魔王『ちょっと聖剣抜いてくる』
側近『聖剣をまだ回収出来ていないようですね。なんでも勇者としての素質を認められないと抜くことができないらしいですよ』
魔王『ほう、聖剣か……側近、俺ちょっと行ってくるわ』
側近『どこに行くおつもりですか』
魔王『ちょっと聖剣抜いてくる』
魔王『だって聖剣が抜けないから勇者が来ねえんだろ? だったら俺が抜いて渡せばいいじゃん』
側近『いや、それができるなら今のうちに殺せば……』
魔王『お前それはほら、様式美ってあるだろ。そんな卑怯なことできねえよ』
側近『略奪と侵略を繰り返す魔族の王がそれ言いますか』
魔王『ま、とりあえず行ってくるから後のことはよろしく』
側近『あ、ちょっと……行っちゃったよ』
魔王『これが聖剣か……随分と辺鄙なところにあるんだな』
???『あの〜』
魔王『うわっ!?』
???『あ、すみません。驚かせる気はなかったんですが……』
魔王(危ねえ……魔法で変装してなかったら正体がバレるところだった)
魔王『いえいえ……ところで、私に何か用でも?』
???『いえ、ただちょっと聖剣を抜きたいので少しそこをどいて頂ければな……と』
魔王(……ん? 聖剣を抜きたい、ってまさか)
勇者『自分、勇者なので』
勇者『あの〜、聞こえてますか〜?』
魔王(やっべ、放心状態になってた……)
魔王『あのえっと、その〜』
勇者『あっ、もしかしてファンの方ですか?』
魔王(違えよ! お前の敵だよ!)
勇者『こんな所まで来ていただけるなんて、よほど応援してくださってるんですね』
魔王(お前まだ何もしてねえだろ! 聖剣抜けないのに勇者面してんじゃねえ!)
勇者『じゃあ、ちょっと待っててくださいね……先に聖剣抜いちゃうんで』
魔王『……お手並み拝見といこう(ボソッ』
勇者『なんか言いました?』
魔王『いえ、じゃあ横で見ときますね』
魔王(さあ、お前の本気を見せてみろ……!!)
勇者『それでは……いきますよ!!』
魔王『ビクともしてねえじゃねえか!!』
勇者『まだだ! ぬぁぁぁぁぁァァァァァァァァァ!!』
魔王(違う! 違う勇者! それ力ずくで抜くものじゃないから!!)
勇者『ヌァァァァァァぁぁあ……ハァ、ハァ……クソ、今日も抜けなかった……』
魔王『いや違うだろ!』
勇者『何がですか?』
魔王『聖剣いるのに必要なのは勇者の素質だろ! 聖剣抜くのに筋力とか関係ないから! お前それ知らないとか本当に勇者か!?』
勇者『勇者の素質……? 何言ってるのか分かりませんが、聖剣を抜くのに必要なのは筋力ですよ。学校で習ったでしょ』
魔王『…………え?』
勇者『まあ、また鍛え直しってところですかね』
魔王『そ、そうですね。では私はこれで……』
勇者『ちょっと待ってください!』
魔王『はい?』
勇者『サイン要りますか?』
魔王『……お願いします』
魔王『しかし、学校で習ったなど……まさかそんな荒唐無稽なことが人間界では常識になっているというのか? だとしたら不思議だな……』
魔王(ここが人間界の王都か。随分と人が多いな……)
魔王『さて、どうやって聞き込みをしたら良いものか……もしも勇者の言うことが正しければ、当たり前のことを聞いてくるだけの不審者になってしまう……』
???『あの、何かお悩みですか……?』
魔王『む? ああ、ええと……っ!?』
魔王(何この女の子! めっちゃ美人なんだけど!? しかも金髪のセミロングとかめっちゃタイプ! 攫って帰りてえ!)
???『あの〜? 聞こえてますか?』
魔王『あ、いや……すみません、少し考え事をしていたもので。ところで、あなたは……?』
魔王『っ!?』
魔王(まさかこの女、そんな重要人物だったとは! でも、どうしてここに……!?)
賢者『まあまあ、そんなに驚かれなくても』
魔王『は、はあ……』
賢者『現在はお忍びで王都を散策しているところですので、ただの一般人として扱ってください』
魔王『あ、はい。自分はま……マオと言います』
賢者『マオさん、ですね。何かお悩みがおありのようでしたが……』
魔王『いえ、この辺にいいお店はないものかなと』
賢者『あらあら、マオさんは旅の方でしたか。ならば行きつけのところがありますので、ご一緒にどうです?』
魔王(ふむ、ちょうどいいな。話をしながら怪しいところがないか探ってみるか)
魔王『ええ、ぜひ』
賢者『では、いきましょう』
賢者『ん〜、この甘さが堪らないんですよね!』
魔王『紅茶に角砂糖を5個も……甘すぎませんか?』
賢者『頭を使うと脳が糖分を欲するのですよ。なんせ私、賢者ですから』
魔王(味覚壊れてるのかこいつ?)
魔王『そうなんですね……』
賢者『マオさんも紅茶、飲んでみて下さい! 美味しいですよ!』
魔王『では、いただきます』
魔王(…………甘いな。人間界の飲み物というものは)
賢者『美味しいでしょう?』
魔王『ははっ』
賢者『お口にあいませんでしたか……』
魔王(美人の落ち込む顔……いいな)
ウェイター『こちら当店名物、甘々パンケーキ〜踊り子のKISS❤︎あまーい苺シロップに生クリームを添えて〜でございます』
魔王(いつのまに頼んでやがった……てかネーミングやばいな)
賢者『一緒に食べましょ、マオさん!』
魔王(……まあ、悪くないか)
魔王(クッソ甘かったな……)
魔王『そうですねー、ははっ』
賢者『お腹も膨れたことですし……ここで私からも一つ、質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?』
魔王『はい?』
賢者『私、何歳だと思いますか?』
魔王(いわゆる世間話というやつか……仕方ない、少し乗ってやるか)
魔王『15……いや、16歳くらいですかね』
賢者『…………ふーん、あなたにはそう見えているんですね』
魔王(……雰囲気が、変わった!?)
魔王(こいつ、まさか)
賢者『ほら、賢者ってことは私、有名じゃないですか。だから正体がバレないよう、ほとんどの人には私がそこら辺のおばちゃんに見えるようにしてるんですよ……よほど膨大な魔力を持ったもの以外は、ね』
魔王『……何が言いたい?』
賢者『いえいえ、ただ……あなたが何者なのか、知りたいなって思っただけですよ。ゆっくり、ゆーっくり調べて……ね』
魔王『そんなこと、どうやっ────』
魔王(こんな時に睡魔が……!?)
賢者『さぞかし美味しかったでしょう……睡眠薬入りの紅茶は、ね』
魔王『貴様、謀った……な……』
ウェイター『ありがとうございましたー』
賢者『さて、【テレポート】……っと』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
側近『魔王様、遅いな……まさか変な人に捕まってるとか? いや、あの人に限ってそんなことはないかw』
魔王『……まずは探索……む?』ジャラッ
賢者『あらお目覚めですか、マオさん?』
魔王『賢者……お前、謀ったな?』
賢者『いえいえ、ただ喫茶店でたまたま眠ってしまったマオさんを家で匿っただけですよ。何か変なことでも?』
魔王『そうか、ならこの鎖を解いてもらおう』
賢者『それはちょっと無理ですね』
魔王『……何が目的だ』
魔王(なるほど、魔王とバレているわけではないのか。少し危険だが……むしろこれはチャンスなのではないか?)
魔王『俺は普通の旅人さ』
賢者『人類最高峰レベルの魔力を持つ私よりも大量の魔力を保有しているあなたが普通の旅人? ふふっ、面白い冗談を……』
魔王『ただ、あることを今調べていてな。それに答えてくれれば、俺もお前の質問に答えてやらんこともない』
賢者『……へえ?』
ちょっと頭こんがらがっちゃうので許して下さい(クソ雑魚脳みそ)
魔王『ああ。契約魔法を交わしたって構わないぞ』
魔王(よし、食いついたみたいだな。見たところ、コイツの目的は本当に俺にしか向いていない……ならばそれを利用するまでだ)
賢者『そう……じゃあ、そうさせてもらおうかしら。契約の神よ、我らが誓約の下に……』
魔王(賢者よ、見ていろ。お前は今、自分が有利だと思っているのかもしれないが……なんせ、俺は自分の思い通りにならんのが極めて嫌いでな。必ずこの謎、暴かせてもらうぞ?)
魔王『ああ、では俺からだな。俺が聞きたいのは……ずばり、聖剣についての話だ』
賢者『……あら、聖剣? そんなことを聞いて何になるというのかしら?』
魔王(返答に間があった。それに、心拍数も少し増えているな……これは何か知っていると見て間違いないだろう)
魔王『嘘を付かずに答えろ、賢者。貴様は……』
賢者『……っ!?』ブルッ
賢者(なんなの、この殺気にも似た圧は……こんなの、人間が放てるものなの!?)
魔王『貴様は、勇者……ひいてはそれ以外の人間全員に誤った情報を流し、聖剣を抜かせないようにしているな?』
魔王『ああ、俺も不思議だったんだよ。でもな……よく考えたらおかしいと思わないか?』
賢者『……?』
魔王『仮に勇者に聖剣を抜かせたくないだけなら、勇者のみになんらかの魔法を掛ければいい。だが、勇者にそのような魔法がかけられているような痕跡はなかった』
賢者『どうしてそのようなことが……』
魔王『少し前にあったばかりなのでな』
賢者『そんな、戯言を……』
魔王『俺の言葉が信じられないか? 賢者とやらの魔力量を上回っている俺なら、今勇者がいる場所から王都に来るのも不可能ではないだろう?』
賢者『くっ……』
魔王『それに、仮に認識を変えたところで聖剣に認められた者なら当たり前のように引き抜ける。つまり……お前らのそれは無意味になるんだよ』
魔王『だから考えたのさ。もしかして今、人間界には勇者の素質を持つ人間がいないんじゃないか……ってな』
賢者『……っ!? そんなことは』
魔王『ないとは言わせねえぞ? 現に、今の勇者は聖剣を引き抜けてない。それが何よりの証拠だ』
賢者『でも……だとしたら、ありえないじゃない! 魔王が在れば、勇者も必ず生まれる! それがこの世の理……』
魔王『そうだな。だから俺は、もう一つの可能性を考えてるんだ……何か分かるか、賢者』
賢者『っ、まさかあなた気づいて……』
魔王『お前が、勇者なのだろう? 賢者よ』
賢者『…………っ!!』
魔王『否定はしないのだな』
賢者?『……私は、私は……うわぁぁぁぁぁん!!!!』
魔王(やはりそうだったのか……それにしても、倒さねばならぬものの前で泣き出すとは。俺が今襲いかかったらどうするつもりだ……だが)
魔王『……今だけ特別だ、思う存分泣くと良い』
魔王(本当に俺は、魔王に向いていないな)
魔王『別に良い。それよりも何故お前は自分を賢者だと偽っていた? 勇者であれば、魔王を倒すのが責務というものだろう』
勇者♀『……責務、ですか』
魔王『……?』
勇者♀『……勇者に生まれたから、魔王と戦わなきゃいけない。倒さなきゃいけない。それは分かってるんです。でも……嫌、なんですよ』
勇者♀『私は戦いたくもないし、世界だってどうでもいい。ただ、平穏に暮らせればそれでよかった。でも私が勇者だってバレたら、嫌でも戦わなきゃいけなくなる』
勇者♀『聖剣を抜くのに素質なんかいらない……って』
魔王『……ほう』
勇者♀『魔王を倒すのには、聖剣が不可欠。もしもそれが勇者以外にも抜けるとしたら……私の価値はなくなる。ただの魔力が多い人として生きていける。』
勇者♀『まあ、その代わりに異常に魔力が多い人として国王に召喚されて、賢者なんて言われてるわけなんですが』
勇者♀『迷惑……ですか。たしかに、ただの自己満足ですよね。それでも私は……』
魔王『だが、好きなように生きるのは強者の権利だ』
魔王『好きに生きるのは強者の権利だ。何も怯えることなどない。だが……今のお前は、ひどく怯えているように見える』
勇者♀『そりゃあ、そうですよ。私なんて所詮、勇者としての義務も果たせない愚か者なんですから……』
魔王『何故だ? お前は強い。それに誇りを持てばいいだろう』
勇者♀『……あなたに何がわかるんですか! 私は、私は……』
魔王『欲しくない力を得て、戦わねばならない宿命を背負わされた。それが辛かった……違うか?』
勇者♀『……どうして』
勇者♀『どうしてわかるんですか、あなたに……』
魔王『……そう言えば、お前と契約を交わしていたな』
魔王『お前、そのナイフをどこから────』
勇者♀『さよなら、マオさん。最後にあなたに話せて良かった……』
魔王(ここで救わなければ、人間界を侵攻するのは容易だ。魔王としては、見捨てるのが正しい。だが……)
魔王(好きに生きるのは、強者の特権だ)ブチッ
勇者♀『……マオ、さん?』
魔王『死なせんぞ、勇者』
勇者♀『なんで……止めてくれたの? それに……あなたは、何者?』
魔王『質問は1つのはずだが……まあ良い、サービスだ。お前を助けた理由は、俺と同じだったから……俺も、そう思っていた頃があったのさ』
勇者♀『…………』
魔王『でもな、嘆こうが足掻こうが、その宿命は変えられない。ならば俺はその中で好きに生きよう……そう思っただけだ』
勇者♀『……まさか!!』
魔王『……もう1つの質問にも答えてやる。俺の、正体は────』
勇者♀『魔王……!!』
魔王『……言う必要も無かったようだな……これからどうすべきかは、お前が決めるといい。俺もう帰る』
勇者♀『待てっ……!!』
魔王『ああ、待っているさ……魔王城でな』
魔王『勇者の様子は?』
側近『聖剣を引き抜いた後、破竹の勢いで進軍して来ており既に魔王城の近くまで来ております。魔王様の元に着くのも、もう時間の問題かと』
魔王『そうか……俺も準備しておかないとな』
側近『それがよろしいかt』バァン『何事だっ!?』
勇者♀『……久しぶり、マオさん』
魔王『マオ? 誰のことだか……おい側近、離れていろ。俺が相手をする』
勇者♀『……そう、ですね。ふぅ……』
魔王(そうだ、それでいい。俺は魔王で、お前は勇者。そこに私情などいらない。ただ定められた宿命の元……やることは一つだろう。)
魔王・勇者♀『勝負だっ!!』
完
コメント一覧 (5)
-
- 2021年08月13日 06:06
- 何でssなんかまとめてんの?いつもみたいにくだらねぇクソスレまとめろよw
-
- 2021年08月16日 02:27
- >>1
ここ元々はSSまとめるサイトだぜ
古いの掘ってこいよ
SSばかりだぞ
-
- 2021年08月13日 07:07
- ssまとめるサイトだからだろアホか?
-
- 2021年08月14日 01:51
- 微妙
-
- 2021年08月14日 13:54
- このあと一緒にミルクティー飲んだ