわ~
唯紬梓「か、可愛い~」
梓「はっ! こんなことしてる場合じゃないですよ! 早く後をつけないと!」
唯「持って帰りたい可愛さだよ~」
紬「お菓子あげようかしら~」
梓「もうっ! 二人ともしっかりしてください!」
梓「(まさかこの時更に後ろから自分がつけてるなんて思いもしなかったろうな……)」
幼澪「うぅ……」ブルブル
唯「ややっ! 何か震えてますよ澪ちゃんが!」
梓「どうしたんでしょうね」
紬「お腹が痛いのかしら?」
犬「グルウウウウウ」
幼澪「うぅ……怖いよぅ」
唯「犬が怖くて通れないのかな?」
梓「か、可愛い~……守ってあげたくなりますね」
唯「あずにゃん?」
梓「はっ! な、なんでもないです!」
紬「よぅし! みんなで助けましょう!」
梓「駄目ですよムギ先輩! 極力接触は避ける、それがタイムトラベルの基本です!
私達がいなくても何とか出来たんですから、ここは静観しましょう」
紬「タイムトラベルって難しいわね……」
梓「(そうですね……ほんとタイムトラベルって難しいです)」
────
その後もずっと小さな澪先輩を追いかけてる唯先輩達を追って行く。
やることはほとんど同じなのに二人がいないだけでこんなにも違うんだ……。
梓「~~~」
梓「(あっちの私が憎らしい……)」
でもここで私が出ていくわけにはいかない。
あの時私達は私を見ていない、つまり私は接触していない。
それをここで矛盾させればパラドックスの原因となりかねないからだ。
梓「(今の目標は筆箱だけ……あれさえ何とかすれば)」
おそらくだけど澪先輩の大切なものは別にある。
それが筆箱をなくすことによって得られ、また無くすものなら残念だけど筆箱には犠牲になってもらう他ないだろう。
────
梓「それはどうでもいいです。 じゃあさっさとこれを入れて帰りましょう」
唯「あずにゃん冷たいよ~。暖かい頃のあずにゃんにタイムトラベルしてよ~」
梓「はいはい行きますよ~」
紬「一時間図工、二時間目国語、三時間目道徳、四時間社会……ふふ、りっちゃんが寝ちゃいそうな時間割」
唯「せっかくだからここに『放課後ティータイム参上!』ってかいとこっか!」
梓「そんなことしたらタイムパラドックスってレベルじゃなくなりますよっ!
誰かにバレる前に急いで学校から出ましょう!」
紬「唯ちゃん早く~」
唯「わかったよぉ~」
梓「行きましたか。すいません唯先輩、ムギ先輩、私。結果はこんな形になったけど……先輩達の澪先輩を思う気持ちは無駄にはしませんから」
梓「この気持ちは確かに私が見届けました。時を越えても友達の為に頑張る二人を、私は後輩として誇りに思います」
梓「……」
恐る恐る澪先輩のランドセルに近づく。
秋山みお、と書かれたロッカーの中には可愛らしい赤のランドセルが入っている。
その中にはさっき私が入れた筆箱が入っているはず……。
梓「……あれを取り出せば」
近づく、
梓「あれさえ取り出せば……!」
近づく、
梓「筆箱さえ取り出せば戻って来るんだっ……!」
近づく、でも……。
梓「なんでっ……どうして……!」
いくら歩いても歩いても、ランドセルとの距離は縮まらない。
まるで蜃気楼のようにそこにあるだけで、私は別の場所を歩いているかのようだった。
読んだことがある……これは親殺しのパラドックスの1つの例によく似ている。
タイムトラベルし、自分が生まれる前に自分の親を殺そうとすると、どう足掻いても殺せない、という説だ。
なら何故私達はああも簡単に筆箱を入れられ、今の私には近づくことさえ出来ないのか……。
多分、私があの世界の住人になりかけているのが原因だろう。
そしてこの筆箱をなくすことによってあの世界は消える、つまりタイムパラドックスが起きるのを避けているのだ。
つまり……あの世界に長く居すぎた私達は、もう筆箱をどうすることも出来ない……。
たった指一本触れることさえ出来ないのだ……。
変化させることはあんなに簡単なのに……戻すことはこんなにも難しいなんて……。
ゆなんか難しいな、タイムパラドックスって、
一回目のタイムトラベルに二回目のアズにゃんが接触する事実がアズにゃんの気温にないから接触を、避けたけど、二回目にアズにゃんがタイムトラベルする事実は一回目の時にすでにあるわけで、
筆箱を二回目のアズにゃんがランドセルから取る事実も、すでに一回目のタイムトラベルで実現されたことになってて、結局一回目のタイムトラベル後の未来はその事実がある文芸部の澪の未来のまま、
とかにならない?
>>232
俺には日本語でおk状態だわ・・・
こういう考察得意なやついるだろ
解説頼むわ
>>232
結局抜き取れないので一回目の梓達が戻った先も筆箱があった世界になります。
でも二回目の梓が飛んだ意味はちゃんと一回目に反映されてます
それはこれからのお楽しみで
────
その後、念のため澪先輩を監視するも特に変わった様子はなかった。
当たり前だ、この世界は既に筆箱がある世界に分岐しているんだから。
このまま行けば澪先輩は文芸部に入り、律先輩はラブ・クライシスのドラムとして、唯先輩は生徒会書記補佐、ムギ先輩は合唱部、私はジャズ研という嘘の未来が待っている。
そんなことを思いつつ、私はただ呆然とブランコを漕いでいた。
夕焼けの中、たった一人で……。
迎えに来る人も、探しに来る人も、私を知っている人もこの世界にもいないのだ。
いや、前の世界ならまだ形だけは知ってくれていた分マシかもしれない……なんて。
梓「もう……諦めようかな」
筆箱をどうにか出来ない限り、あの世界から抜け出せない。
でも、この世界で唯一その事実を知ってる私はそれに近づくことさえ出来ないのだ。
これではどうしようもない……。
梓「この記憶がある内に……あっちの世界に飛んで一年の頃から軽音部を作れば……」
梓「でも律先輩がいない……」
梓「律先輩とは外バンを組めばいいんだ。うん、そうしたら元通り……」
梓「元通り……なわけないよ……」
梓「律先輩が部長じゃない軽音部なんて……軽音部じゃないもん……!」
梓「みんなが揃ってこそHTTだもんっ……!」
どうしようもなく、ただブランコに乗りながら、砂場で遊んでいる姉妹を見ていた。
梓「……」
「お姉ちゃんと私で昨日せっかく作ったのに……」
「う~ん……どうしよう」
ちょうど澪先輩達と同じ小学生四年生ぐらいだろうか。
「もう一回つくりなおす?」
「でも……そろそろご飯だし……」
どうやら昨日作っておいた砂の山が雨か何かで崩れてしまったらしい。
梓「……ちょっといいかな?」
「ふぅ?」
「ほぇ?」
本当は誰であろうと接触は避けるべきなんだけど……今はそんなことどうでも良くなっていた。
梓「お姉ちゃんこう見えても砂の山作るの得意なの。だから手伝わせてくれないかな?」
「うんっ」
「ありがとうおねうちゃん!」
梓「ふふ、じゃあ早速作業開始だね。二人の晩御飯までに間に合わせないと」
「「うんっ!」」
二人をよしよしと撫でると、愛くるしいほどの笑顔を浮かべる。
私もいつの間にか子供にこうやって接する立場になったんだなぁと、少ししんみりした。
梓「ここをこうして……」
「わあ~」
「すごいすごいっ!」
何でだろう、凄く懐かしい感じがする。
今日初めて会ったばかりなのに。
「あ……でもここ穴あいちゃってる」
「どうしよう……」
梓「あずにゃん建設に任せなさい。ここはね? こうして……」
「わぁ~」
「トンネルだぁ」
梓「そ、繋いでトンネルにしちゃえばいいんだよ。みんなが通れる道にもなるしね」
「おねえちゃんすごいね!」
梓「こらこら。まだ完成したわけじゃないんだからね? 後はちゃんと崩れないように……外をぺったんこぺったんこ」
「「ぺったんこぺったんこ♪」」
何故かこれで、この子達の未来を変えて……建築士とかにしちゃわないか、とか。
そんな心配はしなかった。
日が暮れるころには砂の山は完成し、立派な姿を二人の姉妹に見せつけている。
「できたね! おねえちゃん!」
「うん! これもおねえちゃんのおかげだよぉ~」
ほわっとした笑顔が誰かに似ている。
誰だったろう……もうあんまり思い出せないや。
梓「どういたしまして。手を洗って綺麗にしてから帰るんだよ?」
「「は~い」」
言われた通りに一生懸命手をごしごし洗った後、一人は「ありがとうおねえちゃん」とお辞儀をし、一人は「ばいば~い」としていたところを妹? に「ちゃんとお礼言わなきゃだめなんだよ? おねえちゃん」と言われ、最後は二人でお辞儀をした後帰っていった。
梓「ふふ、妹の方がしっかりしてるなんてまるで……まるで……うぅ……なんで……思い出せないのっ……やだよ……こんなの」
無意識に携帯の画像を見る。
そこには私一人が不自然と左端に写った写真が待ち受けにされていた。
梓「っ……!」
一瞬消そうとして、やめた。
何故か消せない……私だけしか写ってない変な写真なのに……。
梓「……」
もう、何も考えられない。
もう、いいんだ……何も考えなくても。
このまま……楽になれば……きっと。
最後の気力で携帯をポケットにし舞い込む、と、何かが指に当たる。
梓「何だろう……」
それを取り出して見ると、1つの飴玉が出てきた。
梓「こんなの持ってたっけ……?」
梓「甘い……」
口に含むとどこか懐かしい味がした。
梓「……ゅぃ……先輩」
梓「ゆい……先輩」
梓「唯先輩……!」
梓「唯先輩っ!」
梓「そうだっ! こんなことしてる場合じゃなかった! 私は唯先輩とムギ先輩にHTTを託されて来たんです!
筆箱をとれないぐらいで諦めてたまるもんですかっ!」
梓「でも……実際どうしたらいいのか……」
そこで目に入って来たのは、さっき仲のいい姉妹と作った砂の山だった。
これ梓は制服なのか?
>>251
制服設定ですね
でも笹の葉みたいにはならない方向で
小さい時の記憶なんて曖昧ですからね!
梓「崩れても……繋いでトンネルにすれば……」
梓「そうだっ! そうだそうだそうだっ!」
梓「何で気付かなかったんだろう! 筆箱が無理でも他のことで律先輩と澪先輩をくっつければ元の世界に戻るじゃないですか!」
梓「自分であんまトンネル作っておきながら気づかないなんて……ん?」
でもあの姉妹が砂場で遊んでなかったらこんな簡単なことさえわからないでいたかも……。
梓「というかさっきのって……」
通りで見覚えがあるわけだ。
梓「唯先輩、あなたって人はいつだって私を助けてくれますね」
そう言い残し、私は次の作戦に移るべく公園を後にする。
また、未来で会いましょう、唯先輩、憂!
────
梓「色々考えたけど……これしかないよね」
梓「ようはきっかけを与えればいいだけだから……」
梓「でもこんな無理やりでいいのかな……」
梓「髪型変えたって言ってもバレないかな?」
梓「ああもうなるようになれですっ!」
幼律「行ってきま~す」
梓「あの、田井中律ちゃん、よね?」
幼律「へ? お姉ちゃんだれ?」
梓「ほ、ほら……学校に似てる子いるでしょ? 髪が長くて……おとなしい子」
幼律「あ~あ~……いるね」
梓「そう! そのお姉ちゃんなの!(誰のお姉ちゃんか明言しなかったら問題ないはず! 見ましたかこのパラドックスさえごまかす演技力!)」バーン
幼律「あ~あ~確かに髪型とか似てる!」
梓「(ふふ、子供を騙すのは簡単ですね)」
幼律「顔は全然似てないけど」
梓「ぐっ……(やりますね律先輩。意外と鋭いじゃないですか……!)」
幼律「で? 澪ちゃんのお姉ちゃんが私に何の用?」
梓「(ここで問題なのは今二人の仲はどれぐらいなのかと言うこと……)」
梓「最近妹がりっちゃんの話ばっかりしててね(カマかけてみましょうか)」
幼律「そうなの? 最近ちょくちょく話すぐらいだけど」
梓「(なるほどなるほど、友達未満って感じですか。ならば……!)」
梓「あの子人見知りでいつも本ばかり読んでるけど……仲良くしてあげてね」
梓「(なんてお節介なお姉ちゃん何だろう……私)」
幼律「ん~わかった!」
梓「(よしっ! これで律先輩はきっと澪先輩と仲良くなろうとするはず!)」
梓「ありがとうりっちゃん。あの子一人だと心配で……物静かな子だから(念には念を……と)」
幼律「確かにな~。あのおとなしいしゃべり方は直した方がいいかも」
梓「その辺りりっちゃんが『友達』として教えてあげてね。じゃあお姉ちゃんはもう学校だから」
幼律「わかった! じゃ~ね~澪のお姉ちゃ~ん」
梓「じゃね~」
梓「計画通り」ドンッ!
梓「私からは一度も澪先輩のお姉ちゃんだなんて言ってませんからね? もしかしたら美緒ちゃんかもしれませんし!?」
梓「どうですかパラドックスめ! これなら澪先輩にお姉ちゃんがいなくても矛盾ないでしょうっ!」
シーン……
梓「意思のないものに喧嘩売ってどうするんですか……」
梓「やることはやった……後はあっちに戻って確認するだけです」
梓「もうこの世界に来ることはないといいけどな……」
梓「ごめんなさい澪先輩。一番最初の目的、果たせそうにないです」
梓「でも……大切なものは……ここに、あります」
梓「物や形がなくても……ここに、思い出にありますから」
梓「どうか、悲しまないでください」
梓「次に目覚めた先の世界は……きっと、軽音部あって……5人でゆっくりお茶してる……そんな世界に、辿り着けますよね?」
カチッ────
グニャアアアアアアア────
────
結局何も変わらなかった。
軽音部はなかったし、唯先輩は私のことを覚えてはなかった。
梓「もう……駄目だよ。どうにもならない……あの筆箱を何とかしない限り……」
梓「……ちょっと待てよ?」
ここでとある映画を思い出す。
そう、タイムトラベルする前に唯先輩と話していた映画、バック・トゥ・ザ・フューチャーだ。
梓「もしかして……あの一回目の世界は既に今の私が変化を起こした後の世界なんじゃ?」
梓「あっ……」
何であんな臆病な澪先輩が口調だけは変わらないでいたか──
何で律先輩はあの時私の顔を見て見覚えがありそうな顔をしたか──
梓「そうだった……そうだったんだっ!」
繋がって行く……頭の中で時間のピースが。
梓「ならもうやることは一つしかないですっ!!!」
数日後────
澪「ふぅ……遅くなっちゃったな。今日は来てくれなかったな……あの三人」
澪「嫌われちゃったかな……。はあ……廃部かなぁ……やっぱり」
澪「ん? なんだろ……この本に挟まってるの」
澪「○○××△△ この住所に午後8時に絶対に来てください、中野梓?」
澪「どうしたんだろ……でも夜に一人で歩き回るなんて怖いなぁ……ん?」
澪「P.S. 来てくれたら絶対に入部しますから……だって!?」
澪「うぅ……怖いけど……行かなきゃ! 廃部を間逃れる為にも!」
────
────
リッチャンサンイオメデトウ~リッチャンサンイオメデトウ~
律「あれ? 誰だろ……この番号」
律「もしもし?」
『久しぶりですね、律先輩』
律「誰?」
『みおのお姉ちゃん、と言えばわかりますか?』
律「あ! もしかしてあの時の!」
『ふふ、そうです。覚えててくれて嬉しいです』
律「何が澪のお姉ちゃんだよ! 澪に姉ちゃんなんかいねぇじゃねぇか!」
『その澪、というのはどんな漢字を書くんですか? ちょっとわかりませんね』
律「なに~?」
『さっき変な三人が変なこと言って出ていきましたよね?』
律「ああ……もしかして」
『はい。これでわかってもらったかと思います。私達は本当に違う世界から来たんですよ。ここと似て非なる世界……こっちから見ればパラレルワールドから、ね』
律「で、そのパラレルなんちゃらの人が私に何の用なんだよ?」
『私達が元の世界に戻るために協力して欲しいんです』
律「なんで私がそんなこと……」
『あなたが好きなベースの持ち主は澪先輩ですよ。それでも無視出来ますか?』
律「……でも」
『律先輩が澪先輩を遠ざけたのは嘘をついてると思ったからですよね?
お姉ちゃんなんていない、そう言い切る澪先輩を嘘つきだと思ったら……違いますか?』
律「……」
『それも引っくるめて悪いのは私です。澪先輩は全然悪くないんです。でもわかってください。ここに辿り着くには必要なことだったんです。
この世界の二人には関係ないことだとしても……』
律「……あんたに従えば、澪がベースやるのか?」
『はい。間違いなく』
律「わかったよ。で? どうすりゃいい?」
────
────
唯「さあお行き、あずにゃん……。私達があずにゃんのこと知らないなんて言い出す前に……」
紬「HTTを、私達をよろしくね……梓ちゃん」
梓「はいっ! 必ず私が元通りにして見せますからっ!」
唯「うん……頼んだよ……たった一人の……私達の……」
紬「大切な大切な……後輩……」
カチッ───
梓「行ってきますっ!」
グニャアアアアアアア────
唯「行っちゃったね……」
紬「うん……」
澪「な、なにあれ?」
唯「えっ? なんで澪ちゃんが……」
律「あ、お前らさっきの変なの!」
紬「りっちゃん?!」
唯「一体どうなって……」
梓「ゆ~~~~~いせ~~~~んぱぁ~~~~い~~~~む~~~~~~ぎせ~~~~~んぱぁ~~~~~いい!!!!!」
唯「あずにゃん!?」
紬「梓ちゃん!?」
唯「さっき過去に行ったはずじゃ……」
梓「戻って来たんですよ!!! 全部元通りにするために!!!」
紬「でも……私達はもうこの世界に……」
梓「この世界もあの世界も関係ないですっ! この五人じゃないと出来ないことなんですっ!」
澪「あの……話が見えないんだけど……」
律「一体何が何やら」
梓「時間が有りません。作戦はあっちで伝えますから!」
カチカチカチカチッ!
澪「それ……なに?」
梓「タイムマシンですよ、澪先輩」ニッ
カチッ────
グニャアアアアアアア────
────
澪「信じられないな……タイムマシンが存在するなんて」
梓「でも今現にこうして過去に飛んでます」
律「ロクな説明もないまま過去に飛ばされるなんて聞いてないぞ」
梓「安心してください。手伝ってくれば二人の約束は必ず果たしますから」
澪「……」
律「……。まあただでさえわけわかんないんだ。ここはお前指示に従うよ」
梓「梓です、律先輩」
律「……わかったわかった。梓の指示に従うよ。と言うかなんで先輩……」
梓「澪先輩もいいですか?」
澪「……うん。部に入ってくれるなら……頑張るよ」
唯「あずにゃん……」
梓「大丈夫です、こっちに居ればこれ以上唯先輩達があっちの世界に侵食されることはないですから」
紬「どういう経緯でこうなったのか説明してくれるかしら?」
梓「はい。唯先輩達と別れた後筆箱を取りだそうとしたんですが近づけませんでした」
紬「じゃあ未来は……」
梓「はい。変わりませんでした。私達が最初にタイムトラベルをしてに戻って来た世界は既に二回目の私が改変した世界だったんです」
紬「……そう」
唯「ちんぷんかんぷんだよぉ」
梓「唯先輩にはちょっと難しいですかね。まあ簡単に言えば二回目の私も色々やったけど駄目だったってわけです」
唯「あずにゃんダメじゃん!」
梓「ダメダメですね」
紬「筆箱に近づけないのは……」
梓「はい。恐らく私があっちの世界の住人になりかけてて、それを取ってしまうとタイムパラドックスが起きるから、でしょうね」
紬「じゃあ今回も同じ結果になるんじゃ……」
梓「ずっと変だなって思ってたんです。ちょうど本人もいますし聞いてみましょうか」
梓「澪先輩。前に私がキティちゃんの筆箱の有無を聞いた時にどうでも良さそうな顔しましたよね?」
澪「えっ……その、どうでもいいって言うか……小学校に使ってた筆箱のことなんて……あっ、違うよ?
キティちゃんが嫌いってわけじゃなくて……だから梓がキティちゃんが好きなのは共感できるよ」
梓「とまあこんな感じです」
紬「大切なもの、じゃないのは確定みたいね」
梓「でも私は筆箱には近づけなかった……」
唯「なんで?」
梓「バタフライ・エフェクトという効果があるんですが……どんな小さな出来事もやがて大きな変化へと変わって行くことを差します」
紬「聞いたことあるわ……」
梓「最初はこれのせいだと思って仮説を立てました。澪先輩の筆箱を拾い、ランドセルの中に入れたことによりそれは大きな羽ばたきとなり、次に私が来たときはパラドックスになり得る要因なった……と」
梓「でも違ったんです。問題は筆箱じゃなくて……」
・・・・・・・・
梓「筆箱を拾ったことなんです!」
唯「ふぅ?」
梓「あの筆箱を拾った瞬間から分岐は始まってたんです。本来ならそうなる筈のことがそうならなかった……それだけで私達の未来は崩れたんです」
紬「梓ちゃん……」
梓「はい。これ以上理屈を並べても仕方ありません。時間もないことですしね」
澪「コワイヨーコワイヨー」
律「……」イライラ
澪「早く戻りたい……」
律「ああもうイライラするっ! もっとピシッとしろ! いいガタイしてるくせに!」
澪「ひっ……ごめんなさい」
律「……謝るなよ。謝らなきゃならないのはこっちなんだから」
澪「……律……さん」
律「呼び捨てでいいよ。私もそうするから」
澪「……う、うん。わかったよ、律」
律「へへっ、ようやく調子出てきたぜ」
────
梓『いいですか? 律先輩と澪先輩はこの写真と似たキティちゃんの筆箱を買い、その地図の場所通りに置いてください』
律「わかった。制限時間は?」
カシャン──
梓『7:45分までです。私達は他にやることがあるので、お願いしますね。二人の行動に全てがかかってますから!』
律「了解っと」
澪「あ、あの……律……その自転車……」
律「捨ててるのだから大丈夫だろ?」
澪「す、捨ててるのでも拾ったら盗んだことになるって……テレビで……」
律「後45分でこれに似た筆箱買ってここに置かなきゃ地球滅亡だってのに気にしてる場合かよ。
乗れよ、澪。地球の平和への道案内任せた」ニヤッ
澪「……ふふっ、なんだそれ」
律「この方がカッコいいだろ? 音楽でもなんでもギリギリ行くのが好きなんだよ」
────
紬「私達はどうすればいいの?」
梓「小さい律先輩が遅刻するよう仕向けます」
唯「あずにゃんひど~い」
梓「私達の未来の為ですから。一回ぐらいは多目に見てくれますよ。律先輩なら」
紬「どうやって遅刻させる? お菓子を落として行ってそれを拾い続けたら……なんてどうかしら?」
梓「いくら律先輩でもそんな単純な手にかかりますかね」
唯「私なら喜んでかかるけどな~」
梓「よくここまで無事に大きくなれましたね……」
唯「えっへへ」
梓「まあ無難に通学路から学校へ続く道を工事とか立て札で行けなくしましょう!」
紬「わかったわ!」
唯「合点承知だよ!」
梓「(この作戦の成否はあの二人にかかってる……がんばってください、律先輩、澪先輩!)」
────
シャアアアアア───
律「こんな朝っぱらから筆箱売ってそうなのはコンビニぐらいか?」
澪「でも多分これコンビニじゃ売ってないよ!」
律「じゃあどうしろってんだよ? スーパー空くまで待ってたらゲームオーバーだぞ?」
澪「律! そこ右!」
律「あいよ! しっかり掴まれよみおおおっ!」
澪「」ぐっ
ギュアアアアン────
律「見たかりっちゃんのスーパーコーナーテク!」
澪「このまま真っ直ぐ行ってくれ!」
律「なんだ? あてでもあんのか? ないと困るけどな」
澪「誰が持ってた筆箱だと思ってるんだ?」
律「へっ、そうだったなっ! 飛ばすぜ!!!」
シャアアアアアギュアアアアア───
7:15分────
幼律「行ってきま~す」
梓「来ましたっ!!! 時間通りです!!!」
紬『A班配置おっけーよ!』
唯『B班も配置おっけーだよ!』←一つは澪に借りた
梓「私は後ろをつけながらコースに変更がないかを伝えます!
ではまた!」
紬『ラジャ♪』
唯『ラジャー』
梓「なんで携帯が使えるのかは未だにわからないけど……ふふ、それは先の学者の人に調べてもらいましょうか」
梓「もう私達にタイムマシンは必要ないですから」
7:25────
律「だあーこんな遠いなんて聞いてないぞっ!」
澪「もうつくから……あそこ!」
律「あの文房具屋か? でもシャッター閉まって……」
澪「玄関の方から回って行ってくる! ここのおばあちゃん早起きだから今の時間でもきっと起きてるよ!」
律「お~……」
律「……どこが人見知りなんだよ。騙されたぜチクショウ」
律「いざとなったら行動力もあるってことかな?
まだまだ知らないことだらけだな……澪のこと」
律「まあいいか……。全部終わって……そしたら、また最初からやり直せばいいんだからな」
7:30────
梓「予想通り学校への一番の近道を使いましたね律先輩!」
梓「A班、ムギ先輩、妨害工作どうぞ」
紬『了解』
幼律「あれ? 工事中?」
紬「ごめんね~ここは工事中で通れないの。他の道から行ってくれるかな?」
幼律「でも後ろ全く工事してないけど……?」
梓「(相変わらず鋭いっ……どうしますムギ先輩?!)」
紬「これからするのよ~」シャランラシャランラ~
そう言うとムギ先輩は近くにあった大きな石を軽々と持ち上げて……ドサッと置いた。
紬「ね? まずは邪魔な石をのけたりするから危ないの」
幼律「わわ、わかりました!」
これには幼律先輩もビックリしたのか一目散にその場を後にした。
梓「グッジョブですムギ先輩!」
紬「ふふ」パチッ
7:30────
澪「お待たせっ!」
律「わっ、と……飛び乗るなよ!」
澪「いいからいいから! 急がないと! 地球の滅亡かかってるんだろ?」
律「そうでしたねっとぉっ!」
カシャン──
律「例の物は?」
澪「ちゃんと買えたよ」
律「あれ? これ同じやつじゃねーの!?」
澪「これだから素人は。こんなのキティちゃんじゃないよ。まあ傍目からなら誤魔化せるかなって思って」
律「……確かによく見たら目とか髭の数とか違うな」
澪「よくあるんだよな。こういう似せたキャラものが。許せないよ全く」
律「まあ今回はこの偽物に助けられたけどな」
澪「45分まで残り15分切ってる! 急がないと!」
律「へいへいっ!」
────
7:35────
梓「律先輩澪先輩まだですか!?」
澪『ごめんもうちょっと時間かかる!』
律『20分で来た道を15分で戻れって……むちゃが……ある……はあ……はあ……』
梓「どうやっても間に合わせてください! もし失敗したら……」
澪『タイムマシンでまた戻ってやり直せば』
梓「無理です……多分失敗した時点で私達はこの世界に取り込まれます……」
澪『……なんでそう思うんだ?』
梓「今こうやって五人がこの世界にいられるだけで既に奇跡的なんです。今はあの大掛かりな分岐の前だから問題ないみたいですけど……この状態で分岐すれば今度は……どうなるか私にもわかりません」
澪『……わかった。絶対間に合わせてみせるよ』
律『おお、任せとけ』
梓「こっちは何とか食い止めておくのでお願いします!」
澪『了解』
梓「唯先輩! 準備はいいですか?」
唯『オッケーだよ!』
梓「じゃあB班、妨害工作始めてください!」
幼律「あ、また何か看板あるし……ついてないな~」
幼律「この道通るべからず?」
幼律「べからずって何だろ……通っていいのかな?」
幼律「工事とかもしてないみたいだし、通っちゃえ」スタスタ
唯『あっ、』
梓「あ、じゃないですよ唯先輩! 早く何とかして止めてください!」
唯『でもちゃんと通るべからずって書いたのに~』
梓「相手は小学四年生の律先輩ですよ!? べからずなんてわかるわけないでしょう!?」
唯「こ、こら君~。ここは通っちゃダメなんだよ?」
幼律「え~なんで?」
唯「さっき看板があったでしょ? 通るべからずって」
幼律「べからずってだめってことなんだ」
唯「そうそう! わかったら戻りなさい」
幼律「でも工事もしてないのに通っちゃ行けないなんて……おかしいな~」
唯「そ、それは……」
梓「(唯先輩誤魔化して誤魔化して!」
唯「それは……く、熊が出るんだよ! だから危ないの! わかった!?」
幼律「クマ~? ほんとに~?」
唯「ほんとにほんと! ほら、飴ちゃんもあげるから、ね?
あっちの道行こう」
幼律「まあいいけどさ……こっちの林道から行ってもどうせ遅刻だろうし」
梓「(苦しい言い訳でしたがよくやってくれました唯先輩!)」パチッ
唯「(苦労したよあずにゃん……)」パチパチ
唯がべからずなんて言葉を知ってる・・・・だと・・・・・・
7:40────
律「だらっしゃああああああああああ」キコキコキコ
澪「降りるって言ってるのに」
律「二人でやらなきゃ意味ないんだよっ!」
澪「えっ……」
律「いいから掴まってろ! 後5分ないっ! 更に飛ばすぜ!!!」
澪「うん……」
梓『澪先輩まだですか!?』
澪「もうちょっとかかる!」
梓『もう最終防衛ラインも突破して後は分岐の場所まで一直線ですよ!』
律「間に合わせるって言ってるだろーっ!!!」
澪「だってさ。降りるって言ってるのに聞かないんだ律のやつ」
梓『……律先輩らしいですね。わかりました。やっぱり最後を飾るのは二人以外いませんよね……だってこれは……』
律「見えた!」
澪「ごめん梓! 全部終わったらまた!」
────
梓「二人の思い出を探す旅ですもんね」
7:44────
シャアアアアア────
律「みおおおおおっ!」
澪「わかってる!!!」
澪が筆箱を持ち、姿勢を低くする。
地面スレスレに筆箱を滑空させながら……。
────
梓「もうあの角を曲がったら筆箱が落ちてなきゃいけない場所……」
唯「大丈夫だよ。りっちゃんと澪ちゃんなら必ずやってくれるよ」
紬「そうね。何たって軽音部を作ったのは二人なんだもの」
梓「はい……!」
7:45────
シャアアアアア────
幼律の目の前を何かが猛スピードで過ぎていく。
幼律「~~~っわビックリした。なんだよ危ないな!」
梓「あれって……」
澪『梓、ミッションコンプリートだ』
律『何とか地球滅亡は避けられたか?』
梓「はいっ! やっぱり二人ならやってくれると思ってました!」
幼律「あれ? なんだこれ? 筆箱?」
幼律「どうしよう……まあどうせ遅刻だし交番に届けとくか」
────
交番
幼律「あの~すいませ~ん」
警察官「はいなんすか?」
幼律「これ落ちてたんで届けに来ました~」
警察官「あ~(調書とか教えながら書かすのだり~……)」
警察官「そこ置いといて。持ち主来たら渡すから(ま、こんな筆箱探しに今時来ねぇだろ)」
幼律「は~い」
────
幼律「めちゃくちゃ遅刻しちゃったな……もう一時間目始まっちゃう」
ガラララ──
幼澪「あ……」
幼律「お」
幼律「あれ~? 誰もいない」
幼澪「あ、あの……一時間目移動教室だから」
幼律「ほんと!? ラッキー。こそっと入り込んだら遅刻したってバレないかも」ニシシッ
幼律「で、なんの授業?」
幼澪「図工……」
幼律「あちゃ~……よりにもよって図工かぁ。確か彫刻刀持って来なきゃいけないんだよな~わすれた~」
幼律「わすれたなんて言ったら遅刻のことまでさかのぼって怒られそう~あ~さいあくだ~」
幼澪「あ、あの……良かったら……これ」
幼律「いいの!?」
幼澪「うん……」
幼律「じゃあ二人で使いやすいように一緒にすわろっ! 澪ちゃん!」
幼澪「……うんっ」
────
幼律「澪ちゃん一緒にかえろっ!」
幼澪「うんっ!」
幼律「今日ありがとね! 澪ちゃんがいなかったら先生に怒られてたとこだったよ~」
幼澪「そんなことないよ……」
幼律「ううん! ほんとありがと! お礼にこれあげる!」
幼澪「これ……ブローチ?」
幼律「お母さんが律もそろそろ女の子なんだからこういうのつけなさいってくれたけど、私には似合わないから澪ちゃんにあげる!」
幼澪「そんな……もらえないよこんな大切なもの」
幼律「もらってよ~! じゃないと今日のお礼できないじゃん!」
幼澪「ん~……じゃあ大切にしまっておくね!」
幼律「うんっ!」
────
紬「りっちゃんと澪ちゃんの大切なものってブローチだったのね」
梓「みたいですね」
律「あんなことあったっけ?」
澪「あるわけないだろ? 私達は違う世界の人間なんだから」
律「そっか」
澪「でもこれで間違ってないよ。ううん、私はこっちがいいな……またみんなでこうやって集まれるなら、こっちがいい」
律「はは、私も同じこと考えてたよ」
唯「……これで全部終わったの? あずにゃん」
梓「はい……。これで世界はまた筆箱がない世界に分岐したはずです。その証拠にあの後学校に行ったら私達は居なかったでしょう?」
紬「待って、じゃあ一番最初に私達がここに来たって言う事実、二回目の梓ちゃんがいた事実、今ここにいるという事実はどうなるの?」
梓「その矛盾はどうやっても消せません。だから……正直この先のことはわかりません」
唯「そんなお手上げのポーズしないでよあずにゃん! みんなきっと知りたいはずだよ!」
梓「わからないものはわからないんですからしょうがないです。
ただ多少なりともタイムパラドックスは起きるでしょうね……それがこの矛盾をどう受け止めて、どう処理するのかは任せましょう」
紬「結局今回のことって何だったのかしらね……」
梓「タイムトラベル Look for memories……律先輩と澪先輩の思い出を探す時間旅行って感じですかね」
律「勝手に覗かれたんじゃたまったもんじゃないけどな」
澪「全くだな」
梓「それじゃあそろそろ戻りましょうか。今度こそ私達の世界に」
紬「でも……」
唯「二人はどうなるの?」
澪「私達は元々違う世界から来たから……」
律「戻ることも留まることも出来ない、か」
梓「色々な説がありますけど……多分、大丈夫です」
律「どっから来るんだよその自信は」
梓「だって律先輩はあの世界でも澪先輩のベースを求めてました。全く聴いたことがないベースの音を」
律「それは……」
梓「元々一つだった世界が割れて、二つになって、また戻ったのが今回の事件なんです。だから……大丈夫ですよ、律先輩も澪先輩も」
律「なんだかな~」
澪「まあ未来の可愛い後輩の言うことを信じないわけにはいかないよな」
────
梓「じゃあ、行きますよ……」
紬「うん」
唯「おっけー!」
律「よしこいっ!」
澪「行こう!」
梓「……」
律「何やってんだ、早く押せよ」
梓「その前に一つだけ、いいですか?」
澪「ん?」
────
────
梓「じゃあ改めて行きますよ!」
紬「よしきた~」
唯「やっと帰れるんだね!」
澪「……」
律「大丈夫。どの世界に行っても……もう大丈夫だから。この思い出がある限り、な」
澪「うん……」
梓「……」
律「押せよ、梓」
澪「ああ、未来でまた会おう、絶対」
梓「律先輩……澪先輩……ごめんなさい」
律「気にすんな」
澪「うん」
そう言いながら、二人は優しく頭を撫でてくれた。
もしかしたら私が二人を殺してしまうことになるかもしれないのに……それでも二人は、笑って見送ってくれた。
だから────
カチッ────
白い世界に包まれて行く──
まるでまた世界が生まれ直すような……そんな不思議な景色──
私達だけが止まり、景色は凄い速度で形成されていく──
これが、タイムトラベルなのだろうか。
時間を越えると言うことは、今まで人が積み重ねて来たものを飛び越えたり、壊したりすることと同じだ。
私達は戻れないから、後悔したり、悔やんだりする。
先がわからないから、備えたり、予想したりする。
だから、一回しかない人生が、とても綺麗に見えるんじゃないだろうか。
そろそろ、ゴールが近そうだ。
この続きはいつか、また……私が覚えていたら話しましょう。
では、また……。
────
────
律「は~風邪治った途端進路希望出せ~なんてさわちゃんも酷いよな~」
唯「ね~。……りっちゃんは進路どこにするの?」
律「決めてたら呼び出されんわい」
唯「だよね~」
唯律「はあ~……」
律「ま、先のことなんて誰もわからないんだしさ。なるようになるって」
唯「……うん、そうだね!」
────
部室──
ガチャリ
澪「あ、唯。どうだった?」
唯「さわちゃんの過去がまた1つ明らかになった~」
澪「えっ? 怒られてたんじゃないのか?」
律「いや~なんだか人生色々だね~」
澪「またなんかしでかしたんじゃないだろうな?」
律「違う違う。いろんなことがあって人は強くなって行くってことだよ」
────
────
和「で、進路調査表はあれでよかったの?」
唯「駄目だった~」
紬「将来なりたいものとかないの?」
唯「なりたいものか~……澪ちゃん何がいいと思う?」
澪「自分で決めろ」
唯「うぅ~ん……」
和「小学校の頃は幼稚園の先生って言ってなかった?」
唯「そうだった!」
和「確か……将来の夢ってタイトルで作文を発表した時に……」
─────
────
幼唯「私の将来の夢は幼稚園の先生です!
幼稚園の先生になって……子供達とずっと遊んでいたいです!」
あはははははは
─────
澪「ははは、唯らしいな」
律「作文の発表って言えばさ~澪が優秀賞取った時があってさ~」
澪「う、うわああ~それは言うな~!」
紬「聞きた~い」
唯「聞きた~い」
澪「あ、梓! 練習しよう練習……ってうわっ」
梓「私も聞きたいです! 澪先輩!」
澪「梓まで……」
律「観念するしかないな~澪」
────
────
律「ってことがあってさ~」
唯「そんなことがあったんだ~」
律「まあその作文の発表会を機に仲良くなったんだけどさ。それまでにも色々あったんだよな~」
澪「はいはい。もういいから練習するぞ~」
律「ゴホンゴホン……風邪がぶり返してきたかな?」
澪「嘘つけ」
律「あ、そう言えば澪。昨日体温計探してたらさ……こんなんが出てきた」
澪「こ、これって!」
律「そ、あの時のブローチ」
澪「……ずっと無くしたと思ってた」
律「私の家に忘れてたみたいだな。じゃあ改めて、はいこれ」
澪「……ん、ありがとう……律」
その時、何故かみんなそのやりとりを黙っていていることしか出来ませんでした。
とても、とても大切な事な気がしたから……。
────
澪「さ、練習するぞ」
律「わかったわかった」
唯「せっかくだから和ちゃん聴いてってよ!」
和「唯……進路表は……」
唯「終わったらちゃんと書くよ! 今は凄いみんなで演奏したい気分だから!」
和「そ、わかったわ」
何でだろう、あのブローチの話を聞いた時、どうしてか携帯を見なくちゃいけない気がした。
梓「あれ……こんなのいつ撮ったんだろう?」
待ち受けには五人が写った写真。
みんな今と変わらない笑顔で写り込んでいる。
紬「梓ちゃん早く~」
梓「あ、はい!」
うん、いつ撮ったかなんて、どうでもいいよね。
こうして、今5人でバンドが出来ているんだから。
おしまい
おつ!!
めちゃめちゃ面白かった!
単行本はいつですか??
乙
でも仲良くなったのは図工からじゃ?
>>376
図工のことはきっかけですかね
りっちゃんは作文の前から澪にちょっかい出してたでその部分のエピソードを書いてみたのがこれですね
仲良くなるきっかけは作文のこと、その作文に辿り着くきっかけが図工のことって感じです
ってわけでネタバレすると二期の8話の律と澪の作文の前に色々あった話を想像したお話でした!
表面だとほんのちょっとやり取りが増えただけだけど、その中で色々やってました~的なお話
全然短編じゃなくてすいません!
即興だと何故か長編になってしまう
保守してくれた人、支援してくれた人があってこそ完結出来たと思います
本当にありがとうございました!
まぁ乙
結局最初は唯だけしか覚えてなかったのは何故?
>>380
で梓が唯先輩も私のことを覚えてなかった、って書いたのは梓が二回目のタイムトラベルから帰って来たときにまず唯のところに行ったっていうわかりずらい意味です。
簡単に言うと二回目の梓が起こしたけどすぐには目覚めなかったって感じですかね
乙!
楽しめたわ
よく頑張った。完走乙。
よっしゃー!面白かった!!改めて1乙!!!
◆以下、おまけ(小ネタ)になります。
なついな
どこかで似たような話を聞いたことがあると思ったらこれだったか
http://elephant.2chblog.jp/archives/51603125.html
>>364
なついな
あれも名作だったな
りっちゃんがみんなを集めなおすSSが思い浮かぶ
あれも名作だったよなー。似たタイトルで2つあるけどどっちも好きだ
全員集まるシーンでは泣いてしまうかもしれないからパンツ脱いでおくわ
>>259
あれも名作だったな
>>259
あれはガチでウルっと来た
>>259と>>364の作品は自分も読んでて凄い好きな作品です!
タイムトラベル好きの人は是非読んでもらいたいですね
>>259のタイトル教えて
色々答えたい気持ちもあるけど長々とやるとウザいのでこれにて
>>385
律「そりゃあたしは、部長だからな」
だったと思います
読んでくれた人ありがとうございました
またいつかタイムトラベルっぽい話で会いましょう
TVアニメ「けいおん!!」『けいおん!! ライブイベント ~Come with Me!!~』Blu-Ray メモリアルブックレット付【初回限定生産】 豊崎愛生,日笠陽子,佐藤聡美,寿美菜子,竹達彩奈,イベント ポニーキャニオン 売り上げランキング : 32 Amazonで詳しく見る |
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コメント一覧 (10)
-
- 2011年06月15日 04:13
- タイムトラベルネタといえば
最後になぜか時間の流れにまったく影響されてない人物がボケて閉めるっていうオチがおると良かったかな
-
- 2011年06月15日 04:19
- この話に出てくる幼女は素晴らしい
100点満点をあげて拍手してチューしてあげたいぐらい素晴らしい
-
- 2011年06月15日 07:07
- 久しぶりに面白いけいおんSSをみた
-
- 2011年06月15日 10:24
- いっつも池沼のせいでテンポ悪くなるよね
-
- 2011年06月15日 13:18
- やっぱタイムトラベルネタは面白い。
-
- 2011年06月17日 01:23
- りっちゃんと澪の思い出がメイン?と言う割には、2人の印象が薄い感じがするけど・・・
逆に、りっちゃんが先頭きって首突っ込まないのは新鮮な感じだな。
-
- 2011年10月10日 06:53
- 後半ちょっと強引な感もあったけど 大長編ドラえもんの序盤のようなワクワク感と
きれいにまとまった素晴らしいけいおんSSだった。
過去作品遡るとこんな良いSSもあるのな。
-
- 2012年05月04日 21:28
- 良い作品
面白かった~
-
- 2014年10月14日 02:18
- とりあえず1がバックトゥザフューチャー好きなのは良く分かった
タイムパラドックス談議をしてみたいと思える作者だ
現行で見たけど面白かった!