勇者「魔王を倒すなんざネットを使えば楽勝よ」
勇者「お任せ下さい」
王「心強い返事だ。さっそく旅に出るための支援物資を――」
勇者「いえ、城から出かける必要なんてありませんよ」
王「え?」
勇者「一部屋……用意して下さいますか。俺たちがパソコンをやるのにちょうどいい部屋を」
王「そんなことならかまわぬが……」
勇者「おっ、いい部屋ですね! 最高!」
戦士「エアコンも効いてるし、食い物もある!」
魔法使い「これなら魔王を倒せるわね!」
僧侶「ええ、私たちならばやれます」
大臣「……?」
大臣(この四人はいったいどうするつもりなんだ……?)
勇者「よかったら、どうやって俺たちが魔王を倒すか見物しますか?」
大臣「う、うむ」
大臣「何をしてるんだ?」
勇者「魔界のインターネット掲示板にスレッドを立ててるんです」
大臣「魔界にもそういうものがあるのか……で、どのような?」
『【速報】魔王は部下に爆弾を抱えさせて特攻させるなんて計画を立ててるらしい』
大臣「な!? 魔王の奴、こんな恐ろしい計画を……」
勇者「ああ、俺が勝手に考えただけです」
大臣「へ?」
勇者「つまり全くの事実無根です」
大臣「なんでこんなスレッドを……?」
勇者「そりゃ、こういうスレが立てば、魔王の部下が魔王を怪しむようになるでしょ?」
大臣「なるほど、部下の離反を狙うわけか……しかし信じるだろうか?」
『嘘乙』
『いやでもあの人ならやりかねないぞ。心当たりはある』
『ショックなんだけど……』
『こんなスレ立ててレス乞食すんのやめろや』
大臣「おお……なかなか食い付いてるじゃないか。ただし、イタズラだと思ってる者も多いが」
勇者「この書き込み、全部俺です」
大臣「え!? しかし、IDが違うんだが……」
勇者「ID変えるなんて朝飯前ですよ。とにかくこうやって自演しまくっていれば……」
『詳しい話を教えて』
勇者「これらは俺の書き込みじゃありません。本物の魔族たちが食い付いてきました」
大臣「はぁ~……」
勇者「こっからが俺の腕の見せ所ですね」カタカタ
勇者「いかにも関係者を装って、裏情報という名のニセ情報を流したり……」
勇者「時にはスレの趣旨を否定する書き込みもする。一人で何人も演じて議論を加速させる」
勇者「一度軌道に乗れば、後は勝手に盛り上がります」
大臣「なるほど……」
『魔王様にお仕置き喰らったことある。今でも恨んでる』
『俺の弟が魔王軍いるんだけど、この計画が本当なら許せねえ』
勇者「もうこのスレは俺の手を離れました。放っておいてもヒートアップしていきます」
勇者「こいつらの心はどんどん魔王から離れていくことでしょう」
大臣「ひええ……」
勇者「さて、他にも魔王の評判を貶めるスレを立てないと……」
大臣「ん? どこに行くんだ?」
戦士「ちょっと出かけようと思いまして」
大臣「しかし、勇者殿は城から出かける必要などないと……」
戦士「まあ、あいつのやり方はそうですが、俺はちょっとやり方違うんで」
大臣「それはそうだな。で、どこへ行くのだ?」
戦士「魔王城っす」
大臣「魔王城!?」
戦士「大丈夫ですよ。何も攻め込むわけじゃないんで」
大臣「じゃあ何しに行くんだ?」
戦士「凸っす」
大臣「とつ?」
戦士「“突撃する”って意味で、ネット上で知り合った仲間らと魔王城に直接嫌がらせするんです」
荒くれ者A「おう! スプレーで落書きしてやる!」
荒くれ者B「古い生卵持ってきたぜ! これ壁に投げつけたらくっせえぞ!」
荒くれ者C「魔王の悪口書きまくった張り紙もバッチリだ!」
戦士「んじゃ、行ってきます」
大臣「行ってらっしゃい……」
『【画像】魔王城に凸したったwwwwwwwww』
『すげー! やるじゃん!』
『魔王ざまあああああ!』
『俺も仲間集めて、やってやる!』
大臣「おお……盛り上がってるな」
戦士「でしょ? で、結局みんな心の中に“目立ちたい”って感情を飼ってるんで……」
戦士「“俺の方がもっと凄いことできる!”って奴が現れて、イタズラがエスカレートしていくんすよ」
大臣「目立ちたがり屋が魔王を追い詰めるわけか……」
大臣「君は何を?」
魔法使い「インターネット上のコミュニティに魔王の悪い噂を流してるの」
大臣「ああ、勇者殿と同じようなやり方だね」
魔法使い「少し勇者とは違うけどね」
大臣「どういうこと?」
魔法使い「私が噂を流してるのは、女性が集まるコミュニティなの」
『えー、許せなーい!』
『女子の力で叩きのめしましょう!』
『そうよそうよ!』
魔法使い「こんな具合にね」
大臣「だが……女性に出来ることなどたかが知れてるだろう?」
魔法使い「あら、大臣はちょっと女をナメすぎじゃないかしら」
大臣「え」
魔法使い「インターネット上の女は恐ろしいのよ」ニヤッ
『とりあえず生ゴミを送っておかない?』
『魔王の部下にも徹底的に嫌がらせを……』
『魔王擁護派のブログを突き止めたので、みんなで荒らしましょう!』
大臣「なんだこれは……」
魔法使い「女が本気を出すとちょっとした情報機関以上の情報収集力を発揮するの」
魔法使い「戦士達みたいに直接的なことはせず、もっとえげつない方法で追い込んでいくのよ」
大臣(女って怖い!)
僧侶「……」サッサッ
大臣「何をしてるんだね?」
僧侶「画像を作ってます」
大臣「画像? ……うわっ!」
大臣(魔王が、おそらくまだ小さな子供である魔族にいかがわしいイタズラをしている……)
大臣「まさか魔王にこんな趣味があったとは……ひどい奴だ」
僧侶「いえ、多分ないと思いますよ」
大臣「ない? しかし、現に画像が証拠として――」
僧侶「これ、コラです」
大臣「コラ?」
僧侶「“コラージュ”のことです。ようするに複数の画像を組み合わせて、私が作った画像です」
大臣「つまり合成ってこと? 全然そうは見えない……」
僧侶「ほら」
大臣「!」
大臣(さっきの画像が可愛く見えるほどの、魔王の画像の数々……)
大臣「これをバラまいていけば、魔王の評判は地に落ちるというわけか」
僧侶「はい」
僧侶「しかし、今時は画像だけだとインパクトに欠けるので……」
大臣「え、動画!?」
僧侶「再生すると……」
魔王『ぐへへへへ……おじさんと楽しいことしなぁい?』
大臣「……!」
大臣「動く魔王はともかく、声はどうしたんだ?」
僧侶「合成して作りました」
大臣(眉一つ動かさず恐ろしいことをする子だ……)
勇者「おっ、このスレも完走したか。早いなー」
『【絶対】魔王アンチスレpart5329【許すな】』
戦士「ハハッ、すげースレが立ってやがる!」
『【証拠あり】魔王の城に放火してきた!』
魔法使い「種族に関係なくね」
『私はメスのドラゴンですが魔王を許せません。夫にも魔王軍を辞めるよう言います』
『そもそも今までに女魔王がいないのはおかしいのよ! 差別だわ!』
僧侶「みんな面白がって、あちこちで魔王のコラ画像が作られています」
僧侶「今や魔王はただの“素材”です」
『コラ作ってみた! 見てくれ!』
『俺魔王軍幹部だけど、魔王の顔見るだけでコラ思い出して笑っちゃうわ』
……
勇者「……そろそろだな」
戦士「ああ、大臣から知らせが来るはずだ」
大臣「勇者殿! みんな!」タタタッ
魔法使い「ほら来た。どうしたの、大臣?」
僧侶「よい知らせですか?」
大臣「魔王が……自殺した!」
大臣「自室で首をくくっていたらしい。衝動的なものらしく遺書すらなかったそうだ」
戦士「ぷっ、しょぼっ!」
魔法使い「魔王ともあろう者が情けない最期ねー」
僧侶「ぜひ死体を撮影したかったですね」
勇者「コラの素材にするためか?」
僧侶「もちろんです」
どっ! ハッハッハッハッハ…
カチンッ
勇者「俺たちにかかればこんなもんよ!」
戦士「楽しかったぜ~、魔王城突撃オフ会!」
魔法使い「私も! 女同士一致団結しちゃったもん!」
僧侶「久しぶりに腕を振るえましたよ」
勇者「ま……つまりこういうことだな」
勇者「魔王を倒すなんざネットを使えば楽勝よ」
勇者「魔王は死んだ……。これで俺たちを待ってるのは栄光の日々ってわけだ……」
勇者「きっとネット上でもそういうニュースで持ちきり……」
勇者「お、なんか妙に盛り上がってるスレあるな。なんだこれ」
『【速報】卑劣な手段で魔王を倒した四人組がいるらしい』
勇者「……え?」
完
コメント一覧 (9)
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- 2021年06月10日 01:17
- どっちが悪か最早わからんな
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- 2021年06月10日 01:42
- 割と洒落にならんと言うか、この世界はもうマジで終わってるんだよな・・・。
足を引っ張り合い、出る杭を打ち続けるデストピア。
明るい未来なんざ在る訳無い。
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- 2021年06月10日 07:21
- >>2
戦国時代「ほーん、大変なんやな」
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- 2021年06月10日 01:59
- 世界に何を期待してんのか知らんけど、元々世界ってそういうもんだし。どんなに悪でも、ズル賢く生き残れば勝ち。それがこの世界の理。人間の善悪基準なんて所詮人間が作ったコミュニティ維持のための安全装置に過ぎない。
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- 2021年06月10日 02:19
- 勝てば正義よ
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- 2021年06月10日 08:04
- ※5
オマエの方が情報戦ヤバかったろw
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- 2021年06月10日 08:18
- いつの時代もやり方が違うだけでやってる事は同じなんだよな
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- 2021年06月10日 12:43
- 勝てばよかろうなのだァァァァァこれでいいのだwww
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- 2021年08月09日 15:38
- とかなんとか言ってる連中が、正義をむさい顔で掲げてた昔の人たちがボコボコにしてた悪意しかない間抜けな中国にすら、怯えながら彼らの時代よりよっぽど劣化した景気で暮らしてるの笑えるよな