隣人の女魔王「世界を征服しすぎちゃって……よかったら半分いかがですか?」
男「はい」
女魔王「こんばんは……」
男「お隣さん。どうしました?」
女魔王「世界を征服しすぎちゃって……よかったら半分いかがですか?」
男「世界を……!?」
女魔王「はい……」
男「分かりました、半分いただきますよ」
女魔王「ホントですか! ありがとうございます!」
大臣「陛下」
男「……」
大臣「陛下!」
男「なんです?」
大臣「なんですじゃないでしょう。政務のお時間ですよ」
男「政務?」
大臣「忘れたのですか。あなたは東世界の王でしょう」
男「ん、ああ……そうだった」
男(お隣さんは西世界、俺は東世界の王になったんだった)
長官「では私から」
男「申してみよ」
長官「国内各地を山賊や盗賊が暴れ回っており、甚大な被害が出ております」
男「世界は征服されて間もない。まだまだ治安は安定していないということか」
男「よし、俺自ら兵を率いて、賊の討伐に出かける!」
大臣「陛下自らですか?」
男「俺は王としてまだまだ未熟。民のために体を張るところを見せねば、誰もついてこないだろう」
男「民の平和を脅かす悪に遠慮は無用! 徹底的に叩きのめせ!」
男「さあ、ゆくぞ!」
オーッ!
兵士A「へえ、あれが新しい王か。悪くないな」
兵士B「ああ、王自ら先頭に立つとは……」
兵士C「情けない王だったら反乱してやろうと思ったが、その必要はなさそうだな」
ザッザッ…
ガキンッ! キンッ! ザクッ! ウギャァァァァ…
山賊「ちくしょう、王自ら出張ってくるなんて!」
男「王になったばかりだからな。体を張るのは当然だ」
山賊「だったら王になったばかりであの世に送ってやるよ!」
ギィン!
男「ぐ……!」
山賊「○ね!」
男「でやぁぁぁぁぁ!」ザシュッ!
山賊「ぎゃっ!」
男「さすがにこんなすぐに死んだらお隣さんに顔向けできないからな」
男「うむ、各地に治安維持のための兵を配備したし、これでなんとかなるだろう」
使者「大変でございます!」
男「どうした?」
使者「水害が発生いたしました! 川の水が氾濫し、多大な被害が……」
男「分かった、すぐに向かう」
大臣「なにも陛下が向かわなくても……」
男「王が顔を出せば、民は安堵するものだ。上はちゃんと見ているとな。そういった心の働きは侮れない」
大臣「なるほど……」
被災者A「おお……王様が来て下さった!」
被災者B「ありがとうございます!」
被災者C「ご覧のような有様でして……」
男「東世界の王として宣言する!」
男「この地を速やかに復興し、かつ二度とこのような水害を起こさないことを誓う!」
男「どうか希望を捨てず、生きることに力を尽くして欲しい! 絶望してはならぬ!」
ワァァァァ…
大臣(陛下が来なければ、自害する者も出ていたかもしれないな……)
大臣「陛下、北地区で飢饉が発生しているようです」
男「なんだと。このところ気候がよくなかったからな。ただちに視察に向かう!」
大臣「相変わらずのフットワークの軽さですね、陛下」
男「なにしろ、それぐらいしか取り柄がないものでな」
男「備蓄している食糧も開放し、民を飢えから救うのだ! 腹が減っては戦も何もできん!」
大臣「ははっ!」
市民B「ありがとうございます……」
男「もう大丈夫だ。お前たちを飢えさせはしない」
男「兵士達よ、この土地を耕し、用水路を開け! 肥沃な土地に改良するのだ!」
兵士A「はいっ!」
兵士B「よっしゃ!」
兵士C「任せて下さい!」
ザクッ… ザクッ… ザクッ…
大臣(土地を開拓できる、兵士をトレーニングできる、一石二鳥だな)
商人「はい……」
商人(なんだろう? 儲けすぎを咎められるのか……?)
男「おぬしを……これから築く商業都市の市長に任命したい」
商人「ええっ!?」
大臣「陛下、いくら優れてるとはいえ抜擢が過ぎるのでは。一商人を市長という要職に据えるなんて……」
男「能力ある者はそれを発揮できるところへ配置する。それが俺の主義だ」
大臣「は、ははーっ!」
職人A「……」ゴクッ
職人B「……」ドキドキ
職人C「……」グッ
男「おぬし!」ビッ
職人A「や……やった! ありがとうございます!」
男「これからも研鑽を積むがいい。敗れた者たちもいい腕前をしていた」
大臣(こうして自分の腕前を披露できる場が与えられるのは、職人にとってモチベーションとなるだろう……)
大臣「東世界はだいぶ豊かになりましたね」
男「うむ」
大臣「臣民は皆、一人の例外もなく陛下を慕っております」
男「ありがたいことだ」
男(そういえば、西世界のお隣さんはどうしてるかな?)
男(あの人のことだ。きっと俺なんかよりずっと世界を繁栄させてるに違いない)
男(そうだ、留守は大臣に任せ、西世界を見学しに行くか!)
男「うむ……しかし、関所らしい関所がないとは……」
兵士長「わりとオープンな感じにしてるのでしょうか?」
男「だといいのだがな……ん?」
ヒャッハーッ! イェーイ!
ドドドドドド… ドドドドドド…
男「なんだ、あのならず者たちは……」
兵士長「女子供が襲われています! いかがいたしましょう!」
男「聞くまでもない! 助けるのだ!」
ならず者B「誰だ、俺たちの邪魔すんのは!」
男「貴様らに名乗る名などない!」
ズバッ! ウギャー!
……
「ありがとうございました……」
「助かりました……」
男「いえ、それより安全な場所まで送りましょう」
兵士長「ならず者や賊が跋扈し、国として全く機能していません」
男「どうなってるんだ……」
兵士長「いかがいたしましょう?」
男「西世界の長に会いたい。ならず者を討伐しつつ、中央に向かおう」
兵士長「ははっ!」
女魔王「あ、男さん……!」
男「お久しぶりです」
女魔王「ええ、本当に。いつ以来でしょうか」
男「さっそく聞きたいことがあるのですが」
女魔王「は、はい。なんでしょう……」
男「あなたが治めてる西世界、はっきりいって無法地帯になっています。これはどういうことですか!」
女魔王「ええと、それは……」
女魔王「それで、自由にさせるのが一番かなと思って……」
女魔王「『みんな好きにして下さい』というお触れを出したのです」
男「それで……この有様なわけですか」
女魔王「ご、ごめんなさいっ!」
女魔王「私が至らぬばかりに……世界をメチャクチャにしちゃって……」
男「な、泣かないで下さい!」
女魔王「は、はい! 軍隊で説得するんですね!」
男「いえ、こればかりは力で黙らせるしかありません。圧倒的な力で……」
女魔王「力……でしたら私の得意分野です!」
男「え?」
女魔王「ならず者の皆さんを、私が黙らせてみせます!」ゴゴゴゴゴ…
男(すごいオーラだ……!)
ドゴォォォォォォン!!!
グラグラグラ…
「ひええっ!」 「地面に大穴が……!」 「強すぎる……」
女魔王「これからは大人しくしないと……私が本気で怒りますよ! 乱暴したら許しません!」
「は、はいっ!」
男「……」
男(すっかり忘れてた……。お隣さんって、単独で世界征服を成し遂げたんだった……)
男(俺はそのおこぼれに預かったに過ぎない……)
女魔王「そうですね」
女魔王「山を砕いて土地を作り、大地を引き裂いて水路を作り、天候を操って雨を降らせ……」
ズガァンッ! ドゴォン! バゴォン!
男「……!」
女魔王「この調子で、世界中全て造り変えてしまいましょう」
男「ちょ、ちょっと待って下さい!」
女魔王「なんでしょう?」
女魔王「どうしてです?」
男「あなたが何もかもやってしまったら……西世界の民は、あなたに頼りきりになってしまう」
男「どんな災難が起こっても、すごい力を持つお隣さんに頼めばいいや、となってしまいます」
男「それでは……真に豊かな世界になったとはいえません」
女魔王「それは……そうですね。ごめんなさい……」
男「な、泣かないで下さい」
男「我々東世界も協力しますから、一刻も早く西世界の住民にも教育を施し、自立させましょう」
女魔王「はいっ!」
男「西世界も東世界に負けないほど豊かになりましたね」
女魔王「これもあなたのおかげです。ありがとうございます!」
男「いえいえ、お隣さんの力があったからこそですよ」
女魔王「今回の件で、私思い知りました」
女魔王「軽い気持ちで世界を征服したら、人々を苦しめて、あなたにもご心配をかけて……」
女魔王「私には……世界を征服する資格などなかったのですね……」
男「……」
女魔王「え……」
男「あなたには世界を征服する力があった。それは十分“資格”といえます」
男「ただ……その後、自分のイメージ通りの世界にするプランに欠けていただけなのです」
男「知識と経験を得た今なら……立派な王になれるはず」
女魔王「ありがとうございます。ですが私、やはり一人では不安です」
女魔王「これからは……東西の世界を二人で統治しませんか?」
男「あなたがよろしいのであれば……」
女魔王「ありがとうございますっ! これからは一緒に頑張りましょうね!」
男「は、はい!」
それからは基本的な統治は男が行い、
とてつもない災害が起こった時のみ、女魔王が出動するというスタイルとなった。
大臣「お二方、地方で大規模な噴火が起きたという情報が……」
男「なんだと!?」
女魔王「ちょっと止めてきます」
男「お願いします、お隣さん」
女魔王「はい、任せて下さい!」
男「お疲れ様です。さあ、夕食にしましょう」
女魔王「はいっ、今日も世界は平和ですね!」
人々は恐るべき力を持つ魔王に物怖じせず、対等に世界を統治する男を大いに尊敬し、
いつしかこう呼ぶようになった。
“勇者”と――
END
コメント一覧 (4)
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- 2021年10月01日 20:48
- 結構好き
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- 2021年10月01日 21:00
- ええやんけ
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- 2021年10月08日 23:03
- 好きよ
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- 2022年03月28日 10:49
- 子作りまでちゃんと書け