【アイマス】千早「世界へ羽ばたく」
・若干の百合要素を含みます。
「はぁ」
次の仕事に備え、事務所でゆっくりしていたら、興奮した様子のプロデューサーが戻ってきた。
「なんとな、千早のアルバムの売り上げがな」
「先月のですか? それは律子から聞きましたけど」
順位はそこまで高くなかったけど、売り上げ枚数はかなり良かったらしい。
慰めのような気もするけど、たしかに初動を含め現時点では自身最高だった。
「ああ、そういえば」
社長のツテで海外版を作ってくれる会社にお願いして、同時にリリースしたのだった。
社長には、それほど宣伝出来ないから売り上げは期待しないでくれ、って言われたけど。
世界に私の歌を届ける足がかりになるといいな、くらいに思っていた。
「そのアルバムが、アメリカのランキングでな、なんとbest20に入ったらしい」
「へぇ……へ?」
え?
「765プロの公式ホームページも、海外からのアクセスが急増してるらしい」
「宣伝ほぼなしで、ここまで伸びるのは快挙だぞ……千早? おーい」
プロデューサーの声は届いていたけど、反応できない私がいた。
……
「いいけど……本当、気絶したかと思ったぞ」
まさか全米チャートでそこまで行くとは、夢にも思わなかった。
歌手として認められた気がして、すごく嬉しい。
しかも、話はそこでは終わらなかった。
向こうの会社から、アメリカで本格的にデビューしてみないか、という誘いが来たようだ。
嬉しいけど、こんなに細い……くっ。
「どうした、千早?」
「あ、いえ、何でもないです」
「……それで、どうしたい?」
「行きたいです」
即答する。夢が叶うのに、二の足を踏む必要はない。
「……何か問題でも?」
「千早の分の埋め合わせだよ」
「私のレギュラーってそんなに多くはないですけど?」
「いや、違うんだ。千早が向こうに行くのは完全移籍が条件なんだ」
「765プロを辞めることになる」
「……なるほど」
少しプロデューサーの歯切れが悪くなったのは、そういうことだったのね。
私の気持ちも同時にぐらつく。
その765プロに恩返しできたか、というとまだ足りないと思う。
それに、皆のことも考えると……
「正直、プロデューサーの立場からすると、エースに抜けられるのは痛い。それは間違いない」
「……そうですよね」
「え?」
「行くなら行くで、こっちのことは何とかする。だから、千早のやりたいようにすればいい」
「……ありがとうございます」
「皆も最初は寂しがるとは思うけど、きっと千早を応援してくれるだろう」
「……そうだといいですね」
それに、私がなぜ迷ってるかまでわかってくれた。
本当に、皆が応援してくれるかはわからないけど……でも、たしかにそうなる気がした。
それなら……
「プロデューサー、私、行きます。移籍させてください」
ドサッ
何かが落ちる音がして、振り向くと真美が突っ立っていた。
「ええそうよ。ア」
「ウソだ!」
真美が私に飛びつく。
「嫌だよ、真美、離れたくない!」
「あのな、真美。千早は海外からオファーがあって、それで」
「日本からもいなくなっちゃうの!? 嫌だ、行かないで!」
「これは千早の夢が叶うチャンスなんだ。応援しないか?」
「ぅぅ、でも、でも」
プロデューサーが優しく諭してくれてる間も、真美は私に抱きついたまま。
私からも意志を伝えようとした、その時。
「真美、千早お姉ちゃんのこと、大好きなのにぃ」
え?
……
真美のテンションは告白のそれだった。
プロデューサーに一言伝え、私と真美は屋上へ。
「真美、さっきのは……」
「うん。本気。付き合いたいし、あーんなことや、こーんなこともしたい」
「……どこまでが本気なの?」
「んー、真美も自分がわかんないんだよね。でも、今は千早お姉ちゃんとできるだけ一緒にいたい」
「そう、なの」
「……そういえば」
たしかに、以前より真美といる時間は増えていた。
単純にスケジュールの都合だと思っていたけど、そういうことだったのね。
私も真美や、他の子と一緒にいる時間は楽しかったし、学ぶことも多かった。
離れるのは私も寂しいけど……やっぱり、夢は追いかけたい。
「……ええ。そのつもりよ」
「真美がどんだけ行かないでってたのんでも?」
「……そう、ね」
真美は大きく息をはき、扉に手をかける。
「え?」
「千早お姉ちゃん見ると、泣いちゃうかもしんないし。そんなんじゃレッスンも仕事もできないし」
「……」
「千早お姉ちゃん、ありがと。バイバイ」
「ちょっと、真美……」
私の声が届いたかは、わからない。
……
「「「千早ちゃん、おめでとう!!!」」」
「ありがとう」
今日は事務所の皆が送別会を開いてくれた。
765プロを今日付けで退社する私のために……皆、本当に優しい。
「え、春香が作ったの?」
「私だけじゃなくって、皆も手伝ってくれたんだよ。はい、好きなだけめしあがれ」
手渡されるケーキ用のナイフ。
プレートもあるし、どこから手を付けていいか迷ってると……
「え?え?」
「ケーキ入刀です! ちゃーんちゃーん、ちゃちゃーん、ちゃーん、ちゃらららちゃんちゃんちゃーん」
「春香、音程ずれてるわよ」
しめっぽい雰囲気にならないように、気を遣ってくれてるのはわかる。
私もこの時間は精一杯明るく振舞った。
「千早ちゃん、場所は違うけど同じ空の下、お互い頑張ろうね」
「千早さん、待っててね。ミキ、もっとビッグになるの」
「千早ちゃん、日本に戻るときは、ここに顔を出してね。待ってるわよ~」
皆から前向きな言葉をもらう。
こんな素敵な仲間に恵まれて、私はなんて幸せなんだろう。
ただ……
「千早さん、どうしました?」
「ああ、高槻さん、ごめんなさい。ちょっと……真美も居て欲しかったな、と思って」
「え? 真美なら」
「仕事だから仕方ないわよ。ちょっと前まで千早にべったりだったんだし、真美にも思う所もあるんでしょ」
「……そうよね」
「……そうだと良いんだけど」
「ほらほら、今日はそういう顔はなしよ。もっとポジティブに、ね」
「♪なーやんでもしーかたない」
「ひゃっ。……ちょっと亜美、びっくりするじゃない」
「全然気付かなかったわ……もう」
「ま、千早お姉ちゃん。真美のことは気にすんなー。どーしても考えたければ、行きの飛行機までとっとくとよい」
「アンタ何様よ」
「……ふふ、そうね。ありがとう」
ちょっと恥ずかしい気もするけど、やっぱり嬉しい。
水瀬さんや亜美が言うように、今日は笑顔で帰ろう。
その後も楽しい時間を過ごした。
最後に貰った寄せ書きには泣きそうになったけど。
また会える日を楽しみにして、会はお開きになった。
……
そして翌日、旅立ちの日。
昨日の送別会の時に聞いていたけど、 今日の見送りは音無さんだけだった。
皆、それぞれ仕事があって忙しいから、これは仕方ないこと。
それでも少し期待していた私がいる。
フライトの時刻が迫る。
「そうですね……でも、ずっと会えない訳じゃないですから。落ち着いたら連絡してみます」
「私からも言っておくわね」
「お願いします……では、そろそろ」
「そうね。いってらっしゃい」
「はい。いってきます」
ちょうどその時。
「待って!」
一番聞きたい声が、聞こえた。
「千早お姉ちゃん!」
「真美!」
私にめがけて突進してきた真美を、よろけながら受け止めた。
「いいのよ。こうやって来てくれて嬉しいわ」
「ありがとう。ごめんなさいぃ」
うつむいたまま小刻みに震える真美。
「真美ね、千早お姉ちゃんなら、絶対、大丈夫だと、思うから」
「……うん」
「千早お姉ちゃんなら、絶対、成功すると、思うから」
「……ありがとう」
私もつられて泣きそうになる。
「うん、うん」
「だから、千早お姉ちゃん、夢をかなえてね」
「……うん。ありがとう」
真美を抱きしめたまま、涙が頬をつたった。
……
運よく取れた窓際の席から外を眺める。
これから始まる新たな生活に、少しの不安と大きな期待を胸に抱いて……
「ねえ」
「なに?」
「いつ真美も行くことに決まったの?」
「んっふっふ~。実は千早お姉ちゃんが行くのを聞いたすぐ後だよん」
最後まで見送るって言って、どこまで着いて来るのかと思ってたら……
搭乗ゲートに入る少し前に気付いた。
あ、この子泣いてないわ、笑いをこらえてるだけだわって。
社長が真美に直談判され、ティンと来てすぐかけあったらしい。
向こうもすぐ気に入って、改めて真美にオファーを出したんだとか。
「皆は知ってたの?」
「うん。千早お姉ちゃんが帰った後、真美用のお別れ会をやってくれたよ」
そういえば、少し不自然な反応をしていた子もいたわね。
でも音無さんを含め、演技は上手ね……すっかり騙されたわ。
「さっきの私の涙を返して欲しいわ」
「んっふっふ~。イタズラ大成功だねぃ」
向こうではソロ活動の傍ら、真美とのユニットもやることになったらしい。
演歌調の曲をやるんだとか……それなら、たしかに真美が適任ね。
アメリカで受け入れられるかはわからないけど……
まぁ、とにかく。
「よろよろ~!千早お姉ちゃん!」
おわり
ちはまみ増えて。
完結報告してきます。
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コメント一覧 (3)
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- 2020年02月25日 20:12
- ちはまみはいいぞ
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- 2020年03月21日 00:58
- 一人称地の分が酷すぎる
女のことを何も知らんなら無理するのやめてくれ、寒すぎで読んでられん
-
- 2020年03月21日 03:11
- >>2
女心はもちろん男心も知り尽くしてそう