女王「ちょっと待って!ギロチンはやめて!刃を落とさないで!」
大臣「政治を顧みず、贅沢ばかりしてきたからです」
女王「そりゃたしかに贅沢はしたけどさ……だからっていきなりギロチンはないんじゃないの!?」
女王「せめて裁判挟むとかさ。手順踏みなさいよ手順!」
大臣「思い立ったが吉日といいますし」
女王「私にとっては大凶よ!」
大臣「じゃ、落としますね」
ザンッ!
ゴロン…
女王「大臣、こんなことしてタダで済むと思ってんの!?」
大臣「裁判もせずいきなり国家元首をギロチンとかメチャクチャですよね。立派な謀反です。自分が怖い」
女王「そうよ! このことが明るみに出たら、あんたの首も飛ぶわ!」
大臣「しばらくは女王様のお体の方に、代わりの首をつけて代理女王となってもらいます」
女王「代わりの首?」
大臣「これです」サッ
女王「“へのへのもへじ”じゃねーか!」
大臣「つけまーす」
女王の体「……」ピース
女王「ピースしてんじゃねえ!」
大臣「それはダメです。しばらくその状態でいて、ちゃんと反省したらくっつけてあげますよ」
女王「反省!? 私になにを反省しろってのよ!」
大臣「それじゃ……」ヒョイッ
女王「なにすんのよ?」
大臣「投げるんですよ、首だけになったあなたを。これでも遠投は得意科目なんでね」
女王「は!? や、やめ――」
大臣「行ってらっしゃい」ポイッ
女王「いやぁぁぁぁぁっ!!!」
女王の体「……」バイバーイ
女王「いてて……!」
女王「この路地は……城下町ね? 見覚えがあるわ……」
女王「くそっ、大臣め。城に戻って体を取り戻したら、ギロチンで千切りにしてやる……!」
女王「んでもってトンカツと一緒に食って――」
少年「うわっ、なんだこれ!?」
ワイワイ…
女王(子供の集団……!)
坊主頭「人の生首だ……!」
女王「ただの人じゃないわよ。私は女王なのよ!」
少年「ふーん……」
坊主頭「なに?」
少年「サッカーやろうぜ! 女王がボールな!」
坊主頭「そりゃいいな!」
女王「ちょっ!?」
少年「じゃ、さっそくキックオフだ!」ボンッ!
女王「ぐはっ!」
女王「痛い痛い痛い!」ゴロンゴロン
少年「シュートッ!」
ドカッ!
女王「いでえっ!」
キーパー「うわぁっ!」
少年「ゴール!」
女王(こいつら……私をドリブルするわシュートするわ好き勝手しやがって……!)
坊主頭「それそれっ!」
女王「うまいわ! いいドリブルよ!」ゴロンゴロン
坊主頭「それっ!」ポーンッ
女王「ナイスパス! チャンスよ!」
子供「うわっ!」スカッ
女王「なーにやってんの! 絶好のシュートチャンスだったのに!」
子供「急にボールが来たので……」
女王「サッカーに“急”なんて言葉はないのよ! フィールドの主役は常に自分だと思いなさい!」
子供「はいっ!」
女王「いい返事だわ! さ、スローインよ! 早く私を投げなさい!」
坊主頭「そうだな」
子供「女王様、楽しかったです!」
女王「私もよ」
少年「じゃーねー!」
ワイワイ…
女王「ふふっ、サッカーのボールってのも案外楽しいものね。だけど……」ゴロンゴロン
女王(城下町には広場があるはずなのに、なんでこんな路地でサッカーしたのかしら……?)
女王「……ん?」
少女「お花、いりませんか……。お花、いりませんか……」
女王「あら花売りさんね」
少女「きゃっ! 生首!?」
女王「失礼な、私は女王よ」
少女「女王様だったんですか。なんで首だけに?」
女王「んー、色々あってね」
女王「ホントよね。せめて腰あたりから切ってくれればよかったのに」
少女「そうだ、髪にお花を飾ってあげます!」ソッ
女王「まぁっ、ありがとう!」
少女「いえいえ」
女王「だけどそろそろ家に帰った方がいいんじゃない? もう日が沈むわよ?」
少女「でも……」
女王(何か帰りたくない理由があるのかしら?)
少女「ただいま……」
父「ウ~イ……おう、稼げたか?」
少女「今日はこれだけ……」
父「これっぽっちか!? これじゃ酒代にもなりやしねえ!」
父「全部花が売れるまで帰ってくるなっていったよな? ええ!?」
少女「ごめんなさいっ!」
父「ひっぱたいてやる!」
女王「やめなさい」ゴロン
女王「私よ」ゴロン
父「わっ!? 生首!?」
女王「自分は働きもせずお酒かっくらって、娘に働かせて……情けないと思わないの!?」
父「うるせえやい! 俺だって……あんなことがなきゃ……」ヒック
女王「どんなことがあったって、子供に暴力振るう理由にはならないわよ!」
父「くっ、生首のくせに偉そうに!」
女王「だって私偉いもの。腐っても鯛、ギロチられても女王よ」
父「女王だと? だったら踏み潰してやる!」グワッ
少女「お父さんやめて!」
女王「ふんっ!」ギュンッ
ゴキッ!
父「ぶげっ!」
少女「ず、頭突き……!」
女王「女王たる者、頭も一流なのよ」ゴロン
父「あ、あうう……!」
父「俺だって……好きでこんな風になったわけじゃ……あうぅぅ……」
少女「お父さん、今夜はもう寝よ? ね?」
女王「……」
少女「お父さんは腕のいい家具職人だったんだけど……」
少女「ある仕事をしくじってものすごい罰金を支払わされて、お金も自信もなくしちゃって……」
女王「ある仕事って?」
少女「私もよく知らないけど、たしかお役所からの依頼だったって……」
女王「ふうん……私とは違う意味で首を切られちゃったわけか」
少女「だけど私、いつかお父さんは立ち直ってくれるって信じてるの!」
女王「そうね。私もそう願うわ」
少女「あ、そうだ。今晩は泊まっていって下さいな」
女王「ありがとう。恩に着るわ。首だけの女王を泊めてくれる宿屋は少なそうだし」
女王(ふぅ、とりあえずあの父子は落ちついたみたいだけど……)
女王(さて、どこへ行こうかしら)コロコロ
薬売り「薬~、薬はいらんかえ~」
女王「首から下を生やす薬はあるかしら?」
薬売り「わぁっ!? ど、どうしたんですか!?」
女王「ちょっとギロチンで斬首されちゃって」ゴロン
薬売り「そ、それは大変でしたね」
女王「で、あるの? 首から下を生やす薬」
薬売り「ありません……」
女王「残念」
女王「サッカーボールになったり、頭突きしたりしたから」
薬売り「無茶しすぎですよ」
薬売り「だけど、こういう傷なら僕の薬がよく効くと思います」ヌリヌリ
女王「ん……」
女王「まあ、痛みが引いていくわ!」
薬売り「でしょう? 数種の薬草を独自の製法で調合した一品なんですよ!」
女王「役場に届け出を出せば、店を出せるはずだけど」
薬売り「それが今は店を出すための代金がとても値上げしてましてね」
薬売り「こうやって路上で売るしかないんですよ」
女王「そうなの……」
女王「それじゃ、せめてもの恩返し。この店を繁盛させてあげる!」
薬売り「ええっ!?」
ザワザワ… ワイワイ…
「薬ください!」 「薬くれ!」 「軟膏ちょうだい!」
薬売り「す、すごい! お客さんがいっぱい来る!」
女王「異国の使者が来た時、この歌を歌うと客がよく来るようになるって教えてもらったのよ」
薬売り「へぇ~」
女王「ポポーポポポポ、ポポーポポポポ♪」
薬売り「ありがとうございました。おかげでたくさん薬が売れました!」
女王「たくさんポポったかいがあったわ」
薬売り「すっかりリズムを覚えちゃいましたよ」
女王「この調子でお金貯めて、自分のお店出してね」
薬売り「はいっ!」
女王(しかし妙な話だわ……)
女王(お店を出すのにそんなにお金がかかるなんて話、聞いたことなかったけど……)
ヒュゥゥゥゥ…
女王「ここは……?」ゴロンゴロン
女王(城下町にこんなところがあったなんて……)
浮浪者「なんだぁ? 人の生首が転がってる。俺もいよいよ幻覚見るようになったか」
女王「失礼ね、幻覚なんかじゃないわよ。現実よ」
浮浪者「そりゃ失礼した。で、お前さんは何者だ?」
浮浪者「ふうん。ま、ここはわけありが集まる場所だ。ゆっくりしていきな」
女王「ありがとう」
女王「この町に……こんな場所があるなんて知らなかったわ」
浮浪者「近頃の役人の苛烈な対応に、やってけなくなった奴らの吹き溜まりさ、ここは」
女王「役人……?」
浮浪者「ほら、今日も来てるぜ」
役人「フッ、相変わらず活気がないな。どいつもこいつも人生諦めたツラしてやがる」
役人「だからこそ……ストレス解消にちょうどいい」
衛兵A「おっしゃる通りですな」
衛兵B「どうせ城にバレることはありませんしね」
役人「一時期は城下町勤務に絶望もしたが、それも昔の話だ……オラァッ!」
ドカッ!
痩せ「ギャッ!」
役人「どうだ、痛いだろ? 抵抗してこい!」ドカッ! ドカッ!
痩せ「お許しを……お許しを……」
役人「そう惨めに命乞いすんなよ……もっと蹴りたくなっちゃうじゃねえか!」ドカッ!
女王「……!」
女王「なんなの、あいつはなんなの!?」
浮浪者「城下町の行政を担ってる高級役人さ」
浮浪者「元は花形の城勤めを希望してたらしいが、希望は叶わず城下を治めることになった」
浮浪者「ここへやってきては、抵抗できねえ俺らみたいな弱者を殴って蹴って憂さを晴らすのさ」
浮浪者「いや……最初は抵抗してたが、抵抗したらますますひどくなるだけだからな」
女王「なんて奴なの……!」
浮浪者「聞いた話じゃ……」
浮浪者「職人の仕事に難癖つけて法外な罰金払わせて私腹を肥やしたり……」
浮浪者「町に店を出す料金もぐーんと値上げしたり……もちろん、値上げ分は自分の腹ん中だ」
浮浪者「あと……ガキどもの遊ぶ広場も有料制にしたらしいぜ。とことんがめつい野郎だ」
女王「……」
女王(諸悪の根源はあいつだったんじゃない!)
ザッザッザッ…
女王「……」
女王「お願いがあるんだけど」
浮浪者「なんだい」
女王「私をある子供達のところに連れてって欲しいの」
浮浪者「おーう、お安い御用だ。女王陛下」ビシッ
少年「あっ、女王様!」
女王「あなたのサッカーの腕……いや足かしら。見込んで頼みがあるの」
少年「頼み……?」
女王「うん、この一件が上手くいけば、あなたたちを広場で遊ばせてあげると約束するわ」
少年「ホント!?」
女王「私をあの窓に蹴り込んでちょうだい」
少年「うん、分かった!」
少年「えいっ!」
ボンッ!
ヒュルルルルル…
女王「上手いッ! このフリーキックがあれば世界も狙えるわ!」
ボトッ
役人「……ん?」
女王「あなたの悪行は今日までよ」ゴロン
役人「な、なんだぁ!?」
女王「余の顔を見忘れたか。一度いってみたかったのよね~、これ!」
役人「……!」
役人「え、女王様……!? なんで首だけに!?」
女王「ちょっとギロチンされちゃってね」
女王「女王の名の下に成敗してあげるから覚悟なさい」
役人「ふ、ふざけるな! 首だけの分際でいい気になるなよ!」
役人「衛兵ッ!」
ダダダッ!
衛兵A「お呼びで」
衛兵B「何事でしょう?」
役人「この首を……地獄に送ってやれ!」
女王「牢獄に送られるのは……そっちよ!」
女王「遅いわね!」ギュンッ
ガツッ!
衛兵A「ギャッ!」
女王「そーら、こっちよ」コロコロコロコロコロ
衛兵B「わわっ!」ズデンッ
女王「スピン頭突き!」ギャルルルッ
ゴッ!
衛兵C「ぐはぁっ!」
女王「上官がだらしないからたるんじゃったのかしら」
役人「く、くそ……!」サッ
女王「ふうん、今時の役人はナイフを常備してるんだ」
役人「突き刺してやる!」シュッ
ガッ!
女王「……」
役人「歯で受け止めた!?」
女王「女王は……歯が命ってね!」
役人「た、たしかに!」
女王「分かったところでそろそろお仕置きといこうかしら」
役人「ひっ!」
女王「クイーン頭突きィ!」ギュオオオオオッ!
ドゴォッ!
役人「ぎゃぶうっ!」
女王「チェスでも一番強力なのは女王なのよ」ゴロン
ガヤガヤ…
役人「どうしたァ!?」
部下「大変です! 城の使者が、大至急役場を捜索したいと……」
役人「な、なんだってぇ!?」
女王「……」
女王(きっと大臣の仕業ね、これは……)
…………
……
大臣「お帰りなさいませ、女王様」
女王「すぐ……私を戻してちょうだい」
大臣「ははっ、準備は整っております」
女王の体「……」
大臣「そのご様子ですと、民の苦しみをご理解いただけたようですね」
女王「ええ、まさか悪徳役人があそこまでのさばってるとは思わなかったわ」
女王「同時に、あんなのは氷山の一角に過ぎないということも」
女王「そして、彼らをのさばらせてしまったのが他ならぬ私だということも……」
女王「そう、諸悪の根源はあの役人なんかじゃなく、私だったんだわ」
女王「必ずやり遂げてみせる!」
女王の体「……」サムズアップ!
女王「ありがとう、我がボディ」
大臣「では……戻します」
女王(完全体)「……」シャキーン!
大臣「女王様、どうか私には死罪をお与え下さい」
女王「そんなことするはずないでしょう? あなたは私に自分のやるべきことを気づかせてくれた」
女王「ただし……死罪のがマシぐらいのつもりでバリバリ働いてもらうわ!」
大臣「おおせのままに!」
少年「よーし、広場にサッカーしにいくぞー!」
坊主頭「おう!」
父「さぁて、今日も仕事だ。お前は勉強頑張るんだぞ」
少女「行ってらっしゃい!」
薬売り「念願の店を持てました! ポポーポポポポ♪」
浮浪者「ここも人が少なくなっちまって……俺かい? 俺はこのまま気楽に生きてくさ」
女王「ありがとう、大臣」コキコキ
大臣「どうされました? 首が痛むのですか?」
女王「痛むんじゃなくて……時々首だけになったあの感覚が恋しくなるのよねえ……」
女王「今度またギロチンかけてくれない?」
大臣「ご、ご冗談を」
END
コメント一覧 (7)
-
- 2021年02月06日 21:18
- いいね
-
- 2021年02月06日 22:14
- こういうので良いんだよ
-
- 2021年02月07日 00:02
- 首だけになる必要はありましたか…?
-
- 2021年02月07日 00:17
- 呼び込み君で笑った
-
- 2021年02月07日 13:25
- とんかつたべる贅沢をしてるんだ!ギロチンは適切だろう!笑
-
- 2021年02月07日 14:00
- すねギロチンに変えれば、皆笑顔
-
- 2021年02月08日 19:15
- 叫ぶだけのツッコミは見ててきつい