男「なんで軍手って道路に落ちてるんだろう?」
女「ホントだ。たまに落ちてるよね」
男「なんで軍手って道路に落ちてるんだろう?」
女「多分、作業員の人が古い軍手ポイ捨てしたり、トラックから軍手が落ちたりしてるんじゃない?」
男「それで説明はつくけど、それにしては遭遇率が高い気がするんだよな」
女「ぽつんと軍手が落ちてるって印象的な光景だから、よく遭遇してると思っちゃうだけよ」
男「ポツンと一軒家ならぬポツンと軍手か」
女「あー、駐車場の月極グループとか、刺身にタンポポを乗せるバイトみたいなノリね」
男「そうそう。ひょっとしたら、マジでそういうバイトあるんじゃないか?」
女「あるわけないでしょ、バカねー」
男「ないって根拠もないだろ」
女「そういうのを悪魔の証明っていうんだよ」
男「俺、ちょっとあの軍手拾ってみる。なにか手掛かりがあるかもしれないし」
女「やめなって! ばっちいよ!」
男「なんの変哲もない軍手か……」
男「い゛っ!?」
ボトッ
男「いてて……」
女「大丈夫?」
男「あ、ああ……(なんだ、今の痺れるような痛みは……)」
女「はぁ?」
男「いやだから、軍手をどこの誰がどうやって作ってるか知ってるか?」
女「そんなの……軍手メーカーに決まってるじゃん」
男「本当に?」
女「そこ疑ってどうするの。今すぐスマホで調べてあげるわよ」
男「……」
女「軍手工場のホームページに『軍手ができるまで』って工程が載ってるよ」
男「いや……そんなのいくらでも捏造できる」
女「はい?」
男「本当にその通りに軍手を作ってるとは限らないじゃないか!」
女「企業がウソつく意味が分からないんだけど」
男「とにかく、俺は自分の目で見なきゃ気が済まない。軍手工場に行ってみよう!」
工場長「これはこれは、ようこそいらっしゃいました」
男「こちらの工場では、良質な軍手を作られてるそうですね?」
工場長「はい、質・量ともに国内でも有数と自負しております」
男「ぜひ俺たちに、軍手が出来るところを見学させてもらえませんか?」
工場長「かまいませんよ。あちらに軍手製作の工程を説明したパネルがありますので……」
男「いや、そういうのじゃなく直接作ってるところを見たいんです」
工場長「……」
男「なぜですか」
工場長「社外秘の情報を漏らすことに繋がりますから」
男「別に材料だとか細かいところはどうでもいいですよ。作ってるところを見たいんです」
工場長「ダメです」
男「俺は他社のスパイなんかじゃありません。なんなら身分証明しましょうか?」
工場長「証明されてもダメです」
男「なんでですか!」
男「……!」
女「もういいじゃない。ね、帰ろうよ」
男「何隠してるんですか。教えて下さいよ」
工場長「お引き取り下さいっ!」
男「分かりました……すみませんでした」
女「ありがとうございました! ほら、行こっ!」
男「お前も見たろ。あの態度はどう考えてもおかしいよ」
女「うーん、たしかにちょっと異常だったけど……」
女「でもちょっと見られただけでも真似されちゃうような工程なのかもしれないし……」
女「諦めようよ。今日はもう帰ろう」
男「ああ……分かった」
男「……」
男(あの軍手を拾った時の痛み……まるで“噛まれた”ような感じだった)
男(きっとあの軍手には何かある!)
男(よし……今日はここに張り込んで、あの軍手を見張ってやるぞ!)
男(さっそくカロリーメイトで腹ごしらえ……)モグッ
男「……」
男「……」
男「……」
男(もう数時間は見張ってるけど、特に何も起こらないな)
男(考えすぎだったか……やっぱり帰るか――)
男「!?」
男(軍手が……動いてる!?)
軍手「……」モゾモゾ…
男(今、風は吹いてない。間違いない、あの軍手は自分の力で動いてる!)
軍手「……」モゾモゾ…
男(人や車がいると、動かない性質なのかもしれない……)
男(かなりゆっくりめのスピードだが、絶対最後までついてってやるぞ!)
モゾモゾ… モゾモゾ…
男「……」
男(あの軍手が向かってるのは……さっきの軍手工場だ!)
男(やっぱりあの工場は何かを隠していたんだ! 真相を突き止めてやる!)
工場長「おお、よしよし。戻ってきたか」ナデナデ
軍手「……」モゾモゾ
工場長「さあこっちにおいで」
軍手「……」モゾモゾ
男(軍手を動物でも扱うように……。いったい何する気だ!?)コソッ
軍手「……」プリッ
プリッ プリッ プリッ プリッ プリッ … …
男「!?」
男(軍手が……軍手を産んでる!? これはどういうことなんだ!?)
警備員「何をしている」
男「!」ハッ
男「うう……」
工場長「あなたは昼間の……」
男「す、すみません!」
男「俺、どうしても気になって……道路に落ちてる軍手を見張ってたら、勝手に動き出して……」
警備員「どうしましょう?」
工場長「……」
工場長「ここまで軍手に興味を持ってくれる人などそういませんからね」
工場長「いいでしょう、あなたには全てを教えましょう」
男「へ?」
工場長「蜘蛛の糸を人の手で再現するのは非常に難しい、という話をご存知ですか?」
男「聞いたことあります。あの細さと強度を兼ね備えた糸はなかなか再現できないとか……」
工場長「軍手もまさにああいう代物なのです」
工場長「あの伸縮性、あの丈夫さ、あの軽量……21世紀現在未だ軍手を人工的に作れた企業はありません」
男「ホントですか……!」
男「どうやって? 水槽の中で飼うとか? あ、まさか――」
工場長「そう、道路に放置することで、軍手は道路と“交尾”し、商品となる軍手を産むのです」
工場長「軍手同士で交わらせると、軍手は“生きた軍手”を産むのですが……これは商品になりません」
工場長「ところが道路と交尾した軍手は、“軍手の抜け殻”を産み、これはすぐ商品として出荷できるのです」
工場長「ニワトリの無精卵のようなもの、といえば分かりやすいでしょうか」
男「はー……」
男(交尾してたのか……それを邪魔したら噛みつかれてもしょうがないな)
工場長「この工場は、道路に放置して戻ってきた軍手が産んだ軍手を、梱包・出荷するための施設なのです」
男「まるで鮭みたいですね」
男「日頃、店で売られてる軍手はその軍手が産んだ抜け殻的存在であるということですか」
工場長「おっしゃる通りです」
男「しかし、なぜその辺の道路に放置するんです?」
男「例えば工場の敷地内の道路に放置した方が色々と都合がいいんじゃ……」
工場長「それが、そうした道路ですと、軍手が交尾しなかったり、あるいは質の悪い軍手が産まれてしまうんです」
工場長「この辺りのメカニズムはまだまだ謎が多く、解明されておりません」
男(フグの卵巣のぬか漬けで毒が抜ける仕組みが未だに謎って話を思い出すな……)
工場長「それで……お願いなのですが、くれぐれもこの事は……」
男「分かってます。誰にも喋りませんよ。喋っても誰も信じないと思いますし」
工場長「ありがとうございます」
工場長「軍手が生き物だなんて知られたら、世間のショックも大きいでしょうから」
男「これからも軍手作り、頑張って下さい!」
工場長「はい、今後とも我が社の軍手をよろしくお願いします」
女「あ、あそこに軍手落ちてる」
男「ふーん」
女「あれ? 前まで興味津津だったのにどうしたの?」
男「別に……もう興味なくなったってだけさ」
男「……」
女「やだ、どうしたの? 温かい目で見守るみたいな感じで軍手を見つめちゃって」
男(頑張っていい軍手を産めよ……)
― 終 ―
コメント一覧 (10)
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- 2021年01月29日 20:26
- 道端に軍手を置くバイトがあるから……
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- 2021年01月29日 20:29
- マジレスすると、作業用に、荷台の下の用具入れに入れてるやつが走行中に落ちるから。
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- 2021年01月29日 20:34
- 面白い
-
- 2021年01月29日 21:40
- ダンプやトラック等の燃料タンクのキャップにつけるからじゃない
手が汚れないために
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- 2021年01月30日 11:51
- >>4
昔 目ざましテレビだったかで調査してて
これがほぼ正解ってオチだったね
-
- 2021年01月30日 00:33
- 冗長
-
- 2021年01月30日 20:16
- エロ本が落ちてる理由は?
-
- 2021年01月31日 00:14
-
消される前に
https://youtu.be/azukGedMTzg
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- 2021年02月03日 16:53
- どんな生き方してたらこんな発想できるようになるんだろう。煽りとかいっさい抜きで
-
- 2021年02月08日 01:55
- 何故かメイプルストーリーの軍手を思い出した
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