男「どうしてラーメン屋の店主はいつも腕組みしてるんだろう?」
女「うわ、すごい行列」
男「なにせ人気ラーメン店だからな。ところでこないだの草野球はどうだった?」
女「私のフォークボールが冴え渡って、3対0で大勝利!」
男「そりゃすごい」
女「あ、やっと入れそう」
男「ここのラーメン、一度食ったけどマジで美味いからな。まあ期待しといてくれ」
女「バラバラにならなくてよかったね」
店主「ご注文は?」
男「もちろん、チャーシューメン!」
女「じゃあ私も」
店主「かしこまりました! チャーシューメン二つ!」
女「フォークランド紛争について書いてる」
男「フォークランド紛争?」
女「1982年に始まったフォークランド諸島を巡るイギリスとアルゼンチンとの戦いで……」
男「あー、話さなくていい。俺は歴史とか海外情勢とかよく分からんし」
女「少しは食い付いてよ。興味あることはとことん追求するくせにさ」
女「は?」
男「ほら例えばポスターとかで。だいたいみんな腕組みしてるじゃん。妙に威圧する感じで」
女「ラーメンって競争激しいし、“自分のラーメンに自信あり!”みたいなもんを出したいんじゃない?」
男「なるほどね。だけどここの店主さんは妙なんだよなぁ……」
女「何が?」
男「見てみろよ。腕組みしながらラーメン作ってる」
腕組みした状態で麺を湯切りする店主。
女「ホントだ!」
男「ポスターとかなら分かるけど、ここまでする必要はなくね?」
女「んー、まあクセなんじゃない?」
男「お、来た来た!」
女「たしかにいい匂い!」
男「いただきまーす!」ズルルッ
女「いただきます」チュルルッ
男「美味い! 前よりさらに美味くなってる!」
女「うん、これはイケる。麺類はパスタ派だけど、美味しい」
男「……にしても、お前箸の使い方もう少しどうにかならないか? 下手すぎるぞ」
女「人間には得意不得意ってもんがあるのよ」
男「そういう問題じゃない気がする」
男「んなもん取ってどうするんだよ」
女「何かの役に立つかもしれないじゃん」
男「役に立つかというと……やっぱ気になる」
女「何が?」
男「なぜ店主さんが腕組みしてるか。ずーっとやってるんだもん。あの行為がラーメン作りの役に立ってるとは思えないし」
女「そんなに気になるんだったら、直接聞いてみれば?」
男「そうだな、聞いてみよう」
女「えっ、ホントに聞くの? 忙しそうだからやめときなって……」
男「すいませーん!」
男「どうして、ずっと腕組みされてるんですか? 作業しづらいと思うんですけど」
店主「あー、これはクセみたいなもんでして」
男「クセっていうにはあまりにも不自然……」
客「すいません、替え玉くださーい!」
店主「はーい!」
男「……」
女「だってさ」
女「ごちそうさまでした。おいしかったです」
店主「毎度!」
男「あ、最後に、店主さん嫌いな動物とかっています?」
店主「嫌いな? んー、細長い食べ物扱ってるのに蛇が苦手ですねえ」
男「ありがとうございます」
女「なにしょーもない質問してるのよ」
男「……」
女「どうしたの?」
男「気になる……どうしても気になる!」
女「まさか……」
男「ああ、あの人が腕組みしてる理由を知りたい! もっというと腕組みを外してみたい!」
女「あーあ、悪いクセが出た……」
男「店が終わったようだな」
女「なんで私まで……」
男「ま、いいじゃないか。お前だって気になるだろ?」
女「全然気にならないんだけど。クセで結論出てるじゃない」
男「あ、ほら! 暖簾を片付けるために店主さんが出てきた!」
女「こんな時にも腕組みは外さないんだね」
男「明らかにおかしいだろ! よーし!」
男「こんばんはー!」
店主「? あなたはたしか、昼間に来ていた……」
男「そうです。さっきはご馳走様でした」
店主「それで、なにか用ですか? 忘れ物ですか?」
男「どうしても店主さんが腕組みを外す瞬間を見たいなぁと思いまして」
店主「あー、それはちょっと勘弁してもらいたいですね。すいません」
男「ですよね……だから……」
店主「ひゃあああああっ!」
男「なーんて、これはオモチャの蛇ですよ」
店主「あ……」
驚いた拍子に店主の腕組みは外れていた。
男「やった!」
女(ったく、最低!)
店主「あ……ああ……」ウジュウジュウジュ…
店主の胸には“ラーメンの麺”の塊――替え玉のようなものがくっついていた。
男「なにこれ……麺……?」
麺「ラァァァァァ…メェェェェェェン!!!」
男「うわっ!?」
麺が男に飛びかかる。
男(これはただの麺じゃない……生き物だ!)
男「ひっ!」
麺が体にくっついてしまう。
男「こいつ……! と、取れねえ……!」
店主「もうダメだ……」
女「ちょっと店主さん! こいつはなんなの!?」
店主「私はかつてラーメンの修行中、“あれ”に出会い、そして取りつかれたのです」
店主「その結果、私は美味しいラーメンを作ることができるようになったのですが」
店主「代償として、胸に取りつく“あれ”を隠すため、ずっと腕組みしなければならなくなりました」
店主「なぜなら“あれ”は胸に取りついてるところを見られると……見た人を食べてしまうからです!」
女「な……!」
麺「ラァァァァァメェェェェェン!!!」ジワジワ…
男「こいつ……なんか汁を出してきやがった!」
男「ヒッ! 服がっ、服が溶けるッ!」
男「店主さん! どうにかしてこいつを倒す術はないのかよォ!?」
店主「ありません……絶対に不死身なのです!」
男「マジかよォォォォォッ!」
麺「メェェェェェン…」ジュワァァァァァァ…
男「うわあああああああああっ!!!」
懐からフォークを取り出す。
男「え……?」
女「私が“フォーク”の達人で」
女はフォークで“麺”を絡め取ると、
クルクルクルッ
素早くパスタのように丸めてしまった。
男「取れた……!」
麺「メェェェェェェン!!!」
女「くっ、脱出されちゃう!」
ビチビチッ ビチビチッ
女「店主さん、こいつを受け取って!」
店主「へっ!?」
女「早くっ!」ヒュッ
店主「はいぃっ!」
麺を受け取ると、腕組みする。
女「大丈夫?」
男「ああ、溶けたのは服だけだったみたいだ」
女「間一髪だったね」
店主「いやぁ、お客さんが助かってよかった……」
男「申し訳ありません! 俺のせいで……」
店主「いえいえ、それでは失礼します」
腕を組んだまま店に入っていく店主。
女「これに懲りたら、もうこういうことに首を突っ込むのやめなよ」
男「分かったよ」
男「それにしても、あの店主さんはすごいな」
男「あんなのに取りつかれてるのに、美味しいラーメンを提供し、かつお客を守るために」
男「あの麺を見せないようずーっと腕組みしてるんだから。立派な人だ」
女「……ホントにそうかな」
男「え?」
女「カウンターと厨房の間に壁を設けるとか、いくらでも方法はあるじゃない?」
男「まあ、たしかに……」
女「なのに、それをしないでああやって腕組みをみんなに見せながら、ラーメン作り続けてるのは……」
女「あんたみたいな人が罠にかかるのを待ってるからだったりして」
男「どういうことだよ?」
女「例えば、あの麺があんたみたいな好奇心で腕を開かせようとする人間が大好物だとしたら……」
女「そういう人間を食べさせれば食べさせるほど成長し、宿主である店主さんのラーメンも美味くなるとしたら……」
女「店主さんがわざと腕組みを外したんじゃなんの意味もないとしたら……」
女「あんたがいうには、店のラーメンは“前よりさらに美味くなってる”んでしょ?」
男「……!」
女「そう、今のは私の勝手な推理。当たってるかもしれないし、大外れかもしれない」
男「もし当たってたらとんでもない悪党じゃないか! 警察に……!」
女「通報してどうするの? なんの証拠もないし、あの麺を警察が退治できるとも思えない。犠牲者が増えるだけ」
女「誰かに話しても同じこと。またあんたみたいな人が出るのを誘発しちゃうだけよ」
男「ってことは……」
女「私たちにできることは、今日のことは忘れて、あのラーメン屋には出来ればもう行かないこと」
男「それしかないか……」
店主「……」
店主「さて、明日の仕込みを開始するか」
腕組みをしながら……。
おわり
コメント一覧 (7)
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- 2021年01月15日 22:49
- つまん
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- 2021年01月15日 23:26
- 「お前自身が、麺とスープになるんだよ!」(某有名スラング)
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- 2021年01月15日 23:54
- 多分つまんないから読んでないけど卒業アルバムのサッカー部の腕組みは何で?
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- 2021年01月16日 01:34
- 読んでないけど腕を組むのは
主に自分を守ろうとする行為。
緊張してたり居心地が悪かったり、ビビらないようにしようと心が働いてる。
-
- 2021年01月16日 12:37
- 別に落ち着いてても腕組むし当てにならんわ
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- 2021年01月16日 15:46
- 腕組みしたまま暖簾とかってどういう事?
カイリキーみたいに腕四つ有るの?
-
- 2021年01月21日 11:26
- >女「うん、これはイケる。麺類はパスタ派だけど、美味しい」
スパゲティなんだろ、どうせ
無理に背伸びすんな
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