ガス女「私はガスの生命体……お前もインド象のように2秒で失神させてやろう!」
- 2021年08月23日 05:20
- SS、神話・民話・不思議な話
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男「今度の作品のいい参考になりそうだ。写真撮っておこう」
モワモワモワ…
男「なんだ?」
ガス女「こんな山奥まで来る人間は久しぶりだ」フワフワ
男「うわあっ!? 女の人の……幽霊!?」
ガス女「幽霊ではない。私はガスの生命体だ」
男「ガス……?」
男「喩えがポケモンって……意外と山から下りてそうですね」
ガス女「わ、悪いか! ずっと山にいるのも退屈だから山から下りて何が悪い!」
男「いえ別に悪いといってるわけじゃ」
ガス女「ええい、そういえばポケモンのゴースに包まれたインド象は2秒で倒れてしまうという」
ガス女「お前もインド象のように2秒で失神させてやろう!」
モワモワ…
ガス女が男を包み込む。
男「うわっ……!」
ガス女「フフフ、どうだ? 意識が朦朧としてきたか?」
男「んん……」
ガス女「?」
男「なんか……気持ちいい、です」
ガス女「え」
男「はい……」
ガス女「そうか、私が生き物を包み込むと気持ちいいのか……」
男「えっ、今までやったことなかったんですか」
ガス女「未経験で悪いかっ!」
男「いえ、そんなことは」
男「…………」
ガス女「なんで赤くなるんだ」
男「いえ、あの、あまり女性に縁がある人生を送ってこなかったもので……」
男「たとえガスでも、肉親以外の女性の体に触れるのは初めてだったので……」
ガス女「気持ち悪い!!!」
男「す、すみませんっ!」
ガス女「帰れっ! とっとと帰れっ!」
男「は、はいっ! 失礼しますっ!」
山を下り始める。
ガス女「待てっ!」
男「な、なんですか!?」
ガス女「少しは粘れ! すぐ帰ろうとするな! まったく近頃の男は草食すぎる!」
男「ええっ!? す、すみません!」
ガス女「…………」
ガス女「なにか喋れ!」
男「す、すみません! こういう時どうしていいのか分からなくて……」
ガス女「たとえば私の手を握ってみるとか」
男「でも……ガスなんですよね? 握れませんよね?」
ガス女「…………」
ガス女「よし、決めた。お前の家に行く。いいだろう?」
男「え」
ガス女「いいだろう?」
男「は、はいっ!」
男「ガスなのに押しが強いですね」
ガス女「私は都市ガスならぬ“押しガス”だからな」
男「ガス女さんは、いったいどういった人なんです?」
ガス女「どういった、というのは?」
男「正体というかルーツというか……」
ガス女「かつてあの山で命を落とした若く美しい女の怨念と、山由来の天然ガスが融合して生まれた存在だ」
男「そうだったんですか……。重い運命を……」
ガス女「――と、私は推測している」
男「推測なんですか!」
ガス女「ああ、正直いって私自身よく分からん」
男「はぁ……それと、若く美しいというのは……」
ガス女「なにか文句あるか?」ジロッ
男「ないですないです! お美しいです! ガス界No.1美女!」
ガス女「あまり褒められてる気がしないな」
男「ここが僕の家です」
ガス女「ほう、なかなかいい家ではないか」
男「たまたま格安で手に入りまして……」
男「ただちょっと建てつけが悪くて、ドアが開きにくくて……」グイグイ
ガス女「…………」
男「あ、入っていいですよ。ガスなら隙間から入れますよね?」
ガス女「家主より先に家に入るようなはしたなさは持ち合わせていない」
男「おおっ、意外にマナーを大切にするんですね!」
ガス女「フッ、まあな……ん? 意外に?」
男「何でもないです!」
ガス女「ほう、これは……」
部屋中に大小さまざまな人形があった。
ガス女「なかなか壮観だな。お前は人形マニアだったのか」
男「というより、これ全部僕が作ったんです」
ガス女「へ!? な、なんだと!?」
男「僕……人形職人なんです。あの山にも作品作りのテーマ探しで行ってたんですよ」
ガス女「そうだったのか」
男「ついつい色んな人形を作りたくて……我ながら節操がないです」
ガス女「仕事として成り立っているのか?」
男「はい。最初は売れませんでしたけど、最近ようやく食べていけるように」
ガス女「そうか、なかなか立派なものだ」
男「ありがとうございます。あ、そうだ。食べるといえば、そろそろ夕食にしますけど……」
男「ガス女さんってなに食べるんです?」
ガス女「私か?」
ガス女「うむ」
男「じゃあ、今日は僕ハンバーグを焼きますので、その煙をどうぞ!」
ガス女「そうさせてもらおう」
……
ジュワァァァ…
男「いかがです? 僕のハンバーグから出る煙は」
ガス女「うーん、イマイチ」
男「!」ガーン
男「昨晩はガッカリさせてしまったので、今日はサンマを買ってきました!」
ガス女「サンマを?」
男「おまけに七輪も!」
ガス女「おおっ……」
男「さっそく焼いてみますね」
ガス女「サンマを焼いた煙は初体験だ。私、モクモクしてきたぞ!」
男「ワクワクみたいにいわないで下さい」
男「どうです?」パタパタ…
モクモクモク…
ガス女「ん……」
ガス女「んん……おおっ! ああ……っ! ――たまらん!」
ガス女「うまいぞ! この煙、かなりの極上モノだ!」
男「喜んでもらえてよかったです」
ガス女「こちらこそ、こんな美味しいものを食べさせてくれてありがとう。ごちそうさま」
ガス女「今日はいい天気だ。浮き具合もいい」フワフワ
男「天気によって浮き具合って変わるもんなんですか」
ガス女「もちろんだ」
男「どういう風にです?」
ガス女「……例えば、ほら気圧とか! なんかほら……気圧とかで! 分かるだろ、気圧!」
男「変な質問してすみませんでした!」
男「なんです?」
ガス女「せっかくの天気だし、デートでもしないか?」
男「デ、デートですか!?」
ガス女「女に縁のない人生だったのだろう? 今のうちに練習しとけ」
男「わ、分かりました。お願いします!」
男「じゃあまず、デート用の服を買いに行くためにデートを……」アタフタ
ガス女「舞い上がりすぎだ! そのままでいい!」
ガス女「…………」フワフワ
男「意外とガス女さん、町に溶け込んでますね」
ガス女「ガスであること以外、見た目は普通の女だからな」
男「ガスって点がものすごい違いなんですけどね」
ガス女「……ん」
男「どうしました?」
ガス女「いい匂いがする。甘い匂いだ」
男「クレープですね。よかったら買いましょうか?」
ガス女「うん、頼む」
……
男「どうぞ」
ガス女「おお~、いい匂いだ」
男「やっぱり甘い物もお好きなんですね」
ガス女「当然だ。ガスといえど女だからな」
男「あ、はい」
男(だけど僕だけ食べると……)モグモグ
ガス女「…………」クンクン
女子高生A「あそこの人、彼女に匂い嗅がせて、自分だけクレープ食べてる」
女子高生B「やだサイテー。ああいう彼氏だけは持ちたくなーい」
男(こんな感じに見えちゃうよな)
ビュオオオ…
ガス女「ん」
男「あ、これは……」
ビュオオオオオッ!
男「風だっ!」
ガス女「いかんな、かなり強――」
ビュオオオオオッ!
男「ガス女さぁぁぁぁぁん!」
男(吹き散らされて、どこかに行ってしまった……)
男(もしや、あのままバラバラになって……死……そんなっ!)
男「ガス女さんっ! ガス女さんっ!」
男「ガス女さぁぁぁぁぁんっ!」
男「うっ、ううっ……」
ガス女「なんだ」モワモワ
男「うわあああああっ!?」
ガス女「当たり前だろうが」
男「てっきり風に散らされて、死んでしまったのかと……」
ガス女「おいおい、あんな風で死んでたら、私はとっくに死んでいるぞ」
ガス女「というか、台風だって体験してるしな。散らばってしまうが、すぐ元に戻れる」
男「そういえば、山にいたんですもんね」
― 男の家 ―
客「頼むよぉ~」
男「申し訳ありませんが、そういう注文はお受けしてないんです」
客「看板に『どんな人形も手作りします』ってあるじゃないか!」
男「しかしですね……」
ガス女(なんだ? 揉めてるのか? ならば……ちょいと驚かせてやるか)
客「うわあっ!?」
男(ガス女さん!)
客「なんだこいつ!? いきなり……!」
ガス女「とっとと帰れ。帰らないと……呪うぞ」
客「ひっ、ひえええええっ……!」タタタッ…
一目散に逃げ去っていく客。
男「助かりました、ありがとうございます!」
ガス女「相変わらず押しが弱いなお前は。あんな輩はとっとと追い出してしまえ」
男「すみません」
男「『この写真の女の子の人形を作ってくれ』って内容だったんですけど……」
ガス女「そういう依頼は受けないのか?」
男「いえ……受けることもありますけど……明らかに盗撮した写真だったんですよね。物陰から」
ガス女「なんだと!? まったくけしからん奴もいるものだ」
男「何枚か写真を持ってましたけど、どうも子供が好きなお客だったようで……」
ガス女「そんな奴に人形を作ってやってもろくなことにならん。断って正解だったな」
ガス女「今日は動物の人形を作ってるのか」
男「はい、ペットショップから依頼がありまして」
犬や猫の人形が出来上がっていく。
ガス女「どれも可愛いな。撫でてやりたくなる」
男「ありがとうございます」
ガス女「私にも実体があれば、こういう人形にさわれるのだが……残念」
男「…………」
ガス女「出来ないことはないが、まず無理だ。よほど波長が合わないと……」
男「波長?」
ガス女「なんていうか、ほらフィーリングというか、相性というか、なんというか」
男「なんだかお見合いみたいですね」
ガス女「なんだ! 人を行き遅れみたいに!」
男「そんなこといってませんよ!」
男(波長、か……)
ガス女「なんだ」
男「ちょっとデッサンさせてもらえませんか?」
ガス女「デッサン?」
男「ええ、適当にポーズを取って下さい」
ガス女「分かった!」ビシッ
男「気合入りすぎです。なるべく自然体で……」
ガス女「渾身のセクシーポーズだったというのに、つまらん奴だ」
ガス女「…………」
男「…………」ジーッ
ガス女「そう見つめられると照れるな」
男「すみません、しかし必要なことなので」カリカリ
ガス女(この真剣な眼差し……いつもとはまるで違う)
ガス女(なかなかかっこいいじゃないか。おっと、私としたことが)
ガス女「何をしている?」
男「人形を作ってるんです」
ガス女「なんの?」
男「ガス女さんのです」
ガス女「わ、私の!? なぜ!?」
男「ガス女さんそっくりの人形があったら、もしかしたら波長が合うかもしれないでしょう?」
ガス女「…………!」
ガス女「ありがとう……」
男「いえいえ、僕が勝手にやってることですから。お礼なんていりませんよ」
男「ちょっと時間はかかるかもしれませんが……」
ガス女「ああ、待っているぞ!」
…………
……
男「出来た!」
ガス女そっくりの等身大人形が完成した。
ガス女「おおっ……!」
男「どうですか?」
ガス女「すごい。これはすごいぞ。感動しすぎてバスガス爆発してしまうところだった」
男「爆発はしないで下さいね」
男「後はガス女さんが乗り移れるかどうか……やってみて下さい!」
ガス女「うん、分かった!」
男「…………」
女「……ん」
女「入れた! この通り体も動く!」
男「やった!」
女「おお、触れる!」サワサワ
男「アハハ」
女「撫でれる!」ナデナデ
男「…………」ポッ
女「叩ける!」バシバシ
男「痛いです……」
女「おっと、すまん」
女「まさか、私が実体を手に入れる日が来るとは……本当にありがとう!」
ギュッ…
男「あっ……」
女「ありがとう……ありがとう……」
男「あ、あのガス女さん」
女「なんだ? 抱きしめられて気持ちいいか?」
男「ええと……痛いです。木で出来てるんで」
女「あ、そっか」パッ
男「はいっ! はいっ! ……ありがとうございます!」
女「どうした? 誰からの電話だ?」
男「僕の人形を気に入ってくれた人から、ビルの空きスペースで個展を開かないかといわれたんです」
女「おおっ、個展!?」
男「しばらくの間、僕の作品を展示していいと……」
女「これでお前も一流アーティストの仲間入りというわけか。いずれルーヴル、メトロポリタンだな」
男「さすがにそこまでは……だけど本当に嬉しいです」
女「ではさっそく、ビルの下見に行かねばな」
あるビルの三階部分に個展スペースを用意してもらったのだが――
女「ここか」
男「……はい」
女「なんというか……微妙な立地のビルだな。人通りも少ないし……」
女「こんなところで個展を開いて、本当に客が来るのか?」
男「ま、まあこういう静かなところの方がいいですよ」
女「個展はにぎやかな場所でやった方がいいと思うがな」
女(そうそうウマい話はないということか)
男「本当ですね。ちょっとオンボロなビルが……」
女「せっかくだ。向こうのビルに探索に行ってくる」
男「あ、はい、行ってらっしゃい」
モワモワ…
人形から抜け出すガス女。
ガス女「こういう時は空を飛べるガス形態の方が便利だ」
フワフワ…
男「あ、どうでした?」
ガス女「ただの廃ビルだった……」
男「そうでしたか。だけど、なんで吐き気を?」
ガス女「溶剤が大量に置いてあってな……匂いがきつかった」
男「ああ……きっとビルを改装しようとして、だけどその計画がなくなってしまい」
男「塗料の類がそのままになってるんでしょうね」
ガス女「探検なんかするんじゃなかった。好奇心は身を滅ぼすな」
男「…………」セッセッ
女「今日も人形作りか」
男「ええ、個展が近づいてますからね。新作も発表したいですし」
女「私もなにか手伝おうか? ボディを手に入れた今なら、手伝う事もできる」
男「そうですね。じゃあ、そこの筆を取ってもらえますか。塗装に使うんで」
女「分かっ――」
ドンガラガッシャンッ!
男「だ、大丈夫ですか!?」
女「なにぶんまだボディに慣れてなくて……」
女「すまん、役に立てなくて」
男「いいんですよ。そうして見てくれてるだけで、励みになりますから」
女「そ、そうか!」
男「そうだ……今日は久々にサンマを焼きますよ」
女「そうしてくれるか。あの煙は私の大好物なんだ! サンマは最高やで!」
男(別のさんまが混じってる……)
こうして個展までの日々は過ぎていった。
― ビル ―
男「この人形はここ……」
男「この一番大きな人形は中央に……」
女「こうして飾り付けすると、なかなかよくなったじゃないか」
男「そうですか? よかったです!」
女「後は宣伝次第で、盛り上がるかもしれんな!」
男「なにかいい宣伝方法ってありますかねえ」
女「私がガス状態で、色んな家に忍び込んで宣伝すれば……」
男「絶対止めて下さい!」
女「……ん?」
ブロロロロ…
向かいのビルの前に車が止まる。
女(なんだ? あんなビルに何か用でもあるのか? ひょっとして改装スタート?)
一人の男が、縛り上げた数人の子供を廃ビル内に連れていくのが見えた。
女「…………!」
女「おいっ!」
男「なんですか?」
女(忙しそうだ……邪魔するわけにはいかない)
女「何でもない、ちょっと出かけてくる」
男「分かりました。お気をつけて」
?「へへへ、上手くまとめてさらえた。可愛い子供達だ……」
男子「ひっ……」
女子「うっ、うっ……」
?「いいか、騒ぐんじゃないぞ。騒いだら、おうちに帰れなくなるからな」
?「騒いだところで、こんなビルに来る奴はいないだろうが」
?「お兄さんとちょ~っと気持ちいいことしたら、すぐ帰してやるから。ひひひ……」
「おい、こんなところで何をしている!」
?「だ、誰だ!?」
客「お前は……幽霊女!?」
女「幽霊ではない。ガスだ。といっても今は実体があるがな」
客「ガスぅ? わけの分からないことを……」
女「分からないのはこっちだ。あの時も子供の人形を作れといってたらしいが」
女「まさか、本物の子供に手を出すとはな。しかも男女の見境なく。どうしようもない奴だ」
客「ぐっ……!」
女「ガスとして子供を狙うゲスを許すわけにはいかん。覚悟しろ」
客「覚悟するのは……そっちだ!」サッ
スタンガンを取り出す。
女「なるほど、それで子供達を失神させたのだな。インド象のように!」
客「インド象……? お前も失神させてやるゥ!」グッ
バチバチッ
女「ぎゃっ!」
客「ハハハ、このまま眠ってろ! あいにく大人の女にゃ興味ないしな!」
女「……なぁんてな」
客「へ」
女「そらっ!」
バキッ!
客「ぐえっ! あう、ぐぐぐ……。どういう体してんだ……」
女「これ以上やると、ロケットパンチが火を噴くぞ?(そんな機能はないが)」
客「ひっ……! ひえええ~っ!」タタタッ…
女「まったく逃げ足だけは早い奴め……」
男子「う、うん……。ありがと、お姉ちゃん……」
女子「はい……」
縛られた手足をほどこうとするが、なかなか上手くいかない。
女「むむむ……きつく縛りおって。あのバカめ」
ムワァァァ…
女「なんだ?」
女(なにやら、焦げ臭い匂いが……)
― ビル ―
男「よし、個展の準備もだいぶ整った!」
男「ところで、ガス女さんはどこ行ったんだろう? 帰ってこないな」キョロキョロ
男「――――!?」
メラメラ…
男(向かいの廃ビルが……燃えてる!?)
メラメラ…
男「なにが起きたんだ!?」
客「ひ、ひえええ……」
男「あなたは……! 何か知ってるんですか!?」
客「し、知らねえ……俺は何も知らねえ……」
男(絶対知ってる……!)
男「知ってるんだろう! 答えろッ!」
客「わ、分かったぁ……」
男(この人が廃ビルに子供を誘拐したら、ガス女さんが助けに来て、この人は逃げて……スタンガンを落とした)
男(そうか、スタンガンから発せられた火花がビル内の溶剤に引火したんだ!)
客「俺は悪くねえぞ……スタンガン落としただけで……火をつけたわけじゃ……」
男「とにかく……通報しないと!」
男は速やかに通報する。
男「後は……助けに……」ダッ
ボワァッ!
強烈な炎に阻まれる。
男「ぐううっ!」
モワモワモワ… モワモワモワ…
ガス女達の部屋にも煙が迫る。
男子「やだぁぁぁ……」
女子「どうしよう……」
女「みんな泣くな! 必ず私が何とかする!」
女(私が炎に焼かれて死ぬことはない……が、この子達はどうすれば……)
女(窓から飛び降りさせるには高さがあるし、下への道は炎に塞がれている!)
女(それに煙が上がってきたら、この子たちの命は……!)
絶体絶命。そんな時、思い出したのは男との思い出だった。
男『なんか……気持ちいい、です』
女(私は人間が吸っても無害! ならば――)モワモワ…
ガス女「みんな!」
男子「な、なに?」
ガス女「私がみんなを包み込む! そうすれば必ず助かる!」
モワモワモワモワモワ…
まもなく、ガス女達のいる部屋も煙が充満した。
ウー… カンカンカン…
男「来てくれた! 早い!」
消防士「状況を教えて下さい!」
男「ビルの上の階に、取り残されてる人がいるんです! お願いします!」
消防士「分かりました、すぐ梯子をかけます」
消防士(しかし、煙がすごい! 果たして生き残っているか……)
消防士「いたぞ! 子供は全員無事だ!」
男「よかった……!」
消防士「全く煙を吸ってないようだ。見えないバリアに守られたかのように……」
男(見えないバリア……?)
男(ひょっとしてガス女さんが子供達を……!)
男「あのっ! もう一人女性はいませんか!?」
消防士「いや……いないですね。いるのは子供だけです」
男「そんなっ!」
男「ガス女さん!」
男「ガス女さぁぁぁぁぁん!」
ガス女「呼んだか」モワモワ…
男「うわあああああっ!?」
ガス女「子供達が救助されたので、ビルから出てきたのだ」
男「よくご無事で……」
ガス女「煙や炎で私は死なんさ。しかし、謝らねばならんことがある」
男「なんですか?」
ガス女「おそらくもう燃え尽きてるだろう。せっかく作ってくれたのに……すまない」
男「なにいってんですか!」
ガス女「!」
男「あんなのはただの人形です! また作ればいい! 謝る必要なんてない!」
男「ガス女さんが無事でいてくれて……本当によかった……」
ガシッ…
男「……え?」
ガス女「……む?」
ガス女「私も一瞬だけ感触を……」
男「きっと……気のせいですよね! アハハ……」
ガス女「ああ、きっと気のせいだ。アハハ……」
男「だけど……気持ちよかったです」
ガス女「うん、私も……」
…………
……
― ビル ―
ワイワイ… ガヤガヤ…
「へえ~、どの人形もよく出来てるなぁ」
「これなんて本物の人間そっくりだぜ」
「この熊さんの人形、かわいー!」
女「事件は無事解決したし、個展も大繁盛。いうことなしだな!」
男「はいっ!」
男「個展が成功したおかげか、あちこちの業界から注文が殺到してますよ」
女「嬉しい悲鳴というやつだな」
男「有名になったとたん仕事が雑になったといわれないようにしないといけませんね」
女「その通りだ」
女「しかし、お前の腕は着実に上がっている。私のこの新しいボディも、前以上にしっくりくるからな」
男「そういってもらえると嬉しいです」
女「できればロケットパンチ機能もつけて欲しかったが」
男「それは僕の専門外なので……どこかの博士に頼んで下さい」
女「山で出会って、半ば無理矢理ついてきた私にここまでしてくれるなんて、お前は本当に優しいな」
男「…………」
女「え?」
男「優しいってだけで、ここまで出来ると思いますか?」
女「それはどういう……」
男「はっきりいいましょう。僕は……あなたが好きだから、ここまでしたし、出来たんです」
女「!」
男「僕はあなたを愛してます。これからも一緒にいて欲しい。できれば、ずっと一緒に……」
女「…………!」
男「!」
女「私もお前が好きだ!」
男「ありがとうございますっ!」
女「私はお前と交わり、身も心も一つになりたい!」
男「僕もです!」
女「となれば……やはり、ここは元のガス状態になるべきだな」モワモワ…
ガス女「さあ……行くぞ。お前の全身を包み込んでやろう……」
男「ガス女さんっ……!」
男「ああっ、2秒で失神してしまいそうなほどの快感……!」
ガス女「待て早すぎる!」
…………
……
女「えええええっ!?」
男「妊娠ですか!」
医者「はい」
女「私、ガスなのに!?」
医者「ガスなのにです」
女「どうやって!?」
医者「どうやってって、その行為をしたのはあなたたちでしょう」
女「いや、まあ、それはそうなんだが……」ポッ…
男「…………」カァ…
医者「こればかりは……私もガスの患者を診るのは初めてで」
男(そりゃそうだ)
女「ううむ、不安しかない……」
男「そうですか?」
女「えっ?」
男「僕は期待しかありませんよ。なにしろ気体であるガスの子なんですから」
女「下らんことをいうな」ペシッ
男「いてっ!」
おぎゃあ……! おぎゃあ……!
ガス女「生まれ……たか……?」
医者「はい、元気な男の子が。ちゃんと実体のある赤ちゃんです」
ガス女「私はガスなのに、どういうことなの……?」
男「普通の人間とガス生命体との間に、実体のある赤ちゃんが生まれた。それだけのことですよ」
ガス女「ふふ……おかしなものだ」
ガス女「私の方が遥かに人間からかけ離れた存在のはずなのに、私の方が動揺してしまってる」
男「これからは二人で、大切にこの子を育てましょう!」
ガス女「うん……そうだな」
数年後――
― 男の家 ―
息子「ただいまー」
男「お帰り」
ガス女「お帰りなさい」フワフワ
息子「あ、お母さん。今日は人形から出てガス状態なんだね、珍しい」
ガス女「まぁな。ところで、お前は自分の母親がガス生命体ということに、なんら言及したことはないな」
ガス女「気にならないのか?」
息子「だって、それが事実なんでしょ。だとしたら、気にしてもしょうがないじゃない」
ガス女「お腹を痛めた子ながら、ドライな子だ……」
男「いいじゃないか。気にしてないのなら」
息子「まあね。冷静すぎて人形みたい、なんてよくいわれる」
ガス女「さすが、名人形職人の息子だ……」
息子「ああ、それと学校で褒められたよ」
ガス女「おお、よかったな。なにで褒められたんだ?」
息子「プールの授業で、水に浮くのが上手いって」
ガス女「やれやれ、人形みたいで水に浮くのが得意とは……」
男「実に僕らの子供らしい少年に育ったね」
~おわり~
コメント一覧 (3)
-
- 2021年08月23日 15:58
- 普通に面白かった
-
- 2021年08月23日 15:59
- バカバカしい設定からの熱い流れ好き
-
- 2021年08月23日 17:16
- きもちわるい