幼馴染「ずっと前は好きだったよ」 男「えっ」
男「……お前、なに言ってんの?」
幼馴染「だから、小学生の頃、男のことが好きだったの」
男「小学校……」
幼馴染「そうそう。あの頃の男はクラスの人気者だったしねー」
男「ちなみに今は?」
幼馴染「好きになる要素なんかないでしょ」
男「……」
幼馴染「あー、ごめん。そういうつもりはなかったんだけど……怒った?」
男「いや、むしろ大興奮だ」
幼馴染「会ってない間にいろいろあったんだねえ……」
男「まあ、そうだな。違う高校に通ってるんだ。そうそう会う機会もないだろ」
幼馴染「だよねー。この間、中学校の同窓会で会った子たちも同じこと言ってた」
男「同窓会……?」
幼馴染「そうそう。3年の時のクラスで集まったんだよ。いやー、盛り上がったよー」
男「……俺、呼ばれてないんだけど」
幼馴染「えっ」
男「……」コクリ
幼馴染「声も掛けないとか酷すぎるよ! 幹事の子に文句言ってやる!」
男「いや、いいよ」
幼馴染「なんでよ! 男、ハブられたんだよ!?」
男「誰が幹事だったのか知らないが、俺の連絡先がわからなかったんだろうよ」
幼馴染「あー……」
幼馴染「男は嫌われてたってわけじゃないんだよ? ただ、その、存在感が強烈すぎて話しかけにくいというか……」
男「厨二病拗らせてたからな」
幼馴染「それ、自分で言っちゃう?」
男「昔のことだしな。お前も気にしなくていいよ」
幼馴染「……正直、あの頃の男はかなり気持ち悪かったよ」
男「……!」ギロッ
幼馴染「ひぃ……!」
男「ありがとう……ありがとう……」
幼馴染(どうしよう。あの頃より気持ち悪いんだけど)
男「朝飯を買いにな」
幼馴染「おー。じゃあ、私はプリンが……」
男「ねーよ」
幼馴染「こんな朝早くから練習をしている私に差し入れくらいしてもバチは当たらないよー?」
男「ダメだ。今月ピンチなんだよ」
幼馴染「むぅ」
男「じゃあな。久しぶりに会えて楽しかったよ」スタスタ
幼馴染「ねえ」
男「ん?」
幼馴染「その醜い顔を私に見せた償いとしてプリン買ってきてよ」
男「……!」
幼馴染「わかったら早く……買ってこい!」ベチン
男「はいいいいいいいいいいい!」ダッ
幼馴染「ありがとー! これ、プリン代ね」
男「……」
幼馴染「お金足りない?」
男「なんで金払うんだよ」
幼馴染「だって、奢ってもらうなんて悪いし……」
男「没収です」
幼馴染「な、なんでよ!」
男「金じゃねえ。気持ちの問題だ。俺をその気にさせておいて、それはねえだろ」
幼馴染「……男に奢ってもらうほど、私は落ちぶれてないから……みたいな?」
男「それだよ……それでいいんだよ……!」
幼馴染「あ、ありがとうございます」
男「ただ、もっと口調を厳しくしたほうがいいな。『あんたのような底辺に奢ってもらうほど、私は落ちぶれていないんだけど』みたいな感じだとポイント高いぞ」
幼馴染「いまの男からポイントなんて稼ぎたくない……」
幼馴染「最近はね。もうすぐ総体予選が始まるからね、最後の追い込みだよ!」
男「気合入ってるな」
幼馴染「……うん。絶対に全国行きたいから」
男「でも、西高って女バスの名門だろ? 問題ないんじゃないの?」
幼馴染「なにそれ、嫌味?」
男「ち、違うわ!」
幼馴染「ウソウソ。わかってるって。北高に通ってる男に、うちを名門って言われたから意地悪したくなっただけ」
男「なんだよ、それ……」
幼馴染「うちが名門っていうのは過去の話。いまは北高の時代だよ」
男「あの女バスがそこまで強いとは思えないけどなあ」
幼馴染「いやいや、本当に凄いんだから。今の3年生が入学してから北高は県内無敗なんだからね」
幼馴染「この間の新人戦で20点差くらいつけられたけど」
男「20点差!?」
幼馴染「……うちのスターターは、私以外は下級生だからね。あの時点では北高と戦うには経験が足りなかったよ」
男「5人中4人が下級生?」
幼馴染「だって、現3年は私しか残ってないもの……」
男「そ、そうなのか……」
男「なら、総体が楽しみだな」
幼馴染「……まぁ、私が相手のエースを抑えられるかっていうのが、一番の不安要素なんだけどね
男「いや、そこは間違いなく大丈夫だろう」
幼馴染「えっ?」
男「うちの高校の女バスは本当にチャラチャラしたやつらなんだよ。あいつらに幼が負けるはずないさ」
幼馴染「……このタイミングで幼って呼ぶのは狡いよ」
男「そうか。じゃ、また今度な」
幼馴染「次はいつ会えるかなー?」
男「さあな」
幼馴染「では、私が予言してあげよう」
男「ん?」
幼馴染「男は明日も会いに来てくれるでしょう」
男「なに言ってんだよ。俺が早起きするタイプじゃないの知ってるだろ?」
幼馴染「命令してもいいんだけど、私としては、男が自分の意志で来てくれたほうが嬉しいからさ」
男「……じゃあな」
幼馴染「ほら、私の予言が当たったでしょ?」
男「……幼に会いに来たわけじゃねえよ。朝飯を買いにきたついでに寄っただけ」
幼馴染「おや? 昨日と違って、今日は先にコンビニに行ってきたようですなあ」
男「あー……」
幼馴染「袋の中に入ってるプリンは誰が食べるのかな?」
男「これは……」
幼馴染「なに? 私以外の女に買ってきたわけ?」ジトッ
男「……!」ゾクゾク
幼馴染「なら、その女のところに行けば? その代わり、私にはもう二度と近付かないでね」
男「いえ、幼さんの為に買ってきました!」
幼馴染「ありがとうー! いま、お金払うから待っててねー」
男「……」
幼馴染「そんなこと言われても、これが本当の私だし」
男「なら、最初から演技すんなよ」
幼馴染「男が素直にしてくれたら、演技する必要ないんですけどー」
男「……」
幼馴染「私に会いに来てくれてありがとう」ニコッ
男「……どういたしまして」
幼馴染「ほら、私の予言が当たったでしょ?」
男「……幼に会いに来たわけじゃねえよ。朝飯を買いにきたついでに寄っただけ」
幼馴染「おや? 昨日と違って、今日は先にコンビニに行ってきたようですなあ」
男「あー……」
幼馴染「袋の中に入ってるプリンは誰が食べるのかな?」
男「これは……」
幼馴染「なに? 私以外の女に買ってきたわけ?」ジトッ
男「……!」ゾクゾク
幼馴染「なら、その女のところに行けば? その代わり、私にはもう二度と近付かないでね」
男「いえ、幼さんの為に買ってきました!」
幼馴染「ありがとうー! いま、お金払うから待っててねー」
男「……」
幼馴染「そんなこと言われても、これが本当の私だし」
男「なら、最初から演技すんなよ」
幼馴染「男が素直にしてくれたら、演技する必要ないんですけどー」
男「……」
幼馴染「私に会いに来てくれてありがとう」ニコッ
男「……どういたしまして」
幼馴染「うん。昨日、顧問から言われたんだ。『現時点での北高との実力差を図ろう』ってね」
男「へー、どこでやるんだ?」
幼馴染「……応援に来てくれるの?」
男「まぁ、暇だしな」
幼馴染「男が応援に来てくれたら、かなり頑張れるな」
男「いや、俺にそこまでの力は……」
幼馴染「でも、ダメー!」
幼馴染「ダメったらダメなんだなー。男が私の華麗なるプレーを見るのはまだ早い」
男「は、はぁ?」
幼馴染「とにかく、今回はダメ! また今度、応援に来て!」
男「お、おう……」
男「それは……」
幼馴染「わかった! 北高のバスケ部目当てでしょ!」
男「ちげえよ!」
幼馴染「ほんとかなー? ……例えば、部長の子なんて可愛いじゃない?」
男「部長が誰なのかわかんないだよなぁ……」
幼馴染「そっか。そうだよね。あんなに可愛い子と男が知り合いなはずないよね!」
男「おい。俺が可愛い子とは縁の遠い存在みたいに言うなよ」
幼馴染「事実じゃん」
男「幼とは近い関係だろ?」
幼馴染「……」
男「なんだよ?」
幼馴染「……そういうとこが狡いんだよなぁ」
男「ほれ、差し入れ」
幼馴染「おおー。ありがとう」
男「……」
幼馴染「ん? どうしたの?」
男「……お前ってナイキ好きなの?」
幼馴染「なによ、急に……」
男「ふと、気になってさ」
幼馴染「まぁ、ナイキは好きだよ」
男「ウェアもシューズもバックも全部ナイキだもんな。すげぇな」
幼馴染「いいでしょー? これ全部、最近買ったものなんだよ。最後の総体だし、好きなメーカーの道具を揃えて戦おうって思ってさ」
男「よ、用具を全部買ったの?」
幼馴染「まぁ……バッシュ以外はね」
男「バッシュは買ってないんだな!?」バッ
幼馴染「ち、ちょっと近いってば!」カァァ
男「あ、悪い……」カァァ
幼馴染「……高いから手が出せなくてさ」
男「えっ」
幼馴染「なによ?」
男「そんなに高いの?」
幼馴染「まぁ……3万くらいかな」
男「さ、3万!? もうちょっと安いやつでいいだろうが!」
幼馴染「男には関係ないでしょ!? 私は安いバッシュなんて履きたくないの! 高級志向なの!」
男「でもお前、昔はデザインとか履き心地が一番重要だって……」
幼馴染「気が変わったの! 今の私は高ければなんでもいいの! デザインとか履き心地なんかより値段が高ければそれでいいの!」
男「そ、そういうものなのか……」
女「さっきから、熱心になに読んでるの?」
男「お、お前には関係ないだろ!」
女「わたしだけ、仲間外れなんて酷いよ……」
男友「いや、俺を仲間にいれんなよ。前の席に座ってるってだけだろ」
男「友くんは関係ないの?」
男友「ああ。教室でエ口本読むような奴なんて知らないね」
男「読んでねえし!」
女「男くん、溜まってるんだね……」
男「だから、違うっての!」
男友「男は変態だからね。勘違いしても仕方ないね」
女「だね! ド変態だもんね!」
男「はあ……。俺はただ、これを読んでるだけだよ」
女「……バイト情報誌?」
男友「なにお前、バイトすんの?」
男「悪いかよ!?」
男友「悪くはないけど、お前のコミュ力じゃ、バイト先の女の子と親密になるなんて無理だと思うぞ」
男「べ、別にそんなこと考えてねえし!」
男「コンビニがいいかな」
男友「やめとけ。お前、客が女だったら、まともに接客できないだろ」
男「で、できるし!」
男友「じゃあ、女を客だと思って接客してみろよ」
男「いらっしゃいませ。温めますか?」
女「普通にできるじゃん」
男「だろ? 友は俺を馬鹿にしすぎ」
男友「ちゃんと、目を合わせて話せ」
男「……いらしゃいましゅ。あたためらすか……?」
男友「はい。不合格」
男「ちょっといいか?」
女「……」ウゲェ
男「すげえ嫌そうな顔をありがとう」
女「悦んでくれたようで良かったよ」
男「罵倒してくれるとなお良かったんだがな」
女「それは私の妹の方が向いてるんじゃないかな」
女「いいの!?」
男「なにをするのかわかってんの?」
女「男くんのことをロープで縛ったり、蝋燭たらしたり、鞭で叩いたりして虐めていいんでしょ?」
男「違うわ! 俺は言葉責め専門だよ!」
女「はっ? ドMの分際でジャンルを選べると思ってるの?」
男「ご、ご馳走様です!」
女「おかわりはないからね」
男「ああ、スポーツ用品店に行きたいんだ」
女「スポーツ用品店で買い物してる男くんが想像できない……」
男「悪かったな」
女「まぁ、付き合ってあげてもいいんだけど、今日は部活が長引きそうなんだよね……明日なら体育館が使えなくて比較的早めに終わるから、その後でどう?」
男「悪いな。頼むよ」
女「報酬はアイスでよろしくねー」
男「はいはい……」
幼馴染「疲れたー。男、飲み物取って」
男「あいよ」スッ
幼馴染「ありがとう!」
男「サプリメントはどうする?」
幼馴染「……」
男「いらないのか?」
幼馴染「いや、なんか、男がマネージャーみたいだなー、と思ってさ」
男「マネージャーか……」
幼馴染「私の専属マネージャーとして契約しちゃうー?」
男「いや、プロデューサーとして幼をプロデュースしたい」
幼馴染「意味わかんないけど、気持ち悪いから却下ね」
男「まぁ、いろいろとな」
幼馴染「いろんな方法で時間を潰してるのね。大事な青春の時間を無駄にしちゃってるなぁ……」
男「うるせー。俺だって、これからバイト始めるんだよ」
幼馴染「へー、バイトするんだ?」
男「まぁな。社会経験を積んでおこうと思ってな」
幼馴染「でもさー、私たち今年受験じゃん? 勉強しないとやばくない?」
男「……」
幼馴染「社会経験よりも学業に力を入れたほうがいいと思うけどな」
男「まぁ、面接もまだなんだけどな」
幼馴染「いつ面接なの?」
男「今度の土曜日。そこで決まれば来週から働くことになるかな」
幼馴染「じゃあ、今度の土曜日はお互いに勝負の日だね!」
男「俺と幼で2連勝といきたいな」
幼馴染「……できるといいよね」
男「急にテンション落ちたな」
幼馴染「べ、別に落ちてないし!」
女「で、スポーツ用品店に何の用なの?」
男「ちょっと見たいものがあってな」
女「んー。わざわざ私を指名するくらいだから、バスケ用品でもみるの?」
男「まぁ、そんなとこ」
女「友達として言っておくけど、バスケを始めたところで男くんがリア充の仲間入りすることはないよ」
男「そんなこと目論んでねえよ」
男「いろいろあるんだな」
女「えっ。バッシュ買うの?」
男「バスケ用品って言ったろ」
女「わーい! ありがとー!」
男「はっ?」
女「総体に臨む私にバッシュを買ってくれるんじゃないの?」
男「なんで、俺がお前に買うんだよ……」
女「……だよね。男くんに買ってもらったバッシュなんて呪われてそうで履けないもん」
男「だんだん俺のツボを抑えてきたな」
女「いや、今のはマジなんだけどね」
男「えっ」
男「プレゼントするとは言ってないだろ」
女「いやいや、君がバイトしてまでバッシュを買おうとしてるんだもん。大切な人へのプレゼント以外に何があるのよ」
男「……中学の同級生にな。総体に向けて頑張ってるから、応援してやりたくてさ」
女「へー。この辺りでバスケやってるなら、私も知ってるかも。どこ高の子?」
男「どこだっていいだろ」
女「えー、教えてよー」
???「……」ジー
女「ん?」
???「……」サッ
女「……」
女「ナイキでおすすめなのはねー」
男「……よくナイキを探してるって気づいたな」
女「バスケ女子は往々にしてナイキが好きだからね」
男「そうなのか」
女「ナイキの中で私がオススメなのは……」
女「これかな!」バッ
???「!?」
女「……」ニヤァ
女「あ、ごめんごめん。ちょうどそこにあったからさ」
男「ったく、気を付けろよな」
女「ていうか、その反応は男子としてどうなの? 女の子と接触したんだよ? それも思いっきり胸が当たったんだから、喜ぶべきでしょ」
男「鉄板がぶつかってきて喜ぶ人間なんかいるかよ」
女「あははー。やめてよー。私の胸はまっ平だけど、そこまで硬くないから」パチン
???「……」
女「……」ニヤニヤ
女「これ、履き心地いいから人気なんだよ?」
男「値段がなぁ……」
女「バッシュの相場なんてこんなもんだよ。ちなみに予算はどれくらいを想定してるの?」
男「3万」
女「あの子にそんな高級なバッシュなんてもったいないから!!」
男「お前、誰のことなのかわかってんの?」
女「い、いや……わかってないよ」
女「それ、騙されてんじゃないの?」
男「そんなことする奴じゃねえよ」
女「……」
???「……」
女「……まぁ、歩く財布だと思ってるなら、あんな表情してないか」
男「あ?」
女「なんでもなーい」
男「そうだな。今日は下見に来たってだけだから」
女「なら、実際に買うときは、その子と一緒に選んだらいいよ」
男「それじゃあ、サプライズにならないだろ」
女「はぁ……どうして男子ってサプライズが好きなのかねぇ。突然、物を渡されても困るんだよねぇ」
男「そんなのお前の感覚だろ」
女「その子の靴のサイズ知ってるの?」
男「……それはおいおい」
女「女性に靴のサイズを訊ねていいのは王子様だけだよ。そこら辺のモブが靴のサイズを訊ねたら、警察に通報されちゃうよ」
男「……」
男「もうこんな時間か。途中まで送るよ」
女「いいよ。私、これからお楽しみがあるからさ」
男「なにそれ?」
女「男くんには内緒。じゃあね。また明日―!」タッタッタ
・
・
・
???「……」
女「捕まーえた!」
???「!?」
女「久しぶりだね。西高の部長さん」
幼馴染「……」
女「本当にね。新人戦ぶりになるのかな?」
幼馴染「……私は関東大会予選で貴女を見たけどね」
女「でも、試合してないよね」
幼馴染「試合を見学したってことよ」
女「そういうことね。でも、関東大会予選は残念だったね。西高が絶対に決勝に上がってくると思ってたんだけどなぁ。まさか、準決勝で負けちゃうなんて」
幼馴染「うちは準々決勝敗退なんだけど……嫌味で言ってんの?」
女「うん。嫌味だよ」
幼馴染「それはこっちの台詞。県ナンバー1のあんたが北高に入学したおかげで県内の勢力図が変わったんだから」
女「やめてよ。私は県ベスト8くらい負けるようなチームでお気楽にバスケしたかったのに、西高が弱体化したせいで、全国常連になったんだからさ」
幼馴染「なっ……!」
女「全国なんていいことないよ。休みはなくなるしさー。1年のときも2年のときも全国にでたせいで夏休みが潰れたんだから」
幼馴染「高校生最後の夏休みはたっぷりとエンジョイさせてあげるわ」
女「そうしてもらえるとありがたいけど、新人戦の決勝で20点差の大敗したようなチームには期待できないなぁ」
女「その結果が関東大会予選準々決勝敗退?」
幼馴染「あ、あれは……」
女「貴女が5ファールで退場してから流れ変わったのよね」
幼馴染「……っ」
女「まぁ、西高は全国の舞台に戻れるよ」
女「君が引退した後に、必ずね」
女「男くんとデートするの?」
幼馴染「は、はぁ!? なんで男とデートするのよ!」
女「やっぱり、男くんと知り合いなんだ」
幼馴染「!!?」
女「まぁ、私が男くんにボディタッチするたびに顔面蒼白になってたもんね。知り合い以上の関係に決まってるか」
女「いや、隠す必要ないでしょ? 別に私は男くんと何かあるわけではないし」
幼馴染「……なら、なんで一緒にいるのよ」
女「気になる?」
幼馴染「いいから言いなさいよ!」
女「私が性格悪いの知っていて、回答してもらえると思うほうが間違ってるよ」
幼馴染「別にメールしなくたって、直接聞くからいいわよ」
女「会う機会あるの?」
幼馴染「毎日、私の朝練を見に来てくれるからね」
女「……ごめん。ドヤ顔されても困るんだよね」
幼馴染「……」
男「なにぼーっとしてんだよ」
幼馴染「男……」
男「ったく、練習サボってていいのかよ」
幼馴染「あ、あのね……」
男「……なんだよ?」
幼馴染「えっと、その……」モジモジ
男「トイレに行きたいのか?」
幼馴染「どうしてそうなるのよ!」ベチン
幼馴染「あったりまえでしょ!?」
男「じゃあなんで、もじもじしてんだよ……」
幼馴染「変態! 変態 変態!!!」ポカポカ
男「痛い! 痛いから!」
幼馴染「いいじゃん、ドMなんでしょ! これもまた気持ちいいんじゃないの!」
男「俺は言葉責め専門だよ!」
幼馴染「へ、変態! 変態!! 変態―――!」ベチン
男「解せぬ……」
幼馴染「なんか言った!?」
男「なにも言ってねえよ……それで、なんだよ? なんか話があるんだろ?」
幼馴染「き、昨日さ……」
男「昨日?」
幼馴染「昨日の晩御飯は何食べたの!?」
男「……」
幼馴染「……」
男「……カレーだけど」
幼馴染「ああ、そうなんだぁ……」ガックシ
幼馴染「どうするんだろうね、本当にね……」
男「まぁ、いいや。俺もお前に聞きたいことがあってだな」
幼馴染「なに!? 私は何も見てないし、聞いてないからね!?」
男「何をだよ……」
幼馴染「だ、だから、別に……羨ましいだなんて思って……ないんだから……」グスッ
男「ど、どうした!?」
男「あの子……?」
幼馴染「狡い、狡いよぅ……」ポロポロ
男「お、おい……」゙
幼馴染「私だって……男と買い物したい……」
男「……えっ」
幼馴染「一緒にバッシュ選んだりしたかった……」
男「えっ」
幼馴染「そうだよ……昨日、二人が買い物してるとこ見たんだよ……」
男「!?」
幼馴染「私も男と同じ高校に通ってればあんな風に……」
男「違う! 昨日のアレは違うんだ!」
幼馴染「私、見たもん……二人で楽しそうに買い物してるとこ見たもん。恋人みたいに買い物してたもん」
男「誤解だって!」
幼馴染「……見たもん」プイッ
男「な、なんでこうなるんだ……」
男「えっ!? あいつ、部長だったの!?」
幼馴染「白々しい……」
男「本当に知らなかったんだってば! あいつとそんなに仲良くないしさ」
幼馴染「……一緒に買い物するほど仲良いじゃん」
男「それは、女がバスケ部だから……」
幼馴染「私だってバスケ部だもん。男と一緒にいた時間は私のほうが長いもん……」
幼馴染「……なのにどうして、あの子を選ぶの」
幼馴染「……やだ」プイッ
男「いいから聞けって!」グイッ
幼馴染「……やだ! 絶対聞かない!」ブンブン
男「どうして、そこまで頑ななんだよ!」
幼馴染「だって……だって、話しを聞いたら、男とあの子が付き合ってることを認めなきゃいけなくなっちゃう……」
男「付き合ってない。あいつはクラスメイトってだけ」
幼馴染「……嘘だ。ただの同級生なだけで一緒に買い物するわけない」
男「仕方ないだろ。俺の知り合いでバスケやってんのは幼と女だけなんだから。俺の人脈の狭さ舐めんな」
幼馴染「つまり、私よりあの子を選んだんでしょ……」
男「俺がバッシュを買う理由ってなんだよ。俺がバスケを始めると思うか?」
幼馴染「……女にプレゼントするためじゃないの」
男「なんで肝心なところはわからないかなぁ」
幼馴染「な、なによ……」
男「お前にプレゼントしたかったんだよ」
男「そうだよ。総体前にサプライズでプレゼントしようと思ってな」
幼馴染「な、なんで……?」
男「お前が頑張ってるから、なにか力になりたかったんだ」
幼馴染「……っ」
男「まぁ、なんだその……誤解させて悪かったな」
幼馴染「……やだ。許さない。私をこんなに泣かせて、恥ずかしい思いまでさせたんだから、絶対に許さない」
男「ま、まじか……」
幼馴染「……買うときは私も一緒に連れていってくれないと許さないんだから」
男「……」
幼馴染「……」
男「そうだな。一緒に行こうな」
幼馴染「なににやにやしてんのよ!」ベチン
男「気分転換にプリンでも食うか?」
幼馴染「……」ジー
男「な、なに……?」
幼馴染「食べさせて」
男「はっ?」
幼馴染「ほら、早く」
男「……お前、なに言ってるのかわかってんの?」
幼馴染「女とは恋人みたいなことをするのに、私とはしないの?」
男「それはさっき説明しただろ」
幼馴染「はーやーく」
男「いや、だから……」
幼馴染「早くしろよ、この童貞!!!!!」バチン
男「はいいいいいいいいいいいい!」
男「ご満足いただけたようならなによりです……」
幼馴染「ねぇ」
男「まだなにか?」
幼馴染「男と一緒にいられて幸せだよ」ニコッ
男「……っ!」カァァァ
幼馴染「顔真っ赤だよ」
男「こ、この……童貞殺しめ」
男「……そうだな。幼と買い物に行けるように、絶対にバイト受からないとな」
幼馴染「そうそう! 楽しみにしてからね!」
男「幼も明日試合だよな? 頑張れよ」
幼馴染「任せてよ。あの女に勝つから」
幼馴染「……絶対に勝つんだから」
女「やっほー。男くんに聞けた―?」
幼馴染「……」ギロッ
女「あれ? 聞けなかったの?」
幼馴染「試合前よ。黙ってくれない?」
女「たかが練習試合なんだし力抜いていこうよ」
幼馴染「私にとっては公式戦のようなものなの!」
女「そんなに力んだって結果は変わらないって」
幼馴染「その減らず口を黙らせてやるわ……!」
・
・
女「さて」ダムダム
幼馴染「……」
女「適当に遊ぶかな」スッ
幼馴染「やらせない!」ベシッ
女「……へぇ!」
幼馴染「よ、よし!」
・
・
幼馴染「入れ!」シュッ
「……」パサッ
西高部員「部長、ナイシュー!」
幼馴染「……ふふん」ドヤァ
女「……」
西高 ベンチ
西高顧問「よし! ナイスゲームだ!」
西高部員「北高に20点差をつけてリードしてるなんて……!」
西高顧問「そうだな。新人戦のころとはまったく別のゲームになっている。特に幼、相手のエースを良く抑え込んでいるぞ!」
幼馴染「は、はいっ!」
西高顧問「この点差はお前の頑張りによるところは大きい。このまま続けてくれ」
幼馴染「……っ!」
西高顧問「期待してるぞ」ポンポン
幼馴染「~~~~~~はいっ!」グッ
北高顧問「おい、このままで終わるなよ! 最低でも10点差以内にするんだ! この点差で負けたりしたら罰走だからな!」
女「あら、ずいぶん弱気だこと。勝たなくていいのかねー」
1年生部員「でも、この点差だと、逆転は難しいんじゃ……」
女「いや、むしろちょうどいいんじゃないかな」
1年生部員「へ……?」
女「試合が終わればわかるよ」
幼馴染「もう北高の時代は終わりよ」
女「気が早いなぁ。試合は終わってないよ」
幼馴染「この点差じゃ終わったようなもの。逆転なんかできやしない」
女「知らないの? 湘北は残り5分で20点差を逆転したんだよ」
幼馴染「漫画の話でしょ。これは現実なのよ」
女「そう。これから貴女は残酷な現実を知ることになる」
幼馴染「なに言って……」
女「私が本気出してると思った?」
幼馴染「……!」
幼馴染「……」
男「やっぱりここに来てたのか」
幼馴染「男……」
男「幼がいるかと思って面接の帰りに寄ってみたんだけど、正解だったな」
幼馴染「……っ」
男「プリン買ってきたんだ。一緒に食べようぜ」
幼馴染「……」ギュウウウウウウ
男「幼……」
女「いやー、美味しかったねえ」
1年生部員「すみません。奢ってもらって……」
女「いいよいいよ。お互いに、今日はあんまり早く帰るのもアレだろうしさ」
1年生部員「まあ、確かに……」
女「それに、今日は君も頑張ったし、これはご褒美だよ」
1年生部員「あたしなんてなにも……」
女「なに言ってるのさ。西高に逆転勝ちできたのは、君がDFを頑張ってくれたからだよ。いくら点を決めても、DFがザルなら追いつくこともできなかっただろうし」
1年生部員「そうかもしれませんけど。でも、今日のMVPは部長ですよ。ラスト10分であれだけ得点を奪うなんて凄すぎます」
女「そうかな? たいしたことないと思うけどなあ」
1年生部員「だって、部長がマッチアップしていたのは、西高のキャプテンですよ? あの人、選抜に選ばれていますよね?」
女「選抜って言ってもたかが地区選抜じゃん」
1年生部員「そりゃ、県選抜の部長と比較したら実力は劣ると思いますけど……」
1年生部員「ですよね。第3ピリオドまで、部長を抑えこんでましたもん」
女「本当にしつこいDFだったよ」
1年生部員「……すみません」
女「いいの。抑えこまれたように見せたのは事実だし」
1年生部員「見せた……?」
女「いやー。開始から凄い気合が入っててさ、うるさいのなんの。しかも、点が入るたびにドヤ顔してくるんだよ? 20点差がついた時なんて、あいつ絶頂を迎えてたんじゃないかな」
女「だからこそ、試合が終わった瞬間の、あの女の顔が最高に笑えたんだけどね」
女「もう少し、希望を持たせてやりたかったんだけどね。あの馬鹿顧問がうるさいから、ラスト20秒で逆転することにしたよ。本当は、ブザービーターで終わらせるつもりだったのに」
1年生部員「……まさか、わざと相手にリードさせたんですか?」
女「あれ、気付かなかったの? 私が、あんなヘタクソにあれだけやられるわけないじゃん。手を抜いてあげてたんだよ」
1年生部員「どうしてそんなことを……」
女「だってあの子、私に勝とうと必死だったし。夢くらい見させてあげてもいいじゃない? 実際、幸せだったと思うよ。中学からの宿敵である私をあれだけ打ちのめしたわけだから」 女「さすがにあれだけ挑発的な顔をされると、頭にきたけどね、でも、よかったよ。あの顔が見れたんだから。全てに絶望して、生きる希望を失った、あの醜い顔。写真撮っておけばよかった」
女「本当、幸せの絶頂からどん底に落ちる人間って、見ていて楽しいよね」
幼馴染「……馬鹿だよね、私。あの子を抑え込めてるなんて舞い上がっていたけれど、それはただ本気を出してなかっただけなのにね」
男「女が強がってただけだろ」
幼馴染「ううん。実際、タイムアウト明けから動きが違ったもん。……それまでは別人だったのかと錯覚するほど、スピードが違ったの」
幼馴染「だから、本当に手を抜いていたんだよ……」
男「な、何のためにそんなことするんだよ!」
幼馴染「そんなの決まってるじゃん。私なんかに本気を出す価値はないってことだよ」
幼馴染「……うちの代はね、捨て学年なんだって」
男「なんだよ、それ……?」
幼馴染「私たちの代は北高が最強で全国に出る見込みがない。逆に2年生は有望な選手が揃っている。それなら、3年生よりも2年生を優先的に起用して育成しよう、っていうのが顧問の方針なんだ」
男「酷い話だな。実力でレギュラーに入れないなら諦めがつくけど、将来的なことを見越して実力の劣る下級生がレギュラーなんてさ」
幼馴染「……うん。だから、みんなもそれが納得できなくてやめちゃった」
男「だから、3年生が幼しかいないのか……」
幼馴染「私が部長になれたのはそういう理由なんだよ。3年生は私しかいないから自動的に部長になっただけなの」
男「そこまで卑屈になることないだろ。レギュラーを勝ち取ったのは、幼の実力だよ」
幼馴染「関東大会の予選は準々決勝で負けちゃったんだけど、その試合で私退場したの。退場した時点で15点差つけられて負けてたんだけど、そこから追い上げていったんだ……私の代わりに入った選手が大活躍してね」
幼馴染「顧問に言われちゃったよ。3年生だから試合に出してるだけだからな、一人くらい3年生を入れておかないといけないから地区選抜クラスでも我慢して起用してるだけだ、って」
男「ひ、酷すぎる! 頑張ってるやつにそんなこと言うなんてあり得ねえよ!」
幼馴染「仕方ないよ事実だもん。それに、見返してやろうって奮起したし、朝練を始めたことで男と再会もできたしね」
幼馴染「だからこそ……今日の試合を勝ちたかったんだけどなぁ……」グスッ
男「幼は泣き虫だしな」
幼馴染「そう、だね……。昔から私は事あるごとに泣いてたね」
男「俺が小学校の運動会で転んだ時も高校受験で志望校に落ちた時もお前は泣いてたな」
幼馴染「……よく覚えてるね」
男「ああ。それで救われたからな」
幼馴染「私が泣いていることが?」
男「俺が落ち込んだとき幼は必ず傍にいて感情を共有してくれた。嬉しい時は笑って、悲しい時は泣いて、俺に寄り添ってくれた。それがどれだけ幸せなことだったのか、別々の高校に通うようになって痛感したよ」
幼馴染「男……」
男「……俺は幼みたいに一緒に泣いてやることはできないけど、傍にいる。お前が立ち直れるまで、ずっと」
男「だから、なんつーか、その……思う存分泣いてくれ」
幼馴染「なによ、それ……泣けとか、馬鹿じゃないの……もう泣いてるっつーの」ギュッ
男「……うん」ポンポン
幼馴染「……ありがとう」ギュウウウウウ
男「どういたしまして」ナデナデ
男「落ち着いたか?」
幼馴染「……うん。おかげさまで」
男「そりゃ、良かった」フッ
幼馴染「……っ!」カァァ
男「ん? どうした、顔真っ赤だけど?」
幼馴染「……ど、童貞のくせにそんな風に微笑むんじゃないわよ」
幼馴染「な、なんであんたは平気なのよ!?」
男「はぁ?」
幼馴染「~~~~~プリン! プリン頂戴!」
男「……なんで、口開けてるんですか?」
幼馴染「いちいち言わなきゃわかんないの!?」
男「それはもうさすがに……」
幼馴染「私が立ち直るためならなんでもするんじゃないの?」
男「なんでもなんて言ってねえよ!」
幼馴染「……ダメ?」ウルウル
男「お前、それ反則だろ……」カァァ
幼馴染「さっきの微笑みのほうがよっぽど反則だったわよ」
幼馴染『どうしたの、そんな緊張しちゃってさ』
男『今度の金曜日にバイト代が出るんだ』
幼馴染『……!』
男『来週の日曜日、幼の試合の後、バッシュを買いに行かないか』
幼馴染『……』
男『遅くなったけど、お前にプレゼントしたいんだ』
幼馴染『……本当に遅すぎるよ』
男『わ、悪い……』
幼馴染『楽しみにしてたんだから、期待を裏切らないでよね!』
男『……おう。任せとけ!』
幼馴染「じゃ、先に上がるねー」
副部長「……ぶっちょー」
幼馴染「なんで、不満そうな顔してるのよ」
副部長「だってえー、部長、最近帰るの早いんですもん」
幼馴染「そんなことないけど……」
副部長「ありますって! 前は1時間くらい残って練習してましたもん! 今はストレッチしたら、すぐ帰るじゃないですか!」
幼馴染「まぁ、長い時間練習しても効率悪いじゃない? それに、私が練習している間、後輩たちは帰れないから悪い気がしてた」
副部長「……彼氏でもできました?」
幼馴染「!!?」
幼馴染「彼氏なんかいないよ!」
副部長「じゃあ、好きな人ができたとか?」
幼馴染「……」
副部長「……」
幼馴染「で、できたっていうわけじゃない!」
副部長「なんですか、それ……」
副部長「だってぇ……最近、部長が居残り練習に付き合ってくれないんですもん」
幼馴染「あ……」
副部長「前はあたしが納得するまで付き合ってくれたのに……」
幼馴染「……ごめんね。確かにみんなとの時間が減ってたかもしれない」
副部長「ほんとですよー。部長は居残り練習しなくてもどんどん上手くなってるし、置いてかれてる気分です!」
幼馴染「……実は朝練してるんだ」
副部長「朝練?」
幼馴染「うん。毎朝、5時に起きて近くの公園で練習してるの。その分、居残り練習を早めに切り上げてたんだ」
副部長「朝5時かぁ……起きれるかなあ」
幼馴染「えっ」
幼馴染「南中近くの公園だけど……」
副部長「あそこですかー! だったら、うちから10分くらいなんで行けます!」
幼馴染「い、いいよ、悪いし。私が居残り練習に参加するようにするからさ」
副部長「いーえ。朝5時から起きているのなら、早く寝たほうがいいですって」
幼馴染「そうだけど……」
副部長「なにか問題あるんですか?」
幼馴染「問題っていうか、その……」
副部長「……誰かと一緒に朝練をしてるとか?」
幼馴染「何でもない! 何でもないから! 一緒にやろうね!」
幼馴染(はぁ……。ややこしいことになっちゃったな)
幼馴染(とりあえず、朝練来ないように男にメールしておこう。日曜日のこととか話しておきたかったんだけどしょうがないか)
幼馴染(まぁ、メールでやりとりすればいいか)
幼馴染(……うん。そうだよ。むしろ、毎日会ってたここ最近のほうがおかしいんだ)
幼馴染(だから、大丈夫。……大丈夫だよね)
ブーブー
男「珍しいな。幼からメールなんて」
【しばらくの間、朝練に来ないで】
男「えぇ……」
副部長「ぶっちょー!」
幼馴染「……お、おはよ」
副部長「なに驚いてるんですか?」
幼馴染「だって、合宿の時はなかなか起きない眠り姫なのに、私よりも早く公園にいるんだもん。そりゃあ、驚くよ」
副部長「ふふん。あたしだってやればできるんです!」
幼馴染「合宿の時にやってくれると嬉しいんだけどね」
副部長「そりゃあ、バスケの練習をするからですよ」
幼馴染「残念だけど、ステップワークしかやりませーん」
副部長「ええ……朝っぱらからハード過ぎませんか……」ウゲェ
幼馴染「そんな嫌そうな顔しないの」
副部長「だってぇ、せっかく早起きしたのにボールを触らないなんて……」
幼馴染「つまらないことをどれだけやるかが重要なんだよ」
副部長「はぁ……」
幼馴染「それにね、ガンガン走った後に食べるプリンは超美味しいんだよ。それだけできついステップワークを頑張れるから」
副部長「……プリン? えっ、プリン食べれるんですか?」
幼馴染「うん! そのうち、おと……」
副部長「部長?」
幼馴染「……練習が終わったら、近くにあるコンビニに買いに行こう」
副部長「美味しいー!」
幼馴染「でしょ?」
副部長「はいっ! ただのプリンがこんなに美味しく感じるなんて!」
幼馴染「もっと本数をこなせば美味しくなるよ」
副部長「そこまでしたくはないです……」
幼馴染「私も食べよっと」パクッ
幼馴染「……?」
副部長「あー、おかわりしたくなっちゃった。もう一個たべませんか?」
幼馴染「……」
副部長「どうしたんですか?」
幼馴染「……ううん。なんでもないよ」
幼馴染(……いつもより美味しくない)
男「うーす」
男友「……遅くね? 最近はやけに早く登校してたのに」
男「早起きする必要がなくなったんだよ」
男友「まぁ、早起きしても得はないからな。なんなら、起きてもいいことはないまである。そのまま眠り続けていたほうがいいんじゃねえの」
男「そうだな。お前も永眠はしっかりとったほうがいいぞ」
男友「疲れてんだよ……」
男「あらあらお盛んですなー」
男友「出ました、童貞思考。平日にヤルわけねえだろ。猿じゃあるまいし」
男「まぁ、それもそうか」
男友「つーか、結婚するまで純潔を守るから」
男「そんなこと言ってるから、彼女持ちのくせに童貞なんだよ、お前」
男「ちょっと体がだるくてな」
男友「大丈夫か?」
男「……」
男友「なんだよ、その面は」
男「友が心配してくれるなんて思わなかったからよ」
男友「お前を看病してくれる人なんていないんだから、俺が心配してやらないと可哀想だろ」
男「余計なお世話だ!」
幼馴染「……」ボー
副部長「部長がたそがれてるー」
幼馴染「……副部長?」
副部長「ぶっちょー、恋する乙女の顔してますよ」
幼馴染「し、してないし! ぼーっとしてただけで、あいつのことなんて……」
副部長「あいつ?」
幼馴染「な、なんでもない!」
副部長「やっぱり好きな人できたんでしょー?」
幼馴染「できたわけじゃないもん!」
副部長「だから、なんなんです、それ……」
副部長「……そうですよね」
幼馴染「あ、ごめん……」
副部長「あたしがズバリ当ててみせましょう!」
幼馴染「……はい?」
副部長「部長の思い人を絶対に解いてみせる!」
幼馴染「……」
副部長「おばあちゃんの名に懸けて!」
幼馴染「副部長?」
幼馴染「まぁ、面白そうだし付き合ってあげるよ」
副部長「まず一人目は男バスの部長です」
幼馴染「いや、ないから」
副部長「即答!?」
副部長「でも、相手に恋人がいるほうが、燃えてくるじゃないですか。絶対、振り向かせてみせる! てきな」
幼馴染「そりゃ、副部長はそうかもしれないけど、私は相手の彼女のことを考えると引いちゃうよ」
副部長「潔癖だなあ……。じゃあ、もしも好きな人に彼女ができたらどうしますか?」
幼馴染「それは……」
・
・
・
男『実は俺、彼女出来たんだ』
幼馴染『えっ……えっ!?』
男『だからもう、お前とは会わない』
幼馴染『待って、待ってよ、男!』
男『さよなら』
幼馴染『男―――――――!』
・
・
・
幼馴染「あ、会わなくなるんじゃないかなあ……」ジワッ
副部長「どうしたんですか、部長!?」
副部長「明らかに泣きそうになってましたけど……」
幼馴染「……もうこれで終わりなら、私は次の授業の準備するけど」
副部長「あります! まだありますって!」
幼馴染「じゃあ、さっさと言いなさいよ」
副部長「わ、わかりましたよ……次は軽音部の部長です」
幼馴染「……ああ、去年の文化祭でバンドやってた人?」
副部長「そうです! ボーカルを務めてたイケメンですよ!」
幼馴染「まぁ、あり得ないよね」
副部長「!?」
副部長「知ってますけど……でも、イケメンですよ? 女なら一度は抱かれてみたくありません?」
幼馴染「そんなに言うほどイケメンかな?」
副部長「どう見たって、イケメンでしょう!? ファンクラブができるほどですよ!?」
幼馴染「まー、私の好みではないかな」
副部長「じゃあ、どんなのがいいんですか?」
幼馴染「そうだなあ……」
・
・
・
男『……』ニコッ
・
・
・
幼馴染「……馬面、かな」
副部長「えぇ……」
幼馴染「そんなことないと思うけど」
副部長「でも、馬面って、要は面長ってことですよね。……ないわー。マジないわー」
幼馴染「副部長だって人のこと言えないでしょ」
副部長「なんでですかー! あたしはオラオラ系イケメンが大好物な面食いですもん! 馬面が好きなゲテモノ食いの部長とは違います!」
幼馴染「……あえてツッコミをいれないであげたけど、副部長がそこまで馬鹿にするなら、私だって言わせてもらうけどさ」
幼馴染「今、名前が挙がった2人の男は、副部長が好きだった男どもじゃないの! しかも、両方に二股をかけられた上に、ヤリ捨てされたんでしょ!? よくもそんなクズ野郎共を私の彼氏候補として挙げられたわね!」
副部長「ぶ、部長も騙されちゃったかなー、って……」
幼馴染「ヤリ捨てられて落ち込んでる副部長を慰めてたのは、誰?」
副部長「……部長です」
幼馴染「その私が、あの二人と付き合うなんて、わざわざヤリ捨てられに行ってるようなもんじゃないのよ!!」
副部長「つ、次が本命なんです!」
幼馴染「誰よ?」
副部長「北高の……」
幼馴染「ち、ちが……」
副部長「部長さんです!」
幼馴染「……何部の?」
副部長「やだなー。女バスに決まってるじゃないですか!」
幼馴染「……」
副部長「ライバル関係の2人が切磋琢磨を重ねていくうちに、相手のいい部分を知っていき、やがて恋に落ちていく……うーん! 美しい百合です!」
幼馴染「ねえよ」
副部長「あ、はい」
幼馴染(まったく。副部長のせいで、貴重な昼休みが潰れちゃったじゃない)
幼馴染(……男に彼女ができたら、か。その時、私はどうするんだろう)
幼馴染(まぁ、男に彼女ができるなんてあり得ないか。男のこと好きになるような物好きな女の子なんているわけ……いや、いるか。私がそうなんだから)
幼馴染(それに男が誰かを好きになる可能性だってあるんだ。私以外の誰かを愛おしいって想うことはあり得るんだ)
幼馴染(……男に会いたくなってきた。メールしてみようかな)
幼馴染(……)
幼馴染(ううん。日曜日には会えるんだし、それまで我慢しよう……)
副部長「……」ハァハァ
幼馴染「さぁ、ラスト3本だよ。キツイだろうけど頑張ろう」
副部長「あた……しは……よゆ……うですよ」
幼馴染「なに言ってんのよ。息も絶え絶えなくせに」
副部長「な……んで……ぶっちょー……はよゆうなんで……すか」
幼馴染「私は走り込んできたからねー。ステップワークをサボってきた副部長とは違うんです」
副部長「……この体力お化けが」
幼馴染「なんで、悪口を言うときは呼吸整ってんのよ!」
・
・
副部長「朝練終わりのプリンは格別ですー!」
幼馴染「さらに追い込んだら、もっと美味しいよ」
副部長「そこまでしてまで味わいたくないです……」
幼馴染「そう? 美味しいのに」
副部長「そんなこと言ってるわりには全然食べてないじゃないですか」
幼馴染「……なんか、食欲なくてね」
副部長「やっぱり体調悪いんですか……?」
幼馴染「ううん。そういうわけじゃないけど……」
副部長「……みんな、心配してるんです。最近の部長、元気なさそうだから、どこか悪いのかなって」
幼馴染「ごめんね。心配かけて……」
副部長「いえ、そんなことはいいんですよ! それよりも部長の体調のほうが……」
幼馴染(しっかりしなきゃ。部長の私がこんなんじゃ、日曜日の総体予選で勝てない)
幼馴染「体調は大丈夫なんだけど……」
副部長「なら、どうして元気ないんですか……」
幼馴染(わかってる、わかってるけど……)
幼馴染「それは……」
幼馴染(男に会いたくてたまらないの……)
幼馴染(男と再会してから、私は弱くなってしまった。一人でいることに耐えられない。彼が傍にいてくれない世界でなんて、もう生きていけない)
副部長「や、やっぱり、好きな人できたんですか!?」
幼馴染「できたわけじゃなくて……」
幼馴染(……そうだ。再会してからじゃないんだ。ずっと前から——男への想いを自覚した小学4年生のあの夏の日から——私は……)
幼馴染「おとこぉ……」グスッ
副部長「ど、どうしたんですか!?」
幼馴染(男がいないとダメなんだ……)
副部長「あのとき? 男……?」
男「俺のこと呼んだ?」
副部長「!!?」
幼馴染「おと……こ……?」
男「な、なんで泣いてんだよ!?」
幼馴染「男ぉぉぉぉ!」ギュウウウウウウウウ
男「どうしたんだよ……」ナデナデ
副部長「……」ポカーン
・
・
男「ほれ、これ飲んで落ち着け」
幼馴染「……」ギュウ
男「……ほら、キャップ開けてやったから、とりあえず飲め」
幼馴染「……」ゴクゴク
男「お前、どうし……」
幼馴染「……」ギュウウウウウウウウ
男「……あのなぁ」
幼馴染「私が立ち直るまで傍にいてくれるんじゃないの……?」
男「わかった、わかったから、潤んだ瞳で上目遣いするのはやめろ」
男「あの女の子なら、先に学校に行くってよ。……まぁ、ここに居ても気まずいだけだろうしな」
幼馴染「そうだよね……」
男「あの子に謝っておけよ。突然、お前が泣き出したから、さぞかし驚いただろうよ」
幼馴染「……私ね、男と少し会えないだけで、寂しくってたまらないの」
男「まさか、それが泣いていた理由か……?」
幼馴染「うん。自分でも馬鹿だなって思うけど、たった3日間、男と会えなかっただけで私は枯れちゃったんだ」
幼馴染「だからね?」
幼馴染「私のこと潤して……」ギュ
男「いや、まぁ……俺も同じようなもんだしな……」
幼馴染「えっ?」
男「俺もお前に会いたかったんだよ。だから、ここに来たんだ」
幼馴染「……っ!」ギュウウウウウウウウウウウウウウ
男「痛! 締めすぎだっての!」
男「俺も寂しかったんだよ。説明もなしに、来るな、なんてメールを送りつけられるし」
幼馴染「ご、ごめん……」
男「本当だよ。お風邪までひくし最悪だった」
幼馴染「えっ!? 大丈夫なの!?」
男「水、木って二日間学校を休んだけどな。もう大丈夫だよ」
幼馴染「なんで、教えてくれなかったの……」
男「自惚れてるかもしれないけど、風邪をひいたことをメールすれば、幼が見舞いに来てくれるだろ?」
幼馴染「そんなの……当たり前じゃん」
男「でも、総体予選中なのに風邪うつしたら大変だし、早く治して幼の顔を見に行こうって我慢したんだ。……なのに、会いに来てみれば泣いてるし。しかも、抱き着いてるから顔見れねえし」
幼馴染「……」
男「お前の笑顔が見たいんだけどなぁ」
幼馴染「……充電が完了するまでお待ちください」ギュウ
男「はいはい。いくらだって待ちますよ」ナデナデ
幼馴染「……げっ。もうこんな時間なの」
男「30分近く抱き着いてたからなぁ……」
幼馴染「うっさい! むしろ、30分も私に抱きしめられてたんだから、感謝しなさいよ!」
男「……ありがとう。幼に会えて嬉しかった。抱きしめてもらえて安心できたよ」
幼馴染「そんなこと言われたら学校にいけないってばぁ……」ギュウ
男「素直に言えばこれだもんなぁ……」
男「まぁ、それくらいなら、学校にギリギリ間に合うか」ポンポン
幼馴染「……ねぇ」
男「ん?」
幼馴染「私、男のこと……」
・
・
・
幼馴染『好きになる要素なんかないでしょ』
・
・
・
幼馴染「……」
男「どうした?」
幼馴染「……ううん。なんでもない」
副部長「で、何も言わずに逃げ帰ってきた、と」
幼馴染「だ、だって、しょうがないじゃない! 今の男を好きになる要素なんかない、って断言しておいて、今さら『ずっと前から好きでした』なんて告白できないよ!」
副部長「そもそも、どうしてそんなこと言ったんですか?」
幼馴染「……今思えば、自分への暗示だったんだと思う。薄れかけていた男への想いが再会をきっかけに蘇らないように、自分に言い聞かせたんだ」
幼馴染「じゃないと、今回のように男のことしか考えられなくなって、バスケに集中できなくなっちゃうから……」
副部長「そんなに寂しかったのなら会いに行けばよかったのに……」
幼馴染「……当時、何度もそう思ったけど、勇気がなくて会いに行くどころか、メールすることさえできなかったよ。今回だって一緒。メールや電話をすれば、少しは心も安らいだだろうけど、何もできなかった」
副部長「臆病すぎませんか? 今日の男さんの様子を見るかぎり、部長を拒絶したりしませんよ」
幼馴染「……どうしても怖いんだ。嫌われたらどうしようって」
副部長「その気持ちはわからなくもないですが、いつまでも受け身のままでは何も変わりませんよ」
幼馴染「それはそうなんだけど……」
副部長「~~~~~~もう! シャキッとしなさい!」ペチン
幼馴染「!?」
幼馴染「お、押し倒す!?」
副部長「そうですよ! 今日なんか、絶好のチャンスだったじゃないですか! なのに……」
副部長「告白寸前で逃げ出すとかどういうことですか!」バンッ
幼馴染「ひぃぃ……」ガタガタ
幼馴染「買い物するだけで、デートってわけじゃ……」
副部長「……」ギロッ
幼馴染「……善処します」シュン
副部長「部長、恋が実るかどうかはタイミングが重要なんです。いま、このチャンスを逃してしまったら、誰かに男さんを奪われてしまいますよ」
副部長「据え膳食わぬは女の恥です。この好機を必ずものにしてください」
副部長「そうですよー! みんな、応援してるんですから、頑張ってください!」
幼馴染「……みんな?」
副部長「はいっ! 西高女子バスケ部、歴代最強との呼び声高い現2年の代のなかでも、5傑と評されるあたしたちがついてます! ねっ、みんな!」
元気っ子「もちろんだよー!」
無口っ子「……」コクリ
真面目っ子「部長の告白が成功するように私が策を考えます」
生意気娘「童貞野郎なんて、色仕掛けすれば楽勝だろ」
幼馴染「……」
副部長「あたしたち、5傑が全力でサポートしますからね!」
幼馴染「……お前ら、全員一列に並んで歯食いしばれ」
副部長「!!!!?????」
幼馴染「普通に考えればわかるでしょ」
副部長「わかりませんよ! あたしたちは部長の恋を応援するって言ってるんですよ!? 怒る理由なんてないじゃないですか!」
幼馴染「応援してくれるのはありがたいし、嬉しいよ。そこじゃなくて……」
元気っ子「まーまー。部長はきっと生理なんだよー。とびっきり重いやつがきてるんじゃないかな」
副部長「……なるほど。それなら、仕方ないですね」
幼馴染「違えよ」
無口っ子「……!」
元気っ子「それもそうだね……」
真面目っ子「……では、なぜ、部長は機嫌を損ねているのでしょう?」
生意気娘「そりゃあ、欲求不満だからだろ」
副部長「なるほど。久しぶりに男さんと触れ合ったことで、抑えていた性欲が……」
幼馴染「おい、アホレンジャー。いい加減にしろよ」
生意気娘「そうだ! こいつら4人はアホだけど、わたしはまともだ!」
真面目っ子「五人の中で一番、偏差値の低い身体をしている女がまともなわけないでしょう」
無口っ子「……下品な胸ぶらさげやがって」
生意気娘「黙ってろ、根暗コンビ。お前らはびくびくしながら静かにしていたほうがお似合いだぜ」
真面目っ子「身長150cm未満の貴女がバスケ部の部室にいるほうが不自然よ」
無口っ子「……乳牛は牧場に帰れ」
生意気娘「んだと!?」
副部長「喧嘩はやめなよ!」
元気っ子「ねーねー。帰りにさ、銀だこ行こうよー」
副部長「あんた、状況わかってんの!?」
幼馴染(もうやだ、この後輩たち……)
元気っ子「怒られちゃったね……」
無口っ子「……」シュン
生意気娘「あそこまでキレることねえのに……」
真面目っ子「まぁ、盗み聞ぎした私たちに原因がありますよ」
副部長「……」
元気っ子「どうしたの?」
副部長「部長に何もしなくていいって言われちゃったなぁ……って」
無口っ子「……全面拒否だった」
真面目っ子「私たち、そんなに信頼ないのでしょうか……」
生意気娘「そういうんじゃないだろ。部長が言ってただろ、自分の力でなんとかするって。そもそも、人の恋路に干渉しようとしたことが間違ってたんだよ」
元気っ子「ここはひとまず、引くしかないかあ……」
真面目っ子「それが賢明でしょうね」
副部長「……部長の力になりたかったなぁ」
「……」
幼馴染「ふぅ……。そろそろ、終わりにしようか」
副部長「何言ってるんですか! まだまだこれからですよ!」
幼馴染「……どうしたの?」
副部長「な、なにがですか……?」
幼馴染「いつもなら、早々に切り上げてベンチで休んでるのに、今日はやけに張り切ってるじゃない」
副部長「明日は総体予選の準決勝ですよ!? 今、頑張らないでどうするんですか!」
幼馴染「気合入ってるのはいいことだけど、試合前に負荷をかけすぎても良くないよ」
副部長「そうかもしれませんが……」
幼馴染「今日はここまでにしよう。さっ、コンビニでプリンでも……」
副部長「なるほど。それが狙いですか」
幼馴染「……」ギクッ
副部長「男さんとコンビニで待ち合わせしてて、一刻も早く男さんに会いたいから、さっさと終わらせたいんですね?」
幼馴染「よーし! あと10本やろう! ガンガン負荷かけまくるよー!」
副部長(……よし。なんとか時間は稼げそう)
男「あ、あの……」
元気っ子「……」ニコニコ
無口っ子「……」ジー
真面目っ子「……」ジトッ
生意気娘「……」ギロッ
男(なんだ、これ……)
男「そうですけど……」
元気っ子「ああ、よかった。人違いだったらどうしようかと思ったよー」
男「……俺に何か?」
生意気娘「西高女子バスケ部の部長は知ってるな?」
男「……ああ、幼のこと?」
生意気娘「よ、呼び捨て!?」
元気っ子「これはかなり進んでいますなぁ……」
真面目っ子「は、ハレンチです!」
男「君たち、うぶすぎないか……?」
生意気娘「ああ、西高バスケ部の2年生だ」
男「そうか。君たちが……幼からよく話は聞いてるよ」
生意気娘「部長が、わたしたちのことを……?」
元気っ子「なんか、嬉しいね」
真面目っ子「ちなみに部長は私たちのことをなんて?」
男「……まるで戦隊ヒーローみたいだって」
アホレンジャー「えっ」
男「いや、買い物するだけで、デートってわけじゃ……」
生意気娘「あ?」ギロッ
男「……何でもありません」
真面目っ子「私たちがデートのサポートをさせていただきます」
男「サポート……?」
生意気娘「童貞のお前じゃ、部長を満足させられないだろ? わたしたちが協力してやるよ」
元気っ子「こらっ。いくらなんでも失礼だよ」
生意気娘「あ、ごめん……」
真面目っ子「処女は黙っててください」
無口っ子「……その体で処女とか……ウケる」
生意気娘「お、お前らだって処女だろ!?」
元気っ子「アタシも処女だよー」
男「あ、あの、話は……?」
男「駅前のショッピングモールで買い物するくらいです」
生意気娘「何を買うんだ?」
真面目っ子「これだから時代遅れのヤンキーは」
生意気娘「ああ!? じゃあ、お前にはわかんのかよ!」
真面目っ子「二人は高校三年生ですよ? 購入するものなんて決まっているじゃないですか」
真面目っ子「参考書を買いに行くのですよ」
男「違います」
生意気娘「デートで参考書を買いに行くとか……。時代遅れのがり勉は困るわ」
真面目っ子「……なら、一体、何を買いに行くのですか?」
元気っ子「部長のことだし、バスケ用品じゃないかな」
男「!」
生意気娘「でも、部長はバックやらウエアやら買ったばっかりだぜ?」
真面目っ子「ええ。ナイキで揃えた、と自慢していましたよね」
元気っ子「アレは買ってないじゃん」
元気っ子「プロテイン」
男「なんでそうなる!?」
生意気娘「いくら、水よりもプロテインを飲んでいそうな部長でもそれはねえだろ」
真面目っ子「確かに。プロテイン味の血が流れていそうな部長でもあり得ませんね」
男「君たちは幼のことをなんだと思ってるんだ……」
元気っ子「じゃあ、何を買うの?」
無口っ子「……指輪」
真面目っ子「!」
元気っ子「!!」
生意気娘「!!!」
男「!?」
無口っ子「……デートの最後に二人の思い出の場所で指輪を渡して告白するの」
元気っ子「わー……かっこいい……」
無口っ子「感激して泣いてしまった部長をそっと抱き寄せて……」
真面目っ子「……」カァァァ
無口っ子「熱いキスを……」
男「違うわ!!」
無口っ子「部長のこと好きなんでしょ?」
男「い、いや、俺は別に……」
無口っ子「そういうのいらない」
男「……」
無口っ子「好きなんだから、告白するのは当然のこと」
男「そ、そうかもしれないけど、このタイミングじゃないんだって」
無口っ子「なんで?」
男「……今だと断られると思う」
無口っ子「……」
男「だから、もう少し距離を縮めてから……」
無口っ子「唐変木」
男「!?」
生意気娘「そうだそうだ! この男にそんな度胸はない!」
真面目っ子「というか、唐突すぎて部長も困惑するでしょうし」
無口っ子「……ちっ。これだからヘタレンジャーは」
ヘタレンジャー「!?」
???「どんな計画だったっけ?」
無口っ子「奥手な部長じゃ、どうせなにもできないだろうから、相手の方を煽って関係を発展させようって決めたでしょ」
???「……そういうのなんて言うのか知ってる?」
無口っ子「……あっ」
幼馴染「小さな親切、大きなお世話って言うのよ!」
幼馴染「朝練が終わったからよ」
生意気娘「ちっ……。副部長のやつ、足止めできてねえじゃねえか」
幼馴染「副部長は頑張ったけどね。いつもはすぐベンチで休むくせに、今日は率先してステップワークを何本もこなしたんだから」
元気っ子「体力トレをサボる副部長が……?」
幼馴染「まったく。こういう時に頑張るんじゃなくて、練習のときにやってほしいわ」
真面目っ子「その副部長はどこに?」
幼馴染「そこで這いつくばってるじゃない」
副部長「 」
アホレンジャー「副部長————!」
幼馴染「誰が鬼よ。副部長自らステップワークをやるって言い出したんだから」
真面目っ子「大丈夫ですか!?」
副部長「う、うぅ……」
元気っ子「良かった。息はあるみたいだね」
幼馴染「ステップワーク40本やったくらいで死ぬわけないでしょ」
副部長「み、みんな……」
無口っ子「……なに?」
副部長「最後に会えてよかった……」ガクッ
アホレンジャー「副部長————!」
幼馴染「いいから、こっち来いよ」
副部長「あ、はい」
真面目っ子「お、横暴ですよ! 私たちは男さんと話をしていただけです! 処罰されるいわれはありません!」
幼馴染「男と話を……」
生意気娘「そうだ! こいつだって、女子高生4人に囲まれて悪い気はしなかっただろうし、わたしたちは無罪だ!」
幼馴染「……ステップワーク100本」
アホレンジャー「!!?」
男「ま、まぁ、俺は大丈夫だから……」
幼馴染「何言ってんの? 男もステップワーク100本だから」
男「!!!???」
真面目っ子「私たちを殺す気ですか!?」
男「つーか、なんで、俺まで!?」
幼馴染「うるさい。とにかく100本だから。歯食いしばってやりきれ」
元気っ子「いくらなんでも厳しすぎますよー。そこまでする理由がわかりませんって」
無口っ子「……嫉妬」
幼馴染「!」ビクッ
元気っ子「えっ?」
無口っ子「……部長がいないところで、私たちが男さんと話してたことに嫉妬してるんだよ」
元気っ子「まっさかー。アタシたち、少し喋っただけだよ? それくらいのことでヤキモチ妬くかないでしょ」
幼馴染「あ、その……」カァァァ
元気っ子「えっ」
幼馴染「ち、違う!」
生意気娘「いや、この反応は……」
幼馴染「違うもん!!」
真面目っ子「部長って、意外と独占欲が強いんですね……」
幼馴染「だから、違うんだってば!」
無口っ子「……部長」
幼馴染「な、なによ!」
無口っ子「女の嫉妬ほど醜いものはない」ボソッ
幼馴染「!!?」
幼馴染「わあああああ! やめてやめて!」
無口っ子「……なぜ?」
幼馴染「だ、だって……」チラッ
男「ん?」
幼馴染「こ、こっち見んな!」ベシッ
男「な、なんだよ!?」
生意気娘「部長が乙女乙女してる……」
元気っ子「恋は女を変える、って言うけど、まさかこんなに変わるなんて……」
副部長「まだまだ。こんなの序の口だよ。昨日なんて凄かったんだから」
真面目っ子「こ、これ以上にですか……?」
副部長「そうだよー。男さんの膝の上にのって……」
幼馴染「やめろおおおおおおお!」バチン
真面目っ子「茶化すなんて……」
幼馴染「してるじゃない! 私を弄って面白がってるんでしょ!」
生意気娘「ち、違いますって! わたしたちはただ……」
幼馴染「知らない! もう何も聞きたくない!」
元気っ子「部長……」
無口っ子「……」シュン
男「落ち着けよ、幼」ナデナデ
幼馴染「男……」
生意気娘&真面目っ子&元気っ子&無口っ子「!!!?」
副部長「遂に始まったか……!」
幼馴染「でも……」
男「幼の為にわざわざ俺のところに話をしに来るなんて、そうそう出来ることじゃないよ。この子たちは幼のことがよっぽど好きなんだろうな」
幼馴染「……だからって、男に迷惑かけていいわけじゃないもん」
男「迷惑なんてとんでもない。むしろ、感謝したいくらいだよ。俺の知らない幼を教えてくれたし」
幼馴染「な、なによ、それ!」
男「とにかくさ、許してあげなよ」ナデナデ
幼馴染「……本当に狡いなあ」ギュウ
男「お、おい!」
幼馴染「なによー……少しくらい抱きついたっていいでしょ」
副部長「はい! あたしたちのことは気にせず、思う存分、男さんを堪能してください!」
幼馴染「えっ?」
生意気娘&真面目っ子&元気っ子&無口っ子「 」
幼馴染「———————!」カァァァ
幼馴染「ち、ちょっと、離れてよ!」バッ
真面目っ子「いや、自分から抱きついてましたよね……?」
元気っ子「なんなら、離れようとする男さんを逃がさないように甘えていたような……」
無口っ子「……」カァァァ
幼馴染「そ、そんなことしてない!」
副部長「いいじゃないですか。部長は寂しがり屋の甘えん坊なんですから」
幼馴染「ち、ちが……」
副部長「あたしたちはこんなことで幻滅なんてしませんよ?」
幼馴染「……っ」
副部長「だからもう、強がらなくていいんです。男さんに会いたいのなら会いに行けばいいし、甘えたいのなら甘えればいい。何も気にせず、部長のしたいようにしてください」
副部長「部長の幸せがあたしたちの幸せなんですよ」
生意気娘「お、おう……」
真面目っ子「……当然です」
元気っ子「もちろんだよー!」
無口っ子「……」コクリ
幼馴染「みんな……」
副部長「と、いうことで……」ギロッ
男「……?」
副部長「部長を泣かせたら、あたしたちが必ず報復しますからね!」
男「……それは怖いな」
真面目っ子「ですね! 明日は総体予選の準決勝ですし!」
元気っ子「気合入れていこー!」
男「よし。じゃあ、景気づけに、みんなにプリンを奢るよ」
生意気娘「おお! 気が利くじゃねえか!」
無口っ子「……ゼリーがいい」
幼馴染「ちょっと、待ちなさいよ」
男「どうした?」
副部長「まさかぶっちょー、男さんにもっと甘えたいんですかー?」
幼馴染「ステップワークは?」
男「……はっ?」
幼馴染「だから、ステップワーク100本をやってから練習だってば。さっき言ったでしょ」
幼馴染「いや、マジだけど?」
アホレンジャー「……」
男「い、いや、お前、それはなしになったはずじゃ……」
幼馴染「いいから、男も公園に行くよ。早くしないと練習に遅刻しちゃう」
副部長「にっげろー!」ダッ
幼馴染「あ、こら! 待ちなさい!」
真面目っ子「さっきのしおらしさはどこに行ったのですか!」
生意気娘「やっぱり、部長は鬼だ! 悪魔だ!」
元気っ子「ステップワーク100本とか死んじゃうよねー」
無口っ子「……男さんだけ犠牲になればいい」
副部長「つーか、あたしは男さんと話してないから関係ないのに……」
生意気娘&真面目っ子&元気っ子&無口っ子「お前が主犯だろうが!」
副部長「てへ☆」
幼馴染「止まれー!」
男(……本当に仲良いなあいつら)
男「……」キョロキョロ
「メインアリーナなら向こうだよ」
男「ありがとうござい……って、なんでお前がここにいるんだよ!」
女「試合しに来たに決まってるでしょ」
男「……それもそうか」
女「で、君は何の用があるのかなー?」
男「別になんだっていいだろ!」
女「ふーん。そういう態度取るんだ……」
男「じゃあな。道教えてくれてありがとな」
女「警備員さん、あの人、盗撮魔です」
男「やめろー!」
女「西高の応援に来たって素直に言わないのがいけないんでしょ」
男「わかってるなら、聞く必要ねえだろ!」
女「言わせたほうが面白いじゃん」
男「この性悪女め……」
女「褒めてくれてありがとー!」
男「うるせー」
女「今日の試合なんて始まる前から結果が決まってるようなもんだよ? 見る価値なんてないと思うけど」
男「実力差あるのか?」
女「うん。西高が20点差で圧勝するってとこかな」
男「県大会の準決勝で20点差かよ……」
女「私たちならダブルスコアだけどねー」
男「さいですか……」
男「お前と違って、幼は努力してるからな」
女「そうだよねー。部長さんは男くんと朝練してるんだもんねー」
男「な、なんで知ってんだよ!?」
女「彼女がドヤ顔で教えてくれたのよ」
男「何を言ってるんだ、あいつは……」
女「それだけ、君が大切なんでしょうよ」
男「はあ……?」
男「いや、してないけど……」
女「はっ?」
男「俺たち、付き合ってねえよ」
女「……なんで? 意味わかんないんだけど」
男「俺の片想いだからだよ!」
女「……」
男「幼は俺を放っておけないから、仲良くしてくれてるんだよ。……ただ、それだけなんだ」
男「なんでだよ!」
女「だってそうじゃない。君の話だと、彼女は孤立しがちな君に優しくして周囲からの評価を高めようとしてるんでしょ? 偽善者以外の何者でもないじゃない」
男「ち、違う! あいつは純粋に優しくしてくれてるだけで……」
女「そうやって都合のいい解釈をして、彼女に告白をしないことを正当化したいだけでしょ」
男「……っ」
女「まっ、そうやって逃げ続けているほうが、臆病者の君らしくていいけどね」クスッ
女「暗い顔しないでよ。私が怒られちゃうじゃん」
男「……誰にだよ?」
女「西高のぶっちょーさんに」
男「えっ?」
幼馴染「……」
男「お、幼!?」
女「言っとくけど、私はドMの男くんのために言葉責めしただけだからね」
幼馴染「!?」
男「なに言ってんだよ!」
幼馴染「こ、この豚があ!」
男「お前もなに言ってんの!?」
男「楽しんでんじゃねえよ!」
女「いいじゃない。さっきまでさんざん愉しませてあげたんだから」
男「いい加減にしろ!」
幼馴染「おーとーこー?」
男「い、いや、俺はなにもしてないんだってば!」
女「さて、私はそろそろ行くね」
男「どうすんだよ、この状況!」
幼馴染「……」キュッ
男「幼……?」
幼馴染「……私のことも構ってよ」
男「あ、うん……」
女(これで男くんの片想いっていうのは無理あるよなあ……)
生意気娘「……あれ? 部長はどこに行ったんだ?」
真面目っ子「そういえば、さっきから姿が見えませんね」
元気っ子「どうしたんだろうね?」
無口っ子「……」キョロキョロ
一年生女子「ぶっちょーなら、監督のところに行くって言ってましたよー」
真面目っ子「アップの内容でも聞きに行ったのでしょうか」
生意気娘「……」
副部長「キョン吉、落ち着きなよ。まだ3分も経ってないよ」
生意気娘「キョン吉言うな!」
真面目っ子「まったく。キョン吉さんは騒がしいですね」
生意気娘「うるせえぞ、カミナリ!」
真面目っ子「そ、その呼び名はやめてください!」
生意気娘「もういい! わたしが探しに行く!」
副部長「はい、ストップ」
生意気娘「なんでだよ! 何かあったらどうすんだ!」
副部長「大丈夫。色んな意味で何も起きないから」
幼馴染「ご、ごめん! トイレが混んでて……」
副部長「あ、部長。おかえりなさいー」
幼馴染「……みんなは?」
副部長「あたしの判断で先に行かせておきました」
幼馴染「ごめん……」
副部長「大丈夫ですよー。気にしないでください」
幼馴染「……怒んないの?」
副部長「大切な人からパワーをもらってたんでしょ? 何も問題ないですよ」
幼馴染「……私が男に会いに行ったの気付いてたの?」
副部長「ええ。控え室を出て行くときの部長、緩みきった顔してましたからね」
副部長「大丈夫ですよ。あたしがうまく誤魔化しておきましたから。部長は堂々としててください」
幼馴染「でも、大事な試合の前に部長の私がこんなことしてたら……」
副部長「なんですか?」
幼馴染「……試合に勝てない」
副部長「……」バシン
幼馴染「な、なにするのよ!」
副部長「部長一人のコート外の行動一つで負けが決まるほど、西高は弱くないですよ」
幼馴染「……っ」
副部長「さあ、行きましょう。今日はみんなが待ってます!」
幼馴染「うん!」
無口っ子「……動くな。お前の駄乳が揺れて気が散る」
生意気娘「んだと!?」
幼馴染「喧嘩、するなっての」ポカッ
生意気娘「ぶ、ぶっちょーー!」
幼馴染「みんな、遅くなってごめんね」
真面目っ子「大丈夫ですよ」
元気っ子「そうそう。気にしないで」
生意気娘「無事に帰ってくれたのならいいけど……」
無口っ子「……」コクリ
副部長「ほら、大丈夫でしょ?」
幼馴染「みんな……」
一年生女子「彼氏に会いに行ったくらいで怒りませんよー」
幼馴染「!?」
一年生女子「もう。隠さないでくださいよー。彼氏と試合前に一発ヤリにいったんですよね?」
幼馴染「 」
副部長「馬鹿! 二人ともヘタレだから、そういうことはしないって言ったでしょ!」
生意気娘「そ、そうだ! 部長に限ってそんなことするはずない!」
一年生女子「えー? でも、男と女が二人っきりになってすることといったら、それしかないじゃないですかー」
元気っ子「どういう価値観なの?」
真面目っ子「は、ハレンチです!」
一年生女子「先輩たちはうぶだなー。だから、処女なんですよ」
生意気娘「わたしたちは関係ねえだろ!?」
副部長「ていうか、あたしは処女じゃない! なんなら、お前より経験豊富なんだからな!」
無口っ子「……」ツンツン
幼馴染「……?」
無口っ子「ちゃんと避妊した?」
幼馴染「はあ!?」
一年生女子「するわけないじゃないですかー。生のほうが気持ちいいですもんね、部長」
生意気娘「こ、このあばずれ女! 黙りやがれ!」
真面目っ子「へ、変態です!」
元気っ子「ちょっと、カミナリ! 鼻血出てるよ!」
副部長「生はあたしも経験してない……気持ちいいんですか?」
幼馴染「知らねえよ! 処女の私が知るわけねえだろ!!!!!」
西高顧問「なにしとるんじゃ、お前ら……」
男「やっぱ、西高って強いんだな」
幼馴染「たいしたことないってば」
男「でも、準決勝でダブルスコアだぜ?」
幼馴染「副部長が絶好調でシュートを落とさなかったから、ああいう展開になっただけ。そこまでの実力差はないよ」
男「確かにあの子も良かったけど、幼のほうが目立ってたし、チームに貢献してたと思うけどなあ」
幼馴染「ありがと! 今日は気合入ってたから、いつもよりいいプレーできたかな!」
男「準決勝だもんな。気合入るよな」
幼馴染「鈍いなー」
男「えっ?」
幼馴染「男が応援に来てくれたからだよ」
男「……動機が不純すぎる」
幼馴染「その割には嬉しそうですねー」ニヤニヤ
男「あー、はいはい。ちょっと急ごうぜ。バスに乗り遅れる」
幼馴染「バス?」
男「なんだよ。買い物に行くんだろ?」
幼馴染「バスに乗るの? 歩いて帰れるのに?」
男「えっ?」
幼馴染「えっ?」
幼馴染「は、はあ!? 一旦、家に帰るに決まってるじゃん!」
男「なんで?」
幼馴染「私はバスケの試合してきたんだよ!?」
男「見てたから知ってるけど……」
幼馴染「なら、わかるでしょ!」
男「……?」
幼馴染「汗かいてるじゃん!」
男「ああ、そういうこと。別に気にならないけど?」
幼馴染「変態! 変態!! 変態——————!!!」バチン
男「素直に言えばこれだもんな……」
男「そこまで怒ることでもないような……」
幼馴染「うるさい! とにかく、私は家に帰ってシャワー浴びてくるから!」
男「……」
幼馴染「何よ! 文句あるの!?」
男「制服はどうする?」
幼馴染「着替えるに決まってるでしょ」
男「……そうか。じゃあ、俺も着替えてくるかな」
幼馴染「そういえば、どうして制服着て来たの? 男は応援に来たんだし、私服でもよかったのに」
男「……したかったんだよ」
幼馴染「へっ?」
男「制服デートしたかったんだよ!」
幼馴染「なんで? 服装なんてなんでもいいじゃん」
男「男心がわかんないかなあ……」
幼馴染「ほら、これでいい?」
男「お、おう……」
幼馴染「まったく。シャワー浴びたのに、なんでまた、制服着ないといけないの」
男「嫌なら無理しなくてもよかったのに……」
幼馴染「よく言うわよ。この世の全てが終わったような顔してたくせに」
幼馴染「休日に制服デートとかあんまりないよね」
男「そうか? 俺の友達はしたらしいけどな。といっても、そいつは私服で、彼女だけ制服だったらしいけど」
幼馴染「あー。それならあるかもね」
男「……いや、ないだろ」
幼馴染「片方が制服なのはよく見かけるよ?」
男「制服は制服でも中学校の制服だぞ」
幼馴染「なにそれ……その友達はロリコンなの?」
男「変態なのは間違いねえだろうな……」
男「むしろ、ノリノリだったらしいぜ」
幼馴染「……こういったらなんだけど、変態カップルじゃん」
男「そうかもな。教室で抱き合ったりしてるし」
幼馴染「人前でそんなことよくできるね」
男「だよなー」
幼馴染「……」
男「……」
幼馴染「いや、私も公園で抱きついてるし……なんなら、後輩たちの前でだって……」
男「俺も受け入れちゃってるしな……」
幼馴染「……人のこと言えないね」
男「まったくだ……」
・
・
???
男友「?」
???「どうしたのですか?」
男友「誰かに馬鹿にされたような……」
???「誰にです?」
男友「わからないけど……」
???「誰かもわからないような人間の思念を感じるより、貴方の傍にいる女性の感情に気を配るべきだと思いますよ」ギュウ
幼馴染「黒蜜抹茶あずき!? なにこれ、気になるんですけど!」
男「ああ、そう……」
幼馴染「でも、オーソドックスにチョコバナナにしようかな……男はどれがいいと思う?」
男「なんでもいいよ……」
幼馴染「なによ、その投げやりな答えは! 真剣に考えてよ!」
男「じゃあ、これでいいんじゃねえの」
幼馴染「キャラメル生クリーム! それも美味しそう! ……って、おい! 食べたいものが増えちゃったじゃないか!」
男「知らねえよ……」
男「クレープ一つに選ぶのにそこまで悩むものかね」
幼馴染「だって、どれも美味しそうなんだもん」
男「いっそ全部食えば?」
幼馴染「そんなことできるわけ……いや、まてよ。副部長も据え膳食わぬは女の恥って言ってたし……」
男「俺が悪かった。頼むからクレープ全種類制覇なんて不健康なことはやめてくれ」
男「やっと決まったか」
幼馴染「男はどれにするの?」
男「俺はいいや。腹減ってないし」
幼馴染「えっ……」
男「じゃあ、頼んでくるわ」
幼馴染「ま、待って! 黒蜜抹茶あずきってね、大人の味なんだって……」
男「それにするのか?」
幼馴染「そうじゃなくて、その……」
男「……わかったよ。ちょっと待ってろ」
男「それは良かったな」
幼馴染「ねえねえ、黒蜜抹茶あずきはどう?」
男「美味しいよ」
幼馴染「一口貰ってもいい?」
男「もとよりそのつもりだったくせに」
幼馴染「えへへ。じゃあ、いただきまーす」ハムッ
男「!!?」
幼馴染「うん! 美味しい! 今度はこれにしよう!」
男「お、おま……」カァァ
幼馴染「どうしたの? 顔真っ赤だよ?」
幼馴染「クレープだよ? スプーンなんて使わないでしょ」
男「それにしたって、人の食いかけを躊躇もなく頬張るか!?」
幼馴染「そりゃ、知らない人のやつは無理だよ。でも、男だし。気にならないよ」
男「……」
幼馴染「なんでニヤニヤしてるの?」
男「そ、そんなことねえよ! ただ、その……ちょっと照れくさかっただけで」
幼馴染「照れるようなことかな」
男「じゃあ、やってやろうか?」
幼馴染「いいよ」スッ
男「……」
幼馴染「ほら、一口どうぞ」
男「や、やっぱり無理です……」カァァァ
幼馴染(なにこれ。超可愛いんですけど)
男「な、なんだよ」
幼馴染「頬にクリームついてるよ」スッ
男「!?!?」
幼馴染「……」パクッ
男「!!!!!?????????」カァァァァァァァ
幼馴染(やばい。男が可愛すぎて辛い)
男「ピュアな男子高校生を弄びやがって……」
幼馴染「だって、男の反応が可愛すぎるんだもーん」
男「あーそうかよ……」
幼馴染「こんなことで反応するとは思わないし」
男「こ、こんなことですと!?」
幼馴染「うん。私、抱きついたりしてるんだよ?」
男「……確かに」
男「さすがに慣れたっていうかさ」
幼馴染「な、慣れたですと!?」
男「だって小さい頃から事あるごとに抱きつかれてるんだぜ?」
幼馴染「何言ってんの? 昔は男が私に抱きついてたんじゃん。『幼ちゃん、助けてー』って。私からするようになったのはつい最近だから」
男「お、覚えてねえな」
幼馴染「そっか。じゃあ、男が泣きながら私にしがみついてる写真をお母さんに送ってもらうから待ってて」
男「がっつり覚えてます! すみませんでした!」
男「あーもう、やめてくれ」
幼馴染「たまにはいいじゃん。ねっ、あの頃みたいに幼ちゃんって呼んでみてよ」
男「……いいけど。後悔すんなよ」
幼馴染「するわけないじゃん」
男「幼ちゃん」
幼馴染「……っ」
男「幼ちゃん、バッシュ買いに行こうよ」
幼馴染「む、無理無理無理! マジ無理だって!!!」バシッ
男「こうなると思った……」
男「昔みたいに、ってリクエストしたのは幼だろ」
幼馴染「そうだけどさあ……」
男「ほら、もうスポーツ用品店だ。気持ち切り替えろよ」
幼馴染「……ねえ、ちょっと寄り道しようよ」
男「早くしねえと帰りが遅くなるし、また今度でいいだろ」
幼馴染「……」
男「な、なんだよ……」
幼馴染「男と一緒に行きたいの……」ウルウル
男「……っ」
幼馴染「おねがい……」
男「し、仕方ねえな! 今日だけだぞ!」
幼馴染「ちょろい!」
男「!!!!?」
幼馴染「男だってやったでしょ」
男「くっ……」
幼馴染「さあ、寄り道しようー!」
男「クレープ屋みたいに長居しねえぞ」
幼馴染「大丈夫。男が協力してくれれば早く終わるから」
男「協力? なにさせようってんだ」
幼馴染「なんでしょう?」
男「……まあ、幼が楽しいのならできるだけのことはしてやるよ」
男「無理」
幼馴染「なんでよ?」
男「俺がこういうの苦手なのわかるだろ!」
幼馴染「いやいや。表情作れる男さんにはぴったりじゃないっすかー」
男「それとこれとは別だろ!?」
幼馴染「あーあ。私が楽しいならなんでもするって、さっきは言ってくれたのになあ」
男「なんでもとは言ってねえよ!」
幼馴染「言いました」
男「お前の脳は都合のいいように記憶を改竄するんだな……」
幼馴染「さあ! 張り切ってプリクラ撮りましょう!」
男「……どうしてこうなった」
男「楽しかったのならなによりです……」
幼馴染「じゃん! 手鏡に貼ってみました!」
男「そんなものよく貼れるな」
幼馴染「そんなものとはなによ」
男「幼の隣の奴、酷い顔してるぞ」
幼馴染「そうかなあ?」
男「プリクラって仏頂面で撮るもんじゃねえだろ」
幼馴染「男が笑顔で写ってるほうが貼れないかな」
男「え、なにそれ。笑ってるほうが気持ち悪いってこと?」
幼馴染「違うよ。そうじゃなくってさ。男って滅多に笑わないじゃない? たぶん、男が笑ってるところを見たことあるのって、家族以外だと私くらいだと思うんだよね」
男「まあそうだろうな」
幼馴染「だから、貼りません。私しか知らない男の表情を他人に見せたくないもん」
男「……独占するほどの価値はねえよ」
幼馴染「私にとっては国宝級の価値があるんだよ?」
幼馴染「とうちゃーく!」
男「やっと着いた……」
幼馴染「もう。今日のメインディッシュなのにテンション低すぎるよ」
男「……前菜の量が多すぎてな」
幼馴染「いやいや。むしろ少ないくらいだから」
幼馴染「へっ? 男が選んでくれるんじゃないの?」
男「俺が選んだって仕方ないだろ。幼が履くんだから」
幼馴染「わかってないなあ。私が履くんだから、男が選ぶべきでしょ」
男「いやいや、バッシュの良し悪しなんて俺にはわかんねえし……」
幼馴染「……ちっ」
男「な、なんだよ?」
幼馴染「男が選んだバッシュがいいの! 最後に履くバッシュは男に選んで欲しいの!」
男「……」
幼馴染「この鈍感!」
幼馴染「履いてみるね」
男「……」
幼馴染「サイズはちょうどいいかな」
男「デザインとか……大丈夫?」
幼馴染「それはむしろ、私が訊きたいかな。どう似合ってる?」
男「……うん。よく似合ってるよ」
幼馴染「じゃあ、決定だね!」
男「本当にいいのか……?」
幼馴染「男が選んでくれた物ならなんでもいいの」
男「でも……」
幼馴染「ありがとう、男。大切にするね」ニコッ
男「……だから、その笑顔は反則なんだって」
男「幼の希望通り、三万だよ」
幼馴染「さ、三万!? 馬鹿じゃないの!!」
男「……えっ」
幼馴染「こんなの買ってもらえないってば!」
男「えっ」
男「だって、幼は三万円以上のバッシュしか履かないんだろ? 高ければ高いほどいいって言ってたじゃないか」
幼馴染「そんなこと……言って……ま……すね……」
男「だろ? 遠慮するなよ」
幼馴染「え、えっと……」
???「やはりそうだったのですね」
男「……ど、どうして君がここに!?」
幼馴染「……?」
後輩「お久しぶりです。男先輩」
後輩「私の思った通りです。男先輩は大切な人にプレゼントを贈るためにバイトを始めたのですね」
男「!!!?」
後輩「先輩は美人局に騙されているなんて捻くれた推理をしていましたが、私の想像通りだったということですね」
男「友の野郎……!」
男「そうそう。北高の一年生」
後輩「私の彼氏と男先輩が友人関係でして」
幼馴染「ああ! 男がさっき言ってた変態……」
後輩「そうなのです。先輩は変態さんなのです」
幼馴染「いや、君も充分……」
後輩「なにか?」
幼馴染「な、なんでもない! なんでもないよ!」
幼馴染「あ、やっぱり? 私もそう思ってたんだ」
男「バスケじゃない?」
後輩「バスケ……ま、まさか、貴女は西高女子バスケ部の部長さんでは!?」
幼馴染「そうだけど……。私を知ってるってことは、君は北高バスケ部とか?」
男「違うよ。この子は……」
後輩「ずっと前からファンでした!」
幼馴染&男「……へっ?」
・
・
男友「……何してんだ」
男「おー、友か。いま、写真を撮ってるところだよ」
後輩「次は腕を組んでもいいですか!?」
幼馴染「い、いいよ……」
男友「あれ、誰?」
男「美人局ではないことだけは確かだな」
後輩「……はい。残念なことに」
幼馴染「だから、私のこと知ってたんだ。ミニバスの時に試合したことあったもんね」
後輩「私のこと憶えていてくれたのですか!?」
幼馴染「北小ミニバスの天才少女を忘れるわけないじゃん」
後輩「天才少女なんてそんな……」
幼馴染「いやいや。本当に凄かったよ。君ほど強烈なドリブラーを知らないもん」
後輩「ああ……憧れの人にそんなに褒めてもらえるなんて……幸せです……」
男友「……」グググッ
男「落ち着けよ。目が血走ってんぞ」
男「ああ。親が仲良くてな。それで小さい頃からよく遊んでたんだ」
男友「……わかんねえなあ」
男「なにが?」
男友「ああいう可愛い子と小さい頃から交流があったのに、なんで今のお前は女性恐怖症なの?」
男「女性恐怖症とかじゃねえから! ただのコミュ障だから!」
男友「なおさらダメじゃねえかよ」
男友「ごめんな。声かけようと思ったんだけど、男に捕まっちゃってさ」
男「お前から話しかけてきたんだろうが……」
幼馴染「えっと……」
男「ああ、ごめん。こいつがさっき話した友達」
後輩「そして、私の彼氏でもあります」
男友「どうも」
幼馴染「君がロリコンの……」
男友「は?」
後輩「そうです! 変態さんなのです!」
幼馴染「……」ジト
男友「え、ええ!?」
男「事実だろ」
男友「どこがだよ!? 俺はロリコンじゃねえよ!」
後輩「そうですよ。先輩はロリコンではありません」
男友「そうだそうだ!」
後輩「先輩はロリでも熟女でもなんでもOKの変態さんなのです」
男友「そうだそう……えっ?」
幼馴染「うわ……」
男友「フォローになってない! フォローになってないから!」
男友「ならいいけどさ……」
男「嘘つけ。ドン引きしてたくせに」
幼馴染「ちょっと! せっかくフォローしたのに台無しじゃない!」
男友「……」
幼馴染「せっかく友達ができたんだから、大切にしなさいよ!」
男「おい。その言い方だと、まるで俺に友達がいなかったみたいに聞こえるんだが」
幼馴染「実際そうでしょ」
男「いや、俺には幼がいるしな」
幼馴染「……っ! わ、私は友達じゃないもん!」
男「なんだって!?」
幼馴染「男の友達なんて絶対やだ!」
男「う、嘘だろ……」
男友(なるほど。そういうことか)
男友「俺に任せて」
後輩「先輩……?」
男友「えい」ベシ
男「なにすんだよ!」
男友「ちょっとツラ貸せ」グイッ
男「わかった! わかったから引っ張るなよ!」
男友「まあ、ここら辺でいいか」
男「ったく……なんだよ」
男友「で、お前、いつ告白すんの?」
男「は、はあ!?」
男友「だって、あの子のこと好きなんだろ。告白すればいいじゃん」
男「なんでわかった!?」
男友「普段のお前を知っている奴なら、どんな馬鹿だってわかるだろうよ」
後輩「だ、大丈夫ですか?」
幼馴染「やっちゃった……もう終わりだ……」
後輩「そんなことないですって!」
幼馴染「でも、あんな酷いこと言っちゃったんだもん……もう許してくれないよ」
後輩「そこまで酷くはないような……だって、一人の女の子として見て欲しいってことでしょう?」
幼馴染「そうだけど……なんでわかるの?」
後輩「見てればわかりますよ。幼先輩は男先輩のことが好いているのですよね」
幼馴染「!!?」
後輩「それにしても、友先輩は鈍感すぎますね。初対面の私でもわかるくらいなのに、幼先輩の気持ちに気付かないなんて」
幼馴染「……私、そんなにわかりやすい?」
後輩「わからないほうがおかしいと思いますよ」
男「アホか。勝ち目のない勝負なんてしねえよ」
男友「勝ち目あるだろ。なんなら勝率100%まである」
男「お前、話聞いてなかったの? 友達じゃないって言われたんだぞ」
男友「だってお前、あの言葉の意味を理解してるだろ」
男「……」
男友「鈍感主人公とか現実にいるわけねえから」
後輩「いや、それはいいのではないですか……」
幼馴染「そ、そうだよね! むしろ私の想いに気付いてくれたほうが……ううん! ダメだよ!」
後輩「どうしてですか?」
幼馴染「フラれちゃう!」
後輩「……は?」
幼馴染「もうダメだ……男が帰ってきたら、フラれちゃうんだ……」
後輩(鈍感ヒロインって実在したんだ……)
男「……タイミングがあるだろうが」
男友「タイミングねえ……」
男「幼は大会中なんだよ。そんな時期に告白したって迷惑だろ。これから受験だってあるし、大学生になって落ち着いてから……」
男友「それが告白しないことを正当化する言い訳か?」
男「……っ」
男友「大学生になろうが社会人になろうが、今のお前のままなら告白しねえよ」
幼馴染「無理だって! フラれちゃうよ!」
後輩「わかりませんよ。もしかしたら、OKされるかもしれません」
幼馴染「そんな可能性はないよ! 0%だよ!」
後輩「どうしてそう思うのですか?」
幼馴染「さっき聞いてたでしょ!? 男は私のことを友達としてしか見てないんだよ」
後輩「ならば、なおさら告白するべきです。そうすることで、幼先輩を女性として見てくれるはずです」
幼馴染「そ、そうかもしれないけど……」
後輩「待っているだけでは何も変わりませんよ」
男友「気持ちはわかる。でも、何もしなくたって、いつか別れることになるんだぜ」
男「……わかってる。そんなことわかってんだよ」
男友「だったら、お前から動いてやれよ」
男「……」
男友「まあ、お前の好きにしろよ。ただ、これだけは言っておく。逃げ回るなら、あの子から離れろ」
男友「いつまでも待たせるなんて可哀想だ」
・
・
帰り道
後輩「そういう話をしていたのですね」
男友「まあ、気持ちは理解できなくもないんだけどね」
後輩「……私にはわかりません。幼先輩の気持ちに気付いているのなら、告白すべきですよ」
男友「さっきも話したけど、男は一歩踏み出すのが怖いんだよ」
後輩「それがわからないのです。今のままでも幼先輩と離れてしまう可能性はあるのです。実際、中学卒業してから最近までは会うこともなかったのでしょう? なのに、何もしないなんて……ただ、逃げているだけではありませんか」
男友「『好きな女を好きでいるために、その女から自由でいたいのさ』」
後輩「……なんですか、それ?」
男友「わかんねえだろうな……。お嬢ちゃんも女だもんな」
後輩「はあ……?」
男友「たぶん、男はそういう感じなんだと思うよ」
後輩「……幼先輩を好きでいるために自由でいようとしていると?」
男友「そういうこと。確かにあの子は男のことを好きかもしれない。でも、付き合ってみたら、男の悪い面を知って嫌いになってしまうかもしれない。もちろん、その逆だってあり得るんだけどさ」
男友「実際、そういうカップルっているじゃない。付き合ってみたらなんか違った、みたいな。そうなると、関係は破綻しちゃうじゃない。でも、友達のままでいて、相手に彼氏が出来たとしても、友達としてはいられるでしょう?」
後輩「確かにそれはそうですが……」
男友「別れたくないから、付き合わない。そういう人だっているんだよ」
男友「あの子から告白するまではそうなるだろうね」
後輩「それは難しいでしょう……」
男友「あの子、本当に男の気持ちに気付いてないの? あんなにわかりやすいんだよ。いくらなんでも鈍感すぎない?」
後輩「というよりも、自分に自信がないのですよ。自分のことを好きになってくれるはずがない、って思いこんでいるのです」
男友「……そんな弱気になるものなの?」
後輩「女の子ってそういうものですよ。好きであればあるほど、弱気になってしまうものなのです」
後輩「でも、だからこそ、恋が実ったときに幸せになれるのです。私たちだってそうだったでしょう?」
男友「……そうだな」
後輩「あの二人にも幸せになってほしいのですが……」
男友「……本当、うまくいくといいんだけどな」
・
・
帰り道
男「……」
幼馴染「……お、男」
男「……ん? どうした?」
幼馴染「さっきはごめんね……」
男「さっき?」
幼馴染「ほら、友達じゃないとか……」
男「ああ、あれか。別にいいよ。本心ではないだろ?」
幼馴染「う、うーん。本心ではあるけど、意味合いが違うというか……」
男「いいよ。わかってるから」
幼馴染「本当……?」
男「大丈夫だって。気にすんな」
幼馴染「……じゃあ、なんでそんな落ち込んでいるの?」
男「……落ち込んでないって」
幼馴染「ううん。友くんと戻ってきてからずっと、落ち込んでる。友くんと何かあったの?」
男「ないよ。何もない」
幼馴染「嘘だ。私の発言が関係ないなら、友くんと話している時に何かあったとしか考えられないもん」
男「いや、だから、何も……」
幼馴染「私に隠し事できると思ってるの?」
幼馴染「男が落ち込んでいるのかくらい、顔見ればわかるんだからね」
幼馴染「何か思い悩んでいるような顔してる」
男「……すごい特殊能力を持ってんだな」
幼馴染「一体、何があったの?」
男「俺のことなんてどうだっていいだろ……」
幼馴染「良くない! 男は私にとって大切な存在なの!」
男「……っ」
幼馴染「……男?」
男(俺はお前の気持ちをわかっていながら、自分が傷つかないように逃げまわっているのに……)
幼馴染「どうしたの?」
男(なんでお前は、そんな俺を大切にしてくれるんだよ……)
幼馴染「どうしてそんなこと言うの……?」
男「俺は……お前を騙してたんだ。ずっと前から」
幼馴染「……どういうこと?」
男「お前の気持ちに気づいてた」
幼馴染「なっ……!」
男「わかった上で、お前の気持ちから逃げまわってたんだ……」
男「本当だよ。あんなにわかりやすいのに気がつかないわけないだろ」
幼馴染「……っ」
男「さらに質が悪いことに……」
男「俺は幼が好きなんだよ」
幼馴染「!!?」
男「俺が言うのもあれだけど、気がつかなかったのは幼だけだぜ……」
幼馴染「そ、そんな……」
男「これでわかっただろ。俺がどんなに……」
幼馴染「……」ギュ
男「えっ……?」
幼馴染「ごめんね……」ギュウ
幼馴染「男の気持ちに気づいてあげられなかった。傍にいたのに何もわからなかった」
幼馴染「……もし、私が気付いていれば、男にいろんなことを背負わせることなんてなかったのに」
男「違うよ。幼が気付いて俺に告白したとしても、きっと俺は逃げていたから……」
幼馴染「逃がさないもん」
男「……っ」
幼馴染「男が私のことを好きなんだとすれば、手放す理由がないもん」
男「でも……」
幼馴染「言いたいことがあるなら、一応、聞いてあげる」
男「……付き合ったとして、別れてしまったら終わりなんだぞ?」
幼馴染「別れなければいいじゃん」
男「そりゃそうだが……」
幼馴染「もう面倒な人だなあ……」グイッ
男「なっ……」
幼馴染「……」チュ
男「!!?」
幼馴染「今の私のファーストキスだから」
幼馴染「責任取ってよね」
幼馴染「男に好きって言われたからね。そりゃ、強気になれますよ」
男「……俺の言葉にそこまでの価値はねえけどな」
幼馴染「好きな人の言葉にはあるんだよ。例えば……」
幼馴染「大好き」
男「……っ」
幼馴染「ねっ? すごいでしょ?」
男「……確かに。自信もてますね」
幼馴染「でも、私たちなら大丈夫だよ。ううん。私たちじゃなきゃ乗り越えていけない」
幼馴染「大好きだよ、男。私と付き合ってください」
男「……俺も大好きです。宜しくお願いします」
幼馴染「よく出来ました!」チュ
男「そういえば、バッシュは本当にそれで良かったのか?」
幼馴染「あー、それはね……」
男「……なんだよ?」
幼馴染「実は……安いやつでも良かったんですよ……」
男「ええ!?」
男「でも、バスケって年末まで大会があるんじゃないのか?」
幼馴染「3年生も私しかいないじゃない? だから、私が総体で引退すれば、ウインターカップから2年生の新チームで臨めて、来年度の強化になるじゃない」
男「……そんなのお前が考えることじゃないだろ」
幼馴染「まあ、そうなんだけどさ。プレーもうまくいってなかったし、もういいかなって思ってて」
男「今も思ってるのか?」
幼馴染「ううん。今は男のおかげで立ち直ることができたし、ウインターカップまでやるつもりだよ! バッシュも買ってもらえたしね!」
男「そっか。頑張れよ」
幼馴染「うん。ありがと!」
男「まあ、そうだな。俺の一カ月の労働は何だったんだって話だな」
幼馴染「だよね……」
男「だから、意味を持たせてくれよな」
幼馴染「えっ?」
男「またデートしようぜ」
幼馴染「……うん!」
男「おいおい。もう決めるのかよ。日程もわからないのに」
幼馴染「だって、楽しみなんだもん」
男「まだまだ金はあるから、どこでもいいぞ」
幼馴染「それなら、行ってみたいところあるんだ」
男「どこだよ?」
幼馴染「ラ・ブ・ホ」
男「!!?」
幼馴染「なーんてね。付き合ったばかりでそれはないよね」
男「だよな……」
幼馴染「あれ? 少し、期待しちゃった?」
男「……うるせえな」
放課後 帰り道
男「同窓会?」
幼馴染「うん。今度の土曜日にやるんだって。夏休みに入ると、みんな忙しいだろうから、その前にやりたいみたい」
男「5月くらいにやったんだろ? 同窓会って1年に一回くらいじゃないのか」
幼馴染「この間集まった時に盛り上がったからね。近いうちにやろうってことになったんじゃない」
男「ふーん……」
幼馴染「今回は一緒に行こうね!」
男「いや、行かないけど」
幼馴染「言うと思った……」
幼馴染「大丈夫。幹事に言っておいたから。男も連れていくから、って」
男「……前から聞きたかったんだけど、幹事って誰がやってんの?」
幼馴染「生徒会長覚えてる? あの人だよ」
男「あー……やっぱり、あいつか」
幼馴染「同窓会関連では、ね。それ以外でもメールくることはあるけど、忙しいからあんまり返信してないよ」
男「そっか……」
幼馴染「……」ニヤニヤ
男「……何だよ」
幼馴染「安心してくれたみたいで良かったなー、と思ってさ」ニコッ
幼馴染「男が行かないなら、私も出ないよ」
幼馴染「……なんて言うと思った?」
男「えっ」
幼馴染「期待してるようだから、ちゃんと言っておくけど私は出るよ。友だちと会える機会だもん。そして、男も必ず連れていく」
男「だから、俺はいいって」
幼馴染「ダメ。一緒に来て、クラスのみんなにちゃんと報告しようよ」
男「何をだよ」
幼馴染「私たちが付き合ってること」
男「……誰も信じないんじゃない?」
幼馴染「その場合はキスでもするよ」
男「でも、俺が行ったら場を盛り下げるだけだし……」
幼馴染「私は楽しいけどね」
男「どうしていいかもわかんないし……」
幼馴染「私の傍にいればいいよ」
男「それに、会いたくない奴だって……」
幼馴染「私に会えればそれでいいでしょ」
男「……」
幼馴染「まだ続ける?」
男「……行かせていただきます」
昼休み 北高 3年生教室
男(同窓会か……あいつも来るんだよな。幹事だもんなあ……)
???『君はあの子に相応しくない』
男(……相応しくない、か……)
女「なーに、暗い顔してんのよ」ペチ
男「……」
女「え、何で泣きそうなの? 気持ち悪いんだけど」
昼休み 北高 3年生教室
男(同窓会か……あいつも来るんだよな。幹事だもんなあ……)
???『君はあの子に相応しくない』
男(……相応しくない、か……)
女「なーに、暗い顔してんのよ」ペチ
男「……」
女「え、何で泣きそうなの? 気持ち悪いんだけど」
男「仕方ねえだろ。幼が付き合ってることをみんなに報告したいから一緒に来てって言うんだから」
女「なにそれ、大丈夫なの?」
男「……まあ、暗黒の中学時代に養ったスキルを駆使すれば、多少の恥ずかしさぐらいどうにでもなるさ」」
女「いや、君のことはどうでもいいんだけど」
男「少しくらい心配しろよ」
女「それは幼の仕事でしょ」
男「なんで、幼が悪く言われるんだよ」
女「いいかい? 女の子ってのはね、格付けしたがる生き物なの」
男「ああ、バラエティ番組でやってたな」
女「あんなもんじゃないよ。普通の女子はもっと陰湿」
男「陰湿……」
女「あ、陰湿って言葉がわからない? ええっと、陰湿の意味はね……」
男「それくらいわかるわ!」
男「お前に苦手な物があったとは驚きだね」
女「私だって女の子なの。で、さっきの話の続きだけど」
女「女子っていうのは、周囲の人間を格付けしていくわけよ。容姿、偏差値、部活の成績……色んな事で格付けするの」
男「それで言ったら、幼って上位になるんじゃないの?」
女「まあ、そうだね。スタイルはいいし、顔も可愛い。勉強だって西高に入るくらいだから悪くはない」
男「だろ?」
女「ドヤ顔しているところ悪いけど、君のせいで彼女が上位から最下層に一気に転落することになるかもしれないんだよ」
男「えっ?」
女「言ったでしょ。格付け内容は多岐にわたるって。彼氏の出来っていうのも、重要な審査ポイントなのよ」
男「……俺の出来なんて、幼の評価には関係ないだろ」
女「そういうわけにはいかないのよ。女の子にとってわね」
男「……」
女「……どうしたの男くん?」
男「あいつの言うことは正しかったんだな……」
女「えっ?」
???『君はあの子に相応しくない。君が傍にいるだけで、あの子の評判が悪くなってしまうよ』
男「……その通りだよな」
女「お、おーい」
男「……」ズーン
女(あれ? 私、余計なこと言っちゃった?)
女「い、妹……」
男「……」
後輩「……男先輩、どうしたのですか? 顔真っ青ですよ?
男「……放っておいてくれ」トボトボ
後輩「……どうしたのですか?」
女「さ、さあ……」
後輩「まさか、お姉ちゃん……」
女「わ、私は何もしてないってば! 妹に誓って、男くんを言葉責めしてない!」
後輩「私に誓ったところでたいした効力はないと思いますよ……」
男(……どうしよう。このままじゃ、幼が悪く言われてしまう)
男(やっぱり、同窓会に行かないほうが……いや、ダメだ。俺が行かないとしても、幼は参加するんだ)
男(そうなった場合、あいつが何をするか……)
生意気娘「他校の正門前で陰気な空気漂わせてんじゃねえよ」
男「キョンさん……」
生意気娘「お前といいマネージャーといい、あだ名にさん付けするのが流行ってんの? それともただ馬鹿なの?」
男「……キョン吉?」
生意気娘「OK。わたしを馬鹿にしたいってことだな」
男「性格、かな……」
生意気娘「まあ、見るからに根暗だもんな。本当、お前と部長って正反対だよな」
男「ですよね……」
生意気娘「それそれ、そうやってぼそぼそ話すとこな」
男「どうしたらいいのかな……?」
生意気娘「そうだな。性格はそうそう直らねえだろうけど、話し方とか工夫すれば? それだけで印象は随分変わるから」
男「それだけで……?」
生意気娘「ああ。他には服装とか髪型を変えたりとかな。そうすりゃ、見た目上は爽やかな感じになるだろうよ」
男「爽やかな感じに……?」
生意気娘「そうだよ。お前だってちゃんと努力すれば、彼氏っぽくなるんじゃねえの」
男「それだ!」ガバッ
生意気娘「!?」
生意気娘「ば、馬鹿! 離せよ!」
男「あ、ごめん……」
生意気娘「やめてくれよ……こんなところ部長に見られたら、何本ダッシュさせられるか……」
男「いや、さすがに私怨で罰走させたりしないでしょ……」
男「うん! 是非、アドバイスしてほしいんだ!」
生意気娘「あー、その悪いんだけど……わたしはそういう話、向いてないんだよ」
男「でも、さっきは教えてくれたじゃないか」
生意気娘「あれは一般論を言っただけだ。具体的にどうすればいいってのはわからない」
男「じ、じゃあ、他に誰かそういうことに詳しい人はいないかな?」
生意気娘「そう言われてもな……」
???「珍しい組み合わせだねー」
生意気娘「そうだ。身近に恋愛脳がいたんだった」
副部長「へ?」
男「どうにもならないくらい釣り合ってない……?」
副部長「そんなことないですよ。まあ、男さんと部長は、その……意外性のあるカップルではありますが……」
生意気娘「お前、言葉を選べたのか……」
副部長「あんたとは違ってね。それで、あたしが難しいと思うのは、男さんどうこうってよりも、部長の気持ちなんです」
男「幼の気持ち?」
副部長「そうですよ。周りがどう思おうと、部長が男さんに満足しているのなら、無理にイメチェンする必要はないわけです」
副部長「でしょ? 下手にイメチェンしたほうが、部長はショック受けそうじゃない?」
生意気娘「そうか? それはそれで賞賛しそうだけど」
副部長「確かに……」
男「え、えーと……」
生意気娘「まあ、特に変わる必要はないんじゃねえの」
副部長「そうそう。そのままでいいと思いますよ」
男「でも、俺がこのままだと幼が悪く言われるんだよ!」
副部長「部長が?」
生意気娘「誰に何を言われるんだよ?」
男「……中学の同級生に、あんな彼氏と付き合うなんて、みたいな……」
生意気娘「……むしろ、そんなこと言った人間に同情するね」
副部長「まったくダメージを受けないどころか、目を輝かせて男さんの話をするんだろうなあ……」
男「……?」
生意気娘「助ける必要ないし」
副部長「むしろ、手を出したほうが怖いですし」
生意気娘「確かに。こうやって、話していること自体、見つかったらどうなるか……」
副部長「そういえば、キョン、男さんと二人で話してたよね」
生意気娘「お、おい! 部長には言うなよ!」
副部長「言うわけないじゃない。連帯責任でバスケ部全員が罰走させられそうだし」
生意気娘「ははは。月まで走れ! とか言いそう」
???「月? 甘い甘い」
副部長&生意気娘「あ」
幼馴染「木星まで走りなさい」
副部長「ち、違うんです!」
幼馴染「何が違うの?」
副部長「確かにあたしは男さんとお話をしていましたけど……」
幼馴染「さて、木星までの距離を検索しようかな」
副部長「ちょっと、待ってくださいって! あたしは被害者なんです! 巻き込まれただけなんです! 罰するならこの二人だけにしてください」
幼馴染「……どういうこと?」
副部長「あたしが正門に来たら、男さんとキョンが二人で仲睦まじく話をしていたんです!」
幼馴染「……」
生意気娘「お、おい! わたしはただ、こいつの相談にのってただけだ!」
男「そうなんだ! 彼女は俺の話を聞いてくれていただけで……」
幼馴染「……うん。わかった」
幼馴染「そんなに仲いいなら、二人で海王星まで走ってきなよ」
男&生意気娘「!!?」
男「冗談にしては顔がマジだったけどな……」
生意気娘「あんなに低い声、初めて聞きましたよ……」
幼馴染「それで、キョンに何を相談したの?」
男「……言えない」
幼馴染「そう。無理には男から聞かないよ」
男「ありがとう……」
幼馴染「キョン、何を相談されたの?」
生意気娘「どうすれば部長に相応しい彼氏になれるかって相談されました!!」
男「聞いてんじゃねえかよ!」
男「屁理屈言いやがって……」
幼馴染「それで、何なのよ、それ。私に相応しい? 馬鹿なこと言わないで」
生意気娘「ぶ、部長……でも、こいつも真剣に悩んでるみたいで……」
幼馴染「キョン吉は黙ってなさい。Tシャツに閉じ込めるわよ」
生意気娘「!?」
幼馴染「私には男しかいないの。相応しいとかじゃなく、男じゃなきゃダメなの」
男「……っ」
幼馴染「だから……」
幼馴染「少しくらい自信持ちなさいよ——!!!」バシッ
男「!!!?」
副部長「ほら、言ったじゃないですか。無理にイメチェンなんてする必要ないって」
幼馴染「なに? イメチェン? そんなことしようとしてたの?」
男「……キョンさんが髪型とか話し方を工夫すれば爽やかな感じになって、幼の彼氏っぽくなるんじゃないかって言うから」
生意気娘「ば、馬鹿! それは黙ってろよ!」
幼馴染「爽やかな、男……?」
副部長「あんたさあ……部長の男さんへの溺愛っぷりを間近で見といて、それはないんじゃない」
生意気娘「しょうがねえだろ! つい言っちまったんだから!」
副部長「多方面に悪態つかないと生きていけないわけ? あんたのトラブルメーカーぶりには辟易するわ……」
男「いや、彼女は事実を言っただけで……」
副部長「だから、部長は男さんに不満なんかなくて、むしろ大満足なんです。ね、部長?」
幼馴染「……」
副部長「部長?」
・
・
・
男『おはよう、幼。今日も可愛いね』ニコッ
・
・
・
幼馴染「え、えっ……そんな爽やかな笑顔で私を見つめないでよ……可愛いだなんて、そんな……」カァァァ
男&生意気娘&副部長「えっ」
男「さ、さあ……」
幼馴染「……はっ!」
副部長「あ、正気に戻った」
幼馴染「わ、私はいまの男が大好きだし、全然変わる必要なんてないと思ってるよ! うん! ぜんぜんこれっぽちも思ってない!」
男「お、おう……」
幼馴染「で、でもね、一応、その……男のいろんな可能性を探っておきたいんだ…… あ、違うよ! いまの男に不満があるわけじゃないからね!」
男「うん……?」
幼馴染「だから、その……男のイメチェン案を出してくれないかな?」
男「……はあ?」
生意気娘(……つまり)
副部長(妄想のネタをよこせと……)
生意気娘「いや、わたしたちに聞かれても……」
副部長「ねえ……」
幼馴染「なんでもいいの! こんな男が見てみたいとか、こんな感じならカッコいいだとか! 願望全開の妄想でいいから!」
生意気娘「それなら、部長一人で妄想に耽ってればいいじゃないですか……」
無口っ子「……オラオラ系」
幼馴染「!」
男「うわっ!」
副部長「ムッティ、いたの!?」
無口っ子「……部長と一緒に来てたよ」
生意気娘「おいおい、こんないかにもオタクっぽい根暗男子がオラオラ系とかあり得ねえだろ……」
副部長「まあ、典型的な草食系だよね」
男「自分で言うのもなんだけど、俺ってドMなんだよね……」
無口っ子「……どう、部長?」
幼馴染「……」
・
・
・
男『おい、早く脱げよ。……もう我慢できねえんだよ』
・
・
・
幼馴染「あ、慌てなくても、私は逃げないってばあ……」
男&副部長&生意気娘「 」
幼馴染「よ、夜の個人レッスンだなんて……いくらでも居残りたくなっちゃうよ……」
・
無口っ子「……ドS」
幼馴染「男に触られたら、どこだって気持ちよくなっちゃうの……」
・
無口っ子「……甘えん坊」
幼馴染「ふふふ。ここをどうして欲しい?」
・
生意気娘「そろそろ止めないと、部長枯れるんじゃねえか……」
副部長「……アレを見てもまだ、イメチェンしたいですか?」
男「……」
幼馴染「……」
男「あのさあ……」
幼馴染「やめて。何も言わないで」
男「恍惚とした表情で妄想の世界に入り込んでるお前を見せられたんだから、一言くらい言わせてくれよ」
幼馴染「いいじゃない。妄想の中でくらい愉しんだって」
男「それは人前でやることじゃねえだろ!」
幼馴染「そ、それは、遠回しに私をベッドへ誘ってるの……?」
男「まだ妄想の世界から抜け出せてないのかな?」
幼馴染「もともと、馬鹿げた悩みだったけどね。どうして、私の気持ちを置き去りにして、周囲の視線を気にしちゃうかな」
男「……俺のせいで、お前が悪く言われるなんて嫌なんだよ」
幼馴染「私はそんなのどうでもいいけど」
男「俺はよくねえんだよ!」
幼馴染「どうして?」
男「ど、どうしてって、それはお前……考えればわかるだろ?」
幼馴染「ちゃんと言ってくれないとわかんなーい」
男「……好きだからだよ」
幼馴染「えへへ。私も大好きだよ!」ギュウ
男「この抱きつき魔め……」ナデナデ
幼馴染「えー? これがまさに答えじゃん」
男「どこがだよ!?」
幼馴染「私は男が大好き。男のいろんな姿を妄想してキュンキュンしたり、道端で抱きついちゃうくらい、男に惚れてる」
幼馴染「そんな女の子が男のことで周囲に何かを言われてショックを受けると思う? むしろ、言った連中が泣いて許しを請うまで、男の良さを語ってやるわ
よ」
男「お前はそれでいいかもしれないが、俺は……」
幼馴染「……いい加減、気付いてくれないかな。そうやって、私のせいで男が悩んでるほうがショックなんだけど」
男「……っ」
幼馴染「ありがとう。心配してくれて。でも、本当に私は大丈夫だから。男が傍にいてくれれば、それで幸せなの」
幼馴染「いいよ。実は、男が私のことで悩んでるのは悲しい反面、嬉しくもあるんだ。私のことを大切に想ってくれてるんだな、って」
男「……俺には幼しかいないからな」
幼馴染「え、ええっ!?」
男「なに驚いてんだよ」
幼馴染「だって、男がそんなストレートに言うなんて……これは私の妄想の中、なの……?」
男「現実だよ」ギュウ
幼馴染「そ、そ、そんなに強く抱きしめられたら、私……」
男「大好きだよ、幼。ずっと俺の傍にいてくれ」ギュウウウウウ
幼馴染「気絶、しちゃう……」クラッ
・
・
数分後
幼馴染「……」
男「……」
幼馴染「……」チラッ
男「……」チラッ
男&幼馴染「!」プイッ
男(勢いあまって抱き締めた挙句、恥ずかしいこと言っちまったあああああ!)カァァァァァ
幼馴染(あんな強く抱きしめられるなんて! し、しかも、ずっと傍にいてほしいとかあああああ!)カァァァァァ
通行人(なんだこいつら。爆発しろ)
昼休み 西高 バスケ部部室
幼馴染「……」
副部長「……部長」
幼馴染「……あれ? 今日は一人なの?」
副部長「他のみんなは教室に戻りました」
幼馴染「どうして?」
副部長「誰もいない部室で一人にやにやしている部長を見て、恐ろしくなったんじゃないですかね」
幼馴染「そんなに私、にやついてる?」ニヤニヤニヤニヤニヤ
副部長「これ以上ないくらい緩みきってますよ」
幼馴染「そうなの! すっごい強い力でぎゅーってされて、ずっと俺の傍にいてくれ、って言われたの!」
副部長「きゃーーー! それ反則でしょ! そんなことされたら、女の子はイチコロですって!」
幼馴染「だよね! 私、クラクラしちゃった!」
副部長「うんうん! そうなりますよね! それで、その後は?」
幼馴染「私がクラクラしちゃってまともに動けなくなっちゃってさ、公園のベンチで少し休んで……」
副部長「ち、ちょっとストップ!」
幼馴染「なによ?」
副部長「部長の言う『クラクラして』っていうのは、心情じゃなくて、身体の話なんですか……?」
幼馴染「そうだよ?」
副部長「なんというか、部長らしいですね……」
幼馴染「うん。近くの公園のベンチで休ませてくれたよ」
副部長「おお! それでそれで?」
幼馴染「家に帰ったけど?」
副部長「少しでも期待したあたしが馬鹿でした」
幼馴染「いいの! 私は抱き締めてもらえただけで嬉しかったんだから」
副部長「部長ってコスパいいですね……」
幼馴染「そりゃ、それ以上のことだって望んでるよ? でも、今はこれで充分なんだ」
副部長「……そんなこと言ってたら、いつまで経っても処女のままですよ」
幼馴染「大丈夫。いざとなったら私が押し倒すから」
副部長「抱き締められただけで身体に異常をきたす人にそんなことできないと思いますよ」
幼馴染「……積極的だったらいいんだけどね」
副部長「違うんですか?」
幼馴染「たぶんだけど、男は安心したかったんだと思う。私を抱き締めてどうこうっていうのは何もなくて、ただ不安を払拭したかったんだよ」
副部長「ああ、そういえば男さん、悩んでましたもんね。部長が悪口を言われるって」
幼馴染「そんなこと気にしないのにね」
副部長「男さんは優しい人ですから。気になっちゃうんですよ」
幼馴染「うん。男は本当に優しいよ。……そこまで関わりのない副部長でもわかるくらい優しい人」
幼馴染「……なのに、どうして、あいつはわかってくれないんだろう」
男友「んじゃ、帰るわ」
女「あらあら、さっきまで机に抱きついていたのに、HRが終わったらすぐお別れなの?もっと、ゆっくりじっくりなんなら永遠に机と愛し合っていればいいのに」
男友「悪いな。どっかの負け犬とは違って、俺には世界一可愛い彼女がいるんでな。お前は黙って玉入れでもやってろ」
女「そうね。部活が終われば、愛しの妹との入浴タイムが待ってるもの。全力で頑張るよ」
男友「な、なんでだよ! 一緒に入らなくなったんじゃないのかよ!」
女「ふふふ。男くんが元気になったからもう解禁なの。あー、楽しみだわ。あの子の白くて柔らかい肌を堪能できるなんて」
男友「男おおおおおお!」
男「うるせえよ。俺は関係ないだろ」
男友「てめえ!」グイッ
男「だから、なんで俺なんだよ。女に文句言えよ」
女「そうよ。悔しかったら、自分だってすればいいじゃない」
男友「……結婚するまでは、なにもしないって決めてるんだよ」
男「美談のように聞こえるけど、ただ単にお前がヘタレってだけだよな」
女「まったく。そんなんだから、いつまで経っても童貞なのよ」
男友「どどどどどどどどど童貞ちゃうし!」
後輩「……へえ。どこの誰と卒業したのですか?」
男友「!!?」
後輩「ええ。先輩が男先輩の胸倉を掴んだところから」
男友「く、くっそ、女の発言を聞いてないのかよ……」
女「ねえ、妹。この童貞むっつりスケベがね、私たちが一緒にお風呂に入ってることに嫉妬してるの」
後輩「……先輩、前にも言いましたが、私たちは姉妹です。一緒にお風呂くらい入りますよ」
男友「高校生にもなって一緒に入らないよね!? それは小学生、いっても中学生までだよね!?」
後輩「仕方ないでしょう。私たちにはすれ違っていた期間があるのですから」
男友「百歩譲って一緒に入るのがいいとしても、女だぞ!? こいつは後輩の身体を触って悦んでるんだぞ!?」
後輩「面倒な人だなあ……だったら、先輩も触ればいいでしょう?」
男友「触ってもいいの!?」
後輩「以前からそう宣言していますけどね。先輩のしたいように私の身体を弄んでもらって構いませんよ」
男友「で、できないよ! なあ!?」
男「俺に聞かれても困るんだけど」
後輩「本当ですよ。私は離陸準備万端なのに、先輩は搭乗しようとしてくれません。おかげで私はいつまでも飛び立つことができないのです」
男友「ぐぬぬ……」
男「お前さあ……いい加減、覚悟決めろよ」
男友「うるせえ! お前だって、ヘタレ童貞の癖に! 彼女に何もできないくせに!」
男「お前ほどじゃねえけど」
男友「嘘つくな! お前が何をしたっていうんだよ!」
男「抱きしめた」
男友「!?」
男「それも結構、強めに」
男友「!!?」
男「まあ、たまにはな」
後輩「どんな状況でそうなったのですか? 後学のために是非教えてほしいです!」」
男「……感情的になったっていうか」
男「なんか、こう……ぐわーっと幼を抱き締めたい衝動に駆られてさ」
後輩「幼先輩が羨ましいです……」
男友「う……」
女「う?」
男友「裏切り者おおおおおお!」ダッ
男「あっ、逃げた」
男「大変だね、君も」
後輩「いいのです。こういうダメな部分も含めて好きなのですから」
男「友は幸せ者だな」
後輩「男先輩だって、幼先輩から愛されているでしょう」
男「……うん。俺も充分幸せ者だね」
後輩「ふふふ。お二人が順調で私も嬉しいです!」
男「……土曜日に試練が待ち受けているけどね」
後輩「えっ?」
男「いや、なんでもないよ」
男「行ってらっしゃい」
女「じゃあ、また後でね」
後輩「あ、お姉ちゃん」
女「なーに? お別れのキスでもする?」
後輩「男先輩に失礼なことをまた言ったら、お風呂はなしですからね」
女「もうしない! 絶対しないよ! 妹に誓って絶対しない!」
後輩「だから、私に誓っても大した効力は……」
男「ああ、よかった。それなら安心だ」
後輩「ある、みたいですね……」
女「えー? ちょっとくらい構ってよー」
男「は? お前には部活あるだろ。西高に勝って全国行くんだから、ちゃんと練習しろよな」
女「部活までちょっと時間あるしいいじゃん。土曜日の試練について聞かせてよ」
男「……聞こえてたのか」
女「面白そうな話を私が聞き逃すわけないでしょ」
男「……同窓会の幹事が厄介なんだよ。そいつは中学の頃、幼に惚れてて、猛烈アプローチをしてたんだ。まあ、幼は相手の好意にさえ気づいていなかったみたいだけど」
女「ふーん。でも、それは中学時代の話でしょ? 今も好意を抱いているのかわからないじゃない」
男「いや、間違いなく、想いは継続してる。前回の同窓会は5月。こんな短期間に同窓会をやるか?」
女「……なるほど。幼に会うために同窓会を開催してるわけね」
女「その君が、幼を口説くために設けた場に来る。これはひと悶着ありますねえ……」
男「しかも、幼自ら俺を連れていくって連絡したからな」
女「相手からすれば屈辱的だね。ちなみに、その人は君たちが付き合ってることを知ってるの?」
男「いや、知らないはずだ。同窓会でサプライズ発表するって幼が意気込んでたし」
女「おお! これは修羅場確定だ!」
男「……お前、なんで喜んでんの?」
男「降伏どころか、宣戦布告するような人間なんだよなあ……」
女「宣戦布告されたら応戦するのは当然のこと。ぺんぺん草も生えないくらい爆撃してあげな」
男「どうやって?」
女「イチャイチャすればいいんだよ。相手が入り込む余地がないと悟らせるくらいにね」
男「ば、馬鹿! 人前でイチャつけるか!」
女「球技大会の時、私の目の前で抱き合ってた人がよく言うよ」
女「大丈夫だって。下手な策略巡らせる人間なんて大抵自爆するから。大爆死したこの私が言うんだから間違いない」
男「えっ? お前、何かやったの?」
女「まーまーそれはいいじゃない。とにかくさ、自信もって戦いなよ」
女「君以上に幼に相応しい人間はいないんだから」
男「……っ」
女「や、やっばい! 柄にもなく励ましちゃった! これはもう料金発生するレベル! うん。3000円くらいは貰わないと割に合わない!」
男「お、おい……」
女「支払いは後でいいからねー!」タッタッタ
男「……サンキューな」
男(まさか、女があんなこと言うなんてな……)
女『君以上に幼に相応しい人間はいないんだから』
男(……本当にそうならいいんだけどな)
???「男くん、やっと来たか」
男「おまえは……!」
???「忘れちゃったかな? 南中で一緒だったんだけど。……まあ、君とはあまり接点なかったから覚えてなくてもしょうがないけど」
男「……いや、覚えてるよ。ただ、ちょっと面食らっただけだよ。まさか……」
男「俺に会いに来るとは思わなかったからよ、元生徒会長さん」
会長「久しぶりだね、男くん」
会長「あー、涼しい。何か飲むかい? 奢るよ」
男「いやいい。とっとと用件を済ませよう。同窓会の話だろ?」
会長「へえ、よくわかったね?」
男「お前が俺に会いに来る理由なんてそれしかねえだろ」
会長「それほど察しがいいのなら、同窓会に誘われても断ってほしかったなあ」
男「しょうがねえだろ。幼にしつこく誘われたんだから」
会長「だからこそ、だよ。幼くんが君を誘ったことを他の参加者が知ったら、幼くんが何を言われるかくらい想像つくだろう?」
男「……っ」
会長「前にも忠告したじゃないか」
会長「君が傍にいるだけで、あの子の評判が悪くなってしまう、って」
会長「あの時、忠告をして、男くんは受け入れたじゃないか。幼くんと距離を置いて、関わらないようにしていたよね」
男「中学時代は暗黒すぎて、記憶から抹消しちまったよ」
会長「何を言ってるんだ。覚えているからこそ、今年の5月まで幼くんと疎遠になっていたんだろ?」
男「……よく知ってるな」
会長「前回の同窓会で聞いたからね。君たちに何があったのかは知らないが、どうしてそのまま離れていることができなかったんだ」
会長「そうすれば、幼は今頃、僕の彼女になっていただろうに」
会長「どうして断言できるんだい? 前回の同窓会での僕たちを君は知らないだろ」
男「なにかあったのかよ……?」
会長「この写真を見てくれ」スッ
男「……っ」
会長「どうだい? これ以上ないくらい親密な2ショットだろう?」
男「なんで、幼はお前に肩を……」
会長「抱かれているのか、って? 決まってるだろ。彼女もまんざらじゃないからだよ」
男「……」ガタッ
会長「どこに行くんだい?」
男「黙れ。お前には関係ない」
会長「おやいや、嫉妬かい? 男なら黙って彼女を祝福してあげたらどうだい」
男「無理な相談だな。俺はそこまで器が大きくない」
会長「身の程を知りなよ。君は幼くんに釣り合わない。格が違うんだよ、格が」
男「……そんなことは知ってるよ。今の俺があいつに相応しいなんておこがましいにも程がある」
男「ただ、それでも俺は幼から離れねえ。いや、離さない。あいつは俺の女だ。誰にも渡すつもりはない」
会長「なっ……!?」
男「絶対、誰にも渡さねえ」
幼馴染「……」キョロキョロ
マネージャー「部長?」
副部長「あ、本当だ。先に帰ってたんじゃ?」
幼馴染「それが……男がまだ来てないの」
副部長「珍しいですね。いつもなら待ってるのに」
幼馴染「何かあったのかな……」
マネージャー「連絡してみたんですか?」
幼馴染「……連絡がつかないの」
副部長「まあ、どこかで寄り道してるんじゃないですか」
幼馴染「なら、いいんだけど……」
副部長「大丈夫ですよ。男さんは事故に巻き込まれたって、しぶとく生き残りますよ」
幼馴染「男が事故に巻き込まれた!? 大丈夫なの!? どこの病院にいるの!?」
マネージャー「お、落ち着いてください、部長! たとえ話ですって!」
副部長「勘違いするほうがどうかと思いますけど」
幼馴染「しょうがないじゃない! 私は男のことになるとおかしくなるの!」
副部長「開き直っちゃったよ……」
マネージャー「前から気になってたんですけど、部長の彼氏さんってどんな人なんですか? 先輩たちからいろいろ聞くんですけど、実際のところどうなのかなって」
幼馴染「えっと、男はね……」
副部長「草食系ヘタレ童貞だよ」
幼馴染「ちょっと! 何よそれ!」
マネージャー「そうですよ。いくらなんでも、それは言いすぎですって」
幼馴染「いや、事実なんだけどさ」
マネージャー「えっ」
幼馴染「よくない! 他にもいいとこたくさんあるもん! 例えば……」
副部長「じゃ、お疲れ様でーす」
幼馴染「聞きなさいよ!」
副部長「嫌ですよ。朝日が昇るまで語りそうだし」
マネージャー「さすがにそれはないでしょう……」
幼馴染「朝刊の配達が始まる頃には終わるわよ!」
マネージャー「それ、日付変わってるじゃないですか……」
幼馴染「やだな。冗談だよ、冗談。そんなに長いわけないじゃん」
副部長「そうそう。1時間くらいで終わるって」
マネージャー「それでも充分長いんですけど!?」
幼馴染「女子トークが長引くのは常識だよ。知らないの?」
マネージャー「僕帰ります!」
幼馴染「なに言ってんのよ。聞いたのはそっちでしょ。最後まで聞きなさい!」グイッ
マネージャー「い、嫌です! 家に帰してください!」
???「……おい」
「!!!?」
男「なにやってんだよ」
マネージャー(この人が部長の彼氏さんなんだ。でも、なんか……)
男「俺に見られちゃいけないことでもしようとしてたのかよ」
副部長(……どうしたんだろ、男さん)
幼馴染「そうじゃなくて、突然声をかけてきたからびっくりしたの」
マネージャー(聞いてた人とは違うような……)
副部長(いつもと雰囲気が違う……)
幼馴染「この子はうちのマネージャーだよ。最近、入部したの」
マネージャー「よ、よろしくお願いします!」
男「女子部なのに男子がマネージャーやるのか」
副部長「いろいろありまして……」
男「ふーん。まあ、どうでもいいけど」
幼馴染「どうしたの? さっきから様子が……」
男「行くぞ」グイッ
幼馴染「ど、どこ行くの?」
男「いいから、来いよ」
幼馴染「わかったから引っ張らないでよ!」
マネージャー「……本当にあの人が男さんなんですか?」
副部長「それはあたしも聞きたい……」
男「ここなら誰も来ねえか」パッ
幼馴染「もうどうしたのよ! ここに連れてきてなにするつもり!?」
男「なんでもいいだろ」ギュウ
幼馴染「ち、ちょっと、え、ええ!?」
男「うるせえ」チュウ
幼馴染「!!!?」
男「待てねえ」チュウ
幼馴染「んんっ……!」
・
幼馴染「落ち着いてってば!」
男「落ち着かせてくれよ」チュウ
幼馴染「ん……」
・
幼馴染「わ、わかったから、少し休ませて……」
男「まだまだこれからだろ」チュウ
幼馴染「……」
男「ふぅ……」
幼馴染「……」
男「あー、その……大丈夫か?」
幼馴染「……抱き締められただけでヘロヘロになる人間が、これだけキスされて平気だと思う?」
男「ご、ごめん……」
幼馴染「もういいから、しっかり抱きとめてて。……力が入らないの」
幼馴染「いい。こうして、私を抱き締めてるほうが安心するでしょ?」
男「……お前はなんでもわかるんだな」
幼馴染「唇が震えてたから。どんなに強がっても、私は誤魔化ないよ」
男「幼ちゃん……」ギュウ
幼馴染「大丈夫。大丈夫だよ。私は男の傍にいるよ」ナデナデ
男「うん……」ギュウウウウウ
幼馴染「写真?」
男「幼ちゃんが会長に肩を抱かれてる写真」
幼馴染「な、何それ!?」
男「前回の同窓会の時のものらしいんだけど」
幼馴染「……あ! あの時か! えっ、写真に撮られてたの!? あれは違うんだよ! あいつが勝手に私の肩に手をかけてきて……でも、すぐに手を払ったんだよ! 本当だよ!」
男「わかってる。幼ちゃんが会長のことをあまり好きじゃないことも、付き合う前の話だからとやかくいう権利がないことだってわかってる……そんなことわか
ってるんだ。だけど、どうしても」
男「怖いんだ……」ギュウウウウ
幼「男……」
幼馴染「ならないよ。私は離れないもん」
男「……そうだね。今は俺の傍にいてくれる。でも、いつか……俺に愛想をつかして、会長に靡いてしまうかもしれない。他の誰かのもとに行ってしまうかもしれない」
男「それは仕方のないことだってことはわかってる。むしろ、俺みたいな男より、もっといい人と付き合うべきだってことも」
男「だけど、嫌なんだ。幼ちゃんを失いたくない。誰にも渡したくない。ずっとずっと俺の傍にいてほしい」
男「……独善的だよね。幼ちゃんには、自分よりも他に相応しい人間がいるってことに気付いているのに、自分のために幼ちゃんを縛りつけてる……本当に最低だよね」
幼馴染「どうして?」
男「ど、どうしてって……」
幼馴染「だって、私はそれを望んでるんだよ? 男のことが大好きで、男の傍にずっといたいって願ってるんだよ?」
男「幼ちゃん……」
幼馴染「私を離さないで」ギュウ
幼馴染「それはお互い様だよ」
男「これからもウジウジ悩むかもしれないよ」
幼馴染「一緒に悩んであげる」
男「……不安になったときはこうやって幼ちゃんに甘えてもいい?」ギュウウ
幼馴染「大歓迎だよ、甘えん坊さん」ナデナデ
男「幼ちゃん……」
幼馴染「なーに? 男くん」
男「……大好きだよ」
幼馴染「うん。私も大好き」チュウ
男「親父、ちょっといい?」
父「なんだ? 小遣いならやらんぞ」
男「ちっげーよ。駅前まで車で送ってほしいんだよ」
父「あー、悪いんだけど、いま忙しくてな」
男「スマホゲームやってるだけじゃねえか……」
父「休日に何をしようが私の勝手だ。駅前くらい歩いて行け」
母「そんなこと言わずに送ってあげてくださいよ」
父「この愚息を甘やかすことなんてないさ」
母「幼ちゃんも一緒だそうよ」
父「よしわかった。幼ちゃんは俺が送っていく。お前は走っていけ」
男「クソ親父……!」
父「車の定員は2人なんでな」
男「軽トラかよ!」
母「荷台に載せてあげればいいじゃない」
男「マジで軽トラなの!?」
母「あー、そういえばそうだったかしら」
父「最近物忘れが激しくてなあ……」
男「物忘れってレベルじゃねえだろ……」
父「それにしても、幼ちゃんに会うのは久しぶりだな」
母「小学生ぐらいまではよく家に遊びに来てくれていたのにねえ……」
父「あの頃はうちに嫁に来てくれるんじゃないかってひそかに期待してたんだけどなあ……」
母「今となっては叶わぬ夢よね……」
男「……そういや、言ってなかったっけ。俺、幼と付き合ってるんだ」
父&母「な、なんだって!?」
父「母さん、落ち着くんだ! きっと男の妄想だよ!」
男「妄想じゃねえよ。ほれ」スッ
父&母「これは……!?」
男「幼と撮ったプリクラだよ」
父「お母さん、今日は焼肉にしよう! もちろん、幼ちゃんも一緒に!」
男「同窓会に行くって言ってんだろ!」
母「お姉ちゃん、男がやったわ! 幼ちゃんを口説き落としたのよーーー!」
男「やめろ! 姉ちゃんに報告すんな!」
母「落ち着いていられますか! ああ……あの可愛い幼ちゃんがうちに嫁いでくれるなんて夢みたいだわ……」
男「現時点では夢だろ。付き合ってるだけなんだから」
父「……待てよ。確か、幼ちゃんは一人娘だったよな?」
男「そうだけど?」
父「母さん、そうなると、男を婿養子で欲しがるかもしれないぞ」
母「それもそうだわ……男、幼からあちらのご両親の希望を聞いてない?」
男「付き合って2週間程度でそんな話するかよ」
父「お前に悠長に構えている余裕があると思ってるのか!」
母「そうよ! さっさとプロポーズしてきなさいよ!」
父「もうお前には任せておけん! 私たちで話を進める!」
母「今日、幼ちゃんはうちに来るのよね? だったら、ここで婚約してしまいましょう!」
男「お、おい! 余計なことするなよ!」
ピンポーン
父&母&男「!!」
幼馴染(男の家に来るの久しぶりだな。小学生の頃とかよく泊まりにきてたのに)
幼馴染(……男のお父さんとお母さん、最近会ってないけど元気かな)
男「幼! 逃げろ!」ガチャ
幼馴染「へっ……?」
父「どけ!」ゲシッ
男「うわっ!」ドサッ
幼馴染「お、男!?」
母「幼ちゃん!」ギュウウ
幼馴染「おばさん……?」
父「大丈夫。君のことは必ず私たちが幸せにするからね!」
幼馴染「は、はあ……?」
男「やめろ、馬鹿夫婦!」
幼馴染「あっ! す、すみません! ご挨拶が遅くなってしまって……」
父「大丈夫だよ。そんなことよりも将来の話をしよう」
幼馴染「将来ですか……?」
母「とりあえず結婚式の日取りを決めましょう」
幼馴染「結婚式!?」
男「いい加減にしろ! 幼が困ってるだろ!」
幼馴染「わ、私としては、大学卒業して就職してから1年経ったくらいの時期がいいかなーって……」
男「満更でもねえのかよ!」
幼馴染「も、もちろんです! 付き合ったとき、いえ付き合う前からそうなったらいいなって思ってました!」
母「わたしたちだって、幼ちゃんが嫁に来てくれればいいなってずっと願っていたのよ!」
父「私たちは両想いだったってことだな!」
幼馴染「で、でも、本当に私でいいんですか? 家事はまったくできませんし……おじさんとおばさんにご迷惑をかけてしまうかも……」
父「おいおい。何を言ってるんだ。私たちはもう家族なんだぞ? 迷惑なんていくらかけたっていいんだ」
母「そうよ! 貴女はわたしの娘よ!」ギュウウ
幼馴染「お義父さん、お義母さん……」ウルッ
男「幼の両親に聞かれたら絶縁されんぞ……」
幼馴染「おじさんとおばさんに交際を認めてもらえてよかったね!」
男「……交際だけならよかったんだけどな。なんで、結婚まで話が飛躍するんだ」
幼馴染「あはは……まあ、ちょっと行き過ぎだったかもね」
男「喜々して話に加わったくせによく言うよ」
幼馴染「だ、だって……嬉しかったんだもん。こんなに簡単に認めてもらえるなんて思ってなかったし」
男「そりゃ、交際して僅か2週間で結婚を勧められるとは思わないだろうよ」
男「なに言ってんだよ。うちの親は昔から幼のこと可愛がってただろ」
幼馴染「それとこれとは話は別なの!」
男「そういうもんかね……」
幼馴染「じゃあ、逆に男はどうなのさ。うちの親に認めてもらえる自信ある?」
男「……やめてくれ。それを考えると胃が痛くなるから」
幼馴染「まあ、一発くらいは殴られるだろうしね」
男「!?」
男「シャレにならないからやめてくれ」
幼馴染「むしろ、二人とも喜んでたよ」
男「おじさんたちに報告したのか?」
幼馴染「うん。付き合ったその日にね。お父さんが、絶対、幸せにしてもらわないとな! って言ってた」
男「……それ、別の意味で怖いんだけど」
幼馴染「あれー? みんな、どこにいるんだろう?」キョロキョロ
男「まだ集合時間すぎてねえよな?」
幼馴染「うん。むしろ余裕あるくらいだけど……どうしたんだろ?」
男「……嫌な予感がする」
幼馴染「大丈夫だって。私がついてるから」
男「いや、そういうことじゃなくて……」
???「やあ、幼くん」
幼馴染「おー、久しぶりー」
男「やっぱりお前かあ……」
会長「なんだ、男くんも一緒だったんだね」
会長「いや。全員到着して先にお店に入ってる」
幼馴染「でも、集合時間は……」
会長「君たちには他の人たちとは違う時間を伝えたのさ」
男「そんなことだろうと思ったよ……」
会長「相変わらず察しがいいねえ」
幼馴染「どうして、そんなことしたの?」
会長「決まっているじゃないか。君たちと話がしたいからだよ」
幼馴染「そっか。じゃあ、お店に入ろ?」
会長「えっ? ぼ、僕の話聞いてた?」
幼馴染「聞いてたよ。お店の中で話すればいいじゃん」
男「だな。行くか」
会長「……」
幼馴染「やっほー!」
モブ子「やっと来た! 幼、遅すぎだよー!」
幼馴染「ごめんごめん。なんか、間違った集合時間教えられてさ」
モブ子「なにそれ。おい、幹事! ちゃんと仕事しろよ!」
会長「も、申し訳ない……」
幼馴染「そうそう。今日ね、男と一緒に来たんだー」
モブ子「えっ? 男くん……?」
男「ど、ども……」
会長(予定は狂ったが、まあいい。まずは男に精神的ダメージを与えてやる……!)
会長「なんだい、その挨拶は。ちゃんと……」
モブ子「やっばい! 男くんとか超レアなんだけど! みんなー! 男くん来たよ!」
「おお! マジだ!」
「今日はヘッドホンで洋楽聞いてないのかー?」
会長(あ、あれ? 思ってた反応と違う……)
男「お、覚えてます!」
モブ子「なんで敬語!? ウケるんだけど!」
幼馴染「もー。あんまり弄らないであげてよ。スーパーコミュ障なんだからさ」
モブ子「うーわ。相変わらず、男くんの保護者やってんのー?」
「ったく、いつまで男を甘やかすつもりだよ」
「男もシャキッとしろよな」
会長(よ、よし! ついに流れが来たぞ!)
会長「そうだよ。もう高校生なんだし、そろそろ……」
幼馴染「やだなー。ちゃんと保護者からランクアップしたよ」
モブ子「じゃあ、まさか……」
幼馴染「そうなんです。実は私たち……」
幼馴染「付き合ってるんです!」
会長「!!?」
幼馴染「本当だよ? 3週間前から付き合ってるんだ」
会長「どうして男くんなんだ! どう見ても釣り合って……」
モブ子「おめでとー! やっと付き合えたんだね!」
会長「えっ」
「おお。ついに男が覚悟を決めたのか」
「俺よかシャキッとしてたわ。マジごめん」
会長「……」
幼馴染「どうして?」
会長「どうしてもだ! 僕は絶対認めない!」
幼馴染「……いいよ。じゃあ、認めさせてあげる」グイッ
男「お、お前、まさか……!」
幼馴染「そのまさかです!」チュ
男「!!」
モブ子「おー! いいぞ、いいぞー!」
「うらやま」
「男、爆発しろ」
会長「 」
幼馴染「ちゃんと事前に予告しておいたでしょ。納得しなければキスでもする、って」
男「本気でするとは思わねえだろ!」
幼馴染「いいじゃん。これで認めてもらえただろうし。ねっ、会長?」
会長「あ、ああ……」
幼馴染「男は私の彼氏なんだからね。もう悪口言わないでよ!」
会長「……はい。もう二度と言いません」
「かんぱーい!」
幼馴染「いえーい!」
男「ど、ども……」
モブ子「いやー! 本当におめでとう! 男くん、幼を泣かせたら承知しないからね!」
男「は、はい! 絶対泣かせません!」
モブ子「いやいや、だからなんで敬語なのよ」
幼馴染「いいじゃん。そういうところも可愛いんだから」
モブ子「はいはい。ごちそうさまー」
「あいつらラブラブだなー」
「つけ入る隙ないって感じだな」
「まあ、昔から幼は男一筋だったし、最初から隙なんかなかったけどな」
会長「……」フラッ
「おい。どこ行くんだよ?」
会長「ちょっと夜風に当たってくる……」
男「……」
会長(……いや、そうじゃない。僕は気付いていたんだ。なのに……)
男「おい」
会長「……なんだ、君か」
男「幼じゃなくて悪かったな」
会長「いや、むしろ感謝してるよ。彼女が来たら全力で逃げだしているところだからね」
男「ああ、そういうのも有りか」
会長「はっ?」
男「いや、特になにをしようってわけじゃねえんだ。馬鹿にしたいわけでも感謝したいわけでもない」
男「ただ、お前を一人にさせたくなったんだよ」
会長「……僕は一人になりたいんだがね」
男「一人になりたいって人間ほど、誰かに話を聞いてもらいたいんだよ」
男「ああ、効果は抜群だったぜ。お前に言われてから、俺は幼を避けるようになったし」
会長「……そうなれば、幼くんが振り向いてくれると勘違いしてしまったんだ。……そんなことあるわけないのに」
???「わかる! わかるなあ、その気持ち!」
会長「えっ?」
男「な、なんでお前がここに……」
女「えへへ。来ちゃった」
男「こいつは北高の生徒だよ。3年間同じクラスでな」
女「君は会長さんだよね? 男くんから話は聞いてるよ」
会長「それはきっといい話ではないだろうね……」
女「まあ、普通の人ならそうかもしれないね。でも、大丈夫。私は君に共感できたよ」
会長「えっ……?」
女「私も叶わない恋をしてたからさ」
女「うん。ずっーと前から好きな人がいたよ。その人が傍にいてくれればそれだけで幸せになれるくらい好きだった」
女「でも、その人は私以外の人に恋をしてしまった。その二人を引き裂こうといろいろ策を巡らせたりしたんだけど……会長くんと一緒で失敗に終わっちゃった」
男「……その人って北高生?」
女「うん。男くんも知ってる人だよ」
男「ま、まさか……友、か……?」
女「あはは。いくら冗談でも怒るよー」
会長「……」
男「お前が?」
女「うん。同じ境遇の者同士いろいろ話してみたいの」
男「どうする?」
会長「僕は構わないよ。みんなにはうまく伝えておいてくれ」
男「わかった。適当に誤魔化しておくよ」
会長「ああ、頼むよ」
男「気をつけろ。そいつは可愛い顔してるが、かなり性格悪いぞ」
会長「えっ」
女「言葉責めしてあげるね!」
会長「僕はSだよ……」
女「これは調教しなくてはなりませんなあ……」
会長「……その前に聞きたいことがあるんだけど」
女「いいよー。胸の大きさ以外なら答えてあげる」
会長「そんなの聞かなくても見ればわか……」
女「骨の髄まで調教してあげようか?」
会長「ぼ、僕が聞きたいのは、君の好きな人だよ!」
女「なーんだ。どうしても調教されたいのかと思った」
会長「だから、僕はSなんだって……そんなことより、君の好きな人って……男くんかい?」
女「たぶん君は相当のドMなんじゃないかな」
女「残念なことに私は男くんの男性としての良さがわからないからねー。わかるのは幼だけ」
会長「……だからこそ、彼女は彼に惹かれたんだもんね」
女「たぶん、最初から男くんの良さを知っていたわけではなくて、接しているうちに感じとっていったんだと思う。でも、私はいつまで経ってもわからない。この差はなんだと思う?」
会長「興味があるかないか……とか?」
女「正解! 私は男くんにまったく興味がないのでーす」
会長「ず、ずいぶんはっきり言うね……」
女「それが真実だからね」
会長「……そうだね。真実から逃げ回っていた僕は、ここで甘いことを言われてしまうより、真実を突きつけられたほうが僕を救ってくれるかもしれない」
女「しょうがないよ。真実に立ち向かったら自分の想いを否定されてしまうんだから。逃げてしまった君の気持ちは私にはわかる」
女「痛いほどわかるよ」
女「でも、私は否定できない。誰かが君の行動を間違っていると糾弾しても、私は君の味方側に立つ」
会長「……ありがとう」
女「いーえ。まあ、私の場合は君と同じ罪を犯したからを言えることなんだけどね」
会長「君も……?」
女「うん。むしろ、君よりも重罪だよ」
会長「ど、どんなことをしたんだい?」
女「簡単に女性の秘密を聞き出せると思ったら大間違いだよ」ギロッ
会長「ええ……」
会長「君は慰めたいのか、傷を抉りたいのかどっちなんだい!」
女「どっちでもないけど?」
会長「ないの!?」
女「うん。その二つの選択肢には当てはまらないね」
会長「じゃあ、何のために……?」
女「んー。お店に入ってからって思ったけど、ここでいいか」
女「私も君のこと好きになるから、君も私のこと好きになってくれないかな?」
会長「……はっ?」
・
・
数時間後 駅前
幼馴染「お待たせ!」
男「ずいぶん長かったな。みんなは先にカラオケに行ってるって」
幼馴染「えへへ」
男「……なんだよ?」
幼馴染「お店に着くまでは二人っきりだなーって思ってさ」
男「よく言うよ。狙ってたくせに」
幼馴染「そういえば、会長ってなんでいなくなっちゃったんだろうね?」
男「お前が言うか……」
幼馴染「あー、やっぱり私かあ……。だって、あいつ昔から男の悪口言ってたんだよ? 私がどんなに男の良さを教えても理解してくれなくてさ」
男「そりゃ、理解できないだろうな……」
幼馴染「今日こそは男を認めさせようと思ったらアレなんだもん。ついカッとしちゃってさ」
男「まあ、俺は嬉しいけど……あいつの気持ちを考えると手放しでは喜べないんだよなあ」
幼馴染「どうして? 男の悪口言ってたんだよ?」
男「……逆に聞くけど、あいつの想いに気付いてたか?」
幼馴染「なにそれ?」
男「マジで会長が可哀想だわ……」
幼馴染「もー、なんなの?」
男「……ってことは、だ」
幼馴染「?」
男「もっとストレートに愛情表現しないと伝わらないよな」ギュウ
幼馴染「に、にゃにお!?」
男「幼」
幼馴染「ひゃい!?」
男「……」チュ
幼馴染「!?」
男「好きだよ」
幼馴染「もう、だめ……」クラッ
幼馴染「ごめん、遅くなった」
モブ子「ったく。何分かかって……な、なんでお姫様抱っこされてんの!?」
男「あ、あはは……」
幼馴染「しょうがないじゃない。骨抜きにされたんだから……」
男「わ、悪かったって……」
モブ子「夫婦喧嘩はもういいから。何か歌いなよ」
幼馴染「では、男が得意の曲を披露します」
男「勝手に決めんなよ!」
モブ子「おっ。いいねー。アタシも男くんの歌、聞いてみたい」
幼馴染「はい、決定―」
男「ええ……」
モブ子「得意な曲ってやっぱり洋楽?」
幼馴染「そうそう。男が好きなバンドの曲で、題名は……」
「Don't Go Away」
西高顧問「本当にいいのか? こんな好条件はなかなかないぞ?」
幼馴染「いいんです。もう決めましたから」
西高顧問「お前の決めた道は茨の道じゃ。それでもその道を進むか?」
幼馴染「私にはその道しかないんです」
西高顧問「そうか……。お前が決めたのなら、わしはこれ以上言わん」
幼馴染「……ありがとうございます」
幼馴染「はい! お願いします!」
西高顧問「うむ。では、明後日は休みにする」
幼馴染「はい! 全力で頑張り……えっ、休み?」
西高顧問「明後日はオフにする。しっかり休むんじゃぞ」
幼馴染「い、今、厳しくするって……」
西高顧問「お前の場合、ボールを一切触らずに休息することのほうが辛いじゃろ?」
西高顧問「去年も一昨年もこの時期に相当負荷をかけたが、結果は県予選敗退じゃ」
幼馴染「そ、それはそうですが……」
西高顧問「特に今年のチームはお調子者集団や。適度に休みを与えてやらんとモチベーションを保てんじゃろ」
幼馴染「でも……」
西高顧問「お前、彼氏できたんやろ? デートでもしてリフレッシュしてきたらええ」
幼馴染「!!?」
西高顧問「彼氏のことならアホ五人組から聞いたで」
幼馴染「あいつら……!」
西高顧問「そう怒るな。あいつらのおかげで球技大会を観に行けたんやろ?」
幼馴染「……なんで知ってるんですか?」
西高顧問「アホ五人組を尋問したからのう」
幼馴染「……」
西高顧問「あの時のことを職員会議にかけられたくなかったら、おとなしく休むんやな」
男「休みもらえたんだ。よかったじゃん」
幼馴染「よくない!! 私はウインターカップで必ず全国に行かないといけないの! 休んでる暇なんてない!」
男「追いこみすぎて怪我したら元も子もないぞ」
幼馴染「しないもん! ちゃんと鍛えてれば怪我なんかしない!」
男「中学最後の大会を怪我で棒に振った人間が何を言ってるのかな?」
幼馴染「えへへ。ありがと!」
男「どこか行きたいところとか、やりたいことあるか?」
幼馴染「そうだなあ……小学生の頃みたいに、二人で楽しく過ごせればそれでいいかな」
男「あの頃、放課後はいつも一緒にいたよな」
幼馴染「うん。校庭でバスケしたり、男の家でゲームしたりしたよね」
男「家でゲーム……」
幼馴染「どうしたの?」
男「な、なんでもない! よし。久しぶりにゲームでもやるか!」
幼馴染「いいよー。でも、どこでするの?」
男「……俺の家しかねえだろ」
幼馴染「えっ!?」
男「ダメか?」
幼馴染「そうじゃなくて、その……」
男「……うちの親のことなら気にしなくていいぞ。明後日はいないから」
幼馴染「い、いないの!?」
幼馴染「……あのさ、確認なんだけど、その日は私と男の二人しかいないってことだよね?」
男「……まあ、そうなるな」
幼馴染(両親がいないときに家に誘ってきた……これはつまり……)
幼馴染(えっち……するってことだよね……?)
生意気娘「いや、その結論はおかしい」
元気っ子「アタシもそう思うなー。飛躍しすぎだよね」
真面目っ子「男さんの自宅に誘われて取り乱すのはわかりますが、冷静に考えてくださいよ。相手は男さんですよ?」
無口っ子「……部長がベッドの上で裸になっても、男さんはそっと服を着せそう」
幼馴染「ち、ちゃんと確認したわよ! そしたら、男は……」
・
・
幼馴染『男は、その……したいの?』
男『そりゃまあ……俺だって、やりたいよ』
・
・
・
生意気娘「……」
幼馴染「ヤリたいって! 私とヤリたいって言ったのよ!!」
生意気娘「……それ」
元気っ子「ゲームのことだと勘違いされてるんじゃ……」
無口っ子「……」コクリ
元気っ子「それだけ男さんのことが好きってことなんだよ」
真面目っ子「恋は盲目とはよく言ったものですね」
幼馴染「じゃあ、男の部屋でそれも二人だけでナニするっていうのよ!」
無口っ子「……いや、だから、ゲーム……」
幼馴染「ほら、えっちなげーむするんでしょ!? どっちが先にイクのか勝負するんでしょ!?」
無口っ子「……」
真面目っ子「……ここまでくると、部長が欲求不満なだけなのでは?」
真面目っ子「どのくらいが平均的な期間なのかは知りませんが、初体験同士で一ヶ月というは早急すぎますね」
幼馴染「で、でも、付き合った当日に処女卒業した人が……」
無口っ子「……あり得ない」
真面目っ子「そんな人に身体を捧げた女性も女性ですよ」
元気っ子「当日はさすがにね」
生意気娘「そんな女が存在するなんて世も末だな」
???「やほー!」
「あっ」
副部長「おお!? なんだ、なんだ? 視姦プレイ? いやん、濡れちゃうー!」
元気っ子「ま、まあ、副部長は特殊だから……」
副部長「なによ?」
幼馴染「ね、ねえ! 明日、男の家に遊びに来ないかって誘われたの! しかも、両親はいないから気にしなくていいって言うの! これってもうそういうことだよね!?」
無口っ子「……だから、ゲーム……」
副部長「なに言ってるんですか、部長!」
生意気娘「さすがのお前でもおかしいと思うよな! ガツンと言ってやれ!」
副部長「H以外になにするんですか!!」
生意気娘「やっぱりお前はおかしいな! 黙ってろ!」
幼馴染「そういうことだったの……!」
生意気娘「絶対違うだろ……」
副部長「まあ、男さんのことですし、挿入まではいかないかもしれませんが。最低でもその手前まではするでしょうね」
真面目っ子「キス……ですか?」
副部長「小学生かよ! まあ、男さんが部長を揉んで舐めて愉しんで、最終的には部長がペロペロしてフィニッシュってとこじゃないかな」
「!!?」
副部長「聞かなくてもわかるでしょ」
生意気娘「あんなとこ舐めるとか想像もしたくねえ!!」
元気っ子「触ることさえ無理!!」
無口っ子「……」カァァァァ
副部長「ウブだなー。今はロリでもフェラトゥする時代だよ?」
真面目っ子「そんな時代は認められないであるからしてー!」
副部長「あんなの一回咥えればどうってことなくなるから」
生意気娘「その一回が無理なんだよ!!」
幼馴染「わ、わたしは……男のなら平気、だよ……?」
真面目っ子「ぶ、部長!? いいのですか、あんな汚らわしいものを口に含むなんて……」
幼馴染「そりゃ、嫌悪感はあるけど……でも、男のものなら……耐えられる」
生意気娘「あ、愛だ……」
副部長「フェラぐらいで大袈裟だなあ……」
幼馴染「準備って……ゴムとか?」
副部長「それは男さんが用意するべきでしょ。部長がゴムを持参したら、ただのヤリたい女になりますし」
幼馴染「確かに……」
副部長「あたしが言ってるのは、身体のケアですよ。ムダ毛処理とか」
幼馴染「し、してるわよ!」
副部長「そうかもしれませんけど、もう一度入念にしておいたほうがいいですよ。恥ずかしい思いするのは部長ですよ?」
幼馴染「……わかった」
幼馴染「……私だって、スポブラ以外の下着くらい持ってるんだけど」
副部長「それは知ってますけど、部長のコレクションじゃ男さんを欲情させられませんよ」
幼馴染「欲情!?」
副部長「いつもの下着を着けて行ったら、私が男さんだったらがっかりしますね。『うっわ、色気のない下着』って」
副部長「じゃあ聞きますけど、男さんが真っ白なブリーフを穿いていたらどう思いますか?」
幼馴染「……きっついかも」
副部長「でしょう。それを見てしまえば、どんなに発情していても、完全に完璧に絶壁に笑わない猫になりますよね?」
幼馴染「……そうかな?」
副部長「なのに……それでも、咥えさせたあいつはなんなの!? 『舐めてよ』って甘えられたところでお前の情けないパンツ見たら性欲なんか吹っ飛ぶんだよ!!」
無口っ子「……ふ、副部長?」
副部長「無理って言えば、強引に口の中に突っ込んできた挙句、『嫌がった罰ね』とか言って、顔にぶっかけやがって! あたしの顔はティッシュじゃねえんだよ!!!」
元気っ子「お、落ち着いて……」
副部長「精子まみれのあたしの顔を見て『AVみたい』って、お前がAVの真似したからこうなったんだろうが!」
真面目っ子「そ、それは実話ではないですよね? 妄想ですよね……?」
副部長「……」ズーン
「「「「「えっ」」」」」
幼馴染「あ、ええと……」
幼馴染(副部長の話が強烈すぎて何の話をしてたのか覚えてない……)
副部長「わかりました!?」
幼馴染「は、はい……」
副部長「今日の放課後にでも男さんに選んでもらってください」
幼馴染「な、なんで!!?」
幼馴染「そ、そうじゃなくて! なんで男が選ぶのよ!」
副部長「わかってないなー。彼氏が選んだ下着を身につけるというのは、つまり彼氏色に染まるということです」
幼馴染「!」
副部長「もしかしたら派手なヒョウ柄の下着を選ぶかもしれませんし、地味な白い下着をチョイスするかもしれません。いや、もしかしたら、ノーパンノーブラで毎日過ごせ、と恥辱プレイを始めるかもしれない」
副部長「どうですか? ワクワクしてきませんか?」
生意気娘「柄を決められるならまだしも、下着を着けるなとかあり得ないだろ。そんなこと言われた時点で別れるって」
幼馴染「私は……男がしてほしいなら……恥ずかしいけど頑張る……よ?」
生意気娘「ダメだ、こいつ……」
元気っ子「やっほー!」
生意気娘「おー」
副部長「あれ? キョン一人なの?」
生意気娘「見てのとおりだよ。ちっ、せっかく部活休みだってのに、なんでお前らと顔合わせないといけねえんだよ」
真面目っ子「部活が休みにも関わらず、わざわざ部室に来たキョン吉さんが何を言っているのですか」
無口っ子「……乳だけに栄養がいって、脳みそスカスカの乳牛はこれだから困る」
生意気娘「ああ!?」
幼馴染「……うるさい」ベシッ
生意気娘「なんで、わたしだけ!?」
幼馴染「あーもう、うるさい。寝てないんだから、キャンキャン騒がないで」
真面目っ子「寝てないって……何かあったんですか?」
幼馴染「……今日、男の家に行くでしょ。何をするのか想像してたら眠れなくなったのよ」
真面目っ子「……絶対、ゲームするだけだと思う」
副部長「そういえば、下着は選んでもらいました?」
元気っ子「いやいや、いくらお願いされても断るでしょ……」
幼馴染「うん。選んでもらったよ」ビラッ
「ええ!!?」
幼馴染「ブルーかピンクで相当悩んでたけどね。『青は結構透けちゃうよ』っていう私の言葉が決め手になってピンクに決めたみたい」
生意気娘「あ、あいつは馬鹿か!」
真面目っ子「女性の下着を吟味してる男子高校生とか、ただの変態じゃないですか!」
副部長「男子はみな変態だし、女子だって変態。もはや人類すべて変態と言える。この世界は変態によって出来ている」
生意気娘「そんな世界は壊してしまえ」
副部長「完璧ですね!」
生意気娘「……おい」グイッ
副部長「なによ?」
生意気娘「そんなに煽って、結局ゲームするだけで終わったらどうすんだよ。部長、相当落ち込むぞ?」
副部長「まだ、そんなこと言ってんの? 絶対に男さんはヤル気だよ。間違いない」
真面目っ子「でも、あの男さんですよ……?」
副部長「わかってないなー。どうして、あたしが確信してるか、っていうとだね」
副部長「男さんだからこそ、なんだよ」
幼馴染(……男の家のインターホンを見つめて、もう三十分)
幼馴染(いつまでもこうしてるわけにはいかないよね……)
幼馴染(大丈夫、大丈夫。ここに来る前に家に帰ってシャワーを浴びて身体も清めてきたし、完璧に準備できてる。寝ずにいろんなプレイを想像したから、どんな要求にも対応できる)
幼馴染(よ、よし! 押そう! 男と新しい世界に旅立つんだ!)
幼馴染(……)ソー
幼馴染(はっ! シャワー浴びたときに下着替えてるじゃん!! なにやってんの、私!?)
幼馴染(いま着けてるのは……ダメだ。こんな子供っぽい下着で男を満足させられるわけない。こうなったら、家に帰って下着を……)
男「悪い。待たせたな」
幼馴染「!!?」
男「あれ? 買い物に行ってくるってラインしたけど、見てないの?」
幼馴染「インターホン見るのに精一杯で携帯見る余裕なんかなかったよ……」
男「インターホン? まあ、いいや。こんなところで話しててもしょうがねえし、家入ろうぜ」
幼馴染「あ、いや、その……」
男「どうした?」
幼馴染「……なんでもない、です」
幼馴染(なんて馬鹿なんだろう……男にせっかく選んでもらったのに、その下着を着けてこないなんて……)
幼馴染(脱がしてみたら、子供っぽくて色気のかけらもない下着が出てきたら、男はどう思うかな。こういうも好きだよって喜んでくれるかな。俺が選んだのはどうしたんだよって苦笑いするかな)
幼馴染(……そんなわけないよね。がっかりするだろうし、選んだのと違うって怒るかもしれない)
男「飲み物持ってきたぞ」
幼馴染「……男、ごめん」
男「幼?」
幼馴染「……今日はエッチなことできない」
男「は、はあ!?」
幼馴染「男が勇気を出して誘ってくれたのに……本当にごめんね」
幼馴染「……」
男「ただ、ゲームを一緒にしようと思ってただけで、その……そういうことは何も……」
幼馴染「嘘だ」
男「本当だって! 俺がそんなことできると思うか!?」
幼馴染「できないと思うよ。でも、だからこそ、この状況がおかしいの」
幼馴染「男が家に誰もいない時を狙って私を誘うなんて絶対にありえないから」
幼馴染「男がどういう気持ちでどれほどの覚悟をもって、私を誘ったのかくらいわかるよ」
男「……本当、お前はなんでもわかるんだな」
幼馴染「前にも言ったでしょ。私には隠し事できないってば」
男「あはは……いやあ、昨日、下着を選ばされた時は、俺の意図に気づいた上で幼もそのつもりなのかな、って思ってたんだけど、いきなり断られたから、つい誤魔化しちゃったよ」
幼馴染「……あっ、それは……」
男「あわよくばそういう流れになればいいかなって思ってただけだから。幼が嫌ならしないよ」
幼馴染「い、嫌ってわけじゃないよ! た、ただ……下着が……その……」
男「下着?」
幼馴染「……すっごい子どもっぽいやつなの……」
男「はっ?」
男「……」
幼馴染「ごめんね……せっかく選んでもらったのに……」
男「……」
幼馴染「こんな子どもっぽい下着見せられないよ……」
男「お前って、ここぞって時にポンコツになるよなあ」グイッ
幼馴染「お、とこ……?」
男「俺はむしろ見たいくらいなんだけど」
男「まあ、一回見せてみなよ」
幼馴染「……こんなの見せたら、醒められちゃう」
男「大丈夫だって。どんな下着でも興奮する自信あるから」
幼馴染「うそだ……」
男「本当か嘘かは見せてくれればわかるよ」
幼馴染「で、でも……」
男「俺のこと信じて、ね?」
幼馴染「……見せたらあとでキスしてくれる?」
男「うん。たくさんしてあげる」
幼馴染「……少しだけだからね」
男「わかってるよ」
幼馴染「……」ビラッ
男「……っ」
幼馴染「はいもうダメ!」バッ
男「本当に少しだけなんだな……」
幼馴染「……だって……こんな下着見せたくないもん」
男「残念だな。ほんの一瞬見れただけだけど、俺はかなり興奮したのに」
幼馴染「興奮した……?」
男「好きな女の下着を見て、興奮しない男子高校生なんか存在しねえよ」
男「確かに昨日はふりふりの可愛い下着を選んだ。でも、そういう下着だって好きだ。いや、なんならスポブラだっていい」
幼馴染「……なにそれ、なんでもいいってこと?」
男「そうだよ。幼が着けてるなら、どんなのだってエ口く見えるし、欲情するんだ」
幼馴染「変態……」
男「そんなこと言われると余計興奮しちゃうんだよなあ」
幼馴染「……だめ」
男「そっか。残念だけど、幼が嫌なら我慢する」
幼馴染「……」ベシ
男「な、なんだよ?」
幼馴染「それほど見たくないってこと?」
男「いや、そういうわけじゃ……」
幼馴染「……だったら、脱がせばいいでしょ。変態なんだから」
男「え、でも……いいのか?」
幼馴染「いいの……私も脱がされて興奮する変態だから」
幼馴染「うん……」
男「……」スルッ
幼馴染「うー……やっぱり恥ずかしい」
男「……」ジー
幼馴染「……そんなに見つめないでよ」
男「ごめん……つい、な」
幼馴染「興奮する……?」
男「うん。人生史上最大興奮してる」ギュウ
幼馴染「……本当だ。男、すごいドキドキしてるね」
男「それは良かった」ナデナデ
幼馴染「でも、男はむしろ、興奮してるみたいだけど」ニマニマ
男「そりゃそうだろ!!」
幼馴染「えへへ。ねえ、ご褒美のちゅーは?」
男「……」チュ
幼馴染「ん……」
男「……」チュウ
幼馴染「んっ……」
男「……」チュウウウ
幼馴染「んんっ……!」
男「ふぅ……」
幼馴染「も、もう! 何回するつもりなの!」
男「たくさんするって言っただろ」チュウ
・
・
男「ふぅ……」
幼馴染「……満足した?」
男「おう。大満足だ」
幼馴染「……これじゃ、ご褒美じゃなくて、男がただしたかっただけじゃん」
男「それもそうだな……何か、他にしてほしいことあるか?」
幼馴染「じゃあ、後ろからぎゅーして」
男「こうか?」ギュウ
幼馴染「これ、やばい……癖になりそう……」
幼馴染「なんだろう……安心するっていうのかな。すごい落ち着く……」
男「そか。なら、よかった」ナデナデ
幼馴染(……なんか……眠くなって……きたかも)
幼馴染(そういえば、昨日から……寝てないんだった……)
男「幼が満足するまでこうしててやるよ」ポンポン
幼馴染(あ、もうだめだ……)クラッ
男「幼?」
幼馴染「Zzz……」
男「えっ」
幼馴染「……」
男「ったく……そんなに幸せそうな顔されたら文句言えねえよ」ナデナデ
幼馴染「……」プルン
男「……っ」
幼馴染「……」プルン
男(だ、ダメだダメだダメだ! いくらなんでも寝ているところを触るなんて!)
幼馴染「……」プルン
男(堪えようとすればいするほど胸に目線がいってしまう……くっそ! めっちゃ触りてえ!)
幼馴染「……」プルン
男(ちょっと……ちょっと触るだけなら……いいか)スッ
???「貴方、いるなら返事くらい……」バンッ
男「……えっ」
???「……」
男「ね、姉ちゃん……?」
姉「もしもし、警察ですか?」
男「姉ちゃん!!?」
幼馴染「んん……」
姉「おはよう、幼ちゃん」
幼馴染「あ、おはようございます……あれ、姉先輩?」
姉「とりあえず服を着なさい」
幼馴染「……あっ!!?」カァァァ
姉「幼ちゃん、成長したわね」
幼馴染「どこ見て言ってるんですか!!?」
姉「裸見られたくらいでそんなに落ち込むことないでしょう。昔は一緒にお風呂入った仲じゃない」
幼馴染「それはそうなんですけど……状況が状況ですし」
姉「貴女たちは交際しているのだから、セ○クスしてもおかしくないでしょう」
幼馴染「はっきり言いますね!?」
姉「まあ、最中に寝てしまうのはどうかと思うけど」
幼馴染「男に抱き締められたら安心しちゃって、つい……」
姉「私が叔母になる日は遠いわね」
姉「夕飯の買い出しに行かせたの。半裸で寝ている幼ちゃんと同じ部屋にいさせるわけにはいかないでしょう」
幼馴染「あはは……」
姉「あいつが帰ってくる前に聞きたいことがあるのだけれど」
幼馴染「なんですか?」
姉「うちの大学の練習会をなぜ断ったの?」
幼馴染「……」
幼馴染「どうしてそこまで……」
姉「この間の総体予選を視察して、貴女のプレーに一目惚れしたそうよ」
幼馴染「そんな……北高に負けたのに……」
姉「私も決勝戦をビデオで見たけれど、コート上で一番輝いていたのは貴女。一緒に見た人たちも驚いていたわ。こんな選手がいたのかって」
幼馴染「……買いかぶりすぎですよ。西高は2年生主体のチームです。私は脇役でしかありません」
姉「全国ベスト4の大学が全国大会出場経験のないチームの脇役を練習会に誘うと思う?」
幼馴染「……」
姉「貴女が自分の実力を自覚しない限り、あのチームが全国に行くことはないわよ」
幼馴染「……もう決めたことですから」
姉「そう……」
幼馴染「すみません……」
姉「いいのよ。貴女が一度決めたらそう簡単に変えないことは知っていたし。それに、おかげで三日間の休みをもらえたから」
幼馴染「三日間も休みなんですか?」
姉「そうよ。明後日まではこっちにいるわ」
幼馴染「やったー! 久しぶりにバスケしましょうよ!」
姉「……それもいいのだけれど、私としては身体のコミュニケーションがとりたいわね」
幼馴染「なんですか、それ?」
姉「こういうことよ」モミッ
幼馴染「!!?」
姉「さっき、幼ちゃんの成熟した果実を見て、ムラムラしてしまったのよ。今日は寝かせないわ」ガシッ
幼馴染「何言ってるんですか!」
姉「いいじゃない。私たちはいずれ家族になるのだから。身体のお付き合いをしましょう」モミモミ
幼馴染「よくない! 絶対よくない!」
姉「さ、服を脱ぎましょうね。大丈夫。優しくしてあげるから」ペラッ
幼馴染「ふにゃーーーーー!」
男「……なにやってんの?」
姉「だって、恥ずかしがる幼ちゃんが可愛いんだもの」
男「姉ちゃんさあ……幼は女の子なんだから、そういう弄りはやめてくれよ」
姉「あら? 貴方に私を説教する権利あるのかしら」
男「はあ?」
姉「幼ちゃんの寝込みを襲おうとしたのは誰?」
幼馴染「ええ!?」
姉「幼ちゃんが寝ている時にね、この愚弟は胸を揉もうとしたのよ。私が止めなければ、幼ちゃんの身体を好き勝手弄りまわしていたでしょうね」
幼馴染「そんな……」
男「聞いてくれ、あれは気の迷いで……」
幼馴染「どうして止めたんですか!?」
姉「……なんで私が怒られるの?」
男「さ、さあ……?」
副部長「いやー、実に部長と男さんらしい」
幼馴染「……うるさいわね」
生意気娘「むしろ……」
真面目っ子「男さんがそこまでする覚悟だったとは……」
元気っ子「そっちの方が驚きだよね」
無口っ子「……ゲームするだけだと思ってた」
幼馴染「うん。今は〇〇大でバスケやってるよ」
生意気娘「名門じゃないですか!?」
幼馴染「凄い人だからねー。北高が初めて全国出た時の部長だもん」
真面目っ子「私、見たことありますよ! あの人が男さんのお姉さんだったとは……」
無口っ子「……だから男さんも運動神経いいのか」
副部長「んー。誰?」
生意気娘「さすがだな、お前……」
副部長「えー? 部長のことしか覚えてないなー」
幼馴染「あの試合出てないよ……」
生意気娘「こいつ、部長がベンチだからって興味なくして、ずっとスマホをいじってたからな……」
元気っ子「私は覚えてるよ。その人だけで30点くらいとってたよね」
副部長「あれ? 女先輩は出てなかったの?」
真面目っ子「出場してましたよ。でも、あの試合ではアシスト役でした」
副部長「女王様気質の女先輩が……その人、よほどの実力者なんですね」
幼馴染「そりゃ、うちの高校の全国大会連続出場記録を止めた人だから」
副部長「どんな人なんだろう……」
女「男くん、プリントお願いしてもいいかな?」ニコニコ
男「……ずいぶん機嫌がいいな」
女「わかる? この後、妹とデートなの!」
男「なるほどね。だから、こいつが廃人になってるのか」
男友「 」
男「ああ……そういや、進路調査票提出してないのお前だけだったな」
男友「うるせえ……」
女「でもね、安心して。君がフリーターになったとしても、私が妹を幸せにするから。だから、男くんは何にも心配せずに人生を彷徨っていて構わないのよ」
男友「黙れ、負け犬が!」
女「私、推薦で大学決まってるのよねー」
男友「くっ……」
男「部活で進路決まるとかいいよな」
女「でしょ? いやー、バスケやっててよかった」
男(……そういや、幼は大学どうすんだろ)
男友「そうだそうだ! 推薦取り消しになってしまえ!」
女「顧問から今日の活動は一任されているのよねー。なので、私の判断で休みにしたのです! はい、問題ない!」
男「え? そうなの?」
女「そうなのです! 私と妹はデートしてくるので、友くんはじっくり進路相談してきていいからねー!」
男友「いやだああああああ!」
男「そうだったのか。姉ちゃんに連絡しておかないと」
女「えっ」
男「今日、部活に顔を出すって言ってたから」
女「帰ってきたの!?」
男「昨日から三日間休みなんだと」
女「あのハゲ顧問め……姉先輩が来るのを知ってたから、私に任せたんだな……」
女「待ちなさい!」
男「なんだよ」
女「姉先輩には『顧問が原因で休みになった』と伝えなさい」
男「お前の判断で休みになったんだろ」
女「顧問が病気になったから、私に任されたのよ」
男「いや、さっきまで普通に授業してたけど……」
女「いいからそう連絡しなさい! 私がどうなってもいいの!?」
男友「構わないぞ」
女「あんたには聞いてない!」
女「妹……」
後輩「よかった。ここにいたのですね。こちらの方が……」
女「……」ギュ
後輩「お姉ちゃん……?」
女「私が絶対守るから。バスケやるためだけに産まれてきたような頭の中バスケばっかりのスパルタ女なんかに負けない!」
後輩「え、えっと……」
女「さあ、逃げましょう! 誰にも手の届かない私たちだけの楽園に!」
姉「そこって体育館のことよね?」
女「!!!!!!?」
姉「ええ。練習開始前に身体を動かしておこうと思って。なのに、部室に行ったら誰もいないのよ。この子に聞いたら、バスケ部は休みだって言うのよ。総体前なのにおかしいでしょう?」
男「ああ、それは……」
女「顧問が病気になったので休みになったんです!!」
男「お前なあ……」
女「もう立てないくらいの重病みたいで、仕方なく休みになったんですよ!」
姉「……そう」
女「そうなんですよ! あー、残念だなあ! 姉先輩とバスケしたかったなあ!」
姉「さあ、練習しましょう」
女「えっ」
姉「聞いていたわよ。先生が病気なのでしょう。お気の毒にね。さあ、練習しましょう」
女「姉先輩? 顧問が大変な状況なのに部活をやるのはどうかと……」
姉「夏休みになったらすぐ総体よ。さあ、練習しましょう」
女「……」
姉「先生が練習を見れないなら、私がトレーニングを仕切るしかないわね。さあ、練習しましょう」
女「……みんな、休みだと思って下校してるんじゃないんですかね」
姉「呼び戻せばいいじゃない」
女「そうですね……」
姉「さあ、練習しましょう」
後輩「わ、わかりました……」
女「姉先輩、行きましょう」
姉「ちょっと待って、この子はバスケ部じゃないの?」
女「せんぱーい。今日はあんまり厳しくしないでくださいよー」
姉「何なのその甘え声は。気持ち悪い」
女「……」
姉「この子、貴女の妹でしょう。ミニバスで有名だったらしいじゃない。なぜ、バスケ部に入れないの?」
女「……確かにミニバス時代は凄いプレーヤーでした。でも、中学ではやっていませんし、今から入部しても難しいと思いますよ」
姉「でも、この間の球技大会でも大活躍だったそうじゃない。顧問から聞いたわ」
女「あのハゲ、余計なことを……」
後輩「私がですか……?」
姉「ええ。顧問から聞いた話が正しければ、問題なく練習についてこれると思うわ。どうかしら」
女「姉先輩!」
姉「……なに?」
女「妹はもうバスケはやめているんです。だから、そういう強要は困るんです」
姉「強要だなんて人聞きが悪い。これは勧誘よ。それに貴女にも悪い話ではないと思うけど」
女「……どういうことですか?」
姉「もし、入部してくれたら、これから毎日、放課後は一緒にいられるのよ」
女「入部させます」
後輩「お姉ちゃん!!?」
後輩「その手に持っている用紙はなんですか!?」
女「大丈夫。婚姻届だから」
後輩「いや、入部届でしょう!!? というか、婚姻届でもダメですから!」
姉「これでガードが弱いのも無事解消ね」
後輩「もう入部前提!!? 先輩助けてくださいよ!」
「……」
後輩「い、いない……」
女「さあ、秘密の楽園にレッツゴー!」
姉「うふふ。楽しみだわ」
男「なんだお前。隠れてたのか」
男友「俺がいたら、気を遣うだろうからな」
男「どういうことだ?」
男友「後輩はバスケやりたいんだよ。でも、俺がいるから我慢してくれてたんだ。それくらい一緒にいればわかるよ」
男「でも、いいのか。あの子がバスケ部に入ったら、一緒にいられる時間が減るぞ」
男友「いいんだよ。後輩にはやりたいことをやってほしいから」
男「……そうか」
男(やりたいことをやってほしい、か)
男(まあ、そうだよな。俺だって幼にはそうであってほしい)
男(俺が重荷になるなんてことは絶対に嫌だ)
男(……進路のこと話さないと、だなぁ……)
ブー、ブー
男(ん? ……姉ちゃんからのメールか)
『帰りにコンビニに寄って、あの子の様子を見てくるように』
男(……姉ちゃんも相変わらずだなあ)
幼馴染「姉先輩が北高の練習に参加したの!?」
男「ああ、女は嫌がっていたけどな」
幼馴染「あはは……姉先輩はストイックだからね。女とっては厳しい人に映るかもね」
男「ストイックというかアレはスパルタだろ……」
幼馴染「えー、そうかなあ。私はあれくらい普通だと思うけど。私も姉先輩とバスケしたいなあ。ねえ、西高の練習に参加してくれないか聞いてみてよ」
男「やめとけ、お前と姉ちゃんのコンビとか周りにとっては悪夢でしかない」
男「朝練ならいいんじゃねえか」
幼馴染「でも、朝早いよ?」
男「むしろ、喜んで起きるんじゃないか」
幼馴染「なんで?」
男「それはだな……あ、ちょっとコンビニ寄っていいか」
幼馴染「ちょっと待ってよ!」
男「プリン買ってやるから」
幼馴染「私は子どもか!」
店員「550円になります~」
男「はーい」
店員「あれれー? 男くんの彼女さんですかー?」
幼馴染「え……まあ、はい……」
店員「うふふ。こんな素敵な女性とお付き合いするなんて、男くんもやるときはやるんですね~」
幼馴染(かわいい人だけど、なんか独特の雰囲気がある人だな……)
男「店員さんはどうなんですか? 彼氏さんとかできましたか?」
幼馴染「……!」
店員「私ですかぁ~? んー、あんまりいい話はないですかねぇ~」
男「そうですか」
幼馴染「……」
男「なんでむくれてんだよ……」
幼馴染「……じゃあ、聞くけど。あの店員さんとはどういう関係なの?」
男「は? ただの店員と客の関係だけど……」
幼馴染「嘘! それだけなら、あんな風に親しげに会話したりしないもん! なにが『店員さんは彼氏とかできました』だ! とかってなんだ、とかって!」
男「常連みたいなもんでさ。通っているうちに仲良くなったんだよ」
幼馴染「スーパーコミュ障の男にそんなことできるわけない!」
男「お前さあ……」
幼馴染「否定できるの?」
男「ノーコメントで」
幼馴染「なーんだ。そういうことか。別に隠すことなかったのに」
男「それだけなら、な……」
幼馴染「へ?」
男「実は……」
店員『いらっしゃいませ~』
姉「……相変わらず元気そうね」
幼馴染「いいんですか、姉先輩?」
姉「お、幼ちゃん!?」
幼馴染「あの人に声をかけなくていいんですか?」
姉「……愚弟から聞いたのね」
幼馴染「姉先輩があの店員さんの様子を逐一報告するように男に命令したって話は聞きました。でも、男は鈍感だから先輩の気持ちには気付いていませんでしたけどね」
姉「さすが愚弟……」
幼馴染「確かに……独特な雰囲気がありますよね」
姉「でしょう? ゆったりとした話し方なんてイライラしてしょうがなかったのに。一緒に同じ時間を過ごしているうちに、いつのまにか……」
幼馴染「好きになっていたんですね」
姉「……誰かといて安心できるなんて知らなかった。誰かを想うことがこんなにも切なくて寂しくて、でも幸せなことなんだって私は彼女に教えてもらったのよ」
幼馴染「なら、どうして、話しかけないんですか。連絡さえとっていないんでしょう」
姉「決まってるじゃない。バスケに集中するためよ」
幼馴染「……」
姉「でも、それじゃダメなの。上を目指すのなら私は自立しなきゃいけない。どんなことにも揺るがない選手にならないといけない」
姉「もし、あの子が傍にいたら、きっと甘えてしまう。彼女の傍にずっと留まっていることを私は願ってしまう。だから、離れたの」
姉「大学を卒業したら彼女を迎えに行くわ。でも、それまでは」
姉「私は一人で戦うの」
姉「そんなことないわよ。私は弱いから強くあろうとしているだけ」
幼馴染「……でも、私にはそんな選択できません」
姉「それは、ちゃんと自分の弱さを受け入れているってことよ。それができるのは、本当に強い人なんだと私は思うわ」
幼馴染「そうでしょうか……」
姉「でも、これだけは言っておく。貴女が選んだ道はもっとも難しいことよ。昨日、北高の練習にしてよくわかった。あのチームは強い。私たちの代よりも」
幼馴染「……わかっています」
姉「頑張りなさい」
男「おつかれさん」
幼馴染「えへへ、ありがと!」
男「それにしてもお前、昨日まで合宿だったのによくやるよな」
幼馴染「夏休みが明けたら、すぐウィンターカップの予選だからね。休んでる暇なんてないよ」
男「やりすぎて怪我しないようにな」
幼馴染「ヤリすぎてって……私たちまだしてないでしょ?」
男「……本気で心配してるんだけど」
幼馴染「すみませんでした……」
幼馴染「なんでそんなこと聞くの?」
男「お前、ミニバスでの初めての合宿の時、ホームシックになって布団の中で朝までずっと泣いてたんだろ」
幼馴染「なんで知ってるの!?」
男「姉ちゃんから聞いたんだよ」
幼馴染「あの人は……!」
男「ノリノリで合宿に行ってたから意外だったな」
幼馴染「違うんだよ……布団の中に入ったら、男の顔が浮かんできて寂くなっちゃったんだよ……」
男「俺の名前呟いてたらしいな。おとこぉ……って」
幼馴染「やめて!」
男「……覚えてないなあ」
幼馴染「なら、思い出させてあげよう。合宿先に向かうバスに乗りこむ私を君は泣きながら見送ったのだよ」
男「か、勘違いじゃねえか」
幼馴染「『おうちゃぁん……』」
男「ごめんなさい」
男「幼もだったのか……」
幼馴染「え? 男もなの?」
男「ああ……バスに乗りこむお前の背中を見て、俺は幼が好きなんだって自覚したんだ」
幼馴染「なんだ……じゃあ、小学生のころには既に両想いだったんだ。なのに、最近まで付き合っていなかったなんて私たちって本当に馬鹿だよね」
男「まったくだ……」
男「もうこんな時間か。朝飯食わないと」
幼馴染「じゃあ、ご飯食べた後、10時にこの公園でいい?」
男「まあ、そんなところだな」
幼馴染「むふふ」
男「な、なんだよ」
幼馴染「久しぶりのデートだからさ! 楽しみだなって!」
男「期待に応えられるように頑張りますよ」
男「じゃあ、行ってくるわ」
父「貴様、受験生だという自覚はあるのか。世の高校三年生は勉学に励んでいるんだぞ」
母「まあまあ、お父さんいいじゃないですか」
父「ダメだ。もし浪人なんてことになってみろ。こいつは遊び呆けるに違いない」
母「今日は幼ちゃんとデートらしいわよ」
父「そうか。なら、お前は勉強してろ。私と母さんで幼ちゃんをもてなすから」
男「なに言ってんだ、親父……」
母「それもいいわね。男はお留守番してなさい」
男「この馬鹿夫婦が……」
男「冗談に聞こえねえんだよ……」
母「でも、勉強してほしいのは本当。模試の結果を見る限り、大丈夫だと思うけれど、親としては心配なのよ」
男「……わかってるよ」
父「そういえば、幼ちゃんは大学の推薦を蹴ったのだろう」
男「えっ!!?」
母「……」
男「な、なんで……」
父「さあな。その大学は愛知にあるらしいから、それよりも都心の大学に行きたいとかじゃないのか」
男「まさか……!」
父「お前たち、付き合っているのに進路の話をしていなかったのか?」
男「行ってくる!」ダッ
父「……」
母「……お父さん、どうして話したんですか」
父「これからのことを考えるなら、ちゃんと向き合わせないといけない。いつまでも逃げ回ることはできないんだよ」
母「……そうかもしれませんね……」
男「幼!」
幼馴染「男が走ってくるなんて珍しいね。どうしたの、まだ集合時間前だよ?」
男「お前、大学の推薦断ったのか?」
幼馴染「な、なんで、その話を知ってるの!? まさか、姉先輩が……」
男「違う。親父から聞いたんだ。親父は幼のお父さんから教えてもらったらしい」
幼馴染「え、お父さんが……」
男「なんで断ったりなんかしたんだよ!」
幼馴染「……なんとなく察しているくせに」
男「俺のせいか……」
男「自分の将来を決めるんだぞ! そんなくだらない理由で断るなよ!!」
幼馴染「くだらない?」
男「そうだよ! 俺がいるかどうかなんて関係ないだろ!」
幼馴染「……あるもん。私は男がいなかったらバスケなんてできない。男と再会するまでの私に逆戻りしちゃうもん」
男「あの時とは違うだろ。今は連絡だってとれるし、会いにだって行くよ!」
幼馴染「それじゃあ、足りないの!」
幼馴染「だから、せめて大学生の間だけは一緒にいたいって思うことの何が悪いの!」
男「いい加減にしろ! 俺はお前の重荷になりたくないんだよ」
幼馴染「だから、そうじゃないって言っているでしょう! 私には男が必要なの! 傍で支えて欲しいの!」
男「……俺にはわからねえよ」
幼馴染「もう知らない!」ダッ
男「お、おい!」
女「で、今日はどこに行くの?」
会長「どこだと思う?」
女「私の予想だと、水族館なんだけどどうかな?」
会長「……」
女「で、お昼は水族館近くのイタリアン! その後はちょっと移動して公園を散策ってところかなあ」
会長「……君はエスパーなのかな?」
女「そんなんじゃないよ。ただ、君のスマホの閲覧履歴を調べただけ」
会長「いつの間に!!?」
女「女の子って怖いよねー」
幼馴染「はぁ……はぁ……」
女&会長「!!?」
会長「すごい汗だけど大丈夫かい……?」
幼馴染「……」
女「……幼?」
男「幼!」
幼馴染「……っ!」
女「……」
男「冷静になって話をし……」
女「オラッ!」ドスッ
男「な、なんで……」ドサッ
女「よしっ。幼、バス乗るよ!」グイッ
幼馴染「え、ちょっと……」
女「会長、男のことは任せたよ!!」
会長「えっ……」
男「お、幼……待ってくれ……」
会長「なんだ、これ……」
女「とりあえず汗拭きなよ」
幼馴染「……どうして助けてくれたの」
女「男くんが来た時、君が怯えていたからね」
幼馴染「そんなこと!」
女「あるよ。今にも泣きそうな顔をしていた」
幼馴染「……私、そんな顔してたんだ」
女「このまま君たちを放置したら別れる気がしたから、つい干渉しちゃったのよ」
女「おっと。君たちの間に何があったのかなんて聞かないよ。聞いたところで解決できるわけじゃないし。そもそも興味もないしね」
幼馴染「……冷たいわね」
女「優しい私なんて気味が悪いでしょ」
幼馴染「……それもそうね」
女「デートする予定だったから」
幼馴染「で、デート?」
女「うん。私たち、付き合ってるから」
幼馴染「え、ええ!!?」
女「付き合って一ヶ月くらいになるのかなー」
幼馴染「意外な組み合わせね……」
女「君たちのほうがよっぽど意外な組み合わせだと思うけどね」
女「それを今探してる感じかな」
幼馴染「な、なにそれ? 好きでもないのに付き合ってるの?」
女「違うよ。彼が大切な存在になれるのか見極めているの」
女「君たちを見ていて思ったのよ。恋や愛は人を変えるんだな、って」
女「それで私も探すことにしたの。私を変えてくれる存在をね」
幼馴染「女……」
女「だから、君たちが簡単に別れたりしたら困るの。私が憧れて、欲しいと願った関係なんだから大切にしてよ」
幼馴染「……うん」
・
・
バス停
男「……なんかごめんな」
会長「まったくだ。練りに練ったデートプランが水の泡だ」
男「デートってお前……女と付き合ってるのか?」
会長「あの同窓会の夜からね」
男「マジかよ!? あの時初対面だろ? よく付き合ったな……」
会長「おかげでデートのたびに彼女の色んな一面を知れて楽しいよ。君たちみたいにお互いを理解し合ってから交際するのが正解じゃないんだよ」
男「……理解できてたわけじゃないんだよな」
会長「そうか。頑張れ」
男「最後まで聞けよ!」
会長「幼くんは君を選んだんだ。君が幼くんを幸せにしないと」
男「……わかってるよ」
生意気娘「ったく……なんで、休日までお前たちと一緒にいないといけねえんだ」
真面目っ子「よく言いますよ。胸についた無駄な脂肪を激しく揺らしながら踊っていたくせに」
生意気娘「ああ!? てめえも一緒になって踊ってただろうが!!」
無口っ子「……うるさい。でかいのは乳だけにしてろ」
無口っ子「……乳牛」
生意気娘「上等だ……! 今日こそ決着をつけてやる!!」
マネージャー「こんな街中でやめましょうよ!」
元気っ子「いやー、いつ見てもキョン吉とカミナリのヘビロテは傑作だよねー」
マネージャー「この状況、わかってますか!!?」
副部長「む、むむむむ! 感じる! 感じるぞー!」
マネージャー「ダメだこいつ……やっぱり部長がいないと……」
幼馴染「……」
マネージャー「ひぃぃぃ!」
副部長「ぶっちょー! 私の部長レーダーに狂いなしだね!」
幼馴染「あ、みんな……」
副部長「部長……?」
幼馴染「……」
マネージャー「部長!」
幼馴染「え……あ、うん。わかった」
副部長「……」
幼馴染「あんたら、何やってんのよ」
生意気娘「ぶ、部長!?」
真面目っ子「どうして、ここに部長が!?」
元気っ子「あれれー?」
無口っ子「……男さんとのデートは?」
幼馴染「……っ」
副部長「!」
男「……」トボトボ
元気っ子「本当だ。おーい、男さーん!」
幼馴染「だ、だめ!」
生意気娘「え?」
無口っ子「……?」
男「お、幼……!」
副部長「おりゃー!」ドゴン
男「な、なんで俺ばっかり……」バタッ
真面目っ子「副部長、何してるんですか!!?」
副部長「部長、行きましょう! みんな、男さんのことは頼んだよ!」
幼馴染「え、ちょっと……」
男「幼……」
生意気娘「な、なんなんだよ……」
副部長「ここまでくれば大丈夫でしょう」
幼馴染「どうしてあんなことを……」
副部長「悲しそうな顔をしている部長を見たら、つい……」
幼馴染「……そう。また、そんな顔を……」
副部長「何があったんですか?」
幼馴染「実は……」
・
・
副部長「なるほど。進路の話で喧嘩になったわけですね」
幼馴染「……どうして男は私の気持ちをわかってくれないんだろ」
副部長「他人ですもん。わかるわけありませんよ」
幼馴染「でも、私たちは……」
副部長「恋人ですよ? しかし、他人は他人です。相手の気持ちがわからないのは当然ですよ」
幼馴染「そうかもしれないけど……」
副部長「友人だろうが兄弟だろうが恋人だろうが夫婦だろうが、相手に気持ちを理解してもらう方法は一つしかありません。ちゃんと話をしないといけないんですよ」
副部長「それを拒否した部長に男さんを悪く言う権利はありません」
副部長「なら、男さんの反応は予想できてたんでしょ。なのにどうして、逃げ出す必要があるんです。あんな悲しそうな表情したんですか」
幼馴染「だって……」
副部長「……いい加減にしろよ!!」
幼馴染「ふ、副部長……」
副部長「部長は男さんの彼女なんだろ! なんで、話もせずに逃げ回ってるんだよ!!」
副部長「傍にいて欲しいなら、男さんが納得するまで徹底的に話し合えよ!!!」
無口っ子「……副部長、それくらいにしておきなよ」
幼馴染「ムッティ……いつからいたの……?」
無口っ子「……最初からいたよ」
元気っ子「大丈夫ですか?」
男「う、ううん……なんとかね」
真面目っ子「副部長はなんでこんなことを……」
男「……俺が悪いんだ。俺が幼の気持ちを……」
生意気娘「まあ、そうだろうな」
元気っ子「最後まで話は聞いてあげようよ」
生意気娘「部長が悪いわけないだろ。こいつに責任があるに決まってる」
生意気娘「いいか。私はお前を部長の彼氏だなんて認めてない。でもな」
生意気娘「部長がお前のことが本当に好きで、お前といるのが幸せなんだってことはわかる」
真面目っ子「そうですね。それは間違いないです」
元気っ子「男さんと付き合ってからの部長、幸せそうだもんね」
生意気娘「だからまあ……部長のこと頼むよ」
男「……頑張るよ」
後輩「さあ、行きましょう!」
男友「……なあ、もうやめにしないか」
後輩「何を怖気づいているのです! 新たな一歩を踏み出しましょう!」
男友「いや、しかし……」
後輩「仕方ありませんね。先輩は天井の染みを数えているだけでいいですよ。私に身を任せてください」
男友「そんな初体験は嫌だ!」
後輩「大丈夫ですよ! 痛いのは私だけ!」グイッ
男友「誰か助けてくれーー!」
幼馴染「えっ」
後輩「お、幼先輩!?」
男友「それも一人でなにやってるんだ?」
幼馴染「……なにやってるんだろうね」
男「あ、幼……」
幼馴染「……っ」
後輩「幼先輩?」
男友「なにやってんだ、お前?」
男「なにって……」
後輩「男先輩」ニコッ
男「え?」
後輩「今です! 先輩! 幼先輩を連れて逃げてください!」
男友「は?」
後輩「早く!」
男友「お、おう……じゃあ、行こうか」
幼馴染「あ、はい……」
男「ま、待ってくれ!」
幼馴染「ダメです!」ベチン
男「やっぱりこうなるのか……」バタン
男友「まあ、いいけど……」
幼馴染「私、もうダメだぁ……」
男友「男と何かあったのか?」
幼馴染「……進路のことで言い合いになっちゃって」
男友「なんだ、そんなことか」
幼馴染「そんなこと!?」
男友「それくらいなら話をすれば解決するだろ」
幼馴染「だよね……」
幼馴染「……今は無理」
男友「君さあ……」
幼馴染「うまく話せる自信ないもん」
男友「よく言う。寂しそうな顔してるくせに」
幼馴染「え!?」
男友「男に会いたいって顔に書いてあるよ」
幼馴染「……でも、また喧嘩したら……」
男友「すればいいだろ。恋人なんだから、喧嘩くらいするだろ」
幼馴染「君は……後輩ちゃんと喧嘩するの?」
男友「そりゃあな」
幼馴染「その時はどうするの……?」
男友「徹底的に話し合うな。まあ、最終的には後輩に丸め込まれるんだけど」
幼馴染「……すごいね。私は怖いよ。このまま別れてしまいそうで」
男友「逃げ続けたら、いずれそうなるだろ」
幼馴染「……っ」
男友「それが嫌なら、ちゃんと話してこいよ」
後輩「ごめんなさい。突然、叩いたりして……」
男「いいよ。今日は痛い目を見る日らしい」
後輩「幼先輩と喧嘩したのですね?」
男「……うん」
後輩「やっぱり……何かあったのかは聞きません。ただ、幼先輩にあんな表情させないでください。幼先輩には幸せであってほしいのです」
男「幼はどんな顔してた……?」
後輩「寂しそうな顔をしていました」
男「そうか……」
後輩「なんでしょう」
男「……君はどうして、バスケ部に入部したの? 友と一緒にいられる時間が減るのに」
後輩「決まっているじゃありませんか。先輩が傍にいてくれるからですよ」
男「……」
後輩「先輩が卒業してからでは、バスケ部に入ることはできません。入部直後の苦しい時間を支えてくれる人がいないのですから」
後輩「先輩が傍にいてくれる。それだけで私は強くなれる気がするのです」
後輩「幼先輩も一緒なのだと思いますよ」
幼馴染(……)
ガサッ
幼馴染「男!?」
「にゃーん」
幼馴染(……逃げ出したくせに、ここで男を待っているなんて、私って本当に馬鹿)
幼馴染(私から会いに行かないといけないのに。私の想いを伝えないといけないのに……)
幼馴染(男に拒絶されるのが怖くて動けないの……)
幼馴染「おとこぉ……」
男「……幼」
幼馴染「どうしてここに……?」
男「10時に集合って約束したからな」
幼馴染「ううん……私が何にも相談しなかったのがいけないんだよ……」
男「……推薦断って、どうするつもりなんだ?」
幼馴染「都内の大学からも話があって、ウィンターカップで全国に出たら、推薦でとってくれるの。そのチャンスにかけることにする」
男「それがもしダメだったら?」
幼馴染「その時は一般入試で行くよ。強豪大学は難しいかもしれないけど、バスケができる大学は他にもあるから」
男「……そうか」
幼馴染「私には男が必要なの。傍にいて欲しいの」
幼馴染「離れるなんて……嫌なの……」ポロポロ
男「それで、ようやく気がついたんだよ。幼が俺を求めてくれるのなら、傍にいるべきなんだって」
男「俺で……本当にいいのか?」
幼馴染「男じゃなきゃ嫌なの」
男「傍にいていいの?」
幼馴染「ずっとずっと、私の隣にいて」
男「幼ちゃん……」ギュウウ
幼馴染「大好きだよ、男くん……」
副部長「部長……昨日は怒鳴ってしまってすみませんでした」
幼馴染「ううん。むしろ、助かったよ。ありがとう」
副部長「ぶっちょー……」
幼馴染「ウィンターカップでは絶対に全国に行くんだから! よーし、今日もガンガンやるよー!」
副部長「げっ……」
幼馴染「さあ、ウォーミングアップでステップワーク30本いくよ!」
副部長「やりすぎ! ウォーミングアップから飛ばしすぎ!!」
会長「……そうか。万事解決か」
男「心配かけて悪かったな」
会長「いや、別に心配してないけどね」
男「お前なぁ……」
会長「だって、君たちがそんなに簡単に別れるなんて思ってないからね」
男「……お前たちも幸せになれるといいな」
会長「ああ、そうなれるように全力を尽くすよ」
後輩「そうですか……あの二人はちゃんと仲直りできたんですね」
女「あいつら、死ぬまであんなことやってそう」
後輩「あはは……でも、それはそれで幸せそうでいいのではないですか」
女「まぁ……ね」
後輩「そういえば、男さんから聞いたのですが、彼氏がいるそうですね」
女「いるのかなあ?」
後輩「はぐらかしてもダメです! ちゃんと紹介してくださいよ!」
女「さあ! 練習始めるよ!」
後輩「もう……お姉ちゃんてば……」
男「悪い! 遅くなった!」
幼馴染「本当だよー。すっごい待ったんだから」
男「そこはお前さあ……」
幼馴染「寂しかったんだよ?」
男「……ごめん」
幼馴染「言葉より行動がほしいなあ」
男「はいはい……」ギュー
幼馴染「えへへ!」
幼馴染「大学? 違うよ。社会人になっても、結婚しても、お爺ちゃんお婆ちゃんになっても、ずっと二人仲良くやっていくの」
男「それ……最高だな」
幼馴染「ずっとずっと一緒にいようね!」
END
長い間ありがとうございました!!!
「男女」カテゴリのおすすめ
「ランダム」カテゴリのおすすめ
コメント一覧 (23)
-
- 2020年09月10日 10:18
- 3年近く書いてて草
長すぎて最初と最後のちょっとしか読んでないけど
-
- 2020年09月10日 11:42
- こういうやつが普段どんな生活してんのか気になる
-
- 2020年09月10日 11:52
- 3か4くらいまでは自分の状況とあっててワクワクした
まあ俺の場合幼馴染があってくれさえしないけど
-
- 2020年09月10日 12:22
- 男「ずっと前から好きでした!」 後輩「……誰?」
似てる
-
- 2020年09月12日 00:39
- >>5
俺も思った
-
- 2020年09月12日 03:00
- >>9
その続編でしょ
-
- 2020年09月10日 17:06
- そこそこ面白かったけど2年半も書き続けてたんか・・・
-
- 2020年09月10日 17:19
- 久々にこんな長いのみた
-
- 2020年09月11日 00:38
- ごめん、幼なじみ以外に女が出てきた時点でなんかキモくて切った
10ページぐらいだったら読んだかもしれんが…
-
- 2020年09月12日 01:13
- 38!?ビビるわ
-
- 2020年09月12日 08:34
- 読んでらんないわ
副部長いる?
-
- 2020年09月12日 11:41
- 童貞の都合のいい妄想という感じで非常にワイ好みの良いssだった
-
- 2020年09月12日 14:27
- これくらいの量なら簡単に読み切れると思うんだけどな
色々とモヤモヤしたものが残って終わったけど、まぁ青春って素晴らしいなって感じで乙
-
- 2020年09月24日 02:34
- >>14
文章を読む心構えの問題だ…
1・2レスでオチてるようなのがザラなんだから戸惑うのも無理からんっつーか
-
- 2020年10月04日 09:08
- >>14
多少「読むぞ」スイッチが入らんと苦しいわな
そしてそういう時は大概文庫本を手に取る
-
- 2020年10月25日 18:58
- かわいくて読みながら悶えたわ(笑)
-
- 2020年10月28日 18:04
- スレタイ見て軽い気持ちで読み始めたら長えよwww
読む気無くすわwwwww
-
- 2020年11月06日 23:04
- 火曜日 朝 公園が二回あるのは読まずにコピペしたからか?
-
- 2020年11月07日 18:02
- 長すぎて
-
- 2020年11月10日 00:00
- 長い割に中身が詰まってない、、
-
- 2020年11月12日 12:26
- 70話くらいで両想い発覚して話自体は落ちがついてるから、残りは延々引き延ばした中身のないラブコメだな・・・。
-
- 2020年11月17日 21:23
-
長いし面白くないし気持ち悪い、正直吐き気した
こんなん読みきれんわ
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よくこんだけ2chのスレに書いたわ
よくこんだけの大長編1ページにまとめたら
びっくりだわ
ラノベ3巻分くらいありそうやわ知らんけど