JK「抜いてあげよっか? 100円でいいよ」
JK「ねえねえ」
男「?」
JK「抜いてあげよっか? 100円でいいよ」
男「ホントに抜けるなら100円ぐらい払うけど、これピンセットないと無理なんじゃ……」
JK「…………」スッ
男「え」
JK「抜けたよ」
男(一瞬で……! なんの痛みもなく……!)
男「あ……どうぞ」
100円玉を手渡す。
JK「毎度ー!」
男「あ、あの君はいったい……」
JK「じゃあねー!」タタタッ…
男「…………」
男(さっきの子はなんだったんだろう?)
友人「どうした、ボケーッとして。ゲームでヒロイン口説くのに手こずって徹夜か?」
男「お前じゃないんだから」
教師「みんな、今日からこのクラスに転校生が入る」
男「転校生……?」
友人「お、マジかよ!」
教師「じゃあ、入ってくれ」
友人「おお、なかなか可愛いじゃん」
不良「へえ……」ニヤリ
男「あ……!」
友人「どうした?」
JK「あ……!」
友人「え、お前ら知り合いなの?」
男「登校途中にちょっとね……」
JK「どういたしまして!」
教師「は!?」
友人「いきなりなんつー会話してんだ、お前ら!」
男「あ、いや、指のトゲを抜いてもらって……」
どっ!
ワハハハハ… アハハハハハ…
女子B「高校で転校なんて珍しいね」
JK「お父さんの仕事の都合でね」
ワイワイ…
友人「明るいし、早くもクラスに馴染んでるな」
男「それに指先もものすごく器用だ」
友人「指先? ああ、トゲを抜いてもらったんだっけ。お前にとって指は命だもんなぁ」
男「うん、おかげで助かったよ」
男(さっきのトゲ抜き……あれは凄まじい技術だった……)
JK「ご飯にしよっと」
男(何を食べるんだろ……?)
JK「ジャン!」
机の上に、焼き魚が丸々一匹登場した。
JK「これを……」スルッ
男「骨だけを器用に抜き取った!」
友人「すげえ! どうやったんだ!?」
JK「食べた後は……コーラを飲もう」
シャカシャカシャカ…
ブシュゥゥゥゥゥゥ…
男「ほう、炭酸抜きコーラですか。大したものですね」
友人「炭酸を抜いたコーラはエネルギーの効率が極めて高いらしく」
友人「レース前に愛飲するマラソンランナーもいるくらいです」
友人「女子はバスケやってるぜ」
男(彼女は……)
JK「…………」ダムダム
JK「…………」ズバッ
華麗なドリブルを披露する。
友人「うお、うめえ! ドリブルであっという間に三人抜いた!」
男「運動神経もいいんだ……」
ガンッ!
JK「あらっ!」
女子A「ちょっとー、全然外れてる!」
女子B「リングにかすってすらいないよー!」
JK「ごめーん!」
友人「ドフリーだったのに……ドリブルあんだけ上手いのに、シュートはヘタクソなのかよ」
男「…………」
男(どうやら、彼女のスキルは“抜き”に特化してるみたいだな)
男「うん、平気。君が綺麗に抜いてくれたおかげだよ」
JK「よかったー、じゃあまた明日ね!」
男「じゃあねー!」
男「…………」
男(今日一日で、僕はすっかり彼女の“抜きテク”に魅せられていた……)
…………
……
―高校―
教師「…………」イライラ
教師「みんな、おはよう!」
生徒達「おはようございます!」
教師「じゃあ出席を取るから……返事をするように!」
友人「おい……なんか先生、妙にイライラしてないか?」
男「うん、何かあったのかな」
友人「さてはヒロイン攻略に失敗したか。コクる前にきちんとフラグ立てないとな」
男「お前じゃないんだから」
シーン…
教師「どうした、いないのか!? じゃあ当てるぞ!」
友人(やべ……分かんねえ……)
男(当てないでくれ……)
教師「よーし、だったら今日は10日だから……」
JK「はいっ!」
教師「おお、分かるのか?」
JK「はい、分かりました。抜いてあげましょうか?」
教師「へ……?」
教師「なぜそれを……!」
JK「だけど、今は学校休むわけにいかないから、無理して来たらさらに痛くなって……ってところじゃないですか?」
教師「その通りだ……」
JK「だからここで抜いてあげます。口開けて下さい」
教師「あん……」
JK「あー、真横に生えてますね。じゃ、抜きます」
手袋をつけると――
ズポッ
JK「終わりました」
教師「え、もう!?」
JK「私にとってはこれぐらい朝飯前ですよ。記念に抜いた歯あげます」
教師「ありがとう……」
JK「穴は勝手に塞がると思いますけど、不安だったら歯医者さんに診てもらって下さい」
教師「ああ、そうするよ」
友人「すげー……一瞬だったぜ」
男「うん、まさに神業だ」
不良(あの女……気に入ったぜ!)
不良「よう」
JK「?」
不良「さっきの技……シビれたぜ。俺、すっかりお前のこと気に入っちまった」
不良「この後、カラオケでも行こうぜ。パーッと騒ごうや」
JK「ごめんなさい、ちょっと今日は……」
不良「ああん!? 断るなんてナシだぜ! 俺が目ェつけたんだからな!」ガシッ
JK「なにすんの!」
男「!」
JK「離して!」
ビリッ!
制服の一部が破けてしまう。
JK「あっ……!」
不良「ほら来いよ! ストリップしたくねえだろ?」
男「や……やめろ!」
不良「あ?」
JK「…………!」
男「嫌がってる……じゃないか!」
不良「なんだお前、クラスの陰キャ君が俺とやろうってのかぁ?」
男「う……」
男「うわっ……」ヨロッ…
JK「何するの!」
不良「何する? 陰キャ野郎をイジメてから、お前とカラオケ行くんだよ」
JK「もう許さない……」
不良「許さないならどうするってんだ?」
JK「今からあんたの骨を抜いてあげる」
不良「はぁ?」
JK「もう抜いたわ、ほら」サッ
一本の“骨”を見せる。
不良「……え?」
JK「早く病院行かないと、抜いたところからバラバラになっちゃうよ?」クスクス
不良「あ……あ……」
不良「うわあああああああっ!」タタタタタッ
大急ぎで逃げていく不良。
JK「大丈夫? ……助けてくれてありがとう」
男「僕は平気だけど……。ところで、今の骨って……」
JK「ああ、これ?」
男「なーんだ! ビックリした!」
JK「さすがに今の私じゃ、人間の骨は抜けないって」
男「だよね(“今の”ってのがちょっと引っかかるけど)」
JK「だけど……制服が破れちゃった。どうしよう」
男「ああ、これぐらいなら僕が直すよ。綺麗に出来ると思う」
JK「え?」
男「…………」
スッスッ…
男は鮮やかな手さばきで、制服の破れた箇所を縫う。
男「ほら、できた」
JK「すごい……」
男「じゃあ、僕この後、部活あるから……」
JK「部活?」
男「僕、手芸部なんだ」
男「いいの? 今日は用事があるっていってたけど……」
JK「いいのいいの。あんなの不良のナンパを断る口実だから!」
女部長「やあ、来たな。手芸部のエース! む、友達も一緒か?」
男「部長!」
JK「へぇー、エースなんだ」
女部長「うむ、数々のコンクールで入賞している……まさに手芸の申し子!」
男「やめて下さい部長。手芸は競うものじゃありませんから……」
女部長「謙虚なところもまた良し!」
JK「てっきり男君のハーレム状態なのかと思っちゃった」
男「手芸を趣味にする男子もいるからね。僕もその一人なわけだけど」
JK「なんだかホッとしちゃった」
男「え、なんで?」
JK「なんでもないなんでもない! そ、そうだ。私も何か作ってみたいなーなんて」
男「じゃあ、小銭入れでも作ってみる?」
JK「やってみる!」
男「君は手先が器用だから、すぐ上手くなるよ」
JK「糸で縫うってなんて難しいの! えーい、やり直し!」スルルッ
男(糸を抜き取るのはすごくスムーズ!)
やがて――
JK「なんとか出来上がった……けど。ひどい出来ね、これ」シュン
男「そんなことないよ。小銭が入らないようじゃまずいけど、ちゃんとお金入るし、いい出来じゃないか」
JK「……ありがと」
JK「……決めた、私手芸部に入る!」
男「え、いいの?」
JK「うん、いい人ばかりだったし、あなたのことも気に入ったから!」
男「ぼ、僕を!?」
JK「それじゃあねー」
男「…………」
胸の高鳴りが止まらなかった。
女部長「今日は“クッション”を作ろう。各自、自分の個性を出したクッションを作ってみてくれ」
……
男「できた!」
JK「わぁっ、ぬくぬくしたクッションだね!」フカフカ
男「君のは?」
JK「これ!」ポロッ
JK「あっ……穴あいてて中の綿が抜く抜くできちゃう!」ボロボロ…
~
男「…………」スッスッスッ
JK「…………」スッスッスッ
男「だいぶ上達したね。見違えるようだよ」
JK「ふふっ、ありがと。あっ!」
男「……気を抜いちゃったね」
友人「やっと授業終わったー、帰ろうぜ」
男「僕、今日は部活だから」
友人「そっか。じゃあなー」
男「うん」
友人「彼女と仲良くな」ニヤニヤ
男「別にそんなつもりで、手芸部に誘ったつもりないよ!」
JK「うん」
不良「よぉ」
男「あ……」
JK「なに?」
不良「こないだはあんなフライドチキンの骨なんかで引っかけやがって……」
JK「引っかかったあんたが悪いんでしょ? それとも、今度は本当に抜いてあげよっか?」
不良「ぐ……!」
男(すごい、やり込めてる。だけどあんまり刺激すると殴りかかってきそうだし……)
JK「うん」
不良「ケッ、お前もお前だよな。男のくせに手芸なんかやってよ。ダッセェのな!」
男「!」
不良「やっぱ男ならよー、こうやってジャケット着て、バイク乗って……」
JK「あんたの価値観を人に押し付けないでよね」
ベリッ
不良「あっ、破れた!」
JK「ほぉら、バチが当たったのよ!」
不良「これ気に入ってたのにィ~! 安物だったけどよォ~!」
男「…………」
不良「なんだよ」
男「直してあげるよ」
不良「お、おいっ! 勝手に! てめえ、ふざけん――」
すぐ不良の口は止まってしまった。男の指の動きがあまりにも滑らかだったからだ。
スッスッスッ…
男「できた!」
不良「…………!」
あっという間に修復は終わった。しかも、龍の刺繍のオマケつきで――
男「どう……かな?」
不良「か、かっこいい……!」
不良「うぐ……!」
不良「あ、ありがとよ……。俺の完敗だ……! もうお前らに絡むことはしねえよ……」
タタタッ…
ジャケットを着て立ち去る。
JK「あいつを助けて、しかも負けを認めさせちゃうなんて……やるじゃん!」
男「変な刺繍つけやがってって殴られなくてよかったよ」
JK「…………」
男「スマホで何してるの?」
JK「ピンを抜いておじさんを救うゲーム」
男「広告でよく見るやつ!」
JK「……あ、そうだ。今日家に来ない?」
男「君の家に?」
JK「うん、あなたのこと話したら、お父さんが会いたいっていうから」
男(お父さんが……?)
男「分かった。行かせてもらうよ」
JK「プロの抜き師よ。うちは代々続く抜き師の家系なの」
男「抜き師……?」
JK「お父さんはすごいよ。なんだって抜いちゃうんだから。体内の腫瘍を抜くことだってできる」
男「腫瘍を……!?」
JK「このところ忙しくなってきたから、交通の便がいいこの町に引っ越してきたの」
男「転校はそういう事情だったんだ」
母「いらっしゃい」
JK「ただいまー。クラスメイト連れてきたよ」
男「初めまして」
母「いつも娘がお世話になってます」
男「こちらこそ」
JK「お父さんは?」
母「今日は午前中に居合抜きの指導をして、今は帰ってきてるわ」
男(緊張してきた……!)ドキドキ
父「君が……娘と仲良くしているという男子か」
男「は、はい」
男(想像通り怖そうな人だ……。心の中まで見抜かれてるような気がするよ)
父「君の勧めで娘は手芸部に入ったそうだが……私は大変迷惑している!」
男「え」
父「なぜならそのせいで、抜き師としての稽古にあまり時間を割けなくなっているのでな」
JK「お父さん! いきなり何を言い出すの!」
父「娘は大事な後継ぎだ……。本人のやる気もあるし、才能もある。私以上の抜き師になることも夢ではない」
父「はっきりいおう。私は君が憎い。出来ればもう、娘には近づかないでもらいたい」
男「…………!」
父「む?」
男「僕は彼女に手芸部を続けて欲しいです」
父「なにぃ?」
男「なぜなら彼女の手芸の腕はどんどん上がっていて、見ている僕も楽しくなるほどだからです」
男「それに手芸で培った腕は、必ず抜き師の仕事にも役立つと思います」
男「だから……僕は彼女と仲良くするのをやめるつもりはありません!」
父「…………」ピクピクッ
JK(こんなにはっきりお父さんに意見をいうなんて……)
父「ほぉう……いい度胸だ」
男「…………」
父「しかし、私としても自分の認めぬ男と娘の交際を認めるわけにはいかん」
JK「お父さん! 交際って――」
父「我が家系は古い時代は暗殺を生業としていた……君の心臓ぐらい0.1秒で抜ける!」
JK「ハァ!? なにいってるの!? バカなこといわないで!」
男「いいでしょう。やらせて下さい」
JK「ちょっと!」
父「して、どうやって実力を見せる?」
男「やはり手芸の実力を見せるべきでしょう。なにか布はありませんか?」
父「おーい、母さん! 布を持ってきてくれ!」
JK(とんでもないことになってきちゃった……)
男「では……」
シュババッ バババッ ババッ
早技で一つの作品を作り上げていく。
父「早いな……なにを作っている?」
男「“抜き師”という職業を聞いてから、頭に思い浮かんだ動物を作っています」
まもなく出来上がる。
男「完成しました……」
父「これは……?」
男「タヌキです」
布で作った可愛らしいタヌキが出来上がっていた。
男「いかがでしょう?」
父「…………」ビキッ
JK(たしかに出来はいい……けど、お父さんにウケるとは思えないわ……どうしよう!)
JK「え」
父「いやー、あっという間にこんな可愛らしいタヌキを仕上げるとはビックリだ!」
男「ありがとうございます」
JK(お父さんああいうの好きなんだ……十数年一緒に過ごしてきて全く知らなかったわ……)
父「これは私の宝物にしよう! 母さんビール持ってきてー! 未来の息子と晩酌するから!」
JK「ちょっ!?」
男「あの……僕は未成年なんでビールはちょっと」
父「残念だ。だったらウーロン茶でもどう?」
男「お願いします」
JK「……もう!」
男(さすがだ。栓抜き無しでビール瓶の蓋を開けた……!)
父「それじゃ、これからも娘をよろしく!」
男「はい、仲良くしたいと思います」
カチンッ!
乾杯する男二人。
JK「あっという間に仲良くなっちゃってまぁ……」
母「男同士なんてこういうもんよ」
母(多分、あの男の子よりお父さんの方が緊張してただろうしね)クスッ
男「ううん、楽しかったよ」
JK「それに未来の息子だとか変なことまでいっちゃって……」
男「だけど、面白いお父さんだったよ。僕の父さんは僕と同じで大人しいタイプだし……新鮮だった」
男「君のお父さんがお父さんになったら、きっと楽しいだろうな」
JK「…………!」
男「どうしたの? 顔真っ赤だよ?」
JK「ア、アハハ……どうしたのかな~? 気が抜けて熱でも出てきたのかも……」
―高校―
教師「そろそろ文化祭の季節だ。今日はクラスの出し物を決めたいと思う」
教師「皆で意見を出し合ってくれ」
ワイワイ…
「ウチの文化祭は食い物系やれないからなぁ……」
「絵でも展示しときゃいいんじゃない? 一人一枚ずつ描いてさ」
「そんなのつまらない! もっと思い出に残ることしようよ!」
「めんどくせー……」
ガヤガヤ…
教師「演劇か……ふむ、悪くないかもな」
「確かにいいかも……」
「賛成!」
「やろうやろう!」
友人「シナリオは俺に任せてくれ! 数々のゲームをクリアしてきた俺が名シナリオを仕上げてやる!」
男「ゲームってどうせ美少女ゲームでしょ」ボソッ
教師「どうやらみんな乗り気みたいだな。では演劇でいこう」
教師「私はあまり口を挟まんから、クラス一丸となって頑張ってくれ」
生徒A「おお、ヒーロー物か」
生徒B「本格的だな」
友人「配役もすでに決まってる……主役はお前だ!」ビシッ
不良「俺かよ!?」
友人「ああ、この≪ドラゴンマン≫を演じられるのはお前しかいない!」
不良「勘弁してくれよ。演劇なんてできねえよ……」
男「僕からもお願いするよ」
JK「私からも!」
不良「ちっ、お前らにいわれちゃな……」
友人「ありがとう。さすがノーベル根は悪い奴じゃないで賞受賞者!」
不良「なんだそりゃ」
JK「あれ? ヒロインは私?」
友人「ああ、転校生の君こそ、このミステリアスヒロインは相応しい!」
男「すでに衣装の案もあるんだ。これはどうするの?」
友人「お願いします……あなた様に作って頂きたい!」ガシッ
男「わ、分かったよ……僕が作るよ」
友人「持つべきものは手芸部エースの親友だぜ!」
友人「アクション!」カチンッ
男(すっかり監督気取りだな)
不良「ドラゴンマン参上!」ババッ
JK「助けてドラゴンマーン!」
不良「この俺の竜の刺繍が……この世の悪を許さねえ!」ビシッ!
悪役「くっ……美女をクローン培養し、自爆テロで要人を一掃する計画は阻止させんぞォ!」
友人「いいよいいよー! 君たち全員大河にだって出れる!」
男(かなり濃厚な物語だな。さすが友人。高校の演劇でやるようなシナリオじゃないけど……)
スタスタ…
男「劇……だいぶ仕上がってきたね」
JK「きっとうまくいくよ!」
男「不良君も真面目に取り組んでくれてるしね。長い台詞もちゃんと覚えて……」
JK「あなたに負けたおかげじゃない? あれからずいぶん丸くなったし……」
男「喧嘩で勝ったわけじゃないけどね」
JK「噂をすれば……あそこにほら」
男「え?」
不良が数人に囲まれている。
DQN「おひさ。最近喧嘩もしてねえようだし、ずいぶん丸くなっちまったなァ?」
不良「なんの用だよ」
DQN「以前やられた恨みを晴らしにきたんだよ」
不良「……ふん。こんなに仲間連れてか」
DQN「人望があんだよ、俺は」
不良「どうせ手伝ったら女世話するとかで釣ったんだろ? クズはクズを呼ぶってやつだな!」
DQN「うるせえええ! コイツやっちまうぞォ!」
不良(ここで問題起こしたら、もしかしたらクラスの出し物をやれなくなるかもしれねえ……)
DQN「オラァッ!」
バキィッ!
不良「ぐっ!」
DQN「どうしたどうした!? やり返してこねえのか!?」
不良「やらねえよ……好きにしろよ」
DQN「ふーん……だったら好きにさせてもらうぜ! おい、捕まえろ!」
仲間A「おう!」ガシッ
仲間B「へへっ!」ガシッ
DQN「死ねやァ!」
ドズゥッ!
ボディブローが入る。
不良「うげえ……っ!」
男「助けなきゃ!」ダッ
JK「あっ!」
JK(普段は大人しいのに……。私はあなたのそういうところに――)
JK「私も行く!」ダッ
男「やめろぉぉぉぉぉっ!」タタタッ
JK「やめなさい!」タタタタタッ
先に走ったにもかかわらず、追い抜かれる男。
DQN「!? ……なんだこいつら?」
不良「お前ら……!」
JK「それそれそれっ!」ブワァッ
雑草の弾幕。
DQN「うわっ、なんだこりゃ! ぺっ、ぺっ!」
男「うわあああああああああああああ!!!」
DQN「!?」ギョッ
男「刺されたい奴から……かかってこいひぃぃぃぃぃ!!!」ババッ
裁縫用の針を持ち、謎の構えを披露する。
DQN「えええ……なんなのこのお方」
仲間B「クスリでもやってんじゃねーか?」
DQN「もう十分殴ったしな……行くぞ!」ダダダッ…
去っていくDQN達。
男「はぁ、はぁ、はぁ……」
JK「よくやったよ、お疲れ様。不良、大丈夫?」
不良「ボディへの一撃が……もろ肋骨に入った。ヒビ入ってるかもしれねえ……」
不良「これじゃ……とてもじゃねえけどヒーロー役は無理だな」
男「そんな……」
JK「代役?」
男「誰?」
不良「お前だよ! 演劇のヒーローは……お前がやれ!」ビシッ!
男を指さす。
男「ええっ、僕!? 僕なんかヒーローの器じゃ……」
不良「んなこといったら俺だってそうだ。それにさっき、お前は俺を助けてくれたじゃねえか」
男「…………!」
不良「衣装作りやりながら主役もやるなんてキツイと思うが……俺はお前に頼みたい。お前になら託せる」
不良「やってくれねえか……?」
男「…………」
不良「ホントか!」
男「うん。どこまでできるか分からないけど……」
JK「となると、“監督”に連絡しとかないとね。なにせ主役交代だから」
男「そうだね。電話しとくよ」
男は友人に事の顛末を伝えた。
―高校―
友人「キャスト変更を受け、急きょ新しい台本を用意したぞ」
男「ええっ!?」
JK「仕事早い!」
友人「お前はとても≪ドラゴンマン≫って感じではないからな」
男「否定できないよ」
友人「今までの稽古が無駄になるから、基本的なあらすじは変更せず、ヒーローだけ変える感じだが」
男「で、その新しいヒーローは?」
友人「名づけて……≪ニードルマン≫!」
友人「ニードルマンは針を武器にする繊細ヒーローだ!」
男「たしかに裁縫針はよく使うけど……」
JK「なんだか必殺仕事人みたいでかっこいい!」
不良「頼んだぜ……ニードルマン!」
男「うん……ドラゴンマンの後を継いでみせる!」
JK「私も手伝う!」
男「ありがとう、助かるよ」
すると――
女部長「フフフ、聞いたぞ!」ガラッ
男「部長!」
女部長「演劇の主役をやるそうだな。しかも、衣装作りもしているとか……」
男「そうなんです」
女部長「せっかくのエースの晴れ舞台……我々も協力しよう!」
男「ありがとうございますっ!」
JK「これは頼もしすぎる助っ人だね!」
こうして力を合わせ、準備は進んでいった。
―高校―
ワイワイ… ガヤガヤ…
JK「わー、結構お客さん来てるね」
友人「このあたりって学校少ないし、物珍しさや暇潰しで来る人多いんだよ」
JK「ってことは、私たちの劇もお客さんいっぱい入りそうだね!」
男「あんまり入らないで欲しいんだけどなぁ……」
JK「なにいってんの。私たちで観客の度肝を抜いてやろうよ!」
男「うん……抜こう!」
友人「“度肝を”を忘れるなよ」
放送『ご覧になる方は体育館までお越し下さい』
男(い、いよいよだ……緊張してきた……)
男(せっかく覚えた台詞も吹っ飛んじゃいそう……。もし失敗したら……!)
JK「リラックス、リラーックス」
男「!」
JK「失敗してもいいじゃない。私たちプロじゃないんだし」
JK「だけど全力を尽くそう。そうすれば絶対いい思い出になるから!」
男「う、うん」
男(あ……肩の力がいい感じに抜けた……)スー…
……
JK「――ハッキングしたら、とんでもない計画が出てきたわ」
男「美女をクローン培養して、要人に接触させ、自爆させるだと!?」
JK「ええ、この計画が成功すれば、この国は終わりよ」
男「くっ……こんなことさせるものか!」
悪役「おやおや、人の計画を盗み見るとは、とんだコソ泥がいたものだ」
客A「すげえ本格的だな」
客B「ああ……なかなか引き込まれる」
JK「助けてー!」
男「待てーっ!」
客席には……
父「今さらわれたあの子、ウチの娘なんです! 可愛いでしょ? ハート射抜かれるでしょ?」
客C「ええ、まぁ……」
母(恥ずかしいわ……)
悪役「何者だ!?」
男「悪しき野望は鋭き針で突き刺す……」
男「ニードルマン参上!」ビシッ
JK「来てくれたのね!」
悪役「まさか、ここまでたどり着くとはな……」
悪役「おいっ! 出番だ!」
不良「ククク……用心棒である俺様が相手だァ!」
不良(まだ怪我してるが……これぐらいの役ならできる。見せ場くれて感謝するぜ)
男「なんの、ニードルマンの必殺技を受けてみよ! ニードルショットガン!」
パパパパパァンッ!
風船が全て破裂する。
不良「なにいい……!?」
悪役「そんなバカな!」
男「この針に……貫けぬものなどないッ!」
男「とりゃああああっ! ニードル……ニードル……!」
JK「サイクロン」ボソッ
男「サイクロォォォォォン!!!」
不良&悪役「うぎゃあああああああ!!!」
JK「ありがとう……ニードルマン、大好き!」
ジャジャーン…
ナレーション『こうして悪は滅びた。ニードルマンある限り、世界の平和は守られるであろう』
父「ちょっと待てぇ! 告白なんてお父さん許さんぞ! 抗議してやる!」
母「あなたと結婚したこと、少し後悔してるわ」
パチパチパチパチパチ… パチパチパチパチパチ…
……
JK「大成功だったね!」
男「うん!(たまに台詞抜けちゃったけど)」
友人「そりゃ未来の売れっ子シナリオライターである俺が脚本・監督やってんだから当然だろ」
男「将来が楽しみだな(きっとやたら重厚な美少女ゲームが出来ることだろう)」
男「不良君もすごくよかったよ!」
不良「やっぱり俺は悪役やってる方が合ってるぜ!」
JK「怪我してるのに、あれだけ動けるんだからさすがだよね」
部員A「二人ともかっこよかったー」
部員B「大歓声だったね!」
男「部長、みんな……」
JK「ありがとうございます!」
女部長「私はもうすぐ卒業だが、お前たちのような頼れる後輩ができて嬉しい」
男「これからは勉強が忙しくなるけど、部活も精一杯やります!」
JK「私も! まだまだ手芸は初心者レベルですけど!」
JK「文化祭、無事終わったね」
男「うん」
JK「あなたと演劇できて、楽しかった」
男「僕もだよ」
JK「なんたって……あなたは初めての人だったから」
男「初めて?」
JK「私が転校してきた日のこと、覚えてる?」
男「もちろん覚えてるよ。登校途中にトゲを抜いてもらって……」
JK「あれが初めてだったんだ。抜き師としてお金もらうの」
男「そうだったんだ……」
チュッ
男「!!!」
男「ほわわぁぁぁぁぁ……!」
JK「きゃああっ! 魂抜けちゃった! しっかりしてぇっ!」
男「はわぁぁぁぁぁ……」
JK「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
…………
……
男「おはよう!」
JK「おはよー!」
友人「お二人さん、カップルでご登校か?」
不良「ケッ、朝っぱらからお熱いねえ」
男「まあね」
友人「ったく……成長しやがって。おじさんは嬉しいぞ!」
男「いつ親戚のおじさんになったんだよ」
アハハハ…
JK「なにしてんの?」
男「この古着を再利用して小物を作りたいんだけど、ここの糸が邪魔だから抜いてるんだ」
JK「ふーん、だったら……」
JK「抜いてあげよっか?」
男「ぜひお願いするよ! 抜いて欲しい!」
友人「だから聞いてる方がドキッとするような会話やめろって!」
~おわり~
コメント一覧 (18)
-
- 2021年01月21日 09:18
- (髪の毛)抜いてあげよっか?
-
- 2021年01月21日 09:35
- さわやかでよい
-
- 2021年01月21日 10:06
- 良い
-
- 2021年01月21日 11:10
- 抜きの着眼点ええな
-
- 2021年01月21日 11:29
- 性的な意味で抜くのは下手ってオチかと思ったら平和に終わった
-
- 2021年01月21日 13:10
- 1レスで終わってたら評価した
-
- 2021年01月21日 13:56
- ラストは男を性的な意味で抜いてハッピーエンドだと思ってたから最後まで読んじゃった…。
-
- 2021年01月21日 20:46
- こういうのが良いんだよ
-
- 2021年01月21日 21:29
- みんなキャラ立っててめっちゃいいじゃん…
-
- 2021年01月23日 09:01
- >>9
読んでて俺のオ○○○○も立った。
-
- 2021年01月22日 08:23
- なぜ最初だけは金をとったのだろう
-
- 2021年01月22日 14:54
- すっかり骨抜きにされてらぁ
-
- 2021年01月23日 12:40
- こんなに○○を抜くコトってあるんだな...
面白かった
-
- 2021年01月24日 05:19
- 是非、「銀狼怪奇ファイル」も再放送してください!(無茶振り)
-
- 2021年01月25日 03:25
- 良き
-
- 2021年01月27日 08:55
- 最後は性的に抜いてオチてたら満点だった。
-
- 2021年01月30日 06:14
- gj
-
- 2021年01月30日 16:24
- 不良がヒロイン