女「汁物専門店だって」男「こんなの絶対すぐ潰れるだろw」
女「あの店見てよ、≪汁物専門店≫だって」
男「うっわ……思いつきで建てちゃったって感じの店だな。こんなの絶対すぐ潰れるだろ」
女「即飽きられて、半年後には閉店コースだよね」
男「ま、だけどせっかく見つけたんだ……冷やかしついでに入ってみようぜ」
男「話のネタくらいにはなるかもしれないしさ」
女「うん、入ってみよう!」
店主「いらっしゃい」
女店員「いらっしゃいませー! お好きな席へどうぞ!」
男「へえ、店内は意外と……」
女「うん、わりとオシャレ」
男「ここは汁物の専門店なんだって?」
女店員「はい、そうです!」
女店員「店長、どうぞ」
店主「生命は汁から誕生したとされている」
店主「地球の表面は70%が汁で出来ている」
店主「人体はおよそ60%から70%が汁で出来てるとされている」
店主「汁を知ることは、この世の真理を知ることにも通じる――と知ったからだ」
女店員「……だそうです」
男「はぁ……」
女「よく分からない……」
女店員「ほらー店長、引いちゃってますよ、この人たち! ドン引きですよ!」
店主「一言でいうなら、俺が汁を好きだからだ」
男「最初からそういって欲しかった」
店主「そうなる」
女店員「汁と名がつくものなら、だいたいいけますよ! 店長、汁を知り尽くしてますから!」
男「……ぷっ」
男「ぶはははっ! マジでこんな店があるとは思わなかった! 汁だけで勝負って!」
男「こんな店がやってけると思ってんの? 無理でしょ~! ぶはははっ!」
女「ちょっと笑いすぎだって……」
女店員「むう……」
店主「…………」
男「ああ、どうぞ。オススメを頼むよ」
女店員「じゃあ店長、こういう人たちには≪思い汁≫なんてどうです?」
店主「分かった」
男「へ? なに、思い汁?」
女「私たちが“思い知る”ってこと?」
男「おもしれえ! 思い知らせてもらおうじゃんか!」
男「マジで汁だけかよ。お新香すら無いのかよ」
男「いただきます」ジュルッ
女「私も」チュル…
男女「…………」
男「うま……!」
女「おいしい……!」
男「…………」
女「…………」
男「思い知ったな……」
女「そうだね……」
男「変な店だったけど、また来よっか」
女「うん」
―おわり―
―会社―
上司「この仕事やっといてくれ」
新人「えぇと、これはどうやれば……」
上司「昨日教えた仕事と同じだよ! 考えればすぐ分かるだろう!」
新人「す、すいません」
上司「何でも質問するんじゃなく、一を聞いて十を知ろうとしなくちゃ!」
新人「はい……」
新人「ハァ……」
女店員「サラリーマンも大変ですねえ」
新人「いえ、しかしこの要領が悪いのはどうにかしなくちゃ……」
新人「昔から、覚えたことを他の場面でも応用するってのがどうも苦手で……」
店主「だったら……≪一を聞いて十を汁≫がいいかもしれない」
新人「え?」
店主「この汁を飲めば、頭が冴え、覚えた物事を要領よく活用することができるようになる」
店主「どうする、飲んでみるか?」
新人「飲みます! 飲ませて下さい!」
上司「新人君、これ……頼まれてくれるか」
新人「はい、お任せ下さい!」
上司(どうせまたすぐ聞きにくるんだろう……)
新人「どうぞ!」
上司「む……」
上司「ほう、よくできてるじゃないか。感心感心」
新人「前に教えてもらった知識を生かしたんです!」
新人「分かりました」
上司(おやつにアンパン食べるから、やっぱりお茶の方がよかったかな……)
新人「お茶とコーヒーを買ってきました!」
上司「おお、お茶も買ってきてくれたのか」
新人「アンパンが机の上にあったからもしかして……と思いまして」
上司「なにか分からないことはないか?」
新人「今のところ問題ありません」
上司「そうか……だが、分からないことがあったら遠慮なく聞くんだぞ」
新人「ありがとうございます!」
新人(大丈夫、今の僕ならもう課長の手を煩わせることはない!)
新人「いやー、おかげさまで絶好調ですよ!」
女店員「よかったですね!」
新人「だけど、これってあの汁のおかげですよね? ドーピングみたいなものなのかも……」
店主「そんなことはない。≪一を聞いて十を汁≫はきっかけを作ったに過ぎない」
店主「元々君はそれぐらいの能力を持ってたってことだ」
女店員「ズルしてるわけじゃないですよ~」
新人「それを聞いて安心しました。ありがとうございます!」
上司「うむ、この仕事も完璧だ……すっかり仕事に慣れてきたね」
新人「ええ、この調子で早く一人前になりたいです!」
上司「…………」
上司「…………」フゥ…
先輩「最近、あの人元気ないんだよな。どうしたんだろ?」
新人「…………」
新人(もしかして……!)
女店員「いらっしゃいま――」
女店員「あら、こんばんは!」
新人「こんばんは」
上司「ほぉう、汁物専門店なんてあったとは。初めて来たよ」
女店員「お好きな席へどうぞー!」
上司「しかし、折り入って話がしたいとはどういう風の吹き回しだ?」
新人「はい、実は色々と相談がありまして……」
新人「これからも課長を頼りにしてます!」
女店員「……あれ? あの人は一を聞いて十を知ることができるようになったのに……」
店主「だからこそだろう」
女店員「え?」
店主「時には、ああやって相手を頼ったり、立ててやることも必要だってことを知ったんだろうさ」
―おわり―
―汁物専門店―
店主「いらっしゃいませ」
女店員「いらっしゃいませ……うわ」
陰気女「…………」ドヨーン
女店員(見るからに負のオーラ漂わせてる人、きたー! 属性でいったら絶対“闇”とか“毒”!)
陰気女「ここ……汁物専門のお店……らしいわね」
女店員「は、はい」
陰気女「私、死にたいの……。こんな私に相応しい汁を出してちょうだい……」
陰気女「これは……?」
店主「≪苦汁≫だ」
女店員「え」
女店員(よりによって……なんで?)
陰気女「ふふ……ナイスチョイス……私に相応しい一杯だわ……」グビッ
陰気女「ぐをおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
陰気女「ごあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
陰気女「あがああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
陰気女「ぐぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
陰気女「ぎゃばあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
陰気女「にげええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
女店員「ひえええ……!」
店主「…………」
陰気女「よかった……私、生きてる……」
陰気女「生きてるって、なんて素晴らしいの……」パァァァ…
女店員「店長の≪苦汁≫はホント地獄みたいに苦いですからねえ、よかったよかった」
店主「ほら」
陰気女「え……?」
店主「もう一杯、飲んでみろ」
陰気女「でも……」
店主「心配するな、口直しの一杯だ」
陰気女「…………」チビ…
店主「苦汁ばかり嘗めさせられてきた人間は、甘い汁を飲む機会がめぐってくる」
店主「逆に甘い汁ばかりすすってきた人間は、いつか苦汁を飲むはめになる」
店主「俺は人生ってのは、そういうもんだと思っている」
店主「あんたはきっと、今まで苦汁ばかり味わってきたんだろう」
店主「だから……たまには甘い汁を飲んだっていいんだ」
陰気女「…………」
陰気女「ありがとう……」
女店員「どうやらあの人、死ぬのを思いとどまってくれたみたいですね」
店主「そうだな」
女店員「それにしても、店長も甘いですよねー。≪甘い汁≫なみに」クスクス
店主「…………」
店主「≪苦汁≫だ……飲め」
女店員「え」
店主「飲まなきゃ給料抜き」
女店員「そんなぁ~! パワハラですよ、こんなのぉ~!」
陰気女「今日も≪苦汁≫と≪甘い汁≫のセットを……」
店主「はいよ」
陰気女「ぐげえええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
陰気女「だけどこの苦しみの後に甘みがああああああぼげえええええええええ!!!!!」
店主「…………」
店主(しかしながら……毎度毎度この苦しんでる姿を見るのは、俺にとっても苦汁だな)
―おわり―
―汁物専門店―
男「うん、この豚汁うまい!」
女「とろろ汁も最高!」
女店員「ありがとうございます!」
男(≪思い汁≫の一件以来、すっかり常連になっちゃった俺たちだけど……)
男「あ、そういえばさぁ」
女「あー、マナー講師ってのが来るんでしょ? めんどくさそ」
男「汁物にもこういうマナーってあるのかな?」
店主「色々あるが……もっともよくいわれるのが――」
店主「汁物は右、ご飯は左というやつだ」トンッ
女「あ、ご飯とお味噌汁出てきた!」
男「この店、ご飯出るんだ!」
店主「さすがに白米ぐらいは出せる」
女店員「ちなみにあたしが炊いてまーす!」
店主「ご飯の方がより多く手をつけるから左側に置いているとか」
店主「日本では右より左の方が偉いとされるからとか、中国の陰陽五行説に由来するとか」
店主「色々な説があるが……確かなことはいえないな」
店主「個人的にはそれぞれ食べやすい位置にすればいいと思うが」
店主「公的な場で食事をするような局面に出くわしたら、マナーを順守するのがベストだろう」
女「なるほど」
女「まさか」
男「やっぱこれだよなー、ご飯に味噌汁ぶっかける猫まんま!」バシャッ
女「うわっ、最悪! やると思った!」
男「うまいじゃん。猫まんま」ムシャムシャ
女「だからって、せっかくのご飯と味噌汁が台無しじゃない! ねえ!」
女店員「そうですよ! あたしのご飯はともかく味噌汁は味噌汁で味わってくれないと、店長激怒しちゃいますよ!」
店主「…………」ゴゴゴゴゴ…
男「ひっ!」
男「ご、ごめんなさい……。せめて残さず食べますので……」
……
閉店後――
店主「…………」
店主「…………」バシャッ
店主「いただきます」
店主(なんか言い出しづらかったけど……俺も好きなんだよな、猫まんま)ムシャムシャ
―おわり―
中年男「検査の結果は……?」
医者「どこもかしこもよくないという状態ですな」
中年男「そ、そんな……」
医者「今すぐにでもお酒とタバコを控えて下さい。でないと、いつ倒れてもおかしくありませんよ」
中年男「はぁ……」
中年男(かといって、やめられたら苦労しないんだよなぁ……)
店主「なら、≪禁汁≫をどうぞ」
中年男「禁汁……?」
女店員「あまりおいしい汁ではないですけど、禁止したいものを念じながら汁を飲むんです」
女店員「そうするとあら不思議! 念じたものをやめられるんです!」
中年男「へぇ~」
女店員「あたしもこれで男遊びをやめられたんですよぉ! これでも夜の女王だったもんで」
店主「すぐ作るんで」
中年男「お願いします」
女店員「突っ込んで下さいよぉ!」
女店員「そうです! 強く強く念じて下さい! 念じるといえばこの前やってた超能力者の番組が面白くて……」
店主「誰かさんもおしゃべりを禁止してもらいたいな」
女店員「店長!」
中年男(酒とタバコを……やめたい!)
中年男「…………」グビッ
中年男「ぷはっ!」
店主「味はイマイチだろうが、効果は出るはずだ」
女店員「これでおいしければ言うこと無しなんですけどね~」
中年男(味がイマイチ……そんなことはなかったけどな)
同僚「今夜、一杯どうです?」
中年男(不思議だ……いつもだったら迷わず行くのに。全然飲みたい気がしない)
中年男「いや、やめておくよ。酒は控えるようにいわれてね」
同僚「そうなんですか」
中年男「また今度、誘ってくれよ」
中年男「ごちそうさま」
中年男「さて、野球見るか」
妻「あら? いつも食事後は一服するのに、今日は吸わないのね」
中年男「ああ……タバコはやめたんだ」
妻「そうなの? あなたもやっと健康管理に目覚めたのね!」
中年男(これが≪禁汁≫の効果か……)
中年男「いやー、禁汁のおかげですっかり健康になったよ」
中年男「ほら、今回の健康診断……全部異常無しだもの。こんなの20代の頃以来だ」
女店員「わぁっ、おめでとうございます」
女店員「汁物専門店をやってるかいがあるってもんですね、店長!」
店主「ああ」
女店員「で、今夜は?」
中年男「もちろん禁汁!」
~
中年男「今夜も禁汁を一杯」
~
中年男「いやぁ、私の味覚にぴったりなんだよね、この禁汁!」
店主「…………」
女店員「…………」
店主「禁汁に依存性はないんだが……」
女店員「よっぽどあの味が好物みたいですね」
店主「今度は≪禁汁を禁じる汁≫を作らなきゃいけなくなるかもな」
女店員「イタチごっこになりそう……」
―おわり―
―汁物専門店―
金髪「ったく、なんなんだよオメェはよ!」
ギャル「なによー! アンタが悪いんでしょ!?」
金髪「ンだとォ!?」
ギャル「大声出さないでよー!」
客A「さっきからなんなんだあの二人……」
客B「ワルそうだし、あまり関わらない方がいいよ」
金髪「あ? なんだてめえ!?」
ギャル「なんなのよォ!」
女店員「他のお客さんのご迷惑ですので、ケンカなら外で……」
金髪「うっせえ、口出すな!」
ギャル「あんたが外行きなさいよ!」ベーッ
女店員「むうう……どうやらあたしの恐ろしさを思い知らせる時が来たようですね」
店主「ちょっと待った」
店主「口は出さないが、汁は出させてもらう」
店主「これを飲んでもらおう。≪口ば汁≫だ」
金髪「≪口ば汁≫……?」
ギャル「どういうこと……?」
女店員(この汁の効能はたしか名前通り……)
ギャル「!」ビビビッ
金髪「……お前が好きだ」
ギャル「アタシも……!」
金髪&ギャル「ハッ!?」
女店員「あれ?」
女店員「これはどういうことです?」
店主「口ば汁は本音を口走ってしまう汁だが、結局のところ二人とも愛し合ってたってことだ」
女店員「喧嘩するほど……ってやつですか」
ギャル「二人で同じお椀で飲もっか」イチャイチャ
店主「ふぅ……イチャイチャすんならよそでやってくれないかな……」
女店員「店長も口走っちゃってますよ!」
―おわり―
―汁物専門店―
男「≪ほとば汁≫を飲むと……」グビッ
男「ほとばしるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」シュインシュインシュイン
女「私もぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」シュインシュインシュイン
女店員「お二人とも、ほとばしってますねえ」
男「あー、楽しかった」
男「ところでさ、この店ってなにか秘密のメニューみたいなのないの?」
女「あー、まかないのご飯みたいなやつ? あるなら飲みたーい!」
店主「…………」
女店員「あれですか! 店長、よっぽど機嫌よくないと作らないのに!」
男「あれって?」
女店員「店長が修行時代、辛くて辛くてくじけそうになったことがあるんですって」
女店員「そしたら、どこからともなく一杯のお味噌汁が目の前に置かれてたそうです」
女「なにそれ、心霊現象?」
女店員「かもしれません。とにかく店長はそのお味噌汁を飲んだそうです」
女店員「そしたらもう、それはそれはおいしかったと」
男「へぇ~、どこかの昔話にありそうなハナシだ」
女店員「店長は修行の末、ようやくその味を再現できるようになって、たまに作ってくれるんですよ」
男「おお、豆腐だけのシンプルな味噌汁だ」
女「いただきまーす」
グビッ チビ…
男「おお……ホッとする。なんというか、お袋の味って感じだ」
女「分かる! お母さんの味噌汁って感じ!」
男「あ、分かった!」
男「きっと汁の神様が飲ませてくれたんだよ!」
女「たしかに!」
女店員「いいですね、汁の神様。神様が修行を頑張る店長にプレゼントして下さったんですよ」
店主「だといいがな」
女店員「アハハ、照れてる」
男「店主さん、この味噌汁にもなにか名前つけたらどう?」
店主「そうだな。じゃあ……」
男「まんまじゃん!」
女「神様はこの名前、どう思うかな?」
女店員「うーん……神のみぞ知る、といったところじゃないでしょうか」
―おわり―
―汁物専門店―
学生「あーあ、ブラジル行きたいなぁ」
女店員「どうしてです?」
学生「自分、昔から南米に憧れがあって、どうせ行くならブラジルって決めてるんスけど」
学生「予算的にも距離的にもなかなか……ねえ」
女店員「なにしろ日本の裏側ですからねえ」
女店員「きっと行けますよ!」
店主「日本の裏側は大西洋なんだがな」
女店員「店長ってば夢がない!」
店主「それはさておき、ブラジル気分を味わいたいなら……こんな汁がある」
学生「え?」
学生「ブラ汁……!」
店主「飲むか?」
学生「飲んでみるッス!」グビッ
学生「おおっ、なんとなくブラジルの風味がするッス!」
店主「だろう」
女店員(ブラジルの風味ってなんだろう……)
学生「ブラジル、正式名称はブラジル連邦共和国。首都はブラジリア」
学生「人口はおよそ2億人、公用語はポルトガル語、国技はカポエイラ」
学生「ブラジルの由来は植物“ブラジルボク(パウ・ブラジル)”に由来する」
学生「あれ? ブラジル知識がすらすらと……」
店主「ブラ汁の効果が出てきた証拠だ。そのうち君はもっとブラジル的になれる」
学生「ありがとうッス!」
学生「う~ん、うまい!」
友人「あれ、お前コーヒー飲むんだ」
学生「ああ、最近好きになっちゃって」
友人「しかも豆から挽いて……本格的だなオイ」
学生「やっぱりコーヒー豆はブラジルが一番!」
学生「よっ、ほっ、はっ」ポンポンポーン
JD「すごーい、リフティング上手!」
学生「まあね」ポンポンポーン
JD「サッカーやってたの?」
学生「やってたわけじゃないけど……ブラジル大好きだし」ポンポンポーン
学生「サンバ! サンバ! サンバ!」
学生「イェ~イ!」
ワァァァァァ… キャーキャーッ
友人「いいぞー!」
JD「すっごーい!」
女店員「いらっしゃいませ――あ、ブラ汁を飲んだ学生さん!」
学生「Boa noite!」
女店員「へ……ぼあ・のいち?」
学生「やだなぁ、ポルトガル語の“こんばんは”ッスよ~」
女店員「ああ、ブラジルの公用語でしたっけ」
店主「だいぶブラ汁を楽しんでるようだな」
学生「ええ、おかげさまで俺ついに――」
学生「どこでもスマホ充電できるッス!」バチバチバチッ
女店員「……これ、ブラジルなんですか?」
店主「どこぞの格闘ゲームで出てきそうだな」
―おわり―
―汁物専門店―
チャラ男「おいおい、汁飲んだら湯気でメガネまで白くなってんじゃん!」
チャラ男「目が見えなくなってんじゃん! メガネだけに目がねえってか! ギャハハハハ!」
メガネ「ア、アハハ……」
チャラ男「カーッ! ノリわりぃなぁ!」
チャラ男「せっかく俺がいじってやってんだからよぉ~。もっとノッてこいってぇ~」
メガネ「ご、ごめん」
チャラ男「このTシャツもなんだよ、どこで売ってんだよこんなダサイの~。ダサすぎて逆にかっこいいわ!」
メガネ「ハハ……」
チャラ男「なぁ、なんか俺にオススメの汁ってねえの?」
店主「だったら≪い汁≫なんてどうだ?」
チャラ男「い汁? もしかしてこれ飲んだらもっといじり方が上手くなるとか?」
チャラ男「飲む飲む~!」グビグビ
チャラ男「うまぁい! これからはもっともっとお前のこといじってやるからな!」
メガネ「う、うん」
店主「…………」
ピアス「あれ? お前、ヒゲのそり残しあんじゃん」
チャラ男「ホントだ」
ピアス「うわ、すげえ! 三国志の関羽みてえ!」
チャラ男「は? 関羽って……あんなボーボーじゃねえだろ」
ピアス「怒るなって~! ちょっといじっただけだろ~!」
チャラ男「ちっ……」
店長「おい、手が止まってるよ!」
チャラ男「あ、すんません」
店長「ったく君の給料泥棒っぷりと来たら……まるでルパンだね」
チャラ男「……そんないい方ないんじゃないんですか」
店長「冗談だよ、冗談。ちょっといじっただけだろう? ムキになるなって!」
チャラ男「はぁ……」
チャラ男「やべっ、電車来てる……走らなきゃ」タタタッ
通行人A「あいつ猛ダッシュしてるよ!」
通行人B「ウサイン・ボルトじゃねーの?」
チャラ男「!?」
チャラ男「くそっ、間に合わなかった……」ハァ…ハァ…
会社員「アウトォォォォォ!!!」
チャラ男「なんだと!?」
会社員「ごめんごめん、慌てぶりが面白くてついいじってしまったよ」
チャラ男「…………!」
チャラ男(あのい汁ってやつの効果……!?)
「あそこ歩いてる人まるで……」
「ウケる~」
「ハハハ、いじりがいあるな」
チャラ男「…………ッ!」
チャラ男「や、やめろ……。やめてくれ……」
チャラ男「俺をいじらないでくれえええええ……!!!」
チャラ男「……すまなかった」
メガネ「へ?」
チャラ男「いじられる側になってよく分かった。俺は今までひどいことをしてきたようだ」
チャラ男「いじりってのはいじる方もいじられる方も楽しくなきゃ意味ねーわ」
チャラ男「本人が嫌ならそりゃ“いじり”じゃなくて“いじめ”だよな……」
メガネ「かもしれない。だけど……」
チャラ男「?」
メガネ「僕は嬉しかったよ。君みたいな人気者がさ、僕みたいなあまり目立たない人間にかまってくれて」
チャラ男「…………!」
チャラ男「ふん、お前も……俺のこといじってくれていいんだぜ!」
メガネ「じゃあ、そうさせてもらおうかな!」
アハハハハ… ハハハハ…
女店員「あの二人、いいお友達になれそうですね」
店主「ああ」
―おわり―
TV『噛むと肉汁が染み出てきて……おいし~……! 口の中にジュワァ~っと広がります!』
男「うまそうだな」
女「うん」
男「特にこの肉汁がうまそうでさ……」
女「“汁”といったら……」
男「あそこしかないよな」
女「決まり!」
店主「肉汁? 出せるぞ」
男「出せるの!?」
女「やったぁ!」
女店員「そりゃ汁物専門店ですから、肉汁くらい出せないと看板に偽りありですよ!」
店主「すぐ用意するから待っててくれ」
男女「はーい!」
男「うおお……お椀に肉汁が……」
女「いい匂い……」
男「…………」ジュル…
女「…………」チュル…
男「うわぁ~……とろけるぅ~……!」
女「ものっすごい濃厚……このまま天国行けそう!」
女店員「店長の出す肉汁はそれはもうすごいですから」
店主「出せない」
男「へ? なんで?」
店主「汁物専門店なんだから、肉なんか出せるわけないだろう」
女「豚汁出せるのに? ご飯は出せたのに?」
店主「あれが限界ギリギリだ。ギリギリチョップだ」
男「時々あんたのキャラが分からなくなるよ」
女「肉汁出せるんだから、肉出してくれてもいいじゃない!」
店主「出せない」キッパリ
―おわり―
―汁物専門店―
女店員「いらっしゃいませー!」
勇者「…………」チャキッ
女店員「え?」
勇者「はあっ!」ビュオッ
女店員「ひゃあっ!」サッ
勇者「む……なかなかの身のこなし。やるな……」
女店員「なんなんですか、いきなりぃ!」
勇者「私は勇者」
女店員「勇者……!?」
勇者「魔王を倒すためには、伝説の世界樹“ユグドラシル”の力を借りねばならん」
女店員「ユグドラシル……?」
勇者「ユグドラシルは私の住む世界には生えてないゆえ、ワープ魔法でこうして異世界にやってきた」
女店員「もうなにがなんだか……」
勇者「私の勘ではユグドラシルはここにあるはずなのだが……」キョロキョロ
女店員「このお店には木なんか一本も生えてませんよ!」
女店員「店長、どうしましょう?」
店主「この店にはユグドラシルはないが……」
勇者「なに?」
店主「どうぞ」サッ
勇者「いただこう」グビッ
勇者「む!? むむむ……!?」パンパカパーン!
女店員「謎のファンファーレが鳴り響いた!」
勇者「おお……この力、まさしくユグドラシルの力! これならば魔王を倒せる!」ゴゴゴ…
勇者「ありがとう、店主さん、お嬢さん。君たちは私の大恩人だ!」タタタッ…
女店員「…………」
店主「…………」
店主「さあな」
店主「なんにせよ、俺の汁がどこぞの世界を救うかもしれないってのは悪くない気分だ」
―おわり―
―汁物専門店―
力士「ふぅ……」
ボクサー「くそっ……」
柔道家「はぁ……」
女店員「なんだか今日のお客さんは……皆さんゴツイですね」ヒソヒソ
店主「ああ、心なしかいつもより店が狭く感じる」
ボクサー「ちくしょう……! 俺のがパンチは当ててるのに……!」
柔道家「なぜすぐ投げられてしまうんだ……」
女店員「皆さん、どうもスランプ気味みたいですね。どうします?」
店主「…………」
店主「お三方、今からあんたたち三人に、それぞれ違った汁を出そう」
三人「え?」
店主「ぜひ飲んでみて欲しい」
力士「青汁……」
店主「ボクサーのあんたには柑橘類を絞った≪黄汁≫」
ボクサー「黄汁……」
店主「柔道家のあんたには唐辛子の入った≪赤汁≫」
柔道家「赤汁……」
店主「さ、飲んでみてくれ」
三人「いただきます」ゴクッ
ボクサー「すっぱ! すっぱぁ! すっぱぁぁぁ!」
柔道家「か゛ら゛い゛ぃぃぃぃぃ!」
女店員「そりゃこうなりますよね」
店主「今度試合する時は、もう一度ここで味わった汁の味を思い出してくれ」
店主「そうすれば、なにか手助けになるかもしれない」
力士「はぁ……」
ボクサー「よく分からんけど……」
柔道家「そうしてみようか……」
ワァァァァ… ワァァァァァ…
行司「はっけよい!」
力士(始まった!)
力士(あの苦さを……! ≪青汁≫を思い出せ……)
力士(“青”……そう前に進むんだッ! 恐れず相手にぶつかっていけッ!)
力士「うおおおおっ!!!」バッ
ドゴォンッ!
対戦力士「ぐわぁっ!」
ボクサー(あの酸っぱさを思い出すと……唾液が出てきちまうぜ……)
ボクサー(≪黄汁≫、そうか……“黄”は注意しなきゃならねえ!)
ボクサー(ボクシングはただ手を出せばいいってもんじゃねえ。注意深く……相手を見る!)
敵ボクサー「……」ササッ
ボクサー(こいつ、明らかに脇腹をかばってる……嫌がってる!)
ボクサー「ここだァッ!」シュッ
ボスッ!
柔道家(あの辛さを……思い出すのだ)
柔道家(≪赤汁≫……“赤”は止まれ)
相手(こいつ、いつもなら技をかけようとすると、すぐ慌ててスキができるのに……!)
柔道家(動かず、動じず……相手の技を返す!)
柔道家「でやぁっ!」
ブオンッ!
ドザァッ…
審判「一本ッ!」
女店員「力士さんは恐れず前に出るようになり、ボクサーさんは注意深くなり、柔道家さんは動かなくなった」
女店員「店長が汁をオススメしたあの三人、みんな大活躍してるじゃないですか!」
店主「そうみたいだな」
女店員「さては店長って……武道や格闘技の心得があるんじゃ?」
店主「そんなもんあるわけないだろ」
店主「俺はあの三人を見て、なんとなく必要そうな汁を勧めてみただけだ」
女店員「だけど、もしかしたら隠れた才能があるってこともあり得ますよ?」
店主「……どうだかな」
店主「…………」
店主「うっ!」ビキッ
店主「……筋を痛めた」ズキズキ…
女店員「店長も自分を知ることができましたね……」
―おわり―
―汁物専門店―
男「こんばんは」
女「こんばんはー」
女店員「いらっしゃいませー! お好きな席へどうぞ! ……といってもあまり空いてないですけど」
男「いやー、今日は繁盛してるね。ほぼ満席だ」
女店員「えへへ、おかげさまで!」
新人「給料出たし、今日はたくさん汁飲むぞ!」
陰気女「うげええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
中年男「はぁ……禁汁うまい……おかわり」
金髪「今日もお前は可愛いぜ……」
ギャル「ありがと……」
学生「この味噌汁……gostosa(おいしい)!」
チャラ男「今度みんなでキャンプでも行かね?」
メガネ「行こう行こう!」
ガヤガヤ…
男「俺らがいうのもなんだけど……」
女「変わったお客さんが一杯いるねー」
男「いただきまーす」
女「おいしそ~!」
男「店主さん、初めて来た時は色々失礼なこといって、本当にすいませんでした!」
女「私もごめんなさい!」
店主「別に気にすることはないさ。自分が変わった店をやってることぐらい自覚してる」
女店員「といいつつ、本当は店長、結構デリケートなんですよ」
店主「苦汁飲ませるぞ」
女店員「ごめんなさぁい!」
女「お二人にもご報告をと思いまして……」
店主「ほう」
女店員「おめでとうございます!」
男「結婚しても、この店には二人で来るんで」
女店員「あたしたちもしちゃいます? ……結婚」
店主「しません」
アハハハハハ…
店主「よし、今日は特別に、二人のためにお祝いの汁を出してやるかな」
男「お、やったぁ!」
女「嬉しい!」
男「…………」
女「…………」
男「今日も汁、おいしかったな」
女「うん、おいしかった」
男「だけどこの店については、まだまだ知らないことも多いな」
女「うん、常連になったとはいえね。メニューは無数にあるし、あの二人も謎が多いし」
男「この店は……まさに“知る人ぞ知る名店”だな」
女「たしかに!」
男「あの店主さんのことだ……絶対あるぞ」
女「今度来たら、頼んでみようよ!」
男「飲んだらどうなっちゃうんだろうな。楽しみだ」
≪汁物専門店≫、本日も営業中――
―おわり―
ありがとうございました
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コメント一覧 (11)
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- 2020年08月13日 06:38
- ガマン○○
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- 2020年08月13日 08:44
- 謝罪〇〇
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- 2020年08月13日 09:17
- 〇〇ク・ド・ソレイユ
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- 2020年08月13日 09:35
- まんじる専門店
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- 2020年08月13日 09:45
- 臭マン女の見分け方を教えて下さい
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- 2020年08月13日 09:47
- つまらないSS書いて欲しいって誰かに依頼されたの?
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- 2020年08月13日 12:03
- 神話カテゴリだな
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- 2020年08月13日 12:13
- 週刊ストーリーランドっぽさがあって割と好き
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- 2020年08月13日 12:44
- Soup Stock Tokyoが
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- 2020年08月19日 02:23
- 良かった
こういうので良いんだよ
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- 2020年08月21日 21:10
- めちゃ良かったです
面白かった