妻「シュレーディンガーの夫をやってもいい?」夫「いいとも!」妻「じゃああなたを箱に入れて毒ガスを……」
- 2020年07月23日 00:10
- SS、神話・民話・不思議な話
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夫「聞いたことはあるね」
妻「それに対抗して、シュレーディンガーの夫をやってもいい?」
夫「いいとも!」
妻「この箱に入って」
夫「よしきた!」
夫「入ったよ!」
妻「じゃあ私が作り上げた、あらゆる毒をブレンドした毒ガスを……」
ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…
夫「毒が箱の中に!」
妻「もっともっと入れる」
ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…
夫「……ッ!」
妻「あとは……このまま24時間放置するだけ」
……
……
妻「そろそろいいかな」
妻「開けるわよー」パカッ
妻「おおっ……!」
妻「“シュレーディンガーの夫”完成だわ!」
夫「……」
妻「今、どんな気分?」
夫「清々しい……まるで生まれ変わったような気分だよ」ニコッ
妻「私も……」
夫「……ん?」
ボロッ…
夫「君に触ったら、触った部分が一瞬で腐ってしまった!」
妻「すごい! すごいわ! 私の手がどんどん朽ちていく!」ボロボロボロ…
夫「しっかりしろ!」ギュッ
妻「んっ……」
妻「うふふ……」ボロッ…
夫「抱き締めたら、今度は君の全身が崩れてゆく!」
妻「す、素晴らしい……」
夫「いくな! いかないでくれ!」
妻「これで……いいのよ……。あなたは……完成したのだから……」ガクッ
夫「死ぬなァァァァァッ!!!」
夫「これほどまでに威力があるのなら、どうか我が妻を……」
夫「我が愛しき妻を……」
夫「生き返らせてくれえええええええッ!!!」
カッ!!!
夫「大丈夫か!?」
妻「ええ……朽ち果てた体が完全回復したわ」
夫「これは……どういうことだ?」
妻「あなたの強い想いに反応して、毒が薬の作用を果たしたんだわ」
妻「毒と薬は表裏一体……今のあなたは猛毒にも特効薬にもなれるということ!」
夫「毒にも薬にもなるってことか」
夫「ただこれといって活用方法を思いつかないので、今まで通り生活しよう」
妻「そうね」
夫「行ってきまーす」
妻「行ってらっしゃーい」
ギュウギュウ…
夫(満員電車……つらいなぁ)
夫(昨日は24時間箱に閉じ込められてたけど、こっちのがよっぽど辛いよ)
夫(そうだ!)
乗客A(な、なんだ!?)
乗客B(この人から猛烈な不快感が……)
乗客C(ちょっと離れよう)ササッ
夫(よしよし……おかげで快適に通勤できる)
夫「どうした? 顔色悪いぞ?」
同僚「朝から腹痛くてさ……食あたりしたっぽいんだよ」
夫「ふうん……」
夫(毒と薬は表裏一体……試しにやってみるか)
夫「ほれっ」ドンッ
同僚「ぐふっ!?」
同僚「あ、あれ……?」
夫「どうだ?」
同僚「腹痛が……治った! 今なにやったんだ!? 気功とか!?」
夫「毒をもって毒を制すってとこかな」
夫(結構キツイ叱られ方してたな……気の毒に)
夫(ん、気の毒……? もしかして、心の傷にも効いたりして……)
夫「えいっ」パァァァ…
OL「あれ? なんだか急に気分が楽になったー!」
夫「ミスはきっちり反省しなきゃならないけど、あまり落ち込んじゃいけないよ」
OL「はいっ!」
妻「お帰りなさい」
夫「今日の夕食は?」
妻「フグさしよ」
夫「そういえば、君はフグを調理できる免許を持ってたね」
夫「いただきまーす」
夫「うん、おいしかった……」
妻「歯切れが悪いわね」
夫「いや……おいしかったんだけど、なにか物足りないっていうか……」
妻「そういうと思って、取り除いた肝臓や卵巣もとっておいてあるわ」
夫「いただきまーす!」モグモグ
妻「どう?」
夫「テトロドうまぁい!」
妻「毒が好物になっちゃったのね」
夫「たまには二人でショッピングもいいね」
妻「あなたも新しい服を一着ぐらい買ったら?」
夫「そうだな……」
夫「これなんかどう? ナイフが突き刺さったドクロがプリントされたTシャツ!」
妻「センスがだいぶ毒々しくなったわね」
妻「あら?」
猫「ニャ…」ピクピク…
妻「この野良猫、弱ってるわ。死にかけよ」
夫「怪我とか寿命とかそんな感じじゃないな……。泡吹いてるし……」
妻「まさか……毒!?」
夫「だとしたら……俺が治せるかもしれない。ハッ!」ドンッ
猫「!!!」ビクビクッ
夫「よし、治った」
妻「さっすが、シュレーディンガーの夫!」
猫「ニャン…」スリスリ
夫「お、なついた」
妻「せっかくだから私たちで飼わない?」
夫「そうするか」
妻「“シュレ”って名づけましょ」
猫「ニャオーン!」
猫「ニャーン」
猫「ハグハグ」
夫「お、よく食べてる食べてる」
妻「すっかり元気になったわね」
夫「だけど、いったい誰が毒を……許せないな」
妻「うん、毒を盛るなんて最低の行為よ!!!」
TV『痛ましい事件が起こりました』
TV『飼われていた犬に、何者かが毒の餌を食べさせ、死亡させるという……』
TV『飼い主は悲しみに暮れ……』
妻「……!」
妻「これ、もしかして……」
夫「ああ、シュレに毒を盛った奴と同一犯じゃないか?」
妻「きっとそうよ!」
猫「ニャン!」
飼い主「はい……」シクシク
夫(死んでしまっては、俺でも蘇らせることは不可能か……)
飼い主「寿命や病気で死ぬのならまだしも、こんな死に方じゃ……悔しくて悔しくて……」
夫(そりゃそうだ……)
妻「だったら私がワンちゃんの霊を憑依させるわ」
夫「え、そんなことできるの?」
妻「あなたに抱き締められて死にかけた時、あの世との交信方法をマスターしたの」
夫「おおっ!」
妻「さっそく、やってみる!」ズオオオオッ
飼い主「この鳴き声は……あの子だわ!」
夫「まるでイタコだ!」
妻「クゥ~ン……」ペロペロ
飼い主「ああ……生前のあの子の仕草にそっくり! また会えるなんて!」
夫(犬になってしまった妻……アリだな!)ゴクリ
夫「それはよかった。じゃあそろそろ妻を元に……」
妻「ワワンワン! ワン!」
飼い主「どうしたの?」
猫「ニャー!」
妻「あなた!」
夫「うわ、いきなり戻った!」
妻「このワンちゃん、“犯人”を覚えてるって!」
夫「え!?」
妻「今、シュレにその犯人の居場所を教えてくれたみたい!」
猫「ニャン!」ダッ
夫「よぉし、ついていこう! 犯人を捕まえるんだ!」
飼い主「お気をつけて!」
妻「あなたね。罪もない動物たちに毒の餌を与えてるのは……」
青年「なんのことだか……」
夫「とぼけても無駄だ。この猫に見覚えがあるだろう」
猫「フーッ!」
青年「ゲ、こいつ生きてやがったのか! あ……し、しまった!」
妻「分かりやすく自白してくれてありがとう」
夫「警察に突き出してやる!」
ボワンッ!
モワモワモワモワモワ…
妻「きゃっ!」
妻(この毒……少しでも吸ったら意識障害になる!)
夫「ふん、うまそうな毒だ」スゥゥゥゥゥゥ
夫「ごちそうさま」ゲェップ
青年「な、なにい!? 毒が効かない!?」
妻「行きなさい、シュレ! リベンジマッチよ!」
猫「ニャーン!」ダッ
青年「ぐ、はっ……」ドサッ…
猫「ニャン…」スタッ
夫「強い……!」
妻「きっと死の淵から蘇ったことで、パワーアップを果たしたのね」
妻「だけど、シュレやワンちゃんに盛った毒といい、今の煙幕といい、素人が手に入れられる毒じゃあないわ」
妻「あなた……これらの毒はどうやって入手したの?」
青年「う、ぐ……」
妻「ある人?」
青年「俺が野良猫に石投げてたら……“これでも食わせろ”って……」
青年「そしたら、他にも毒について教えてくれて……」
青年「あの人は……恐ろしい人だ……。きっと今に……とんでもないことをやる……」
夫「黒幕がいたってことか」
妻「事件はまだ終わってないのね」
猫「ニャーン!」
警察署長「あなたの功績をここに表彰いたします」
夫「しかし、これで終わったわけではありません」
警察署長「え」
夫「私は必ずや、黒幕を捕えてみせます。“シュレーディンガーの夫”の名にかけて!」
警察署長「期待しておりますぞ」
タタタタタッ…
リーダー「このビルは我が組織≪ポイズンキングダム≫が乗っ取った」
社員「な、なんだ君たちは!?」
リーダー「大人しくしろ。でないと、この猛毒爆弾を破裂させる」
社員「ひいっ!」
リーダー「お前たちは各自、配置につけ!」
「はいっ!」 「はいっ!」 「はいっ!」
バラバラ…
隊長「犯人グループからの要求は?」
隊員「“日本は毒ガスで武装し、猛毒大国となるべきである”」
隊員「“我々のグループを新たな行政機関・猛毒省として認可し、国民全員が自由に毒を持てるようにせよ”」
隊員「“この要求が受け入れられなければ、ビル内の人質は全員毒殺する”とのことです」
隊長「わけ分からん……。しかし、奴らの武装や毒ガスは本物だ」
隊長「うかつに攻められんな……。下手につつけば大勢の犠牲者が出る」
隊員「ええ……」
隊員「誰だ!?」
隊長「あ、あなたはもしや……“シュレーディンガーの夫”!?」
夫「この事件を解決できるのは俺しか……いや」
妻「あれが毒餌事件の犯人がいってた黒幕ね」
猫「ニャーン!」
夫「我々しかいません」
隊長「分かりました……ここはお任せしましょう」
夫「二人とも、ビルに突入するぞ!」
妻「分かったわ!」
猫「ニャーン!」
ダッ!
隊員「あんな連中に任せて大丈夫なんですか!?」
隊長「彼らなら……毒をもって毒を制してくれるかもしれん」
部下B「蜂の巣にしてやる!」チャッ
夫「すでに毒は撒いている」
ムワァァァァァ…
部下A「う……うげっ!?」
部下B「き、気分が……」
ドサッ… ドサッ…
夫「殺しはしない……だが、せいぜい苦しむがいい」
部下D「ここを通すな!」ガガガガガッ
妻(なかなか激しい攻撃だわ……毒だけの組織じゃないってことね)
妻(だとしたら、あの人を憑依させる)
妻(我が心の師匠――“シュレーディンガー氏”を!)ズオオオオッ
妻「ふむ……まさか再び現世の地を踏むことになろうとは」
妻「テロリスト諸君、君たちに量子力学の真髄を教えよう」
妻「量子力学とは……“猟師力学”」
妻「すなわち、狩人の学問――強者の学問! これを極めたなら――」
妻「……」ギュオッ!
トトンッ
部下C「うおっ……!?」ビクッ
部下D「か、体が……! 動かな……!」ビクビクッ
ドザァッ
妻「急所を突き、複数の敵を倒すことも容易い」
部下F「俺らを潰すために猫の手も借りたってか? とっとと殺っちまえ!」
猫「ニャンッ!」
ズバッ! ザシュッ!
猫「ニャオーン…」スタッ
ドササッ…
部下F(こいつは……“猫の手”なんかじゃねえ……“獅子の手”、だ……)ガクッ
リーダー「こうなったら……この猛毒爆弾を炸裂させてやる!」
ボォンッ!!!
人質A「ひいい……!」
人質B「やりやがった! もう終わりだ……!」
リーダー「猛毒国家樹立の夢が叶わぬなら、せめて猛毒での大量殺戮を成し遂げるまでよ!」
リーダー「一人殺せば殺人犯だが、100人殺せば英雄だからなァ!」
リーダー「俺の名は永久に残るのだァ!」
「残念ながら、人質は一人も死なんよ」
リーダー「な……誰だ!?」
パァァァァァ…
リーダー「なにぃ……!? 毒が中和されていく……」
リーダー「何者だ、お前は!?」
夫「人呼んで……“シュレーディンガーの夫”」
リーダー「……!」
夫「お前は英雄(くすり)にはなれない……。かといって凶悪犯(どく)にもなれない……」
夫「教えてやろう。お前はただのクズだ」
リーダー「な、なんだとォ!?」
リーダー「毒を極めた俺には、人の命を奪い、国を変える権利だってあるんだ!」
夫「毒を極めた? そんなことはせめて24時間毒の充満した箱に入ってから言うんだな」
リーダー「ほざけぇぇぇぇぇっ!!!」ダッ
夫「お前には……毒を使うのももったいない」
夫「拳で十分だ」
バキィッ!!!
リーダー「ぐ、ばぁっ……!」ドザァッ…
猫「ニャーン!」
妻「うむ」
夫「ん? あなたはもしかして……」
妻「シュレーディンガーだ」
夫「これはどうも……!」
妻「君こそよくやった」
妻「私の提唱した思考実験とはもはや何の関係もない感じだが、君の力は素直に称賛しよう」
夫「ということは……この私が“二代目シュレーディンガー”を名乗ってもよいと!?」
妻「絶対ダメ」
夫「ですよねー」
猫「ミャミャミャ…」
夫「笑うなよ、シュレ……」
夫「うん、事件を解決した後の苛性ソーダは美味い!」グビグビ…
妻「ねえ……今夜はいいでしょ?」スッ…
夫「ん?」
妻「テロリストに立ち向かうあなたを見て……私もあなたに毒されてしまったの」
夫「よし……じゃあ今夜は楽しむとしようか」
妻「あなたの毒をドクドク入れてぇっ!」
…………
……
赤子「おぎゃあ、おぎゃあ……!」
妻「やったわ……!」
夫「いやー、どんな子が生まれるかちょっぴり不安だったけど……」
妻「元気な子が生まれたわね」
夫「どんな子に育つか楽しみだ!」
娘「ちょっとぉパパ! 毒飲むのはいいけど、その辺に置いておかないでよ!」
娘「あたしが間違って摂取したらどうすんの! この全身ポイズン野郎が!」
夫「す、すまん」
娘「ママ! 交霊術やった後はちゃんと数珠とか片付けてよ! このイタコもどきゴースト女!」
妻「ご、ごめんなさい」
娘「シュレ、お散歩行こ! ったく、とんだ毒親を持っちゃったわ! あなただけが良心よ!」スタスタ
猫「ニャーン!」トコトコ
夫「いやー、さすが俺たちの娘」
妻「ものすごい毒舌に育ったわね……」
おわり
元スレ
妻「シュレーディンガーの夫をやってもいい?」夫「いいとも!」妻「じゃああなたを箱に入れて毒ガスを……」
https://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1595419212/
妻「シュレーディンガーの夫をやってもいい?」夫「いいとも!」妻「じゃああなたを箱に入れて毒ガスを……」
https://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1595419212/
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コメント一覧 (8)
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- 2020年07月23日 00:30
- 最後でシュレディンガーの猫とかけた上手いオチを持ってくるんだろうなと思いながら読んでたが微塵もシュレディンガーの猫要素なかった
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- 2020年07月23日 00:40
- なんかめちゃくちゃだけど面白かった
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- 2020年07月23日 01:14
- 今ひとつ 途中で飽きてしまった
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- 2020年07月23日 02:53
- 自分で毒ガス入れたらシュデリンガーの猫じゃないだろ
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- 2020年07月23日 04:40
- シュレディンガーの猫というのはミクロ系とマクロ系が接続されるような系を考えた場合に,ミクロで見られる確率性がマクロにおいてどう発現するか?という問いかけだ。
この点がよくわからずに,単に古典的な話(つまり何の不思議もない話)になってしまっている例をよく見る。「猫を箱の中に入れました。猫は死んでいるか生きているかわからないのです。」といったものだ。(とはいえ実のところ猫自体も原子でできているわけだから,その生死は量子性によって決定されるわけで,その意味では猫を箱の中に入れるだけでもシュレディンガーの問題については議論できるのだが。)
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- 2020年07月23日 13:07
- 娘さんのは毒舌じゃなく正論www
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- 2020年07月23日 18:34
- こんな明らかなネタssでもマジレス量子力学に自信ニキ湧くんか…(困惑)
まあ誤解誤用されまくりの現状にイライラしてしまう気持ちはわかる
あ、ssは凄く面白いって訳じゃないけど謎の中毒性があって最後まで読んでしまいました
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- 2020年07月26日 23:55
- いきなり毒ぶち込んでどうすんだよ
毒の入った瓶が割れてる割れててないかで決まるんだぞ