女「手首に包帯巻いたら……みんな私に優しくしてくれるかも!」
女「おはようございます」
同僚「おはよ――」
同僚「え」
女「……」
同僚(手首に……包帯巻いてる!)
同僚(これってまさか、まさか……リストカット!?)
女(うふふ、さっそく気づいたみたい!)
女「はい?」
同僚「その手首……」
女「手首がどうしました?」
同僚「い、いや……(あんまり触れない方がいいよな)」
同僚「頼みたい仕事があったんだけど……やっぱいいや! うん!」
女「そうですか」
女(やった! 効果テキメン!)
女「すみません……」
課長(手首に……包帯!?)
課長「いや、いいんだよ……このぐらいのミスはよくあることさ」
OL「よかったら、これ食べない?」
女「いいの? ありがとう」
OL「だから元気出してね」
女(みんな優しくしてくれるようになったわ! あとは――)
女「ただいまー」
男「お帰り」
猫「ニャーン」
女「ちょっと遅くなっちゃった。すぐご飯にするから」
男「ああ、お腹減っちゃったよ。お前もだろ、なぁ?」
猫「ニャーン」
女「ごめんねえ。キャットフード出すからね」
男「おいおい、人間の飯を先にしてくれよ」
女(うーむ、特に変わった様子はないなぁ……)
TV『最近、都内で包帯を全身に巻いた“ミイラ男”の目撃情報が相次ぎ……』
男「なんだこりゃ」
女「ホントに変なニュースだね」
猫「ニャオーン」
女「大丈夫、ミイラなんているわけないんだから。これだってどうせイタズラでしょ」
男「じゃあ、今晩も……いいだろ?」
女「もう……」
女(包帯巻いても、この人は変わらないか)
同僚「悪いんだけど、これ急ぎで頼むよ!」
女「はーい」
OL「ごめーん、これ手伝って!」
女「分かったわ」
女(うーん……会社でも包帯の効力が切れてきたな……)
女「あったあった、包帯」
女「今度は両手首に巻いてみよう!」
女(そしたら、きっと彼だって……)
???「……」
「やめろ……」
女「え?」
ミイラ男「……」
女「……きゃあっ!?」
女(全身に包帯を巻いてる……!)
女(こいつ、まさか……ニュースでやってたミイラ男!?)
ミイラ男「包帯巻くのをやめろ……」
女「なんで……?」
ミイラ男「いいからやめろ……後悔することになる……」
女「やめないわよ!」
女「私はこの包帯で、みんなに……彼に大切にしてもらうんだから!」
タタタッ…
ミイラ男「……」
女「ただいまー」
男「お帰り」
猫「ニャーン」
女「私ね、さっき……」
男「どうした?」
女「ううん、なんでもない」
男「そっか。じゃあ早くメシにしてくれよ。腹減っちまった」
女「うん、分かった」
TV『強盗を繰り返していた青少年グループが、警察に保護され……』
女(あーあ、私も保護してもらいたいわ)
同僚「包帯が両手首になってるぞ……」
OL「また自殺未遂したのかも……」
ヒソヒソ…
女(会社では効果テキメン! 包帯を増やしたかいがあったわ!)
―自宅―
男「猫も寝たし、今夜もたっぷり楽しもうぜ」
女「しょうがない人ね……」
女(だけど、この人は変わらないか……)
女(私は諦めない!)
女(もっと! もっと包帯を巻けばきっと……)
女「包帯ください!」
店員「かしこまりました」
店員(こんなに買うの……? よほど怪我する人なんだな……)
ミイラ男「前より包帯を増やしたな……愚か者め」
女「また来たの!? なんなのよもう!」
ミイラ男「包帯巻くのを……やめろ」
女「……!」
女「私はやめないわよ!」タタタッ
ミイラ男「……」
女「うふふ……これだけ巻けばきっと……」
ヒソヒソ…
同僚「彼女、どうしちまったんだ? どんどん包帯を増やしてるぞ」
OL「いくらなんでもおかしいわよ……」
課長「ううむ、単なるファッションならいいのだが……」
同僚「いや、よくないでしょう」
女(両肘や首にも巻いてみたけど、彼には効果なし……)
女(だったら次は――)
ミイラ男「やめろ」
女「出たわね、ミイラ男!」
ミイラ男「包帯巻くのをやめろ」
女「だから、やめないっていってるでしょ!」
女「失礼するわ」スタスタ
ミイラ男「俺みたいになるぞ」
女「え?」
ミイラ男「あまり意味もなく包帯を巻いてると……俺みたいになってしまう」
女「……!?」
ミイラ男「お前がなぜ包帯を巻くか、俺には手に取るように分かる」
ミイラ男「包帯を巻くことで、周囲から心配されたり、チヤホヤされたいんだろう?」
女「なんで……分かるの……」
ミイラ男「なぜなら、俺もお前と同じ道をたどった人間だからだ」
女「……!」
ミイラ男「しかし、目立ちたい、特別扱いされたいという思いは人一倍強かった……」
ミイラ男「だが、なんの取り柄もない俺が、特別扱いされるなど夢のまた夢……」
ミイラ男「もちろん、犯罪に走る度胸もない」
ミイラ男「そんな時、俺は自分の人生で“唯一主役になれた瞬間”を思い出したんだ」
女「いつよ?」
ミイラ男「小学校の頃、腕を骨折した時だ」
ミイラ男「目立たない子供だった俺が、あの数日間だけはクラスの人気者になった」
『すっげえ包帯!』 『大丈夫かよ……』 『痛かった?』
ミイラ男「思い出せば思い出すほど、“もう一度味わいたい”という気持ちが強くなっていく」
ミイラ男「そして……ついに俺は怪我もしてないのに包帯を巻き始めた」
ミイラ男「巻いて巻いて巻きまくった! 映画に出てくるミイラ男のように!」
女「……」ゴクッ
ミイラ男「そうしたら――」
女「え……!?」
ミイラ男「どうだ、本物のミイラみたいだろう? 全身干からびて、醜くて……完全に化け物だ」
女「包帯を巻いただけで……?」
ミイラ男「お前は俺のことをただの包帯マニアとでも思ってただろうが――」
ミイラ男「包帯を巻いたことで、俺は本当にミイラ男になっちまったんだ!」
ミイラ男「世の中にはコスプレしてるうちに、自分こそが本物と思うようになり、体質すら変わる人間もいるという」
ミイラ男「俺にもあの現象が起こっちまったんだろう……」
ミイラ男「俺はもう人じゃない……。街をさまようしかできない哀れな“ミイラ男”なのさ」
女「……」
女「きゃっ!」
ミイラ男「お前の手首の包帯をほどいてやる」シュルルッ
ミイラ男「やっぱりな……」
ミイラ男「お前の手首にもうっすら傷がついてる! リストカットなんかしてないのに!」
ミイラ男「このまま続けたら、お前も俺みたいになるぞ! だからもう包帯巻くのはやめろ!」
女「……」
ミイラ男「?」
女「この傷、元々よ」
ミイラ男「へ?」
女「私は元々リストカットしてたってことよ。薄い傷だから、誰も気づかなかったけどね」
ミイラ男「え……」
女「ああ、それと……あなたもなかなかひどい体だけど、私だって似たようなものよ」ヌギヌギ
ミイラ男「わっ、いきなり脱ぐなよ!」
ミイラ男「なんだこりゃ……!」
ミイラ男「服で隠れてる部分は、傷だらけ・痣だらけじゃないか! なんでこんなことに……」
女「これ、みんな彼氏にやられたの」
ミイラ男「彼氏……!?」
女「いえ……あんな奴、彼氏なんかじゃないわ……。悪魔よ!」
女「私の彼、ひどい男でね……」
女「私の家に住みついて、自分は働きもせず、一日中家に引きこもって、ゲームやネットして……」
女「仕事から帰ってきた私に暴力振るうの。毎晩のように……」
女「私がこれ見よがしに包帯巻いても、なーんにも変わらなかったわ」
ミイラ男「たしかに悪魔みたいな奴だな……」
ミイラ男「だけど、そんなの逃げればいいだけの話じゃないか? 逃げて、警察や行政に相談すれば……」
女「ダメなのよ」
男『今夜も楽しもうなぁ……オラァ!』バシッ!
女『いだいっ!』
男『いいか……もし、部屋に警察やらどこぞの役人が来るような事態になったら……』
男『この猫を殺すからなぁ……絶対殺す! こんな猫、一瞬で首ヘシ折れるからなァ!』
猫『ニャーン…』
女「……ってね」
女「……というわけ。私はあの男から逃げられないのよ」
ミイラ男「一つだけ方法がある」
女「はぁ? 猫ちゃんを見捨てるなら無理よ。あの子は私の大事な――」
ミイラ男「そうじゃない」
ミイラ男「警官や役人を連れていったらアウトなんだろ? だけどミイラならどうだ?」
女「どういうこと……」
ミイラ男「俺が……お前の彼氏を倒してやる」
女「……!」
女「……」ドキドキ
ミイラ男「……」
女「本当に大丈夫?」
ミイラ男「ああ。いつも通り、帰ればいいさ」
女「……うん」
女「ただいまー」
ガチャッ
女「うん……ちょっと人に会ってね」
男「人ぉ?」
女「この人なんだけど……」
ミイラ男「よぉ」ヌウッ
男「わっ!?」
男「なんだこいつ!? てめえ、なに変な奴連れてきてんだよぉ! ふざけんなよぉ!」
男「猫殺してやるぅ!!!」ガシッ
猫「ニャッ!」
女「あっ……やめてぇぇぇぇぇ!!!」
女「もうダメだわ……! 猫ちゃんが……!」
ミイラ男「ああ、もう終わってる」
女「え」
男「……」ボケー…
猫「ニャーン」
女「あれ……? どうしちゃったの……?」
ミイラ男「ミイラの攻撃手段といえば決まってるだろう? “呪い”をかけたのさ」
ミイラ男「俺は憎しみを抱いた相手に呪いをかけることができる」
女「呪い……!」
ミイラ男「さっきのあんたの話を聞いて、こいつにはムカついてたからな。あっさりかけれた」
男「……」フラフラ…
フラフラ… フラフラ…
女「行っちゃった……」
ミイラ男「死にはしないが……フラフラと町をさまよい歩くだけだ。俺みたいにな」
女「今までも、誰かにかけたことがあるの?」
ミイラ男「街で強盗を繰り返してたチンピラどもを……数人な」
女(そういえば、そういうニュースがあったような……)
女「え?」
ミイラ男「俺の包帯であんたの体を包めば――」シュルルルルッ
ギュッ
ミイラ男「ほどく」シュルルッ
女「え……」
ミイラ男「ほら」
女「すごい! 傷が治った!」
猫「ニャーン!」
ミイラ男「どうだ、ミイラだってなかなかやるもんだろ」
女「ありがとう!」
女「ま、待って……」
ミイラ男「ん?」
女「あなたは……私たちを助けてくれたわ。ちょっとぐらいお礼させてよ」
ミイラ男「いいよ、お礼なんて」
猫「ニャーン」
女「ほら、この子もあなたに感謝してるし」
ミイラ男「変わった女だな」
女「あなたと同じ程度にはね」
ミイラ男「そりゃ思うさ。早く人間に戻りた~いってなもんだ」
ミイラ男「だけど、戻る方法なんてあるわけない」
女「そうかなぁ」
ミイラ男「え?」
女「ミイラってようするに干からびた死体でしょ? だったら水飲みまくれば治るんじゃない?」
ミイラ男「……へ」
女「そんなんでって、あなた包帯巻いただけでミイラになったじゃない」
ミイラ男「ド正論!」
ミイラ男「よーし、やってみるか!」
女「はい、水!」
ミイラ男「よしきた!」グビグビ
女「ほら、もっと飲んで飲んで!」
ミイラ男「まるでわんこそばだな……」グビグビ
女「どう?」
ミイラ男「分からん……気持ち悪い」
女「歩くのも辛いほど?」
ミイラ男「ああ……胃袋がチャプチャプしてる。動くのもしんどい」
女「じゃあ、しばらくこの家に留まりなさいよ」
ミイラ男「ああ、そうさせてもらう」
ミイラ男(なんだか、上手く乗せられた気がするなぁ……。いや、飲まされた、か)
―会社―
女「よし、終わった!」
女「それじゃ、お疲れ様でーす!」
同僚「おう、お疲れ」
同僚「彼女……最近すごく元気になったな。包帯巻くのもやめちまったし」
OL「彼氏でも出来たのかな」
課長「それとも、長年抱えてた悩みが解決したのかもしれないねえ」
ミイラ男「飲み会のコールじゃねえんだから」グビグビ
ミイラ男「ぷはっ! おおっ……肌がちょっと瑞々しくなってきたような!」
ミイラ男「人間時代に戻ったような! ……気がする」
女「でしょ!」
女「じゃあ、今夜のご飯はアジのミイラね」
ミイラ男「干物っていえよ」
ミイラ男「あのまま街を徘徊してたら、きっともっと大騒ぎになってた」
女「どういたしまして」
女「“ミイラとりがミイラになる”って言葉があるけど――」
女「あなたはミイラになるかもしれなかった私を助けてくれた……」
女「だから……きっといつか人間に戻れるよ!」
ミイラ男「ハハ……だといいけどな」
猫「ニャーン」
おわり
コメント一覧 (5)
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- 2020年10月08日 01:51
- 知将わお包茎落ちを察し音読を辞めタスクキル
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- 2020年10月08日 07:38
- 👍
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- 2020年10月08日 16:36
- 最近のゴミみたいなスレッドより一億倍マシ
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- 2020年10月09日 17:39
- 腕を折ってギブス吊ってたとき普通に荷物持たされたわ
持って行った先の相手が恐縮してた
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- 2020年10月19日 11:54
- このあとはDV彼氏がミイラ男とすり替わってニュースに出るんだろうな