チンピラ「ヤミ金始めて女を借金漬けにしてやるぜぇ!!!」
子分「どうしたんすか、こんな大金!? まさか――」
チンピラ「バイトして貯めた」
子分「朝は新聞配達、昼はパン工場、夜は居酒屋、と頑張ってましたもんねえ……」ホロリ
子分「で、こいつで何するんです?」
チンピラ「雑居ビルの一室をタダ同然で借りることができてな。そこを拠点にヤミ金を始める!」
子分「おおっ、ヤミ金! メチャ“巨悪”じゃないっすかぁ!」
チンピラ「おうよ、俺らは巨悪になるのよ!」
チンピラ「よくあるだろ? 借金漬けにしてやった女を奴隷みたいにするって……」
子分「ありますあります! 男なら一度は憧れるシチュっすよね!」
チンピラ「俺もあれをやってみたくなってな」
子分「うひょ~!」
チンピラ「ヤミ金始めて、女を借金漬けにしてやるぜぇ!!!」
子分「ここが事務所になるわけっすね」
チンピラ「さて、看板はどうするか……」
子分「≪ヤミ金≫にします?」
チンピラ「バッカ、それじゃ怪しんで誰も金借りに来ねえだろうが!」
子分「じゃあ≪ヒカ金≫とか?」
チンピラ「それだと、どこぞの有名人に迷惑かかるおそれがあるだろうが!」
子分「すいやせん!」
チンピラ「看板はとりあえず……≪お金貸します≫とでもしとくか」
バタンッ!
子分「本格的~!」
チンピラ「ちなみに暗証番号は……俺の日課にしてある」
子分「え、なんすか?」
チンピラ「“4545”よ」
子分「うひょ~!」
チンピラ「お?」
子分「お客っすよ! お客第一号!」
チンピラ「来たな……ここが蜘蛛の巣とも知らずによ」ニヤリ
チンピラ「子分、丁重にお迎えしてやるぞ! くれぐれも狙いを悟られるなよ!」
子分「へいっ!」
チンピラ「いらっしゃいませ~」ニンマリ
子分「いらっしゃいませ~」ニンマリ
女「ひっ! えぇと、ここでお金を借りられるって看板にあったので……」
チンピラ「そうですそうです、お貸ししますよ!」
子分「ささ、こちらのお席へどうぞ!」
女「はい……」
チンピラ「おいおい、なかなかの蝶がかかったじゃねえか」ヒソヒソ
子分「へい、こいつを逃す手はありませんぜ」ボソボソ
子分「とりあえず、なんで金借りたいか聞いた方がいいんじゃ」
チンピラ「だな! えぇと……まずはお金を借りたい動機をお願いします」
女「なんだか面接みたいですね」
女「私はすでに両親を亡くしており、まだ幼い弟と暮らしてきました」
女「弟は足に病気があって、歩けない体で、今は病院に入院しています」
女「私も働いてはいるんですけど、それだけではどうしても治療費を賄えなくて……」
女「しかし、私の立場だとなかなかお金も貸してもらえず、今回こちらに……」
女「え」
チンピラ「ご苦労されてきたんですねえ……」
子分(兄貴ったらこういう話に弱いんだから……)
女「どうかお金を貸して頂けないでしょうか?」
チンピラ「はいっ、貸します貸します!」
女「それで、条件などは……? 期限や利息とか……」
チンピラ(やべえ、考えてなかった!)
子分「俺に振られても困りますよ! 兄貴がとっくに決めてるもんかと!」
チンピラ「んなわけねえだろ! 今すぐスマホで相場とか調べてくれよ!」
子分「そんな9月1日に夏休みの宿題終わらすみたいな……」
女「どうかしました……? やっぱり無理なんでしょうか……?」
チンピラ「いや、あの無理じゃないんですけど、う~ん……」
チンピラ「じゃ、今回は利息無しってことで!」
女「え!?」
子分「え!?」
女「いいんですか……?」
チンピラ「ええ、ええ、いくらかお貸しします。ご自分のペースで好きなように返済して下さい」
女「あ……ありがとうございます!」
チンピラ「じゃ、とりあえず、ここに住所とかを書いてもらって……」
女「分かりました」
子分(なにやってんの、この人ォ!?)
チンピラ(なにしてんだろ、俺……)
子分「利息もつけず、期限もつけず、金貸すなんて、ただのいい人じゃないですかァ!」
子分「ていうか、ただのアホですよ、アホ!」
チンピラ「う、うるさいな!」
子分「これじゃ女を借金漬けになんてできませんよ!」
チンピラ「分かってる分かってる、今のは初回限定サービスってやつだ!」
チンピラ「次来た女は借金まみれにしてやるぜ!」
チンピラ「…………!」
子分「…………!」
チンピラ「とんでもねえのが来たな……」
子分「ええ、こんなの借金漬けにしても使い道ありませんぜ」
チンピラ「だよね……なんとか帰って頂かないと……」
ブス「アタシってこう見えてあんまりモテないの。彼氏できたことなくってぇ」
チンピラ(でしょうね……)
子分(見ただけで分かる……)
ブス「それってやっぱりエステとか通ってないからだと思うのぉ~」
ブス「だから思い切って高級エステに行こうと思って!」
チンピラ(客観的に自分を見れねーのか!? んなことしたって金ドブだわ!)
チンピラ「あ、あのさ……?」
ブス「なぁに?」
チンピラ「金かけて得た美しさなんてなんになる?」
チンピラ「金がなくなりゃそれまで……儚いもんだ」
チンピラ「それに借金なんてろくなもんじゃねえ。しないに越したことはない!」
チンピラ「それよりもっと、内面に磨きをかけるべきなんじゃねえか?」
子分(さすが兄貴、心にもないことをベラベラと……)
ブス「なんですってぇ!?」
チンピラ「おわっ!」
チンピラ(やっぱりこんな説得じゃ無理か!)
チンピラ「へ」
ブス「お金を使って手に入れた美なんて長続きしないわ……それよりもっと内面を磨かないと!」
チンピラ「そ、そうそう!」
ブス「ありがとう! ここまでアタシのために親身になってくれた人、初めて!」
チンピラ(そりゃそうだよ……お前との縁はここで切りたいもん)
ブス「さよなら! また来るわねぇ~!」
バタンッ!
チンピラ「え、“また”ってどういう意味……?」
子分「今は考えないようにしときましょう……」
<事務所>
チンピラ「ちっ、美女が来ねえな。借金漬けにして楽しめるような美女が……」
チンピラ「胸が大きくて、太ももムチムチで……」
コンコン…
チンピラ「来たっ!?」
マッチョ「…………」ムキッ
チンピラ「!?」
子分「兄貴の要望をどちらも満たしてるっすね……」
マッチョ「オレ、金借りたい」
チンピラ「な、なぜ……?」
マッチョ「筋トレ器具、買いたい」
チンピラ「筋トレする必要、ある……?」
マッチョ「ある! 筋肉、休むとすぐ衰える!」
チンピラ「わ、分かった分かった! とりあえず、そこに座ってくれ!」
子分「どうでもいいけど、なんでカタコトなんすか」
……
子分「兄貴ィ……借金漬け計画、なんだか上手くいかない気がしてきたっす」
チンピラ「奇遇だな、俺もだよ」
女「こんにちは」
チンピラ「おう、いらっしゃい」
女「わずかですがお金の返済と……浅漬けを持ってきました」
チンピラ「浅漬け? どれ……」ポリポリ
チンピラ「こりゃうめえ! 自分で漬けたのか、これ?」
女「ええ、母から受け継いで、昔からの趣味で……」
子分(ったく、ホントならこいつを借金漬けにしてるはずだったのに……)
女「子分さんもよかったら」
子分「俺はいいっす。浅漬けなんてジジイじゃないんだから」
子分「…………!」ポリッ
子分「ん……いける」
チンピラ「こんなうめえ浅漬け食ったの初めてだよ!」
子分「俺も……っす」
女「よかった、また持ってきますね!」
チンピラ「待ってるよ~」
子分「取り立てもせず、浅漬け食ってるヤミ金業者なんて他にいないっすね」
チンピラ「お前は……! なにしに来た!?」
ブス「今日はラブレター渡しに来たの」
チンピラ「ひっ! いらねえいらねえ!」
ブス「やぁだ、照れないで。ほらっ!」
ブス「キスマークもつけてるから」
チンピラ「うげぇ、どういう嫌がらせだよ!」
チンピラ「一応読んでみるか」ガサッ
子分「兄貴、そういうところは優しいっすよね」
チンピラ「…………」ゾクッ
子分「どうしました!?」
チンピラ「口に出すのもおぞましい文章がびっしりと……」クラクラ…
子分「兄貴、しっかりして下さい!」
チンピラ「これなら不幸の手紙もらった方がマシだわ……」
チンピラ「あのさぁ、マッチョ」
マッチョ「なんだ」グッグッ…
チンピラ「筋トレ器具買ったのはいいけど、なんでここでトレーニングするわけ?」
マッチョ「オレんち狭いし、よく揺れる」
マッチョ「だからここでトレーニングするしかない」
チンピラ「ったく、ふざけんなよ……」
子分「だけど俺らじゃ実力で追い出せないっすしねえ……」
チンピラ「な、なんだ!?」
グラサン「おうおうおう、てめえら! だーれに断ってこんなとこで金貸ししてんでぇ!?」
チンピラ(やべっ、勝手にやってたのがついにバレちまったか!)
子分「どうしやしょう……?」
チンピラ「ぐっ……!」
グラサン「裏社会には裏社会のルールってもんが……」
マッチョ「どうした?」ヌッ
グラサン「!?」ギョッ
グラサン「え、えと……」
マッチョ「こいつら、いい奴。お前、こいつらいじめる気か?」
グラサン「いや、そんなつもりじゃ……」
グラサン「ま、まあ……お前らみたいなのがいてもいいかもな!」
グラサン「じゃあな! あまり派手にやるなよ!」バタンッ
チンピラ「ふぅ……」
子分「ほっ……」
チンピラ「マッチョ君、筋トレしたかったらいつでもここに来てね!」
マッチョ「? うん、ありがとう」
女「また浅漬けを持ってきました」
チンピラ「うめえ!」ポリポリ
子分「悔しいけどうまいっす」ポリポリ
チンピラ「そういや、病気の弟さんは元気にしてるか?」
女「えぇと……」
子分「まさか、金借りるためのウソってことはないっすよねえ?」ジロリ
チンピラ「おい!」
女「ちょうどこれからお見舞いに行くところなんですよ。よかったら……」
チンピラ「おう、一緒に行かせてもらうぜ!」
チンピラ「子分、おめえも来い!」
子分「えっ、俺もっすか」
チンピラ「疑った罰だ! 果物ぐらい持ってくぞ!」
弟「お姉ちゃん、待ってたよ」キコキコ…
女「いい子にしてた?」
弟「うん!」
弟「……この人達は?」
女「この人達のおかげで、あなたの治療費を払えてるのよ」
弟「ホント? ありがとう!」
チンピラ「いやいや」
子分(病気の弟がいるってのはマジだったんだ……)
弟「今日も……立てるか訓練したんだけどダメだった……」
女「そう……。だけどもうすぐ歩けるようになるよ!」
弟「うん……」
弟「ごめんね、お姉ちゃん。ぼくがこんな体で……」
女「なにいってるの。私は気にしてないし、あなたを治すためならどんなことだってする」
女「だから、気を落とさないで」
チンピラ「…………」
子分「…………」
女「先生」
女「どうでしょう、弟の具合は……」
医者「やはり、改善は見られないねえ。体が成長してる今が一番大事な時期なんだが」
女「そうですか……」
医者「非認可の治療法であれば治せる可能性もあるが、あいにくウチではやってないし」
医者「なによりとても高額だからねえ……」
子分「なんだか状況はあまりよくなさそうっすね」
チンピラ「ああ……」
マッチョ「ふんっ! ふんっ!」グッグッ
子分「すっげー……100kg以上あるバーベルをあんなに上下させてるっすよ」
チンピラ「もう見飽きた」
コンコン…
ブス「こんにちはぁ~!」ガチャッ
チンピラ「ゲッ!?」
子分「ひいい、前門のブス、後門のマッチョっす!」
マッチョ「……む?」
ブス「…………」ポッ
マッチョ「…………」テレッ
チンピラ「えっ?」
ブス「なんて素敵な人なの……」
マッチョ「なんて美しい女だ……」
子分「これってまさか……」
マッチョ「オレも! お前、運命の人!」
子分「やっぱり!」
チンピラ「…………」
子分「よかったっすねえ。これでようやくあのブスから解放されて……」
チンピラ「ちょっとNTR喰らった気分」
子分「面倒な人!」
女「こんにちは」
女「あれ? 今日はいっぱいお客さんがいますね」
チンピラ「よかったぁ~、まともな人が来てくれた!」
子分「ご覧の通り、今日はめちゃカオスっす。モンスターハウスっす」
マッチョ「んん?」
ブス「あら、初めて見る顔ねぇ。なにしに来たの?」
女「浅漬けを持ってきたんです。よろしければどうぞ」
ブス「浅漬けぇ? そんなもので仲良くなれるほどアタシは浅くないわよ!」
マッチョ「……うまい!」
チンピラ「だろ? この子の浅漬けマジ絶品なんだよ」
子分「本当は借金漬けにする予定――」
チンピラ「だぁーってろ!」ガンッ
子分「いでっ!」
ブス「アタシたち……今から親友よぉ!」
女「喜んでもらえて嬉しいです!」
ブス「お近づきの印に、今度みんなでパーティーでもやらない?」
チンピラ「おおっ、そりゃいいな!」
子分「面白そうっすね!」
マッチョ「やろうやろう」
女「私、浅漬けをたくさん作ってきますね!」
チンピラ「おう、期待してるぜ!」
<事務所>
チンピラ「酒を買ってきたぜぇ! ビールにサワーにチューハイに……」ガサゴソ
子分「俺はツマミっす」
マッチョ「俺は……肉! タンパク質、大事!」
ブス「アタシはお菓子よぉん」
チンピラ「そして、メインはもちろん……」
女「浅漬けを持ってきました!」
チンピラ「待ってましたァ!」
子分「浅漬けがメインって渋すぎるっす」
女「いいですよ!」
チンピラ「おうマッチョ、腕相撲やろうぜ!」
マッチョ「いいぞ」
ガシッ!
チンピラ「くっ、くくっ……!」ググッ…
マッチョ「どうした、それが全力か」
チンピラ「おい、子分! やれ!」
子分「へい!」コチョコチョ
マッチョ「!」
チンピラ「今だぁっ!」グッ
マッチョ「くすぐったいぃ!!!」グインッ
チンピラ「ちょっ!」
ドゴンッ!
チンピラ「あうう……」
女「大丈夫ですか!?」
子分「兄貴ィ!?」
ブス「さっすがダーリン」
マッチョ「むんっ!」ムキッ
チンピラ「いでで……俺も筋トレしよっかな……」
子分「ぐぅ、ぐぅ……」
ブス「すぅ……すぅ……」
マッチョ「ぐおおお、ぐおおお……」
女「ふふっ、みんな……よく寝ちゃって……」
女「ん?」
女(あそこにあるのは……金庫……)
チンピラ「ふんっ! ふんっ!」グッグッ…
子分「兄貴、すっかり筋トレにハマっちゃって……。これじゃヤミ金っつうか、ヤミ筋っすよ」
チンピラ「お前もやるか?」
子分「俺はナチュラルなのがウリなんで」
コンコン…
チンピラ「お! このノックの音は……浅漬けのあの子だな」
子分「よく分かるっすねえ」
チンピラ(だけど、いつもより元気がないような)
チンピラ「おう、毎度!」
女「……あの」
女「どうしてチンピラさんはお金貸しを始めたんです?」
チンピラ「え!? そりゃあ……なんたって人助けをしたかったからよ!」
女「ご立派ですね……」
子分(よくいうよ……)
チンピラ「おう」
女「いえ、なんでもありません……」
チンピラ「?」
女「何かきっかけはあるんですか……?」
子分「元々は兄貴が言い出したんすよね」
チンピラ「まとまった金ができたから、金貸しやろうってな」
女「まとまったお金というのは、あの金庫の……」
チンピラ「ま、ギャンブルで一攫千金したあぶく銭だけどよ。俺ってギャンブル強いし」
子分(バイトして貯めたとは死んでもいえない兄貴であった)
チンピラ「ああ、なんたって暗証番号は俺の日課だもんな」
女「日課?」
チンピラ「シコシコ……」
子分「ぶふっ!」
女「…………」
子分「って、引いちゃってるっすよ!」
チンピラ「いや、下ネタとかじゃなくてね? シコシコしたうどんが好きだから」
子分「なにいってんすか!」
ワハハハ… ハハハハ…
女「…………」
<事務所>
子分「兄貴ィ、たまには金庫の中確認した方がいいんじゃないすか?」
チンピラ「そうだな。なんたって、ヤミ金やる上での生命線だしな」
チンピラ「えーと、4545と……」カリカリ…
子分「うっ!」
チンピラ「うっ、じゃねえよバカ」ガチャッ
チンピラ「……あれ?」
子分「どうしたんすか?」
チンピラ「――ないッ! 金がなくなってる!」
子分「えええええ!?」
チンピラ「ドアの鍵なんざしょっちゅう閉め忘れてるけど、金庫はどうやって開けた!?」
チンピラ「まさか……ルパン!? ついにここにもルパンが!?」
子分「んなわけないでしょう!」
子分「こんなの……一人しか考えられないっすよ」
チンピラ「誰だよ!?」
子分「俺でも兄貴でもないんなら、暗証番号知ってる奴は誰です?」
チンピラ「…………!」
子分「あの女っすよ!」
子分「いーや、そうに決まってる! 妙に金庫に興味持ってたし!」
子分「浅漬け作って兄貴の気を引いてたのは、ずーっとこの時を狙ってたんすよ!」
子分「ちくしょう……あのアマ……」
チンピラ「…………」
チンピラ(ん? 金庫の近くになんか跡が……)
チンピラ「…………」
子分「なにやってんです! すぐあの女捜さないと! 住所は分かるっすよね!」
チンピラ「お、おう」
大家「ああ、あの子? 引っ越しちまったよ」
チンピラ「引っ越した?」
大家「まるで逃げるようにね。いったい何があったんだろうねえ」
子分「うぐぐ……」
子分「ほらぁ! もうこれ完全にクロっすよ!」
チンピラ「かもな……だけど、なにか理由があるかもしれねえ」
子分「理由?」
チンピラ「例えば、弟の治療費とか……」
チンピラ「弟君は退院したんですか?」
医者「ああ、彼女が退院させてしまったんだ」
チンピラ「…………!」
子分「これで治療費のためってセンもなくなりましたねえ」
チンピラ「二人がどこ行ったのかってのは……」
医者「さあ、見当もつかないよ……」
子分「兄貴、こうなったら意地でもあの女見つけましょう!」
チンピラ「…………」
子分「見つけて、がっつり追い込みかけてやりましょう!」
チンピラ「…………」
子分「ちょっ、どうしたんすか、兄貴!? さっきから全然やる気ないじゃないですか!」
チンピラ「あのさぁ……彼女追うのやめねえか?」
子分「ハァ?」
子分「なにいってんすか、兄貴! 金盗まれてんすよ!? しかも大金を!」
チンピラ「…………」
チンピラ「…………」
子分「あの女はね、悪女だったんすよ、悪女!」
子分「きっとこういう犯罪の常習者なんだ!」
子分「今頃弟連れて、どっかでバカンスでも決め込んでるに違いませんよ!」
子分「どうしようもねえクソ女――」
チンピラ「やめろッ!!!」
子分「!」ビクッ
チンピラ「頼むから……あまり彼女を悪くいわないでくれ……」
チンピラ「んなこといったら、俺らはヤミ金業者だろうが!」
子分「そりゃそうですけど……」
チンピラ「それに俺には、彼女が私利私欲で金を盗んだとはどうしても思えねえんだ」
子分「だけど、一番動機になりそうな弟は退院させちゃってるし、理由が分かんねえっすよ」
子分「病院以外で弟を治せるってんならともかく……」
チンピラ「…………!」
子分「え!?」
チンピラ「医者が彼女に話してたじゃんか。『非認可の治療なら治せるかも』って」
チンピラ「それをやってくれる医者が見つかったんじゃ……」
子分「だけど、そういうのって闇医者みたいな奴でしょう? そんな奴知りませんよ」
チンピラ「こういうのに詳しい奴といえば……」
チンピラ「いた!」
グラサン「ん、てめえらは……」
チンピラ「よう、お久しぶり」
グラサン「俺になにか用か?」
チンピラ「ああ、あんたに聞きたいことがある」
グラサン「聞きたいこと?」
チンピラ「この町に闇医者っていねえか?」
子分「高額で違法な治療をやる、みたいな……」
グラサン「…………」
チンピラ「なんだよ、思わせぶりだな」
グラサン「タダで話せってか?」
チンピラ「ちっ、しょうがねえな……」
チンピラ(って、金ないんだった!)
チンピラ「おい、金持ってねえか?」
子分「俺もないっす……」
チンピラ「しかたねえ……じゃあ、とっておきの――」
グラサン「ハァ? 舐めてんのか!」
チンピラ「いいから食ってみろって」
グラサン「…………」ポリポリ
グラサン「こりゃうめえ! ……いいだろう、話してやる」
子分(ちょろっ!)
グラサン「結論からいうと、俺もそんな闇医者なんざ知らねえ」
チンピラ「なにい!? 浅漬け返せ! 吐き出せ!」
グラサン「ただ……医療繋がりの情報だが、最近ここらで臓器密売グループが動いてるって噂がある」
グラサン「若い奴を捕まえてよ。眠らせて体バラして、臓器を闇のルートに流すらしい」
グラサン「移植待ちの金持ちなんかそれこそいくらでも払うだろうな」
チンピラ「そりゃひでえ話だな。だが、俺らには関係ねえ」
グラサン「話は最後まで聞けよ。問題はその手口だ」
グラサン「奴らはただ誘拐するんじゃなく、治らない怪我や病気を抱える奴に近づいて」
グラサン「“治す方法がある”って言葉巧みに誘って、向こうから来てくれるよう仕向けるんだ」
グラサン「これなら足はつきにくいし、オマケに治療費までふんだくれる」
グラサン「臓器密売グループとしちゃ、金も臓器も手に入るってわけだ」
グラサン「臓器ってのは、その部位が健康なら問題ねえわけだしな」
チンピラ「な……!?」
チンピラ「ああ……あり得る」
グラサン「どうやら思い当たる節があるようだな」
チンピラ「そいつらのアジトは!? どこにあるんだ!?」
グラサン「さすがにそこまでは知らねえよ。この町のどこかだとは思うがな」
グラサン「俺もしょせんゴロツキだし、んなヤバそうな連中に深入りしたくはねえ」
チンピラ「ありがとよ、俺はもう行くぜ」
グラサン「ちなみにお前が助けようって奴はどんな奴だ?」
チンピラ「その浅漬けを作ってくれた人だよ」
グラサン「……なら、絶対助けろよ」
チンピラ「いわれなくともな!」
子分「へい」
チンピラ「彼女は臓器密売グループの奴と出会い、自分たちなら弟を治せると誘惑された」
チンピラ「そん時、秘密厳守ってのも相当念を押されたはずだ」
チンピラ「でなきゃ、俺にはちゃんと事情を話してくれたはずだ。多分だけど」
子分「で、どうするか悩んでる時に、兄貴の金庫の番号を知っちまった……」
子分「しかも、“あぶく銭”だとか余計なことまでいっちゃって」
子分「ちゃんとバイトして稼いだっていってりゃ、あの子は盗めなかったんじゃないすか?」
チンピラ「うるせえな!」
チンピラ「今はきっと、別の場所に移り住んでるんだろう」
チンピラ「んで、指示があったら、臓器密売グループに弟を引き渡すんだろうよ」
チンピラ「大金と引き換えに、弟を治してくれると信じてよ……」
子分「となると、まだこの町にいる可能性がありますね」
チンピラ「ああ、しかも“車椅子の男の子を押してる女”なんてそうはいねえ」
チンピラ「町で聞き込みまくれば、必ず見てる奴がいるはずだ!」
チンピラ「だが、二人じゃ手が足りねえ……!」
子分「そうだ、ブスとマッチョにも頼んでみましょう!」
マッチョ『うん、分かった。オレ、必ず捜し出す!』
子分「二人に電話したら、快く引き受けてくれたっす!」
チンピラ「持つべき者はダチとはよくいったもんだ」
チンピラ「よっしゃ、町中を捜索するぞ!」
子分「へい!」
主婦「見てないわ」
不良「そんなの知るかよ」
老人「さぁ、分からんのう……ところで、メシはまだかね?」
タッタッタ…
チンピラ(くそっ、さすがにそう甘くはねえか!)ハァハァ…
プルルルルル…
チンピラ「!」
チンピラ「おお、なんか分かったか?」
ブス『あの子が住んでる場所が分かったわ。ワケありの人ばかり住む、ものすごぉいボロアパート』
チンピラ「よくやった! で、彼女は?」
ブス『残念ながらいなかったわ』
ブス『だけど“もうすぐ治せるからね”なんて会話をしながら、出てったのを目撃されてるわ』
チンピラ(ってことは、密売グループと接触しちまう!)
プルルルル…
チンピラ「おう、どうだ!?」
子分『業者のいるビルが分かったっす!』
チンピラ「なんだと!?」
子分『車椅子押してる女が入っていくとこを見てる人がいたっす!』
子分『俺らがいるような、雑居ビルっす!』
チンピラ「でかした! お前刑事になれるぜ!」
チンピラ(尻尾を掴んでやったぜ……臓器密売グループさんよォ!)
子分「いやー、刑事ドラマをよく見てたかいがあったっす」
ブス「あの子の事情は分かったわ……なんとしても助けないと!」
マッチョ「悪い奴ら、ブチのめす!」
チンピラ「心強いぜ!」
子分「美女と野獣……じゃなく野獣と野獣コンビっすねえ」
ブス「なんですって!?」
子分「ひっ!」
チンピラ「表向きは普通のクリニックみてえだな……取り立て開始だァ!」
バァンッ!
白衣「な、なんだね、君たちは?」
チンピラ「通りすがりの……ヤミ金業者だよ!」
白衣「我々はヤミ金などに縁はないが……」
チンピラ「そんなことねえだろ? 臓器密売グループさんよォ」
白衣「!」
チンピラ「俺が取り立てたいのは……女と男の子だ」
白衣「ちっ!」ジャキッ
チンピラ「おいおい、即ナイフかよ。まともな医者じゃねえって自白してるようなもんだな」
白衣「野郎ども、やっちまえ!」
バキィッ!
子分「俺だってぇ!」
ドカッ!
マッチョ「フンガーッ!」
ドゴォッ!
ブス「キャーッ、みんなつよーい!」
手下「うわっ、なんだこのS級ブスは……」
ブス「誰がS級ブスよ!」
バチィン!
手下「へぶっ!」
チンピラ「あぶねっ!」
チンピラ「この野郎ッ!」
ドゴォッ!
白衣「ぶはっ……!」ドサッ…
子分「やったぜ、兄貴!」
ブス「さすが、一度はアタシを惚れさせた男だわぁ」
白衣「うぐぐ……」
白衣「ここには……いねえ……」
チンピラ「なにぃ!?」
白衣「ここはあくまで、俺らが医者だってのを演出するための場所に過ぎねえ……」
白衣「もう別の場所に行っちまったよ」
チンピラ「どこ行ったァ!?」
白衣「話す……かよ。バカが……」
ドカッ! バキッ! ガッ!
子分「ちょっ、兄貴!」
ブス「やりすぎよぉ!」
マッチョ「死んでしまう!」
チンピラ「どこだ……どこだァァァッ!」
チンピラ「あの子は弟救うためならなんだってやる覚悟だろう……俺だってあの子救うためならなんだってやるぜ」
白衣「ひ……ひぃぃ……」
チンピラ「いわねえと、ブチ殺す!」
白衣「わ、分かったぁ……」ガタガタ…
女「もう少しよ」
女「あなたを治してくれるお医者さんが見つかったから。今日あなたをその人達に預けるの」
弟「うん!」
弟「だけどお金は大丈夫なの?」
女「うん……平気よ」
弟「歩けるようになったら、またお見舞いに来てくれたお兄さんたちに会いたいな!」
女「……そうだね」
黒服「ところで、本件について誰にも話してないでしょうね?」
女「はい、大丈夫です……」
黒服「よろしい。なにぶん法に触れる治療法を行うので、極秘裏にしなくてはなりませんのでね」
黒服「ではお金と弟さんをこちらに」
女「…………」
女(今ならまだ……引き返せる)
女(罪は消えないけど……お金を返すことはできる……)
黒服「どうしました?」
黒服「いいんですか? あなたはそんなに冷たい人ではないはずだ」
黒服「姉として、どんな事をしても、どんな犠牲を払っても、弟君を救わなければならない」
黒服「何度も何度も、こう申し上げたはずです」
女「…………!」
女「お金です……」
女「弟を……弟をどうかお願いします!」
黒服「分かってます。必ずや車椅子が必要でない状態にしてみせます」ニッコリ
黒服「では弟さんをこちらに」
女「はい……」
キコキコ…
チンピラ「よし、ここで止めてくれ!」
運転手「料金1200円になります」
チンピラ「120円にならない?」
運転手「なりません」
ブス「んもう、アタシが払っておくわ」
チンピラ「わりいな」
子分「この倉庫っすね。彼女が弟君を渡すのは」
チンピラ「ああ……」
白衣『臓器ってのは保存がきくもんじゃねえんだ……』
白衣『だから、いつもボス達は町外れの倉庫に生きた人間を寝かせる……』
白衣『んで、注文に合わせて“出荷”するんだ……』
チンピラ「人をなんだと思ってやがる。胸糞わりィ……ぜってぇ食い止める!」
見張りB「なんだてめえら? こっから先は通行止めだ!」
子分「ゲ、見張りっす!」
チンピラ「ちっ、こんなのいちいち相手してらんねえぞ!」
マッチョ「…………」ズイッ
見張りA「うおっ!?」
見張りB「なんだこいつ……」
マッチョ「ぬうんっ!」
ドゴォンッ!
見張りAB「ぶぎゃっ!」
チンピラ「頼もしすぎるぜ……」
子分「ゴーレムを召喚した気分っす!」
ザザザッ… ドカドカ…
チンピラ「まだまだいやがったか!」
マッチョ「ここはオレたちに任せろ!」
ブス「そうよぉ、おいしいとこは譲ってあげるわぁ!」
チンピラ「二人とも、ありがとよ!」
子分「頼んだっす!」
タタタッ…
弟「お願いします!」キコ…
黒服「ええ、お任せ下さい」
チンピラ「任せちゃダメだァッ!!!」
黒服「!?」
弟「あ、お兄さん」
女「チンピラさん……!?」
チンピラ「さすらいのヤミ金業者!」
子分「と、その子分!」
黒服「なんでヤミ金がこんなところに……?」
チンピラ「そっちの姉ちゃんには金を貸しててな……」
チンピラ「取り立てるために捜してたら、こんなところまで来ちまった」
女「チンピラさん……私は……」
チンピラ「ったくすげえ客もいたもんだぜ。金庫の中の金、ぜーんぶ借りてっちまうんだもんよ」
チンピラ「そいつらは弟を救ってなんかくれねえ……臓器密売グループだ!」
女「え!?」
チンピラ「病気を治せるって言葉で釣って、あんたから大金と弟をせしめるつもりだったんだよ!」
チンピラ「こいつらの狙いは弟の臓器だ!」
女「そ、そんな……」
黒服「なにをいう! とんだデタラメを……」
子分「デタラメぇ? あんたの手下がぜーんぶ吐いてくれたっすよ!」
黒服「あのバカどもが……!」
黒服「…………」
女「答えて下さい!」
黒服「うるっせえなぁ……」
バキィッ!
女「きゃっ!」
弟「お姉ちゃん!」
チンピラ「てめえ……!」
黒服「全員“商品”にしちまうことだ」
黒服「お前らヒーローを気取ったつもりだろうが、俺らの儲けを増やすだけなんだよ!」
チンピラ「もし俺の臓器を移植すんなら、可愛い子にしてくれや」
子分「そりゃその子が可哀想っす」
チンピラ「なんだと!?」
黒服「ふざけやがって……こいつら片付けろォ!」
構成員達「はいっ!」ダダダッ…
バキィッ!
構成員A「ぐはっ……!」
子分「とぉりゃあっ!」
ドゴッ!
構成員B「うぐっ……」
バキッ! ドカッ! ガッ! ドカッ! バキィッ!
子分「いだだ……マッチョがいてくれればなぁ」
チンピラ「泣きごというな! 見張りに数割いてて、相手も数は多くねえ!」
ガキッ!
チンピラ「ぐあっ……!」
女「チンピラさん、逃げて下さい!」
チンピラ「逃げる? 冗談いうんじゃねえよ」
チンピラ「俺はあんたから金を取り立てるまで、一歩も引かねえ!」
女「チンピラさん……」
チンピラ「うりゃあ、ドロップキィーック!」バッ
ドカァッ!
構成員C「ぐああっ……!」
黒服「ちっ、だらしねえ奴らだ」
チンピラ「臓器ばかり売って体は鍛えてなかったようだな! 次はてめえだァ!」
黒服「いいだろう、相手になってやる」トンットンッ
チンピラ「…………!?」
黒服「シッ! シッ、シッ!」
スパパァンッ!
チンピラ「ぐはっ!」
チンピラ(こいつ……ボクシングでもやってんのか!?)
バキィッ!
チンピラ「あがっ……! くそぉっ!」ブウンッ
黒服「おっと」サッ
子分「兄貴ィ!」
黒服「そろそろおねんねしな。臓器はあますとこなく使ってやるからよ」トントンッ
チンピラ(ちくしょう、殴り合いじゃ絶対勝てねえ……! だったらァ!)ダッ
ガシッ!
黒服「ぐっ!?」
チンピラ「筋トレしてて……よかったぜぇ!」グオンッ
黒服「うおっ!?」
グオオオッ! ドゴンッ!
黒服「ぐはぁ……ッ!」
子分「やったっす! すげえ投げが決まった!」
チンピラ「ゼェ、ゼェ……ざまあみろ……」
「何をやっている」ザッ…
黒服「ボス……!」
チンピラ「ボス……!?」
チンピラ(おいおい、こいつがアタマじゃねえのかよ!)
チンピラ「!? あんたは……!」
子分「病院の……!」
女「どうして……!?」
弟「え……!」
医者「こんな小さな取引にここまで手こずるとは……」
黒服「す、すいま、せん……」
チンピラ「なんで……あんたがここに!?」
医者「やあ、また会ったね。あれからこの短時間でここまでたどり着くとは大したものだ」
チンピラ「事あるごとに、裏の治療法があるようなこといって、患者を追い詰めて」
チンピラ「時を見計らって、闇医者を装った部下を近づける!」
チンピラ「患者は自分から体を捧げるって寸法だ!」
チンピラ「そりゃ信じちまうよな! なんたって“本物の医者”が“そういう方法がある”っていってんだから!」
医者「その通り。見た目のわりになかなか賢いじゃないか」
チンピラ「このクズ医者がぁ……!」
医者「クズ医者? おいおい、私ほどの名医はこの世にいないと思うがね」
チンピラ「あぁん!? どういうことだ!?」
医者「これほど効率的なことはないだろう?」
医者「私は儲かる、臓器を買った客は助かる、ポンコツも社会の役に立てる」
医者「一石二鳥どころか一石三鳥じゃないか!」
女「よくも……!」
弟「ううっ……」
チンピラ「てめえええ……!」
子分「俺がいうのもなんだけどなんて悪党っすか! こんな奴はブタ箱にブチ込むべきっす!」
医者「残念ながら、私が逮捕されることはない」
医者「なぜなら……ここで君たちは死ぬからだ」チャッ
チンピラ「銃……!?」
チンピラ「ぐっ……!」
医者「さぁ、どうする?」スタスタ
チンピラ(漫画だと銃口を見てればかわせるとか――)
医者「…………」パシュッ!
チンピラ「あぐっ!」ビシュッ!
女「チンピラさん!」
子分「兄貴!」
チンピラ(無理だわ!)
女(だったら私が命にかえてもあの銃を取り上げる!)
医者「さあ、これで終わり――」
女「…………」ダッ!
チンピラ「! おいっ!」
子分「マジっすか!」
医者「ふん、バカ女が!」パシュッ!
女「きゃあっ!」
医者「ちっ、足か。まぁいい、もう動けまい」
医者「さてと!」チャッ
チンピラ「ぐっ!」
チンピラ(せっかくチャンスを作ってくれたのに、距離を詰め切れなかった……!)
医者「射撃の下手な私のために、わざわざ当てやすいところまで来てくれて感謝するよ」
子分(もうダメだ……!)
キコキコ…
医者「ん?」
医者「みじめなものだ。歩けない体でもがきおって」
弟「お姉ちゃん……!」ググッ…
弟「お姉ちゃぁん……!」グググッ…
スクッ…
弟「…………」ヨロ…
医者「――え?」
女「えっ……!」
子分「立った……!」
医者「バカなッ! 立てるわけがない! な、なんで――」
チンピラ「おい」
医者「――――ッ!」ハッ
医者「わわっ!」バッ
チンピラ「てめえはホントに名医だったなァ!」
バキィッ!
医者「ぶぼっ!」
ドザァッ…
医者「がふっ……」ガクッ
ブス「よかった、みんな無事のようね!」
子分「なんとか……だけど、兄貴と女さんが撃たれたっす!」
マッチョ「撃たれた!?」
ブス「すぐ救急車呼ぶわ!」
弟「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
女「うう……」
チンピラ「しっかりしろ! 死ぬんじゃねえぞ!」
チンピラ「んなことはもういいんだ。金は取り返したしよ」
女「だけど……」
チンピラ「それにさ……今だからいっちまうけど」
チンピラ「元々俺がヤミ金始めた理由ってのは……」
チンピラ「女を借金漬けにして、いいようにしてやろうだなんて夢見てたんだ」
女「…………」
チンピラ「どうだ、とんでもねえ悪党だろ。こんな悪党が金持ってちゃいけねえ」
チンピラ「だから、むしろいいことしたんだよ、あんたは」
チンピラ「だよな。こんな理屈で納得できてたら、金庫の前で“涙”流したりしないよな」
女「!」
チンピラ「だからよ、あんたにゃ罰を与える」
女「どんな罰でも……受けます」
チンピラ「これからも俺のために浅漬け作ってくれ」
チンピラ「ずっと、ずっと、ずうっとだ! ずうぅぅぅっとだ!」
女「…………!」
女「やります……喜んで!」
子分「兄貴ったら甘いんすから……そこがいいんですけど」
弟「お姉ちゃん……」
ブス「アツアツで羨ましいわぁ~。負けてられないわね、ダーリン」
マッチョ「あいつら、お似合い!」
…………
……
……
<事務所>
弟「…………」ヨタ…ヨタ…
弟「あ……」ヘタ…
子分「おっと」ガシッ
弟「へへ……だいぶ歩けた」
チンピラ「やるじゃねえか! もう競歩にだって出られるぜ!」
子分「大したもんっす!」
弟「ありがとう!」
チンピラ「ああ、密売グループはまとめて逮捕されて……」
子分「野獣コンビなんて、結婚っすよ、結婚! お姫様抱っこしたハガキなんか送ってきやがって!」
チンピラ「結婚式ではからかってやるぜ!」
子分「スピーチで下ネタはやめて下さいよ」
チンピラ「変わったといえば、俺らもだけどな」
子分「ヤミ金はやめて、二人ともカタギの仕事やってますからねえ」
チンピラ「町の便利屋稼業……忙しい上に儲けは少ないが、退屈はしねえぜ!」
チンピラ「だけど変わらないもんもある! それは――」
チンピラ「待ってましたァ!」
子分「いただきまーす!」
弟「まーす!」
ポリポリ… ポリポリ…
チンピラ「この味は変わらねえ! 初めて出会った時の味だぜ!」
女「あら、それって進歩がないって意味?」
チンピラ「違う! そうじゃなくて……」
女「冗談ですよ、冗談」クスッ
子分「今や女さん漬けっすね」ニヤニヤ
チンピラ「変なこというな!」
女「私の方こそ……チンピラさん漬けですよ」
チンピラ「お、おいおい……」
子分「さあて、まだ口付けもできてない二人はほっといて、俺らは浅漬け食べようか」ポリポリ
弟「うん!」ポリポリ
チンピラ「コラ、どんどん食うんじゃねえ!」
―おわり―
コメント一覧 (7)
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- 2020年12月12日 22:05
- 良き
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- 2020年12月12日 22:55
- こういうのでいいんだよこういうので
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- 2020年12月13日 07:53
- ハッピーエンド
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- 2020年12月13日 12:08
- 3年位前に似たようなSS見た
-
- 2020年12月14日 03:21
- 余っちゃったし子分と弟もくっつけとこうか
-
- 2020年12月19日 19:24
- 好き
-
- 2020年12月21日 23:38
-
こういうのでいいんだよこういうので
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