【まちカドまぞく】桃「シャミ子を走らせてたらシャミ子が倒れた」
2、3巻くらいの内容も多少含みますのでご注意ください。
既に恒例となりつつあるシャミ子の体力強化マラソンは、そこそこに順調に運んでいると言えた。
シャミ子はたいそうへっぽこだったけれど、それと同じくらいのがんばり屋さんだったのは嬉しい誤算。
何週間かそこそこみっちりやってきたお陰で、出会った頃に比べたら今ではまぁなんとか……ナメクジレベルから死ぬほど運動音痴の人間くらいにはなれたかなと思う。
ふりふり揺れるまぞくのしっぽと小さな背中を目で追いながら、あと少し、がんばれてるよ、と励ましの声をかける。だんだんいつものコースだと余裕を持って走れる様になって来たので、今日は少しだけコースの距離を伸ばしているのだ。
シャミ子も体力の向上を実感しているのか、今回は乗り気だった。
息は荒いけど、上がってはない。教えた通りに顎を下げて、しっかり呼吸ができている。
もうすぐ伸ばした分の折返しに到達するし、今回もなんとかなりそう。
「もうそろそろ曲がろっかー!」
「はいー!」
声掛けすると、元気に返事したシャミ子が前に進みながらもゆっくりと半円を描く様に方向転換を始める。
そのままそれについて回る。あと半分。
そうだ、今日は頑張っているし、ご褒美があってもいいかもしれない。
思い立ったらすぐ行動。シャミ子に少し近づいて、後ろから話しかける。
「シャミ子?」
しかし、返事は返って来なかった。足はちゃんと動いているけど。
と思った瞬間、がくりとシャミ子がいきなり胸を抑えながらへたり込んだ。
「シャミっ……」
「ヒッ……ヒッ……痛……」
「シャミ子!大丈夫!?」
どうしよう、どうしよう。何故。
突然の事に混乱している暇はない。とにかく、シャミ子を休ませないと!
「と、とりあえず横に……」
「ハッハッ……桃……桃ぉ……」
「大丈夫、大丈夫だから、すぐ救急車呼ぶからね……」
「うっ……」
シャミ子が吐いた。これ、もしかしなくてもだいぶヤバい……!
早く、早く救急車呼ばないと!
手が震えてうまくスマホが操作できない。どうして、なんで。
何がどうなってるのか、訳が分からないまま、どうにか119番を押す。
シャミ子の背をさすりながら、しどろもどろで質問に答える。シャミ子がどの病院にかかってるなんて知らなかった。持病があるかどうかも分からなかった。現在地の詳しい住所も分からなくて焦っていたら、GPS機能ですぐに分かると教えてくれた。
シャミ子はもう言葉も話せなくて、ずっと必死に呼吸しているだけだった。すごく痛いんだという事だけが、嫌というほど伝わってきた。
他人を癒す力なんて都合の良いモノは、魔法少女には備わっていない。
エーテル体を無理やり補うくらいならできなくは無いけど、それも相手が魔法少女の場合だけ。
こういう時にどうするべきなのか、私には何も分からなかった。医療の知識だって、無い。
無力な自分が恨めしい。幾度となく経験した筈の気持ちが、今までにないくらい重く、強くのしかかる。
どうしよう、シャミ子、どうなるんだろう。まさか、このまま──
救急車が来るまでの十数分間、私は、自分が息をしていたかすらも分からなかった。
せいいき記念病院。
シャミ子が運び込まれた病院は、偶然ながらもシャミ子が昔入院していた所だった。
病院の人がシャミ子の家族に連絡して、発作の時に側に居た私もそこに同席させてもらって。命に別状はない事、検査だったり何なりで少しの間入院する事と、幾つかの注意点の説明を受けた。
昔にもこういう事は何度かあったらしく、駆けつけたシャミ子のお母さんの対応は落ちついた物だった。
私は、説明を受けている間、一言も話せず。お母さんと対面した時も、会釈をするだけで精一杯。話の内容だって、正直どこまで正確に覚えられているのか、自信がない。
「どうか、気に病まないでくださいね」
気を、つかわれている。
優しい声色でかけられた第一声が、私にその事実を重く突きつけた。
「誰も、悪くないんです。シャミ子は元々体が弱くて……でも、魔族として目覚めてからは、とても元気になりましたし。最近知り合ったのなら、知らなくて当然です」
「すっ……すみませんでした。私は、とんでもない事を……」
「大丈夫。むしろ、シャミ子と一緒に居てくれて、ありがとうございます」
詰られると思った。大切な娘を傷つけて、その思いが私に向かない筈がないと思った。けれど、お母さんは私のことまで心配してくれていた。
それも、シャミ子が持ってる強さのことを思えば、当たり前のことだったのかもしれない。後からだけど、そんな風に思った。
「そ、そんな事……いや、それより……その、シャミ子のお母さん、あなたは……」
「吉田清子と言います。名前で呼んでもらって構いませんよ、千代田さん。聞きたいこともたくさんあるだろうけれど、今はあなたもどうかゆっくり休んで」
清子さんは、柔らかな微笑みを崩さずにそう言って立ち上がり、良ければお家まで送りますと一言添えた。
「そんな……それより、シャミ子の方を」
「あの子は眠っていますし、良も側に居ますから。大切な優子のお友達が、大変な目をしているのだから、少しでも力になりたいのです」
「私はっ……大丈夫、ですから!」
唐突に出てきたその言葉は、私の思考を完全に止めてしまうのに十分な威力を持っていた。
思考と一緒に時間すら止まってしまったかのような静寂。
「私にも、わからないことはたくさんあります。けれど、一度に色んな事があり過ぎても、困りますよね。まだ中学生なんだから、余計に。ただ、私達は貴方の味方です。それだけは、覚えておいてね。さ、一緒に行きましょう。タクシー代くらいは出させてください」
私は、開いた口を閉じる事もできずに、促されるまま、病院を後にしたのだった。
あの日から、何日か経った。
私は、清子さんとも、シャミ子とも、連絡を取っていない。
清子さんはああ言ってくれた。シャミ子も、きっと、私を責めたりしない。
けれど、シャミ子にどんな風に顔を合わせればいいのか、分からない。ただただ卑屈になりすぎれば、余計にあの人たちに気遣わせてしまう。かといって簡単に上を向けるほど、私は厚顔無恥でもない。
それでも、こうなった以上、責任はとらなくちゃいけない。たとえ何も分からなくても、このまま会わないのは、逃げだ。これ以上逃げ続ける事は、しちゃいけない。
「あっ!桃!」
寝ていたら申し訳ないから、なるべく音を立てないように入室してゆっくりカーテンを開けると、何やら本を読んでいるらしかったシャミ子とすぐに目が合った。
「ちょうど暇してたんです、じゃなくて、よく来たな魔法少女! 一人で強くなる作戦を考えるのも限界があるので、貴様も何か一緒に考えてください!」
「えっと……ちょっとそれは置いといていいかな。「置いとかれた!」まずは、本当にごめん、シャミ子。私が事情も知らずに振り回したせいで、こんな事になっちゃって」
「へ? ああ……それは気にしないでください! ああいう事、たまにあったんです。最近はめっきりなかったんですけど、あそこまでひどいのは本当に稀で……桃が居てくれて、とても助かりました……ってそうだ!私吐いたらしいじゃないですか!桃が汚れなかったか心配です!その節は本当に」
「ごめん、本当にごめん」
目の前でわたわた騒ぐシャミ子を手で押しやると、困惑して私の名前を呼び返す。
「桃?」
「ごめん、ごめんなさい……シャミ子、ごめん……」
シャミ子の肩を持ったまま一度謝罪の言葉を発すると、何回言っても足りないくらいに、悲しい気持ちと、申し訳ない気持ちが押し寄せてくる。何度も繰り返すうちに、だんだん涙までが溢れて来て。シャミ子がちゃんと生きてる事を確かめたくて、自分の体をぐっと近づけた。
「も、桃、泣かないで、私元気ですから」
「うん、うん……ごめんね、シャミ子……ごめん……」
シャミ子が困っている。きっと、この子自身も、こういうときどうすればいいのか分からないんだ。底抜けに優しくて、人を憎む事なんて全然できないんだから。
「私、本当に元気ですから……泣かないでよぉ……」
なぜか、シャミ子まで私につられてぐずりだしてしまう。私は、それすらもただただ申し訳なくて。
少しの間、二人そろって、抱き着いたまま泣いてしまっていた。
時間にすると、数分も経っていないくらいだった。だんだん落ち着いてきた私たちは、なんとなく気恥ずかしくて、ちょっと近づきすぎた距離をどちらともなく離したのだった。
「私ね、シャミ子が倒れて、病院に運ばれて……前から体が弱かった事を知って……その時は、もうシャミ子にかかわらない方がいいって思ったんだ」
微妙な雰囲気。少しの沈黙の後、私はシャミ子に自分の気持ちを伝えようと、なんとか話し出す事が出来た。
「なんて言えばいいのか……私、もともと相手に合わせるのとか苦手だから、きっと、今後も同じ様な事が起こるんじゃないかなって。それで、またシャミ子が危険な目に遭って、そのまま死んでしまったら……私は、もう耐えられる自信が無い」
「あれはっ、私もいけると思っていたから……」
「そういう問題じゃないよ。ケースが違っても、似たような条件が揃っちゃう事はあり得るから。それに、今はそう思ってないんだ」
「あっ……そうなんですか。よかった……」
「うん。清子さんとちょっとお話して、色々と聞かないといけない事が出来たし。関わらない事は、きっともう無理なんだろうなって思ってる」
清子さんの口から告げられた姉の名前。吉田家と姉の間に何があったのかはまだ分からないが、姉を探すという目的がある以上、関わりを断つ事は、きっとできない。それに、もう深くまで関わりすぎてしまったのだ。これ以上、いたずらにシャミ子を苦しめる事は、絶対にできない。
「お、お母さんですか」
「そう。あの人は、色々と情報をたくさん持ってる。シャミ子の事もそうだし、しっかり腰を据えて話をする必要がある。それと、何があってもシャミ子を守れるように、私も色々勉強しようと思う」
「えっ……桃が……? そんな、悪いですよ! しかも勉強って」
「これでも物を覚えたりするのは得意な方だから」
「えっ……そうなんですか? ダンベルなのに」
「シャミ子は私を何だと思ってるのかな」
とにかく、やる事は山ほどあった。清子さんとの対話に、勉強に、姉の捜索。シャミ子が他の魔法少女に狙われる可能性だって、まだまだある。逃げる事は、とても簡単だ。それでも、私は向き合おうと思う。
それが、この子への贖罪にもなると思うから。
ちなみにシャミ子が倒れたのは魔力がアレしてアレした結果ですので実際大事には至っておりません。魔力が足りなくなった結果たぶん心臓かどっかが弱っちゃったんじゃないかな。
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コメント一覧 (16)
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- 2019年10月21日 04:59
- いやなんで許可も出てないのに清子ママと桃が会えるんだよ意味分かんね
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- 2019年10月21日 08:05
- ifルートいいぞ。
まぞくノベルゲー化しないかな。
>>1
光→まぞく
のエンカウントを避ける結界だから、まぞく側が会いたいと思えば会えるんじゃない?
カメラ回で良ちゃんは普通に会えたし
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- 2019年10月23日 22:54
- >>1
ボロボロで効力弱まってるから家への侵入を拒む程度の結界でしかないんじゃないかな
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- 2019年10月21日 05:34
- はい真面目
おレズSS以外もたまにはいいんじゃない(適当)
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- 2019年10月21日 06:27
- そこは愛の力だ
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- 2019年10月21日 08:19
- 何故か勘違いされること多いけどシャミ桃は高校生だぞ
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- 2019年10月21日 10:40
- シャミ子とミカンのおっぱい見て中学生とは思わんでしょ
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- 2019年10月21日 11:16
- お母さんはシャミ子のことをシャミ子なんて言わないでただ1人ちゃんと優子って言うぞ
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- 2019年10月21日 13:07
- ところで、何 を持ってくれた んだ?
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- 2019年10月21日 14:37
- ちょっと走らせて倒れたくらいでそんな気にせんでもええと思うんよ〜
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- 2019年10月23日 01:06
- >>9
吐いて真っ青になってたらもう少し手厚くしてやってや
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- 2019年10月21日 16:19
- 尊い
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- 2019年10月21日 19:56
- 二話の時点でちょっと間違えてたらこうなっていた事実
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- 2019年10月23日 05:35
- ノベルゲーで分岐ありにすると実はところどころバッドエンドなんならデッドエンドがある
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- 2019年10月25日 17:45
- 全力で走ったら命に関わるとまで言われてた子が、息切れしながらも4km完走出来たんだから魔族化で身体能力はすごく向上してたんだなあ
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- 2022年05月10日 08:23
- 2期アニメを見るに「呼吸器系の病気で投薬により髪の毛も抜け、トラウマになるほどの点滴と注射」というガチの重病人だったみたいだしなあ……