ギャル「生きて腸まで届く乳酸菌~?」乳酸菌「疑ってんのか?」
- 2020年06月26日 20:40
- SS、神話・民話・不思議な話
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ギャル「生きて腸まで届く乳酸菌~?」
乳酸菌「疑ってんのか?」
ギャル「だって、こういうのってあれでしょ? 誇大広告ってやつじゃん?」
乳酸菌「だったら俺を飲んでみろよ」
ギャル「オッケー! 飲むね!」ゴクッ
乳酸菌「生きて腸まで……届いてみせるッ!!!」
乳酸菌(一気に落ちると危ないからな。慎重に少しずつ……)
乳酸菌「ん?」
風邪ウイルス「うひひひひ……」
乳酸菌(ちっ、あのバカ女、喉がウイルスに感染しそうになってるじゃねえか)
乳酸菌(このまま放っておけば、喉風邪ひくだろうな……世話の焼ける)
乳酸菌「どけっ!!!」ボゴッ!
風邪ウイルス「ぶぎゃあっ!」
ザバァァァ…
乳酸菌(胃酸の海……並みの乳酸菌ならここで命を落とすことも珍しくない)
乳酸菌(だが、鍛え抜いた俺ならッ!)
ザパァンッ
乳酸菌(胃酸の海だろうと、ぐいぐい泳いでいけるぜ!)スイスイ
乳酸菌(十二指腸の名前の由来は、指十二本並べたくらいの長さだかららしいが、実際にはもっと長い)
乳酸菌(膵液や胆汁を浴びて、サッパリするか!)ザブザブ
乳酸菌(本格的に小腸エリアに入ったな)
乳酸菌(小腸の役割は、栄養の消化吸収だが、ここで吸収されるわけにはいかねえ)
乳酸菌(小腸の長さはおよそ6メートル……一気に駆け抜けるぜ!)タタタッ
乳酸菌(大腸の役割は水分の吸収、粘液の分泌、便の形成ってところか)
乳酸菌(ここまで来ればゴールまであと一歩! ラストスパートだぁぁぁ!)タタタッ…
乳酸菌「うおおおおっ!」タタタッ…
乳酸菌(光が……見えてきた……ッ!)タタタッ…
乳酸菌「ゴォール!!!」
ギャル「って、出てきちゃ意味ないじゃん!」
乳酸菌「あ、そっか。戻るわ」
ギャル「いただきまーす!」
乳酸菌「好きなもんばっか食ってねーで、ちゃんと野菜も食えよな!」
乳酸菌「あと乳酸飲料も忘れるな!」
ギャル「分かってるってー!」
ギャル「きゃーっ、トイレトイレ!」
ジャー…
ギャル「ふぅ……」
ギャル「前までいつも便秘してたのに、このところすっごい調子いいんだけど!」
乳酸菌「そりゃ俺がいるんだから、当然だろ」
ギャル「お通じがよくなったせいか、お肌つやつやなんだけど!」
乳酸菌「エアコンは汚れが溜まると、性能落ちるだろ?」
乳酸菌「人間だって、同じことなんだよ。汚れが溜まると性能が落ちちまう」
乳酸菌「しっかり食って、しっかり出すってことが大事なんだ!」
ギャル「なるほどねー!」
ギャル「ねーねー、乳酸菌」
乳酸菌「なんだよ」
ギャル「今日はアンタに紹介したい人がいるの」
乳酸菌「紹介……?(親とか友達とか?)」
ギャル「アタシ、彼氏できちゃいましたー!」
チャラ男「ちいーッス!」
乳酸菌「なにい!?」
乳酸菌「おい、こんな頼りなさそうな奴でいいのかよ!?」
ギャル「大丈夫だってー! 彼、こう見えてしっかりしてるしー! 仕事もしてるしー!」
チャラ男「あれ? てか、さっきから誰と喋ってんの?」
ギャル「アタシの中の乳酸菌!」
チャラ男「パネェ! ニューさんって呼んでいいスか?」
乳酸菌「ニューさん……」
ギャル「あら? アタシから出てどこ行くの?」
乳酸菌「散歩」
ギャル「散歩なら、アタシの体内ですればいいのに」
乳酸菌「俺だってたまには体の外に出たくなる時もあるんだよ」
ギャル「ふーん、車に気をつけてねー」
乳酸菌「おう」
乳酸菌(あんなチャラ男が、アイツの彼氏だなんて……!)
乳酸菌(仕事してるだぁ? きっとろくでもない仕事してるに決まってる! オレオレとか……)
乳酸菌(この目で何やってるか確かめて……もしどうしようもない男だったら……)
乳酸菌(俺がこの手であのチャラ男の腸をメチャクチャにしてやる……!!!)
乳酸菌(えっ、町工場……!?)
工場長「チャラ男くーん!」
チャラ男「はーい!」
工場長「これ、5ミリほど削ってくれるー?」
チャラ男「分かりましたー!」
工場長「わりいね、他にできる人いなくてさー!」
チャラ男「全然パネェッスよー!」
乳酸菌(めっちゃ真面目に働いてるじゃねえか……)
乳酸菌「工場長さん」
工場長「わっ、君は!?」
乳酸菌「生きて腸まで届く乳酸菌だ」
工場長「うむむ、腸だけでなく工場長にまで届くとは」
乳酸菌「ちょっと話を聞きたい。時間もらえるか」
工場長「初めて出会った時は、“こんな奴がウチで務まるのか”と思ったけど、とても仕事熱心でね」
工場長「どんどん仕事を吸収して、今では立派な主力になってるよ」
乳酸菌「ほう……」
工場長「今、ウチみたいな町工場は苦しいけど、彼の仕事をあてにしての注文も増えてるしねえ」
工場長「特に最近は彼女が出来たとかで、さらに張り切って……」
乳酸菌「……」
乳酸菌「マスター、ヤクルト」
マスター「あいよ」
乳酸菌「……」グビグビ
マスター「飲みっぷりが荒れてるね。なにかあったのかい」
乳酸菌「実は……」
乳酸菌「ああ、しかもわりと出来た奴ときた。こういう時、俺としちゃどうすべきなんだろうな……」
マスター「そういう時は……見守るに限るさ」
乳酸菌「!」
マスター「あんたとしちゃ、ギャルちゃんに彼氏ができて寂しい部分もあるだろうが……」
マスター「ギャルちゃんだっていつかはあんたから自立しなきゃならない」
マスター「今がまさに……その時なんだろう」
乳酸菌「……」
乳酸菌「ありがとよ、マスター。おかげでモヤモヤが吹っ切れたよ」
ギャル「あ、お帰りー。どこ行ってたの?」
乳酸菌「ちょっとな」
乳酸菌「それより、今日のお通じはどうだった?」
ギャル「バッチリ! このところ、毎朝ヨーグルト食べるようにしてるし!」
乳酸菌(俺無しじゃ便秘ばっかしてた昔とは大違いだ)
乳酸菌(こいつもいつまでも、バカやってるわけじゃねえんだ……)
工場長「お疲れー!」
チャラ男「お疲れさまーッス!」
チャラ男「!」
乳酸菌「待ってたぜ」
チャラ男「ニューさん! どうしたんスか!?」
乳酸菌「ちょっとお前と飲みたくてな……付き合ってもらえるか?」
マスター「ヤクルトです」
チャラ男「いただきます!」グビッ
乳酸菌「どうだ?」
チャラ男「うまいッス! ここのヤクルト、最高ッスね!」
マスター「ランクSのヤクルトおばちゃんから仕入れてますのでね」
チャラ男「パネェ!」
チャラ男「はい?」
乳酸菌「お前、あいつのことどう思ってる」
チャラ男「そりゃもう……好きッス! 大好きッス! 愛してるッス!」
乳酸菌「あいつを幸せにできる覚悟はあるか?」
チャラ男「もちろんッス!」
乳酸菌「そっか」
乳酸菌「幸せにしてやってくれ……。泣かせたら下痢にしちまうぞ」
チャラ男「ニューさん……!」
乳酸菌「よぉし、今夜は飲むぞ! マスター、ヤクルトどんどん持ってきてくれ!」
チャラ男「飲み比べッス!」
マスター「やれやれ、今夜はもう閉店の札を出しておいた方がいいかな」
カラン…
CLOSED
……
ギャル「ねーねー、二人とも!」
乳酸菌「ん?」
チャラ男「どしたの、ギャルちゃん」
ギャル「今日病院行ったら……アタシ、できてるって……」
乳酸菌「おおっ!」
チャラ男「マジかよ!」
乳酸菌「おめでとう!」
ギャル「ありがとー、二人とも!」
乳酸菌「お前らの子供だから、きっとバカで元気な子になるにちげえねえぜ!」
チャラ男「そうッスね! なんならニューさんが名づけ親になって下さいよ!」
乳酸菌「バカ野郎、菌に名前つけさせる親なんて聞いたことねえよ」
アハハハハ…
チャラ男「ニューさんのアドバイス通り、しっかり両方の両親に挨拶したし」
ギャル「簡単だけど式も挙げたし!」
乳酸菌「子供こしらえた以上、ケジメはつけなきゃならねえからな」
チャラ男「あとは子供が産まれるのを待つだけッス!」
ギャル「きっと元気な子が産まれるよ!」ナデナデ
乳酸菌「楽しみだな!」
……
乳酸菌「ついに来たか! 陣痛ってやつか!?」
ギャル「あう、ぅぅぅ……っ! あぁぁ……っ!」
乳酸菌(いや、だけど出産にしちゃ、やけに早いし……苦しみすぎじゃねえか!?)
乳酸菌(チャラ男は仕事行ってるし、俺が電話しねえと!)
乳酸菌「もしもし、救急ですか……!」
チャラ男「ギャルちゃんは!? お腹の子は!? 大丈夫なんスか!?」
医者「それが……」
医者「母体も胎児も極めて容態が悪く……このままいけば……」
医者「死産になるでしょう……」
チャラ男「そ、そんな……! な、なんで! ――なんでだよッ!」
乳酸菌「落ち着け、チャラ男!」
チャラ男「ニューさん……!」
チャラ男「ギャルちゃん……」
ギャル「赤ちゃん……産まれる、よね? 大丈夫……だよね?」
チャラ男「……」
乳酸菌「大丈夫だ」
チャラ男「えっ、ニューさん……?」
乳酸菌「お前らの赤ちゃんは、必ず俺が生きて届ける」
胎児「……」
乳酸菌(メチャクチャ弱ってる……死にかけだ。とても出産には耐えられないだろう)
乳酸菌(だが、俺の乳酸パワーを、全てこの子に注ぎ込めば……!)
チャラ男「!」ハッ
チャラ男「ニューさん! ダメッスよ! まさか、自分を犠牲にするつもりじゃ!?」
ギャル「自分を……!?」
ギャル「乳酸菌! やめてっ!」
乳酸菌「バカ野郎……」
乳酸菌「元々俺は乳酸菌……消耗品みたいなもんなのに、少しばかり長生きしすぎた」
乳酸菌「それに俺は死ぬわけじゃない……この子の命となって生き続ける」
乳酸菌「いい若いのがシケたツラしてねえで、我が子の誕生を喜ぶことだけ考えてな!」
ギャル&チャラ男「……!」
乳酸菌「おお、よしよし」
胎児「……!」
乳酸菌「おおっと、心配すんな。怪しい者じゃねえ。俺はただの生きて腸まで届く乳酸菌よ」
乳酸菌「今から俺はお前を生きてお腹の外まで届かせる……」
乳酸菌「だから、お前も気張れよッ!!!」
胎児(う、ん……)
ギャル「う、産まれた……!」
チャラ男「やった!」
医者「おおっ、なんと元気な! あれほど衰弱していたのに……」
ギャル「……」
ギャル「だけど……乳酸菌は……」
チャラ男「悲しんじゃダメだ! ニューさん、怒っちゃうよ……」
ギャル「うん……そうだよね……」
…………
……
幼児「ごちそうさまー!」
母「はい、食事の後はちゃんと乳酸菌も取るんだよ」
幼児「はーい! お父さんもお母さんもいつも取ってるもんね!」
幼児「うーん、だけどこのパッケージ……」
母「?」
幼児「『生きて腸まで届く乳酸菌』ってホントにとどくのー? ウソっぱちじゃない?」
幼児「え?」
母「絶対に生きて腸まで届くんだから。乳酸菌は」
幼児「ふーん」
~おわり~
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コメント一覧 (10)
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- 2020年06月26日 21:03
- 良い話ではあるが乳酸菌ってそうじゃないだろ
-
- 2020年06月26日 21:49
- 国民栄養賞貰えそう
-
- 2020年06月26日 21:56
- り〜 まで読んだ
-
- 2020年06月26日 22:15
- 乳酸菌って名前のおやじかよ
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- 2020年06月26日 23:10
- 工場長にまで届くで笑ってしまた(笑)
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- 2020年06月26日 23:21
- 生きて届くってフレーズってこんなに凄いものだったんだな…(割とガチ感動)
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- 2020年06月27日 00:30
- 乳酸菌って生きて腸まで届いてそこで死ぬんじゃ……
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- 2020年06月27日 01:16
- >>7
しばらくは生きて増えるんじゃなかったか?
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- 2020年06月27日 09:39
- 生きて腸まで届くビフィズス菌で続編
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- 2021年12月10日 21:08
- 今までに読んだ、乳酸菌が主人公の話で、一番感動した