男「鳥居の上に座って『君はボクが見えるのかい?』って言うバイト……?」
- 2021年10月27日 05:20
- SS、神話・民話・不思議な話
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男「ん? 求人ポスターか……」
『アルバイト求人 内容:~~』
男「鳥居の上に座って『君はボクが見えるのかい?』って言うバイト……?」
男(なんだこりゃ? 妖怪漫画の導入とかでありそうなシチュだけど……)
男(これだけで一万もらえる? マジ? とりあえず……電話してみるか)
男「もしもし……あの、ポスターを見た者なんですけど……」
男「失礼します……」ガチャッ
ベレー帽「や」
男(ベレー帽をかぶった……お兄さんともおっさんとも言い難い男だな)
男「一応履歴書持ってきたんですけど……」
ベレー帽「いい、いい。いらないいらない。ここにかけてくれていいよ」
男「はぁ」
ベレー帽「うん、ポスターのまんまなんだけどね」
ベレー帽「来週×日の夜8時、ある神社の鳥居の上に座ってもらって」
ベレー帽「やってきた人に『君はボクが見えるのかい?』って言ってもらう」
男「それだけですか?」
ベレー帽「それだけ」
男「一万円もらえるんですか」
ベレー帽「あげちゃう」
ベレー帽「違う違う! むしろ世の中の役に立つことさ」
男「……」
ベレー帽「どうする? やるかい? やめるかい?」
男(怪しすぎるけど、こんな簡単な仕事で一万はオイシイし……)
男「やります!」
ベレー帽「よし、決まり! じゃあ当日一時間ぐらい前に集まろうか」
ベレー帽「この鳥居だよ。この梯子使って登って」
男「分かりました。ちょっと怖いな」
ベレー帽「下を見ないようにね」
何とかよじ登る。
男「ふー……鳥居の上って結構高いですね」
ベレー帽「じゃ、ボクはこれで。仕事が終わった頃に迎えに来るから」
男「はい」
男(とりあえずスマホでもいじってるか)
男(夜に神社の鳥居に上って、スマホいじる……なにやってんだろ俺)
男(これでお金もらえなかったらどうしよう……。鳥居の上に座ったって思い出ができるだけだ)
男「……ん」
男(誰か来た……。女?)
男(暗そうな女だな……。いや、夜だから暗いに決まってるか)
男「君はボクが見えるのかい?」
女「!?」クルッ
女「ぎぃやぁぁぁぁぁぁっ!!!」
男「ひっ!」
ダダダッ…
男「逃げてった……危うく俺が落ちるとこだったよ」
男「これでいいんですか?」
ベレー帽「うん、じゃあこれ約束の一万円」
男「ホントにいいんですか?」
ベレー帽「もちろんだとも。それじゃあね」
男「……」
男(一時間ぐらい鳥居に座るだけで一万か……まあ、なかなか割りのいいバイトだったな)
男(けど、あの女の人をおどかして、一体なんの意味があったのか……)
男「あ、またポスター貼ってある」
男「今度は……“夜中タクシーに乗って運転手に怪談を聞かせるバイト”か。相変わらず変なバイトだ」
男「もしもし、またポスター見たんですけど……」
~
ベレー帽「や。また応募してくれたね」
男「なにしろ暇はあって金はないもんで」
ベレー帽「内容はポスターの通り。今回は3万払おう」
男「3万!? やった!」
ベレー帽「ただし、怪談はボクが教えた通りに話してもらうよ」
男「分かりました」
男(ここで待ってろって話だったな。お、来た来た)
ブロロロロロ…
男「へい、タクシー!」サッ
運転手「……どうぞ。どちらまで?」
男「えーと……○×市まで!」
運転手「分かりました……」
ブロロロロロ…
男「運転手さん」
運転手「……はい?」
男「面白い怪談話があるんで、話してもいいですか?」
運転手「どうぞ……」
男「じゃあお言葉に甘えて……ある女の子は同級生の女の子にひどいいじめをしていました」
男「上履きを隠すとか、給食に虫を混ぜるとか、みんなで無視するとか……」
男「やがて、いじめられてた女の子は自殺してしまいます」
男「いじめてた女の子は流石に反省しましたが、特に罰せられることもありませんでした」
運転手「……」
男(聞いてんのか? まあいいや、話を続けよう)
男「長女はすくすく成長し、小学校に通うようになりましたが……ある日、暗い顔をして帰ってきました」
男「『どうしたの?』と聞くと、『いじめられてるの』と泣いてしまいます」
男「すかさず母として、『誰にいじめられてるの?』と聞くと、長女は顔を上げて、あの自殺した子の顔で――」
男「お前だァ!!!」
運転手「!?」ビクゥッ
キキキィーッ!
男「うわっ!」
運転手「……ちょっとぉ、脅かさないでよお客さん!」
男「す、すみません!」
男「危なかったですよ。事故るかと思いました」
ベレー帽「その危なさも込みで、今回は3万円にしたんだ。はいこれ」
男「どうも……」
ベレー帽「それじゃあ、今日はこれまで。じゃあね」
男「はい……」
男(運転手を脅かして、なんの意味があったんだろう)
男「お、またポスターだ」
男「暗闇のトンネルで『見ーたーなー』って言うバイトか……」
~
ベレー帽「やってくれるかい?」
男「やります」
ベレー帽「じゃあ、さっそく日時とトンネルの場所を……」
男(怖っ、マジで何か出そうなトンネルだな……)
ギャーギャー…
男(なんだ、騒がしいな。男と女の声……カップルか?)
男(ようし、いっちょやったるか)
男「見ーたーなー……」
チャラ男「うわあああああああっ!」
ギャル「きゃあああああああっ!」
ダダダッ…
男(逃げてった……肝試しでもしてたっぽいな)
男「窓から家の中を覗いて『いつも君を見てるよ』って言うバイトって、ヘンタイじゃないですか!」
ベレー帽「やめるかい?」
男「やりますよ! お金欲しいし!」
~
男「いつも君を見てるよ」ニコッ
マスク男「わわぁーっ!」
男(家の住民が逃げてった……通報されなきゃいいけど。顔覚えられてませんように)
……
男「小さな女の子に話しかけて、『お菓子をごちそうしよう』って言うバイト、終わりましたよ」
男「親が走ってきたから、即逃げましたけどね」
ベレー帽「ありがと。はい、5万円」
男「どうも……」
ベレー帽「こんなところかな」
男「え?」
ベレー帽「そろそろ場所を変えるつもりなんだ。この辺りでバイトを募集することはなくなるだろう」
男「あ、そうなんですか」
男(残念なような、ほっとしたような、不思議な気分だ)
ベレー帽「なんだい?」
男「最後に……教えてくれませんか?」
ベレー帽「ボクのスリーサイズ?」
男「ち、違いますよ! 今まで俺がやってきたアルバイトにどんな意味があったのか、を」
ベレー帽「んー、いいよ。教えてあげる」
男(あっさりだな! 拒否られると思ってたのに……)
男「もちろん覚えてます。鳥居の上に座って……ってやつですよね」
ベレー帽「女性が逃げてっただろ?」
男「ああ、はい。すごい悲鳴上げて。危うく俺が落ちるところでしたよ」
ベレー帽「彼女ね、神社で首つって死ぬつもりだったんだよ」
男「は?」
ベレー帽「だけど、君にビックリして逃げて、死ぬ気なんざどこかに失せてしまった」
ベレー帽「今は普通に働いてるよ。谷底から抜け出せたようにね」
男「えええ……(確かに暗い感じだったけど死ぬつもりだったなんて……)」
男「俺が怪談したバイトですね」
ベレー帽「彼はあの日すごく疲れてて、あのままだと居眠り運転で大事故を起こすところだった」
男「え……」
ベレー帽「だけど君の怪談に驚いて、目は覚めて、事故を起こすことはなかった」
ベレー帽「以後、彼は心を引き締めてるそうだよ。定年まで事故は起こさないんじゃないかな」
男(たしかにまともに怪談聞いてない感じだったけど……)
ベレー帽「彼らはドライブの途中、たまたまあそこに立ち寄ったんだけど」
ベレー帽「つまらないことで大喧嘩して、はずみで女性の方は死んじゃうはずだった」
ベレー帽「だけど君が介入して喧嘩は中断、今ではアツアツカップルになってる」
男「なんか騒いでるな、とは思ったけど……」
ベレー帽「他にも家に侵入してる強盗を追い払ったり」
ベレー帽「誘拐犯にあっさりさらわれるはずだった子に警戒心を植えつけたり……」
ベレー帽「君のバイトは大勢の人を助けたんだよ」
男「……!」
ベレー帽「ボクはそういう力を持ってるからね」
男「自分でやらず、どうしてバイトを雇うなんて回りくどい方法を?」
ベレー帽「ボクは直接助けちゃいけないってことになっててね」
ベレー帽「それにちょっとした洒落っ気も欲しかったからね。君も楽しかったでしょ?」
男「あんた……いったい何者なんだ!?」
ベレー帽「人助けが趣味な変な人、とでも自称しとこう」
ベレー帽「ああ、それと……君に渡したお金はれっきとした本物だから安心してね」
男「え、本物?」
ベレー帽「あのポスターやボクのことが見える人がいてくれて、本当によかった。どうもありがとう」
スゥゥ…
男「消えた……」
END
コメント一覧 (5)
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- 2021年10月27日 12:33
- 世にも奇妙で絶妙になんとも言えない感じで、どこかほっこりしつつも味気なさすぎる物語
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- 2021年10月28日 11:03
- きっちり説明しすぎやんなあ
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- 2021年11月03日 10:08
- 良いな、中々だ
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- 2021年11月30日 08:06
- 85点
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- 2022年02月12日 21:03
- 時給一万で「なかなか割が良いなぁ」ってこれ書いたやつニートやろ