男「俺んちの近所に火葬場と焼肉屋が隣り合わせで出来たんだが……」
男(今日は忙しかったな……そういや、この辺りを歩くのって久しぶりだな)
男「ん!?」
≪火葬場≫ ≪焼肉屋≫
男「な、なんだこりゃ……火葬場と焼肉屋が隣り合わせて出来てやがる!」
男「……」
男(まあいいや、帰ろう)スタスタ
男「今日の晩飯はコンビニで買った牛丼~♪」
パクパク…
男(そういや、今日見かけた火葬場と焼肉屋……)
男(まさか、業務提携とかしてないだろうな……)
男(ってなに考えてんだ俺は! なんだよ業務提携って!)
男「うう……食欲なくなってきた……」モグモグ…
男「!」
隣人女「おはようございます」
男「おはようございます」
男(病気のお父さんと同居してるお隣さんだ)
男「あの……お父さんの具合は……?」
隣人女「あまり……よくないですね」
男「そうですか……」
男(もうあまり長くないから、退院させて……って話だったよな。お気の毒に)
男(また通りがかってしまった)
≪火葬場≫ ≪焼肉屋≫
男「……」
男(この二つが並んでたら、どうしても猟奇的な想像しちゃうよなぁ……)
男(こんな組み合わせで建ってたら、どうせすぐ苦情来て、どっちか撤退することになるさ)
男「行こ」スタスタ
男「……」
≪火葬場≫ ≪焼肉屋≫
男(まだやってる。しかも焼肉屋の方はそれなりに客が入ってるようだ。マジかよ……)
男(どちらかに……入ってみるか)
男(どっちにしよ。普通に考えれば焼肉屋に入るべきだけど……ここはあえて火葬場へ!)
喪服女「いらっしゃいませー!」
男「ど、どうも」
男(若い女だ……しかも妙に明るい)
喪服女「火葬のご依頼ですか?」
男「えぇっと……」
喪服女「焼き加減は? ウェルダン? ミディアム? レア?」
男「レアはヤバイと思います」
喪服女「そうですか!」
喪服女「火葬したくなったら、ぜひウチに来て下さいね!」
男「は、はい」
喪服女「パーッと燃やしちゃいますから!」
男「ずいぶん明るいんですね……」
喪服女「そりゃもう! 火葬というのは故人にとっては最後のセレモニーですから! 明るくやらないと!」
男(サイコパスかよ……。もういいや、焼肉屋に行こう)
男「……」ガラッ
店主「いらっしゃいませ……」ドヨーン
男「うわっ!」
男(今度はまた暗そうな兄さんが出てきたな)
店主「お好きなお席へどうぞ……」
男「は、はい」
男(焼肉屋といったら、もっと『いらっしゃいませぇぇぇ!』なテンションのイメージだけど……)
男「どうも」
ジュゥゥゥ…
男「……」パクッ
男「うまい!」
男「このオリジナルのタレも絶品だ! こんなうまいの初めて食べたかも!」
店主「……ありがとうございます」
男(にしても、この人暗いなマジで。せっかく褒めたのに全然嬉しそうじゃない)
男「だけど……どうしてそんなに浮かない顔してるんです?」
店主「僕はいい肉を見分ける目があるらしく、焼肉屋になったのですが……」
店主「食べられる牛の気持ちを考えると……どうしても気持ちが沈んでしまって……」
男「あんた焼肉屋に向いてないよ!」
男(でも、たしかにこの店は安くてうまい。流行るのも分かる)パクッ
店主「なんでしょう……?」
男「隣の火葬場との関係は?」
店主「え……」
男「いやほら、火葬場と焼肉屋が隣り合ってると、どうしても変な連想をしちゃって……」
店主「ああ……そういうことですか」
店主「そりゃそうですよね……だから僕は反対したのに……」
喪服女「だけど、やっぱり近くで助け合いたいじゃない、お兄ちゃん!」
男「わっ!(いつの間に!)」
店主「はい……」
喪服女「私たち、兄妹なんです!」
喪服女「お兄ちゃんはお肉を見分けるのが得意だから焼肉屋になって」
喪服女「私はお肉を焼くのが得意なので火葬場運営を始めたんです!」
男「そ、そうですか」
店主「ほら……引いてるよ」
喪服女「そんなことないってー! 引いてませんよね?」
男「ええ、まあ(引いてるというか、押さえ込まれてる気分だ)」
店主「ありがとうございました……」
喪服女「ありがとうございましたーっ!」
男(明るい火葬女と、暗い焼肉男の兄妹か……変なのと出会ってしまった)
男(まあ、今後はなるべく関わり合いにならないようにしよう)
男(だけど肉はおいしかったな……)
…………
……
<アパート>
男(あ、お隣さんだ)
男「あの……どうされました?」
隣人女「父が亡くなりまして……」
男「あっ、そうなんですか……お悔み申し上げます」
隣人女「ありがとうございます」
隣人女「母はいませんし、他に兄弟もいないので……喪主は私が務めます」
男「あの……大変非常識な申し出かもしれませんが……」
隣人女「はい」
男「俺にも手伝わせてくれませんか?」
隣人女「え?」
男「あ、いや……いつも顔を合わせてるお隣さんですし、少しでも力になれたらと思って……」
隣人女「私も不安でして……お力を貸して下さるというなら喜んで」
隣人女も立派に喪主を務め、葬儀は無事進んだ。
隣人女「色々と助かりました」
男「いえいえ! 俺なんてほとんど何もしてませんよ!」
隣人女「手伝って下さるという方がいらっしゃっただけで嬉しいんです。こんな時ですから」
男「そうおっしゃって頂けると、ほっとしますよ」
男(さて……いよいよ火葬だ)
男「ところで、火葬はどちらで?」
隣人女「すぐ近くの火葬場で……」
男(やっぱり……。あの人、空気読んでくれよ……)
男「……!」
喪服女「あら、あなたもいらっしゃったんですか!」
男「ええ、まあ」
喪服女「それじゃはりきって、火葬の方に入らせて頂きますね!」
隣人女「よろしくお願いします」
男(やっぱりこうなったか! もう最悪だよ!)
男「ちょっとあのテンションは……不謹慎ですよねえ?」
隣人女「そうでしょうか? 明るくて……なんだか救われました」
男「そ、そうですか。ならいいんですけど」
隣人女「そうですか」
男「……」
喪服女「これより骨上げに入りますが、あなたはどうされます?」
男「えっと、俺は……」
隣人女「よろしければ、ぜひ一緒に……」
男「じゃあ、そうさせていただきます」
隣人女「お父さん……」
男(人が骨になってる光景は……やっぱりくるものがあるな)
喪服女「とてもいい骨ですね!」
隣人女「え?」
喪服女「その人がどんな人生を送ってきたかは、骨を見ればよく分かるんです!」
喪服女「お父様はよく娘さんのために働いて、頑張ってきたと……」
喪服女「はりきって拾ってあげましょう!」
隣人女「あ、ありがとうございます……」
男(この人……ただ闇雲に明るいわけじゃなかったんだな……。ちょっと誤解してた)
隣人女「はい、本当にお世話になりました」
男「ところで、この後……ちょっと食べていきませんか」
隣人女「え?」
男「火葬場の隣に、いいお店があるんです。よかったら……」
隣人女「あなたがオススメするならぜひ!」
店主「いらっしゃいませ……」
店主「あれ、その喪服は……」
男「今日はこちらのお父さんの葬儀がありまして」
店主「そうだったんですか……それはそれは」シクシク
男「!?」ギョッ
隣人女「な、泣かないで下さい」
店主「すみません、つい……」
男(こういう時には、この人の暗さがいい湿っぽさを演出するな)
男「いかがですか?」
隣人女「おいしいです。お店もしっとりしてて……」
男「しっとりしてる焼肉屋ってのもなかなか珍しいですけどね」
隣人女「こういう雰囲気だと、亡くなったお父さんのこと、たくさん話したくなっちゃう」
男「どんどん話して下さい。俺もお父さんの思い出を共有したいんです」
隣人女「はい! 父はずっと工場に勤めてて……」
男「へぇ~……俺の親父は学校の教師やってまして……」
店主「はい……」
男「あれ? 安いですね」
店主「亡くなったお父様への弔いということで……少しお安くしました……」
男「ありがとうございます」
隣人女「父のために……」
店主「いえ、どうか気を強く持って下さい……」シクシク
男(俺としてはあんたの方が心配だよ)
男「今日うちの部屋に来ませんか?」
隣人女「あ、ぜひ」
男「一緒にDVDでも見ましょう。怖いやつ借りたんですよ」
隣人女「え~、怖い場面になったら抱きついちゃうかも!」
男「それが狙いだったりして」
隣人女「もう、本当に狙い通りになっちゃいそう!」
男(俺はお隣さんとなんとなく親しくなって、ちょくちょく遊ぶ仲になれた)
男(いずれちゃんとお付き合いをしたいと思ってる)
男「今日は帰ったら、お隣さんがご飯作ってくれる。楽しみだな~」スタスタ
男「……ん」
≪火葬場≫ ≪焼肉屋≫
男(今も焼肉屋と火葬場は並んで立ってる。どちらも経営は好調のようだ)
男(最初はひどい組み合わせだと思ったけど……こういうのもアリなのかもな)
おわり
コメント一覧 (3)
-
- 2022年01月28日 11:58
- こういうのでいいんだよ
-
- 2022年01月28日 12:02
- オチは弱かったけど普通に楽しめた
-
- 2022年03月18日 21:07
- ちょっとオチが弱いな。でも良かったよ