詐欺師「俺はオレオレ詐欺の達人。ただし……」
金髪「もしもし」
電話『オレっす!』
金髪「おめえか。どうした?」
電話『可愛いJKさらったんで、よかったら一緒に楽しみませんか?』
金髪「マジかよ、行く行く! 場所はどこだ!?」
……
金髪「へへへ、この倉庫か……あいつはどこだ?」
JK「うっ、うっ……」
金髪「お、こいつがさらったJKか。どれどれ味見を……」
JK「……」
金髪「ぶげっ! このアマ……なにしやがる!」
JK「アマじゃねえよ」パサッ
詐欺師「よう」
金髪「は……!? 男じゃねえか!」
詐欺師「女装の必要は全くなかったんだが、騙すならより本格的にと思ってね。似合う?」
金髪「ふざけやがってぇ!」
詐欺師「ちなみにお前に電話したのは……俺だ」
金髪「え……!?(完全に俺の舎弟の声だったぞ……)」
詐欺師「ああ、舎弟ならとっくにボコって、あっちで眠ってるよ」
詐欺師「お前、散々女をさらっては……ってのを繰り返してきたらしいな」
詐欺師「それに天誅を下してくれって御方がいてね。俺の出番になったわけだ」
金髪「ふざけるなよ。てめえ如きにこの俺が……!」
詐欺師「うん、俺もあまり喧嘩は得意じゃないんだ。だから――」ブシュゥゥゥゥゥ
金髪「がっ!? 目がっ!?」
詐欺師「効き目抜群催涙スプレー。んじゃ、ボコらせてもらう」
バキッ! ドカッ! ガッ! ドゴッ! ガッ!
詐欺師「じきに警察が来る。舎弟ともどもブタ箱のお世話になれや」
詐欺師「だけどお前みたいなタイプは他の囚人に目をつけられて大変らしいな~」
詐欺師「出所する頃には、ものすごくお通じがよくなってたりして」
金髪「た、たすけ……」
詐欺師「ま、今まで泣かせてきた女たちの苦しみに比べりゃ微々たるもんだろ」
詐欺師「……」グビッ
詐欺師「仕事を終えた後のカフェオレは美味い。報酬の一部は……母さんに仕送りだ」
詐欺師(俺はオレオレ詐欺の達人。ただし……悪人しか騙さない)
…………
……
詐欺師「ずいぶんと若いお客さんだ」
娘「若いといけませんか?」
詐欺師「いけないなんてことはない。んなこといったら俺自体がいけない存在だからな」
詐欺師「で、ご用件は?」
娘「父をリストラした会社の社長に一矢報いて欲しいんです!」
娘「父は製造関係の部署に勤めていて、自社製品が国の定めた安全基準を満たしてない証拠を発見したんです」
娘「それを公表すべきだと上にかけ合ったのですが……」
詐欺師「その後の末路はだいたい想像できる」
詐欺師「当然そんな要求は却下。社長の命令で想像を絶するイジメが行われ、精神的に追い込まれ」
詐欺師「会社に立ち向かう気力もなくなり、最後はクビとして放り出されたってことか」
娘「その通りです……」
娘「追い詰められ、追い込まれた父は、うつ病になってしまい……今も塞ぎ込んでます」
娘「お願いします、あなたのオレオレ詐欺の力で、なんとか社長に一矢を!」
詐欺師「方法は俺に任せてくれるんだな?」
娘「お任せします」
詐欺師「分かった、引き受けよう。社長を懲らしめてやる」
娘「ありがとうございます……!」
詐欺師(社長に電話っと)
プルルルル…
社長『もしもし……』
詐欺師「俺だよ……俺」
社長『誰だ?』
詐欺師「分かんねえかい……ほら、例の件であんたの世話をした……」
社長『ま、まさかっ!?』
詐欺師「! いや、それじゃねえよ。ほら、あれだよ」
社長『議員先生に多額の賄賂を贈った件か!』
詐欺師「それでもなくて……」
社長『競合他社から新製品のデータを盗み取った件……』
詐欺師「それも違う!」
詐欺師(ホコリが出るどころかボロボロじゃねえか!)
詐欺師「そう、それ!(やっと出た!)」
詐欺師「それについての秘密をバラされたくなかったら、今からいう口座に金を振り込んでもらおうか」
社長『そんな金あるわけが……!』
詐欺師「ウソつけ。表に出てない部分にたっぷり貯め込んでるくせによ」
社長『ぐっ……!』
詐欺師「明日の正午までに頼むぜ」
娘「あ、どうなりました?」
詐欺師「とりあえず奴から1000万ぶんどった。遠慮なくもらってくれ」
娘「ええっ!? でも……」
詐欺師「なあに、親父さんの退職金だと思えばいいのさ」
詐欺師「それと、あんな会社クビになってよかったぞ。社長があんなんじゃどの道長くねえ」
娘「え……」
詐欺師「とにかく、その金で今後のことはゆっくり考えなよ。なんなら俺も協力するから」
娘「はい……ありがとうございましたっ!」
母「息子が引きこもりで……全然働かず……」
詐欺師「うーん……弱い」
母「その通りです。私は親として弱くって……」
詐欺師「そうじゃない。俺も母親想いなんでね。こういう話には弱い! 助けてあげたくなる!」
母「ど、どうも」
詐欺師「決まった。オレオレ詐欺で、必ず息子さんを外に連れ出してみせる」
詐欺師「ってわけで、息子さんに関する情報をなるべく詳しく教えてくれ」
詐欺師(典型的なオタク系引きこもりってところか)
詐欺師「部屋の写真見ると……特にこの女の子のフィギュアが多いね」
母「なんでもアボカドを使って戦う『アボカちゃん』というキャラクターらしいです」
母「特にお気に入りで、たまに通販でそういう買い物を……」
詐欺師(このアボカちゃん……使えるかもな)
店員「いらっしゃいませー」
詐欺師「これ貸して下さい」ドサッ
店員(うわっ、全部『アボカちゃん』じゃん……重度のオタクだな)
……
詐欺師「どれ……見てみるか」
TV『アボカ、負けないんだから!』
TV『アボカド食べて悪者退治! いっくよーっ!』
詐欺師(なかなか面白いな。俺までハマっちゃいそうだ)
母「目処は立ちましたでしょうか?」
詐欺師「ああ、今から息子さんに電話してみる」
母「今からですか!?」
詐欺師「……」ピッ
プルルルル… プルルルル…
息子『……』
詐欺師「私、私~!」
息子『……誰?』
詐欺師「こんにちはー、私アボカ!」
母(えっ!? アニメのキャラクターみたいな声!)
息子「アボカちゃん!?」
詐欺師『うん、そうなのー!』
息子「アボカちゃんの声優さん!?」
詐欺師『違うって、私は本物のア・ボ・カ!』
息子「ひえええ……」
詐欺師『今日はあなたにお願いがあって、電話しちゃったの!』
息子「な、なんでしょう!?」ビシッ
息子「外に……?」
詐欺師『うん、あなたが外に出たらアボカ喜んじゃう!』
息子「本当!? だったら出るよ!」
詐欺師『嬉しい~! だったらついでにぃ~』
息子「な、なんだい!?」
詐欺師『働いてくれると嬉しいかな、なーんて』
息子「は、働く! 働くよ! アボカちゃんが喜ぶなら!」
詐欺師『アボカ感激~! アボカドあげちゃう!』
詐欺師「じゃ、お電話切って、求人誌見てね!」
息子『う、うん!』
詐欺師「頑張れ~!」
詐欺師「ふぅ、予想以上に上手くいったよ。本当はもっと時間をかける予定だったが」
母「す、すごいですね。男性なのにあんな声出せるなんて……」
詐欺師「オレオレ詐欺の達人なんでね。このぐらい出来ないと」
詐欺師「今までの経験から、これで大丈夫。後は息子さんをよくフォローしてあげてくれ」
母「はい……ありがとうございます!」
青年「祖母が振り込め詐欺に騙されまして……」
詐欺師「そりゃお気の毒だな」
青年「どうか天罰を与えて下さい! そして出来れば……お金を取り戻して下さい!」
詐欺師「とりあえずやってみる。が……」
青年「なんでしょう?」
詐欺師「いいのか? 俺みたいな振り込め詐欺の同類みたいな奴に頼んで」
青年「あなたは……悪人しか騙さないそうですから」
詐欺師「そういわれるとやる気出てくるね」
電話『あん?』
詐欺師「俺だよ俺」
電話『あんたか』
詐欺師「今から住所いうからさ。そのエリアを縄張りにしてる振り込め詐欺グループの情報を頼む」
電話『オレオレ詐欺の達人が振り込め詐欺グループを潰すのか? お仲間みたいなもんなのに』
詐欺師「スズメバチだってミツバチ襲うだろ?」
電話『毒を以て毒を制すってやつか』
詐欺師「おいおい、俺は自分が薬のつもりだぜ」
電話『へいへい』
電話『もしもし』
詐欺師「俺だ」
電話『アジトと番号割り出せた。今から送るわ』
詐欺師「仕事が早いな。さすが町一番の情報屋」
電話『町一って、あんま大したことねえ褒め言葉だな。どうせなら世界一ぐらいいってくれ』
詐欺師「悪い悪い。しかし、助かったわ」
電話『あんたにゃ、妹が世話になったからな。いじめてた連中を“電話”で退治してもらって』
詐欺師「妹は元気か?」
電話『ああ、元気に学校行ってる。本当に感謝してる』
詐欺師「オレオレ詐欺の達人冥利に尽きるよ」
ヒゲ「見ろよ、この札束」ペラペラ
手下A「今週も大儲けっすね」
手下B「ジジババどもったら、ボケてるから騙しやすいったらねえや」
ヒゲ「この調子でどんどんジジババの貯め込んでる金を社会に還元していこうぜ」
手下A「そうっすね!」
手下B「アッハッハ!」
プルルルル…
ヒゲ「ん、もしもし~」
ヒゲ「は? 誰?」
電話『組のモンっていやぁ、分かるか? 半グレのクソガキども』
ヒゲ「え」
電話『てめえらウチの組にスジ通さず、上納金も入れず、振り込めやるとかいい度胸してんじゃねえか!? あぁん!?』
ヒゲ「ひっ……!」
電話『てめえらのビルはもう割れてる。今から組総出で殺しに行くから待っとけやァ!』ガチャッ
ヒゲ「……!」
ヒゲ「やべえ……○×組の奴にバレた。俺らが勝手に振り込めやってるって」
手下A「マジっすか!?」
ヒゲ「しかも殺しに来るって……」
手下B「ど、どうすんですか! 絶対バレないっていってたのに……」
ヒゲ「こうなったらしかたねえ! 金庫持って逃げるぞ!」
ヒゲ「どっか高飛びして……そこでまた振り込めやるんだ!」
ヒゲ「ふぅー……」
手下A「どうやら無事脱出できましたね」
手下B「しかし、これからどうします?」
ヒゲ「とりあえず、安全な場所まで――」
プルルルル…
ヒゲ「今度はなんだ?」
電話『俺だよ俺』
ヒゲ「あ?」
ヒゲ「誰だよ!?」
電話『“逃がし屋”だ……』
ヒゲ「なんで、そんな奴が俺に……」
電話『お前らの事情は知ってる。怖い人たちに追われてるんだろ?』
ヒゲ「そ、そうだ!」
電話『実はあるスジから、お前らを助けてやれって依頼があってな……』
電話『安全なルートを教えるから、そこ向かって走れ!』
ヒゲ「誰だか知らねえが、恩に着るぜ!」
手下A「ずいぶん辺鄙な場所まで来ましたね」
手下B「逃がし屋はなんで、俺らを助けるんです?」
ヒゲ「俺らの振り込め詐欺の腕を買ってくれてる人がいて」
ヒゲ「やりやすい土地を紹介してくれるらしい。儲けの何割かは持ってかれるが」
手下A「なるほど、そういうことか」
手下B「儲け持ってかれるってのはちょっとシャクですね」
ヒゲ「なぁに、しばらく従ったふりしてどっかで裏切ればいいのさ」
ブロロロロロ…
ヒゲ「うおっ!?」
ガタガタガタ… ゴトン…
ヒゲ「いてて……」
手下A「車が穴に……」
手下B「どうなってんだ……」
詐欺師「よう、振り込め詐欺グループ」ザッ
ヒゲ「なんだてめえ……!?」
詐欺師「今から殺しに行くから待っとけやァ! 安全なルートを教えるから、そこ向かって走れ!」
ヒゲ「あ……その声」
詐欺師「まんまと騙されて、落とし穴に落ちてくれてご苦労さん」
ヒゲ「て、てめえ……うぐっ!」
詐欺師「人を騙してばかりいる奴ってのは騙されやすいもんだねえ。俺も気をつけないと」
詐欺師「ああ、それと――警察には通報しといたから」
ヒゲ「な、なにい!?」
詐欺師「手下ともども、ムショ暮らし楽しくな。じゃーなー」
ヒゲ「うぐぐ……」
手下A「ああっ!」
手下B「行かないで!」
ヒゲ「ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!!」
詐欺師(あの青年も喜んでた……今回もいい仕事したな)スタスタ
詐欺師「……ん」
刑事「……」
詐欺師「これはどうも、刑事さん」
刑事「先日、振り込めやってたガキどもが逮捕された。お前の仕業だろ?」
詐欺師「どうだろ」
刑事「……」
詐欺師「俺を逮捕したいのか。だったら令状を――」
刑事「そうじゃない」
詐欺師「?」
刑事「力を借りたい」
詐欺師「……」
詐欺師「たまには刑事とおしゃべりも悪くない」
刑事「ここじゃなんだから、そこのカフェで……」
詐欺師「んじゃ、カフェオレおごってくれ」
詐欺師「……殺人犯?」
刑事「ああ、交際相手を殺害したんだが……」
詐欺師「証拠がないのか」
刑事「隠滅された。だが、奴がやったのは間違いないんだ。それに……」
詐欺師「それに?」
刑事「父親が政界の大物でな。署も圧力をかけられた」
詐欺師「まともに捜査もできないってことか」
刑事「そういうことだ。だから俺も“まともじゃない方法”を取る決断をした」
詐欺師「まともじゃない呼ばわりは心外だな。これでもまともなつもりだったんだが」
詐欺師「ああ」
詐欺師「俺のオレオレ詐欺なら、もしそいつが犯人なら簡単に追い詰められるさ」
刑事「よろしく頼む」
詐欺師「カフェオレ美味かったよー」
詐欺師(さて……やるか)
父「警察は捜査を打ち切ったらしい。しばらくは大人しくしておけ」
犯人「分かったよ、パパ!」
……
犯人「持つべき者は、息子想いの権力持ちの父親だよなぁ~。人を殺したってお咎め無しなんだから!」
ピリリリリ…
犯人「ん?」
犯人「もしもし……」
電話『私よ……私』
犯人「!?」ビクッ
電話『よくも……殺したわねえ……』
犯人「ひいい……!」
犯人「お、お前が悪いんじゃないか! “出来ちゃった”とかいうから……子供なんかいらないし……」
電話『そう……あなたは二人殺したのよ……』
犯人「あううう……」
電話『許さない……絶対許さない……』
犯人「うわあああああ!!!」ピッ
犯人「ハァ、ハァ、ハァ……」
電話『なんで切るの……』
犯人「うぎゃああああああっ!」
ピリリリリ…
電話『あなたに刺された胸が痛い……』
犯人「あああああああああああっ!」
ピリリリリ…
電話『きっと警察があなたを捕まえてくれる……』
犯人「やめろおおおおおおお!!!」
犯人「ぐぅ、ぐぅ、ぐぅ……」
『どうして……殺したの?』
『許さない……』
『逃げられないわよ……』
犯人「あ……」
犯人「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ……!!!」
…………
……
詐欺師「そうか」
詐欺師「金はしっかり振り込んでおいてくれよ」
詐欺師「俺は“刑事”からじゃなく、“あんた個人”から依頼を受けたんだからな」
刑事「もちろんだ」
詐欺師「だから、自分は刑事失格だとか、刑事辞めようだとか、バカなこと考えるなよ」
刑事「ふん……ありがとよ」
ザッザッ…
詐欺師「……」
詐欺師「……仕事を終えたら、カフェオレに限る」グビッ
詐欺師「う~ん、苦みと甘みが融合したいい味だ」
詐欺師(……たまには母さんに電話するか)
詐欺師「もしもし?」
老母『もしもし』
詐欺師「俺だよ俺」
老母『ああ、あんたかい。元気にしてるかい?』
詐欺師「うん、元気にやってるよ」
詐欺師「ああ、もちろんさ。普通にサラリーマンやってるよ」
老母『そうかいそうかい。たまには顔見せなよ』
詐欺師「うん……仕事がひと段落したらね」
詐欺師「また今度仕送りするから……」
老母『ありがとうねえ。それじゃ、最後に一つ』
詐欺師「?」
老母『くれぐれも善良な人を騙すようになっちゃいけないよ』
詐欺師「!」
老母『それじゃあね』
詐欺師「……」
詐欺師(俺はオレオレ詐欺の達人。ただし……年老いた母親だけは騙せない、か)
― 完 ―
コメント一覧 (3)
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- 2021年07月18日 23:32
- 深夜の15分ぐらいの枠のドラマで見たい
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- 2021年07月19日 00:55
- 結構好き
-
- 2021年07月29日 08:19
- 詐欺師が悪人を騙すというアイデアがうまくいかされていてよかった。