将軍「この砦は落ちる……お前たちは逃げろ」兵士「いえ、お供させて下さい!(本当は逃げたいっ!)」
将軍「残るのは私だけで十分だ……お前たちは逃げろ」
兵士A「……」
兵士B「……」
兵士C「……」
兵士A(やったラッキー! 絶対逃げてやる! こんな砦と心中なんてゴメンだ!)
兵士A(だけど、いきなり『逃げます!』はちょっとまずいよなぁ……)
兵士A(まず一回断って、そしたらもう一度『逃げろ』って言ってくれるはずだから、そしたら逃げよう!)
兵士A「いえ、我らもお供させて下さい!」
兵士A(さあ、『だがお前たちを巻き込むわけにはいかぬ』と言ってくれ!)
将軍「分かった……お前たちの忠義、嬉しく思うぞ。よろしく頼む」
兵士A「えっ」
兵士B「えっ」
兵士C「えっ」
将軍「私は司令室に待機しているのでな」
バタン…
兵士A「……」
兵士B「……」
兵士C「……」
兵士A(なぜだ……なぜこんなことに……。俺にはまだやりたいことが……)
兵士B「おいてめえ!」
兵士B「せっかく逃げろって言ってくれたのにかっこつけやがってぇぇぇ!」
兵士A「ひっ!」
兵士C「しかも、勝手に『我らも』とか巻き込みやがって!」
兵士C「なんてことしやがる! 俺には妻子もいるんだぞ!」
兵士A「だ、だってしょうがないだろ……」
兵士A「『お前たちは逃げろ』『はい、そうします』ってのはさすがにさぁ……」
兵士A「ほら、よくいうじゃん? 『上司から褒美をもらう時はまず一度辞退しろ』って」
兵士B「こんな命かかってる場面で、そんな社交辞令なんざ考えんなや!」
兵士A「なんで黙って見てたんだよぉ!」
兵士B「う……」
兵士C「ぐ……」
兵士B「だって、あの場面で『俺ら二人は逃げます』って言いにくいじゃん?」
兵士B「親方や他の職人が残業してるのに、自分だけ帰るみたいになるし……」
兵士C「あー、分かる。そんな感じ」
兵士A「お前らだって似たようなもんじゃねーか!」
兵士B「まったくだな」
兵士C「判断が早すぎるよなぁ」
兵士A「……どうする?」
兵士B「……」
兵士C「……」
兵士A「今からでも遅くない。『やっぱり逃げます』って言いにいこう!」
兵士B「そうだな」
兵士C「そうしよう!」
将軍(あ~……今になって死ぬの怖くなってきたわ)
将軍(逃げてぇ~、今からでも逃げてぇ~!)
将軍(ったく、一目散に逃げりゃいいものを、なんで俺はあんなこと言っちまったんだバカが!)
将軍(『残るのは私だけで十分だ』……じゃねーよ! かっこつけすぎなんだよぉ!)
将軍(それに部下どもも部下どもだ!)
将軍(あそこは『いえ、将軍だけお逃げ下さい。敵は我らが食い止めます』って場面だろ!)
将軍(そうすりゃ逃げられたのによ! ったく空気読めねぇよなぁ、あいつら!)
将軍(無能な部下を持つと、俺みたいな名将はホント苦労するわ!)
将軍(さいわい、司令室には俺しか知らない隠し扉があるし……)
ガチャッ
兵士A「あ、あの……将軍」
兵士B「……」
兵士C「……」
将軍「(うおっ、ビックリした!)ど、どうした?」
将軍(もしかして、『やはり将軍だけお逃げ下さい』って言いにきたか!? やったぜ!)
将軍「うむ」
兵士A「俺ら三人……やっぱりまだ死にたくなくて……」
将軍「ん?」
兵士A「今からでも、逃げていいですか?」
兵士B「お願いします!」
兵士C「お願いします!」
将軍「……は?」
兵士A「え!?」
将軍「どこの軍隊に上官差し置いて逃げる部下がいるんだよぉ!」
兵士A「だ、だってさっきは……逃げろって」
将軍「あんなもんリップサービスに決まってんだろうがぁぁぁぁぁ!」
将軍「お前らみたいな下っ端は、俺みたいな偉い人の盾になるべき存在なんだよぉ!」
将軍「逃げるなんて絶対許さねえぞ!!!」
兵士B「今までこんなクズのために命張ってたのか……」
将軍「誰がクズだコラァ! あぁん!?」
将軍「いいか、お前らが逃げることは絶対許さん! その代わり今から俺は逃げる!」
将軍「お前らはせいぜい死ぬまでこの砦で足掻きやがれ!」
兵士A「こ、この野郎……!」
兵士B「おうよ!」
将軍「お、お前ら正気か!?」
将軍「上官殺しは重罪だぞ! 確実に死刑になるんだぞ!」
兵士A「どのみち、この砦にいても死ぬじゃねえか!」
兵士B「それに死人に口無し……ここでお前を殺っても、敵軍に殺されたってことになるさ」
将軍「き、貴様らぁ……!」
兵士B「おう! お前も手伝え! ていうか共犯になれ!」
兵士C「あのさあ」
兵士A「なんだよ?」
兵士C「今ここにいるメンツ、全員砦から逃げたいわけじゃん? だったら全員で逃げればよくね?」
兵士B「た、たしかに……」
将軍「その通りだ……!」
兵士A「うわっ、こんなところに扉が!」
兵士B「遠い異国にあるっていう≪カラクリヤシキ≫みたいな仕掛けだな」
将軍「ここはごく一部の人間しか知らんから、安全に逃げられる!」
兵士A「将軍バンザイ! あんた最高だよ!」
兵士B「よっ、名将!」
将軍「おだてるなよ! つか、砦落とされかけてんだから名将ではないだろ!」
アッハッハ…
兵士C「……」
兵士A「どうした?」
兵士C「……」
兵士B「なにやってんだよ。急がねえと敵来るぞ!」
兵士C「考えたんだけど……俺さ、やっぱ残るわ」
兵士A「ハァ!?」
兵士C「よくよく考えたらさ、俺生きて帰ってもいいことなんかないんだよね」
兵士C「妻子いるっていったけど、はっきりいって妻は鬼嫁で」
兵士C「三度のメシより俺の悪口が好き、みたいな女だし。不倫するし、メシは不味いし、すぐヒステリー起こす」
兵士C「子供は子供で立派にグレちまって、末は山賊か海賊か、みたいな奴だし」
兵士C「しかも俺の子じゃないんだよ。どう見ても不倫相手のガキ」
兵士A「うわぁ……」
兵士B「マジか……」
将軍「それは……辛いな」
兵士C「だから……俺はここでパァッと散るわ。行くならお前ら三人だけで行ってくれ」
兵士B「俺も……残る」
兵士A「お前まで!? なにいってんだよ!」
兵士B「実は俺さ、職人やってたんだけど……親方をカッとなって殺っちまったんだよね」
兵士A「なんでまた……?」
兵士B「親方の暴力や暴言に耐えられなくてさ……。見ろよ、体じゅう傷だらけ」
将軍「職人の世界は、場合によっては軍より過酷というからな……」
兵士B「しかも、俺のいた職人ギルドは親方殺しを絶対許さねえ。捕まりゃ恐ろしい制裁が待ってる」
兵士B「俺が軍に志願したのも、ギルドの手から逃れたかったってのもあるんだ」
兵士B「ここで逃げたところで、俺に未来はないし……やっぱ俺も残るわ」
兵士B「……」
兵士C「……」
兵士A「じゃあ将軍、俺ら二人だけで――」
将軍「いや、私も残ろう」
兵士A「将軍!?」
兵士A「あんたもなにか後ろ暗い事情があったりするんですか!?」
将軍「そういうわけでもないのだが……」
将軍「若い頃、亡き妻とよくデートしたのもここだった」
将軍「あの頃の思い出は……今も鮮明に我が心に残っている」
兵士A「……」
将軍「その後、フラーク砦の守将に任命された時は、『この地を自分の手で守れるなんて』と喜んだものだ」
将軍「やはり、私にはみすみすこの地を敵に渡すことなどできない」
将軍「最後まで……戦おうと思う。子もおらんしな」
兵士B「てなわけだ。お前だけ逃げろ!」
兵士C「俺たちの分までしっかり生きてくれよ!」
兵士A「……」
兵士B「ハァ!?」
兵士C「なんでだよ!?」
将軍「我らに義理立てすることはないんだぞ」
兵士A「俺さ……生まれた時から天涯孤独で、ずっと仲間らしい仲間がいなかったんだ」
兵士B「え……」
兵士A「軍に志願したのも、死にたくなかったのも、“真の仲間に巡り合いたいから”ってのがあったからだ」
兵士A「だけど俺は……もうその夢を叶えられたような気がするよ」
兵士A「お前たちが……その“真の仲間”だ!」
兵士A「だから……残るぜ!」
兵士C「今までのはなんだったんだ。とんだ茶番じゃないか」
兵士A「へへ……悪いな」
ワァァ… ワァァ…
兵士B「おっと、とうとう敵さんがやってきたぜ」
兵士C「ふん、妻子よりよっぽど楽な相手だ」
将軍「うむ……」コホン
将軍「勇敢なる兵士たちよ! この絶体絶命の状況下で、よくぞ砦に残ってくれた!」
将軍「しかし、我らの命運はまだ尽きてはいないぞ!」
将軍「フラーク砦を死守せよ! 絶対に敵に渡すな!」
兵士ABC「はいっ!!!」
……
敵将「フラーク砦に残っていた将軍と敵兵は最後の最後まで勇敢に戦い――」
敵将「まさに敵ながらあっぱれという風情であった」
敵将「あの一人一人の鬼神の如き戦いぶり……今思い出しても戦慄する」
フラーク砦が陥落した戦いは≪フラーク砦最後の抵抗≫として語り継がれ、
現在でも多くの小説や演劇などで題材となっている……。
― 完 ―
元スレ
将軍「この砦は落ちる……お前たちは逃げろ」兵士「いえ、お供させて下さい!(本当は逃げたいっ!)」
https://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1595250072/
将軍「この砦は落ちる……お前たちは逃げろ」兵士「いえ、お供させて下さい!(本当は逃げたいっ!)」
https://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1595250072/
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コメント一覧 (13)
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- 2020年07月21日 00:13
- 別に帰りたくないなら新天地目指してセカンドライフやれば良かったんじゃないですかねぇ
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- 2020年07月21日 00:55
- 話もオチも弱い
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- 2020年07月21日 02:15
- 俺はオチ良かったと思う
虎は死して皮を残し人は名を残す
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- 2020年07月21日 03:08
- アラモ砦の戦いを思い出した。
あれも最後の一人まで抵抗して全滅したが、その時間稼ぎのお陰でテキサス騎兵隊が軍備を整えメキシコ軍を撃退できた。
もしアラモ守備隊が砦を放棄して逃走してたらテキサス州はメキシコ領になっていたかもしれない。
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- 2020年07月21日 04:16
- なんでA以外は最初に命惜しんじゃったんだよ
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- 2020年07月21日 10:28
- >>5
初めは残って踏ん張れば確実に死ぬから死にたくない気持ちが大きかったんだけど、全員で逃げようと意見が一致した所で、兵士BCは戦地残留や名誉の戦死より生きて戻った方が酷いことを思い出し、将軍は二人が砦に残る決断を見てかつての決意を思い出した。
という感じかな。
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- 2020年07月21日 05:23
- 「メタナイトの逆襲」風かと思って読んだが、オチだけはなかなか面白かった。
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- 2020年07月21日 07:29
- ダチョウ倶楽部的な
オレがからのどうぞどうぞってなると思ったのに
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- 2020年07月21日 13:02
- 投降しちゃだめだった?
オチは漢らしくて良いけど
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- 2020年07月21日 22:37
- 将軍「頑張ったら勝っちゃったよ……」
完
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- 2020年07月24日 09:52
- 安易に勝たなかったのが良いね
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- 2020年07月25日 22:17
- そこは「どうぞどうぞ」で締めろよ糞雑魚が
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- 2020年07月26日 16:47
- >>12
君おもんないよ