シンジ「君が、葛城ミサトちゃんだね」【前半】
- 2020年12月09日 02:00
- SS、新世紀エヴァンゲリオン
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放送「住民の方々は速やかに指定のシェルターに避難してください」
放送「繰り返しお伝えいたします…」
シンジ「…よりによってこんな時に見失うだなんて、まいったな…!」
シンジ「ミサトちゃん!ミサトちゃーん!」
ミサト「…だめか」
手元にシンジの写真と父親からの手紙
ミサト「…やっぱり、来るんじゃなかった…」
ミサト「……シェルターに…行ったほうがいいわよね」
爆風
ミサト「あぅ…っ、」
使徒が歩いている
ミサト「な……!」
ケンスケ「目標を映像で確認。主モニターに廻します」
カヲル「15年ぶりだね」
葛城「間違いない……使徒だ」
国連軍「目標に全弾命中!……ぐわあっ!」
激しい戦闘
ミサトの前に車が止まる
シンジ「ミサトちゃんっ!怪我はない!?」
オペレータ「航空隊の戦力では足止めできません!」
司令官「総力戦だ!厚木と入間も全部挙げろ!」
司令官「出し惜しみは無しだ!なんとしても目標を潰せ!」
攻撃をものともしない使徒。
司令官「なぜだ!直撃のはずだ!」
司令官「戦車大隊は壊滅、誘導兵器も砲爆撃もまるで効果なしか」
司令官「ダメだ!この程度の火力では埒があかん!」
カヲル「やはり、A.T.フィールド…」
葛城「ああ…使徒に対して、通常兵器での攻撃は通用しない」
司令官「分かりました、予定通り発動いたします」
カヲル「……連中、痺れを切らしたようだね」
シンジ「伏せて!!!」
司令官「やった!」
司令官「残念ながら、君たちの出番はなかったようだな」
オペレータ「衝撃波、来ます」
シンジ「……けほっ…大丈夫だった…?」
ミサト「……はい、なんとか…」
シンジ「よし…怪我も…、ないね。良かった」
シンジ「ちょっと待っててね、今、これを…!……」
横転した車。
シンジ「んぐ…っ!」
シンジ「はぁ…はぁ…」
ミサト「……」
ミサト「……あ、あの…手伝います」
シンジ「ご…ごめんね…!じゃあ…」
シンジ・ミサト「…せーのっ!」
シンジ「…ハァ、ハァ…ありがとう、ミサトちゃん。助かったよ」
ミサト「いえ、わ、私の方こそ。その、碇さん」
シンジ「…シンジでいいよ。…あらためて、よろしくね。葛城ミサトちゃん」
ミサト「はい!…し、シンジさん」
オペレータ「電波障害のため、確認できません」
司令官「あの爆発だ。ケリはついてる」
ケンスケ「センサー回復します」
オペレータ「爆心地に、エネルギー反応!」
司令官「なんだとぉっ!」
ケンスケ「映像、回復します」
司令官「おお…」
司令官「われわれの切り札が…」
司令官「なんてことだ…」
司令官「化け物め!」
シンジ「……うん。なんとかなったよ…はは…ありがとう心配してくれて。うん、ミサトちゃんも無事」
シンジ「うん…え…悪いよ……確かに、そのほうが早いけど……あ、ごめんそれは……途中で車が……うん、うん……分かったよ…じゃあよろしく。また本部で」
シンジ(はぁ…大切に乗ってたのになぁ…ボコボコだ……。長く乗った車だから愛着があるけど…修理はもう無理かな…)
シンジ「…買い換えどきか…」
ミサト「えっ?」
シンジ「あ…なんでもないよ、別に…!はは」
ミサト「……」
シンジ「あれっ、ミサトちゃん…」
シンジ「擦りむいてるじゃないか、ここ」
ミサト「あ…いえ、平気です!ほんとに少しですから」
シンジ「あった!…はい、絆創膏」
ミサト「あ……ありがとう、ございます…」
シンジ「……ごめんね。来て早々、嫌な思いばかりさせちゃって」
ミサト「そんなこと……私より、シンジさんが…」
シンジ「はは……僕は、これが仕事だから」
ミサト「……」
シンジ「優しいね、ミサトちゃんは…」
ミサト「えっ」
シンジ「ありがとう、心配してくれて」
葛城「そうでなければ単独兵器として役に立たない」
カヲル「ごらんよ…機能増幅まで可能なようだ」
葛城「…知恵をつけてきたな…」
カヲル「再度進攻は、時間の問題だね」
アナウンス「ゲートが閉まります。ご注意ください。発車いたします…」
ミサト「…特務機関、ネルフ…」
シンジ「うん。国連直属の非公開組織なんだ」
ミサト「父のいるところですよね…」
シンジ「そう…お父さんから仕事のこと、聞いてる?」
ミサト「人類を守る大事な仕事だ、って……おじさんから」
シンジ「…そう……」
葛城「了解しました」
司令官「葛城君、われわれの所有兵器では目標に対し有効な手段がないことは認めよう」
司令官「だが、君なら勝てるのかね?」
葛城「そのためのネルフです」
司令官「期待しているよ」
オペレータ「目標は未だ変化なし」
トウジ「現在迎撃システム稼働率7.5%」
カヲル「国連軍もお手上げのようだ…どうする?」
葛城「…初号機を起動させる」
カヲル「初号機を?パイロットは不在では?」
葛城「……じき到着する」
シンジ「…そうだね、すぐには…会えないかもしれないけど」
ミサト(…お父さん…)
シンジ「あ、そうだ、お父さんからIDは貰ってない?」
ミサト「あ、はい、あります…」
シンジ「…うん、確かに。じゃ…ミサトちゃんには、これを」
ミサト「ネルフ?お父さんの仕事場で…何かするんですか?私が?」
シンジ「……」
ミサト「…そう、ですよね…用もないのに…手紙なんてくれるわけない」
ミサト「えっ?」
シンジ「してみたいよね。……大したことじゃなくたっていい…とにかく元気か、くらいの言葉があれば…」
シンジ「僕の父も、そういう人だったから。もういないけど」
ミサト「……」
シンジ「……必要、なんだと思うよ。きみの力が」
ミサト「必要……」
ミサト(…捨てられた私が?)
シンジ「うん…これが僕たちの秘密基地、ネルフ本部…世界再建の要、人類の砦となる場所…」
シンジ「ちょっと待っててね……確か…内通は…っと…」
アナウンス「セントラルドグマの閉鎖通路は現在…」
シンジ「ごめんね、まだ慣れてなくて」
ミサト「いえ……」
アナウンス「技術局第一課E計画担当の綾波レイ博士、綾波レイ博士、至急作戦部第一課碇シンジ一尉までご連絡ください」
レイ「……」
レイ「15分の遅刻」
シンジ「うっ……ごめん…!」
レイ「…例の女の子ね」
ミサト「あ…うん、マルドゥックの報告書による、サードチルドレン」
レイ「よろしく」
ミサト「は、はい…よろしくお願いします…」
レイ「……」
シンジ「…何?」
レイ「似てなくてよかったわね」
シンジ「な…、何も言ってないじゃないか…!」
レイ「あなた司令が苦手だものね……」
シンジ「……」
葛城「渚……後を頼む」
カヲル「3年ぶりの対面か…」
トウジ「目標が再び移動を開始」
カヲル「…よし、総員第一種戦闘配置」
シンジ「…上はどうなってるの?」
レイ「やっとこちらに指揮権を渡したそうよ」
シンジ「…今、初号機は?」
レイ「B型装備のまま、現在冷却中」
シンジ「あれを使うの? まだ一度も動いたことないじゃないか」
レイ「起動確率は0.000000001%」
シンジ「…オーナインシステムか……本当に動くの?」
リツコ「可能性はゼロではないわ」
シンジ「……どの道…もう、動きませんでした、では済まされないか…」
ミサト「えっ、顔…?ロボット……!?」
レイ「探しても、載ってないわ」
ミサト「えっ?」
レイ「人の作り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。その初号機。建造は極秘裏で行われた」
レイ「私たち人類の、最後の切り札」
ミサト「……これが、お父さんの…仕事……?」
葛城「そうだ」
ミサト「……!」
葛城「……よく来た」
葛城「出撃だ……」
シンジ「出撃!?そんな…!零号機は凍結中のはず…まさか、初号機を…?」
レイ「……ほかに道はない」
シンジ「でも!リツコちゃんはまだ…!無理だよ!あの状態では、とても…!」
レイ「……新しいパイロットは到着した」
シンジ「な…っ」
レイ「葛城ミサトさん」
ミサト「え……」
レイ「あなたを、エヴァンゲリオンの正式なパイロットとして、ここに迎えます」
シンジ「そんな!!……ミサトちゃんは今ここに着いたんだよ!?リツコちゃんでさえ、エヴァとシンクロするのに7ヶ月もかかったっていうのに…!この子には無理だよ!!!」
レイ「座っていればいいわ。それ以上は望まない」
シンジ「でも…!」
レイ「今は使徒撃退が最優先事項。そのためには誰であれ、エヴァとわずかでもシンクロ可能と思われる人間を乗せるしか、方法はない」
レイ「分かっていたはずよ、碇一尉」
シンジ「……っ」
葛城「……話は聞いたはずだ」
ミサト「お父さんからは聞いてないわよ……!私に…これに乗って戦えって言うの?さっきの化け物と!」
葛城「…そうだ」
ミサト「………いやよっ!そんなの……!何?なんでそうなるのよ、今更、いまさら……私を捨てたんじゃなかったの!!?」
葛城「……捨てた覚えはない」
ミサト「なぜ、私なの?」
葛城「お前にしかできないことだからだ」
ミサト「……無理よ…っ!そんなの…見たことも、聞いたこともないのに、できるわけない!」
レイ「はい」
ミサト「嫌っ!いや…!触らないで…!絶対に乗らない……!」
葛城「ミサト…説明を受けるんだ」
ミサト「嫌よ!!できっこない…こんなの乗れるわけない!!!死ぬなんて嫌よ!!!」
葛城「……」
葛城「………分かった」
ミサト「えっ…」
ミサト「…!」
葛城「帰りなさい」
葛城「ここにお前の居場所はない」
地響き。
葛城「ここに気付いたか…」
ミサト(……)
ミサト「……、…!」
ミサト「でも………そんな、だって…わたし…」
シンジ「………無理だよ、綾波…!この子は本当に…何の訓練も受けてない、普通の…!」
レイ「では、赤木リツコを向かわせる?」
シンジ「………!」
レイ「二つに一つよ」
ミサト(居場所がない……また、失うの…?)
ミサト(でも……できるわけ……)
カヲル「……繋がってるよ」
葛城「リツコ」
リツコ「…はい」
葛城「悪いが、もう一度だ」
リツコ「はい」
レイ「初号機のシステムを赤木リツコに書き直して、再起動!」
ヒカリ「了解。現作業中断。再起動に入ります」
ミサト(……私が……逃げ出したから…)
ミサト「また………捨てられる」
衝撃。鉄骨が落下する
シンジ「ミサトちゃん!!」
ミサト「きゃあぁっ!」
オペレータ「エヴァが動いた!どういうことだ!?」
オペレータ「右腕の拘束具を引きちぎっています!」
レイ「まさか、ありえない…!エントリープラグの挿入もなしに…!」
シンジ「………!守ったのか……?彼女を…インターフェースもなしに……これなら…!」
シンジ(いけるかもしれない…!)
少女に駆け寄るミサト
リツコ「………ぅ、……」
ミサト「………!!」
ミサト(……ちゃ…だめ…、逃げちゃ駄目…泣いちゃ駄目、甘えちゃ駄目…っ!)
ミサト「…やります、私が乗ります…!」
オペレータ「右腕の再固定完了」
オペレータ「ケイジ内、すべてドッキング位置」
ヒカリ「停止信号プラグ、排出終了」
オペレータ「了解。エントリープラグ挿入」
オペレータ「脊髄連動システムを解放。接続準備」
オペレータ「プラグ固定終了」
オペレータ「第一次接続開始」
ヒカリ「エントリープラグ、注水」
ミサト「…う、わっ…!何ですか!?これ」
レイ「大丈夫。肺がL.C.L.で満たされれば、直接血液に酸素を取り込んでくれる。すぐに慣れるわ」
ミサト「うぷ………」
シンジ「……」
オペレータ「全回路、動力伝達」
レイ「了解」
ヒカリ「第二次コンタクトに入ります」
ヒカリ「A10神経接続、異常無し」
レイ「思考形態は、日本語を基礎原則としてフィックス。初期コンタクト、すべて問題なし」
ヒカリ「双方向回線開きます。シンクロ率、41.3%」
レイ「逸材ね…」
ヒカリ「ハーモニクス、すべて正常値。暴走、ありません」
レイ「いけるわ」
シンジ「うん……発進、準備!」
オペレータ「第一ロックボルト外せ!」
オペレータ「解除確認、アンビリカルブリッジ、移動開始」
オペレータ「第二ロックボルト外せ!」
オペレータ「第一拘束具除去。同じく、第二拘束具を除去」
オペレータ「1番から15番までの安全装置を解除」
オペレータ「内部電源、充電完了」
オペレータ「外部電源用コンセント、異常無し」
ヒカリ「了解、エヴァ初号機、射出口へ」
ヒカリ「進路クリアー、オールグリーン!」
レイ「発進準備完了」
シンジ「了解」
葛城「…使徒を倒さぬ限り、われわれに未来はない」
カヲル「お手並み拝見といこうか…」
シンジ「発進!」
ミサト「…ぐっ、う…っ」
シンジ(ミサトちゃん……死なないで…!)
壱話分終わり
ミサト「は、はい…!」
シンジ「最終安全装置、解除!」
シンジ「エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!」
レイ「…聞こえる?ミサトさん、今は歩くことだけに集中して」
ミサト「歩く、…!」
レイ「歩いた…!」
ミサト「歩、く…!」
ミサト「………う、わ……っ!」
ミサト「………!……は…っ!」
シンジ「ミサトちゃん!!!起き上がって!!!」
ミサト「うっっ」
使徒に腕を掴まれる
ミサト「あぁ…っ!ぁ…!」
シンジ「落ちついて!落ちついてミサトちゃん!!!本当の腕じゃないんだよ…!」
ヒカリ「シグナル、作動しません」
トウジ「フィールド、無展開!」
レイ「いけない!」
ミサト「あぁ……っ!」
ヒカリ「左腕損傷!」
トウジ「回路断線!」
シンジ「ミサトちゃんっ、よけてっっ!!」
ミサト「!」
ヒカリ「頭蓋前部に、亀裂発生!」
レイ「装甲が、もう、持たない…!」
ケンスケ「頭部破損、損害不明!」
ヒカリ「制御神経が、次々と断線していきます!」
トウジ「パイロット、反応なし!」
シンジ「ミサトちゃんっ!!」
ミサト「………知らない天井…」
回収される初号機
人類補完委員会
委員「使徒再来か。あまりに唐突だな」
委員「15年前と同じだよ。災いは何の前触れも無く訪れるものだ」
委員「幸いともいえる。われわれの先行投資が無駄にならなかった点においてはな」
委員「そいつはまだ分からんよ。役に立たなければ無駄と同じだ」
委員「左様。今や衆知の事実となってしまった使徒の処置、情報操作、ネルフの運用はすべて適切かつ迅速に処理してもらわんと困るよ」
葛城「…その件については対処済みです。ご心配なく…」
テレビ「今回の事件には…」
テレビ「在日国連軍の…」
ヒカリ「はい。爆心地における汚染の心配はありません。使徒のサンプルはエヴァに付着していたもの以外はまだ何も。そうです、模擬シミュレーションの通り、その99.9%が蒸発したものと思われます」
シンジ「…発表はシナリオB-22か…」
レイ「広報部はやっと仕事ができたって」
シンジ「…成功しても隠蔽。失敗すれば存在ごと抹消…僕たちのやってることって…」
レイ「…表向きの顔は必要よ…。本当はみんなも恐いんじゃないかしら…」
シンジ「……僕も、恐いよ…」
委員「しかし葛城君、ネルフとエヴァ、もう少しうまく使えんのかね?」
委員「零号機に引き続き、君らが初陣で壊した初号機の修理代。国が一つ傾くよ!」
委員「聞けばあのオモチャは君の娘に与えたそうではないか」
委員「人、時間、そして金。親子そろっていくら使ったら気が済むのかね?」
委員「それに君の仕事はこれだけではあるまい。人類補完計画、これこそが君の急務だ」
委員「左様。その計画こそがこの絶望的状況下における唯一の希望なのだ。我々のね」
キール「いずれにせよ、使徒再来における計画スケジュールの遅延は認められん。予算については一考しよう」
委員「では、後は委員会の仕事だ」
委員「葛城君、ご苦労だったな」
キール「葛城、後戻りはできんぞ」
葛城「分かっています…人間には時間がない」
ミサト「……」
シンジ「ミサトちゃんが?」
レイ「ええ、気が付いたそうよ」
シンジ「容体は?」
レイ「外傷は無し。少し記憶に混乱が見えるそうだけど」
シンジ「まさか…」
レイ「…精神汚染の心配はないそうよ、検査済み」
シンジ「そう…そうか……良かった…」
レイ「安心するのはまだ早いかもしれない…脳神経にかなりの負担がかかったから」
シンジ「……」
シンジ「心の傷か…」
作業員「よーし、そのまま!」
シンジ「…エヴァとこの町が完全に稼動しても、まだまだ問題は山積みだね…」
レイ「…ずいぶんと後ろ向きね。やっとエヴァが動いたのに」
シンジ「初号機が動いたのは大きな前進だよ、使徒も倒した。でも……」
レイ「希望的観測も必要よ、ある程度はね」
シンジ「うん……ありがとう…」
シンジ「……」
レイ「……どうしたの…?」
シンジ「……代わってあげれたら、いいのにね……いや」
シンジ「僕ならきっと逃げ出してる…」
シンジ「世界再建の要、人類の砦………でも実状は」
レイ「……」
シンジ「あんな小さな子どもを戦わせてる…」
アナウンス「E事件の医療会議は予定通りに行われます。担当者は第2会議室へ集まってください」
エレベーター前。鉢合わせる親子、見つめるシンジ。
カヲル「…それで、彼は適任ではないと?」
レイ「……有事の際には非情な決断を迫られる立場でもあります、碇一伊は、あまりにも…」
カヲル「優しすぎる。…そうだね、分かっているよ」
レイ「では、なぜ…」
カヲル「彼が苦悩しているのも知っている。でも、だからこそなんだよ…彼の心は繊細で、ガラスのように壊れやすい…」
カヲル「戦いに出る子どもたちの…「心」を痛んでやれるのは彼だけだ。冷徹な上官だけが有能なわけじゃない…分かってくれるね…?」
レイ「……出すぎたまねを」
カヲル「いや…いいんだ。彼を支えてあげてほしい」
カヲル「…それも、君にしかできないことだ」
レイ「はい……」
ネルフ職員「そうだ。彼女の個室はこの先の第6ブロックになる。問題は無かろう」
ミサト「はい」
シンジ「え……それでいいの?ミサトちゃん」
ミサト「…いいんです、一人のほうが。慣れてますから」
シンジ「…………」
レイ「…何を言ってるの?」
シンジ「だから…ミサトちゃんだよ。いくら仲が悪いからって、あんなことがあった後に一人には…だから、僕のところにと思って。上の許可は下りてるんだ。心配しなくてもうまくやるよ」
レイ「……あなた、どこまで……。背負いきれなくなるわよ?」
シンジ「でも………放っとけないよ…」
レイ「ハァ…その歳の女の子を一人暮らしの男性の家になんて、どうかと思うけど…碇くんじゃなきゃ、許可は下りなかったでしょうね…」
レイ「いいわ。くれぐれも間違いのないように」
シンジ「間違いって…?………なっ…!あっ!当たり前じゃないか!!」
シンジ「もう…冗談が分かりづらいよ…!」
ミサト「あの…?」
シンジ「あっ、ああごめん、今車出すから!」
主婦B「まさかここが本当に戦場になるとは思ってもみませんでしたから」
主婦A「うちも主人が私と子供だけでも疎開しろって」
主婦B「疎開ねぇ。いくら要塞都市だからと言ったって、何一つ当てにできませんものね」
主婦A「昨日の事件!思い出しただけでもぞっとしますわぁ」
シンジ「……少し寄りたいところがあるんだけど、いいかな…?」
ミサト「えっ?構いませんけど…」
シンジ「ふふ…きっと驚くよ」
ミサト「……?」
ミサト(…なんだか寂しい街……夕日を楽しめってことかしら…?)
シンジ「…時間だ」
ミサト「……あっ…!」
ミサト「すごい…!ビルが生えてく…」
シンジ「…これが使徒迎撃専用要塞都市、第3新東京市。僕たちの街」
シンジ「そして…ミサトちゃん、君が守った街だ…」
シンジ「ありがとう、ミサトちゃん、僕たちを、街を…守ってくれて」
ミサト「………」
ミサト「あっ、あの…おじゃまします…!」
シンジ「そんな…緊張しないで。今日からここはミサトちゃんの家でもあるんだから…」
ミサト(家……私の、)
ミサト「…た、ただいま…」
シンジ「…お帰りなさい」
シンジ「ごめんね、散らかってて…」
ミサト「いえ………とっても綺麗です…」
シンジ「そう? 今夕飯の支度するね。なにか苦手なものとかある?」
ミサト「い、いえ。何も」
シンジ「そう、良かった」
シンジ「あ、後で紹介するよ。今はまだ寝てるだろうから」
ミサト「寝てる?」
「サクサクサク」「トントントン」「チーン」
シンジ「ごめんね、在り合わせのものしかなくて…」
ミサト「すごい…!」
シンジ「あはは、ありがとう。ほんとは水につけておくとね、もっと美味しいんだけど。これも冷やす時間があったらなぁ…また明日食べようね」
ミサト「は…はい」
シンジ「? どうしたの?…あ、ごめん…多すぎたかな?女の子の食べる量ってよく分からなくて…それとも食欲がなかった?」
ミサト「い、いえ!あの、そうじゃなくて…こういう食事…慣れてなくて…」
ミサト「いや、あの、違うんです。食べたくないわけじゃ…!」
シンジ「落ち着かない?」
ミサト「え?」
シンジ「僕もね、ほんと言うと久し振りなんだ…誰かとこうやって食卓を囲むの。だから、何話せばいいのかなって…考えてたら、料理もこんなに作っちゃって」
ミサト「……」
シンジ「…でも、ミサトちゃんも同じだってわかってほっとしたよ。はは…駄目だね。僕のほうが大人なのに、全然気のきいたこと言えないや」
ミサト「いえ!そんなこと…!…その…慣れないですけど、誰かと、し…シンジさんと、食事するの、…あ、安心するっていうか、…」
ミサト「楽しい、です…」
シンジ「…!そう…良かった」
ミサト「あ、あの、でも…私も、その…一員、ですから、公平に…」
シンジ「…ふふ、そうだね。じゃあジャンケンしよっか」
ミサト「はい…!」
シンジ「あはは…結局…」
ミサト「す…すいません…なんか…」
シンジ「いいよいいよ!公平にジャンケンで決めた結果だし…元々ひとりでやるつもりだったんだから。月曜と火曜はよろしくね」
ミサト「はい!…あ…でも…」
シンジ「?」
ミサト「私あんまり料理とか、得意じゃなくて…その、シンジさんみたいに美味しくできないかも…」
シンジ「そんなこと。気にしなくていいよ。作ってくれるだけでも、十分ありがたいよ…それに、分からないことがあったら、聞いてくれれば…」
ミサト「……」
シンジ「料理なら…ちょっとは自信あるんだ。大体のことは分かると思う。だから、その…遠慮しないでなんでも聞いてね」
ミサト「…はい!そうします」
ミサト「はい」
シンジ「よっと」カチャ
ミサト「あっ…手伝います」
シンジ「いいよ、作りすぎちゃったのは僕だから。それより今日は疲れてるだろうし。お風呂湧いてるから、ゆっくり入っておいでよ」
ミサト「…ありがとう、ございます…」
皿洗い中のシンジ
シンジ「フンフフーン」カチャカチャ
ミサト「!!!!!????しっ、ししし、シンジさんっ!!!!」
ミサトに背を向けたままのシンジ
シンジ「ミサトちゃん?早かったね…ゆっくり入ってよかったのに」ジャブジャブ
ミサト「お、おお、お風呂に、ど、ど、ど、動物…!!!」
シンジ「あはは。ペンペンに会ったの?大丈夫だよ。ペンペンは新種の温泉ペンギンなんだ」ジャー
ミサト「ペン…ギン…」
シンジ「驚かせちゃってごめんね。紹介するの、忘れて…」クルッ…
シンジ「エッ……うわっ、み、ミサトちゃ…っ!!!!!」
ミサト「!!!!!!!」
ミサト「きゃーーーーーーー!!!!!」バタバタ
シンジ「……………意外と、おっちょこちょい、なのかな…」
シンジ「……」カァ
ミサト「………」
ミサト(……でも…碇シンジさん、か……良い人みたいで良かった…)
(シンジ「なんでも聞いてね」)
ミサト(……ウソみたい……あんなことがあって、死ぬ思いをしたのに……美味しいご飯食べて、お風呂に浸かって…)
ミサト「生きてるのね…私」
ミサト(ここで生きていくの…?本当に?)
(葛城「ここにお前の居場所はない」)
ミサト「………!」ザプンッ
ミサト(でも、他に行く場所もない……)
(レイ「赤木リツコにデータを書き換えて!」)
(リツコ「……ぅ、……」)
ミサト「……赤木、リツコか…」
レイ「身体の傷は20日もすれば良くなります」
葛城「そうか……ではそれまでに凍結中の零号機の再起動を取り付ける」
レイ「心のメンテナンスもなしに、ですか?」
葛城「……私の出る幕ではない、その件に関しては碇一伊に一任している……」
葛城「いかに倫理的な問題があったとしても、エヴァを動かせる人間は他にはいない」
レイ「………分かりました」
シンジ「激励の言葉…?「この仕事に誇りを持て」なんて言えないよ、まだ自分の夢も見たことないような子どもに…」
レイ「夢を見るのに、明日の世界は必要よ。あの子には前を向いてもらわないと…」
シンジ「そうだよ…だけど…分からないんだ。何を言う権利がある…?世界のためだ人類のためだと言って僕たちは子どもを利用してるんだ」
レイ「……」
シンジ「…道具みたいに……」
レイ「あなたがそれでは…無敵の要塞も形無しよ?」
レイ「……しっかり胸を張って。「碇作戦部長」」
シンジ「………」
(シンジ「ミサトちゃんの家でもあるんだから…」)
(葛城「ここにお前の居場所はない」)
ミサト(………)
ミサト(本当に…なんでここにいるんだろ……)
ケンスケ「頭部破損、損害不明!」
オペレータ「活動維持に問題発生!」
シンジ「状況は!?」
ヒカリ「シンクログラフ反転、パルスが逆流しています!」
レイ「回路遮断、塞き止めて!」
ヒカリ「だめです、信号拒絶、受信しません!」
シンジ「ミサトちゃんは!?」
トウジ「モニター反応無し、生死不明!」
ケンスケ「初号機、完全に沈黙!」
レイ「碇くん!」
シンジ「……っ…作戦中止!パイロット保護を最優先、プラグを強制射出して!」
ヒカリ「だめです、完全に制御不能です!」
シンジ「そんな……!!」
ヒカリ「そんな、動けるはずありません!」
シンジ「……まさか…!」
レイ「暴走!?」
咆哮する初号機
カヲル「勝負…あったね」
レイ「A.T.フィールド!」
シンジ「……だめだ!A.T.フィールドがある限り」
レイ「使徒には接触できない!」
ケンスケ「左腕復元!」
シンジ「これは…!?」
レイ「いいえ、侵蝕している…」
シンジ「あのA.T.フィールドをいとも簡単に…!」
使徒の腕を折る初号機。コアを叩く
変形した使徒が初号機を抱き込む
シンジ「!!自爆…!?」
ヒカリ「エヴァは…!?」
レイ「あれがエヴァの…」
シンジ「本当の姿…」
葛城「……」
オペレータ「システム回復、グラフ正常位置」
トウジ「パイロットの生存を確認」
レイ「機体回収班、急いで!パイロット保護を最優先に!」
ミサト「……ふ、ぅあ…っ」
建物のガラス越し。初号機と目が合う
ミサト「あああああああっっ!」
シンジ「いきなり…こんな街に連れてこられて、使徒と戦わされて…ぶつけようのない感情があると思う」
シンジ「僕たち大人を…恨んでくれて構わない」
シンジ「逃げないでくれてありがとう…、戦ってくれて、ありがとう…だけどこの先、立ち向かえない現実があったとしても、」
シンジ「ミサトちゃん…君自身のことは、嫌いにならないでほしい」
シンジ「…立派なことをしなくても……君は、君でいていいんだから…」
シンジ「おやすみ…」
ミサト「………」
弐話分終わり
ミサト「おっおはようございます…!」
レイ「昨日はよく眠れた?」
ミサト「あっ昨日は…その、はい。眠れました」
レイ「そう…良かったわ。くれぐれも無理はしないように。気分が悪くなったらすぐに言ってね…では、エヴァの出現位置、非常用電源、兵装ビルの配置、回収スポット、おさらいしておく?」
ミサト「お…お願いします…」
レイ「通常エヴァは有線からの電力供給で稼動しています。非常時に体内電池に切り替えると、蓄電容量の関係でフルで1分、ゲインを利用してもせいぜい5分しか稼動できない…」
レイ「これが私たちの科学の限界。あとはパイロットの技量にかかってる」
ミサト「はい…!」
レイ「…では昨日の続きから。インダクションモード、始めて」
レイ「スイッチオン」
レイ「もう一度。落ち着いて、目標をセンターに…」
ミサト「目標をセンターに入れて、スイッチ…!」
レイ「次」
ヒカリ「しかし、よく乗る気になってくれましたね、ミサトちゃん」
レイ「…覚悟を決めてくれたなら助かるけど。まだ揺れている、でしょうね…」
ミサト「目標をセンターに入れて、スイッチ…!目標をセンターに入れて、スイッチ…!目標をセンターに入れて、スイッチ…!目標をセンターに入れて…!」
テレビ「はい、おはようございます、シノハラです!今朝は何と、西伊豆の松崎へ、ダイビングに来てるんですよ!本日も西伊豆地方は今日も快晴!予想最高気温は…」
ミサト「…シンジさん、帰ってたんですか」
シンジ「ウン…さっきまで当直で…ごめん、朝ごはん作れなくて…。ふわぁぁ…ちょっとゴミ出してくるね」
ミサト「そんな…私が持っていきますから、寝ててください」
シンジ「そんな、悪いよ。僕が当番なのに…」
ミサト「いいですから、ほら!」
シンジ「ありがとう……ミサトちゃん、学校で変わったこととか、ない…?」
ミサト「…大丈夫ですよ」
シンジ「そう…行ってらっしゃい」
ミサト「行ってきます」
レイ「どう?その後彼女とは」
シンジ「うん…。転校して2週間なんだけど、まだ電話も掛かってこなくって…」
レイ「電話?」
シンジ「うん。必須アイテムだから随分前に携帯渡しておいたんだ。だけど自分で使ったり、誰かから掛かってきた様子がなくて…ひょっとしてうまくいってないんじゃないかな…」
レイ「…近づくのが恐いんじゃないかしら。ヤマアラシのジレンマね」
シンジ「ヤマアラシ?あのトゲトゲの?」
レイ「…ヤマアラシの場合、相手に自分の温もりを伝えたいと思っても身を寄せれば寄せるほど体中のとげでお互いを傷つけてしまう。人間にも同じことが言えるわ…。今のミサトちゃんは心のどこかで痛みに怯えて、臆病になってるんでしょうね…」
シンジ「…痛みに怯えて、か…。結局寂しさに耐えられなくて、また近づくのにね…丁度いい距離が掴めればいいんだけど。大人になった今でも分からないくらいだから…ミサトちゃんくらいの歳の子には、もっと難しいだろうね…」
青葉「ギャギャギャ、ギャーン。チュイーン…何? マヤちゃん」
マヤ「…昨日のプリント、届けてくれた?」
青葉「あ、あぁ…いや、なんかマコトの家、留守みたいでさ」
マヤ「もう。青葉君、日向君と仲良いんでしょ?二週間も休んで心配じゃないの?」
青葉「…怪我でもしたのかなぁ」
マヤ「えっ、例のロボット事件で?TVじゃ一人もいなかったって…」
青葉「まさか。鷹ノ巣山の爆心地見ただろ?入間や小松だけじゃなくて三沢や九州の部隊まで出動してるんだ。絶対、十人や二十人じゃすまないさ。死人だって…、マコト!」
マヤ「日向君」
日向「…なんだか、見ないうちにガランとしちゃったな」
日向「…喜んでるのはお前ぐらいだろうな。男のロマンとか言って」
青葉「ははっ…それよりお前はどうしてたんだよ?えーと…二週間も休んで。騒ぎの巻き添えでも食ったのか?」
日向「…妹がな。倒れてきた瓦礫の下敷きになったんだ。幸い、大したことはなかったんだけど…医者が念のためにってね。俺のところは二親が研究所勤めだから、長く病院にはいられないだろ?…でも一人にするのは可哀想だから、ずっと俺が付いてたんだ」
日向「…しかし、変だよな。まるで暴走していたようだって話じゃないか。仮にも市民の安全を守る機関のロボットがだぞ?全く…しっかりしてほしいよ」
青葉「それなんだけどさ、お前聞いたか?転校生のうわさ」
日向「転校生?」
青葉「お前が休んでる間に転入してきたんだよ。…あの事件の後にだぞ?おかしくないか?ほら、あの娘さ」
マヤ「起立!」
「 葛城さんが あのロボットのパイロットというのはホント? Y/N」
教員「だが、あれから15年。わずか15年で我々はここまで復興を遂げる事が出来たのです」
「 ホントなんでしょ? 」
「 Y/N 」
教員「それは私たち人類の優秀性もさることながら皆さんのお父さんお母さんの血と汗と涙と努力の賜物といえるで有りましょう」
「YES」
生徒達「えーー!!!」
マヤ「ちょっともう、みんな!まだ授業中よ!席について!」
生徒女「あー、またそうやってすぐ仕切る~」
生徒男「いいじゃんいいじゃん」
マヤ「良くない!」
生徒女「ねぇねぇ、どうやって選ばれたの?」
生徒女「テストとか有ったの?」
生徒女「怖くなかった?」
生徒女「操縦席ってどんなの?」
生徒女「あのロボットなんて名前なの?」
ミサト「…み、みんなは、エバーとか、初号機って…」
生徒男「エッ、必殺技は?」
ミサト「何とかナイフって言って振動が…えと、超音波?みたいに…」
生徒女「でも凄いわ。学校の誇りよね~」
教師「で、ありますから…あぁ、では今日はこれまで」
マヤ「起立、礼!…ちょっとみんな最後くらいちゃんと……!」
日向「………」ポロッ
シャーペンを落とし、固まる日向
青葉「おいマコト?授業終わったぞ?おーい」
日向「」
青葉「悪いね。とめたんだけどさ。言いだしたら聞かなくて、コイツ…ほら、だから言ったろ…」
ミサト「………にも………いくせに…」
青葉「……?」
リツコ「葛城さん…非常召集よ。…先に行ってるわ」
放送「ただいま東海地方を中心とした関東中部の全域に特別非常事態宣言が発令されました。速やかに指定のシェルターへ避難して下さい。繰り返しお伝えいたします。…」
カヲル「…総員、第一種戦闘配置」
オペレータ「了解、滞空迎撃戦用意」
トウジ「第三新東京市、戦闘形態に移行」
オペレータ「中央ブロック収容開始」
オペレータ「中央ブロック及び第1から第7管区まで間で収容完了」
ケンスケ「政府及び関係各省への通達終了」
オペレータ「現在対空迎撃システム稼働率48%」
シンジ「非戦闘員、及び民間人は?」
ケンスケ「すでに退避完了だそうだよ」
青葉「くっそー!またかぁ」
日向「また文字だけか…報道管制ってやつだな」
青葉「俺ら民間人には見せてくれないってのか?どうして!身の上のことだろ?」
シンジ「第4の使途…まさかこんなに早く来るなんて…葛城司令のいないときに…」
トウジ「前は15年のブランク、今回はたったの3週間やからなぁ」
シンジ「…こっちの都合はお構いなしか」
ケンスケ「女性に嫌われるタイプだね」
カヲル「…税金の使い道が組織の面子、体裁のためとはね…」
ケンスケ「委員会から再びエヴァンゲリオンの出動要請が来てるよ」
シンジ「了解。…言われなくても出撃させるさ」
ヒカリ「L.C.L.電荷」
オペレータ「圧着ロック解除」
ミサト(……また乗ってる……恐くて……逃げ出したいのに)
(学校の誇りよね)
(付き合ってほしいんだ)
(君の支えになりたい)
ミサト(そんなんじゃない。私は…)
ミサト「何も……知らないくせに……」
日向「何だよ」
青葉「ちょっと、さ。ほら」
日向「…物好きな奴だなぁ」
日向「マヤちゃん」
マヤ「何?」
日向「俺ら二人、ちょっと野暮用」
マヤ「野暮用?」
青葉「催したんだよ」
マヤ「…もう。早く行ってきなさいよ」
日向「本物のロボットをか?」
青葉「そうさ。次が何時になるのか、次があるのかも分からないんだ。このチャンスを逃したくない」
日向「逃すもなにも…命のほうが大切じゃないのか?」
青葉「…お前だって、本当は見たいんじゃないのか!?外ではミサトちゃんが戦ってるんだぞ!?応援しなくていいのか?」
日向「……」
青葉「…なぁ、頼むよ。ロック外すの手伝ってくれ。この通り!」
青葉「なぁに。あそこに居たってロボットが負ければ人類滅亡だ…どうせ死ぬなら見てからがいい」
日向「俺が言ってるのは流れ弾に当たりやしないかってことだよ。それに、人類滅亡なんて…それを阻止するためにネルフがあるんだろ」
青葉「そうさ。そのネルフの決戦兵器は何だ?…あの転校生のロボットだよ。この前もあの娘が俺達を守ったんだ。俺らが模試の結果に一喜一憂してるようなそれとはスケールが違うのさ…!抱えているもんが違う。…そんな相手にお前は…」
日向「……」
青葉「普通に手順を踏めばいいものを、いきなり「付き合いたい」だの「支えになりたい」だの…だいぶショッキングだよな。…精神に多大なストレスを与えたかも」
日向「ど…どうしろって言うんだよ」
青葉「応援するんだよ!!あの娘がやってくれなきゃ、俺達は死ぬんだぞ?俺達にはあの娘の戦いを見守る義務があるのさ」
日向「……まったく…乗せられる俺も俺だけど、お前のその情熱はいったい何処から来るんだよ…」
青葉「ははっ」
ミサト「…はい」
レイ「…敵のA.T.フィールドを中和しつつ、パレットの一斉射撃。練習通りよ、大丈夫?」
ミサト「はい…!」
シンジ「発進!」
青葉「おおおぉ!凄い…!本物が…!ロマンだ!!良いフレーズが浮かぶ気がする!!!」
日向「お前、それが本音か!?」
青葉「出たっ!」
ミサト「目標をセンターに入れてスイッチ…」
ヒカリ「A.T.フィールド展開」
ミサト「目標をセンターに入れてスイッチ…」
シンジ「作戦通りに。いいね?ミサトちゃん」
ミサト「…はい…!」
ミサト「アッ!」
日向「ちょっ…!大丈夫なのか、あれ!?」
青葉「大丈夫さ…。ん?大丈夫だろ…?」
シンジ「予備のライフルを出すから、受け取って」
シンジ「ミサトちゃん?…ミサトちゃん!?」
青葉「これは…思った以上に告白がショックだったかな…」
日向「もうよせよ…!」
トウジ「アンビリカルケーブル断線」
ケンスケ「エヴァ、内臓電源に切り替わりました」
ヒカリ「活動限界まで後4分53秒」
ミサト「きゃあっ!!」
青葉「こ、こっちに来る!」
青葉・日向「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
シンジ「ミサトちゃん、大丈夫?ミサトちゃん!…ダメージは?」
トウジ「問題無しや」
ミサト「…痛ぅ……ハッ!」
レイ「何故こんな所に…!」
ミサト「……っ!」
青葉「な…なんで戦わないんだ」
日向「俺らがここに居るから……自由に動けないんだ」
ヒカリ「初号機活動限界まで後3分28秒」
シンジ「…ミサトちゃん!そこの二人を操縦席へ!」
シンジ「二人を回収した後、一次退却。出直すしかない…!」
レイ「許可の無い民間人をエントリープラグに入れることはできないわ」
シンジ「だけど!あそこは危険だよ!」
レイ「…越権行為よ、碇一尉!」
ヒカリ「初号機活動限界まで後3分」
シンジ「くっ…エヴァは現行命令でホールド、その間にエントリープラグ排出。急いで!」
シンジ「そこの二人、乗って。早く!」
青葉「おあぁ…っ!カメラがっ…!ごほっ、かはっ」
ヒカリ「神経系統に異常発生」
レイ「異物を二つもプラグに挿入したからよ。…神経パルスにノイズが混じってる」
シンジ「今だ!ミサトちゃん、後退して!」
シンジ「回収ルートは34番、山の東側へ!」
日向「か…葛城さん、後退って…」
ミサト「……、ちゃだめ、逃げちゃ駄目…!逃げちゃ…」
トウジ「プログレッシブナイフ装備!」
シンジ「みっミサトちゃん!!!退却だよ!言うことを聞いて!!!」
ミサト「…あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ミサト「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!あああぁぁぁぁっ!!!!」
ヒカリ「初号機活動限界まで後30秒、28、27、26、25」
ヒカリ「14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」
ヒカリ「エヴァ初号機活動停止」
トウジ「…目標は完全に沈黙」
ミサト「ハァ…ハァ…ハァ…」
ミサト「……うっ、うっ……っ、う……」
日向「……」
青葉「……」
青葉「俺らがコッテリと絞られてから?」
日向「…あの娘が学校に来なくなってからだよ…」
青葉「あーあの娘ね…」
日向「…葛城さん、あれからどうしてるんだろ…」
青葉「お前…諦めてないのか?」
日向「悪いかよ…」
青葉「いや、好きにすればいいさ。まったく…普段は冷静なくせに思い込んだらとことんだな、お前ってやつは。ほれ」
日向「?」
青葉「転校生の電話番号だ…だが!うまく使えよ?間違ってもまた告白なんてするんじゃないぞ」
日向「…恩にきる」
参話分終わり
シンジ「…今日も具合が悪いの?…行きにくいと思うけど、学校はちゃんと行ったほうがいいよ…もう五日だし。きっとみんな君のこと心配して…」
シンジ「ミサトちゃん…?開けてもいい…?」
シンジ「……」ガラッ
シンジ「いない……。…当然か…」
「ピンポーン」
シンジ「ミサトちゃんっ?」
日向「…?いえ。クラスメイトの日向です」
青葉「青葉です」
シンジ「…日向君と青葉君…」
シンジ「…あ、この間初号機のエントリープラグに入った…」
日向「…!そっ、その節はご迷惑をおかけしました!」
青葉「あの…葛城さんは?」
日向「…このところずっと休んでいらっしゃるので…様子見に」
日向「そう…なんですか…」
シンジ「ごめんね。せっかく来てもらったのに…」
青葉「いえいえ。どうせ俺たちの家もこの辺ですから」
日向「あの…これ、プリント類です」
シンジ「ありがとう。渡しておくね」
日向「じゃあ…僕らはこれで。葛城さんに宜しくお伝えください」
シンジ「伝えておくよ。気をつけてね」
日向「なんなんだ…さっきの人…大学生くらいに見えたぞ?」
青葉「…葛城の彼氏かな?」
日向「そんなわけないだろ。…俺たちのことを知ってた。ネルフ職員さ。…保護役か何かだろ…」
シンジ「友達いたんだ…ミサトちゃん…」
シンジ「…いったい何処に…」
放送「本日は第3新東京市第七環状線をご利用いただき真にありがとうございます」
放送「この電車は当駅にて回送電車となります。どちらさまもお忘れ物の無いように御降車ください」
ミサト「帰らなきゃ…」
ミサト(あの場所へ?それとも…)
「お兄さん、ちょっとそこのお兄さんお兄さん。よってこうよ。安いんだから…」
「超疲れたあなたを極楽へとご案内…」
(映画)
「キャーー」
「本当に探知できなかったんですか?」
「そうだ。直径数十ミリの物体が光速の何十倍という速度で南極に激突したのだ…」
ミサト「………」
さ迷い歩くミサト
ミサト「……」
シンジ「14歳の子どもに、こんな重荷を…人類の存亡を背負わせるなんて…」
レイ「…でも、乗れるのは彼女たちだけ。…私たちはエヴァの操縦を14歳の子どもたちに委ねる…それしか方法はない」
シンジ「…分かってる」
レイ「ミサトちゃんから連絡は?」
シンジ「…何も。…このまま帰ってこないかもしれない…」
レイ「どうするつもり?」
シンジ「どうしようもないよ。帰りたくないなら、そのほうが…」
レイ「何故?」
シンジ「…こないだの戦闘の後…」
ミサト「ごめんなさい」
シンジ「…謝ってほしいわけじゃないんだ。その…理由が聞きたくて。混乱してたなら、それも仕方のないことだし……僕らは、君の身体状況に合わせて適切な処置を…」
ミサト「……疲れていたので、指示を聞き間違いました」
シンジ「………君に命をかけさせて、申し訳ないと思ってる…だけど、君だけじゃないんだ。ネルフにいる全員が、恐怖と戦ってる。ほんの些細なミス、誤った情報伝達が、戦況を左右する」
シンジ「僕らは……共有していかなければならないんだ。同じものが見えていないと、倒せるものも倒せない…」
ミサト「…もう、いいじゃないですか…」
シンジ「…ミサトちゃん……?」
ミサト「勝ったんだから……っ!そんな、私は立派にはなれない…!なにも…!共有なんてできない…、私はよそ者だから…!!」
シンジ「ミサトちゃ…」
ミサト「戦わなきゃ……前の生活に逆戻り…嫌なんです、でも、戦うのも嫌…!」
シンジ「………」
ミサト「でも、私が逃げ出したら…あの娘がまた一人で戦うことになって…!それも嫌、もう、嫌で嫌でたまらないのに……ここに残って…でも見渡すと、私は一人なんです」
シンジ「……!」
ミサト「私だけが恐がってる、私だけが覚悟してない!ただ言われるままにエバに乗って…」
シンジ「ミサトちゃん…!」
ミサト「うっ……う、う…っ」
シンジ「…ミサトちゃんにとって、エヴァに乗ることが苦痛でしかないのなら…もう乗らないほうがいい。自暴自棄になって戦っても…使徒には勝てない。死んでしまうよ…」
レイ「…エヴァが動かなければ、同じことよ」
空き地。
青葉「フンフーン…ざーんーこーくな…んん、違うかな…?ざーんーこーくーな…これかな…」ジャカジャカ
青葉「これでよし、と。…ん、転校生…?」
青葉「葛城!」
ミサト「そんな…ことは…」
青葉「……」
青葉「……夜は静かで良いよな。あの五月蝿い蝉が鳴かないし」
ミサト「生態系が戻ってるんだって…シンジさんが言ってた」
青葉「…あの男の人か。…ほんとに一緒に住んでるの?」
ミサト「…?ええ…」
青葉「そっか…しかし大変だよな…まだ14歳で、しかも女の子なのに…あんなでかいロボットに乗らなきゃならないなんて。…代われるもんなら代わってやりたいよ」
ミサト「…それはやめたほうが…。お母さんが心配するし…」
青葉「あぁ、それなら問題ない。俺そういうの居ないからさ」
ミサト「ご…ごめんなさい」
青葉「気にするなよ。それより、飯食うだろ?」
ミサト「ありがとう…」
青葉「ん?うん…そうだな。ここなら近所迷惑にもならないし」
ミサト「…プロを、目指してる?」
青葉「はは。まさか…そんな時代じゃないだろ?好きでやってるだけさ」
黒服男「…葛城ミサトちゃんだね?」
ミサト「…はい」
黒服男「ネルフ保安諜報部のものだ。保安条例第8項の適応により君を本部まで連行する。いいね?」
ミサト「はい…」
日向「それで、お前はそれを黙って見てたって言うのか?」
青葉「見てたさ。しょうがないだろ?向こうはプロだ、勝てやしない」
日向「くそ…そこにいたのが俺なら…!」
青葉「…今ごろまた校長室だろ?」
ミサト「…すみませんでした」
シンジ「いや…心配したよ…どこにいたの?二日間も…」
ミサト「……」
シンジ「……」
ミサト「私乗ります、エバに」
シンジ「ミサトちゃん…」
ミサト「乗って、戦って、死ぬまで続けます…きっと、何回も乗れば恐くなくなる」
ミサト「あの娘…リツコちゃんみたいに、落ちついてやれるようになる、シンジさんやレイさんみたいに強くなれる」
ミサト「そしたら人の顔も…気にならなくなって、きっと仲良くなれる、学校のみんなとも…」
ミサト「………お父さんも、きっと私を認めて…!」
シンジ「ミサトちゃん!……ミサトちゃん…もういい、もういいよ…」
ミサト「…え…?」
ミサト「でも…」
シンジ「いいんだ。僕らは…僕らは市民の安全を守るのが仕事で…君もその一人なのに。君をたくさん傷つけてしまった…」
ミサト「……」
シンジ「ミサトちゃん」
シンジ「僕も恐くてたまらないよ…覚悟が決まってるなんて嘘だ。前なんて見えてない、ただそう繕うのに必死で………」
ミサト「……シンジさん…」
シンジ「ごめんね…勝手な大人ばかりで」
葛城「…では、初号機のデータはリツコに書き換えろ」
レイ「しかし」
葛城「…零号機の再起動実験の結果の如何によらず初号機での実験に移る」
葛城「マルドゥック機関の報告によるとフォースチルドレンはまだ見つかっていない」
レイ「…パイロットの補充は効かない、と言う事ですね」
葛城「……」
黒服男「君はもうすでにネルフの人間ではない。どのような事も教えられない」
駅。
青葉「葛城!忘れもんだぞー!」
日向「葛城さん!」
ミサト「あっ…」
ミサト「あの、ちょっといいですか?」
青葉「…なんか喋れよ。ホラッ!」
日向「かっ、葛城さん…この前は、その、急にあんなこと言ったりして、ごめん」
日向「でも、正直な気持ちだったんだ。実は…その、最初のロボット騒ぎで、妹が怪我をして…いや!全然大した怪我じゃなかったんだけどさ。頭にきてたんだ、誰かも分からないパイロットに」
日向「でも、君の悲しそうな顔を見て、変わった」
ミサト「……!」
日向「教室でさ。クラスの連中に囲まれてるのに…ひとりきり、みたいな…寂しそうに見えて、もっと知りたいと思ったんだ。支えたいと…あの時は、つい熱くなって、ああいう事を言ってしまったけど。その、今でも、葛城さんさえ良ければ、友達として…」
青葉「おい…」
日向「いや…その…ごめん。今から引っ越すのに、こんなこと…」
ミサト「ううん、……ありがとう」
日向「……!」
青葉「勘だよ。ここんとこ何十人って同級生を見送ってきたからな」
日向「…葛城さんが出ていくなら、いずれ俺らも出ていくことになるだろうな…。だけど…ほっとしてるよ。…エヴァの中で、あんなに苦しんでる姿を見たんだ。葛城さんがエヴァから解放されて…良かった…」
ミサト「………!」
青葉「…おいおい。二人ともそんな辛気臭い顔するなよ」
日向「向こうでも…元気で」
青葉「ガンバレよ?」
ミサト「あのっ…」
黒服男「時間だ」
黒服男「オイ、コラッ…」
ミサト「謝らなきゃいけないのは私よ…!何も…!何も知ろうとしなかったのは私のほう…!殻にこもって、拒絶して…、勝手に、思い込んでただけで…っ!」
黒服男「これ以上手を焼かせるな」
シンジ「……ミサトちゃんが帰ってきたとき…なんて声をかけていいか分からなかったんだ…」
シンジ「………僕の見栄が彼女を追い込んでた…本当のことを言っても、彼女を救えたかどうか……」
レイ「…ヤマアラシのジレンマ」
シンジ「……」
レイ「まだ時間はあるわ」
放送「二番線の電車は4時20分発厚木行き政府専用特別列車です。一般の方は柵の内側には入れません」
放送「なお許可の無い方の御乗車は硬く禁じられております。くれぐれもご注意ください」
(シンジ「今日からミサトちゃんの家でもあるんだから」)
青葉「…おい、あの人って」
日向「葛城さん家の…」
シンジ「はぁっ、はぁ…」
シンジ「……」
ミサト「……!」
放送「小さいお子様をお連れの方は特にご注意ください」
放送「4番線の電車は4時32分発強羅行き折り返しの各駅停車です。ご利用の皆様はご乗車になってお待ちください」
放送「はい、まもなく電車入ります。黄色い線の内側まで下がってください」
ミサト「たっ、ただいま…」
シンジ「……おかえりなさい」
四話分終わり
ネルフ本部・第2実験場
葛城「起動開始」
レイ「主電源全回路接続」
ヒカリ「主電源接続完了。起動用システム作動開始」
ヒカリ「稼動電圧後臨界点まであと0.5、0.2、突破」
レイ「起動システム第2段階に移行」
オペレータ「パイロット接合に入ります」
オペレータ「システムフェーズ2スタート」
オペレータ「パルス送信」
オペレータ「全回路正常」
オペレータ「初期コンタクト異常なし」
オペレータ「左右上腕筋まで動力伝達」
オペレータ「オールナーブリンク問題無し」
ヒカリ「チェック2550までリストクリア」
レイ「第3接続準備」
ヒカリ「2580までクリア。絶対境界線まであと0.9、0.7、0.5、0.4、0.3、パルス逆流!」
オペレータ「中枢神経素子にも拒絶が始まっています!」
レイ「コンタクト停止。6番までの回路開いて!」
ヒカリ「駄目です!信号が届きません」
ヒカリ「零号機制御不能!」
葛城「実験中止。電源を落とせ!」
レイ「はい!」
レイ「零号機、予備電源に切り替わりました」
オペレータ「完全停止まで後35秒!」
ヒカリ「オートエジェクション作動します」
葛城「……!」
オペレータ「完全停止まで後10秒」
レイ「特殊ベークライト急いで!」
オペレータ「8、7、6…」
葛城「リツコ!」
ハッチをこじ開ける
葛城「………が……っ、ぐぅ……っ!」
葛城「リツコ、大丈夫かっ?」
葛城「リツコッ?」
小さく頷く
葛城「そうか…」
レイ「……」
シンジ「…それで、事故の原因は何だったの?」
レイ「未だ不明。ただし、推定では操縦者の精神的不安定が第一原因と考えられるわ」
シンジ「精神的に不安定…」
レイ「……結局、何も話してもらえなかったから…そう言うほかないの」
シンジ「……やっぱり、エヴァに乗ることが…」
レイ「分からない。でも、…」
シンジ「なに…?」
レイ「……いいえ、何でも無い…」
アナウンス「全データを技術局1課分析班に提出してください」
ミサト「…これが私達の敵…」
レイ「コア以外は殆ど原形を留めている…。本当に、理想的なサンプルね…ありがたいわ」
シンジ「解析結果は?」
レイ「…これ」
シンジ「…何?これ」
レイ「…解析不明を示すコードナンバー」
シンジ「…駄目か…」
レイ「分かったこともあるわ。使徒は粒子と波両方の性質を備える、光のようなもので構成されている…」
レイ「…そこはサッパリ。らしきものはあったんだけどね…」
シンジ「…まだまだ多くは未知のままか…」
レイ「…とかくこの世は謎だらけよ。例えばほら、この使徒独自の固有波形パターン」
シンジ「ん?」
シンジ「な…これって…!」
レイ「そう、構成素材に違いは有っても信号の配置と座標は人間の遺伝子と酷似している…99.89%ね」
シンジ「99.89%…」
レイ「…改めて思い知らされるわ。私達の知恵の浅はかさを」
カヲル「これがコアか…。残りは?」
研究員「それが劣化が激しく資料としては問題が多すぎます」
葛城「構わない、他は全て破棄しろ」
研究員「はい」
シンジ「…どうかした…?」
ミサト「い、いえ…あの…お父さん、手に火傷してるみたいなんですけど…」
シンジ「火傷?」
ミサト「どうしたのかなって思って」
シンジ「…綾波は知ってる?」
レイ「あなたがまだここに来る前、起動実験中に零号機が暴走して…その話は?」
ミサト「聞いてます」
レイ「その時パイロットが中に閉じ込められたの」
ミサト「パイロットって、リツコちゃんですよね」
レイ「ええ。葛城指令が彼女を助け出したの…加熱したハッチを無理やりこじ開けて」
ミサト「お父さんが?」
レイ「手のひらの火傷はその時のものよ」
女子「行けヒデコー!」
女子「負けんなー」
男子「させるかー」
男子「ったぁ!」
男子「次決めてくぞー!」
男子「オー」
青葉「眩しいなぁ…」
日向「やめろよ、あからさまに。みっともない」
ミサト(リツコちゃんは…また見学か…そうよね…まだ完治してないみたいだし…)
マヤ「葛城さん、どうしたの?」
ミサト「えっ?」
マヤ「ああ…赤木さんね。ほんと心配になるわよね…細いし、色白だから」
マヤ「私もああなれたらなぁ…赤木さんって、何でもそつなくこなすし」
ミサト「そうね…羨ましい」
青葉「いいじゃないか。見せてくれてるんだろ」
日向「お前な…」
青葉「ふん…なーに淡泊ぶってるんだ?お前だってさっきから葛城ばっかり見てるじゃないか」
日向「なっ、み、見てない!」
青葉「おいおい。今さら隠すなよ、好きなんだろ?」
日向「それとこれとは別だろ!」
青葉「…葛城の胸、葛城の太もも、葛城のふくらはぎ…」
日向「よせよ!」
青葉「それにしても…赤木はいつも一人だよな…」
日向「赤木リツコか?」
青葉「ああ…マヤちゃんがちょいちょい声かけてる以外は。友達いないのかな」
日向「…作る気がないんじゃないのか?一人で寂しいってふうでもないし…」
青葉「それもそうだな…」
ヒカリ「先のハーモニクス及びシンクロテストは異常なし。数値目標を全てクリア」
オペレータ「了解。結果報告はBALTHASARへ」
ヒカリ「了解」
オペレータ「エントリープラグのパーソナルデータはオールレンジにてMELCHIORへコピー。データ送ります」
ミサト「……」
リツコと父親が親しげに話している
ミサト「…、……」
オペレータ「MELCHIOR了解。回路接続」
オペレータ「第3時冷却スタートします」
ヒカリ「CBL循環を開始」
オペレータ「廃液は第2浄水システムへ」
オペレータ「各タンパク壁の状態は良好。各部問題無し」
オペレータ「零号機の再起動実験までマイナス1500分です」
レイ「これは?」
シンジ「カレーだよ。市販のルーは使ってないんだ」
レイ「相変わらずね…」
レイ「…お肉はよけてくれる?」
シンジ「相変わらずだなぁ…」
シンジ「ミサトちゃん、つぐよ?」
ミサト「あ…いえ、大丈夫です。私は自分で…」ドヴァーッ
カップラーメンにカレーを投下するミサト
シンジ「えっ」
レイ「本気…?」
ミサト「えっ?あ…すいません…この食べ方が好きで…」
シンジ「い…いや、いいと思うよ。人それぞれだし」
ミサト「いただきます!」
レイ・ミサト「ンッ!」
ミサト「~おっいしい!」
レイ「おいしい…」
シンジ「はは…照れるな…」
ペンペン「クワッ」
レイ「……」
ペンペン「クワックワ~」
レイ「……」
ミサト「あの…レイさんってペンペン苦手なんですか…?」
シンジ「ん?いや。はは…あれが綾波なりの愛で方なんだよ」
ミサト「そうですよね、私もはじめて見たときは、……」カァ
シンジ「……」カァ
レイ「…碇君、あなた何かしたの?」
シンジ「なっ、何もしてないよ!何言い出すんだよ綾波」
レイ「じゃあ今何を思い出したの?」
シンジ「なっ…何も思いだしてないよ!」
レイ「…ミサトちゃん、やっぱり引っ越したほうがいいわ。いくら碇君でも自分の性には抗えないもの」
ミサト「い…いえ…その…あれは本当に…」
シンジ「もう!やめてよ綾波!ほんとに何もなかったったら!」
レイ「そうなの?ミサトちゃん」
ミサト「……」コクン
レイ「……そう…何もないならいいのだけど」
シンジ「だから最初からそう言ってるじゃないか…!」
レイ「確認は必要よ」
ミサト「はい…?」
レイ「リツコちゃんの更新カード。渡しそびれてしまって…悪いんだけど、本部に行く前に彼女のところに届けてほしいの」
ミサト「わかりました」
シンジ「…リツコちゃんとはもう仲良くなれた?」
ミサト「いえ…ほとんど口聞いてなくて…」
シンジ「そっか…リツコちゃんあんまり喋らないもんな…」
ミサト「…リツコちゃんって、どんな子ですか?」
レイ「いい子よ……とても。ただ愛情表現が苦手みたい…その点はあなたのお父さんと似ているかもね」
ミサト「……父と……」
シンジ「……………」
ミサト「ごめんください、あの、いますか?…リツコちゃん?」
ミサト「………」
机の上に置かれた眼鏡
ミサト「…リツコちゃんのかしら…?」
ミサト「…?」クルッ
ミサト「うわ…ごめん、いたの…」
リツコ「ええ。何か?」
ミサト「あの…カードが、新しくなったの。えと…だから、レイさんに頼まれて、渡しに…」
リツコ「そう」
ミサト「えっと…(目のやり場に困るわ…)」
リツコ「そこに置いておいてちょうだい…着替えたら行くわ」
ミサト「…待っててもいい?その…一緒に行っても」
リツコ「別に…構わないわ」
ミサト「…今日は再起動の実験よね。…今度は、上手くいくと良いわね」
ミサト「ねぇ、リツコちゃんは怖くないの?またあの零号機に乗るのが」
リツコ「なぜ?」
ミサト「なぜって…前の実験で大怪我したって聞いたから。その…平気なのかなって思って」
リツコ「…あなたは葛城指令の子どもでしょ?」
ミサト「? ええ…」
リツコ「信じられないの?お父さんの仕事が」
ミサト「……信じられるわけないわよ、あんな父親なんて」
ミサト「…だいたい、私たちみたいな子どもをあんな危険なものに乗せて、平気な顔してるのが分からないわ。それに私を遠くへやったときだってろくな説明もしないで…」
リツコ「……」
ミサト「ここに呼ぶときだって手紙で「至急来られたし」たったそれだけよ?」
ミサト「信じられるわけ…ちょっと、リツコちゃん聞いてる?」
リツコ「……あなたはよく喋るのね…」
(レイ「その時パイロットが中に閉じ込められてね、葛城指令が彼女を助け出したの。加熱したハッチを無理やりこじ開けてね」)
(レイ「手のひらの火傷はその時のものよ」)
葛城「リツコ、聞こえるか?」
リツコ「はい」
レイ「主電源コンタクト」
ヒカリ「稼動電圧臨界点を突破」
レイ「了解、フォーマットフェーズ2に以降」
オペレータ「パイロット零号機と接続開始」
オペレータ「回線開きます」
オペレータ「パルス及びハーモニクス正常」
オペレータ「シンクロ問題無し」
オペレータ「オールナーブリンク終了、中枢神経素子に異常なし」
オペレータ「再計算、誤差修正なし」
ヒカリ「チェック2590までリストクリア。絶対境界線まで後2.5、1.7、1.2、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、突破。ボーダーラインクリア」
ヒカリ「零号機起動しました」
リツコ「了解、引き続き連動試験に入ります」
葛城「テスト中断。総員第一種警戒態勢」
カヲル「…零号機はこのまま使わないのかい?」
葛城「まだ戦闘には耐えない。初号機は?」
レイ「380秒で準備できます」
葛城「出撃だ」
レイ「はい」
葛城「リツコ、再起動は成功した。戻れ」
リツコ「……」
トウジ「初号機発進準備に入ります。第一ロックボルト、外せ」
ミサト「解除確認」
トウジ「了解。第二拘束具外せ」
オペレータ「了解」
ケンスケ「目標は芦ノ湖上空へ侵入」
トウジ「エヴァ初号機、発進準備よろし!」
シンジ「発進!」
シンジ「そんな…っ!?」
ケンスケ「円周部を加速、収束していきます!」
レイ「まさかっ!?」
シンジ「ミサトちゃん!!!!避けてっ!」
ミサト「えっ?」
ミサト「アアアアァァァァッッッッ、アアアァァァァ!!!」
シンジ「ミサトちゃん!!」
伍話分終わり
シンジ「そんな…っ!?」
ケンスケ「円周部を加速!収束していきます!」
レイ「まさかっ!」
シンジ「ミサトちゃん!!避けてっ!!!」
ミサト「え!?」
ミサト「…ぁぁあああああ!」
シンジ「戻してください!早く!」
ケンスケ「目標、完黙!」
シンジ「ミサトちゃんはっ?」
トウジ「まだ生きとる!」
ヒカリ「初号機回収、第7ケイジへ!」
シンジ「ケイジへ行ってくる。後は頼むよ!」
トウジ「パイロット、脳波乱れとる、心音微弱!」
レイ「生命維持システム最大、心臓マッサージを!」
トウジ「心臓マッサージ!」
トウジ「パルス確認!」
レイ「プラグの強制排除、急いで!」
レイ「L.C.L.緊急排水!」
ヒカリ「はい!」
シンジ「…早く、早くハッチを開けて!」
シンジ「ミサトちゃん…!」
処置室へ運ばれるミサト
シンジ「……」
シンジ「次!」
ケンスケ「12式自走臼砲消滅!」
シンジ「…なるほど…」
職員「これまで採取したデータによりますと、目標は一定距離内の外敵を自動排除するもの、と推測されます」
トウジ「エリア侵入と同時に荷粒子砲で100%狙い撃ち…こりゃあ、エヴァによる近接戦闘は危険過ぎるなァ」
シンジ「A.T.フィールドは?」
職員「健在です。相転移空間を肉眼で確認できるほど、強力なものが展開されています」
トウジ「誘導火砲、爆撃やらの生半可な攻撃じゃあ、泣きを見るだけやな…これじゃあ」
シンジ「攻守ともにほぼ完璧…まさに空中要塞か…それで、問題のシールドは?」
職員「現在目標はわれわれの直上、第3新東京市ゼロエリアに侵攻、直径17.5mの巨大シールドがジオフロント内、ネルフ本部に向かい穿孔中です」
トウジ「…敵さん、ここへ直接、攻撃を仕掛けるつもりやな」
シンジ「…到達予想時刻は?」
職員「あ、明朝午前0時06分54秒、その時刻には22層全ての装甲防御を貫通して、ネルフ本部へ到達するもの、と思われます」
シンジ(後10時間足らず…)
シンジ「こちらの初号機の状況は?」
レイ「胸部第3装甲板まで見事に融解。機能中枢をやられなかったのは、不幸中の幸いね」
ヒカリ「後3秒照射されていたら、アウトだったけど…」
ケイジ作業員「3時間後には換装作業、終了予定です」
シンジ「了解。ありがとう…零号機は?」
ヒカリ「再起動自体に問題ないけど、フィードバックにまだ誤差が残ってるわ」
レイ「実戦は…」
シンジ「まだ無理、か…」
シンジ「…ミサトちゃんの容体は?」
トウジ「身体に異常はあらへん。神経パルスが0.8上昇しとるくらいで、あとは許容範囲内や」
ケンスケ「敵シールド到達まで、後9時間55分!」
シンジ「状況は芳しくない、か…」
トウジ「白旗でも揚げるか?」
シンジ「…その前に、試してみたいことがあるんだ」
シンジ「…そうです。目標のA.T.フィールドを中和せず、高エネルギー収束帯による一点突破しか…方法はないと思います」
カヲル「成功するのかい?」
シンジ「………MAGIは」
カヲル「いや。君の見立てだよ…作戦部長としての」
シンジ「…残り9時間以内で実現可能、かつもっとも確実な方法かと思われます」
カヲル「ふふ…頼もしいね」
葛城「…反対する理由はない。実行してくれ」
シンジ「はい!ありがとうございます」
シンジ「…賛成2、条件付き賛成が1」
レイ「勝算は8.7%か…」
レイ「でも…うちのポジトロンライフルじゃ、そんな大出力には耐えられないわよ。…どうするの?」
シンジ「…耐え得るのを借りてくるよ」
シンジ「……以上の理由により、この自走陽電子砲は、本日15時より、特務機関ネルフが徴発いたします」
戦自の人「かと言って、しかし、そんな無茶な…」
シンジ「申し訳ありません…可能な限り、原形をとどめて返却するよう、努めますので。…では、ご協力、感謝します!」ペコッ
シンジ「…リツコちゃーん!持って行ってー!精密機械だから、そーっと、そおっとね!」
戦自の人「……………」
シンジ「……はは…」
トウジ「けどなぁ、A.T.フィールドをも貫くエネルギーっちゅうのは、最低1億8千万キロワットやぞ、それだけのもんを、どっから集めてくるんや?」
シンジ「…日本中だよ」
TV(伊吹邸内)「本日、午後11時30分より」
TV(街頭)「明日未明にかけて、全国で大規模な」
ヘリコプター「停電があります。皆様のご協力をよろしくお願いいたします」
放送「繰り返しお伝えいたします。本日午後11時30分より、」
宣伝カー「明日未明にかけて、全国で大規模な」
放送「停電があります。皆様のご協力をよろしくお願いいたします」
オペレータ「敵シールド、第7装甲版を突破」
シンジ「…エネルギーシステムの見通しは?」
オペレータ「現在予定より3.2%遅れていますが、本日23時10分には、何とかできます」
シンジ「ポジトロンライフルは?」
作業員「技術開発部第三課の意地にかけても、後3時間で形にして見せますよ!」
シンジ「…みんなありがとう。それで…防御手段は」
レイ「盾で防ぐしかないわね」
レイ「そう、SSTOのお下がり。二課の保証書付きよ?見た目はひどくても、もともと底部は超電磁コーティングされている機種だし、あの砲撃にも17秒はもつ」
シンジ「分かった。狙撃地点は?」
トウジ「目標との距離、地形、手頃な変電設備も考えると…やっぱりここやな」
シンジ「…うん…。これで理論上はいけるはずだ…」
シンジ「狙撃地点は二子山山頂。作戦開始時刻は明朝0時、以後、本作戦を、ヤシマ作戦と呼称します!」
トウジ「了解!」
シンジ(後は、パイロットの問題か…)
職員「初号機パイロットの意識が戻ったそうです。検査数値に問題なし」
シンジ「ありがとう。では、作戦は予定どおりに」
職員「了解」
レイ「…彼女、もう一度乗るかしら?」
シンジ「……」
リツコ「明日、午前0時より発動される、ヤシマ作戦のスケジュールを伝えます」
リツコ「葛城、赤木の両パイロットは、本日1730、ケイジに集合」
リツコ「1800、初号機および零号機起動」
リツコ「1805、発進」
リツコ「同30、二子山仮設基地到着」
リツコ「以降は別命あるまで待機」
リツコ「明朝日付変更と同時に作戦行動開始」
リツコ「これ…新しいものよ」
リツコ「寝ぼけて、その格好で来ないでね」
ミサト「ん?…きゃっ!……」
ミサト「…何も、食べたくないわ…」
リツコ「60分後に出発よ」
ミサト「…また、あれに乗らなきゃならないの…?」
リツコ「ええ」
ミサト「私は……嫌よ…リツコちゃんみたいに、強くなれない、逃げ出したい……」
リツコ「………」
ミサト「リツコちゃんは…!なぜ平気なの、暴走したんでしょう…!?前の実験で……。もう嫌…私は…もうあんな痛い思いは…!」
リツコ「…なら寝ていたら?」
ミサト「ね…寝ていたら、って…?」
リツコ「初号機には私が乗るわ…。綾波博士が初号機のパーソナルデータの書き換えの用意をしてる」
ミサト「レイさんが?」
リツコ「じゃあ、碇一尉と綾波博士がケイジで待っているから」
リツコ「さようなら」
ミサト「……」
青葉「親父のデータをちょろまかして見たんだ。この時間に間違いない」
日向「…だが、出てこないぞ?」
青葉「ん?」
男子生徒「おおっ?」
日向「…山が、動いてる…!」
青葉「エヴァンゲリオンだ!」
男子生徒「おおっ!」
男子生徒「すっげーっ!」
男子生徒「ミサトちゃーん!」
男子生徒「頼んだぞー!」
男子生徒「好きだーっ!」
男子生徒「エヴァンゲリオ~ン!」
男子生徒「頑張れよー!」
トウジ「四国および九州エリアの通電完了」
オペレータ「各冷却システムは試運転に入ってください」
レイ「精密機械だから、慎重にね」
ミサト「でも、こんなヘンテコな兵器、役に立つんですか?」
レイ「仕方ないわよ、間に合わせなんだから」
ミサト「…大丈夫ですよね」
レイ「理論上はね。でも、銃身や加速器がもつかどうかは、撃ってみないと分からないわ。こんな大出力で試射したこと、一度も無いから」
シンジ「本作戦における、各担当を伝達します」
シンジ「ミサトちゃん」
ミサト「はい」
シンジ「初号機で砲手を担当」
ミサト「はい」
シンジ「リツコちゃんは零号機で防御を担当して」
リツコ「はい」
レイ「陽電子は地球の自転、磁場、重力の影響を受け、直進しません。その誤差を修正するのを、忘れないでね」
レイ「正確に、コア一点のみを貫くのよ」
ミサト「えっ、ど、どうやって…」
レイ「大丈夫、あなたはテキストどおりにやって、最後に真ん中のマークがそろったらスイッチを押せばいいの。後は機械がやってくれるわ」
レイ「それと、一度発射すると、冷却や再充填、ヒューズの交換などで、次に撃てるまで時間がかかるから」
ミサト「じゃあ、もし外れて敵が撃ち返してきたら…?」
レイ「…今は余計なことを考えないで。一撃で撃破することだけを考えて」
ミサト(大ピンチ、ってワケね…)
リツコ「…私は初号機を護ればいいのね」
レイ「そうよ」
リツコ「分かりました」
シンジ「…時間だ。2人とも、…無事を祈ってるよ」
ミサト・リツコ「はい」
リツコ「なぜそう思うの?」
ミサト「……」
リツコ「あなたは死なないわ」
リツコ「私が守るもの」
ミサト「……」
明かりの消えた街。見下ろすミサト、リツコ
ミサト「…リツコちゃんはなぜこれに乗るの?」
リツコ「…これしか出来ることがないから」
ミサト「そんな…」
リツコ「そうよ。それに、恩もある…」
ミサト「…お父さんに?」
リツコ「みんなによ」
リツコ「……」
リツコ「…ほかに何も無いだけよ」
ミサト「……!」
ミサト「ほかに何も無いって…」
リツコ「時間よ。行きましょう」
リツコ「じゃあ…さようなら」
トウジ「作戦、スタート!」
シンジ「ミサトちゃん、日本中のエネルギー…君に預けるよ」
シンジ「頑張って…!」
ミサト「はいっ!」
シンジ「第一次、接続開始!」
トウジ「第一から、第803管区まで、送電開始!」
オペレータ「電圧上昇中、加圧域へ!」
トウジ「全冷却システム、出力最大へ!」
オペレータ「温度安定、問題なし!」
オペレータ「陽電子流入、順調なり」
シンジ「第二次、接続!」
オペレータ「全加速器、運転開始!」
オペレータ「全電力、二子山増設変電所へ!第三次接続、問題なし!」
シンジ「最終安全装置、解除!」
トウジ「撃鉄起こせ!」
オペレータ「地球自転、および、重力の誤差修正、プラス0.0009。電圧、発射点まで、後0.2」
トウジ「第七次最終接続、全エネルギー、ポジトロンライフルへ!」
トウジ「8、7、6、5、」
ヒカリ「目標に高エネルギー反応!」
トウジ「4、」
レイ「早い…っ!」
トウジ「3、2、1!」
シンジ「発射!」
レイ「あぁっ!」
シンジ「…まずいっ!」
ケンスケ「敵シールド、ジオフロントへ侵入!」
シンジ「第二射、急いで!」
トウジ「ヒューズ交換!再充填開始!」
オペレータ「銃身、冷却開始」
ヒカリ「目標に再び高エネルギー反応!」
シンジ「まずい…!」
ミサト「う…っ!」
シンジ「ミサトちゃん!」
リツコ「………っ!」
レイ「盾がもたない!」
シンジ「時間は!?」
トウジ「後10秒!」
ミサト「早く…」
ミサト「早く!」
第二射発射
シンジ「やった!」
ハッチを抉じ開ける
ミサト「うぅ……ぐぅぅぅ…うぅぅぅぅ…っ!」
ミサト「……ちゃん、…リツコちゃん…!」
ミサト「リツコ……!大丈夫!?」
リツコ「……………」
ミサト「自分には…自分にはほかに何も無いなんて、そんなこと言うんじゃないわよ…!別れ際に、さよならなんて…っ、うっ…言うんじゃ、ないわよ…!」
リツコ「…泣いているの…?」
リツコ「……ごめんなさい、でも、私にはああするしか……」
ミサト「馬鹿……っ!」
ミサト「……無事でよかった……」ギュッ
リツコ「………」
リツコ「……」キュ…
六話分終わり
葛城「…また君に借りができたな」
アスカ「いーですよ。どうせ、返すつもりもないんでしょ?それと…あいつらが情報公開法をタテに迫っていた資料、ダミーも混ぜてあしらっといたから」
アスカ「政府は裏で法的整備を進めてるけど…近日中に頓挫の予定よ。で、どうするの?例の計画もこっちで手を打つ?」
葛城「いや、君の資料を見る限り、問題はない」
アスカ「そう。…なら、シナリオ通りに」
シンジ「おはよう。よく眠れた?」ジュワッ
ミサト「ふわぁ…はい…」
シンジ「あはは…はい、半熟」
ミサト「ありがとうございます……あ」
シンジ「うん?」
ミサト「す…すいませ…今日の食事当番…!」
シンジ「ああ。いやいや、いいよ。僕も勘違いして起きてきちゃったんだ」
ミサト「………シンジさんって、どうして独身なんですか…?」
シンジ「ぶっ、…どうしたの、急に…」
ミサト「いえ、だって。とってもいい人なのに」
シンジ「そんな…買いかぶりすぎだよ」
ミサト「そんなことないです!ご飯だって美味しいし!」
シンジ「あはは…お粗末さま」
ミサト「うん、進路相談だからね…あ…やっぱり嫌かな?でも綾波は今日…」
ミサト「ち、違います!…仕事で、忙しいのに…」
シンジ「なんだ。そんなことか。気にしなくてもいいよ、これも仕事のうちだから」
ミサト「仕事…ですか…?」
「ピンポーン」
シンジ「はい?…ああ、わざわざありがとう。うん、少し待っててね」
シンジ「ミサトちゃん」
ミサト「わ、わかってます…!」
シンジ「ふふ。気をつけてね?」
ミサト「いってきます!」
ミサト「…!(ちょっと!声、大きいから!)」シーッ
青葉「…ん?静かにしろってさ」
日向「しまったな…姿が見えたから、つい…」
日向「あ」
シンジ「ミサトちゃんをよろしくね~」フリフリ
青葉「は~い!」
ミサト「はっ、早く行きましょ!」
シンジ「…やっぱりモテるんだろうな…ミサトちゃん…可愛いし。変な奴に付きまとわれなきゃいいけど……。まぁ、あの二人とは仲いいみたいだし…安全かな?」
電話「はい、もしもし」
シンジ「今家を出たので、後のガードお願いします」
女子「誰あれ!大学生?」
女子「え!?葛城さんの保護者!?」
女子「どこどこ!?」
女子「なんか、さわやか美青年、って感じ!」
女子「キャー!こっちに手を振ったわよ!」
青葉「…女子はああいうのがいいのか…」
日向「どうだろうな。年上の男が珍しいんだろ?」
青葉「お前…やめとけよ」
日向「何が」
青葉「男の嫉妬は見苦しいぞ?」
日向「…嫉妬なんてしてない」
青葉「うん?」
日向「あの歳でネルフの作戦部長ってのは…確かに凄いよな」
青葉「だな」
ミサト「そうなの…?」
青葉「んん?あぁ…まぁ…」
青葉「…マコト、やっぱりシンジさんは敵じゃないんじゃないのか…?」ボソッ
日向「そう断じるのはまだ早いさ…」
ミサト「…? (なにコソコソ喋ってるんだろう…)」
女子「なにそれ~!完璧じゃん!」
女子「なんで独身なんだろ~。普通ほっとかないよね~?」
ミサト「…うん。わたしもそう思う」
日向・青葉「!!!」
日向「ほらな…」
ミサト(また乗ってる……でも、最初よりは慣れたかな…)
ミサト(…エバー。ネルフの秘密兵器、世界再建の要。……エバーって何なのかしら。なぜ動いてるのか…乗っていても分からない…血の匂いがするエントリープラグ。なのに、どうして落ち着くんだろう)
ミサト(考えても無駄か……科学の結晶だもんね…)
レイ「零号機の胸部生体部品はどう?」
ヒカリ「大破だったから、新作するけど…追加予算の枠、ギリギリね」
レイ「…ドイツから弐号機が届いて、少しは楽になるといいけど」
トウジ「逆かも分からんなァ。なんせ地上でやっとる使徒の処理も、タダや無いんやし」
シンジ「…本当、どうにかしてほしいよ…。人類の命運がかかってるのに…」
レイ「…仕方ないわ。人はエヴァのみで生きているわけではない。…生き残った人たちが生きていくにはお金がかかるのよ」
シンジ「予算、か。じゃあ司令はまた会議?」
レイ「ええ、今は機上の人よ」
ヒカリ「司令が留守だと、ここも静かね…」
男「サンプル回収の修正予算、あっさり通りましたね」
葛城「委員会も自分が生き残ることを最優先に考えている。そのための金は惜しまないだろう…」
男「使徒はもう現れない、と言うのが彼らの論拠でしたからね」
男「ああ、もう一つ朗報です。米国を除く全ての理事国がエヴァ六号機の予算を承認しました」
男「まあ、米国も時間の問題でしょう。失業者アレルギーですしね、あの国」
葛城「君の国は?」
男「八号機から建造に参加します。第二次整備計画は、まだ生きてますから」
男「ただ、パイロットがまだ見つかっていないという問題はありますが」
葛城「…使徒は再び現れた。われわれの道は彼らを倒すしかないだろう」
男「私も、セカンドインパクトの二の舞は、ごめんですからね」
レイ「そう。歴史の教科書では大質量隕石の落下による大惨事となっているけど……事実は往々にして隠蔽されるものなのよ」
レイ「15年前、人類は最初の「使徒」と呼称する人型の物体を南極で発見した」
レイ「でもその調査中に原因不明の大爆発を起こした…それがセカンドインパクトの正体」
ミサト「じゃあ、私たちのやっていることは…」
レイ「予想されうるサードインパクトを未然に防ぐ、そのためのネルフと、エヴァンゲリオンなのよ」
レイ「ところで例の件……明日、予定通りやるそうよ」
シンジ「…分かった」
シンジ「おはよう」
ミサト「お、おはようございます」
シンジ「…今日はちょっと仕事で遅くなるから、先に食べちゃってていいからね」
ミサト「あっ、はい…」
シンジ「じゃあ、戸締りよろしくね」
シンジ「ここがかつての大都会か…なんだか寂しいところだね…」
レイ「着いたわ」
シンジ「何もこんな所でやらなくってもいいのに。…それで、その計画、戦自は?」
レイ「今回は介入してこないそうよ」
シンジ「…道理で自由がきくんだ…」
時田「皆様には後程、管制室の方にて、試運転をご覧いただきますが、ご質問のある方はこの場にてどうぞ」
レイ「…はい」
時田「これは、ご高名な綾波レイ博士、お越しいただき、光栄のいたりです」
レイ「…質問をよろしいでしょうか?」
時田「ええ、ご遠慮なくどうぞ」
レイ「先ほどのご説明ですと、内燃機関を内蔵とありますが」
時田「ええ、本機の大きな特長です。連続150日間の作戦行動が保証されております」
レイ「しかし、格闘戦を前提とした陸戦兵器に、リアクターを内蔵することは、安全性の点から見てもリスクが大きすぎると思われます」
時田「5分も動かない決戦兵器よりは、役に立つと思いますよ」
レイ「……遠隔操縦では緊急時の対処に問題を残します」
時田「パイロットに負担をかけ、精神汚染を起こすよりは、より人道的と考えます」
シンジ「やめてよ…張り合わなくてもいいよ、綾波…」
時田「制御不能に陥り、暴走を許す危険極まりない兵器よりは、安全だと思いますがねぇ」
時田「制御できない兵器など、まったくのナンセンスです。ヒステリーを起こした女性と同じですよ、手におえません」
客「ハッハッハッハッハッ」
レイ「そのためのパイロットとテクノロジーです」
時田「まさか。科学と人の心があの化け物を押さえるとでも?本気ですか?」
レイ「もちろんです」
時田「人の心などと言う曖昧なものに頼っているから、ネルフは先のような暴走を許すんですよ」
時田「その結果、国連は莫大な追加予算を迫られ、某国では2万人を超える餓死者を出そうとしているんです」
時田「その上、あれほど重要な事件に関わらず、未だにその原因が不明とは。せめて、責任者としての責務は全うしてほしいもんですな」
時田「良かったですねえ。ネルフが超法規的に保護されていて。あなたがたはその責任を取らずに済みますから」
レイ「…なんとおっしゃられようと、ネルフの主力兵器以外、あの敵性体は倒せません」
時田「A.T.フィールドですか?それも今では時間の問題に過ぎません。いつまでもネルフの時代ではありませんよ」
客「ハッハッハッハッハッ」
レイ「…大丈夫よ、問題ない」
レイ「自分を自慢し、誉めてもらいたがっている…健全な子どもよ」
シンジ「…でも、なんであの人たちがA.T.フィールドのことまで…」
レイ「極秘情報がだだ漏れね」
シンジ「諜報部に呼びかけておかないとね…」
オペレータ「起動準備よし」
時田「テスト開始!」
オペレータ「全動力、開放!」
オペレータ「圧力、正常」
オペレータ「冷却器の循環、異常無し」
オペレータ「制御棒、全開へ」
オペレータ「動力、臨界点を突破」
オペレータ「出力、問題なし」
オペレータ「歩行、前進微速、右足、前へ!」
オペレータ「了解、歩行、前進微速、右足、前へ!」
客「おお!」
オペレータ「バランス正常」
オペレータ「動力、異常無し」
オペレータ「了解、引き続き、左足、前へ!」
オペレータ「よーそろ!」
シンジ「すごいね。ちゃんと歩いてるよ。確かに自慢するだけのことは…」
レイ「……」
オペレータ「変です、リアクターの内圧が上昇していきます!」
オペレータ「一次冷却水の温度も上昇中!」
時田「バルブ開放、減速材を注入!」
オペレータ「だめです、ポンプの出力が上がりません!」
時田「いかん、動力閉鎖、緊急停止!」
オペレータ「停止信号、発進を確認!」
オペレータ「受信されず!」
オペレータ「無線回路も、不通です!」
オペレータ「制御不能!」
時田「そんなバカな!」
客「うわぁぁぁぁ!」
オペレータ「加圧器に異常発生!」
オペレータ「制御棒、作動しません!」
オペレータ「このままでは、炉心融解の危険もあります!」
時田「信じられん…JAにはあらゆるミスを想定し、全てに対処すべくプログラムが組まれているのに…このような事態はありえないはずだ…」
シンジ「…時田さん、落ち着いてください。炉心融解の危機が迫っているんです…!」
時田「こうなっては、自然に停止するのを待つしか方法は…」
シンジ「…自動停止の確率は?」
オペレータ「0.00002%。まさに奇跡です」
シンジ「…そんなものを待つわけにはいきません。教えてください…停止手段を!」
時田「方法は全て試した!」
シンジ「……まだすべてを白紙に戻す、最後の手段が残っているはずです。そのパスワードを教えてください」
時田「全プログラムのデリートは最高機密。私の管轄外だ!口外の権限はない!」
シンジ「だったら命令を貰ってください!」
シンジ「人の命がかかってるんです!早く!!!」
万田「ああ、その件は矢杉君に任せてある。彼に聞いてくれ」
矢杉「そういう重要な決定事項は口頭ではねぇ。正式に書簡で廻してもらえる?」
時田「では、吉沢さんの許可を取ればよろしいんですね?ええ、ウィッツ氏の承諾は得ておりますから!はい、では!」
シンジ「くそ…たらい回しか…」
時田「今から命令書が届く。作業は正式なものだ」
シンジ「そんな、間に合いませんよ!爆発してからじゃ、何もかも遅い!」
オペレータ「ジェットアーロンは厚木方面に向かい、進行中」
シンジ「時間が無いんです。…これより先は、僕の独断で行動します」
シンジ「厚木にナシつけといたから…うん、ミサトちゃんと初号機をF装備でこっちに。うん。緊急事態なんだ」
レイ「無駄よ…碇一尉。どうやって止めるつもりなの?」
シンジ「人間の手で、直接」
時田「本気ですか?」
シンジ「はい」
時田「しかし内部はすでに汚染物質が充満している!危険過ぎる!」
シンジ「うまく行けば、みんな助かります」
オペレータ「ここの指揮信号が切れると、ハッチが手動で開きますから、」
オペレータ「バックパックから進入できます」
時田「…………」
時田「希望…プログラム消去の、パスワードだ」
シンジ「……ありがとうございます」
シンジ「トウジ」
トウジ「なんや」
シンジ「エヴァを切り離した後は速やかに離脱、安全高度まで上昇して」
トウジ「…了解」
ミサト「はい」
シンジ「目標と並走し、僕を背後部に取り付けて。以後は可能な限り目標の移動を塞き止めてね」
ミサト「えっ…乗るんですか?シンジさんが?」
シンジ「そうだよ」
ミサト「そんな…無茶です!」
シンジ「分かってる…だけど他に方法がないんだ」
ミサト「…でも!危なすぎます!」
シンジ「大丈夫、エヴァなら万が一の直撃にも耐えられるよ」
ミサト「違います!私じゃなくて、シンジさんが!!!」
シンジ「……やれることはやっておきたいんだ。後悔は、したくないから」
トウジ「目標を肉眼で確認!」
シンジ「…さぁ、行こう」
シンジ「ドッキングアウト!」
ミサト「了解!」
ミサト「追いついた!」
シンジ「後4分も無い…このまま乗り付けて!」
シンジ「ミサトちゃん!乗りつけるんだ!」
シンジ「うっ、……っ!」
ミサト「シンジさん!」
ミサト「気をつけて!」
シンジ「凄い熱だ…長くはもたない…!」
ミサト「止まれ!こンのぉーッ!」
JAを押さえつける初号機
ミサト「…シンジさん、急いで!」
シンジ「ここか……」
シンジ「間違いない……プログラムが変えてあるんだ…」
オペレータ「動力炉、臨界点まで後0.2!」
オペレータ「制御棒、作動しません!」
シンジ「…後には戻れない…やるしかない」
シンジ「ぐぅぅぅぅ!」
ミサト「シンジさん!逃げてっ!」
ミサト「シンジさん…!」
シンジ「ぐぅっ!」
オペレータ「臨界まで、後0.1!」
オペレータ「だめです、爆発します!」
時田「駄目か…」
ミサト「シンジさん!」
シンジ「ぐぅ、ぅう……っ!」
オペレータ「内圧ダウン!」
オペレータ「すべて正常値!」
オペレータ「助かったぞ!」
オペレータ「やった!やった!やった!」
レイ「……無茶して…」
ミサト「シンジさん、大丈夫ですか、シンジさん!」
シンジ「…はは、うん。なんとか…」
ミサト「良かった、無事なんですね!良かった、本当に良かった…!すごいです、シンジさん。本当に奇跡を起こすなんて…!」
シンジ「うん……ありがとう、皆のおかげだよ」
シンジ(違う…奇跡は用意されていたんだ。誰かの手によって……)
レイ「……初号機の回収は無事終了しました。汚染の心配はありません。…碇一尉の行動以外は、全てシナリオどおりです」
葛城「……そうか」
ミサト「んぐ、もぐ、んぐ、んぐ、ごほっ」
シンジ「はは…落ち着いて食べなよ」
日向・青葉「か~つら~ぎさ~ん!」
シンジ「あ…ごめんね。ミサトちゃん、今日寝坊しちゃって…ちょっと待っててくれるかな?」
青葉「はは。ゆっくりでいいって伝えてください」
日向「始業までまだ時間がありますから」
シンジ「うん…ありがとう」
ミサト「いってきます…!」
シンジ「いってらっしゃい」
ミサト「? どうして?」
青葉「葛城と暮らせてってことだろ?」
日向「そうじゃない!」
ミサト「で…でも、迷惑掛けてばっかりよ?私、シンジさんに」
日向「………」
ミサト「ず…ズボラだし、がさつだし…昨日だって食事当番忘れて……」
青葉「そういうとこだろ」
ミサト「えっ?」
青葉「迷惑掛けて、頼って、甘えて…本当の姿を見せられる」
ミサト「…!」
青葉「家族じゃないか?そういうのが」
七話分終わり
青葉「わっはっ…!こいつは凄いな…!」
日向「よせよ、子どもみたいに」
青葉「いやいや、子どもだろ。お前こそもっとはしゃげよ」
日向「なんだか…すみません。関係ない俺たちまで連れてきてもらって」
シンジ「あはは。賑やかなほうがいいかなと思って」
シンジ「毎日同じ景色だと、息が詰まるだろうから。ここなら…気分転換できるかと思って。…船、苦手だった…?」
ミサト「い、いえっ!誘ってもらえて…その、嬉しいです…」
シンジ「よかった」
日向「……」
シンジ「ミサトちゃん、そんな帽子持ってたんだ」
ミサト「あ…はい…へ、変ですか…?」
シンジ「そんなこと。すごく似合ってるよ」
ミサト「あ…ありがとうございます…!」カァ
日向「………」
青葉「お前、顔怖いぞ」
シンジ「あはは…流石にただのクルージング、ってわけにはいかないかな…」
青葉「おお…あれ空母か?でかいなー」
日向「できるのか…?気分転換…」
青葉「葛城様様だな…普通こんなとこ来れないぞ」
ミサト「でっか…」
シンジ「…こんな古いのによく動いてるなぁ…」
青葉「すげー…壮大だ…今なら良い詩が書けそうな気がする…」
OTR艦長「ハッ…、いい気なもんだ。オモチャのソケットを運んできよったぞ。ガキの遣いが!」
日向「関係ないさ、俺たちには」
青葉「一生遊んで暮らせるんだろうなぁ…」
日向「……」
ミサト「あっ…帽子がっ」
加持「……ん?」
加持「これ、君のかい?」
ミサト「あ…どうも」
加持「やあ、シンジさん。しばらく」
シンジ「ホントに…久し振りだね。…また背、伸びたんじゃない?抜かれるのも時間の問題かな…」
加持「まぁね。こちとら成長期さ」
シンジ「ああ…紹介するね。彼はエヴァンゲリオン弐号機専属パイロット、セカンドチルドレンの…」
加持「加持、リョウジだ……よろしく。サードのお嬢さん」チュッ
ミサト「!!!」
日向「なっ、何して…!」
加持「…あいさつさ。こっちじゃやらないのか?」
日向「……!」
青葉「…こりゃ強敵だ…」
日向「な……」ワナワナ
青葉「よせって…半分本当だろ…」
シンジ「もう。違うよ。ミサトちゃんの友達だよ」
加持「…なるほど、「友達」ね。そりゃ羨ましい」
日向「……」ピキピキ
シンジ「……ご理解いただけて幸いです、艦長」
艦長「いやいや、私の方こそ、久しぶりに子供たちのお守りができて、幸せだよ」
シンジ「このたびはエヴァ弐号機の輸送援助、ありがとうございます」
シンジ「こちらが非常用電源ソケットの仕様書です」
艦長「ハッ、大体この海の上であの人形を動かす要請なんぞ、聞いちゃおらん」
シンジ「…万一の事態に対する備え、と…理解していただけないでしょうか…」
艦長「その万一の事態に備えて、われわれ太平洋艦隊が護衛しておる。いつから国連軍は宅配屋に転職したのかな?」
OTR副長「某組織が結成された後だと、記憶しておりますが」
シンジ「ですが…その…エヴァの重要度を考えると、足りないくらいで…」
シンジ「…あの、この書類にサインを…」
艦長「まだだ!エヴァ弐号機および同操縦者は、ドイツの第3支部より本艦隊が預かっている。君らの勝手は許さん!」
シンジ「…では、いつ引き渡しを…?」
副長「新横須賀に陸揚げしてからになります」
艦長「海の上は、われわれの管轄だ。黙って従ってもらおう」
シンジ「う…分かりました。ですが…有事の際は、われわれネルフの指揮権が…その、最優先であることを…」
青葉「うーんなんだか…」
ミサト「カッコ悪い…」
加持「あ、アスカ先輩」
シンジ「……!!!」
艦長「惣流君!君をブリッジに招待した覚えはないぞ!」
アスカ「入ったらどうだって言うのよ?子どもと年寄りがいるだけじゃない」
艦長「なんだとっ!!!」
シンジ「でっでは!!!これにて失礼します。新横須賀まで輸送、よろしくお願いします…っ!」
日向「…これが気分転換…?」
青葉(すごい美人だ…)
副長「時代が変わったのでしょう。議会もあのロボットに期待していると聞いてます」
艦長「あんなオモチャにか!?バカどもめ!そんな金があるなら、こっちに廻せばいいんだ!」
シンジ「……なんでアスカがここにいるんだよ…!」
アスカ「あら、悪い?加持の随伴よ、ドイツから出張」
シンジ「…それにしたって、なんでアスカが…」
アスカ「あーもうゴチャゴチャうっさい!」
シンジ「うわっ!…やめてよ、狭いんだから…!」
アスカ「ちょっと。バカシンジ」
シンジ「その呼び方やめてよ…」
アスカ「今、付き合ってる奴、いるの?」
シンジ「な…っ、そんなの、アスカには関係ないだろ…!」
アスカ「ふーん?偉くなったもんねぇ…どうせいないくせに」
シンジ「あ…アスカだって…その性格直さないと、次は無理だと思うよ?」
アスカ「ハア?言ったわね…私が奪ってやらなきゃ、ファーストキスもまだだったくせにっ!!!」
ミサト・日向・青葉「…えぇ~っ!!!」
シンジ「なっ、なっ、なっ、何言ってるんだよ!」
アスカ「…ふん!慌てちゃって馬鹿みたい。何よ、キスくらいで」
シンジ「やっ、やめてよ、もう…!子どもたちの前で…!」
ミサト「えっ、ええ…あの、どうして私の名前を?」
アスカ「そりゃあ知ってるわよ。この世界じゃ、アンタは有名だもの。何の訓練もなしに、エヴァを実戦で動かしたサードチルドレン」
ミサト「いや、そんな…偶然です…」
アスカ「偶然なんてない。アンタの才能よ。…そんなことくらい自覚させときなさいよね、バカシンジ!」
アスカ「じゃ、また後で」
ミサト「はい…」
シンジ「はぁぁあ……こんなことなら…綾波に…」
アスカ「葛城ミサト、か……あんたはどう見る?」
加持「……良い子だね。口説き甲斐がある」
アスカ「ばーか。余裕ぶっこいてんじゃないの。いきなりの実戦でシンクロ率40パー出してんのよ?」
加持「へぇ…そりゃ凄いな」
シンジ「…きっと、プライドが高い人なんだよ。皮肉くらいで済むなら…まぁ良しとするよ」
ミサト「何ていうか…はっきり物を言う人ですね、アスカさんって」
シンジ「…はっきり言いすぎだよ、まったく、昔っから…」
青葉「せっかく綺麗なのにな」
日向「あんなに口が悪くっちゃな…」
加持「葛城!」
ミサト「えっ」
加持「…ちょっといいかな?」
加持「…珍しいかい?俺には馴染みの色さ…」
加持「…初めての実戦で、シンクロ率40%を叩きだしたんだって?しかも訓練なしで」
ミサト「や…それは、…あの時は、必死だったから…」
加持「誰にでも出来ることじゃない…誇っていいことさ」
加持「…俺も誇りに思ってる…。初めて作られた実戦用のエヴァンゲリオン、そのパイロットである自分…」
ミサト「…あの…なんでここに?」
加持「君に見せたかったのさ。俺と、その相棒をね」
ミサト「なっ、なに!?」
加持「水中衝撃波…!」
加持「近いな…」
ミサト「あれ…!」
ミサト「まさか…使徒!?」
加持「…あれが…!」
ミサト「どっ、どうしよう、シンジさんのところに戻らなくっちゃ…!」
加持「…ついてるぞ…!」
副長「状況報告はどうした!」
無線「シンベリン沈黙、タイタス・アンドロニカス、目標、確認できません!」
艦長「くそぉ、何が起こっているんだ」
シンジ「…!おそらく、使徒です。エヴァの出動許可を!」
艦長「戦闘中だ!見学者の立ち入りは許可しておらんぞ!」
シンジ「…そんな!他に敵なんて…!」
艦長「全艦任意に迎撃!」
シンジ「無理です、使徒相手じゃ…!」
加持「この程度じゃ、A.T.フィールドは破れない、か」
シンジ「でも…なぜ使徒がここに…まさか、弐号機?」
加持「エヴァの所にね。…ここにいてくれ。すぐ戻る」
ミサト「えっ、ちょっと…」
ミサト「…ねぇ?何して…」
加持「おっと。今ちょっと障りがあるんだ。失礼」
ミサト「ごっ、ごごごごめん!」
加持「かまわないさ。…男性用で悪いが、君もこれを」バサッ
ミサト「えっ…」
加持「俺は向こうに行ってる…終わったら来てくれ」
加持「…行ってくるよ…みんな」
青葉「やっぱエヴァじゃないと、太刀打ちできないな」
艦長・副長「ぐっ!」
ミサト「ねぇ、エバーに乗るの?」
加持「そうさ。…弐号機で敵を倒すんだ」
ミサト「でも…シンジさんの許可もなしに?」
加持「そんなものは、勝ってから貰えば良い」
加持「…なぁに。どの道エヴァには出撃命令が下る。使徒はエヴァでなければ倒せないからな。それなら早いほうがいい。軍のためにも…俺のためにもね」
ミサト「あなたのため?」
加持「見せ場が増えるだろ?」
(通話)
アスカ「…こんな所で使徒襲来なんて、話が違うわよ?」
葛城「そのための弐号機だ……最悪の場合、君だけでも脱出しろ」
アスカ「…了解」
加持「L.C.L. Fullung, Anfang der Bewegung Anfang des Nerven anschlusses.Ausulosung von Rinkskleidung.Synchro-Start.」
ミサト「えっ…? 英語……?」
加持「あ…すまない。ついいつもの癖で…ごほん。思考言語切り替え、日本語をベーシックに!」
加持「…動け、と念じてくれるかな。…一緒に使徒を倒そう」
ミサト「……」コクン
加持「…エヴァンゲリオン弐号機、起動!」
艦長「なんだと!?」
シンジ「よしっ!」
艦長「いかん、起動中止だ、元に戻せ!」
シンジ「なっ…何言ってるんですか!相手は使徒ですよ!?」
艦長「黙れ!エヴァおよびパイロットは、われわれの管轄下だ!勝手は許さん!」
シンジ「…っ、かまわない、加持くん!発進だ!」
艦長「おい!」
副長「しかし、本気ですか?弐号機はB装備のままです」
艦長・シンジ「えっ!?」
加持「落ちないようにやるさ」
シンジ「え…ミサトちゃんも乗ってるの!?」
ミサト「す…すいません!必ず勝ちます…!」
艦長「子供が2人…!」
シンジ「これは…いや…でも…」
シンジ「二人とも、出して!」
加持「行きます!」
加持「どこ行った?」
ミサト「あっち!」
ミサト「後58秒しかない!」
加持「オーケー、十分だ。…シンジさん!甲板に非常用外部電源の用意を!頼む!」
シンジ「分かった!」
艦長「何をするつもりだ!」
加持「さぁ…跳ぶぞっ」
ミサト「跳ぶ?」
甲板作業員「リアクターと直結完了!」
甲板作業員「飛行甲板待避!」
甲板作業員「エヴァ着艦準備よし!」
副長「総員、耐ショック姿勢!」
艦長「でたらめだ!」
加持「エヴァ弐号機、着艦します!」
青葉「うわぁ、もったいない…」
アナウンス「目標、本艦に急速接近中!」
ミサト「来るわ…!左舷9時方向!」
加持「外部電源に切り替え!」
ミサト「でも、武装が…!」
加持「プログナイフがある」
加持「はは、近づくとデカいな」
ミサト「どうするの!?」
加持「受け止める…!」
艦長「どうするつもりだ!?」
シンジ「…使徒を倒すには、近接戦闘がベストです」
シンジ「…止めたっ!」
艦長「冗談じゃない、飛行甲板がめちゃめちゃじゃないか!」
シンジ「…加持くん!B型装備じゃ水中戦闘は無理だ!」
加持「…やってみるさ。フォローよろしく!」
青葉「はぁぁぁぁ、もったいなぁい…」
シンジ「ケーブルの長さは!?」
副長「残り、千二百!」
艦長「どうするんだね!?」
シンジ「何とかします…!」
シンジ「二人とも!ケーブルがなくなるから衝撃に備えて!」
加持「! まずいっ」
アナウンス「エヴァ、目標を喪失!」
青葉「まさかまた機会が巡ってくるとはなぁ…」
アスカ「おーいバカシンジぃー!」
シンジ「あっアスカ!?」
アスカ「私、先に抜けるから。後はちゃんとやりなさいよ~!」
シンジ「なっ…なんだよそれ…!」
アスカ「急ぎの届け物があんのよ!…さっ、出してちょうだい」
日向「…逃げた…」
アナウンス「目標、再びエヴァに接近中!」
加持「さぁ来い…今度こそ…!」
停止する弐号機
加持「? おっと…やっぱりマズかったか…」
ミサト「ど!どうしよう…!」
加持「来るに任せる…しかないだろ?」
ミサト「そんな…!何か考えがあるんじゃ…!」
加持「生憎と、ね。…大丈夫、エヴァの装甲はそんなにヤワじゃない…」
ミサト「……」
加持「はずだ…」
ミサト「…来たっ!」
加持「口っ!?」
加持・ミサト「うわぁあああっ!」
青葉「それって、食われたってことじゃないのか!?」
日向「なっ、だ、大丈夫なんですか!?」
シンジ「ミサトちゃん!加持くん!!」
ミサト「やば…使徒に食べられちゃったわよ!?私たち」
加持「そのようだ…さてどうするか…」
ミサト「…何とか、離れないと…!」
加持「まずいな。面子的にも」
加持「このままじゃ餌になるために来たようなもんだ」
ミサト「餌……」
ミサト「!シンジさん!聞こえます、私たち…!」
シンジ「分かってる。今は落ち着いて、こちらから何か作戦を…」
ミサト「あの!使徒を…釣り上げることって出来ませんか!?」
シンジ・加持「使徒を」
青葉・日向「釣り上げる???」
青葉「よく思いついたもんだな、敵の腹の中で」
ミサト「加持くんが…餌って言ったのを聞いて…」
シンジ「…確かに、それならエヴァが動けなくても…」
日向「それで、使徒を引き上げた後は!?」
シンジ「それはこちらでなんとかする。…ミサトちゃん、加持くん!」
シンジ「ミサトちゃんの案を使う。こちらの状況を整えるから、それまで…なんとか持ちこたえて!」
ミサト・加持「はい!」
シンジ「艦長」
艦長「なんだ」
シンジ「ご協力をお願いします」
シンジ「そうです。アンビリカルケーブルの軸線上に無人の戦艦2隻を自沈させ、罠をはります」
シンジ「その間に、エヴァ弐号機が目標の口を開口、そこへ全艦突入し、艦首主砲塔の直接砲撃の後、さらに自爆、目標を撃破します」
艦長「そんな無茶な!」
シンジ「無茶かもしれませんが…無理ではないと思います」
艦長「……分かった」
アナウンス「総員退艦、繰り返す、総員退艦!各フリゲートは、漂流者の救助を急げ!」
艦長「しかし、エヴァはどうする?」
シンジ「心配ありません。あの2人なら…」
シンジ「2人とも、用意はいい?合図を送るから、それまでに使徒の口をこじ開けて」
加持「…できなきゃ、一緒にドカンってわけか…」
シンジ「決して無理はしないで。開口が不十分な場合、砲撃は出来ない。でも…その中にいることも危険なんだ。なるべくなら…一発で仕留めたい」
ミサト「やってみます…!」
シンジ「ありがとう…!頼んだよ」
シンジ「了解、ケーブル、リバース!」
アナウンス「エヴァ、浮上開始!接触まで後70!」
加持「…これは、ヤバいことになってきたな…!」
ミサト「…早く口をこじ開けないと、私たち…!」
アナウンス「接触まで後60!」
シンジ「使徒の口は!?」
艦長「まだ開かん!」
アナウンス「戦艦2隻、目標に対し沈降中!」
アナウンス「エヴァ、浮上中!接触まで後50!」
ミサト「…開かない!」
加持「くっ…」
シンジ「限界か……!」
加持「美少女と心中も悪くないが…まだ命は惜しいな」
ミサト「な…変なこと考えないでよ!」
加持「とにかく、意識を集中するんだ。この口を開くことだけに!」
ミサト「分かってるわよ…!」
アナウンス「接触まで後20!」
アナウンス「接触まで後15!」
ミサト・加持「開け、開け、開け、開け…っ!」
シンジ「撃てッ!!」
シンジ「ごめん…」
レイ「責めてるんじゃないわ…はい、これ」ペラッ
シンジ「…?」
レイ「その時の数値よ」
シンジ「! これって…」
レイ「ええ」
青葉「おおぉ…ペアルック…」
日向「……」
レイ「シンクロ値の記録更新ね」
シンジ「…でもたった7秒間か…火事場のバカ力ってやつかな」
加持「あれ、アスカ先輩は…?」
シンジ「…先に帰ったよ…!ほんとに…信じられないよ…!」
アスカ「…ここまでの復元には成功したわ…。硬化ベークライトで固めてるけど、間違いなく生きてる」
アスカ「…人類補完計画の要ね」
葛城「そうだ。最初の人間…アダムだよ」
日向「…ほんと、キザったらしくて、嫌な奴だったよ」
青葉「ま、そうカッカするなよ。もう会うこともないんだし…」
日向「俺たちは、だろ!…それがまた不愉快なんだよ…!奴はネルフで…」
日向「! なっ…!?」
加持「どもっ」
加持「ドイツから日本に越してきました、加持リョウジです。よろしくっ」
八話分終わり
女子「見た!すっごいイケメン!」
女子「何が?」
女子「あんた知らないの?転校生よ!」
女子「2年A組に転校してきたんだって!先週!」
女子「かっこいいわよねぇ」
女子「加持リョウジくん、っていうんだって」
女子「あたし声かけられちゃった!」
女子「なんか大人っぽいしぃ…やっぱり外国って進んでるのかな?」
女子「やだぁー!」
日向「まったく…この前までシンジさんにキャーキャー言ってたのに…」
青葉「しかたないさ…あの顔で帰国子女のおまけつきだ…おっ、毎度あり!」
日向「…お前、そういうのやめろよ…」
加持「やぁ、かわいいお嬢さん」
ミサト「…やめてよ、その呼び方…」
加持「本当のことを言ったまでさ…じゃあ、葛城?ちょっと聞きたいことがあるんだが」
ミサト「どうしたの?」
加持「ファーストチルドレンのことさ。いるんだろう?この学校に」
ミサト「ああ、リツコなら…」 チラッ
ミサト「よしなさいよ。リツコはそういうので笑わないから」
加持「そりゃ残念。笑った顔も見たいとこだったけどな…」
リツコ「……」
加持「はじめまして、ファーストのお嬢さん」
加持「弐号機パイロット…加持リョウジだ。よろしく」
リツコ「……よろしく」
日向「…普通、自分で言うか?容姿端麗って…」
青葉「まいどーっ」
レイ「…いたの?」
アスカ「いたわよ!失礼ね」
レイ「…碇くんに謝ったほうがいいんじゃないの?」
アスカ「なに…アイツまだ怒ってんの?」
レイ「…そんなに昔のことかしら」
アスカ「はぁーっ!もう!これだから嫌なのよ日本人はぁ!終わったことをいつまでもウジウジウジウジ……あ…」
シンジが睨んでいる
レイ「…今のはアナタが悪いわ…」
アスカ「うげぇ…」
アスカ「謝ったわよ!それなのにこいつが…」
シンジ「なっ!悪いのはアスカじゃないか!」
レイ「相変わらずね…昔を思い出すわ」
ミサト「ふん…どうせその様子じゃ、お酒も強くなってないんでしょうね?」
シンジ「う…」
レイ「そうそう体質は変わらないわ」
アスカ「ちょうど良いわ。今晩空けときなさいよね!3人で飲むわよ!」
シンジ「それはいいけど…もう吐かないでよね…」
アスカ「ハア!?私がいつ吐いたってのよ!!」
警報。
シンジ「敵襲!?」
トウジ「受信データを照合…波長パターン青、使徒と確認!」
カヲル「総員、第一種戦闘配置!」
シンジ「先の戦闘によって第3新東京市の迎撃システムは、大きなダメージを受け、現在までの復旧率は26%。実戦における稼働率はほぼゼロ」
シンジ「したがって今回は、上陸直前の目標を水際で一気に叩きます!」
シンジ「初号機ならびに弐号機は、交互に目標に対し波状攻撃、近接戦闘で行くよ」
ミサト・加持「了解!」
ミサト「もう船の上で動かしたじゃない」
加持「あれは二人で入ってたしな…大丈夫、今度はヘマはしないよ」ウインク
ミサト「………」(…どうも加持くんのノリは軽いのよね…)
加持「…しかし、2人掛かりか…ま、相手は未知数だし…当然か」
シンジ「正攻法とは言ってられないよ。君たちを死なすわけにはいかないんだ」
加持「はは、人類もね」
ミサト「…来た!」
加持「俺が行く!援護を頼む!」
ミサト「えっ援護!?」
加持「レディーに危険な仕事はさせたくないんでね!」
ミサト「ちょ、ちょっとぉ!!」
加持「行ける!」
ミサト「えっ!?」
加持「よっ!」ドカーン
ミサト「すごい…!」
加持「ははっ、見直しただろ?これでも向こうでみっちり仕込まれたプロだ」
再生する使徒
シンジ「なっ!?どうなってるんだ!?」
ヒカリ「同20秒、弐号機は目標乙の攻撃により活動停止。この状況に対するE計画責任者のコメント」
レイ「残念」
加持「悪い。また…ヘマやっちまって…」
ミサト「いや…でもまぁ…ああなるのは誰にも分からなかったんだし、仕方ないわよ」
加持「はぁ…葛城に会ってからこの方、どうも格好がつかないな…」
ミサト「無理しないでよ…エバーは3体あるんだから…」
加持「……ん…そうだな…悪い。突っ走っちまって。……それにしても、これは…」
ミサト「犬神家……」
加持「…きっついなぁ…」
ヒカリ「国連第2方面軍に指揮権を譲渡」
カヲル「まったく…ついてないね…」
ヒカリ「同05分、N2爆雷により目標を攻撃、」
カヲル「…また地図の描き直しか…」
ヒカリ「構成物質の28%を焼却に成功」
加持「目標は沈黙?」
カヲル「いや、これは足止めに過ぎない…再度侵攻は時間の問題だよ」
アスカ「ま、建て直しの時間が稼げただけでも良しとすべきね…」
加持「…使徒に勝つことです」
カヲル「その通りだよ。確かに相手は未知数だが…負けることは許されないんだ…分かるね?」
ミサト・加持「はい…」
カヲル「…下がっていいよ」
加持「あちらさんカンカンだな…」
アスカ「聞き流せばいいのよ、あんなホモの言うこと…次はしっかりやんなさい」
ミサト「あの、シンジさんは?」
アスカ「後片付け。あいつはそのためにいるよーなものよ」
シンジ「う~」
レイ「ちゃんと目を通しておいてね」
シンジ「…読まなくても分かるよ、喧嘩をするならここでやれ、でしょ?」
レイ「ええ。概ねは」
シンジ「言われなくったって…できればやってるよ」
レイ「…副司令官もあれでご立腹よ。あなたが左遷されるってことはないでしょうけど」
シンジ「……司令が留守だったのは不幸中の幸いだったね…」
レイ「そうね…これを見ることもなく解任されていたかも」
シンジ「あはは…首の皮一枚の状態か…。何かいいアイディアは…」チラッ
レイ「あるにはあるわ」
シンジ「ほっ本当!?よかった、本当、どうなることかと…!ありがとう綾波…!」
レイ「でもこれは私のアイディアじゃない」
シンジ「えっ」
レイ「アスカの案よ」
ミサト「…あれ、何この荷物…」
加持「失礼。レディーの部屋に踏み込むのは無粋かと思ってね」
ミサト「なっ…なんで加持くんが…」
加持「葛城こそどうして、まだここに?」
ミサト「? まだ?」
加持「今日から配属されたんだ、ここに」
ミサト「え?」
加持「俺がシンジさんと暮らすことになった。まぁ…それが妥当だろうな。若い男と女が暮らしてるよりかは」
加持「…ま、俺としては葛城と二人でも良いんだがな」ウインク
ミサト「な、な…!」カァ
シンジ「あはは…ごめんね」
ミサト・加持「シンジさん…」
シンジ「お帰り。加持君の荷物はそれだけ?…ならなんとか入りそうだね」
ミサト・加持「えっ?」
シンジ「今度の作戦準備だよ」
ミサト・加持「どうして?」
シンジ「分離中のコアに対する二点同時の荷重攻撃、これしかないんだ」
シンジ「つまり、エヴァ2体のタイミングを完璧に合わせた攻撃」
シンジ「そのためには2人の協調、完璧なユニゾンが必要なんだよ」
シンジ「それで…古典的な方法だけど、呼吸を合わせるために…二人にはこれから一緒に暮らしてもらうことになったんだ」
ミサト(えぇ~っ!?なにそれぇ!!??)
加持「はは、こりゃ役得だな…」
シンジ「使徒は現在自己修復中。第2波は6日後…時間がないんだ」
加持「なるほど。…無茶だが、やるしかないか」
シンジ「それでなんだけど…無茶を可能にする方法」
シンジ「二人の完璧なユニゾンをマスターするため、この曲に合わせた攻撃パターンを体に覚え込ませるんだ」
シンジ「6日以内に、1秒でも早く!」
ミサト「はぁ…」
加持「よろしくな」ニコッ
ミサト「……」カァ
青葉「葛城の欠席がか?心配するなよ。訓練か何かだろ?」
日向「あいつと一緒に、だろ!だから心配なんだよ…」
青葉「あれ?マヤちゃん?」
ヒカリ「日向君に、青葉君…」
日向「…なんだか、嫌な予感が…」
青葉「なんでここで止まるんだ?」
マヤ「なんでここで止まるの?」
日向「……」
日向「なっ……」
青葉「おぉ…またしてもペアルック…」
ミサト「ち、ちがうのよ!これは訓練の一環で…」
加持「心を合わせる練習さ。互いの呼吸を感じながらね」
日向「こきゅ…」
マヤ「不潔…」
ミサト「ち、違うのよ!!!もう!加持君は黙ってて!!」
日向「……」ワナワナ
シンジ「あ、いらっしゃい」ヒョコッ
青葉「えっ?シンジさん…?これはいったい…」
日向「何がだよ」
マヤ「…それで、そのユニゾンはうまくいってるんですか?」
シンジ「はは…それが…」
加持、ミサトのダンス
『75点』
青葉「なんだ、高得点じゃないですか」
マヤ「なにがいけないんですか?」
日向「……」ムッスー
リツコ「はい」
シンジ「もう一回…いいかな?」
リツコ「はい」
ミサト「……」
加持、リツコのダンス
『85点』
日向・青葉・マヤ・シンジ「おぉお……!」
シンジ「…シンクロ率で言うとミサトちゃんのほうが高いんだけど…」
マヤ「すごいわ!赤木さん…ダンスもうまいなんて…!」キラキラ
ミサト「……」ズーン
青葉「あっああ!そうさ!練習すればきっと…」
シンジ「まだ時間はあるから…ね?やってみよう、ミサトちゃん」
ミサト「ありがとうございます…、みんなも…」
ミサト「でも……私、ちょっと……気分転換に、出てきます…すいません!」ダッ
日向「あっ…!」
青葉「葛城!」
シンジ「ミサトちゃん!」
加持「ここは俺が」ザッ
ガチャン
日向「な……」ポツーン
青葉「…お前にもそのうちチャンスが回ってくるさ…たぶん」
マヤ「あっ赤木さんのせいじゃないと思うわ…!」
リツコ「……」
ミサト「…! 加持君…」
ミサト「ごめんなさい…私…子どもっぽいことしてるわよね…」
加持「俺たちはまだ子どもだ」
ミサト「ううん、子どもでいちゃいけないのよ、もう子どもでいちゃ…だってみんなの命を背負ってるんだもの…」
ミサト「私たち…エバーに乗るしかないのよね…」
加持「…模範的な、回答ってやつか…でも」グイッ
ミサト「あっ!?」
加持「こうすれば誰にも見えない……葛城の子どもの顔も」
ミサト「……加持君だって、子どものくせに…」
加持「はは…そうだな…。じゃあ俺が泣くときは…葛城の胸を貸してもらうよ」
ミサト「バカ…」
ミサト「ありがとう…」グスッ
ミサト「こーなったら、とことんやってやるわ!あんな曲、ノーミスでクリアしてやるわよ」
加持「こりゃまた、大きく出たな…」
ミサト「まだ時間はある…!シンジさんも言ってた!なんとかなるって!」
ミサト「でも100点には…まだ遠いわ、さっきだって」
加持に向き直るミサト
加持「……」
ミサト「次からは本気を出してくれて構わない。死ぬ気でついていくから…!」
加持(これは……うかうかしてると俺のほうが抜かれそうだな……)
ミサト「仕事。今夜は徹夜だって、さっき電話が」
加持「…じゃあ、今夜は二人っきり、ってわけか」
ミサト「!!!!なっ、な…!」
加持「冗談。なにもしないさ…それとも何か期待されたかな?」
ミサト「!!!ばかっ!!!」
加持「はは、悪かったよ。…葛城は反応が可愛いから、ついからかいたくなるんだ」
ミサト「もう…!」
加持「…とは、言ったものの…」
加持「寝顔くらいは拝見しても…っと」ソ~
ミサト「ぐぅ……くぅ~…」グチャア…
加持「…おお…これは……」(人は見かけによらないな…)パタン
シンジ「むっ…っむぅ…っ!」
アスカ「…っと」
シンジ「なっ、なっ、なっ…なにするんだよぉ!!!???」カァァ
アスカ「してやった、のよ……あんた、ぜーんぜん進歩してないじゃない。…もしかしてあれからやってないの?」
シンジ「あっ…アスカには関係ないだろ…!!」
アスカ「フーン、やってないってわけね…絶対あいつが手ぇ出してると思ってたけど」
シンジ「あいつ??」
アスカ「こっちの話よ」
シンジ「もう…」ブツブツ
シンジ「あ、ありがとう…」
レイ「……なにかあった?」
シンジ「い、いや、ちょっと、ね…」
レイ「アスカ?」
シンジ「えっ!!!!い、いや…」
レイ「相変わらず隠すのが下手ね…」
シンジ「ち、ちがうよ、そんな…」
レイ「まだ好きなのかしら」
シンジ「なっ!な、なんでそうなるのさ!もうアスカとは…!」
レイ「私が言ったのはアスカが、よ。…動揺させてしまった?」
シンジ「あ、綾波…!」
レイ「…今はフリーだそうよ。良い機会なんじゃない?昔に戻る」
シンジ「……無理だよ、そんなの…」
レイ「……」
レイ「……」
シンジ「…僕は一度…アスカを傷つけてるから……」
レイ「…碇く」
電話が鳴る
シンジ「わあっ!…は、はい、もしもし…はい、い、今ですか!?いえ……、すぐに提出します…!」
電話口を押さえるシンジ
シンジ「綾波、何か言った?」
レイ「いいえ。……お疲れ様」パタン
レイ(…後悔、か…)
レイ(まだ引きずってるのね…)
レイ「……変わらないのは私も同じか…」
シンジ「…よし」
シンジ「音楽スタートと同時に、A.T.フィールドを展開。後は作戦通りに。ミサトちゃん、加持くん…健闘を祈ってるよ」
加持「ええ、今度こそ」
ミサト「勝ちます!」
ミサト「スタートからフル稼動、最大戦速で!」
加持「オーケイ、62秒あれば十分だ」
ケンスケ「目標、ゼロ地点に到達します!」
シンジ「外電源、パージ」
シンジ「発進!」
華麗なる戦闘。使徒撃破
シンジ「うわぁ…」
レイ「残念……着地失敗ね」
加持「いたたたた…悪い、最後のタイミングが…」
ミサト「ごめ…最後、気ぃ抜いちゃったわ…」
加持「それにしても…いたた、凄い体勢になったな…まるで葛城の寝相…」ハッ
ミサト「なっ!!!なによ、私の寝相って!!!???」
ミサト「部屋に入ったの!?」
加持「い…いや!入ったと言うか、隙間から見えたと言うか…」
ミサト「~~~エッチ!バカ!ヘンタイ、何してんのよ!!」キーッ
発令所職員「アハハハハ…」
加持「悪かった!もうしないよ、葛城」
ミサト「当然でしょ!!!」
カヲル「やれやれ…」
九話分終わり
女子「ずるーい!私たちだって声かけてたのにー」
女子「ねっ、ねっ?ウチの班がいいでしょ~?」
女子「も~やめなよ~加持くん困ってるじゃん」
女子「加持くんの気持ちが優先でしょ!まず聞きなさいよー!」
女子「加持くんはどの班がいいの?」
加持「いやぁ…俺もみんなと行きたいのは山々なんだが……」
ミサト「そ、そんな!気にしないで下さいよ…!掛け合ってもらっただけでも、十分…!」
加持「ま、分かってたことですよ。俺たちはパイロットだ。…使徒は待ってちゃくれない、ってね」
ミサト「そ、そうです!しょうがないですよ!シンジさんは悪くないです!!」
シンジ「ありがとう…二人とも優しいね」
ミサト「そ、そんな!」カァ
加持「……ま、ダイビングの機会を逃したのは惜しかったけどな」
ミサト「やったことあるの?」
加持「一応は。アッチにいたころにね。良い筋だ、ってインストラクターからのお墨付き」
ミサト「へぇぇ…」(やっぱ帰国子女は違うわね…)
加持「シンジさんは、ダイビングの経験は?」
シンジ「やったことないよ。機会があったら加持くんに教えてもらおうかな」
加持「はは、お安いご用」
シンジ「ああ…僕らのときはね、なかったんだ」
加持「…セカンドインパクトの影響で?」
シンジ「うん。本当に直後だったから」
ミサト「ご、ごめんなさい」
シンジ「そんな!気にすること…当時はそれどころじゃなかったから。…みんなの世代でここまで復興が進んで良かったよ。修学旅行も普通に行けるようになったし……あ」
加持「はは…」
シンジ「ごめん……」
ミサト「もう!いいですってば!」
日向「……」(俺も残りたい…)
マヤ「赤木さん!お土産買ってくるからね!」
女子たち「加持くぅ~~~ん!お土産買ってくるからね~!」
女子たち「やっぱり加持くんがいないと寂し~い」
加持「はは…」
日向「…かっ葛城さん!お土産何が」
女子「葛城さ~~~ん!抜け駆けしちゃ駄目よ~!」
ミサト「はーいはい、分かってるわよー!」
日向「……」
ブロロロ…
ヒカリ「……」
トウジ「わはっ…くくく!」
ケンスケ「ヒューーーーン、┣¨┣¨┣¨┣¨ド!ズパーンッ」
レイ「私たちのときには無かったわね、修学旅行」
シンジ「うん…少し羨ましいね」
ミサト「…理科の勉強」
加持「勤勉だな。どれどれ…、うーん、分からないな…」
ミサト「? …休み時間、あの子たちに教えてなかった?」
加持「女の子たち? それなら分かりそうだ…これは何て読むんだ?」
ミサト「膨張、だけど…もしかして日本語読めないの?」
加持「漢字はまだちょっとね。皆よくこういう複雑な形の見分けがつくな」
ミサト「じゃ、じゃあテストで点数が取れないのって…」
加持「ご明察。なぁに…その内追いつくさ」
ミサト「……はぁ~ああ」(勉強だけは勝ってると思ってたのに…)
ミサト「通りで…点数が低いわりにアドバイスは完璧だったわけね」
加持「ま、音読してくれれば何とかな。…こっちは何て読むんだ?」
ミサト「熱よ、これは熱膨張の問題」
加持「熱膨張か…懐かしいな」
ミサト「え、」
加持「…モノはあたためれば膨らんで大きくなるし、冷やせば縮んで小さくなる、ってことだろ?」
ミサト「いやいやいや、ちょっと、」
加持「ん?」
ミサト「懐かしいって?」
加持「…ああ、前にやったことがあったから。どれくらいだったか…確か大学入る前…」
ミサト「い、いま大学生なの?」
加持「いや。去年卒業した」
ミサト「…たはは…」(こりゃ次元が違うわ…)
加持「うん?」
ミサト「…苦手なものとかって、ないの?」
加持「これは…嬉しいな。やっと俺に興味を持ってくれたのか?」
ミサト「馬鹿。真面目に聞いてんのよ」
加持「そりゃまた、どうして?」
ミサト「…ぜーんぶ、負けてるなぁって」
加持「葛城が?俺にか?」
ミサト「そーよ。学校の授業なんて聞いてて退屈なんじゃないの?」
加持「…まぁ、そりゃあるが…」
ミサト「発想力?私が?」
加持「そ。機転を利かせた発想力。土壇場でピンチをチャンスに変える力…」
ミサト「あ、あれは…加持くんが呟いたから」
加持「俺はぼやいてただけで、そんなこと思いつかなかった。それに、まだあるぞ」
加持「ユニゾンの練習のとき、葛城は一度は逃げ出したが……帰ってきた」
加持「しかも「ノーミス」「100点」と意気込んでた…落ち込む前よりも落ち込んだ後のほうが前を向けるってのは、成長の証だ。そしてそれは誰にでも出来ることじゃない」
ミサト「あれだって……加持くんが…」
加持「俺はちょっと胸を貸しただけさ。いいか葛城……相手に弱さを見せれるってのは「強さ」だ」
加持「どれだけ相手が手を差し伸べても、その手を取るかどうかは、葛城しだいだからな。俺は手を取ってもらえて嬉しかったよ…葛城が強かったからできたことだ」
ミサト「……」
ミサト「……」
加持「……葛城はよくやってるよ…葛城自身が気付いてないだけで…」
ミサト「…なんだか、べた褒めされてるみたい…」
加持「…もちろん。葛城は魅力的な女性だからな」
ミサト「馬鹿…あの子たちに言いつけるわよ?」
加持「女性を傷つけるのは本意じゃないが、この場合はしょうがないな」
ミサト「どこまで本気なんだか…」
加持「全部さ」
ミサト「はいはい…」
ケンスケ「しかし、浅間山地震研究所の報告通り、この影は気になります」
カヲル「無視はできないね」
レイ「…MAGIの判断は?」
ヒカリ「フィフティーフィフティーです」
カヲル「現地へは?」
ケンスケ「すでに、碇一尉が到着しています」
シンジ「あ、後500だけ…お願いします」
アナウンス「深度1200、耐圧隔壁に亀裂発生」
所員「碇さん!」
シンジ「…しょうがない。引き上げ…」
トウジ「壊れたらうちで弁償したる!後200や」
シンジ「と、トウジ…!」
シンジ「かっ解析開始!」
トウジ「よっしゃあ!」
アナウンス「観測機圧壊、爆発しました」
シンジ「解析は!?」
トウジ「ギリギリセーフや。パターン青!」
シンジ「使徒」
シンジ「……回線は?」
トウジ「今やっとる…ええで」
シンジ「…これより当研究所は完全閉鎖、ネルフの管轄下となります。一切の入室を禁じた上、過去6時間以内の事象は、すべて部外秘とします」
シンジ「葛城司令当てに至急、A-17要請を!」
葛城「そうです」
委員「駄目だ、危険過ぎる!15年前を忘れたとは言わせんぞ!」
葛城「…これはチャンスです。これまで防戦一方だった我々が、初めて攻勢に出るための」
キール「リスクが大きすぎるな」
葛城「しかし、生きた使徒のサンプル…その重要性は、すでに承知の事でしょう」
キール「失敗は、許さん」
カヲル「失敗か…その時は人類そのものが消えてしまうことになる…。本当にいいのかい?」
葛城「……」
レイ「そう…まだ完成体になっていない蛹の状態みたいなものよ」
レイ「今回の作戦は使徒の捕獲を最優先とします。できうる限り原形をとどめ、生きたまま回収すること」
加持「できなかったら?」
レイ「即時殲滅。異常事態の場合は躊躇わず目標と認識して」
ミサト・加持・リツコ「了解」
レイ「作戦担当者は…」
加持「俺が行く」
ミサト「えっ」
ミサト「でも…」
レイ「…加持くんが弐号機で担当して」
加持「そうこなくっちゃ」
リツコ「私は?」
ヒカリ「プロトタイプの零号機には、特殊装備は規格外なのよ」
レイ「リツコちゃんと零号機は本部で待機。よろしくね」
リツコ「はい」
ミサト「……」
加持「心配いらない。温泉みたいなもんさ」
レイ「A-17発令後は速やかに収拾…すぐに支度して」
ミサト・加持「はい!」
レイ「右のスイッチを押してみて」
加持「…うわっ」
レイ「弐号機の支度もできてるわ」
加持「…いやはや…なんともこれは…」
レイ「耐熱・耐圧・耐核防護服。局地戦用のD型装備よ」
加持「…弐号機まで…」
加持「どうも恰好がつかないな…いや、喜ぶべきか? レディー二人にはさせたくない恰好だ」
アスカ「似合ってるわよ中々」
加持「……そいつはどうも」
ミサト「あの…やっぱり私が…」
加持「いや、いいんだ葛城」
ミサト「でも」
加持「こいつは俺の相棒だからな…俺が行くよ」
リツコ「………」
シンジ「両機はその場にて待機、レーザーの打ち込みとクレーンの準備を急いで」
トウジ「了解」
加持「あれ?アスカ先輩は?」
シンジ「…ごめんね。とめたんだけど、また勝手に…」
加持「いや、いいですよ。…先輩もいろいろ忙しそうですし」
シンジ「……」
アスカ「上は大騒ぎでしょうね」
男性「なぜ止めなかった?」
アスカ「理由がないわよ。発令は正式なものなんだから」
男性「だがネルフの失敗は、世界の破滅を意味するんだぞ」
アスカ「……あいつらはそんなに傲慢じゃないわよ…」
レイ「UNの空軍が空中待機してるのよ」
ヒカリ「この作戦が終わるまでね」
ミサト「手伝ってくれるんですか?」
レイ「…いいえ、後始末よ」
ヒカリ「私たちが失敗したときのね」
加持「…なるほど。後処理、ね…」
ミサト「なに?どういうこと?」
レイ「使徒をN2爆雷で熱処理するのよ。私たちごとね」
ミサト「え…そんな…!」
ミサト「そんな命令、いったい誰が…」
レイ「…誰かがしなきゃいけない決断なのよ…今は葛城司令が」
ミサト「……」
アナウンス「進路確保!」
アナウンス「D型装備、異常無し!」
トウジ「弐号機、発進位置」
シンジ「了解。加持くん、準備はどう?」
加持「いつでもどうぞ」
シンジ「くれぐれも、無茶はしないで…」
シンジ「発進!」
ヒカリ「弐号機、溶岩内に入ります」
加持「潜るのは何年ぶりかな…っと。よーし」
ミサト・シンジ「?」
加持「ジャイアントストライドエントリー!」ザブーン
シンジ「…??」
ミサト「馬鹿…真面目にやんなさいよ…!」
加持「これでも透明度120か…」
ヒカリ「深度、400、450、500、550、600、650」
ヒカリ「900、950、1000、1020、安全深度、オーバー」
ヒカリ「深度1300、目標予測地点です」
シンジ「加持くん、何か見える?」
加持「反応なし…いないようだ」
レイ「思ったより対流が早いわね」
トウジ「目標の移動速度に誤差あり。再計算中」
シンジ「急いで。作戦続行。再度沈降、慎重に」
オペレータ「第2循環パイプに亀裂発生」
ヒカリ「深度、1480、限界深度、オーバー!」
シンジ「く…、加持くん!」
加持「まだだ!まだやらせてくれ、もう少し…!」
加持(……俺が駄目なら次は初号機が…)
シンジ「目標との接触は……!?」
トウジ「モニター、反応なし」
シンジ「………!」
加持「!」
オペレータ「エヴァ弐号機、プログナイフ喪失」
ヒカリ「限界深度、プラス200」
シンジ「……これ以上は…!」
トウジ「まだいける」
シンジ「トウジ!今度は加持くんが乗ってるんだよ!?」
トウジ「…って言うとるで運転手」
加持「シンジさん、行かせてくれ…大丈夫だ」
ヒカリ「深度、1780。目標予測修正地点です」
加持「…………いた…」
シンジ「捕獲準備…!」
レイ「お互いに対流で流されているから、接触のチャンスは一度しかないわ、気を付けて」
加持「了解」
トウジ「目標接触まで、後30」
加持「相対速度2.2。…軸線に乗った」
加持「電磁柵展開、問題なし」
加持「目標、捕獲しました」
トウジ「……っはぁ~…!」
シンジ「よかった……!」
加持「捕獲作業終了、これより浮上します」
加持「少し…いやかなり蒸すけどね。やっぱりダイビングは海に限る」
シンジ「ダイビングって…ああ、あれダイビングの潜り方だったの?」
加持「気がつかなかった?まったく…魅せがいがないな」
シンジ「あはは」
レイ「…緊張がいっぺんに解けたみたいね」
レイ「お疲れさま。碇作戦部長」
シンジ「ありがとう。……良かった。無事に終わって…」
レイ「悪ければセカンドインパクトの二の舞だものね」
シンジ「ふー…温泉にでも浸かりたい気分だよ」
加持「これは……っ!?」
レイ「まずいわ、羽化を始めた……!計算よりずっと早い!」
シンジ「キャッチャーは!?」
トウジ「もう持たん!」
シンジ「捕獲中止、キャッチャーは破棄!」
シンジ「作戦変更!使徒殲滅を最優先、弐号機は撤収作業をしつつ戦闘準備!」
加持「最後はこうなるか…!」
加持「…しまった、ナイフは…!」
加持「正面!バラスト放出!」
加持「早い…っ!」
シンジ「加持くん!今のうちに初号機のナイフを落とすから、受け取って!」
加持「了解!」
加持(…しかし、分が悪すぎるな…このままじゃ…!)
加持「う…っっ、シンジさん!ナイフは!」
ミサト「お…りゃあっっっ!」
オペレータ「ナイフ到達まで、後40」
トウジ「使徒、急速接近中!」
加持「…ぐっ…!」
加持(まだか…ナイフは!)
加持(まだ……ハッ)
加持「しまった!」
ヒカリ「信じられない構造です!」
加持「う…ぐっ」
ヒカリ「左足損傷!」
加持「……耐熱処置!」
加持「……そう、易々とっ…!」
レイ「高温高圧、これだけの極限状態に耐えているのよ。プログナイフじゃ駄目だわ」
トウジ「方法はないんか!?」
ミサト「…そうだ!」
加持「やられるわけにはいかないね…!」
加持「…………っ!」
レイ「! 熱膨張!」
加持「冷却液の圧力をすべて三番に!早く!」
加持「……破裂しろっ!」
加持「……万事休す、か…」
加持「…………」
加持(みんな……、俺は許されたか……?)
加持「!…葛城…?」
加持「……はは」
加持「いい女だよ、まったく」
ミサト「はーい!」
宅配屋「では、ここにサインをお願いします」
宅配屋「はい、どうもありがとうございました」
ミサト「アスカさんから??何だろ…?」
シンジ「綾波が教えてくれたんだ…ゆっくりしてこいって」
加持「マグマはもうごめんだが、ここならまた来たいね」
シンジ「ふふ…気に入ってもらえて良かった」
加持「……」
シンジ「……どうかした?加持くん…」
加持「…いや、こうして見てると…肌が白くて線も細い、それに顔も…中性的な美人だと思ってね」
シンジ「か…加持くん…?僕は男だよ……?」
加持「ノープロブレム。愛に性別は関係ないさ……」
シンジ「わっっっ、ちょっ………、待っ…!」
加持「おっと」
ミサト「シンジさんに変なことしてないでしょうねー!??」
シンジ「…ミサトちゃん?」
ミサト「シンジさーん!大丈夫ですかー?」
ペンペン「クエックエ~~~ッ!」
シンジ「えっ…ペンペンもいるの!?」
ミサト「はい…さっき届いて…アスカさんから」
ミサト「はい、宅急便で…こら!ペンペン!」
ミサト「じっとしてないと洗えないでしょ……いたっ!」
ミサト「……も~へんなとこ噛まないでよ~!」
ミサト「あっ、こら……!」
シンジ・加持「………………」
加持「前言撤回……シンジさんも「男」だね…」
シンジ「ち、ちがっ!違わないけど……これは…!」
加持「分かってます分かってます、同じ男なんだから。苦労しますよね」
シンジ「もう…!大人をからかって…!」
ミサト「風呂がこんなに気持ちいいものだなんて、知らなかった…」
ミサト(………空が、綺麗…)
ミサト「………風呂は命の洗濯ね…」
シンジ「加持くん、はさ…」
加持「ん?」
シンジ「聞かないんだね。この傷のこと…」
加持「あぁ…まぁ、お互い様ですよ」
加持「話して楽になる類いのことじゃない…目に見える傷も、見えない傷も」
シンジ「そっか……」
加持「……」
拾話分終わり
レイ「これじゃあ毎回のクリーニング代も、バカにならないわね」
ヒカリ「せめて自分でお洗濯できる時間くらい、ほしいわよね」
トウジ「重とーてかなわんわ」
ヒカリ「それは溜め込むのが悪いんでしょ」
トウジ「なんやとぅ!?」
レイ「あら、副司令」
レイ・ヒカリ「おはようございます」
トウジ「おはよーさん」
ヒカリ「コラ!敬語!!」
トウジ「うるさいのぉ、またお小言かいな」
ヒカリ「そうやってすぐ崩すから!戦闘中にも出ちゃうんでしょ!」
カヲル「ふふ…おはよう。相変わらず賑やかだね」
カヲル「葛城司令の代わりに上の町だよ」
レイ「ああ…今日は評議会の」
カヲル「定例だよ……つまらない仕事さ。昔から雑務はみんな僕に押し付けるんだ、断らなかった僕も悪いんだが。ふふっ…MAGIがいなかったらお手上げだったよ」
レイ「そう言えば、市議選が近いですよね。上は」
カヲル「あれは形骸に過ぎない…ここの市政は事実上MAGIのものだよ」
ヒカリ「あの3台のスーパーコンピューターが…」
カヲル「3系統のコンピュータによる多数決だからね…民主主義の基本に乗っ取ったシステムではある」
ヒカリ「じゃあ、議会はその決定に従うだけですか?」
カヲル「最も無駄の少ない、効率的な政治だよ」
トウジ「いけすかんのぉ、機械に踊らされとんのと違うか?」
ヒカリ「また!そういうこと言って!!」
カヲル「……そう言えば、零号機の実験だったかな、そっちは」
レイ「ええ、本日1030より第2次稼動延長試験の予定です」
カヲル「朗報を期待してるよ…それと」
カヲル「シンジくんにもよろしく…」
レイ・ヒカリ・トウジ(……)
ヒカリ「回路切り替え」
オペレータ「電源、回復します」
レイ「問題は…ここね」
ヒカリ「はい、変換効率が理論値より0.008も低いのが気になります」
オペレータ「ぎりぎりの計測誤差の範囲内ですが、どうしますか?」
レイ「もう一度同じ設定で、相互変換を0.01だけ下げてやってみましょう」
ヒカリ「了解」
レイ「では、再起動実験、始めるわ」
シンジ「えっ?うわっ、わ、あっ」
アスカ「うらっ」ガッッ
アスカ「……サイッテー。あんた今「閉」押したでしょ」
シンジ「ご…ごめん…間違っちゃって…」
アスカ「はぁーあ、ショボくれてんわねぇ相変わらず」
オペレータ「はい、しばらくお待ちください」
葛城「なんだ?」
ミサト「あ、あの…お父さん…?」
葛城「そうだ」
ミサト「あっあの…今日、学校で進路相談の面接があることを父兄に報告しとけって、言われて…」
葛城「……そういう事はすべて碇君に一任してある。用件はそれだけか?」
ミサト「いや、えっと…」ブツッ
ミサト「あら?」
アスカ「停電…?」
シンジ「そんな。ありえないよ」
シンジ「…変だな。何か事故かな…」
アスカ「あの研究バカがやらかしたんじゃないの?」
ヒカリ「主電源ストップ、電圧、ゼロです」
オペレータ達「……」
レイ「……私じゃないわ」
シンジ「綾波が?」
アスカ「でもまぁ、すぐに予備電源に切り替わるでしょ」
カヲル「……そんなはずはない。生き残っている回線は?」
職員「全部で1.2%、2567番からの9回線だけです!」
カヲル「生き残っている回線はすべてMAGIとセントラルドグマの維持へ廻して。最優先だ」
オペレータ「全館の生命維持に支障が生じますが…」
カヲル「背に腹は代えられない…」
加持「単に忙しかっただけじゃないのか?」
ミサト「いや…そういう感じじゃなくて…こう、ブツッと……」
加持「ま、考えてもしょうがない。本人に直接聞くのが早いさ……ん?」
リツコ「?」
ミサト「どうしたの?」
加持「いや、カードキーが……故障か?」
ミサト「そんな」シャッ
ミサト「ほんとだ……」
ミサト「またIDが変わったのかしら」
加持「いや…それにしてもおかしい。エラー音もならないなんて」
シンジ「…ただ事じゃない」
アスカ「ここの電源は?」
シンジ「正・副・予備の3系統。それが同時に落ちるなんて、考えられないよ」
アスカ「ってことは…」
葛城「ブレーカーは落ちたと言うより落とされた、と見るべきだ」
カヲル「原因はどうであれ、こんな時に使徒が現れたら一巻の終わりだよ」
戦自司令官「おそらく、8番目の奴だ」
司令官「ああ、使徒だろう」
戦自「どうします」
司令官「一応、警報シフトにしておけ。決まりだからな」
司令官「どうせまた奴の目的地は、第3新東京市だ」
司令官「そうだな。俺達がすることは何も無いさ」
戦自「使徒、上陸しました!」
戦自「依然、進行中」
司令官「第3進東京市は?」
戦自「沈黙を守っています」
司令官「一体ネルフの連中は、何をやってるんだ!」
ヒカリ「まさかこの時代にタラップを使うことになるなんて…」
加持「…駄目だ、ここも動かない」
リツコ「どの施設も動かない…異常ね」
ミサト「下で何かあったってこと!?」
リツコ「恐らくは」
加持「とにかく、ネルフ本部へ連絡してみよう」
トウジ「77号線も繋がらん…!」
リツコ「駄目ね、繋がらない」
加持「こっちもだ、有線の非常回線もイカれちまってる」
ミサト「どうしよう…」
リツコ「……」ゴソ…
加持「おっ、その手があったか」
ミサト「何?」
加持「緊急時のマニュアルだよ」
リツコ「…とにかく本部へ行きましょう」
加持「だな」
リツコ「こっちの第7ルートから下に入れるわ」
ミサト「…手動、ドア…?」
加持「俺の出番かな?」
司令官「政府は何と言ってる?」
司令官「フン、第2東京の連中か?逃げ支度だそうだ」
戦自「使徒は依然健在、進行中」
司令官「とにかく、ネルフの連中と連絡を取るんだ」
司令官「しかし、どうやって?」
司令官「直接行くんだよ」
セスナ「こちらは第3管区航空自衛隊です。ただいま正体不明の物体が本書に対し移動中です。住民の皆様は速やかに指定のシェルターに避難してください」
ケンスケ「ヤバイな…!急いで本部に知らせなきゃ!でもどうやって…」
選挙カー「こういった非常時にも動じない、高橋、高橋覗をよろしくお願いいたします!」
ケンスケ「ナ~イスタイミング!」
シンジ「たぶん…残った回線を全部MAGIとセントラルドグマに使ってるんだ…」
アスカ「~~~~あ~ッもうっ!」バサッ
シンジ「うわ!?あ、アスカ!!何してんだよ!??」
アスカ「仕方ないでしょう!?暑いんだからぁ!」
シンジ「な…っ、な…」
アスカ「誰が見ていいって言ったのよ!変態!あっち向いてなさいよ!」
シンジ「ぬっ脱ぐ前に言ってよ…!」
アスカ「はぁーっ。こういう状況下だからって、変なこと考えないでよ?」パタパタ
シンジ「考えないよっ!もう…!」
ヒカリ「でも、さすがは司令と副司令、この暑さにも動じないわね」
カヲル「……ぬるいね」
葛城「ああ…」
ウグイス嬢「当管区内における非常事態宣言に伴い緊急車両が通ります…って、あの、行き止まりですよぉ!」
ケンスケ「止まるな止まるなぁっ!今は非常時!すべて私が許可するッ!」ビシッ
運転手「リョーカイッ!」
ウグイス嬢「いやぁ、もう止めてぇ!」
レイ「…誰かが故意にやったと言うことですね」
葛城「おそらく目的はここの調査だ」
レイ「復旧ルートから本部の構造を推測するわけですか」
カヲル「連中、小癪なマネをしてくれるよ」
レイ「MAGIにダミープログラムを走らせます。全体の把握は困難になると思いますから」
葛城「頼む」
レイ「はい」
カヲル「…本部初の被害が、使徒によるものではなく同じ人間からのものになるとはね…」
葛城「……同じ人間などいない。だがこのやり方は不当だ」
ミサト「右じゃないの?」
リツコ「…左」
加持「じゃ、左だな」
ミサト「ちょっと!なんでよっ」
加持「さっきから二回も行き止まりを選んでるだろ?」
ミサト「う~…」
加持「ははっ、明るくったって葛城にとっちゃここは迷路だからなァ。この前だって…」
ミサト「ア~ッ!リツコには言わないでよっ!」
リツコ「シッ」
ミサト「えっ?」
リツコ「人の声がするわ…」
ミサト「?」
ミサト・加持「相田さんだ!」
ケンスケ「使徒、接近中、繰り返す、現在、使徒、接近中!」
ミサト・加持「使徒接近!?」
リツコ「時間が惜しいわ。近道しましょう」
加持「分かるのか?」
リツコ「確信があるわけじゃないけど…だいたいの構造は頭に入ってるから」
加持「頼もしいな」
リツコ「あなたたちより少し長くここにいるだけよ」
アスカ「なによ」
シンジ「…使徒って何なのかな…」
アスカ「…!」
アスカ「はぁ!?なに言ってんのよ、こんな時に」
シンジ「いいだろ別に……どうせ何もできないんだから…」
シンジ「使徒。神の使い。天使の名を持つ僕らの敵…」
シンジ「でも遺伝子上ではたった2%の違いしかないんだ。…栄えるはずだったもうひとつの人類…」
アスカ「……あんたバカぁ?訳わかんない連中が攻めてきてんのよ、降りかかる火の粉は払い除けるのがあったりまえでしょ!?あんたそのもうひとつの人類とやらに立場を譲って、人間が滅びてもいいっての!?」
シンジ「……そうじゃ、ないけど…」
アスカ「あぁ、もう!あんたのそういうウジウジしたとこ、いい加減直んないわけェ!?」
シンジ「ウジウジって……アスカだってその沸点低いのどうにかしたら?ただでさえ暑いんだから…」
アスカ「あ~ッもう我慢ならないわっ!」
シンジ「うわっごめん言い過ぎたよ!」
アスカ「シンジっ!肩貸しなさい!」
シンジ「えっ」
アスカ「漏れそうなのよッ」
ヒカリ「…大変!」
葛城「渚、後を頼む」
カヲル「どこへ?」
葛城「…ケイジでエヴァの発進準備を進めておく」
カヲル「手動でかい?司令直々に?」
葛城「緊急用のディーゼルがある」
カヲル「ふふ…分かったよ。ここは任せて」
リツコ「右よ」
ミサト「それにしてもスッゴいわね…私もう帰り道分かんないわよ」
加持「大丈夫さ…帰りはちゃんとした道を通って行ける」
ミサト「リツコっていつからここにいるの?」
リツコ「覚えてないわ。ただこの下の道は実験でよく通るから…」
ミサト「実験って…零号機だけでやるあの実験よね?…プロトタイプにしかできないことなの?」
リツコ「……ごめんなさい。答えられないわ」
ミサト「……」
加持「赤木を問い詰めたって仕方ないだろう?ここはネルフなんだ。情報漏洩は命取りになる」
ミサト「…そうね。ごめんリツコ、つまんないこと聞いたわ」
リツコ「…………」
作業員「了解、停止信号プラグ、排出終了」
葛城「よし、3機ともエントリープラグ挿入準備」
作業員「しかし、いまだにパイロットが」
レイ「大丈夫。きっと来るわ…あの子達なら」
加持「ここは……手じゃ無理だな」
リツコ「仕方ないわ。ダクトを破壊してそこから進みましょう」
ミサト「…リツコって普段は大人しいのに、使徒が絡んでくると大胆よね」
リツコ「命に関わるもの」
加持「はは…そりゃそうだ」
作業員・葛城「いよーいしょ、よーいしょ、よーいしょ、よーいしょ!」
ヒカリ「プラグ、固定準備完了」
レイ「…後はあの子達ね」
加持「じゃあいくぞっ」
ガンッ ガンッ
レイ「……?」
ガンッ
加持「おわっ」ドスンッ
ミサト「だっ大丈夫?加持くん…あっ」
リツコ「……」
レイ「あなたたち!」
作業員「了解、手動でハッチ開け」
ミサト「エバーは…?」
レイ「スタンバイできてるわ」
ミサト「何も動かないのに、どうやって…」
レイ「人の手でね。あなたのお父さんのアイディアよ」
ミサト「父の…」
作業員・葛城「ふぬーっ、ふぬーっ、ふぬーっ…」
レイ「葛城司令は、あなたたちが来ることを信じて、準備してたのよ」
レイ「全機、補助電源にて起動完了」
葛城「第一ロックボルト、外せ」
作業員「2番から32番までの油圧ロックを解除」
ヒカリ「圧力ゼロ、状況フリー」
葛城「構わん。各機実力で拘束具を除去、出撃しろ!」
ケンスケ「目標は直上にて停止の模様!繰り返す!」
レイ「作業、急いで!」
オペレータ「非常用バッテリー搭載完了!」
レイ「行ける…!」
レイ「発進!」
リツコ「縦穴に出るわ」
加持「お次は山登りか……」
加持「!」
リツコ「いけない、よけて!」
加持「おわっ」
ミサト「きゃあっ」
リツコ「……目標は、強力な溶解液で本部に直接侵入を図るつもりのようね」
ミサト「どうすんのよ…!?」
加持「やるしか、ないだろうな」
ミサト「やるったって…!ライフルは落としちゃったし、背中の電池は切れちゃったから、後3分も動かないし…!」
加持「待て待て、落ち着くんだ…作戦はある」
加持「…ここにとどまる機体がディフェンス。A.T.フィールドを中和しつつ奴の溶解液からオフェンスを守る」
加持「バックアップは下降。落ちたライフルを回収しオフェンスに渡す。そしてオフェンスはライフルの一斉射にて目標を破壊……簡単だろ?」
ミサト「簡単って…守りは誰が」
リツコ「いいわ。ディフェンスは私が」
加持「却下。発案者は俺だ…危険な役は俺がやる」
ミサト「いえ……私がいくわ!弐号機はまだ前回の傷が…!」
加持「そう言うなよ。たまにはいい格好させてくれ」
加持「大丈夫。…うまくやるよ」
ミサト「…………」
加持「葛城がオフェンス、赤木がバックアップ、俺は守りに徹する」
ミサト「…分かった」
リツコ「了解」
加持「それじゃあ、いくぞっ!」
ミサト「リツコっ!」
ミサト「! 加持くん、よけてっ!」
加持「うぐっ、ぅ…!」
加持「……惚れ直しただろ…?」
ミサト「馬鹿……無理しちゃて」
加持「葛城がオフェンス、赤木がバックアップ、俺は守りに徹する」
ミサト「…分かった」
リツコ「了解」
加持「それじゃあ、いくぞっ!」
ミサト「リツコっ!」
ミサト「! 加持くん、よけてっ!」
加持「うぐっ、ぅ…!」
加持「……惚れ直しただろ…?」
ミサト「馬鹿……無理しちゃて」
アスカ「も~ぅ、何で開かないのよ~!非常事態なのよ~!はぁっ、もう、もれちゃう!こら、もう!上見るな、って言ってるでしょ!」
シンジ「あ…アスカ!暴れないでよ、重いんだから…!」
アスカ「ぬわんですって!?」
シンジ「わっ、わ、わあっ!」ガタン
レイ「……」
ヒカリ「…不潔…!」
加持「葛城は星が好きなのか?」
ミサト「んー? 最近は、ちょっちね…」
加持「ロマンチストだな…俺はどうも暗闇が落ち着かない」
ミサト「………」
加持「光があったほうが……」
リツコ「…人は闇を恐れ、火を使い、闇を削って生きてきた」
加持「おっ、なんかの詩かい?」
リツコ「習ったの。綾波博士から…」
リツコ「分からない…」
ミサト「そう…」
加持「……作ればいいさ」
加持「人がこの先、何を使い、どうやって生きていくのか…」
ミサト「…まずは「生」を掴み取らないとね」
加持「その通り」
リツコ「……負けないわ」
加持「ああ。負けないさ、俺たちは」
拾壱話分終わり
シンジ「…母さん…?」
ユイ「……」
シンジ「……」
日向「……シンジさんは…?」
ミサト「うーん、まだ寝てるかも。最近徹夜の仕事が多いみたいで…」
日向「…そっか」ホッ
加持「残念。俺がいるよ」
日向「」
加持「雨宿り、って口実も悪くはないが。アプローチするんならもっと相手に「特別」を意識させないとな?」サワッ
ミサト「ちょっと!ふざけないでよっ」バシッ
加持「あたた…」
青葉「はは…」
日向「……………」
青葉「すいません、雨宿りで」
日向「お邪魔してます」
シンジ「そっか…外雨降ってるのかぁ…」
ミサト「もう出るんですか?」
シンジ「うん。今日はちょっとね…2人とも、今夜はハーモニクスのテストがあるから、遅れないようにね」
ミサト「はい…」
加持「了解」
シンジ「じゃあ、いってきます」
ミサト「いってらっしゃい」
日向「…どうかした?葛城さん」
ミサト「いや…シンジさんの服、いつもと違ったような…」
青葉「ええ?同じだったろ」
ミサト「襟のところの線が、二本になってたような…」
加持「へえ。そりゃすごいな、シンジさん」
青葉「なんだ?なんか違うのか?」
加持「そりゃ、襟章の線が2本になってたんなら、一尉から三佐に昇進したってことだからな」
ミサト「そうなんだ…」
加持「…どうした?まだ何か気になることが?」
ミサト「…シンジさん、全然嬉しそうじゃなかったな、って…」
青葉「…きっと忙しかったんじゃないか?徹夜続きだって話だし」
日向「どうだろうな…あの若さで三佐なら、プレッシャーも大きいだろうし」
加持「ま、ともあれ目出度いことだ。サプライズパーティでも開くか?」
ミサト「……」
レイ「1番にはまだ余裕があるわね……プラグ深度を後0.3下げてみて」
ヒカリ「汚染区域ぎりぎりです」
レイ「それでもこの数値……凄いわね…」
ヒカリ「ハーモニクス、シンクロ率も加持くんに迫ってますね」
レイ「……才能ね…」
オペレータ「まさに、エヴァに乗るために生まれてきたような子供ですね」
シンジ「…………」
レイ「特に…ミサトちゃん」
ミサト「えっ?」
レイ「ハーモニクスが前回より8も伸びてる。とても良い数字よ」
ミサト「いえっ…そんな…まだまだです…!」
加持「そんなことないさ!10日で8だろ。たいしたもんだよ」
レイ「その通りよ。もっと自信を持って」
ミサト「は、はぁ…」
加持「じゃあ俺は「準備」があるから。お先に!」
シンジ「はは…気付いてたの。ありがとう、嬉しいよ」
ミサト「………本当に嬉しい、ですか?」
シンジ「…!…はは…ダメだな。ミサトちゃんには敵わないや」
シンジ「…本当言うとね、複雑だよ…僕自身、何をしたってわけじゃないんだ。ただ流れに身を任せただけ…」
シンジ「目的はある。でもそれも最近は忙殺されて……遠いんだ。…何やってるんだろうって…疑問に思うこともある」
ミサト「…あの、疑問って…?」
シンジ「…(君たちを、エヴァに乗せてること…)」
ミサト「……?」
シンジ「いや…いいんだ。ごめんね、心配かけちゃって」
シンジ「僕がこんなじゃ、失礼だよね。勇気を持って乗ってくれてるミサトちゃんに対して。他のみんな…加持くんや、リツコちゃんにも……」
ミサト「……」(シンジさん…)
シンジ「ありがとう…わぁ、すごい。よくこんなに作れたね」
加持「クラスに凄腕の先生がいてね。ご教授いただいたんだ」
マヤ「す…凄腕ってわけじゃ…」
シンジ「…こ、これは…?」
ミサト「そ、それは…わたしが」
青葉「みっ見た目じゃないよなあ!?料理はなぁ!?」
日向「そ、そうさ!旨いんだから!問題ないよ!」
シンジ「ぱくっ」
ミサト「…!」
シンジ「…ありがとう、ミサトちゃんも。おいしいよ」
ミサト「……いえ!そんな…」カァ
加持「…親睦を深めるってのも作戦のうちさ。それに、祝いの席には華が多い方がいいだろ?」
リツコ「花?」
マヤ「あっ赤木さん!よかったらこのスープ…」
リツコ「…いただくわ」
ミサト「それにしても…アスカさん遅いわね」
シンジ「!? ごほっ、あっ、アスカもくるの!?」
加持「誘ってはみたんですけどね。最近忙しいみたいで、色々と」
シンジ「………」
青葉「顔はいいよ…顔はね」
日向「性格がな…」
シンジ「あはは…」
加持「顔で渡ってこれる世界じゃない。腕は確かさ。でもまぁ……当たりが強いのは、感情の裏返しだろうな」
ミサト「裏返し?」
加持「…好きでも素直になれないってこと。俺はストレートに表現してるけどな?」サワッ
ミサト「ちょっと!やめてったら!」
加持「つれないなぁ」
日向「………」ムカムカ
青葉「…祝いの席だぞ、一応…」
マヤ「加持くんと葛城さんってやっぱり…そうなの?」
ミサト「違うわよぉ!全然!!そんなんじゃないから!!!」
シンジ「あはは」
ミサト「す、すいません…はしゃいじゃって…」
シンジ「謝ることなんてないよ、嬉しいんだ。ミサトちゃんが笑ってくれて」
ミサト「え…」
シンジ「みんなが笑ってくれて。昇進自体に思うところがないわけじゃないけど、こうやってみんなが集まって……なんて言うのかな、僕のために喜んでくれることが、嬉しい…」
ミサト「…わかります」
シンジ「……」
ミサト「…私も、エバには乗りたくないけど……みんなが、応援してくれるから…」
シンジ「…ミサトちゃん…」
ミサト「大切なんです、きっと」
加持「先輩。よく来れましたね?」
アスカ「本部から直。仕事の虫もついでだから連れてきたわよ」
レイ「おじゃまします…」
シンジ「…あ、いらっしゃい…」
アスカ「なーによちったあ嬉しそうにしなさいよー?せっかく進展を手伝ってやろうってのに」
シンジ「そっそんなこと頼んでないだろ!」
レイ「碇くん、この度は昇進、おめでとう」
シンジ「あっ綾波…ありがとう。ごめんね、忙しいのに…」
レイ「いいの…きりのいいところだったから」
アスカ「あたしもすごぉ~く忙しかったんですケド?」
シンジ「アスカは普段サボってるからだろ」
アスカ「ぬゎ~んですってえ!??」
加持「こりゃ一番やっかいなのはシンジさんかもな…」
シンジ「そ、そういうのやめてよ…」
レイ「…でも、司令と副司令がそろって日本を離れるなんて、今までなかったことだわ。それだけ碇くんを信頼してるってこと…」
アスカ「ちょっとレイ!!こいつを調子に乗らすんじゃないわよ!」
ミサト「…お父さん、ここにいないんですか?」
レイ「葛城司令は今、南極に行ってるわ」
カヲル「いや、地獄というべきかな?」
葛城「……我々はまだここに立っている。人類として、生物として生きたまま」
カヲル「科学の勝利といいたいのかい?」
葛城「傲りだよ……だが全滅は免れた」
カヲル「…15年前の悲劇、セカンドインパクト……それを引き起こした人間の罪、か…」
カヲル「だがもう罰は十分に与えられた。目下の死海もそう、人々の心にも…」
葛城「まだだ。人は背負うべき業を負った。…やつらは、浄化された世界を望んでいる」
カヲル「…未だ赦されず、か…。赦されぬと分かったとき、はたして罪人は頭を垂れたままでいるかな…?」
オペレータ「報告します。ネルフ本部より入電。インド洋上、空衛星軌道上に使徒発見」
オペレータ「第6サーチ、衛星軌道上へ」
オペレータ「接触まで後2分」
ケンスケ「目標を映像で捕捉」
職員「おおっ…」
トウジ「なんじゃこりゃあ…」
シンジ「……!」
ケンスケ「目標と、接触します」
オペレータ「サーチスタート」
オペレータ「データ送信、開始します」
オペレータ「受信確認」
シンジ「…A.T.フィールド?」
レイ「……今までにない使い方ね」
ヒカリ「落下のエネルギーをも、利用しています。使徒そのものが爆弾みたいなものです」
レイ「…初弾は太平洋に着弾。2時間後の第2射がそこ。…後は確実に誤差修正してる」
シンジ「学習してるのか…」
トウジ「N2航空爆雷も、効果なしや」
ケンスケ「以後、使徒の消息は不明」
シンジ「…次は、多分…」
レイ「来るわね、ここに」
シンジ「被害予想範囲は?」
レイ「富士五湖が一つになって、太平洋とつながる。本部ごとね」
シンジ「葛城司令との連絡は?」
ケンスケ「使徒の放つ強力なジャミングのため、連絡不能」
シンジ「MAGIの判断は?」
ヒカリ「全会一致で撤退を推奨しています」
シンジ「………」
シンジ「……日本政府各省に通達。ネルフ権限における特別宣言D-17。半径50キロ以内の全市民は直ちに避難。松代にはMAGIのバックアップを要請」
トウジ「ここを放棄するんか?」
シンジ「そうなるかもしれない。でも、その前に……考えがある」
放送「政府による特別宣言D-17が発令されました。市民の皆様は速やかに指定の場所へ避難してください」
放送「第6、第7ブロックを優先に、各区長の指示に従い、速やかに移動願います」
放送「市内における避難はすべて完了」
放送「部内警報Cによる、非戦闘員およびD級勤務者の待避、完了しました」
シンジ「……賭にも、なってるかどうか…」
リツコ「勝算は0.00001%……本当にやるの?」
シンジ「綾波は…反対…?」
レイ「いいえ、従うわ…碇くんがそう言うなら」
シンジ「……」
シンジ「……アスカなら…とめに入ったかな…?」
レイ「……あんたバカ?」
シンジ「…え?」
レイ「彼女ならそう言ったかも。ただ……確率で言うなら…人類には滅ぶ道のほうが多い」
レイ「アスカも…最終的には奇跡に賭けたはず」
シンジ「そっか…」
レイ「あなたを変えたのは……、あの子…?」
シンジ「え…?」
レイ「サードチルドレン…葛城ミサト…」
シンジ「…そうかもしれない。僕は使徒を恨んでた。失ったものを追いかけて…でも今は…違う気がするんだ」
シンジ「…今はもうこの手に「ある」から…だから失いたくない」
レイ「碇くん…」
シンジ「もう誰にも、失ってほしくないんだよ」
ミサト「受け止める!?」
リツコ「……」
シンジ「そう。観測上最大級の使徒がA.T.フィールドを張ってここに落下してくる……。対抗できるのはA.T.フィールドを持つエヴァ三機だけ」
シンジ「ただ…予測される軌道、衝撃、何もかもが未知数なんだ。無理強いはしないよ、やめたければ…」
加持「……これが作戦といえるのか?」
シンジ「えっ」
加持「先輩なら、そう言ったかもな。でも俺はそういうの、嫌いじゃない」
加持「こちとら何千の候補から選ばれた「チルドレン」…」
加持「勝利の女神も、微笑ませてみせるさ」
シンジ「加持くん…」
シンジ「リツコちゃん」
リツコ「ここがなくなると困るもの」
ミサト「わ、私も…!」
ミサト「みんなを…!守りたいから」
シンジ「……ミサトちゃん」
加持「勝利は確定だな。すでに女神が二人ついてる」
ミサト「すぐふざけるんだから…」
リツコ「……」
シンジ「…ふふ」
ミサト「ぜーんぜん」
リツコ「書いてないわ」
加持「だよなぁ…こりゃ、まんま遺書だもんな」
ミサト(なぜだろう……おじさんの家では…出せなかった手紙が…お父さんに対する、怒りが…山ほどあったはずなのに…今は何て書けばいいのか…)トン…トン…
ペンを迷わせるミサト
ミサト「……不思議」
加持「? なにか言ったか?葛城」
ミサト「ううん…加持くん、リツコ」
ミサト「絶対に奇跡を起こしましょう、…この手で」
加持「…おう!」
リツコ「ええ…」
シンジ「正確な位置の測定ができないけど、ロスト直前までのデータから、MAGIが算出した落下予想地点が…これ」
加持「あちらさんの攻撃範囲ってわけか」
ミサト「こんなに広く…これじゃ、エバ三体でも…」
レイ「目標のA.T.フィールドをもってすれば、そのどこに落ちても本部を根こそぎえぐることができる」
シンジ「うん。だからエヴァ全機はこれら三個所の配置についてもらう」
リツコ「この配置の根拠は?」
シンジ「……勘、かな……はは……」
ミサト・加持「……カン?」
リツコ「……」
シンジ「確率の高い場所、というのがないんだ……どの地点にも落下しうる」
加持「……はは。こうも運頼みだと笑えてくるな」
加持「なーに。大丈夫さ、きっとなんとかなる。なんとかなったら……その時は碇三佐殿、奮発して頼みますよ?」
シンジ「ありがとう……約束するよ」
加持「うん?」
ミサト「なに見てるの?」
加持「……3つ星レストランのパンフレット」
ミサト「……加持くんって、図太いわよね。神経が」
加持「胆が据わってるって言ってくれよ…死ぬときのこと考えたってしょうがないだろ?」
ミサト「そりゃそうだけど…」
加持「…生きているんだから、楽しまなきゃな」
ミサト「……加持くんは…どうしてエバーに乗ってるの?」
加持「……自分のためだな。生きている自分のため」
ミサト「そう……」
ミサト「…私は…シンジさんの手料理のほうが…」
加持「……」
ミサト「…あ」
加持「妬けるねえ…」
ミサト「そ! そういうのじゃないわよ!バカ!」
シンジ「みんなも避難して。ここは僕一人でいいから」
ケンスケ「なーに言ってんだよ碇」
トウジ「子供らぁとセンセーだけ残して行けるわけないやろ!」
シンジ「はは…僕は、ダメかもしれないけど、ミサトちゃん達にはA.T.フィールドがあるから…」
トウジ「アホゥ!尚更や!」
ケンスケ「ネルフ期待の作戦部長様を死なすわけにはいかないだろ?あと人類もね」
ヒカリ「私たちもできることはやっておきたいのよ……最後まで」
シンジ「みんな…」
夕暮れの街を見下ろすミサト、シンジ。
ミサト「シンジさん…」
シンジ「…なに?」
ミサト「昨日…シンジさんが言ってた…ネルフにいる目的、って…なんですか」
シンジ「そうか…昨日は話さずじまいだったね」
シンジ「僕の両親はね、研究者だったんだ。僕の身代わりになって死んでしまった…」
シンジ「不器用な人だった…父さんは、いつも言葉が足らなくて。でも…母さんが笑っていたから、憎めなかった」
シンジ「幸せだったよ。…泣いてばかりだった僕を、母さんはよく研究室に連れていってくれた」
シンジ「…愛されている気がした。たぶん気のせいじゃない…。心地よかった。敬愛する両親、その仲間からの称賛が誇らしかった」
シンジ「一夜にしてすべて失った。家族も…生きる希望も」
シンジ「セカンドインパクトの……直後の記憶はあまりない。ただ亡霊のようになってしまった自分と、反芻する母さんの言葉……「生きてさえいれば」と……それだけ」
シンジ「母さんの言葉通り、また希望と出会った。…父さんに似て不器用で、母さんのように聡明な人だった。愛しかった。でも、いつからか…」
シンジ「想像の中の、彼女を愛しているんだと気づいたんだ。目の前の彼女じゃなく…!」
シンジ「僕は誰も愛してなかった。すべて過去の、「あの頃」を準えているにすぎない」
シンジ「そう思えてからは遠ざけた、人も、自分の心も……何が悪いのか分からなくて」
シンジ「…使徒を恨んだ。僕の人生を狂わせた使徒を」
シンジ「使徒を倒さなければ、二度と現実の理想は語れない、って」
シンジ「そう思い込もうとしてたんだ…」
ミサト「…シンジさん…」
シンジ「ミサトちゃん…」
ミサト「……!」
シンジ「僕もきみが大切だよ」
シンジ「加持くんに、リツコちゃん…ここにいるみんな…、過去の何とも重ならない「今」が…!」
シンジ「だからネルフで迎え撃つ、人類の敵…使徒を」
ミサト「………」
ミサト(大切だから…「守る」)
ミサト(逃げるんじゃなく、「迎え撃つ」)
ミサト(「奇跡」を……起こす…!)
トウジ「距離、およそ2万5千!」
シンジ「…エヴァ全機、スタート位置!」
シンジ「目標は光学観測による弾道計算しかできない。MAGIによる距離1万までの誘導ののちは、各自の判断で行動。これが現時点で出せる指示のすべて…」
加持「へへ…腕の見せどころ、ってね」
ケンスケ「使徒接近、距離、およそ2万!」
シンジ「……作戦開始!」
ミサト「行きます!」
加持・リツコ「…」
ミサト「……スタート…っ!」
ミサト「フィールド、全開!」
ミサト「うっ、ぐ、うう…っ」
リツコ「弐号機、フィールド全開!」
加持「まかせろっ!」
ミサト「…今!」
加持「でやあああっっっ!」
使徒撃破
加持「………ははっ……命あったか……」
シンジ「繋いで」
ケンスケ「了解」
シンジ「申し訳ありません。自分の勝手な判断で、初号機を破損してしまいました。責任はすべて自分にあります」
カヲル「……構わないよ。使徒殲滅がエヴァの使命……君たちも無事で良かった。幸運を引き寄せたね」
シンジ「いえ…それは子どもたちが…」
葛城「よくやってくれた、碇三佐」
シンジ「ありがとうございます」
ミサト「は、はい…!」
葛城「…よくやったな、ミサト」
ミサト「えっ………はい…」
葛城「では碇三佐、後の処理は任せる」
シンジ「はい!」
加持「さぁシンジさん、お約束のディナーだ」
シンジ「ふふ、こう見えて貯金はあるんだ。どこのお店にするか決まった?」
加持「それがね……」
加持「葛城たっての希望でね。それにリッちゃんもこのほうが好きなものを選んで食えるし」
リツコ「…おいしい」
シンジ「はは、たくさん食べてよ、まだあるから」
ミサト「……なによ、「リッちゃん」って…」
加持「…砕けた愛称のほうが、氷の美少女に微笑えんでもらえるかと思ってね。妬いたかい?」
葛城「ばーか。…私は見たことあるわよ?リツコの笑顔~」
加持「なんだって?いつ?」
葛城「おしえな~い!ねっ?リツコ」
リツコ「このポテトサラダ…おいしいわ」
シンジ「あはは」
シンジ「なに?」
ミサト「……私のお母さんは…泣いてばかりいたの。お父さんと喧嘩して。…泣くお母さんも泣かせるお父さんも嫌だった…」
シンジ「うん…」
ミサト「でも、今は……お父さんは不器用だったんじゃないか、って。……シンジさんのお父さんと同じように」
ミサト「そう思う……そう、思える…」
シンジ「そう……」
加持「……」
ミサト「なに?」
加持「喧嘩の理由だよ」
ミサト「真面目に話してるのよ?」
加持「こっちだって真面目さ。ポーカーフェイスはモテるからな」
リツコ「……私は見たことあるわ、葛城司令の笑顔」
ミサト・加持・シンジ「えっ…」
拾弐話分終わり
オペレータ「作業確認。450より670は省略」
トウジ「発令所、承認」
レイ「さすが洞木さん、早いわね」
ヒカリ「それはもう。綾波博士直伝ですから」
レイ「…あ、待って、そこ。A8の方が早いわ。ちょっと貸して」
ヒカリ「…さすが、東洋の三賢者の弟子……」
レイ「大体ね。今日のテストには間に合わせるわ」
シンジ「ごめんね…急がせて。同じ物が3つもあって、大変なのに」
レイ「ちゃんと休憩は取ってるわ。ご心配なく」
シンジ「どうだかなぁ……この紅茶、冷めてるじゃないか」
レイ「そうね…いれ直さなきゃ。碇くんも飲む?」
シンジ「綾波は座ってなよ。僕がいれてくるから」
レイ「………」
レイ「ありがとう…」
ヒカリ「第127次、定期検診異常無し」
レイ「了解。お疲れさま。みんな、テスト開始まで休んでちょうだい」
レイ「不思議ね…歳を取っているはずなのに」
レイ「ちっとも変わった気がしない…」
レイ「可笑しいと思うでしょう?……先生」
レイ「ごめんなさいあなたたち。ここから先は超クリーンルームなの。17回ほど垢を落としてもらうことになるわ」
ミサト「じゅ、17回ィ!?」
レイ「時間はただ流れているわけじゃない…エヴァのテクノロジーのためなのよ。新しいデータは常に必要なの…こらえてちょうだいね」
ミサト「……は~い」
ミサト「17回は…やっぱ…」
加持「きついな…」
リツコ「……」
ミサト「ええっ!?このまま!?」
レイ「大丈夫。映像モニターは切ってあるから…プライバシーは保護してるわ」
ミサト「何も着ちゃだめなんですか…?」
レイ「このテストは、プラグスーツの補助無しに、直接肉体からハーモニクスを行うのが趣旨なのよ」
シンジ「ごめんね、ミサトちゃん」
ミサト「しっシンジさん!?そこにいるんですか!???」
レイ「……隠さなくても、映ってないわよ」
レイ「テストスタート」
オペレータ「テストスタートします。オートパイロット、記憶開始」
オペレータ「シミュレーションプラグを挿入」
オペレータ「システムを、模擬体と接続します」
ヒカリ「シミュレーションプラグ、MAGIの制御下に入りました」
シンジ「すごい、早い…!嘘みたいだね。初実験のときは一週間もかかったのに」
オペレータ「テストは約3時間で終わる予定です」
リツコ「…何か違うわ」
ミサト「う~ん、何か変な感じ」
加持「なんというか…右腕だけはっきりして、後はぼやけた感じなんだ」
レイ「リツコちゃん、右手を動かすイメージを描いてみて」
リツコ「はい」
オペレータ「データ収集、順調です」
レイ「問題はないようね…MAGIを通常に戻して」
レイ「ジレンマか…作った人間の性格が伺えるわね」
シンジ「? それって、綾波のってこと?」
レイ「…いいえ…私はシステムアップしただけ。基礎理論と本体を作ったのは、先生なのよ」
シンジ「……赤木、ナオコ博士か…」
ケンスケ「ええ、一応」
ケンスケ「3日前に搬入されたパーツです。ここですね、変質しているのは」
カヲル「第87蛋白壁か…」
ケンスケ「拡大するとシミのようなものがあります。何でしょうね、これ」
トウジ「浸蝕やないか?温度と伝導率が若干変化しとるし。無菌室の劣化はよくあることや」
ケンスケ「工期が60日近く圧縮されてますから。また気泡が混ざっていたんでしょう。杜撰ですよ、B棟の工事は」
カヲル「…あそこは、使徒が現れてからの工事だったか…」
トウジ「無理ないわ、みんな疲れとるからな」
カヲル「…明日までに処理しておいてくれ。司令に知れるとうるさいからね」
トウジ「了解」
ヒカリ「いえ、浸蝕だそうです。この上の蛋白壁」
レイ「…テストに支障は?」
ヒカリ「今のところは何も」
レイ「では続けて。このテストはおいそれと中断するわけにいかないわ」
ヒカリ「了解」
ヒカリ「シンクロ位置、正常」
オペレータ「シミュレーションプラグを模擬体経由でエヴァ本体と接続します」
オペレータ「エヴァ零号機、コンタクト確認」
オペレータ「A.T.フィールド、出力2ヨクトで発生します」
レイ「どうしたの?」
オペレータ「シグマユニットAフロアに汚染警報発令」
オペレータ「第87蛋白壁が劣化、発熱しています」
オペレータ「第6パイプにも異常発生」
ヒカリ「蛋白壁の浸蝕部が増殖しています。爆発的スピードです!」
レイ「実験中止、第6パイプを緊急閉鎖!」
ヒカリ「はい!」
オペレータ「60、38、39、閉鎖されました!」
オペレータ「6の42に浸蝕発生!」
ヒカリ「だめです、浸蝕は壁伝いに進行しています!」
レイ「ポリソーム、用意!」
レイ「レーザー、出力最大!侵入と同時に、発射!」
ヒカリ「浸蝕部、6の58に到達……来ます!」
リツコ「……ああぁっ、う…!」
レイ「リツコちゃん!?」
ヒカリ「赤木リツコの模擬体が、動いています!」
レイ「まさか!」
ヒカリ「浸蝕部、さらに拡大、模擬体の下垂システムを侵しています」
シンジ「リツコちゃんは!?」
ヒカリ「無事です!」
レイ「全プラグを緊急射出!レーザー急いで!」
シンジ「A.T.フィールド!?」
レイ「まさか!」
シンジ「これは…!」
レイ「分析パターン、青。間違いなく……使徒よ」
レイ「申し訳ありません」
カヲル「………セントラルドグマを物理閉鎖、シグマユニットと隔離だ!」
ケンスケ「セントラルドグマを物理閉鎖、シグマユニットと隔離します」
シンジ「ボックスは破棄します!総員待避!」
シンジ「…急いでください!早く!」
アナウンス「シグマユニットをBフロアより隔離します。全隔壁を閉鎖、該当地区は総員待避」
葛城「…警報をとめろ!」
ケンスケ「け、警報を停止します!」
葛城「日本政府と委員会には「探知機のミスによる誤報」と、そう伝えろ」
ケンスケ「は、はい!」
トウジ「汚染区域はさらに下降!プリブノーボックスからシグマユニット全域へと拡大!」
カヲル「場所がまずい…!」
葛城「アダムに近すぎる……。汚染はシグマユニットまでで抑えろ!ジオフロントは犠牲にしても構わない。エヴァは?」
トウジ「第7ケイジにて待機、パイロットを回収次第、発進できます」
葛城「パイロットを待つ必要はない。今すぐ地上へ射出だ」
ケンスケ・トウジ「え?」
葛城「三機すべてだ」
ケンスケ「しかし、エヴァ無しでは、使徒を物理的に殲滅できません!」
葛城「その前にエヴァを汚染されたらすべて終わりだ。急げ!」
ケンスケ・トウジ「はい!」
アスカ「あれが使徒か……これは、仕事どころじゃなくなったわ…」
アスカ「ね、っと!」
オペレータ「セントラルドグマ、完全閉鎖。大深度施設は、侵入物に占拠されました」
カヲル「…さて、エヴァ無しで、使徒に対し、どう攻める?」
ヒカリ「好みがハッキリしてますね」
ケンスケ「無菌状態維持のため、オゾンを噴出しているところは汚染されていません」
シンジ「つまり、酸素に弱い、ってこと?」
レイ「そのようね」
トウジ「オゾン注入、濃度、増加中」
ケンスケ「効いてる効いてる」
カヲル「いけるかい?」
ヒカリ「0Aと0Bは回復しそうです」
ケンスケ「パイプ周り、正常値に戻りました」
トウジ「やっぱり真ん中やな。強いのは」
カヲル「よし、オゾンを増やすんだ」
ケンスケ「あれ?増えてるぞ」
トウジ「あかん…また発熱しだしとる」
ケンスケ「汚染域、また拡大しています!」
ヒカリ「だめです、まるで効果が無くなりました」
トウジ「今度はどんどんオゾンを吸っとる!」
レイ「オゾン止めて!」
レイ「すごい…進化しているんだわ」
ケンスケ「サブコンピューターがハッキングを受けています!侵入者不明!」
トウジ「クソッ!こんな時に!Cモードで対応!」
ケンスケ「防壁を解凍します!疑似エントリー、展開!」
オペレータ「疑似エントリーを回避されました」
ケンスケ「逆探まで18秒!」
オペレータ「防壁を展開!」
オペレータ「防壁を突破されました!」
オペレータ「疑似エントリーをさらに展開します!」
トウジ「…こりゃあ人間技やないな…」
ケンスケ「逆探に成功…この施設内です…B棟の地下……!プリブノーボックスです!」
ヒカリ「光学模様が変化しています」
ケンスケ「光ってるラインは電子回路だ。こりゃあ…コンピューターそのものだ」
トウジ「疑似エントリー展開……失敗、妨害された!」
シンジ「メインケーブルを切断!」
シンジ「レーザーを打ち込んで!」
ヒカリ「A.T.フィールド発生、効果無し!」
ケンスケ「保安部のメインバンクにアクセスしています。パスワードを走査中、12桁、16桁、D-WORDクリア!」
トウジ「保安部のメインバンクに侵入!」
トウジ「メインバンクを読んどる…!解除できん!」
カヲル「何が目的だ…!?」
ケンスケ「メインバスを探っています…このコードは…やばい、MAGIに侵入するつもりです!」
葛城「I/Oシステムをダウンしろ」
ケンスケ「カウント、どうぞ!」
トウジ「3、2、1!」
トウジ「電源が切れん!」
ヒカリ「使徒、さらに侵入、MELCHIORに接触しました!」
ヒカリ「だめです!使徒にのっとられます!」
ヒカリ「MELCHIOR、使徒にリプログラムされました!」
ケンスケ「こっ、今度は、MELCHIORがBALTHASARをハッキングしています!」
トウジ「くそぉ、早い!」
ケンスケ「なんて計算速度だ!」
レイ「…、……!」
レイ「ロジックモードを変更!シンクロコードを15秒単位にして!」
ケンスケ・トウジ・ヒカリ「了解!」
シンジ「! とまった…!」
カヲル「……どのくらい持ちそうだい?」
ケンスケ「今までのスピードから見て、2時間くらいは」
葛城「MAGIが、敵に廻るとはな…」
レイ「……」
レイ「その個体が集まって群を作り、この短時間で知能回路の形成にいたるまで、爆発的な進化を遂げています」
カヲル「進化か…」
レイ「はい。彼らは常に自分自身を変化させ、いかなる状況にも対処するシステムを模索しています」
カヲル「…まさに、生物の生きるためのシステムそのものだね…」
シンジ「…そんな。それじゃあ……もうMAGIは」
レイ「いいえ。MAGIを切り捨てることは、本部の破棄と同義。物理的消去はできない」
カヲル「…では、司令部から正式に要請することになる」
レイ「拒否します。技術部が解決すべき問題です」
シンジ「あ、綾波…!」
レイ「碇くんは黙ってて。……私のミスから始まったことなのよ」
シンジ「綾波……」
葛城「…進化の促進か」
レイ「そうです」
カヲル「なるほど…進化の終着地点は自滅、死、そのもの」
シンジ「…じゃあ、進化をこちらで促進させれば…?」
レイ「使徒が死の効率的な回避を考えれば、MAGIとの共生を選択するかもしれません」
トウジ「できるんか。そんなことが」
レイ「…目標がコンピューターそのものなら、CASPERを使徒に直結、逆ハックを仕掛けて、自滅促進プログラムを送り込むことができます。が…」
ヒカリ「同時に使徒に対しても防壁を開放することにもなります」
葛城「CASPERが早いか、使徒が早いか…勝負というわけか」
レイ「はい」
カヲル「そこまで言い切ったんだ。そのプログラム、間に合うんだろうね?」
レイ「間に合わせます…!」
ヒカリ「な、何これ…」
レイ「…開発者の悪戯書きね…」
ヒカリ「こんなに沢山……MAGIの裏コードが…」
シンジ「すごい…!こんなところがあったなんて」
ヒカリ「わっ…こんなの、見ちゃっていいのかしら…すごい、intのC……!」
ヒカリ「…これなら、意外と早くプログラムできそうね!」
レイ「ええ……ありがとう、先生…確実に間に合うわ」
シンジ「…大学のころを思い出すね…」
レイ「25番のボード」
シンジ「……ごめん、綾波…さっきは、MAGIを…[ピーーー]ようなことを言って」
レイ「……」
レイ「…いいのよ。私こそ、ごめんなさい。当たったりして」
シンジ「ねぇ、MAGIって何なの…?」
レイ「……」
シンジ「……いや、綾波がこんなに物に執着するのは珍しい、から……」
シンジ「言いたくなかったら、いいんだ。その……ごめん」
シンジ「えっ?」
レイ「人格なのよ。……人格移植OSのことは?」
シンジ「えっと……確か、第7世代の有機コンピュータに、個人の人格を移植して思考させる…っていう、エヴァの操縦にも使われている技術だよね…?」
レイ「MAGIがその第1号らしいわ。…先生が開発した技術なのよ」
シンジ「じゃあ、赤木博士の人格を移植したの?」
レイ「そう」
レイ「言ってみれば、これは先生の脳味噌そのものなのよ」
シンジ「……それで、MAGIを…」
レイ「そうね……たぶん、そんなところ」
トウジ「BALTHASARが、乗っ取られた!」
アナウンス「人工知能により、自律自爆が決議されました」
シンジ「始まった…!?」
アナウンス「自爆装置は、三者一致の後、02秒で行われます」
アナウンス「自爆範囲は、ジオイド深度マイナス280、マイナス140、ゼロフロアーです」
アナウンス「特例582発令下のため、人工知能以外によるキャンセルはできません」
ケンスケ「BALTHASAR、さらにCASPERに侵入!」
カヲル「押されている…!」
ケンスケ「なんて速度だ!」
アナウンス「自爆装置作動まで、後、20秒」
カヲル「まずい!」
アナウンス「自爆装置作動まで、後、15秒」
シンジ「…綾波!」
アナウンス「自爆装置作動まで、10秒、」
レイ「大丈夫、一秒近く余裕があるわ」
アナウンス「9秒、8秒、」
シンジ「一秒って…!」
レイ「ゼロやマイナスじゃないのよ」
アナウンス「7秒、6秒、5秒」
レイ「洞木さん!」
ヒカリ「行けます!」
アナウンス「4秒、3秒」
レイ「押して!」
アナウンス「2秒、1秒、0秒」
ケンスケ・トウジ「いよっしゃぁーッ!」
アナウンス「なお、特例582も解除されました。MAGI-SYSTEM、通常モードに戻ります」
アナウンス「R警報解除、R警報解除、総員、第一種警戒態勢に移行してください」
ミサト「…外はどうなってんのかしら?」
リツコ「……」
加持「……裸じゃあどこにも出れないしなぁ…」
レイ「…前は眠らなくても仕事ができたのに。体はしっかり歳を取っているのね…」
シンジ「本当にお疲れさまだったね…。はい、紅茶」
レイ「ありがとう…」
レイ「…碇くんがいれてくれる紅茶、いつも美味しいわ……なにかコツがあるの?」
シンジ「うん?あはは…そんな…コツなんて。でも綾波が喜んでくれるなら、良かった」
レイ「……」
レイ「……先生が言ってたの、MAGIは三人の自分なんだって…」
レイ「科学者としての自分、母としての自分、そして女としての自分なんだ、って。その3人がせめぎあってるのが、MAGIなのよ」
レイ「人の持つジレンマをわざと残して…」
シンジ「……そう」
レイ「…とても情熱的な人だったの。「恋はロジックじゃない」って…口癖みたいに言ってた…」
レイ「研究で忙しいはずなのに、いつも男の人を連れ込んで……でも誰とも本気じゃなかったみたい」
レイ「本当に好きな人はもういないんだ、って言ってたわ…」
シンジ「なんだか…寂しい話だね…」
レイ「そうね…その点私は恵まれてる」
シンジ「えっ?」
レイ「ふふ…いいの。こっちの話…」
レイ「CASPERには、女としてのパターンがインプットされていたの…最後まで女でいることを守ったのね。ほんと、先生らしいわ…」
拾参話分終わり
委員「いかんな、これは」
委員「早すぎる」
委員「左様。使徒がネルフ本部に侵入するとは、予定外だよ」
委員「ましてセントラルドグマへの侵入を許すとはな」
委員「もし接触が起これば、すべての計画が水泡と化したところだ」
葛城「委員会への報告は誤報、使徒侵入の事実はありません」
委員「では葛城、第11使徒侵入の事実はない…と言うのだな」
葛城「はい」
委員「気をつけてしゃべりたまえ、葛城君。この席での偽証は死に値するぞ」
葛城「……MAGIのレコーダーを調べてくださっても結構です。その事実は記録されておりません」
委員「笑わせるな。事実の隠蔽は、君の十八番ではないか!」
葛城「タイムスケジュールは、死海文書の記述通りに進んでいます」
キール「まあいい。今回の君の罪と責任は言及しない。…だが、君が新たなシナリオを作る必要はない」
葛城「分かっています…。すべてはゼーレのシナリオ通りに」
リツコ「私にあるものは命、心。その入れ物…」
(ミサト「リツコ!」)
(加持「リッちゃん」)
(レイ「リツコちゃん」)
(?「リッちゃん……」)
リツコ「……これは誰? これは私。私は誰?私は何、私は……」
リツコ「私は自分。この物体が自分。自分を作っている形。目に見える私…」
リツコ「でも、私が私でなくなる感覚…違和感。体が融けていく感じ。私が分からなくなる」
リツコ「私の形が消えていく。私でない人を感じる。誰かいるの?この先に。…葛城司令?それとも別の誰か……」
リツコ「ミサト。加持くん。綾波博士。碇三佐。みんな。クラスメイト。葛城司令」
リツコ「あなた誰」
リツコ「あなた誰、」
リツコ「あなた誰……」
リツコ「……、」
リツコ「…ミサトの匂いがします」
レイ「シンクロ率は、やはり下がるわね…零号機のときと比べると」
ヒカリ「それでも凄いですよ。起動には十分な数値です」
レイ「そうね…助かるわ」
ヒカリ「誤差、プラスマイナス0.03。ハーモニクスは正常です」
レイ「赤木リツコと初号機の互換性に問題点は検出されず」
レイ「では、テスト終了。リツコちゃん、あがっていいわよ」
リツコ「はい」
オペレータ「ハーモニクス、すべて正常値」
ケンスケ「パイロット、異常無し」
加持「良好良好、っと」
オペレータ「エントリープラグ挿入完了」
レイ「零号機のパーソナルデータは?」
ヒカリ「書き換えはすでに終了しています。現在、再確認中」
レイ「被験者は?」
トウジ「若干緊張しとるが、神経パターンに問題はない」
加持「うちのお姫様は繊細だな」
レイ「あら。弐号機以外には乗りたがらない、乗せたがらない繊細な子は誰だったかしら」
加持「それを言われると痛いなぁ」
シンジ「はは…いいじゃないか、加持くんと弐号機の調子、最近いいみたいだし」
加持「さすがシンジさん。分かってるね」
レイ「あまり甘やかしては駄目よ、互換性の問題もあるんだから…」
シンジ「互換性か…ミサトちゃん、大丈夫かな…」
加持「大丈夫さ。俺の弐号機だって動かしたんだ」
シンジ「でもあの時は、加持くんもいたし…」
加持「乗ってる身としては、葛城の意思を強く感じたがね…」
シンジ「……」
オペレータ「L.C.L.電荷」
ヒカリ「第一次接続開始」
レイ「どう、ミサトちゃん。零号機のエントリープラグは?」
ミサト「なんだか…変な感じです」
ヒカリ「違和感があるのかしら?」
ミサト「いえ、ただ、リツコの匂いがする…」
加持「それは……興味深いな」
ヒカリ「データ受信、再確認。パターングリーン」
オペレータ「主電源、接続完了」
オペレータ「各拘束具、問題なし」
レイ「了解。では、相互間テスト、セカンドステージへ移行」
ヒカリ「零号機、第2次コンタクトに入ります」
レイ「やはり初号機ほどのシンクロ率は、出ないわね」
ヒカリ「ハーモニクス、すべて正常位置」
レイ「でもいい数値だわ、十分ね」
レイ「これであの計画が遂行できる…」
ヒカリ「…ダミーシステムですか?綾波さんの前だけど、私は、あんまり…」
レイ「……納得は、私もしてないわ…」
レイ「それでも必要なのよ。戦うための、……」
ヒカリ「……綾波さん…?」
レイ「…いいえ、続けましょう…」
ヒカリ(……)
トウジ「セルフ心理グラフ、安定しています」
レイ「A10神経接続開始」
ヒカリ「ハーモニクスレベル、プラス20」
ミサト「!?…何これ、頭に入ってくる…直接…何か…」
ミサト「リツコなの…? 赤木リツコ? この感じ……違うの…?」
オペレータ「パイロットの神経パルスに異常発生」
オペレータ「パルス逆流」
マヤ「精神汚染が始まっています!」
レイ「まさか!このプラグ深度ではありえないわ!」
ヒカリ「プラグではありません、エヴァからの侵蝕です!」
ヒカリ「零号機、制御不能!」
レイ「全回路遮断、電源カット!」
ヒカリ「エヴァ、予備電源に切り替わりました」
オペレータ「依然稼働中」
トウジ「回路断線、モニター不能!」
レイ「これは、拒絶…? 零号機が…!」
ヒカリ「だめです、オートエジェクション、作動しません!」
レイ「…まさか! ミサトちゃんを取り込むつもり?」
コントロールルームに手を伸ばす零号機。
シンジ「リツコちゃん、下がって!」
レイ(……!)
リツコ「……、…」
ヒカリ「零号機、」
シンジ「リツコちゃんっ!!」
ヒカリ「活動停止まで、後10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0!」
ヒカリ「零号機、活動を停止しました」
シンジ「パイロットの救出を! 急いで!」
シンジ「まさか、僕らを殺そうとした…? 零号機が…?」
レイ「…今はまだ何も言えないわ。ただ、データを赤木リツコに戻して、早急に零号機との追試、シンクロテストが必要ね」
シンジ「……」
シンジ「もし零号機が……僕らの手に余るようなら、その時は考えなきゃならない。…よろしく頼むよ」
レイ「分かっているわ。碇三佐」
レイ(零号機が殴りたかったのは…私ね)
レイ(当然だわ。……これじゃ約束と違うもの)
ラジオ(TV)「それでは、次の万国びっくりさんは、何と、算数のできるワンちゃんの登場です!」
ラジオ(TV)「おお、それはすごい!」
ラジオ(TV)「ワン!」
ミサト「……またこの天井…」
トウジ「葛城ミサトの意識が戻った。汚染の後遺症はなし。何も覚えてないそうや」
シンジ「そう……」
ラジオ(TV)「はーい、私は元気にやってんだけど、世間では南沙諸島をめぐってのテロが…」
加持「パイロットの代用テストに…零号機の暴走か」
加持「こりゃ一波乱くるかな」
葛城「切り札はすべてこちらが擁している。彼らにできることはない」
カヲル「だからといってじらすこともないだろう……今、ゼーレが乗り出すと面倒なことになる」
葛城「すべて、われわれのシナリオ通りだ。問題ない」
カヲル「零号機の事故は?少なくとも僕の予想を越える事態ではあったよ」
葛城「支障はない。リツコと零号機の再シンクロは成功している」
カヲル「……アダム計画はどうなんだい?」
ゲンドウ「順調だ。2%も遅れていない」
カヲル「では、ロンギヌスの槍は?」
葛城「予定通りだ。作業はリツコが行っている」
槍を運ぶ零号機。
リツコ「……」
拾四話分終わり
シンジ「君が、葛城ミサトちゃんだね」【後半】