男「えっ、1000円ポッキリで美女とお酒飲み放題だって!?」
男「あー……金ねえなぁ」
男「ん?」
青年「ちょいと、そこのお父さん。いい店あるんだけど」
男「誰がお父さんだ!」
青年「こりゃ失礼しました。お兄さん、いい店あるんだけど」
男「どんな店?」
青年「美女とお酒を飲めちゃう店」
男「あー、そういう店かぁ」
青年「どのぐらい持ってます?」
男「とりあえず1000円札一枚」
青年「いいですよ、1000円ポッキリで! いかがです?」
男「えっ、1000円でいいの!?」
青年「出血流血大サービスです」
男「よっしゃ、行くわ!」
青年「一名様ごあんなーい!」
男「よいしょと」
青年「あ、靴は脱いで下さい」
男「え、なんで?」
青年「靴を脱いだ状態で、ゆっくりくつろいで頂くのが当店のスタイルですから」
男「へえ、変わってんね。失礼しまーす」
男「おほっ!」
男(おしとやかで俺好みのいい女じゃないか! 本当にこんな女と飲めちゃうのか!?)
美女「日頃のことは忘れて、ゆっくりおくつろぎ下さい」
男「実際色々忘れてるけど……どうもありがと」
美女「なにか飲みます?」
男「とりあえず……ビールで」
美女「かしこまりました」
美女「どうぞ」
男「いただきまーす」グビグビ
男「ぷはっ、うめー! いやー、あなたみたいな美女とお酒飲めて最高ですよ!」
美女「私こそ。ありがとうございます」クスッ
美女「よろしければ、もう一杯いかがです?」
男「飲みます飲みます!」
男「ん?」
青年「当店にはなんと、美女だけじゃなく少女もいましてね」ヒソヒソ
男「え、マジ?」
青年「興味あります?」
男「まあ……コホン。うん、あるかな。多少は」
青年「ちょっと呼んできますよ」
男(こんな店で少女が働いてていいのか……?)
男「マジかよ! まだ小学生ぐらいじゃん! 大丈夫なん?」
青年「特別に働かせてましてね」
男「へぇ~、警察に摘発されないように気を付けてね」
少女「ピーナッツどうぞ」
男「お、ありがとう」ポリポリ
美女「ビールもどうぞ」
男「どもども」グビグビ
美女「昔を……取り戻すためですかね」
男「あー、分かる分かる。もっと若い頃はきっと華やかな生活してたんでしょ。そんだけ美人だもん」
男「だから、俺が取り戻させてあげよう! チューしよ!」
美女「どうぞ」
男「え、マジ!? いや……さすがにやめとくわ。裏から怖い人出てきそうだし」
美女「そんなことありませんって」
男「こう見えても奥手なんでね、ハハ」
美女「えぇと、焼酎がありますけど」
男「焼酎、いいねえ! 持ってきて~!」
青年「ただいまお持ちします!」
少女「ポテチはいかがですか?」
男「悪いね~、お嬢ちゃん!」バリボリ
男(こんだけ至れり尽くせりで1000円ポッキリ? ありえないだろ! マジいい店~!)
――――
――
美女「お目覚めですか」
男「う、うん……」
美女「頭の方は? なにかお変わりは?」
男「すげー痛い……ガンガンする……二日酔いみたいだ」
美女「そうですか……」
男(なんだ、今ため息ついたけど……)
青年「ではあちらからお帰り下さい。ありがとうございましたー」
男「あーい……」
男(すっかり酔いも覚め……また町をぶらぶらさまよう……)
通行人A「落としたらそのショックでスマホのデータ消えちゃってさー」
通行人B「え、マジ? 大丈夫だった?」
通行人A「修理屋行ったら、なんとか復旧してもらえてさ……」
通行人B「よかったなー」
男(ふん、スマホなんて持てる身分でうらやましい限りだ。俺みたいな修理しようもない人間もいるのによ)
男「おおっ、昨夜はどうも!」
青年「どうです? 今日も寄って行きませんか?」
男「寄りたい! といいたいとこなんだけど、お金が……」
青年「いくらあります?」
男「500円しかなくて……」
青年「いいでしょう、500円ポッキリでごあんなーい!」
男「マジで!? ひゃっほう!」
男「いやいや、とんでもない。ビールをもらえるかな?」
美女「どうぞ」トクトク
男「うへへ、ありがと~!」グビグビ
少女「おつまみもどうぞ!」
男「うんうん」ポリポリ
青年「もっとお酒持ってきましょうか?」
男「もっと持ってこーい!」
美女「どうですか、記憶の方は?」
男「えー? 全然覚えてないよ……何杯飲んだかなんてさっぱり……」
美女「そう……ですか」
男「なんかガッカリさせちゃってごめんね?」
青年「じゃ、気を付けてお帰り下さい」
男「おっとっと」フラフラ
青年「大丈夫ですか?」
男「君は優しいねえ。君のような子供を持った親は幸せだろうよ」
青年「どうもありがとうございます」
男(今日もぶらぶら……ふらふら……終わってんな、俺……)
青年「どうもー!」
男「おお、またか」
青年「今日もどうです?」
男「悪いんだけど……」
青年「どうしました?」
男「もう金がないんだ。1円も持ってない」
青年「だったら――タダでいいですよ」
男「は?」
青年「タダポッキリ! さ、こちらへどうぞー!」
男(おいおい、これはどういうことだ!? いくらなんでもありえない!)
少女「お待ちしてました~」
男「……!」
男「ねえ、ホントにタダでいいの!?」
青年「もちろんです。男に二言無し! 超大出血サービス!」
男(嘘だ……こんなの何かの罠に決まってる。たとえば酔い潰して、臓器や血液を奪うとか……これぞまさに大出血)
男(だけど、俺は正真正銘の一文無し。どうせこの先もう生きてはいけない)
男(だったら人生最後……この店でとことん豪遊するのが正解じゃないか!)
男(俺はあえて……罠に飛び込む!)
美女「さあ、どうぞどうぞ!」
少女「おつまみもあるよ!」
青年「なんでしたら、カラオケもいかがです? マイクを用意してあります」
男(もう……どうにでもなれ!)
男「今夜は楽しむぞ~!」
イェーイ!
美女「あちらです」
男「うぷ……あ、ありがと……」
男「うえええ……」ヨロヨロ…
少女「あ、あぶないっ!」
男「あっ……」ツルッ
ゴンッ!
――――
――
美女「大丈夫!?」
少女「しっかりして!」
青年「あ、目を覚ましたみたいだ!」
男「ん……」
美女「起きて! あなた!」
男「ああ……お前たち、どうしたんだ?」
美女「!」
少女「思い出したの!?」
男「思い出した……。閉じてた蓋が開いて、中身が全部飛び出してくるような感覚だよ……」
男「俺の妻に、息子に、娘じゃないか……。それにここは俺の家……」
美女「よかった……!」ガシッ
男「うおっ!」
青年「お父さんは会社の飲み会で、結構飲まされちゃって、頭を打ってしまった」
男「ああ、そんなこともあったような……」
青年「それで記憶をなくしてしまい、会社にも寄らず、ふらふら町をさまようようになった」
青年「とりあえず、会社には休職にしてもらったんだけど……」
美女「手の施しようがないから、お医者さんに相談したら……」
美女「『もう一度同じような状況を再現してみてはどうか』って言われて……」
男「それで俺にお酒を飲ませてたわけか」
男(スマホだけじゃない。人間だってちゃんと修理すれば戻るんだな)
美女「いいのよ……だってあなたの妻なんだもの」
男「それにしても、やけに俺好みの女性だと思ってたら……そりゃそうだよ」
男「だって結婚相手なんだもの」
美女「あなたったら……大好き!」ガバッ
アッハッハッハ…
青年「いい年して、いちゃついちゃって……」
少女「ヒューヒュー!」
――――
――
男「精密検査も異常なかったので、今日から復帰します」
上司「うむ、頑張ってくれたまえ!」
同僚「待ってたよ!」
OL「お帰りなさい!」
パチパチパチ…
男(ようし、今日から愛する家族のためバリバリ働くぞ!)
客引き「どうです? お客さん、ちょっと飲んでかない? サービスしちゃいますよ?」
男「……」
客引き「日頃の嫌なことをパーッと忘れちゃおう!」
男「やめておくよ。もう二度と忘れたくないものがあるんでね」
― 完 ―
コメント一覧 (7)
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- 2021年12月23日 00:08
- 結構好きかも
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- 2021年12月23日 02:01
- いいね、落ちもよくて面白かったw
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- 2021年12月23日 02:28
- 短さの中にも過不足なく詰め込んでくれて流れもオチも良い!
面白かった
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- 2022年01月22日 23:51
- さんきゅうイッチや♥
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- 2022年02月01日 19:14
- 芝浜みたいなw
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- 2022年02月01日 20:22
- 面白かった
あばらを代償に呑んでるのかと思ったわ
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- 2022年02月09日 19:58
- 昔は三千円ポッキリ出血大サービス というボッタクリバーがあった。
三千円しか払わないと腕をポッキリやられてボコられて出血させられるというシステムだった。