【デレSS】心「ちひろ……アイドルやめたの?」
既に他所に投稿しているしゅがちひのSSです。独自設定注意。
SS書き始めたばかりなので、ここがわかりづらいとか読みにくいとかアドバイスいただけたら幸いです……
なんと! この間、アイドル事務所のプロデューサーにスカウトされちゃったの!
今日は初めて事務所にご挨拶♪ 期待と不安でドッキドキ、ついにはぁとのアイドル人生始まっちゃうか~! なんて希望を胸にドアを開けた瞬間目に入ったのは、
……ちひろ……?
ピンと伸びた背筋。編み込まれた髪。蛍光緑の服。ブラッドオレンジの瞳。
間違いなく、アイドルの・・・・・千川ちひろだ。
しかしプロデューサーは彼女を事務所のアシスタントだと紹介した。見ると、パソコンで何やら打ち込んでいる指の動きは見るからに熟練している。
ちひろ、アイドル辞めてたの……?
困惑したのは、それだけではなかった。ちひろは、全くの初対面といった風に私を見るのだ。
事務所のドアを開けたとき、驚きで目を見開いた私とは対照的に、彼女はにこりと目を細めるだけで全く平静だった。それどころか、「事務員の千川です。よろしくお願いしますね♪」とまで言い放ったのだ。
……は。はあ。
……………………ふざけんなっ!
自己紹介もくそもないだろ!! 一時は付き合ってた仲なのに!!
あの、驚きたいのはこっちの方ですよ。
心さん、まだアイドル目指してたんですか。
小学生でも恥ずかしがりそうな羽の付いた衣装。キャピキャピのアクセサリー。5年前からブレていないどころか、悪化の一途を辿っているじゃないですか。
もう驚きというより呆れと憐れみで、いつもの作り笑顔を保つのが精一杯でした。はあ……勘弁してくださいよ、プロデューサーさんも。
プロデューサーは何やら用事があるとか言って帰ってしまった。なんて無責任。でも、この冷戦みたいな異常な空気を見られずに済んだのはよかったかもしれない。
ちひろ、私のこと忘れちゃった?
もちろん、そんなはずはなかった。私とちひろはアイドルの養成所で7年前に出会って、……当時は付き合って、同棲までしてたんだから。
ちひろに最初にかけるべき一言はまだ見つからなかった。シラを切るのもいい加減にしろっつって胸ぐらを掴みたい気分なんだけど、その前に私から謝らないといけない道理があるのだ。
5年前、ぶちキレて部屋を出ていったのは私だった。
早朝や休み時間に自主練しているメンバーはだいたいいつも同じだった。だから私は鏡写しになった編み込みの髪を、特徴的な蛍光緑のレッスン着とともに目の端で覚えていた。
ある朝、どうしても上手くいかないステップを鏡の前で何度も何度も繰り返していた時、その蛍光緑はいつの間にか私の後ろに立っていた。
「心さん、そのステップ」
「……?」
「半拍前に足を後ろに引くんです。そしたらやりやすいですよ♪」
しなやかな所作と物柔らかな笑顔は、同年代なのに私より大人びて見えた。千川ちひろ、19歳だそうだ。いや年下じゃん。
入所の時に自己紹介したのに忘れちゃったんですかー、私は覚えてたのに……、なんていたずらっぽく笑うちひろに驚いた。
初めて話すのに全く物おじしない態度もそうだし、その話しぶりからして養成所の全員の顔と名前を覚えてる様子だった。私だって最初からスウィーティーぶちかましてたわけじゃなかったのに、ちひろは私の名前から出身地まで覚えていたみたいだ。
とにかく目配りとか気配りがすごく上手な女の子だった。一方でアイドルへの情熱もすごくって、話してみてすぐに仲良くなったと思う。
それからは休憩時間のたびにレッスンルームの壁際に三角座りして話し込んで、というか語り込んでた。ほどなくして「マブダチ」なんて言い出したのは私からだった。
そんなとこから私はちひろにホレたし、もっと知りたいと思ったんだ。
考え方や趣味がすごく合うというわけではなかった。
ちひろの趣味はどちらかというとシンプルな、制服チックな恰好とかが好きって感じで、自分はもっとスウィーティーなやつが好きだったし。
他にも目指すアイドル像とか考え方とか色々違ったけど、だからこそ数えきれないくらいアイドルの話をして、それを上回るくらいいっぱいくだらない雑談して、仲良くなって。
そしたら何を間違ってか付き合うことになって、さらに二人で一緒に住むようになって。
でも、同棲し始めて痛いほど感じたことがある。ちひろはスゴいどころかヤバい奴だってことだ。
ちひろは毎日、アイドルのライブDVDを見て、盛り上がった瞬間のアイドルの一挙手一投足をコマ送りにして観察していた。そしてその動きをコピーしようと何時間も部屋の鏡の前や駐車場で練習していたのだ。
それだけじゃない。食事から生活習慣から、美容のためにできることは何でも気を使っていたし、夜は筋トレ、朝は走り込み。
レッスンで習ったことがうまくできなければ深夜になっても帰ろうとしなかったし、トレーナーさんに無理やり帰らされてそれでもまだ公園で練習してたこともあった。
そうしてちひろはめきめきと実力を身に付け、それこそ芸能人にしかないような不思議な「オーラ」すら身にまとっているように感じられた。
私はそんなちひろの凄まじい熱誠についていくつもりは最初からなかった。そして、ついていけなくなった。
……人間、変なケジメを付けようとするもので、その時のことは思い出さないようにして、そうしてるうちに当時のことは心の奥底に押し込んでもう見つけられなくなっていた。
まあ実際のとこ、出て行った本当の理由はケンカじゃなくて、目の前のちひろにどんどん差を開けられてくのが辛かったからだと思う。
そう冷静に思い返すと完全に自己中な理由だった。
もしかしてちひろ、まだ怒ってる……?
わけない、と信じたい。もう5年も経ってるんだ。もう……。
ぼふ、と合皮のソファーに手をついて立ち上がる。歩み寄って書類を渡すと、ちひろはさっきと同じような笑顔で
「佐藤さんは明日の朝またここへ来てください。お疲れさまでした」
と言ってまたパソコンのモニターに目を戻した。
うーん。シラケやがって。そうだとは思ったけど。
ならばこちらにも考えがある。
「……ちひろ」
久しぶりに名前を呼ぶと、ちひろはピクッとして動きを止めた。
「どうせその仕事は明日でもできるんっしょ。……このあと9時に駅前の『ぴにゃこらーだ』で」
居酒屋の名前を告げて、返事を待たずに事務所を後にした。
居酒屋へ向かってみると、黄色やピンクの変な衣装に身を包んだ変な人が店の前に立っていました。
正気ですか?
他人のふりをして素通りしようとしましたが、肩を掴まれて店に連れ込まれ。店員さんも目を丸くする中、奥の2人席へ座るやいなや『新人アイドル』さんは生を2つ注文しました。
なんだか感傷的な目をして話しだした心さんの気持ちがよくわからず、私はおしぼりの端を指でつついて丸める作業に入りました。
「ごめんね。あんな風に出て行って」
何を謝られているのかよくわかりませんでしたが、許す義理もなかったので少し眉をしかめて見つめてみると、心さんは急にたじろいで
「その……マジごめん……まあ……許して☆」
と26歳らしい深みを感じさせない言葉を返してくれました。
本当、かわいいままですね。私の前では。
「……でもさ、ちひろ……んぐっ……アイドル……なんで……やめちゃったの……?」
まさか、そんなことで泣かれるんですか。酒もまだ来てないというのに、心さんはもう掠れ声でした。
なんで、って……。まだ続けてる理由をこっちが聞きたいぐらいなんですけど……。
心さんのやたら情念の滲んだ涙に張り合えるような理由なんて全然ありませんでした。そこそこのアイドルにはなれて、でもそっから頭打ちで、もうやめ時かなって思っただけだったかと。
名前を呼ぶと心さんはハッとして一瞬穏やかな表情になりましたが、再びしゃくりあげて涙を流し始めると、ビールが机に置かれたことにも気づかず心さんはさらに顔をくしゃくしゃにしました。
「泣くことだよッ! だって……アイドルはね、……みんなの希望を背負ってるの!……」
言い切って心さんは机の木目をしばらく眺めた後、顔を上げるやいなやビールジョッキを大きく傾けて、一気に半分まで飲み下しました。
「心さんが私に何の希望を持つんですか。出て行って以来、私の活動を見てたわけでもないですよね」
「それは……」
心さんは残りの半分をさらに半分にして、ジョッキを両手で握りしめました。
「それは、ちひろのこともう振り返らずに突き進んでいこうって思って……。もし、運命ってのがあるならさ。お互いトップアイドルになって……そこでまた会えるはずじゃんって思ってた!」
「ちひろが……人間離れして努力家で負けず嫌いでアイドルに狂ってたちひろがトップアイドルになれなかったらっ……いったい誰がトップアイドルになれんだよ……!!」
そこから心さんは机に突っ伏してわああと泣き始めました。
……知りませんよ、そんなの。
でも、心さんの胸の内がだんだんわかってきました。
いつだったか、アイドルは頑張ることで人々に希望を与えその対価として応援されるのだ、と聞いたことがあります。
もしかすると私は、頑張る姿を心さんに見られてしまって心さんにとっての偶像アイドルとなってしまっていたのかもしれません。それも、彼女という最も人間らしくあるべき立場だったのに……。
あら、プレゼントでしょうか。お詫びに何か渡すなんて義理堅い大人になりましたね。
もったい付けるような、ためらうような。見ていてもどかしい手つきで心さんが紙袋からごそごそと取り出したのは、
「……これ、ちひろの」
えっ。これは……?
なんてきれい、な。
美しい、きらびやかな、蛍光緑のドレスでした。
「私のじゃありません。交番に届けてきてください」
「ちょっ……ちひろのための、って言ってんの!」
心さんはぐいとそのドレスを私の胸元に押し付けました。素材はしなやかでそこそこ高そう。でもこの縫製は……。
「これ、心さんが作ったんですか」
「……そう。5年前に作って……渡してなかったやつ」
驚きました。まさかこんな力作、いつの間にやら私のためにこっそり作ってたなんて。
はあ……きれい。久しぶりに感動しました。これは……着てみたいかも、なんて。
「で、これステージの上で着ないと意味ないから」
「?」
「これでアイドル復帰、してくれるよな☆ てか、しろ☆」
「しません」
「即答かよっ……もう一度夢見させろよ☆ いや、マジで言ってるから、これ」
思わすため息をついた。26歳で本気でアイドル目指してる人だ、本当に本気で言ってるんでしょう……呆れます。
でも、この内面こそが。
「いやだから、ちひろができなかったら誰がアイドルできるんだよっ」
「私は何もできてません。あの、ここからは真面目に聞いてほしいんですけど、」
「うんうん、真面目に聞く聞く♪」
「……心さんはぜひ、自信を持ってアイドル活動に取り組まれてください。あのアイドルを舐めるように見つめる粘着質な目にだけは定評のあるプロデューサーさんにスカウトされたんですから、一応そこは誇りを持って」
「あんまり誇りに思いたくないなそれ……」
「そして、私のことはもう一度忘れてください。……私はなれませんでしたけど、心さんならなれるんです。トップアイドルに」
「……じゃあ……この衣装は……」
「ドゥルルルルルルル……ジャン♪」
「はあ……じゃあ心さんが『シンデレラガール』に選ばれたら、着てあげますから。せいぜい頑張ってください」
「い~~よっしゃ☆ それ乗った♪」
って、なんで私が心さんにアイドル頑張るように頼みこんでるんですか。
もう、これだから人たらしというかなんというか……。
「すみませ~ん、生もう2つ☆」
「あっ、まだ私1杯目残ってるのに……」
26歳からでも本気でトップアイドル目指したり、こっそり作ってたドレスを5年越しに持って来たり、そんな内面の輝きについ「アイドル」を感じてしまいました。
でもそんな人がアイドルになれずにくすぶっていたのは色々と問題アリだったからに違いなくて……。
「今日は朝まで飲んで事務所に直で行っちゃお! じゃあ、絶対の絶対のゼッッッタイにシンデレラガールになって2人でステージに上がるのを誓って、カンパーイ☆」
「心さんと一緒にステージに上がるとは言ってませんけど」
「うう~ん、このイ・ケ・ズっ☆」
アドバイス、感想、罵詈雑言、なんでもいただけるととてもありがたいです……!
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コメント一覧 (13)
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- 2019年10月17日 11:37
- 実際に総選挙でちっひ選べたらシンデレラガールに輝きかねないと思うの
-
- 2019年10月17日 11:40
- 全体的にはいいと思った。
個人的な好みにはなるが、
風景描写の点をもう少し簡潔にまとめて
貰えると読者が疲れないと思う。
次も期待します。
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- 2019年10月17日 12:40
- >風景描写の点をもう少し簡潔にまとめて
>貰えると読者が疲れないと思う。
わかる
会話だけなら2~3レスで終わる内容だった
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- 2019年10月17日 15:13
- ちひろの元アイドル設定は色々と捗るからもっとやれ
-
- 2019年10月17日 18:41
- >>5
まんまピヨちゃんじゃん。
同じことやっても意味ねーよ
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- 2019年10月17日 21:17
- >>7
ちひろだからこそ意味があるんやぞ
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- 2019年10月17日 16:56
- 悪魔が元偶像とかちょっと嗤えませんねぇ…
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- 2019年10月17日 19:53
- アイドルをやめて鬼になった女
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- 2019年10月18日 15:35
- >>8
無惨様「こんな女知らん」
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- 2019年10月17日 21:56
- あ、この佐藤めんどくさいレズだ
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- 2019年10月18日 00:11
- ちひろは人間の心捨ててるから…。
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- 2019年10月18日 06:27
- 面白いんだけどSS向きではないなあとは思う
トップアイドルになるなんてもってのほか