神「この子には多くの才能を与えて誕生させてやろう」
- 2021年03月29日 23:00
- SS、神話・民話・不思議な話
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神「む、この子は……!」
神「うむむむ、なんという凄まじいオーラを放っているのだ……」
神「これほどの魂は本当に久しぶりに見る……」
神「神が贔屓するというのは本来あってはならないのだが……」
神「この者に才能を与えれば、きっととてつもない人生を歩むに違いない」
神「この子には多くの才能を与えて誕生させてやろう」
神「さあ、ゆくがよい。新しい魂たちよ!」
…………
……
ナース「元気な男の子ですよー!」
母「う、産まれたわ……」
父「よく頑張ったな!」
母「うん」
父「よく顔を見せてくれ……」
父「この子は多くの才能に恵まれてる! きっと大物になるに違いない!」
母「もう、大げさなんだから」
母「元気に育ってくれればそれでいいのよ」
父「アハハ、まあね。それはそうだ」
父「元気に育ってくれよ……」
赤子「きゃっ、きゃっ」
先生「さあ、粘土遊びをしましょう!」
ハーイッ!
園児「……」コネコネ
先生「なにを作ってるの?」
園児「ネコさん!」コネコネ
先生「あ、あら~、とっても上手ね~!(猫には見えないけど……)」
女児「うん……」
先生「どうしたの?」
女児「だけど、ねんどがたりないの……」
園児「だったら……はい!」
女児「?」
園児「ぼくのねんどあげる!」
女児「ありがとう!」
先生「あら優しいわね~」
少年「くっ、くっ」グッグッ
少年「くっ!」グッ
友「おいおーい、逆上がりできないのかよー!」
少年「うっ……」
友「俺なんかほら!」クルッ
少年「すごいなー、ぼくだってできるようになるぞ!」
気弱「いたいっ!」
同級生A「給食残してんじゃねーよ!」
同級生B「そうだそうだ! 食い物粗末にすんのは最低だぞ!」
気弱「うっ、うっ、うっ……」
少年「!」
同級生A「!」
少年「食べられないものを無理に食べさせるのはよくない!」
少年「みんなで一人をよってたかっていじめるのは……最低なんだぞ!」
同級生A「ちぇっ、行こうぜ!」
同級生B「ああ!」
少年「大丈夫?」
気弱「う、うん……ありがとう」
教師「では、数学のテストを返す」
男「……」
男(何点だろ……)ドキドキ
男「ふぅ……なんとか平均点以上だった。これなら怒られずに済む」
友「俺なんて80点だぜ? すごいだろ!」
男「いいなぁ……」
男「あっ、捨て猫だ! 可哀想に……」
男「お願い! 必ず世話するから!」
母「困ったわねえ……」
父「ま、いいんじゃないか? お前は優しいから、世話はしっかりするだろ」
男「ありがとう、お父さん!」
生徒「おーい!」
男「ん?」
生徒「お前、なんか楽器やったことある?」
男「ないけど……」
生徒「俺もなんだよ。で、今初心者で集まってバンド組もうって話しててさ」
生徒「お前もやらないか? 最終目標はもちろん文化祭での演奏だ!」
男「いいよ! やろうやろう!」
生徒「もしかしたら、お前めっちゃ才能あるかもしれないしな!」
ベンベンベベン
男「どぉう?」
猫「ニャーン」フルフル
男「ハハ……あきれ顔だ。ギターって難しいなぁ」
男(だけど、せっかく誘ってもらったんだ。頑張るぞ!)
男「イェ~イ!」ギュィィィィン…
……
生徒「演奏自体はちょくちょくミスしたけど……盛り上がった!」
生徒「初心者だらけのメンバーで喧嘩もせず、なんとか一曲披露できたのはお前のおかげだよ」
生徒「優しいお前がいたから、みんな頑張れたんだ!」
男「どうもありがとう……俺も楽しかったよ!」
男(何とか大学に入れた……)
「我々と歴史を学びましょう!」
「サッカーやろうぜ!」
「将棋サークルにお越し下さい!」
男(わっ、サークルの勧誘合戦がすごい)
男「俺は……そうだな。ボランティアサークルに入ろう!」
ハイッ!
男「……」サッサッ
男「……」セッセッ
リーダー「おお、はりきってるな。こういうの好きなのか?」
男「はい、人助けをするのが性にあってるみたいで……」
男「といっても俺も人からだいぶ助けられてるんですけど」
リーダー「いいじゃないか。世の中ってのは助け合いで成り立ってるんだ!」
男(ふぅ、今日は座れた……)
ガタンゴトン… ガタンゴトン…
男「……ん」
老婆「……」
男「おばあちゃん、席をどうぞ」
老婆「これはどうも、ありがとうございます……」
男「いえ、すぐ降りるので大丈夫です」
男「はい! だけどまだまだ分からないことばかりで……」
先輩「そりゃそうだ。分からないことがあったらどんどん聞けよ!」
男「よろしくお願いします!」
先輩「……お前はなんていうか、仕事はそこそこだけど、独特の人のよさみたいなもんがあるよな」
先輩「それを生かしていけば……きっと伸びると思うぞ」
男「頑張ります!」
男「はい」
女「ずっと同じ職場で働いてて、あなたの優しさにすっかり惚れてしまいました」
女「……付き合って下さい!」
男「! 俺なんかでよければ……」
女「それじゃ……これからは恋人同士ということで……」
男「こ、こちらこそ……!」
男「皆さん、ありがとうございます!」
女「これからも私たち夫婦をよろしくお願いします!」
パチパチパチパチパチ…
先輩「おめでとう!」
課長「あいつは優しいから、きっといい亭主になれるだろうよ」
男「じゃあ、これ頼むよ」
部下A「分かりました」
男「ただし、無理はしないように。体壊すといけないからな」
部下A「課長ってやり手って感じではないけど、いい人だよな」
部下B「うん、滅多に怒らないし、優しいし、ちゃんと部下を守ってくれるし……」
部下A「そういうところが評価されて、課長にまでなれたのかもな」
部下B「今時珍しいタイプだよな。みんな人を蹴落とそうとしてるのに」
男「ありがとう」
社員「これ……花束です」
男「とても綺麗だ。嬉しいよ」
社員「あなたのその人のよさには多くの人が救われました。ありがとうございました!」
男「……」グスッ
パチパチパチパチパチ…
男(俺は幸せ者だ……)
男(振り返ってみると……俺の人生にはものすごいドラマはなかったし)
男(何か偉業を成し遂げたわけでもないが……)
男(会社は勤め上げたし、子供も巣立って、妻とは仲良くやっている)
男(これでいい……俺の人生はこれがいい……)
男(いい人生だった……)
妻「あなたお茶が入ったわよ」
男「……」
妻「あなた?」
妻「あなた!」
妻「あなた! あなた! あなたッ!」ユサユサ
男「……」
妻「救急車を――!」
…………
……
神「あの魂、ついに寿命を迎えたか……」
神「果たしてどのような人生を送ったのか……」
神「……」
神「むむむ……これは驚きだ」
神「ワシの予想とは違うが、やはりとてつもない人生を歩んだようだな」
神「殺し、脅迫、詐欺、窃盗、放火、爆破……考えうるあらゆる悪事の才能を与えていた」
神「いかなる犯罪でも天才的な能力を発揮し、罰せられることもなく歴史的な大悪人になれたはずだ」
神「にもかかわらず、善良で平凡な人生を全うしてみせたのだから……」
― 終 ―
コメント一覧 (10)
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- 2021年03月30日 16:18
- は?
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- 2021年03月30日 21:06
- 髪に特別愛されなければ世間の言う普通で当たり前の人生を歩むことはできないって話だと思ったら違った
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- 2021年03月31日 02:49
- 人間の才能というのは他人を蹴落とす才能である、というのが現代文明の大きな流れだからね。
無慈悲で自分のことだけ考えるからこそ大成する。
帝国主義というのはそうだし、貧民を飢えさせて財産をかきあつめる富豪も人間性は最低といえる。
そういうことを偉大だとする神をみんな信じてる。
多くの人はそのように言われて、自分はそんな神など信じていないと叫べるだろうか?
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- 2023年11月13日 14:43
- >>3
そりゃ働かなかったら貧民になって飢えるわ
なんでもかんでも金持ちのせいにして、自分の努力不足を転嫁させれば気は楽になるわな
待遇は変わらんけどな
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- 2021年04月02日 19:54
- ※3
理論が滅茶苦茶で話にならんわ
向上心もって努力、実行する人間が自堕落な馬鹿を越えていってるだけだろがアホか
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- 2021年04月13日 15:08
- >>4
その向上心のひとつに足の引っ張り合いがあるだけ
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- 2021年04月03日 15:57
- なんかヨブ記(?)を思い出した
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- 2021年04月04日 03:12
- 実際こういうことあるんかな
平凡に見える30半ばの会社員のおっさんだけど将棋覚えさせたらプロ顔負けみたいなさ
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- 2021年04月04日 03:43
- これが平凡?どう考えても勝ち組だろ
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- 2021年04月28日 03:21
- 神様にも読者にも気付かれずに悪事を働いてたってオチやぞ