おっさん「キミは……ボクが見えるのかい?」女「見えない!見えない見えない見えないッ!」
女(彼氏とは別れるし、会社では怒られるし、最近ろくなことないわ……)
女「……ん?」
おっさん「……」
女(なにあの小汚いおっさんは……。あんな目立つところにいるのに、みんな知らんぷりだけど……)
おっさん「おや?」
女「え」
おっさん「キミは……ボクが見えるのかい?」
女「見えない! 見えない見えない見えない見えなぁぁぁぁぁい!」
女「ひっ!」
おっさん「嬉しいねえ、ボクを見れる人間はなかなかいないからね」
女「こっちは嬉しくない……」
おっさん「あっちのベンチで一休みしようじゃないか」
女「まあ、いいけどさ……」
おっさん「ぷはーっ! うまい!」
おっさん「キミもどうだい?」
女「いりません」
おっさん「どうして?」
女「真昼間からベンチでワンカップ酒なんて……そこまで落ちぶれたくないわよ!」
おっさん「別に落ちぶれてるつもりはないが、落ちてみなきゃ見えない景色もあるよ」
女「そんなもん見たくもないわ!」
おっさん「んー、ボクは町の精霊みたいなもんだね。あるいは守り神」
女「せ、精霊……? 守り神……?」
女(どっちかっていうと疫病神でしょうが)
おっさん「町で人知れず人助けをするのが使命さ」
女「人助けぇ? たとえば?」
おっさん「たとえば……」
通行人「……」ポイッ
女「あ、あいつ! ポイ捨てしたわ! サイテー!」
おっさん「……」ササッ
女「あ、おっさん!」
女(捨てられた吸い殻を……)
おっさん「よしよし、まだ十分吸えるな」
おっさん「……」スパー…
おっさん「うまい」
女「シケモク吸うんかい!!!」
女「なにを?」
おっさん「あれさ」
チーン ジャラジャラ…
女「本当におっさんね……。てか、精霊のくせにパチンコ打てるの?」
おっさん「あそこの店は波長が合うんでね。台に触ることができる」
女「どういう理屈よ」
おっさん「キミがやってみるかい?」
女「パチンコなんかやったことないんだけど……」
おっさん「ボクが教えてやるからさ」
ジャラジャラジャラ…
女「ヒャッホウ! 大当たり~!」
おっさん「ビ、ビギナーズラックだ……」
おっさん「こっちが誘っておいてなんだけど、若い娘さんがハマっちゃいけないよ」
女「分かってるって。パチンコは今のが最初で最後!」
女「あ、おっさん。まだワンカップ酒あるなら、くれない?」
おっさん「いいけど」
女「……」グビグビ
女「ぷはーっ! うまい!」
おっさん「ハハ、だいぶ元気になってきたね」
女「まあね~」
おっさん「元気になってくれてなによりだ」
女「おっさんはいいよね、悩みなんかなさそうでさ」
おっさん「そんなことないさ。おっさんにはおっさんなりの悩みが……」
女「え、そうなの?」
おっさん「ま、キミが気にすることじゃない。じゃあね~」スゥゥゥゥ…
女「……消えた」
女(おっさん……本当に町の精霊だったんだ……)
女「ありがとね、おっさん」
女「よーし、頑張るぞー!」
…………
……
女「ハァ~……」
女(今日も散々な一日だったわ……私としたことがあんなミスを……)
女「……ん?」
銀髪「……」
女(なによ……あの美少年は……)ドキッ
銀髪「あれ?」
女「え」
銀髪「キミは……ボクが見えるのかい?」
女「見える! 見える見える見える見えまぁぁぁぁぁす!」
女「えへへ……」
女(見れば見るほど美しいじゃない。絶対逃がさないわ!)
女「よかったら……なにかご馳走してあげよっか?」
銀髪「ホント? 嬉しいな」
女「よっしゃ! じゃあタピオカ! タピオカ! タピオカにしよ!」
銀髪「う、うん」
銀髪「おいしいよ。どうもありがとう」
女(一緒にいるだけで癒やされる……こんなこと初めてだわ)
女「どう? もっと飲む?」
銀髪「いや、もう三杯も飲んだから……」
女「あらそう。じゃあ次は……」
女(こんな機会二度とないわ! 絶対お友達になってやる!)
女「あら、おっさん! どうしたの? こんなところで……」
おっさん「いや、町をぶらついてたら、キミの姿が見えたもんでな」
女「今度はこっちが見つけられちゃったわけか。だけどあいにく、今デート中で……」
銀髪「……」
女「どうしたの?」
銀髪「……父さん」
女「へ?」
銀髪「父さん……」
女「あなたたち父子だったの!?」
おっさん「うん、まあね」
女「全然似てないじゃない!」
おっさん「ハハハ……」
銀髪「父さん……」ハァ…
銀髪「ボクたちは町の精霊……守り神なんだよ? 父さんがうろつくとその品位が落ちちゃうじゃないか」
おっさん「そ、そんなことないだろ」
銀髪「そんなことあるよ。まったく……恥ずかしいんだから」
おっさん「これまた手厳しいな……」
女(あれ、あんまり仲良くないのかな?)
銀髪「これのどこが町の守り神だよ。なんの神秘性もありゃしない。もっと高貴に振る舞ってくれよ」
おっさん「す、すまん……」
銀髪「父さんのせいで、ボクがどれだけ恥ずかしい思いしてるのか分かってるの?」
銀髪「父さんなんかなんの役にも立ってない。ただのどうしようもないダメ精霊に過ぎないんだよ」
銀髪「存在自体が恥なんだよ、父さんは。はっきりいって消えて欲しいよ」
おっさん「ハ、ハハ……」
銀髪「笑いごとじゃないよまったく」
おっさん「いや、そんなことは……」
銀髪「お姉さんがどれだけ幻滅したか、どれだけ迷惑したか、ボクにはよく分かる」
銀髪「こんなステキなお姉さんに、父さんは似つかわしくない。二度と姿を見せちゃダメだ」
銀髪「ああ、できればボクの前にも……」
女「ちょっと待てや」
銀髪「え?」
女「おっさんはおっさんなりに……ちゃんと町を見守ってくれてんだよ!」
銀髪「お姉さん、なにいって――」
女「私はね、こないだおっさんに助けられた」
女「私生活で色々あって落ち込んでるとこを、このおっさんの小汚さ下品さに救われたんだよ」
女「品位? 神秘? 高貴ィ? そりゃ結構でしょうよ、だけどそれだけじゃダメなんだよ!」
女「おっさんみたいに、一緒に酒飲んで笑ってくれるような守り神だって必要なんだよ!」
女「それをお前、ちょっとツラがいいだけの小僧が……」
女「そこまでボロクソに言う権利があると思ってんのかアアアアアアアッ!!!」
銀髪「ひ、ひいいいい……!」
女「!」ハッ
銀髪「……」ドキドキドキ
おっさん「息子よ、ボクも悪かった。これからはもう少し、精霊らしく振る舞ってみるよ」
銀髪「いや、ボクの方こそごめん……」
女「えぇと、なんかごめんなさい……」
おっさん「ハハ、今のはボクまでビックリしたよ」
おっさん「そうだ! せっかくだから、ウチに来ないか?」
女「じゃあ……お邪魔します!」
女「うわ、大木が家になってるなんて……オシャレ~!」
おっさん「ただいま!」
銀髪「ただいま」
女「お邪魔します」
おばさん「あら、お客さんが来るなんていつぶりかしら。おばさん嬉しいわ」
女(おおっ、美人!)
おばさん「あら、お上手なんだから」ウフッ
女「あんたよかったわね~! 母親似で! 父親似だったら悲惨だったわよ! ギャハハ!」
銀髪「う、うん……」
女「ていうか、もはや托卵を疑うレベルなんだけど! ホントにおっさんの子なの?」
おっさん「ケツのホクロの位置は一緒だからな。間違いないさ」
銀髪「ちょっ、やめてよ父さん!」
アハハハハハハ…
女「わぁっ、おいしそう!」
女「いただきまーす!」モグモグ
女「おいしい~!」
おっさん「おっ、口に合ってよかった」
銀髪「タピオカをご馳走してくれた分、たっぷり食べてね」
女「ありがとう!」
おばさん「私なの……」ポッ
女「ええっ!? 信じられない!」
おっさん「そうなんだよ。知り合ってから、熱烈なアプローチを受けちゃって……」
おばさん「大好きよ、あなた」ギュッ
女「いよっ! お熱い! ヒューヒュー!」
女「あんたもいい精霊相手、見つけなきゃダメよ~」
銀髪「う、うん」
アハハハハ… ワハハハハ…
おっさん「キミのおかげで……久々に家族だんらんできたよ」
おっさん「町の精霊であるボクが、キミに助けられてしまったな」
女「私はなにもしてないって。あの子も元々おっさんのことが嫌いじゃなかったはずよ」
女「きっと、ちょっとした反抗期だったのよ」
女「じゃあね~!」
銀髪「……ステキな人だね」
おっさん「ああ、この町には彼女のようなステキな人がたくさんいる」
おっさん「これからもボクたちで見守っていこうじゃないか」
銀髪「うん!」
…………
……
女(しばらく経って、私には新しい彼氏ができた)
女(郷土史なんかに造詣の深い人で、今のところ交際は順調だ)
男「こんな話聞いたことある?」
女「?」
男「この町には守り神が住んでて、困ってる人をさりげなく助けてくれるんだって」
女「へぇ~」
男「いったいどんな守り神だと思う?」
女「うーん、そうだなぁ……」
男「うんうん」
女「もしかすると……ワンカップ酒が似合うおっさんかもしれないね!」
男「ハハ、それも面白いね」
~
おっさん「はーくしゅっ!」
銀髪「はーくしゅっ!」
おばさん「あらあら、二人揃ってクシャミしちゃって。仲がいいわね」
―おわり―
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コメント一覧 (4)
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- 2020年05月31日 01:55
- すき
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- 2020年05月31日 06:03
- ぐっど
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- 2020年05月31日 13:21
- 普通にいい話だった
-
- 2020年05月31日 17:07
- よかったです
鳥居の上に立ってるかとも思ったけどw