老人「ワシの弟子がどいつもこいつも大物になりすぎて困る」
ズバァッ!
魔王「うぐおぁぁぁ……!」
王「よくぞ魔王を倒してくれた!」
勇者「これも全て……師匠のおかげです」
王「ほう、独力で剣を磨いたとばかり思っていたが、師匠がおったのか」
勇者「はい。一年間みっちり剣を習いました」
勇者(師匠、久しぶりにお会いしたい……)
大賢者「邪気よ、消え去れ!」
パァァァァ…
大賢者「これでもう大丈夫。この一帯を蝕んでいた病は消え去りました」
領主「本当にありがとう。君がいなければ、多くの領民が死んでいただろう」
妻「これほどの魔法を独学で習得したとは素晴らしい……」
大賢者「いえ、私にもちゃんとお師匠様がおりますよ」
大賢者(お師匠様、今の私があるのはあなたのおかげです)
バキィッ!
武道家「ぐっ、参った……!」
実況『格闘家、大闘技場で前人未到の500連勝を達成! まさに格闘王!』
ワァァァァ……!
記者「500連勝、おめでとうございます」
格闘家「おう、ありがとう!」
記者「この偉業を誰に伝えたいですか」
格闘家「もちろん俺に格闘技のイロハを叩き込んでくれたおっちゃんだ!」
格闘家「おっちゃん! 俺やったぞーっ!!!」
ダンサー「ハッ!」シュザッ
ワァァァァ……! ヒューヒューッ!
興行主「10万人の観客を魅了してしまうとは……貴女のダンスはまさに芸術だ」
ダンサー「ありがとうございます」
興行主「指導者らしい指導者もなく、よくぞここまで……」
ダンサー「いえ、私にはちゃんと先生がおりますのよ」
ダンサー(先生お元気かしら。そうだ、他の三人と一緒に……)
少年「おーい、ジジイ!」
老人「なんだ、近所のガキか。茶でも飲んでくか?」
少年「いらないよあんな渋いの。それより、はいこれ。ジジイ宛てに町のポストに届いてた」
老人「手紙?」
少年「じゃーねー」タタタッ
老人「これは……おお、あの四人からか」
老人(弟子といっても、一年ほど一緒に過ごしただけだが……)
老人(風の便りによると、一人はどこぞの国に巣食う魔王を倒し、“勇者”と呼ばれる英雄になった)
老人(一人は魔法を極め、皆に慕われ“大賢者”と尊敬を集める存在になった)
老人(一人は格闘の道をゆき、格闘王の名を欲しいままにする“格闘家”となった)
老人(一人はワンステップ100万Gともいわれる世界的な“ダンサー”となった)
老人(四人は同世代で、かつ仲もいいことから≪BIG・4≫などと呼ばれている)
老人「……」
老人「どいつもこいつも大物になりすぎィ!」
老人(せっかくだし、あの頃のことを思い出してみるか……)
…………
……
剣士「おっしゃあ、今日は大儲けだ! ワッハッハッハ!」
ならず者「ちくしょう……やられた!」
剣士「ふんふ~ん、たまに大勝できる……これがギャンブルの醍醐味ってやつよォ!」
剣士「ん? どうしたい、孤児院のセンセイ。青い顔して」
院長「実は……」
院長「うむ、せめて三人か四人減らさねば。しかし、よその孤児院も似たような状況で……」
剣士「だったら俺が引き取ってやるよ」
院長「しかし……」
剣士「いいのいいの。こう見えて金はあるんだから!」
剣士「それに俺は独身。この年になっても子供がいねえっつうのは、ちょっと寂しいしよ!」
院長「ならば……お言葉に甘えるとしよう」
剣士「うーん……」
剣士(まあ、適当に……)
剣士「じゃあ、そいつとそいつ」
男子A「僕ですか!」
男子B「は、はい……」
剣士「あと体のでかいそいつ」
男子C「おすっ!」
剣士「女の子も一人欲しいかなー、ってわけでその子」
少女「分かりましたぁ!」
男子A「はいっ!」
男子B「はい……」
男子C「おすっ!」
少女「はぁい!」
剣士「ま、楽にしてくれていいぜ。茶でも飲んでくつもりでな」
剣士「とりあえずお前、これ振ってみ」
男子A「はいっ!」
男子A「えいっ! えいっ!」ブンッブンッ
剣士「ほう、いいねえ」
男子A「ありがとうございます!」
剣士「よし、決まり。お前には剣術を仕込んでやる!」
剣士「お前は勉強が好きなのか」
男子B「はい……」
剣士「じゃあ魔法だな。俺もほんの少しなら使えるし、初歩を教えてやる」
男子C「せやーっ!」パシッ
剣士「体でかいだけあっていいパンチしてるじゃねえか。お前にゃ格闘技が向いてるかもな」
少女「ラララ~」スタタンッ
剣士「いいリズム感じゃねえか。嬢ちゃんはダンスでもやってみっか?」
男子A「だあっ!」ブンッ
剣士「うおっ、あぶねえ!」
男子B「ファイア!」ボッ…
剣士「もう火を出せるのかよ、やるじゃねえか!」
剣士「この木の板を殴ってみろ!」
男子C「でやっ!」パキャッ
剣士「いいかぁ、ダンスは情熱だぞ! ワンツーワンツー!」
少女「ワンツー! ワンツー!」
剣士(ギャンブルで得た大金なんてすぐ消し飛んじゃうもんだなぁ……)
剣士(どうしよう、これ以上あいつらを養えないぞ……。こうなったら……)
剣士「コホン、みんな」
男子A「なんでしょう?」
剣士「別れの時が来た」
剣士「お前たちはもう十分、自立できる力を得た。今こそ俺の元から羽ばたく時だ」
男子A「……!」
男子B「お師匠様、魔法を教えてくれた御恩は忘れません!」
男子C「おっちゃん、俺絶対すげえ格闘家になるぜ!」
少女「先生、お元気で! きっとすごいダンサーになってみせます!」
剣士「頑張れ!」
剣士(こいつら、それぞれかなりの才能持ってるし、日銭を稼ぐぐらいできるだろう)
剣士(なかなか楽しい一年間だった……)
…………
……
老人(あれからあいつらはこの通り大物になり、ワシはすっかり老け込んじまったが)
老人(で、あいつらは今更ワシになんの用なんだ?)
老人(まさか、たった一年で追い出した恨みを晴らすとかじゃないよね?)
老人(ふむふむ、BIG・4共通の師匠として、ワシにぜひ感謝の意を示したいと……)
老人(断る理由もないし、ワシの方から出向くとするか)
老人「ちょっと町の外にな」
少年「へえ、珍しい。なにしに?」
老人「懐かしい弟子に会いに行くんだよ」
少年「ふうん、ジジイなんか師匠にしちゃって可哀想な人達」
老人(ホントにな)
老人「じゃ、行ってくるよ」
少年「行ってらっしゃーい。お土産買ってきてね!」
老人「んな金あるもんか」
勇者「師匠、お久しぶりです!」
大賢者「なかなか会いに行けず、すみませんでした」
格闘家「いつか四人で行くっていってたんだけどよ。先延ばしになっちまって……」
ダンサー「本当に申し訳ありません」
老人「いやいや、かまわんよ。みんな立派になって……ワシは嬉しいぞ!」
老人(なりすぎなんだよ!)
老人(完全にきらめく四人としょぼくれたジジイ一人って構図じゃねーか!)
老人「へ? 大イベント……?」
大賢者「大勢の人間を集めて、お師匠様を紹介するんです」
格闘家「俺たちの大恩人だってな!」
ダンサー「楽しんで下さいね!」
老人「は、はぁ……」
老人(おいおいマジかよ。そんな大げさにしなくても)
司会者「今をときめくBIG・4の登場です!」
ワァァァァ……!
勇者「皆さん、こんにちは」
大賢者「こんなにも大勢集まって下さり、ありがとうございます」
格闘家「うおおおおおっ!」ムキッ
ダンサー「みんな、元気ー!」
老人(ひいい、観客何人いるんだよ、これ……)
司会者「どうぞ!」
シーン…
司会者「どうぞーっ!」
老人「……!」ガクガク
老人(うわぁ~……足が震えてる。人生でこんなこと一度もなかったからな)
老人(ええい、行くしかない!)
シーン…
老人(そりゃそうだよ……。輝かしい四人の師匠がこんなジジイじゃ……)
ワァァァァァッ!
老人「えっ」
「すげー……あれがBIG・4の師匠!」 「達人っぽい!」 「いかにも老師って感じだ」
ワイワイ…
老人(いやいや……どこがだよ。こいつらの目、節穴もいいとこだな)
老人「え? なんですか?」
司会者「ちょっと剣を振ってもらってもよろしいですか?」
老人「は、はい」
老人「ほりゃっ!」ブンッ
ワアァァァァァ……!
「すげえええ!」 「さすが勇者様の師匠!」 「達人の素振りは違うなぁ……」
老人(なんなのこのノリ……これはこれでキツイわ……)
勇者「はい、ではまず私から……」
勇者「私が魔王を倒せたのは、全て師匠のおかげです」
老人(んなわけねーだろ。お前のおかげだよ)
大賢者「お師匠様がいなければ、私が魔法を学ぶことはなかったでしょう……」
老人(勉強好きだったし、いつか学んでたよ絶対)
格闘家「どんな時も諦めるな、これがおっちゃんの教えだったぜ!」
老人(ワシはわりとすぐ諦めるけどね)
ダンサー「“ダンスは情熱”という先生の教えこそ、私のダンスの原点なのです!」
老人(原点って……適当にいっただけなのに。大した教えでもないし)
老人(四人がワシを持ち上げれば持ち上げるほど、自分が恥ずかしくなってくる……)
司会者「それでは師匠様、お言葉をどうぞ」
老人「はい」
老人「えぇと、四人ともよく育ってくれて……ワシの教えをよく守って……」
老人「師匠としてとても鼻が高く……」
老人「……」
司会者「? 感動で、言葉が詰まってしまいましたか?」
老人「もう……勘弁してくれえ!!!」
ザワッ…
勇者「師匠……!?」
老人「ワシは……こんなところに立っていいほど立派な人間じゃないんだ」
老人「お前たち四人を引き取ったのは、ギャンブルで勝って気が大きくなってたからだし」
老人「その後、自分の金がなくなった途端、体よくお前たちを追い出した」
老人「ワシにお前たちの師匠を名乗る資格なんてこれっぽっちもない」
老人「ちょっと剣が振れて、ちょっと魔法を知ってて、ちょっと格闘技が出来て、ちょっとダンス経験があるだけの平凡な剣士だった」
老人「器用貧乏……いやそのレベルにすら達してなかったと思う」
老人「剣も魔法も高水準でこなせる戦士なんて珍しくもないしな」
老人「お前たちがそれぞれ成功したのは、それぞれがちゃんと努力をしただけのこと」
老人「ワシとの一年間がなくとも、きっとお前たちは何かしら成し遂げたさ」
老人「むしろ、ワシが足を引っぱった可能性すらある」
老人「もう分かったろう? ワシは全然大した奴じゃないんだよ!」
シーン…
老人「……」
老人「すまん!」ダッ
勇者「あっ、師匠!」
大賢者「お師匠様……」
格闘家「おっちゃん!」
ダンサー「先生……!」
ザワザワ… ドヨドヨ…
BIG・4とその師匠が集まる大イベントは、これにて中断となった。
少年「どうしたのジジイ」
老人「……」
少年「家に帰ってきたと思ったら、ずっと落ち込んじゃってさ」
老人「……」
少年「何があったんだよー」
老人「……」
少年「もう知らない!」
少年「……ん?」
勇者「もしもし」
少年「あなたたちは? なんか用?」
勇者「我々はこの町に暮らすご老人の弟子です。ぜひお会いしたくて……」
少年「ああ、ジジイのこと? ちょっと待ってて!」
老人「客?」
少年「うん、四人来てる。ジジイの弟子だっていってた。みんな立派な身なりしてるよ」
老人(あいつらか……)
老人「悪いが、帰ってもらってくれ」
少年「えー、せっかくこんな田舎町に来てるのに?」
老人「うむ……とても合わせる顔が……」
老人「え」
少年「いつもだったらさ、お客が来たら相手が誰でも『茶でも飲んでけ』っていうじゃない。あの渋い茶」
老人「……」
少年「四人が誰か知らないけど、そんな意地張らなくてもいいんじゃない?」
少年「ジジイはジジイなんだから。いつも通り接してあげなよ」
老人(ワシはワシ……いつも通り……か)
老人「その通りだな」
勇者「あ、師匠……」
老人「ま、茶でも飲んでけ」
勇者「は……はいっ!」
大賢者「いただきます!」
格闘家「おっちゃんの茶は相変わらず渋いのかな」
ダンサー「フフッ、きっとそうよ」
勇者「師匠の気も知らず、あんな祭り上げるようなことをしてしまって……」
勇者「私たちは気づかぬうちに、すっかり増長していたようです」
大賢者「本当に申し訳ありませんでした」
格闘家「だけど、おっちゃんに対する尊敬の念はマジなんだ!」
ダンサー「それだけはどうか信じて下さい」
老人「分かってるよ。そのぐらい」
老人「今回の件、ワシが全面的に悪い。イベントを台無しにしてすまなかった」
勇者「いえ、そんなことは……」
老人「お前たちは大物になったのに、ワシは……ってな」
老人「だから素直に祝福できず、あんな醜態を晒してしまった」
老人「師匠ならば、弟子の成長を素直に喜ぶべきなのにな」
勇者「師匠……」
老人「だが、今は違う。近所の子に諭されて、すっかり目が覚めたよ」
老人「ワシはワシなんだってな。今でもお前たちの師匠なんだってな」
老人「みんな、活躍おめでとう。そして今でもワシを尊敬してくれてありがとう」
勇者「え?」
老人「たまには稽古つけてやるか!」
大賢者「ええっ!?」
格闘家「おっちゃん、それはちょっと無茶じゃ……」
ダンサー「そうですよ。お体を労わって……」
老人「なにをいう。まだまだこの町じゃ、元気な爺さんって通ってるんだ」
老人「さあ、まず剣からだ! 勇者、剣を抜け!」
勇者「は、はいっ!」チャッ
勇者「大丈夫ですか?」
老人「きっつい……。四人ともやるようになった……」
勇者「ですが師匠こそ、まだまだ動けるじゃないですか」
大賢者「ええ、私の目から見ても長生きされる動きです」
格闘家「ああ、ビックリしたぜ!」
ダンサー「ダンスで転んじゃっても、そのまま踊ってましたからね」
老人「なんたってダンスは情熱だからな!」
ハハハハ…
大賢者「また会いに来ますので」
格闘家「楽しかったぜ、おっちゃん!」
ダンサー「先生のために新しいダンスを考えてきますね」
老人「おう、茶でも飲みに来るつもりで来い!」
四人は名残惜しそうに帰っていった。
老人(あんなに立派に見えた四人が……今はあの頃のように“子供”に見えるな)
老人(あいつらも根っこはあの頃のままということか……)
老人「なんだ、茶でも飲みにきたか」
少年「違うよ。あのさあのさ」
老人「なんだ?」
少年「俺も弟子にしてくんない?」
老人「!」
少年「あの四人、ジジイの弟子だったんでしょ? だったら五人目がいてもいいじゃない!」
老人「ふーむ……それもよいか!」
少年「やったぁ!」
老人「いいよ、ジジイのままで。ただし、弟子になるからには教えはしっかり守れよ」
少年「分かりましたー、ジジイ!」ビシッ
老人「今までの法則からして、もしかするとお前も大物になるかもしれんなぁ」
少年「マジで? 嬉しい!」
老人「もし……もしもお前が将来大物になったら、ワシをどう扱ってくれる?」
少年「えー? んなもんジジイ呼ばわりしつつ茶でも飲みに行くに決まってんじゃん」
老人「ハハ、それもよいな」
おわり
コメント一覧 (4)
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- 2021年07月01日 14:46
- イイハナシダナー
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- 2021年07月01日 18:13
- ええやん
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- 2022年03月28日 11:38
- 少年がどう育つか楽しみだ
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- 2023年05月05日 02:31
- ええssやった