刑務官「死刑執行完了しました!」上司「あの死刑囚冤罪だったぞ」
刑務官「分かりました」
上司「本来は数人でボタンを押すが、今日はちょっとみんな立て込んでてな。一人でやってもらえるか?」
刑務官「……はい」
……
死刑囚「嫌だっ! 助けてくれえっ!」
刑務官「すまないな、こっちも仕事なんだ」ポチッ
ガタンッ
死刑囚「ぐえっ!」ギュッ
刑務官(終わった……)
上司「えっ、もうやってしまったのか?」
刑務官「はい、やりましたけど」
上司「……まずいことになったな」
刑務官「どういうことです?」
上司「実はついさっき、あの死刑囚は冤罪だったことが分かった」
刑務官「は?」
上司「ようするに、君は罪のない人間を処刑してしまったことになる」
刑務官「なんですって!?」
刑務官「ちょ、ちょっと待って下さい。なんで俺が捕まるんですか!」
上司「だってボタンを押し、絞首刑を執行したのは他ならぬ君じゃないか」
刑務官「それはあなたが命令したからでしょう!」
上司「私は“執行を頼む”といっただけだ。“死刑を執行しろ”といったわけじゃない」
刑務官「いやでも、死刑囚に対しての執行なら普通死刑のことだと……」
上司「普通ってなんだね? 執行という言葉を拡大解釈して、あの死刑囚を殺したのは君だよ」
刑務官「そんな……」
上司「刑務官が立場を利用して、冤罪の死刑囚を独断で処刑してしまう……絶対あってはならないことだ」
上司「“殺人以上の重罪”になることは間違いない」
刑務官「殺人以上……!」
上司「こうなったら、君が助かる道は二つしかない」
刑務官「なんでしょう!?」
刑務官「は……?」
上司「処刑した死刑囚が蘇れば、当然ながら罪はなくなる。簡単なことだろう?」
刑務官「そりゃそうですけど」
上司「一応、医者に蘇生を試みさせてみるといい」
刑務官「完全に絞まってましたし、医者なんかじゃ絶対蘇らせられませんよ!」
上司「とにかくやってみろ。そして、もう一つが……」
刑務官「へ……?」
上司「つまり、あの死刑囚はれっきとした罪人だったことを証明する」
上司「そうすれば、悪人だったんだからどうとでも処理できる」
刑務官「はあ……」
上司「二つのうち、現実的なのはこっちだろうな」
上司「いずれにせよ、あまり時間はない。周囲をごまかせるのもせいぜい三日ぐらいだ」
上司「その間に二つのうちどちらかを達成できなければ……君は終わりだ」
刑務官「分かりました! 何とかやってみせます!」
刑務官「いかがでしょう?」
医者「ん~、無理だねこれ。完全に死んどるよ。マッサージも強心剤も電気ショックも全部無駄」
刑務官「お、お願いします! なんとか蘇らせて下さい!」
医者「無理なもんは無理だよ」
刑務官「うう……」
医者「もっとも蘇生能力者でもいれば別かもしれんがね」
刑務官「蘇生能力者……?」
医者「その者にかかれば完全に死んでる者ですら蘇らせることができるそうな」
医者「しかし、そんな能力者を周囲が放っておくわけがない」
医者「ある悪の組織はその者を狙っているというし、一方国は保護しようと動いている……という話さ」
医者「ま、医学界に伝わるおとぎ話みたいなものさね」
医者「君がそいつを探し出し、連れてくることができれば、あるいは蘇らせられるかもな」
刑務官「そんなの連れてくるなんて出来るわけがない……!」
医者「ま、そりゃそうだろ。今の話は忘れてくれい」
刑務官「え……?」
医者「表沙汰にはなってないが、実は前にもいたんだよ。私情で勝手に処刑を行ってしまった刑務官が」
刑務官「その人はどうなったんですか」
医者「囚人に大きな責任を持つ人間がそんなことしてしまったんだからね。当然、上は大いに怒った」
医者「その刑務官は凄まじい拷問の末、何ヶ月も地獄のような苦しみを味わいながら、惨死させられたそうだよ」
刑務官「ひっ……!」
医者「君のような若者が、くれぐれもそうならないように祈ってるよ」
刑務官「はい……」
上司「だとしたら、もう一つの手段に賭けるしかないな」
刑務官「冤罪ではないという証明ですね」
上司「死刑囚は冤罪だと主張してる刑事の名を教える。行ってくるといい」
刑務官「分かりました」
刑務官(数ヶ月苦しんだ末の惨死……そんなの絶対ごめんだ!)
刑務官(こうなったら、絶対刑事さんの主張を崩すしかない!)
刑事「ん、君は?」
刑務官「刑務官です」
刑事「刑務官? 刑務官が俺になんの用だい?」
刑務官「ある死刑囚についてお話を伺いたくて……」
刑事「ある死刑囚? あー、ひょっとして俺が冤罪じゃないかっていってる死刑囚?」
刑務官「そうです」
刑事「あいつ元気? そろそろ執行のタイミングだから、間に合ってよかったと思ってるんだよね」
刑務官(すでに処刑しちゃいました、とはいえない……)
刑事「なにしろ、あいつを逮捕したのは俺だったからね」
刑務官「え……?」
刑事「そだよ。捜査して、証拠を固めて、犯人はお前だってね。ドラマみたいだった」
刑務官「それなのになんで今になって冤罪を主張するんです? 自分のミスを認めてしまうようなものじゃないですか!」
刑事「まあね。だけど腑に落ちない点が色々多かったから、ずっと密かに捜査してたわけ」
刑事「そしたら、やっと見つけたんだよね。死刑囚のアリバイを証言できる目撃者を」
刑務官「目撃者……!」
刑務官(その目撃者をどうにかできれば、俺は助かるかもしれない!)
刑務官「その目撃者に会わせてくれませんか!?」
刑事「え、どうして?」
刑務官「お願いします!」
刑事「おいおい、まるで自分の命がかかってるような熱意だね」
刑務官(ホントにかかってんだよ!)
刑事「しょうがないな、手配しといてあげるよ」
刑務官「ありがとうございます!」
目撃者「初めまして!」
刑務官「初めまして」
刑務官「さっそくですけど、あなたは事件当日の犯行時間、現場と違う場所で死刑囚を見たそうですね」
目撃者「ええ、見ました!」
刑務官「ひょっとして、別人じゃないんですか?」
目撃者「いえ、あれは間違いなく本人ですよ、本人!」
刑務官(それだと困るんだよ! 死刑囚のアリバイが証明されちゃう!)
目撃者「見ましたよ!」
刑務官「かーらーの?」
目撃者「見てますって!」
刑務官「君、視力いくつ?」
目撃者「2.0です!」
刑務官「勘違いしやすい性格とか……」
目撃者「しません!」
刑務官「頼む、見てないっていってくれ!」
目撃者「ダメです!」
刑務官「……」
上司「ダメだったようだな。蘇生も、冤罪ではない証明も」
刑務官「はい……」
上司「なら君は終わりだ。せめてせいぜい死刑囚の遺体に謝っておけ。“殺してすみません”ってな」
刑務官「はい……」
刑務官「死刑囚……殺してすみません」
刑務官「だけど、安心して欲しい。君は蘇ることができる」
刑務官「俺の手によって……!」
刑務官(俺は蘇生能力者最後の生き残り……だが、その力は決して使わないと決めていた)
刑務官(こんな力は世の中に混乱を招く。だから滅びよう。それが一族の願いだったからだ)
刑務官(現に俺は本当に妙な組織に狙われ、逃げ回りつつ、どうにかこうにか刑務官の職につくことができた)
刑務官(しかし、冤罪の人間を殺した罪悪感や、数ヶ月の拷問だのは流石に耐えられない……)
刑務官(死刑囚を生き返らせ、刑務官を辞め、また身を隠すしかない)
刑務官(蘇生能力者を“連れてくる”なんて出来るわけがない。もう俺一人しかいないんだから)
刑務官「よみがーえーれー!」
ボァァァァァ…
死刑囚「……ん」パチッ
刑務官「よかった、蘇生できた!」
刑務官(状態が悪かったり、腐敗が進むと、蘇生も不可能だからな。決断を早くしてよかった)
死刑囚「あれ? 俺って死刑になったんじゃ……」
刑務官「どういうわけか助かったんだ。君は冤罪だった。まもなく釈放されるだろう」
死刑囚「はぁ……」
刑務官「えっ!?」
医者「やっと見つけることができたねえ。苦労したかいがあったよ」
刑務官「え……え」
刑事「聞きしに勝る素晴らしい力だね」
目撃者「すごい瞬間を目撃しちゃいました!」
刑務官「なんで……みんな揃ってるんだ……」
上司「まだ分からんのか? 我々は君を追っている≪組織≫の者だよ」
刑務官「!!!」
上司「私のように上司になったり、医者や刑事として……」
刑事「それから俺が殺人事件を起こして、適当な犯人をでっち上げ、死刑囚に追い込んだ」
上司「続いて私が君にそいつの処刑を命じ、君に二つの道しかないと説明する」
医者「さらに私が、ありもしない刑務官惨死の話をして、君を脅す」
目撃者「僕は冤罪を証明する目撃者として、君に蘇生以外の道はないと悟らせる!」
上司「こうして君は蘇生能力を使わざるを得なくなった」
上司「蘇生能力者であると分かった以上、君を今すぐ拘束させてもらう。四人がかりでね」
刑務官「ぐ……!」
死刑囚「ひっ!」
上司「ああ、そいつはもう用済みだ。殺しておけ」
刑事「分かりました」
刑務官「や、やめろ! せっかく生き返ったのに!」
刑事「喜びなよ。二度死ぬなんて、そうそうできる体験じゃないからね」
ゴキッ!
刑事「ぐはっ……」ドサッ…
刑務官「え……?」
上司「なんだと!? あいつの首を一瞬で……」
医者「何者だ!?」
死刑囚「俺か? 俺は……国家エージェントだよ」
死刑囚「蘇生能力者の保護と、お前ら悪の組織の壊滅を命じられてる、な」
上司「なにい!?」
死刑囚「お前らの計画を事前に掴んだ俺は、これで二つの任務を同時にこなせると喜んだ」
死刑囚「そして、そこの刑事にわざと逮捕されたってわけだ」
死刑囚「その後も心証最悪に振る舞って、検察も裁判官も怒らせ、さっさと死刑囚になってやった」
死刑囚「おかげで、こうして蘇生能力者と悪の組織の面々に会う事ができた」
上司「わざと絞首刑になるなんて……こいつが蘇生能力者じゃなかったら死んでたぞ!」
死刑囚「俺はプロだからな。任務のためならいくらでも命をベットするさ」
医者「切り刻んでやるわ!」ダッ
目撃者「組織の邪魔はさせない!」ダッ
ゴキッ! メキッ!
ドサッ… ドサッ…
死刑囚「ラスト一人……」
上司「うぐ……うわぁぁぁっ!」ダッ
死刑囚「逃がすかよ」
ゴキッ!
刑務官「……! 俺も、○すのか……」
死刑囚「いや、殺しはしない。保護させてもらう」
刑務官「それはモルモットになるということか?」
死刑囚「そうじゃない。あんたには蘇生能力を使うことなく、静かに暮らしてもらう」
死刑囚「ただし、顔や名前、身分などは変えてもらうことになるが……」
刑務官「いいのか?」
死刑囚「蘇生能力は世の理に反するもの、というのが上の考えだからな」
刑務官「俺もそうするつもりだった。だから文句はないよ」
死刑囚「礼を言いたいのはこっちだ。おかげで四人も組織メンバーを始末できたからな」
死刑囚「こいつらのことを洗えば、組織壊滅にぐっと近づくだろう」
刑務官「それと、一度あんたを処刑してしまってすまなかった」
死刑囚「謝罪も不要だ。あんたはわざとやったわけじゃないし、一度死ぬ覚悟はしていたしな」
刑務官「ならいいんだが」
死刑囚「ああ、だけど一つ不満があるとすれば――」
刑務官「?」
死刑囚「せっかく死んだのに殉職した仲間に会えなかったのが残念だ。ちょっと期待してたんだが」
刑務官「あんたって人は……」
…………
……
……
元刑務官「これ、できました」
課長「うん、ご苦労様。よし、今日はもう上がっていいよ」
元刑務官「はい、お疲れ様でした!」
元刑務官(まだ外は明るい……いい職場に勤められることになったな)
元刑務官(あれから俺は国の力で、ある田舎町に逃がされ、静かに暮らしている)
元刑務官(悪の組織が狙ってくる気配はないし、どうやらここで最後の蘇生能力者として天寿を全うできそうだ)
元刑務官(蘇生能力者の俺がいうのもなんだけど……)
元刑務官「生き返ったような気分だ!」
おわり
コメント一覧 (17)
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- 2021年10月12日 01:08
- 3人同時に押すんだから誰が押したか揉める話にした方が題材として良かったのに
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- 2021年10月12日 01:11
- 死刑囚の執行って日本語おかしいのにそれを話しの起点にするからますますわけわからんことになってるな・・・・・
つまり、つまらない
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- 2021年10月12日 01:49
- ※1-3日本に似た架空の国でもええやん
作者乙!このご時世にSS書いてくれるだけでもありがたいわ
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- 2021年10月12日 11:26
- >>4
何だその毒にも薬にもならないようなゴミみたいなコメント
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- 2021年10月14日 19:32
- >>10
作者乙とかこのご時世にとか言ってるから単純に頭よわよわか作者やろ
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- 2021年10月15日 18:32
- >>10
毒にしかならないコメントがよく言うわ
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- 2021年10月12日 03:04
- なんで刑務官が執行の責任とんねん
とるとしても判決下した裁判長や執行の書類に判を押す法務大臣や警察署所長だろ
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- 2021年10月12日 06:36
- 文句だけは一丁前
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- 2021年10月12日 07:05
- そもそもボタン押す奴は誰の執行かは分からない
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- 2021年10月12日 07:33
- 責任を取らない上司の意味
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- 2021年10月12日 11:01
- 開幕の「は?」の使い方でそのSSが面白くなるかどうか判るようになったわ
このSSは失敗してる
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- 2021年10月12日 21:20
- ※5
警察は単なる捜査機関であって公訴の権限はないので警察署長は関係ない。
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- 2021年10月13日 01:08
- 蘇生させる時にシャーマンキングの主題歌歌わせるセンスよ
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- 2021年10月13日 02:26
- 読み始めたとたんに「こりゃでたらめさを楽しむやつだな」と気づいたけどね
なにマジレスしてんの
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- 2021年10月13日 03:41
- 上司「このままじゃ君は……罪なき人間を殺したとして、当然捕まることになる」
まで読んでやめた。
だいぶ前にネットで目にした
「毎日のように家の前に違法駐車する駐車された車があった。ある日俺は頭にきてタイヤと道路に強力な接着剤を流し込んでから仕事に行った。帰ってきたら、家の前には地面に固定されたタイヤとホイールだけ残って車本体は無くなってて草wwwwww」
という書き込みと貼り付けられた合成画像の文章を思い出した。
知性がアレなやつが無い知恵絞って頑張って記述したのだろうが、似非関西弁を書き連ねる奴と同じで
本人だけは「すっげー面白い事を言えた」と独りよがりな事に全く気がついていない+
正に「チラシの裏にでも書いてろ」を地で行くつまらなさ。
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- 2021年10月17日 10:55
- つまんねえ
そもそも死刑執行のボタンは3人の刑務官が3つのボタンを同時に押して
どれか1つのボタンが通電して死刑囚の足元の扉が開き落ちる
刑務官が1人では執行しないからリアリティが無い