男「行きつけのハンバーガー屋がハンバーガーの数を間違えるようになったんだが……」
バイト後にこのハンバーガー屋に寄って、ハンバーガーを買って帰るのが日課である。
小さいながら、大手チェーンよりも俺好みのハンバーガーを提供してくれる店なのだ。
ウイーン…
店員「いらっしゃいませー!」
男「ハンバーガー二つください。テイクアウトで」
店員「かしこまりました」
店員「なんですか?」
店長「ポテトはもっとサッと揚げなきゃダメだろ、ボケ! なにやってんだ!」
店員「す、すみません」
男(いつも怒鳴られてるよなぁ……可哀想に)
男(よほど店長がキレやすいのか、店員が無能なのか、どっちだろう)
男「いつも大変だね」
店員「いえいえ」
などという会話を挟みつつ、俺は自分のアパートに戻った。
男「……」モグモグ
男(もう一つは冷蔵庫に入れておいて、後で温めて食べよう)
男(今日は彼女が遊びに来るからな。そうだ、部屋を軽く片付けておくか)
俺は散らばってる雑誌や漫画本の整理を始めた。
男(あー……今日はヤケ食いしたい気分だ)
店員「いらっしゃいませ……」
男「ん? なんだか顔が青ざめてない?」
店員「え!? いえいえ、そんなことないですよ! ご注文は?」
男「ハンバーガー三つ。テイクアウトね」
ハンバーガーの入った袋が差し出される。俺は確認することなく店を出た。
男「あれ?」
男(ハンバーガーが……四つ入ってる)
男(レシートを見ても、三つしか買ってないことになってる。料金も三つ分しか払ってない)
男(こういう場合、本来は正直に戻しに行くべきなんだろうけど……めんどくせえ)
男(それと……今日のハンバーガー屋はなんか違和感あったような……なんだろ)
少ないのなら絶対クレームだが、多い分には儲けもの。
間違えた方が悪いのだと、俺はハンバーガーを四つとも平らげた。
三つ食べて残り一つは冷蔵庫パターンでもよかったが、今日はそれをする気にはならなかった。
店員「ご注文は?」
男「ハンバーガー一つ」
昨日四つも食べたので、今日は一つでいいやという判断だった。
男「……あれ?」
男(また一つ多い。一つしか頼んでないのに、二つ入ってる)
男「……」モグモグ
男(味もいつもに比べて劣ってるような……昨日もそうだったけど)
それとこの時、俺はハンバーガー屋で抱いていた違和感の正体に気づいた。
店長の怒鳴り声がなかったのだ――
男「ポテトください」
ポテトしか頼んでない。頼んでないはずなのに――
男「ハンバーガーが一つ入ってる! どうなってんだ、これ……」
男「ハンバーガー一つ」
店員「かしこまりました」
いつもなら、俺はろくに確認もせず、このまま袋を持って帰る。
だが、今日はその場で確認することにした。
男(やっぱり今日も……!)
男「あの……ハンバーガーが二つ入ってるんですけど。俺一つしか頼んでないですよね」
店員「えぇと、これは……サービスです!」
男「サービス?」
店員「はい、サービス期間中でして!」
男「ドリンクサービスなら分かるけど、ハンバーガー一個サービスなんて、ずいぶん太っ腹なんだね」
店員「日頃の感謝の印ですよ~、アハハ」
男「ふうん……まぁいいけど。ところで、最近店長さん見ないね」
店員「店長ですか!? ええ、まあ、ここんとこ体調崩してて……おかげで大変ですよ……」
男「そうなんだ……」
深くは追及せず、俺は店を出た。
この日、俺はハンバーガーを食べる気にはなれなかった。
なぜなら、俺の中で一連の出来事について、ある仮説――推理が完成しつつあったからだ。
男(あの店員はいつも店長に怒鳴られてた……。パワハラっていっていいぐらいに……)
男(ある日を境にハンバーガーをオマケしてくれるようになった……)
男(それと時を同じくして、消えた店長……)
男(オマケしてくれるようになってから、ハンバーグの味が変わった……)
男(オマケする理由……考えられるのは早く材料を使い切りたいから……)
男(間違いない……!)
推理が完成する。
俺は明日、この推理について直接あの店員と話すことに決めたのだった。
しかし、俺が再びあの店員と会うことはなかった――
見慣れた店舗の画像の横で、キャスターが淡々とニュースを読み上げる。
TV『ハンバーガーショップに勤めていたアルバイト店員が、とんだ騒動を起こしました』
男「え……」
TV『こちらのハンバーガーショップでは、冷凍された肉を冷凍庫に保管し、解凍して使うシステムになっているのですが――』
あのハンバーガー屋では、ハンバーガーに使う肉が冷凍保管されており、都度解凍して使う仕組みになっている。
使ってる冷凍庫はかなりの高性能で、冷凍してる限り肉の劣化はないそうだ。
しかし、店員は冷凍庫のコンセントを誤って引っこ抜いてしまい、しかもそれに長時間気付かなかった。
この結果、中の肉は全て解凍状態になってしまったのだ。
当然、こうなれば再冷凍したところで新鮮さは損なわれるし、味も落ちる。
店員はすみやかにミスを報告し、肉を全て廃棄すべきだった。
だがミスが明るみになり怒られるのを恐れた店員は、店長がちょうど体調不良で休むのをいいことに、
「鬼の居ぬ間になんとか全部使い切ってしまおう」としたのだった。
そこであのオマケである。
ハンバーガーを余分に客に渡し、とっとと肉を使いきってしまう作戦に出たのだ。
ところが、企みはあっけなくバレた。
俺以外にも味に違和感を抱いた客がおり、その客の指摘がきっかけで、店員のやらかしが判明したのだ。
よほど店長がキレやすいのか、店員が無能なのか、どっちだろう。
後者だったんだな、と俺は思った。
この結末は俺にとって本当に残念であった。
男(“店長を殺してしまい、その肉をハンバーガーにして売る”ということをやっていたら……)
男(彼にこの推理を突きつけ、“これ”の処理もお願いしようと思ってたのに……)
俺はため息をつきながら、冷蔵庫を開ける。
そこにはこの部屋で俺に別れ話を切り出し、俺に殺された彼女の死体が、恨めしそうに眠っていた。
―終―
元スレ
男「行きつけのハンバーガー屋がハンバーガーの数を間違えるようになったんだが……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1611333520/
男「行きつけのハンバーガー屋がハンバーガーの数を間違えるようになったんだが……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1611333520/
コメント一覧 (20)
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- 2021年01月23日 10:42
- そっちか
ミスリードがうまい
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- 2021年01月23日 10:47
- 何SSなんか挙げてんの?
ここそういうサイトじゃないだろ
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- 2021年01月23日 10:52
- >>3
なんか思い出したかのようにSS載せるの露骨に媚び売ってる感あって気持ち悪いよね
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- 2021年01月23日 16:58
- >>3
漫画やアニメの二次創作をまとめなくなっただけで、オリジナルなSSは普通に載せます
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- 2021年01月23日 19:30
- >>12
「普通に」…?
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- 2021年01月23日 10:49
- これはやられたw
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- 2021年01月23日 11:09
- オモロい
そこはかとなく「世にも奇妙な」感があった
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- 2021年01月23日 11:58
- 誰もが想像する結果を逆手に取り、全く違う筋書き
そして最後の落ちもいいね
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- 2021年01月23日 11:59
- 星新一を連想した
文章が簡潔で読みやすい
才能が有るんだろうね
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- 2021年01月23日 13:40
- うまい。山田くん、パテ3枚あげて!
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- 2021年01月24日 02:05
- >>9
4枚あるけど?
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- 2021年01月24日 10:34
- >>16
後はもう無い これにてお四(死)枚チャンチャン
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- 2021年01月23日 13:51
- 悔しい
面白いと思ってしまった
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- 2021年01月23日 14:21
- バーガーショップ側は店長と該当店員しかいないわけじゃないし売り上げ個数とバンズの消費量のずれとか考えればありえないだろ、と思ってたら裏をかかれ
その予想はまさかの主人公側でした、というオチ、いいねえ
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- 2021年01月23日 17:06
- グッド
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- 2021年01月23日 17:46
- いやーいいssだね
まさにミスリードさせられたって感じ
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- 2021年01月25日 13:16
- ありきたりなパターンかな?って思ったけど一本とられた。
文も短くサクッと読めて良い。
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- 2021年02月01日 11:01
- キチゲェしかいねえ
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- 2021年03月21日 23:23
- 完璧に騙された
即興だそうだがよかった
上手く裏切られたわ