男「俺はブラック企業を辞めて自然と共存するぞぉぉぉぉぉ!!!」
男「……」
上司「今月の営業ノルマに全然届いてないじゃないか! このクズ!」
男「すいませんすいませんすいません!」
社員「オラッ、俺の酒が飲めねえのか! 飲めよ! この会社は上下関係絶対なんだよォ!」
男「も、もう……」ウプッ
男「もう嫌だ……もう限界だ! 俺はブラック企業を辞める!」
男(昔テレビで特集やってた、若者だけで山奥で自給自足みたいな生活してる村……)
男(……あった! さすがにホームページぐらいはあるんだな)
男(えーと、受け入れてもらうには……ふむふむ、そんな難しい手続きはいらないのか)
男(来る者拒まずって感じだ)
男「よし、行くか! 俺は自然と共存するんだ!」
男(電車にながーく揺られて……)
ザッザッザッ
男「うわぁ、ホントに山奥だなー。こんなとこで人が暮らせるのかー?」
男(これでも昔から足は速くてこういう道も苦じゃない……ま、社会という道じゃ通用しなかったけど)
男「あった! あれだ!」
リーダー「いらっしゃい」
女「こんにちはー!」
男「ぜひ、今日から仲間入りさせてもらいたく……」
リーダー「俺たちコミュニティは君を歓迎するよ」
リーダー「理不尽な人間社会のことは忘れ、ここでのびのびと暮らして欲しい」
男「ありがとうございます。よろしくお願いします!」
男「いえいえ、これで十分です」
リーダー「さっそく食事を用意しよう」
野菜料理を中心としたメニューが並べられる。
男「わっ、おいしそう!」
女「おにぎりも作ってきたわ」
男「このお米も……」
女「もちろん、私たちが田植えして作ったのよ」
モグモグ… パクパク…
男「どれもとてもおいしいです!」
リーダー「今日は新しく加わってきた仲間を歓迎しよう!」
女「自己紹介どうぞ!」
男「先日まで会社勤めをしていたのですが、今度こちらに加わることになりました」
男「よろしくお願いしますっ!」
巨漢「おう、よろしく!」
仲間「これからは同志だ」
パチパチパチパチパチ…
男(よかった……歓迎されてるようだ)
リーダー「じゃあ、乾杯しよう」
リーダー「君もどうぞ」
男「このお酒は?」
リーダー「俺たちが独自に作ったものさ」
男「あれ、だけど、お酒って勝手に作っちゃいけないんじゃ……」
巨漢「堅いこというなって!」
女「そうそう、これでお金儲けしてるわけじゃないし!!」
男「そうですよね!」グビッ
男「んまいっ!」プハーッ
男(よかった……この村に来て本当によかった……! 俺は人間らしい生活を手に入れたんだ……!)
「起きろーっ!」
ガンガンガンガンガン!
「起きろーっ!」
ガンガンガンガンガンガンガンッ!
男「な、なんだぁ?」
仲間「起きろ! 一日が始まるぞ!」
男「え、ええ……? まだ日も昇ってませんよ……?」
仲間「ここの一日は早いんだ。もうみんなとっくに起きてるぞ」
リーダー「遅い!」
男「す、すいません」
リーダー「この村では、みんなバラバラでは生きていけない」
リーダー「この村が一つの生き物とするなら、みんなはその細胞のようなものだ」
リーダー「細胞がきちんと働かねば生き物は体調を崩してしまう。だから生活リズムを乱してもらっては困る」
男「気をつけます!」
男(昨日までとはまるで別人だ……)
リーダー「では三ヶ条唱和ッ!」
「一つ、みんなで助け合うこと!」
男「一つ、みんなで助け合うこと」
リーダー「男君、声が小さい!」
リーダー「一つ、集団の和を乱してはならない!」
「一つ、集団の和を乱してはならない!」
男「一つ、集団の和を乱してはならない!」
リーダー「一つ、働かざる者食うべからず!」
「一つ、働かざる者食うべからず!」
男「一つ、働かざる者食うべからず!」
男「分かりました」
男(畑なんか耕したことないけど……)
男「えいっ、えいっ!」ザクッザクッ
男(昔話なんかじゃお爺さんがやってるけど、かなりの重労働だな……)
「おーい、もっとペース上げろ!」
男「は、はいっ!」
リーダー「さあ、みんな昼食にしよう!」
男「よかった……やっと休める」
リーダー「コラコラ、君はダメだよ」
男「えっ……」
リーダー「君はまだ割り当てられたエリアを耕してないだろう。それまで食事はできないよ」
男「お願いします、お腹が減って……」
リーダー「ダメダメ! 例外は認めない! 例外を認めると集団の崩壊に繋がるからな!」
女「次は田んぼの手入れをしてもらうわ」
男「へ……?」
女「雑草を抜いたり、害虫を取り除く作業よ。田んぼってデリケートだから」
男「ちょっと待って下さい。まだ食事できてなくて……」
女「時間が押してるの。食べてる時間なんてないわよ。スムーズに作業できなかった自分を恨みなさい」
男「はい……」
リーダー「なーにやってる!」
巨漢「チンタラしてんじゃねえ!」
女「そんなんじゃ、日が沈んじゃうわよ!」
男「す、すいませんっ!」
男(畑を耕して、田んぼを手入れして、用水路を見回って……やっと一日が終わった……)
ガンガンガン!
男「!」ハッ
ガンガンガンガンガンガンガンッ!
仲間「早くしろ! 昨日に続いて遅刻する気か!?」
男「今行きます……!」
男「一つ、集団の和を乱してはならない!」
男「一つ、働かざる者食うべからず!」
男「ひい、ひい、ひい……」
リーダー「おいおい昨日より動きが悪いじゃないか」
男「手にマメができちゃって……作業を減らしてもらえませんか」
リーダー「ダメだ! マメなんて我慢すればいい! 終わるまで休むことは許さないからな!」
巨漢「おう、ちょっと付き合えや」
男「付き合う?」
巨漢「酒飲みたいんだが、相手がいなくてよ」
男「今は酒よりも睡眠を取りたくて……」
巨漢「俺の酒が飲めねえってのか!? 俺と酒飲むのはイヤか!?」
男「いえいえいえ! 飲ませて頂きます!」
男「ううっ……」グビグビ
男「うえっ……!」
巨漢「ハハッ、なかなか飲めるクチじゃねーか。ほらもう一杯いけや」
男「いえ、明日があるんで……」
巨漢「ああん!? 俺には明日がねえってか!?」
男「そんなこといってないですって……」
巨漢「じゃ、飲めや!」
男「飲みます飲みます!」
男(自家製の粗い酒だからなのか、あまりいい酔い方もできない……)
男(仕事が終われば飲みやら何やらに付き合わされ、自分の時間なんてない)
男(これってブラック企業とほとんど何も変わらないのでは……?)
男(いやいやいや……これはきっと俺が慣れてないからだ)
男(このままここで経験を積んでいけば、きっと農作業が生きがいになって)
男(都会じゃ味わえない充実感を味わえるようになるさ……!)
男(作物が実ってきたけど、なんとなく育ちが悪い気がする。今度リーダーにでも相談してみるか……)
男「ん?」
男(村の主要メンバーが集まって、なにやら話をしてる……)
リーダー「集まってもらったのは他でもない」
女「でしょうね」
巨漢「雨が少なかったし、気候もよくなかったしな……」
リーダー「うむ、このままではまずい。どこかで肉でも食って精をつけねばならないだろう」
仲間「あの新入りだな?」
リーダー「ああ、非常食として加えたかいがあった。近いうち、あいつを食すことになるだろう」
巨漢「なんだったら今のうちやっちまった方がいいんじゃねえか? 首絞めりゃイッパツだぜ」
女「そうそう、塩漬けにすれば保存きくし」
リーダー「そうだな……こういうのは早めの方がいいかもしれないな」
男(マジかよ……。新入りって俺だよな? 俺のことだよな? 他にいないしな?)
男(非常食って……塩漬けって……! どうしよう!?)
男(こうなったら一刻も早く、逃げるしかない!)
コンコン
男「!?」ビクッ
男「は、はいっ!」
リーダー「やぁ、調子はどう? 村の暮らしには慣れた?」
男「え、ええ……だいぶ慣れてきましたっ! マメもほら、すっかり固くなって……バッチリですっ!」
リーダー「……」
男「怯えてなんて……いませんよ」
リーダー「ひょっとして……さっきの話聞いちゃったとか?」
男「!」ビクッ
リーダー「……やっぱりか」
男「う……うわああああああっ!」ドンッ
リーダー「ぐっ!?」
男「ひいいいいいいいいいっ!!!」タタタタタッ
リーダー「追えッ! 逃がすなッ! 捕まえろッ!」
巨漢「待ちやがれっ!」ブウンッ
男「あひいっ!」ゴロゴロゴロ
男「ハッ、ハッ、ハッ!」ムクッ
男「ああああああああああああああっ!!!」タタタタタッ
リーダー「絶対逃がすな! 殺してかまわん!」
「殺せ!」 「殺せ!」 「殺せ!」 「殺せ!」 「殺せ!」 「殺せ!」
「弓を用意しろ!」 「撃てぇっ!」 「逃がすんじゃねえ!」
ビュッ! ビュッ! ビュッ!
男「あうっ!」ビシュッ
男「うぐっ……なんのこれしき……!」
タタタタタタタタッ
男(逃げる! 逃げる! 逃げるぅぅぅぅぅ!!!)
ダダダダダッ…
男(もう……誰も追いかけてこない……)
男(助かったぁぁぁ……)
男「お父さんお母さん、足を速く産んでくれてありがとうっ……!」
男(給料こそ安いものの、ようやく人間らしい待遇を手に入れた)
男(最初のうちは追手を警戒していたが、とりあえずその心配はなさそうである……)
男「課長、これ出来ました」
課長「うむ、ご苦労」
男「なんですか、先輩?」
先輩「今度の休み、キャンプ行かねーか? 欠員出ちゃってよー。たまには自然で過ごすのもいいもんだぜ!」
男「!」
男「いえ……自然で過ごすのはもう懲りてまして……」
先輩「なんか嫌な思い出でもあるのか? ならしょうがねえか」
男(今も彼らはあの村で、自給自足生活をしてるんだろうか……)
―おわり―
コメント一覧 (5)
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- 2021年01月26日 23:34
- トラクターとかないのかと思ったらガソリン買う機会も無さそうな舞台設定だった
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- 2021年01月26日 23:53
- ルールから外れたアウトローになればなるほどルールに縛られるんだよなぁ
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- 2021年01月27日 01:50
- ヤーさんとかもあの世界なりの上下間系や礼儀作法や伝統がクソ厳しいらしいしな
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- 2021年01月28日 11:37
- 犬鳴村かよw w w
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「枠なんかにハマらねぇぜ!」と言って暴走族に入ってそのチームの掟にハメられるw
抜けようとするとリンチくらって半殺しにあったり、たまに殺される奴でたりw