渋谷のJK「オラじょす高生だっぺ! よろすくお願いすます!」
男「えっ……。俺、ああいうチャラチャラした連中苦手なんですよ。他の奴に……」
編集長「今のご時世、転職や再就職は難しいだろうなぁ……」
男「わ、分かりましたよ! 行きますよ、行けばいいんでしょ!」
編集長「いい返事だ! さっすがウチの雑誌のエース!」
男「よくいうよ……」
男(というわけで渋谷に来たが……女子高生は、と……)キョロキョロ
男(お、いたいた。顔もまあまあじゃないか)
男「ねえ、君」
JK「オラか?」
男「えぇと、渋谷の女子高生に取材したくて……」
JK「やったぁ! ついにオラにもこういうのが来ただか!」
男「あ、いや……ちょっと間違えたような……」
JK「間違えてねえべ! オラ、じょす高生だっぺ! よろすくお願いすます!」
男「よろしく、といわれても……」
JK「ささ、どんな取材でもお受けするだ!」ガシッ
男(JKらしからぬ腕力! とんでもないのに引っかかっちまった……)
男「ここで少し話を聞かせてもらおうかな」
JK「いんや~、オシャレなサ店だべ!」
店員「ご注文は?」
男「なに飲む?」
JK「牛乳!」
男「ミルクね。じゃあ店員さん、コーヒーとミルクを一つずつ」
店員「かしこまりました」
JK「本当だっぺ! ほら、こいつ見てけれ!」サッ
男(生徒手帳……ウソではないのか)
JK「オラ、生まれも育ちも渋谷だっぺ!」
男「“生まれ”も……?」
JK「すまね。ちょっと見栄張っちまっただ……」
男(見え透いたウソをつかないでくれ……反応に困る)
JK「なんでも聞いてけれ!」
男「んー……じゃあ趣味は?」
JK「趣味……」
男「例えば、カラオケ行ったりとか……」
JK「歌は好きだ! オラばりばりの演歌派だべ!」
男(演歌歌う女子高生なんて天然記念物じゃなかろうか)
JK「あと……モグラ叩きとか!」
男「モグラ叩き? ゲームセンターにでも行くの?」
JK「いんや、畑に出てくるモグラさブチのめすだよ!」
男(リアルモグラ叩きかよ……)
JK「もちろんするだ!」
男「へえ、家庭的なんだ。どんな料理?」
JK「えーと、おむすびとか、ぬか漬けとか、佃煮とか……」
男「なかなか渋いラインナップだね……」
JK「甘いのも作れるだ! おまんじゅうとか……きんつばとか……」
男(そういう意味じゃない)
JK「大好きだっぺ!」
男「もしかしてペットとか飼ってる?」
JK「飼ってるだ!」
男「犬? 猫?」
JK「もちろん牛だべ! こいつがめんこくてよぉ~」
男(酪農めいたこともやってるのかよ……)
男「貴重なお話ありがとう。今日はこの辺で……」
JK「……」シュン
男「え?」
JK「やっぱり……オラじゃダメか?」
男「な、なにが?」
JK「あんたの顔さ見れば分かる。あんた、ガッカリしてるだべな?」
男(う、鋭い!)
JK「やっぱりオラ、憧れの“渋谷のJK”にはなれねえだ……!」
男「お、おい、なにも泣かなくても……」
JK「父ちゃん母ちゃんに無理いって、渋谷の高校さ通うことにしただ」
男「……」
JK「だどもオラ、渋谷じゃどうしても浮いちまって……」
男(渋谷じゃなくても浮くと思う。それはもうルアーの如く)
JK「友達もなかなかできなくて……やっぱりオラ、ダメな子なんだぁ!」
JK「“渋谷のJK”にゃなれねえんだぁ!」
男「……」
JK「オラじゃ無理だったんだっぺな……」
JK「渋谷に来てもうかなりになんのに、いまだに渋谷さ馴染めてねえオラじゃ……」
男「……」
男「そんなことは……ないだろ」
JK「え?」
男「渋谷のJKが演歌歌っちゃいけない、牛を飼ってちゃいけない、だなんて誰が決めた?」
男「取材の狙いとは違ったから、さっきは話を切り上げようとしてしまったが」
男「俺は君が間違ってるとは思わない。ダメだとは思わない」
男「君はそのままでいいんだ。君は立派な渋谷のJKなんだから……」
JK「……!」
男「いやいや、君を泣かせた悪い人だよ」
JK「あんたに出会えてよかっただぁ……!」
男「涙拭きな。せっかくのミルクがしょっぱくなっちゃうぞ」
JK「あ、すまね」ゴシゴシ
男「そうだ、君の特集をさせてくれないか?」
JK「え、オラの?」
男「ああ……君のキャラクター性は十分記事になる! 君単独の特集記事を書いてみたい!」
JK「まず、朝起きたら乾布摩擦して……」
男「ふむふむ……」
男「座右の銘は?」
JK「一日一善、ご飯は五膳!」
男「ぷぷっ、いいね。なかなか面白い」
JK「ありがとだべ!」
JK「こっちこそ! 牛乳ご馳走になっちまって!」
男「これから社に戻って、記事にできるかどうか編集長にかけあうけど……」
男「なんとか説得してみせるよ!」
JK「よろすくお願いすますだ!」
編集長「どれどれ……」
編集長「え……『渋谷のオラオラ系JK』……!?」
男「はい、ぜひこの子の特集を組みたいんです!」
編集長「……」
男「お願いします!」
編集長「ふーむ、面白いかもしれん。やってみろ」
男「ありがとうございます!」
JK「おはよ……」
同級生「おっ、来た来た!」
JK「なんだべ……?」
同級生「雑誌見たぜ!」
女友「すごいじゃん! こんな有名な雑誌に特集されるなんて!」
JK「え……!」
ワイワイ…
同級生「あんまり話したことなかったから、お前のことよく知らなかったけどすげーな!」
女友「ホント! 今度ぬか漬け食べさせてよー!」
ワイワイ…
「今度一緒にカラオケ行こうよ!」 「もっと自分出してこうぜ!」 「牛見せてよ!」
JK「みんな、ありがとう……」
JK「男さん、雑誌読んだっぺ!」
男「どうだった?」
JK「最高だ! おかげでスタア気分を味わうことができただよ!」
男「よかった。かえってからかわれたりしたら、と少し心配だったんだ」
JK「そんなことねえ! みんな、すごいすごいって褒めてくれただ!」
男「喜んでもらえて俺も嬉しいよ」
男「なんだい?」
JK「オラの父ちゃん母ちゃんに会ってくれねえだか?」
男「え、どうして?」
JK「オラ、雑誌に載れただよって報告したいだ! できれば、男さんも一緒に……」
男「“故郷へ錦を飾る”ってやつか。いいとも、付き合うよ」
男「うーん……空気が綺麗だ」
JK「じゃ、狼煙でオラが帰ってきたことを知らせるんで」
男「狼煙!?」
JK「フーッ! フーッ!」
モクモクモク…
JK「父ちゃん母ちゃん、まだ“すまほ”持ってなくて……」
男(狼煙ってスマホより数段階前のような気がする)
母「雑誌見ただよ!」
JK「見てくれただか!」
父「おめえも立派になっただなぁ! ビックリしただよ!」
JK「んでな、今日は記者の人連れてきただよ!」
男「初めまして。娘さんには大変お世話になりまして……」
父「おお~、おめさんが娘をスタアにしてくれただか!」
母「ありがとうございます、ありがとうございます!」
男「……」モグッ
男「……」ポリポリ
男「これはうまい!」
父「いんや~、よくもまあオラの娘を記事にしてくれますた!」
男「いえいえ、こちらこそ。今時の女子高生を相手にするより、取材しやすかったですよ」
男「とても素直ないい子ですから」
父「そういってもらえるとありがてえべ」
男「はい、そうですけど」
父「娘にゃまだ男がいねえけんど……おめさんのような旦那がいりゃあ、心強い!」
男「え?」
母「おめさんら、いつ結婚するだか!」
JK「ちょっとぉ、父ちゃん母ちゃん、気が早すぎるだよ!」
男「ハハハ……」
母「んだんだ!」
男「いやいや、さすがに雑誌記者が女子高生に手を出したらマズイですよ!」
JK「ってことは……」
男「?」
JK「女子大生ならいいだべか……?」
男「まあ……いいかもしれない」
JK「んじゃ、オラ一生懸命勉強するだ! 大学さ入って女子大生になるだ!」
男「うん……頑張れよ! 応援してる!」
男「次号のダイエット特集の記事できました」
編集長「ご苦労」
編集長「ところで……例の渋谷のJKいただろ」
男「はい」
編集長「あの記事、かなり反響が大きかったが、その後彼女の追跡取材はしてないのかね?」
男「ええ、勉強の邪魔はしたくありませんし」
男「彼女が立派な“渋谷のJD”になるのを待ちますよ」
―おわり―
コメント一覧 (2)
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- 2021年03月09日 20:41
- かわいい
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- 2021年03月24日 16:53
- これはかわいい…!