悪人「クソみたいなビジネス書を出版しまくって日本経済を衰退させてくれるわ!」
- 2020年09月13日 21:00
- SS、神話・民話・不思議な話
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悪人「ぐはぁっ!」
手下A「ボスゥ!」
手下B「しっかりして下さい!」
悪人「ち、ちくしょう……覚えてろーっ!」
タタタッ…
ヒーロー「ふぅ……正義は勝つ!」
女「やったーっ!」
ワァァァァァ……!
悪人「いてて……」
手下A「大丈夫ですか?」
手下B「鼻血出てますよ。ハンカチどうぞ」
悪人「また負けた……」
手下A「仕方ないですよ、ヒーローは強いですもん」
手下B「また別の手を考えて、出直しましょう」
悪人「そうだな……」
会社員B「ふむふむ……」
悪人「それにしても……」
手下A「?」
悪人「今のサラリーマンはよく本を読んでいるな。面白い小説でも出たのか?」
手下A「ああ、あれはビジネス書ですよ」
悪人「ビジネス書?」
手下B「ビジネスマン向けのマニュアルといったところですか」
悪人「ほう……少し興味が沸いた。帰りに本屋に寄ってみるか」
本屋――
悪人「こんなに出てるのか」
悪人「しかし……どれもこれもタイトルは強烈だが、中身は薄っぺらいな」ペラ…
手下A「まあ、そんなもんですよ。ビジネス書なんて」
手下B「通勤途中とかにサクッと読むものですから」
悪人(これなら俺にだって書けそうだ……)
手下A「どうしました?」
悪人「この国を衰退させるいい方法を思いついたぞ」
手下B「いったいどんな……?」
悪人「まず……クソみたいなビジネス書を出版しまくるのだ」
悪人「間違ったことがいっぱい書いてあるようなやつをな」
悪人「それを買った者は当然それを参考にするだろう。するとどうなる?」
悪人「皆が間違ったことをするんだから、当然、ビジネス社会はどんどんおかしな方向に進んでいく」
悪人「やがて経済は衰退していき、日本全体が弱り切る」
悪人「その時こそ……日本を我が手に収めるチャンスというわけだ!」
手下A「なるほど!」
手下B「いい作戦ですね!」
悪人「次の作戦は決まった。アジトに戻り、ビジネス書の内容を考えるぞ!」
手下A「ボス、こういうのはどうでしょう?」
悪人「タイトルは?」
『時間を守るな ~5分後行動で出世する~』
悪人「ほう……」
手下B「タイトル自体はホントにあっても違和感ないな」
手下A「ようするに、“5分前行動”の逆バージョンですね」
手下A「始業時刻の5分後に出社したり、待ち合わせ時間の5分後に来たり、会議には5分遅れたり」
悪人「ただの遅刻常習犯じゃないか」
手下A「そこを、『相手をわざと待たせることで、自分の価値を高めることができる』とか書いて」
手下A「説得力を持たせるわけです」
悪人「ふむ……真に受ける間抜けなビジネスマンは多そうだな」
『名刺は持つな!』
悪人「これまた……一般的なビジネス習慣の逆張りといった感じだな」
手下B「『名刺を持つと、人はそれに頼ってしまい、自分の売り込み方を工夫しなくなる』みたいな理屈で」
手下B「名刺不所持を徹底的に訴えるビジネス書です」
悪人「なかなかそれっぽくてよいではないか」
『一時間睡眠のススメ』
手下A「一時間睡眠!?」
手下B「私は6時間は寝ないとダメですね」
悪人「ショートスリーパーの体験談などをでっちあげて、一時間睡眠の有用性をアピールする」
悪人「これを読んだ者はみな、睡眠不足になること間違いなしだ!」
『取引先に嫌われろ!』
手下A「『好きの反対は無関心』理論で、取引先に嫌われるメリットや方法を紹介するビジネス書です」
悪人「実際には取引先に嫌われたら、そこで関係切られるだけだよな」
手下B「好きから嫌いになることはあっても、嫌いから好きにはなかなかなりませんもんね」
悪人「ラブコメだったらよくあるんだけどな」
『上司にはタメ口でいこう』
悪人「これまた分かりやすいタイトルだな」
手下B「上司へのタメ口を推奨することで、無礼な部下を増やせると思います」
悪人「試しに、ちょっとタメ口してみ?」
手下B「おう、ボス。いつもヒーローに負けてだらしねえな!」
ゴンッ!
悪人「実際やるとこうなる」
手下A「ですよねー」
手下B「いだい……」
『ミスは人のせいにしろ』
悪人「いかに責任を他人になすりつけるか、を説いたビジネス書だ」
手下A「タイトルからして最悪ですね」
手下B「とはいえ、これが上手い人ほどホントに出世してたりするのが困ります」
『クレーマーには拳で語れ ~炸裂10ヒットコンボ~』
悪人「どういう内容だ?」
手下A「タイトル通り、クレーマーはボコボコにしろという意味です。口ではなく拳で」
手下B「コンビニやスーパーの店員が参考にしたら、世紀末みたいな世になりそうだ……」
『叱られてる時こそスマホをいじれ』
悪人「いじっちゃダメだろ……」
手下B「『あえてスマホをいじることで“将来大物になる”と評価される』なんて理屈をでっちあげます」
手下A「大物というより色物だな……」
『電車に飛び込む勇気』
手下A「ただの自殺じゃないですか!」
手下B「しかもめちゃくちゃ迷惑かかるやつ!」
悪人「電車が遅延すれば、経済も当然遅延するというわけだ……!」
『歩きスマホが出世を呼ぶ』
『上司の贔屓球団をけなせ』
『他人の足を引っぱれ!』
『否定から入る会話術』
『勢いだけで退職しろ』
『パンツは洗うな』
『歯は磨くな』
悪人「フハハハ、クソみたいなビジネス書案がどんどん出てくるぞ!」
手下A「一度コツを掴むと、あれよあれよと思いつきますね!」
手下B「書けそうなものから、執筆していきましょう!」
悪人「さあ、いよいよ本格的に販売だ!」
手下A「これが売れて、世のサラリーマンが真に受ければ……日本経済は衰退する!」
手下B「上手くいくといいですね!」
――――
――
手下A「はい、どれも売れています」
手下B「あんなの買う奴いるんですね~」
悪人「タイトルに釣られているんだろう。現代人の浅はかさというものがよく分かるな」
悪人「種は撒き、芽も出た! あとは……花が咲くのを待つだけだ」
悪人「“日本経済の衰退”という花をな!」
手下二人「はいっ!」
手下A「それが……景気は上向きになっているんです!」
悪人「!?」
悪人「なぜだ!? 我らのビジネス書で、サラリーマンはみんなおかしな行動を取るようになったはず……」
手下B「いえ、世のサラリーマンはみんな模範的な行動を取っていて……」
手下B「我らのビジネス書のまさに逆をやっているのです!」
悪人「それじゃ、景気が上向くのも当たり前だ! 間違ったことの逆をしてるのだから!」
悪人「なぜだ! なぜこんなことになった! またしても計画は失敗か……!」
――
ヒーロー「やれやれ、危ないところだった」
ヒーロー「悪人たちの計画を事前にキャッチして――」
『ビジネス書の逆をやれ』
ヒーロー「いち早くこのビジネス書を執筆・出版してなかったら」
ヒーロー「今頃、世のサラリーマンは奴らの本に書いてあることを、その通り実行してたかもしれない」
女「よく思いついたわね、こんな作戦」
『ライバルの手口をいち早く掴め ~情報がビジネスを制する~』
女「……ビジネス書って案外バカにできないものなのかも」
― 完 ―
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コメント一覧 (9)
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- 2020年09月13日 23:00
- だってさ。よかったな
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- 2020年09月14日 00:06
- 最後のヒーロー以外ノンフィクション
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- 2020年09月14日 01:08
- 良いオチ
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- 2020年09月14日 02:08
- よく「仕事が出来る男は~」とかそんな感じのタイトルの本あるけど本当に出来る男はそんなの読んでないイメージ
まぁ全く本も新聞も読まないようなやつよりは仕事出来そうではあるけど
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- 2020年09月14日 20:19
- いいオチ
面白いよこれ
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- 2020年09月19日 08:51
- マナー講座()とか、まさにこれだな。
強いて言うならヒーローがいないところが違う。
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- 2020年09月26日 23:49
- 『ビジネス書に逆をやれ』この本が題名通りなら「ビジネス書の逆をやれ」の逆をやることになり、即ちビジネス書の言う通りにやれとなるが、それならば最初の「逆をやれ」に従う必要があり云々。
もしかしてビジネス書の言ってることだけ考えてそのビジネス書が内容に矛盾している事に気付かないサラリーマンを風刺しているのだろうか。
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- 2020年12月11日 14:09
- よくできた中谷彰宏アンチ
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