女上司「終電が……行ってしまったでござるな」
男「あー……ダメだったか」
女上司「終電が……行ってしまったでござるな」
男「どうしましょう?」
女上司「まだ間に合う」ガシッ
男「は?」
女上司「この距離なら拙者の足で追いつける!」シュタタタタッ
男「うわあああああ!!!」
男「ひいいいいいっ!(速すぎィ!)」
女上司「とああっ!」バッ
シュタッ
女上司「ふぅ、飛び乗れた」
男「だけどこれって無賃乗車なんじゃ……」
女上司「なぁに、後払いすれば大丈夫」
男(そうかなぁ……)
男(この人は……忍者)
男(どこぞの忍者の里から、今の会社に就職したくノ一なのだ)
男(ちなみに階級は上忍らしい)
男(しかも上司で忍者だから、二重の意味で“上忍”である)
…………
……
女上司「……」クルクルッ
女上司「……」ギュッ
女上司「この書類を総務まで届けてくれぬか」
男「分かりました」
男(わざわざ巻き物にせんでも……)
OL「キャーッ、ゴキブリーッ!」
男「よーし、俺が退治して……」
カッ!
OL「きゃあああっ!」
男「うわあっ!」
女上司「拙者の手裏剣ならばこの通り」
女上司「後処理は頼んだでござる」シュタタタッ
男(汁出てるし、手裏剣引っこ抜くの大変だし、普通に叩いた方がよかったよ……)
女上司「このプロジェクトが成功すれば、会社の利益に大いに貢献できる」
女上司「各自、どんどん案を出すでござる」
ワイワイ…
係長「やはり、骨子としては……」
同僚「ここはこうすべきではないかと……」
男「俺の考えとしては……」
ワイワイ…
男「なんで課長は天井に張りついてるんですか?」
女上司「ここの方が落ちつくのでな」
男「いいですけど、落ちてこないようにして下さいね」
女上司「拙者、寝ていてもそのようなことはない」カサカサ…
男(まるでゴキブリだよ)
取引先「出来ないじゃないんだよ!」
取引先「顧客が要望してる以上、どんな手を使ってもやるっていうのが企業ってモンでしょうが!」
男(この人は……いつもいつも無茶ばかりいいやがって……)
女上司「こらえるでござる」ボソッ…
男(課長!)
女上司「サラリーマンたる者、忍者と同じく耐え忍ぶことが必要なのでござる」
男「そうかもしれませんけど……」
男「だけど、どうします? あの人の要望通りやるのはかなり厳しいですよ」
女上司「……」
女上司「まったく……偉そうにしおって……」
男「え」
女上司「“どんな手を使っても”といったな? こうなれば奴の弱みを握って逆襲でござる!」
男(全然耐え忍べてねえ!)
女上司「ここであやつが出てくるのを見張るでござる」
男「なんで俺まで……」
女上司「む、出てきた」
取引先「……」スタスタ
女上司「気配を消してついていくぞ」シャシャシャッ
男「こうでいいんですか?」サササッ
女上司「なかなかいい。やるでござるな」
男(俺、忍者の素質あるのかも)
取引先「君、なかなか可愛いねえ……今晩遊ばない?」
女上司「む……たしか奥さんがいるのに女遊びとはけしからん」
男「これはなかなかいい弱みになりそうですね!」
女上司「慌てるな。忍者として言い逃れのできない証拠を掴むでござる」
男「忍者というかフライデーの記者になった気分ですよ」
取引先「はぁ~い」
グラサン「おうおう、俺の女になにしてんだてめえ!?」ガシッ
取引先「えっ!」
美女「この人に襲われそうになったの……」
取引先「へ!? 君、なにをいって……」
グラサン「人の女に手ぇ出しやがって……とりあえず財布出しなァ!」
取引先「ひ、ひいいっ……!」
男「あちゃ~、あの女は美人局だったんだ!」
女上司「このまま放っておくのも一興……とはいえ、そうもいってられんか」
取引先「君は……!」
グラサン「なんだてめえ!?」
女上司「女を用いて金品をせびるなど男の恥……すぐやめるでござる」
グラサン「なんだ、その喋り方は……うぜぇんだよ!」ブウンッ
バキッ!
グラサン「へっ、ざまあねえや!」
グラサン「あれ……丸太!?」
女上司「忍法変わり身!」
グラサン「刀!?」
シュバッ!
グラサン「……」ピシ…
グラサン「俺のサングラスが……!」ポロッ
男「意外とつぶらな瞳!」
グラサン「わわっ……助けてぇ!」タッタッタ…
美女「待ってぇ~!」タッタッタ…
女上司「では御免」シュババッ
男「じゃあ、俺も失礼します……」タタタッ
取引先「……」
男「弱みを握るどころか、助けちゃいましたね」
女上司「ああいう悪党をのさばらせておくわけにもいかぬしな。仕方ないでござる」
女上司「先日のご要望なのですが、やはり弊社では難しく……」
取引先「あの……」
女上司「はい?」
取引先「先日はありがとうございました。あなたがあれほど強いとは」
女上司「いやぁ、それほどでも」
取引先「今まで無理ばかりいって申し訳なかった。これからはお互い手を取り合っていきましょう」
女上司「よろしくでござる」
男(助けてよかったのかもしれないな)
女上司「プロジェクトの進捗はどうだ?」
男「バッチリです!」
男「ただ、ウチの会社は未だに紙で管理してる部分も多いですからね。盗難に気をつけないと」
女上司「うむ、プロジェクトの概要を盗まれて、他の企業に先を越されたら一大事」
女上司「生き馬の目を抜くビジネス社会では、“企画を盗まれた”と叫んでも通用せぬ」
男「何事もなければいいんですけど……」
スパイB「今社内に残ってるのは?」
スパイA「男一人と女一人だ」
スパイB「よし、今ならこの会社で進めているプロジェクトの書類を盗むことができるな」
スパイA「ああ、今盗み取ってしまえば十分後追いも可能だ」
スパイA「では二手に分かれよう」バッ
スパイB「おう」バッ
スパイA「ここか……?」
スパイA「この金庫はくさいぞ……」
グサッ
スパイA「いでえっ! ま、まきびし……!?」
女上司「かかったな、産業スパイ!」
スパイA「な……バレてたのか!」
女上司「ちなみにその金庫は空っぽだ……間抜けめ」
女上司「ナイフまで持ってるとは、物騒なスパイでござるな」
スパイA「喰らえッ!」シュッ
女上司「だが――」
バキッ!
スパイA「ぐええっ……!」ドサッ
女上司「拙者の里では、おぬしなど下忍にもなれぬ」
うわぁぁぁ……!
女上司「この声は! しまった、もう一人いたか!」
スパイB「さあ、プロジェクトの機密書類をよこせ!」
男「嫌だ!」
スパイB「だったら手荒になるぞ!」
バキッ! ガッ!
男「う、うぐっ……」
スパイB「手応えのない……気絶させてから奪ってやる!」
男「だあああっ!」ダッ
スパイB「うわっ!?」
ドガッ!
スパイB「ぐはっ!」
スパイB「うぐぅ……」ガクッ
男「や、やった……」
女上司「大丈夫か!?」シュザッ
男「ええ……なんとか……守り切りました……」
スパイA「むぐぐ……」
スパイB「うぐぐ……」
女上司「里に伝わる塗り薬だ……よく効くぞ」ヌリヌリ
男「どうも……」
女上司「よくやったぞ……見直したでござる」ニコッ
男「……」ドキッ
男「あ、ありがとうございます!」
女上司「終電が……行ってしまったでござるな」
男「どうしましょう?」
女上司「電車は見えない……さすがにもう走っても間に合わぬし……」
女上司「仕方ない、拙者の家に泊まりに来い」
男「いいんですか?」
女上司「ああ、ゆくぞ!」ガシッ
シュタタタタッ
男「うわああああっ!」
男「へぇ~、やっぱり純和風ですね!」
女上司「何もないが、どうぞでござる」
男「お邪魔します」
男「おおっ、中は結構広いですね」ペタ…
女上司「あっ、壁に触ったら危ない!」
男「え?」ガタンッ
シャーッ!
男「うおおおっ! 滑り台!」
ズボッ!
男「今度は落とし穴!」
ガタンッ!
男「またどんでん返し!」
男「ひえええええっ……!!!」
ドンガラガッシャン…
女上司「ほう、拙者の家の罠にかかってこの程度で済んでるとは」
女上司「さすが拙者の部下! 下忍クラスはあるかもしれぬ!」
男「ど、どうも……」
男(全然嬉しくない……)
女上司「明日は休みだし、軽く酒でも飲もうではないか」
男「ぜひ!」
男「どうも」
女上司「故郷の里を出て、会社勤めをして何年になるか……」
女上司「仕事はだいぶ身に付き、今でこそ課長職を任されているが……」
女上司「やはり、今でも文化的な差異を感じる時がある」
男(マイペースに生きてるようで、課長も結構苦労してるんだな)
女上司「このまま、嫁のもらい手もなく年を取っていくのかもしれんな」
男「……」
女上司「え?」
男「だって俺、結婚するなら課長みたいな人がいいなぁ、なーんて」
男「……」チラッ
丸太「……」
男「変わり身の術!?」
男「酔いに任せて告白したつもりだったんだけどなー」
女上司「……」
女上司(突然の発言に驚いてしまった……拙者もまだまだ未熟でござる)ドキドキ
女上司「プロジェクトは大成功だ! みんな、ありがとう!」
係長「苦労したかいがありましたね!」
同僚「やったぜぇ!」
男「よかったぁ……」
女上司「うむ、これでこの課全員の評価が上がることは間違いなかろう」
女上司「さて……おぬしにだけ話しておきたいことがある」
男「なんでしょう?」
男「え……!?」
女上司「おぬしがもっと“できる男”になったら……考えてもよい」
男「本当ですか!?」
女上司「忍者に二言はない」
男「なります……絶対なってみせます!」
女上司「うむ、よくぞいってくれた! それでこそ拙者の見込んだ男!」
女上司「これができれば、おぬしは立派な忍者でござる」
男「忍者になる前に変質者になっちゃいますよ!」
― 完 ―
コメント一覧 (5)
-
- 2020年12月06日 00:32
- 俺は割と好きなんだけど…
-
- 2020年12月06日 00:40
- 自分もこの淡々とした感じ好きかもしれない
-
- 2020年12月06日 06:15
- 私はいいと思う
-
- 2020年12月06日 23:25
- 先輩が忍者だった件
スポンサードリンク
デイリーランキング
ウィークリーランキング
マンスリーランキング
アンテナサイト
新着コメント
最新記事
スポンサードリンク
つまらない
おもしろくない
何の感慨もわかない
いや、あまりのつまらなさに怒りが湧いた
そんなSSでした