男「あなたも不正駐輪してる自転車をカチャるのが趣味なんですか」女「はい」
男(あっ、この自転車、ちゃんと奥まで入れてないな)
男「よっと」グイッ
カチャッ
男「これでちゃんと料金が加算される」
男「おっ、こっちにもある」
カチャッ
男「こっちにも」
カチャッ
男(五台並んで料金逃れのため、ラックにちゃんと自転車を止めてない)
男「腕の見せ所だな!」
カチャッ カチャッ カチャッ カチャッ カチャッ
男「これでよし!」
男(不正駐輪してる自転車をカチャるのは、俺の日課……いや、生きがいであった)
男「さて、今日もカチャるとするか!」
カチャッ カチャッ カチャッ
男(よし、この区画の不正駐輪は全滅だ……ん?)
カチャッ… カチャッ…
女「……」カチャッ
男(あの人、俺と同じことしてる――)
男「これで7台目……ん、バッチリ」カチャッ
男「……ん?」
女「……」カチャッ
男(まただ! また同じことをしてる!)
男(よーし、思い切って話しかけてみるか)
女「はい?」
男「あなたもひょっとして不正駐輪をカチャってるんですか?」
女「はい。もしかして、あなたも?」
男「そうなんです。昔からの趣味で……」
女「まぁっ、同じ趣味の人に初めてお会いしました」
男「よかったら、この後お茶でもどうです?」
女「はい!」
男「カチャった後の紅茶はまた格別ですね」
女「あなたはどうしてカチャを?」
男「うーんそうですね、やはりちゃんと駐輪して料金を払ってる人がいる一方で」
男「不正駐輪でお金を払わず駐輪しようとしてる人がいる」
男「こういう正直者がバカを見る状態を許せなかったというのがあります」
女「分かります分かります!」
女「やっぱり駐輪というサービスに対してきちんとお金を払わないとダメですよね!」
男「?」
女「私は……あのカチャッて音が好きなのもあります」
女「カチャッていうツメが閉じる時の音……たまりません!」
男「分かります分かります!」
男「カチャッた瞬間の、あの達成感! パズルのピースがハマった感! ヤミツキになる!」
女「ですよね~!」
女「私もです」
男「今度会ったら……一緒にカチャれるかな?」
女「カチャりましょう!」
――――
――
男「お待たせ!」
女「私も今来たところです」
男「動きやすい服装してるね」
女「いくつも駐輪場を回りますからね」
男「じゃあ……カチャデート開始だ!」
女「はいっ!」
女「その分不正駐輪してる人も多そうですね」
男「さっそくカチャっていこう」
女「ええ、一台も見逃しません!」
男「……あった!」カチャッ
女「こっちにもありました!」カチャッ
女「ここにも!」カチャッ
男「三台並んで不正駐輪か……奥義・三連カチャ!」
カチャッ カチャッ カチャッ
女「こっちにも二台ありました! 必殺・二連カチャ!」
カチャッ カチャッ
男「これでこの駐輪場の不正駐輪は全滅かな。次行こう!」
女「はいっ!」
女「小さな駐輪スペースは監視員さんもいないから、やられやすいんですよね」カチャッ
男「まったく……困ったもんだ」カチャッ
カチャッ… カチャッ… カチャッ… カチャッ…
男「ふぅー、カチャったカチャった」
女「とても充実した一日になりました!」
カチャればカチャるほど、二人の仲は深まっていった……。
学生「くそっ! 出せない!」ガチャガチャ
学生「料金……200円も払うのかよ~」
会社員「くそっ、やられてる! ふざけんな!」ガチャガチャ
主婦「なんで!? ちゃんと浅く停めてたのに!」ガチャガチャ
「誰がこんなことやってるんだ?」
「若い男女二人が駐輪場をうろついてるらしい……」
「あちこちの駐輪場に出没してるみたいだ」
「そいつらがカチャってるとこ見たぞ!」
「このところ、浅く停めても料金発生しちゃうのはそいつらのせいだ!」
「許せないッ!」
……
……
女「オーッ!」
男「いきなり不正駐輪を発見、今日は幸先いいな。いや、よくないのか」カチャッ
カチャッ カチャッ カチャッ
夢中になってカチャっていると――
リーダー「見つけたぞ」
男「! なんだ、あんたは……」
ズラッ…
女「きゃっ!」
男(覆面をつけた集団に囲まれてる! いつの間に!)
リーダー「我々は君たちに自転車をカチャられ、無駄に料金を支払うことになってしまった者だ」
男「なに……!?」
リーダー「我々の要求は一つ。浅く止めた自転車をわざわざカチャるのをやめたまえ」
男「……!」
リーダー「二度とカチャらないと誓うなら、この駐輪場から出してやろう」
男「断る……といったら?」
覆面A「はい」
覆面A「オラァッ!」バキッ!
男「ぐっ!?」
覆面B「おっと寝るのはまだ早いぜ~」ガシッ
男「うぐ……」
覆面A「もいっちょォ!」ドカッ!
男「あぐっ!」
リーダー「仕方ないのだよ、お嬢さん。我々だってたかが駐輪にお金を払いたくないのでね」
リーダー「カチャる奴には罰を与えるしかないのだ。さあ、“二度とカチャらない”といえ!」
男「誰が……いうもんか……!」
リーダー「強情な……もっと痛めつけろ!」
ドカッ! バキッ! ガッ!
男「ぐ、うう……!」
覆面B「なんて奴だ……」
リーダー「なぜだ? 一言誓えばそれで丸く収まるのになぜ誓わない?」
男「決まってるだろ……間違ってる奴らに従いたくないからさ!」
リーダー「我らが間違ってる……だと……?」
男「そうだ。お前たちがやってることはサービスの不正利用に他ならない。窃盗と同じだ!」
リーダー「ぐっ!?」
女「そうよ!」
女「不正駐輪のせいで本来得られる利益を逃してる駐輪場の運営者のことを!」
女「一日ならせいぜい数百円かもしれない。だけどそれが何日も重なればものすごい額になるのよ!」
女「そんな非道な行為を数の暴力で正当化しようだなんて……盗人猛々しいにも程があるわ!」
リーダー「盗人……!」
男「お前たちは“悪”だ! 俺たちには悪には屈しない!」
リーダー「うああああっ……!」ガクッ
ザワザワ… ドヨドヨ…
男「分かってくれたか」
リーダー「殴ったり蹴ったりしてすまない!」
男「いや、いいよ。さすがに本気では殴ってなかったようだし、カチャるために鍛えてるしな」
リーダー「我ら一同、もう二度と不正駐輪はしない! 許してくれ!」
男「ああ、頼んだよ」
リーダー「せめて最後に……代表である私は覆面を脱いで詫びよう」パサッ
美女「すまなかった……」
男「……!」ドキッ
男「いや、いいんだよ」ニチャア
女「ニチャらないで下さい!」
男「こうして不正駐輪騒動は解決したけど……」
女「あれ以来みんなちゃんと駐輪するようになって、カチャれる自転車がなくなっちゃいましたね」
男「君と二人でデートするのはもちろん楽しい。楽しいけど」
女「カチャがないとちょっと物足りませんね」
男「――だけど、大丈夫!」
女「え?」
女「わぁっ、素敵!」
男「これでこれからはいくらでもカチャり放題! 二人で一生カチャって生きていこう!」
女「はいっ! 死が二人を分かつまで!」
カチャッ カチャッ カチャッ カチャッ カチャッ カチャッ … … …
おわり
コメント一覧 (10)
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- 2021年01月08日 23:33
- カッチンカッチンキッチンチキン
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- 2021年01月09日 00:41
- 良い話だけど流石にもう少しマシな趣味を見つけるべき
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- 2021年01月09日 00:46
- 出す為に操作したのまでカチャって揉めて欲しかった。
あれって、どっちかと言えば無料範囲内だけど操作する(しに行く)のが面倒だからやってんじゃね?
無料だったら操作不要にするだけで絶対減ると思う。
後両サイドのハンドルやカゴが邪魔で入らないとか・・・あれホントメンドイ。入れろ言うならもっと間隔開けろと。
それと管理人ちゃんといるだろ普通。
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- 2021年01月09日 00:47
- いいんじゃない?
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- 2021年01月09日 03:38
- へえーおもしろいな
駐輪場でこんな遊びが出来るのか
ひまだから明日試しに行ってみようかな
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- 2021年01月09日 12:06
- 警察が学校の子供に見せる啓発ものみたいw
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- 2021年01月09日 21:18
- 路上駐車を通報した方が世の安全のためになる
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- 2021年01月10日 02:34
- やってる事は正しいんだけど会社のセンパイがまさにこれが趣味で自慢しててちょっと引いた
たまにちょうどカチャッたタイミングで持ち主が帰ってきて文句言われて論破するのが最高に気持ちいいんだと
そのうち刺されなきゃいいけど
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- 2021年01月10日 12:16
- オフロード仕様がタイヤが太くて入れようがないのには参ったな
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- 2021年01月11日 12:39
- 勝手にカチャるのってもしかして違法では?
自力救済にあたるような…
でもまあ、動機は立派だと思う