唯「ギコギコギコギコギコ」 【第四部】
ライブにスピードワゴンの糸田じゃないほうがいたw
ライブ後にこんな陰気なSS書いてる俺って…
ケータイの電池切れて途中までしか書き溜めてませんが、朝までには完結させます。
んじゃ投下します
憂「…お姉ちゃん!お姉ちゃん!?」
浴槽の中で忘我状態だった私を現実に引き戻したのは、憂の声だった。
憂「お姉ちゃん…どうしたの?大丈夫?」
憂は心配そうに、風呂のマットに膝をつきながら、私の顔を覗き込んでいる。
その真っ直ぐな目は、塞ぐ姉を心配する妹のそれでしかなく、私は先程まで友達と結託して腹を探っていた自分を恥じた。
―ああ、そうだ。今日はクリスマス。ここは私の家の風呂場。
夏の夜でもなければ、お嬢様の別荘でもない。
その証拠に、風呂場の小さい窓からは、星も朝日も見えない。
唯「えへへ…ぼーっとしてた」
憂「のぼせてない?」
唯「うん。大丈夫」
憂「…梓ちゃんの事思い出してたの…?」
唯「うん…」
頷いて顔を落とす私を、憂は自分の服が濡れるのも意に介さず、抱きしめた。
憂「大丈夫…。大丈夫だから…」
憂は小さく、そう繰り返した。
憂の髪から、あの時の匂いがした。
あのシャンプーの。
憂はあずにゃんと同じシャンプーを使っていた。
合宿の少し前にあずにゃんから教えてもらったらしく、憂はそれをとても気に入っていた。
柑橘系のその匂いを肺いっぱいに吸い込んだ私は、憂を私の身体からゆっくり引き離した。
憂がどう出るのか…
私は浴槽を出ると、座ったままの憂の横を通り、脱衣所のバスタオルで身体を拭いた。
憂「…」
立ち去る私を、憂は無言で見つめていた。
私はあの日以来、あのシャンプーの匂いを畏れるようになっていた。
また私は理性を失うかもしれない。そう思うと、汗腺が刺激されるような、焦燥感に駆られてしまうのだ。
実際、あの時みたいな事はもうなかったが、匂いと記憶は密接にリンクしていて、あの匂いを嗅ぐだけで、全ての記憶が荒波の様に押し寄せてくるのだ。
それが堪らなく気持ち悪かった。
にも関わらず、私の本能はその匂いを求めた。
精神的な依存に近かった。いまだに私はあずにゃんの身体を欲していたのだろう。
憂に隠れて、私は風呂場で何度もその匂いを嗅いでいた。
しかし、私はその依存を断ち切るべく、先週、憂が買ってきたシャンプーの買い置きを全て捨てた。
さらさらとシャワーの音が聞こえてくる。
その水音もあの日の記憶を蘇えらせるため、私はなるべくそれが聞こえないよう、居間のテレビをつけた。
あの特番は終わったのか、今はアイドルグループが理想のクリスマスを語る番組が放映されていた。
それを見るともなく見ていると、風呂場から憂の声がした。
憂「お姉ちゃーん、シャンプーきれちゃったから、詰め替え用のとってくれる?」
唯「憂~、ないよー」
と白々しく言った。
憂「え?こないだ買ってきたはずなんだけど…」
唯「でも見当たらないよー?」
憂「…え~…?」
唯「コンビニ行って買ってこようか?…って私お金ないかも…」
憂「うーん…じゃあ、居間のテーブルの上に私の財布があるから、買ってきてくれる?」
唯「わかったー」
憂「ありがとうお姉ちゃん。あ、出来れば同じの買ってきて欲しいな」
唯「うん。あったらそれ買ってくるよ」
テレビを消し、憂の牛皮の財布をパジャマのポケットに入れ、パジャマの上からコートを羽織ると、サンダルを履いて私は家を出た。
勿論、憂には別のシャンプーを買っていくつもりだった。
唯「う…さぶい…はぁ~…」
頬を刺す寒さの中、私は手袋をはめた両手を擦り合わせながら、コンビニへ向かった。
私が吐いた白い息は、ゆっくりと昇っていった。
私はそれを目で追っていく。
白いモヤはあっという間に、消えてなくなり、私はそれが広がっていくのに吊られて、空を見上げる格好になっていた。
そこにあの露天風呂から見た星空はなく、雲なのか排気ガスなのかよくわからないものに夜空が覆われているだけだった。
私は雲間(ガス間かもしれないが)から星が見えないか目を凝らした。
――合宿の帰りもこんな具合の曇りだった事を、私は思い出した。
合宿の帰りは夕方だった。
昨夜までは晴れていたはずの空は、そこに浮かんでいるのが不思議なほど重く見える雲群に覆われていた。
その日、きちがいじみたあの夜を越え、朝を迎えた私達は、早速隠蔽工作に着手した。
澪ちゃんとムギちゃんは半日かけて、ケータイを使ってネットで必死にエンバーミング…いわゆる防腐処理について調べた。
私とりっちゃんは、風呂場を徹底的に洗い直した後、再び入浴した。
これは風呂場が綺麗すぎるのは逆に怪しいという澪ちゃんの指摘に従っての事だった。
すでに垢など残っていない身体をボディソープで洗い流すのは、妙な気分だった。
垢は落とせても、罪を流す事はできない。むしろこれによって、さらに私達の身体は汚れていく気がした。
何かのドラマで、「長いこと人間やってると、洗っても落ちない汚れがつくもんだ」というセリフがあったが、まさか18年ぽっちの人生でこんな大きい汚れがこびりつくとは、私もりっちゃんも思わなかった。
厚手の靴下に便所サンダルは萌える
それから電車を二回乗り継ぎ、私達は桜ヶ丘に帰ってきた。
りっちゃんはあずにゃんの家に荷物を届け、私と澪ちゃんとムギちゃんは、澪ちゃんの家でアルコールや小難しい名前の薬品を使い、あずにゃんにとりあえずの防腐処理を施した。
みんな医学の素人ではあったが、何もしないよりはマシだった。
実際、ある程度の効果はあったらしく、その後腐臭立ち込める自室で数学の宿題をするハメになる…なんて事はなかった。
加えて、全員の部屋でアロマオイルを焚き続ける事にした。少しでもニオイを掻き消すためである。
程なくしてりっちゃんは澪ちゃんの家に来て、万事上手くいった旨を私達に伝えた。
とりあえず私達は解散し、明日また集まる事にした。
私達は担当部位をギターケースに隠し、各自の家へ持ち帰った。ムギちゃんとりっちゃんのぶんは、別荘から持ってきたケースで補った。
唯「ただいま」
憂「あ、お姉ちゃんおかえり!合宿どうだった?」
家に着いた私は、出迎えてくれた憂を一瞥しただけで、問い掛けには答えないまま、階段を上がって自分の部屋に入った。
ギターケースを二つ抱えている私の姿は、憂の目にどう映っただろう。
そして枕に顔を埋めた後、ふうっと息を吐いた。
甘ったるいラベンダーの香りが部屋に充満した。
コンコン
部屋のドアをノックする音がした。
憂「お姉ちゃん、入るよ」
憂「あれ?いい匂いがするね?」
唯「…」
憂「お姉ちゃん、何かあったの…?軽音部の人と喧嘩しちゃった…?」
私は枕に顔を埋めたまましばらく黙っていたが、憂が立ち去る気配もなかったため、顔を上げて話しはじめた。
唯「あずにゃんと喧嘩しちゃった…」
憂「梓ちゃんと…?」
事前に用意したセリフ通りに私は話した。
私は精神的に参っていたが、私達にとって憂は最も警戒すべき相手だ。
ここで私が心身疲労を理由に下手を打つわけにはいない。
憂「そうなんだ…。ちゃんと梓ちゃんに謝った?」
唯「うん…謝ったよ。何回も謝った」
これは本当だった。
私は謝った。
何回も、何回も。
これからも私は、心の中で謝り続けるだろう。謝り続けなければならない。
唯「うん。ありがとう…」
憂「ご飯、何時にする?」
唯「ごめん…今日はいらない。私、疲れたから寝てるね」
憂「うん…。何かあったら呼んでね?」
そう言って憂は私の部屋を出ていった。
みんなに、憂にはうまく伝えたとメールを送り、ケータイを放り投げると、私はまた枕に顔を埋めた。
唯「…っ……っぅ……!」
憂に気付かれないよう、私は声を殺して泣いた。
が、30分もしないうちに目を覚ましてしまい、身体は疲労を訴えていたが、精神が眠る事を許さなかった。
枕の端をぎゅっと握りながら、私は何度か思い出した様に泣いた。
それを繰り返しているうちに、カーテンの隙間から朝日が射し込んできた。
部屋を出て階段を降り、居間に入ると、憂が掃除機のコンセントを収納していた、
どうやら朝から掃除をしていて、今しがた終えたらしい。
憂「あ、お姉ちゃんおはよう。ご飯テーブルに置いてあるよ」
唯「うん。ありがとう」
憂「…ねえ、梓ちゃんの事なんだけどさ」
その言葉を聞いて、私の全身の神経がぴんと張り詰めた。
憂「うん。昨日お姉ちゃんの話を聞いてからメールしたんだけど、返事がないんだ」
憂「それで電話してみたんだけど、梓ちゃんのお母さんが出てね、まだお家に帰ってないんだって…」
唯「…どういう事?」
私は愚鈍な姉を演じた。
憂「わかんないけど…家出すような子じゃないし…心配だよ…」
唯「うん…。確かにそれは心配だね…どうしちゃったんだろう?」
憂「ちゃんと桜ヶ丘まで帰って来れてないのかな…?」
唯「…どうしよう…あずにゃん、迷子になっちゃったのかな?」
憂「…ねえ、もし明日になっても連絡つかなかったら、警察の人に相談したほうがいいと思う…」
憂「女の子が一人で歩いてたら危ないし…もしかしたら何かあったのかも…」
警察という単語を聞いて、私の心臓が大きく鳴った。
ここで私が通報を止めるのはおかしい。
いつもの私なら、間違いなく憂に同意しているはずだ。
私は逡巡した後、答えた。
唯「うん。そうだね。あずにゃんに何かあったら、私も嫌だもん…」
唯「うん…。きっと迷子になっちゃったんだね…。猫さんみたい」
憂「ふふ…もう、お姉ちゃんったら」
まだ失踪1日目だ。
さしもの憂も、まだ重大な事態になっているなんていうのは、万に一つくらいにしか思ってないだろう。
憂は時代錯誤な三角巾を外すと、掃除機を階段下の物置に仕舞いに行った。
その日、りっちゃんの家に集まり、話し合いをしたが、まだこれといった動きはなかった。
私達は家族に何も気づかれていない事を確認し合い、解散した。
夏休み最後の週の水曜日に、あずにゃんの母親が私の家を訪ねてきた。
あずにゃんが合宿の日から家に帰って来ないため、私に話を伺いに来たようだ。
他の三人から、あずにゃんの母親が来たという話をまだ聞いていなかったので、察するに、軽音部の中で私を最初に訪ねたようだ。
梓母「梓から、唯ちゃんの話は良く聞いていました。梓をとても可愛がってくれていたみたいで…」
私は前置きを遮るように言った。
唯「あずにゃ…梓ちゃんはまだ帰ってないんですか?」
梓母「…はい。唯ちゃんは何か知ってる?」
敬語とタメ口を混ぜて喋る人だった。
私のほうが20歳近く年下だが、娘の先輩であるため、何となく扱いにくいのだろう。
梓母「…そう…ですか…」
その後、私達は互いにぽつぽつと言葉を交わし、私あずにゃんの母親は私から丁寧に何の手がかりも得られそうもない事を悟り、丁寧に挨拶をしてから、私の家を去った。
私は自分の部屋に戻ると、急いで三人にメールを送った。私が話した内容を出来るだけ詳しく。
後で食い違いが生じないように、これは全員に義務づけられた行動だった。
書いてなかったらそーゆー事でお願いします。
実際はそんな所からバレないのかも知れないけど、慎重派の澪は極端に警察を警戒したって事でここは一つ…
あったよ。
・原因を誘発したとは言え、頭をぶつけたのは偶発的。
これでもそんな大ごとになるの?
稚拙な妄想が働いて最善の行動が出来ないことはよくあるさね。
しかし情状酌量でそこまで重く責任を問われるとは思えん。
しかし民事では莫大な慰謝料が・・・
梓母「…そう…ですか…」
その後、私達は互いにぽつぽつと言葉を交わしたが、あずにゃんの母親は私から何の手がかりも得られそうもない事を悟り、丁寧に挨拶をしてから、私の家を去った。
私は自分の部屋に戻ると、急いで三人にメールを送った。
私が話した内容を出来るだけ詳しく書いて。
後で食い違いが生じないように、これは全員に義務づけられた行動だった。
穴掘って埋めるのもそう簡単じゃないし…
澪と紬は知恵を絞って管理を徹底させたほうが安心できると踏んだ
とにかく、自分達の手元に梓を置いておきたかった
という事でw
黙って投下で
せいぜい軽音部が廃部になってさわちゃんが懲戒処分受けるくらいだろ
さわちゃんはそこにいないよw
監督不行届
免職になってもおかしくない
ざまあみさらせって感じだがな
あずにゃんの両親が通報したらしい。
警察の訪問は、私が4人の中では最後だったため、事前に澪ちゃんから会話の内容とその対応を徹底的に指導されていたので、この日は難なく切り抜ける事ができた。
翌日、始業式を終えた私達は、いつものように音楽室に集まった。
私が音楽室に入った時、みんなの前にはムギちゃんが淹れた紅茶が置かれていたが、量が減っていないところを見ると、誰も口をつけていないようだ。
あずにゃんが座っていた席の前には、猫のイラストが描かれたカップが置いてあり、それも紅茶で満たされていた。
紬「はい。どうぞ唯ちゃん」
唯「ありがとう」
私はムギちゃんからカップを受け取り、席についた。
私のカップの中で揺れる紅茶から、湯気がゆらゆらと立ち昇った。
メールの文面って、警察が電話会社に協力を要請したらバレちゃうんじゃないのかな?
まあ、そこまで細かいことは気にしないけど。
裁判官の令状があれば法的にも可能みたいだな
よほどの確証がないと警察でも無理だと思われる
メールの内容は物的証拠にならないから単体じゃ意味持たないだろうからあくまで裏付けになるから物的証拠が見つかってからじゃないと厳しいと思う
りっちゃんが最初に口を開いた。
今日の議題は、バンドの事ではない。
宿題の事でもないし、試験の事でもない。
お菓子の事でもなければ、最近始まったドラマの事でもなかった。
私達は、これから毎日あずにゃんの話だけをして、放課後を過ごす事になるのだろう。
私達が守ろうとした以前の軽音部はもうどこにも存在しておらず、これは澪ちゃんとムギちゃんも誤算だったようだ。
音楽室と楽器とお茶があれば何とかなるほど、私達はシンプルに出来ていなかった。
澪「大丈夫?何が?」
澪ちゃんが不機嫌そうに尋ねた。
律「いや、今のところバレてなさそうじゃん」
澪「そんなのわかんないだろ。私達が気づいてないだけで、警察は既に証拠を掴んでいる可能性だってある」
紬「そうね。うまくいっている時こそ、油断したら命取りになるわ」
紬「石橋は叩いて壊して、自分達で作って渡るくらいで丁度いいのよ。特にこういう時は」
律「…」
ムギちゃんに言い負かされて、りっちゃんは黙ってしまった。
紬「ごめんなさい。でも用心するに越した事はないから…」
律「いや、いいよ。ムギの言う通りだ。油断はご法度だな」
まだ誰も紅茶に口をつけていなかった。
澪「始業式でも、ホームルームでも、梓の話は出なかったな」
次に話を切り出したのは澪ちゃんだった。
澪「多分ね。でも、先生達はそのうち私達に話を聞きにくると思うよ」
唯「その時は、今までと同じ対応で大丈夫かな?」
澪「ああ。それでいいよ。今までもなるべく嘘をつかないよう、「知らない」「わからない」で通してきたんだ」
紬「今は対応を変える意味がないわ。それに、先生方の質問も、警察のとほとんど変わらないと思う。少なくとも警察以上って事はないわ」
澪「あ…先生と言えば、さわ子先生なんだけどさ、今日学校に来てなかったのって何でだと思う?」
私とりっちゃんには皆目見当もつかなかったので、押し黙っていた。
するとムギちゃんがそれに答えた。
紬「十中八九、梓ちゃんの事で何かあったのね。警察に話を聞かれているか、監督不行届きで謹慎とか…」
澪「…だろうな」
澪「わからない…。出来れば巻き込みたくなかったけど…」
律「…あのさ、私は部長だから、さっき学年主任の先生から聞かされたんだ」
律「さわちゃんは、軽音部の顧問から外されたよ。でも事情が事情だから、今年度いっぱいは廃部にはならないってさ」
音楽室に重い沈黙が訪れた。
カップの中の紅茶は、すでに冷めていたのか、湯気を出す事もなく揺れていた。
律「最悪、私達4人だけでも守らないとな…」
りっちゃんの言葉に誰も反論せず、私達はただ黙っていた。
この時、私達は満場一致の暗黙の了解で、さわちゃんを切った。
もっとも、私達が自首したところで、さわちゃんの処分は重くなるだけだ。
私達に、さわちゃんを救う手立てはなかった。
それよりも、私達にとって脅威になったかも知れないさわちゃんの退場に、誰もが内心ほっとしていた。
紬「それはありえないよ唯ちゃん」
紬「先生はあの日の事を何も知らないし…」
澪「そもそもあれは事故なんだ。それ以前の私達に兆候なんてないだろ」
唯「…でも、私、去年の合宿であずにゃんと…その…」
私は語尾を濁してから、話を続けた。
唯「そこから何か気づかれたりしないかな…」
紬「大丈夫よ。唯ちゃんが梓ちゃんに抱き着くの日常茶飯事だったし、万が一先生がそれを知っていて証言したとしても、そこから繋がる事はないわ」
唯「…そっか。そうだね」
『生徒の呼び出しをします。軽音楽部の4年生は、今すぐ職員室に来てください。繰り返します。軽音楽部の生徒は…』
律「早速か」
澪「基本的には私とムギが質問に答える。律と唯は梓を心配するフリをしててくれ」
唯「うん。…あ、対応はこないだの澪ちゃんのメールと同じ感じでいいんでしょ?」
私がケータイを取り出して澪ちゃんに見せると、澪ちゃんはそれを何秒か眺めた後に言った。
その言葉は私にとって予想外のものだった。
澪「唯、それとみんな。今すぐメールは全部消せ」
そうか、留年してたんだ
紬「あ、もし誰かにケータイを見られたら、お終いだもんね」
律「でもそれならヤバいメールだけでいいじゃん。全部消す必要はなくない?」
澪「メールの保存件数上限があるだろ」
紬「あ、そうね…」
唯「え?え?どういう事?」
紬「普通、保存上限いっぱいまでメールが溜まると、古いものから消されていくでしょ?」
紬「特に私達女子高生は、すぐに上限に達しちゃうでしょ。だから例えば500件まで保存可なら、常に500件埋まってる状態が自然なの」
律「部分的に消すと500分の499ってなって、メールを消した事がバレるって事か」
唯「でも、全部消したらそれも結局メールをわざわざ消してるって思われない?」
『生徒の呼び出しをします。軽音楽部の3年生は、今すぐ職員室に来てください。繰り返します。軽音楽部の3年生は…』
律「早速か」
澪「基本的には私とムギが質問に答える。律と唯は梓を心配するフリをしててくれ」
唯「うん。…あ、対応はこないだの澪ちゃんのメールと同じ感じでいいんでしょ?」
私がケータイを取り出して澪ちゃんに見せると、澪ちゃんはそれを何秒か眺めた後に言った。
その言葉は私にとって予想外のものだった。
澪「唯、それとみんな。今すぐメールは全部消せ」
紬「あ、もし誰かにケータイを見られたら、お終いだもんね」
律「でもそれならヤバいメールだけでいいじゃん。全部消す必要はなくない?」
澪「メールの保存件数上限があるだろ」
紬「あ、そうね…」
唯「え?え?どういう事?」
紬「普通、保存上限いっぱいまでメールが溜まると、古いものから消されていくでしょ?」
紬「特に私達女子高生は、すぐに上限に達しちゃうでしょ。だから例えば500件まで保存可なら、常に500件埋まってる状態が自然なの」
律「部分的に消すと500分の499になって、メールを消したのがバレるって事か」
唯「でも、全部消したらそれも結局メールをわざわざ消してるって思われない?」
紬「でも全員にその習慣があるのも変ね。ここは、りっちゃんが以前に勝手にケータイを覗いた事があって、それからみんな警戒して消すようになったって事にしよう」
律「えぇ?何か私そんな役ばっかじゃね?」
澪「仕方ないだろ。律が一番それっぽいんだから」
律「…いいけどさー」
唯「ねえ、もしかして携帯会社にデータが残ってたりしないのかな…?」
澪「その可能性もある。でもよほど私達が疑わしくない限り、そこまで調べないと思う」
紬「第一、まだ死体も出てないんだから」
澪「…でも用心するに越した事はない。これからはヤバい内容を話す時は会って直接…だな」
唯「暗号…?覚えられるかな…」
澪「出来る出来ないじゃなくてやれよ…」
唯「ご、ごめん。そうだよね…」
紬「でも私達以外に理解不能なメールだと、それが暗号だとバレるわ。万が一他の人が見ても、別の意味で通じるようにしないと」
律「…どゆこと?」
澪「なるほど。例えば「死体の防腐処理」は「ドラムのメンテナンス」に言い換える…こういう事だろムギ?」
紬「うん。そういう事。隠語に関しては、みんなで相談して決めましょう」
唯「うん、わかった。…さ、早く職員室に行こう。もたもたしてたら怪しまれるよ」
澪「そうだな、行こう。大丈夫。今のところ私達にぬかりはない」
澪ちゃんにとっては、自分の頭脳ですら、疑う対象なのだ。
それがかえって、私達は客観的だという事を感じさせ、安心できた。
事実、私達は先生達の梓ちゃんに関する質問を難なく切り抜ける事ができた。
その後何度か警察の人が話を聞きに来る事もあったが、私達は後輩の失踪を悲しむ女子高生を演じ続け、危機を感じる事もなかった。
そのまま一ヶ月が過ぎた。
睡眠不足は相変わらずで、みんな見る見る痩せていったが、周囲の目には、はあずにゃんを心配しているがため…と映っていたようだ。
このまま上手く行く…慎重な澪ちゃんですら、そう確信し始めていた10月のある日、最初の危機が訪れた。
元々軽音部を守るという目的で、私達は自首をしないと決めたが、結局ロクなバンド活動は合宿以来出来ていなかった。
それでも私達は、バンドを守るためという名目を掲げ、隠語を駆使してまで嘘をつき続けた。
目的のための手段が、手段のための目的にすりかわり、みんなそれに気づかないフリをした。
私達は自分自身と、守りたかった軽音部にまで嘘をついていた事になる。
それでも、もう後には引けなかった。
部活を引退してからは、下校後に4人のうち誰かの家を日替わりで、「ティータイム」をする事になっていた。
バンド名に冠された「ティータイム」という単語は、今や私達のどす黒い会合を表す隠語となっていた。
今日もこれと言った報告はないな…そう思いながら、私はその日、和ちゃんと下校していた。
唯「…」
私達は特に会話をするでもなく、歩きなれた下校ルートで家路についていた。
和「…気持ちはわかるけどさ、そろそろ元気出したら?」
私は後輩を失って悲しむ女の子の顔をして答えた。
和「…」
和ちゃんは答えない。
唯「…」
私もそのまま黙り込み、私達は互いの家への分かれ道に差し掛かった。
そこで和ちゃんが口を開いた。
和「唯、あ…あのさ…もし違ってたらごめんね?…あ、あの…」
唯「…?なあに和ちゃん?」
一呼吸置いてから、和ちゃんは恐る恐る私に尋ねた。
和「…本当は梓がどこにいるのか、知ってるんじゃないの…?」
朝までに終わるかなぁ…
これは悲しい
眠れないじゃないか
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和ちゃんは今、「本当は梓がどこにいるか、知ってるんじゃないの?」と言った。
「本当は」と言ったのだ。
和ちゃんは私が、あずにゃんの居場所を知ってて隠していると思っている。
私はすぐにでも澪ちゃんかムギちゃんに助けを求めたかった。
しかし、ここは私一人で乗り切らなきゃいけない。
沈黙するわけにもいかないので、私は和ちゃんに聞き返した。
唯「え?どういう事?」
和「…そのままの意味よ。私に何か隠してない?」
これまで、警察に似たような質問をされた事はあった。
だがそれは、「心当たりはない?」という程度のもので、今の和ちゃんほど直接的ではなかった。
ムギちゃん曰く、警察が私達を疑っていると私達に気づかれたら、私達が口を閉ざす可能性があるから…との事だ。
私達は警察に疑われている事を前提に会話内容を予め決めていたので、ボロを出す事はなかった。
それだけに、素人の和ちゃんの問いは、予測のしようがなく、警察のそれより遥かに恐ろしく感じられた。
私は演技を続けながら、和ちゃんに探りを入れた。
和「…だってあなた達、自分の後輩なのに、全然梓を探そうとしないじゃない…」
和「私の知ってる唯は、こういう時、常識も何もかも放り出して梓を探す…そういう子よ」
和「…私には唯が、どうしてそんなに大人しくしていられるかわからないの…」
今まで、私はムギちゃんと澪ちゃんに指示された通りに動いてきた。
二人が今までの私から想定した、「能天気な平沢唯」を演じてきた。
だが、それは本来の平沢唯ではなかった。
それを想定した澪ちゃんっぽさ、ムギちゃんっぽさが、「能天気な平沢唯」から、水銀が滲む様に漏れ出ていたのだろう。
和ちゃんが「大人しい」と感じた原因はまさにこれだった。
何故か俺が罪悪感を感じてる
和「…唯…お願い…。本当の事を言って…」
唯「さっきから言ってるじゃん…」
和「…」
和「…変な事言ってごめんなさい。もう忘れて…?」
和ちゃんは引いたが、このままではうまくない事が、私の足りない頭でも容易に理解できた。
疑念を持たれたままでいいはずがない。何としても、和ちゃんを納得させなければいけない。
和「じゃあ、また明日学校でね。今度久々に二人で遊ぼう。あなたには気晴らしが必要だと思うから」
唯「うん…。わかったよ。じゃあね和ちゃん」
和ちゃんはそのまま振り返り、歩き去って行った。
私は和ちゃんの背中を、角を曲がって見えなくなるまで見つめていた。
俺1がいれば軽音部を守って(幇助)してやれただろうなw
それが出来ない以上、このスレを守ってやらないとな
唯[和ちゃんが音楽に興味あるんだって]
存在するのかも定かでない、電話会社のデータバンクに注意を払いながら送信された文章の意味は、「和ちゃんが私達を疑っている」だった。
すぐに澪ちゃんからメールが返ってきた。
宛先にはりっちゃんとムギちゃんの名前もあった。
澪[みんな今すぐ私の家に来て]
私は制服を着替えずに、ばたばたと玄関に向かった。
この時、背後から憂の「お姉ちゃんどこに行くの?」と言う声が聞こえてきたが、私はそれを無視して家を飛び出した。
今は憂の事を考える余裕なんてなかった。
みんな一様に、ライブ前の澪ちゃんのように顔を強張らせていた。
紬「唯ちゃん、とりあえず何があったか説明してくれる?」
私は和ちゃんとの会話を、出来るだけ詳細に説明した。
唯「あの…私、あれで大丈夫だった?」
私は和ちゃんへの自分の対応に、自信がなかった。
澪「ああ。とりあえずは大丈夫だと思う。頑張ったな、唯」
そう言われて私は安堵した。
紬「でも、確実にまだ私達を疑っているわ」
澪「うん。今度遊ぼうって誘ってきたのも、そこから唯を探ろうとしてるんだと思う」
寝れない!
久々にドキドキする。文章に隙がない感じで読むのが苦にならない!
澪「…和の言葉から察するに、和は唯を疑っている事に罪悪感を感じているフシがあるな」
紬「そこをうまく利用しましょう」
相変わらず、「ティータイム」は澪ちゃんとムギちゃん主導で進んでいる。
かつてのティータイムは、私とりっちゃんが幅をきかせていた。
この事が、もうティータイムが全く別の「ティータイム」と入れ替わってしまっているのだと痛感させた。
和ちゃんの私に対する情につけ込むという提案も、もはや私達の良心を痛めるような事ではなかった。
私達に良心が残っていればの話だが。
唯「どうすればいいの?」
紬「うん。やっぱり私達が考えた言葉と行動だと、唯ちゃんらしさを出し切れないみたいね」
澪「そうだな。幹も葉っぱも私達が決めたんじゃ、どうしても私とムギの味みたいなのが出てしまう」
紬「…ここは唯ちゃんに対策を考えてもらいましょう。私達はそれに肉付けをする程度に留めるわ」
思いも寄らぬ二人の提案に、私は狼狽した。
唯「そんな…対策なんて私にはとても…」
紬「唯ちゃん。私達の考えた「唯ちゃん」だと、隙が無さ過ぎて不自然になっちゃうの。難しいかも知れないけど、考えてみて?」
澪「うん。和の事も、唯自身の事も、この中で一番良く知っているのは唯なんだ」
私は二人に促され、思考を巡らせた。
今まで和ちゃんと喧嘩をした事がないわけではない。その時どうやって仲直りしたか。
和ちゃんは私のどこが好きなのか。
私は言葉を選びながら、ゆっくりと話し始めた。
唯「私がいつまでも練習しないでだらけて…バカなままだから…あずにゃんは帰って来ない…」
唯「だから私は、もっとしっかりしなきゃと思って、冷静な行動をとるようにした…。いつあずにゃんが帰って来てもいいように」
唯「和ちゃんは、私のそういう所を気に入ってくれてるんだと思う…」
唯「これを和ちゃんにくっつきながら…泣きながら話せば…和ちゃんは信じるんじゃないかな…」
話し終えた私は、みんなの顔を見渡してから、最後に尋ねた。
唯「…こんな感じでどうかな?」
紬「すごいわ唯ちゃん。それで完璧だと思う」
澪「うん。私達が肉付けするまでもないな。それで行こう」
律「唯ってさ、ほんと愛され上手だよな」
りっちゃんは褒めるつもりで言ったのだろうが、その言葉が私の胸に鋭い槍の一投のように深く突き刺さった。
あずにゃんに欲情し、死なせてしまい、嘘に嘘を重ねて来た私に愛される資格なんて無い…。
しかし、私が心の中で、「軽音部を守るため」と呪文のように唱えると、胸に刺さった槍はいとも簡単に抜けた。
私達の全員が、そうやって自分を誤魔化しながら、何とかここまでやってきた。
律「あ、そうだ。私もみんなに話しておきたい事がある」
律「えっと…ギターケースの事なんだけど…」
どうやらりっちゃんの話とは、あずにゃんの棺になったギターケース、又はその中身についてのようだ。
律「みんなはさ…あれからギターケース開けた事ある?」
あるわけがない。
私達は、ギターケースの重いチャックを閉じる時、自分達の罪をそこに押し込めたのだ。
それを好き好んで開けるわけがない。
澪「ないよ…。当たり前だろ…」
澪ちゃんは、「一体何を言い出すんだお前は」とでも言いたげに、りっちゃんの顔を見た。
唯「私もないよ…」
紬「私も…」
紬「…開けたの?」
律「…うん」
澪ちゃんが青ざめた顔をしながら、両手を口で覆った。
それを横目で見ながら、りっちゃんは話を続けた。
律「そしたら…まぁ…あー…く、腐っててさ…」
澪ちゃんは嘔吐するのを肩を震わせながら必死で堪え、涙ぐんでいた。
律「やっぱ素人の防腐処理じゃ、すぐダメになるんだよ…。だからみんなのももう一回処理し直したほうがいいと思う」
早く終わらせてすっきりして寝よう
律「う、うん。だからさ、今この部屋にあるやつも調べてみようぜ…」
やりたくなかった。
でもやらないと、後々取り返しのつかない事になるかもしれない。
やるしかないのだ。
律「澪、お前のはどこにあんの?このクローゼット?」
澪ちゃんは両手で口を押さえ、大粒の涙を流しながら、頷いた。
りっちゃんがそのクローゼットのドアを開けた。
が、そこにギターケースは見当たらない。
律「…あれ?無いよ…?」
澪ちゃんは同じ姿勢のまま、クローゼットのほうを指差した。
よく見ると、クローゼットの奥に、周りと同じ色のアクリル板で仕切りが施されていた。
りっちゃんがそのアクリル板を外すと、黒いギターケースが顔を覗かせた。
慎重な澪ちゃんらしい隠し方だった。
常人なら間違い無く1~2週間経たず発狂する
ジィーッという音が部屋の全員を不快にした。
その中に4つ、茶色いしわしわのソレはあった。
かつてあずにゃんの左腕と左脚だったソレ。
澪ちゃんの部屋に、すえた臭いが充満する。
胃の奥からこみ上げてくるものを感じた。
紬「も、もういいわ…。わかったから仕舞いましょう…」
ムギちゃんは平時より明らかに白い顔をして、ソレから目を逸らした。
りっちゃんはギターケースを閉じて、クローゼットに押し込み、アクリル板を元の場所に戻した。
もう…見てて苦しいのに先が気になる…
って書こうとしたら気持ち悪くなった
憂は知的で疑り深そうだし聡なんて思春期だし
あずにゃんにゃん!あずにゃんにゃん!
恐らくムギちゃんのも、そして私のも、同様に防腐の限界を越えてしまっているのだろう。
私達は再度防腐処理をする事にした。
が、その日は全員精根尽き果てていたため、処理は翌日に持ち越された。
澪ちゃんは、あまりの恐怖からか、腰を抜かしてしまっていたので、りっちゃんがそのまま残って泊まる事になった。
私はムギちゃんと別れると、寄り道をせずに自宅へ向かった。
辺りはすっかり暗くなっていたが、私の家の玄関の照明はこうこうと点いていた。
憂が私のために点けてくれているのかな…と考えながら、私は家の門を開けた。
私は玄関のドアの前に立っていたその人を見た瞬間、息が止まった。
和「あ、唯。おかえり」
しかし憂ならやってくれそうだな
こっそり持ち出して自分で防腐処理しなおし→ハーブ漬けにして焼く、とか
私は狼狽している事を気づかれないよう、精一杯の演技をしながら和ちゃんに話しかけた。
和「うん。さっき私、唯に酷い事言っちゃったし、ちょっと会って話したいなって思って…」
和「あがっていい?」
駄目だ。部屋に入れたくない。
でも断る理由がない。
混乱しきっている私の頭で、都合のいい言い訳なんて思いつくわけがない。
唯「うん。いいよ。…でも憂がいるでしょ?何で玄関の前なんかで…」
和「勝手に部屋にあがるのも悪いじゃない。それに、唯を待ってたかったから、ここでいいって憂に言ったの。そしたら電気つけてくれてね。相変わらず出来た子よね」
そう言って和ちゃんは笑った。
その笑顔が作り物には見えなかったが、私はこの幼馴染がまるで命を刈り取りに来た死神の様に思えた。
いつも通りの他愛ない会話。
その間も、私は全神経を以って、和ちゃんの一挙手一投足を観察していた。
こうして笑いあっている間も、和ちゃんは虎視眈々と私の隙を伺っているのだろうか。
いや、それは私のほうだ。嘘をつく人間というのは、他の人間も嘘をついている様に思えてしまうものだ。
しばらくして、会話の種は尽きた。
そこで私は意を決して、和ちゃんにさっきの話を切り出した。
唯「…何で和ちゃんは、あんな事言ったの?」
和「…ごめんなさい。唯の事が心配で…でも唯がわからなくなって…」
――あの作戦を実行するなら今しかない。
和「そんな…自分で自分をバカなんて言うのは良くないわ…」
唯「…だからね…私はもっとお利口にならなきゃって思ったの」
唯「そうしたら…あ…あずにゃんも…帰ってきてくれる…って…」
私は目に涙を溜めながらゆっくりと、一つ一つの言葉を噛み締めるように話した。
和「唯…私…ごめんなさい…」
和ちゃんの声が震えているのがわかった。
私は和ちゃんに抱きついて、声を上げて泣いた。
その私を和ちゃんはきつく抱きしめた。
もう何が本当で何が嘘なのか自分でもわからなくなっていた。
でも、私の作戦が上手く行った事だけは事実だった。
私はそれで満足できた。
和ちゃんという障害を乗り越えたせいか、安心していた私は、勘ぐる事なく話す事ができた。
和「ていうか唯、部屋散らかりすぎじゃない?」
唯「でへへ…すいやせん…」
和「ほら、服も脱ぎっぱなしじゃない」
唯「大丈夫!明日それ着るから!…多分」
和「はぁ…。相変わらずね…。このカーディガン片付けとくわよ?」
和ちゃんはカーディガンを持って立ち上がり、クローゼットのドアに手をかけた。
私の身体中からべっとりとした汗が噴出すのがわかった。
のどかあああああああ
>>1がんばれ
私はあの日以来、ギターケースどころか、クローゼットも開けていない。
もしかしたら、りっちゃんのみたいに、腐臭がそこに充満しているかもしれない。
私は全てが終わるのを覚悟した。
和「…?あれ?唯ってギター二本持ってるの?」
和ちゃんはギターケースを見ると、私に尋ねた。
唯「う、うん。そっちは全然使ってないけどね」
鼻をつく臭いがした。やはり腐敗していたのだろうか?
和「そうなんだ。ふふ、唯もすっかりミュージシャンね」
和ちゃんはそう言うと、カーディガンをクローゼットのハンガーにかけ、ドアを閉めた。
あまりの緊張で、口の中が干乾びた様な気がした。
ああ、そうか。今の異臭は私の口の中からしたのだ。
とんでもないスレをみつけてしまった
和ちゃんは私の部屋にあったラベンダーのアロマオイルに興味を示し、後日同じものを一緒に買いに行く約束をした。
私はベッドに身を放り出すと、今日あった事を思い返した。
――このまま、4人の部屋で管理していて本当に大丈夫なのだろうか。
あの時私は、盲目的に澪ちゃんとムギちゃんに従ったが、私達は安心感を優先して、確実性を放棄していたのではないだろうか。
誰にもバレない場所を考えて、そこにまとめて置いたほうが確実なのではないか。
私の頭の中を、色々な考えが彷徨した。
その時、部屋のドアを、コンコンと2回ノックする音がした。
憂「お姉ちゃん、ご飯できたよー?」