女「今月の変人料金払ってよね」男「わ、分かってるよ……」
女「ちゃんとあるね。毎度!」
男「その代わり、頼むよ」
女「分かってるって」
男「俺たちの出番だ。今日も笑わせるぞ!」
女「いっちょやりますか」
ワアァァァァァ……!
女「あっぴょろーん!」
男「うわっ!」
女「ぴろぱろぷりぴれ! ぺろぱろぽろぷり! ぽらぷりぺれぱら!」
男「おい、もう漫才始まってるっての!」
女「ばびょーん!」
ワハハハハ… アハハハハ…
男「ちゃんと漫才しようよ!」
女「ぴょろぉぉぉぉぉぉん!」
男「お願いだから……」
女「あっぴゃらー! ぽっぺっぽー! ぶらぶらりんりんぶらりんりん!」
男「これじゃ漫才にならないよ!」
ワハハハハハ… ハハハハ…
二人は男女の若手お笑いコンビ。
女の“変人キャラ”が大ウケし、今や大人気となっている。
女「よろしくお願いしまーす!」
男「もう終わったから!」
ワハハハハ…
男「ありがとう、今日も大ウケだったよ!」
女「まあね。料金もらってるし、その分は頑張らないと」
男(とはいえ、この“変人料金”がかなり高いんだよな……)
女「あびゃらばぱーっ!」
男「何やってるんだよ!」
女「そりゃもちろん漫才してるんだけど」
男「ただ奇声を発してるだけじゃないか!」
女「きせぇぇぇぇぇい!」
ワハハハハ… アハハハハ…
男「どうもありがとうございましたー!」
女「ぼよよよーん!」
ワハハハハ…
女「うん、お疲れ」
女「ああそうだ、今度変人料金払ってよね。そろそろ支払日でしょ?」
男「……」
男「あのさ……そのことなんだけど……」
女「なに?」
女「は? バカいわないでよ」
男「!」
女「あたしたちがウケてるのは誰のおかげ? ここまで人気になったのは誰のおかげ?」
男「もちろん……君です」
女「そう、あたしのおかげ。あんたはただ、あたしの横で凡庸なツッコミしてるだけ」
女「極端な話、あんたはあんたじゃなくてもなんの問題もないの。その辺の高校生でもいい」
女「あたしがあんたからお金を受け取るのは当然のことだと思うんだけど?」
男「う、うん。その通り。ごめん、変なこといっちゃったよ……」
男「お前、真面目に漫才やれよ!」
女「ぴょろろろろろろろぉぉぉぉぉ!」
男「聞いてるのか!?」
女「ぴゃらららららららららぁぁぁぁぁ!」
男「変人でごまかすのやめろよ!」
ワハハハハ… アハハハハ…
男(そう……彼女の変人ぶりは誰も真似できない唯一無二のものだが、俺のツッコミはいたって凡庸……)
男(このコンビは九割以上彼女のおかげでウケてるといっていい。十割かもしれない)
男「なんだよそれ!」
アハハハハ…
女「なまむぎなまごめなまたまごーっ!」
男「急に早口言葉するなよ!」
ワハハハハ…
男(もし、彼女に見捨てられたら……俺は終わる)
男(だから、いわれるがまま変人料金を払い続けるしかないんだ……)
男「――本当ですか!?」
業界人「ああ……ぜひ出てみないか?」
男「もちろん出ますよ!」
男「お笑い芸人で、≪マンザイファイト≫に出ろっていわれて断る奴なんていませんって!」
業界人「よかったよかった。じゃあ、今や引っぱりだこの相方にも伝えてくれよ」
男「はいっ!」
男(まさか≪マンザイファイト≫への出場権を得られるなんて……)
男(ここで活躍すれば一気に俺たちの名も上がる!)
男「知ってるだろ。選ばれた芸人しか出られない、若手の大会の最高峰だ」
男「俺たちの力なら優勝だって夢じゃない!」
女「出てもいいけど……」
男「けど?」
女「その場合、変人料金はいつもの10倍もらわないとねえ……」
男「じゅ、10倍!?」
女「別にいいんだよ、払わなくても。出場しないだけだから」
女「だけど、そしたらあんたはどうなるかしらね」
女「あたしはピンでも子供番組、グルメ番組、情報番組のコメンテーターとたくさん仕事あるし」
男「くっ……!」
男(そうなんだ。彼女は決して“変人芸”だけのタレントじゃない)
男(頭がよくてトークも冴えてて、変人芸とのギャップも受けて、あちこちの番組で仕事を持ってるんだ)
男(別に俺とコンビ組まなくても、十分食っていけるんだ……)
男「……!」
男「わ、分かった……なんとか用意するよ」
女「決まり! それじゃ≪マンザイファイト≫頑張ろうね!」
男「うん……」
男「くそっ! くそっ! くそっ! 足元見やがって……!」
店主「お客さん、飲み過ぎですよ」
男「飲みたくもなるよ……だって、10倍だよ10倍! いくらなんでも……ひどすぎる!」
男「結局あの子にとって俺は、金づるでしかないってことか……!」
男(とはいえ、あの子がいなきゃ俺はなんの個性もないひと山いくらの駄芸人に過ぎない)
男(せっかくのチャンス、逃すわけにはいかない!)
男(こうなったら……!)
男(ほらいた!)
女「……ってわけなの」
女友「ふーん……」
男(俺は決心した!)
男(“10倍”はキツイから、せめて“5倍”にしてもらおうと!)
女友「10倍? いくらなんでもひどすぎない?」
女「ひどくないよ。それぐらいの荒療治しなきゃ彼は変わらない」
女友「変わらないって?」
女「あたしに頼ってばかりじゃダメって気づいてくれることよ」
女「だけどもしそれが飽きられたら……彼はどうなっちゃうと思う?」
女「あたしはまだ他の道があるけど……彼には今のところなにもない」
女「ここらで一皮むけてくれないと……」
女友「期待してるんだね」
女「まあね。あたしに堂々と『料金なんか払うか!』っていえるようになって欲しい」
女「あたしは……彼ならきっと変わってくれるって信じてる」
男「……!」
男(彼女は……俺を奮起させるために変人料金をせびってたのか……)
男(それなのに俺は“5倍にしてもらおう”だなんて、なんて情けない!)
男(俺は変わる! 彼女の相方に相応しい男になってみせる!)
ダッ!
女(スマホに……彼から……)
『しばらく旅に出る。≪マンザイファイト≫までには戻る』
女「……」
女「ふふ、ようやく気づいてくれたのかな」
男「よーし、100人組み手ならぬ100人ツッコミ開始だ!」
通行人「……」スタスタ
男「歩くの速いな! 競歩選手かい!」
通行人「え!?」
男「よし、一人目クリア、次は……」
通行人「なんなんだこいつ……」
男「煙草のポイ捨てしちゃダメー!」
チンピラ「なんだと!? 殴られてえか!?」
男「ダメーッ!」
チンピラ「す、すみませんでした……」
男(これで……50人達成!)
老婆「はい?」
男「おばあちゃんなのに元気すぎー!」
老婆「はいはい、元気ですよ」
男「ついに100人ツッコミ達成だ! 次は……」
男「……」ゴクッ
男(やってやる。人類史上初、野生のヒグマへのツッコミ……)
ヒグマ「ガァッ!」
男「日本語喋れや!」
ヒグマ「……!」ビクッ
ノソノソ…
男「勝った……!」
男(だが、俺の旅はまだまだ終わらない……! 彼女と肩を並べるために……!)
女(遅い……。もうすぐ会場に入らなきゃいけないのに……)
男「……」ヌウッ
女「わっ!」
男「待たせたな……」
女「すごい格好だね……いったい何をやってたの?」
男「修行の成果を見せてやるよ」ニヤッ
司会者「続いては今大ブレイクしてるこのコンビです! どうぞー!」
女「ぴゃぴゃぴゃらー!」
ワハハハ… アハハハ…
女「ぴっぴろぴー! べろべろべろーん!」
男「……」
女(あれ? ツッコミを入れてこない……?)
男「人、動物、魚、果てはロボット、遺跡、微生物……あらゆるものにツッコミしてきた……」
男「今、その成果を見せてやるッ!」
ザワザワ… ドヨドヨ…
女「え……? え……?」
男「これが……これがッ!」バッ
ギュルルルルルルルッ!
男「俺の到達した……究極のツッコミだァァァァァッ!!!」
シュゥゥゥゥ…
女「頭から地面に……!」
男「どうだ?」ムクッ
女「無傷……!」
男「まだまだ続くぞ! 俺のツッコミは!」
女「ふん……負けてたまるもんですか! ぴゃらぁぁぁぁぁ!」
観客A「これは……漫才なのか?」
観客B「いや、そういうのを超越した……もっと別の何かだ!」
観客C「すげえ……! よく分からんけどとにかくすげえぜ……!」
ワハハハハハ…
司会者「このお二人です!」
女「ありがとうございまーす!」
男「……」
司会者「惜しくも優勝は逃しましたが、お二人ともすごいことになってましたねー」
女「ええ、こんな賞を頂けて嬉しいです!」
男「……」ギュルルルルルッ
女「こんなところで回らないでよ!」
アハハハ…
男「そうだな」
女「はいこれ」
男「これは……?」
女「今までにもらった変人料金」
女「もし、あんたが一皮むけてくれたら……全額返そうって思ってたから」
男「……」
男「今から現金を寄付しにいきますので、よろしくお願いします」
女「ちょっ、なにやってんの!?」
男「旅をして分かった……。この世界にはまだまだ笑えない環境にいる人が沢山いる」
男「だからこの変人料金は……恵まれない人のために使うのさ! 人を笑わせる芸人としてね!」
女「ふふっ、あたしよりあんたの方がよっぽど変人だったみたいね」
おわり
コメント一覧 (3)
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- 2021年03月04日 02:19
- 勢いで草
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- 2021年03月07日 04:35
- 感動をありがとう
シチュエーションじゃなくてSSじゃね?