神「美少女JKの自転車のサドルに転生させてやろう」男「ありがとうございます!」
- 2021年02月17日 21:00
- SS、神話・民話・不思議な話
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男(おっ、綺麗な髪した女発見! 顔を見たいな……)
男(なんだよ、髪が長いだけで男かよ! ――あっ!)ガッ
男(タイヤが――、段差に引っかかっ――、体ひっくり返――、やべっ、頭から――)
ゴッ!
…………
……
神「ワシは神じゃ」
男「神様……? なんで……?」
神「おぬし……死んだぞ」
男「マジですか!?」
神「よほど打ちどころが悪かったのだろう」
男「そんなぁ……」
神「ワシも多くの人間を見てきたが、ここまで間抜けな死に方をした人間はそうそうおらんぞ」
男「ううう……人生これからだったのに……」
神「そこでだ。あまりに惨めで哀れなので……おぬしを転生させてやることにした」
男「えっ、ホントですか!? 今流行りの!?」
神「おぬしの経歴を調べたが、犯罪こそしとらんがなかなかのスケベ心の持ち主のようだ」
男「いや、そんなことは……」
神「隠さんでよい。ワシは全てお見通しじゃ」
男「えへへ……」
神「というわけで、おぬしは自転車事故で死んだし、おぬしを美少女JKの自転車のサドルに転生させてやろう」
男「ありがとうございます!」
男(さすが神様、俺の好みを分かってやがる!)
男「最高っすよ!」
神「しかも、持ち主と絆が芽生えれば、意志疎通することも可能になるであろう」
男「ってことはサドルと人間の禁断の恋も夢じゃないってことですか!」
神「おぬしの努力次第でな。では、美少女JKのサドルとして復活するがよい!」
男「ワーイ!」
…………
……
サドル「…………」
サドル(マジだ、マジで自転車のサドルに生まれ変わってる! さて、持ち主は――)
JK「さて、と……」
サドル(可愛い! 俺好み! 文句なし! やった! 早く座ってくれ~!)
サドル「……へ? お別れ?」
サドルの声は人間には聞こえない。
JK「お父さん、すぐ飽きないでよね」
中年「ありがとう。たくさん乗って、しっかり痩せてみせるよ」
JK「頑張って! 少しでもたるんだお腹引き締めてよ!」
サドル「……は?」
中年「よろしくな、マイバイシクル!」
サドル「はぁぁぁぁ!?」
サドル「たしかに美少女JKの自転車のサドルになったけど……」
サドル「転生した直後、その自転車の持ち主はおっさんになっちまったじゃねえか!」
サドル「こんなの罠だ! インチキだぁ! 転生をやり直せぇ!」
シーン…
サドル「ううう……返事がない。ただのしかばね……いや死んだのは俺か」
中年「明日から通勤で使わせてもらうかな」
サドル「使うんじゃねえ!」
中年「さて、記念すべき初自転車出勤だ」
サドル「勘弁してくれ……」
中年「ちょっと緊張するなぁ」
サドル「乗るんじゃねえええええ!」
中年「よいしょ、と」ドスッ
サドル「うわああああああああああ!」
サドル(おっさんの尻が俺の上にぃぃぃぃぃ……)
JK「お父さん、立ち漕ぎは危ないからダメだよ」
中年「分かってるよ」
サドル「立って! 立って下さいお願いします!」
キコキコキコ…
中年「うん、いい。調子がいい」
サドル(うげえ……走るごとにおっさんの尻の肉がうごめく……)
キコキコキコ…
中年「自転車乗るのは久しぶりだけど忘れないもんだなぁ」
サドル(おっさんのサドルに転生って……これなんて地獄……!?)
サドル(俺、なにか悪いことしましたっけ? たとえば前世で……)
サドル(いや前世は“俺”だったんだから、前々世がよほどの凶悪犯だったとか?)
サドル(だからって、こんな仕打ちはあんまりすぎる!)
サドル「助けてくれえええっ……!」
キコキコキコ… キキッ
中年「ここに自転車を置くとしよう」
サドル(公営の駐輪場か? やっと解放された……)
中年「朝から自転車漕いだから、今日は調子がいいぞぉ!」
サドル(俺の調子は最悪だよ……)
サドル(自転車が止まってる間はこうして待ってなきゃいけないのか)
サドル(不思議なことに“退屈”は感じないな)
サドル(人間じゃなくサドルになったから、退屈を感じる感覚が鈍くなったんだろうか)
サドル(そうでなきゃ大変だもんな。止まったまま何時間も待ってるなんて)
サドル「…………」
サドル「……ん?」
ニット帽をつけた男が、停めてある自転車に何やら細工をしている。
サドル(なにやってんだ、あいつ? 遠いからよく分からん)
サドル(まあいいか……)
サドル(俺はしがないサドル……人間が何をしようと気にしないのさ)
中年「さ、帰るぞ。マイバイシクル!」
サドル「うげえ……」
キコキコキコ…
中年「ただいまー」
JK「お父さん、私の自転車どうだった?」
中年「乗り心地最高!」
サドル「乗られ心地最悪!」
中年「行ってきまーす」
キコキコキコ…
サドル(はうう……おっさんの尻肉が俺にグイグイくる!)
サドル(これ……世界中のスパイ組織が取り入れるべきだと思う)
サドル(拷問として!)
中年「今日も快調!」
キコキコキコ…
サドル(毎日毎日俺に座りやがって。マジいい加減にしろよ。このおっさん)
サドル(そうだ……ちょっと揺さぶってみるか!)グラグラ
中年「お?」
サドル「降りろ降りろ降りろぉ!」グラグラグラ
中年「なんだ、揺れてる?」
サドル「どうだ、気味悪いだろ! 降りろ! 自転車乗るのやめろ!」
中年「き、効くっ! これはお尻によさそうだ!」
サドル(逆効果だった!)
妻「あらお父さん、どうしたのそのカッコ? オシャレなジャージ着ちゃって」
中年「今日はたくさん自転車で走ろうと思ってな」
妻「すっかり自転車にハマっちゃったわね」
中年「そのうち、自転車で日本一周するのも悪くないかもしれん」
JK「お父さんかっこいい~!」
サドル「日本一周!? 冗談じゃねえぞ!」
中年「よしよし、今日はいっぱい走ろうな」ナデナデ
サドル「…………!」
サドル(なでるんじゃねえ、キメエ!)
キコキコキコ…
中年「自転車に乗るようになってから、体の調子がよくてね」
中年「会社の女の子からもスリムになりましたねって褒められたんだよ」
サドル「あーそう、よかったね」
サドル(ったく自転車に話しかけるんじゃねえよ、おっさんが。植物じゃねえんだからさ)
サドル(女の子に褒められただと? 本当は……本当は俺だって……!)
中年「!?」ビクッ
中年「な、なんだ?」キキッ
サドル「え……?」
中年「今の声、どこから……?」
サドル「おっさん……俺の声が聞こえたのか?」
中年「サドル……? サドルから声が……?」
サドル「……おう」
中年「サドルが喋った!」
中年「なんでぇぇぇぇぇ!?」
サドル「うるせぇぇぇぇぇ!」
中年「ひっ!」
サドル「まさか、俺の声が届くようになっちまうとは……」
中年「君は……何者なんだ?」
サドル「全部話すよ……。俺が何者なのか、なんでこうなったのか……」
中年「私もこういう現象は初めてだし、分かりやすく頼むよ」
…………
……
サドル「ああ、そうなんだ」
サドル「美少女のお尻を堪能できるはずだったのに……」
中年「すまん。私が娘から自転車をもらったばかりに……」
中年「――って、ちょっと待て!」
中年「そうじゃなかったら、今頃貴様は娘のお尻を堪能していたということか!」
サドル「そうだよぉ! 今すぐこの自転車娘に返せ!」
中年「絶対ダメだ!」
ギャーギャーッ!
サドル「ハァ、ハァ、ハァ……おっさんとマジ喧嘩してしまった」
サドル「で、どうするよおっさん。こんな呪いのサドル、とっとと捨てちまうか?」
中年「……いや、それはしない」
サドル「なんだと?」
中年「君は一度死んでしまって……今は第二の人生を歩んでるのだろう?」
サドル「人生っつーかサドル生だけどな」
中年「だとしたら、無下にはできんよ。私は持ち主として君を責任持って最後まで管理する」
サドル「ホントか! さっそく娘さんを俺に座らせ……」
中年「それはダメ!」
中年「ん?」
サドル「おっさん、自転車乗る時はヘルメットつけた方がいい。俺は頭打って死んだからな」
中年「…………」
中年「そうだな、そうさせてもらうよ」
サドル「これからもよろしくな、おっさん」
中年「よろしく」
妻「お帰りなさい。あら、どうしたのそのヘルメット?」
中年「自転車でこけた時危ないからな、買ってきたんだ」
妻「あらま、ずいぶん本格的ねえ」
中年「せっかくのアドバイス、聞かなきゃもったいないからな」
妻「アドバイス? 誰から?」
中年「サド……え、えーとあれだ。会社に自転車に詳しい同僚がいるんだよ」
いつものように通勤に自転車を使う。
中年「じゃ、行ってくるよ」
サドル「行ってらっしゃい」
サドル「…………」
サドル(まさかおっさんと会話できるようになるとは……)
サドル(ってことは俺、あのおっさんと絆が芽生えちゃったってことか!? 冗談じゃねえ!)
サドル(まあ、たしかに悪いおっさんではないけどさ……)
サドル「ん?」
サドル(この野郎、前もここに来てたような……)
ニット帽「今日はどれにしようかな……」
サドル(自転車を物色してる……? なにするつもりだ?)
ニット帽「今日はこいつでいいか」
ブスッ!
男はタイヤにアイスピックを突き刺した。
サドル(こいつ、自転車をパンクさせてやがるのか! なんて地味な……だけどえげつねえ!)
サドル(この駐輪場、カメラないしな……こいつのやりたい放題だ!)
ニット帽「…………」キョロキョロ
サドル(なんとか退治してやりたいが……サドルの俺にゃこいつに声かけることも通報もできねえ)
ニット帽「どれにしようかな……」
サドル(よぉし……)ガタガタガタ
サドルが揺れる。
ニット帽「……ん?」
サドル「俺に乗れ……俺に乗れ……」ガタガタ
ニット帽「このサドル、勝手に動いたぞ?」
サドル「俺に乗れ!」ガタガタ
ニット帽「今はこういう自転車もあるのか。面白そうだ、ちょっと乗ってみるか」
サドル「かかった!」
サドル「せーのっ!」
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ…
サドルのフルパワー振動。
ニット帽「お゛っ!?」
ニット帽「おおおおおおおっ!?」
サドル「トドメだッ!」ガタンッ!
ニット帽「おふうっ!」
ニット帽「…………」ドサッ…
ニット帽「あへ……あへあへ……」
サドル「俺に座ったのが……運の尽きだ」
『アリガトウ……』
『ヨクヤッタ……』
『スゴイ……』
サドル「!」
サドル(この声は……もしかして他のサドルの声?)
サドル(そうか……流石に俺みたいに元人間ってことはないだろうが)
サドル(サドルにも意志みたいなもんはあるんだな。で、こういう声を聞くこともできるってことか)
ちなみにこの犯人、アイスピック片手に倒れてるところを通報され、警察に逮捕された。
中年「私に乗られるのがそんなに嬉しいのかね?」
サドル「んなわけあるか!」
サドル「ただ……今日は人助けならぬチャリ助けをできたからな」
中年「いいことじゃないか。情けは人のためならず、というからな」
中年「今日体験したことがいつか役立つかもしれないぞ」
サドル「だといいけどな」
シャーッ…
サドルも少しずつ、自分の境遇に生きがいを感じるようになっていった。
シャーッ
中年「今日みたいな天気は絶好の自転車日和だね」
サドル「ああ、サドルの俺も気持ちいいや」
中年「たまにはいつも行かない方へ行ってみようか」
サドル「そりゃいいな!」
中年「ふぅ、ふぅ……」
サドル「大丈夫か? ここら辺は坂が多くて、バイクや競技用の自転車じゃないとキツイだろ」
中年「しかし、これもいい経験になるさ」
中年「ん?」
ギャハハハ… ハハハ…
サドル「ほら見ろ、あの店。バイク乗りの溜まり場になってる」
中年「それもどうやらちょっと悪そうな連中だねえ」
中年「!」ビクッ
サドル「!」ギクッ
中年「い、行こう!」
サドル「早く! 早く漕いで!」
キコキコキコキコキコ…
サドル「暴走族……ってわけでもないだろうがチンピラの集まりだな」
中年「触らぬ神に祟りなしだね」
サドル「今日はちょっとハラハラしたよ」
JK「あ、お父さんお帰り!」
中年「どうだ? このヘルメット」
JK「いいじゃんいいじゃん、競輪選手みたい!」
中年「ありがとう」
サドル(マジこの子可愛いよなぁ、妹とは大違いだ)
JK「たまにはそっちにまた乗ってみたいなーなんて」
中年「!」
中年「ダメだぞ、ダメダメ! この自転車に乗ることは許さん!」
JK「相当気に入っちゃったんだね」
サドル「おっさぁん……」
中年「フッ、そう簡単に娘の尻は渡さんぞ!」
サドル「くそう……いつか味わってやるからな!」
サドル(だけど、おっさんとつるんでるのも悪くないと思うようになってしまった)
中年「フフフ、コンビニでチキンを買ってしまったよ」モグモグ
サドル「おっさん、買い食いしたらせっかく痩せたのにリバウンドしちゃうぞ」
中年「固いこというなって。ところでサドルは食欲ってないのか?」
サドル「全くないな。ていうかあっても食う方法ないし」
中年「私もサドルになれば、太る太らないを気にせず済むのにな」
サドル「間抜けな死に方すればなれるかもしれないぞ」
キコキコ…
中年「ただいまー」
妻「あなた……」
中年「どうした?」
中年「えっ! 今日は予備校じゃないのか?」
妻「今日は予備校の日じゃないわ」
中年「電話はかけたのか?」
妻「繋がらないの」
中年「だとしたら、友達と遊んでるとか……」
妻「心当たりはあたったけど、いないっていうの」
妻「あの子、遅くなる時はいつもちゃんと連絡するし、心配で……」
妻「二人?」
中年「い、いや、一人の間違いだった。母さんは……念のため警察に連絡してくれ」
妻「分かったわ」
中年「何事もなければいいんだが……」
中年「話は聞いてたかね?」
サドル「おう。とりあえず、あの子の高校周辺を走り回ってみるか」
娘の捜索を開始する。
中年「うーん……やはりどこを捜してもいない……」
中年「まさか、事故にでもあったんじゃ……」
サドル「あんなしっかりした子なんだ。俺みたいなことにはそうそうならないって!」
中年「君がいてくれて心強いよ」
サドル「だけど、手掛かりがないのはな……」
中年「例えば、あそこの乗り捨てられた自転車……」
中年「何かを目撃したりしてないだろうか……発想がメルヘンすぎるか」
サドル「!」ハッ
中年「え?」
サドル「ちょっと……聞いてみる。あのサドルに」
中年「そんなことできるのかね?」
サドル「一度サドルの声を聞いたことがあるんだ。もしかしたら、やれるかも!」
サドル(そこのサドル……サドル……)
サドル(女の子……見てないか!? ほんのちょっとこのおっさんの面影がある可愛い女子高生を……!)
『…………』
サドル「!」
『オレタチトコイ……オドサレテ……』
『コトワッタケド……ツレテカレテ……』
サドル「…………!」
サドル「ありがとぉぉぉぉぉ!!!」
中年「ど、どうしたんだね!?」
サドル「おっさん! もしかしたら、あの子はさらわれたのかもしれない!」
中年「なんだって!?」
サドル「どんな奴だった!?」
『バイクノッテル……ワルソウ……』
サドル「バイク乗ってる、悪そう……」
中年「…………」
中年「ひょっとして……彼らでは?」
サドル「行ってみる価値はありそうだな!」
サドル「ありがとよ!」
『ヤクニタテテ……ウレシイ……』
数台のバイク。数人の非行少年。そして――
JK「お願い……帰して……」
DQN「つれないこというなよ。夜は長いんだ」
不良「今夜はたっぷり楽しもうぜ~?」
金髪「もうちょい夜が更けたらマジで人通りなくなるから……そしたら“お楽しみ”だな」
ヒヒヒ… ハハハ…
JK「そんな……」
シャーッ
中年「はぁ、はぁ、はぁ……」
サドル「おっさん、あいつらまた溜まってるぜ!」
中年「ひぃ、ひぃ、ひぃ……」
サドル「頑張れ!」
中年「ああ、分かってる。コレステロールパワーを見せてやる!」
サドル「その意気だぁ!」
中年「ちょっと待ったぁ!」
DQN「あ?」
JK「お、お父さん……!」
中年「娘を……放しなさい!」
DQN「お父さん……? マジか、オヤジ来ちゃったよ」
金髪「よく居所が分かったな。親の愛ってヤツかぁ?」
中年「なんでもいい。娘を返したまえ!」
バキィッ!
中年「ぎゃっ!」
金髪「ぎゃっ、だってよ。ダッセェ~」
ハハハハ… ヒャハハハ…
サドル「おっさん!」
JK「お父さぁん!」
サドル「おっさん!」
中年「!」
サドル「俺を使え!」
中年「使うって……?」
サドル「サドルは……取り外せるだろ?」
中年「そうか!」
サドルを自転車から外す。
DQN「おいおい、んなもんでどうしようってんだ?」
ヒャハハハ…
中年「分かった!」
ブンッ!
ギュルルルルルルルッ!
投げつけられたサドルは――
バキッ! ドカッ! ガッ!
「ぐあっ!」 「いでぇっ!」 「ぐえっ!」
ブーメランのように敵を打ちのめす。
DQN「なんだとォ!?」
DQN「え……!?」
中年「正義の味方“サドルマスター”だ!」
DQN「サドルマスター……!」
中年「もいっちょ!」ブンッ
ギュルルルルルルッ!
DQN「うわぁっ!」
サドル「世の中色んなマスターがあるけど、かなりしょぼい部類だと思うぞ」
中年「なぁに、どんな分野でもマスターってのはすごいものさ」
JK「うん!」
キコキコキコキコキコ…
二人乗りで逃げる。
中年「ひぃ、ひぃ、ひぃ」
サドル「頑張れおっさん!」
DQN「ク、クソが……! チャリで逃げれると思うなよォ!」
中年「ひい、ひい、ひい!」
キコキコキコ…
DQN「待ちやがれぇぇぇぇぇ!」
ブオオオオオッ!
中年「ダ、ダメだ、追いつかれる!」
サドル「おっさん俺を投げろ! あのバイクこけさしてやる!」
中年「とても走りながらじゃ……!」
DQN「もう追いつくぞぉぉぉぉぉ! 蹴り倒してやる!」
ブオオオオオッ!
DQN「……え?」
中年「パ、パトカー!」
パトカー「そこの二人乗りの自転車と、ノーヘルのバイク、止まりなさい!」
DQN「や、やばっ……!」
中年「どうしてパトカーが……?」
サドル「きっと奥さんの通報で、パトカーが見回りに出てくれたんだ!」
中年「助かったぁ……!」
…………
……
JK「さっきのお父さん……かっこよかったよ」
中年「いやいや」デレッ
JK「それとさっきのサドル、まるで生き物みたいだったね」
中年「え、いや、まあね」
JK「サドルもありがとう! ……なーんて」
サドル「いやいや」デレッ
中年「鼻の下伸びてるぞ」
サドル「俺に鼻はないっての」
中年「いーや、絶対伸びてる」
サドル「うん、きっと伸びてる」
……
事件から二週間後、中年は遠出をしていた。
キコキコキコ…
中年「ふんふ~ん」
中年「これだけ長時間漕いでるのに、全く苦じゃないよ。私も成長したもんだ」
サドル「…………」
中年「どうした?」
サドル「あ、いや、懐かしいなって思って……」
中年「懐かしい? もしかして、この辺りは――」
サドル「ああ、俺、この辺りに住んでたんだ……」
中年「! そうだったのか……」
中年「…………」
サドル「手を合わせてくれてありがとよ、おっさん」
中年「当然のことさ」
サドル「こういうの見ると、改めて俺は死んじゃったんだなって感じるよ」
中年「……なぁ」
サドル「え?」
中年「君の家族のところに……行ってみないか」
サドル「!」
中年「あの家かね?」
サドル「うん……あそこに住んでた。俺と両親と妹の四人暮らしで」
中年「…………」
サドル「一目見たらなんだかスッキリしたし帰ろ――」
中年「よし、寄ってみよう!」
サドル「ハァ? 寄ってみるって、おっさん俺の家族と接点ないだろ!」
中年「理由なんかどうにでもなるさ」
サドル「母さんだ……!」
中年「行こう」
サドル「まだ心の準備が……」
中年「あの、すみません」
母「……はい? どちら様ですか?」
中年「初めまして。私、息子さんと交流をしていた者で……」
中年「このたび亡くなられたと聞いて、線香を上げさせてもらえないかと……」
母「まあ……中へどうぞ」
サドル(母さん……やつれたなぁ)
中年(もちろん、サドルも持って行かないとな)
母「お兄ちゃんと縁がある人だって」
妹「兄さんと……」
中年「どうも、初めまして」
中年「おいおい、君の妹、なかなか可愛いじゃないか」ボソッ
サドル「どこがだよ。ただのガリ勉女だよ」
中年「たしかに君と違って真面目そうだ」
サドル「ほっといてくれ」
父「近くにいた男性がすぐ救急車を呼んでくれたんですが……残念ながら」
母「…………」
中年「そうでしたか……」
サドル(俺が間違えて見とれたあの人、救急車呼んでくれたんだな。なぜかちょっと嬉しい)
父「ところで、息子とはどのような?」
中年「私が自転車を故障させて困っていたら、息子さんがたまたま通りがかって……」
中年「このサドルをくれたんです。その時、ちょっとした知り合いのような感じになって……」
全くのデタラメだったが、疑われることはなかった。
父「そんな人助けをしていたと知って、嬉しいです」
中年「息子さんは本当にいい青年でした。私のようなおっさんとも気さくに話してくれて」
中年「どこに出しても恥ずかしくない、立派な若者だったと思います」
サドル「褒めすぎだって、おっさん!」
中年「早くに亡くなったのが本当に惜しい……そう断言できます」
父「そうおっしゃって頂けると、私たちも救われます」
母「だけど……だけど生きてて欲しかった……。生きて……」
父「母さん……」
サドル「…………!」
サドル「バカな死に方しちゃって……ごめんよぉ……!」
サドル「うっ、ううっ、うっ……!」
父「はい?」
中年「実は先日、私の夢の中に……息子さんが現れたんです」
父「え……?」
中年「息子さんは、私の口を通じてご家族にお伝えしたいことがあるというのです」
中年「何をバカなことをと思うかもしれません。ですが聞いて頂けないでしょうか?」
サドル「お、おっさん!」
中年「いいから。伝えたいことがあるなら……」
サドル「……分かったよ」
中年「だけど今は楽しく暮らしてる。毎日が楽しいよ」
中年「だから心配しないで……元気出して。そういってました」
父「そう……ですか」
母「ありがとう……ございます」
中年「それと妹さんにも」
妹「え?」
中年「勉強もいいけど、たまにはパーッと遊べよ」
中年「だけど、お前は俺よりしっかりしてるから安心できる。……と」
妹「なんだか、本当に兄さんみたい……」
家族は一切否定せず、このメッセージを受け取った。
中年「…………」
中年「あ、あのっ!」
父「なんでしょう」
中年「実は……実はこのサドルにはあなた方の――」
サドル「おっさん!」
中年「!」
サドル「それは……やめてくれ」
サドル「三人とももう、俺の死を乗り越えてる。それに俺はもう死んだ人間だ」
サドル「ここで正体バラしちゃうのは、なんていうか、いびつな事だと思うから……」
中年「分かった……そうしよう」
中年「えぇと、最後にこのサドルに……触ってもらえませんか?」
父「え?」
中年「お願いします」
父「分かりました」
母「息子が人助けした証のサドルですもんね」
妹「兄さん……」
家族の手の温もりを感じ――
サドル(おっさん……ありがとう)
父「ええ、ぜひ」
母「そのサドルも一緒に。なんだか他人の気がしなくて……」
中年「もちろんです」
妹「もしまた兄さんが夢に出てきたら伝えて下さい。絶対いい大学入ってやるからって!」
中年「必ず伝えます」
サドル(お前なら絶対合格できる! 俺みたいにこけることはないさ!)
中年「では、今日はこれで失礼します」
中年「どうだった? 久々の実家は」
サドル「やっぱり親が泣いてるのを見るのはつらいな」
中年「すまなかった」
サドル「謝ることないって。むしろ感謝してる」
中年「今日は特別に娘を座らせてあげてもいいぞ?」
サドル「いやいやいや、このムードで『ぜひお願いします!』とはいえんでしょ」
中年「それが分かってるから聞いたんだよ」ニヤッ
サドル「ったく……。楽しみは後にとっとくわ」
中年「こっちこそ」
サドル「そのうち、二人で日本一周するのもいいかもな!」
中年「定年後の楽しみが一つ増えたよ」
シャーッ
―おわり―

コメント一覧 (12)
-
- 2021年02月17日 21:42
- え? ブロッコリーにすり替えられるんじゃないの?
-
- 2021年02月17日 22:31
- おっさん版キノの旅
-
- 2021年02月18日 13:39
- 新品じゃないなら転生ではなくて憑依なのでは……?
-
- 2021年02月18日 15:17
- びっくりするほどつまらん
-
- 2021年02月18日 16:42
- 擬人化剣山軍団「よーし、皆で大活躍するぞ~!!」(大躍進)
-
- 2021年02月18日 21:47
- いいヒューマンドラマ、いやサドルドラマだった
-
- 2021年02月18日 22:43
- 変態キモ男に盗まれて舐め廻されたり*に挿入れらりたりすると思ってたわ
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- 2021年02月20日 10:03
- タイトルからは想像できない酔いしれサドルストーリーだった…
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- 2021年02月23日 23:33
- ちょっとサドル取ってくる
-
- 2021年02月27日 20:36
- 変態男に精◯ぶっかけられる展開入ってると思ったのに、なかった(ㆀ˘・з・˘)
-
- 2021年03月02日 10:05
- 面白かった
-
- 2021年03月04日 06:43
-
ギャグみたいな設定でも良い話って書けるんだな
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